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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121197
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】イオン交換樹脂を用いた水処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/42 20230101AFI20240830BHJP
【FI】
C02F1/42 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028159
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】596136316
【氏名又は名称】三菱ケミカルアクア・ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】久保田 裕久
(72)【発明者】
【氏名】竹田 有之
(72)【発明者】
【氏名】ザマン サエド
(72)【発明者】
【氏名】是木 令
【テーマコード(参考)】
4D025
【Fターム(参考)】
4D025AA03
4D025AA09
4D025AB38
4D025BA14
4D025BA22
4D025BB01
4D025DA03
4D025DA05
4D025DA08
4D025DA10
(57)【要約】
【課題】本発明は、凝集剤を使用せずとも消毒副生成物量を水質基準内に抑えることができ、凝集剤の使用コストを削減でき、水処理フローも簡便化できる水処理方法を提供することを目的とする。
【解決手段】有機物を含む被処理水から処理水を製造するための水処理方法は、強塩基性陰イオン交換樹脂を用いて前記被処理水を処理することを含み、前記強塩基性陰イオン交換樹脂の平均細孔径が、10~300nmであり、かつ、前記強塩基性陰イオン交換樹脂の細孔容積が、0.05ml/g以上である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物を含む被処理水から処理水を製造するための水処理方法であって、
強塩基性陰イオン交換樹脂を用いて前記被処理水を処理することを含み、
前記強塩基性陰イオン交換樹脂の平均細孔径が、10~300nmであり、かつ、
前記強塩基性陰イオン交換樹脂の細孔容積が、0.05ml/g以上である、水処理方法。
【請求項2】
前記強塩基性陰イオン交換樹脂の比表面積が、1m/g以上である、請求項1に記載の水処理方法。
【請求項3】
前記強塩基性陰イオン交換樹脂の平均粒子径が、200~800μmである、請求項1または2に記載の水処理方法。
【請求項4】
前記強塩基性陰イオン交換樹脂の均一係数が、1.6以下である、請求項1または2に記載の水処理方法。
【請求項5】
前記強塩基性陰イオン交換樹脂の含水率が、55~80%である、請求項1または2に記載の水処理方法。
【請求項6】
前記強塩基性陰イオン交換樹脂の中性塩分解容量が、0.4~1.0meq/mlである、請求項1または2に記載の水処理方法。
【請求項7】
前記有機物が、分子量が40,000以上の高分子量有機物を含む、請求項1または2に記載の水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン交換樹脂を用いた水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地下水、湧水、湖水、ダム、調整池、河川水等の原水から処理水を製造するための水処理において、原水に有機物が含まれる場合、有機物を陰イオン交換樹脂で除去することがある(特許文献1)。しかし、例えば分子量50,000以上のフミン等のような高分子量有機物は一般的な陰イオン交換樹脂では除去しにくい。高分子量有機物が原水に多く含まれる場合、飲料水製造で一般的に行われる消毒の際にトリクロロ酢酸等の消毒副生成物が生成しやすい。
【0003】
この対策として、例えば、陰イオン交換樹脂の前段または後段において、PAC(ポリ塩化アルミニウム)等の無機系凝集剤やポリアクリルアミド、ポリアクリル等の有機系凝集剤を使用することが提案されている。高分子量有機物は凝集剤によって水中から凝集させた後に沈殿させることで除去できる。この場合、低分子量有機物はイオン交換樹脂に吸着させることで除去される(特許文献2~4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3839477号公報
【特許文献2】特開平5-237497号公報
【特許文献3】特開昭58-17883号公報
【特許文献4】特開2014-510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献2~4の手法では、イオン交換樹脂および凝集剤を併用するため飲料水製造のための水処理フロー全体の制御が煩雑となる。加えて、凝集剤は使い切りの消耗品として使用せざるを得ないため、ランニングコストが高価となる。
一方で、特許文献1の手法のように凝集剤を使用しない限り、消毒のために次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤を添加したときに消毒副生成物が生成してしまう。そのため、消毒副生成物量が水質基準値を超過するおそれが生じる。
【0006】
本発明は、凝集剤を使用せずとも消毒副生成物量を水質基準内に抑えることができ、凝集剤の使用コストを削減でき、水処理フローも簡便化できる水処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、特定のイオン交換樹脂を用いることで、被処理水中の高分子量有機物および低分子量有機物の両方を確実に除去することを実現した。これにより、別途の凝集剤添加工程がなくても消毒副生成物量を水質基準内に抑えることができるため、上記課題を解決できる。
【0008】
本発明は、下記の態様を有する。
[1]有機物を含む被処理水から処理水を製造するための水処理方法であって、強塩基性陰イオン交換樹脂を用いて前記被処理水を処理することを含み、前記強塩基性陰イオン交換樹脂の平均細孔径が、10~300nmであり、かつ、前記強塩基性陰イオン交換樹脂の細孔容積が、0.05ml/g以上である、水処理方法。
[2]前記強塩基性陰イオン交換樹脂の比表面積が、1m/g以上である、[1]に記載の水処理方法。
[3]前記強塩基性陰イオン交換樹脂の平均粒子径が、200~800μmである、[1]または[2]に記載の水処理方法。
[4]前記強塩基性陰イオン交換樹脂の均一係数が、1.6以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の水処理方法。
[5]前記強塩基性陰イオン交換樹脂の含水率が、55~80%である、[1]~[4]のいずれかに記載の水処理方法。
[6]前記強塩基性陰イオン交換樹脂の中性塩分解容量が、0.4~1.0meq/mlである、[1]~[5]のいずれかに記載の水処理方法。
[7]前記有機物が、分子量が40,000以上の高分子量有機物を含む、[1]~[6]のいずれかに記載の水処理方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、凝集剤を使用せずとも消毒副生成物量を水質基準内に抑えることができ、凝集剤の使用コストを削減でき、水処理フローも簡便化できる水処理方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】好適な水処理フローの一例を示す。
図2】好適な水処理フローの他の一例を示す。
図3】実施例1の強塩基性陰イオン交換樹脂の電子顕微鏡写真である。
図4】実施例5の強塩基性陰イオン交換樹脂の電子顕微鏡写真である。
図5】比較例1の強塩基性陰イオン交換樹脂の電子顕微鏡写真である。
図6】実施例の評価3で使用した地下水3のTOC成分の有機炭素検出型サイズ排除クロマト法(LC-OCD法)分析結果を示す。
図7】実施例のLC-OCD分析における有機物の分子量と保持時間の関係を示す校正曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
用語の意味は、以下の通りである。
「被処理水」とは、水処理における任意の処理が施される対象となる水である。
「消毒副生成物」とは、有機物を含む水を消毒のために次亜塩素酸ナトリウム等の塩素系薬剤で処理したときに副次的に生成する物質である。
数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値および上限値として含むことを意味する。
【0012】
<水処理方法>
本発明の水処理方法は、有機物を含む被処理水から処理水を製造するための方法である。本発明の水処理方法は、強塩基性陰イオン交換樹脂を用いて被処理水を処理することを含む。そして、本発明の水処理方法においては、強塩基性陰イオン交換樹脂の平均細孔径が10~300nmであり、かつ、該強塩基性陰イオン交換樹脂の細孔容積が0.05ml/g以上である。
【0013】
本発明の水処理方法においては、強塩基性陰イオン交換樹脂の平均細孔径が10~300nmであり、かつ、該強塩基性陰イオン交換樹脂の細孔容積が0.05ml/g以上であるため、被処理水中の高分子量有機物および低分子量有機物の両方を該強塩基性陰イオン交換樹脂に吸着させることができる。
この特定の強塩基性陰イオン交換樹脂を被処理水と接触させることで、低分子量有機物とともに高分子量有機物を被処理水から確実に除去できる。結果、被処理水に高分子量有機物が含まれていたとしても、消毒副生成物量を水質基準内に抑えることができる。加えて、凝集剤の使用コストを削減でき、水処理フローも簡便化できる。
【0014】
以下、いくつかの実施形態について説明する。以下の説明は実施形態の代表例として提示するものであり、本発明は以下の説明に限定されない。
【0015】
<強塩基性陰イオン交換樹脂>
水処理方法においては、強塩基性陰イオン交換樹脂を使用する。本発明における被処理水のpHとしては6.0~9.0の中性領域が一般的に想定される。このpH範囲内では、弱塩基性のイオン交換基が解離状態になく、中性状態となる。例えば、ジメチルアミノ基は中性状態(―N(CH)にあるため、電気的なクーロン力が生じない。弱塩基性のイオン交換基では、負に帯電したフミンのような有機物をpHが5.8~8.6の範囲内で吸着できない。よって、本発明では強塩基性陰イオン交換樹脂を使用する。
【0016】
強塩基性陰イオン交換樹脂の平均細孔径は、10~300nmである。平均細孔径は、乾燥状態の強塩基性陰イオン交換樹脂での中心値である。乾燥状態とは、その水分含有率が0.1%以下の状態を言う。
該平均細孔径が前記数値範囲内の下限値以上であると、有機物を含む被処理水を通水したときに有機物、各種イオンが樹脂内部まで充分に拡散できる。該平均細孔径が前記数値範囲内の上限値以下であると、比表面積を充分に確保できる。結果、被処理水との接触面積が大きくなる。
以上の観点から、該平均細孔径は20nm以上が好ましく、40nm以上がより好ましく、また、200nm以下が好ましく、160nm以下がより好ましい。
平均細孔径の測定方法の詳細は、後述の実施例に記載の通りである。
【0017】
強塩基性陰イオン交換樹脂の細孔容積は、0.05ml/g以上である。細孔容積は、乾燥状態の強塩基性陰イオン交換樹脂での中心値である。該細孔容積が前記下限値以上であると、有機物の吸着量が高くなる。該細孔容積は0.1ml/g以上が好ましく、0.2ml/g以上がより好ましく、0.5ml/g以上がさらに好ましい。該細孔容積の上限値は特に限定されるものではないが、2.0ml/g以下が好ましく、1.5ml/g以下がより好ましく、1.2ml/g以下がさらに好ましい。細孔容積が前記上限値以下であると、樹脂が粉化しにくい。また力学的な強度を保持しやすい。細孔容積が前記上限値を超過すると、重合時の重合収率が低下し、樹脂が粉化し、機械的強度が保持できない等の問題がある。
細孔容積の測定方法の詳細は、後述の実施例に記載の通りである。
【0018】
乾燥状態の強塩基性陰イオン交換樹脂の比表面積は1m/g以上が好ましく、5m/g以上がより好ましく、10m/g以上がさらに好ましく、20m/g以上が特に好ましい。該比表面積が前記下限値以上であると、被処理水中の有機物との吸着表面積を充分に確保しやすい。該比表面積は100m/g以下が好ましく、70m/g以下がより好ましく、50m/g以下がさらに好ましい。該比表面積が前記上限値以下であると、平均細孔径の値が大きくなりやすい。
比表面積の測定方法の詳細は、後述の実施例に記載の通りである。
【0019】
強塩基性陰イオン交換樹脂の平均粒子径は水湿潤状態で200μm以上が好ましく、250μm以上がより好ましく、300μm以上がさらに好ましく、また、800μm以下が好ましく、550μm以下がより好ましく、500μm以下がさらに好ましい。該平均粒子径が前記数値範囲内の下限値以上であると、被処理水を通水したとき流通抵抗が小さくなる。そのため、差圧の上昇を抑制しやすい。該平均粒子径が前記数値範囲内の上限値以下であると、有機物が樹脂の内部まで拡散しやすい。そのため、吸着表面積を充分に利用しやすい。また吸着帯長を短縮できるため、樹脂の内部まで有効利用しやすい。
平均粒子径の測定方法の詳細は、後述の実施例に記載の通りである。
【0020】
強塩基性陰イオン交換樹脂の均一係数は、粒度分布の指標となる。該均一係数は1.6以下が好ましく、1.5以下がより好ましく、1.4以下がさらに好ましい。均一係数が前記上限値以下であると、被処理水を通水したとき流通抵抗が小さくなるため、差圧の上昇を抑制しやすい。該均一係数の値は小さいほど好ましく、その下限値は特に限定されるものではないが、例えば、1.0が挙げられる(完全均一粒径)。
均一係数の測定方法の詳細は、後述の実施例に記載の通りである。
【0021】
強塩基性陰イオン交換樹脂の含水率は55%以上が好ましく、60%以上がより好ましく、65%以上がさらに好ましく、また、80%以下が好ましく、75%以下がより好ましい。該含水率が前記数値範囲内の下限値以上であると、水分による膨潤のために網目構造が広がりやすい。また、細孔容積の値が高くなるため、有機物が樹脂内部に拡散しやすい。
該含水率が前記数値範囲内の上限値以下であると、中性塩分解容量、樹脂の力学的強度が低下しにくい。また、細孔容積が過度に大きくなりにくいため、有機物吸着のための表面積を充分に確保しやすい。
含水率の測定方法の詳細は、後述の実施例に記載の通りである。
【0022】
強塩基性陰イオン交換樹脂の中性塩分解容量は0.4~1.0meq/mlが好ましい。該中性塩分解容量が前記数値範囲内の下限値以上であると、有機物の吸着量を充分に確保できる。該中性塩分解容量が前記数値範囲内の上限値以下であると、平均細孔径の値を充分に高く確保しやすい。以上の観点から、該中性塩分解容量の下限値は0.5meq/ml以上が好ましく、0.6meq/ml以上がより好ましい。また、該中性塩分解容量の上限値は0.9meq/ml以下が好ましく、0.8meq/ml以下がより好ましい。
中性塩分解容量の測定方法の詳細は、後述の実施例に記載の通りである。
【0023】
強塩基性陰イオン交換樹脂は特に限定されるものではないが、例えば、ポリスチレン系イオン交換樹脂、アクリル系イオン交換樹脂が挙げられる。安価である点で、強塩基性陰イオン交換樹脂としては、ポリスチレン系イオン交換樹脂が好ましい。
【0024】
強塩基性陰イオン交換樹脂はI型であってもよく、II型であってもよい。
I型の強塩基性陰イオン交換樹脂は、トリメチルアンモニウム基を有する。I型の強塩基性陰イオン交換樹脂は、有機物の吸着量が大きくなる点で好ましい。
II型の強塩基性陰イオン交換樹脂は、ジメチルエタノールアンモニウム基を有する。II型の強塩基性陰イオン交換樹脂では、条件によってイオン交換基が分解することがある。イオン交換基の分解の結果、交換容量が低下する。また、分解した交換基からホルムアルデヒドが副生することもある。また、費用の面でもII型の強塩基性陰イオン交換樹脂はI型より高価である。
以上の理由から、I型の強塩基性陰イオン交換樹脂が好ましい。
【0025】
<被処理水>
被処理水は有機物を少なくとも含むものであれば、特に限定されない。例えば、地下水、井戸水、湖沼水、河川水、工場用水、下水、排水のような原水が挙げられる。被処理水は、これら原水になんらかの処理が施された水であってもよい。ただし、被処理水はこれらの例示に限定されない。
【0026】
被処理水の有機物の主成分として、例えば、フミン酸、フルボ酸が挙げられる。ただし、被処理水は、これら例示した成分以外の有機物を含むことがある。
被処理水のTOCは特に限定されないが、例えば、0.1~10.0mg/L、0.3~5.0mg/L等の範囲内であり得る。
【0027】
一例において、分子量が40,000以上の高分子量有機物を含む被処理水を使用したとき、凝集剤を使用せずとも高分子量有機物を除去できる水処理方法を適用するメリットがさらに大きくなる。高分子量有機物の分子量は50,000以上であってもよく、60,000以上であってもよい。これら高分子量有機物を含む被処理水の場合でも、該被処理水を強塩基性陰イオン交換樹脂と接触させたとき、優れた除去性能が発揮される。
【0028】
被処理水に分子量が40,000以上の高分子量有機物が含まれているかどうかは、該被処理水の有機炭素検出型サイズ排除クロマト法分析(LC-OCD分析)によって確認できる。LC-OCD分析とは、サイズ排除クロマトグラフィーとTOC分析計を組み合わせた分析手法である。LC-OCD分析によれば、有機物の分子量毎の組成を分析できる。分子量既知の有機物の水溶液を用いて、LC-OCD分析のクロマトグラムにおける各標準物質の分子量とピークの保持時間(Retention Time)を求めた校正曲線を作成すれば、LC-OCD分析により、被処理水中の有機物の分子量分布を求めることができる。このLC-OCD分析によるクロマトグラムにおいて、保持時間(Retention Time)が45分以下の範囲にピークがあると、その被処理水には分子量が40,000以上の高分子量有機物が含まれていると判断できる。
【0029】
被処理水は、有機物以外に、アンモニア態窒素、炭酸イオン、炭酸水素イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、塩化物イオン等の陰イオン;鉄イオン、マンガンイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン等の陽イオン;細菌、浮遊物質等の濁質等の不純物をさらに含むことがある。ただし、被処理水の成分はこれらに限定されない。
【0030】
<水処理フロー>
好適な実施形態に係る水処理方法は、強塩基性陰イオン交換樹脂を用いて被処理水を処理すること(イオン交換処理工程)に加えて、種々の他の処理工程をさらに含み得る。
以下、飲料水製造のための水処理方法を含む、飲料水化の水処理フローについて説明する。
【0031】
他の処理工程は、イオン交換処理工程の前段にて行ってもよく、後段にて行ってもよい。他の処理工程の例としては、例えば、下記のものが挙げられる。
・被処理水を活性炭充填塔に通水することを含む、活性炭処理工程。
・被処理水を分離膜に通水することを含む、膜ろ過工程。
・被処理水を砂ろ過塔に通水することを含む、砂ろ過工程。
・酸化剤を被処理水に添加することを含む、消毒工程。
【0032】
活性炭処理における活性炭としては、やし殻、木質、石炭を主要原料とするものが好ましい。飲料水製造では、やし殻活性炭が使われることが多い。また、活性炭の形状は特に限定されないが、例えば、粉末、破砕、シート状、フィルター状、繊維が挙げられる。活性炭充填塔を使う場合は、破砕活性炭が好ましい。破砕状の場合、活性炭の粒度は特に限定されないが、例えば、2.36~4.75mm粒度(4/8メッシュ)、0.5~2.36mm粒度(8/32メッシュ)、0.25~0.5mm粒度(32/60メッシュ)であり得る。
活性炭は1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
膜ろ過工程における分離膜としては、例えば、限外濾過(UF)膜、精密濾過(MF)膜、ナノ(NF)膜、逆浸透(RO)膜が挙げられる。
分離膜は1つを単独で使用してもよく、2つ以上を並列または直列に組み合わせて用いてもよい。
【0034】
消毒のための酸化剤としては、例えば、オゾン、ハロゲン含有化合物が挙げられる。ハロゲン含有化合物としては、例えば、塩素、次亜塩素酸、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウムのような塩素系化合物、ブロモクロロジメチルヒダントイン(BCDMH)、次亜臭素酸のような臭素系化合物が挙げられる。
【0035】
被処理水に金属イオンが含まれる場合、金属イオンの析出のために酸化剤を被処理水に添加することをさらに実施してもよい(酸化工程)。金属イオンの析出のための酸化剤としては、特に限定されるものではないが、典型的には次亜塩素酸ナトリウムが挙げられる。
【0036】
水処理フローの最終処理水は飲料水として利用可能である。この最終処理水の水質は、水道水基準を満たすよう監視される。イオン交換処理工程を含む水処理フローにおいては、その処理条件によっては一部の水質項目が水道水基準を満たさない場合がある。その場合は、水道水基準値未満になるように水道水を最終処理水と適宜の割合(切替率)で混合した後に、飲料水としてユーザーに提供してもよい。
【0037】
(強塩基性陰イオン交換樹脂の再生工程)
ある程度の量の被処理水を処理した後の強塩基性陰イオン交換樹脂は、有機物除去能力が徐々に低下する。その場合は、再生剤によって再生し、有機物除去能力を回復することができる。好適な実施形態に係る水処理方法は、強塩基性陰イオン交換樹脂を再生剤によって再生することをさらに含み得る。
【0038】
一般的な水処理方法におけるイオン交換樹脂の再生では、15~30分間、長くても45分間、再生剤を注入する。しかし、本発明の水処理方法で用いる強塩基性陰イオン交換樹脂は、一般的なイオン交換樹脂より多量の高分子量有機物を吸着できる。高分子量有機物の分子は、その分子量が大きい分、多孔質粒子内拡散速度が小さい。また有機物の動的分子径が大きいほど、高分子動力学のRouse Modelの観点から、高分子量、枝分かれ数、良溶媒になるほど指数的に拡散速度が小さくなるため、拡散に時間を要する。
【0039】
よって、本発明の水処理方法で用いる強塩基性陰イオン交換樹脂を再生するときは、高分子量有機物の拡散速度に合わせるように、一般的な水処理方法におけるイオン交換樹脂の再生よりもゆっくり、時間をかけて再生することが望ましい。好適な実施形態に係る水処理方法は、再生剤による強塩基性陰イオン交換樹脂の処理時間が、好ましくは2時間以上であり、より好ましくは4時間以上である。強塩基性陰イオン交換樹脂と再生剤を接触させることができれば、連続的に再生剤を強塩基性陰イオン交換樹脂に与えてもよいし、間欠的に再生剤を強塩基性陰イオン交換樹脂に与えてもよい。
【0040】
再生剤としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸アンモニウム、水酸化ナトリウム、臭化ナトリウム、硫酸、塩酸、海水等の水溶液が挙げられる。これらの中でも、1段再生で陰イオン交換体の対イオンが塩化物イオンとなることから、塩化ナトリウム水溶液、塩化カリウム水溶液が好適である。
再生剤として臭化ナトリウム、硝酸ナトリウム、ヨウ化ナトリウム等や、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属塩との混合溶液の再生剤の水溶液を用いた場合、陰イオン交換体の対イオンが硫酸イオン、水酸化物イオンまたは臭化物イオンとなる。そのため塩化物イオン形に変換するために、塩化ナトリウム水溶液や塩化カリウム水溶液を用いて二段再生してもよい。
【0041】
(pHの管理)
被処理水に炭酸水素イオン(HCO )、炭酸イオン(CO 2-)のような陰イオンが含まれる場合、イオン交換処理工程においてこれらのイオン種は、強塩基性陰イオン交換樹脂の陰イオンとイオン交換される。強塩基性陰イオン交換樹脂の陰イオンとは、典型的には、塩化物イオン(Cl)であるが、この場合、イオン交換の結果、電離平衡を保つために処理水のpHが一時的に低下することがある。また、再生工程の直後にイオン交換処理工程を行うときも、被処理水中の炭酸水素イオンは減少する一方で遊離炭酸濃度は不変であるため、一時的にpHが低下する。
【0042】
イオン交換処理した後の被処理水(イオン交換処理水)のpHの低下は、飲料水製造には好ましくないため、処理水のpHを6.5以上、好ましくは7.0以上に維持するよう管理することが望ましい。
よって、好適な実施形態に係る水処理方法は、イオン交換処理水のpHを6.5以上、好ましくは7.0以上で管理することをさらに含み得る。例えば、イオン交換処理水のpHの測定センサの値を監視しながら、該測定センサのpH値に基づいてイオン交換処理水を曝気することができる。
【0043】
イオン交換処理水のpHの測定センサの設置場所は、特に限定されるものではないが、例えば、イオン交換処理水の貯留槽に設置できる。また、曝気の手法は特に限定されるものではないが、例えば、ブロアと接続した散気管をイオン交換処理水の貯留槽に設置することで、散気管から貯留槽内のイオン交換処理水を曝気することができる。
【0044】
(塩化物イオン濃度の管理)
塩化物イオン形の強塩基性陰イオン交換樹脂の場合、塩化物イオンがイオン交換処理水に混入し得る。再生工程の直後にイオン交換処理工程を行うとき、塩化物イオン濃度は上昇しやすい。高濃度の塩化物イオンは配管等の金属の腐食の原因となる。イオン交換処理水中の塩化物イオン濃度の低減のために、例えば一時的に公共水道水をイオン交換処理水と混合することは有効である。
【0045】
よって、好適な実施形態に係る水処理方法は、再生工程の後に所望の期間、水道水(または、水道水の水質と同等な水)をイオン交換処理水と混合することをさらに含み得る。水道水の通水期間としては、水道水の量が50BV以上となる期間が好ましい。通水期間の上限としては、特に限定されるものではないが、水道水の量が好ましくは300BV以下、より好ましくは200BV以下となる期間内に終了すればよい。ここで、BVとは、イオン交換塔への通水量をイオン交換処理塔に充填した強塩基性陰イオン交換樹脂の総体積量で除した値を意味する。
【0046】
強塩基性陰イオン交換樹脂の劣化に伴い、中性塩分解容量は低下する。樹脂の劣化が進行すると、再生工程の後に低下したpHが好適な範囲に回復するまでの期間は短くなる。
よって、好適な実施形態に係る水処理方法は、強塩基性陰イオン交換樹脂の中性塩分解容量に応じて、再生工程の後にイオン交換処理水と混合する真水の量を変更することをさらに含み得る。強塩基性陰イオン交換樹脂の劣化が進み、中性塩分解容量が低下するほど、イオン交換処理水と混合するべき真水の量は少なくなる。
【0047】
(イオン交換樹脂塔の設置場所)
強塩基性陰イオン交換樹脂を充填したイオン交換樹脂塔の設置場所は、特に限定されない。井戸等の水源で採水した原水を被処理水として、イオン交換樹脂塔に直接的に通水してもよい。また、活性炭処理充填塔、膜ろ過装置のような設備の前段または後段にイオン交換樹脂塔を設置してもよい。
好適な水処理フローにおいては、イオン交換樹脂塔は膜ろ過装置の前段に設置される。よって、好適な実施形態に係る水処理方法は、イオン交換処理水を被処理水として膜ろ過装置の分離膜で処理することをさらに含み得る。
【0048】
水処理フローが活性炭処理工程を含む場合、以下の基準1~5の少なくとも1つ以上を満たすときにはイオン交換樹脂塔を活性炭充填塔の後段に設置することが好ましい。
・基準1:原水のTOCが1.5mg-C/L以上であること。
・基準2:イオン交換処理水を次亜塩素酸ナトリウム水溶液で消毒したときの消毒副生成物量が水質基準値の30%以下であること。
・基準3:切替率、すなわち、給水末端水における水処理フローの最終処理水の占める割合が50%以下であること。
・基準4:原水のFeの含有量が0.5mg/L以上であること。
・基準5:アンモニア態窒素の含有量が0.5mg/L以下であること。
【0049】
好適な水処理フローのいくつかの例を以下に示すが、以下の例に限定されるものではない。
図1に示す水処理フロー1においては、採取した地下水を上述の強塩基性陰イオン交換樹脂に接触させたのち、原水槽で貯留する(S0、S1A、S2A)。原水槽に貯留した被処理水を順次、1以上の任意の処理工程にて処理する(S3A、S4A)。
図2に示す水処理フロー2においては、採取した地下水を原水槽に直接貯留する(S0、S1B)。原水槽に貯留した被処理水を砂ろ過塔に通水する(S2B)。砂ろ過塔の後、活性炭充填塔に被処理水を通水する(S3B)。活性炭充填塔の後、被処理水を上述の強塩基性陰イオン交換樹脂に接触させる(S4B)。その後、被処理水を膜ろ過装置の分離膜に通水する(S5B)。その後、1以上の任意の処理工程にて処理する(S6B、S7B)。
【0050】
以上いくつかの実施形態について説明したが、これらは代表例として提示したものであり、本発明は本明細書に開示の実施形態例に限定されず、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施できる。本明細書に開示の実施形態は、その他の様々な形態で実施可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置換、変更が可能である。
【実施例0051】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の記載に限定されない。
【0052】
<実施例1>
スチレン291gとジビニルベンゼン36g(純度57%)、イソオクタン235g、過酸化ベンゾイル4.4g(純度75%)を混合することで、モノマー溶液を調製した。その後、0.1%のポリビニルアルコール水溶液でモノマー溶液を懸濁した。その後、窒素の存在下、80℃で12時間重合した。
重合反応の終了後、共沸蒸留でイソオクタンを留去し、さらに水洗、乾燥して粒状の共重合体を得た。共重合体100質量部にクロロメチルメチルエーテル650質量部を加えて室温で1時間攪拌し、次いで無水塩化亜鉛50質量部を添加し、45℃で10時間反応させてクロルメチル化反応を行なった。
反応終了後、反応物を冷却し、水を添加して残存している試薬を分解した。得られたクロルメチル化共重合体を十分に水洗した。その後、トルエン325体積部と30%トリメチルアミン水溶液200体積部を投入し、50℃で10時間保持してアミノ化した。アミノ化終了後、樹脂を水洗しトリメチルアミン、トルエンを除去した後、樹脂内に残留するトルエンを共沸蒸留で留去し、さらに十分に水洗した。わずかに淡黄色に着色した白色不透明様の塩化物イオン形のI型強塩基性陰イオン交換樹脂を得た。
【0053】
<実施例2>
実施例1で得た強塩基性陰イオン交換樹脂を水簸塔に入れた。その後、脱塩水を上向流で通水して水簸分級し、実施例2の小粒子径化した強塩基性陰イオン交換樹脂を分取した。
【0054】
<実施例3>
スチレン247gとジビニルベンゼン40g(純度57%)、イソオクタン240g、過酸化ベンゾイル3.8g(純度75%)を混合することで、モノマー溶液を調製した。その後、0.1%のポリビニルアルコールでモノマー溶液を懸濁した。その後、窒素の存在下、80℃で10時間重合した。
重合反応の終了後に得られた共重合体100gを丸底フラスコに入れ、クロロメチルメチルエーテル500gを加え、共重合体を膨潤させた。その後、無水塩化亜鉛50gを添加し、温度を45℃にして攪拌しながら10時間反応させ、クロロメチル化反応を行った。
反応終了後、反応物を冷却し、水を添加して残存している試薬を分解した。得られたクロルメチル化共重合体は十分に水洗した。その後、トルエン325体積部と30%トリメチルアミン水溶液200体積部を投入し、50℃で10時間保持してアミノ化した。終了後、樹脂をろ別し、残留するトルエンを共沸蒸留で除去し、さらに十分に水洗した。わずかに淡黄色に着色した白色不透明様の塩化物イオン形の強塩基性陰イオン交換樹脂を得た。
【0055】
<実施例4>
実施例3で得た強塩基性陰イオン交換樹脂を水簸塔に入れた。その後、脱塩水を上向流で通水して水簸分級した。小粒子径化した実施例4の強塩基性陰イオン交換樹脂を分取した。
【0056】
<実施例5>
スチレン247gとジビニルベンゼン200g(純度57%)、トルエン700g、ポリスチレン125g、過酸化ベンゾイル6.1g(純度75%)を混合することで、モノマー溶液を調製した。その後、0.1%のポリビニルアルコール水溶液でモノマー溶液を懸濁し、実施例1と同様に重合した。以降は、特開2010-42395の実施例3に開示の手法と同様の操作により、強塩基性陰イオン交換樹脂を得た。
【0057】
<実施例6>
実施例5で得た強塩基性陰イオン交換樹脂を水簸塔に入れた。その後、脱塩水を上向流で通水して水簸分級した。小粒子径化した実施例6の強塩基性陰イオン交換樹脂を分取した。
【0058】
<比較例1>
市販品の強塩基性陰イオン交換樹脂として、三菱ケミカル社製品「ダイヤイオン(登録商標)PA306」を用意した。
【0059】
<比較例2>
市販品の強塩基性陰イオン交換樹脂として、デュポン社製品「アンバーライト(登録商標)IRA458」を用意した。
【0060】
<比較例3>
市販品の強塩基性陰イオン交換樹脂として、ランクセス社製品「レバチット(登録商標)VPOC1071」を用意した。
【0061】
<測定方法>
実施例1~6、比較例1~3の各強塩基性陰イオン交換樹脂について、各種の物性値を測定した。測定方法は以下に示す通りである。
【0062】
(平均細孔径、細孔容積)
一般的なイオン交換樹脂の細孔の分析においては、水銀圧入法、窒素吸着法がその細孔の大きさに応じて使い分けられている。細孔の大きさが相対的に大きい場合、水銀圧入法が測定に適している。一方、細孔の大きさが相対的に小さい場合、窒素吸着法が測定に適している。
【0063】
本実施例においては、平均細孔径および細孔容積の測定の前に倍率30,000~100,000倍のSEM像を取得した。SEM像の観察の結果から推定した細孔径が100nm未満程度の場合、窒素法で平均細孔径および細孔容積を測定した。SEM像の観察の結果から推定した細孔径が100nm以上の場合、水銀法で平均細孔径および細孔容積を測定した。
SEM像の事前観察の結果、窒素吸着法を選択したのは、実施例1~実施例4、比較例1~比較例3である。水銀圧入法を選択したのは、実施例5、実施例6である。
【0064】
(比表面積)
塩化物イオン形の強塩基性陰イオン交換樹脂を50℃の真空下で乾燥した後、比表面積計により、その乾燥重量あたりの比表面積を測定した。
【0065】
(平均粒子径)
平均粒子径は、三菱ケミカル株式会社が公開した「イオン交換樹脂・合成吸着剤マニュアル1 改訂4版」の140~142頁に記載される方法により算出した。
【0066】
(均一係数)
各例の強塩基性陰イオン交換樹脂について、倍率40倍の光学顕微鏡像を取得した。光学顕微鏡像において、1,000個の粒子を画像処理したときの粒子分布から体積メジアン径を算出した。粒子分布において粒子径を測定したとき、粒子分布において粒子径の大きい方から上位40%に該当する粒子径(n)を上位90%に該当する粒子径(n)で除することで、均一係数(n/n)を測定した。
【0067】
(含水率)
含水率は、三菱ケミカル株式会社が公開した「イオン交換樹脂・合成吸着剤マニュアル1 改訂4版」の131~132頁に記載される方法により測定した。
【0068】
(中性塩分解容量)
中性塩分解容量は、三菱ケミカル株式会社が公開した「イオン交換樹脂・合成吸着剤マニュアル1 改訂4版」の135~137頁に記載される方法により測定した。
【0069】
各例の樹脂の測定結果を表1に示す。
【0070】
【表1】
【0071】
表1に示すように、実施例1~6のイオン交換樹脂は、平均細孔径が10~300nmであり、かつ、細孔容積が0.05ml/g以上であった。さらに、比表面積が1m/g以上であった。
【0072】
図3図5は、実施例1、実施例5、比較例1の各樹脂のSEM像である。図3に示す実施例1や図4に示す実施例5では、表面に大きな細孔を有することがわかる。これに対し、図5に示す比較例1では表層はゲル様で小さな細孔しかないことがわかる。
【0073】
<評価1:通水試験>
TOCが2.7mg/L、色度が7.6、pHが7.5の地下水1を用いた。各例の強塩基性陰イオン交換樹脂による有機物の除去性能を試験した。詳細には、各例の強塩基性陰イオン交換樹脂をあらかじめビーカー内でバッチ水洗した。その後、各例の強塩基性陰イオン交換樹脂2.5mlを内径12mmφのアクリルカラムに充填した。空間速度(以下「SV」と記す。)=8h-1、50h-1の各条件下で地下水1をアクリルカラムに20℃で通水した。このときに得られた処理水のTOCと色度を測定した。
【0074】
地下水1の水質は平成15年厚生労働省告示第261号にしたがって分析した。
処理水のTOCは全有機炭素測定法にしたがって分析した。処理水の色度は390nmの吸光度法により測定した。TOC、色度の測定法は以下の各評価においても同じである。結果を表2に示す。
【0075】
【表2】
【0076】
表2に示すように、実施例1~6のイオン交換樹脂を用い、低空間速度(SV=8h-1)と高空間速度(SV=50h-1)の条件下で地下水1を処理した場合、いずれもTOCと色度とが、0.5mg/L未満まで処理されることが可能である。
一方、比較例1~3のイオン交換樹脂を用い、低空間速度(SV=8h-1)条件下で地下水1を処理した場合、TOCと色度とが0.5mg/Lまで処理された。高空間速度(SV=50h-1)で処理した場合、TOCと色度とが綺麗に除去することができない。
よって、実施例1~6では、TOCおよび色度が比較例1~3より低い。高空間速度の条件下であっても、有機物の除去性能は良好であることが判明した。
【0077】
<評価2:長期試験>
実施例1、3、5および比較例2、3の強塩基性陰イオン交換樹脂について先に試験した。直径15cm×縦30cmの円筒状のメッシュ状ポリエステルろ布(開き目0.2mm)に樹脂500mlを入れ、樹脂塔内に15ヶ月間暴露させた。この間、定期的に樹脂を再生した。樹脂塔の樹脂を再生する前に樹脂を取り出した。
取り出した後の各強塩基性陰イオン交換樹脂による有機物の除去性能を試験した。試験にはTOCが2.2mg/L、色度が11、pHが7.8の地下水2を用いた。強塩基性陰イオン交換樹脂30mlを内径12mmφのアクリルカラムに充填した。SV=8h-1、20℃の条件下で地下水2をアクリルカラムに10時間通水した。その後、各樹脂の含水率、中性塩分解容量、平均粒子径を測定した。結果を表3に示す。
【0078】
<実施例7>
次に、上述の長期試験を終了した後の実施例1の強塩基性陰イオン交換樹脂の一部を採取し、水簸塔に入れ、地下水で水簸分級した。その後、小粒径樹脂を分取した。小粒子径化した実施例7の強塩基性陰イオン交換樹脂を分取した。その後、各樹脂の含水率、中性塩分解容量、平均粒子径を測定した。結果を表3に示す。
【0079】
<実施例8>
実施例7と同様に、上述の長期試験を終了した後の実施例5の強塩基性陰イオン交換樹脂の一部を採取し、水簸塔に入れた後、地下水で水簸分級した。その後、小粒径樹脂を分取した。小粒子径化した実施例7の強塩基性陰イオン交換樹脂を分取した。その後、各樹脂の含水率、中性塩分解容量、平均粒子径を測定した。結果を表3に示す。
【0080】
<再生後処理水質の評価>
長期試験後の実施例1、3、5、比較例2、3の各樹脂、実施例7、8で小粒子化した各樹脂に10%の塩化ナトリウム水溶液をSV=0.17h-1で通液することでそれぞれ再生した。再生後、地下水2をSV=8h-1で100BV通水した。このときに得られた処理水のTOCと色度を測定した。結果を表3に示す。
【0081】
【表3】
【0082】
長期試験の終了後に樹脂を再生した後においても、各実施例では、TOCおよび色度が比較例2、3より低い。有機物の除去性能は良好であった。また、実施例7では実施例1の樹脂を長期試験の終了後に小粒子化した。有機物の除去性能が向上していた。実施例8でも同様に、実施例5の樹脂を長期試験の終了後に小粒子化した。有機物の除去性能が向上していた。
【0083】
<評価3:高分子量有機物の除去性能試験(1)>
分子量が50,000以上の高分子量有機物を含む地下水3を用いた。地下水3のTOCは3.0mg/L、色度は38、pHは8.2である。
地下水3は事前にLC-OCD分析装置(HPLCカラムは東ソー社製の樹脂トヨパールHW-50Sであり、オンラインTOC計はドイツ Analytical Instruments社製のSievers 900である)で分析した。そのTOC成分の分析結果を図6に示す。図7は、LC-OCD分析における有機物の分子量と保持時間の関係を示す校正曲線である。この校正曲線は、分子量既知のポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコールを標準試料として別途作成した。
図7に示した校正曲線を用いることで、図6に示す保持時間(Retention Time)30~35分に検出される有機物のピークが分子量50,000以上のものであることが分かった。よって、地下水3は分子量が50,000以上の高分子量有機物を含むことが分かった。
【0084】
通水試験として、実施例1、実施例5、比較例3の強塩基性陰イオン交換樹脂をビーカー内でバッチ水洗した。その後、各強塩基性陰イオン交換樹脂50mlを内径12mmφのアクリルカラムに充填した。SV=10h-1、20℃の条件下で地下水3をアクリルカラムに250時間通水した。このときに得られた処理水のTOCと色度を測定した。結果を表4に示す。
【0085】
【表4】
【0086】
高分子量有機物を含む地下水3の場合であっても、実施例1、実施例5の方が、TOC、色度が低い。この結果から、実施例1、実施例5の各樹脂は高分子量有機物に対しても優れた除去性能を示すことが分かった。
【0087】
<評価4:高分子量有機物の除去性能試験(2)>
実施例5、比較例3の各樹脂に対して評価4のための試験を実施した。上記評価3と同様のLC-OCD分析を事前に実施することで、分子量が50,000以上の高分子量有機物を含むことを確認した地下水4を試験に使用した。地下水4のTOCは6.0mg/L、色度は120、pHは8.3である。
通水試験として、実施例5、比較例3の強塩基性陰イオン交換樹脂をビーカー内でバッチ水洗した。その後、各強塩基性陰イオン交換樹脂50mlを内径12mmφのアクリルカラムに充填した。SV=10h-1、20℃の条件下で地下水4をアクリルカラムに75時間通水した。このときに得られた処理水のTOCと色度を測定した(1サイクル目)。
その後、10%の塩化ナトリウムをSV=1h-1で4BV通液することで樹脂を再生した。その後、再度、SV=10h-1、20℃の条件下で地下水4をアクリルカラムに75時間通水した。このときに得られた処理水のTOCと色度を測定した(2サイクル目)。結果を表5に示す。
【0088】
【表5】
【0089】
1サイクル目および2サイクル目のいずれも、実施例5ではTOC、色度が比較例3より低い。また、実施例5では、再生の前後のTOC、色度がいずれも変化しなかった。再生の前後において高分子量有機物に対する優れた除去性能を維持できた。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明によれば、凝集剤を使用せずとも被処理水中の有機物や色度を低減でき、消毒副生成物量を水質基準内に抑えることができる。また、凝集剤ばかりでなく酸やアルカリの薬剤使用コストを低減できる。有機物処理に要する負荷量を軽減することで、水処理フローも簡便化できる。
【符号の説明】
【0091】
1 水処理フロー
2 水処理フロー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7