(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121146
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】排水処理装置、排水処理方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
C02F 1/44 20230101AFI20240830BHJP
B01D 61/00 20060101ALI20240830BHJP
B01D 65/06 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
C02F1/44 A
B01D61/00 500
B01D65/06
C02F1/44 D
C02F1/44 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028086
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(71)【出願人】
【識別番号】390014074
【氏名又は名称】前澤工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】弁理士法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤原 拓
(72)【発明者】
【氏名】石田 進
(72)【発明者】
【氏名】円谷 輝美
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA14
4D006HA93
4D006JA07Z
4D006JA31Z
4D006KC14
4D006KD11
4D006KD12
4D006KD17
4D006KD24
4D006KD30
4D006KE15P
4D006KE15R
4D006KE30P
4D006KE30R
4D006PA02
4D006PB08
(57)【要約】
【課題】エネルギーを効率的に回収することができる排水処理装置10を提供する。
【解決手段】排水処理装置10は、排水を貯留する分離濃縮槽12、分離濃縮槽12に貯留される排水に酸素/窒素を供給する酸素/窒素注入部16a、酸素/窒素注入部16aを制御するORP制御装置16、分離濃縮槽12に貯留される排水に酸又はアルカリを供給する酸/アルカリ注入部17a、酸/アルカリ注入部17aを制御するpH制御装置17を備え、分離濃縮槽12はFO膜ユニット18を有し、FO膜ユニット18が有するFO膜の一方側に夾雑物、溶解性有機物及び水分を含む排水が存在し、FO膜の他方側に駆動溶液DSが存在し、ORP制御装置16は排水の酸化還元電位に応じて分離濃縮槽12に酸素及び/又は窒素を供給し、pH制御装置17は排水のpHに応じて分離濃縮槽12にpH調整剤としての酸又はアルカリを供給する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
夾雑物、溶解性物質及び水分を含む排水、並びに、水分を含み且つ前記排水以外の駆動溶液の間に配設され、前記排水から受ける圧力が前記駆動溶液から受ける圧力よりも高い場合、前記排水に含まれる水分を透過するとともに、前記夾雑物及び溶解性物質を捕捉して前記排水を濃縮する濃縮手段と、
前記排水を貯留する貯留手段と、
前記貯留手段に窒素及び/又は酸素を供給する供給手段と、を備えることを特徴とする排水処理装置。
【請求項2】
前記貯留手段は密閉されていることを特徴とする請求項1記載の排水処理装置。
【請求項3】
前記供給手段は前記排水の酸化還元電位に基づいて窒素及び/又は酸素を供給することを特徴とする請求項1記載の排水処理装置。
【請求項4】
前記排水の酸化還元電位は-350mV~-50mVに制御され、前記供給手段は酸化還元電位が-50mVよりも高い場合、前記貯留手段に窒素を供給し、酸化還元電位が-350mVよりも低い場合、酸素及び窒素、又は、酸素のみを供給することを特徴とする請求項1記載の排水処理装置。
【請求項5】
酸又はアルカリを供給する他の供給手段を備え、
前記他の供給手段は前記排水のpHに基づいて酸又はアルカリを供給することを特徴とする請求項1記載の排水処理装置。
【請求項6】
前記排水のpHは5.0~7.0に制御され、前記他の供給手段はpHが7.0よりも高い場合、前記貯留手段に酸を供給し、pHが5.0よりも低い場合、前記貯留手段にアルカリを供給することを特徴とする請求項5記載の排水処理装置。
【請求項7】
前記貯留手段に供給された窒素及び/又は酸素は前記貯留手段を循環することを特徴とする請求項1記載の排水処理装置。
【請求項8】
前記駆動溶液を水、酸、アルカリ、又は次亜塩素酸ナトリウム水溶液に代えて前記濃縮手段を洗浄することを特徴とする請求項1記載の排水処理装置。
【請求項9】
夾雑物、溶解性物質及び水分を含む排水、並びに、水分を含み且つ前記排水以外の駆動溶液の間に配設され、前記排水から受ける圧力が前記駆動溶液から受ける圧力よりも高い場合、前記排水に含まれる水分を透過するとともに、前記夾雑物及び溶解性物質を捕捉して前記排水を濃縮する濃縮ステップと、
前記排水を貯留する貯留ステップと、
前記排水を貯留する貯留手段に窒素及び/又は酸素を供給する供給ステップと、を有することを特徴とする排水処理方法。
【請求項10】
夾雑物、溶解性物質及び水分を含む排水、並びに、水分を含み且つ前記排水以外の駆動溶液の間に配設され、前記排水から受ける圧力が前記駆動溶液から受ける圧力よりも高い場合、前記排水に含まれる水分を透過するとともに、前記夾雑物及び溶解性物質を捕捉して前記排水を濃縮する濃縮ステップと、
前記排水を貯留する貯留ステップと、
前記排水を貯留する貯留手段に窒素及び/又は酸素を供給する供給ステップと、を有する排水処理方法をコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は排水処理装置、排水処理方法及びプログラムに関し、特に、FO膜が用いられる排水処理装置、排水処理方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、FO(Forward Osmosis)膜を用いて夾雑物、溶解性物質及び水分を含む下水等の排水を処理する排水処理装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。FO膜は下水等の排水及び海水等の駆動溶液DS(Draw Solution)の間に位置し、駆動溶液DSの溶質濃度が排水の溶質濃度よりも高いとき、FO膜が排水から受ける圧力が駆動溶液DSから受ける圧力よりも高いため、排水に含まれる水分のみがFO膜を透過して駆動溶液DSに移動し、排水に含まれる夾雑物及び溶解性物質はFO膜に捕捉される。その結果、排水は濃縮される。
【0003】
図3は従来の排水処理装置30の構成を示す概略図であり、
図3の排水処理装置30は、排水貯留槽31、分離濃縮槽32及びDS貯留槽33を備え、分離濃縮槽32はFO膜ユニット34を有する。排水貯留槽31は排水中の夾雑物を除去するスクリーンや沈殿池を通過した排水を貯留する。分離濃縮槽32は排水貯留槽31から供給される排水を貯留する。FO膜ユニット34は分離濃縮槽32に貯留される排水に浸漬されている。FO膜ユニット34はFO膜を支持する支持材及びFO膜からなり、FO膜は支持材を包含し、これにより、FO膜ユニット34は内部空間を有する。DS貯留槽33は駆動溶液DSである海水を貯留し、駆動溶液DSはFO膜ユニット34の内部空間及びDS貯留槽33を循環する。
【0004】
分離濃縮槽32における排水に含まれる水分はFO膜を介して駆動溶液DSに移動し、分離濃縮槽32における排水に含まれる夾雑物はFO膜に捕捉されて駆動溶液DSに移動しない。したがって、分離濃縮槽32に貯留される排水は濃縮される。濃縮された分離濃縮槽32の排水(以下、「濃縮排水」という。)は溶解性有機物を含むため、メタン発酵槽(不図示)に移送され有機物をメタン及び炭酸ガスに分解するメタン発酵に用いられるとともに、メタン発酵によって生成されたメタンはエネルギーとして利用される。ところで、分離濃縮槽32に貯留される排水は濃縮排水をメタン発酵に用いるために20~50倍濃縮する必要がある。また、分離濃縮槽32における排水には、通常、夾雑物や有機物とともに酸素を必要とする好気性微生物及び酸素を必要としない嫌気性微生物が含まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、単位時間あたりにFO膜を透過する水分が少なく、分離濃縮槽32の排水を濃縮するために長時間を要する場合がある。分離濃縮槽32の排水を濃縮する時間が長いと、分離濃縮槽32の排水における好気性微生物及び嫌気性微生物が排水を濃縮している間も排水に含まれる有機物を分解する。これにより、メタン発酵槽におけるメタン発酵に必要な有機物が不足し、エネルギーを効率的に回収することができないという問題がある。
【0007】
本発明の目的は、エネルギーを効率的に回収することができる排水処理装置、排水処理方法及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の排水処理装置は、夾雑物、溶解性物質及び水分を含む排水、並びに、水分を含み且つ前記排水以外の駆動溶液の間に配設され、前記排水から受ける圧力が前記駆動溶液から受ける圧力よりも高い場合、前記排水に含まれる水分を透過するとともに、前記夾雑物及び溶解性物質を捕捉して前記排水を濃縮する濃縮手段と、前記排水を貯留する貯留手段と、前記貯留手段に窒素及び/又は酸素を供給する供給手段と、を備えることを特徴とする。
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の排水処理方法は、夾雑物、溶解性物質及び水分を含む排水、並びに、水分を含み且つ前記排水以外の駆動溶液の間に配設され、前記排水から受ける圧力が前記駆動溶液から受ける圧力よりも高い場合、前記排水に含まれる水分を透過するとともに、前記夾雑物及び溶解性物質を捕捉して前記排水を濃縮する濃縮ステップと、前記排水を貯留する貯留ステップと、前記排水を貯留する貯留手段に窒素及び/又は酸素を供給する供給ステップと、を有することを特徴とする。
【0010】
上記目的を達成するために、本発明のプログラムは、夾雑物、溶解性物質及び水分を含む排水、並びに、水分を含み且つ前記排水以外の駆動溶液の間に配設され、前記排水から受ける圧力が前記駆動溶液から受ける圧力よりも高い場合、前記排水に含まれる水分を透過するとともに、前記夾雑物及び溶解性物質を捕捉して前記排水を濃縮する濃縮ステップと、前記排水を貯留する貯留ステップと、前記排水を貯留する貯留手段に窒素及び/又は酸素を供給する供給ステップと、を有する排水処理方法をコンピュータに実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、エネルギーを効率的に回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施の形態に係る排水処理装置の構成を示す概略図である。
【
図2】
図1の排水処理装置を用いた排水処理の手順を示すフローチャートである。
【
図3】従来の排水処理装置の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0014】
図1は、本発明の実施の形態に係る排水処理装置10の構成を示す概略図である。
【0015】
図1の排水処理装置10は、排水貯留槽11、分離濃縮槽12(貯留手段)、DS貯留槽13、ORP(酸化還元電位)計14、pH計15、ORP制御装置16、酸素/窒素注入部16a(供給手段)、pH制御装置17、酸/アルカリ注入部17a(他の供給手段)を備え、分離濃縮槽12はブロワBを有する気体循環部12a及びFO膜ユニット18を有し、密閉されている。排水貯留槽11は排水中の粗大な夾雑物を除去するスクリーンや沈殿池を通過した排水であって、夾雑物、溶解性物質及び水分を含む排水を貯留する。分離濃縮槽12は排水貯留槽11から供給される排水を貯留する。FO膜ユニット18は分離濃縮槽12に貯留される排水に浸漬されている。FO膜ユニット18はFO膜を支持する支持材及びFO膜(濃縮手段)からなり、FO膜は支持材を包含し、これにより、FO膜ユニット18は内部空間を有する。
【0016】
DS貯留槽13は駆動溶液DSを貯留する。駆動溶液DSは水分を含み且つ排水以外の水媒体であって、駆動溶液DSの溶質濃度は排水の溶質濃度よりも高い。駆動溶液DSは、例えば、海水であり、駆動溶液DSはFO膜ユニット18の内部空間及びDS貯留槽13を循環する。ORP計14は分離濃縮槽12に貯留される排水の酸化還元電位を測定する。pH計15は分離濃縮槽12に貯留される排水のpHを測定する。ORP制御装置16は分離濃縮槽12に貯留される排水の酸化還元電位に応じて酸素/窒素注入部16aから分離濃縮槽12に供給される酸素及び/又は窒素の供給量を制御する。酸素/窒素注入部16aには、例えば、PSA式酸素ガス発生装置やPVSA式酸素ガス発生装置、PSA式窒素ガス発生装置等が用いられる。pH制御装置17は分離濃縮槽12に貯留される排水のpHに応じて酸/アルカリ注入部17aから分離濃縮槽12に供給される酸又はアルカリの供給量を制御する。
【0017】
酸素及び/又は窒素は、酸素/窒素注入部16aから分離濃縮槽12に供給されるとき、例えば、分離濃縮槽12の底部及びFO膜ユニット18の間に設置された散気装置によって供給される。分離濃縮槽12に供給された酸素又は窒素は排水中を鉛直方向において上向きに通過し、排水の水面から放出される。したがって、酸素及び/又は窒素によって形成される気体層が排水の上方に形成される。排水の水面から放出された酸素及び/又は窒素は気体循環部12aを経由して分離濃縮槽12の底部及びFO膜ユニット18の間に再度供給される。分離濃縮槽12は密閉されているので、分離濃縮槽12の気密性は確保され、分離濃縮槽12に供給される酸素及び/又は窒素は排水及び気体循環部12aを順次通過する循環気流を形成する。
【0018】
循環気流が形成されているとき、新たに酸素及び/又は窒素を酸素/窒素注入部16aから分離濃縮槽12に供給しなくても循環気流は維持される。したがって、循環気流はFO膜に衝突してFO膜表面の汚れを剥ぎとり、FO膜の洗浄を継続的に実行する。ところで、酸素又は窒素が分離濃縮槽12に新たに供給されるとき、不要な気体を分離濃縮槽12から排出する必要がある。これに対応して、分離濃縮槽12は気体層の一部を分離濃縮槽12から排出する排気ライン12bを備え、排気ライン12bは分離濃縮槽12から排出される気体層の一部に含まれる水分を捕捉する水封装置12cを有する。
【0019】
図2は、
図1の排水処理装置10を用いた排水処理の手順を示すフローチャートである。
【0020】
図2において、まず、排水貯留槽11に貯留されている排水が分離濃縮槽12に供給され(貯留ステップ)、FO膜ユニット18は分離濃縮槽12に貯留される排水に浸漬される。次いで、駆動溶液DSがFO膜ユニット18の内部空間に供給されるとともに、FO膜ユニット18の内部空間及びDS貯留槽13を循環する。これにより、FO膜の一方側に排水が存在するとともに、FO膜の他方側に駆動溶液DSが存在し、FO膜は排水及び駆動溶液DSの間に配設されている(S21、濃縮ステップ)。
【0021】
S21において、駆動溶液DSの溶質濃度は排水の溶質濃度よりも高く設定し、これにより、排水に含まれる水分のみがFO膜を透過して駆動溶液DSに移動し、排水に含まれる夾雑物及び溶解性物質はFO膜に捕捉されるので、排水は濃縮される。また、分離濃縮槽12に貯留される排水の水面上部に形成されている気体層を構成する酸素及び/又は窒素は、ブロワBによって気体循環部12aを経由して分離濃縮槽12の底部及びFO膜ユニット18の間に供給され、循環気流を形成する(S22)。
【0022】
分離濃縮槽12の底部及びFO膜ユニット18の間に供給された酸素又は窒素は、分離濃縮槽12における排水を撹拌するとともに、FO膜ユニット18を曝気してFO膜ユニット18を洗浄する。このとき、排水を十分に撹拌し且つFO膜ユニット18を十分に洗浄するために、FO膜ユニット18を曝気する酸素又は窒素は大量の気泡であるのがよい。
【0023】
ところで、分離濃縮槽12の排水における酸素を必要とする好気性微生物が排水を濃縮している間も排水に含まれる有機物を分解する。また、分離濃縮槽12の排水における有機物を分解する有機物分解速度は、酸素を必要としない嫌気性微生物よりも好気性微生物の方が速い傾向がある。分離濃縮槽12において濃縮された濃縮排水は、メタン発酵槽(不図示)に移送されメタン発酵に用いられるため、濃縮排水の溶解性有機物の濃度は高いほどよく、分離濃縮槽12の排水を濃縮している間に排水に含まれる有機物が分解されないのがよい。FO膜ユニット18を曝気する酸素の気泡の外径が100μm未満の場合、排水に酸素が溶解しやすく、排水の溶存酸素濃度が上昇して好気性微生物が活性化するので、気泡の外径は酸素が排水に溶解しにくいサイズ、例えば、100μm以上であるのがよい。
【0024】
一方、好気性微生物が活性化しにくい条件下において分離濃縮槽12の排水が濃縮されると、嫌気性微生物が増殖して活性化する場合がある。嫌気性微生物には、有機物を分解して排水に含まれる硫酸塩を硫化物イオンに還元し、硫化水素を発生させる硫酸塩還元菌や有機物を分解してメタンを発生(メタン発酵)させるメタン菌があり、嫌気性微生物が増殖して活性化すると、分離濃縮槽12の内部において硫化水素やメタンが生成される。分離濃縮槽12の内部において硫化水素が生成されると、分離濃縮槽12が腐食するリスクが増大し、分離濃縮槽12の内部においてメタンが生成されると、分離濃縮槽12において濃縮された濃縮排水中の有機物が低減し、メタン発酵槽において濃縮排水を用いたメタン発酵処理を行う際のエネルギー回収効率が低下する。
【0025】
分離濃縮槽12における排水の酸化還元電位が-200mV程度の場合、好気性微生物が有機物を分解しにくく、また、メタン発酵が進みにくいので、分離濃縮槽12における排水の酸化還元電位は-350mV~-50mVで制御されるのがよく、-320mV~-80mVで制御されるのがなおよく、-300mV~-100mVで制御されるのがさらによい。また、分離濃縮槽12における排水が弱酸性の場合、メタン発酵が進みにくいので、分離濃縮槽12における排水のpHは、例えば、5.0~7.0で制御されるのがよく、5.5~7.0で制御されるのがなおよく、6.0~6.5で制御されるのがさらによい。
【0026】
図2に戻り、続くS23において、ORP制御装置16はORP計14が測定した排水の酸化還元電位が-350mV~-50mVの範囲内であるか否かを判別する。S23の判別の結果、酸化還元電位が-350mV~-50mVの範囲内である場合、S24をスキップしてS25に進む。S23の判別の結果、酸化還元電位が-350mV~-50mVの範囲内でない場合、ORP制御装置16は酸素/窒素注入部16aを制御して分離濃縮槽12に酸素及び/又は窒素を供給する(S24、供給ステップ)。具体的に、酸化還元電位が-50mVよりも高い場合、ORP制御装置16は酸素/窒素注入部16aを制御して分離濃縮槽12に窒素を供給する。一方、酸化還元電位が-350mVよりも低い場合、ORP制御装置16は酸素/窒素注入部16aを制御して分離濃縮槽12に酸素及び窒素、又は、酸素のみを供給する。
【0027】
次いで、pH制御装置17はpH計15が測定した排水のpHが、メタン発酵が進みにくい5.0~7.0の範囲内であるか否かを判別する(S25)。pHが5.0~7.0の範囲内である場合、S26をスキップして本処理を終了する。pHが5.0~7.0の範囲内でない場合、pH制御装置17は酸/アルカリ注入部17aを制御して分離濃縮槽12にpH調整剤としての酸又はアルカリを供給する(S26)。具体的に、pHが7.0よりも高い場合、pH制御装置17は酸/アルカリ注入部17aを制御して分離濃縮槽12に酸、例えば、硫酸又は塩酸を供給し、pHが5.0よりも低い場合、pH制御装置17は酸/アルカリ注入部17aを制御して分離濃縮槽12にアルカリ、例えば、水酸化ナトリウムを供給する。その後、本処理を終了する。
図2の排水処理が実行されて分離濃縮槽12の排水が20~50倍濃縮されたときの濃縮排水は、分離濃縮槽12からメタン発酵槽(不図示)に移送されメタン発酵に用いられる。
【0028】
図2の排水処理(排水処理方法)によれば、FO膜ユニット18のFO膜の一方側に夾雑物、溶解性有機物及び水分を含む排水が存在し、FO膜の他方側に駆動溶液DSが存在する(S21)。したがって、FO膜において、排水から受ける圧力は駆動溶液DSから受ける圧力よりも高く、FO膜は排水中の夾雑物及び溶解性有機物を捕捉し且つ水分を透過して分離濃縮槽12の排水を濃縮する。その際、分離濃縮槽12における排水に含まれる溶解性有機物が分解されにくくするために、ORP制御装置16は酸素/窒素注入部16aを制御して分離濃縮槽12に酸素及び/又は窒素を供給する。これにより、排水の酸化還元電位が-350mV~-50mVで制御される(S23~S24)。これにより、好気性微生物及び嫌気性微生物が有機物を分解しないので、分離濃縮槽12の排水に含まれる有機物を無駄なくメタン発酵槽におけるメタン発酵に用いることができ、もって、メタン発酵処理によってエネルギーを効率的に回収することができる。
【0029】
また、分離濃縮槽12における排水のpHはメタン発酵が進みにくいとされる5.0~7.0で制御されるので、嫌気性微生物が溶解性有機物を分解せず、排水に含まれる溶解性有機物を無駄なくメタン発酵槽におけるメタン発酵に用いることができ、もって、メタン発酵処理によってエネルギーを効率的に回収することができる。さらに、分離濃縮槽12は密閉されており、分離濃縮槽12に貯留される排水の水面上部に形成されている気体層を構成する酸素又は窒素によって循環気流が形成されるので(S22)、単にFO膜ユニット18を曝気するよりも消費電力を抑制しながらFO膜ユニット18の洗浄を実行することができる。
【0030】
本実施の形態において、循環気流がFO膜を洗浄することを説明したが、FO膜を洗浄するために、DS貯留槽13の駆動溶液DSを一時的に水に代えてもよい。これにより、排水及び駆動溶液DSの間に配置されたFO膜において、排水側から駆動溶液DS側に生じる浸透圧は発生しない。したがって、FO膜表面の汚れが浸透圧の影響によってFO膜に抑圧されないので、循環気流によるFO膜の洗浄効果を増大させることができる。また、FO膜における膜透過フラックスが予め設定された基準値以下になったとき、DS貯留槽13の駆動溶液DSを洗浄薬品、例えば、酸、アルカリ又は次亜塩素酸ナトリウム水溶液に代えてもよく、DS貯留槽13の駆動溶液DSを水に代え且つDS貯留槽及びFO膜ユニット18を循環する水に洗浄薬品を供給してもよい。これにより、FO膜を分離濃縮槽12から搬出入する手間を無くしてFO膜の薬品による洗浄を実行することができる。
【0031】
本実施の形態において、ORP制御装置16は酸素/窒素注入部16aを制御して分離濃縮槽12に酸素及び/又は窒素を供給し、pH制御装置17は酸/アルカリ注入部17aを制御して分離濃縮槽12にpH調整剤としての酸又はアルカリを供給するが、これに基づくプログラムをシステムに追加したコンピュータを用いて自動的にORP制御装置16又はpH制御装置17の制御を実行してもよい。この場合、上述の実施の形態の1以上の機能を実現するプログラムをネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、該システム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読み出して実行する処理でも実現可能であり、また、1以上の機能を実現する回路によっても実現可能である。
【0032】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこれらの実施の形態に何ら限定されるものではない。
【符号の説明】
【0033】
10 排水処理装置
12 分離濃縮槽
12a 気体循環部
13 DS貯留槽
14 ORP計
15 pH計
16 ORP制御装置
16a 酸素/窒素注入部
17 pH制御装置
17a 酸/アルカリ注入部
18 FO膜ユニット