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特開2024-121213有機性汚泥又は有機性排水を含む処理対象物の処理方法及び処理装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121213
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】有機性汚泥又は有機性排水を含む処理対象物の処理方法及び処理装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/12 20230101AFI20240830BHJP
   C02F 11/02 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
C02F3/12 D ZAB
C02F3/12 H
C02F3/12 M
C02F11/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028180
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】591030651
【氏名又は名称】水ing株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100112634
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 美奈子
(72)【発明者】
【氏名】北澤 卓也
(72)【発明者】
【氏名】葛 甬生
(72)【発明者】
【氏名】片岡 直明
(72)【発明者】
【氏名】堀部 英郎
【テーマコード(参考)】
4D028
4D059
【Fターム(参考)】
4D028AB00
4D028AB03
4D028AC03
4D028AC09
4D028BA00
4D028BB07
4D028BC17
4D028BC18
4D028BC28
4D028BD12
4D028BD13
4D028BD17
4D028CA00
4D028CA05
4D028CA15
4D028CB02
4D028CC00
4D028CD00
4D028CD01
4D059AA05
4D059BA03
4D059BA28
4D059BE01
4D059BE13
4D059BE19
4D059BE38
4D059BE41
4D059BE55
4D059BK12
4D059BK16
4D059CA28
4D059DA03
4D059DA04
4D059DA05
4D059DA07
4D059DA12
4D059DA13
4D059DA14
4D059DA15
4D059DA21
4D059DA23
4D059DA24
4D059DA51
4D059DB40
4D059EB15
(57)【要約】
【課題】従前のOSAプロセスを実施するために必要であった長い滞留時間を維持もしくは増大させつつ、大きな槽容積や装置を不要とすることができ、脱水汚泥量の減容化効果が大きく、臭気の発生を低減できる有機性排水の処理方法及び装置を提供する。
【解決手段】処理対象物を貯留する貯留工程1と、貯留後の処理対象物を生物処理する生物処理工程2と、生物処理後の汚泥含有水を分離汚泥と分離水とに固液分離する固液分離工程3と、分離汚泥に、カルシウムイオン源を添加する活性剤添加工程4と、カルシウムイオン源が添加された汚泥を、鉄イオンの存在下で微曝気処理して、当該汚泥を分解して再基質化する微曝気処理工程5と、微曝気処理後の再基質化された汚泥の一部を、生物処理工程2に返送する再基質化汚泥返送工程6と、を含む処理方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも有機性汚泥又は有機性排水を含む処理対象物の処理方法であって、
当該処理対象物を貯留する貯留工程と、
貯留後の処理対象物を生物処理する生物処理工程と、
生物処理後の汚泥含有水を分離汚泥と分離水とに固液分離する固液分離工程と、
当該分離汚泥に、カルシウムイオン源を添加する活性剤添加工程と、
カルシウムイオン源が添加された汚泥を、鉄イオンの存在下で微曝気処理して、当該汚泥を分解して再基質化する微曝気処理工程と、
微曝気処理後の再基質化された汚泥の一部を、当該生物処理工程に返送する再基質化汚泥返送工程と、
を含み、
活性剤添加工程におけるカルシウムイオン源の添加量は、微曝気処理工程に供給される分離汚泥量1m/dに対してカルシウムイオン濃度が好ましくは0.03mg/L以上12mg/L以下とし、
微曝気処理工程における鉄イオンの濃度は、Feとして40mg/L以上とすることを特徴とする処理方法。
【請求項2】
前記活性剤添加工程において、前記分離汚泥に、ケイ素イオン源又は通性嫌気性菌又はこれらの組みあわせをさらに添加することを特徴とする請求項1に記載の処理方法。
【請求項3】
前記微曝気処理後の再基質化された汚泥の一部を、前記貯留工程に返送する追加の再基質化汚泥返送工程をさらに含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の処理方法。
【請求項4】
前記貯留工程の前に、前記処理対象物から夾雑物を除去する夾雑物除去工程をさらに含み、
前記微曝気処理工程において、前記汚泥に、前記夾雑物除去工程において除去された夾雑物の一部をさらに添加することを特徴とする請求項1又は2に記載の処理方法。
【請求項5】
前記微曝気処理工程に導入する汚泥のTS濃度を2%以上7%以下に濃縮する汚泥濃縮工程をさらに含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の処理方法。
【請求項6】
少なくとも有機性汚泥又は有機性排水を含む処理対象物の処理装置であって、
当該処理対象物を貯留する貯留槽と、
貯留後の処理対象物を生物処理する生物処理槽と、
生物処理後の汚泥含有水を分離汚泥と分離水とに固液分離する固液分離槽と、
分離汚泥に、カルシウムイオン源を添加する活性剤添加手段と、
カルシウムイオン源が添加された汚泥を、鉄イオンの存在下で微曝気処理して、当該汚泥を分解して再基質化する微曝気処理槽と、
微曝気処理後の再基質化された汚泥の一部を、当該生物処理槽に返送する再基質化泥返送ラインと、
を含むことを特徴とする処理装置。
【請求項7】
前記貯留槽の前段に設けられ、前記処理対象物から夾雑物を除去する夾雑物除去装置と、
当該夾雑物除去装置からの夾雑物の一部を前記微曝気処理槽に供給する夾雑物供給ラインと、をさらに含むことを特徴とする請求項6に記載の処理装置。
【請求項8】
前記微曝気処理槽の前段に設けられ、前記微曝気処理槽に導入される汚泥のTS濃度を2%以上7%以下に濃縮する汚泥濃縮装置をさらに含むことを特徴とする請求項6又は7に記載の処理装置。
【請求項9】
前記微曝気処理後の再基質化された汚泥の一部を、前記貯留槽に返送する追加の再基質化汚泥返送ラインをさらに含むことを特徴とする請求項6又は7に記載の処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも有機性汚泥又は有機性排水を含む処理対象物の処理方法及び処理装置に関し、特にし尿処理施設や下水処理施設の有機性汚泥又は有機性排水を含む処理対象物の処理方法及び処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
広義的な汚泥減容化とは、排水または汚泥処理の固液分離時に発生する余剰汚泥を可溶化及び再基質化することで余剰汚泥の減容化を図る技術のことである。これまで、物理化学的または生物学的処理による汚泥減容化プロセスが多数報告されている。物理化学的処理としては、オゾン酸化処理、酸化剤処理、アルカリ処理、超音波処理、電解処理、熱処理、叩解処理などがある。生物学的処理としては、消化処理、好熱性細菌処理、微生物/酵素処理、嫌気好気生物処理、自己酸化処理、食物連鎖処理などがある。
【0003】
物理化学的処理の課題として、後述の生物学的処理方法よりも不活性の有機物量が多く発生し、後段の水処理工程への負荷が大きくなることが挙げられる。また生物学的処理の課題として、必要な反応槽の容積が大きくなり敷地面積が増大することや、処理に必要な特定の生物槽の安定維持が困難となる点が挙げられる。
【0004】
嫌気好気生物処理の一つであるOSAプロセス(Oxic Anaearobic Process)は、汚泥を好気性雰囲気下で生物処理した後に得られる余剰汚泥を嫌気性雰囲気下で滞留させ、その後当該余剰汚泥を生物処理に再度供する方法である。OSAプロセスにおいては、細胞外高分子化合物(EPS)の高次構造を構成する補因子の一つであるFe(III)がFe(II)に還元されることでEPSの崩壊が起こることが汚泥発生量低減の要因の一つであると報告されている(非特許文献1)。
【0005】
OSAプロセスの課題として、汚泥の反応を進めるために汚泥滞留時間(SRT)を十分に確保する必要があり、そのために水理学的滞留時間(HRT)を長くとると、OSAプロセスを実施するための反応槽及び装置が大きくなることが挙げられる。
【0006】
また、好熱性細菌処理や微生物/酵素処理は、余剰汚泥中の特定の生物相を増殖させ、汚泥の可溶化及び再基質化を促進している。好熱性細菌処理や微生物/酵素処理の課題として、微生物増殖や酵素生産のための反応槽が別途必要となり、機器点数の増加や敷地面積の拡大が挙げられる。
【0007】
本出願人は、従前のOSAプロセスを実施するために必要であった大きな槽容積や装置を不要とすることを目的として、有機性排水を汚泥活性槽で生物処理した後、最終沈殿槽で汚泥と処理水とに分離し、汚泥の一部を曝気槽に導入し、鉄の存在下で微曝気処理して汚泥を分解して再基質化させた後、再基質化された汚泥を活性汚泥槽で再び生物処理する処理方法を提案している(特許文献1:特開2020-142168号公報)。
【0008】
本出願人はさらに研究を進めた結果、特許文献1の技術では、再基質化後の汚泥の全量を活性汚泥槽に返送するため、生物処理前の有機性排水からの悪臭の発生、及び活性汚泥槽の活性汚泥濃度(MLSS)を維持することが困難となり、また、嫌気槽へ導入する汚泥濃度が低濃度となることがあり、汚泥滞留時間(SRT)にまだ改善の余地があることがわかった。
【0009】
浄化槽汚泥の処理方法において余剰汚泥の発生量を低減させるとともに脱水ケーキの悪臭発生を抑制する技術として、浄化槽汚泥を脱水処理して固形分が除去された有機性排水を微生物によって生物処理する過程で、生物処理助剤(腐植、腐植抽出物、フミン酸、フルボ酸、珪砂、珪石等のうちの一種または複数種)と接触させて特定微生物群(通性嫌気性菌であるバチルス属細菌のような土壌微生物群)を優占化する特定微生物群優占化処理と、前記特定微生物群優占化処理によって前記生物処理の過程で優占化された特定微生物群を含む汚泥を前記脱水処理前の有機性排水に供給して接触させる接触処理と、を含む排水処理方法を実施するための排水処理装置が提案されている(特許文献2:特開2015-160188号公報)。
【0010】
特許文献2には、脱水処理される前の有機性排水が優占化された特定微生物群と接触するので、浄化槽汚泥に含まれる僅かな有機性固形成分であるタンパク質、デンプン、脂質等が悪臭の発生を伴うことなく効率的に分解され減容化されるとともに、余剰の特定微生物群の自己分解が促進され、その結果、脱水設備で固液分離された固形分、つまり脱水ケーキの大幅な減量化が達成できるとともに、その脱水ケーキが悪臭を放つことも回避できるようになることが記載されている。特許文献2には、装置構成の説明と、800g-O/m・日の吹き込み空気量で2日以上曝気する好気条件下で、優占化された特定微生物群と浄化槽汚泥とを接触させると、接触処理しない場合に比べて汚泥量が30%減少することは記載されている。しかし、優占化された特定微生物群を含む汚泥の全量が生物処理槽に導入されるため、特許文献1と同様に、生物処理前の有機性排水からの悪臭の発生があり、また活性汚泥槽の活性汚泥濃度(MLSS)を維持することが困難となり、さらに、嫌気槽へ導入する汚泥濃度が低濃度となることがあり、汚泥滞留時間(SRT)にまだ改善の余地がある。また、同じ出願人の後続の特許(特許文献3:特許第6306298号公報)において、特許文献2に記載の技術(土壌微生物活性化法)は、計画値よりもBOD/SS負荷が低い場合には、汚泥の誘導に要する期間が長くなり、もともと処理能力に余裕がある装置では誘導後も効果が顕在化しにくいことから、低いBOD/SS負荷で処理能力に余裕を持って運転している近年の汚水処理プラントでは採用しにくいことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2020-142168号公報
【特許文献2】特開2015-160188号
【特許文献3】特許第6306298号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】W ATER ENVIRONM ENT RESERCH, January 2018, p42-47
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
これまで報告されているOSAプロセスにおける嫌気性雰囲気の制御パラメータは、酸 化還元電位(ORP)、水理学的滞留時間(HRT)、汚泥滞留時間(SRT)、活性汚泥浮遊物質(MLSS)及び鉄濃度であり、これらのパラメータを成立させるための大きな槽容積や装置又は長い滞留時間が必要であった。本発明は、従前のOSAプロセスを実施するために必要であった大きな槽容積や装置を不要としながら十分なSRTを維持もしくは増大することができ、脱水汚泥量の減容化効果が大きく、臭気の発生を低減できる有機性排水の処理方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、OSAプロセスにおける生物処理後の分離汚泥に対して所定量の鉄イオンとカルシウムイオンを共存させて微曝気処理を行うと、特定の微生物の増殖が促進され、特定の微生物が増殖した微曝気処理後の汚泥を生物処理前の有機性排水または有機性汚泥へ返送することで、汚泥貯留時の臭気低減効果が得られること、また、カルシウムイオン源として流動性の活性剤を添加すると、微曝気処理時に汚泥フロックの形成が促進されて汚泥を高濃度に保持することができ、結果的に微曝気処理時の槽容量を大きくせずにSRTを増大できること、さらに、微曝気処理後の汚泥の一部を、生物処理を行う活性汚泥槽へ返送して生物処理を繰り返すことにより更なる汚泥の再基質化が進行し無益回路を促進させ、余剰汚泥の発生量低減が図れること、固液分離後の分離汚泥の一部を活性汚泥槽に返送することで活性汚泥槽の汚泥濃度の維持が可能となることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0015】
本明細書において「OSAプロセス」とは、好気性雰囲気下での生物処理後の汚泥を、嫌気性雰囲気下でFe(III)をFe(II)へ還元させることによって細胞外高分子の高次構造を崩壊させ、適当量の空気供給を制御してFe(II)の自動酸化速度をコントロールし、Fe(II)の自動酸化から生じるヒドロキシラジカルによって細胞外高分子の低分子化反応を進行させ、標準活性汚泥法において発生する余剰汚泥の再基質化(BOD成分化)を促進させ、再基質化された汚泥を活性汚泥槽に返送して、無益回路(futile cycle)を促進させることで、単位投入BOD当たりの余剰汚泥の発生量低減を図る処理方法である。
【0016】
本明細書において「再基質化」とは、生物学的な水処理過程で発生した有機汚泥の一部を、物理化学的、生化学的な手段によって可溶化を促進させ、生物学的に酸化分解が可能な状態にまで低分子化させることである。
【0017】
本発明によれば、下記の態様を有する少なくとも有機性汚泥又は有機性排水を含む処理対象物の処理方法及び処理装置が提供される。
【0018】
[1]少なくとも有機性汚泥又は有機性排水を含む処理対象物の処理方法であって、
当該処理対象物を貯留する貯留工程と、
貯留後の処理対象物を生物処理する生物処理工程と、
生物処理後の汚泥含有水を分離汚泥と分離水とに固液分離する固液分離工程と、
当該分離汚泥に、カルシウムイオン源を添加する活性剤添加工程と、
カルシウムイオン源が添加された汚泥を、鉄イオンの存在下で微曝気処理して、当該汚泥を分解して再基質化する微曝気処理工程と、
微曝気処理後の再基質化された汚泥の一部を、当該生物処理工程に返送する再基質化汚泥返送工程と、
を含み、
活性剤添加工程におけるカルシウムイオン源の添加量は、微曝気処理工程に供給される分離汚泥量1m/dに対してカルシウムイオン濃度が好ましくは0.03mg/L以上12mg/L以下とし、
微曝気処理工程における鉄イオンの濃度は、Feとして40mg/L以上とすることを特徴とする処理方法。
[2]前記活性剤添加工程において、前記分離汚泥に、ケイ素イオン源又は通性嫌気性菌又はこれらの組みあわせをさらに添加することを特徴とする上記[1]に記載の処理方法。
[3]前記微曝気処理後の再基質化された汚泥の一部を、前記貯留工程に返送する追加の再基質化汚泥返送工程をさらに含むことを特徴とする上記[1]又は[2]に記載の処理方法。
[4]前記貯留工程の前に、前記処理対象物から夾雑物を除去する夾雑物除去工程をさらに含み、
前記微曝気処理工程において、前記汚泥に、前記夾雑物除去工程において除去された夾雑物の一部をさらに添加することを特徴とする上記[1]~[3]のいずれか1に記載の処理方法。
[5]前記微曝気処理工程に導入する汚泥のTS濃度を2%以上7%以下に濃縮する汚泥濃縮工程をさらに含むことを特徴とする上記[1]~[4]のいずれか1に記載の処理方法。
[6]少なくとも有機性汚泥又は有機性排水を含む処理対象物の処理装置であって、
当該処理対象物を貯留する貯留槽と、
貯留後の処理対象物を生物処理する生物処理槽と、
生物処理後の汚泥含有水を分離汚泥と分離水とに固液分離する固液分離槽と、
分離汚泥に、カルシウムイオン源を添加する活性剤添加手段と、
カルシウムイオン源が添加された汚泥を、鉄イオンの存在下で微曝気処理して、当該汚泥を分解して再基質化する微曝気処理槽と、
微曝気処理後の再基質化された汚泥の一部を、当該生物処理槽に返送する再基質化泥返送ラインと、
を含むことを特徴とする処理装置。
[7]前記貯留槽の前段に設けられ、前記処理対象物から夾雑物を除去する夾雑物除去装置と、
当該夾雑物除去装置からの夾雑物の一部を前記微曝気処理槽に供給する夾雑物供給ラインと、をさらに含むことを特徴とする上記[6]に記載の処理装置。
[8]前記微曝気処理槽の前段に設けられ、前記微曝気処理槽に導入される汚泥のTS濃度を2%以上7%以下に濃縮する汚泥濃縮装置をさらに含むことを特徴とする上記[6]又は[7]に記載の処理装置。
[9]前記微曝気処理後の再基質化された汚泥の一部を、前記貯留槽に返送する追加の再基質化汚泥返送ラインをさらに含むことを特徴とする上記[6]~[8]のいずれか1に記載の処理装置。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、OSAプロセスにおける生物処理後の分離汚泥にカルシウムイオン源を添加することで、鉄イオンの存在下で行う微曝気処理工程における特定の微生物の増殖を促進することができる。また、特定の微生物が増殖した微曝気処理後の再基質化された汚泥の一部を生物処理工程に返送することで、再基質化された汚泥を再度生物処理することが繰り返され、無益回路を促進させ、余剰汚泥の減容化が増進される。
【0020】
また、特定の微生物が増殖した微曝気処理後の再基質化された汚泥の一部を貯留工程へ返送することで、貯留工程における臭気発生低減効果が得られる。貯留工程において、処理対象物である有機性汚泥、有機性排水又はこれらの混合物には、硫黄系、窒素系又は炭素系の臭気成分、たとえば硫化水素、硫化メチルメルカプタン、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、ブチレン、酪酸、アセトン、アクロレインなどが含まれている。これらの臭気成分は、再基質化された汚泥に含まれている微生物によって分解され、臭気を低減することができる。
【0021】
さらに、微曝気処理工程において、流動性の活性剤(カルシウムイオン、ケイ素イオン又は通性嫌気性菌)を添加することにより、微曝気処理工程における汚泥フロックの形成促進及び汚泥の高濃度保持が可能となる。
OSAプロセスの制御パラメータの一つであるSRTは、
(槽内の汚泥量(kg)÷引抜き汚泥量(kg/d))、
槽内の汚泥量(kg)は、
汚泥濃度(kg/m)×槽の容量(m
引き抜き汚泥量(kg/d)は、
汚泥濃度(kg/m)×引き抜かれる汚泥の流量(m/d)
であるから、微曝気槽のSRTは、
(微曝気処理槽内の汚泥濃度(MLSS)(kg/m)×微曝気処理槽容量(m))÷((微曝気処理槽から引き抜かれる汚泥の流量(m/d)×(微曝気処理槽内の汚泥濃度(kg/m))、
すなわち、
微曝気処理槽容量(m)÷微曝気処理槽から流出する汚泥の流量(m/d)
で求められる。微曝気処理槽に導入される分離汚泥の濃度が高ければ少ない流入量でも微曝気処理槽内の汚泥濃度を維持でき、流入量が少なければ流出する汚泥の流量も少なくなるため、より小さい微曝気処理槽の容量で同じSRTを達成できるし、微曝気処理槽の容量が同じであればSRTを大きくすることができる。
【0022】
さらに、再基質化された汚泥の一部を生物処理工程に返送するとともに、固液分離汚泥の一部を余剰汚泥として生物処理工程へ返送することが好ましく、活性汚泥槽の汚泥濃度の維持が可能となる。
【0023】
本発明の処理を経た汚泥は、VSS比率が低下するため、脱水汚泥量を削減することができ、脱水処理速度を向上することができる。
【0024】
本発明によれば、以上の効果を従来のOSAプロセスが持つ余剰汚泥減容化効果と同時に得られる。すなわち、本発明によれば、余剰汚泥の減容化、特定の微生物の増殖と汚泥の分解・再基質化の同時発生、微曝気処理工程での汚泥フロック形成促進及び汚泥の高濃度保持、微曝気処理槽の小型化、生物処理前の有機性排水又は有機性汚泥からの臭気発生低減、脱水汚泥量削減及び脱水処理速度の向上の効果を全て得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の処理方法の基本フローを示す説明図。
図2】汚泥濃縮工程を備える本発明の実施形態を示す説明図。
図3】微曝気処理工程に夾雑物を添加する工程を備える本発明の実施形態を示す説明図。
図4】本発明の処理装置の基本構成を示す説明図。
図5】本発明の処理方法をし尿処理場に適用した場合の装置構成例を示す説明図。
【好ましい実施形態】
【0026】
本発明の少なくとも有機性汚泥又は有機性排水を含む処理対象物の処理方法は、
当該処理対象物を貯留する貯留工程と、
貯留後の処理対象物を生物処理する生物処理工程と、
生物処理後の汚泥含有水を分離汚泥と分離水とに固液分離する固液分離工程と、
当該分離汚泥に、カルシウムイオン源を添加する活性剤添加工程と、
カルシウムイオン源が添加された汚泥を、鉄イオンの存在下で微曝気処理して、当該汚泥を分解して再基質化する微曝気処理工程と、
微曝気処理後の再基質化された汚泥の一部を、当該生物処理工程に返送する再基質化汚泥返送工程を含み、
活性剤添加工程におけるカルシウムイオン源の添加量は、微曝気処理工程に供給される分離汚泥量1m/dに対してカルシウムイオン濃度が好ましくは0.03mg/L以上12mg/L以下とし、
微曝気処理工程における鉄イオンの濃度は、Feとして40mg/L以上とすることを特徴とする。
【0027】
本発明における処理対象物は、有機性汚泥又は有機性排水又はこれらの混合物である。有機性排水は、下水処理、し尿処理、各種産業排水処理などにおいて発生する有機物を含む排水である。たとえば、汚泥脱水後の脱水分離液、生下水、生し尿、屠畜場、食肉処理施設、食肉加工工場、食品加工工場、食品製造工場、肥料製造工場、機械工場、自動車工場などの各種工場やショッピングセンタ、レストラン、スーパーマーケット、ホテル、病院などの各種施設で発生する排水を処理対象物とすることができる。有機性汚泥は、下水処理、し尿処理、各種産業廃水処理などにおいて発生する有機性汚泥である。たとえば、最初沈澱池汚泥、余剰汚泥、嫌気性消化汚泥、好気性消化汚泥、浄化槽汚泥、生し尿を含むし尿系汚泥などを処理対象物とすることができる。
【0028】
本発明において、「微曝気処理」とは、OSAプロセスにおいて汚泥の分解及び再基質化を促進する処理である。好気性雰囲気下で生物処理された汚泥は、細胞外高分子とFe(III)を含む。Fe(III)は嫌気性雰囲気下でFe(II)へ還元されることによって細胞外高分子の高次構造を崩壊させる。ここに、適当量の空気を供給すると、Fe(II)がFe(III)に酸化され、ヒドロキシラジカルが生成される。ヒドロキシラジカルは、細胞外高分子の低分子化反応を進行させ、再基質化反応を促進する。「微曝気」とは、汚泥中のヒドロキシラジカル量を制御するために、鉄イオンの還元反応(Fe3+→Fe2+)及び自動酸化反応(Fe2+→Fe3+)を促進する環境、好ましくは標準水素電極と白金電極により測定する場合の酸化還元電位-350mV以上-50mV以下、溶存酸素(DO)濃度1mg/L以下を維持するように曝気量及び曝気タイミングを制御して行う処理を意味し、好気処理の曝気とは異なる。酸化還元電位は空気供給量制御により調整することができる。空気供給量は、微曝気処理槽の容量及び微曝気処理槽内の汚泥量などにより変動するが、たとえば容量1Lの微曝気処理槽に0.5Lの汚泥が貯留されている場合には、曝気時には3.6L/min(=約7.2vvm)の流量で10~15分間供給することができる。たとえば、曝気せずに微曝気処理槽を生化学的に還元状態としてFe3+→Fe2+の反応を進行させ、酸化還元電位が-350mV以上-250mV以下に低下した場合に曝気を開始してFe2+→Fe3+の反応を生じさせ、酸化還元電位が-50mV以上に上昇した場合に曝気を停止することができる。
【0029】
活性剤添加工程におけるカルシウムイオン源の添加量は、微曝気処理工程に供給される分離汚泥量1m/dに対してカルシウムイオン濃度が好ましくは0.03mg/L以上12mg/L以下、より好ましくは0.1mg/L以上10mg/L以下、特に好ましくは0.3mg/L以上7.5mg/L以下となるように調整することが望ましい。カルシウム源としては水溶性のカルシウム化合物であれば特に限定されないが、たとえば塩化カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、硝酸カルシウムなどの水溶性のカルシウム化合物を好ましく挙げることができる。
【0030】
微曝気処理工程における鉄イオンの濃度は、Feとして40mg/L以上が好ましく、80mg/L以上がより好ましく、1500mg/L以下とすることが好ましい。鉄イオンは微曝気処理工程において分離汚泥中に存在していればよく、微曝気処理工程において所定量を添加しても、微曝気処理工程の前、たとえば生物処理工程などにおいて鉄系無機凝集剤として添加され、分離汚泥中に含有されているものでもよい。微曝気処理工程において鉄イオン源を添加する場合、微曝気処理工程に供給される分離汚泥量1m/dに対して鉄イオン濃度が好ましくは0.1mg/L以上30mg/L以下、より好ましくは1mg/L以上20mg/L以下、特に好ましくは5mg/L以上10mg/L以下となるように調整することが望ましい。鉄イオン源としては水溶性の鉄化合物であれば特に限定されないが、たとえば、ポリ塩化鉄、ポリ硫酸鉄、塩化第二鉄、塩化第一鉄、硫酸鉄などを好ましく挙げることができる。
【0031】
前記活性剤添加工程において、前記分離汚泥に、ケイ素イオン源又は通性嫌気性菌又はこれらの組みあわせをさらに添加することが好ましい。ケイ素イオン及び/又は通性嫌気性菌は、微曝気処理工程において特定の微生物の増殖促進及び汚泥フロックの形成促進に資する活性剤として作用する。活性剤は、流動性の生物菌体付着担体として汚泥を付着・保持する役割を果たし、汚泥を高濃度に保持する。本発明においては、活性剤をカルシウムイオン及び鉄イオンと併用することによって、特定の微生物の増殖促進及び汚泥フロックの形成促進をさらに増強することができる。
【0032】
ケイ素イオン源は、分離汚泥に添加されるとケイ素イオンを放出するものであれば特に限定されないが、添加後に分離汚泥全体に分散して、流動性の生物菌体付着担体として汚泥を付着・保持する役割を果たし、かつイオンを放出するために、流動性を有する形態で添加することが好ましく、ケイ素を含む化合物の液体又は粉末であることが好ましい。ケイ素イオン源としては、たとえば、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カルシウムなどのケイ素化合物を好ましく挙げることができる。
【0033】
ケイ素イオン源の添加量は、微曝気処理工程に供給される分離汚泥量1m/dに対してケイ素イオン濃度が好ましくは1mg/L以上300mg/L以下、より好ましくは5mg/L以上200mg/L以下、特に好ましくは10mg/L以上100mg/L以下となるように調整することが望ましい。ケイ素イオン源がカルシウムイオン源と一緒に添加される場合、カルシウムイオン及びケイ素イオンが合計の濃度で10mg/L以上となるように添加されることが好ましい。
【0034】
通性嫌気性菌としては、バチルス属細菌が好ましく、枯草菌(Bacillus subtilis)がより好ましい。枯草菌は好気処理におけるでんぷん分解促進効果、油分分解効果、タンパク質分解効果を持つことが知られている。通性嫌気性菌は、10個/g以上1011個/g以下、好ましくは10個/g以上1010個/g以下、より好ましくは10個/g以上10個/g以下の菌体濃度で含まれる形態で添加されることが好ましい。
【0035】
活性剤添加工程において追加添加する活性剤は、ケイ素イオン源又は通性嫌気性菌を含むものであれば特に限定されず、マンガン化合物、アルミニウム化合物又はマグネシウム化合物の1種以上をさらに含んでいてもよく、例えば珪砂、カオリナイト、緑泥石、ギブサイトなどを用いてもよい。
【0036】
微曝気処理工程において再基質化された汚泥の一部を、生物処理工程に返送することにより、生物処理槽内の活性汚泥の臭気を低減させる効果と生物処理槽内の活性汚泥濃度を高く保持する効果が得られる。
【0037】
さらに、微曝気処理後の再基質化された汚泥の一部を、前記貯留工程に返送する追加の再基質化汚泥返送工程を含むことが好ましい。微曝気処理工程において再基質化された汚泥の一部を貯留工程に返送することにより、貯留時に発生する臭気を低減させる効果が得られる。特に、微曝気処理工程において、通性嫌気性菌を添加して、優占化させた再基質化汚泥を貯留工程に返送すると、貯留時の臭気低減効果を増大させることができる。
【0038】
前記貯留工程の前に、前記処理対象物から夾雑物を除去する夾雑物除去工程をさらに含み、前記微曝気処理工程において、前記汚泥に、前記夾雑物除去工程において除去された夾雑物の一部をさらに添加することが好ましい。夾雑物の一部を微曝気処理工程に添加することで、微曝気処理工程内の汚泥フロックの形成促進がなされ、汚泥濃度を高く維持することが可能となる。また、夾雑物は、汚泥を脱水処理する際に脱水助剤としても作用するため、脱水ケーキ含水率低減効果にも繋がる。夾雑物としては、特に限定されないが、たとえば0.5mm以上のし渣や繊維状の成分、具体的には、トイレットペーパーの細片などを好適に挙げることができる。
【0039】
前記微曝気処理工程に導入する分離汚泥のTS濃度を2%以上7%以下に濃縮する汚泥濃縮工程をさらに含むことが好ましい。たとえば、分離汚泥を脱水処理して濃縮汚泥とすることができる。また、濃縮汚泥に対して鉄成分を添加することが好ましく、微曝気処理工程において汚泥中に存在する鉄イオン濃度を高めることができる。ここで、TS(otal olid)濃度とは、下水試験法(日本下水道協会発行、下水試験方法)に準拠して測定する、汚泥を105℃~110℃で蒸発乾固したときに残留する物質の濃度である。
【0040】
また、本発明の処理方法は、固液分離工程で得られる分離汚泥の一部を、生物処理工程に返送する分離汚泥返送工程をさらに含むことができる。微曝気処理前の分離汚泥の一部を生物処理工程に返送することにより、生物処理工程の汚泥濃度の維持が可能となり、生物処理効率の低下を防止することができる。
【0041】
本発明の有機性汚泥又は有機性排水である処理対象物の処理装置は、下記構成を有することを特徴とする。
当該処理対象物を貯留する貯留槽と、
貯留後の処理対象物を生物処理する生物処理槽と、
生物処理後の汚泥含有水を分離汚泥と分離水とに固液分離する固液分離槽と、
当該分離汚泥に、カルシウムイオン源を添加する活性剤添加手段と、
カルシウムが添加された汚泥を、鉄の存在下で微曝気処理して、当該汚泥を分解して再基質化する微曝気処理槽と、
微曝気処理後の再基質化された汚泥の一部を、当該生物処理槽に返送する再基質化汚泥返送ライン。
【0042】
前記貯留槽の前段に設けられ、前記処理対象物から夾雑物を除去する夾雑物除去装置と、当該夾雑物除去装置からの夾雑物の一部を前記微曝気処理槽に供給する夾雑物供給ラインと、をさらに含むことが好ましい。
【0043】
前記微曝気処理槽の前段に設けられ、前記微曝気処理槽に導入される分離汚泥のTS濃度を2%以上7%以下に濃縮する汚泥濃縮装置をさらに含むことが好ましい。汚泥濃縮装置としては、分離汚泥を脱水する脱水機を好ましく用いることができる。微曝気処理槽に導入する汚泥を濃縮汚泥とすることにより、微曝気処理槽内の汚泥濃度を高濃度にすることができ、微曝気処理槽を小型化することができる。また、脱水処理後の濃縮汚泥に鉄イオン源を添加する鉄イオン源添加手段と、を含むことが好ましく、鉄イオン源を含有する濃縮汚泥を微曝気処理槽に導入することができる。
【0044】
前記微曝気処理後の再基質化された汚泥の一部を、前記貯留槽に返送する追加の再基質化汚泥返送ラインをさらに含むことが好ましい。
【0045】
また、本発明の処理装置は、前記分離汚泥の一部を、前記生物処理槽に返送する分離汚泥返送ラインをさらに含むことができる。
【0046】
以下、添付図面を参照しながら本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0047】
図1は、本発明の処理方法の基本フローを示す説明図である。本発明の処理方法は、処理対象物を貯留する貯留工程1と、貯留後の処理対象物を生物処理する生物処理工程2と、生物処理後の汚泥含有水を分離汚泥と分離水とに固液分離する固液分離工程3と、分離汚泥に、カルシウムイオン源を添加する活性剤添加工程4と、カルシウムイオン源が添加された汚泥を、鉄イオンの存在下で微曝気処理して、当該汚泥を分解して再基質化する微曝気処理工程5と、微曝気処理後の再基質化された汚泥の一部を、生物処理工程2に返送する再基質化汚泥返送工程6と、を含む。図1には、微曝気処理後の再基質化された汚泥の一部を、前記貯留工程に返送する追加の再基質化汚泥返送工程7及び分離汚泥の一部を生物処理工程2に返送する分離汚泥返送工程32も示されているが、これらの工程は任意追加工程である。
【0048】
まず、有機性排水または有機性汚泥またはこれらの有機性混合物などの処理対象物は貯留工程1に所定時間貯留される。次に、処理対象物は生物処理工程2に送られ、生物処理される。生物処理工程2は、好気性雰囲気で行われ、細胞外高分子とFe(III)が生成される。生物処理としては、活性汚泥処理、膜分離活性汚泥処理(MBR処理方式)、生物膜処理を好適に挙げることができる。また、好気条件及び嫌気条件を併用した生物処理方法(嫌気-好気活性汚泥法、循環式硝化脱窒法、硝化内生脱窒法、嫌気-好気-嫌気法)とすることで、有機成分とともに窒素成分も除去することが可能となるのでより好ましい。生物処理され、細胞外高分子とFe(III)を含む汚泥含有水は固液分離工程3に送られ、分離汚泥と分離水とに固液分離される。分離汚泥は、微曝気処理工程5に送られる(分離汚泥搬送工程31)。微曝気処理工程5に送られる分離汚泥は、TS濃度が2%以上に濃縮されていることが好ましい。また、微曝気処理工程5に送る分離汚泥とは別に、分離汚泥の一部を生物処理工程2へ返送して(分離汚泥返送工程32)、生物処理工程2の汚泥濃度(MLSS)を高く維持することが好ましい。さらに、分離汚泥の一部を通常の脱水処理工程へ送り、脱水処理することもできる。
【0049】
分離汚泥を微曝気処理工程5へ移送する間(分離汚泥搬送工程31)又は微曝気処理工程5にて、分離汚泥にカルシウムイオン源が所定量添加される。図1においては、カルシウムイオン源と鉄成分を添加しているが、分離汚泥が所定量以上の鉄イオン(40mg/L as Fe以上)を含有している場合には、鉄成分を添加しなくてもよい。また、カルシウムイオン源に加えて、活性剤としてケイ素イオン源又は通性嫌気性菌又はこれらの組みあわせをさらに添加してもよい。活性剤添加工程におけるカルシウムイオン源の添加量は、微曝気処理工程に供給される分離汚泥量1m/dに対してカルシウムイオン濃度が好ましくは0.03mg/L以上12mg/L以下、より好ましくは0.1mg/L以上10mg/L以下、特に好ましくは0.3mg/L以上7.5mg/L以下となるように調整する。微曝気処理工程における鉄イオンの濃度は、Feとして40mg/L以上、80mg/L以上がより好ましい。微曝気処理工程において鉄イオン源を添加する場合、微曝気処理工程に供給される分離汚泥量1m/dに対して鉄イオン濃度が好ましくは0.1mg/L以上30mg/L以下、より好ましくは1mg/L以上20mg/L以下、特に好ましくは5mg/L以上10mg/L以下となるように調整することが望ましい。
【0050】
次に、カルシウムイオンが添加された分離汚泥は、微曝気処理工程5にて、鉄イオンの存在下で微曝気処理される。微曝気処理により、汚泥フロックの形成が促進され、汚泥濃度を高く維持しつつ、汚泥は分解されて再基質化される。微曝気処理工程5において、嫌気性雰囲気でFe(III)がFe(II)へ還元され、細胞外高分子の高次構造が崩壊する。ここに適当量の空気を入れることにより、Fe(II)がFe(III)へ酸化され、ヒドロキシラジカルが生成し、細胞外高分子の低分子化が進行され、再基質化が促進され、さらに特定の微生物の増殖が促進される。
【0051】
次に、微曝気処理工程5にて再基質化された汚泥の一部は、生物処理工程2に返送される(再基質化汚泥返送工程6)。再基質化された汚泥が生物処理工程2にて再度生物処理されることを繰り返すことで、無益回路を促進させる。また、本発明の処理を行って無益化された生物処理工程2からの汚泥含有水を固液分離工程3で固液分離した後の分離汚泥の一部は、脱水処理工程へ移送され、脱水ケーキと分離液とに分離された後で、脱水ケーキは系外へと搬出される。
【0052】
微曝気処理工程5にて再基質化された汚泥の一部を貯留工程1に返送してもよい(追加の再基質化返送工程7)。再基質化されて特定の微生物が増殖している汚泥を貯留工程1に返送することにより、貯留工程1での臭気低減効果が得られる。なお、貯留工程1、生物処理工程2、固液分離工程3にて発生する臭気は、脱臭工程にて脱臭処理される。
【0053】
図1に示す処理工程を実施する場合、全工程(貯留工程、生物処理工程、固液分離工程、微曝気工程)の総SRTは10日以上40日以内、好ましくは10日以上35日以内、最も好ましくは10日以上30日以内とすることで、OSAプロセスを促進することができる。
【0054】
図2は、汚泥濃縮工程を備える実施形態を示す説明図である。図1に示す処理工程と同じ工程には同じ符号を用い、説明を割愛する。
【0055】
図2に示す処理方法は、処理対象物を貯留する貯留工程1と、貯留後の処理対象物を生物処理する生物処理工程2と、生物処理後の汚泥含有水を分離汚泥と分離水とに固液分離する固液分離工程3と、分離汚泥の一部を濃縮する汚泥濃縮工程9と、汚泥濃縮工程9からの濃縮汚泥を微曝気処理工程5に導入する濃縮汚泥返送工程91と、分離汚泥にカルシウムイオン源を添加する活性剤添加工程4と、カルシウムイオン源が添加された汚泥を、濃縮汚泥と一緒に、鉄イオンの存在下で微曝気処理して、当該汚泥を分解して再基質化する微曝気処理工程5と、微曝気処理後の再基質化された汚泥の一部を、生物処理工程2に返送する再基質化汚泥返送工程6と、を含む。図2には、微曝気処理後の再基質化された汚泥の一部を、貯留工程1に返送する追加の再基質化汚泥返送工程7及び分離汚泥の一部を生物処理工程2に返送する分離汚泥返送工程32も示されているが、これらの工程は任意追加工程である。
【0056】
図2において、固液分離工程3からの分離汚泥の一部を汚泥濃縮工程9に送り、TS濃度を2%以上7%以下に濃縮した濃縮汚泥を微曝気処理工程5に導入する(濃縮汚泥返送工程91)。図2において、汚泥濃縮工程9は脱水処理工程であり、濃縮汚泥は、分離汚泥を脱水処理することにより得られる。また、微曝気処理工程5に導入する前に、濃縮汚泥に鉄成分を添加してもよく、微曝気処理工程5での鉄イオン濃度を高めることができる。微曝気処理に供される分離汚泥及び濃縮汚泥の混合物は、図1に示す実施形態より濃縮された汚泥であるため、再基質化がより促進され、微曝気処理槽を小型化することができる。
【0057】
図2に示す処理工程を実施する場合、全工程の総SRTは10日以上40日以内、好ましくは10日以上35日以内、最も好ましくは10以上30日以内とすることで、OSAプロセスを促進することができる。
【0058】
図3は微曝気処理工程に夾雑物を添加する工程を備える実施形態を示す説明図である。図1及び2と同じ処理工程には同じ符号を付し、説明を割愛する。
【0059】
図3示す処理方法は、処理対象物を貯留する貯留工程1と、貯留後の処理対象物を生物処理する生物処理工程2と、生物処理後の汚泥含有水を分離汚泥と分離水とに固液分離する固液分離工程3と、分離汚泥にカルシウムイオン源を添加する活性剤添加工程4と、カルシウムイオン源が添加された汚泥を、濃縮汚泥と一緒に、鉄イオンの存在下で微曝気処理して、当該汚泥を分解して再基質化する微曝気処理工程5と、微曝気処理後の再基質化された汚泥の一部を、生物処理工程2に返送する再基質化汚泥返送工程6と、貯留工程1の前に処理対象物から夾雑物を除去する夾雑物除去工程8と、夾雑物除去工程8において除去された夾雑物の一部を微曝気処理工程5に導入する夾雑物添加工程81と、を含む。図3には、微曝気処理後の再基質化された汚泥の一部を、貯留工程1に返送する追加の再基質化汚泥返送工程7及び分離汚泥の一部を生物処理工程2に返送する分離汚泥返送工程32も示されているが、これらの工程は任意追加工程である。
【0060】
夾雑物除去工程8では、0.5mm以上のし渣などの夾雑物を除去することができる。夾雑物の一部を微曝気処理工程5に添加することで、微曝気処理工程5における汚泥フロックの形成を促進し、汚泥濃度を高く維持することができる。また、微曝気処理工程5で再基質化された汚泥を再度生物処理して脱水処理する際に、夾雑物は脱水助剤としても作用するため、脱水ケーキ含水率低減効果も奏する。
【0061】
図4は、図1に示す処理フローを実施することができる本発明の処理装置の基本構成を示す説明図である。本発明の処理装置は、処理対象物を貯留する貯留槽11と、貯留後の処理対象物を生物処理する生物処理槽12と、生物処理後の汚泥含有水を分離汚泥と分離水とに固液分離する固液分離槽13と、分離汚泥に、カルシウムイオン源を添加する活性剤添加手段14と、カルシウムイオン源が添加された汚泥を、鉄イオンの存在下で微曝気処理して、当該汚泥を分解して再基質化する微曝気処理槽15と、微曝気処理後の再基質化された汚泥の一部を、生物処理槽12に返送する再基質化汚泥返送ライン16と、を含む。図4には、貯留槽11の前段に設けた夾雑物除去装置18、微曝気処理後の再基質化された汚泥の一部を、微曝気処理槽15から貯留槽11に返送する追加の再基質化汚泥返送ライン17及び固液分離槽13からの分離汚泥の一部を生物処理槽12に返送する分離汚泥返送ライン132も示されているが、これらの設置は任意である。
【0062】
図4には示していないが、図2に示す処理フローを実施するために、固液分離槽13からの分離汚泥の一部を汚泥濃縮装置へ送り、濃縮汚泥を形成させ、濃縮汚泥を微曝気処理槽15へ供給するために、汚泥濃縮装置と、分離汚泥搬送ライン31から汚泥濃縮装置へ分岐するラインと、汚泥濃縮装置から微曝気処理槽15へ濃縮汚泥を供給する濃縮汚泥返送ラインとを設けることができる。汚泥濃縮装置としては脱水機などを好ましく用いることができる。
【0063】
また、図3に示す処理フローを実施するために、図4には示していないが、貯留槽11の前段に設けた夾雑物処理槽18からの夾雑物を微曝気処理槽15に供給する夾雑物供給ラインを設けることができる。さらに、微曝気処理槽15からの再基質化された汚泥を貯留槽11に返送する再基質化汚泥返送ライン17から分岐して、脱水処理槽に夾雑物を含む再基質化された汚泥を供給するラインを設けることもできる。
【0064】
図5は、し尿処理施設に適用した場合の本発明の処理装置の説明図である。図4に示す基本構成と同じ構成には同じ符号を付して説明する。
【0065】
図5に示すし尿処理施設は、有機性排水又は有機性汚泥又はこれらの混合物である処理対象物を受け入れて貯留する貯留槽11と、処理対象物を前処理する前処理装置20と、前処理装置20からの分離液を受け入れる分離液槽30と、分離液を生物処理する生物処理槽12(無酸素槽121、好気槽122、凝集槽123)と、生物処理後の汚泥含有水を分離汚泥と分離水とに固液分離する固液分離槽13と、分離汚泥にカルシウムイオン源を添加する活性剤添加手段14と、カルシウムイオン源が添加された汚泥を鉄イオンの存在下で微曝気処理して汚泥を分解して再基質化する微曝気処理槽15と、固液分離槽13からの分離汚泥を微曝気処理槽15に供給する分離汚泥搬送ライン131と、微曝気処理後の再基質化された汚泥の一部を生物処理槽12の無酸素槽121に戻す再基質化汚泥返送ライン16と、微曝気処理後の再基質化された汚泥の一部を貯留槽11に返送する追加の再基質化汚泥返送ライン17と、固液分離槽13からの分離汚泥の一部を生物処理槽12に返送する分離汚泥返送ライン132と、分離汚泥返送ライン132から分岐して無酸素槽121に分離汚泥を返送する分離汚泥返送ライン133と、好気槽122に分離汚泥を返送する分離汚泥返送ライン134と、固液分離槽13からの分離水を活性炭処理する活性炭槽40と、接触槽を備える放流槽50と、を含む。図5において、生物処理槽12は、無酸素槽121、好気槽122、及び凝集槽123を含む。活性剤添加手段14は、微曝気処理槽15にて分離汚泥にカルシウム源を添加するライン141又は分離汚泥搬送ライン131にて分離汚泥にカルシウム源を添加するライン142とすることもできるし、いずれか一方のみであってもよい。また、微曝気処理槽15にて分離汚泥に鉄剤を添加するライン144又は分離汚泥搬送ライン131にて分離汚泥に鉄剤を添加するライン143を設けることもできるし、凝集槽123にて十分な量の鉄系凝集剤が添加される場合には鉄剤添加ラインを省略することもできる。
【0066】
し尿・浄化槽汚泥を含む処理対象物は、貯留槽11から前処理装置20及び分離液槽30を経て生物処理槽12に送られる。処理対象物は、無酸素槽121にて脱窒処理され、好気槽122においてpH調整剤が添加され、好気性雰囲気下で生物処理される。生物処理後の汚泥には、凝集槽123にて鉄系凝集剤が添加されて、凝集フロックが形成され、固液分離槽13(沈殿槽)にて上澄みの分離水と、沈殿する分離汚泥とに分離される。分離水は、活性炭槽40にて活性炭処理等で処理され、放流槽50を経て公共の水域に放流される。固液分離槽13からの分離汚泥は、固液分離槽13の底部から抜き出され、分離汚泥の一部は分離汚泥搬送ライン131を介して微曝気処理槽15へ移送される。分離汚泥の一部は生物処理槽12の無酸素槽121や好気槽122へ返送してもよい。微曝気処理槽15へ移送される過程の分離汚泥または微曝気処理槽15に対して、活性剤添加ライン14を介してカルシウムイオン源を添加する。活性剤添加ライン14を介して、ケイ素イオン源又は通性嫌気性菌又はこれらの組みあわせなどの活性剤をさらに添加してもよい。微曝気処理槽15には、機械撹拌装置、空気供給手段、DO計、ORP計が接続されていて、微曝気処理槽15内の汚泥の酸化還元電位及び溶存酸素濃度の測定値に基づき、空気供給手段を制御して空気供給量及び曝気のタイミングを調節する。微曝気処理槽15内の汚泥は、鉄イオン及びカルシウムイオンの存在下、及び場合によってはケイ素イオン又は通性嫌気性菌の併存下で、微曝気処理され、汚泥フロックの形成促進及び汚泥濃度を高く維持しつつFe(III)→Fe(II)→Fe(III)の反応と、Fe(II)→Fe(III)の反応の際に生成するヒドロキシラジカルにより、細胞外高分子の低分子化反応が進行し、再基質化反応が促進される。また、活性剤の効果によって汚泥内の特定の微生物が増殖する。再基質化された汚泥の一部は、再基質化汚泥返送ライン16を介して生物処理槽12の無酸素槽121に返送され、再び生物処理に供される。また、再基質化汚泥の一部を追加の再基質化汚泥返送ライン17を介して貯留槽11に返送してもよい。
【0067】
本発明の処理方法の各工程及び各工程を実施する処理装置の各構成要素を説明する。
【0068】
<貯留工程、貯留槽>
貯留工程は、後続の各処理工程への処理対象物の移送量を調整するため、処理対象物を一時的に貯留する工程であり、貯留槽11にて行われる。図5に示すように貯留槽11と生物処理槽12との間に、脱水設備(前処理槽)20と分離液槽30とを設ける場合には、分離液槽30も生物処理槽12への処理対象物の移送量を調整する機能を有するため、本発明においては貯留槽の概念に含めるものとして扱う。処理対象物として有機性排水又は有機性汚泥又はこれらの混合物を貯留するため、臭気が発生しやすい。貯留工程又は貯留槽から発生する臭気成分は、硫黄系、窒素系、炭素系の臭気成分、たとえば、硫化水素、硫化メチルメルカプタン、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、ブチレン、酪酸、アセトン、アクロレインなどがある。
【0069】
<生物処理工程、生物処理槽>
生物処理工程は、処理対象物中の有機物を好気的条件下で好気性微生物の働きによって分解して、細胞外高分子とFe(III)を含む活性汚泥や余剰汚泥を発生させる工程であり、生物処理槽12にて行われる。生物処理槽12には、好気槽のみからなるものと、無酸素槽や嫌気槽と好気槽との組みあわせからなるものなどがあり、本発明の処理方法はいずれの生物処理槽でも実施可能である。また、処理方式には、標準活性汚泥処理、微生物が付着した担体を浮遊させる担体流動処理、膜分離活性汚泥処理(MBR)などがあるが、いずれの処理方式でも実施可能である。
【0070】
<固液分離工程、固液分離槽>
固液分離工程は、微生物を含む活性汚泥含有水を分離汚泥と分離水とに固液分離する工程であり、固液分離槽13にて行われる。固液分離の方式には、重力式沈殿処理、凝集沈殿処理、加圧浮上処理、膜分離処理などがあり、いずれの方式でも実施可能である。分離汚泥は、微曝気処理工程又は微曝気処理槽15に送られて、微曝気処理に供される。また、分離汚泥の一部を生物処理工程又は生物処理槽12に返送してもよく、生物処理工程のMLSSを1,000mg/L以上12,000以下、好ましくは1,200mg/L以上10,000以下、より好ましくは1,500mg/L以上8,000mg/L以下の範囲に維持することができる。微曝気処理後に生物処理された汚泥を固液分離した後の汚泥は、余剰汚泥として脱水処理される。
【0071】
<活性剤添加工程、活性剤添加手段>
活性剤添加工程は、固液分離された分離汚泥に、カルシウムイオン源を添加する工程であり、活性剤添加手段14によって行われる。添加する活性剤は、カルシウムイオン源に加えて、ケイ素イオン源又は通性嫌気性菌又はこれらの組みあわせを含むこともできる。鉄イオンは微曝気処理工程において必須の成分であるが、活性剤添加工程において鉄イオン源を添加しても、微曝気処理工程よりも前段の工程、たとえば凝集槽や汚泥濃縮装置における鉄系無機凝集剤の添加などによって分離汚泥中に含有されていてもよい。
【0072】
活性剤が液状の場合には、活性剤添加手段14は、たとえば活性剤貯留槽、活性剤溶解槽、活性剤注入ポンプ及びこれらに付随する配管などを含む。活性剤が粉末の場合には、活性剤添加手段は、活性剤フィーダ、活性剤貯留槽及び活性剤投入装置などを含む。
【0073】
<微曝気処理工程、微曝気処理槽>
カルシウムイオン源、及び場合によってはケイ素イオン源又は通性嫌気性菌又はこれらの組みあわせが添加された分離汚泥を、鉄イオンの存在下で、微曝気処理して、汚泥フロックの形成を促進し、汚泥濃度を高く維持しつつ、汚泥を分解して再基質化し、特定の微生物の増殖を促進する工程であり、微曝気処理槽15にて行われる。嫌気性雰囲気でFe(III)がFe(II)に還元され、細胞外高分子を崩壊させた状態で、適当量の空気を導入することでFe(II)がFe(III)に酸化され、ヒドロキシラジカルが生成し、細胞外高分子の低分子化が進行して、再基質化が促進される。
【0074】
微曝気処理工程における汚泥の分解及び再基質化の制御パラメータは、酸化還元電位(ORP)、水理学的滞留時間(HRT)、汚泥滞留時間(SRT)、活性汚泥浮遊物質(MLSS)及び鉄濃度である。
【0075】
本発明において、微曝気処理工程における微曝気処理槽内の汚泥の酸化還元電位(白金電極と標準水素電極による測定)は、-350mV以上-50mVの範囲に維持することが好ましく、-300mV以上-70mVの範囲に維持することがより好ましく、-270mV以上-90mV以下に維持することが特に好ましい。酸化還元電位を上記範囲に維持するために、-350mV以上-250mVに低下した場合に曝気し、-50mV以上に上昇した場合に曝気を停止することが好ましい。酸化還元電位の制御に加えて、微曝気処理槽内の汚泥の溶存酸素(DO)濃度を1mg/L以下、好ましくは0.5mg/L以下に制御することが望ましい。
【0076】
微曝気処理槽のSRT(ここではHRTと同意である)は、5日以上40日以内が好ましく、10日以上35日以内がより好ましく、10日以上30日以内が特に好ましい。SRTの制御は、カルシウムイオン源及び活性助剤を上述の所定添加量とした上で、分離汚泥の流入流量または再基質化汚泥の引抜流量の増減によって行うことができる。
【0077】
微曝気処理槽内の汚泥のMLSSは、十分なSRTを保持できる濃度とすることを要し、5,000mg/L以上30,000mg/L以下が好ましく、7,000mg/L以上20,000mg/L以下がより好ましい。微曝気処理槽内の汚泥のMLSSは、分離汚泥の導入量によって制御することができる。微曝気処理工程又は微曝気処理槽に導入する汚泥量は、原水流入量及び全分離汚泥量に対して全量でもよいが、50vol%以下が好ましく、30vol%以下がより好ましく、10vol%以下が特に好ましく、1vol%以上が好ましく、3vol%以上がより好ましく、5vol%以上が特に好ましい。
【0078】
微曝気処理槽に導入される分離汚泥の汚泥濃度(TS濃度)は、特に限定されないが、TS濃度が高い程すなわち濃縮された汚泥であるほど、曝気処理槽の容積を小型化することができるため好ましい。分離汚泥のTS濃度は、0.3%以上が好ましく、2%以上がより好ましく、4%以上が特に好ましい。TS濃度は高いほど好ましいが、現実的には7%程度とすることが好ましい。
【0079】
<再基質化汚泥返送工程、再基質化汚泥返送ライン>
微曝気処理工程又は微曝気処理槽15にて再基質化された再基質化汚泥の一部は、生物処理工程又は生物処理槽15に返送され、一部は貯留工程又は貯留槽11に返送されることが好ましい。貯留工程と生物処理工程への再基質化汚泥の返送の比率は、貯留工程:生物処理工程=1~4:9~6が好ましく、貯留工程:生物処理工程=2.5:7.5がより好ましい。再基質化汚泥の一部を貯留工程又は貯留槽11に返送することにより、貯留槽の硫化水素濃度を大幅に低減して臭気発生を抑制することができる。再基質化汚泥を生物処理工程又は生物処理槽12に返送して生物処理を繰り返すことにより、生物処理槽の汚泥発生量を削減できる。
【0080】
再基質化汚泥の一部を返送する貯留工程又は貯留槽11は、処理対象物との不均一な接触を防止し、臭気抑制機能や汚泥減容化機能を低下させないために、攪拌手段、好ましくは微曝気による攪拌手段を有することが望ましい。撹拌されている状態の貯留汚泥に、再基質化汚泥を導入することにより、安定した臭気抑制が可能となる。さらに微曝気による撹拌により、貯留工程又は貯留槽11においても再基質化汚泥による生物処理反応が進行するため、処理工程全体又は処理装置全体としてSRTを長くすることにつながり、その結果、汚泥の減容効果が高まる。
【0081】
また、図5に示すように貯留槽11と生物処理槽12との間に分離液槽30がある場合は、再基質化汚泥の一部を貯留槽11及び/又は分離液槽30に導入してもよい。分離液槽30に導入された再気質化汚泥は、生物処理工程又は生物処理槽12に導入されるため、高い汚泥減容化機能を発揮することができる。
【0082】
再基質化汚泥を生物処理槽12へ返送する再基質化汚泥返送ライン16、及び貯留槽11へ返送する追加の再基質化汚泥返送ライン17は、特に限定されず、汚泥返送用のポンプ及び付随する配管を含む構成とすることができる。
【0083】
<夾雑物除去工程、夾雑物除去装置>
夾雑物除去工程は、処理対象物を貯留槽11に導入する前に、処理対象物から夾雑物を除去する工程であり、夾雑物除去装置処理18により行うことができる。夾雑物除去工程又は夾雑物除去装置18により、対象物から夾雑物を除去することで、後続の配管や装置などの詰まりや絡まりを防止することができる。夾雑物除去装置18としては、たとえば、し渣除去装置、自動除塵機、粗目スクリーン、細目スクリーンなどを用いることができる。
【0084】
<汚泥濃縮工程、汚泥濃縮装置>
固液分離工程又は固液分離槽13からの分離汚泥のTS濃度をより高めて微曝気処理工程又は微曝気処理槽15に導入するために、分離汚泥を受け入れて濃縮する濃縮工程であり、汚泥濃縮装置(図示せず)において行うことができる。汚泥濃縮装置としては、特に限定されず、重力濃縮法が適用される単なる槽、遠心濃縮法が適用される遠心濃縮機、浮上濃縮法が適用される固液分離機、スクリーンを用いた分離機等を用いることができる。分離汚泥に対して鉄系無機凝集剤を添加して凝集させて、脱水することが好ましい。汚泥濃縮工程又は汚泥濃縮装置からの濃縮汚泥のTS濃度を2%以上、好ましくは3%以上、より好ましくは4%以上7%以下に濃縮することができる。
【実施例0085】
し尿処理施設の脱水分離液を処理対象物として、汚泥減容化及び臭気低減効果を確認した。処理対象物の性状を表1に示し、試験条件を表2に示す。
【0086】
【表1】
【0087】
【表2】
【0088】
活性剤は、カルシウムイオン源としてCaCl・2HO、鉄イオン源としてFeCl及び水を含む液状活性剤(カルシウムイオン:4質量%、鉄イオン:9質量%)と、ケイ素粉末及び枯草菌粉末(ケイ素:99質量%、枯草菌:1質量%、枯草菌の菌数:1.0×10個/g)を含む粉末状活性剤の2種類を同量、同時に添加した。
【0089】
<実施例>
図5に示すし尿処理施設の処理フローにて、処理対象物100L/dayを用いて、まず夾雑物除去装置にて夾雑物を除去した後、貯留槽11(HRT:1.5日)にて貯留した。その後、生物処理槽12に導入し、好気条件下での生物処理を行い、固液分離槽13で重力式の自然沈降分離により分離汚泥に固液分離した。分離汚泥の80L/dayを生物処理槽12に返送し、10L/dayを微曝気処理槽15に導入した。微曝気処理槽15内の分離汚泥に対して、液状活性剤及び粉末状活性剤各30mg/Lを継続的に添加した。分離汚泥の導入量に対する鉄イオン濃度は2.8mg/L、カルシウムイオン濃度は1.1mg/L、ケイ素濃度は29.7mg/L、枯草菌の菌数は3.0×10個/Lであった。微曝気処理槽15での分離汚泥のHRT:1.5日は5日とした。微曝気処理後の再基質化汚泥の7.5L/dayを生物処理槽12へ、2.5L/dayを貯留槽11にそれぞれ返送し、連続運転を行った。
【0090】
<比較例>
図5に示すし尿処理施設の処理フローにて、処理対象物100L/dayを用いて、まず夾雑物除去装置にて夾雑物を除去した後、貯留槽11(HRT:1.5日)にて貯留した。その後、生物処理槽12に導入し、好気条件下での生物処理を行い、固液分離槽13で重力式の自然沈降分離により分離汚泥を固液分離した。分離汚泥100L/dayを生物処理槽12へ返送し、微曝気処理を行わなかった。
【0091】
実施例及び比較例の試験結果を表3に示す。貯留槽の硫化水素濃度は検知管法によって測定した。
【0092】
【表3】
貯留槽の硫化水素濃度は、比較例の150ppmに対して実施例では50ppmであり、1/3まで著しく臭気発生を抑制できた。生物処理槽からの汚泥発生量は、原水量に対する濃度で、比較例の1050mg/Lに対して実施例では850mg/Lであり、約19%の減容が確認できた。発生汚泥のVSS比率(VSS/SS)は、比較例の92%に対して実施例では75%であり、約17%の低下が認められた。VSS比率の低下は、処理後の汚泥の脱水性と脱水処理速度の向上を示唆する。
図1
図2
図3
図4
図5