(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121141
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】xCT機能診断薬
(51)【国際特許分類】
A61K 51/04 20060101AFI20240830BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20240830BHJP
【FI】
A61K51/04 200
C12N15/12 ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028079
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100183656
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100224786
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 卓之
(74)【代理人】
【識別番号】100225015
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 彩夏
(72)【発明者】
【氏名】川井 恵一
(72)【発明者】
【氏名】國嶋 崇隆
(72)【発明者】
【氏名】玉井 郁巳
(72)【発明者】
【氏名】小林 正和
(72)【発明者】
【氏名】松本 拓也
(72)【発明者】
【氏名】水谷 明日香
(72)【発明者】
【氏名】村中 由佳
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 翔
【テーマコード(参考)】
4C085
【Fターム(参考)】
4C085HH03
4C085KA29
4C085KB39
4C085KB56
4C085LL18
(57)【要約】
【課題】xCT機能活性を測定するための手段を提供することを課題とする。さらに、X線照射後の患者におけるxCT機能活性を測定するための手段を提供することを課題とする。
【解決手段】大腸がん細胞株を用いて、125I-SSZのがん細胞内への集積を検討し、がん関連アミノ酸輸送体のうちxCTに注目したところ、xCTによる125I-SSZの集積率が高いことを見出した。さらには、X線照射後のがん細胞において、xCTの遺伝子発現量が低下しているにもかかわらずxCTが活性化していることを見出し、本発明を完成した。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
125I-SSZを含む、xCT機能活性測定剤。
【請求項2】
125I-SSZを含む、X線照射後におけるxCT機能活性測定剤。
【請求項3】
以下の工程を含むことを特徴とする、xCT機能活性の検査方法又は検査を補助する方法:
(1)対象又は被検試料に請求項1に記載のxCT機能活性測定剤を投与する工程;
(2)投与されたxCT機能活性測定剤を検出する工程;
(3)検出結果からxCT機能活性を判定する工程。
【請求項4】
125I-SSZを含む、がん放射性診断薬。
【請求項5】
以下の工程を含むことを特徴とする、がんの検査方法又は検査補助方法:
(1’)対象又は被検試料に請求項4に記載の放射性診断薬を投与する工程;
(2’)投与された放射性診断薬を検出する工程;
(3’)検出結果からがんの有無を判定する工程。
【請求項6】
125I-SSZを含む、xCT機能活性測定用及び/又はがんの診断用キット。
【請求項7】
xCTに対する125I-SSZのがん細胞集積率を測定する工程を含む、xCT機能活性の検査方法。
【請求項8】
さらに以下の工程を含む、請求項7に記載のxCT機能活性の検査方法:
(A)Na+非存在下において、被検試料に請求項1に記載のxCT機能活性測定剤を投与する工程;
(B)Na+非存在下のがん細胞への125I-SSZの集積率からsystem X-c以外のアミノ酸輸送系によるNa+非存在下のがん細胞内への125I-SSZの集積率を減算する工程。
【請求項9】
下記の式Iで表される、
125I-SSZ。
【化I】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、xCT機能活性測定剤に関する。
【背景技術】
【0002】
がんは日本人の死因の第1位であり、年間30万以上の国民が亡くなっている。がんの診断には、PET腫瘍検査、X線検査、 超音波検査、 CT検査等の画像検査が行われ、PET腫瘍検査に代表される18F-2-fluoro-2-deoxy-D-glucose (18F-FDG)は、放射性トレーサーとして用いられている(非特許文献1及び2)。しかしながら、18F-FDGはエネルギー代謝活性の盛んな脳や心臓、排泄経路である腎臓や尿管、膀胱等の正常組織にも生理的な高い集積がみられるため、これらの組織や周辺に存在する腫瘍のイメージングは困難である。
【0003】
がんの治療には、手術療法、化学療法、放射線療法等が用いられ、がん細胞で高発現するがん関連アミノ酸輸送体の1つであるxCTを標的とした抗がん剤による化学療法が近年注目されている。xCTはcystineを取り込みglutathione (GSH)を生成することにより、reactive oxygen species (ROS)を還元し、がん細胞を生存させるというレドックス制御に関与している。非特許文献3には、xCT阻害剤等を用いてcystineの取り込みを阻害すると、GSHの生成が抑制され、ROSの還元も阻害されることでレドックス制御が変化し、レドックス制御によりROSが増加し、がん細胞が細胞死を起こすことが示されている。
【0004】
抗炎症薬であるsulfasalazineはxCTによるcystineの取り込みを阻害して、xCTの活性を変化させ、抗がん作用を誘導するxCT高親和性新規抗がん剤として臨床への応用が進められている(非特許文献4)。
【0005】
特許文献1には、細胞増殖性疾患の治療又は診断において、放射性治療薬又は放射性診断薬を用いることが開示されている。特許文献2には、細菌性感染症の診断において、放射性同位元素標識アミノ酸を用いることが開示されている。特許文献3には、放射性標識化合物ではなく、放射性同位元素標識アミノ酸を用いた細菌又は細胞の分類方法、アミノ酸の輸送特性の分類方法、菌感染の診断補助方法並びに癌の診断補助方法が開示されている。特許文献4には、細菌性感染症において、放射性標識化合物又は放射性同位元素標識されたアミノ酸を用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6474547号
【特許文献2】特開2019-137686号
【特許文献3】特開2021- 94023号
【特許文献4】特開2021- 95401号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】vanOosten M, Hahn M, Crane LM: Targetedimagingof bacterialinfections: advances,hurdles and hopes. FEMS Microbiol Rev,39:892-916(2015).
【非特許文献2】LoveC, Tomas MB, Tronco CG, Palestro CJ:FDGPET of infectionandinflammation.RadioGraphics, 25: 1375-1368(2005).
【非特許文献3】Scott J. Dixon, Kathryn M. Lemberg, Michael R. Lamprecht, et al. Ferroptosis: An Iron-Dependent Form of Non-Apoptotic Cell Death. cell. 149(5): 1060-1072; 2012.
【非特許文献4】Kohei Otsubo, Kaname Nosaki, Chiyo K. Imamura, et al. Phase I study of salazosulfapyridine in combination with cisplatin and pemetrexed for advanced non-small-cell lung cancer. Cancer Sci. 108(9):1843-1849;2017.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、xCT機能活性を測定するための手段を提供することを課題とする。さらに、X線照射によりがん細胞のxCT機能活性が変化する場合があり、X線照射された患者のxCT遺伝子の発現量を測定しただけでは、xCTの機能活性を測定することができない新規の課題を見出し、患者におけるxCT機能活性を測定するための手段を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討した結果、がん細胞株を用いて、125I-SSZのがん細胞内への集積を検討し、がん関連アミノ酸輸送体のうちxCTに注目したところ、xCTによる125I-SSZの集積率が高いことを見出し、本発明を完成した。さらには、X線照射後のがん細胞において、xCTの遺伝子発現量が低下しているにもかかわらずxCTが活性化していることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は以下の通りである。
1.
125I-SSZを含む、xCT機能活性測定剤。
2.
125I-SSZを含む、X線照射後におけるxCT機能活性測定剤。
3.以下の工程を含むことを特徴とする、xCT機能活性の検査方法又は検査を補助する方法:
(1)対象又は被検試料に請求項1に記載のxCT機能活性測定剤を投与する工程;
(2)投与されたxCT機能活性測定剤を検出する工程;
(3)検出結果からxCT機能活性を判定する工程。
4.
125I-SSZを含む、がん放射性診断薬。
5.以下の工程を含むことを特徴とする、がんの検査方法又は検査補助方法:
(1’)対象又は被検試料に前項4に記載の放射性診断薬を投与する工程;
(2’)投与された放射性診断薬を検出する工程;
(3’)検出結果からがんの有無を判定する工程。
6.
125I-SSZを含む、xCT機能活性測定用及び/又はがんの診断用キット。
7.xCTに対する
125I-SSZのがん細胞集積率を測定する工程を含む、xCT機能活性の検査方法。
8.さらに以下の工程を含む、前項7に記載のxCT機能活性の検査方法:
(A)Na
+非存在下において、被検試料に請求項1に記載のxCT機能活性測定剤を投与する工程;
(B)Na
+非存在下のがん細胞への
125I-SSZの集積率からsystem X
-c以外のアミノ酸輸送系によるNa+非存在下のがん細胞内への
125I-SSZの集積率を減算する工程。
9.下記の式Iで表される、
125I-SSZ。
【化I】
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、xCTの機能活性を測定することができる。さらには、X線照射後のがん細胞内においてもxCTの機能活性を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】sulfasalazine誘導体を
125Iに標識し
125I-SSZの精製を示す。(実施例1)
【
図2】
125I-SSZの標識率を示す。(実施例1)
【
図3】
125I-SSZ をHPLCで分析したクロマトグラムを示す。(実施例1)
【
図4】
125I-SSZの放射化学的純度を示す。(実施例1)
【
図5】xCT輸送画分の評価方法を示す。(実施例2)
【
図6】LS180及びDLD-1において、アミノ酸輸送体の特異的阻害剤負荷における
125I-SSZの集積率を示す。(実施例2)
【
図7】DLD-1及びLS180の生がん細胞1個当たりの
125I-SSZ集積率を示す。(実施例3)
【
図8】X線照射後4時間、24時間のアミノ酸輸送体の特異的阻害剤負荷における
125I-SSZの細胞集積率を示す。(実施例4)
【
図9】X線照射後4時間、24時間のアミノ酸輸送体の特異的阻害剤負荷における
125I-SSZの細胞集積率より、算出したxCT輸送画分を示す。(実施例4)
【
図10】xCT輸送画分により補正したxCTにより取り込まれた
125I-SSZの集積率を示す。(実施例4)
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、がん関連アミノ酸輸送体であるxCTと125I-SSZとの関連性、さらにはX線照射後のxCTの機能活性の変化について新たに見出し、達成されたものである。以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
(xCT機能活性測定剤、X線照射後におけるxCT機能活性測定剤)
本発明は、125I-SSZを含む、xCT機能活性測定剤である。本発明のxCT機能活性測定剤は、該xCT機能活性測定剤を被検者体内又は被検試料(特に、がん細胞内)に集積させることにより、xCTの機能を可視化することができる。該機能を可視化することで、がんの画像診断のみならず、細胞内レドックス制御のイメージングが可能となる。ここで、「レドックス制御」とは、タンパク質(システインのチオール基)の酸化還元状態を変化させることで、そのタンパク質の活性を制御することをいう。また、xCTの機能を可視化することで、がん細胞を治療標的とする根治的薬物療法を含めた治療効果に関連した重要な診断情報をもたらすことができる。さらには、X線照射後のがん細胞において、xCT遺伝子の発現量は減少したにも関わらずxCTにおける1輸送体あたりのxCTが活性化している場合もあり、係る場合xCT遺伝子の発現量からは予測できないX線照射後におけるxCTの機能活性を測定することもできる。
【0015】
(125I-SSZ)
本発明のxCT機能活性測定剤に用いる「125I-SSZ」は、125-ヨウ素(125I)により標識されたスルファサラジン(sulfasalazine)の誘導体(SSZ)である。125I-SSZは自体公知又は今後開発あらゆる方法によって精製することができる。例えば、スルファサラジン(sulfasalazine)からカルボキシル基を外し、ヨウ素を導入させやすくさせたSSZを合成し、例えばchloramin-Tを酸化剤として用いる直接標識法によってSSZを125Iにより標識し、125I-SSZを精製することができる。
【0016】
125I-SSZは、例えば以下の式(I)で表すことができる。
【化I】
【0017】
(xCT)
本発明におけるxCTは、system X-c(system X-c amino-acid transporter)に代表されるアミノ酸輸送体である。アミノ酸輸送体は、親水性化合物であるアミノ酸の細胞膜透過を担う膜タンパク質であり多様な分子種から成る。アミノ酸輸送体は、Na+以外の物質の濃度勾配を利用して基質を輸送するNa+非依存的なアミノ酸輸送体やNa+の濃度勾配を利用するNa+依存的なアミノ酸輸送体等がある。これらアミノ酸輸送体は、system X-c、system PAT、system L、system asc、system y+、system T、system b0,+、system y+L等のアミノ酸輸送系(amino acid transport system)に分類される。
「xCT」は、シスチンとグルタミン酸の交換輸送を行うアミノ酸輸送体であり、脳やマクロファージ等の正常組織においても発現がみられるが、がん細胞において発現の上昇が確認される「がん関連アミノ酸輸送体」である。xCTによる細胞外からのシスチンの取り込みが増加すると、増加したシスチンにより抗酸化物質であるグルタチオン(GSH)の生成が促進される。これにより、がん細胞は酸化ストレスへの耐性が上昇し、がん細胞を生存させる(レッドクス制御)ため、xCTの機能活性を測定することは重要である。ここで、「xCTの機能」とはxCTが125I-SSZやシスチン等をがん細胞内に取り込むことをいう。「細胞(がん細胞)のxCTの機能活性」とは、上記説明に加えて、下記の実施例を考慮して、以下のように設定できるが、特に限定されない。
細胞(がん細胞)のxCTの機能活性は、正常細胞、又はX線照射後の正常細胞(X線照射後のがん細胞)の機能活性と比較して、1細胞内あたり(又は1輸送体あたり)約1.1倍、約1.2倍、約1.3倍、約1.4倍、約1.5倍、約1.6倍、約1.7倍、約1.8倍、約1.9倍、約2.0倍、約2.1倍、約2.2倍、約2.3倍、約2.4倍、約2.5倍、約2.6倍、約2.7倍、約2.8倍、約2.9倍、約3.0倍、約3.5倍、約4.0倍、約4.5倍、又は約5.0倍の125I-SSZやシスチンが集積していることを意味する。
なお、本明細書において、数値範囲(例えば、集積量)を段階的に記載した場合、各下限値及び上限値は、それぞれ独立して組み合わせることができる。例えば、「約1.6倍」と「約2.5倍」という記載において、組み合わせて「約1.6倍~約2.5倍」とすることができる。
【0018】
(xCT機能活性の検査方法又は検査を補助する方法)
本発明は、以下の工程を含むことを特徴とする、xCT機能活性の検査方法又は検査を補助する方法も包含する。
(1)対象又は被検試料に本発明のxCT機能活性測定剤を投与する工程、
(2)投与されたxCT機能活性測定剤を検出する工程、
(3)検出結果からxCT機能活性を判定する工程。
【0019】
(1)について、本発明のxCT機能活性測定剤を対象に投与する方法は、特に限定されないが、例えば、静脈注射、皮下注射、皮内注射及び筋肉注射等が挙げられる。投与のタイミングは、対象(被検者)の状態、治療や診断の状況によって適宜決定することができる。本発明の検査方法に供するための「被検試料」は、生体から取得した検体そのものであってもよく、検体から自体公知又は今後開発されるあらゆる方法によって調製されたものであってもよい。例えばがん組織、がん細胞等の非液性試料、血液、唾液等の液性試料が挙げられる。がん組織等は被検者より採取された後、凍結処理が施された凍結組織であっても、病理組織学的処理が施された病理組織であってもよい。病理組織としては、ホルマリン固定組織や、ホルマリン固定パラフィン包埋組織等が挙げられる。
【0020】
(2)について、対象に投与されたxCT機能活性測定剤を検出する工程は、特に限定されないが、例えば、公知の方法により画像化することにより行うことができる。例えばPET(Positron Emission Tomography:陽電子放出断層撮影)やSPECT(SinglePhoton Emission Computed Tomography:単一光子放射断層撮影)等の核医学画像を用いて該化合物から放出される放射線を検出することにより、xCT機能(患者体内のがん細胞やがん組織)のイメージングが可能である。被検試料に投与されたxCT機能活性測定剤を検出する工程は、特に限定されないが、例えばγカウンター等で検出することができる。
【0021】
本発明の125I-SSZの放射能量は、(2)の工程で検出可能な放射能量を適宜設定できる。SPECT撮像であれば123I等、PET撮像であれば18F等の放射線標識物質と組み合わせることもできる。
例えば、PET撮像の場合、PET撮像が可能となる放射能量を有している必要がある。例えば、成人に対してPET撮像を行う目的においては、使用時に50~225MBqの放射能量を有していれば良い。
【0022】
(3)について、検出結果からxCT機能活性を判定する方法は、特に限定されないが、例えば、対象又は被検試料において検出された放射能のシグナル強度及び/又はシグナル分布を、本発明の125I-SSZを投与したがんを有しないことが分かっている比較対象(がん陰性の比較対象)の同部位又はがん陰性試料において検出した放射能のシグナル強度及び/又はシグナル分布、あるいは、本発明の125I-SSZを投与したがんを有していることが分かっている比較対象(がん陽性の比較対象)の同部位又はがん陽性試料において検出した放射能のシグナル強度及び/又はシグナル分布と比較することにより判定することができることができる。
例えば、対象又は被検試料において検出された放射能のシグナル強度及び/又はシグナル分布が、がん陰性の比較対象の同部位又はがん陰性試料において検出した放射能のシグナル強度及び/又はシグナル分布と同程度以下であればxCT機能活性が低下したと判定することができる。
例えば、対象又は被検試料において検出された放射能のシグナル強度及び/ 又はシグナル分布が、がん陰性の比較対象の同部位又はがん陰性試料において検出した放射能のシグナル強度及び/又はシグナル分布よりも高ければxCT機能活性が高いと判定することができる。
例えば、対象又は被検試料において検出された放射能のシグナル強度及び/又はシグナル分布が、がん陽性の比較対象の同部位又はがん陽性試料において検出した放射能のシグナル強度及び/又はシグナル分布と同程度以上であればxCT機能活性が高いと判定することができる。
例えば、対象又は被検試料において検出された放射能のシグナル強度及び/ 又はシグナル分布が、がん陽性の比較対象の同部位又はがん陽性試料において検出した放射能のシグナル強度及び/ 又はシグナル分布よりも低ければxCT機能活性が低いと判定することができる。
【0023】
さらに、本発明の検査方法においてX線照射後のxCT機能活性も測定することできる。対象又は被検試料において検出された本発明の125I-SSZのシグナル強度及び/又はシグナル分布を、X線照射前後の対象同部位又は被検試料で比較することにより判定することができる。
例えば、X線照射後の対象又は被検試料において検出された放射能のシグナル強度及び/又はシグナル分布が、X線照射前の対象又は被検試料において検出した放射能のシグナル強度及び/又はシグナル分布と同程度又は増加した場合、xCT機能活性が増加したと判定することができる。xCT機能活性が増加したと判定された場合、xCTにおける1輸送体あたりのxCTが活性している又はがん細胞が活性化していると判定することもできる。
例えば、X線照射後の対象又は被検試料において検出された放射能のシグナル強度及び/又はシグナル分布が、X線照射前の対象又は被検試料において検出した放射能のシグナル強度及び/又はシグナル分布と同程度未満であればxCT機能活性が低下したと判定することができる。
【0024】
さらに、本発明の検査方法において、xCT阻害剤による治療効果を判定するために用いることもできる。本発明の検査方法は、xCTの機能を可視化することで、がんの画像診断のみならず、細胞内レドックス制御のイメージングが可能となり、特にxCT阻害剤による治療効果等を判定することが可能となる。また、既存のxCT阻害剤に対する治療効果だけでなく開発段階のxCT阻害剤に対する治療効果の判定にも、本発明の検査方法を用いることが期待できる。
具体的には上述の(3)において、例えばxCT阻害剤の治療前及びxCT阻害剤の治療後の対象又は被検試料において検出された放射能のシグナル強度及び/又はシグナル分布を比較することにより判定することができる。
例えば、治療前の対象又は被検試料において検出された放射能のシグナル強度及び/又はシグナル分布が、治療後の対象又は被検試料において検出した放射能のシグナル強度及び/又はシグナル分布と比較して高ければ、xCT阻害剤によるがん治療抗効果が高いと判定することができる。
例えば、治療前の対象又は被検試料において検出された放射能のシグナル強度及び/又はシグナル分布が、治療後の対象又は被検試料において検出した放射能のシグナル強度及び/又はシグナル分布と比較して低ければ、xCT阻害剤によるがん治療効果が低いと判定することができる。
【0025】
本明細書において、「xCT阻害剤」とは自体公知又は今後開発あらゆるxCT阻害剤を含み、例えばスルファサラジン、エラスチン、ソラフェニブ、抗xCT抗体等が挙げられる。
本明細書において、「治療前」とは、xCT阻害剤投与前やがんの治療前をいう。具体的には、xCT阻害剤やがんの治療剤の投与を開始する前等を含む。「治療後」とは、xCT阻害剤やがんの治療剤での治療開始後、一定期間を経てxCT阻害剤やがんの治療剤の治療効果を確認する段階をいう。
【0026】
本発明の検査方法は、xCTに対する125I-SSZのがん細胞集積率を測定することによりxCT機能活性を測定することもできる。具体的には以下を含むことができる。
(A)Na+非存在下において、被検試料に本発明のxCT機能活性測定剤を投与する工程;
(B)Na+非存在下のがん細胞内への125I-SSZの集積率からsystem X-c以外のアミノ酸輸送系によるNa+非存在下のがん細胞内への125I-SSZの集積率を減算する工程。
【0027】
(B)において、Na
+非存在下のがん細胞内への
125I-SSZの集積率[1]から、system X
-c以外のアミノ酸輸送系によるNa
+非存在下のがん細胞内への
125I-SSZの集積率([2]+[3]+[4]+[5])を減算することで、xCTに対する
125I-SSZのがん細胞集積率(xCT輸送画分という場合もある。)を求めることができる。xCTに対する
125I-SSZのがん細胞集積率は、system X
-c以外のアミノ酸輸送系の阻害剤を用いることで得られ、例えば
図5に示される。system X
-c以外のアミノ酸輸送系によるNa
+非存在下のがん細胞内への
125I-SSZの集積率については、下記[2]、[3]、[4]、[5]を合計することで求めることができる。
Na
+非存在下のがん細胞内への
125I-SSZの集積率からsystem PATに対する阻害剤を投与した時のNa
+非存在下のがん細胞内への
125I-SSZの集積率を減算したもの[2]、
system PATに対する阻害剤を投与した時のNa
+非存在下のがん細胞内への
125I-SSZの集積率からsystem Lに対する阻害剤を投与した時のNa
+非存在下のがん細胞内への
125I-SSZの集積率を減算したもの[3]、
system Lに対する阻害剤を投与した時のNa
+非存在下のがん細胞内への
125I-SSZの集積率からsystem ascに対する阻害剤を投与した時のNa
+非存在下の
125I-SSZの集積率を減算したもの[4]、
system ascに対する阻害剤を投与した時のNa
+非存在下のがん細胞内への
125I-SSZの集積率からsystem y
+に対する阻害剤を投与した時のNa
+非存在下のがん細胞内への
125I-SSZの集積率を減算したもの[5]
さらに、求めたxCTに対する
125I-SSZのがん細胞集積率から、xCT補正後の
125I-SSZのがん細胞集積率を測定することができる。system PATに対する阻害剤は、例えばα-(methylamino) isobutyric acid(MeAIB)が挙げられ、system Lに対する阻害剤は、例えば2-amino-2-norbonanecarboxylic acid(BCH)が挙げられ、system ascに対する阻害剤は、例えば2-aminoisobutyric acid(AIB)が挙げられ、system y
+に対する阻害剤は例えばN-ethylmaleimide(NEM)が挙げられる。
【0028】
(がんの診断、がんの検査方法又は検査補助方法)
125I-SSZは、がんの診断や検査にも利用することができる。すなわち、125I-SSZを含むがん放射性診断薬、がんの検査方法又は検査補助方法等にも及ぶ。がんの検査方法又は検査補助方法において、以下を含むことを特徴とする。
(1’)対象又は被検試料に本発明の放射性診断薬を投与する工程、
(2’)投与された放射性診断薬を検出する工程、
(3’)検出結果からがんの有無を判定する工程。
【0029】
(1’)及び(2’)については上述の(1)及び(2)を参照することができる。(3’)において、検出結果からがんの有無を判定する方法とは、特に限定されないが、例えば、対象又は被検試料において検出された放射能のシグナル強度及び/又はシグナル分布を、本発明の125I-SSZを投与したがんを有しないことが分かっている比較対象(がん陰性の比較対象)の同部位又はがん陰性試料において検出した放射能のシグナル強度及び/又はシグナル分布、あるいは、本発明の125I-SSZを投与したがんを有していることが分かっている比較対象(がん陽性の比較対象)の同部位又はがん陽性試料において検出した放射能のシグナル強度及び/又はシグナル分布と比較することにより判定することができる。
【0030】
(がん)
125I-SSZをがんの診断や検査に用いる場合、対象となるがんは特に限定されず、固形がんでも血液がんでもよく、例えば大腸がん(直腸がん、又は結腸がん)、肝がん、膵臓がん、胃がん、食道がん、腺がん、皮膚がん、前立腺がん、膀胱がん、膣がん、頸部がん、子宮がん、腎臓がん、脾臓がん、肺がん、気管がん、気管支がん、小腸がん、胆嚢がん、胆道がん、精巣がん、卵巣がん、乳がん、白血病、悪性リンパ腫、骨肉腫、多発性骨髄腫、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、悪性血管内皮腫、悪性シュワン腫、軟部組織肉腫等を挙げることができる。
【0031】
(医薬的に許容し得る担体)
本発明のxCT機能活性測定剤又はがん放射性診断薬は、125I-SSZ以外に、医薬的に許容し得る担体を含んでいてもよい。医薬的に許容し得る担体とは、液体または固体の賦形剤、希釈液、潤滑剤、または物質をカプセル化する溶媒のような、医薬的に許容し得る物質、組成物または媒体を意味する。各担体は、前記製剤の他の成分との適合性があり、また投与対象に対して傷害性でないという意味において「許容し得る」ものでなければならない。医薬的に許容し得る担体の具体的な例としては、例えば、ラクトース、グルコース、ショ糖などの糖; コーンスターチ、ジャガイモデンプンなどのデンプン; セルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、エチルセルロース、セルロース酢酸塩などのセルロース; トラガカント; 麦芽; ゼラチン; 滑石; カカオバター、坐薬ワックスなどの賦形剤; ピーナッツ油、綿実油、紅花油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油、ダイズ油などの油; プロピレングリコールなどのグリコール類; グリセリン、ソルビトール、マンニトール、ポリエチレングリコールなどのポリオール類; オレイン酸エチル、ラウリン酸エチルなどのエステル類; 寒天; 水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの緩衝化剤; アルギン酸; 生理食塩水; リンゲル溶液; エチルアルコール; ポリエステル、ポリカーボネートなどのポリ無水物類、などが挙げられるが、特に限定されない。当業者であれば、適宜これらの担体を選択することが可能である。
【0032】
(剤型)
本発明のxCT機能活性測定剤又はがん放射性診断薬の剤型は特に限定されないが、例えば注射剤、坐剤、経皮吸収剤、吸入剤等として非経口的に、あるいは、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、液剤などとして経口的に投与することができる。このような投与剤型の選択および製造は、当業者であれば自体公知の方法を利用して適宜行うことができる。
【0033】
(キット)
本発明は、125Iを含む、xCT機能活性測定用及び/又はがんの診断用キットも包含する。本発明のキットは、各有効成分の投与に関する説明書を含んでも良い。
【実施例0034】
以下、実施例により発明を具体的に示すが、本発明はこれらの実施例等により限定されるものではない。
【0035】
(実施例1) sulfasalazine誘導体(SSZ)の標識及び精製
本実施例では、sulfasalazine誘導体を125Iに標識し、精製した。
【0036】
(標識法)
標識原料にはあらかじめ合成したsulfasalazine誘導体(SSZ)を使用し、SSZの放射性ヨウ素標識はchloramin-T (Nacalai tesque) を酸化剤として用いる直接標識法で行った(
図1)。SSZを0.1 N NaOH (Nacalai tesque):0.5 M リン酸緩衝液 (富士フイルム和光純薬) = 7:3となるリン酸緩衝液に溶解し、1.0 mM SSZ溶液を調整した。1.0 mM SSZ溶液200μlと
125I-NaI (4 MBq, PerkinElmer) とを混和し、さらに0.5 Mリン酸緩衝液で0.1 mMに溶解したクロラミンT溶液を200 μL加え、反応を開始した。反応開始15分後にピロ亜硫酸ナトリウム (富士フイルム和光純薬) 1/10飽和溶液を40 μL加え、反応を停止した。なお、SSZは、sulfasalazineからカルボキシル基を外し、ヨウ素を導入されやすくしたものである。
125I-SSZの標識率はシリカゲル薄層板 (silicagel60F254, Merck) を用いて薄層クロマトグラフィー (thin-layer chromatography:TLC) 分析し、オートウェルγカウンタ (AccuFLEXγ7000, Aloka medical) で放射能を測定することで評価した。また、展開溶媒には酢酸エチル(ナカライテスク):ヘキサン(ナカライテスク):メタノール(Sigma Aldrich) = 4 : 3 : 1を用いた。
125I-SSZ の分離精製には高速液体クロマトグラフィー (high performance liquid chromatography : HPLC) を使用し、精製条件は表1に示した。分離精製後に上記条件のTLC分析により放射化学的純度検定を行った。
【0037】
【0038】
(結果)
標識反応溶液をTLC分析した結果、Rf値は
125I-SSZ : 0.35-0.50、
125I-NaI : 0.70-0.80であり、
125I-SSZの標識率は76%であった(
図2)。標識反応溶液をHPLCで分析したクロマトグラムを示した(
図3)。
125I-NaIのretention timeは3-4 minであり、
125I-SSZのretention timeは15-16 minであった。HPLCで目的とする標識体を分取してTLC分析した結果、
125I-SSZの放射化学的純度は92%以上であった(
図4)。また、5日間の安定性が認められた。以上の結果より、クロラミンT法により、
125I-SSZを短時間で高い標識率と放射化学的純度で得られた。
【0039】
(実施例2)アミノ酸輸送系の特異的阻害負荷における125I-SSZ集積実験
system PAT (PAT1, PAT2等)、system L (LAT1, LAT2, LAT3, LAT4等)、 system asc (asc1等)、system y+ (CAT1, CAT2, CAT3, CAT4等)、system X-c (xCT等), system T (TAT1等), system b0,
+ (BAT1等), system y+L (y+LAT1, y+LAT2等)は、Na+以外の物質の濃度勾配を利用して基質を輸送するNa+非依存的なアミノ酸輸送系である。
本実施例では、Na+非依存的なアミノ酸輸送系に対する特異的阻害剤を用いて、ヒト大腸がん細胞株(LS180, DLD-1)における125I-SSZの集積を評価した。本実施例及び以降の実施例において、LS180はE-MEM培地にて前日に1wellあたり1×105細胞数になるように調整して播種したものを用いた。DLD-1はD-MEM培地にて前日に1wellあたり1×105細胞数になるように調整して播種したものを用いた。なお、本実施例及び以降の実施例では、実施例1で精製した125I-SSZを用いた。
【0040】
(2-1)定量PCRによるアミノ酸輸送系遺伝子発現量測定実験
LS180, DLD-1について、まずxCT遺伝子発現量をリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応 (polymerase chain reaction:PCR) による絶対定量解析にて評価した。表2にリアルタイムPCRに使用したxCT遺伝子のプライマー配列及び最終濃度を示した。LS180とDLD-1からRNAを抽出し、cDNAを合成した後、リアルタイムPCRでLS180とDLD-1のxCT遺伝子発現量を測定した。
【0041】
【0042】
(2-2)125I-SSZを用いた細胞集積実験
LS180とDLD-1に対して125I-SSZ 18.5 kBq/wellを投与した。125I-SSZ投与後5分後の各がん細胞の細胞表面とwellをCh-PBSで2回洗浄し0.1 N NaOH水溶液500 μLで溶解し、γカウンタでがん細胞への125I-SSZ の集積を測定した。測定後、各well内の細胞タンパク質量をMultiskan FC吸光マイクロプレートリーダ (Thermo Scientific) で測定し、wellごとに125I-SSZの集積量の補正をした。
【0043】
リアルタイムPCRで求めた各がん細胞のxCT遺伝子発現量及び125I-SSZの集積量を示した(表3)。LS180とDLD-1のxCT遺伝子発現量を比較すると、DLD-1に比べLS180のxCT遺伝子発現量は多く、それに応じてDLD-1に比べLS180の125I-SSZ集積量は多かった。
【0044】
【0045】
(2-3)アミノ酸輸送系の特異的阻害負荷における125I-SSZ集積実験
アミノ酸輸送系の特異的阻害剤負荷における125I-SSZ集積実験は、Shikanoらの方法(Shikano N et al, Ann Nucl Med. 2004 18(3):227-34)を参考にして行った。リアルタイムPCRにより求めたxCT遺伝子発現量をもとに、本発明者らが作成した16種類のヒトがん細胞株マイクロアレイのデータベースから2種類のヒト大腸がん細胞株であるxCT遺伝子高発現細胞株のLS180とxCT遺伝子低発現細胞株のDLD-1を選択し、阻害剤負荷における125I-SSZの集積に対する影響から、xCTの寄与を検討した。阻害剤には、system PATを特異的に阻害するα-(methylamino) isobutyric acid (MeAIB) (Sigma-aldrich), system Lを特異的に阻害する2-amino-2-norbonanecarboxylic acid (BCH) (Sigma-aldrich), system ascを特異的に阻害する2-aminoisobutyric acid (AIB) (東京化成工業株式会社), system y+を特異的に阻害するN-ethylmaleimide (NEM) (Sigma-aldrich) を使用した (表4)。緩衝液にはNa+-PBS又はNa+が含まれていないCh (choline)-PBSを用い、阻害剤を負荷しなかった場合の125I-SSZの集積をそれぞれNa+-control、Ch-controlとした。xCTはNa+非依存性アミノ酸輸送体であるため、集積実験にはNa+依存性アミノ酸輸送系の寄与を無くすため、Na+が含まれていないCh-PBSを緩衝液に用いた。具体的にはLS180又はDLD-1を1.0×105 cells/well播種し、各well中の培養培地を除去し、最終濃度1.0 mMに調整した各阻害剤及び緩衝液を添加し、その30秒後に125I-SSZ 18.5 kBq/wellを投与した。投与5分後に細胞表面とwellをNa+-PBS又はCh-PBSで2回洗浄し、0.1 N NaOHで細胞を溶解後、オートウェルγカウンタで放射能を測定した。測定後、各well内の細胞タンパク質量をMultiskan FC吸光マイクロプレートリーダ (Thermo Scientific) で測定し、wellごとに125I-SSZの集積量の補正をした。
なお、Na-PBS(Na-phosphate buffer)の組成は、137mM NaCl、2.7mM KCl、8mM Na2HPO4・12H2O、1.5mM KH2PO4、5.6mM D-glucose、0.9mM CaCl2・2H2O、0.5mM MgCl2であった。また、Ch-PBS(Choline-phosphate buffer)は、NaをChに置換した組成(137mM Choline Chloride、2.7mM KCl、8mM Na2HPO4・12H2O、1.5mM KH2PO4、5.6mM D-glucose、0.9mM CaCl2・2H2O、0.5mM MgCl2)であった。
【0046】
【0047】
表4に示したsystem X
-c, system T, system b
0,
+, system y
+Lは特異的阻害剤が見出されていないため、特異的阻害剤負荷によるxCT集積率の直接的な算出は困難である。しかしながら、これらの輸送系において、がん関連アミノ酸輸送系はsystem X
-cのみであるため、がん細胞に対するNa
+非依存的集積からMeAIB, BCH, AIB, NEMの4種類の阻害効果を減算したものをxCT輸送画分として評価した(
図5)。
【0048】
(結果)
アミノ酸輸送系の特異的阻害剤負荷における
125I-SSZの集積率を示した(
図6)。いずれもNa
+存在下におけるcontrolの集積率を100%として表した。xCTはNa
+非依存性アミノ酸輸送体であるためNa
+非依存性を評価するCh-controlに対して、LS180ではBCH, AIB, NEMで阻害効果が認められ、DLD-1ではMeAIB, BCHで阻害効果が認められた。これらの阻害効果に基づく減算法からxCT輸送画分を求めると、xCT遺伝子高発現細胞株であるLS180のxCT輸送画分は60-70%、xCT遺伝子低発現細胞株であるDLD-1のxCT輸送画分は70-80%であった。以上の結果から、xCT遺伝子発現量に関わらず、両細胞株で同程度の高いxCT輸送画分が得られた。これらの結果より、xCT機能診断を目的とした新規がん画像診断薬として
125I-SSZが有用であることが示された。
【0049】
(実施例3)X線照射後のxCT遺伝子発現量と125I-SSZの細胞集積率
本実施例では、X線照射後のxCT遺伝子発現量と125I-SSZの細胞集積率について確認した。
【0050】
(3-1)定量PCRによるアミノ酸輸送系遺伝子発現量測定実験
実施例2と同様にDLD-1及びLS180を用いた。それぞれの細胞を1.0×105 cells/well播種しX線照射した。X線非照射のcontrol、X線照射後4時間、24時間の3つのがん細胞群に分けて検討した。それぞれのがん細胞について、実施例2と同手法によりxCTの遺伝子発現量を測定した。X線照射はX線照射装置 (MBR1520R-3, Hitachi) を使用した。照射条件については、がん細胞の生存率の低下が確認されたX線1回照射の最大線量10 Gyとした。
【0051】
(3-2)125I-SSZを用いた細胞集積実験
(3-1)と同様にDLD-1とLS180を3群に分け、それぞれのがん細胞に対して125I-SSZ 18.5 kBq/wellを投与した。125I-SSZ投与後5分、10分、30分、60分後の各がん細胞の細胞表面とwellをCh-PBSで2回洗浄し0.1 N NaOH水溶液500 μLで溶解し、γカウンタでがん細胞への125I-SSZ の集積を測定した。測定結果は、X線照射による死細胞を含めない生細胞のみでの補正を行うため、全自動細胞計測装置 (LUNA FX7, Logo biosystems) で測定した生細胞数を用いてがん細胞1個当たりに取り込まれた125I-SSZの集積率を算出した。
【0052】
(結果)
表5に各ヒト大腸がん細胞のxCT遺伝子発現量を示した。DLD-1ではxCT遺伝子発現量がX線照射後に増加した。一方、LS180では、X線照射後の時間経過に伴ってxCT遺伝子発現量が減少した。
【0053】
【0054】
DLD-1及びLS180の生がん細胞1個当たりの
125I-SSZ集積率を示した(
図7)。DLD-1では、X線照射後に
125I-SSZ集積率が増加した。一方、LS180においてはX線照射後、
125I-SSZの集積率に多少の増加は見られたが、減少は認められなかった。これより、DLD-1においてはX線照射後に遺伝子発現量が増加し、それに伴って
125I-SSZの細胞集積率も増加したと考えられる。一方、LS180においてはX線照射後、xCT遺伝子発現量は減少したにも関わらず
125I-SSZの集積率に減少は認められなかった。よって、LS180においてはX線照射後に1輸送体あたりのxCTの活性が変化した可能性があることが示された。
【0055】
(実施例4)X線照射後のxCT活性変化
本実施例では実施例2と同手法により、LS180におけるX線照射後のxCT活性を評価した。
【0056】
実施例3でxCT遺伝子発現量の減少に伴い125I-SSZ集積率が減少しなかったLS180において、実施例3と同様にがん細胞を3群に分けた。X線照射後の各細胞について実施例2と同手法によりアミノ酸輸送系の特異的阻害剤負荷における125I-SSZの集積量を確認しxCT活性を評価した。
【0057】
(結果)
X線照射後4時間、24時間の阻害剤負荷時における
125I-SSZの細胞集積率を示す(
図8)。X線照射後4時間、24時間ともに、Na
+-controlと比較してCh-controlの
125I-SSZ集積率が大きく減少した。よって、X線照射後のがん細胞において、xCTを含むNa
+非依存的なアミノ酸輸送体の寄与が減少したと考えられた。
【0058】
さらに、算出したxCT輸送画分を示す(
図9)。X線非照射のcontrolと比較してX線照射後のxCT輸送画分は減少した。xCT輸送画分により補正したxCTにより取り込まれた
125I-SSZの集積率を示す(
図10)。xCT輸送画分により補正した
125I-SSZ 集積率は、X線非照射のcontrolと比較してX線照射後においても
125I-SSZの集積率にあまり変化が認められなかった。xCT輸送画分が低下したにも関わらず、xCTにより取り込まれた
125I-SSZの集積率に顕著な変化が認められなかったことから、X線照射後に1輸送体あたりのxCTの活性が増加した可能性が高いと考えられた。これより、X線照射後のxCT遺伝子発現量の変化に関わらず、がん細胞におけるxCTの活性を
125I-SSZの集積により評価できた。
【0059】
(総論)
本発明のxCT機能活性測定剤及びxCT機能活性の検査方法は、xCT遺伝子発現量とは必ずしも比例しないxCT機能活性を細胞(がん細胞)中(特に、1細胞内あたり又は1輸送体あたり)の
125I-SSZの集積量で算出することができる。
例えば、xCT遺伝子発現量が減少していてもxCT機能活性が向上していることにより、がん細胞を生存させるというレドックス制御に活発的に関与している。また、xCT遺伝子発現量が増加や維持していてもxCT機能活性が低下してる又は喪失している場合もある。さらに、放射線照射によりxCT機能活性が変化する場合もある。
本発明でのxCT機能活性(xCT補正後の
125I-SSZ集積率:
図10)は、アミノ酸輸送体の特異的阻害剤負荷における
125I-SSZの集積率(特に、X線照射後の各時間でのX線非照射controlに対する割合:
図6)に、xCT輸送画分の寄与率(特に、X線照射後の各時間でのX線非照射controlに対する割合:
図9)を乗じることにより算出することができる。
以上詳述したように、本発明のxCT機能活性測定剤を用いるとxCT機能の活性を測定することできる。さらにはX線照射後のxCT機能の活性も測定することでき、xCT遺伝子発現量からは予測できないxCT機能の活性を測定することができる。これより、がんが活性化しているかどうか確認することができる。さらには、xCT阻害剤の治療効果にも判定することができるため有用であり、新たな抗がん剤の開発にも期待できる。さらには、がんの診断においても利用することできる。