IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社サンリックの特許一覧

特開2024-121172ルテニウム合金発熱材を使用したヒータ
<>
  • 特開-ルテニウム合金発熱材を使用したヒータ 図1
  • 特開-ルテニウム合金発熱材を使用したヒータ 図2
  • 特開-ルテニウム合金発熱材を使用したヒータ 図3
  • 特開-ルテニウム合金発熱材を使用したヒータ 図4
  • 特開-ルテニウム合金発熱材を使用したヒータ 図5
  • 特開-ルテニウム合金発熱材を使用したヒータ 図6
  • 特開-ルテニウム合金発熱材を使用したヒータ 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121172
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】ルテニウム合金発熱材を使用したヒータ
(51)【国際特許分類】
   H05B 3/12 20060101AFI20240830BHJP
   C22C 5/04 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
H05B3/12 A
C22C5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028133
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】394002039
【氏名又は名称】株式会社サンリック
(74)【代理人】
【識別番号】100078776
【弁理士】
【氏名又は名称】安形 雄三
(74)【代理人】
【識別番号】100121887
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 好章
(72)【発明者】
【氏名】松本 康裕
(72)【発明者】
【氏名】勝見 学
【テーマコード(参考)】
3K092
【Fターム(参考)】
3K092QA01
3K092QA03
3K092QA04
3K092QB02
3K092QB24
3K092QB26
3K092QB27
3K092VV31
3K092VV40
(57)【要約】
【課題】高い電気抵抗で温度依存性の小さい、長寿命のルテニウム合金発熱体(発熱材)を使用したヒータを提供する。
【解決手段】ルテニウム並びに1若しくは2つ以上の異種金属元素の合金から成るルテニウム合金発熱材であって、前記ルテニウム合金発熱材は、ルテニウムを最大比率で含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルテニウム並びに1若しくは2つ以上の異種金属元素の合金から成るルテニウム合金発熱材を使用したヒータであって、
前記ルテニウム合金発熱材は、ルテニウムを最大比率で含むことを特徴とするヒータ。
【請求項2】
前記異種金属元素は、タングステンである請求項1に記載のヒータ
【請求項3】
前記ルテニウム合金発熱材は、50~70at%のルテニウムを含む請求項1又は2に記載のヒータ。
【請求項4】
前記ルテニウム合金発熱材は、0.1~30at%のタングステンを含む請求項2に記載のヒータ。
【請求項5】
前記ルテニウム合金発熱材は、更に0.1~30at%のモリブデンを含む請求項4に記載のヒータ。
【請求項6】
前記ルテニウム合金発熱材の形状が線状である請求項1に記載のヒータ。
【請求項7】
前記ルテニウム合金発熱材の形状が最小半径1mmであることを特徴とする請求項1に記載のヒータ。
【請求項8】
前記ルテニウム合金発熱材の形状がロッド状である請求項1に記載のヒータ。
【請求項9】
前記ルテニウム合金発熱材の形状が板状である請求項1に記載のヒータ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高抵抗で温度依存性の小さい、長寿命のルテニウム合金発熱材(発熱体)に関する。また本発明は、高抵抗で温度依存性の小さい、長寿命のルテニウム合金発熱体(発熱材)を使用したヒータに関する。
【背景技術】
【0002】
遷移金属元素或いは高融点金属元素並びにそれらの合金については、近年では、例えば有機や無機のEL(エレクトロルミネセンス)の蒸着セルに使用される。そのような蒸着セルの例として、例えば特開2005-32464号公報(特許文献1)に記載されている。特許文献1に記載の蒸着セルは、容器と加熱手段から成り、容器としては、チタン(Ti)、アルミナ(Al)、ベリリア(BeO)等の高融点酸化物又はタンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、SUS(ステンレス鋼)、チタン(Ti)等の高融点金属、若しくはその酸化物、窒化物、合金等で形成された円筒状のものを使用することができ、加熱手段としては、タンタル、モリブデン、タングステン等の高融点金属のフィラメントや加熱用コイルを外周に直接又は間接的に巻き付けて通電する高周波加熱法や、抵抗加熱手段、或いはレーザ加熱法、電子ビーム加熱法等を採用することも可能である。また、例えば有機ELを作製の際、薄膜の成膜においては主に真空蒸着法が採られることが多いが、その際の蒸着セルとしては主にタンタルを用いることが一般的である。
【0003】
また近年では、高温における、点火プラグの電極(中心電極、接地電極)や、各種センサ電極、温度測定等で使用される金属線材として、高融点且つ化学的に安定な白金若しくは白金合金が知られている。更に、加工技術の進展により、白金よりも高融点で、尚且つ高い耐酸化性を有するイリジウム若しくはイリジウム合金線材が、先に述べた点火プラグや各種センサ、温度測定等で使用される金属線材として用いられるようになった。そのような電極などに用いられるイリジウム合金線材として、例えば特開2015-90012号公報(特許文献2)に開示されている。特許文献2に記載のイリジウム合金線材は、高温雰囲気下での耐酸化消耗性、機械的特性等の諸特性を改善した線材であり、イリジウムに対して、白金、ルテニウム、ロジウム、ニッケルといった遷移金属元素或いは高融点金属を添加することにより、またマイクロ引き下げ法(μ-PD法)を使用することにより、結晶粒の形状制御を行いつつ、単結晶に準じた結晶粒数の少ない線材を製造するというものである。
【0004】
しかしながら、特許文献2においては、結晶粒の形状制御による場合、貴金属坩堝を用いた無機材料の試料作製に限られており、合金などの金属材料においては貴金属坩堝と金属融液が反応するなどの理由で成功していなかった。ここで、マイクロ引き下げ法における坩堝を改良したイリジウム合金の製造方法が、特開2017-200867号公報(特許文献3)に開示されている。特許文献3に記載の方法は、金属材料の融液との濡れ角が60°以上となるセラミックスから構成した坩堝を用い、坩堝の開口部を備える底部の温度を、金属部材を構成する金属材料の凝固点以下にした状態で引き下げるようにしたので、マイクロ引き下げ法などにより合金などの金属材料による所望の形状の部材が作製できるようになる、というものである。更に、特許文献3に記載の方法を基に、ルテニウム又はルテニウムを最大比率で含むルテニウム合金線材若しくは板材が、例えば国際特許公開第2019/004273号(特許文献4)に開示されている。
【0005】
特許文献4に記載のルテニウム合金線材は、イリジウム、白金、ルテニウム、ロジウムの合金線材の様に耐高温、耐酸化性に優れているだけでなく、展延性(曲げやすいといった性質)に優れた線材である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-32464号公報
【特許文献2】特開2015-90012号公報
【特許文献3】特開2017-200867号公報
【特許文献4】国際特許公開第2019/004273号
【特許文献5】特開2021-18890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、例えば特許文献1に開示されている蒸着セルや、タンタルを用いた蒸着セルの場合、耐高温性には優れるものの、電気抵抗率の低さやそれに伴う通電容量の増加に伴う温度制御性の低下、使用中の蒸散及び表面組織の変性に起因する寿命短縮が懸念材料としてあった。
【0008】
また、ELの蒸着セルの材料において、電気抵抗率や温度制御性を考慮するならば、主に当該セルの加熱手段として、特許文献2や特許文献3に係る発明のイリジウム合金の使用が考えられるが、先述したように耐高温性、耐酸化性には効果を示すが、例えばヒータのような加熱手段として用いるならば、長期的に用いることができるかどうか、展延性等といった加工性が不明であり、またイリジウム自体高価である。そのことを鑑みるならば、特許文献4に記載のルテニウム合金の線材若しくは板材を用いることが考えられる。
【0009】
ルテニウム自体は、イリジウムより安価で尚且つイリジウム同様に高融点であり、耐高温性や耐酸化性を有し、常温常圧でも安定である。しかしながら、金属固体としては脆く、何かしらのヒータとして用いるにしても、例えば、特開2021-18890号公報(特許文献5)に開示されているように、加熱手段としてではなく、表面保護膜としてルテニウムは用いられている。また、ルテニウムは、固溶性が低いため、ルテニウムを主とした合金にはなりにくく、例えばイリジウムやタングステンやニッケルなどの主金属に対する副金属的に用いられていた。そして、先述したように例えばEL等の蒸着セルやヒータなどの加熱手段として特許文献4に記載のルテニウム合金の線材を用いると記したが、特許文献4に記載のルテニウム合金線材は、専ら、耐高温性、耐酸化性、靭性や展延性といった機械的特性の改善のみが記載されており、ヒータなどの加熱手段として用いるための加工性、発熱強度、電気抵抗率や温度制御性などの効果については不明である。
【0010】
以上の事情を鑑み、本発明は、高い電気抵抗で温度依存性の小さい、長寿命の加工性に富んだルテニウム合金発熱体(発熱材)を使用したヒータを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るルテニウム合金発熱材を使用したヒータの上記目的は、ルテニウム並びに1若しくは2つ以上の異種金属元素の合金から成るルテニウム合金発熱材を使用したヒータであって、前記ルテニウム合金発熱材は、ルテニウムを最大比率で含むことを特徴とすることによって達成される。
【0012】
また、本発明に係るルテニウム合金発熱材を使用したヒータの上記目的は、前記異種金属元素は、タングステンであることにより、或いは前記ルテニウム合金発熱材は、50~70at%のルテニウムを含むことにより、或いは前記ルテニウム合金発熱材は、0.1~33at%のタングステンを含むことにより、或いは前記ルテニウム合金発熱材は、更に0.1~33at%のモリブデンを含むことにより、或いは前記ルテニウム合金発熱材の形状が線状であることにより、或いは前記ルテニウム合金発熱材の形状が最小半径1mmであることにより、或いは前記ルテニウム合金発熱材の形状がロッド状であることにより、或いは前記ルテニウム合金発熱材の形状が板状であることにより、より効果的に達成される。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、優れた加工性及び発熱特性を有し、尚且つ耐高温性を有するルテニウム合金発熱材ができた。特に線材についてはスプリングバックのために曲げ加工後の形状維持が難しく、これについては熱処理を施すことで形状を維持することが可能である。
【0014】
また、本発明に係るルテニウム合金発熱材は、適度な強度を有するため、線材だけではなくロッド状や板状に加工でき、更には冷間加工で当該発熱材を加工することができる。また、当該発熱材を用いて高抵抗で温度依存性の小さい、長寿命のヒータの作成も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例2におけるW-Mo-Ru系合金ヒータの加熱前及び加熱後の様子を示す図である。
図2】実施例2におけるタンタルヒータ(W-Mo-Ru系合金ヒータに対する比較例)の加熱前及び加熱後の様子を示す図である。
図3】タンタルヒータ(比較例)の加熱部の表面をマイクロスコープで観察した画像である。
図4】実施例2の耐久性試験における温度変化を示すグラフである。
図5】実施例2の耐久性試験における電圧値と時間の関係を示すグラフである。
図6】W-Mo-Ru系合金発熱材に係る線材を用いて作製したトップヒータ及びボトムヒータを示す図である。
図7】実施例3における実施例発熱材蒸着セル及び比較例タンタル蒸着セルそれぞれの、トップヒータの電流値(A)及びボトムヒータの電流値(A)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について、説明する。
【0017】
先ず、本発明に係るルテニウム合金発熱材は、基本的にルテニウム並びに少なくとも1種以上の異種金属元素から成り、当該発熱材は、最大比率のルテニウムを含むものである。ちなみに、本明細書等でいう「最大比率」については、後述する。
【0018】
本発明に係るルテニウム合金発熱材に係る異種金属元素とは、遷移金属元素であって、即ち、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、ニオブ(Nb)、レニウムのいずれかである。なお、本発明の発熱体に係る異種金属元素については、上記の元素から選択可能であるが、ルテニウムの電気抵抗の制御(高抵抗化)、温度制御や種々の脆性の改善を考慮するならば、タングステン(W)及び/又はモリブデン(Mo)が望ましい。その理由としては、これらの異種金属元素は、原子半径や電気陰性度がルテニウムと大きく異なり、固溶及び焼結させることが比較的容易であること、またこのことから、合金にした時に結晶化しやすい、即ちあらゆる結晶成長方法(製法)を採ることができ、例えばマイクロ引き下げ法、FZ法(フローティングゾーン法)およびゾーンメルト法などの単結晶製造プロセスを採ることができる。
【0019】
ここで、最大比率とは、ルテニウムと、ルテニウム以外の金属、即ち上記に述べた異種金属元素とのとの比率を考えた場合に、常に、ルテニウム>上記に述べた異種金属元素、となるような比率を言う。
【0020】
次に本発明のルテニウム合金発熱材において、ルテニウムの原子組成比(以下「at%」と称す。)は、50~70at%であることが望ましい。ルテニウムが50at%未満である場合、電気抵抗の制御(高抵抗化)や温度制御等が難しい。ルテニウムが70at%よりも多いと、発熱材として脆くなり、冷間加工はもとより、温度をかけて加工することが困難であるといった懸念があり、商業的にはあり得ない。
【0021】
また、タングステンやモリブデンについては、0.1~33at%であることが望ましい。0.1at%未満である場合、発熱材として脆くなり、冷間加工はもとより、温度をかけて加工することが困難である。また、33at%よりも多いと、先に述べた最大比率を保てなくなること、電気抵抗の制御(高抵抗化)や温度制御等が難しい。
【0022】
なお、ルテニウムに対して、タングステン及びモリブデンの両方を合わせる場合、原子組成比は、ルテニウム>タングステン≧モリブデンが好ましい。
【0023】
また、ルテニウムに対して、タングステン及び/又はモリブデンだけではなく、更に新たな異種金属元素を入れて4元系以上にしてもよい。この場合、本発明に係るルテニウム合金発熱材に対して、0.1~20at%であることが好ましい。0.1at%未満である場合、発熱材として脆くなり、冷間加工はもとより、温度をかけて加工することが困難である。また、20at%よりも多いと、先に述べた最大比率を保てなくなること、電気抵抗の制御(高抵抗化)や温度制御等が難しい。
【0024】
また、ルテニウムに対して、新たな異種金属元素を合わせる場合、原子組成比は、ルテニウム>タングステン≧モリブデン≧新たな異種金属元素が好ましい。
【0025】
なお、このような硬度が制限された線材を得るためには、歪を残留させないために加工条件を制限しながら、必要な線径となるよう加工製造する必要があるが、この製造プロセスについては後述する。また、この場合における「線材」とは、直径0.1mm以上直径3.0mm以下の細線状態の金属部材を意図するものである。また、「ロッド状」とは、円筒の棒若しくは竿状の金属部材を意図するものである。また「板材」とは、長手方向に垂直な断面において少なくとも2つの直線領域を有する金属部材を意図するものである。
【0026】
次に、本発明に係るルテニウム合金発熱材を使用したヒータについて説明する。しかしながら、当該ヒータに係る、ルテニウム合金発熱材の組成比や金属の選択などについては、上述の通りである。以下、ヒータとしての特徴点を順に説明する。
【0027】
本発明のルテニウム合金発熱材を使用したヒータに係る電気抵抗値の増加率は0.5%以下である。増加率が0.5%よりも大きいと、温度制御の悪化につながる。ここで、電気抵抗値の増加率というのは例えば、EL等の蒸着セルを加熱した後の電気抵抗値の増加率をいう。
【0028】
本発明のルテニウム合金発熱材を使用したヒータに係る使用可能温度は、1800℃以下である。使用可能温度が、1800℃よりも大きいと、ヒータの劣化につながる。
【0029】
また、線材のルテニウム合金発熱材を使用したヒータの場合、直径は0.5~1.5mm、好ましくは0.8~1.2mmが望ましい。その直径が0.5mm未満であると、高温に耐えきれず、冷間加工がしにくくなる。また、その直径が1.5mm以上であると、ヒータとしては十分に効果を発揮するが、冷間加工ができなくなる。
【0030】
また、ロッド状のルテニウム合金発熱材を使用したヒータの場合、直径は1.5~5.5mm、好ましくは2.4~4.8mmが望ましい。その直径が1.5mm未満であると、高温に耐えきれない。また、その直径が5.5mm以上であると、ヒータとしては十分に効果を発揮するが、冷間加工ができなくなる。
【0031】
また、板状のルテニウム合金発熱材を使用したヒータの場合、厚みは0.2~5.5mmが望ましい。その厚みが0.2mm未満であると、高温に耐えきれない。また、その厚みが5.5mm以上であると、ヒータとしては十分に効果を発揮するが、冷間加工ができなくなる。
【0032】
次に、本発明のルテニウム合金発熱材を使用したヒータの製造方法について、縦方向二重らせん形状のヒータの作製を例に説明する。
【0033】
予め作製しておいた本発明のルテニウム合金発熱材の線材(ワイヤ)を半分に折り、線材の折り曲げ部分を治具に固定し、巻き始めの起点とする。この時、治具については任意且つ既知の治具で構わない。また、当該線材についての原子組成比や電気抵抗値の増加率などのパラメータについては上述の通りである。
【0034】
次に治具を必要とする巻き数の分、回転させる、即ちらせん形状の線材を製造する。
【0035】
そして、ピッチ用治具を用いて、必要なピッチに調整する。
【0036】
その後治具を外して本発明のルテニウム合金発熱材の線材(ワイヤ)から成る縦方向二重らせん形状のヒータは完成する。
【0037】
ここで、治具(ピッチ用治具も含む)を外す前に、治具に固定したまま線材を熱処理する。この熱処理は、ヒータの形状維持のために、らせん形状の線材から成るヒータのスプリングバックを軽減する若しくは無くすために行うものである。なお、この熱処理に関しては、真空(10-2~10-8Pa)中、1~3時間で800~1400℃で加熱することが望ましい。この熱処理に関して、1時間未満且つ800℃未満であると、スプリングバックの軽減がうまく行かず、それによるヒータの形状維持が難しくなる。また、3時間より長い時間且つ1400℃よりも高い温度で熱処理を行うと、スプリングバックの軽減がうまく行く、即ちヒータの形状維持はできるが、ヒータとしての寿命が短くなる。なお、熱処理の方法は任意の既知技術で構わない。
【0038】
以上、本発明のルテニウム合金発熱材を使用したヒータの製造方法において、縦方向二重らせん形状のヒータの作製を例に説明したが、線材を用いてヒータを製造する場合、らせん状だけではなく、撚り線、束ね線にしてから曲げ加工を施して、ヒータを製造してもよい。なお、ここで言う曲げ加工は任意の方法で構わない。
【0039】
また、当該製造方法において、ルテニウム合金発熱材をロッド状にしたものを使用する際は、必要な曲げ加工を施し、次いで両端を電極と接続するための加工を施してヒータを製造する。なお、ここで言う曲げ加工は任意の方法で構わない。
【0040】
また、当該製造方法において、ルテニウム合金発熱材を板状にしたものを使用する際は、放電加工、レーザ切断、ウォータ切断、シャーリング切断などで切断する、或いは塑性加工を施して必要な形状にして、次いで両端を電極と接続するための加工を施してヒータを製造する。ここで言う、塑性加工は任意の方法で構わない。
【0041】
以上、本発明の実施形態を述べたが、この実施形態に限定されるものではなく、本願の明細書、特許請求の範囲及び/又は図面に記載の事項の範囲内で、様々な態様を採ることは言うまでもない。
【実施例0042】
以上に述べた実施形態に係る実施例を説明する。なお、本実施例はあくまで一例であり、また、次に述べるものに限定されるものではなく、本願の明細書、特許請求の範囲及び/又は図に記載の事項の範囲内で、様々な態様を採ることは言うまでもない。
【0043】
[実施例1]W-Mo-Ru系合金を発熱材(線材)の作製
量産型μ-PD炉を用いて、ルテニウム‐タングステン‐モリブデン系合金発熱材(以下、本実施例では「W-Mo-Ru系合金発熱材」とする。)の線材化を行った。ここで、ルテニウム、タングステン及びモリブデンの比率(at%)は、ルテニウム:60at%、タングステン25at%、モリブデン15at%であった。作製したW-Mo-Ru系合金発熱材はφ0.8mmx長さ13.2mの線材であり、マイクロメータにより実測した線径誤差は±20μm未満であった。表面状態は良好な金属光沢を示し、疵や欠け等の欠陥は見られなかった。また得られた線材について2端子法により電気抵抗率を実測し、線材内の電気抵抗率が3%以内であることを確認した。作製した線材は任意の曲げRでの180°の曲げ加工が可能であり、またさらにねじり変形に対する耐久性を有することも明らかとなった。これは組成の最適化のみならず、製造された線材中の結晶粒界密度が低いことを意味し、観察した領域において単結晶であるだけでなく、マクロ的にも単結晶ないしそれに準ずる組織を有することが明らかとなった。
【0044】
[実施例2]W-Mo-Ru系合金発熱材を使用したヒータの評価
次に、上記実施例1にて作製したW-Mo-Ru系合金発熱材について、ヒータとしての評価を行った。
【0045】
先ず、上記実施例1にて作製した線材(Φ0.8mm)を用いて、コイル状のヒータ(以下、本実施例2では、「W-Mo-Ru系合金ヒータ」とする。)を作製した。また、W-Mo-Ru系合金ヒータに対する比較例として、タンタルから成る線材を用いて、W-Mo-Ru系合金ヒータと同様にコイル状のヒータ(以下「タンタルヒータ」とする)を作製した。なお、加熱装置(サンリック社製)により耐久性試験を行った。W-Mo-Ru系合金ヒータの加熱前(図1(A)参照)及び1000時間加熱後(図1(B)参照)の線材の様子を図1に、比較例たるタンタルヒータの加熱前(図2(A)参照)及び1000時間加熱後(図2(B)参照)の線材の様子を図2にそれぞれ示す。なお、条件は、真空条件下で温度を1600℃、印加定電流値を14.0(A(アンペア))とした。その結果は図4及び図5に示す。図4は、W-Mo-Ru系合金ヒータにおいて、縦軸を温度(℃)、時間(h:時間)として、耐久性試験における温度変化を示すグラフである。図4より、3000時間経ってもほぼ温度に変化が見られない、即ち温度が降下することなく一定であった。
【0046】
また、W-Mo-Ru系合金ヒータにおける、電圧値と時間(h:時間)の関係を図5に示す。図5において、電圧値(平均値±3σ)も、最大値及び最小値の双方とも3000時間経ってもほぼ一定の値を採った。
【0047】
また、図1において、加熱前及び加熱後で、W-Mo-Ru系合金ヒータの表面光沢に若干変化が見られたものの、表面性状(表面形状)にはほぼ変化が無かった。一方図2において、加熱前及び加熱後で、タンタルヒータは、加熱前後で表面状態に明らかな変化があった。更に、タンタルヒータに関して、加熱部表面をマイクロスコープで観察したところ、竹状組織(バンブーストラクチャー)が表面に見られた(図3参照)。このことは加熱部の粒成長によるものと思われる。一方、W-Mo-Ru系合金ヒータにおいては、竹状組織は見られなかった。
【0048】
以上のことから、W-Mo-Ru系合金発熱材(W-Mo-Ru系合金ヒータ)については、1600℃という比較的高温で、且つ1000時間以上(3000時間程度)の耐久時間を有することが分かった。
【0049】
[実施例3]W-Mo-Ru系合金発熱材を使用したヒータを用いた有機EL用蒸着セルの作成及び温度特性評価その1
【0050】
先ず、上記実施例1にて作製したW-Mo-Ru系合金発熱材に係る線材(Φ0.8mm)を用いて、蒸発源同型のトップヒータ及びボトムヒータをそれぞれ冷間加工にて作製した。これらのトップヒータ及びボトムヒータを図6に示す。作製したトップヒータ及びボトムヒータについては、坩堝に、組み込んで蒸着セルとした(以下、「実施例発熱材蒸着セル」とする)。一方、比較例として、トップヒータ及びボトムヒータ共にタンタル(Ta)製のものを使用して、坩堝に、組み込んで蒸着セルとした(以下、「比較例タンタル蒸着セル」とする)。
【0051】
本実施例3では、試作した上記各蒸着セルに対し、一定真空度、各温度条件、各時間の環境下での、重量変化およびSEM/EDXによる表面状態を評価し、耐久性を評価した。
【0052】
次に、実施例発熱材蒸着セル及び比較例タンタル蒸着セル共に、11段階(表1中の「STEP1~11」に相当)でトップ温度を昇温していき、実施例発熱材蒸着セル及び比較例タンタル蒸着セルそれぞれの、トップヒータの電流値(A)及びボトムヒータの電流値(A)をそれぞれ測定した。図7及び表1にその変化の様子を示すグラフや値の表を示す。図7及び表1より、実施例発熱材蒸着セルに係る新合金ヒータ線の抵抗値が高く、比較例タンタル蒸着セルに係るタンタルヒータ線と同等の温度到達が可能であること並びに低電流印加での昇温性も確認できた。
【0053】
【表1】
【0054】
次に、昇温試験前後での抵抗値変化に関しても、増減に関し大きく差があり、新合金の付帯効果を得ることができた。その結果については、表2に示す。
【0055】
【表2】
【0056】
表2において、比較例タンタル蒸着セルについては、加熱前と加熱後では、トップ及びボトムヒータ共に、抵抗の増加率が約3.3~3.9%であったのに対し、実施例発熱材蒸着セルについては、加熱前と加熱後では、トップ及びボトムヒータ共に、抵抗の増加率が約0.l4~0.33%であった。このことから、昇温前後での抵抗値変化に関しても、増減に関し大きく差があり、新合金の付帯効果が得られることを示唆する結果となった。
【0057】
以上、実施例を述べたが、これらの実施例に限定されるものではなく、本願の明細書、特許請求の範囲及び/又は図面に記載の事項の範囲内で、様々な態様を採ることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明のルテニウム含有合金を使用することにより、高い電気抵抗率を有するヒータを提供することができる。また、蒸着セルに用いるヒータだけではなくて、その他の蒸着プロセスに使用する装置に係るヒータなどにも利用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7