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  • 特開-計時器構成要素の製造方法 図1
  • 特開-計時器構成要素の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024012117
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】計時器構成要素の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G04B 19/06 20060101AFI20240118BHJP
   G04B 37/22 20060101ALI20240118BHJP
   A44C 27/00 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
G04B19/06 A
G04B37/22 B
A44C27/00
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023104838
(22)【出願日】2023-06-27
(31)【優先権主張番号】22184754.4
(32)【優先日】2022-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】506425538
【氏名又は名称】ザ・スウォッチ・グループ・リサーチ・アンド・ディベロップメント・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】ロイク・オベルソン
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンドル・ネトゥシル
(72)【発明者】
【氏名】ステファーヌ・ローペル
(72)【発明者】
【氏名】グレゴリー・キスリング
(72)【発明者】
【氏名】ステュース・ブルバン
(72)【発明者】
【氏名】ピエール・ソーレ
【テーマコード(参考)】
3B114
【Fターム(参考)】
3B114AA02
3B114AA03
3B114AA05
3B114JA00
(57)【要約】      (修正有)
【課題】装飾要素が文字盤の表面に転写されるのを防止する時計文字盤を製造する方法を提供する。
【解決手段】計時器構成要素の製造方法は、計時器構成要素1を用意する工程と、計時器構成要素1を破壊して複数の断片10にする工程と、断片10を支持体2)の上に載せ、組み立て直す所望のパターンを創作し、パターンは、計時器構成要素1の様々な断片10の間に隙間11を有する工程と、支持体2を熱間成形によって適応させた金型内に移し、計時器構成要素の断片10の上にプリフォーム3を置く工程と、全体をプリフォーム3のガラス転移温度よりも高い温度まで加熱し、プリフォームに力を印加して隙間11を埋め、組み立て直した計時器構成要素1’を得る工程と、全体をプリフォーム3のガラス転移温度未満で冷却して組み立て直した計時器構成要素1’を形成する工程と、組み立て直した計時器構成要素1’を回収し、必要な寸法に機械加工する工程とを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
計時器構成要素の製造方法であって、
-計時器構成要素(1)を用意する工程と、
-前記計時器構成要素(1)を破壊して複数の断片(10)にするか、すでに壊れている計時器構成要素の断片を使用する工程と、
-前記断片(10)を支持体(2)の上に載せ、組み立て直す所望のパターンを創作し、前記パターンは、前記計時器構成要素(1)の様々な断片(10)の間に隙間(11)を有する工程と、
-前記支持体(2)を熱間成形によって適応した金型内に移し、前記計時器構成要素の前記断片(10)の上にプリフォーム(3)を置く工程と、
-全体を前記プリフォーム(3)のガラス転移温度よりも高い温度まで加熱し、前記プリフォームに力を印加して前記隙間(11)を埋め、組み立て直した計時器構成要素(1’)を得る工程と、
-全体を前記プリフォーム(3)の前記ガラス転移温度未満で冷却して前記組み立て直した計時器構成要素(1’)を形成する工程と、
-前記組み立て直した計時器構成要素(1’)を回収し、必要な寸法に機械加工する工程と
を含む、製造方法。
【請求項2】
前記プリフォーム(3)は、アモルファス金属または部分的なアモルファス金属で作製されることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記アモルファス金属または部分的なアモルファス金属は、白金合金、パラジウム合金またはジルコニウム合金、金または銀の合金であることを特徴とする、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記計時器構成要素(1)を形成する材料は、金属、セラミック、ガラス、サファイア、ダイヤモンド、マザーオブパール、シリコン、貴石および半貴石などのアモルファス金属のTgよりも高い溶融温度を有する材料から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記組み立て直した計時器構成要素(1’)は、以下の仕上げ作業:やすりがけ、ブラッシング、サンレイブラッシング仕上げ、サテン仕上げ、研磨、またはレーザーマット仕上げの少なくとも1つを受けることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記計時器構成要素は、ベゼル、裏蓋、受け板、プレート、振動子、さらには宝飾品から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載の製造方法を実施することで得られる計時器構成要素。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計時器構成要素の製造方法に関する。さらに詳細には、本発明は、時計または宝石の分野で使用される計時器構成要素(例えば文字盤)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
時計文字盤などの機械部品の表面にレリーフを創作して装飾する多くの方法が先行技術で知られている。これらの公知の方法のいくつかは、装飾される機械部品とは別に装飾要素を製造し、その後これらの装飾要素を目的の機械部品に固定することからなる。
【0003】
文字盤などの機械部品を装飾する別の方法が、The Swatch Group Research and Development Ltdの名称の欧州特許出願第2370865 A1号で知られている。この装飾方法は、
-装飾される機械部品を用意することと、
-プレート型のマスクであって、マスクの厚みが少なくとも装飾要素の所望の厚みと等しく、マスクに開口が機械加工され、開口の輪郭が求める装飾要素の形状と一致する、マスクを作製することと、
-機械部品の装飾を施す面にマスクを置き、マスクの開口が、装飾要素を受け入れることを意図した機械部品の位置と一致するようにすることと、
-マスクの上記少なくとも1つの開口を、装飾する場所に当接させて置いて少なくとも1つの金型を形成することと、
-少なくともガラス転移温度Tgよりも高い温度にした金属材料を上記少なくとも1つの金型に射出充填し、続いて冷却してこの金属をアモルファス構造にして要素を形成することと、
-マスクを外して、装飾した機械部品の表面の装飾要素を曝露させることと
からなる。
【0004】
この装飾方法の1つの利点は、実現が比較的簡易なことである。実際、多くの装飾方法の場合、装飾要素は、装飾される機械部品とは別に作製され、その後でしかこの機械部品に固定されず、マスクを使用する場合は、装飾要素が作製され、その方法の同じ工程で、装飾される機械部品に直接固定され、それによって時間を節約することが可能になる。
【0005】
しかしながら、装飾される機械部品の表面に置いたマスクを用いる装飾方法の1つの欠点は、マスクは、装飾される表面と密接に接触していないリスクを排除できないという点、そして、様々な金型に充填するときに、充填材料が機械部品の表面上に少し漏れ、そのような機械部品の一部を廃棄する必要がある点に見ることができる。これは、文字盤は高価な機械部品であるため、特に計時器の文字盤を装飾したい場合に問題となる。
【0006】
また、このような装飾方法の別の欠点は、文字盤を装飾するための複雑な立体形状を形成するのが難しく、一般に極めて費用のかかる手作業を必要とすることである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】欧州特許出願第2370865 A1号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、特に装飾要素が文字盤の表面に転写されるのを防止する時計文字盤を製造する方法を提供することによって、上記の問題およびそれ以外の問題も解決することである。本発明の別の目的は、装飾要素が文字盤の本体に直接組み込まれ、一体構造の要素を形成する文字盤を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そのために、本発明は、計時器構成要素の製造方法であって、
-計時器構成要素を用意する工程と、
-計時器構成要素を破壊して複数の断片にする工程と、
-断片を支持体の上に載せ、組み立て直す所望のパターンを創作し、パターンは、様々な断片の間に隙間を有する工程と、
-支持体を熱間成形によって適応させた金型内に移し、計時器構成要素の断片の上にプリフォームを置く工程と、
-プリフォームのガラス転移温度よりも高い温度まで加熱し、プリフォームに力を印加して隙間を埋め、組み立て直した計時器構成要素を得る工程と、
-全体をプリフォームのガラス転移温度未満で冷却して組み立て直した計時器構成要素を形成する工程と、
-組み立て直した計時器構成要素を回収し、必要な寸法に機械加工する工程と
を含む計時器構成要素の製造方法に関する。
【0010】
特別な実施形態によれば、本発明による計時器構成要素の製造方法は、
-充填材料は、アモルファス金属または部分的にアモルファス金属であることと、
-アモルファス金属または部分的なアモルファス金属は、白金合金、パラジウム合金またはジルコニウム合金であることと、
-計時器構成要素の材料は、アモルファス金属(金属、セラミック、ガラス、サファイア、ダイヤモンド、マザーオブパール、シリコン、貴石および半貴石など)のTgよりも高い溶融温度を有する材料から選択されることと、
-組み立て直した計時器構成要素は、以下の仕上げ作業:やすりがけ、ブラッシング、サテン仕上げ、研磨、サンレイブラッシング仕上げ、またはレーザーマット仕上げの少なくとも1つの処理を受けることと、
-計時器構成要素は、ベゼル、裏蓋、受け板、プレート、振動子、さらには宝飾品から選択されること
を特徴とする。
【0011】
本発明は、本発明による製造方法を実施することで得られる計時器構成要素にも関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の他の特徴および利点は、本発明による方法の1つの実施形態に関する以下の詳細な説明を読むことでさらに明らかになるであろう。この例は、添付の図面に関連付けて純粋に例示的かつ非限定的な目的のためだけに挙げるものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本製造方法の様々な工程を示す図である。
図2】本発明による製造方法を実施することで得られる時計文字盤の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明によれば、まず、工程a)で計時器構成要素を用意する。図示した例では、この計時器構成要素は、時計文字盤1である。もちろん、この例は、純粋に例示的かつ非限定的な目的で挙げるのであって、製造される計時器構成要素は、ベゼル、裏蓋、受け板、プレート、振動子など、または宝飾品も含めて、あらゆる種類のものであり得る。この計時器構成要素が受ける唯一の制限は、機械的特性が本発明の方法に関わる温度範囲で変化しない材料で作られなければならないということである。換言すれば、計時器構成要素は、本発明による装飾作業中に、変形したり軟化したり、さらには溶けたりしてはならない。
【0015】
時計文字盤1を用意したら、この文字盤を次の工程b)で破壊して複数の断片10にする。この作業は、完全にランダムに実行して後に唯一のパターンを得てもよいし、あるいは制御した方法で実施して所定のパターンを得てもよい。
【0016】
本発明の1つの変形例によれば、予め破壊した計時器構成要素の代わりに、廃棄物またはくず等の既に壊れている断片を使用してもよい。
【0017】
文字盤1に使用する材料は、鋼、真鍮、アルミニウムまたはチタンなどの金属材料であってよいが、いわゆる脆性材料であってもよい。脆性材料とは、例えば石英、ルビー、サファイア、ガラス、シリコン、ダイヤモンド、グラファイト、カーボン、または窒化ケイ素および炭化ケイ素などのセラミック、またはサーメット型複合材など、活用可能な塑性変形を持たない材料を意味する。よって、このような材料で作られた部品は非常に脆く、簡単に壊れてしまう可能性があることが理解される。
【0018】
計時器構成要素1を形成している材料は、この方法で後に使用されるアモルファス金属のTgよりも溶融温度が高い材料から選択される。
【0019】
工程c)では、文字盤1の断片10を、受け木または基台などの支持体2の上に移動させて、組み立て直す所望のパターンを創作する必要があり、パターンは、様々な断片どうしの間に隙間11を有する。文字盤の断片10は、少なくとも1つの隙間11が現れるように互いに対して寸法を設定され、配置される。隙間11は、中に別の材料を挿入できるように利用され、その材料は、文字盤1の断片どうしを結合して装飾する要素として作用するために使用される。
【0020】
断片10を支持体2に載せたら、支持体を、熱間成形によって適合された金型内に移し、金属プリフォーム3を文字盤の断片の上に載せる(工程d)。
【0021】
本発明によれば、プリフォーム3に使用され文字盤の断片10どうしの結合要素として作用する材料は、アモルファスであるか、部分的にアモルファスの金属材料である。
【0022】
材料が部分的にアモルファスであることから、材料は、アモルファスの段階で少なくとも部分的に固化することができ、すなわち、溶融温度を超える温度上昇を受けて結晶構造全体を局所的に失わせることが可能になり、この温度上昇に続いて、ガラス転移温度よりも低い温度まで冷却させて少なくとも部分的にアモルファスにすることが可能になることがわかるであろう。よってこの材料は、金属合金であってもよい。
【0023】
本発明の1つの変形例によれば、プリフォーム3は、例えばガラス転移温度Tgと結晶化温度Txとの間でプレスまたは熱間押出を使用することにより、粉末の混合物(例えばすでにアモルファスの金属粉末)を圧縮することによって製造される。
【0024】
次の工程e)で、基台2、文字盤断片10およびプリフォーム3が入った金型を、プリフォーム3のガラス転移温度よりも高い温度まで加熱し、その後、プリフォーム3にピストン4を介して力Fを印加して隙間11を埋め、組み立て直した文字盤1’を得る。この加熱工程は、全体をプリフォームのガラス転移温度Tgと結晶化温度Txとの間の温度まで加熱することからなる。この温度では、アモルファス金属は粘度が著しく低下し、この粘度の低下は温度に左右される。
【0025】
プリフォーム3が所望の粘度に達すると、プリフォームは、図2からわかるように、文字盤1の断片10どうしの隙間11を埋めるようにプレスされる。明らかに、プリフォーム3にかかる圧力は、使用する金属または合金、およびそのガラス転移温度Tgによって異なる。
【0026】
プリフォーム3が隙間11に広がるのが完了し、プリフォーム3が隙間11を埋めた状態の最終的な位置で文字盤の断片10が互いにつながれば、冷却工程を実行する。この冷却工程は、プリフォーム3を硬化させるため、かつ強度が増した唯一の装飾パターンを有する組み立て直した文字盤1’を形成するために実施される。
【0027】
最終工程では、組み立て直した文字盤1’に以下の仕上げ作業の少なくとも1つを施す:やすりがけ、ブラッシング、サテン仕上げ、または研磨。また、組み立て直した文字盤1’を所望の最終寸法に加工するか、裏面を再加工して文字盤の厚みを調整してもよい。
【0028】
言うまでもなく、本発明は、上記に説明した実施形態に限定されるものではなく、当業者は、本発明の範囲から逸脱しないかぎり、添付の特許請求の範囲に記載したように、様々な修正および単純な変形例を構想してよい。
【符号の説明】
【0029】
1 文字盤
1’ 組み立て直した文字盤
2 支持体
3 プリフォーム
4 ピストン
10 断片
11 隙間
F 力
図1
図2
【外国語明細書】