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特開2024-121128炭素繊維強化熱可塑性樹脂の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121128
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】炭素繊維強化熱可塑性樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 70/34 20060101AFI20240830BHJP
   B29C 70/16 20060101ALI20240830BHJP
   B29C 43/20 20060101ALI20240830BHJP
   B29C 43/34 20060101ALI20240830BHJP
   B29K 77/00 20060101ALN20240830BHJP
   B29K 105/08 20060101ALN20240830BHJP
【FI】
B29C70/34
B29C70/16
B29C43/20
B29C43/34
B29K77:00
B29K105:08
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028046
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】593165487
【氏名又は名称】学校法人金沢工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100154966
【弁理士】
【氏名又は名称】海野 徹
(72)【発明者】
【氏名】石田 応輔
(72)【発明者】
【氏名】鵜澤 潔
【テーマコード(参考)】
4F204
4F205
【Fターム(参考)】
4F204AA29
4F204AC03
4F204AD05
4F204AD08
4F204AD16
4F204AD27
4F204AG03
4F204FA01
4F204FB01
4F204FB11
4F204FB22
4F204FF01
4F204FG02
4F204FN11
4F204FN15
4F205AA29
4F205AC03
4F205AD05
4F205AD08
4F205AD16
4F205AD27
4F205AG03
4F205HA08
4F205HA14
4F205HA25
4F205HB01
4F205HB11
4F205HC05
4F205HC17
4F205HF01
4F205HK03
4F205HK04
4F205HT26
(57)【要約】
【課題】充分な機械的強度を有し、且つ生産効率を向上できるラージトウを用いた炭素繊維強化熱可塑性樹脂の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明はメタノールと塩化カルシウムを含有する混合溶媒に、ポリアミド樹脂を溶解させて溶液10を作成し、ラージトウから成る炭素繊維基材20を溶液に浸漬させ、水洗により炭素繊維基材中のメタノール及び塩化カルシウムを除去する。そして、ポリアミド樹脂フィルム40とポリアミド樹脂含有炭素繊維基材30を交互に積層し、ホットプレス成形を施して炭素繊維強化熱可塑性樹脂60を得る。メタノール及び塩化カルシウムを水洗により同時に除去するので生産性を向上できる。また、予め炭素繊維基材中にポリアミド樹脂を含浸させているので、ホットプレス成形時にポリアミド樹脂を炭素繊維基材の表面から内部まで行き渡らせることができ、充分な機械的特性を持たせることができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタノールと塩化カルシウムを少なくとも含有する混合溶媒に、熱可塑性樹脂であるポリアミド樹脂を溶質として溶解させて溶液を作成する第1ステップと、
ラージトウから成る炭素繊維基材を前記溶液に浸漬させることで前記炭素繊維基材中に前記ポリアミド樹脂を含浸させる第2ステップと、
前記炭素繊維基材を前記溶液から引き上げて、水洗により前記炭素繊維基材中の前記メタノール及び前記塩化カルシウムを除去する第3ステップと、
前記炭素繊維基材を乾燥させてポリアミド樹脂含有炭素繊維基材を得る第4ステップと、
ポリアミド樹脂フィルムと前記ポリアミド樹脂含有炭素繊維基材を交互に積層していく第5ステップと、
積層した前記ポリアミド樹脂フィルムと前記ポリアミド含有炭素繊維基材に対してホットプレス成形を施して冷却することにより炭素繊維強化熱可塑性樹脂を得る第6ステップを備えることを特徴とする炭素繊維強化熱可塑性樹脂の製造方法。
【請求項2】
溶質としての前記ポリアミド樹脂がPA6であり、前記ポリアミド樹脂フィルムがPA6フィルムであることを特徴とする請求項1に記載の炭素繊維強化熱可塑性樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記炭素繊維基材が織物又はノンクリンプファブリックであることを特徴とする請求項1又は2に記載の繊維基材。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、充分な機械的強度を有し、且つ生産効率を向上できるラージトウを用いた炭素繊維強化熱可塑性樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軽量・高強度素材である炭素繊維強化プラスチック(Carbon Fiber Reinforced Plastics:CFRP)において、マトリックスとなる樹脂を熱硬化樹脂ではなく、熱可塑性樹脂(Thermoplastic resin)を使った炭素繊維強化熱可塑性樹脂(CFRTP)が知られている。
CFRTPで使用する熱可塑性樹脂は一般的に高粘度なため、炭素繊維基材として連続した長繊維や織物を用いる場合には熱可塑性樹脂の含浸が不充分になりやすいという問題がある。
【0003】
そこで、例えば特許文献1には熱可塑性樹脂を溶解した溶媒に炭素繊維基材を浸漬し、次にこれを引き上げて乾燥させることで溶媒を除去し、これを複数枚積層した状態でホットプレスすることでCFRTPを成形する技術が開示されている。更に、熱可塑性樹脂を含浸させ乾燥させた材料を積層する際に層間に熱可塑性樹脂フィルムを挟む技術も開示されている。
また、加熱により溶媒を除去する場合には、炭素繊維基材の表面のみで溶媒が除去される結果、表面に強固な膜が形成されて炭素繊維基材の内部の溶媒が残留してしまい、充分な機械的特性を有するCFRTPを得るのが難しいという問題がある。
そこで、例えば特許文献2には溶媒を連続繊維に含浸させる工程と、ポリカーボネート共重合体を溶解させた溶液に連続繊維を含浸させる工程と、その連続繊維を加熱して溶媒を揮発させる工程により連続繊維強化熱可塑性樹脂を製造する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭64-69636号公報
【特許文献2】特開2015-203058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
レギュラートウと呼ばれる一般的な炭素繊維(例えばフィラメント数3,000~12,000本)は繊維束が細く、フィラメント数が少ないため、熱可塑性樹脂を内部に含浸させるために必要な距離が短い。従って、上記従来技術を利用することで繊維束の内部まで樹脂を含浸させたCFRTPを得ることができる。
一方、炭素繊維として近年注目されているラージトウ(例えばフィラメント数48,000本以上)を用いる場合、繊維束が太く、フィラメント数が多いため、フィラメント間に熱可塑性樹脂を含浸させ難い。
一般的に繊維に対する樹脂の浸透性はDarcyの法則に基づいて評価され、含浸に必要な時間は含浸距離の2乗に比例する。従って、繊維束が厚いラージトウでは樹脂を内部まで含浸させるのに時間がかかるという問題がレギュラートウと比較して顕著になる。樹脂の含浸が不充分になる結果、成形時に未含浸領域(ボイド)が発生し、成形したCFRTPの機械的特性が劣るという問題がある。
【0006】
本発明は、上記のような問題を考慮して、充分な機械的強度を有し、且つ生産効率を向上できるラージトウを用いた炭素繊維強化熱可塑性樹脂の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂の製造方法は、メタノールと塩化カルシウムを少なくとも含有する混合溶媒に、熱可塑性樹脂であるポリアミド樹脂を溶質として溶解させて溶液を作成する第1ステップと、ラージトウから成る炭素繊維基材を前記溶液に浸漬させることで前記炭素繊維基材中に前記ポリアミド樹脂を含浸させる第2ステップと、前記炭素繊維基材を前記溶液から引き上げて、水洗により前記炭素繊維基材中の前記メタノール及び前記塩化カルシウムを除去する第3ステップと、前記炭素繊維基材を乾燥させてポリアミド樹脂含有炭素繊維基材を得る第4ステップと、ポリアミド樹脂フィルムと前記ポリアミド樹脂含有炭素繊維基材を交互に積層していく第5ステップと、積層した前記ポリアミド樹脂フィルムと前記ポリアミド含有炭素繊維基材に対してホットプレス成形を施して冷却することにより炭素繊維強化熱可塑性樹脂を得る第6ステップを備えることを特徴とする。
また、溶質としての前記ポリアミド樹脂がPA6であり、前記ポリアミド樹脂フィルムがPA6フィルムであることを特徴とする。
また、前記炭素繊維基材が織物又はノンクリンプファブリックであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明では溶媒としてメタノールと塩化カルシウムを含有する混合溶媒を使用し、メタノール及び塩化カルシウムを水洗により同時に除去する。これにより加熱蒸発法が有する塩化カルシウムが残存するという問題を解消でき、且つ生産性を向上できる。また、メタノールと塩化カルシウムは安価で安全性が高いので炭素繊維強化熱可塑性樹脂の製造コストを抑えて安全に製造できる。
また、予め炭素繊維基材中にポリアミド樹脂を含浸させているので、ホットプレス成形時にポリアミド樹脂を炭素繊維基材の表面から内部まで行き渡らせることができ、充分な機械的特性を持つ炭素繊維強化熱可塑性樹脂を得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】炭素繊維強化熱可塑性樹脂の製造プロセスを模式的に示す図(a)~(d)
図2】ホットプレス成形時にポリアミド樹脂フィルムが溶融してポリアミドが炭素繊維基材に含浸していく様子を模式的に示す図(a)~(d)
図3】ポリアミド樹脂含有炭素繊維基材の内部の繊維束及びポリアミド樹脂を示すSEM画像
図4】実施例におけるホットプレス成形時の温度と圧力の変化を示すグラフ
図5】炭素繊維強化熱可塑性樹脂表面の写真
図6】比較例の炭素繊維強化熱可塑性樹脂の内部の画像(a)及び実施例の炭素繊維強化熱可塑性樹脂の内部の画像
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂の製造方法の実施の形態について説明する。
まず、第1ステップとしてメタノールと塩化カルシウムを少なくとも含有する混合溶媒に、熱可塑性樹脂であるポリアミド樹脂を溶質として溶解させて図1(a)に示すように溶液10を作成する。
ポリアミド樹脂は一般的にナイロンと呼ばれており、代表例としてナイロン6が挙げられるがこれに限定されない。
溶質としてポリアミド樹脂を用いる場合、溶媒としてギ酸やHFIP(ヘキサフルオロイソプロパノール)が用いられることが多いが、これらは危険性が高く取り扱いに注意を要するという問題がある。本発明では溶媒として比較的安価で安全なメタノールと塩化カルシウムを用いる点が特徴の一つである。
【0011】
次に図1(a)に示すように第2ステップとしてラージトウから成る炭素繊維基材20を溶液10に浸漬させることで炭素繊維基材20中にポリアミド樹脂を含浸させる。
ラージトウとは、直径5~15μm程度の細いフィラメント(単糸)を48,000本以上束ねた無撚の繊維束を指す。
炭素繊維基材20の例としてはラージトウを織り上げて成る織物やノンクリンプファブリックが挙げられるが、これらに限定されず、ラージトウから成る薄いシート状であればよい。
【0012】
次に図1(b)に示すように第3ステップとして炭素繊維基材20を溶液10から引き上げて、水洗により炭素繊維基材20中のメタノールと塩化カルシウムを除去する。
一般的な溶媒除去方法として加熱蒸発法が挙げられるが、溶媒がメタノール及び塩化カルシウムの場合、加熱蒸発法を用いるとメタノールは蒸発するものの、塩化カルシウムは炭素繊維基材20内に残存してしまう。特にラージトウは繊維束が厚いので内部に塩化カルシウムが残存するという問題が顕著になる。加熱後に残存した塩化カルシウムを除去するには炭素繊維基材20を水洗する工程が必要になり生産性が低下してしまう。本発明では溶媒であるメタノール及び塩化カルシウムを水洗により同時に除去する点が特徴の一つであり、これにより加熱蒸発法が有する塩化カルシウムが残存するという問題を解消でき、且つ生産性を向上できる。
【0013】
次に第4ステップとして炭素繊維基材20を乾燥させてポリアミド樹脂含有炭素繊維基材30を得る。
次に図1(c)に示すように第5ステップとしてポリアミド樹脂フィルム40とポリアミド樹脂含有炭素繊維基材30を交互に積層していく。具体的には、最初(最下部)にポリアミド樹脂フィルム40を配置して、その上にポリアミド樹脂含有炭素繊維基材30を乗せて、その上にポリアミド樹脂フィルム40を乗せて、その上にポリアミド樹脂含有炭素繊維基材30を乗せるという作業を繰り返していき、最後(最上部)にポリアミド樹脂フィルム40を乗せる。これによりポリアミド樹脂含有炭素繊維基材30はその上下がポリアミド樹脂フィルム40で挟まれる形になる。これら積層作業は手作業のみならず機械で行うこともできる。
ポリアミド樹脂フィルム40を形成するポリアミド樹脂の種類は、溶液10中に溶質として溶解させたポリアミド樹脂の種類と一致させる事が望ましい。例えば、溶質としてPA6を用いた場合にはポリアミド樹脂フィルム40としてPA6からなる樹脂フィルムを用いる事が望ましい。
【0014】
次に図1(d)に示すように第6ステップとして、積層したポリアミド樹脂フィルム40とポリアミド含有炭素繊維基材20に対してホットプレス成形を施して冷却することにより炭素繊維強化熱可塑性樹脂60を得る。
仮に図2(a)に示すようにポリアミド樹脂フィルム40と、ラージトウから成るポリアミド樹脂を含有させない炭素繊維基材100を積層した状態でホットプレス成形を施すと、図2(b)に示すように成形時の熱によりポリアミド樹脂フィルム40が溶融してポリアミド樹脂50が炭素繊維基材100に含浸していくが、ポリアミド樹脂を含有させない炭素繊維基材100がラージトウから成るため、ポリアミド樹脂50が炭素繊維基材100の中心部まで至らない部分(未含浸領域A)が発生しやすい。しかし、本発明では図2(c)に示すように第2ステップにおいて予め炭素繊維基材20中にポリアミド樹脂50を含浸させたポリアミド樹脂含有炭素繊維基材30を用いるので、図2(d)に示すようにポリアミド樹脂50を炭素繊維強化熱可塑性樹脂60の表面から内部まで充分に行き渡らせることができる。
以上で炭素繊維強化熱可塑性樹脂60の製造が完了する。
【実施例0015】
炭素繊維基材として炭素繊維平織物(ZOLTEK製PX35 ラージトウ50,000本)、ポリアミド樹脂フィルムとしてPA6フィルム(東レ製CM1006 融点225℃)、溶液としてPA6溶液(5wt%、塩化カルシウム2水和物:メタノール 3:7混合溶媒)を使用して本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂の製造方法を実施した。
図3は第4ステップで得られたポリアミド樹脂含有炭素繊維基材30の内部の繊維束及びポリアミド樹脂50のSEM画像である。多くのポリアミド樹脂50が繊維に付着していることが分かる。
【0016】
図4に示すとおり第6ステップのホットプレス成形において開始から15分で240℃まで金型を加熱し、6MPaの一定の圧力を負荷した。その後10分間圧縮空気を熱盤内の配管に流して金型を冷却し温度を200℃まで下げてから、さらに水を流して冷却した。
図5に示す通り滑らかな表面を持つ炭素繊維強化熱可塑性樹脂の平板を得られた。
比較例として第1~第4ステップを行わずに、ポリアミド樹脂フィルムと繊維材料を交互に積層してホットプレス成形を施して冷却することで炭素繊維強化熱可塑性樹脂の平板を作製した。
【0017】
図6(a)に示す通り比較例の炭素繊維強化熱可塑性樹脂は繊維束内部にポリアミド樹脂が未含浸な領域(黒い部分)が広がっていることが分かる。
一方、図6(b)に通り本発明で得られた炭素繊維強化熱可塑性樹脂は繊維束内部のポリアミド樹脂が未含浸な領域(黒い部分)が小さく、樹脂が炭素繊維基材の表面から内部まで充分に行き渡ったことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明は、充分な機械的強度を有し、且つ生産効率を向上できるラージトウを用いた炭素繊維強化熱可塑性樹脂の製造方法であり、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0019】
A 未含浸領域
10 溶液
20 炭素繊維基材
30 ポリアミド樹脂含有炭素繊維基材
40 ポリアミド樹脂フィルム
50 ポリアミド樹脂
60 炭素繊維強化熱可塑性樹脂
100 炭素繊維基材

図1
図2
図3
図4
図5
図6