IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 昭和電線ホールディングス株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-エナメル線およびその製造方法 図1
  • 特開-エナメル線およびその製造方法 図2
  • 特開-エナメル線およびその製造方法 図3
  • 特開-エナメル線およびその製造方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121134
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】エナメル線およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 13/16 20060101AFI20240830BHJP
   H01B 7/02 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
H01B13/16 B
H01B7/02 A
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028054
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】000002255
【氏名又は名称】SWCC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】白田 朋也
【テーマコード(参考)】
5G309
5G325
【Fターム(参考)】
5G309MA02
5G325KA01
5G325KB17
(57)【要約】
【課題】エナメル樹脂層の種類に依らず、導体とエナメル樹脂層との密着性が高いエナメル線を効率よく製造可能な方法を提供する。
【解決手段】本願には導体と、前記導体を被覆するエナメル樹脂層と、を有するエナメル線の製造方法が開示されている。当該製造方法は、前記導体を準備する工程と、前記導体の周囲に、エナメル樹脂またはその前駆体と、数平均分子量が400以上600以下であるポリエチレングリコールと、溶剤と、を含むワニスを塗布する工程と、前記ワニスを焼き付ける工程と、を含む。前記ワニス中の前記ポリエチレングリコールの量は、前記エナメル樹脂またはその前駆体の量に対して1質量%以上10質量%以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、前記導体を被覆するエナメル樹脂層と、を有するエナメル線の製造方法であり、
前記導体を準備する工程と、
前記導体の周囲に、エナメル樹脂またはその前駆体と、数平均分子量が400以上600以下であるポリエチレングリコールと、溶剤と、を含むワニスを塗布する工程と、
前記ワニスを焼き付ける工程と、
を含み、
前記ワニス中の前記ポリエチレングリコールの量が、前記エナメル樹脂またはその前駆体の量に対して1質量%以上10質量%以下である、
エナメル線の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のエナメル線の製造方法において、
前記エナメル樹脂またはその前駆体が、ポリイミド結合を有する、
エナメル線の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のエナメル線の製造方法において、
前記エナメル樹脂が、ポリイミド樹脂である、
エナメル線の製造方法。
【請求項4】
導体と、前記導体を被覆するエナメル樹脂層と、を有するエナメル線であり、
前記エナメル樹脂層が、エナメル樹脂またはその前駆体と、数平均分子量が400以上600以下であるポリエチレングリコールと、を含み、かつ前記ポリエチレングリコールの量が、前記エナメル樹脂またはその前駆体に対して1質量%以上10質量%以下であるワニスの硬化膜である、
エナメル線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエナメル線およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エナメル線は、モータや変圧器等、多種多様な用途に使用されている。近年、各種機器の小型化、高性能化に伴い、エナメル線を巻線加工したコイルを狭い箇所(例えばステータのスロット等)に押し込み、使用されることが増えている。このような用途では、エナメル線に、高い機械的強度が求められる。
ここで、エナメル線は、導体と、当該導体を覆うエナメル樹脂層とから構成される。そして、導体とエナメル樹脂層との密着強度を高めることが、エナメル線の機械的強度や性能を高めるうえで、非常に重要である。導体とエナメル樹脂層との密着性を高める方法として、ポリイミドからなるエナメル樹脂層のイミド基濃度を細かく制御すること等が提案されている(特許文献1)。また、エナメル樹脂層内でのポリイミド樹脂骨格の含有量をさらに細かく制御し、エナメル線の強度を高めることも提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-233123号公報
【特許文献2】特許第6614953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の特許文献1や特許文献2の方法では、エナメル樹脂の種類がポリイミドに限定される。さらに特許文献2に記載されているように、エナメル樹脂層内で、イミド構造の含有率で導体とエナメル樹脂層との密着力などを評価しておりその含有率の制御が難しい。
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものである。本発明の主な目的は、単に添加剤を追加して導体とエナメル樹脂層との密着性が高いエナメル線を効率よく製造可能な方法、およびこれから得られるエナメル線の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
即ち、本発明は、
導体と、前記導体を被覆するエナメル樹脂層と、を有するエナメル線の製造方法であり、
前記導体を準備する工程と、
前記導体の周囲に、エナメル樹脂またはその前駆体と、数平均分子量が400以上600以下であるポリエチレングリコールと、溶剤と、を含むワニスを塗布する工程と、
前記ワニスを焼き付ける工程と、
を含み、
前記ワニス中の前記ポリエチレングリコールの量が、前記エナメル樹脂またはその前駆体の量に対して1質量%以上10質量%以下である、
エナメル線の製造方法を提供する。
【0006】
本発明はさらに、
導体と、前記導体を被覆するエナメル樹脂層と、を有するエナメル線であり、
前記エナメル樹脂層が、エナメル樹脂またはその前駆体と、数平均分子量が400以上600以下であるポリエチレングリコールと、を含み、かつ前記ポリエチレングリコールの量が、前記エナメル樹脂またはその前駆体に対して1質量%以上10質量%以下であるワニスの硬化膜である、
エナメル線を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の方法によれば、単に一定のポリエチレングリコールという添加剤を追加して導体とエナメル樹脂層との密着性が高いエナメル線を効率よく製造可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1Aは、本発明の一実施形態に係るエナメル線の断面図であり、図1Bは本発明の他の実施形態に係るエナメル線の断面図である。
図2】実施例において、ピール捻回試験を行うための装置の概略図である。
図3】実施例において、破断浮き試験を行うための装置の概略図である。
図4】実施例において、破断浮き長さの特定方法を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
上述のように、近年、様々なエナメル線において、導体とエナメル樹脂層との密着性を高めることが求められている。
このような要求に対し、エナメル樹脂層を形成するためのワニスに、数平均分子量が400以上600以下のポリエチレングリコールを添加し、さらにその添加量をエナメル樹脂またはその前駆体の量に対して1質量%以上10質量%以下とすることで、導体とエナメル樹脂層との密着強度が格段に高まることが、本発明者らの鋭意検討によって明らかとなった。上記ワニスを使用することで、導体とエナメル樹脂層との密着性が高まる理由は、以下のように考えられる。
通常、導体とエナメル樹脂との密着力は、これらが強固に結合することで発現する。しかしながら、一般的な導体では、その作製後、エナメル樹脂層で被覆するまでの間に、表面に酸化被膜等が生成する。そのため、導体上にエナメル樹脂層を形成しても、導体とエナメル樹脂とが強固に結合できず、十分な密着力が得られない。これに対し、上述のワニスを使用すると、ワニス中のポリエチレングリコールが、エナメル樹脂層の形成と同時に導体の表面に存在する酸化金属を還元したり、被膜を除去したりする。そのため、導体とエナメル樹脂とが強固に結合でき、高い密着強度が得られると考えられる。
なお、当該方法では、エナメル樹脂の種類が限定されず、様々な種類のエナメル線の製造の際に有用である。また、エナメル樹脂層の成膜条件等を細かく調整する必要がない。
【0010】
以下、本発明の一実施形態に係るエナメル線およびその製造方法について詳しく説明する。ただし、本発明のエナメル線およびその製造方法は、以下に示す実施形態に限定されない。
【0011】
本実施形態のエナメル線1は、図1Aに示すように、導体3と、これを被覆するエナメル樹脂層5とを有する。
導体3は、従来のエナメル線における導体と同様であり、銅線が好ましい。銅線における銅は、タフピッチ材等であってもよいが、酸素含有量が30ppm以下の低酸素銅であることが好ましく、酸素含有量が20ppm以下の低酸素銅または無酸素銅であることがより好ましく、酸素含有量が10ppm以下の無酸素銅(MiDIP(登録商標))であることがさらに好ましい。銅が低酸素銅や無酸素銅であると、複数のエナメル線1の導体3どうしを溶接した際に、電気抵抗となるボイド等が生じ難い。
一方、導体3はアルミニウム線であってもよく、アルミニウム合金線であってもよい。エナメル線1に高い電流値が要求される場合、導体3は純度の高い(例えば99.00%以上の)純アルミニウムで構成されることが好ましい。
【0012】
導体3の断面のサイズや形状は特に制限されず、その用途に応じて適宜選択される。図1Aに示すように、導体3の断面は円形状であってもよく、図1Bに示すように平角形状であってもよい。また、導体3の断面形状はこれら以外の形状であってもよく、例えば六角形状等であってもよい。
また、導体3の断面のサイズは用途に応じて適宜選択される。断面が円形状である場合、その直径は通常、0.3mm以上3mm以下程度である。断面が平角形状である場合、その長辺は通常、1mm以上5mm以下程度であり、短辺は0.4mm以上3mm以下程度である。なお、断面が平角形状である場合、その角は面取りされていることが好ましい。
【0013】
一方、エナメル樹脂層5は、上記導体3を被覆する層であり、主にエナメル樹脂を含む層であるが、本実施形態の目的および効果を損なわない範囲で、エナメル樹脂以外の成分を含んでいてもよい。当該エナメル樹脂層5は、後述の製造方法で説明するワニスを塗布し、焼き付けた膜、すなわち当該ワニスの硬化膜である。なお、本明細書において「エナメル樹脂」とは、絶縁性を有し、かつ焼き付けによって導体3の周囲に被膜を形成可能な樹脂をいう。
エナメル樹脂の種類は、エナメル線1の用途に応じて適宜選択される。エナメル樹脂の例にはポリビニルホルマール樹脂や、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂等が含まれる。エナメル樹脂層5は、これらを一種のみを含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。なお、エナメル線に耐熱性が求められる場合には、エナメル樹脂がポリイミド結合を含む樹脂であることが好ましく、ポリイミド樹脂がより好ましい。ポリイミド樹脂の構造は特に制限されないが、耐熱性の観点では、芳香族テトラカルボン酸二無水物と、芳香族ジアミンとから得られるポリイミド樹脂が好ましい。例えば、ピロメリット酸とジアミノジフェニルエーテルから得られるポリイミド樹脂が好ましいものとして挙げられる。
【0014】
エナメル樹脂層5が含む、エナメル樹脂以外の成分の例には、顔料や染料、各種添加材等が含まれる。
上記エナメル樹脂層5の厚みは、エナメル線1の用途等に応じて適宜選択されるが、通常10μm以上60μm以下である。
【0015】
上記エナメル線の製造方法について説明する。
まず、上述の導体を準備する。導体は公知の任意の方法で製造されたものであればよく、伸線加工によって所望の形状やサイズに調整したものを使用可能である。
【0016】
一方で、エナメル樹脂またはその前駆体と、数平均分子量が400以上600以下であるポリエチレングリコールと、溶剤と、を含むワニスを準備する。当該ワニスが含むエナメル樹脂またはその前駆体の種類は、上述のエナメル樹脂の種類に合わせて適宜選択される。例えば、上述のエナメル樹脂がポリイミド樹脂である場合、ワニスはポリイミド前駆体(ポリアミド酸やポリアミドイミド等)を含むことが好ましい。
また、ワニスに使用する溶剤の種類は、上記エナメル樹脂またはその前駆体の種類に合わせて適宜選択される。例えばポリイミド前駆体を含むワニスでは、溶剤として、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン等の非プロトン性極性有機溶剤を使用することが好ましい。ワニスは、溶剤を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
さらに、ワニスは、数平均分子量が400以上600以下であるポリエチレングリコールを含む。ワニス中のポリエチレングリコールの量は、上記エナメル樹脂またはその前駆体の量に対して、1質量%以上10質量%以下であればよい。当該ポリエチレングリコールとしては例えば、富士フィルム和光純薬社製(分子量400、600)の市販品を使用することができ、ここでは当該市販品を使用している。
ワニスの調製方法は特に制限されず、溶剤とエナメル樹脂またはその前駆体を含む樹脂含有ワニスを準備し、当該樹脂含有ワニスにポリエチレングリコールを所定の量、添加してもよい。この場合、樹脂含有ワニスとポリエチレングリコールとの混合後、ポリエチレングリコールが均一に分散するように、撹拌や分散を行うことが好ましい。
【0017】
続いて、上述の導体の周囲にワニスを塗布する。ワニスは、公知の方法で塗布可能である。導体の断面より少し大きく、かつ導体の断面と略相似形状の開口部を有するダイス内に導体を挿通し、導体を一方向に移動させながら、ダイス内でワニスを塗布する方法が一例として挙げられる。
上記ワニスの塗布後、ワニスの焼き付けを行う。ワニスの焼き付けは、公知の方法で行うことができ、竪型炉で加熱してもよく、横型炉で加熱してもよい。焼き付け温度は、ワニス中のエナメル樹脂やその前駆体の種類に応じて適宜選択される。例えばワニスがエナメル樹脂を含む場合には、ワニス中の溶剤を除去可能な温度であればよい。一方、ワニスがエナメル樹脂の前駆体を含む場合には、当該前駆体が反応可能な温度で加熱する必要がある。例えばワニスがポリイミド前駆体を含む場合、ポリイミド前駆体がイミド化する温度が選択される。
また、焼き付け時間は、ワニス中の溶剤の量や、エナメル樹脂の種類に応じて適宜選択される。
なお、一回のワニスの塗布および焼き付けによって形成する膜の厚みは、1μm以上6μm以下とすることが好ましく、所望の厚みになるまで、複数回(例えば10回以上)ワニスの塗布および焼き付けを行うことで、エナメル樹脂層を作製することが好ましい。
【実施例0018】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。ただし、本発明の範囲はこれらの実施例によって何ら制限を受けるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で実施形態の変更が可能である。
【0019】
[実施例1]
以下の実施例および比較例において、ワニスに添加するポリエチレングリコールの数平均分子量と、エナメル樹脂層および導体の密着性との相関性について、検証した。
【0020】
(実施例1-1)
導体として、断面形状が円形(直径1.0mm)である丸線導体(無酸素銅、MiDIP(登録商標))を準備した。
一方、ピロメリット酸二無水物(PMDA)およびジアミノジフェニルエーテル(DDE)から得られるポリイミド前駆体、ならびに溶剤(主原料がN-メチル-2-ピロリドンおよびN,N-ジメチルホルムアミド)を含むポリイミド前駆体ワニスを準備した。当該ポリイミド前駆体ワニスに、数平均分子量400のポリエチレングリコールを添加し、均一に混ざるように混合し、ワニスを得た。このとき、ポリエチレングリコールの添加量は、ポリイミド前駆体ワニスの樹脂固形分100質量部に対して、1質量部とした。
ワニス塗布用のダイス内に導体を挿通し、導体を一方向に移動させながら、ダイス内でワニスを塗布し、400℃で焼き付けを行った。ワニスの塗布および焼き付けを10~15回繰り返し、厚さ30μmのエナメル樹脂層を有するエナメル線を得た。
【0021】
(実施例1-2)
ワニスを調製する際に添加するポリエチレングリコールの数平均分子量を、600とした以外は、実施例1-1と同様にエナメル線を得た。
【0022】
(比較例1-1)
ワニスを調製する際にポリエチレングリコールを添加しなかった以外は、実施例1-1と同様にエナメル線を得た。
【0023】
(比較例1-2)
ワニスを調製する際に添加するポリエチレングリコールの数平均分子量を、1000とした以外は、実施例1-1と同様にエナメル線を得た。
【0024】
(評価)
上記実施例および比較例で作製したエナメル線について、ピール捻回試験、および破断浮き試験を以下の方法で行った。それぞれの結果を表1に示す。
【0025】
・ピール捻回試験
長さ35cmの試験片を5本とり、図2に示す装置にて、標点距離250mmとし、試験片10がたるまないように、固定部311および312で固定した。その後、試験片10のエナメル樹脂層に、長さ方向にカッターを入れ、その片側をはがした。その後、試験片10の一端を、30~60回/分の速度で同一方向に回転して試験片10を捻回し、被膜がさらに剥離するまでの回数をカウントした。表1に示す数値は5回の平均値である。
【0026】
・破断浮き試験
長さ35cmの試験片を5本とり、それぞれ図3に示す引張試験機にて、標点距離を250mmとし、試験片10の両端を固定部411および412に固定した。そして、一方の固定部(ここでは固定部412)を300mm/分の速度で、試験片10が破断するまで伸ばした。破断した試験片10について、エナメル樹脂層の破断浮き長さを調べた。図4に、試験片10の破断部の模式図を示す。破断浮き長さは、導体3とエナメル樹脂層5とが重なっているものの、エナメル樹脂層5が導体3に密着していない領域の長さとする。図4に示すように、破断後の両方の試験片10に、導体3とエナメル樹脂層5とが密着していない領域がある場合、被膜浮き長さは、各被膜浮き長さA、Bの合計とする。表1に示す数値は5回の平均値である。
【0027】
・結果
【表1】
【0028】
表1に示すように、ポリエチレングリコールを添加せずにワニスを塗布した場合には、ピール捻回試験の結果が46.4回であり、かつ破断浮きが6.6mmであった(比較例1-1)。これに対し、ワニスに、数平均分子量が400以上600以下であるポリエチレングリコールを添加した場合、ピール捻回試験の結果が約1.2倍向上し、破断浮きは半分以下に低減した(実施例1-1および実施例1-2)。つまり、数平均分子量が400以上600以下であるポリエチレングリコールを添加することで、各段にエナメル樹脂層と導体との密着性が向上したといえる。
なお、数平均分子量が1000であるポリエチレングリコールを添加した場合には、破断浮き試験の結果は良好であったものの、ピール捻回試験の結果が、ポリエチレングリコールを添加しない場合とほぼ同等であった(比較例1-2)。つまり、当該分子量のポリエチレングリコールでは、エナメル樹脂層と導体との密着性を十分に高められなかったといえる。
【0029】
[実施例2]
以下の実施例および比較例において、ワニスに添加するポリエチレングリコールの量と、エナメル樹脂層および導体の密着性との相関性について、検証した。
【0030】
(実施例2-1)
実施例1-1と同じ条件でエナメル線を作製した。つまり、ワニス中のポリエチレングリコールの量を、ポリイミド前駆体の量に対して、1質量%とした。
【0031】
(実施例2-2)
ワニス中のポリエチレングリコールの量を、ポリイミド前駆体の量に対して5質量%とした以外は、実施例2-1と同様にエナメル線を得た。
【0032】
(実施例2-3)
ワニス中のポリエチレングリコールの量を、ポリイミド前駆体の量に対して10質量%とした以外は、実施例2-1と同様にエナメル線を得た。
【0033】
(評価)
上記実施例および比較例で作製したエナメル線について、それぞれピール捻回試験および破断浮き試験を行った。各試験方法は上記と同様である。結果を表2に示す。
【0034】
・結果
【表2】
【0035】
表2に示すように、ポリイミド前駆体の量に対して1質量%以上10質量%以下のポリエチレングリコールを添加し、エナメル線を作製した場合には、ピール捻回試験の結果がいずれも50回を超え、かつ破断浮き試験の結果も3.2mm以下であった。ただし、ポリエチレングリコールの量が増えると、ピール捻回試験の結果が低くなる傾向にあった(実施例2-3)。したがって、ポリエチレングリコールの量は、エナメル樹脂またはその前駆体の質量に対して10質量%以下がよいと考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明のエナメル線の製造方法によれば、導体とエナメル樹脂層との密着性が高いエナメル線を効率よく製造可能である。当該製造方法は、各種用途に使用される、様々な種類のエナメル線の製造に有用である。
【符号の説明】
【0037】
1 エナメル線
3 導体
5 エナメル樹脂層
10 試験片
311、312、411、412 固定部
図1
図2
図3
図4