(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121186
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】光学デバイスおよび分光装置
(51)【国際特許分類】
G01J 3/45 20060101AFI20240830BHJP
【FI】
G01J3/45
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028147
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】山田 耕平
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼砂 祥一
【テーマコード(参考)】
2G020
【Fターム(参考)】
2G020CA01
2G020CA04
2G020CA12
2G020CB23
2G020CC22
2G020CC26
2G020CC47
2G020CC55
2G020CD04
2G020CD16
2G020CD24
2G020CD35
2G020CD36
2G020CD37
(57)【要約】
【課題】光学系の省スペース化および低消費電力化が図られている光学デバイス、および、小型化および低消費電力化が図られている分光装置を提供すること。
【解決手段】入射光学系、分析光学系、および、測長光学系、を備える光学デバイスであって、入射光学系は、レーザー光源と、レーザー光を分割する入射光分割素子と、を備え、分析光学系は、第1分割光を分割した後、混合する第1光分割素子と、移動かつ反射させることにより、一方の前記第1分割光に第1変調信号を付加する第1ミラーと、第2ミラーと、試料由来信号および第1変調信号を含む第1分割光を受光する第1受光素子と、を備え、測長光学系は、第2分割光を分割した後、混合する第2光分割素子と、一方の第2分割光を第2光分割素子に帰還させる光帰還部と、第1ミラーで生成された変位信号を含む第2分割光を受光する第2受光素子と、を備えることを特徴とする光学デバイス。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射光学系、分析光学系、および、測長光学系、を備える光学デバイスであって、
前記入射光学系は、
レーザー光を射出するレーザー光源と、
前記レーザー光を第1分割光および第2分割光に分割する入射光分割素子と、
を備え、
前記分析光学系は、
前記第1分割光を一方および他方に分割した後、一方の前記第1分割光および他方の前記第1分割光を混合する第1光分割素子と、
一方の前記第1分割光の入射方向に移動し、かつ、一方の前記第1分割光を反射させることにより、一方の前記第1分割光に第1変調信号を付加する第1ミラーと、
他方の前記第1分割光を反射させる第2ミラーと、
前記第1分割光と試料との作用により生成された試料由来信号、および、前記第1変調信号、を含む前記第1分割光を受光し、第1受光信号を出力する第1受光素子と、
を備え、
前記測長光学系は、
前記第2分割光を一方および他方に分割した後、一方の前記第2分割光および他方の前記第2分割光を混合する第2光分割素子と、
前記第2光分割素子から射出された一方の前記第2分割光を前記第2光分割素子に帰還させる光帰還部と、
他方の前記第2分割光が前記第1ミラーで反射して生成された変位信号を含む前記第2分割光を受光し、第2受光信号を出力する第2受光素子と、
を備えることを特徴とする光学デバイス。
【請求項2】
前記光帰還部は、一方の前記第2分割光を前記第2光分割素子に向けて反射させる光反射器を有する請求項1に記載の光学デバイス。
【請求項3】
前記光帰還部は、駆動信号により駆動され、一方の前記第2分割光に第2変調信号を付加する光変調器を有する請求項1に記載の光学デバイス。
【請求項4】
前記光変調器は、前記駆動信号により振動する振動素子を備え、振動する前記振動素子で一方の前記第2分割光を反射させることにより、一方の前記第2分割光に前記第2変調信号を付加する請求項3に記載の光学デバイス。
【請求項5】
前記振動素子は、水晶振動子、シリコン振動子またはセラミック振動子である請求項4に記載の光学デバイス。
【請求項6】
前記第1分割光の波長を変換する波長変換素子を備える請求項1ないし5のいずれか1項に記載の光学デバイス。
【請求項7】
前記第1分割光を一方および他方に分割した後、前記波長変換素子で波長が変換された一方の前記第1分割光と、他方の前記第1分割光と、を合成する光合成部を備える請求項6に記載の光学デバイス。
【請求項8】
回転することにより、前記第1分割光の偏光比を変化させる回転位相差板を備える請求項7に記載の光学デバイス。
【請求項9】
前記レーザー光源は、半導体レーザー素子である請求項1ないし5のいずれか1項に記載の光学デバイス。
【請求項10】
請求項1に記載の光学デバイスと、
基準信号を出力する信号生成部と、
前記基準信号に基づいて、前記第2受光信号に演算を行うことにより、前記第1ミラーの位置を示す移動ミラー位置信号を生成する移動ミラー位置演算部と、
前記第1受光信号および前記移動ミラー位置信号に基づいて、前記第1ミラーの各位置における前記第1受光信号の強度を表す波形を生成する光強度演算部と、
前記波形にフーリエ変換を行い、スペクトル情報を取得するフーリエ変換部と、
を備えることを特徴とする分光装置。
【請求項11】
前記光帰還部は、一方の前記第2分割光に第2変調信号を付加する光変調器を有し、
前記光変調器は、駆動信号により振動する振動素子を備え、振動する前記振動素子で一方の前記第2分割光を反射させることにより、一方の前記第2分割光に前記第2変調信号を付加するように構成されており、
前記信号生成部は、前記振動素子を信号源として動作する発振回路を備え、前記基準信号および前記駆動信号を出力する請求項10に記載の分光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学デバイスおよび分光装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、試料が放射または吸収する光のスペクトル情報を取得し、それに基づいて試料中の成分等を分析する分光分析に用いられる光学デバイスが開示されている。この光学デバイスは、ミラーユニットと、ビームスプリッターユニットと、第1光検出器と、第2光源と、第2光検出器と、を備えている。ミラーユニットは、所定方向に移動する可動ミラーと、位置が固定された固定ミラーと、を含んでいる。このような光学デバイスでは、ビームスプリッターユニット、可動ミラーおよび固定ミラーによって、測定光およびレーザー光がそれぞれ入射される干渉光学系が構成される。
【0003】
第1光源から測定対象を介して入射した測定光は、ビームスプリッターユニットにおいて分割される。分割された測定光の一部は、可動ミラーで反射されてビームスプリッターユニットに戻る。分割された測定光の残部は、固定ミラーで反射されてビームスプリッターユニットに戻る。ビームスプリッターユニットに戻った測定光の一部および残部は、干渉光として第1光検出器によって検出される。
【0004】
一方、第2光源から射出されたレーザー光は、ビームスプリッターにおいて分割される。分割されたレーザー光の一部は、可動ミラーで反射されてビームスプリッターユニットに戻る。分割されたレーザー光の残部は、固定ミラーで反射されてビームスプリッターユニットに戻る。ビームスプリッターユニットに戻ったレーザー光の一部および残部は、干渉光として第2光検出器によって検出される。
【0005】
このような光学デバイスでは、レーザー光の干渉光の検出結果に基づいて、可動ミラーの位置の計測が可能になる。そして、可動ミラーの位置の計測結果および測定光の干渉光の検出結果に基づいて、測定対象についての分光分析が可能になる。具体的には、可動ミラーの各位置における測定光の強度を求めることにより、インターフェログラムと呼ばれる波形が得られる。このインターフェログラムをフーリエ変換することにより、測定対象についてのスペクトル情報を求めることができる。したがって、特許文献1に記載の光学デバイスは、FTIR(フーリエ変換型赤外分光分析器)に用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の光学デバイスで分光分析器を構成する場合、測定光(分析光)を射出する第1光源と、レーザー光(測長光)を射出する第2光源と、を用いる必要がある。このため、2つの光源に必要なスペースおよび電力を確保する必要があり、また、構造も複雑になる。その結果、分光分析器の大型化、高消費電力化および高コスト化を招いている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の適用例に係る光学デバイスは、
入射光学系、分析光学系、および、測長光学系、を備える光学デバイスであって、
前記入射光学系は、
レーザー光を射出するレーザー光源と、
前記レーザー光を第1分割光および第2分割光に分割する入射光分割素子と、
を備え、
前記分析光学系は、
前記第1分割光を一方および他方に分割した後、一方の前記第1分割光および他方の前記第1分割光を混合する第1光分割素子と、
一方の前記第1分割光の入射方向に移動し、かつ、一方の前記第1分割光を反射させることにより、一方の前記第1分割光に第1変調信号を付加する第1ミラーと、
他方の前記第1分割光を反射させる第2ミラーと、
前記第1分割光と試料との作用により生成された試料由来信号、および、前記第1変調信号、を含む前記第1分割光を受光し、第1受光信号を出力する第1受光素子と、
を備え、
前記測長光学系は、
前記第2分割光を一方および他方に分割した後、一方の前記第2分割光および他方の前記第2分割光を混合する第2光分割素子と、
前記第2光分割素子から射出された一方の前記第2分割光を前記第2光分割素子に帰還させる光帰還部と、
他方の前記第2分割光が前記第1ミラーで反射して生成された変位信号を含む前記第2分割光を受光し、第2受光信号を出力する第2受光素子と、
を備える。
【0009】
本発明の適用例に係る分光装置は、
本発明の適用例に係る光学デバイスと、
基準信号を出力する信号生成部と、
前記基準信号に基づいて、前記第2受光信号に演算を行うことにより、前記第1ミラーの位置を示す移動ミラー位置信号を生成する移動ミラー位置演算部と、
前記第1受光信号および前記移動ミラー位置信号に基づいて、前記第1ミラーの各位置における前記第1受光信号の強度を表す波形を生成する光強度演算部と、
前記波形にフーリエ変換を行い、スペクトル情報を取得するフーリエ変換部と、
を備える。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態に係る分光装置を示す概略構成図である。
【
図2】
図1の分析光学系、測長光学系、信号生成部および演算装置の各主要部を示す模式図である。
【
図3】
図1に示す光学デバイスで取得される第1受光信号F(t)および第2受光信号S2の一例を示す図である。
【
図4】インターフェログラムF(x)の一例を示す図である。
【
図5】
図3に示す第2受光信号S2の部分拡大図である。
【
図6】第1実施形態の第1変形例に係る分光装置を示す概略構成図である。
【
図7】第1実施形態の第2変形例に係る分光装置を示す概略構成図である。
【
図8】第2実施形態に係る分光装置を示す概略構成図である。
【
図9】
図8の分析光学系、測長光学系、信号生成部および演算装置の各主要部を示す模式図である。
【
図10】
図8に示す光学デバイスで取得される第1受光信号F(t)および移動ミラー位置信号X(t)の一例を示す図である。
【
図11】分析光として波長400nmの光(可視光)を用いた場合の、移動ミラーの位置の計測誤差とスペクトルパターンにおける分光波数の誤差(分光波数精度)および分光波長の誤差(分光波長精度)との関係を示すグラフである。
【
図12】分析光として波長200nmの光(紫外線)を用いた場合の、移動ミラーの位置の計測誤差とスペクトルパターンにおける分光波数の誤差(分光波数精度)および分光波長の誤差(分光波長精度)との関係を示すグラフである。
【
図13】移動ミラーの位置の計測間隔とスペクトルパターンにおける最大計測波数および最小計測波長との関係を示すグラフである。
【
図14】第3実施形態に係る分光装置を示す概略構成図である。
【
図15】
図14の分析光学系、測長光学系、信号生成部および演算装置の各主要部を示す模式図である。
【
図17】
図14に示す振動素子の他の構成例を示す斜視図である。
【
図18】第3実施形態の第1変形例に係る分光装置が備える分析光学系、測長光学系、信号生成部および演算装置の各主要部を示す模式図である。
【
図19】第3実施形態の第2変形例に係る分光装置が備える分析光学系、測長光学系、信号生成部および演算装置の各主要部を示す模式図である。
【
図20】
図19に示す模式図のうち、補正処理部について詳細に示す図である。
【
図21】光変調器からの出力信号を取得する回路の一例を示す図である。
【
図22】第3実施形態の第3変形例に係る分光装置が備える分析光学系、測長光学系、信号生成部および演算装置の各主要部を示す模式図である。
【
図23】
図22に示す模式図のうち、信号生成部について詳細に示す図である。
【
図24】第4実施形態に係る分光装置を示す概略構成図である。
【
図25】蛍光体が波長405nmの光で励起され、450~650nmの波長を持つ蛍光を発するときの、励起スペクトルEX1および発光スペクトルLU1の例である。
【
図26】第4実施形態の第1変形例に係る分光装置を示す概略構成図である。
【
図27】蛍光体が波長405nmの光で励起され、500~700nm超の波長を持つ蛍光を発するときの、励起スペクトルEX1および発光スペクトルLU2の例である。
【
図28】第4実施形態の第2変形例に係る分光装置を示す概略構成図である。
【
図29】
図25に示す発光スペクトルLU1の蛍光と、
図27に示す発光スペクトルLU2の蛍光とを、合成比を5段階に変えながら合成するとき、合成発光スペクトルMXの変化の例を比較した図である。
【
図30】第4実施形態の第3変形例に係る分光装置を示す概略構成図である。
【
図31】第4実施形態の第4変形例に係る分光装置を示す概略構成図である。
【
図32】
図25に示す発光スペクトルLU1と、波長フィルターの透過波長帯域BAと、が重なっている様子、および、波長フィルターを透過した分析光のスペクトルLU3、を示す図である。
【
図33】第4実施形態の第5変形例に係る分光装置を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の光学デバイスおよび分光装置を添付図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0012】
1.第1実施形態
まず、第1実施形態に係る光学デバイスおよび分光装置について説明する。
図1は、第1実施形態に係る分光装置100を示す概略構成図である。
【0013】
図1に示す分光装置100では、レーザー光を被検体である試料9に照射し、試料9から放射された光をマイケルソン型干渉光学系に入射させる、そして、マイケルソン型干渉光学系で得られる干渉光の強度変化を検出することにより、インターフェログラムを取得する。取得したインターフェログラムをフーリエ変換することにより、試料9に由来する情報を含むスペクトルパターンが得られる。レーザー光の波長を選択することにより、
図1に示す分光装置100は、例えば試料9に対するフーリエ型ラマン分光分析、フーリエ型蛍光分光分析のようなレーザー励起分光分析に適用可能である。
【0014】
分光装置100は、光学デバイス1と、信号生成部8と、演算装置7と、を備える。
このうち、光学デバイス1は、
図1に示すように、入射光学系5、分析光学系3、および、測長光学系4を備える。
【0015】
入射光学系5は、レーザー光源51から射出される射出光L0(レーザー光)を、分析光L1(第1分割光)および測長光L2(第2分割光)の2つに分割する。
図1に示す入射光学系5では、分析光L1を試料9に入射させ、試料9から放射された分析光L1を分析光学系3に入射させる。また、入射光学系5は、測長光L2を測長光学系4に入射させる。
【0016】
分析光学系3では、分析光L1から試料9に由来する試料由来信号を取り出せるように、分析光L1の光路長を変化させながら、分析光L1の分割および合成を行い、干渉を生じさせる。
測長光学系4では、測長光L2を用いて、分析光L1の光路長の変化を測定する。
【0017】
信号生成部8は、演算装置7に向けて基準信号Ssを出力する機能を有する。演算装置7は、分析光学系3から出力された干渉光の強度を表す信号および測長光学系4から出力された光路長の変化を表す信号に基づいて、光路長に対する干渉光の強度を表す波形、すなわち前述したインターフェログラムを求める機能を有する。また、演算装置7は、インターフェログラムにフーリエ変換を行い、試料9に由来する情報を含むスペクトルパターンを取得する機能を有する。
【0018】
1.1.光学デバイス
まず、第1実施形態に係る光学デバイス1について説明する。
【0019】
光学デバイス1は、前述したように、入射光学系5、分析光学系3、および、測長光学系4を備える。
【0020】
1.1.1.入射光学系
入射光学系5は、レーザー光源51、バンドパスフィルター52、ビームスプリッター531(入射光分割素子)、ビームスプリッター54、集光レンズ55および減光フィルター56を備える。なお、入射光学系5は、上記の光学要素の一部が省略されていてもよいし、上記以外の光学要素を備えていてもよいし、上記の光学要素が同等の機能を有する他の光学要素で置換されていてもよい。
【0021】
レーザー光源51は、ラマン分光や蛍光分光等の目的に応じて適宜選択されるが、スペクトル線幅の狭い光を射出する光源が好ましく用いられる。レーザー光源51としては、例えば、He-Neレーザー、Arレーザーのようなガスレーザー、DFB-LD(Distributed FeedBack - Laser Diode:分布帰還型レーザーダイオード)、FBG-LD(Fiber Bragg Grating - Laser Diode:ファイバーブラッググレーティング付きレーザーダイオード)、VCSEL(Vertical Cavity Surface Emitting Laser:垂直共振器面発光レーザーダイオード)、FP-LD(Fabry-Perot Laser Diode:ファブリーペロー型半導体レーザーダイオード)のような半導体レーザー素子、YAG(Yttrium Aluminum Garnet)のような結晶レーザー等が挙げられる。
【0022】
レーザー光源51は、特に半導体レーザー素子であるのが好ましい。これにより、光学デバイス1および分光装置100の小型化および軽量化を図ることができる。
【0023】
バンドパスフィルター52は、レーザー光源51から射出される射出光L0(レーザー光)を、余分な波長の光をカットして透過させる。バンドパスフィルター52を透過した射出光L0は、ビームスプリッター531で、分析光L1(第1分割光)と測長光L2(第2分割光)の2つのレーザー光に分割される。ビームスプリッター531には、例えば、無偏光ビームスプリッターが用いられるが、偏光ビームスプリッターが用いられてもよい。この場合、必要な波長板を適宜追加すればよい。
【0024】
分析光L1は、ビームスプリッター54を透過し、集光レンズ55で集光されて、試料9に照射される。試料9から放射された分析光L1は、分析光L1と試料9との作用により生成された試料由来信号を含んでいる。試料9から放射された分析光L1は、集光レンズ55を経て、ビームスプリッター54で反射され、減光フィルター56を通過する。このとき、ラマン散乱光や蛍光等の試料由来信号が選択的に透過する。つまり、試料9に照射される分析光L1の波長を「第1波長」とするとき、減光フィルター56は、第1波長の光を選択的に減衰させる。これにより、試料由来信号のS/N比(信号対雑音比)を高めることができ、分光分析をより精度よく行うことができる。減光フィルター56としては、例えば、光学濃度(OD値)が6.0以上のノッチフィルター、ロングパスフィルター等が挙げられる。減光フィルター56を通過した分析光L1は、分析光学系3に入射される。
【0025】
ビームスプリッター54には、例えば、無偏光ビームスプリッターが用いられるが、偏光ビームスプリッターが用いられてもよい。この場合、必要な波長板を適宜追加すればよい。
測長光L2は、ビームスプリッター531で反射され、測長光学系4に入射される。
【0026】
1.1.2.分析光学系
分析光学系3は、マイケルソン型干渉光学系であり、ビームスプリッター32(第1光分割素子)、移動ミラー33、固定ミラー34、集光レンズ35、および、第1受光素子36を備える。なお、分析光学系3は、上記の光学要素の一部が省略されていてもよいし、上記以外の光学要素を備えていてもよいし、上記の光学要素が同等の機能を有する他の光学要素で置換されていてもよい。
【0027】
ビームスプリッター32は、分析光L1を2つの分析光L1a、L1bに分割する無偏光ビームスプリッターである。具体的には、ビームスプリッター32は、分析光L1の一部を分析光L1aとして移動ミラー33に向けて反射させ、分析光L1の他部を分析光L1bとして固定ミラー34に向けて透過させることにより、分析光L1を2つに分割する機能を有する。
【0028】
ビームスプリッター32の種類としては、例えば、
図1に示すプリズム型素子(キューブ型素子)の他、プレート型素子、積層型素子等が挙げられる。プレート型のビームスプリッター32を用いた場合には、分析光L1aと分析光L1bとで波長分散が生じるので、必要に応じて、ビームスプリッター32と固定ミラー34との間に、波長分散補償板を配置するようにしてもよい。波長分散補償板は、硝材の光路長差による波長分散を補償する光学要素である。本実施形態では、ビームスプリッター32としてプリズム型素子が用いられているので、この波長分散補償板は不要である。プリズム型素子は、プリズム同士の間に光学薄膜が挟まれた形態の素子である。また、積層型素子は、2枚の透明平板の間に光学薄膜が挟まれた形態の素子である。積層型素子でも、プリズム型素子と同様、波長分散補償板を不要にできる。また、プリズム型素子や積層型素子では、光学薄膜が露出しないので、ビームスプリッター32の長期信頼性を高めることができる。
【0029】
また、ビームスプリッター32は、移動ミラー33で反射された分析光L1aを第1受光素子36に向けて透過させ、固定ミラー34で反射された分析光L1bを第1受光素子36に向けて反射させる。したがって、ビームスプリッター32は、分割された分析光L1a、L1bを混合する機能を有する。
【0030】
移動ミラー33は、ビームスプリッター32に対して分析光L1aの入射方向に移動し、かつ、分析光L1aを反射させる鏡である。移動ミラー33で反射した分析光L1aは、移動ミラー33の位置に応じた変位信号を含む。したがって、移動ミラー33は、分析光L1aに第1変調信号を付加する。
【0031】
移動ミラー33を移動させる図示しない移動機構としては、特に限定されないが、例えば、1軸リニアステージ、ピエゾ駆動装置、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を用いたマイクロアクチュエーター等が挙げられる。このうち、1軸リニアステージは、例えば、ボイスコイルモーター(VCM)またはボールねじ駆動部とリニアガイド機構とを備えることで、移動ミラー33の移動において良好な並進性を実現することができる。
【0032】
固定ミラー34は、ビームスプリッター32に対して位置が固定され、分析光L1bを反射させる鏡である。固定ミラー34で反射した分析光L1bは、ビームスプリッター32で分析光L1aと混合され、干渉光として第1受光素子36で受光される。分析光学系3では、移動ミラー33の位置に応じて、分析光L1aの光路と、分析光L1bの光路と、の間に光路差が生じる。このため、干渉光の干渉状態は、移動ミラー33の位置に応じて変化する。
【0033】
移動ミラー33および固定ミラー34は、それぞれ平板ミラーであってもよいし、コーナーキューブミラーであってもよい。各ミラーの反射面には、Al、Au、Agのような金属を用いたメタルコート、誘電体多層膜等が成膜されていてもよい。また、移動ミラー33について、「分析光の入射方向に移動」は、分析光の入射方向の成分を含む方向に移動することを含む。したがって、移動ミラー33は、入射方向に対して斜めに傾いた方向(非平行な方向)に移動してもよい。その場合、演算装置7は、移動ミラー33が分析光の入射方向に対して斜めに傾いた影響を除去する機能を有していればよい。さらに、固定ミラー34も移動するように構成されていてもよい。その場合、演算装置7は、固定ミラー34が移動した影響を除去する機能を有していればよい。
【0034】
集光レンズ35は、干渉光、すなわち混合された分析光L1a、L1bを第1受光素子36に集光させる。
【0035】
第1受光素子36は、干渉光を受光し、その強度を取得する。そして、強度の時間変化を示す信号を第1受光信号F(t)として出力する。この第1受光信号F(t)は、分析光L1と試料9との相互作用により生成された試料由来信号と、前述した第1変調信号と、を含む信号である。試料由来信号とは、例えば、分析光L1が試料9に作用したとき、試料9による特定波長の光吸収等が挙げられる。第1変調信号は、移動ミラー33の移動に伴って分析光L1aに付加される位相の変化である。
【0036】
第1受光素子36としては、例えば、フォトダイオード、フォトトランジスター等が挙げられる。このうち、フォトダイオードとしては、例えば、InGaAs系フォトダイオード、Si系フォトダイオード、アバランシェ型フォトダイオード等が挙げられる。
【0037】
1.1.3.測長光学系
測長光学系4は、マイケルソン型干渉光学系であり、第2光分割素子42、光帰還部43、および、第2受光素子45を備える。なお、測長光学系4は、上記の光学要素の一部が省略されていてもよいし、上記以外の光学要素を備えていてもよいし、上記の光学要素が同等の機能を有する他の光学要素で置換されていてもよい。
【0038】
第2光分割素子42は、ビームスプリッター422、1/2波長板46、1/4波長板47、1/4波長板48、および、検光子49を備える。
【0039】
ビームスプリッター422は、P偏光を透過させ、S偏光を反射させる偏光ビームスプリッターである。1/2波長板46は、その透過軸が、測長光L2の偏光軸に対して回転した状態で配置されている。これにより、測長光L2は、1/2波長板46を通過することにより、P偏光とS偏光とを含む直線偏光になり、ビームスプリッター422でP偏光とS偏光の2つに分割される。P偏光である測長光L2aは、1/4波長板48で円偏光に変換され、光帰還部43に入射する。光帰還部43は、測長光L2aを反射させることにより、ビームスプリッター422に帰還させる。このとき、測長光L2aは、1/4波長板48でS偏光に変換される。一方、S偏光である測長光L2bは、1/4波長板47で円偏光に変換され、移動ミラー33に入射する。移動ミラー33は、測長光L2bを反射させる。これにより、移動ミラー33は、測長光L2bに移動ミラー33の位置に応じた変位信号を付加する。移動ミラー33で反射した測長光L2bは、ビームスプリッター422に戻る。このとき、測長光L2bは、1/4波長板47でP偏光に変換される。なお、
図1に示す測長光学系4は、前述した分析光学系3において分析光L1aが入射する移動ミラー33の面とは異なる面に、測長光L2bが入射するように構成されている。
【0040】
また、ビームスプリッター422は、光帰還部43から帰還した測長光L2aを第2受光素子45に向けて反射させ、移動ミラー33で反射された測長光L2bを第2受光素子45に向けて透過させる。したがって、ビームスプリッター422は、分割された測長光L2a、L2bを混合する機能を有する。混合された測長光L2a、L2bは、検光子49を透過し、第2受光素子45に入射する。
【0041】
なお、ビームスプリッター422には、偏光ビームスプリッターに代えて無偏光ビームスプリッターを用いるようにしてもよい。この場合、波長板等が不要となるため、部品点数の削減による光学デバイス1の小型化を図ることができる。
【0042】
光帰還部43は、光反射器442を備え、ビームスプリッター422を透過して入射された光を反射させ、ビームスプリッター422に帰還させる。光反射器442は、例えばミラーで構成される。これにより、光帰還部43の構成を簡素化でき、光学デバイス1の小型化に寄与できる。
【0043】
第2受光素子45は、混合された測長光L2a、L2bを干渉光として受光し、その強度を取得する。そして、強度の時間変化を示す信号を第2受光信号S2として出力する。この第2受光信号S2は、移動ミラー33の変位信号を含む信号である。変位信号は、移動ミラー33の位置に応じて測長光L2bに付加される位相の変化である。
【0044】
第2受光素子45としては、例えば、フォトダイオード、フォトトランジスター等が挙げられる。
【0045】
以上、入射光学系5、分析光学系3および測長光学系4について説明したが、これらが備える各光学要素のうち、光を入射させる必要がある光学要素については、反射防止処理が施されているのが好ましい。これにより、第1受光信号F(t)および第2受光信号S2のS/N比を高めることができる。
【0046】
また、上述した分析光学系3および測長光学系4では、いずれも、入射光学系5が備える1つのレーザー光源51から射出された射出光L0が光干渉に用いられている。このため、2つの光源を用いる必要がなく、光学系の省スペース化、低消費電力化および構造の簡素化を図ることができる。したがって、上記の光学デバイス1によれば、小型で消費電力が少なく、かつ低コストの分光装置100を実現することができる。
【0047】
1.2.信号生成部
図2は、
図1の分析光学系3、測長光学系4、信号生成部8および演算装置7の各主要部を示す模式図である。
【0048】
図2に示す信号生成部8は、周期信号を生成し、基準信号Ssとして出力する。信号生成部8としては、例えば、ファンクションジェネレーター、シグナルジェネレーター、数値制御型信号発生器等が挙げられる。演算装置7では、基準信号Ssに基づいて移動ミラー33の位置を示す移動ミラー位置信号X(t)を生成する。
【0049】
1.3.演算装置
図1および
図2に示す演算装置7は、移動ミラー位置演算部72、光強度演算部74、および、フーリエ変換部76を有する。これらの機能部が発揮する機能は、例えば、プロセッサー、メモリー、外部インターフェース、入力部、表示部等を備えるハードウェアによって実現される。具体的には、メモリーに格納されているプログラムをプロセッサーが読み出し、実行することによって実現される。なお、これらの構成要素は、外部バスによって互いに通信可能になっている。
【0050】
プロセッサーとしては、例えば、CPU(Central Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)等が挙げられる。なお、これらのプロセッサーがソフトウェアを実行する方式に代えて、FPGA(Field-Programmable Gate Array)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)等が上述した機能を実現する方式を採用するようにしてもよい。
【0051】
メモリーとしては、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)、ROM(Read-Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等が挙げられる。
【0052】
外部インターフェースとしては、例えば、USB(Universal Serial Bus)等のデジタル入出力ポート、イーサネット(登録商標)ポート等が挙げられる。
【0053】
入力部としては、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル、タッチパッド等の各種入力装置が挙げられる。表示部としては、例えば、液晶ディスプレイパネル、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイパネル等が挙げられる。なお、入力部および表示部は、必要に応じて設けられればよく、省略されていてもよい。
【0054】
1.3.1.移動ミラー位置演算部
移動ミラー位置演算部72は、信号生成部8から出力された基準信号Ssに基づいて、移動ミラー33の変位信号を含む第2受光信号S2に対して演算を行う。これにより、移動ミラー33の位置を示す移動ミラー位置信号X(t)を生成する。移動ミラー33が移動すると、それに伴って測長光学系4における干渉光の強度が変化する。この場合、第2受光信号S2は、例えば、干渉条件に応じて振幅が所定の周期で変化する信号となる。第2受光信号S2の振幅の変化から、移動ミラー33の変位を算出することができ、移動ミラー位置信号X(t)が求められる。
【0055】
1.3.2.光強度演算部
光強度演算部74は、第1受光信号F(t)および移動ミラー位置信号X(t)に基づいて、移動ミラー33の位置に対する干渉光の強度を表す波形(インターフェログラムF(x))を生成する。
【0056】
第1受光信号F(t)は、前述したように、試料由来信号および第1変調信号を含んでいる。光強度演算部74では、移動ミラー位置信号X(t)に基づいて、第1受光信号F(t)の強度を抽出する。そして、光強度演算部74は、移動ミラー位置信号X(t)から求められる移動ミラー33の位置と第1受光信号F(t)の強度とにより、インターフェログラムF(x)を生成する。なお、インターフェログラムF(x)は、分析光学系3における移動ミラー33での反射光と固定ミラー34での反射光との光路差と、第1受光素子36で受光される干渉光の強度(第1受光信号F(t)の強度)と、の関数で表される。
【0057】
図3は、
図1に示す光学デバイス1で取得される第1受光信号F(t)および第2受光信号S2の一例を示す図である。
図3の横軸は、時刻であり、縦軸は、第1受光素子36に入射する干渉光の強度または第2受光素子45に入射する干渉光の強度である。
【0058】
図4は、インターフェログラムF(x)の一例を示す図である。
図4の横軸は、分析光学系3の光路差であり、縦軸は、干渉光の強度である。なお、分析光学系3の光路差とは、ビームスプリッター32と移動ミラー33との光路長およびビームスプリッター32と固定ミラー34との光路長の差であり、
図4では、光路差ゼロを横軸の原点としている。
【0059】
図5は、
図3に示す第2受光信号S2の部分拡大図である。
図5に示す第2受光信号S2は、所定の周期で振動する信号であり、振幅が最大になる点が特徴点FPとなる。光強度演算部74は、この特徴点FPの時刻で、第1受光信号F(t)の強度を抽出することにより、移動ミラー33の位置と第1受光信号F(t)の強度とを関係づけることができる。これにより、インターフェログラムF(x)のデジタルデータを取得することができる。
【0060】
1.3.3.フーリエ変換部
フーリエ変換部76は、インターフェログラムF(x)にフーリエ変換を行う。これにより、試料9に固有のスペクトルパターンを取得する。
【0061】
得られたスペクトルパターンには、分析光L1が試料9に作用して生成された試料由来信号が反映されている。このため、上記のような光学デバイス1を備える分光装置100によれば、スペクトルパターンに基づいて、試料9の特性、例えば材料、構造、成分量等を分析することができる。
【0062】
2.第1実施形態の第1変形例
次に、第1実施形態の第1変形例に係る光学デバイスおよび分光装置について説明する。
図6は、第1実施形態の第1変形例に係る分光装置100を示す概略構成図である。
【0063】
図6に示す分光装置100は、光学デバイス1の測長光学系4の構成が異なること以外、
図1に示す分光装置100と同様である。
【0064】
図6に示す測長光学系4は、前記第1実施形態の構成に加え、ミラー472、474を有する。ミラー472、474は、1/4波長板47と移動ミラー33との間に設けられている。そして、ミラー472、474は、1/4波長板47と移動ミラー33とを結ぶ光路の延在方向を変更している。これにより、
図6に示す測長光学系4は、前述した分析光学系3において分析光L1aが入射する移動ミラー33の面と同じ面に、測長光L2bが入射するように構成されている。これにより、分析光L1aおよび測長光L2bが、物理的に近い位置に入射することになる。その結果、第1受光信号F(t)が含む移動ミラー33の位置情報と、移動ミラー位置信号X(t)が含む移動ミラー33の位置情報と、の一致性をより高めることができる。これにより、最終的に得られるスペクトルパターンにおいて、波数軸の精度をより高めることができる。また、この場合、移動ミラー33の片面のみに光反射機能を持たせればよいので、移動ミラー33の構成を簡素化できる。
【0065】
また、この構成では、ビームスプリッター422から光反射器442までの物理的距離と、ビームスプリッター422から移動ミラー33までの物理的距離と、を一致させやすくなる。これにより、移動ミラー33の位置をさらに精度よく求めることができる。
以上のような第1変形例においても、第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0066】
3.第1実施形態の第2変形例
次に、第1実施形態の第2変形例に係る光学デバイスおよび分光装置について説明する。
図7は、第1実施形態の第2変形例に係る分光装置100を示す概略構成図である。
【0067】
図7に示す分光装置100は、光学デバイス1の入射光学系5の構成が異なること以外、
図1に示す分光装置100と同様である。
【0068】
図7に示す入射光学系5は、前記第1実施形態の構成に加え、ミラー502、504を有するとともに、ビームスプリッター531が省略されている。ミラー502、504は、ビームスプリッター54と測長光学系4との間に設けられている。また、ビームスプリッター54は、射出光L0を、分析光L1(第1分割光)と測長光L2(第2分割光)の2つのレーザー光に分割する。測長光L2は、ミラー502、504を介して、測長光学系4に入射される。このような構成によれば、ビームスプリッター531を省略できるため、入射光学系5の部品点数を減らすことができ、小型化および低コスト化を図ることができる。
【0069】
4.第2実施形態
次に、第2実施形態に係る光学デバイスおよび分光装置について説明する。
【0070】
図8は、第2実施形態に係る分光装置100を示す概略構成図である。
図9は、
図8の分析光学系3、測長光学系4、信号生成部8および演算装置7の各主要部を示す模式図である。
【0071】
以下、第2実施形態について説明するが、以下の説明では、第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項についてはその説明を省略する。
【0072】
図8に示す分光装置100は、測長光学系4が備える光帰還部43および第2光分割素子42の構成が異なること以外、
図1に示す分光装置100と同様である。
【0073】
図8に示す第2光分割素子42は、第1実施形態の構成に加え、ビームスプリッター424および1/4波長板482を備える。つまり、
図8に示す第2光分割素子42は、2つのビームスプリッター422、424を備える。ビームスプリッター422で分割された測長光L2aは、光帰還部43を経て、ビームスプリッター424に帰還し、ビームスプリッター424で反射され、第2受光素子45に入射する。また、ビームスプリッター422で分割された測長光L2bは、移動ミラー33で反射した後、再びビームスプリッター422を経て、ビームスプリッター424を透過し、第2受光素子45に入射する。
【0074】
図8に示す光帰還部43は、光反射器442に代えて、ミラー451、452および光変調器444を備えている。ミラー451、452は、ビームスプリッター422とビームスプリッター424とを結ぶ光路を形成する。この光路上に光変調器444が設けられている。
【0075】
図8に示す光変調器444は、音響光学変調器445(Acousto-Optics Modulator:AOM)を有する。音響光学変調器445は、光弾性効果により媒体中に周期的な屈折率変化を生じさせ、透過光の周波数をシフトさせる。なお、音響光学変調器445は、電気光学変調器(Electro-Optic Modulator:EOM)に代替可能である。光変調器444は、測長光L2aに対して第2変調信号を重畳させる。第2変調信号は、測長光L2aが音響光学変調器445を透過することに伴って生じる周波数の変化である。
【0076】
図8に示す信号生成部8は、駆動信号Sdを生成する機能を有する。音響光学変調器445は、駆動信号Sdにより駆動される。駆動信号Sdを適宜設定することにより、音響光学変調器445における第2変調信号の重畳を制御することができる。
【0077】
図8に示す移動ミラー位置演算部72は、光ヘテロダイン干渉法により、移動ミラー33の位置を特定し、その結果に基づいて、移動ミラー位置信号X(t)を生成する。具体的には、測長光学系4が光変調器444を備えることにより、測長光L2aに第2変調信号を付加することができる。そうすると、測長光L2a、L2bを干渉させたとき、得られた干渉光から移動ミラー33の位置に対応する位相情報をより高い精度で取得することができる。そして、演算装置7において位相情報から移動ミラー33の位置が高精度に求められる。光ヘテロダイン干渉法によれば、位相情報を取り出すとき、外乱の影響、特にノイズとなる周波数の迷光の影響を受けにくく、高いロバスト性が与えられる。
【0078】
図9に示す移動ミラー位置演算部72は、前処理部722、復調処理部724、および、移動ミラー位置信号出力部726を有する。前処理部722および復調処理部724には、例えば、特開2022-38156号公報に開示されている前処理部および復調部が適用できる。
【0079】
前処理部722は、基準信号Ssに基づいて第2受光信号S2に前処理を行う。復調処理部724は、前処理部722から出力された前処理済み信号から、基準信号Ssに基づいて移動ミラー33の位置に応じた変位信号を復調する。
【0080】
移動ミラー位置信号出力部726は、復調処理部724が復調した移動ミラー33の変位信号に基づいて、移動ミラー位置信号X(t)を生成し、出力する。この方法で求めた移動ミラー位置信号X(t)は、時刻ごとに変化する移動ミラー33の位置を表す信号となる。第2受光信号S2が含む移動ミラー33の変位信号は、測長光L2bの波長よりも十分に狭い間隔で移動ミラー33の変位を捉えている。例えば、測長光L2bの波長が数100nmである場合、変位信号が示す移動ミラー33の位置分解能としては10nm未満が達成可能になる。これに対し、第1実施形態では、測長光L2bの波長の1/4が位置分解能の限界である。このため、光強度演算部74では、第1実施形態に比べてより細かな間隔で、インターフェログラムF(x)を生成することができる。
【0081】
図10は、
図8に示す光学デバイス1で取得される第1受光信号F(t)および移動ミラー位置信号X(t)の一例を示す図である。
図10の横軸は、時刻であり、縦軸は、第1受光素子36に入射する干渉光の強度または移動ミラー33の位置である。
【0082】
図10に示す移動ミラー位置信号X(t)は、移動ミラー33の位置の変化を、連続的に検出可能な信号になっており、高い位置分解能を実現できている。このため、それに基づいてインターフェログラムF(x)を生成することで、よりデータ点数の多いインターフェログラムF(x)が得られる。データ点数の多さは、インターフェログラムF(x)のサンプリング間隔が短く、精度が高いことを意味する。したがって、このようにして得られたインターフェログラムF(x)を用いることで、最終的に、高い分解能のスペクトルパターンを取得することができる。
【0083】
また、サンプリング間隔を短くできることで、より波長の短い(より波数の大きい)射出光L0を用いても、十分なデータ点数を持つインターフェログラムF(x)を得ることができる。これにより、より広い波長範囲(広い波数範囲)のスペクトルパターン、すなわち、より広帯域のスペクトルパターンを取得することができる。
【0084】
また、測長光学系4におけるビームスプリッター422と光変調器444との物理的距離と、ビームスプリッター422と移動ミラー33との物理的距離と、の差をゼロに近づけることにより、移動ミラー位置信号X(t)の精度をより高めることができる。
【0085】
測長光学系4で移動ミラー33の位置を計測するとき、計測誤差Δdは、下記式(I)で表される。
【0086】
【0087】
上記式(I)において、物理的距離の差WDをゼロに近づけることにより、計測誤差Δdにおいてノイズ成分となり得る右辺第2項および第3項を小さくすることができる。これにより、計測誤差Δdが小さくなるため、移動ミラー位置信号X(t)の精度をより高めることができる。
【0088】
具体的には、測長光学系4におけるビームスプリッター422と光変調器444との光路長をLrefとし、ビームスプリッター422と移動ミラー33との光路長をLsとするとき、|Ls-Lref|≦100mmであることが好ましい。これにより、上記式(I)の物理的距離の差WDを十分に小さくすることができ、1nmオーダーまたはそれ以下の計測誤差Δdを達成することができる。
【0089】
一方、移動ミラー33が往復移動するときの移動距離(振幅)をLmとしたとき、この移動距離Lmを踏まえると、|Ls-Lref|≦Lm/2であるのが好ましい。これにより、移動ミラー33の移動距離Lmを考慮しながら、計測誤差Δdを特に小さくすることができる。
【0090】
また、前述した|Ls-Lref|≦100mmを踏まえると、移動ミラー33の移動距離Lmの最大値は、200mmと考えることもできる。したがって、移動ミラー33の移動距離Lmは、200mm以下であることが好ましい。これにより、移動ミラー33の計測誤差Δdを特に小さくすることができる。
【0091】
図11は、分析光L1として波長400nmの光(可視光)を用いた場合の、移動ミラー33の位置の計測誤差δLとスペクトルパターンにおける分光波数の誤差(分光波数精度)および分光波長の誤差(分光波長精度)との関係を示すグラフである。
図12は、分析光L1として波長200nmの光(紫外線)を用いた場合の、移動ミラー33の位置の計測誤差δLとスペクトルパターンにおける分光波数の誤差(分光波数精度)または分光波長の誤差(分光波長精度)との関係を示すグラフである。なお、
図11および
図12に示す例では、移動ミラー33の移動距離Lを1mmとし、その計測誤差をδLとしている。
【0092】
一般的には、移動ミラー33の移動距離Lを長くすることで波数分解能Δνを高めることができる。例えば、移動距離Lが1mmであるとき、従来の方法でインターフェログラムをサンプリングして得られたスペクトルパターンから計算される波数分解能Δνは、5cm-1となる。
【0093】
図11および
図12に示す例では、移動ミラー33の移動距離Lを1mmとしたときの、計測誤差δLと分光波数精度δνまたは分光波長精度δλとの関係を示している。
図11では、例えば計測誤差δLが100nmであるとき、分光波数精度δνは約2.5cm
-1となり、分光波長精度δλは約0.04nmとなることを示している。また、
図12では、例えば計測誤差δLが100nmであるとき、分光波数精度δνは約5.0cm
-1となり、分光波長精度δλは約0.02nmとなることを示している。100nmという計測誤差δLは、本実施形態に係る光学デバイス1を用いることで、容易に達成できる。そうすると、
図11および
図12の結果から、分析光L1としてより短波長の光を用いても、前述した波数分解能Δνやそこから計算される波長分解能に比べて、少なくとも同等程度の分光波数精度δνおよび分光波長精度δλが得られることがわかる。よって、本実施形態に係る光学デバイス1を用いて計測誤差δLを小さくすることにより、分析光L1の波長によらず、換言すれば、様々な波長の分析光L1を用いても、分光波数精度δνおよび分光波長精度δλを維持または向上させることができる。
【0094】
図13は、移動ミラー33の位置の計測間隔Δxとスペクトルパターンにおける最大計測波数および最小計測波長との関係を示すグラフである。
図13に示すように、計測間隔Δxが小さいほど、最大計測波数は大きく、最小計測波長が短くなる。したがって、計測間隔Δxを小さくすることにより、より広い波数範囲(波長範囲)のスペクトルパターンを取得することができるようになる。なお、安定した計測間隔Δxを実現するためには、計測誤差Δdが計測間隔Δxの1/10以下であることが好ましい。そうすると、前述した1nmオーダーの計測誤差Δdは、
図13に照らすと、計測間隔Δx=10nmを実現可能な計測精度であるといえる。
以上のような第2実施形態においても、第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0095】
5.第3実施形態
次に、第3実施形態に係る光学デバイスおよび分光装置について説明する。
【0096】
図14は、第3実施形態に係る分光装置100を示す概略構成図である。
図15は、
図14の分析光学系3、測長光学系4、信号生成部8および演算装置7の各主要部を示す模式図である。
【0097】
以下、第3実施形態について説明するが、以下の説明では、第2実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項についてはその説明を省略する。
【0098】
図14に示す測長光学系4は、音響光学変調器445に代えて振動素子446を有するとともに、信号生成部8の構成が異なること以外、
図8に示す測長光学系4と同様である。
【0099】
図14に示す光変調器444は、振動素子446を有する。振動素子446は、駆動信号Sdにより振動する。振動素子446としては、例えば、水晶振動子、シリコン振動子、セラミック振動子、ピエゾ素子等が挙げられる。このうち、振動素子446は、水晶振動子、シリコン振動子またはセラミック振動子であるのが好ましい。これらの振動子は、その他の振動子、例えばピエゾ素子等とは異なり、機械共振現象を利用した振動子であるため、Q値が高く、固有振動数の安定化を容易に図ることができる。
【0100】
また、振動素子446を有する光変調器444は、AOMやEOMを有する光変調器に比べて、体積や重量を大きく削減することができる。このため、光学デバイス1の小型化、軽量化および低消費電力化を図ることができる。
【0101】
なお、光変調器444としては、例えば、特開2022-38156号公報に開示されている光変調器が挙げられる。この公報には、振動素子として水晶AT振動子が挙げられている。また、振動素子446には、SCカット水晶振動子、音叉型水晶振動子、水晶表面弾性波素子等が用いられてもよい。
【0102】
シリコン振動子は、単結晶シリコン基板からMEMS技術を用いて製造される単結晶シリコン片と、圧電膜と、を備える振動子である。MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)は、微小電気機械システムのことである。単結晶シリコン片の形状としては、例えば、2脚音叉型、3脚音叉型等の片持ち梁形状、両持ち梁形状等が挙げられる。シリコン振動子の発振周波数は、例えば1kHzから数100MHz程度である。
【0103】
セラミック振動子は、圧電セラミックスを焼き固めて製造される圧電セラミック片と、電極と、を備える振動子である。圧電セラミックスとしては、例えば、チタン酸ジルコニウム酸鉛(PZT)、チタン酸バリウム(BTO)等が挙げられる。セラミック振動子の発振周波数は、例えば数100kHzから数10MHz程度である。
【0104】
図14および
図15に示す信号生成部8は、発振回路81を備えている。発振回路81は、振動素子446を信号源として動作し、精度の高い周期信号を生成する。
図14および
図15に示す信号生成部8では、発振回路81で生成された周期信号を、駆動信号Sdおよび基準信号Ssとして出力する。これにより、駆動信号Sdおよび基準信号Ssは、外乱を受けた場合、互いに同じ影響を受けることになる。そうすると、駆動信号Sdにより駆動された光変調器444を介して付加される第2変調信号、および、基準信号Ssも、互いに同じ影響を受ける。このため、第2変調信号を含む第2受光信号S2および基準信号Ssが、演算装置7における演算に供されたとき、演算の過程で、双方が含む外乱の影響を互いに相殺または低減させることができる。その結果、演算装置7では、外乱を受けても、移動ミラー33の位置を精度よく求めることができる。また、分光装置100の小型化、軽量化、低消費電力化を図ることができる。
【0105】
発振回路81としては、例えば、特開2022-38156号公報に開示されている発振回路が挙げられる。
図16は、
図14に示す振動素子446の構成例を示す斜視図である。
【0106】
図16に示す振動素子446は、板形状の振動片431と、振動片431に設けられた回折格子434と、を備えている。
【0107】
振動片431は、電位を加えることにより、面に沿う方向に歪むように振動するモードを繰り返す材料で構成されている。
図16に示す振動片431は、MHz帯の高周波領域で、振動方向436に沿って厚みすべり振動する水晶AT振動子である。また、振動片431の表面には、回折格子434が設けられている。回折格子434は、振動方向436と交差する成分を持つ溝432、すなわち、振動方向436と交差する方向に延在する直線状の複数の溝432を有している。
【0108】
振動片431は、互いに表裏の関係を有する表面4311および裏面4312を有している。表面4311には、回折格子434が配置されている。また、表面4311には、振動片431に電位を加えるためのパッド433が設けられている。一方、裏面4312にも、振動片431に電位を加えるためのパッド435が設けられている。
【0109】
振動片431の大きさは、例えば、長辺が0.50mm以上10.0mm以下程度とされる。また、振動片431の厚さは、例えば、0.10mm以上2.0mm以下程度とされる。一例として、振動片431の形状は、1辺が1.6mmの正方形とされ、その厚さは0.35mmとされる。
【0110】
回折格子434の大きさは、例えば、長辺が0.20mm以上3.0mm以下程度とされる。また、回折格子434の厚さは、例えば、0.003mm以上0.5mm以下程度とされる。
【0111】
本実施形態では、振動片431が厚みすべり振動するが、この振動は、
図16に振動方向436として示すように、面内振動であることから、振動片431単体の表面に対して垂直に光を入射しても、光変調はできない。そこで、振動素子446では、振動片431に回折格子434を設けることにより、光変調を可能にしている。
【0112】
図16に示す回折格子434は、一例としてブレーズド回折格子である。ブレーズド回折格子とは、回折格子の断面形状が階段状になっているものをいう。なお、回折格子434の形状は、これに限定されない。
【0113】
図17は、
図14に示す振動素子446の他の構成例を示す斜視図である。なお、
図17では、互いに直交する3つの軸として、A軸、B軸およびC軸を設定し、矢印で示している。矢印の先端側を「プラス」とし、矢印の基端側を「マイナス」とする。また、例えば、A軸のプラス側およびマイナス側の両方向を「A軸方向」という。B軸方向およびC軸方向もそれぞれ同様である。
【0114】
図17に示す振動素子446は、音叉型水晶振動子である。
図17に示す振動素子446は、基部401と、第1振動腕402および第2振動腕403とを有する振動基板を有する。このような音叉型水晶振動子は、製造技術が確立されているため、容易に入手可能であり、かつ、発振も安定している。このため、音叉型水晶振動子は、振動素子446として好適である。また、振動素子446は、振動基板に設けられた、電極404、405および光反射面406を有する。
【0115】
基部401は、A軸に沿って延在する部位である。第1振動腕402は、基部401のA軸マイナス側の端部からB軸プラス側に向かって延びる部位である。第2振動腕403は、基部401のA軸プラス側の端部からB軸プラス側に向かって延びる部位である。
【0116】
電極404は、第1振動腕402および第2振動腕403のうち、A-B面と平行な側面に設けられている導電膜である。なお、
図17には図示していないが、電極404は、互いに対向する側面にそれぞれ設けられ、互いに極性が異なるように電圧が印加されることで、第1振動腕402を駆動する。
【0117】
電極405は、第1振動腕402および第2振動腕403のうち、A-B面と交差する側面に設けられている導電膜である。なお、
図17には図示していないが、電極405も、互いに対向する側面にそれぞれ設けられ、互いに極性が異なるように電圧が印加されることで、第2振動腕403を駆動する。
【0118】
光反射面406は、第1振動腕402および第2振動腕403のうち、A-B面と交差する側面に設定され、測長光L2aを反射する機能を有する。側面とは、第1振動腕402および第2振動腕403の延在方向に沿って広がる面のことを指す。
図17に示す光反射面406は、第1振動腕402の側面のうち、特に、電極405の表面に設定されている。第1振動腕402に設けられた電極405は、光反射面406としての機能も有している。なお、電極405とは別に、図示しない光反射膜を設けるようにしてもよい。
【0119】
音叉型水晶振動子には、水晶基板から切り出された水晶片を用いる。音叉型水晶振動子の製造に用いられる水晶基板としては、例えば、水晶Zカット平板等が挙げられる。
図17には、A軸と平行なX軸、B軸と平行なY’軸、C軸と平行なZ’軸を設定している。水晶Zカット平板は、例えば、X軸が電気軸、Y’軸が機械軸、Z’軸が光軸となるように、水晶の単結晶から切り出された基板である。具体的には、X軸、Y’軸およびZ’軸からなる直交座標系において、X軸まわりに、X軸およびY’軸からなるX-Y’平面を反時計方向に約1°から5°傾けた主面を持つ基板が、水晶の単結晶から切り出され、水晶基板として好ましく用いられる。そして、このような水晶基板をエッチングすることにより、
図17に示す振動素子446に用いられる水晶片が得られる。エッチングは、ウェットエッチングであっても、ドライエッチングであってもよい。
【0120】
一方、光反射面406を、電極404の表面に設定してもよい。この場合、音叉型水晶振動子が面外振動するように、例えば、面外振動するスプリアスを励振するように、各電極に印加する信号を調整すればよい。
【0121】
6.第3実施形態の第1変形例
次に、第3実施形態の第1変形例に係る光学デバイスおよび分光装置について説明する。
【0122】
図18は、第3実施形態の第1変形例に係る分光装置100が備える分析光学系3、測長光学系4、信号生成部8および演算装置7の各主要部を示す模式図である。
【0123】
図18に示す分光装置100は、信号生成部8の構成が異なること以外、
図2に示す分光装置100と同様である。
【0124】
図18に示す信号生成部8は、ファンクションジェネレーター82を備える。ファンクションジェネレーター82は、高精度な波形、すなわち高安定で低ジッターの信号を出力する信号発生器である。したがって、
図18に示す信号生成部8は、より高精度の駆動信号Sdおよび基準信号Ssを出力することができ、最終的に、演算装置7において移動ミラー33の位置をより精度よく求めることができる。なお、ファンクションジェネレーター82は、シグナルジェネレーターであってもよい。
以上のような第1変形例においても、第3実施形態と同様の効果が得られる。
【0125】
7.第3実施形態の第2変形例
次に、第3実施形態の第2変形例に係る分光装置について説明する。
【0126】
図19は、第3実施形態の第2変形例に係る分光装置100が備える分析光学系3、測長光学系4、信号生成部8および演算装置7の各主要部を示す模式図である。
【0127】
図19に示す分光装置100は、信号生成部8および演算装置7の構成が異なること以外、
図2に示す分光装置100と同様である。
【0128】
図19に示す信号生成部8は、電圧制御発振器83、増幅器84および補正処理部85を備える。また、
図19に示す移動ミラー位置演算部72は、直交信号発生部723をさらに備える。
【0129】
7.1.信号生成部
まず、
図19に示す信号生成部8について説明する。
【0130】
7.1.1.信号生成部の構成
電圧制御発振器83は、VCO(Voltage Controlled Oscillator)であり、入力される電圧信号に基づいて、出力される周期信号の周波数を制御する機能を有する。これにより、電圧制御発振器83は、目的とする周波数の基準信号Ssを生成し、増幅器84および演算装置7に向けて出力する。なお、電圧制御発振器83は、出力される周期信号の周波数を調整可能な発振器であれば、VCOに限定されない。
【0131】
増幅器84は、入力される制御信号に基づいて、出力される周期信号の振幅を制御する機能を有する。これにより、増幅器84は、入力される基準信号Ssを増幅し、目的とする振幅の駆動信号Sdを生成し、光変調器444に向けて出力する。
【0132】
補正処理部85には、
図19に示すように、電圧制御発振器83から出力された基準信号Ss、および、光変調器444の駆動に対応して出力される出力信号Smが入力される。また、補正処理部85は、電圧制御発振器83に向けて周波数制御信号Sf1(補正信号)を出力する。さらに、補正処理部85は、増幅器84に向けて増幅率制御信号Sam(補正信号)を出力する。
【0133】
補正処理部85は、例えばFPGA等に実装され、光変調器444の近傍に配置されることが好ましい。これにより、光変調器444と補正処理部85との物理的距離を短くすることができ、例えば電磁ノイズの影響による出力信号SmのS/N比の低下を抑制することができる。
【0134】
図20は、
図19に示す模式図のうち、補正処理部85について詳細に示す図である。
光変調器444からの出力信号Smは、
図20に示すオフセット除去部851に入力される。オフセット除去部851は、DC(直流)成分を除去し、AC(交流)成分を取り出す機能を有する。オフセット除去部851を経た出力信号Smは、補正処理部85に入力される。
【0135】
電圧制御発振器83からの基準信号Ssは、
図20に示すオフセット除去部852に入力される。オフセット除去部852は、DC(直流)成分を除去し、AC(交流)成分を取り出す機能を有する。オフセット除去部852を経た基準信号Ssは、補正処理部85および直交信号発生部723に入力される。
【0136】
図20に示す補正処理部85は、絶対値演算器853と、乗算器854と、乗算器855と、ローパスフィルター856と、ローパスフィルター857と、振幅ゲイン設定部858と、周波数設定部859と、を備えている。
【0137】
絶対値演算器853は、オフセット除去部851を通過した出力信号Smの絶対値を算出する。
【0138】
乗算器854、855は、2つの入力信号の積に比例した信号を出力する回路である。このうち、乗算器854では、2つの入力信号がいずれも出力信号Smである。このため、乗算器854は、出力信号Smの2乗に比例した信号を出力する。一方、乗算器855では、2つの入力信号が、出力信号Smおよび基準信号Ssである。このため、乗算器855は、出力信号Smと基準信号Ssの積に比例した信号を出力する。
【0139】
乗算器854、855は、例えば、ギルバートセルのような素子を用いてもよいし、入力される2つの信号をオペアンプ等で対数変換した後、加減算を行い、その後、逆対数変換を行う回路であってもよい。
【0140】
ローパスフィルター856、857は、入力信号について高域の周波数帯の信号をカットするフィルターである。ローパスフィルター856、857の透過周波数帯域は、駆動信号Sdの周波数の2倍以上を除去できる帯域であればよく、駆動信号Sdの周波数以上を除去できる帯域であるのが好ましい。
【0141】
乗算器854から出力され、ローパスフィルター856を通過した信号は、後述するように、出力信号Smの振幅に対応した値を持つ信号となる。振幅ゲイン設定部858は、この信号に基づいて、駆動信号Sdに設定されるべき振幅(目標振幅)を求める機能を有する。そして、振幅ゲイン設定部858は、駆動信号Sdの振幅が目標振幅になるように、信号生成部8の増幅器84に設定すべきゲイン(増幅率)の制御を行う。制御ロジックとしては、例えば、PI制御やPID制御のようなフィードバック制御が挙げられる。振幅ゲイン設定部858は、設定すべきゲインに対応する増幅率制御信号Samを増幅器84に向けて出力する。
【0142】
増幅器84では、増幅率制御信号Samに基づいて、駆動信号Sdの振幅を増幅する。これにより、駆動信号Sdの振幅が補正される。
【0143】
乗算器855から出力され、ローパスフィルター857を経て周波数設定部859に入力される信号は、後述するように、出力信号Smと基準信号Ssとの位相差に対応した値を持つ信号となる。ここで、出力信号Smの位相は、駆動信号Sdの位相に対応している。また、駆動信号Sdの位相は、基準信号Ssの位相に対応している。そこで、周波数設定部859は、基準信号Ssに設定されるべき周波数(目標周波数)を求める機能を有する。そして、周波数設定部859は、基準信号Ssの周波数が目標周波数になるように、信号生成部8の電圧制御発振器83に設定すべき電圧の制御を行う。制御ロジックとしては、例えば、PI制御やPID制御のようなフィードバック制御が挙げられる。周波数設定部859は、設定すべき周波数に対応する周波数制御信号Sf1を電圧制御発振器83に向けて出力する。
【0144】
電圧制御発振器83では、周波数制御信号Sf1に対応する周波数の基準信号Ssを発生させる。これにより、基準信号Ssの周波数が補正される。また、これにより、駆動信号Sdの周波数も補正される。
【0145】
7.1.2.光変調器からの出力信号の取得
図21は、光変調器444からの出力信号Smを取得する回路の一例を示す図である。
【0146】
出力信号Smは、光変調器444が備える振動素子446に流れる電流を検出して得られる信号であってもよく、振動素子446に印加される電圧を検出して得られる信号であってもよい。例えば、振動素子446に流れる電流を検出して得られる信号を出力信号Smとする場合、
図21に示すように、振動素子446に流れる電流値を、電流シャントモニター439を用いて検出する。
図21に示す電流シャントモニター439は、シャント抵抗4391およびオペアンプ4392を備え、振動素子446に流れる電流値を電圧値に変換して検出する。これにより、電圧信号である出力信号Smが得られる。得られた出力信号Smは、デジタル信号に変換され、補正処理部85に向けて出力される。
【0147】
なお、振動素子446に流れる電流を検出する方法としては、上記の方法以外に、ホール素子を用いる方法、電流路にコイルを巻いて起電力を検出する方法等が挙げられる。
【0148】
7.1.3.補正処理
次に、補正処理部85における補正処理について説明する。補正処理とは、補正処理部85から出力される補正信号に基づいて、電圧制御発振器83および増幅器84の設定値を変更し、駆動信号Sdおよび基準信号Ssを補正することをいう。
【0149】
光変調器444からの出力信号Smが例えば電圧信号である場合、オフセット除去部851を通過する前の出力信号Smは、下記式(II)で表される。
【0150】
【0151】
上記式(II)において、VQOMは、出力信号Smの電圧値である。また、Amは、出力信号Smの振幅に対応する係数であり、αm1は、出力信号Smの基準信号Ssに対する位相差であり、-π/2<αm1<π/2を満たす。さらに、OQOMは、出力信号SmのDC成分である。
【0152】
そうすると、オフセット除去部851を通過した後の出力信号Smは、下記式(II-1)で表される。
【0153】
【0154】
一方、オフセット除去部852を通過する前の基準信号Ssは、下記式(III)で表される。
【0155】
【0156】
上記式(III)において、VOSCは、基準信号Ssの電圧値である。また、vOSCは、基準信号Ssの振幅に対応する係数であり、OOSCは、基準信号SsのDC成分である。
【0157】
そうすると、オフセット除去部852を通過した後の基準信号Ssは、下記式(III-1)で表される。
【0158】
【0159】
オフセット除去部851を通過した出力信号Smは、2つに分割される。そして、一方の出力信号Smは、絶対値演算器853を経た後、乗算器854で2乗された結果、下記式(II-2)で表される。
【0160】
【0161】
その後、ローパスフィルター856を通過することにより、上記式(II-2)の右辺第1項のみが取り出される。これにより、ローパスフィルター856を通過した後の出力信号Smは、下記式(II-3)で表される。
【0162】
【0163】
上記式(II-3)で表されるように、振幅ゲイン設定部858に入力される入力信号VQOM
2は、時間変化がない信号となる。そこで、振幅ゲイン設定部858では、上記式(II-3)で表される出力信号Smについて、目標とする係数Amを上記式(II-3)に代入した値を制御目標値としてフィードバック制御を行う。そして、制御目標値に対応する増幅率制御信号Samを信号生成部8の増幅器84に向けて出力する。これにより、増幅器84における振幅のゲインを変化させ、駆動信号Sdの振幅を目標とする振幅に補正することができる。
【0164】
2つに分割された他方の出力信号Smには、乗算器855で基準信号Ssが乗算される。これにより、乗算器855から出力される信号は、下記式(IV)で表される。
【0165】
【0166】
その後、ローパスフィルター857を通過することにより、上記式(IV)の右辺第1項のみが取り出される。これにより、ローパスフィルター857を通過した後の出力信号Smは、下記式(IV-2)で表される。
【0167】
【0168】
上記式(IV-2)で表されるように、周波数設定部859に入力される入力信号VQOM・VOSCは、右辺に係数Am、係数vOSCおよび位相差αm1を含む信号である。このうち、係数vOSCは、既知である。一方、係数Amは、0<Amを満たし、上記のように目標とする係数Amに収束するように制御される。このため、入力信号VQOM・VOSCも、時間変化がない信号となる。そこで、周波数設定部859では、例えば、目標とする位相差αm1を上記式(IV-2)に代入した値を制御目標値としてフィードバック制御を行う。そして、制御目標値に対応する周波数制御信号Sf1を信号生成部8の電圧制御発振器83に向けて出力する。これにより、電圧制御発振器83から出力される基準信号Ssの周波数を変化させ、基準信号Ssの周波数を目標とする周波数に補正することができる。また、駆動信号Sdの周波数も目標とする周波数に補正することができる。
【0169】
なお、目標とする位相差αm1は、例えば、機械的共振周波数で振動する振動素子446において、駆動信号Sdと出力信号Smとの位相差の関係に基づいて決定できる。具体的には、このような振動素子446では、入力される駆動信号Sdに対し、出力信号Smの位相が約90[deg]遅れることが知られている。また、出力信号Smが補正処理部85に入力されるまでの過程では、位相遅延δ[deg]が発生する場合がある。これらを考慮すると、目標とする位相差αm1は、例えば90+δ[deg]とできる。位相遅延δは、実験やシミュレーションにより求めることができる。
【0170】
なお、温度変化等が生じると、機械的共振周波数が変化するとともに、振動素子446に入力された電力を振動に変換する効率が変化する場合がある。この変換効率が変化すると、振動素子446の振動の振幅が変化することになる。そこで、補正処理では、まず、基準信号Ssの周波数および駆動信号Sdの周波数の補正を優先して行う。その後、必要に応じて、駆動信号Sdの振幅を補正する。このような順序で補正処理を実行することにより、前述した周波数と振幅をそれぞれ目的とする値に効率よく制御することができる。
【0171】
また、上述した周波数設定部859での制御を踏まえると、振幅ゲイン設定部858に入力される信号の制御を、周波数設定部859に入力される信号の制御よりも早く収束させることが望ましい。これにより、周波数設定部859における目標制御値の不安定化が抑制されるため、補正処理が不安定になるのを抑制することができる。
【0172】
なお、振幅ゲイン設定部858および周波数設定部859は、それぞれ、例えばPID制御のようなフィードバック制御動作を行うようにオペアンプ等を組み合わせて構築される。この場合、振幅ゲイン設定部858に入力される信号の制御を、周波数設定部859に入力される信号の制御よりも早く収束させるためには、振幅ゲイン設定部858の動作における制御ループの開ループ伝達関数の交差周波数を、周波数設定部859の動作における制御ループの開ループ伝達関数の交差周波数よりも高く設定しておけばよい。
【0173】
以上のような補正処理を行うことにより、次のような効果が得られる。
振動素子446の機械的共振周波数が、周囲の温度変化、重力変化、振動、ノイズ等、外乱の影響を受けて変化した場合、振動素子446の振動の周波数や振幅が変化し、第2変調信号のS/N比が低下する。これにより、移動ミラー33の変位信号の復調精度が低下するおそれがある。
【0174】
これに対し、上記のような補正処理を行うことにより、温度変化等の外乱が加わった場合でも、振動素子446の振動の周波数および振幅をそれぞれ一定に維持することができる。つまり、温度変化等の外乱が加わった場合でも、振動素子446の振動の周波数や振幅が変化しないように補正することができる。これにより、第2変調信号のS/N比の低下を抑制することができる。その結果、温度変化等の外乱が加わった場合でも、演算装置7における前処理や復調処理の精度を高めることができ、移動ミラー33の位置の計測誤差Δdを抑制することができる。
【0175】
また、発振回路による駆動とは異なり、温度変化等の外乱が加わって機械的共振周波数が変化した場合でも、駆動信号Sdの周波数を追従させることができるので、振動素子446の機械的共振周波数の近傍で振動素子446を駆動し続けることができる。これにより、振動素子446の駆動効率が高まるため、光学デバイス1の低消費電力化を図ることができる。
【0176】
7.2.演算装置
次に、
図19に示す演算装置7について説明する。
【0177】
図19に示す演算装置7は、移動ミラー位置演算部72、光強度演算部74およびフーリエ変換部76を有する。さらに、移動ミラー位置演算部72は、前処理部722、直交信号発生部723、復調処理部724、および、移動ミラー位置信号出力部726を有する。
【0178】
直交信号発生部723は、信号生成部8から出力された基準信号Ssおよび前処理部722から出力された信号に基づいて、互いに直交する波形である余弦波信号および正弦波信号を生成する機能を有する。なお、以下の説明では、余弦波信号および正弦波信号を併せて直交信号ともいう。また、生成した直交信号は、復調処理部724において復調処理に用いられる。さらに、余弦波信号は、前処理部722にフィードバックされ、前処理部722から出力される信号の位相を調整する。これにより、位相のずれに伴う復調処理の精度低下が抑制され、移動ミラー33の位置の計測誤差Δdを抑制することができる。
【0179】
なお、直交信号発生部723は、必要に応じて設けられればよく、省略されていてもよい。その場合、基準信号Ssおよびその位相をπ/2だけシフトさせた信号を、直交信号として用いればよい。
【0180】
8.第3実施形態の第3変形例
次に、第3実施形態の第3変形例に係る分光装置について説明する。
【0181】
図22は、第3実施形態の第3変形例に係る分光装置が備える分析光学系3、測長光学系4、信号生成部8および演算装置7の各主要部を示す模式図である。
図23は、
図22に示す模式図のうち、信号生成部8について詳細に示す図である。
【0182】
図22に示す分光装置100は、信号生成部8の構成が異なること以外、
図2に示す分光装置100と同様である。
【0183】
図22に示す信号生成部8は、数値制御発振器86、増幅器84および補正処理部85を備える。このうち、補正処理部85は、
図23に示すように、乗算器871、872と、ローパスフィルター873と、ローパスフィルター874と、振幅位相演算部875と、周波数設定部876と、振幅ゲイン設定部877と、を備える。
【0184】
8.1.信号生成部
図23に示す信号生成部8について説明する。
【0185】
数値制御発振器86は、正弦波や余弦波の1周期分の数値を収容したROMテーブルから、規則的なクロック間隔で加算されるアドレスのデータを読み出すことにより、正弦波や余弦波等の周期信号を発生させる。これにより、数値制御発振器86は、目的とする周波数の基準信号Ssを高精度に生成し、DAC89に向けて出力する。DAC89は、デジタル-アナログ変換器であり、入力されたデジタルの基準信号Ssに基づいて、アナログの基準信号Ssを生成する。
【0186】
図23に示す数値制御発振器86は、累積加算器861と、絶対値演算器865と、ローパスフィルター866と、位相量設定部867と、加算器862と、第1周期信号発生器863と、第2周期信号発生器864と、を備える。
【0187】
累積加算器861は、補正処理部85の周波数設定部876から出力された周波数制御信号Sf2を累積加算する。周波数制御信号Sf2は、後述するが、基準信号Ssに設定されるべき周波数に対応する、単位時間ステップあたりの位相進み量である。累積加算器861では、この位相進み量を累積して加算し、累積加算値を算出する。得られた累積加算値を第1周期信号発生器863に向けて出力する。
【0188】
第1周期信号発生器863は、正弦波および余弦波の1周期分の数値を収容したROM(Read Only Memory)を含む。第1周期信号発生器863では、累積加算値に該当するアドレスの数値が読み出される。これにより、周波数制御信号Sf2に応じた周波数の正弦波信号および余弦波信号を発生させることができる。余弦波信号は、基準信号SsとしてDAC89および補正処理部85の乗算器871に向けてそれぞれ出力される。正弦波信号は、基準信号Ss’として補正処理部85の乗算器872に向けて出力される。
【0189】
絶対値演算器865は、前処理部722から出力された前処理済み信号S(t)の絶対値を算出する。算出結果は、ローパスフィルター866を介して位相量設定部867に入力される。
【0190】
位相量設定部867では、前述したように、加算器862で累積加算値に加算すべき位相量aを設定する。加算器862では、累積加算値と位相量aとの和を算出する。得られた累積加算値と位相量aとの和を第2周期信号発生器864に向けて出力する。
【0191】
第2周期信号発生器864は、正弦波および余弦波の1周期分の数値を収容したROM(Read Only Memory)から、累積加算値と位相量aとの和に該当するアドレスの数値を読み出す。これにより、周波数制御信号Sf2に応じた周波数で、位相量aの位相オフセットが加わった正弦波信号sin(θm(t))および余弦波信号cos(θm(t))を発生させることができる。余弦波信号cos(θm(t))は、前処理部722および後述する復調処理部724に向けて出力され、正弦波信号sin(θm(t))は、復調処理部724に向けて出力される。
【0192】
以上、数値制御発振器86の構成例について説明したが、数値制御発振器86の構成は、上記に限定されない。
【0193】
8.2.補正処理部
補正処理部85には、
図22に示すように、光変調器444の駆動に対応して出力される出力信号Smが入力される。補正処理部85では、直交検波により、出力信号Smと基準信号Ssとの位相差、および、出力信号Smの振幅を取得する。
【0194】
また、補正処理部85は、数値制御発振器86に向けて周波数制御信号Sf2(補正信号)を出力する機能、および、増幅器84に向けて増幅率制御信号Sam(補正信号)を出力する機能を有する。
【0195】
光変調器444からの出力信号Smは、デジタル信号に変換された後、
図23に示すように、2つに分割される。そして、一方の出力信号Smは、乗算器871で基準信号Ssと乗算される。乗算器871から出力された信号は、ローパスフィルター873を通過することにより、信号Iとして振幅位相演算部875に入力される。他方の出力信号Smは、乗算器872で基準信号Ss’と乗算される。乗算器872から出力された信号は、ローパスフィルター874を通過することにより、信号Qとして振幅位相演算部875に入力される。
【0196】
ローパスフィルター873およびローパスフィルター874の透過周波数帯域は、駆動信号Sdの周波数以上を除去できる帯域であるのが好ましい。
【0197】
振幅位相演算部875は、atan(Q/I)の演算を行い、出力信号Smの位相を算出する。振幅位相演算部875は、出力信号Smと基準信号Ssとの位相差を周波数設定部876に向けて出力する。また、振幅位相演算部875は、(I2+Q2)1/2の演算を行い、出力信号Smの振幅を算出する。振幅位相演算部875は、算出した振幅を振幅ゲイン設定部877に向けて出力する。振幅位相演算部875には、例えば、復調回路であるCORDIC(COordinate Rotation DIgital Computer)が用いられるが、これに限定されない。
【0198】
周波数設定部876は、基準信号Ssの目標周波数を求める機能を有する。そして、周波数設定部876は、基準信号Ssの周波数が目標周波数になるように、周波数制御信号Sf2の制御を行い、数値制御発振器86に向けて周波数制御信号Sf2を出力する。
【0199】
数値制御発振器86では、周波数制御信号Sf2に基づいて、基準信号Ssを発生させる。これにより、基準信号Ssの周波数が補正される。
【0200】
振幅ゲイン設定部877は、駆動信号Sdの目標振幅を求める機能を有する。そして、振幅ゲイン設定部877は、駆動信号Sdの振幅が目標振幅になるように、増幅率制御信号Samの制御を行い、増幅器84に向けて増幅率制御信号Samを出力する。
【0201】
増幅器84では、増幅率制御信号Samに基づいて、駆動信号Sdの振幅を増幅する。これにより、駆動信号Sdの振幅が補正される。
【0202】
以上のような補正処理を行うことにより、次のような効果が得られる。
温度変化等の外乱が加わった場合でも、振動素子446の機械的共振周波数や振動振幅の変化に駆動信号Sdの周波数や振幅を追従させることができる。これにより、振動素子446の振動の周波数および振幅を一定に維持することができる。その結果、第2変調信号のS/N比の低下を抑制することができる。その結果、外乱が加わった場合でも、移動ミラー33の位置の計測誤差Δdを抑制することができる。
【0203】
また、発振回路による駆動とは異なり、振動素子446の機械的共振周波数の近傍で振動素子446を駆動することができるので、光学デバイス1の低消費電力化を図ることができる。
【0204】
また、補正処理部85では、直交検波により、出力信号Smと基準信号Ssとの位相差、および、出力信号Smの振幅を取得する。直交検波によれば、位相差および振幅を瞬時に取得することができる。このため、補正処理をリアルタイムに行うことができる。
【0205】
また、数値制御発振器86では、ROMテーブルから読み出した数値に基づいて周期信号を発生させることができる。このため、数値制御発振器86では、ノイズ等の影響を受けることなく、高精度の基準信号Ss、Ss’、ならびに、高精度の余弦波信号cos(θm(t))および正弦波信号sin(θm(t))を出力することができる。これにより、演算装置7における前処理や復調処理の精度を特に高めることができる。
【0206】
6.第4実施形態
次に、第4実施形態に係る光学デバイスおよび分光装置について説明する。
図24は、第4実施形態に係る分光装置100を示す概略構成図である。
【0207】
以下、第4実施形態について説明するが、以下の説明では、第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項についてはその説明を省略する。
【0208】
図24に示す入射光学系5は、波長変換素子571および集光レンズ581をさらに備えること以外、
図1に示す入射光学系5と同様である。
【0209】
図24に示すレーザー光源51から射出された射出光L0は、ビームスプリッター531で分析光L1および測長光L2に分割される。測長光L2は、ビームスプリッター531を透過し、測長光学系4に入射される。分析光L1は、ビームスプリッター531で反射された後、集光レンズ581で集光されて、波長変換素子571に照射される。
【0210】
波長変換素子571としては、励起光の波長を変換して発光する素子であれば、特に限定されないものの、例えば、蛍光体が挙げられる。
図25は、蛍光体が波長405nmの光で励起され、450~650nmの波長を持つ蛍光を発するときの、励起スペクトルEX1および発光スペクトルLU1の例である。波長変換素子571からの蛍光は、入射時とは異なる波長の分析光L1として射出され、集光レンズ581、ビームスプリッター531、54、集光レンズ55を介して、試料9に照射される。これにより、レーザー光源51を用いた場合でも、試料9に照射される分析光L1として、広帯域な光、いわゆる白色光を得ることができる。したがって、
図24に示す分光装置100は、例えば試料9に対する反射分光分析、吸収分光分析、蛍光分光分析等に適用可能である。
以上のような第4実施形態においても、第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0211】
7.第4実施形態の第1変形例
次に、第4実施形態の第1変形例に係る光学デバイスおよび分光装置について説明する。
図26は、第4実施形態の第1変形例に係る分光装置100を示す概略構成図である。
【0212】
図26に示す入射光学系5は、ビームスプリッター532、波長変換素子572、集光レンズ582およびミラー506をさらに備えること以外、
図24に示す入射光学系5と同様である。
【0213】
図26に示すレーザー光源51から射出された射出光L0は、ビームスプリッター531(入射光分割素子)で分析光L1および測長光L2に分割される。測長光L2は、ビームスプリッター531で反射され、ミラー506を介して測長光学系4に入射される。分析光L1は、ビームスプリッター531を透過した後、ビームスプリッター532に入射する。ビームスプリッター532では、分析光L1が2つに分割される。一方の分析光L11は、集光レンズ581を介して波長変換素子571に照射され、他方の分析光L12は、集光レンズ582を介して波長変換素子572に照射される。
【0214】
波長変換素子572にも、例えば、蛍光体が用いられる。
図27は、蛍光体が波長405nmの光で励起され、500~700nm超の波長を持つ蛍光を発するときの、励起スペクトルEX1および発光スペクトルLU2の例である。前述した波長変換素子571と波長変換素子572とで、蛍光の波長域が異なる。このため、波長変換素子571からの蛍光である分析光L11と、波長変換素子572からの蛍光である分析光L12と、がビームスプリッター532で合成されると、第4実施形態よりもさらに広帯域な分析光L1が得られる。このとき、ビームスプリッター532は、光合成部として機能する。
【0215】
なお、波長変換素子572は、必要に応じて、波長を変換せずに反射する反射素子で代替されてもよい。反射素子は、鏡面反射させる素子であってもよいし、散乱させる素子であってもよい。
【0216】
8.第4実施形態の第2変形例
次に、第4実施形態の第2変形例に係る光学デバイスおよび分光装置について説明する。
図28は、第4実施形態の第2変形例に係る分光装置100を示す概略構成図である。
【0217】
図28に示す入射光学系5は、回転位相差板59をさらに備えること、および、ビームスプリッター532を偏光ビームスプリッターとすること以外、
図26に示す入射光学系5と同様である。
【0218】
回転位相差板59は、ビームスプリッター531とビームスプリッター532との間に配置される。回転位相差板59は、分析光L1が透過する1/2波長板であって、分析光L1の光路と平行な軸を回転軸として回転する。回転位相差板59が回転すると、回転位相差板59を透過した分析光L1に含まれるP偏光とS偏光の混合比(偏光比)が変化する。これにより、偏光ビームスプリッターであるビームスプリッター532で分析光L1を分析光L11と分析光L12とに分割するとき、分割比を任意に変化させることができる。その結果、ビームスプリッター532で分析光L11と分析光L12とを合成して分析光L1を得るとき、合成比を任意に変化させることができる。
【0219】
図29は、
図25に示す発光スペクトルLU1の蛍光と、
図27に示す発光スペクトルLU2の蛍光とを、合成比を5段階に変えながら合成するとき、合成発光スペクトルMXの変化の例を比較した図である。
図29の最も上にある合成発光スペクトルMXでは、発光スペクトルLU2の強度がほぼゼロである。このとき、回転位相差板59の偏光軸はS偏光とほぼ平行である。これに対し、
図29の最も下にある合成発光スペクトルMXでは、発光スペクトルLU1の強度がほぼゼロである。このとき、回転位相差板59の偏光軸はP偏光とほぼ平行である。そして、これらの間に位置する合成発光スペクトルMXでは、発光スペクトルLU1の強度と、発光スペクトルLU2の強度と、の比が徐々に変化している。このとき、回転位相差板59の偏光軸はP偏光とS偏光の両方に対して傾いており、回転位相差板59の回転角は互いに異なっている。
【0220】
このように、回転位相差板59を設けることで、任意の合成発光スペクトルMXを有する分析光L1を得ることができる。これにより、試料9の物性や分析の目的等に応じて、最適な分析光L1を作り出すことができる。
【0221】
9.第4実施形態の第3変形例
次に、第4実施形態の第3変形例に係る光学デバイスおよび分光装置について説明する。
図30は、第4実施形態の第3変形例に係る分光装置100を示す概略構成図である。
【0222】
図30に示す光学デバイス1は、入射光学系5内ではなく、分析光学系3内で試料9に分析光L1を照射するように構成されている以外、
図24に示す光学デバイス1と同様である。
【0223】
図30に示す入射光学系5は、ビームスプリッター54、集光レンズ55および減光フィルター56に代えて、ミラー508を備えている。また、
図30に示す分析光学系3では、ビームスプリッター32と集光レンズ35との間に試料9が配置されている。このような構成によれば、試料9に分析光L1を照射し、照射面とは反対側から放出される光を、第1受光素子36で受光することができる。したがって、透過法での分光分析が可能になる。また、
図30に示す波長変換素子571を適宜選択することにより、
図30に示す分光装置100を、FT-IR(フーリエ型赤外分光分析)、FT-NIR(フーリエ型近赤外分光分析)、FT-VIS(フーリエ型可視分光分析)、FT-UV(フーリエ型紫外分光分析)、FT-THz(フーリエ型テラヘルツ分光分析)のような各種分光分析に適用可能となる。
【0224】
なお、試料9の位置は、
図30に示す位置に限定されず、例えば、ミラー508とビームスプリッター32との間であってもよい。
【0225】
10.第4実施形態の第4変形例
次に、第4実施形態の第4変形例に係る光学デバイスおよび分光装置について説明する。
図31は、第4実施形態の第4変形例に係る分光装置100を示す概略構成図である。
【0226】
図31に示す入射光学系5は、波長フィルター60をさらに備えること以外、
図30に示す光学デバイス1と同様である。
【0227】
図31に示す波長フィルター60は、例えば、
図25に示す発光スペクトルLU1に重なるとともに、その帯域よりも十分に狭いバンドパス特性を有する。透過波長帯域幅は、例えば10nm以下とされる。
図32は、
図25に示す発光スペクトルLU1と、波長フィルター60の透過波長帯域BAと、が重なっている様子、および、波長フィルター60を透過した分析光L1のスペクトルLU3、を示す図である。
図32に示すように、発光スペクトルLU1を持つ蛍光から目的とする波長域(スペクトルLU3)の光を選択的に透過させることができる。その結果、試料9の物性や分析の目的等に応じて、最適な分析光L1を作り出すことができる。
【0228】
なお、
図31に示す光学デバイス1は、バンドパス特性が互いに異なる複数の波長フィルター60を備えていてもよい。そして、分析光L1の光路と重なる波長フィルター60を切り替えられるようになっていてもよい。これにより、簡単な操作でバンドパス特性を切り替えることができる。
【0229】
11.第4実施形態の第5変形例
次に、第4実施形態の第5変形例に係る光学デバイスおよび分光装置について説明する。
図33は、第4実施形態の第5変形例に係る分光装置100を示す概略構成図である。
【0230】
図33に示す光学デバイス1は、入射光学系5内ではなく、分析光学系3内で試料9に分析光L1を照射するように構成されている以外、
図26に示す光学デバイス1と同様である。
【0231】
図33に示す入射光学系5は、ビームスプリッター54、集光レンズ55および減光フィルター56に代えて、ミラー508を備えている。また、
図33に示す分析光学系3では、ビームスプリッター32と集光レンズ35との間に試料9が配置されている。このような構成によれば、試料9に分析光L1を照射し、照射面とは反対側から放出される光を、第1受光素子36で受光することができる。したがって、透過法での分光分析が可能になる。また、
図33に示す波長変換素子571、572を適宜選択することにより、
図33に示す分光装置100を、FT-IR、FT-NIR、FT-VIS、FT-UV、FT-THzのような各種分光分析に適用可能となる。
【0232】
なお、試料9の位置は、
図33に示す位置に限定されず、例えば、ミラー508とビームスプリッター32との間であってもよい。
【0233】
12.前記実施形態が奏する効果
以上のように、前記実施形態に係る光学デバイス1は、入射光学系5、分析光学系3、および、測長光学系4、を備える。
【0234】
入射光学系5は、レーザー光源51と、入射光分割素子と、を備える。レーザー光源51は、射出光L0(レーザー光)を射出する。入射光分割素子は、射出光L0を分析光L1(第1分割光)および測長光L2(第2分割光)に分割する。
【0235】
分析光学系3は、ビームスプリッター32(第1光分割素子)と、移動ミラー33(第1ミラー)と、固定ミラー34(第2ミラー)と、第1受光素子36と、を備える。ビームスプリッター32は、分析光L1を一方(分析光L1a)および他方(分析光L1b)に分割した後、分析光L1a(一方の第1分割光)および分析光L1b(他方の第1分割光)を混合する。移動ミラー33は、分析光L1aの入射方向に移動し、かつ、分析光L1aを反射させることにより、分析光L1aに第1変調信号を付加する。固定ミラー34は、分析光L1bを反射させる。第1受光素子36は、分析光L1aと試料9との作用により生成された試料由来信号、および、第1変調信号、を含む分析光L1a、L1bを受光し、第1受光信号F(t)を出力する。
【0236】
測長光学系4は、第2光分割素子42と、光帰還部43と、第2受光素子45と、を備える。第2光分割素子42は、測長光L2を一方(測長光L2a)および他方(測長光L2b)に分割した後、測長光L2a(一方の第2分割光)および測長光L2b(他方の第2分割光)を混合する。光帰還部43は、第2光分割素子42から射出された測長光L2aを第2光分割素子42に帰還させる。第2受光素子45は、測長光L2bが移動ミラー33で反射して生成された変位信号を含む測長光L2a、L2bを受光し、第2受光信号S2を出力する。
【0237】
このような構成によれば、1つのレーザー光源51から射出された射出光L0を、分析光学系3および測長光学系4でそれぞれ光干渉に用いることができる。このため、2つの光源を用いる必要がなく、光学系の省スペース化、低消費電力化および構造の簡素化を図ることができる。したがって、上記の光学デバイス1によれば、小型で消費電力が少ない分光装置100を実現することができる。
【0238】
また、光帰還部43は、測長光L2a(一方の第2分割光)を第2光分割素子42に向けて反射させる光反射器442を有していてもよい。
【0239】
このような構成によれば、光帰還部43の構成を簡素化でき、光学デバイス1の小型化に寄与できる。
【0240】
また、光帰還部43は、駆動信号Sdにより駆動され、測長光L2a(一方の第2分割光)に第2変調信号を付加する光変調器444を有していてもよい。
【0241】
このような構成によれば、測長光L2a、L2bを干渉させたとき、光ヘテロダイン干渉法により、移動ミラー33の位置に対応する位相情報をより高い精度で取得することができる。そして、演算装置7において位相情報から移動ミラー33の位置が高精度に求められる。その結果、より細かな間隔でインターフェログラムF(x)を生成することができ、最終的に、高い分解能のスペクトルパターンを取得可能な分光装置100を実現することができる。
【0242】
また、光変調器444は、駆動信号Sdにより振動する振動素子446を備えていてもよい。光変調器444は、振動する振動素子446で測長光L2a(一方の第2分割光)を反射させることにより、測長光L2a(一方の第2分割光)に第2変調信号を付加する。
【0243】
このような構成によれば、AOMやEOMを有する光変調器に比べて、光変調器444の体積や重量を大きく削減することができる。このため、光学デバイス1の小型化、軽量化および低消費電力化を図ることができる。
【0244】
また、振動素子446は、水晶振動子、シリコン振動子またはセラミック振動子であってもよい。
【0245】
これらの振動子は、その他の振動子、例えばピエゾ素子等とは異なり、機械共振現象を利用した振動子であるため、Q値が高く、固有振動数の安定化を容易に図ることができる。このため、第2変調信号のS/N比を高めることができる。
【0246】
また、光学デバイス1は、分析光L11(第1分割光)の波長を変換する波長変換素子571を備えていてもよい。
【0247】
このような構成によれば、試料9に照射される分析光L1として、広帯域な光、いわゆる白色光を得ることができる。これにより、例えば試料9に対する反射分光分析、吸収分光分析、蛍光分光分析等に適用可能な分光装置100を実現することができる。
【0248】
また、光学デバイス1は、光合成部としてのビームスプリッター532を備えていてもよい。ビームスプリッター532は、分析光L1(第1分割光)を一方および他方に分割した後、波長変換素子571で波長が変換された分析光L11(一方の第1分割光)と、分析光L12(他方の第1分割光)と、を合成する。
【0249】
このような構成によれば、試料9に照射される分析光L1として、より広帯域な光を得ることができる。
【0250】
また、光学デバイス1は、回転位相差板59を備えていてもよい。回転位相差板59は、回転することにより、透過させる分析光L1(第1分割光)の偏光比を変化させることができる。これにより、光合成部として機能するビームスプリッター532で分析光L11と分析光L12とを合成するとき、合成比を任意に変化させることができる。
【0251】
また、レーザー光源51は、半導体レーザー素子であるのが好ましい。
これにより、光学デバイス1および分光装置100の小型化および軽量化を図ることができる。
【0252】
前記実施形態に係る分光装置100は、前記実施形態に係る光学デバイス1と、信号生成部8と、移動ミラー位置演算部72と、光強度演算部74と、フーリエ変換部76と、を備える。
【0253】
信号生成部8は、基準信号Ssを出力する。移動ミラー位置演算部72は、基準信号Ssに基づいて、第2受光信号S2に演算を行うことにより、移動ミラー33(第1ミラー)の位置を示す移動ミラー位置信号X(t)を生成する。光強度演算部74は、第1受光信号F(t)および移動ミラー位置信号X(t)に基づいて、移動ミラー33の各位置における第1受光信号F(t)の強度を表す波形(インターフェログラムF(x))を生成する。フーリエ変換部76は、インターフェログラムF(x)にフーリエ変換を行い、スペクトルパターン(スペクトル情報)を取得する。
【0254】
上記の光学デバイス1では、1つのレーザー光源51から射出された射出光L0を、分析光学系3および測長光学系4でそれぞれ光干渉に用いることができる。このため、2つの光源を用いる必要がなく、光学系の省スペース化、低消費電力化および構造の簡素化を図ることができる。これにより、小型で消費電力が少ない分光装置100が得られる。
【0255】
また、光帰還部43は、測長光L2a(一方の第2分割光)に第2変調信号を付加する光変調器444を有していてもよい。そして、光変調器444は、駆動信号Sdにより振動する振動素子446を備え、振動する振動素子446で測長光L2aを反射させることにより、測長光L2aに第2変調信号を付加するように構成されていてもよい。さらに、信号生成部8は、振動素子446を信号源として動作する発振回路81を備え、基準信号Ssおよび駆動信号Sdを出力するように構成されていてもよい。
【0256】
このような構成によれば、第2変調信号を含む第2受光信号S2および基準信号Ssが、演算装置7における演算に供されたとき、演算の過程で、双方が含む外乱の影響を互いに相殺または低減させることができる。その結果、演算装置7では、外乱を受けても、移動ミラー33の位置を精度よく求めることができる。また、分光装置100の小型化、軽量化、低消費電力化を図ることができる。
【0257】
以上、本発明の光学デバイスおよび分光装置を図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明の光学デバイスおよび分光装置は、前記実施形態やその変形例に限定されるものではなく、各部の構成は、同様の機能を有する任意の構成のものに置換されていてもよいし、他の任意の構成物が付加されていてもよい。
【0258】
また、本発明の光学デバイスおよび分光装置は、前記実施形態やその変形例のうち、2つ以上を含み合わせたものであってもよい。さらに、本発明の分光装置が備える各機能部は、複数の要素に分割されていてもよく、複数の機能部が1つに統合されていてもよい。
【0259】
また、前記実施形態やその変形例では、マイケルソン型干渉光学系が用いられているが、他の方式の干渉光学系が用いられていてもよい。
【0260】
さらに、試料の配置は、図示した配置に限定されない。試料由来信号は、試料に分析光を作用させることによって生成されるので、試料から射出する分析光が第1受光素子に入射する位置であれば、任意の位置に試料を配置すればよい。
【符号の説明】
【0261】
1…光学デバイス、3…分析光学系、4…測長光学系、5…入射光学系、7…演算装置、8…信号生成部、9…試料、32…ビームスプリッター、33…移動ミラー、34…固定ミラー、35…集光レンズ、36…第1受光素子、42…第2光分割素子、43…光帰還部、45…第2受光素子、46…1/2波長板、47…1/4波長板、48…1/4波長板、49…検光子、51…レーザー光源、52…バンドパスフィルター、54…ビームスプリッター、55…集光レンズ、56…減光フィルター、59…回転位相差板、60…波長フィルター、72…移動ミラー位置演算部、74…光強度演算部、76…フーリエ変換部、81…発振回路、82…ファンクションジェネレーター、83…電圧制御発振器、84…増幅器、85…補正処理部、86…数値制御発振器、89…DAC、100…分光装置、401…基部、402…第1振動腕、403…第2振動腕、404…電極、405…電極、406…光反射面、422…ビームスプリッター、424…ビームスプリッター、431…振動片、432…溝、433…パッド、434…回折格子、435…パッド、436…振動方向、439…電流シャントモニター、442…光反射器、444…光変調器、445…音響光学変調器、446…振動素子、451…ミラー、452…ミラー、472…ミラー、474…ミラー、482…1/4波長板、502…ミラー、504…ミラー、506…ミラー、508…ミラー、531…ビームスプリッター、532…ビームスプリッター、571…波長変換素子、572…波長変換素子、581…集光レンズ、582…集光レンズ、722…前処理部、723…直交信号発生部、724…復調処理部、726…移動ミラー位置信号出力部、851…オフセット除去部、852…オフセット除去部、853…絶対値演算器、854…乗算器、855…乗算器、856…ローパスフィルター、857…ローパスフィルター、858…振幅ゲイン設定部、859…周波数設定部、861…累積加算器、862…加算器、863…第1周期信号発生器、864…第2周期信号発生器、865…絶対値演算器、866…ローパスフィルター、867…位相量設定部、871…乗算器、872…乗算器、873…ローパスフィルター、874…ローパスフィルター、875…振幅位相演算部、876…周波数設定部、877…振幅ゲイン設定部、4311…表面、4312…裏面、4391…シャント抵抗、4392…オペアンプ、BA…透過波長帯域、EX1…励起スペクトル、F(t)…第1受光信号、F(x)…インターフェログラム、FP…特徴点、I…信号、L…移動距離、L0…射出光、L1…分析光、L11…分析光、L12…分析光、L1a…分析光、L1b…分析光、L2…測長光、L2a…測長光、L2b…測長光、LU1…発光スペクトル、LU2…発光スペクトル、LU3…スペクトル、MX…合成発光スペクトル、Q…信号、S(t)…前処理済み信号、S2…第2受光信号、Sam…増幅率制御信号、Sd…駆動信号、Sf1…周波数制御信号、Sf2…周波数制御信号、Sm…出力信号、Ss…基準信号、Ss’…基準信号、X(t)…移動ミラー位置信号、cos(θm(t))…余弦波信号、sin(θm(t))…正弦波信号