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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121226
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】制動制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/1755 20060101AFI20240830BHJP
【FI】
B60T8/1755 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028199
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】藤田 優
(72)【発明者】
【氏名】寺坂 将仁
【テーマコード(参考)】
3D246
【Fターム(参考)】
3D246AA11
3D246DA01
3D246EA18
3D246GB01
3D246GB05
3D246GC14
3D246HA64A
3D246HA72A
3D246HA81A
3D246HA85A
3D246HA93A
3D246HA94A
3D246HA95A
3D246HC03
3D246JA12
3D246JA15
3D246JB11
3D246JB23
3D246JB53
(57)【要約】
【課題】前輪を二つ備える三輪の車両に適用する制動制御装置を提供する。
【解決手段】制動制御装置10は、車両90の制動装置70を制御する。車両90は、傾斜させることができる車体フレーム、左前輪FL、右前輪FR、および後輪RCを備えている。制動制御装置10は、車体フレームが傾斜している状態から起き上がる方向の変化を正の値としたロールレートを取得する取得部11を備えている。制動制御装置10は、車輪が減速スリップしている場合に当該車輪に付与する制動力の減少を開始させるABS制御部12を備えている。車両90の旋回中に左前輪FLおよび右前輪FRの両方に制動力を付与している際において、ABS制御部12は、正の値であるしきい値よりもロールレートが大きい場合には、左前輪FLおよび右前輪FRに関して旋回時の外輪と比較して旋回時の内輪の方がより小さいスリップ量で制動力の減少を開始させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
旋回の際に車輪とともに傾斜させることができる車体フレームと、
前記車輪として前記車体フレームを挟んで左右に並ぶように配置されている左前輪および右前輪と、
前記車輪として前記左前輪および前記右前輪よりも後方に配置されている一つの後輪と、
前記車体フレームの傾斜を前記左前輪および前記右前輪に連動させるリンク機構と、
前記左前輪および前記右前輪を車両の操舵輪として転舵させることができる操舵機構と、
各車輪に付与する制動力を車輪毎に調整できる制動装置と、を備える車両に適用され、
前記制動装置を制御する制動制御装置であって、
前記車両のロールレートとして、前記車体フレームが傾斜している状態から起き上がる方向の変化を正の値とする一方で、前記車体フレームが傾斜している状態からさらに倒れる方向の変化および前記車体フレームが直立している状態から倒れる方向の変化を負の値とするロールレートを取得する取得部と、
前記車輪が減速スリップしている場合に当該車輪のスリップ量の増大に基づいて当該車輪に付与する制動力の減少を開始させる制御部と、を備え、
前記車両が旋回中である場合における前記左前輪および前記右前輪のうち、当該車両の旋回中心からの距離が近い方の車輪を内輪として、前記旋回中心からの距離が遠い方の車輪を外輪とすると、
前記車両の旋回中に前記左前輪および前記右前輪の両方に制動力を付与している際において、前記制御部は、
正の値であるしきい値よりも前記ロールレートが大きい場合には、
前記内輪および前記外輪に関して、前記外輪と比較して前記内輪の方がより小さいスリップ量で制動力の減少を開始させる
制動制御装置。
【請求項2】
前記車両の旋回中に前記左前輪および前記右前輪の両方に制動力を付与している際において、前記制御部は、
前記ロールレートが前記しきい値よりも大きい場合には、
前記内輪に関して、前記ロールレートが前記しきい値以下である場合と比較してより小さいスリップ量で制動力の減少を開始させる
請求項1に記載の制動制御装置。
【請求項3】
前記車両の旋回中に前記左前輪および前記右前輪の両方に制動力を付与している際において、前記制御部は、
負の値である第1しきい値よりも前記ロールレートが小さい場合には、
前記内輪に関して、正の値である前記しきい値を第2しきい値として前記ロールレートが前記第1しきい値以上であり且つ前記第2しきい値以下である場合と比較して、より小さいスリップ量で制動力の減少を開始させ、且つ、前記外輪に関して、前記ロールレートが前記第1しきい値以上であり且つ前記第2しきい値以下である場合と比較して、より小さいスリップ量で制動力の減少を開始させる一方で、
前記ロールレートが前記第2しきい値よりも大きい場合には、
前記内輪に関して、前記ロールレートが前記第1しきい値以上であり且つ前記第2しきい値以下である場合と比較して、より小さいスリップ量で制動力の減少を開始させる
請求項1または2に記載の制動制御装置。
【請求項4】
旋回の際に車輪とともに傾斜させることができる車体フレームと、
前記車輪として前記車体フレームを挟んで左右に並ぶように配置されている左前輪および右前輪と、
前記車輪として前記左前輪および前記右前輪よりも後方に配置されている一つの後輪と、
前記車体フレームの傾斜を前記左前輪および前記右前輪に連動させるリンク機構と、
前記左前輪および前記右前輪を車両の操舵輪として転舵させることができる操舵機構と、
各車輪に付与する制動力を車輪毎に調整できる制動装置と、を備える車両に適用され、
前記制動装置を制御する制動制御装置であって、
前記車両のロールレートとして、前記車体フレームが傾斜している状態から起き上がる方向の変化を正の値とする一方で、前記車体フレームが傾斜している状態からさらに倒れる方向の変化および前記車体フレームが直立している状態から倒れる方向の変化を負の値とするロールレートを取得する取得部と、
前記車輪が減速スリップしている場合に当該車輪のスリップ量の増大に基づいて当該車輪に付与する制動力の減少を開始させる制御部と、を備え、
前記車両が旋回中である場合における前記左前輪および前記右前輪のうち、当該車両の旋回中心からの距離が近い方の車輪を内輪として、前記旋回中心からの距離が遠い方の車輪を外輪とすると、
前記制御部は、
前記車両の旋回中に前記左前輪および前記右前輪の両方に制動力を付与している際において、負の値であるしきい値よりも前記ロールレートが小さい場合には、
前記内輪に関して、前記ロールレートが前記しきい値以上である場合と比較してより小さいスリップ量で制動力の減少を開始させ、且つ、前記外輪に関して、前記ロールレートが前記しきい値以上である場合と比較してより小さいスリップ量で制動力の減少を開始させる
制動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、傾斜可能な車体フレームと、二つの前輪と、一つの後輪とを備える三輪の車両が開示されている。
特許文献1には、上記三輪の車両に関して、車体フレームを傾斜させて当該車両が旋回している際に前輪の両方に制動力を発生させている場合の車両の挙動について、次のように記載されている。特許文献1には、内輪となる前輪の制動力が外輪となる前輪の制動力より大きくなると、鉛直方向に対する車体フレームの傾斜角度を小さくする方向の力が車体フレームに作用すると記載されている。特許文献1には、内輪となる前輪の制動力が外輪となる前輪の制動力より小さくなると、鉛直方向に対する車体フレームの傾斜角度を大きくする方向の力が車体フレームに作用すると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2015/064656号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されているような三輪の車両に関して、車両の旋回中に減速スリップが発生している際に、制動力の調整を行うことで車両の挙動を制御することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための制動制御装置は、旋回の際に車輪とともに傾斜させることができる車体フレームと、前記車輪として前記車体フレームを挟んで左右に並ぶように配置されている左前輪および右前輪と、前記車輪として前記左前輪および前記右前輪よりも後方に配置されている一つの後輪と、前記車体フレームの傾斜を前記左前輪および前記右前輪に連動させるリンク機構と、前記左前輪および前記右前輪を車両の操舵輪として転舵させることができる操舵機構と、各車輪に付与する制動力を車輪毎に調整できる制動装置と、を備える車両に適用され、前記制動装置を制御する制動制御装置であって、前記車両のロールレートとして、前記車体フレームが傾斜している状態から起き上がる方向の変化を正の値とする一方で、前記車体フレームが傾斜している状態からさらに倒れる方向の変化および前記車体フレームが直立している状態から倒れる方向の変化を負の値とするロールレートを取得する取得部と、前記車輪が減速スリップしている場合に当該車輪のスリップ量の増大に基づいて当該車輪に付与する制動力の減少を開始させる制御部と、を備え、前記車両が旋回中である場合における前記左前輪および前記右前輪のうち、当該車両の旋回中心からの距離が近い方の車輪を内輪として、前記旋回中心からの距離が遠い方の車輪を外輪とすると、前記車両の旋回中に前記左前輪および前記右前輪の両方に制動力を付与している際において、前記制御部は、正の値であるしきい値よりも前記ロールレートが大きい場合には、前記内輪および前記外輪に関して、前記外輪と比較して前記内輪の方がより小さいスリップ量で制動力の減少を開始させることをその要旨とする。
【0006】
上記構成において、より小さいスリップ量で制御部が制動力の減少を開始させる、ということは、減速スリップが発生した場合に制御部によって制動力を減少させる制御が開始されやすくなることを意味する。
【0007】
上記構成によれば、旋回中の車両においてロールレートが大きい場合、すなわち車体フレームが起き上がってくる場合には、内輪に関して外輪と比較して制動力の減少が開始されやすい一方で外輪に関しては内輪と比較して制動力の減少が開始されにくいように制動装置が制御される。このため、旋回中に車体フレームが起き上がってくる場合では、内輪の制動力と外輪の制動力との差を発生させやすい。さらにいえば、内輪の制動力よりも外輪の制動力が大きくなりやすい。当該車両においては、旋回中に内輪の制動力よりも外輪の制動力が大きくなると、車体フレームが倒れる方向の力を車両に作用させることができる。上記構成では、内輪の制動力よりも外輪の制動力が大きくなりやすくすることで、車両の特性によって車両に作用する力を用いて、旋回中に車両が起き上がる挙動を抑えることができる。これによって、旋回しながら制動中である車両の安定性を向上させることができる。
【0008】
上記課題を解決するための制動制御装置は、旋回の際に車輪とともに傾斜させることができる車体フレームと、前記車輪として前記車体フレームを挟んで左右に並ぶように配置されている左前輪および右前輪と、前記車輪として前記左前輪および前記右前輪よりも後方に配置されている一つの後輪と、前記車体フレームの傾斜を前記左前輪および前記右前輪に連動させるリンク機構と、前記左前輪および前記右前輪を車両の操舵輪として転舵させることができる操舵機構と、各車輪に付与する制動力を車輪毎に調整できる制動装置と、を備える車両に適用され、前記制動装置を制御する制動制御装置であって、前記車両のロールレートとして、前記車体フレームが傾斜している状態から起き上がる方向の変化を正の値とする一方で、前記車体フレームが傾斜している状態からさらに倒れる方向の変化および前記車体フレームが直立している状態から倒れる方向の変化を負の値とするロールレートを取得する取得部と、前記車輪が減速スリップしている場合に当該車輪のスリップ量の増大に基づいて当該車輪に付与する制動力の減少を開始させる制御部と、を備え、前記車両が旋回中である場合における前記左前輪および前記右前輪のうち、当該車両の旋回中心からの距離が近い方の車輪を内輪として、前記旋回中心からの距離が遠い方の車輪を外輪とすると、前記制御部は、前記車両の旋回中に前記左前輪および前記右前輪の両方に制動力を付与している際において、負の値であるしきい値よりも前記ロールレートが小さい場合には、前記内輪に関して、前記ロールレートが前記しきい値以上である場合と比較してより小さいスリップ量で制動力の減少を開始させ、且つ、前記外輪に関して、前記ロールレートが前記しきい値以上である場合と比較してより小さいスリップ量で制動力の減少を開始させることをその要旨とする。
【0009】
上記構成によれば、旋回中の車両においてロールレートが小さい場合、すなわち車体フレームが傾斜していく場合には、そうではない場合に比して、内輪および外輪の両方に関して制動力の減少が開始されやすい。さらに上記構成では、左前輪および右前輪のいずれの前輪に減速スリップが発生しても、減速スリップが発生した方の前輪について、制動力を減少させることができる。このため、旋回中に車体フレームが傾斜していく場合であり、且つ、前輪に減速スリップが発生した際には、制動力の減少によって前後力を小さく抑えることで旋回中の車両における前輪の横力を確保しやすくなる。前輪の横力を確保することによって、車両の横滑りを抑制することができる。すなわち、旋回中に傾斜していく車両の挙動を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、車両と、同車両に適用する制動制御装置と、を示す模式図である。
図2図2は、図1の車両を模式的に示す正面図である。
図3図3は、図1の車両を傾斜させた状態を示す模式図である。
図4図4は、図1の車両が旋回している状態を示す模式図である。
図5図5は、図1の制動制御装置が実行する処理の流れを示すフローチャートである。
図6図6は、図1の制動制御装置が実行する処理に関して、車両のバンク角と補正ゲインとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、制動制御装置の一実施形態について、図1図6を参照して説明する。
図1は、制動制御装置10と、制動制御装置10が適用される車両90と、を示す。図2は、前方から見た車両90を示す。本実施形態では路面が水平であるとして各種説明を行う。
【0012】
<車両>
車両90は、三つの車輪を備えている。車両90は、車輪として、一対の前輪を備えている。図1および図2に示すように、車両90は、前輪である左前輪FLおよび右前輪FRを備えている。車両90は、一つの後輪RCを備えている。
【0013】
図2に示すように、車両90は、車体フレーム30を備えている。車両90では、車体フレーム30は、旋回の際に車輪とともに傾斜させることができる。図2には、車体フレーム30を構成するヘッドパイプ31とダウンフレーム32とを表示している。
【0014】
図2に示すように、左前輪FLおよび右前輪FRは、車体フレーム30を挟んで左右に並ぶように配置されている。
図2には、水平方向に平行な第1方向X1および第2方向X2を示す矢印を表示している。第1方向X1は、車両90の右前輪FRから左前輪FLに向かう方向に対応する。第2方向X2は、車両90の左前輪FLから右前輪FRに向かう方向に対応する。図2には、鉛直方向における上方向を示す矢印として上方向Z1を表示している。図2には、鉛直方向における下方向を示す矢印として下方向Z2を表示している。
【0015】
後輪RCは、前輪よりも後方に配置されている。さらに後輪RCは、図2に示すように、車両90を前方から見て、左前輪FLと右前輪FRとの間に位置している。たとえば、後輪RCは、左前輪FLおよび右前輪FRの中央に位置している。すなわち、後輪RCは、左前輪FLと右前輪FRとの間から後方にずらした位置に配置されている。
【0016】
前輪である左前輪FLおよび右前輪FRは、操舵輪である。図2に示すように、車両90は、操舵輪を転舵させることができる操舵機構40を備えている。
図2に示すように、車両90は、車体フレーム30の傾斜を左前輪FLおよび右前輪FRに連動させるリンク機構50を備えている。
【0017】
後輪RCは、車両90の動力源からの駆動力が伝達される駆動輪である。車両90の動力源の一例は、内燃機関である。動力源は、内燃機関に限らず、電動モータ等を採用することもできる。
【0018】
車両90は、車輪と車体フレーム30とを接続する緩衝機構を備えている。
図2に示すように、車両90は、前輪用の緩衝機構として、左前輪FLと車体フレーム30とを接続する第1フロントサスペンション61を備えている。車両90は、第1フロントサスペンション61に接続されている左軸部材63を備えている。左前輪FLは、左軸部材63によって支持されている。車両90は、前輪用の緩衝機構として、右前輪FRと車体フレーム30とを接続する第2フロントサスペンション62を備えている。車両90は、第2フロントサスペンション62に接続されている右軸部材64を備えている。右前輪FRは、右軸部材64によって支持されている。
【0019】
第1フロントサスペンション61および第2フロントサスペンション62の一例は、テレスコピック式のサスペンションである。第1フロントサスペンション61および第2フロントサスペンション62は、テレスコピック式に限らず、たとえば、ボトムリンク式のサスペンションでもよい。
【0020】
車両90は、後輪RCと車体フレーム30とを接続する後輪用の緩衝機構を備えている。後輪用の緩衝機構の一例は、スイングアームである。
なお、第1フロントサスペンション61および第2フロントサスペンション62は、たとえば、下方向Z2の端部ほど上方向Z1の端部よりも車両90の前方に位置するように傾斜して取り付けられている。こうしたフロントサスペンション61,62の傾斜角度、いわゆるキャスター角に応じて、車両90のトレール量が設定されている。操舵輪を転舵した場合には、トレール量の影響によって、操舵輪と路面との接点である接地点が移動する。
【0021】
車両90は、制動装置70を備えている。制動装置70は、各車輪に付与する制動力を車輪毎に調整できる。制動装置70の一例は、摩擦制動装置である。図1には、摩擦制動装置の一例として液圧制動装置を示している。
【0022】
車両90は、直立している状態から、左方向または右方向、すなわち第1方向X1または第2方向X2に傾けることができる。直立している状態とは、車体フレーム30の上端から下端に向かう方向が鉛直方向に沿っている状態を示す。たとえば、カーブを旋回する際に車体フレーム30および車輪を傾けることで、車体フレーム30の後部から前部に向かう方向を軸にして、車体フレーム30および車輪が直立状態からカーブの内側、すなわち旋回中心側に傾くことができる。本明細書では、上記のように車体フレーム30および車輪を傾けることをバンク(bank)という。車体フレーム30および車輪を傾けることは、リーン(lean)、ロール(roll)等と呼称されることもある。
【0023】
車両90が旋回中である場合における左前輪FLおよび右前輪FRのうち、車両90の旋回中心からの距離が近い方の車輪を内輪という。車両90が旋回中である場合における左前輪FLおよび右前輪FRのうち、車両90の旋回中心からの距離が遠い方の車輪を外輪という。言い換えれば、左前輪FLおよび右前輪FRのうち、車両90が旋回している場合に旋回半径が小さい方の車輪が内輪である。左前輪FLおよび右前輪FRのうち、車両90が旋回している場合に旋回半径が大きい方の車輪が外輪である。
【0024】
<車両の前部構造>
車両90の前部構造について説明する。前部構造は、左前輪FLおよび右前輪FRを支持する構造である。前部構造は、車体フレーム30、操舵機構40、リンク機構50および前輪用の緩衝機構によって構成されている。前部構造は、車体の傾斜に連動して傾斜する一対の前輪を備える三輪の車両に関する公知の構造を採用できる。以下、前部構造の一例を説明する。
【0025】
図2に示すように、操舵機構40は、ステアリングシャフト41、タイロッド42を備えている。
車両90は、操舵操作部材93を備えている。操舵操作部材93は、車両90の運転者によって操作が可能である。車両90は、操舵操作部材93を操作することによって操舵機構40が動作するように構成されている。操舵操作部材93の一例は、ハンドルバーである。
【0026】
操舵機構40の一例を説明する。
ステアリングシャフト41は、車体フレーム30のヘッドパイプ31に挿入されている。ステアリングシャフト41のうちヘッドパイプ31から上方向Z1に突き出している部分には、操舵操作部材93が接続されている。ステアリングシャフト41のうちヘッドパイプ31から下方向Z2に突き出している部分には、タイロッド42が接続されている。
【0027】
操舵操作部材93が操作されることによって、ステアリングシャフト41の軸線を回転軸としてステアリングシャフト41が回転することができる。タイロッド42は、ステアリングシャフト41の回転を第1フロントサスペンション61および第2フロントサスペンション62に伝達することができる。
【0028】
タイロッド42は、ステアリングシャフト41の回転に応じて第1方向X1および第2方向X2に移動することができるように、ステアリングシャフト41と接続されている。
操舵機構40では、左前輪FLおよび右前輪FRが車両90の前方を向いている状態を中立位置という。
【0029】
操舵機構40は、たとえば、ステアリングシャフト41を反時計回りに回転させるように操舵操作部材93が操作された場合には、タイロッド42が第1方向X1に移動するように構成されている。操舵機構40は、タイロッド42が中立位置から第1方向X1に移動すると、左前輪FLおよび右前輪FRが第1方向X1を向くように、左前輪FLおよび右前輪FRの両方を転舵させるように構成されている。操舵機構40は、たとえば、ステアリングシャフト41が時計回りに回転する場合には、タイロッド42が第2方向X2に移動する。操舵機構40では、タイロッド42が中立位置から第2方向X2に移動すると、左前輪FLおよび右前輪FRが第2方向X2を向くように左前輪FLおよび右前輪FRの両方を転舵させる。
【0030】
リンク機構50は、平行四節リンクである。
リンク機構50は、第1リンク部材51を備えている。リンク機構50は、第2リンク部材52を備えている。第2リンク部材52は、第1リンク部材51に対して平行に配置されている。
【0031】
第1リンク部材51は、ヘッドパイプ31に取り付けられている。第2リンク部材52は、ヘッドパイプ31に取り付けられている。第2リンク部材52は、第1リンク部材51よりも下方向Z2の部分に取り付けられている。
【0032】
図2には、第1リンク部材51をヘッドパイプ31に取り付けている第1連結部材C1を表示している。第2リンク部材52をヘッドパイプ31に取り付けている第2連結部材C2を表示している。
【0033】
第1リンク部材51は、ヘッドパイプ31から第1方向X1および第2方向X2の両方に延びている。第2リンク部材52は、ヘッドパイプ31から第1方向X1および第2方向X2の両方に延びている。
【0034】
第1リンク部材51は、第1連結部材C1を回転中心として、ヘッドパイプ31すなわち車体フレーム30に対して回転することができる。第2リンク部材52は、第2連結部材C2を回転中心として、ヘッドパイプ31すなわち車体フレーム30に対して回転することができる。
【0035】
リンク機構50は、第3リンク部材53を備えている。リンク機構50は、第4リンク部材54を備えている。第3リンク部材53は、第4リンク部材54に対して平行に配置されている。
【0036】
第3リンク部材53は、第1リンク部材51における第1方向X1の端部、および、第2リンク部材52における第1方向X1の端部に取り付けられている。図2には、第3リンク部材53を第1リンク部材51に取り付けている第3連結部材C3を表示している。第3リンク部材53を第2リンク部材52に取り付けている第4連結部材C4を表示している。
【0037】
第3リンク部材53は、第1フロントサスペンション61に固定されている。第3リンク部材53および第1フロントサスペンション61は、第3リンク部材53が傾斜した場合に第3リンク部材53に連動して第1フロントサスペンション61が傾斜するように構成されている。
【0038】
第4リンク部材54は、第1リンク部材51における第2方向X2の端部、および、第2リンク部材52における第2方向X2の端部に取り付けられている。図2には、第4リンク部材54を第1リンク部材51に取り付けている第5連結部材C5を表示している。第4リンク部材54を第2リンク部材52に取り付けている第6連結部材C6を表示している。
【0039】
第4リンク部材54は、第2フロントサスペンション62に固定されている。第4リンク部材54および第2フロントサスペンション62は、第4リンク部材54が傾斜した場合に第4リンク部材54に連動して第2フロントサスペンション62が傾斜するように構成されている。
【0040】
リンク機構50は、第1リンク部材51と第2リンク部材52とが、互いに平行な姿勢を維持しつつ、第3リンク部材53と第4リンク部材54とが、互いに平行な姿勢を維持するように構成されている。
【0041】
車両90は、リンク機構50によって、図3に示すように車体フレーム30の傾きを左前輪FLおよび右前輪FRに連動させることができる。詳述すると、車体フレーム30が傾くことで、第3リンク部材53および第4リンク部材54が傾く。第3リンク部材53および第4リンク部材54が傾くことで、第1フロントサスペンション61および第2フロントサスペンション62が傾く。この結果として、左前輪FLおよび右前輪FRが傾く。図3には、第1方向X1に傾いた状態の車両90を例示しているが、車両90は、第2方向X2に傾くこともできる。車両90が第2方向X2に傾く場合も車両90が第1方向X1に傾く場合と同様に、車体フレーム30の傾きを左前輪FLおよび右前輪FRに連動させることができる。
【0042】
車両90は、操舵輪の転舵および車体のバンクによって旋回することができる。図4を用いて一例を説明する。
図4に示す車両90は、旋回方向D1として矢印で示すように、左前方に向かって進行している。図4に示す車両90は、左方向、すなわち第1方向X1に傾いている状態である。このため、重心GCが、右前輪FRよりも左前輪FLに近い位置に移動している。さらに、車両90は、操舵輪である左前輪FLおよび右前輪FRを左方向に転舵している状態である。このように、車両90は、車体フレーム30、左前輪FLおよび右前輪FRを傾けた状態にするとともに、操舵輪である左前輪FLおよび右前輪FRを転舵することができる。
【0043】
<制動装置>
図1を用いて制動装置70の一例を説明する。
制動装置70は、左前輪FLに対応した第1制動機構81と、右前輪FRに対応した第2制動機構82と、後輪RCに対応した第3制動機構83と、を備えている。第1制動機構81は、左前輪FLに制動力を付与することができる。第2制動機構82は、右前輪FRに制動力を付与することができる。第3制動機構83は、後輪RCに制動力を付与することができる。各制動機構81,82,83は、ホイールシリンダと、車輪と一体回転する回転体と、回転体に対して押し付けることができる摩擦材と、によって構成されている。制動機構81,82,83の一例は、ディスクブレーキである。制動機構81,82,83は、ドラムブレーキであってもよい。
【0044】
図1に示すように、制動装置70は、第1マスタシリンダ71および第2マスタシリンダ72を備えている。制動装置70は、第1マスタシリンダ71および第2マスタシリンダ72からブレーキ液が供給される液圧調整装置73を備えている。たとえば、液圧調整装置73は、第1マスタシリンダ71と第1制動機構81のホイールシリンダと第2制動機構82のホイールシリンダとを接続する液路を備えている。たとえば、液圧調整装置73は、第2マスタシリンダ72と第3制動機構83のホイールシリンダとを接続する液路を備えている。
【0045】
第1マスタシリンダ71は、車両90の運転者による操作が可能な第1制動操作部材91と接続されている。第1制動操作部材91の一例は、車両90のハンドルバーに取り付けられているブレーキレバーである。第1マスタシリンダ71は、第1制動操作部材91の操作量に応じて液圧を発生させる。一例として、第1制動操作部材91の操作量に応じて、左前輪FLおよび右前輪FRに制動力を発生させることができる。
【0046】
第2マスタシリンダ72は、車両90の運転者による操作が可能な第2制動操作部材92と接続されている。第2制動操作部材92の一例は、車両90のハンドルバーに取り付けられているブレーキレバーである。第2マスタシリンダ72は、第2制動操作部材92の操作量に応じて液圧を発生させる。一例として、第2制動操作部材92の操作量に応じて、後輪RCに制動力を発生させることができる。
【0047】
第1マスタシリンダ71において発生した液圧が液圧調整装置73に供給されると、液圧調整装置73から第1制動機構81のホイールシリンダおよび第2制動機構82のホイールシリンダにブレーキ液が供給される。第1制動機構81は、ホイールシリンダ内の液圧に応じて左前輪FLに摩擦制動力を発生させることができる。第2制動機構82は、ホイールシリンダ内の液圧に応じて右前輪FRに摩擦制動力を発生させることができる。
【0048】
第2マスタシリンダ72において発生した液圧が液圧調整装置73に供給されると、液圧調整装置73から第3制動機構83のホイールシリンダにブレーキ液が供給される。第3制動機構83は、ホイールシリンダ内の液圧に応じて後輪RCに摩擦制動力を発生させることができる。
【0049】
各制動機構81,82,83は、ホイールシリンダ内の液圧が高いほど、回転体に対して摩擦材を押し付ける力が大きくなるように構成されている。すなわち、各制動機構81,82,83は、ホイールシリンダ内の液圧が高いほど大きな制動力を車輪に付与することができる。ホイールシリンダ内の液圧は、回転体に摩擦材を押し付ける押圧力を示す値の一例である。
【0050】
液圧調整装置73は、各制動機構81,82,83のホイールシリンダに供給する液圧を調整することができる。たとえば、液圧調整装置73は、ポンプ、ポンプを駆動するモータ、電磁弁を備えている。モータおよび電磁弁の制御によって、液圧が調整される。
【0051】
液圧調整装置73は、第1マスタシリンダ71に接続されている液路を備える装置と第2マスタシリンダ72に接続されている液路を備える装置とによって構成されていてもよい。
【0052】
制動装置70は、一つの制動操作部材の操作に基づいて左前輪FL、右前輪FRおよび後輪RCに制動力を付与することができるように構成されていてもよい。たとえば、第2制動操作部材92が操作された場合に、後輪RCに制動力を発生させることに加えて、左前輪FLおよび右前輪FRにも制動力を発生させるように構成されていてもよい。
【0053】
<車両特性>
車両90の特性について説明する。
車両90では、旋回中に左前輪FLおよび右前輪FRの両方に制動力を付与している場合に、内輪の制動力よりも外輪の制動力が大きくなると、車体フレーム30が倒れる方向の力が車体フレーム30に作用する。
【0054】
図4を用いて説明する。図4に示す車両90は、旋回方向D1として矢印で示すように、左に旋回中である。図4に示す車両90は、左方向、すなわち第1方向X1に傾いている状態である。このため、重心GCが、右前輪FRよりも左前輪FLに近い位置に移動している。さらに、車両90は、操舵輪である左前輪FLおよび右前輪FRを左方向に転舵している状態である。すなわち、図4に示す車両90では、左前輪FLが内輪に対応する。右前輪FRが外輪に対応する。
【0055】
図4には、左前輪FLの接地点である左接地点Pfl、右前輪FRの接地点である右接地点Pfrおよび後輪RCの接地点である後接地点Prを表示している。左接地点Pfl、右接地点Pfrおよび後接地点Prを結ぶ三角形を破線で表示している。
【0056】
このとき、左前輪FLおよび右前輪FRの両方に制動力を発生させているとする。左前輪FLに発生している制動力を左前制動力Fflとして、右前輪FRに発生している制動力を右前制動力Ffrとする。
【0057】
図4に示すように車両90が旋回している状態で、外輪の制動力すなわち右前制動力Ffrが、内輪の制動力すなわち左前制動力Fflよりも大きくなると、ステアリングシャフト41を時計回りに回転させる方向の力が操舵機構40に作用する。たとえば、操舵機構40が中立位置に戻るように動作する。上記力の作用によって左前輪FLおよび右前輪FRが中立位置に戻るように転舵されることで、左前輪FLの左接地点Pflおよび右前輪FRの右接地点Pfrが移動する。このように左接地点Pflおよび右接地点Pfrが移動すると、左接地点Pfl、右接地点Pfrおよび後接地点Prを結ぶ三角形が図4に示す状態から二等辺三角形に近づく。このとき、車両90は依然としてバンクした状態であるため、重心GCは、未だ右前輪FRよりも左前輪FLに近い位置にある。これによって、三角形の重心が、車両90の重心GCから離れる方向、具体的には右方向すなわち第2方向X2に移動することになる。接地点を結ぶ三角形の重心と車両90の重心GCとのずれが大きくなる結果として、車体フレーム30が倒れる方向の力が車体フレーム30に作用するようになる。
【0058】
一方、車両90では、旋回中に左前輪FLおよび右前輪FRの両方に制動力を付与している場合に、外輪の制動力よりも内輪の制動力が大きくなると、車体フレーム30が起き上がる方向の力が車体フレーム30に作用する。
【0059】
<センサ>
車両90は、各種センサを備えている。図1には、各種センサの一例として、第1車輪速センサSE1、第2車輪速センサSE2、第3車輪速センサSE3、および挙動検出センサSE4を示している。各種センサからの検出信号は、制動制御装置10に入力される。
【0060】
第1車輪速センサSE1、第2車輪速センサSE2および第3車輪速センサSE3は、車輪の車輪速度を検出するセンサである。
挙動検出センサSE4は、車両90の挙動を検出する慣性計測センサである。挙動検出センサSE4は、車両90の車体フレーム30に取り付けられている。挙動検出センサSE4は、たとえば、加速度センサとジャイロセンサとによって構成されているセンサユニットである。たとえば、制動制御装置10は、挙動検出センサSE4からの検出信号に基づいて、前後加速度、横加速度、上下加速度、ピッチレート、ロールレートおよびヨーレートを算出することができる。
【0061】
<制動制御装置>
制動制御装置10は、制動装置70を制御する機能を備える処理回路である。より具体的にいえば、制動制御装置10は、液圧調整装置73を制御することで、各車輪に発生させる制動力を調整できる。
【0062】
制動制御装置10は、各種の制御を実行する複数の機能部によって構成されている。図1には、機能部の一例として、取得部11、ABS制御部12を示している。制動制御装置10が備える各機能部は、互いに情報の送受信が可能である。制動制御装置10は、車両90が備える他の処理回路と接続されていてもよい。
【0063】
取得部11は、第1車輪速センサSE1からの検出信号に基づいて、左前輪FLの車輪速度VWflを算出することができる。取得部11は、第2車輪速センサSE2からの検出信号に基づいて、右前輪FRの車輪速度VWfrを算出することができる。取得部11は、第3車輪速センサSE3からの検出信号に基づいて、後輪RCの車輪速度VWrcを算出することができる。
【0064】
以下、各種検出値、各種算出値等の要素において添字「fl」、「fr」、「rc」が付されている要素は、順に左前輪FL、右前輪FR、後輪RCに対応した要素である。また、各種検出値、各種算出値等の要素の末尾に付された添字「**」は、「fl」、「fr」または「rc」に対応する。
【0065】
取得部11は、車輪速度VW**に基づいて車体速度VSを算出することができる。車体速度VSは、車両90の走行速度を示す。
取得部11は、車輪加速度DVW**を取得することができる。たとえば、取得部11は、車輪速度VW**を時間微分することによって、当該車輪の車輪加速度DVW**を算出することができる。
【0066】
取得部11は、スリップ量ΔVW**を取得することができる。たとえば、取得部11は、車体速度VSから車輪速度VW**を引くことによって、当該車輪のスリップ量ΔVW**を算出することができる。
【0067】
取得部11は、挙動検出センサSE4からの検出信号に基づいて、車両90のロールレートを算出することができる。ロールレートは、ロール角速度とも呼ばれる。本実施形態では、取得部11は、正規化したロールレートφRを算出する。ロールレートφRは、車体フレーム30が傾斜している状態から起き上がる方向に変化している場合に正の値となるように正規化したロールレートである。ロールレートφRは、車体フレーム30が直立している状態から倒れる方向に変化している場合に負の値となるように正規化したロールレートである。ロールレートφRは、上記のように正規化されていることで、車体フレーム30が傾斜している状態からさらに倒れる方向に変化している場合にも負の値となる。ロールレートφRの絶対値が大きいほど、車両90の傾きが急激に変化していることを示す。
【0068】
取得部11は、車両90の傾き角をバンク角φとして取得することができる。たとえば、取得部11は、横加速度とロールレートとに基づいてバンク角を算出することができる。バンク角は、ロール角とも呼ばれる。
【0069】
図3を用いて、バンク角について説明する。
図3には、第1方向X1に傾いた状態の車両90を例示している。車体フレーム30および車輪が垂直である直立状態からの車体フレーム30の傾き角がバンク角である。図2には、車両90が第1方向X1に傾いていることによって、車両90の重心GCが第1方向X1に移動している状態を示している。なお、図2では車両90の重心GCを車体フレーム30と重なる位置に図示しているが、重心GCの位置はこれに限定されない。
【0070】
バンク角は、車両90が直立状態であるとき、すなわち車両90が水平面に対して垂直な状態にあるときを「0」とする。バンク角は、車体フレーム30が第1方向X1および第2方向X2のうちいずれか一方に傾いている場合に正の値として算出される。この場合には、車体フレーム30がより大きく傾いているほどバンク角が大きい値となる。バンク角は、車体フレーム30が他方に傾いている場合に負の値として算出される。この場合には、車体フレーム30がより大きく傾いているほどバンク角が小さい値となる。すなわち、バンク角の絶対値が大きいほど、車体フレーム30がより大きく傾いていることを示す。本実施形態では、取得部11は、バンク角の絶対値をバンク角φとして算出する。
【0071】
ABS制御部12は、車両90の制動中に車輪のロックを抑制するアンチロックブレーキ制御を実施することができる。以下、アンチロックブレーキ制御をABS制御という。ABS制御部12は、ABS開始条件が成立した場合に、ABS制御を開始する。
【0072】
ABS制御部12は、ABS制御を開始すると、スリップ量に応じて制動力を調整するように制動装置70を作動させる。ABS制御が開始されると、まず、制動力を減少させる減圧制御が行われる。ABS制御部12は、「前記車輪が減速スリップしている場合に当該車輪のスリップ量の増大に基づいて当該車輪に付与する制動力の減少を開始させる制御部」に対応する。
【0073】
ABS制御によれば、制動力を減少させる減圧制御、制動力を一定に保つ保持制御、制動力を増加させる増圧制御、をスリップ量に応じて切り替えることによって、スリップ量の低下が実現される。なお、増圧とは、押圧力を増加させることであり、ホイールシリンダ内の液圧を増加させることに対応する。減圧とは、押圧力を減少させることであり、ホイールシリンダ内の液圧を減少させることに対応する。保持は、ホイールシリンダ内の液圧を保持することに対応する。
【0074】
ABS開始条件の一例として、車両90が旋回している場合におけるABS開始条件を説明する。なお、車両90が旋回していない場合におけるABS開始条件については、説明を省略するが、公知の条件を採用できる。
【0075】
ABS制御部12は、以下の関係式(A1)が成立した時点におけるスリップ量ΔVW*を取得して、第1スリップ判定値ΔVSP*として記憶する。
DVW*<GSP×K* ・・・(A1)
ABS制御部12は、たとえば、以下の関係式(A2)および関係式(A3)の両方が成立した場合に、ABS開始条件が成立したと判定する。
【0076】
ΔVW*>ΔVSP*+ΔVR×K* ・・・(A2)
DVW*<G1×K* ・・・(A3)
上記関係式(A1)において、「GSP」は、取得判定値である。取得判定値GSPは、第1スリップ判定値ΔVSP*を記憶するために、車輪加速度DVW*が低下したタイミングを検出するための判定値である。取得判定値GSPは、予め実験等によって算出された値が設定されている。取得判定値GSPは、たとえば、「0」よりも小さい値が設定されている。
【0077】
上記関係式(A2)において、「ΔVR」は、第2スリップ判定値である。第2スリップ判定値ΔVRは、車両90が直進している場合においてABS制御の開始条件が成立しているか否かを判定する判定値として用いられる値である。車両90が直進している場合において、スリップ量ΔVW**が第2スリップ判定値ΔVRよりも大きい場合には、スリップ量ΔVW**が増大していると判定される。第2スリップ判定値ΔVRは、予め実験等によって算出された値が設定されている。
【0078】
上記関係式(A3)において、「G1」は、車輪加速度判定値である。車輪加速度判定値G1は、車両90が直進している場合においてABS制御の開始条件が成立しているか否かを判定する判定値として用いられる値である。車両90が直進している場合において、車輪加速度DVW**が車輪加速度判定値G1よりも小さい場合には、車輪加速度DVW**が低下していると判定される。車輪加速度判定値G1は、予め実験等によって算出された値が設定されている。車輪加速度判定値G1は、たとえば、取得判定値GSPよりも小さい値が設定されている。
【0079】
上記関係式(A1)、(A2)、(A3)において、添字「*」は、「o」または「i」に対応する。添字「o」、「i」が付された要素は、順に外輪、内輪に対応した要素である。
【0080】
上記関係式(A1)、(A2)、(A3)において、「Ko」は、外輪補正ゲインである。「Ki」は、内輪補正ゲインである。以下では、外輪補正ゲインKoおよび内輪補正ゲインKiをまとめて補正ゲインK*という。補正ゲインK*は、「0」よりも大きい値である。補正ゲインK*は、「1」以下の値である。補正ゲインK*の値は、後述する旋回ゲイン設定処理を実行することによって設定される。
【0081】
上記関係式(A1)を用いて一例を説明する。ABS制御部12は、内輪の車輪加速度DVWiが、取得判定値GSPに内輪補正ゲインKiを掛けた値よりも小さくなった場合に、内輪のスリップ量ΔVWiを内輪の第1スリップ判定値ΔVSPiとして記憶する。
【0082】
補正ゲインK*が小さいことは、車輪加速度DVW**がより大きいタイミングから関係式(A1)が成立することを意味する。言い換えれば、補正ゲインK*が小さいほど、補正ゲインK*が大きい場合と比較して、関係式(A1)が成立しやすいといえる。この結果として、補正ゲインK*が小さいほど、補正ゲインK*が大きい場合と比較して、第1スリップ判定値ΔVSP*として記憶される値が小さくなりやすい。さらにいえば、補正ゲインK*が小さいほど、補正ゲインK*が大きい場合と比較して、関係式(A2)が成立しやすいといえる。
【0083】
補正ゲインK*が小さいことは、スリップ量ΔVW*がより小さいタイミングから関係式(A2)が成立することを意味する。言い換えれば、補正ゲインK*が小さいほど、補正ゲインK*が大きい場合と比較して、関係式(A2)が成立しやすいといえる。
【0084】
補正ゲインK*が小さいことは、車輪加速度DVW**がより大きいタイミングから関係式(A3)が成立することを意味する。言い換えれば、補正ゲインK*が小さいほど、補正ゲインK*が大きい場合と比較して、関係式(A3)が成立しやすいといえる。
【0085】
以上のことから、補正ゲインK*が小さい場合には、ABS開始条件が成立しやすいといえる。このため、補正ゲインK*を小さくすることは、検出されるスリップ量が比較的小さい場合でもABS制御部12によって制動力の減少を開始させるようにすることに対応する。補正ゲインK*を小さくすることは、減速スリップが発生した場合に制動力を減少させる制御が開始されやすくなることを意味する。たとえば、次のことがいえる。補正ゲインK*を小さくすることによって、旋回中に減速スリップが発生した場合に、制動力が減少されやすくなる。
【0086】
<旋回ゲイン設定処理>
図5を用いて、旋回ゲイン設定処理について説明する。図5は、制動制御装置10が実行する処理の流れを示す。本処理ルーチンは、たとえば、左前輪FLおよび右前輪FRの両方に制動力を付与している際に所定の周期毎に繰り返し実行される。
【0087】
本処理ルーチンが開始されると、まずステップS101において、制動制御装置10は、バンク角φを取得する。ステップS101において、制動制御装置10は、ロールレートφRを取得する。制動制御装置10は、取得部11に、バンク角φおよびロールレートφRを取得させると、処理をステップS102に移行する。
【0088】
ステップS102では、制動制御装置10は、車両90が旋回中であるか否かを判定する。
一例として、制動制御装置10は、バンク角φが規定の旋回判定値よりも大きい場合に、車両90が旋回中であると判定することができる。
【0089】
車両90が旋回中ではない場合には(S102:NO)、制動制御装置10は、本処理ルーチンを一旦終了する。なお、車両90が旋回中ではない場合の一例は、車両90が直進している場合である。さらに上記の例では、車両90を直立に近い状態にして操舵輪の転舵によって車両90の進行方向を変えている場合には、車両90が旋回中ではないと判定される。すなわち、車両90が旋回中ではない場合としては、車両90が進行方向を変えているが、バンク角φが旋回判定値以下である場合を含む。
【0090】
車両90が旋回中である場合には(S102:YES)制動制御装置10は、処理をステップS103に移行する。
ステップS103では、制動制御装置10は、ロールレートφRが第1ロールレートしきい値φRth1よりも小さいか否かを判定する。
【0091】
第1ロールレートしきい値φRth1は、正規化されたロールレートφRが第1ロールレートしきい値φRth1よりも小さい場合には車両90が倒れる方向に車両90の姿勢が変化していると判定できる値である。第1ロールレートしきい値φRth1は、負の値である。第1ロールレートしきい値φRth1は、予め実験等によって算出された値が設定されている。第1ロールレートしきい値φRth1は、「負の値であるしきい値」に対応する。
【0092】
ロールレートφRが第1ロールレートしきい値φRth1よりも小さい場合、すなわち車両90が倒れる方向に車両90の姿勢が変化している場合には(S103:YES)、制動制御装置10は、処理をステップS111に移行する。
【0093】
ステップS111では、制動制御装置10は、補正ゲインK*を設定する処理として第1設定処理を行う。第1設定処理は、外輪補正ゲインKoおよび内輪補正ゲインKiを比較的小さい値に設定する処理である。詳細は後述する。ステップS111において補正ゲインK*を設定すると、制動制御装置10は、本処理ルーチンを終了する。
【0094】
ステップS103の処理において、ロールレートφRが第1ロールレートしきい値φRth1以上である場合には(S103:NO)、制動制御装置10は、処理をステップS104に移行する。
【0095】
ステップS104では、制動制御装置10は、ロールレートφRが第2ロールレートしきい値φRth2よりも大きいか否かを判定する。
第2ロールレートしきい値φRth2は、正規化されたロールレートφRが第2ロールレートしきい値φRth2よりも大きい場合には車両90が起き上がる方向に車両90の姿勢が変化していると判定できる値である。第2ロールレートしきい値φRth2は、正の値である。第2ロールレートしきい値φRth2は、予め実験等によって算出された値が設定されている。第2ロールレートしきい値φRth2は、「正の値であるしきい値」に対応する。
【0096】
ロールレートφRが第2ロールレートしきい値φRth2よりも大きい場合、すなわち車両90が起き上がる方向に車両90の姿勢が変化している場合には(S104:YES)、制動制御装置10は、処理をステップS112に移行する。なお、旋回中の車両90においてロールレートφRが大きい場合の一例としては、旋回中の車両90において制動力が過度に大きくなることで車体フレーム30が起き上がる挙動を示す場合が挙げられる。
【0097】
ステップS112では、制動制御装置10は、補正ゲインK*を設定する処理として第2設定処理を行う。第2設定処理は、外輪補正ゲインKoよりも内輪補正ゲインKiを小さい値に設定する処理である。詳細は後述する。ステップS112において補正ゲインK*を設定すると、制動制御装置10は、本処理ルーチンを終了する。
【0098】
ステップS104の処理において、ロールレートφRが第2ロールレートしきい値φRth2以下である場合には(S104:NO)、制動制御装置10は、処理をステップS113に移行する。すなわち、ロールレートφRが第1ロールレートしきい値φRth1以上であり、且つ、ロールレートφRが第2ロールレートしきい値φRth2以下である場合には、制動制御装置10は、処理をステップS113に移行する。
【0099】
ステップS113では、制動制御装置10は、補正ゲインK*を設定する処理として第3設定処理を行う。第3設定処理は、外輪補正ゲインKoおよび内輪補正ゲインKiを比較的大きい値に設定する処理である。詳細は後述する。ステップS113において補正ゲインK*を設定すると、制動制御装置10は、本処理ルーチンを終了する。
【0100】
図5および図6を用いて、第1設定処理、第2設定処理および第3設定処理の一例を説明する。
制動制御装置10には、バンク角φに対応する補正ゲインK*を算出する演算マップが記憶されている。図6には、当該演算マップが示すバンク角φと補正ゲインK*との関係を例示している。
【0101】
図6に示すように、制動制御装置10には、演算マップとして二点鎖線で示す第1マップMaと、一点鎖線で示す第2マップMbと、実線で示す第3マップMcと、が設定されている。
【0102】
第1マップMa、第2マップMbおよび第3マップMcは、バンク角φがバンク角しきい値φth以下である範囲では、補正ゲインK*が「1」として算出されるように設定されている。
【0103】
バンク角しきい値φthについて説明する。たとえば、バンク角しきい値φthは、車両90が旋回しているか否かを判定する際に用いる旋回判定値と等しい。なお、バンク角しきい値φthは、旋回判定値よりも小さい値でもよい。
【0104】
第1マップMa、第2マップMbおよび第3マップMcは、バンク角φがバンク角しきい値φthよりも大きい範囲では、補正ゲインK*が「1」よりも小さい値として算出されるように設定されている。たとえば、バンク角φが大きいほど補正ゲインK*が小さい値として算出される。
【0105】
第2マップMbは、バンク角φがバンク角しきい値φthよりも大きい範囲において、バンク角φに対応する補正ゲインK*が、第3マップMcの場合と比較して、より小さい値として設定されている。このため、第2マップMbを用いて所定のバンク角φに対応する補正ゲインK*を算出すると、第3マップMcを用いて上記所定のバンク角φに対応する補正ゲインK*を算出する場合よりも小さい値が算出される。
【0106】
第1マップMaは、バンク角φがバンク角しきい値φthよりも大きい範囲において、バンク角φに対応する補正ゲインK*が、第2マップMbの場合と比較して、より小さい値として設定されている。このため、第1マップMaを用いて所定のバンク角φに対応する補正ゲインK*を算出すると、第2マップMbを用いて上記所定のバンク角φに対応する補正ゲインK*を算出する場合よりも小さい値が算出される。
【0107】
図5に示すステップS113において実行される第3設定処理では、制動制御装置10は、第3マップMcを用いて、バンク角φに基づいて内輪補正ゲインKiを算出する。第3設定処理では、制動制御装置10は、第3マップMcを用いて、バンク角φに基づいて外輪補正ゲインKoを算出する。このように、ロールレートφRが第1ロールレートしきい値φRth1以上且つ第2ロールレートしきい値φRth2以下である場合、すなわち車両90の傾きが変化する挙動が比較的緩やかである場合には、比較的大きい値として補正ゲインK*が算出される。また、内輪補正ゲインKiと外輪補正ゲインKoとに同じ値が設定される。
【0108】
図5に示すステップS112において実行される第2設定処理では、制動制御装置10は、外輪補正ゲインKoよりも小さい値として内輪補正ゲインKiを算出する。たとえば、制動制御装置10は、ロールレートφRが第1ロールレートしきい値φRth1以上且つ第2ロールレートしきい値φRth2以下である場合と比較して、内輪補正ゲインKiをより小さい値として算出する。一例として、第2設定処理では、制動制御装置10は、第2マップMbを用いて、バンク角φに基づいて内輪補正ゲインKiを算出する。一例として、第2設定処理では、制動制御装置10は、第3マップMcを用いて、バンク角φに基づいて外輪補正ゲインKoを算出する。
【0109】
この結果として、車両90の旋回中に左前輪FLおよび右前輪FRの両方に制動力を付与している際において、第2ロールレートしきい値φRth2よりもロールレートφRが大きい場合には、ABS制御部12は、次のようにABS制御を行うことができる。ABS制御部12は、内輪および外輪に関して、外輪と比較して内輪の方がより小さいスリップ量で制動力の減少を開始させる。ABS制御部12は、内輪に関して、ロールレートφRが第1ロールレートしきい値φRth1以上且つ第2ロールレートしきい値φRth2以下である場合と比較して、より小さいスリップ量ΔVWiで制動力の減少を開始させることもできる。たとえば、内輪のスリップ量ΔVWiが外輪のスリップ量ΔVWoと比較して小さい値である状態において、内輪について制動力の減少が開始される一方で外輪については制動力の減少が開始されないことがある。
【0110】
図5に示すステップS111において実行される第1設定処理では、制動制御装置10は、内輪補正ゲインKiおよび外輪補正ゲインKoを小さい値として算出する。たとえば、制動制御装置10は、ロールレートφRが第1ロールレートしきい値φRth1以上且つ第2ロールレートしきい値φRth2以下である場合と比較して、内輪補正ゲインKiおよび外輪補正ゲインKoをより小さい値として算出する。また、制動制御装置10は、内輪補正ゲインKiと外輪補正ゲインKoとを同じ値として算出する。一例として、制動制御装置10は、第1マップMaを用いて、バンク角φに基づいて内輪補正ゲインKiを算出する。一例として、制動制御装置10は、第1マップMaを用いて、バンク角φに基づいて外輪補正ゲインKoを算出する。
【0111】
この結果として、車両90の旋回中に左前輪FLおよび右前輪FRの両方に制動力を付与している際において、第1ロールレートしきい値φRth1よりもロールレートφRが小さい場合には、ABS制御部12は、次のようにABS制御を行うことができる。ABS制御部12は、内輪に関して、ロールレートφRが第1ロールレートしきい値φRth1以上且つ第2ロールレートしきい値φRth2以下である場合と比較して、より小さいスリップ量ΔVWiで制動力の減少を開始させる。ABS制御部12は、外輪に関して、ロールレートφRが第1ロールレートしきい値φRth1以上且つ第2ロールレートしきい値φRth2以下である場合と比較して、より小さいスリップ量ΔVWoで制動力の減少を開始させる。
【0112】
<作用および効果>
本実施形態の作用および効果について説明する。
制動制御装置10によれば、旋回中の車両90においてロールレートφRが大きい場合、すなわち車体フレーム30が起き上がってくる場合には、外輪補正ゲインKoよりも小さい値として内輪補正ゲインKiが算出される(S112)。この結果として、内輪に関して外輪と比較して制動力の減少が開始されやすい一方で外輪に関しては内輪と比較して制動力の減少が開始されにくいように制動装置70が制御される。このため、旋回中に車体フレーム30が起き上がってくる場合では、内輪の制動力と外輪の制動力との差を発生させやすい。さらにいえば、内輪の制動力よりも外輪の制動力が大きくなりやすい。このように内輪の制動力よりも外輪の制動力が大きくなりやすくすることで、車両90の特性によって車両90に作用する力を用いて、旋回中に車両90が起き上がる挙動を抑えることができる。これによって、旋回しながら制動中である車両90の安定性を向上させることができる。
【0113】
仮に、一方の前輪における減速スリップを検出した場合に左前輪および右前輪の両方について制動力の減少を開始すると、二つの前輪のうち一方のみが減速スリップしている場合でも両方の前輪の制動力が減少される。この場合にはスリップ量が大きくなっていない方の前輪についても制動力が減少することになるため、車両の減速度が低下することがある。
【0114】
これに対して、本実施形態の制動制御装置10によれば、左前輪FLおよび右前輪FRのそれぞれについて、ABS開始条件が成立しているか否かを判定している。さらにABS開始条件を構成する判定値に、内輪と外輪とでそれぞれの補正ゲインK*を掛けることで、内輪と外輪とでABS制御の介入しやすさを調整している。これによって、車両90の減速度が低下することを軽減しつつ、旋回中の車両90の姿勢を安定させるように、制動力を制御することができる。
【0115】
制動制御装置10によれば、旋回中の車両90においてロールレートφRが小さい場合、すなわち車体フレーム30が傾斜していく場合には、内輪補正ゲインKiおよび外輪補正ゲインKoが小さい値として算出される(S111)。この結果として、車体フレーム30が傾斜していく場合には、そうではない場合に比して、内輪および外輪の両方に関して制動力の減少が開始されやすい。このため、旋回中に車体フレーム30が傾斜していく場合であり、且つ、前輪に減速スリップが発生した際には、制動力の減少によって前後力を小さく抑えることで旋回中の車両90における前輪の横力を確保しやすくなる。さらに制動制御装置10によれば、左前輪FLおよび右前輪FRのいずれの前輪に減速スリップが発生しても、減速スリップが発生した方の前輪について、制動力を減少させることができる。制動制御装置10によれば、前輪の横力を確保することによって、車両90の横滑りを抑制することができる。なお、ロールレートφRが小さい場合、すなわち車両90が急激に倒れる挙動を示している場合には、車両90が既に横滑りしているおそれがある。制動制御装置10によれば、前輪の横力を確保することによって、車両90の横滑りが解消されやすくなる。このように制動制御装置10によれば、旋回中に傾斜していく車両90の挙動を安定させることができる。
【0116】
車両90のロールレートφRが第2ロールレートしきい値φRth2よりも大きい場合、または、車両90のロールレートφRが第1ロールレートしきい値φRth1よりも小さい場合は、旋回中である車両90の傾きに大きな変化が発生している状態といえる。制動制御装置10によれば、旋回中である車両90の傾きに大きな変化が発生している状態から、車両90の特性が発揮されるように制動装置70を制御することによって、車両90の姿勢を安定させることができる。
【0117】
(変更例)
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態および以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0118】
・上記実施形態では、補正ゲインK*の設定を通じて、車両90が旋回している場合におけるABS開始条件の成立しやすさを調整する例を示した。補正ゲインK*を用いることは、必須の構成ではない。
【0119】
ABS開始条件は、上記実施形態において説明した例に限らない。たとえば、ABS制御部12は、関係式(A2)が成立した場合に、ABS開始条件が成立したと判定してもよい。
【0120】
ABS開始条件の成立しやすさを調整する構成は、上記実施形態において説明した例に限らない。制動制御装置10は、以下のように構成されていればよい。
制動制御装置10は、車両90の旋回中に両方の前輪に制動力を付与している際において、第2ロールレートしきい値φRth2よりもロールレートφRが大きい場合には、次のように構成されていればよい。制動制御装置10は、内輪および外輪に関して、外輪と比較して内輪の方がより小さいスリップ量で制動力の減少を開始させるように構成されていればよい。
【0121】
制動制御装置10は、車両90の旋回中に両方の前輪に制動力を付与している際において、第1ロールレートしきい値φRth1よりもロールレートφRが小さい場合には、次のように構成されていればよい。制動制御装置10は、内輪に関して、ロールレートφRが第1ロールレートしきい値φRth1以上である場合と比較してより小さいスリップ量で制動力の減少を開始させるように構成されていればよい。加えて、制動制御装置10は、外輪に関して、ロールレートφRが第1ロールレートしきい値φRth1以上である場合と比較してより小さいスリップ量で制動力の減少を開始させるように構成されていればよい。
【0122】
・上記実施形態では、車両90が旋回しているか否かを、バンク角φを用いて判定する例を示した。車両90が旋回しているか否かを判定する手段は、これに限らない。一例として、前輪の車輪速度と後輪の車輪速度との差に基づいて車両90が旋回中であるか否かを判定することもできる。他の例として、車両90のヨーレートに基づいて車両90が旋回中であるか否かを判定することもできる。
【0123】
・ステップS111として説明した第1設定処理において、制動制御装置10は、第2マップMbを用いて、バンク角φに基づいて内輪補正ゲインKiを算出し、且つ、第2マップMbを用いて、バンク角φに基づいて外輪補正ゲインKoを算出してもよい。この場合においても、内輪補正ゲインKiおよび外輪補正ゲインKoを小さく設定することができる。
【0124】
・ステップS112として説明した第2設定処理において、制動制御装置10は、第1マップMaを用いて、バンク角φに基づいて内輪補正ゲインKiを算出し、且つ、第3マップMcを用いて、バンク角φに基づいて外輪補正ゲインKoを算出してもよい。あるいは、第2設定処理において、制動制御装置10は、第1マップMaを用いて、バンク角φに基づいて内輪補正ゲインKiを算出し、且つ、第2マップMbを用いて、バンク角φに基づいて外輪補正ゲインKoを算出してもよい。この場合においても、内輪補正ゲインKiを外輪補正ゲインKoよりも小さく設定することができる。
【0125】
・上記実施形態では、バンク角φに対応する補正ゲインK*を算出する演算マップとして、第1マップMa、第2マップMbおよび第3マップMcを例示した。
第1マップMa、第2マップMbおよび第3マップMcに関して、図6に示したバンク角φと補正ゲインK*との関係は、一例である。バンク角φと補正ゲインK*との関係は、以下の三点を全て満たすものであれば、図6に例示した関係に限らない。第1マップMa、第2マップMbおよび第3マップMcは、バンク角φがバンク角しきい値φthよりも大きい範囲では、補正ゲインK*が「1」よりも小さい値として算出されるように設定されている。第2マップMbは、バンク角φがバンク角しきい値φthよりも大きい範囲において、バンク角φに対応する補正ゲインK*が、第3マップMcの場合と比較して、より小さい値として設定されている。第1マップMaは、バンク角φがバンク角しきい値φthよりも大きい範囲において、バンク角φに対応する補正ゲインK*が、第2マップMbの場合と比較して、より小さい値として設定されている。
【0126】
・制動制御装置10を構成する各処理回路は、以下[a]~[c]のいずれかの構成であればよい。[a]コンピュータプログラムに従って各種処理を実行する一つ以上のプロセッサを備える回路。プロセッサは、処理装置を備える。処理装置の例は、CPU、DSPおよびGPU等である。プロセッサは、メモリを備える。メモリの例は、RAM、ROMおよびフラッシュメモリ等である。メモリは、処理を処理装置に実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。メモリすなわちコンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。たとえば、CPUが実行装置に対応する。たとえば、メモリが記憶装置に対応する。[b]各種処理を実行する一つ以上のハードウェア回路を備える回路。ハードウェア回路の例は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)およびFPGA(Field Programmable Gate Array)等である。[c]各種処理の一部をコンピュータプログラムに従って実行するプロセッサと、各種処理のうち残りの処理を実行するハードウェア回路と、を備える回路。
【0127】
・制動制御装置10が実現する機能の一部は、制動制御装置10と接続されている他の処理回路によって実現されてもよい。
たとえば、挙動検出センサSE4からの検出信号に基づいて、前後加速度、横加速度、上下加速度、ピッチレート、ロールレートおよびヨーレート等を算出する機能を有する他の処理回路を車両が備えていてもよい。この場合には、取得部11は、算出された値を取得することができる。
【0128】
・路面に垂直な方向を基準としてバンク角を検出してもよい。路面に垂直な方向を基準としたバンク角を検出する方法としては、たとえば、以下の方法がある。なお、バンク角の検出方法は、例示した方法に限られるものではない。
【0129】
一例は、車両のうちバンクする部分に超音波距離センサ等のセンサを設置して所定の位置と路面との距離に基づいてバンク角を検出する方法である。
・上記実施形態では、摩擦制動装置として液圧制動装置を例示した。摩擦制動装置は、液圧制動装置に限らず、電動モータの駆動量を機械的に伝達することによって摩擦材を回転体に押し付ける機械式の摩擦制動装置でもよい。
【符号の説明】
【0130】
10…制動制御装置
11…取得部
12…ABS制御部
30…車体フレーム
40…操舵機構
50…リンク機構
70…制動装置
90…車両
FL…左前輪
FR…右前輪
RC…後輪
図1
図2
図3
図4
図5
図6