(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121176
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】インクセット、記録方法および処理方法
(51)【国際特許分類】
C09D 11/54 20140101AFI20240830BHJP
C09D 11/50 20140101ALI20240830BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240830BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
C09D11/54
C09D11/50
B41J2/01 501
B41M5/00 120
B41M5/00 100
B41M5/00 132
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028137
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】河田 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】菊池 健太
(72)【発明者】
【氏名】青山 哲也
(72)【発明者】
【氏名】粂田 宏明
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2C056FC01
2C056FD20
2H186AB03
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2H186BA10
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2H186FB53
4J039AD03
4J039AD09
4J039AE01
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4J039EA46
4J039EA48
(57)【要約】
【課題】有色インクのインクジェット法による吐出安定性および有色インクによる発色性を優れたものとしつつ、有色インクによる有色部を消色処理で好適に消色することができるインクセットを提供すること。
【解決手段】本発明のインクセットは、有色インクと、消色インクと、を有するインクセットであって、前記有色インクは、ロイコ染料と、顕色剤と、分散剤と、水と、を含有する水系のインクジェットインク組成物であり、前記有色インク中において、前記ロイコ染料および前記顕色剤は、前記分散剤により分散された水分散体となっており、前記分散剤は、スチレン骨格またはナフタレン骨格を有し、重量平均分子量が10,000以上20,000以下であり、LogP値が3.7以上6.0以下であり、前記消色インクは、消色剤を含有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有色インクと、消色インクと、を有するインクセットであって、
前記有色インクは、ロイコ染料と、顕色剤と、分散剤と、水と、を含有する水系のインクジェットインク組成物であり、
前記有色インク中において、前記ロイコ染料および前記顕色剤は、前記分散剤により分散された水分散体となっており、
前記分散剤は、スチレン骨格またはナフタレン骨格を有し、重量平均分子量が10,000以上20,000以下であり、LogP値が3.7以上6.0以下であり、
前記消色インクは、消色剤を含有する、インクセット。
【請求項2】
前記ロイコ染料は、フルオラン類、トリフェニルメタンフタリド類およびスピロピラン類よりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載のインクセット。
【請求項3】
前記顕色剤は、ビスフェノール類、ヒドロキシアセトフェノン類およびヒドロキシベンゾフェノン類よりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1または2に記載のインクセット。
【請求項4】
前記分散剤は、スチレンとスチレンスルホン酸とを含む共重合体、スチレンとマレイン酸とを含む共重合体、および、ナフタレンスルホン酸を含む共重合体よりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1または2に記載のインクセット。
【請求項5】
前記有色インク中における前記分散剤の含有量が3.0質量%以上20.0質量%以下である、請求項1または2に記載のインクセット。
【請求項6】
前記有色インク中における前記ロイコ染料の含有量が3.0質量%以上15.0質量%以下である、請求項1または2に記載のインクセット。
【請求項7】
前記有色インク中における前記顕色剤の含有量が3.0質量%以上15.0質量%以下である、請求項1または2に記載のインクセット。
【請求項8】
前記消色剤は、重量平均分子量が1,000以上5,000以下のグリコールエーテル化合物である、請求項1または2に記載のインクセット。
【請求項9】
前記有色インク中に含まれる分散質の体積平均粒子径が100nm以上200nm以下である、請求項1または2に記載のインクセット。
【請求項10】
消色剤を含有する消色インクを記録媒体に付着させる消色インク付着工程と、
ロイコ染料と、顕色剤と、分散剤と、水と、を含有する水系のインクジェットインク組成物である有色インクを、インクジェットヘッドから吐出して前記記録媒体に付着させる有色インク付着工程と、を有し、
前記有色インク中において、前記ロイコ染料および前記顕色剤は、前記分散剤により分散された水分散体となっており、
前記分散剤は、スチレン骨格またはナフタレン骨格を有し、重量平均分子量が10,000以上20,000以下であり、LogP値が3.7以上6.0以下である、記録方法。
【請求項11】
前記消色インク付着工程と前記有色インク付着工程との間に、前記記録媒体に付着した前記消色インクを乾燥する乾燥工程をさらに有する、請求項10に記載の記録方法。
【請求項12】
前記有色インクと前記消色インクとを重ねて付着させた部位におけるLab表示系におけるOD値が0.3以上である、請求項10または11に記載の記録方法。
【請求項13】
有色インクおよび消色インクを付着させた記録媒体を加熱して、前記有色インクによる有色部を消色させる消色工程を備え、
前記有色インクは、ロイコ染料と、顕色剤と、分散剤と、水と、を含有するものであり、
前記有色インク中において、前記ロイコ染料および前記顕色剤は、前記分散剤により分散された水分散体となっており、
前記分散剤は、スチレン骨格またはナフタレン骨格を有し、重量平均分子量が10,000以上20,000以下であり、LogP値が3.7以上6.0以下であり、
前記消色インクは、消色剤を含有するものである、処理方法。
【請求項14】
前記消色工程における前記記録媒体の表面温度が40℃以上80℃以下である請求項13に記載の処理方法。
【請求項15】
前記消色工程に供される前記記録媒体は、前記有色インクと前記消色インクとを重ねて付着させた部位を有するものであり、当該部位におけるLab表示系におけるOD値は、前記消色工程により、30%以上低減する、請求項13または14に記載の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクセット、記録方法および処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ロイコ染料と顕色剤とを含むインクが知られており、このようなインクに減感剤を含有させることにより、加熱により、消色を行うことができるように構成されていた。
【0003】
また、特許文献1には、呈色性化合物と顕色剤とを含有する画像記録用インクと、消色作用物質を含有する消色剤とからなるインクセットが開示されており、画像記録用インクと消色剤とが重なった部分を消色させることについての開示がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来においては、有色インクによる発色性を優れたものとしつつ、消色処理後に十分に消色することができなかった。また、呈色性化合物を含む有色インクをインクジェット法で吐出する場合に当該有色インクの吐出安定性を十分に優れたものとすることが困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の適用例として実現することができる。
【0007】
本発明の適用例に係るインクセットは、有色インクと、消色インクと、を有するインクセットであって、
前記有色インクは、ロイコ染料と、顕色剤と、分散剤と、水と、を含有する水系のインクジェットインク組成物であり、
前記有色インク中において、前記ロイコ染料および前記顕色剤は、前記分散剤により分散された水分散体となっており、
前記分散剤は、スチレン骨格またはナフタレン骨格を有し、重量平均分子量が10,000以上20,000以下であり、LogP値が3.7以上6.0以下であり、
前記消色インクは、消色剤を含有する。
【0008】
本発明の適用例に係る記録方法は、消色剤を含有する消色インクを記録媒体に付着させる消色インク付着工程と、
ロイコ染料と、顕色剤と、分散剤と、水と、を含有する水系のインクジェットインク組成物である有色インクを、インクジェットヘッドから吐出して前記記録媒体に付着させる有色インク付着工程と、を有し、
前記有色インク中において、前記ロイコ染料および前記顕色剤は、前記分散剤により分散された水分散体となっており、
前記分散剤は、スチレン骨格またはナフタレン骨格を有し、重量平均分子量が10,000以上20,000以下であり、LogP値が3.7以上6.0以下である。
【0009】
本発明の適用例に係る処理方法は、有色インクおよび消色インクを付着させた記録媒体を加熱して、前記有色インクによる有色部を消色させる消色工程を備え、
前記有色インクは、ロイコ染料と、顕色剤と、分散剤と、水と、を含有するものであり、
前記有色インク中において、前記ロイコ染料および前記顕色剤は、前記分散剤により分散された水分散体となっており、
前記分散剤は、スチレン骨格またはナフタレン骨格を有し、重量平均分子量が10,000以上20,000以下であり、LogP値が3.7以上6.0以下であり、
前記消色インクは、消色剤を含有するものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
[1]インクセット
まず、本発明のインクセットについて説明する。
【0011】
本発明のインクセットは、有色インクと、消色インクと、を有している。
前記有色インクは、ロイコ染料と、顕色剤と、分散剤と、水と、を含有する水系のインクジェットインク組成物であり、前記消色インクは、消色剤を含有するものである。
【0012】
そして、前記有色インク中において、前記ロイコ染料および前記顕色剤は、前記分散剤により分散された水分散体となっており、前記分散剤は、スチレン骨格またはナフタレン骨格を有し、重量平均分子量が10,000以上20,000以下であり、LogP値が3.7以上6.0以下である。
【0013】
このような条件を満たすことにより、有色インクのインクジェット法による吐出安定性および有色インクによる発色性を優れたものとしつつ、有色インクによる有色部を消色処理で好適に消色することができるインクセットを提供することができる。特に、消色後の色残りを好適に防止することができ、消色後の記録媒体を好適に再利用することができる。
【0014】
これに対し、上記のような条件を満たさない場合には、満足の行く結果が得られない。
例えば、有色インクが、分散剤を含んでいないと、有色インク中における、ロイコ染料および顕色剤の分散安定性が著しく低下し、インクジェット法による有色インクの吐出安定性が著しく低下する。また、有色インクによる発色性や、有色インクによる有色部を消色処理で消色する際の消色性にも劣ったものとなる。
【0015】
また、有色インクが分散剤を含んでいても、当該分散剤がスチレン骨格またはナフタレン骨格を有していないと、有色インク中における、ロイコ染料および顕色剤の分散状態を好適なものとすることができず、インクジェット法による有色インクの吐出安定性が劣ったものとなる。また、有色インクによる発色性や、有色インクによる有色部を消色処理で消色する際の消色性にも劣ったものとなる。
【0016】
また、有色インクが分散剤を含んでいても、当該分散剤の重量平均分子量が前記下限値未満であると、有色インク中における、ロイコ染料および顕色剤の分散状態を好適なものとすることができず、インクジェット法による有色インクの吐出安定性が劣ったものとなる。また、有色インクによる発色性や、有色インクによる有色部を消色処理で消色する際の消色性にも劣ったものとなる。
【0017】
また、有色インクが分散剤を含んでいても、当該分散剤の重量平均分子量が前記上限値を超えると、有色インク中における、ロイコ染料および顕色剤の分散状態を好適なものとすることができず、インクジェット法による有色インクの吐出安定性が劣ったものとなる。
【0018】
また、有色インクが分散剤を含んでいても、当該分散剤のLogP値が前記下限値未満であると、有色インク中における、ロイコ染料および顕色剤の分散状態を好適なものとすることができず、インクジェット法による有色インクの吐出安定性が劣ったものとなる。また、有色インクによる発色性や、有色インクによる有色部を消色処理で消色する際の消色性にも劣ったものとなる。
【0019】
また、有色インクが分散剤を含んでいても、当該分散剤のLogP値が前記上限値を超えると、有色インク中における、ロイコ染料および顕色剤の分散状態を好適なものとすることができず、インクジェット法による有色インクの吐出安定性が劣ったものとなる。
【0020】
なお、本発明において、LogP値とは、溶媒としてn-オクタノールと水とを用いた場合のn-オクタノール/水分配係数のことを指し、その値が大きいほど、疎水性が大きいと言える。本発明では、LogP値として25℃での値を採用するものとする。また、LogP値は、実験的に求めてもよいし、計算値を用いてもよい。
【0021】
[1-1]有色インク
以下、本発明のインクセットを構成する有色インクについて説明する。
本発明のインクセットを構成する有色インクは、インクジェット法により、吐出されるものである。
【0022】
インクジェット法で吐出されるものであることにより、例えば、有色インクを用いて形成すべき記録部としての有色部が、微細なパターンのものであっても、好適に形成することができる。また、曲面部等にも好適に有色部を形成することができる。また、オンデマンド性に優れ、種々のパターンの有色部を好適に形成することができる。また、インクの無駄を排することができ、省資源の観点等からも好ましい。
【0023】
インクジェット法としては、例えば、荷電偏向方式、コンティニュアス方式、ピエゾ式、バブルジェット(登録商標)式等のオンデマンド方式等が挙げられる。
【0024】
本発明のインクセットを構成する有色インクは、ロイコ染料と、顕色剤と、分散剤と、水と、を含んでいる。
【0025】
[1-1-1]ロイコ染料
ロイコ染料は、単独では、実質的に無色であるが、後に詳述する顕色剤の作用により化学構造が変化し、有色となる色材である。
【0026】
ロイコ染料としては、例えば、フルオラン類、トリフェニルメタンフタリド類、トリフェニルメタンジアミノ類、アントシアニン類、キサンテン類、ローダミンラクタム類等の、分子内にラクトン環を有する化合物等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
中でも、ロイコ染料としては、フルオラン類、トリフェニルメタンフタリド類およびローダミンラクタム類よりなる群から選択される少なくとも1種であるのが好ましい。
【0028】
これにより、ロイコ染料と、後に詳述する分散剤との親和性をより優れたものとすることができ、有色インクのインクジェット法による吐出安定性および有色インクによる発色性を優れたものとすることができる。また、有色インクによる有色部を消色処理で消色する際の消色性もより優れたものとすることができる。
【0029】
なお、ロイコ染料の市販品としては、例えば、「CVL」、「Green DCF」、「Vermilion DCF」、「Red DCF」、「Orange DCF」、「TH-106」、「TH-107」、「TH-108」、「TH-109」、「CF-51」、「D.L.M.B.」(以上、保土ヶ谷化学工業社製、商品名)、「DEBN」、「RED 500」、「RED 520」、「S-205」、「Black 100」、「Black 202」、「Black305」、「ETAC」、「Blue 220」、「NIR Black 78」、「Green 300」、「PINK 535」(以上、山田化学工業社製、商品名)、「ODB」、「ODB-2」、「ODB-7」、「Black-15」、「Black-173」、「Blue-63」、「Blue-502」、「Green-40」、「Red-3」、「Red-40」、「MNSP」、「LCV」、「GN-2」、「GN-169」、「GN-118」(以上、山本化成社製、商品名)、「PERGASCRIPT RED I-6B」、「PERGASCRIPT GREEN I-2GN」(以上、チバ・スペシャリティー・ケミカルズ社製、商品名)等が挙げられる。
【0030】
有色インク中におけるロイコ染料の含有量は、特に限定されないが、3.0質量%以上15.0質量%以下であるのが好ましく、3.1質量%以上12.0質量%以下であるのがより好ましく、3.3質量%以上8.0質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0031】
これにより、ロイコ染料と、有色インクのインクジェット法による吐出安定性と、有色インクによる発色性を、より高いレベルで両立することができる。また、有色インクによる有色部を消色処理で消色する際の消色性もより優れたものとすることができる。
【0032】
[1-1-2]顕色剤
顕色剤は、前述したロイコ染料に作用することにより、当該ロイコ染料を発色させる機能を有する。
【0033】
顕色剤としては、例えば、リン酸、リン酸モノエステル、リン酸ジエステル等の分子内にリン酸基を有する化合物の他、ビスフェノールA、ビスフェノールZ等のビスフェノール類;ジヒドロキシアセトフェノン、トリヒドロキシアセトフェノン、ジヒドロ安息香酸等のヒドロキシアセトフェノン類;ジヒドロキシベンゾフェノン、トリヒドロキシベンゾフェノン、テトラヒドロキシベンゾフェノン等のヒドロキシベンゾフェノン類;没食子酸アルキルエステル等の没食子酸エステル類;ヒドロキシフェニルアルキル-ベンゾトリアゾール等のベンゼントリオール類;トリフェノール類;メチレントリス-p-クレゾール等のクレゾール類等の分子内にフェノール性水酸基を有する化合物等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
中でも、顕色剤は、分子内にフェノール性水酸基を有する化合物であるのが好ましく、分子内に、フェノール性水酸基を有するベンゼン環を1つまたは2つ有する化合物であるのがより好ましく、ビスフェノール類、ヒドロキシアセトフェノン類およびヒドロキシベンゾフェノン類よりなる群から選択される少なくとも1種であるのがさらに好ましい。
【0035】
これにより、有色インクのpHをより好適な範囲に調整しやすくなり、有色インクを用いて形成される有色部の発色性をより優れたものすることができる。
【0036】
前記分子内にリン酸基を有する化合物としては、例えば、モノアルキルリン酸エステル、ジアルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンモノアルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンジアルキルリン酸エステル等が挙げられる。
【0037】
前記分子内にリン酸基を有する化合物、前記分子内にフェノール性水酸基を有する化合物が有するアルキル基としては、例えば、直鎖状または分岐鎖状のアルキル基が挙げられ、より具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ノニル基、ラウリル基、オレイル基、ステアリル基等が挙げられる。
【0038】
前記分子内にリン酸基を有する化合物の市販品としては、例えば、フォスファノールシリーズ(東邦化学工業社製、商品名)、プライサーフシリーズ(第一工業製薬社製、商品名)、ニューコール 565-PS(日本乳化剤社製、商品名)等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0039】
有色インク中における顕色剤の含有量は、特に限定されないが、3.0質量%以上15.0質量%以下であるのが好ましく、3.1質量%以上12.0質量%以下であるのがより好ましく、3.3質量%以上8.0質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0040】
これにより、ロイコ染料と、有色インクのインクジェット法による吐出安定性と、有色インクによる発色性を、より高いレベルで両立することができる。また、有色インクによる有色部を消色処理で消色する際の消色性もより優れたものとすることができる。
【0041】
有色インク中におけるロイコ染料の含有量をXA[質量%]、当該有色インク中における顕色剤の含有量をXB[質量%]としたとき、0.20≦XB/XA≦5.0の関係を満たすのが好ましく、0.40≦XB/XA≦2.5の関係を満たすのがより好ましく、0.80≦XB/XA≦1.2の関係を満たすのがさらに好ましい。
【0042】
これにより、発色を維持しつつ、顕色剤の添加量を削減することができるため、環境保全やコスト削減により優れたインクとすることができる。
【0043】
有色インク中において、顕色剤は、少なくともその一部がロイコ染料と反応した状態で含まれているのが好ましい。
【0044】
ロイコ染料と顕色剤との反応は、例えば、有色インクの製造過程で、ロイコ染料と顕色剤とを含む組成物を加熱すること、より具体的には、ロイコ染料と顕色剤との混合物を加熱溶融することにより、好適に進行させることができる。
【0045】
ロイコ染料と顕色剤との加熱溶融物は、冷却した後、粉砕することにより、有色インクの製造に好適に用いることができる。
【0046】
[1-1-3]分散剤
有色インクは、ロイコ染料および顕色剤を分散する機能を有する分散剤を含んでいる。
特に、有色インクは、スチレン骨格またはナフタレン骨格を有し、重量平均分子量が10,000以上20,000以下であり、LogP値が3.7以上6.0以下である分散剤を含んでいる。
【0047】
有色インク中に含まれる前記分散剤としては、例えば、アニオン系分散剤、ノニオン系分散剤等が挙げられるが、アニオン系分散剤であるのが好ましい。
【0048】
これにより、有色インク中における、ロイコ染料および顕色剤の分散安定性をより優れたものとすることができ、インクジェット法による有色インクの吐出安定性をより優れたものとすることができる。また、有色インクによる発色性や、有色インクによる有色部を消色処理で消色する際の消色性もより優れたものとなる。
【0049】
有色インク中に含まれる前記分散剤がアニオン系分散剤である場合、当該分散剤が有するアニオン性基としては、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基等が挙げられる。
【0050】
カルボキシル基を有するモノマー成分としては、例えば、マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸等が挙げられる。
【0051】
スルホン酸基を有するモノマー成分としては、例えば、スチレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、メチルナフタレンスルホン酸、エチルナフタレンスルホン酸、プロチルナフタレンスルホン酸、ブチルナフタレンスルホン酸等が挙げられる。
【0052】
スチレン骨格を有する分散剤としては、例えば、スチレンとスチレンスルホン酸とを含む共重合体、スチレンとマレイン酸とを含む共重合体、スチレンとアクリル酸とを含む共重合体等が挙げられる。
【0053】
ナフタレン骨格を有する分散剤としては、例えば、ナフタレンスルホン酸とブチルナフタレンスルホン酸とを含む共重合体、β-ナフタレンスルホン酸とホルマリンとの縮合物、メチルナフタレンスルホン酸とホルマリンとの縮合物等が挙げられる。
【0054】
中でも、有色インク中に含まれる前記分散剤は、スチレンとスチレンスルホン酸とを含む共重合体、スチレンとマレイン酸とを含む共重合体、および、ナフタレンスルホン酸を含む共重合体よりなる群から選択される少なくとも1種であるのが好ましい。
【0055】
これにより、有色インク中における、ロイコ染料および顕色剤の分散安定性をさらに優れたものとすることができ、インクジェット法による有色インクの吐出安定性をさらに優れたものとすることができる。また、有色インクによる発色性や、有色インクによる有色部を消色処理で消色する際の消色性もさらに優れたものとなる。
【0056】
有色インク中に含まれる前記分散剤の重量平均分子量は、10,000以上20,000以下であればよいが、11,000以上19,000以下であるのが好ましく、12,000以上18,000以下であるのがより好ましく、13,000以上16,000以下であるのがさらに好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0057】
有色インク中に含まれる前記分散剤のLogP値は、3.7以上6.0以下であればよいが、3.8以上5.8以下であるのが好ましく、4.0以上5.5以下であるのがより好ましく、4.2以上5.0以下であるのがさらに好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0058】
有色インク中における前記分散剤の含有量は、特に限定されないが、3.0質量%以上20.0質量%以下であるのが好ましく、4.0質量%以上14.0質量%以下であるのがより好ましく、5.0質量%以上10.0質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0059】
これにより、ロイコ染料と、有色インクのインクジェット法による吐出安定性と、有色インクによる発色性を、より高いレベルで両立することができる。また、有色インクによる有色部を消色処理で消色する際の消色性もより優れたものとすることができる。
【0060】
有色インク中におけるロイコ染料の含有量をXA[質量%]、当該有色インク中における顕色剤の含有量をXB[質量%]、当該有色インク中における前記分散剤の含有量をXC[質量%]としたとき、0.3≦XC/(XA+XB)≦3.0の関係を満たすのが好ましく、0.5≦XC/(XA+XB)≦2.0の関係を満たすのがより好ましく、0.8≦XC/(XA+XB)≦1.2の関係を満たすのがさらに好ましい。
【0061】
これにより、有色インク中のロイコ染料、および顕色剤の分散をより好適に安定化させて、保存安定性をさらに向上することができる。
【0062】
[1-1-4]分散媒
有色インクは、ロイコ染料および顕色剤を分散する機能を有する分散媒を含んでいる。このような分散媒は、他の成分を溶解する溶媒として機能するものであってもよい。
【0063】
このような分散媒を含むことにより、インクジェット法による有色インクの吐出安定性を十分に優れたものとすることができる。
【0064】
有色インクを構成する分散媒は、少なくとも水を含むものであればよく、水に加えて、さらに、各種有機溶媒を含んでいてもよい。
【0065】
特に、有色インクに含まれる分散媒全体に占める水の割合は、70質量%以上であるのが好ましく、90質量%以上であるのがより好ましく、95質量%以上であるのがさらに好ましい。なお、有色インクに含まれる分散媒全体に占める水の割合の上限値は、100質量%である。
【0066】
有色インク中における分散媒の含有量は、特に限定されないが、40.0質量%以上95.0質量%以下であるのが好ましく、45.0質量%以上90.0質量%以下であるのがより好ましく、50.0質量%以上85.0質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0067】
[1-1-5]保湿剤
有色インクは、さらに、保湿剤を含んでいてもよい。
これにより、有色インクに適度な粘度を与え、有色インクのインクジェットヘッドでのノズル目詰まりをより確実に防止することができる。
また、保湿剤は、有色インク中に含まれる固形分のノズルの表面への析出、ノズル内での固形分の凝集を防止する機能も有している。
【0068】
保湿剤としては、例えば、ぺパリン、セラミド、ヒアルロン酸、グリセリン、ポリグリセリン、尿素等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0069】
有色インク中における保湿剤の含有量は、特に限定されないが、2.0質量%以上30.0質量%以下であるのが好ましく、3.0質量%以上25.0質量%以下であるのがより好ましく、5.0質量%以上15.0質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0070】
[1-1-6]pH調整剤
有色インクは、さらに、pH調整剤を含んでいてもよい。
これにより、有色インクのpHをより好適な範囲に調整しやすくなり、有色インクを用いて形成される有色部の発色性をより優れたものすることができる。
【0071】
pH調整剤としては、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のエタノールアミンおよびその他のアミン類等の有機塩基、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、乳酸カルシウム、コハク酸二ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三ナトリウム等の無機塩基等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0072】
有色インク中におけるpH調整剤の含有量は、特に限定されないが、0.1質量%以上7.0質量%以下であるのが好ましく、0.5質量%以上5.0質量%以下であるのがより好ましく、1.0質量%以上3.0質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0073】
[1-1-7]界面活性剤
有色インクは、さらに、界面活性剤を含んでいてもよい。
これにより、例えば、有色インクの記録媒体に対する濡れ性を向上させることができる。
【0074】
界面活性剤としては、例えば、シリコン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、非イオン性界面活性剤であるポリオキシエチレン誘導体等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0075】
シリコン系界面活性剤としては、例えば、ポリエステル変性シリコンやポリエーテル変性シリコン等が挙げられる。シリコン系界面活性剤の市販品としては、例えば、BYK-347、348、BYK-UV3500、3510、3530、3570(いずれもビックケミー・ジャパン社製)が挙げられる。
【0076】
フッ素系界面活性剤としては、例えば、フッ素変性ポリマー等が挙げられる。フッ素系界面活性剤の市販品としては、例えば、BYK-340(ビックケミー・ジャパン社製)等が挙げられる。
【0077】
ポリオキシエチレン誘導体としては、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤等が挙げられる。ポリオキシエチレン誘導体の市販品としては、例えば、サーフィノール82、104、465、485、TG(いずれもエアープロダクツジャパン社製)、オルフィンSTG、E1010(いずれも日信化学社製)、ニッサンノニオンA-10R、A-13R(いずれも日油社製)、フローレンTG-740W、D-90(共栄社化学社製)、ノイゲンCX-100(第一工業製薬社製)等が挙げられる。
【0078】
有色インクが界面活性剤を含むものである場合、当該有色インク中における界面活性剤の含有量は、特に限定されないが、0.1質量%以上5.0質量%以下であるのが好ましく、0.2質量%以上4.0質量%以下であるのがより好ましく、0.3質量%以上3.5質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0079】
[1-1-8]その他の成分
有色インクは、上記以外の成分を含んでいてもよい。以下、この項目内において、このような成分のことを「その他の成分」とも言う。
【0080】
その他の成分としては、例えば、キレート化剤、防腐剤・防かび剤、防錆剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、酸素吸収剤、浸透剤等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0081】
ただし、有色インク中におけるその他の成分の含有量は、10.0質量%以下であるのが好ましく、7.0質量%以下であるのがより好ましく、5.0質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0082】
[1-1-9]その他の条件
有色インク中に含まれる分散質の体積平均粒子径は、100nm以上200nm以下であるのが好ましく、110nm以上170nm以下であるのがより好ましく、120nm以上140nm以下であるのがさらに好ましい。
【0083】
これにより、有色インク中における、ロイコ染料および顕色剤の分散安定性をより優れたものとすることができ、インクジェット法による有色インクの吐出安定性をより優れたものとすることができる。また、有色インクによる発色性や、有色インクによる有色部を消色処理で消色する際の消色性もより優れたものとなる。
【0084】
なお、有色インク中に含まれる分散質の大部分は、通常、上述したロイコ染料と顕色剤との反応物であり、この場合、ロイコ染料と顕色剤との反応物の体積平均粒子径も、上記の範囲内に含まれる。
【0085】
有色インクの25℃におけるpHは、3.0以上11.0以下であるのが好ましく、5.0以上9.0以下であるのがより好ましく、6.0以上8.0以下であるのがさらに好ましい。
【0086】
これにより、消色前における有色インクによる有色部の発色性をより優れたものとすることができる。
【0087】
有色インクの25℃における粘度は、2mPa・s以上10mPa・s以下であるのが好ましく、3mPa・s以上8mPa・s以下であるのがより好ましく、4mPa・s以上6mPa・s以下であるのがさらに好ましい。
これにより、有色インクのインクジェット法による吐出安定性がより優れたものとなる。
【0088】
なお、粘度は、25℃にて、粘弾性試験機(例えば、アタゴ社製、VISCO 6800)を用いて、せん断速度が10[s-1]の時の粘度を読み取ることにより測定することができる。
本発明のインクセットは、複数種の有色インクを備えていてもよい。
【0089】
[1-2]消色インク
以下、本発明のインクセットを構成する消色インクについて説明する。
本発明のインクセットを構成する消色インクは、消色剤を含んでいる。
【0090】
消色インクは、インクジェットインクであるのが好ましい。
これにより、記録媒体に対し、より高いオンデマンド性で、消色インクを好適に吐出・付与することができる。
【0091】
より具体的には、例えば、所定のパターンで有色インクが付与され有色部が形成される予定の記録媒体に対し、当該有色部に対応するパターンで予め消色インクを吐出・付与したり、有色インクによる有色部が設けられた記録媒体に対し、当該有色部に対応するパターンで消色インクを吐出・付与したりすることで、消色インクの使用量を抑制しつつ、その後の消色工程で好適に有色部を消色することが可能となる。
【0092】
また、例えば、所定パターンで有色インクによる有色部が形成される予定の記録媒体に対し当該有色部の一部のみに対応するパターンで予め消色インクを付与したり、有色インクによる有色部が設けられた記録媒体に対し当該有色部の一部にのみ選択的に消色インクを付与することで、消色インクの使用量を抑制しつつ、その後の消色工程で有色部の一部のみを選択的に消色し、新たなパターンの有色部を有する記録物を得ることができる。
【0093】
また、目的の部位のみに選択的に消色インクを付与することができるため、消色インクの使用量を削減することができ、省資源、コスト削減等の観点からも好ましい。また、消色処理を施す装置の小型化にも寄与する。
【0094】
[1-2-1]消色剤
消色剤は、有色インクによる有色部、すなわち、ロイコ染料、顕色剤および前記分散剤を含む材料で構成された有色部と接触した状態で、加熱処理を施すことにより、当該有色部を消色する機能を有する成分である。
【0095】
消色剤は、上記のような機能を発揮することができるものであれば、特に限定されず、例えば、グリコールエーテル化合物、エーテル化合物、エステル化合物等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0096】
中でも、消色剤は、グリコールエーテル化合物であるのが好ましい。
これにより、有色インクによる有色部を消色処理で消色する際の消色性をより優れたものとすることができる。
【0097】
消色剤としてのグリコールエーテル化合物の重量平均分子量は、特に限定されないが、1,000以上5,000以下であるのが好ましく、1,100以上4,000以下であるのがより好ましく、1,200以上3,000以下であるのがさらに好ましい。
【0098】
これにより、有色インクによる有色部を消色処理で消色する際の消色性をさらに優れたものとすることができる。
【0099】
前記グリコールエーテル化合物としては、アルキレングリコールの縮合体が有する末端の水酸基の一方または両方がアルキル基でエーテル化された化合物が挙げられる。
【0100】
前記グリコールエーテル化合物を構成する前記アルキレングリコールとしては、例えば、エチレングルコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール等が挙げられる。
【0101】
また、前記グリコールエーテル化合物を構成する前記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。
【0102】
前記グリコールエーテル化合物の具体例としては、例えば、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノエチルエーテル、ポリエチレングリコールジエチルエーテル、ポリエチレングリコールモノプロピルエーテル、ポリエチレングリコールジプロピルエーテル、ポリエチレングリコールモノブチルエーテル、ポリエチレングリコールジブチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ポリプロピレングリコールジメチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノエチルエーテル、ポリプロピレングリコールジエチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ポリプロピレングリコールジプロピルエーテル、ポリプロピレングリコールモノブチルエーテル、ポリプロピレングリコールジブチルエーテル、ポリブチレングリコールモノメチルエーテル、ポリブチレングリコールジメチルエーテル、ポリブチレングリコールモノエチルエーテル、ポリブチレングリコールジエチルエーテル、ポリブチレングリコールモノプロピルエーテル、ポリブチレングリコールジプロピルエーテル、ポリブチレングリコールモノブチルエーテル、ポリブチレングリコールジブチルエーテル等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0103】
消色インク中における消色剤の含有量は、特に限定されないが、1.0質量%以上35.0質量%以下であるのが好ましく、3.0質量%以上30.0質量%以下であるのがより好ましく、5.0質量%以上25.0質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0104】
これにより、消色溶媒、インクセットの生産コストの増大を抑制しつつ、前述した本発明による効果をより顕著に発揮させることができる。
【0105】
[1-2-2]水
消色インクは、通常、水を含んでいる。
水は、消色インクの流動性を確保する等の機能を有している。
【0106】
消色インク中における水の含有量は、55.0質量%以上99.0質量%以下であるのが好ましく、63.0質量%以上97.0質量%以下であるのがより好ましく、70.0質量%以上95.0質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0107】
[1-2-3]界面活性剤
消色インクは、さらに、界面活性剤を含んでいてもよい。
これにより、例えば、消色インクの記録媒体に対する濡れ性を向上させることができる。
【0108】
界面活性剤としては、例えば、シリコン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、非イオン性界面活性剤であるポリオキシエチレン誘導体等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0109】
シリコン系界面活性剤としては、例えば、ポリエステル変性シリコンやポリエーテル変性シリコン等が挙げられる。シリコン系界面活性剤の市販品としては、例えば、BYK-347、348、BYK-UV3500、3510、3530、3570(いずれもビックケミー・ジャパン社製)が挙げられる。
【0110】
フッ素系界面活性剤としては、例えば、フッ素変性ポリマー等が挙げられる。フッ素系界面活性剤の市販品としては、例えば、BYK-340(ビックケミー・ジャパン社製)等が挙げられる。
【0111】
ポリオキシエチレン誘導体としては、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤等が挙げられる。ポリオキシエチレン誘導体の市販品としては、例えば、サーフィノール82、104、465、485、TG(いずれもエアープロダクツジャパン社製)、オルフィンSTG、E1010(いずれも日信化学社製)、ニッサンノニオンA-10R、A-13R(いずれも日油社製)、フローレンTG-740W、D-90(共栄社化学社製)、ノイゲンCX-100(第一工業製薬社製)等が挙げられる。
【0112】
消色インクが界面活性剤を含むものである場合、当該消色インク中における界面活性剤の含有量は、特に限定されないが、0.1質量%以上5.0質量%以下であるのが好ましく、0.2質量%以上4.0質量%以下であるのがより好ましく、0.3質量%以上3.5質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0113】
[1-2-4]その他の成分
消色インクは、上記以外の成分を含んでいてもよい。以下、この項目内において、このような成分のことを「その他の成分」とも言う。
【0114】
その他の成分としては、例えば、保湿剤、pH調整剤、キレート化剤、防腐剤・防かび剤、防錆剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、酸素吸収剤、浸透剤等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0115】
ただし、消色インク中におけるその他の成分の含有量は、10.0質量%以下であるのが好ましく、7.0質量%以下であるのがより好ましく、5.0質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0116】
[1-2-5]その他の条件
消色インクの25℃における粘度は、2mPa・s以上10mPa・s以下であるのが好ましく、3mPa・s以上8mPa・s以下であるのがより好ましく、4mPa・s以上6mPa・s以下であるのがさらに好ましい。
【0117】
これにより、例えば、消色インクのインクジェット法による吐出安定性がより優れたものとなる。
本発明のインクセットは、複数種の消色インクを備えていてもよい。
【0118】
[1-3]その他の構成
本発明のインクセットは、上述した有色インクおよび消色インクを備えていればよく、さらにその他の構成を有していてもよい。
【0119】
例えば、本発明のインクセットは、上述した有色インクおよび消色インクに加えて、ロイコ染料を含まず、ロイコ染料以外の色材を含むインクを少なくとも1種備えていてもよい。
【0120】
[2]記録方法
次に、本発明の記録方法について説明する。
本発明の記録方法は、消色剤を含有する消色インクを記録媒体に付着させる消色インク付着工程と、ロイコ染料と、顕色剤と、分散剤と、水と、を含有する水系のインクジェットインク組成物である有色インクを、インクジェットヘッドから吐出して記録媒体に付着させる有色インク付着工程と、を有する。そして、前記有色インク中において、前記ロイコ染料および前記顕色剤は、前記分散剤により分散された水分散体となっており、前記分散剤は、スチレン骨格またはナフタレン骨格を有し、重量平均分子量が10,000以上20,000以下であり、LogP値が3.7以上6.0以下である。
【0121】
これにより、有色インクのインクジェット法による吐出安定性および有色インクによる発色性を優れたものとし、所望のパターンの有色部を好適に形成することができるとともに、有色インクによる有色部を消色処理で好適に消色することが可能な記録物を好適に製造することができる、記録方法を提供することができる。特に、消色後の色残りを好適に防止することができ、消色後の記録媒体を好適に再利用することができる。
【0122】
本発明の記録方法では、前述した本発明のインクセットを用いることができる。言い換えると、消色インク付着工程では、上記[1-2]で説明した消色インクを用いることができ、有色インク付着工程では、上記[1-1]で説明した有色インクを用いることができる。
【0123】
[2-1]記録媒体
本発明の記録方法に用いられる記録媒体は、消色インクおよび有色インクが付着することができるものであれば、いかなるものであってもよく、その大きさ、形状、素材等は特に限定されない。
【0124】
記録媒体としては、例えば、各種紙、布帛、シート状、フィルム状、ブロック状等のプラスチック製品等が挙げられる。
【0125】
[2-2]消色インク付着工程
消色インク付着工程では、消色剤を含有する消色インクを記録媒体に付着させる。
本工程では、複数種の消色インクを用いてもよい。
【0126】
本工程において、消色インクは、有色インク付着工程で有色インクが付与されることが予定または想定されている部位のうちの少なくとも一部を含む部位に付与されるものであればよく、例えば、記録媒体の後の有色インク付着工程で有色インクが付与されることが予定されている側の面全体に付与されるものであってもよいし、前記面の一部に選択的に付与されるものであってもよい。
【0127】
前記面の一部に選択的に付与する場合、消色インクは、例えば、後の有色インク付着工程で有色インクが付与されることが予定されている部位全体に付与されるものであってもよい。
【0128】
これにより、消色インクの使用量を抑制しつつ、その後の消色工程で好適に有色部を消色することが可能となり、消色工程を経た記録媒体をより好適に再利用することができる。
【0129】
また、前記面の一部に選択的に付与する場合、消色インクは、例えば、後の有色インク付着工程で有色インクが付与されることが予定されている部位のうちの一部のみに付与されるものであってもよい。
【0130】
これにより、消色インクの使用量を抑制しつつ、その後の消色工程で、有色部の一部のみを選択的に消色し、新たなパターンの有色部を有する記録物を得ることができる。
【0131】
また、本工程では、後の有色インク付着工程で有色インクが付与されることが予定されている部位の少なくとも一部に加えて、後の有色インク付着工程で有色インクが付与されることが予定されていない部位の少なくとも一部に、消色インクを付与してもよい。
【0132】
消色インクの記録媒体への付与方法は、特に限定されず、例えば、浸漬法、各種塗布法、各種印刷法等が挙げられるが、インクジェット法が好ましい。
【0133】
これにより、記録媒体に対し、より高いオンデマンド性で、消色インクを好適に吐出・付与することができる。
【0134】
[2-3]第1の乾燥工程
本実施形態では、前述した消色インク付着工程と後述する有色インク付着工程との間に、記録媒体に付着した消色インクを乾燥する乾燥工程としての第1の乾燥工程をさらに有している。
【0135】
これにより、消色インク付着工程において消色インクを付着させた部位に、後の有色インク付着工程で有色インクを付着させる際に、有色インクによる有色部が不本意に消色してしまうことをより効果的に防止することができる。
【0136】
本工程は、記録媒体に付与された消色インク中に含まれる揮発性の液体成分、特に、水の少なくとも一部を除去することができれば、いかなる条件で行ってもよいが、例えば、加熱処理による乾燥、減圧環境下に置くことによる乾燥、乾燥ガスの吹き付けによる乾燥、自然乾燥等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上の方法を組み合わせて行うことができる。
【0137】
本工程において加熱処理を行う場合、本工程における消色インクが付与された記録媒体の表面温度は、40℃以上95℃以下であるのが好ましく、45℃以上90℃以下であるのがより好ましく、50℃以上80℃以下であるのがさらに好ましい。
【0138】
これにより、記録媒体の不本意な変性、劣化等をより効果的に防止しつつ、消色インクをより効率よく乾燥させることができ、記録物の生産性をより優れたものとすることができる。また、加熱処理に要するエネルギーが必要以上に増大することを防止することができるため、省エネルギーの観点からも好ましい。
【0139】
本工程において加熱処理を行う場合、加熱処理の処理時間は、5秒間以上120秒間以下であるのが好ましく、10秒間以上90秒間以下であるのがより好ましく、20秒間以上60秒間以下であるのがさらに好ましい。
【0140】
これにより、記録媒体の不本意な変性、劣化等をより効果的に防止しつつ、消色インクをより効率よく乾燥させることができ、記録物の生産性をより優れたものとすることができる。また、加熱処理に要するエネルギーが必要以上に増大することを防止することができるため、省エネルギーの観点からも好ましい。
【0141】
また、本工程は、前述した消色インク付着工程と同時進行的に行ってもよい。例えば、消色インクの付与をインクジェット法等の印刷法で行う場合に、記録媒体の所定の部位で消色インクによる印刷パターンの形成を行いつつ、記録媒体の他の部位で付着した消色インク中に含まれる水等の揮発性液体の除去を行ってもよい。より具体的には、例えば、記録媒体を加熱しつつ、消色インク付着工程を行うことにより、消色インク付着工程と第1の乾燥工程とを、好適に同時進行的に行うことができる。
【0142】
[2-4]有色インク付着工程
有色インク付着工程では、ロイコ染料と、顕色剤と、分散剤と、水と、を含有する水系のインクジェットインク組成物である有色インクを、インクジェットヘッドから吐出して記録媒体に付着させる。
本工程では、複数種の有色インクを用いてもよい。
【0143】
本工程では、例えば、記録媒体の各部位での有色インクの付与量が均一となるようなベタ印刷を行ってもよいし、記録媒体の各部位で付与量が異なるようにしてもよい。また、記録媒体上に有色インクを付与しない部位があってもよい。
【0144】
[2-5]第2の乾燥工程
本実施形態では、前述した有色インク付着工程の後に、記録媒体に付与された有色インクを乾燥する乾燥工程としての第2の乾燥工程をさらに有している。
【0145】
これにより、本発明の記録方法により製造される記録物の信頼性をより優れたものとすることができる。より具体的には、有色インクが付与された面で他の部材等と接触した場合等においても、有色インクによるパターンに乱れが生じることをより効果的に防止することができる。
【0146】
本工程は、記録媒体に付与された有色インク中に含まれる揮発性の液体成分、特に、水の少なくとも一部を除去することができれば、いかなる条件で行ってもよいが、例えば、加熱処理による乾燥、減圧環境下に置くことによる乾燥、乾燥ガスの吹き付けによる乾燥、自然乾燥等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上の方法を組み合わせて行うことができる。
【0147】
本工程において加熱処理を行う場合、本工程における有色インクが付与された記録媒体の表面温度は、40℃未満であるのが好ましい。
【0148】
これにより、有色インクによる有色部が不本意に消色してしまうことをより効果的に防止することができる。
【0149】
本工程において加熱処理を行う場合、加熱処理の処理時間は、5秒間以上120秒間以下であるのが好ましく、10秒間以上90秒間以下であるのがより好ましく、20秒間以上60秒間以下であるのがさらに好ましい。
【0150】
また、本工程は、前述した有色インク付着工程と同時進行的に行ってもよい。例えば、記録媒体の所定の部位で有色インクによる印刷パターンの形成を行いつつ、記録媒体の他の部位で付着した有色インク中に含まれる水等の揮発性液体の除去を行ってもよい。より具体的には、例えば、記録媒体を加熱しつつ、有色インク付着工程を行うことにより、有色インク付着工程と第2の乾燥工程とを、好適に同時進行的に行うことができる。
【0151】
[2-6]その他の工程
本発明の記録方法は、消色インク付着工程および有色インク付着工程を有していればよいが、さらに、前述した工程以外の工程を有していてもよい。
【0152】
例えば、本発明の記録方法は、ロイコ染料を含まずロイコ染料以外の色材を含むインクを、記録媒体上に付着させる工程をさらに有していてもよい。以下、このようなインクを「その他の着色インク」という。
【0153】
前記有色インクに加えて、その他の着色インクを用いる場合、記録媒体上において、これらのインクが重なるように付与してもよい。
【0154】
[3]記録物
前述した本発明の記録方法により、有色インクによるパターンが形成された記録物を得ることができる。
【0155】
本発明に係る記録物は、後述する処理方法での消色工程の処理を施すことにより有色インクによる有色部が消色するが、消色工程の処理を施す前においては、有色インクと消色インクとを重ねて付着させた部位においても、有色インクによる着色がなされた状態となっている。
【0156】
記録物の有色インクを付着させた部位におけるLab表示系におけるOD値は、0.3以上が好ましく、0.5以上がより好ましく、1.0以上がさらに好ましく、1.3以上が特に好ましい。上限は限るものではないが2.0以下が好ましい。
【0157】
記録物の有色インクと消色インクとを重ねて付着させた部位におけるLab表示系におけるOD値は、1.3以下が好ましく、1.2以下がより好ましく、1.0以下がさらに好ましく、0.9以下がよりさらに好ましく、0.5以下が特にこのましい。下限は0以上が好ましい。
【0158】
記録物の有色インクと消色インクとを重ねて付着させた部位におけるLab表示系におけるOD値の、消色処理前の記録物の有色インクを付着させた部位におけるLab表示系におけるOD値に対するOD値低減率は、10%以上が好ましく、30%以上がより好ましく、50%以上がさらに好ましく、90%以上が特に好ましい。上限は100%以下が好ましい。
【0159】
これにより、有色インクによる有色部の発色性をより優れたものとすることができる。
また、消色インクによる消色性をより優れたものとすることができる。
【0160】
[4]処理方法
次に、本発明の処理方法について説明する。
【0161】
本発明の処理方法は、有色インクおよび消色インクを付着させた記録媒体を加熱して、前記有色インクによる有色部を消色させる消色工程を備える方法、すなわち、消色方法である。そして、前記有色インクは、ロイコ染料と、顕色剤と、分散剤と、水と、を含有する水系のインクジェットインク組成物であり、前記有色インク中において、前記ロイコ染料および前記顕色剤は、前記分散剤により分散された水分散体となっており、前記分散剤は、スチレン骨格またはナフタレン骨格を有し、重量平均分子量が10,000以上20,000以下であり、LogP値が3.7以上6.0以下である。また、前記消色インクは、消色剤を含有するものである。
【0162】
これにより、発色性に優れた有色インクによる有色部を、好適に消色することができる処理方法を提供することができる。
【0163】
[4-1]有色インクおよび消色インクを付着させた記録媒体
消色工程に供される有色インクおよび消色インクを付着させた記録媒体は、いかなる方法で、有色インクおよび消色インクを付着させたものであってもよいが、例えば、前述した本発明の記録方法により消色インクおよび有色インクが付与された記録媒体を用いることができる。
【0164】
記録媒体に付着させた有色インクは、上記[1-1]で説明した条件を満たすものであるのが好ましく、記録媒体に付着させた消色インクは、上記[1-2]で説明した条件を満たすものであるのが好ましい。
【0165】
[4-2]消色工程
消色工程は、有色インクおよび消色インクを付着させた記録媒体を加熱することにより行う。
【0166】
消色工程における前記記録媒体の表面温度は、40℃以上80℃以下であるのが好ましく、45℃以上75℃以下であるのがより好ましく、50℃以上70℃以下であるのがさらに好ましい。
【0167】
これにより、記録媒体の不本意な変性、劣化等をより効果的に防止しつつ、有色インクによる有色部をより効果的に消色することができる。したがって、例えば、本発明の処理方法で得られた記録媒体、すなわち、有色インクによる有色部が消色された記録媒体を、より好適に再利用することができる。また、消色工程に要するエネルギーが必要以上に増大することを防止することができるため、省エネルギーの観点からも好ましい。
【0168】
消色工程での加熱処理の処理時間は、5秒間以上120秒間以下であるのが好ましく、10秒間以上90秒間以下であるのがより好ましく、20秒間以上60秒間以下であるのがさらに好ましい。
【0169】
これにより、記録媒体の不本意な変性、劣化等をより効果的に防止しつつ、有色インクによる有色部をより効果的に消色することができる。したがって、例えば、本発明の処理方法で得られた記録媒体、すなわち、有色インクによる有色部が消色された記録媒体を、より好適に再利用することができる。また、消色工程に要するエネルギーが必要以上に増大することを防止することができるため、省エネルギーの観点からも好ましい。
【0170】
本工程に供される記録媒体は、有色インクと消色インクとを重ねて付着させた部位を有するものであり、当該部位におけるLab表示系におけるOD値は、消色工程により、30%以上低減するものであるのが好ましい。
【0171】
このように有色インクによる有色部が高い消色率で消色されることにより、本発明による効果がより顕著に発揮される。また、消色後の記録媒体をより好適に再利用に供することができる。
【0172】
上記のように、消色工程による前記部位におけるLab表示系におけるOD値の低減率は、30%以上であるのが好ましいが、50%以上であるのがより好ましく、80%以上であるのがさらに好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0173】
本発明の処理方法により有色部が消色された記録媒体は、好適に再利用することができる。例えば、オフィスや家庭等において、インクジェットプリンター用の用紙として、好適に再利用することができる。
【0174】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0175】
例えば、前述した実施形態では、消色インク付着工程および有色インク付着工程に加えて、第1の乾燥工程、第2の乾燥工程を有する記録方法について説明したが、本発明の記録方法は、消色インク付着工程および有色インク付着工程を有していればよく、第1の乾燥工程、第2の乾燥工程のうちの少なくとも一方は省略してもよい。
【0176】
また、本発明の記録方法では、工程の順番を入れ替えて行ってもよい。より具体的には、前述した実施形態では、有色インク付着工程を消色インク付着工程よりも後に行う場合について代表的に説明したが、例えば、有色インク付着工程の後に消色インク付着工程を行ってもよい。
【0177】
また、本発明の処理方法は、消色工程に加えて、さらに、他の工程を有していてもよい。
【実施例0178】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
[5]有色インクの調製
(調製例A1)
まず、フルオラン類のロイコ染料であるS-205(山田化学工業社製)および顕色剤としてのビスフェノールAとを、加熱溶融し、冷却した後、乾式ボールミルで粉砕して色剤粉を作製した。
【0179】
この色剤粉と、ナフタレンスルホン酸/ブチルナフタレンスルホン酸共重合体である分散剤、すなわち、ナフタレン骨格を有する分散樹脂である分散剤としてのデモールSN-B(花王社製)と、pH調整剤としてのトリエタノールアミンと、純水とを、所定の割合で混合し、ハイシアミキサー(シルバーソン社製)にて3000rpmで撹拌してスラリー化した。
【0180】
その後、製造したスラリーと0.5mm径ガラスビーズをビーズミル(LMZ015 アシザワ・ファインテック社製)にて、水冷下、撹拌分散を行い、水性インクジェット用組成物としてのインクジェットインク製造用原液を製造した。
【0181】
このインクジェットインク製造用原液に、保湿剤としてのグリセリン、pH調整剤としてのトリエタノールアミンおよび純水を所定の割合で加えて、表1に示す組成の有色インクを調製した。
【0182】
有色インク中における、ロイコ染料と顕色剤との反応物の体積平均粒子径は、130nmであった。
【0183】
本調製例で用いた分散剤は、重量平均分子量が13,000であり、LogP値が6.0であった。
【0184】
(調製例A2~A15)
有色インクの調製に用いる成分の種類、使用量を変更することにより、表1に示す組成となるようにした以外は、前記調製例A1と同様にして有色インクを調製した。
【0185】
[6]消色インクの製造
(調製例B1)
グリコールエーテル化合物である消色剤、すなわち、重量平均分子量が1,200である消色剤としてのポリエチレングリコールモノメチルエーテルと、純水とを、所定の割合で混合することにより、表2に示す組成の消色インクを調製した。
【0186】
(調製例B2~B6)
消色インクの調製に用いる成分の種類、使用量を変更することにより、表2に示す組成となるようにした以外は、前記調製例B1と同様にして消色インクを調製した。
【0187】
前記各調製例で調製したインクの条件を表1、表2にまとめて示す。なお、表中、示したものは下記である。フルオラン類のロイコ染料であるS-205(山田化学工業社製)を「S205」、ナフタレン骨格を有する分散剤としてのナフタレンスルホン酸/ブチルナフタレンスルホン酸共重合体(花王社製、デモールSN-B、重量平均分子量:13,000、LogP値:6.0)を「D1」、スチレン骨格を有する分散剤としてのスチレン/スチレンスルホン酸共重合体(東ソー有機化学社製、ST5005、重量平均分子量:19,000、LogP値:4.6)を「D2」、スチレン骨格を有する分散剤としてのスチレン/マレイン酸共重合体(星光PMC社製、X220、重量平均分子量:13,000、LogP値:4.6)を「D3」、スチレン骨格を有する分散剤としてのスチレン/マレイン酸共重合体(星光PMC社製、BS2063、重量平均分子量:10,000、LogP値:4.6)を「D4」、スチレン骨格を有する分散剤としてのスチレン/アクリル酸共重合体(星光PMC社製、YS1274、重量平均分子量:19,000、LogP値:3.7)を「D5」、ナフタレン骨格を有する分散剤としてのβ-ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物(花王社製、デモールNL、重量平均分子量:3,500、LogP値:1.7)を「D1’」、ナフタレン骨格を有する分散剤としてのメチルナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物(花王社製、デモールMS、重量平均分子量:3,000、LogP値:2.2)を「D2’」、スチレン骨格もナフタレン骨格の有してない分散剤としてのジイソブチレン/マレイン酸共重合体(花王社製、デモールEP、重量平均分子量:7,500、LogP値:2.5)を「D3’」、スチレン骨格を有する分散剤としてのスチレン/アクリル酸共重合体(BASFジャパン社製、ジョンクリル678、重量平均分子量:8,500、LogP値:3.7)を「D4’」、ナフタレン骨格を有する分散剤としてのβ-ナフタレンスルホン酸ナトリウムホルマリン縮合物(第一工業製薬社製、セルフロー120、重量平均分子量:14,000、LogP値:1.7)を「D5’」、消色剤としての重量平均分子量が1,200、融点が40℃のポリエチレングリコールモノメチルエーテルを「MPEG1200」、消色剤としての重量平均分子量が2,000、融点が52℃のポリエチレングリコールモノメチルエーテルを「MPEG2000」、消色剤としての重量平均分子量が5,000、融点が60℃のポリエチレングリコールモノメチルエーテルを「MPEG5000」、消色剤としての重量平均分子量が1,000、融点が40℃のポリエチレングリコールを「PEG1000」、pH調整剤としてのトリエタノールアミンを「TEA」、重量平均分子量を「Mw」。
【0188】
表1、表2中における各成分の含有量の単位は、質量%である。なお、前記各調製例で調製したインクの25℃における粘度は、いずれも、2mPa・s以上10mPa・s以下の範囲内の値であった。また、前記調製例A1~A15で調製した有色インクの25℃におけるpHは、いずれも、3.0以上11.0以下の範囲内の値であった。
【0189】
【0190】
【0191】
[7]インクセットの製造
(実施例1)
前記調製例A1で得られた有色インクと、調製例B1で得られた消色インクとを組み合わせて、インクセットを得た。
【0192】
(実施例2~13)
有色インクと消色インクとの組み合わせを表3に示すように変更した以外は、前記実施例1と同様にしてインクセットを得た。
【0193】
(比較例1~6)
有色インクと消色インクとの組み合わせを表3に示すように変更した以外は、前記実施例1と同様にしてインクセットを得た。
【0194】
[8]評価
前記各実施例および各比較例のインクセットについて、以下のような評価を行った。
【0195】
[8-1]吐出安定性
まず、前記各実施例および各比較例のインクセットを構成する有色インクおよび消色インクを、それぞれ、インクジェット記録装置用のインクカートリッジに注入した後、これらのインクカートリッジを記録装置(インクジェットプリンター、セイコーエプソン社製、PXG930)に装着した。
【0196】
その後、全ノズルが正常に吐出することを確認し、50℃60%RHの環境下で、60分の連続消色印字を実施した後の、ノズル抜け数をカウントして、以下の基準に従い評価した。ノズル抜けが少ないほど、すなわち、正常ノズルが多いほど、吐出安定性に優れていると言える。
【0197】
A:全ノズル抜けなし。
B:正常ノズルが90%以上100%未満。
C:正常ノズルが70%以上90%未満。
D:正常ノズルが50%以上70%未満。
E:正常ノズルが50%未満。
【0198】
[8-2]発色性
インクジェット記録装置:PX-H6000(セイコーエプソン社製)を用いて、以下に示すテストを行った。
すなわち、前記各実施例および各比較例のインクセットを構成する有色インクおよび消色インクを、それぞれ、PX-H6000用のインクカートリッジに注入した後、これらのインクカートリッジをPX-H6000に装着した。
【0199】
その後、全ノズルが正常に吐出することを確認し、次いで、消色インクを用いて、記録媒体である普通紙(P紙、富士ゼロックス社製)に、ベタ印刷を行った。その後、25℃の室内において30分間放置するという条件で乾燥し、次に、有色インクを用いて、消色インクが付着した記録媒体に、ベタ印刷を行った。その後、25℃の室内において一昼夜風乾し、記録物を得た。
【0200】
上記のようにして得られた前記各実施例および各比較例に係る記録物について、測色機FD-7.5(コニカミノルタ社製)を用いて、消色インクのベタ印刷と有色インクのベタ印刷とを重ねて行った部位を反射測定により測色し、Lab表示系におけるOD値を測定し、以下の基準に従い評価した。この値が大きいほど、有色インクによる発色性に優れていると言える。
【0201】
A:OD値が1.3以上。
B:OD値が1.0以上1.3未満。
C:OD値が0.5以上1.0未満。
D:OD値が0.3以上0.5未満。
E:OD値が0.3未満。
【0202】
なお、測色は、照明条件:M1[D7.50]、濃度白色基準:絶対値、観察視野:2°、観察光源:D7.50、偏向フィルター:非装着という条件で行い、OD値としては、n=1回の平均値を使用した。
【0203】
[8-3]消色性
上記[8-2]で得られた各記録物について、記録物の消色インクおよび有色インクが付与された面の表面温度が表3に示す温度となるように、90秒間ヒートプレスする消色処理を行った。
【0204】
その後、測色機FD-7.5(コニカミノルタ社製)を用いて、消色インクのベタ印刷と有色インクのベタ印刷とを重ねて行った部位を反射測定により測色し、上記[8-2]で説明したのと同様の条件でLab表示系におけるOD値を測定し、これらの測定結果から、消色処理の前後でのOD値の比を求め、以下の基準に従い評価した。OD低減率が大きいほど、消色性に優れていると言える。
【0205】
A:OD低減率が90%以上。
B:OD低減率が50%以上90%未満。
C:OD低減率が30%以上50%未満。
D:OD低減率が10%以上30%未満。
E:OD低減率が10%未満。
【0206】
これらの結果を、前記各実施例および各比較例のインクセットを構成するインクの組み合わせとともに、表3にまとめて示す。
【0207】
【0208】
表3から明らかなように、本発明では優れた結果が得られた。これに対し、比較例では、満足のいく結果が得られなかった。
【0209】
また、ロイコ染料として、フルオラン類のロイコ染料であるS-205(山田化学工業社製)の代わりに、トリフェニルメタンフタリド類であるCVL、ローダミンラクタム類であるローダミンBを用いた以外は、前記実施例と同様にして、有色インクを調製し、前記と同様に評価を行ったところ、前記と同様に優れた結果が得られた。
【0210】
また、顕色剤として、ビスフェノールAの代わりに、ヒドロキシアセトフェノン類であるp-ヒドロキシアセトフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン類であるp-ヒドロキシアセトフェノンp-ヒドロキシベンゾフェノンを用いた以外は、前記実施例と同様にして、有色インクを調製し、前記と同様に評価を行ったところ、前記と同様に優れた結果が得られた。