(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121160
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】負極合剤スラリー、負極、及び負極合剤スラリーの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/1395 20100101AFI20240830BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240830BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240830BHJP
H01M 4/134 20100101ALI20240830BHJP
【FI】
H01M4/1395
H01M4/62 Z
H01M4/36 E
H01M4/134
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028110
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐野 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】続木 康平
(72)【発明者】
【氏名】小笹(平本) 菜摘
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA19
5H050BA15
5H050CB02
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB29
5H050DA03
5H050DA09
5H050DA10
5H050DA11
5H050EA01
5H050EA08
5H050EA22
5H050EA23
5H050EA27
5H050EA28
5H050FA16
5H050GA10
5H050GA22
5H050HA01
5H050HA10
(57)【要約】
【課題】ガスの発生を抑制することができる負極合剤スラリーを提供する。
【解決手段】負極合剤スラリーは、Si系活物質を含む負極活物質と、ポリアクリル酸、スチレンブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、及びカーボンナノチューブからなる群より選ばれる1種以上の副材料と、水とを含む。負極合剤スラリーのpHは、4.5以上7.3以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si系活物質を含む負極活物質と、
ポリアクリル酸、スチレンブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、及びカーボンナノチューブからなる群より選ばれる1種以上の副材料と、
水と、を含み、
pHが4.5以上7.3以下である、負極合剤スラリー。
【請求項2】
さらに、緩衝剤を含む、請求項1に記載の負極合剤スラリー。
【請求項3】
前記緩衝剤は、リン酸、酢酸、クエン酸、及びこれらの塩からなる群より選ばれる1種以上である、請求項2に記載の負極合剤スラリー。
【請求項4】
前記負極合剤スラリーのpHは、4.5以上7.0以下である、請求項1に記載の負極合剤スラリー。
【請求項5】
前記Si系活物質は、酸素含有量が1質量%以上8質量%以下であるSiC粒子を含む、請求項1に記載の負極合剤スラリー。
【請求項6】
前記負極活物質は、さらに炭素系活物質を含み、
前記Si系活物質の含有量は、前記負極活物質の総量に対して2質量%以上50質量%以下である、請求項1に記載の負極合剤スラリー。
【請求項7】
負極活物質層を有する負極であって、
前記負極活物質層は、
Si系活物質を含む負極活物質と、
ポリアクリル酸、スチレンブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、及びカーボンナノチューブからなる群より選ばれる1種以上の副材料と、
リン酸、酢酸、クエン酸、及びこれらの塩からなる群より選ばれる1種以上の緩衝剤と、を含む、負極。
【請求項8】
前記Si系活物質は、酸素含有量が1質量%以上8質量%以下であるSiC粒子を含む、請求項7に記載の負極。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか1項に記載の負極合剤スラリーを用いて得られる負極活物質層を有する、負極。
【請求項10】
Si系活物質を含む負極活物質と、
ポリアクリル酸、スチレンブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、及びカーボンナノチューブからなる群より選ばれる1種以上の副材料と、
pHが4.5以上7.0以下である緩衝溶液と、
水と、を混合する、負極合剤スラリーの製造方法。
【請求項11】
前記負極合剤スラリーのpHは、4.5以上7.3以下である、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記緩衝溶液は、緩衝剤の水溶液であり、
前記緩衝剤は、リン酸、酢酸、クエン酸、及びこれらの塩からなる群より選ばれる1種以上である、請求項10又は11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記負極活物質、前記副材料、及び前記緩衝溶液を混合して固練りすることにより混練体を得る工程と、
前記混練体を水で希釈する工程と、を含む、請求項10又は11に記載の製造方法。
【請求項14】
前記混練体を得る工程で混合する前記副材料は、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、及びカーボンナノチューブであり、
前記希釈する工程は、前記混練体と、水と、スチレンブタジエンゴムとを混合する工程を含む、請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
負極合剤スラリーを得る工程と、
負極集電体上に前記負極合剤スラリーを塗布する工程と、
塗布した前記負極合剤スラリーを乾燥する工程と、を含み、
前記負極合剤スラリーを得る工程は、
Si系活物質を含む負極活物質と、
ポリアクリル酸、スチレンブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、及びカーボンナノチューブからなる群より選ばれる1種以上の副材料と、
pHが4.5以上7.0以下である緩衝溶液と、
水と、を混合する、負極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負極合剤スラリー、負極、及び負極合剤スラリーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は負極を有し、負極は負極活物質層を有する。負極活物質層は、負極活物質を含む負極合剤スラリーを用いて形成される。負極活物質として、炭素系活物質のほか、Si系活物質を用いることが知られている。
【0003】
特許文献1には、Liをドープしたケイ素材を含む水系負極スラリーの安定性を高め、高温保管時のガス発生を抑制した水系負極スラリーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、ケイ素材にドープされたLiが水と接触してリチウムイオンが溶出するときに水素ガスが発生すると考えられる。本発明者らは、負極活物質にLiを含んでいない負極合剤スラリーからもガスが発生することを見出した。負極合剤スラリーから発生するガスは、負極合剤スラリーの塗膜に点状の欠陥を生じさせ、負極活物質層にも点状の欠陥を生じさせる原因となり得る。そのため、負極合剤スラリーからのガスの発生をさらに抑制することが求められる。
【0006】
本開示は、ガスの発生を抑制することができる負極合剤スラリー、それを用いて得られる負極、及び負極合剤スラリーの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
〔1〕 Si系活物質を含む負極活物質と、
ポリアクリル酸、スチレンブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、及びカーボンナノチューブからなる群より選ばれる1種以上の副材料と、
水と、を含み、
pHが4.5以上7.3以下である、負極合剤スラリー。
〔2〕 さらに、緩衝剤を含む、〔1〕に記載の負極合剤スラリー。
〔3〕 前記緩衝剤は、リン酸、酢酸、クエン酸、及びこれらの塩からなる群より選ばれる1種以上である、〔2〕に記載の負極合剤スラリー。
〔4〕 前記負極合剤スラリーのpHは、4.5以上7.0以下である、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の負極合剤スラリー。
〔5〕 前記Si系活物質は、酸素含有量が1質量%以上8質量%以下であるSiC粒子を含む、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の負極合剤スラリー。
〔6〕 前記負極活物質は、さらに炭素系活物質を含み、
前記Si系活物質の含有量は、前記負極活物質の総量に対して2質量%以上50質量%以下である、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の負極合剤スラリー。
〔7〕 負極活物質層を有する負極であって、
前記負極活物質層は、
Si系活物質を含む負極活物質と、
ポリアクリル酸、スチレンブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、及びカーボンナノチューブからなる群より選ばれる1種以上の副材料と、
リン酸、酢酸、クエン酸、及びこれらの塩からなる群より選ばれる1種以上の緩衝剤と、を含む、負極。
〔8〕 前記Si系活物質は、酸素含有量が1質量%以上8質量%以下であるSiC粒子を含む、〔7〕に記載の負極。
〔9〕 〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の負極合剤スラリーを用いて得られる負極活物質層を有する、負極。
〔10〕 Si系活物質を含む負極活物質と、
ポリアクリル酸、スチレンブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、及びカーボンナノチューブからなる群より選ばれる1種以上の副材料と、
pHが4.5以上7.0以下である緩衝溶液と、
水と、を混合する、負極合剤スラリーの製造方法。
〔11〕 前記負極合剤スラリーのpHは、4.5以上7.3以下である、〔10〕に記載の製造方法。
〔12〕 前記緩衝溶液は、緩衝剤の水溶液であり、
前記緩衝剤は、リン酸、酢酸、クエン酸、及びこれらの塩からなる群より選ばれる1種以上である、〔10〕又は〔11〕に記載の製造方法。
〔13〕 前記負極活物質、前記副材料、及び前記緩衝溶液を混合して固練りすることにより混練体を得る工程と、
前記混練体を水で希釈する工程と、を含む、〔10〕~〔12〕のいずれかに記載の製造方法。
〔14〕 前記混練体を得る工程で混合する前記副材料は、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、及びカーボンナノチューブであり、
前記希釈する工程は、前記混練体と、水と、スチレンブタジエンゴムとを混合する工程を含む、〔13〕に記載の製造方法。
〔15〕 負極合剤スラリーを得る工程と、
負極集電体上に前記負極合剤スラリーを塗布する工程と、
塗布した前記負極合剤スラリーを乾燥する工程と、を含み、
前記負極合剤スラリーを得る工程は、
Si系活物質を含む負極活物質と、
ポリアクリル酸、スチレンブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、及びカーボンナノチューブからなる群より選ばれる1種以上の副材料と、
pHが4.5以上7.0以下である緩衝溶液と、
水と、を混合する、負極の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本開示の負極合剤スラリーは、ガスの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態の負極合剤スラリーの製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(負極合剤スラリー)
本実施形態の負極合剤スラリー(以下、「本スラリー」ともいう。)は、リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池が備える負極の負極活物質層を形成するために用いられる。本スラリーは、負極活物質と副材料と水とを含み、pHが4.5以上7.3以下である。負極活物質は、Si系活物質を含む。副材料は、ポリアクリル酸(以下、「PAA」ともいう。)、スチレンブタジエンゴム(以下、「SBR」ともいう。)、カルボキシメチルセルロース(以下、「CMC」ともいう。)、及びカーボンナノチューブ(以下、「CNT」ともいう。)からなる群より選ばれる1種以上である。本スラリーは、さらに、緩衝剤を含んでいてもよい。
【0011】
本スラリーのpHは、4.5以上7.3以下であり、好ましくは4.5以上7.0以下であり、4.5以上6.9以下であってもよく、より好ましくは4.7以上6.7以下であり、さらに好ましくは4.7以上6.5以下である。本スラリーのpHは、温度25℃における値であり、pHメーターを用いて測定できる。
【0012】
本発明者らは、上記した群より選ばれる1種以上の副材料、及び水を含むスラリーは弱アルカリ性を示し、弱アルカリ性のスラリーにSi系活物質が含まれると、ガスが発生しやすいことを見出した。スラリーから発生するガスは、Si系活物質に含まれるケイ素とアルカリ成分との反応、及び/又は、Si系活物質からケイ酸イオンが溶出するときの電荷補償反応により、発生した水素ガスと推測される。本スラリーはpHが上記した範囲内であるため、本スラリーから発生するガスの量を抑制できる。これにより、本スラリーを用いて形成した負極活物質層に点状の欠陥が生じることを抑制できると考えられる。
【0013】
本スラリーのpHは、例えば本スラリーが含有する成分及びその含有量を調整する、後述するように本スラリーを調製する際に後述する緩衝溶液を添加する、緩衝溶液のpH及び添加量を調整する等によって、調整することができる。緩衝溶液は、緩衝剤が水に溶解した水溶液である。
【0014】
本スラリーは緩衝剤を含むことが好ましい。緩衝剤は緩衝溶液として、スラリーや溶液等の液状物に添加されると、緩衝作用を付与することができる。緩衝剤は、本スラリーを調製する際に添加される緩衝溶液に含まれる水(溶媒)以外の成分であることができる。緩衝剤としては、弱酸の化合物とその共役塩基の化合物とを含む混合物、解離により弱酸及びその共役塩基となる化合物、弱塩基の化合物とその共役酸の化合物とを含む混合物、又は、解離により弱塩基及びその共役酸となる化合物等が挙げられる。
【0015】
緩衝剤は、本スラリーのpHを上記した範囲に調整することができるものであれば、その種類やその含有量は特に限定されない。緩衝剤としては、例えばリン酸、酢酸、クエン酸、フタル酸、及びこれらの塩(リン酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、及びフタル酸塩)からなる群より選ばれる1種以上であり、好ましくはリン酸、酢酸、クエン酸、及びこれらの塩からなる群より選ばれる1種以上である。これらの塩としては、カリウム及びナトリウム等のアルカリ金属塩、マグネシウム及びカルシウム等のアルカリ土類金属塩、並びにアンモニウム塩等が挙げられる。緩衝剤は、より好ましくはリン酸塩、酢酸及びその塩、並びに、クエン酸及びその塩からなる群より選ばれる1種以上であり、さらに好ましくはリン酸水素ナトリウム及びリン酸二水素ナトリウムの混合物、酢酸及び酢酸ナトリウムの混合物、又は、クエン酸及びクエン酸ナトリウムの混合物である。
【0016】
本スラリー中の緩衝剤の含有量は、本スラリーのpHを上記した範囲にできるように調整すればよく、本スラリー中の副材料の種類及び含有量等に応じて調整すればよい。
【0017】
本スラリーは、Si系活物質を含む負極活物質を含む。負極活物質は、Si系活物質に加えて炭素系活物質を含んでいてもよい。Si系活物質は、Li元素を含んでいないことが好ましい。
【0018】
Si系活物質は、ケイ素単体、SiC(ケイ素及び炭素の複合材料であり、例えば、多孔質炭素粒子内にケイ素のナノ粒子が分散されたもの等)、SiOx等の粒子が挙げられる。Si系活物質は、好ましくはSiC粒子を含み、より好ましくはSiC粒子である。SiC粒子は、ケイ素又はケイ素の酸化膜が表面に露出している粒子であることが好ましい。このようなSiC粒子は、アルカリ成分と反応してガスを発生しやすいが、本スラリーは上記したpHの範囲内にあるため、SiC粒子を含んでいてもガスの発生量を抑制することができる。SiC粒子は、酸素含有量が1質量%以上10質量%以下であるSiC粒子を含んでいてもよい。SiC粒子の酸素含有量は、好ましくは1質量%以上8質量%以下であり、1質量%以上7質量%以下であってもよく、2質量%以上5質量%以下であってもよい。酸素含有量は、酸素分析装置を用い、不活性ガス中の加熱溶融法により抽出した酸素量により決定できる。
【0019】
炭素系活物質としては、黒鉛(グラファイト)、ハードカーボン、ソフトカーボン、及び非晶質コート黒鉛等の炭素(C)等が挙げられる。炭素系活物質は、好ましくは黒鉛粒子である。
【0020】
本スラリー中のSi系活物質の含有量は、負極活物質の総量に対して、好ましくは2質量%以上50質量%以下であり、3質量%以上20質量%以下であってもよく、5質量%以上15質量%以下であってもよい。本スラリー中の炭素系活物質の含有量は、負極活物質の総量に対して、好ましくは0質量%以上98質量%以下であり、80質量%以上97質量%以下であってもよく、85質量%以上95質量%以下であってもよい。
【0021】
本スラリーは、PAA、SBR、CMC、及びCNTからなる群より選ばれる1種以上である副材料を含み、当該群より選ばれる2種又は3種の副材料を含んでいてもよく、好ましくはPAA、SBR、CMC、及びCNTを含む。PAA及びCMCは、好ましくは塩の形態である。この塩としては、リチウム及びナトリウム等のアルカリ金属塩等が挙げられる。CNTは、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)であってもよく、2層カーボンチューブ(DWCNT)等の多層カーボンナノチューブであってもよいが、好ましくはSWCNTである。SWCNTは、炭素六角網面が1層で1本の円筒形状を構成する炭素ナノ構造体である。
【0022】
本スラリーに用いるPAAは、当該PAAを2質量%水溶液としたときに、温度25℃におけるpHが、7.0以上10.0以下となるものであってもよく、8.0以上9.0以下となるものであってもよい。
【0023】
本スラリーに用いるSBRは、SBR水分散液の温度25℃におけるpHが、6.0以上9.0以下となるものであってもよく、7.0以上8.0以下となるものであってもよい。
【0024】
本スラリーに用いるCMCは、当該CMCを1質量%水溶液としたときに、温度25℃におけるpHが、6.2以上8.0以下となるものであってもよく、6.5以上7.5以下となるものであってもよく、6.8以上7.3以下となるものであってもよい。
【0025】
本スラリーに用いるCNTは、CNT水分散液の温度25℃におけるpHが、7.0以上10.0以下となるものであってもよく、8.0以上9.0以下となるものであってもよい。上記の各pHは、pHメーターを用いて測定することができる。
【0026】
本スラリー中の副材料の含有量は、負極活物質の総量に対して、例えば1.0質量%以上15質量%以下であり、1.5質量%以上10質量%以下であってもよく、2.0質量%以上8質量%以下であってもよい。本スラリーが2種以上の副材料を含む場合、副材料の含有量は、本スラリーに含まれる副材料の総量をいう。本スラリー中のPAA、SBR、又はCMCの含有量は、負極活物質の総量に対して、それぞれ独立して、0.1質量%以上5.0質量%以下であってもよく、0.3質量%以上3.0質量%以下であってもよく、0.5質量%以上2.0質量%以下であってもよい。本スラリー中のCNTの含有量は、負極活物質の総量に対して、0.01質量%以上3.0質量%以下であってもよく、0.02質量%以上2.0質量%以下であってもよく、0.03質量%以上1.0質量%以下であってもよい。
【0027】
本スラリーは、さらに、例えばポリエチレンオキシド(PEO)、ポリアクリロニトリル(PAN)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、メチルセルロース(MC)、カーボンブラック、コークス、活性炭、フラーレン、グラフェン等を含んでいてもよい。
【0028】
(負極合剤スラリーの製造方法)
図1は、実施形態の負極合剤スラリーの製造方法を示すフローチャートである。負極合剤スラリーの製造方法(以下、「本方法」ともいう。)は、
Si系活物質を含む負極活物質と、
ポリアクリル酸、スチレンブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、及びカーボンナノチューブからなる群より選ばれる1種以上の副材料と、
pHが4.5以上7.0以下である緩衝溶液と、
水と、を混合する。
【0029】
本方法によれば、負極合剤スラリーから発生するガスの量を抑制できる。本方法は本スラリーの製造方法であってもよい。この場合、本方法で製造される負極合剤スラリーのpHは、本スラリーの上記したpHの範囲とすることができる。これにより、負極合剤スラリーから発生するガスの量をより一層抑制できる。
【0030】
本方法で用いるSi系活物質、負極活物質、及び副材料については、上記したものが挙げられる。負極合剤スラリーに含まれるSi系活物質及び副材料の含有量は、例えば上記した本スラリーで説明した含有量の範囲とすることができる。
【0031】
緩衝溶液は、水に緩衝剤を溶解した水溶液である。緩衝剤としては上記したものが挙げられる。緩衝剤は、好ましくはリン酸、酢酸、クエン酸、及びこれらの塩からなる群より選ばれる1種以上であり、より好ましくはリン酸塩、酢酸及びその塩、並びに、クエン酸及びその塩からなる群より選ばれる1種以上であり、さらに好ましくはリン酸水素ナトリウム及びリン酸二水素ナトリウムの混合物、酢酸及び酢酸ナトリウムの混合物、又は、クエン酸及びクエン酸ナトリウムの混合物である。
【0032】
緩衝溶液のpHは、4.5以上7.0以下であり、好ましくは4.7以上6.9以下であり、4.7以上6.5以下であってもよい。緩衝溶液のpHは温度25℃における値であり、pHメーターを用いて測定できる。
【0033】
本方法は、
図1に示すように、好ましくは、負極活物質、副材料、及び緩衝溶液を混合して固練りすることにより混練体を得る工程(以下、「工程(S1)」ともいう。)と、混練体を水で希釈する工程(以下、「工程(S2)」ともいう。)と、を含む。
【0034】
本方法の工程(S1)では、負極活物質と副材料と緩衝溶液とを混合し、必要に応じて水を添加し、これらを固練りすることにより混練体を得る。工程(S1)で混合する副材料は、好ましくはPAA、CMC、及びCNTからなる群より選ばれる1種以上であり、当該群より選ばれる2種又は3種であってもよく、より好ましくはPAA、CMC、及びCNTである。
【0035】
工程(S1)で固練りして得られた混練体は、スラリー状態となる前の状態、例えばファニキュラー状態になっていると考えられる。スラリー状態とは、連続相である液体相中で、粉体相が不連続相を形成している(分散している)状態をいう。ファニキュラー状態とは、液体相は連続相であり、気体相(空気)が存在し、粉体相は、粉体どうしが接触している連続相である状態をいう。工程(S1)で行う固練りは、スラリー状態となる前の状態(例えばファニキュラー状態)の混練体が得られるように、負極活物質、第1副材料、緩衝溶液、及び必要に応じて水を混合して混練することをいう。
【0036】
工程(S1)は、負極活物質と、副材料のうちの粉体の状態で提供される材料とを混合して混合粉体を得る工程(S1-1)と、
副材料のうちの水等の液体を含み液状の状態で提供される副材料、緩衝溶液、及び、必要に応じて水を、混合粉体に添加して固練りを行う工程(S1-2)と、を含んでいてもよい。粉体の状態で提供される副材料としては、例えばPAA及びCMC等が挙げられる。液状の状態で提供される副材料としては、例えばPAA水溶液、CNT水分散液及びSBR水分散液等が挙げられる。工程(S1)、(S1-1)、及び(S1-2)は、プラネタリーミキサー等の混合機を用いて行うことができる。
【0037】
工程(S2)は工程(S1)で得た混練体を水で希釈する工程である。工程(S2)では、混練体に、本方法で製造しようとする負極合剤スラリーの粘度となるように水を加えて混練する。必要に応じて、さらに第1副材料のうちの一部を加えて混練してもよい。
【0038】
工程(S2)は、工程(S1)で得た混練体と、水と、必要に応じて副材料とを混合する工程を含むことができる。工程(S2)は、混練体に水を加えて希釈する工程(S2-1)と、工程(S2-1)で希釈した混練体に、副材料を添加して混練する工程(S2-2)と、を含んでいてもよい。工程(S2-1)で添加する水の量は、例えば本方法で得ようとする負極合剤スラリーの粘度を実現できるように調整する。
【0039】
工程(S2-2)で添加する副材料は、好ましくは工程(S1)で添加していない副材料である。例えば、工程(S1)では、工程(S1)でPAA、CMC、及びCNTからなる群より選ばれる1種又は2種、若しくは、PAA、CMC、及びCNTを添加し、工程(S2-2)でSBRを添加してもよい。工程(S1)ではPAA、CMC、及びCNTを添加し、工程(S2-2)ではSBRを添加することが好ましい。工程(S2)、(S2-1)、及び(S2-2)は、プラネタリーミキサー等の混合機を用いて行うことができる。
【0040】
緩衝溶液は、工程(S1)において添加することが好ましいが、工程(S2)において添加してもよい。工程(S2)で緩衝溶液を添加する場合、負極活物質、副材料、及び、必要に応じて水を混合して固練りすることにより混練体を得た後、緩衝溶液、水、及び、必要に応じて副材料を混練体に添加して、混練体を希釈すればよい。固練りする際に添加する副材料は、例えば上記工程(S1)で添加する副材料が挙げられ、混練体を希釈する際に添加する副材料は、例えば上記工程(S2-2)で添加する副材料が挙げられる。
【0041】
(負極)
本実施形態の負極は、負極活物質層を有する。負極は、負極集電体上に負極活物質層を有することができる。負極集電体は、例えば、銅及び銅合金等の銅材料を用いて構成された金属箔である。負極は、リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池に用いることができる。
【0042】
負極が有する負極活物質層は、
Si系活物質を含む負極活物質と、
ポリアクリル酸、スチレンブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、及びカーボンナノチューブからなる群より選ばれる1種以上の副材料と、
リン酸、酢酸、クエン酸、及びこれらの塩からなる群より選ばれる1種以上の緩衝剤と、を含んでいてもよい。当該緩衝剤を含む負極活物質層は、ガスの発生が抑制された負極合剤スラリーを用いて形成されることにより、点状の欠陥の発生が抑制されていると考えられる。
【0043】
Si系活物質、負極活物質、副材料、及び緩衝剤については、上記したものが挙げられる。副材料は、上記した群より選ばれる2種又は3種を含んでいてもよく、好ましくはPAA、SBR、CMC、及びCNTを含む。負極活物質中のSi系活物質の含有割合、及び、負極活物質の総量に対する副材料の含有量は、例えば上記した本スラリーの範囲とすることができる。
【0044】
負極が有する負極活物質層は、本スラリーから得られる負極活物質層であってもよい。負極は、例えば負極集電体上に本スラリーを塗布し、乾燥及び圧縮等を行うことによって得ることができる。
【0045】
負極の製造方法は、負極合剤スラリーを得る工程と、負極集電体上に負極合剤スラリーを塗布する工程と、塗布した負極合剤スラリーを乾燥する工程と、を含むことができる。負極合剤スラリーを得る工程は、Si系活物質を含む負極活物質と、ポリアクリル酸、スチレンブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、及びカーボンナノチューブからなる群より選ばれる1種以上の副材料と、pHが4.5以上7.0以下である緩衝溶液と、水と、を混合する工程であってもよい。緩衝溶液のpHは温度25℃における値であり、pHメーターを用いて測定できる。
【0046】
負極の製造方法で用いるSi系活物質、負極活物質、副材料、及び緩衝溶液については、上記したものが挙げられる。負極合剤スラリーに含まれるSi系活物質及び副材料の含有量、並びに緩衝溶液のpHは、例えば上記した本スラリーで説明した含有量及びpHの範囲とすることができる。負極合剤スラリーを得る工程は、上記した本方法で説明した方法及び工程が挙げられる。
【0047】
本スラリーはガス発生量が抑制されている。そのため、負極集電体上に本スラリーを塗布して形成される塗膜に点状の欠陥が発生することを抑制でき、点状の欠陥の発生が抑制された負極活物質層を有する負極を得ることができると考えられる。
【0048】
(非水電解質二次電池)
非水電解質二次電池(以下、「二次電池」ともいう。)は、電極体及び電解質を含む。二次電池は、電極体と電解質とを収容する外装体を含んでいてもよく、電極体と外装体との間には、電極ホルダーとしての樹脂シートが配置されていてもよい。
【0049】
電極体は、上記した負極、正極、及びセパレータを含む。電極体では、負極の負極活物質層と正極の正極活物質層とがセパレータを介して対向している。電極体は、巻回型であってもよく、積層型であってもよい。
【0050】
正極は通常、正極集電体と正極活物質層とを有し、正極集電体は例えば、アルミニウム及びアルミニウム合金等のアルミニウム材料を用いて構成された金属箔である。正極活物質層は、二次電池の分野で公知の材料を用いることができる。
【0051】
セパレータ及び電解質は、二次電池の分野で公知の材料を用いることができる。
【実施例0052】
以下、実施例及び比較例を示して本開示をさらに具体的に説明する。
[負極活物質の準備]
負極活物質として、黒鉛粒子及びSi系活物質としてのSiC粒子を準備した。SiC粒子は、多孔質炭素粒子内にケイ素のナノ粒子が分散されたものであって、Si又はSi酸化膜が表面の少なくとも一部に露出していた。酸素分析装置を用い、不活性ガス中の加熱溶融法により抽出した酸素量から、SiCの酸素含有量を算出したところ、1質量%以上10質量%以下の範囲内であった。
【0053】
[緩衝溶液の準備]
緩衝溶液として、下記の緩衝溶液(1)~(3)を準備した。緩衝溶液のpHはいずれも、温度25℃におけるpHであり、pHメーターを用いて測定した。
【0054】
(緩衝溶液(1)の調製)
0.025mol/Lのリン酸二水素ナトリウム(NaH2PO4)水溶液と、0.025mol/Lのリン酸水素ナトリウム(Na2HPO4)水溶液とを混合して、pH6.9の緩衝溶液(1)を得た。
【0055】
(緩衝溶液(2)の調製)
0.013mol/Lのリン酸二水素ナトリウム(NaH2PO4)水溶液と、0.037mol/Lのリン酸水素ナトリウム(Na2HPO4)水溶液とを混合して、pH6.4の緩衝溶液(2)を得た。
【0056】
(緩衝溶液(3)の調製)
0.1mol/Lの酢酸(CH3COOH)水溶液と、0.1mol/Lの酢酸ナトリウム(CH3COONa)水溶液とを混合して、pH4.7の緩衝溶液(3)を得た。
【0057】
〔比較例1〕
上記で準備した負極活物質、粉体のCMC、及び粉体のPAAを秤量し、プラネタリミキサーで混合して混合粉体を得た。混合粉体に、SWCNT水分散液、及び水を秤量して添加し、プラネタリーミキサーで固練りを行って混練体を得た(固練り工程)。最終的に得られる負極合剤スラリーの粘度となるように、混練体に水を添加して希釈し、SBR水分散液を秤量して添加し、プラネタリーミキサーで混練することにより(希釈工程)、負極合剤スラリーを得た。負極合剤スラリーの組成は、黒鉛粒子/SiC粒子/PAA/CMC/SBR/SWCNT/水/=90/10/1/1/1/0.05/106(質量比)であった。
【0058】
上記CMC及び上記PAAを水に溶解した水溶液、並びに、上記SWCNT水分散液及び上記SBR水分散液について、pHメーターを用いて温度25℃におけるpHを測定した。1質量%のCMC水溶液のpHは7.0であり、2質量%のPAA水溶液のpHは8.4であった。SWCNT水分散液のpHは9.0であり、SBR水分散液のpHは7.8であった。
【0059】
〔実施例1~4〕
比較例1の固練り工程において、混合粉体に、SWCNT水分散液及び水に加えて、表1に示す緩衝溶液を表1に示す質量部数で添加して固練りを行って混練体を得たこと以外は、比較例1と同様にして負極合剤スラリーを得た。
【0060】
〔実施例5〕
比較例1の希釈工程において、混練体に表1に示す緩衝溶液を3質量部、及び水を添加して希釈し、SBR水分散液を添加し、プラネタリーミキサーで混練したこと以外は、比較例1と同様にして負極合剤スラリーを得た。
【0061】
[負極合剤スラリーのpHの測定]
温度25℃において、pHメーターを用いて負極合剤スラリーのpHを測定した。結果を表1に示す。
【0062】
[ガス発生量の測定]
負極合剤スラリー1gをラミネート袋に投入した。ラミネート袋内を真空状態とした後、ラミネート袋をシールし、これを測定サンプルとした。浮力法により、温度22±1℃の室内で測定サンプルの体積V1を測定した。測定サンプルを、温度45℃の恒温槽内で2日間放置した。恒温槽から取り出した測定サンプルを温度22±1℃の室内に1時間放置した後、浮力法により測定サンプルの体積V2を測定した。体積V2から体積V1を差し引いた値を、負極合剤スラリーから発生したガスの発生量[cc/g]とした。結果を表1に示す。
【0063】