(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024012113
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】高炉操業方法
(51)【国際特許分類】
C21B 5/00 20060101AFI20240118BHJP
【FI】
C21B5/00 315
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023103036
(22)【出願日】2023-06-23
(31)【優先権主張番号】P 2022112816
(32)【優先日】2022-07-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中内 健
(72)【発明者】
【氏名】大平 安義
(72)【発明者】
【氏名】福本 泰洋
(72)【発明者】
【氏名】木宮 宏治
(72)【発明者】
【氏名】岡本 悠揮
(72)【発明者】
【氏名】海瀬 達哉
(72)【発明者】
【氏名】石川 和輝
(72)【発明者】
【氏名】森山 明
(72)【発明者】
【氏名】仁科 昌洋
(57)【要約】
【課題】原料表面レベルの局所的な低下に対して炉内温度の低下を防止し、炉頂ガス温度を適切に抑制させることができる高炉操業方法を提案する。
【解決手段】長期間休風のため羽口を閉塞した後に、その羽口の少なくとも一部を開口して送風を再開するときの高炉操業方法において、高炉内の原料表面レベルの局所的な低下に対して、炉頂ガス温度に基づき炉内に散水するにあたり、炉頂ガス温度の管理上限を、通常操業時の上限温度から設備保護上の上限温度以内の所定温度まで上昇させる。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長期間休風のため羽口を閉塞した後に、その羽口の少なくとも一部を開口して送風を再開するときの高炉操業方法において、
高炉内の原料表面レベルの局所的な低下に対して、炉頂ガス温度に基づき炉内に散水するにあたり、炉頂ガス温度の管理上限を、通常操業時の上限温度から設備保護上の上限温度以内の所定温度まで上昇させる、高炉操業方法。
【請求項2】
前記設備保護上の上限温度以内の所定温度は、前記設備保護上の上限温度近傍の温度である、請求項1に記載の高炉操業方法。
【請求項3】
前記設備保護上の上限温度近傍の温度は、上限温度の-20℃~0℃の範囲の温度である、請求項2に記載の高炉操業方法。
【請求項4】
高炉内への原料の装入と、高炉内への散水とを交互に実行する、請求項1~3のいずれか1項に記載の高炉操業方法。
【請求項5】
散水の実施なしで炉頂ガス温度が通常操業時の管理上限まで低下する場合、管理上限を設備保護上の上限温度以内の所定温度から通常操業時の管理上限の温度に戻す、請求項1~3のいずれか1項に記載の高炉操業方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操業を停止して高炉を休風し、その後再度立ち上げを行うにあたり、炉頂部を効果的に冷却するための高炉操業方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉では、高温還元ガスが、羽口と呼ばれる送風用の穴から炉内へ吹き込んだ高温空気及び酸素と炉内のコークスおよび微粉炭との反応によって、生成する。高炉は、生成した高温還元ガスによって、鉄鉱石の昇温、還元、溶解を行い、羽口下部に設置した出銑口から銑鉄とスラグを炉外に排出して生産する設備である。高炉の通常操業時においては、炉内の反応熱と羽口からの熱供給がバランスしているため、高炉の安定的な操業が可能である。
【0003】
ここで、炉内の反応によって生成された高温還元ガスは高炉の炉頂部へ向かうのだが、原料表面レベルが基準より低下した場合は、原料との還元反応時間が短くなり、炉頂ガス温度が上昇してしまう。このとき、高炉ガス清浄設備などの高温還元ガスが通過する設備が破損する恐れがある。このような破損を防ぐために、炉頂部に設けられた散水装置で炉内へ水を噴霧している。この冷却装置に求められる機能は、炉内に装入される高炉原料自体を冷却させずに炉頂部のガス温度を下げることである。
【0004】
高炉の長期休風または休止を行う際には、高炉内への熱供給が停止する。一方で、高炉内部の温度と大気の温度差によって放熱が継続するため、炉内の冷却が進行し、一部の溶融物は凝固する。このため、高炉の操業再開時、すなわち送風再開時には、炉内の凝固層を溶解させるとともに、凝固物が通過するコークス充填層を溶融物が通過できるまで加熱する必要がある。
【0005】
そのため、高炉の長期休風または再稼働が見込まれる休止時には、まず、通常操業終了後、原料レベルを低下させる減尺操業を行い、原料レベルを低下させた状態で休風期間にはいり、休風期間終了後、原料レベルを上昇させて通常操業に戻すための立上操業を行っている。
【0006】
減尺操業では、減尺レベルを低下させていく。すなわち、熱風を送風しながらの原料装入なしで、羽口は全周開口した状態で、原料レベルを円周方向で均一に低下させる。そのため、炉頂散水量は炉頂ガス温度上昇値に対して調整するのみである。その際、高炉は炉内のコークス比を上げて休風に入り、送風後に微粉炭の吹込みが開始できるまでの熱補償を行う。それとともに、出銑口上の1-2本の羽口以外を耐火物等により閉塞させ、送風に伴って生成する溶銑滓の量を制限し、少量の溶融物の円滑な排出のサイクルを確立する。その後の立上操業では、減尺レベルを上昇させていく。すなわち、原料レベルを上昇する際、隣接部の羽口を開口し、徐々に開口羽口本数を増やし、通常の操業まで回復させる方法をとる(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述の羽口を部分的に開口して送風を開始する立上操業において、高温空気は開口している羽口からしか炉内へ吹き込まれないため、鉄鉱石の昇温、還元、溶解は開口羽口から吹き込まれた高温空気が到達する部分でのみでしか行われない。そのため、高炉内での反応が円周方向で不均一となり、炉頂部の原料表面レベルの局所的な低下が発生する。この現象により、局所的な炉頂ガス温度上昇が生じ、炉頂部散水装置からの炉内への水の噴霧が行われる。その際、原料表面レベルが低下していない箇所は直接原料自体に冷却水が大量に着床してしまうことで過冷却となってしまい、炉内温度の低下を招いてしまう問題があった。
【0009】
本発明の目的は、上記の問題点を解決し、原料表面レベルの局所的な低下に対して炉内温度の低下を防止し、炉頂ガス温度を適切に抑制させることができる高炉操業方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の高炉操業方法は、前述の課題を解決すべく開発されたものであり、長期間休風のため羽口を閉塞した後に、その羽口の少なくとも一部を開口して送風を再開するときの高炉操業方法において、高炉内の原料表面レベルの局所的な低下に対して、炉頂ガス温度に基づき炉内に散水するにあたり、炉頂ガス温度の管理上限を、通常操業時の上限温度から設備保護上の上限温度以内の所定温度まで上昇させる、高炉操業方法である。
【0011】
なお、本発明の高炉操業方法においては、
(1)上記本発明において、前記設備保護上の上限温度以内の所定温度は、前記設備保護上の上限温度近傍の温度であること、
(2)上記(1)において、前記設備保護上の上限温度近傍の温度は、上限温度の-20℃~0℃の範囲の温度であること、
(3)上記本発明、上記(1)および上記(2)のいずれかにおいて、高炉内への原料の装入と、高炉内への散水とを交互に実行すること、
(4)上記本発明、上記(1)、上記(2)および上記(3)のいずれかにおいて、散水の実施なしで炉頂ガス温度が通常操業時の管理上限まで低下する場合、管理上限を設備保護上の上限温度近傍の温度から通常操業時の管理上限の温度に戻すこと、
がより好ましい解決手段となるものと考えられる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の高炉操業方法によれば、長時間休風または休止から高炉に羽口を部分開口して再送風する場合、炉内温度の低下の防止と炉頂設備の破損を防止できる。その結果、高炉立上操業の安定化と設備破損のリスクを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】高炉の炉体断面の一部を示す断面模式図である。
【
図2】開口羽口と閉塞羽口とを説明するための高炉の羽口レベルの上面図である。
【
図3】高炉内において原料表面レベルの局所的な低下が発生した状態を示す模式図である。
【
図4】(a)、(b)は、それぞれ、炉頂部に設けられた散水装置の散水ノズルによる水の噴霧状態を示す模式図である。
【
図5】長期休風後の高炉立ち上げ時における、開口羽口数、散水量、炉頂ガス温度、溶銑温度のデータを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について具体的に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであり、構成を下記のものに特定するものでない。すなわち、本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0015】
上述したとおり、羽口を部分的に開口して送風を開始する際、高炉内での反応が円周方向で不均一になってしまう。その結果、高炉の休風又は停止前に炉頂部に残っていた原料が局所的に反応し、原料表面の高さ位置が局所的に低下する現象がおき、局所的に炉頂ガス温度が上昇する。これに対し、散水装置により水を噴霧すると、過冷却となる箇所が生じる。その結果、当該箇所ではスラグの粘性が落ちてしまい、排出されにくくなる等の操業上の問題が発生する。本発明の実施形態によれば、炉頂ガス温度の管理上限を設備保護上の上限温度近傍の温度まで上昇させる。これにより、高炉内への散水量を抑えることができ、原料表面レベルの局所的な低下に対する炉内温度の低下を防止し、炉頂ガス温度を適切に抑制することができる。
【0016】
図1は、高炉の炉体断面の一部を示す断面模式図である。
図1に示すように、本実施形態にかかる高炉は、シャフト部、炉頂部、炉腹部、朝顔部、炉床、及び羽口を有する。
図1に示す断面図では、羽口は一つしか示されていないが、高炉炉体の円周方向に複数の羽口を有する。高炉休風時において羽口は粘土で閉塞されているので、操業開始時には、まず、粘土で閉塞された羽口を開口する。上述のとおり、羽口は複数あるため、部分的に開口する。羽口の開口には、公知の羽口開口機を用いることができる。部分的に開口された羽口から順番に高温空気が送風される。
【0017】
図2は、開口羽口と閉塞羽口とを説明するための高炉の羽口レベルの上面図である。
図2に示すように、羽口は、高炉炉体の円周方向に複数あり、それらが部分的に開口される。そのように、羽口を部分的に開口して送風を開始する操業においては、高温空気は開口している羽口からしか炉内へ吹き込まれない。そのため、鉄鉱石の昇温、還元、溶解は開口羽口から吹き込まれた高温空気が到達する部分でのみでしか行われない。すなわち、
図2で示す開口羽口周辺でしか、羽口から吹き込まれた高温空気による反応が起こらない。そのため、高炉内での反応が、開口羽口上部と閉塞羽口上部との間で、円周方向で不均一となり、炉頂部の原料表面レベルの局所的な低下が発生する。
【0018】
図3は、高炉内において原料表面レベルの局所的な低下が発生した状態を示す模式図である。
図3に示すように、高温空気の反応が部分的に開口された開口羽口周辺でのみ生じることから、原料表面の高さが局所的に低下する。原料表面のうちで局所的に高さが低下する位置は、基本的には、開口した開口羽口上部が相当する。しかしながら、羽口から上昇する高温空気は、原料の中をぬって上昇するため、必ずしも開口羽口上部に相当するわけではない。そのため、原料表面のうちで、局所的に高さが低下した位置を特定するのは困難である。
【0019】
図4(a)、(b)は、それぞれ、炉頂部に設けられた散水装置の散水ノズルによる水の噴霧状態を示す模式図である。
図4(a)に示すように、炉頂部は円周方向に複数の散水ノズルを備えている。
図4では、それぞれの散水ノズルによる散水範囲が図示されている。
図4(a)、(b)に示す実施形態おいては、散水ノズルはAとBとの2種類あり、水を噴霧する角度が異なる(散水ノズルAの角度は40度、散水ノズルBの角度は30度に設定されている)。散水装置は、炉頂ガス温度が所定の管理上限近傍の温度を超えると、複数の散水ノズルから一斉に水を噴霧する。
【0020】
ここで、原料表面の高さが低下した位置に対応する部分のみに、部分的に散水ノズルから水を噴霧することで、局所的に炉頂ガス温度を低下させることは理論的には可能である。しかしながら、上述のとおり原料表面の高さが低下した位置を特定するのは困難である。そのため、一般的に一部の散水ノズルにより局所的な低下位置を狙い撃つのは難しい。その結果、炉頂ガス温度の上昇を抑えるために、複数の散水ノズルから一斉に水を噴霧する必要がある。その場合、原料表面の高さが低下していない位置に対応する部分的に部分では、部分的な過冷却を招く。
【0021】
そこで、本実施形態においては、炉頂ガス温度の管理上限の温度を、通常操業時の上限温度から設備保護上の上限温度以内の所定温度まで上昇させる。設備保護上の上限温度以内の所定温度とは、設備保護上の上限温度近傍の温度であることが好ましい。その結果、散水装置による高炉内への散水量が抑えられ、必要な範囲で炉頂ガス温度の上昇を抑えるとともに、部分的に生じる過冷却の発生を妨げることができる。ここで、設備保護上の上限温度近傍の温度とは、安全上の理由から上限温度の-20~0℃の範囲の温度であることが好ましく、また、過冷却防止の観点からは、設備保護上の上限温度そのものであることがより好ましい。
【0022】
なお、高炉への原料装入時に散水を実施してしまうと、装入中の原料に直接冷却水がかかってしまうため、散水装置による水の噴霧は、原料装入時(鉄鉱石・コークスの回転シュートへの装入時)は停止する。水の噴霧は、1回あたり5秒、6秒、30秒等、比較的短い時間で実施し、水の噴霧と原料の装入を交互に繰り返し行うことが好ましい。このようにすることで、原料に直接冷却水がかかることを防止でき、結果的に過冷却の発生をより抑制することができる。
【実施例0023】
実際に、長期休風後の高炉立ち上げを実施して、開口羽口数、散水量、炉頂ガス温度、溶銑温度のデータを求めた。
図5は、長期休風後の高炉立ち上げ時における、開口羽口数、散水量、炉頂ガス温度、溶銑温度のデータを示すグラフである。
【0024】
本実施例において、設備保護上の上限温度は350℃であり、350℃を少しでも超えると危険である。長期休風からの高炉立ち上げの際、最初は炉頂ガスの温度の管理上限を、通常操業時の管理上限温度と同様に温度260℃に定めていた。通常操業時は、
図4(a)、(b)に記載する散水装置ではなく、ミスト状に散水する装置を使用する。その場合、冷却効果(温度上昇の抑制効果)が弱いため、安全を考慮し、管理上限の温度を十分に低いところで設定する必要があることから、通常操業時は管理上限温度を260℃としている。
【0025】
長期休風からの高炉立ち上げの際にも管理上限温度を260℃として、羽口の部分的な開口を進めたところ、開始早々上限に近くなった。そのため、温度上昇を抑えるため、散水装置が大量の水(6~14t)を噴霧した。それに伴い、溶銑温度が低下し、過冷却が発生した。過冷却は、スラグの粘性低下につながるためなど、操業上好ましくない。そのため、過冷却の発生を止めるべく、炉頂ガス温度のグラフにおいて矢印の時間位置で、炉頂ガスの管理温度上限を、設備保護上の温度上限(350℃)に引き上げた。
【0026】
そうしたところ、散水量が抑制され(3t程度に減少)、炉頂ガス温度および溶銑温度が安定した。羽口開口を進めると、炉内でバランスが取れた状態になり、散水が不要になり、炉頂ガス温度が落ち着いていった。なお、炉頂ガスの管理温度上限は、設備保護上の温度上限近くまで高ければ高いほど散水が抑止され、過冷却防止の観点から好ましい。その一方で、安全上の理由から設備保護上の温度上限を超えることは避ける必要がある。そのため、炉頂ガスの管理温度上限は、設備保護上の温度上限の-20℃~0℃の範囲の温度に設定するのが望ましい。
【0027】
なお、上述したように、炉頂ガス温度の管理上限を設備保護上の上限温度(上記例では350℃)近傍の温度まで上昇させて、その管理上限を炉内温度管理のしきい値として、炉内への散水と散水の実施なしでの原料の炉内への装入とを繰り返して高炉操業を行う。そうした状態で、散水の実施なしで炉頂ガス温度が通常操業時の管理上限(上記例では260℃)まで低下するようなら、管理上限を元に戻すことが好ましい。すなわち、管理上限を350℃から260℃に戻して、その戻した管理上限を炉内温度管理のしきい値として、散水装置の散水ノズルからの散水の実施なしで高炉操業を行うことが好ましい。その理由は、羽口の開口が進み、還元の円周バランスが安定し、原料レベルの円周バランスが均一となってくるため、管理上限を元に戻しても高炉内への散水量を最小限に抑えることができるためである。なお、管理上限を元に戻すタイミングについては、上述した例に限定されるものではなく、他の基準に基づくタイミングで管理上限を元に戻すことも可能である。