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特開2024-121215有機性排水又は有機性汚泥を含む処理対象物の処理方法及び装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121215
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】有機性排水又は有機性汚泥を含む処理対象物の処理方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/12 20230101AFI20240830BHJP
   C02F 11/02 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
C02F3/12 D
C02F3/12 M ZAB
C02F3/12 H
C02F11/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028183
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】591030651
【氏名又は名称】水ing株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100112634
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 美奈子
(72)【発明者】
【氏名】片岡 直明
(72)【発明者】
【氏名】萩野 隆生
(72)【発明者】
【氏名】堀部 英郎
【テーマコード(参考)】
4D028
4D059
【Fターム(参考)】
4D028AA03
4D028AB00
4D028AB03
4D028AC03
4D028AC09
4D028BA00
4D028BB07
4D028BC17
4D028BC18
4D028BC24
4D028BD08
4D028BD12
4D028BD13
4D028BD17
4D028CA00
4D028CA04
4D028CA05
4D028CA06
4D028CA09
4D028CA15
4D028CB02
4D028CC00
4D028CD01
4D059AA05
4D059BA03
4D059BA28
4D059BE01
4D059BE13
4D059BE19
4D059BE31
4D059BE38
4D059BE41
4D059BE55
4D059BE57
4D059BE58
4D059BE59
4D059BE60
4D059BK12
4D059BK16
4D059CA28
4D059DA23
4D059DA24
4D059DB40
4D059EA05
4D059EA20
4D059EB15
(57)【要約】
【課題】従前のOSAプロセスを実施するために必要であった大きな槽容積や装置を不要としながら十分なSRTを維持もしくは増大することができ、脱水汚泥量の減容化効果が大きく、臭気の発生を低減できる有機性排水の処理方法及び装置を提供する。
【解決手段】少なくとも有機性汚泥又は有機性排水を含む処理対象物を貯留槽10にて貯留した後、生物処理槽20にて生物処理し、生物処理後の汚泥含有水を固液分離槽30にて分離汚泥と分離水とに固液分離した余剰汚泥を微曝気処理槽40にて鉄の存在下にて微曝気処理して、汚泥を分解して再基質化し、再基質化された汚泥を貯留槽10及び生物処理槽20に返送する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも有機性汚泥又は有機性排水を含む処理対象物の処理方法であって、
当該処理対象物を貯留する貯留工程と、
貯留後の処理対象物を生物処理する生物処理工程と、
生物処理後の汚泥含有水を分離汚泥と分離水とに固液分離する固液分離工程と、
当該分離汚泥を鉄の存在下にて微曝気処理して、当該汚泥を分解して再基質化する微曝気処理工程と、を含み、
微曝気処理後の再基質化された汚泥を当該貯留工程及び当該生物処理工程に返送することを特徴とする処理方法。
【請求項2】
前記微曝気処理工程において、前記処理対象物の処理施設内で発生する臭気成分を含む気体を用いて微曝気処理することを特徴とする、請求項1に記載の処理方法。
【請求項3】
前記生物処理工程において、微曝気処理時に発生する微曝気処理排ガスを用いることを特徴とする、請求項1又は2に記載の処理方法。
【請求項4】
前記微曝気処理工程において、前記分離汚泥を濃縮した濃縮汚泥又は脱水した脱水汚泥を添加して微曝気処理することを特徴とする、請求項1又は2に記載の処理方法。
【請求項5】
前記微曝気処理工程において処理される汚泥は、全蒸発物残留物TSが10g/L以上50g/L以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の処理方法。
【請求項6】
前記微曝気処理工程において処理される汚泥は、下水試験方法において定められたB型回転粘度計による25℃での測定による粘度が20mPa・s以上200mPa・s以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の処理方法。
【請求項7】
少なくとも有機性汚泥又は有機性排水を含む処理対象物の処理装置であって、
当該処理対象物を貯留する貯留槽又は中継槽と、
貯留後の処理対象物を生物処理する生物処理槽と、
生物処理後の汚泥含有水を分離汚泥と分離水とに固液分離する固液分離槽と、
分離汚泥を鉄イオンの存在下で微曝気処理して、当該汚泥を分解して再基質化する微曝気処理槽と、
微曝気処理後の再基質化された汚泥の一部を、当該貯留槽又は中継槽に返送する第1の再基質化汚泥返送ラインと、
微曝気処理後の再基質化された汚泥の残部を、当該生物処理槽に返送する第2の再基質化汚泥返送ラインと、
を含むことを特徴とする処理装置。
【請求項8】
前記微曝気処理槽と前記生物処理槽との間に、前記微曝気処理槽にて発生する微曝気処理排ガスを前記生物処理槽に導入する微曝気処理排ガス導入ラインが設けられていることを特徴とする請求項7に記載の処理装置。
【請求項9】
前記微曝気処理槽に、処理対象物の処理施設内で発生する臭気成分を含む気体を導入する臭気成分含有気体導入ラインが設けられていることを特徴とする請求項7又は8に記載の処理装置。
【請求項10】
前記分離汚泥を濃縮する汚泥濃縮装置と、
当該汚泥濃縮装置からの濃縮汚泥を前記微曝気処理槽に導入する濃縮汚泥導入ラインと、
をさらに具備することを特徴とする請求項7又は8に記載の処理装置。
【請求項11】
前記活性汚泥槽からの汚泥と前記固液分離装置からの分離汚泥とを受け入れて、前記微曝気処理槽に導入する汚泥濃度を調整する混合調整槽が、前記微曝気処理槽の前段に設けられていることを特徴とする請求項7又は8に記載の処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも有機性排水又は有機性汚泥を含む処理対象物の処理方法及び処理装置に関し、特にし尿処理施設、下水処理場、バイオマス処理施設などで発生する上記処理対象物の処理方法及び処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機性排水又は有機性汚泥を含む処理対象物処理における汚泥の減容化方法は、オゾン酸化処理、酸化剤処理、アルカリ処理、超音波処理、電解処理、熱処理など多数の物理化学的処理があり、余剰汚泥を可溶化して再基質化、または分解処理することで汚泥の減容化が図られている。しかし、この物理化学的処理の多くは汚泥単位容積当たり多量の不活性な難分解性有機物量が発生することも多いため、処理水質に影響を生じるなどの問題がある。また、好気性または嫌気性消化処理、酵素処理、食物連鎖処理、嫌気好気生物処理などの生物学的処理があり、処理槽内の滞留時間や酸素条件を主なパラメータとして余剰汚泥発生量の抑制や嫌気的または好気的分解を促進することで汚泥の減容化が図られている。消化処理の場合には大きな消化槽設備や敷地面積が必要となること、微生物または酵素処理の場合には固定化担体や高価な酵素を使用するためにコストが高いこと、食物連鎖処理の場合には高等生物相の安定的な維持が困難となること、などの問題がある。
【0003】
一方、嫌気好気生物処理は、主に下等生物相からなる菌叢の維持を行う方法であり、既設槽の改良による対応も可能であることから、上述の問題を解決できる。嫌気好気生物処理の一つとして知られるOSAプロセス(Oxic Anaearobic Process)は、汚泥を好気性雰囲気下で生物処理した後に得られる余剰汚泥を嫌気性雰囲気下で滞留させ、その後当該余剰汚泥を生物処理に再度供する方法である。このOSAプロセスにおいては、細胞外高分子化合物(EPS)の高次構造を構成する補因子の一つであるFe(III)がFe(II)に還元されることでEPSの崩壊が起こることが汚泥発生量低減の要因の一つであると報告されている(非特許文献1)。
【0004】
OSAプロセスの課題として、汚泥の反応を進めるために汚泥滞留時間(SRT)を十分に確保する必要があり、そのために水理学的滞留時間(HRT)を長くとると、OSAプロセスを実施するための反応槽及び装置が大きくなることが挙げられる。本出願人は、OSAプロセスを実施するために必要であった大きな槽容積や装置を不要とすることを目的として、図7に示すように、有機性排水を活性汚泥槽120で生物処置した後、最終沈殿槽130で汚泥と処理水とに分離し、汚泥の一部を微曝気槽140に導入し、鉄の存在下で微曝気処理して汚泥を分解して再基質化させた後、再基質化された汚泥を活性汚泥槽120で再び生物処理する処理方法を提案している(特許文献1:特開2020―142168号公報)。
【0005】
しかし、さらに研究を進めた結果、特許文献1の技術では、再基質化後の汚泥の全量を活性汚泥槽120に返送するため、生物処理前の有機性排水からの悪臭の発生、たとえばし尿・浄化槽汚泥貯留槽110及び除さ装置112からの臭気成分は、臭気成分回収ライン115及び117をそれぞれ介して脱臭設備へ送られて処理されるが、悪臭の発生を防止できないこと、及び活性汚泥槽120の活性汚泥濃度(MLSS)を維持することが困難となり、また、嫌気槽へ導入する汚泥濃度が低濃度となることがあり、汚泥滞留時間(SRT)にまだ改善の余地があることがわかった。また、OSAプロセスでは、嫌気性雰囲気下で汚泥分解を促進する際、発生ガス中には温暖化係数が二酸化炭素よりも25倍高いメタンガスを含有する可能性も考えられることから、2030年までにメタンの排出量を2020年と比べて30%削減する目標が世界的に掲げられる中では、その排出防止対策も施す必要がある。
【0006】
浄化槽汚泥の処理方法において余剰汚泥の発生量を低減させるとともに脱水ケーキの悪臭発生を抑制する技術として、浄化槽汚泥を脱水処理して固形分が除去された有機性排水を微生物によって生物処理する過程で、生物処理助剤(腐植、腐植抽出物、フミン酸、フルボ酸、珪砂、珪石等のうちの一種または複数種)と接触させて特定微生物群(通性嫌気性菌であるバチルス属細菌のような土壌微生物群)を優占化する特定微生物群優占化処理と、前記特定微生物群優占化処理によって前記生物処理の過程で優占化された特定微生物群を含む汚泥を前記脱水処理前の有機性排水に供給して接触させる接触処理と、を含む排水処理方法を実施するための排水処理装置が提案されている(特許文献2:特開2015-188817号公報)。
【0007】
特許文献2には、脱水処理される前の有機性排水が優占化された特定微生物群と接触するので、浄化槽汚泥に含まれる僅かな有機性固形成分であるタンパク質、デンプン、脂質等が悪臭の発生を伴うことなく効率的に分解され減容化されるとともに、余剰の特定微生物群の自己分解が促進され、その結果、脱水設備で固液分離された固形分、つまり脱水ケーキの大幅な減量化が達成できるとともに、その脱水ケーキが悪臭を放つことも回避できるようになることが記載されている。特許文献2には、装置構成の説明と、800g-O/m・日の吹き込み空気量で2日以上曝気する好気条件下で、優占化された特定微生物群と浄化槽汚泥とを接触させると、接触処理しない場合に比べて汚泥量が30%減少することは記載されている。しかし、好気条件で曝気するか、あるいは、まったく曝気しないという両極端かつ一般的な条件は記載されているものの、微曝気条件は記載されていない。また、接触処理した後の汚泥は、脱水処理で固液分離され、生物処理に導入されずに系外に排出される形態が示されているに過ぎない。また、脱水ケーキからの悪臭防止は記載されているが、処理施設全般から発生する悪臭を防止することは記載されていない。さらに、生物処理助剤を充填したリアクターを用いることから、処理汚泥を高濃度化するとリアクター内に閉塞や発泡が生じやすく、高濃度運転やリアクター小型化は難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2020-142168号公報
【特許文献2】特開2015-160188号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】WATER ENVIRONMENT RESERCH, January 2018, p42-47
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
これまで報告されているOSAプロセスにおける嫌気性雰囲気の制御パラメータは、酸化還元電位(ORP)、水理学的滞留時間(HRT)、汚泥滞留時間(SRT)、及び活性汚泥浮遊物質(MLSS)であり、これらのパラメータを成立させるための大きな槽容積や装置又は長い滞留時間が必要であった。本発明は、従前のOSAプロセスを実施するために必要であった大きな槽容積や装置を不要としながら十分なSRTを維持もしくは増大することができ、脱水汚泥量の減容化効果が大きく、臭気の発生を低減できる有機性排水の処理方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、好気性生物処理後の余剰汚泥を、鉄存在下、適当量の酸素を供給して微曝気処理することにより、汚泥の再基質化反応(BOD成分化)を促進させ、その処理汚泥を活性汚泥槽及び汚泥貯留槽に返送することにより、単位投入BOD当たりの余剰汚泥の発生量を低減できるともに、適切な微曝気処理条件下では汚泥の再基質化反応時に好気性菌や通性嫌気性菌が増殖して臭気発生を低減でき、さらに処理施設内で発生する臭気成分を含む気体を微曝気処理に使用することで処理施設内の臭気発生を低減できることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0012】
本明細書において、「OSAプロセス」とは、好気性雰囲気下での生物処理後の汚泥を、嫌気性雰囲気下でFe(III)をFe(II)へ還元させることによって細胞外高分子の高次構造を崩壊させ、適当量の空気供給を制御してFe(II)からFe(III)への自動酸化速度をコントロールし、Fe(II)からFe(III)への自動酸化から生じるヒドロキシラジカルによって細胞外高分子の低分子化反応を進行させ、標準活性汚泥法において発生する余剰汚泥の再基質化(BOD成分化)を促進させ、再基質化された汚泥を活性汚泥槽に返送して、無益回路(futile cycle)を促進させることで、単位投入BOD当たりの余剰汚泥の発生量低減を図る処理方法である。
【0013】
本明細書において「再基質化」とは、生物学的な水処理過程で発生した有機汚泥の一部を、物理化学的、生化学的な手段によって可溶化を促進させ、生物学的に酸化分解が可能な状態にまで低分子化させることである。
【0014】
本発明によれば、下記の態様を有する少なくとも有機性汚泥又は有機性排水を含む処理対象物の処理方法及び処理装置が提供される。
[1]少なくとも有機性汚泥又は有機性排水を含む処理対象物の処理方法であって、
当該処理対象物を貯留する貯留工程と、
貯留後の処理対象物を生物処理する生物処理工程と、
生物処理後の汚泥含有水を分離汚泥と分離水とに固液分離する固液分離工程と、
当該分離汚泥を鉄の存在下にて微曝気処理して、当該汚泥を分解して再基質化する微曝気処理工程と、を含み、
微曝気処理後の再基質化された汚泥を当該貯留工程及び当該生物処理工程に返送することを特徴とする処理方法。
[2]前記微曝気処理工程において、前記処理対象物の処理施設内で発生する臭気成分を含む気体を用いて微曝気処理することを特徴とする、上記[1]に記載の処理方法。
[3]前記生物処理工程において、微曝気処理時に発生する微曝気処理排ガスを用いることを特徴とする、上記[1]又は[2]に記載の処理方法。
[4]前記微曝気処理工程において、前記分離汚泥を濃縮した濃縮汚泥又は脱水した脱水汚泥を添加して微曝気処理することを特徴とする、上記[1]又は[2]に記載の処理方法。
[5]前記微曝気処理工程において処理される汚泥は、全蒸発物残留物TSが10g/L以上50g/L以下であることを特徴とする、上記[1]又は[2]に記載の処理方法。
[6]前記微曝気処理工程において処理される汚泥は、下水試験方法において定められたB型回転粘度計による25℃での測定による粘度が20mPa・s以上200mPa・s以下であることを特徴とする、上記[1]又は[2]に記載の処理方法。
[7]少なくとも有機性汚泥又は有機性排水を含む処理対象物の処理装置であって、
当該処理対象物を貯留する貯留槽又は中継槽と、
貯留後の処理対象物を生物処理する生物処理槽と、
生物処理後の汚泥含有水を分離汚泥と分離水とに固液分離する固液分離槽と、
分離汚泥を鉄イオンの存在下で微曝気処理して、当該汚泥を分解して再基質化する微曝気処理槽と、
微曝気処理後の再基質化された汚泥の一部を、当該貯留槽に返送する第1の再基質化汚泥返送ラインと、
微曝気処理後の再基質化された汚泥の残部を、当該生物処理槽に返送する第2の再基質化汚泥返送ラインと、
を含むことを特徴とする処理装置。
[8]前記微曝気処理槽と前記生物処理槽との間に、前記微曝気処理槽にて発生する微曝気処理排ガスを前記生物処理槽に導入する微曝気処理排ガス導入ラインが設けられていることを特徴とする上記[7]に記載の処理装置。
[9]前記微曝気処理槽に、処理対象物の処理施設内で発生する臭気成分を含む気体を導入する臭気成分含有気体導入ラインが設けられていることを特徴とする上記[7]又は[8]に記載の処理装置。
[10]前記分離汚泥を濃縮する汚泥濃縮装置と、
当該汚泥濃縮装置からの濃縮汚泥を前記微曝気処理槽に導入する濃縮汚泥導入ラインと、
をさらに具備することを特徴とする上記[7]7又は[8]に記載の処理装置。
[11]前記活性汚泥槽からの汚泥と前記固液分離装置からの分離汚泥とを受け入れて、前記微曝気処理槽に導入する汚泥濃度を調整する混合調整槽が、前記微曝気処理槽の前段に設けられていることを特徴とする上記[7]又は[8]に記載の処理装置。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、好気性生物処理後の余剰汚泥を、鉄存在下、適当量の酸素を供給して微曝気処理することにより、汚泥の再基質化反応(BOD成分化)を促進させ、その処理汚泥を活性汚泥槽及び汚泥貯留槽に返送することにより、単位投入BOD当たりの余剰汚泥の発生量を低減できるともに、適切な微曝気処理条件下では汚泥の再基質化反応時に好気性菌や通性嫌気性菌が増殖して臭気発生を低減でき、さらに処理施設内で発生する臭気成分を含む気体を微曝気処理に使用することで処理施設内の臭気発生を低減できる。
【0016】
微曝気処理により再基質化された汚泥を生物処理することにより、生物処理槽である活性汚泥槽の活性汚泥濃度(MLSS)を維持することができ、汚泥処理時に必要な薬品使用量を削減できる。たとえば、硝化脱窒プロセスにおける活性汚泥槽である脱窒槽に再基質化反応が促進された汚泥を返送することにより、生物処理に用いられるメタノール等の電子供与体の添加量を削減することができる。また、再基質化された汚泥には微曝気処理に用いる鉄が含まれているため、鉄系凝集剤の添加量を削減することができ、鉄系凝集剤添加によるpH調整のためのpH調整剤の添加量を削減することができる。
【0017】
また、微曝気処理による再基質化反応時に増殖した好気性菌と通性嫌気性菌を含む汚泥を、臭気発生源である汚泥貯留槽に投入することにより処理施設内の臭気発生を低減でき、脱臭用活性炭の寿命を長持ちさせることができる。本発明の処理方法によって得られる脱水ケーキは、従来の生物処理汚泥の脱水ケーキと比較して有機物(強熱減量)比率が下がることで含水率を低下できるだけではなく、汚泥の臭気が低減されることから、脱水ケーキ搬送でも臭気発生を低減できる。
【0018】
また本発明によれば、処理施設内で発生する臭気成分を含む気体を微曝気処理に用いることにより、処理施設全体の臭気発生を低減できる。
【0019】
また本発明によれば、微曝気槽から発生する可能性のあるメタンガスを含む排ガスを生物処理槽に導入することにより、メタンガスの大気放出を削減でき、気候変動対策会議COP26のメタン排出削減にも対応できる。
【0020】
さらに本発明によれば、微曝気処理槽内での再基質化反応時に、TS10~50g/L、好ましくはTS15~40g/Lの高濃度の汚泥を処理することにより、微曝気処理に必要な槽容量を縮小することができる。
【0021】
さらに本発明によれば、下水試験方法において定められたB型回転粘度計による25℃での測定による粘度が20mPa・s以上200mPa・s以下の汚泥を処理することができ、槽容量の縮小や曝気装置の小型化を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の処理方法の基本構成を示す概略説明図。
図2】本発明の処理方法の第1実施形態を実施する処理装置構成を示す概略説明図。
図3】本発明の処理方法の第2実施形態を実施する処理装置構成を示す概略説明図。
図4】本発明の処理方法の第3実施形態を実施する処理装置構成を示す概略説明図。
図5】本発明の処理方法の第4実施形態を実施する処理装置構成を示す概略説明図。
図6】本発明の処理方法の第5実施形態を実施する処理装置構成を示す概略説明図。
図7】従来のOSAプロセスを実施する処理装置構成を示す概略説明図。
図8】実施例1の汚泥TS濃度の経日変化を示すグラフ。
図9】実施例2の汚泥TS濃度の経日変化を示すグラフ。
図10】実施例2の汚泥粘度の経日変化を示すグラフ。
図11】実施例3のアンモニア濃度を示すグラフ。
図12】実施例3のアンモニア除去率を示すグラフ。
図13】実施例3の硫化水素濃度を示すグラフ。
図14】実施例3の硫化水素除去率を示すグラフ。
図15】実施例3のメチルメルカプタン濃度を示すグラフ、
図16】実施例3のメチルメルカプタン除去率を示すグラフ。
【好ましい実施形態】
【0023】
以下、添付図面を参照しながら本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0024】
本発明の処理方法は、少なくとも有機性汚泥又は有機性排水を含む処理対象物の処理方法であって、
当該処理対象物を貯留する貯留工程と、
貯留後の処理対象物を生物処理する生物処理工程と、
生物処理後の汚泥含有水を分離汚泥と分離水とに固液分離する固液分離工程と、
当該分離汚泥を鉄の存在下にて微曝気処理して、当該汚泥を分解して再基質化する微曝気処理工程と、を含み、
微曝気処理後の再基質化された汚泥(以下「再基質化汚泥」と称することもある。)を貯留工程及び生物処理工程に返送することを特徴とする。
【0025】
[処理対象物]
本発明における処理対象物は、有機性汚泥又は有機性排水又はこれらの混合物である。有機性排水は、下水処理、し尿処理、バイオマス処理施設、各種産業排水処理などにおいて発生する有機物を含む排水である。たとえば、汚泥脱水後の脱水分離液、生下水、生し尿、屠畜場、食肉処理施設、食肉加工工場、食品加工工場、食品製造工場、肥料製造工場、機械工場、自動車工場などの各種工場やショッピングセンタ、レストラン、スーパーマーケット、ホテル、病院などの各種施設で発生する排水を処理対象物とすることができる。有機性汚泥は、下水処理、し尿処理、バイオマス処理施設、各種産業廃水処理などにおいて発生する有機性汚泥である。たとえば、下水汚泥、農村集落排水汚泥、コミュニティプラント汚泥、浄化槽汚泥、し尿系汚泥、農畜産排水汚泥、食品製造排水汚泥、バイオマス処理汚泥、最初沈澱池汚泥、余剰汚泥、嫌気性消化汚泥、好気性消化汚泥、などを処理対象物とすることができる。処理対象物の性状としては、pH4~8程度、BOD濃度200~20,000mg/L程度、SS濃度200~20,000mg/L程度が好ましい。
【0026】
[貯留工程]
貯留工程は、後続の生物処理に供する前に、処理対象物を所定時間貯留する工程である。処理前の汚泥を貯留するため、臭気成分の主な発生原因となる。臭気成分としては、貯留する処理対象物の性状にもよるが、アンモニア、アミン類、硫黄化合物、アルデヒド類、低級脂肪酸類などが多い。
【0027】
[生物処理工程]
生物処理工程は、酸素存在下、槽内に活性汚泥を維持して、槽内に浮遊する好気性微生物群の作用により汚濁質処理を行う工程であり、細胞外高分子とFe(III)が形成される。生物処理としては、活性汚泥処理、膜分離活性汚泥処理(MBR処理方式)、生物膜処理などを好ましく用いることができる。好気条件及び嫌気条件を併用した生物処理方法(嫌気-好気活性汚泥法、循環式硝化脱窒法、硝化内生脱窒法、嫌気-好気-嫌気法)とすると、有機成分とともに窒素成分も除去することが可能となる。本発明における生物処理工程としては、活性汚泥槽内のMLSS濃度2,000mg/L以上10,000mg/L以下程度、BOD容積負荷0.6kg/m・日程度、BOD-MLSS負荷0.3kgBOD/kgMLSS・日以上1.2kgBOD/kgMLSS・日以下程度、HRT6時間以上8時間以下程度の活性汚泥法を行うことが好ましい。
【0028】
生物処理工程においては、酸素を含有する気体を導入して曝気する。酸素を含有する気体としては、通常の空気を用いてもよいが、微曝気処理時に発生する微曝気処理排ガスを用いることが好ましい。微曝気処理排ガスにはメタンガスが含まれることがあり、生物処理工程における酸素含有気体として利用することによってメタンガスの大気中への放出を防止することができる。
【0029】
[固液分離工程]
固液分離工程は、生物処理後の細胞外高分子とFe(III)を含む汚泥含有水を固液分離して余剰汚泥を形成する工程である。固液分離工程は、最終沈殿槽による自然沈降分離、膜分離、機械脱水分離などを用いて行うことができる。
【0030】
[微曝気処理工程]
微曝気処理工程は、固液分離した余剰汚泥を鉄の存在下にて微曝気して汚泥の分解及び再基質化を促進する工程である。好気性雰囲気下で生物処理された汚泥は、細胞外高分子とFe(III)を含む。Fe(III)は嫌気性雰囲気下でFe(II)へ還元されることによって細胞外高分子の高次構造を崩壊させる。ここに、適当量の空気を供給すると、Fe(II)がFe(III)に酸化され、ヒドロキシラジカルが生成される。ヒドロキシラジカルは、細胞外高分子の低分子化反応を進行させ、再基質化反応を促進する。
【0031】
本発明において「微曝気」とは、汚泥中のヒドロキシラジカル量を制御するために、鉄イオンの還元反応(Fe3+→Fe2+)及び自動酸化反応(Fe2+→Fe3+)を促進する環境、好ましくは標準水素電極と白金電極により測定する場合の酸化還元電位-300mV以上+100mV以下を維持するように曝気量及び曝気タイミングを制御して行う処理を意味し、好気処理の曝気とは異なる。本発明においては、上記酸化還元電位が0mV以上の場合、Fe(II)→Fe(III)の酸化反応の際に生成するヒドロキシラジカルにより汚泥中に含まれる難分解性有機物の低分子化反応が進行する。上記酸化還元電位が-250mV以下の場合、Fe(III)→Fe(II)の還元反応により高分子成分の高次構造が破壊される。この状態で適当量の空気を供給すると、Fe(II)→Fe(III)の酸化反応により低分子化反応が進行して再基質化反応が促進される。本発明においては、酸化還元電位が-250mV以下に低下した場合に曝気してFe2+→Fe3+の反応を生じさせ、酸化還元電位が+50mV以上に上昇した場合に曝気を停止することができる。
【0032】
本発明の微曝気処理工程において、上記酸化還元電位が0mV以上の場合に、溶存酸素(DO)濃度が高くなりすぎると汚泥の消化が進行し過ぎるため、DOを1.0mg/L以下、好ましくは0.5mg/L以下に維持し、微曝気強度は0.05m/(m・分)以上0.3m/(m・分)以下とすることが好ましい。溶存酸素濃度又は微曝気強度が高すぎると、汚泥の消化が進行し過ぎて汚泥性状が大きく変化し、後続の凝集処理や脱水処理に悪影響を及ぼすおそれがある。微曝気強度が小さ過ぎると、汚泥中に必要な酸素が行き渡らず、Fe(II)からFe(III)への酸化が十分に起こらず、汚泥の分解及び再基質化が十分に進行しない。また、汚泥濃度が高い場合に微曝気処理槽内の均一な撹拌が困難になり、微曝気処理が良好に進行しない。
【0033】
微曝気に用いる気体は、酸素を含む気体である。酸素を含む気体としては、新鮮な空気を用いてもよいが、処理施設内で発生する臭気成分を含む気体を用いることが臭気発生抑制の点から好ましい。たとえば、汚泥受け入れピット、汚泥貯留槽、除さ装置、活性汚泥槽、最終沈殿槽などの処理施設内の各槽から発生する臭気成分を含む空気を用いることにより、処理施設内での臭気を緩和することができる。
【0034】
微曝気処理工程は、鉄の存在下で行う。鉄濃度は、40mg/L以上、好ましくは80mg/L以上、好ましくは1500mg/L以下とすることが好ましい。余剰汚泥が40mg/L以上の鉄を含む場合には鉄の添加は不要であるが、鉄濃度が不足する場合には水溶性の鉄化合物を添加する。水溶性の鉄化合物としては特に限定されないが、ポリ塩化鉄、ポリ硫酸鉄、塩化第二鉄、塩化第一鉄、硫酸鉄などを好適に用いることができる。水溶性の鉄化合物を添加する場合、微曝気処理工程に供給される汚泥量1m/dに対して鉄イオン濃度が好ましくは0.1mg/L以上30mg/L以下、より好ましくは1mg/L以上20mg/L以下、特に好ましくは5mg/L以上10mg/L以下となるように添加することが望ましい。
【0035】
微曝気処理工程において、微量元素としてカルシウムやマグネシウムなどのアルカリ土類金属が存在すると微生物反応に効果的である。したがって、微曝気処理工程において、さらに塩化カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、硝酸カルシウムなどの水溶性のカルシウム化合物を添加してもよい。カルシウム化合物を添加する場合、微曝気処理工程に供給される汚泥量1m/dに対してカルシウムイオン濃度が好ましくは0.03mg/L以上12mg/L以下、より好ましくは0.1mg/L以上10mg/L以下、特に好ましくは0.3mg/L以上7.5mg/L以下となるように添加することが望ましい。
【0036】
微曝気処理工程において、さらにケイ酸ナトリウム、ケイ酸カルシウムなどのケイ素化合物、又は/及び通性嫌気性菌を添加してもよい。ケイ素イオン及び/又は通性嫌気性菌は、流動性の生物菌体付着担体として汚泥を付着・保持する役割を果たし、汚泥を高濃度に保持し、微曝気処理工程において特定の微生物の増殖促進及び汚泥フロックの形成促進に資する。ケイ素化合物を添加する場合、微曝気処理工程に供給される汚泥量1m/dに対してケイ素イオン濃度が好ましくは1mg/L以上300mg/L以下、より好ましくは5mg/L以上200mg/L以下、特に好ましくは10mg/L以上100mg/L以下となるように添加することが望ましい。カルシウム化合物とケイ素化合物を一緒に添加する場合、カルシウムイオン及びケイ素イオンの合計が10mg/L以上となるように添加することが好ましい。通性嫌気性菌を添加する場合、10個/g以上1011個/g以下、好ましくは10個/g以上1010個/g以下、より好ましくは10個/g以上10個/g以下の菌体濃度で含まれる形態で添加することが好ましい。
【0037】
本発明において、微曝気処理時の汚泥濃度は、TS10g/L以上50g/L以下、好ましくは40g/L以下とすることが望ましい。微曝気処理時の汚泥濃度を高濃度にすることで微曝気槽の容量を小さくすることができるが、あまりに高濃度になると発泡しやすい。固液分離後の余剰汚泥の濃度が低い場合には、濃縮汚泥又は脱水ケーキを添加して、汚泥濃度を所定範囲に調整することが好ましい。余剰汚泥に濃縮汚泥又は脱水ケーキを添加することにより濃度を調整した汚泥を用いることにより、微曝気処理による汚泥の再基質化反応と臭気分解微生物群の活性向上が促進される。
【0038】
濃縮汚泥又は脱水ケーキは、余剰汚泥に凝集剤を添加して凝集フロックを形成させ、凝集フロックを脱水処理することにより得ることができる。凝集剤としては特に限定されないが、高分子凝集剤、又は高分子凝集剤と無機系凝集剤との併用が好ましい。高分子凝集剤としては、カチオン系、アニオン系、両性系のいずれでもよく、例えばアミジン系凝集剤、アクリルアミド系凝集剤、アクリル酸系凝集剤などを好ましく用いることができる。無機系凝集剤としてはポリ硫酸第二鉄、硫酸バンド、PACなどを好ましく用いることができる。凝集処理により、フロック径が数ミリ程度で沈降分離性の高い凝集フロックを得ることができる。凝集フロックを固液分離して濃縮汚泥が得られる。TS濃度が4wt%以上10wt%以下の濃縮汚泥は効率的に脱水処理することができる。
【0039】
また、微曝気処理時の汚泥の粘度が、酸素含有気体と微生物との接触効率に影響して微生物増殖や微曝気性能に影響を及ぼす。本発明において、微曝気処理時の汚泥の粘度は、下水試験方法に定められたB型回転粘度計による25℃での測定で200mPa・s以下、好ましくは100mPa・s以下、20mPa・s以上、好ましくは25mPa・s以上とすることが望ましい。
【0040】
さらに、微曝気処理時の酸素含有気体の曝気強度(以下「微曝気強度」ともいう。)を0.05L/(L・分)以上、好ましくは0.1L/(L・分)以上、より好ましくは0.15L/(L・分)以上、0.30L/(L・分)以下、好ましくは0.25L/(L・分)以下とすることが望ましい。特に高濃度汚泥の場合には、微曝気強度が弱すぎると微曝気槽内の均一な撹拌が困難になり微曝気処理が速やかに進行せず、微曝気強度が強すぎる場合や高温環境下では汚泥粘度が上昇するため、上記範囲内とすることが好ましい。
【0041】
[再基質化汚泥返送工程]
微曝気処理により再基質化された汚泥を貯留工程及び生物処理工程に返送する。再基質化汚泥を生物処理工程に返送して再度生物処理を繰り返すことで無益回路が促進される。再基質化汚泥は臭気成分を分解する微生物が増殖されているため、再基質化汚泥を貯留工程に返送することで貯留工程での臭気低減効果が得られる。
【0042】
本発明の処理方法により、臭気発生の抑制効果が確認できた。鉄存在下、微曝気処理による汚泥の再基質化反応時にPseudomonas属、Thiobacillus属、Nitrosomonas属、Nitrobacter属などの好気性菌、並びにStreptcoccus属などの乳酸菌やAeromonas属、Bacillus属細菌などの通性嫌気性菌の増殖が促進されると考えられる。この微曝気処理により増殖した好気性菌や通性嫌気性菌の微生物群が汚泥の再基質化反応に寄与するとともに、再基質化された汚泥は臭気分解にも効率的に作用し、臭気発生源である汚泥貯留槽、汚泥中継槽、活性汚泥槽などに投入することで処理施設内の臭気発生低減に寄与することが確認できた。再基質化された汚泥が臭気発生低減効果を発揮する理由は定かではないが、悪臭成分の分解は酸化反応に基づいているので酸素の存在が重要な因子であり、本発明による鉄存在下で酸化反応と還元反応とが繰り返された微曝気汚泥には多種類の微生物が共存している環境にあることから、従来法とは異なる適度な酸化環境と多種類の微生物の共存が臭気成分の分解反応に寄与していると考えられる。
【0043】
また、本発明の微曝気処理時には、高濃度の汚泥を微曝気処理することにより少量のメタンガスが発生することがある。メタンガスの大気中への放出を抑制するため、微曝気処理時に発生する排ガスを活性汚泥処理した後に放出することが望ましい。
【0044】
[脱水ケーキ]
本発明の処理方法において、通常の有機性汚泥又は有機性排水の処理方法と同様に、有機性汚泥又は有機性排水は、最終的に処理水と脱水ケーキとに分離される。微曝気処理により再基質化された汚泥を活性汚泥処理することにより、汚泥分解が促進されるため、脱水ケーキの含水率は75%以上82%以下程度と低く、粘着性がなく、不快臭も軽減され、コンポスト化、炭化、燃料化などの再資源化に有利である。分離水は、SS100mg/L以上1000mg/L以下程度、電気伝導度200mS/m以上500mS/m以下程度であり、汚泥処理工程の希釈水として用いることができる。
【0045】
[処理装置]
次に、本発明の処理方法を実施するための処理装置について説明する。図1は、し尿汚泥及び浄化槽汚泥を処理対象物とする場合を例にして、本発明の処理方法の基本処理フローを実施するための処理装置の構成を示す概略説明図である。
【0046】
本発明の処理装置は、
処理対象物を貯留する貯留槽又は中継槽10と、
貯留後の処理対象物を生物処理する生物処理槽20と、
生物処理後の汚泥含有水を分離汚泥と分離水とに固液分離する固液分離槽30と、
分離汚泥を鉄イオンの存在下で微曝気処理して、当該汚泥を分解して再基質化する微曝気処理槽40と、
微曝気処理後の再基質化された汚泥の一部を、当該貯留槽又は中継槽10に返送する第1の再基質化汚泥返送ライン50と、
微曝気処理後の再基質化された汚泥の残部を、当該生物処理槽20に返送する第2の再基質化汚泥返送ライン60と、
を含むことを特徴とする。
【0047】
[貯留槽又は中継槽]
貯留槽又は中継槽10は、処理前の処理対象物を一時的に貯留する槽であり、処理工程での処理対象物の濃度や汚濁質を安定化させると共に負荷調整機能も有し、悪臭発生源となる。貯留槽又は中継槽10には、微曝気処理槽40からの再基質化汚泥を導入する第1の再基質化汚泥返送ライン50が接続されている。以後、説明を容易にするため、中継槽を包含する意味で「貯留槽」と表記する。
【0048】
処理対象物は、貯留槽10にて一時貯留された後、除さ装置12にて固液分離され、分離された原水は生物処理槽20に送られる。バイオマス、し尿や浄化槽汚泥、畜産排水、食品製造排水処理の場合、排水や汚泥中の油分による機器や配管の閉塞、汚濁負荷変動による処理の不安定化といった問題があることから、除さ装置を設けて、分離液を生物処理槽に供給することが一般的である。特に、バイオマス、浄化槽汚泥では濃度変動が大きいことから、生物処理槽での処理運転を安定化させるため、除さ装置により原水の濃度を安定させることが好ましい。除さ装置としては、スクリュープレス脱水機、遠心脱水機、多重円盤脱水機などが用いられることが多い。なかでもスクリュープレス脱水機は運転管理が容易で、最終的に低含水率の脱水ケーキを得ることができるため、好適である。
【0049】
[生物処理槽]
生物処理槽20は、好気性微生物を用いて処理対象物を生物処理する槽である。生物処理槽としては、活性汚泥槽、膜分離活性汚泥槽(MBR)、生物膜処理槽などを好適に挙げることができる。生物処理槽20には、微曝気処理槽40からの再基質化汚泥を導入する第2の再基質化汚泥返送ライン60が接続されている。
【0050】
[固液分離槽]
固液分離槽30は、生物処理後の汚泥含有水を汚泥と分離水とに分離する槽である。固液分離槽としては、自然沈降により固液分離を行う沈殿槽、機械式脱水機による強制分離を行う脱水機などを好適に挙げることができる。自然沈降法は機械式脱水装置よりも安価かつ容易に固液分離を行うことができ、機械式脱水装置よりも沈殿槽からの悪臭発生が多いため、本発明による悪臭発生低減効果は大きい。固液分離槽30からの余剰汚泥は、余剰汚泥供給ライン42を介して、微曝気処理槽40に導入される。
【0051】
[微曝気処理槽]
微曝気処理槽40は、余剰汚泥を微曝気処理して、分解及び再基質化する槽である。微曝気処理槽40には、図示してはいないが、酸素含有気体を導入するブロワなどの微曝気手段、運転管理するためのpH計、DO計、ORP計などの計測機器、これらの計測機器からの計測値に基づいて微曝気速度を制御する制御装置が設けられている。微曝気手段としては、微曝気処理槽40の底部から処理対象の汚泥中に気泡を導入する散気部を微曝気処理槽40の底部に設けることが好ましく、粗大気泡型散気装置、多孔性散気管、スパージャ、ディスクディフューザなど目詰まりの生じにくい散気装置を用いることが好ましい。微曝気処理槽内において処理対象となる汚泥が均一に分布し、槽内の生物学的環境が一定である完全混合式の微曝気処理槽とすることが好ましい。あるいは、微曝気手段を備える微曝気槽と、散気手段を設けない嫌気槽とに分離した2槽構造の水槽としてもよい。
【0052】
微曝気処理槽40には、余剰汚泥を導入する余剰汚泥供給ライン42と、再基質化汚泥を貯留槽10に供給する第1の再基質化汚泥返送ライン50及び生物処理槽20に供給する第2の再基質化汚泥返送ライン60が接続されている。
【0053】
図3に示すように、微曝気処理槽40と生物処理槽20との間に、微曝気処理槽40にて発生するメタンガスを含む微曝気処理排ガスを生物処理槽40に導入する微曝気処理排ガス導入ライン44が接続されていてもよい。
【0054】
図4に示すように、微曝気処理槽40に、処理対象物の処理施設内で発生する臭気成分を含む気体を導入する臭気成分含有気体導入ライン46が接続されていてもよい。処理施設内で発生する臭気成分を含む気体を導入する場合には、配管中の凝縮水によるブロワトラブルを回避するため、ダストやミストなどを除外するドレーン抜き装置などの前処理装置(図示せず)を臭気成分含有気体導入ライン46に設けることが好ましい。
【0055】
図5に示すように、余剰汚泥を脱水処理した後の濃縮汚泥を微曝気処理槽40に導入する濃縮汚泥供給ライン48を設けてもよい。
【0056】
図6に示すように、微曝気処理槽40に導入する汚泥濃度を調整するための混合調整槽70を微曝気処理槽40の前段に設けてもよい。混合調整槽70は、生物処理槽である活性汚泥槽20からの汚泥と固液分離装置30からの余剰汚泥を受け入れて、微曝気処理槽40に導入する汚泥濃度を調整する。
【0057】
[汚泥処理装置]
生物処理槽20から流出する汚泥は、通常は凝集剤が添加されて凝集処理された後に固液分離槽30にて汚泥が沈殿して、分離水と余剰汚泥とに分離される。余剰汚泥は、脱水処理設備へ送られ、脱水処理されて最終的に脱水ケーキと分離水とに固液分離される。脱水処理前に濃縮処理を行ってもよく、TS濃度2~10wt%程度に濃縮された汚泥濃縮物とすることで効率的に脱水処理することができる。汚泥濃縮用の固液分離装置としては、特に限定されず、重力濃縮法が適用される単なる沈殿槽、遠心濃縮法が適用される遠心濃縮機、浮上濃縮法が適用される固液分離機、スクリーンを用いた分離機等が挙げられる。中でも、液体成分を通過させる多数のスリットを形成したスリット板と、スリット板上に周面を突出せしめた多数の円板と、を備えるスリット型濃縮機が好ましい。スリット型濃縮機では、例えば、スリット板で受け止められた処理物は、処理物排出方向に偏心回転するスリット板上の多数の円板によってスリット板上を排出側に送られ、この過程でスリットと円板との隙間から液体成分が落下して濾過され、処理物中の固体成分は分離捕集される。さらに、スリット板の上面に近接して処理物の排出方向に回転し、スリット板上の捕集物を圧搾して濃縮する背圧板を上記スリット板上に設けた機械構造も好ましく用いることができる。汚泥脱水用装置としては、凝集槽からの凝集フロック、又は濃縮槽からの濃縮凝集フロックを受け入れて脱水する脱水装置を備える。脱水装置としては特に限定されず、凝集フロック又は濃縮凝集フロックへ応力を付与する手段と、分離液を透過し、消化汚泥凝集物を保持するろ過手段を具備することが好ましい。応力を付与する手段としては、プレス、遠心等が挙げられる。ろ過手段としては、開孔径が0.1~2.5mmのスクリ-ン等が挙げられる。
【0058】
[第1実施形態]
図2を参照しながら、本発明の処理装置の第1実施形態をし尿汚泥及び浄化槽汚泥を処理対象物とする場合を例にして説明する。
本実施形態の処理装置は、し尿汚泥及び浄化槽汚泥を貯留する貯留槽又は中継槽10と、貯留後のし尿及び浄化槽汚泥からし渣を除くための除さ装置12と、除さ後の処理原水を受け入れて生物処理する活性汚泥槽20と、生物処理後の汚泥含有水を受け入れて分離汚泥と分離水とに固液分離する最終沈殿槽30と、最終沈殿槽30にて沈殿した汚泥(余剰汚泥)を受け入れて、鉄イオンの存在下で微曝気処理して、当該汚泥を分解して再基質化する微曝気処理槽40と、微曝気処理後の再基質化された汚泥の一部を、貯留槽又は中継槽10に返送する第1の再基質化汚泥返送ライン50と、微曝気処理後の再基質化された汚泥の残部を、活性汚泥槽20に返送する第2の再基質化汚泥返送ライン60と、を含む。
【0059】
第1実施形態において、処理対象物であるし尿汚泥及び浄化槽汚泥は、し尿・浄化槽汚泥貯留槽10にて所定時間貯留された後、除さ装置12にてし渣が除去された原水として活性汚泥槽20に導入される。活性汚泥槽20にて生物処理された後、最終沈殿槽30にて沈殿する汚泥と上澄みである処理水とに分離される。最終沈殿槽30からの沈殿汚泥は余剰汚泥として引き抜かれ、余剰汚泥供給ライン42を介して微曝気処理槽40に導入される。微曝気処理槽40に導入された余剰汚泥は、鉄イオンの存在下、微曝気処理されて、分解及び再基質化され、再基質化汚泥を形成する。再基質化汚泥は、微曝気処理槽40から第1の再基質化汚泥返送ライン50を介してし尿・浄化槽汚泥貯留槽10に返送され、微曝気処理槽40から第2の再基質化汚泥返送ライン60を介して活性汚泥槽20に返送される。し尿・浄化槽汚泥貯留槽10で発生する臭気成分は臭気成分回収ライン15を介して、除さ装置12で発生する臭気成分は臭気成分回収ライン17を介して、活性汚泥槽20で発生する臭気成分は臭気成分回収ライン25を介して、最終沈殿槽30にて発生する臭気成分は臭気成分回収ライン35を介して、脱臭設備へ導入されて、脱臭処理される。
【0060】
[第2実施形態]
図3を参照しながら、本発明の処理装置の第2実施形態をし尿汚泥及び浄化槽汚泥を処理対象物とする場合を例にして説明する。
本実施形態の処理装置は、し尿汚泥及び浄化槽汚泥を貯留する貯留槽又は中継槽10と、貯留後のし尿及び浄化槽汚泥からし渣を除くための除さ装置12と、除さ後の処理原水を受け入れて生物処理する活性汚泥槽20と、生物処理後の汚泥含有水を受け入れて分離汚泥と分離水とに固液分離する最終沈殿槽30と、最終沈殿槽30にて沈殿した汚泥(余剰汚泥)を受け入れて、鉄イオンの存在下で微曝気処理して、当該汚泥を分解して再基質化する微曝気処理槽40と、微曝気処理後の再基質化された汚泥の一部を、貯留槽又は中継槽10に返送する第1の再基質化汚泥返送ライン50と、微曝気処理後の再基質化された汚泥の残部を、活性汚泥槽20に返送する第2の再基質化汚泥返送ライン60と、微曝気処理槽40にて発生する排ガスを活性汚泥槽20に導入する微曝気槽排ガスライン44と、を含む。
【0061】
第2実施形態において、処理対象物であるし尿汚泥及び浄化槽汚泥は、し尿・浄化槽汚泥貯留槽10にて所定時間貯留された後、除さ装置12にてし渣が除去された原水として活性汚泥槽20に導入される。活性汚泥槽20にて生物処理された後、最終沈殿槽30にて沈殿する汚泥と上澄みである処理水とに分離される。最終沈殿槽30からの沈殿汚泥は余剰汚泥として引き抜かれ、余剰汚泥供給ライン42を介して微曝気処理槽40に導入される。微曝気処理槽40に導入された余剰汚泥は、鉄イオンの存在下、微曝気処理されて、分解及び再基質化され、再基質化汚泥を形成する。再基質化汚泥は、微曝気処理槽40から第1の再基質化汚泥返送ライン50を介してし尿・浄化槽汚泥貯留槽10に返送され、微曝気処理槽40から第2の再基質化汚泥返送ライン60を介して活性汚泥槽20に返送される。微曝気処理槽40にて発生するメタンガスなどを含む排ガスは、微曝気槽排ガスライン44を介して活性汚泥槽20に導入される。し尿・浄化槽汚泥貯留槽10で発生する臭気成分は臭気成分回収ライン15を介して、除さ装置12で発生する臭気成分は臭気成分回収ライン17を介して、活性汚泥槽20で発生する臭気成分は臭気成分回収ライン25を介して、最終沈殿槽30にて発生する臭気成分は臭気成分回収ライン35を介して、脱臭設備へ導入されて、脱臭処理される。
【0062】
[第3実施形態]
図4を参照しながら、本発明の処理装置の第3実施形態をし尿汚泥及び浄化槽汚泥を処理対象物とする場合を例にして説明する。
本実施形態の処理装置は、し尿汚泥及び浄化槽汚泥を貯留する貯留槽又は中継槽10と、貯留後のし尿及び浄化槽汚泥からし渣を除くための除さ装置12と、除さ後の処理原水を受け入れて生物処理する活性汚泥槽20と、生物処理後の汚泥含有水を受け入れて分離汚泥と分離水とに固液分離する最終沈殿槽30と、最終沈殿槽30にて沈殿した汚泥(余剰汚泥)を受け入れて、鉄イオンの存在下で微曝気処理して、当該汚泥を分解して再基質化する微曝気処理槽40と、微曝気処理後の再基質化された汚泥の一部を、貯留槽又は中継槽10に返送する第1の再基質化汚泥返送ライン50と、微曝気処理後の再基質化された汚泥の残部を、活性汚泥槽20に返送する第2の再基質化汚泥返送ライン60と、微曝気処理槽40にて発生する排ガスを活性汚泥槽20に導入する微曝気槽排ガスライン44と、設備内で発生する臭気成分を微曝気処理槽40に導入する臭気成分含有気体導入ライン46と、を含む。
【0063】
第3実施形態において、処理対象物であるし尿汚泥及び浄化槽汚泥は、し尿・浄化槽汚泥貯留槽10にて所定時間貯留された後、除さ装置12にてし渣が除去された原水として活性汚泥槽20に導入される。活性汚泥槽20にて生物処理された後、最終沈殿槽30にて沈殿する汚泥と上澄みである処理水とに分離される。最終沈殿槽30からの沈殿汚泥は余剰汚泥として引き抜かれ、余剰汚泥供給ライン42を介して微曝気処理槽40に導入される。微曝気処理槽40に導入された余剰汚泥は、鉄イオンの存在下、微曝気処理されて、分解及び再基質化され、再基質化汚泥を形成する。再基質化汚泥は、微曝気処理槽40から第1の再基質化汚泥返送ライン50を介してし尿・浄化槽汚泥貯留槽10に返送され、微曝気処理槽40から第2の再基質化汚泥返送ライン60を介して活性汚泥槽20に返送される。微曝気処理槽40にて発生するメタンガスなどを含む排ガスは、微曝気槽排ガスライン44を介して活性汚泥槽20に導入される。し尿・浄化槽汚泥貯留槽10で発生する臭気成分は臭気成分回収ライン15を介して、除さ装置12で発生する臭気成分は臭気成分回収ライン17を介して、活性汚泥槽20で発生する臭気成分は臭気成分回収ライン25を介して、最終沈殿槽30にて発生する臭気成分は臭気成分回収ライン35を介して、脱臭設備へ導入されて、脱臭処理される。臭気成分回収ライン15、17、25及び35で回収された臭気成分の一部は、臭気成分含有気体導入ライン46を介して微曝気処理槽40に導入され、微曝気のための酸素含有ガスとして再利用される。
【0064】
[第4実施形態]
図5を参照しながら、本発明の処理装置の第4実施形態をし尿汚泥及び浄化槽汚泥を処理対象物とする場合を例にして説明する。
本実施形態の処理装置は、し尿汚泥及び浄化槽汚泥を貯留する貯留槽又は中継槽10と、貯留後のし尿及び浄化槽汚泥からし渣を除くための除さ装置12と、除さ後の処理原水を受け入れて生物処理する活性汚泥槽20と、生物処理後の汚泥含有水を受け入れて分離汚泥と分離水とに固液分離する最終沈殿槽30と、最終沈殿槽30にて沈殿した汚泥(余剰汚泥)を受け入れて、鉄イオンの存在下で微曝気処理して、当該汚泥を分解して再基質化する微曝気処理槽40と、微曝気処理後の再基質化された汚泥の一部を、貯留槽又は中継槽10に返送する第1の再基質化汚泥返送ライン50と、微曝気処理後の再基質化された汚泥の残部を、活性汚泥槽20に返送する第2の再基質化汚泥返送ライン60と、微曝気処理槽40にて発生する排ガスを活性汚泥槽20に導入する微曝気槽排ガスライン44と、設備内で発生する臭気成分を微曝気処理槽40に導入する臭気成分含有気体導入ライン46と、脱水処理設備にて濃縮脱水された濃縮汚泥又は脱水汚泥を微曝気槽40に導入する濃縮汚泥導入ライン48と、を含む。
【0065】
第4実施形態において、処理対象物であるし尿汚泥及び浄化槽汚泥は、し尿・浄化槽汚泥貯留槽10にて所定時間貯留された後、除さ装置12にてし渣が除去された原水として活性汚泥槽20に導入される。活性汚泥槽20にて生物処理された後、最終沈殿槽30にて沈殿する汚泥と上澄みである処理水とに分離される。最終沈殿槽30からの沈殿汚泥は余剰汚泥として引き抜かれ、余剰汚泥供給ライン42を介して微曝気処理槽40に導入される。最終沈殿槽30からの余剰汚泥の一部は脱水処理設備にて濃縮脱水処理される。脱水処理設備からの濃縮汚泥又は脱水汚泥の一部は、濃縮汚泥導入ライン48を介して微曝気処理槽40に導入される。微曝気処理槽40に導入された余剰汚泥及び濃縮汚泥は、鉄イオンの存在下、微曝気処理されて、分解及び再基質化され、再基質化汚泥を形成する。微曝気処理槽40に導入される汚泥濃度が高いため、微曝気処理による再基質化がより進行し、同量の汚泥を処理するために必要な微曝気処理槽の大きさを小型化することができる。再基質化汚泥は、微曝気処理槽40から第1の再基質化汚泥返送ライン50を介してし尿・浄化槽汚泥貯留槽10に返送され、微曝気処理槽40から第2の再基質化汚泥返送ライン60を介して活性汚泥槽20に返送される。微曝気処理槽40にて発生するメタンガスなどを含む排ガスは、微曝気槽排ガスライン44を介して活性汚泥槽20に導入される。し尿・浄化槽汚泥貯留槽10で発生する臭気成分は臭気成分回収ライン15を介して、除さ装置12で発生する臭気成分は臭気成分回収ライン17を介して、活性汚泥槽20で発生する臭気成分は臭気成分回収ライン25を介して、最終沈殿槽30にて発生する臭気成分は臭気成分回収ライン35を介して、脱臭設備へ導入されて、脱臭処理される。臭気成分回収ライン15、17、25及び35で回収された臭気成分の一部は、臭気成分含有気体導入ライン46を介して微曝気処理槽40に導入され、微曝気のための酸素含有ガスとして再利用される。
【0066】
[第5実施形態]
図6を参照しながら、本発明の処理装置の第5実施形態をバイオマスを処理対象物とする場合を例にして説明する。
本実施形態の処理装置は、バイオマスを受け入れ汚泥濃度を調整する汚泥濃度調整槽14と、汚泥からし渣を除くための除さ装置12と、除さ後の汚泥を貯留する貯留槽又は中継槽10と、貯留後の汚泥から処理原水を受け入れるメタン発酵槽22と、メタン発酵後の汚泥を生物処理する活性汚泥槽20と、生物処理後の汚泥含有水を受け入れて分離汚泥と分離水とに固液分離する固液分離装置30と、固液分離装置30からの余剰汚泥を受け入れて、鉄イオンの存在下で微曝気処理して、当該汚泥を分解して再基質化する微曝気処理槽40と、微曝気処理後の再基質化された汚泥の一部を、貯留槽又は中継槽10に返送する第1の再基質化汚泥返送ライン50と、微曝気処理後の再基質化された汚泥の残部を、活性汚泥槽20に返送する第2の再基質化汚泥返送ライン60と、微曝気処理槽40にて発生する排ガスを活性汚泥槽20に導入する微曝気槽排ガスライン44と、設備内で発生する臭気成分を微曝気処理槽40に導入する臭気成分含有気体導入ライン46と、活性汚泥槽20からの汚泥と固液分離装置30からの余剰汚泥とを混合して汚泥濃度を調整する混合調整槽70と、活性汚泥槽20からの汚泥を混合調整槽70に導入する汚泥導入ライン72と、固液分離装置30からの余剰汚泥を混合調整槽70に導入する余剰汚泥導入ライン74と、混合調整槽70からの混合汚泥を微曝気槽40に導入する混合汚泥導入ライン76と、を含む。
【0067】
第5実施形態において、処理対象物であるバイオマスは、汚泥濃度調整槽14にて汚泥濃度が調整された後、除さ装置12にてし渣が除去され、原料貯留槽又は中継槽10にて所定時間貯留された後、原水としてメタン発酵槽22に導入され、メタン発酵処理後に、活性汚泥槽20に導入される。活性汚泥槽20にて生物処理された後、固液分離装置30にて汚泥と処理水とに分離される。固液分離装置30からの余剰汚泥の一部は余剰汚泥供給ライン74を介して混合調整槽70に導入される。活性汚泥槽20からの汚泥は汚泥導入ライン72を介して混合調整槽70に導入される。混合調整槽70にて汚泥濃度が調整された混合汚泥は、混合汚泥導入ライン76を介して微曝気処理槽40に導入され、鉄イオンの存在下、微曝気処理されて、分解及び再基質化され、再基質化汚泥を形成する。微曝気処理槽40に導入される汚泥濃度が高いため、微曝気処理による再基質化がより進行し、同量の汚泥を処理するために必要な微曝気処理槽の大きさを小型化することができる。再基質化汚泥は、微曝気処理槽40から第1の再基質化汚泥返送ライン50を介して原料貯留槽又は中継槽10に返送され、微曝気処理槽40から第2の再基質化汚泥返送ライン60を介して活性汚泥槽20に返送される。微曝気処理槽40にて発生するメタンガスなどを含む排ガスは、微曝気槽排ガスライン44を介して活性汚泥槽20に導入される。原料貯留槽10で発生する臭気成分は臭気成分回収ライン15を介して、除さ装置12で発生する臭気成分は臭気成分回収ライン17を介して、汚泥濃度調整槽14で発生する臭気成分は臭気成分回収ライン19を介して、活性汚泥槽20で発生する臭気成分は臭気成分回収ライン25を介して、固液分離装置30にて発生する臭気成分は臭気成分回収ライン35を介して、脱臭設備へ導入されて、脱臭処理される。臭気成分回収ライン15、17、19、25及び35で回収された臭気成分の一部は、臭気成分含有気体導入ライン46を介して微曝気処理槽40に導入され、微曝気のための酸素含有ガスとして再利用される。
【実施例0068】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明する。しかし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0069】
[実施例1]
表1に示す小規模下水処理場の余剰汚泥(活性汚泥槽からの汚泥を重力沈殿させた汚泥)を用い、表2に示す3通りの試験系で、本発明の微曝気処理における汚泥の分解効果を確認した。
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
【0072】
試験1及び2の微曝気処理では、10リットル円筒シリンダーに余剰汚泥5.0リットルを投入し、表2に示す曝気強度にて、温度23℃で微曝気処理を10日間行い、汚泥濃度の経時変化を調べた。汚泥中の鉄濃度は80mg/L、DO濃度は0.5mg/L以下とした。比較試験1は、汚泥への鉄添加はせず、無曝気の条件にて調べた。なお、試験期間中に蒸発した水分は純水で補給して試験汚泥量を調整した。
【0073】
各分析項目は以下の分析方法に拠った。
・TS(Total solids、全蒸発残留物);105℃蒸発残留物重量(JIS K 0102)
・VS(Volatile total solids、強熱減量);600℃強熱減量(JIS K 0102)
・SS(Suspended solids、懸濁物質);遠心分離機による回転数3,000rpm,10分間での沈殿物重量(JIS K 0102)
・VSS(Volatile suspended solids、揮発性懸濁物質);懸濁物質の600℃強熱減量(JIS K 0102)
・汚泥粘度;B型回転粘度計を用いて25℃で測定(下水試験方法)
【0074】
汚泥TS濃度の変動を表3及び図8に示す。比較試験1では10日間の試験期間中、汚泥TS濃度に大きな変化が認められなかった。試験1及び2では、試験7日目に8,000mg/L未満(低下率20%以上)となり、10日後も8,000mg/L未満を維持していた。試験1及び2では大きな差は認められなかった。
【0075】
【表3】
【0076】
[実施例2]
試験3及び4では、バイオマスメタン発酵処理施設の活性汚泥と汚泥処理工程の濃縮汚泥とを容量比3:1で混合調整した表4に示す性状の汚泥5.0リットルを10リットル円筒シリンダーに投入し、バイオマス原料選別後の原料貯留室の一画にこの試験装置を設置した。原料貯留室の臭気含有気体を用いて、表5に示す曝気強度にて、3週間微曝気処理して汚泥の濃度と粘度の経時的変化を調べた。汚泥中の鉄濃度は300mg/L、DO濃度は0.5mg/L以下とした。比較試験2は無曝気とした。なお、実施例1と同様に、試験期間中に蒸発した水分は純水で補給して試験汚泥量を調整した。また、15日目、23日目の処理試験結果については、経時試験用とは別に用意した2リットルメスシリンダーに汚泥1.5リットルを投入して、長期間での微曝気影響を調べた結果である。
【0077】
【表4】
【0078】
【表5】
【0079】
汚泥TS濃度を表6及び図9に示す。比較試験2では試験7日目で33,700mg/L(低下率)2.9%、試験23日目でも32,800mg/L(低下率3.5%)であり、試験期間中、汚泥TS濃度はほぼ変化が認められなかった。試験3では、試験7日目に30,100mg/L(低下率11.9%)となり、試験10日目に29,000mg/L(低下率15.1%)、試験23日目に27,000mg/L(低下率約21%)となった。試験4では、試験7日目に28,000mg/L(低下率18.1%)となり、試験10日目に27,700mg/L(低下率19.0%)、試験23日目に26,900mg/L(低下率約21%)となった。試験4の方が汚泥TS濃度の減少が短時間で進行するが、試験15日目以降は試験3も試験4も同程度の減少となることが確認できた。
【0080】
【表6】
【0081】
汚泥粘度を表7及び図10に示す。比較試験2では試験期間中、粘度に変化は認められなかった。試験3では、試験3日目に120mPa・s(低下率47.8%)、試験7日目に80mPa・s(低下率65.2%)、試験10日目に70mPa・s(低下率69.6%)に低下した。試験4では、試験3日目に90mPa・s(低下率60.9%)、試験7日目に70mPa・s(低下率69.6%)に低下し、試験10日目も70mPa・sを維持していた。曝気強度が0.25L/(L・分)の方が0.15L/(L・分)よりも粘度低下効果が短時間で現れることがわかる。試験3及び4の微曝気処理試験及び比較試験2を2週間、3週間と長く継続すると汚泥粘度は徐々に上昇傾向を示した。汚泥粘度の増加は、バイオポリマーが生成されたものと推測される。比較試験2では粘度が低下せず、試験15日目以降は初期粘度より増加することと比較すると、試験3及び4の微曝気処理は粘度の上昇を抑制できており、バイオポリマーの生成を抑制できると考えられる。
【0082】
【表7】
【0083】
実施例1および実施例2より、本発明の方法によれば余剰汚泥を微曝気処理することで汚泥濃度と粘度は低下し、汚泥の分解と再基質化が進行したといえる。特に、汚泥TS濃度34,000mg/Lの高濃度条件であっても鉄存在下と微曝気強度0.1L/(L・分)~0.25L/(L・分)の適切条件とすることで汚泥の分解と再基質化は促進され、汚泥の粘度は速やかに低下し、微曝気槽内の微生物反応も安定に保持できると言える。なお、回分試験で微曝気強度が強すぎる、あるいは微曝気時間が長くなりすぎると、再び汚泥粘度の上昇傾向が見られたことから、汚泥流入が無いか又は極端に少量の場合には微曝気処理は1週間程度経過した時点で中断するなどして、微曝気処理条件を適切に保つ必要がある。
【0084】
[実施例3]
実施例1および実施例2の試験10日目に得られた合計6つの微曝気処理後の汚泥について、臭気除去能を調べた。
【0085】
臭気捕集袋Flek-Sampler 5(l)F(近江オドエアーサービス株式会社製)の端を切り取り、上記6つの汚泥各200mLを各々の臭気捕集袋に投入してシールした。続いて、フレックスポンプDC1型(近江オドエアーサービス株式会社製)で、し尿系汚泥貯留槽内のガスを臭気捕集袋の注入口から充満し、その捕集袋を25℃、30rpmでゆっくり往復振とう培養した。臭気捕集袋内の気相のみ1日1回全量交換した。その培養実験を4日間繰返し、4日目の臭気捕集袋内のアンモニア、硫化水素、メチルメルカプタン濃度をガス検知管で分析した。結果を表8に示す。各臭気成分の濃度分析結果を図11、13及び15に示し、各臭気成分の除去率を図12、14及び16に示す。表8、図11、13及び15において「汚泥貯槽」で示す濃度は、汚泥貯留槽内の各臭気成分の濃度である。
【0086】
【表8】
【0087】
実施例1と実施例2の試験で得られた微曝気処理汚泥の臭気付加試験から、微曝気汚泥系ではアンモニア、硫化水素、メチルメルカプタンの濃度が著しく低下しており、本発明の微曝気処理により臭気成分除去能が促進されることがわかる。各臭気成分の除去率を比較すると、アンモニア除去に関しては試験1~4で大きな差は認められなかったが、硫化水素及びメチルメルカプタンの除去に関しては余剰汚泥を微曝気処理した試験1及び2よりも、余剰汚泥と濃縮汚泥を混合した高濃度の汚泥を微曝気処理した試験3及び4の方が、高い除去率を示している。
【0088】
[実施例4]
図6に示す処理フローにおいて、食品製造廃棄物と余剰汚泥を混合して中温メタン発酵処理を行う施設での発酵廃液処理の活性汚泥を用い、表9に示す試験条件で本発明のベンチ試験を20日間行った。試験機は原料貯留室内に設置し、原料貯留槽、微曝気槽、混合汚泥調整槽の気相成分を評価するためにそれぞれ蓋付の槽を用いた。微曝気槽には原料貯留槽の臭気含有空気を導入した。
【0089】
【表9】
【0090】
微曝気処理汚泥の性状を表10に示す。処理施設(対照)及び本発明による処理後の原料貯留槽の臭気成分の検知管による分析結果を表11に示し、混合汚泥調整槽の気相成分のガスクロマトグラフ(GLサイエンスGC-3200、検出器TCD、分離カラムUnibeads C 60/80 1/8×2m)による分析結果を表12に示す。
【0091】
【表10】
【0092】
【表11】
【0093】
本発明の処理により、再基質化汚泥を貯留槽に供給することで、貯留槽にて発生するアンモニア、硫化水素及びメチルメルカプタンが分解されて、処理施設全体の悪臭発生が抑制されることがわかる。
【0094】
【表12】
【0095】
表12に示す混合汚泥調整槽の気相成分の分析結果は、混合汚泥からメタンガスが発生したことを意味する。混合調整槽からの混合汚泥を微曝気処理槽にて処理し、発生する排ガスを活性汚泥槽に導入することにより、活性汚泥槽内の好気性菌がメタンガスを分解することが期待できる。
【0096】
以上のように、本発明によれば、バイオマスをメタン発酵処理した後の発酵廃液の余剰汚泥に対しても、鉄存在下、微曝気処理を施すことで汚泥の分解及び再基質化が促進され、再基質化汚泥を汚泥貯留槽又は中継槽、及び活性汚泥槽に導入することで、臭気成分を分解することができ、処理施設内の臭気発生も低減させることができる。本発明の処理方法によれば、汚泥発生量の低減に伴う凝集剤使用量の低減、臭気発生軽減による脱臭用活性炭などの使用薬剤の低減が可能となる。また、微曝気処理工程で発生しやすいメタンガスを活性汚泥処理によりCOに分解して、メタンガスの大気放出を防止できることから、従来技術よりもいっそう低炭素型のバイオマス処理施設導入が可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図10
図11
図12
図13
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図16