(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121233
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】被覆負極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/587 20100101AFI20240830BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20240830BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
H01M4/587
H01M4/38 Z
H01M4/36 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028208
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(72)【発明者】
【氏名】郷田 隼
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA07
5H050AA12
5H050BA16
5H050BA17
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050DA03
5H050DA09
5H050EA22
5H050GA02
(57)【要約】
【課題】
電極材抵抗を極めて低くすることができ大電流充放電(高出力)に加えて高容量化が可能であるとともに、車載用途として使用可能なサイクル寿命を達成できるリチウム二次電池用電極材およびこの電極材を用いたリチウム二次電池の提供を目的とする。
【解決手段】
リチウム二次電池用負極活物質用原料に、同一分子間および/または異種分子間で縮合反応が起きる化合物(A)を加熱した炭素材料を被覆させる工程を含む、リチウム二次電池用被覆負極活物質の製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム二次電池用負極活物質用原料に、同一分子間および/または異種分子間で縮合反応が起きる化合物(A)を加熱した炭素材料を被覆させる工程を含む、リチウム二次電池用被覆負極活物質の製造方法。
【請求項2】
前記負極活物質が、天然黒鉛、人造黒鉛、難黒鉛化性炭素、易黒鉛化炭素材、非晶質炭素材、金属シリコンおよび金属スズから選ばれた少なくとも1つである請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記化合物(A)が、加熱によって分解して芳香族環上にラジカルを発生する芳香族化合物である請求項1または2に記載の被覆負極活物質の製造方法。
【請求項4】
前記化合物(A)が、縮合反応によって、2種以上の基から1つの中性分子が形成されて脱離する化合物である、請求項1または2に記載の被覆負極活物質の製造方法。
【請求項5】
前記縮合反応が、
(a)-H基と-OH基とからH2Oが形成されて脱離することによる縮合反応、
(b)-H基と-OR基(Rは任意の適切な置換または無置換のアルキル基)とからROHが形成されて脱離することによる縮合反応、
(c)-H基と-X基(XはハロゲンまたはCN)とからHXが形成されて脱離することによる縮合反応、
(d)-H基と-NH2基とからNH3が形成されて脱離することによる縮合反応、
(e)-H基と-NHR基(Rは任意の適切な置換または無置換のアルキル基)とからRNH2が形成されて脱離することによる縮合反応、
(f)-H基と-NR1R2基(R1、R2は任意の適切な置換または無置換のアルキル基)とからR1R2NHが形成されて脱離することによる縮合反応、
(g)-H基と-SH基とからH2Sが形成されて脱離することによる縮合反応、
(h)-H基と-SR基(Rは任意の適切な置換または無置換のアルキル基)とからRSHが形成されて脱離することによる縮合反応、
(i)-H基と-OOCR基(Rは任意の適切な置換または無置換のアルキル基)とからRCOOHが形成されて脱離することによる縮合反応、
(j)-H基と-OSO(OH)基とからH2SO3が形成されて脱離することによる縮合反応、
(k)-H基と-OSO2R基(Rは任意の適切な置換または無置換のアルキル基)とからRSO2(OH)が形成されて脱離することによる縮合反応、
(l)-H基と-OSO2(OR)基(Rは任意の適切な置換または無置換のアルキル基)とからROSO3Hが形成されて脱離することによる縮合反応、および、
(m)-H基と-OSO2(OH)基とからH2SO4が形成されて脱離することによる縮合反応、
からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項4に記載の被覆負極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆負極活物質の製造方法に関する。より詳しくは、リチウム二次電池用負極活物質の表面に被覆層を有する被覆負極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化、高性能化に伴い、電池の高エネルギー密度化に対する要望がますます高まっている。なかでも、リチウムイオン二次電池は、エネルギー密度が高く、高電圧化が可能であることから注目されており、さらなる、高容量化や充放電効率の向上が課題となっている。
【0003】
これらの課題に対して、リチウム二次電池は種々の工夫がなされてきた。正極材はリチウム金属酸化物の正極材に加えて、特に絶縁酸化物や抵抗の高い正極材まで検討されてきた。また、負極材は炭素系、チタン酸化物や合金系など自身の高容量化に加えて、大電流を流せる負極材が検討されてきた。
【0004】
これら正極材および負極材を構成する活物質粒子の小粒径化による比表面積の増加や、電極設計による電極面積の増加等の工夫により、リチウム二次電池の電流密度の負荷低減がなされてきた。
【0005】
これらの工夫によって高容量化や大電流充放電は向上したが、リチウム二次電池の長寿命対策に対しては不十分であった。このため、正極ではリチウム金属酸化物の金属元素の置換配合比やドープ金属の置換が検討されてきた。また、炭素系負極では電解液の分解による抵抗被膜の生成防止を工夫した添加剤が提案されてきた。半導体特性を有する合金系負極では、合金組成や導電材の添加、さらには合金の体積膨張を抑制するために結着剤に工夫を施したものが提案されてきた。例えば、合金を負極活物質とするリチウム二次電池において、CVD処理により炭素被膜を形成した合金系負極粉末と、炭素材料から形成され活物質粉末の表面に付着する導電材料と、導電材料に結合した繊維状導電材料とをもつ電極材料を有することを特徴とする二次電池用電極が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は以上のような問題に対処するためになされたもので、電極材抵抗を極めて低くすることができ大電流充放電(高出力)に加えて高容量化が可能であるとともに、車載用途として使用可能なサイクル寿命を達成できるリチウム二次電池用電極材およびこの電極材を用いたリチウム二次電池の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成する為に種々検討を行ない、本発明に想到した。
すなわち本発明の製造方法は、リチウム二次電池用負極活物質用原料に、同一分子間および/または異種分子間で縮合反応が起きる化合物(A)を加熱した炭素材料を被覆させる工程を含む、リチウム二次電池用被覆負極活物質の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法により得られる被覆負極活物質は、高出力のリチウム二次電池として好ましく使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【0011】
[被覆負極活物質]
本発明の製造方法における被覆負極活物質は、表面が炭素材料で被覆された負極活物質である。被覆負極活物質は、好ましくは、負極活物質に炭素材料をコーティングさせてなる。被覆負極活物質は、負極活物質部分と炭素材料部分(炭素被覆部分)を含む。
【0012】
被覆負極活物質の一つの好ましい実施形態Xは、溶媒(S)に可溶な可溶性炭素材料と負極活物質とを、該溶媒(S)中で混合する工程(混合工程(I))を含む製造方法によって得られる炭素被覆負極活物質である。炭素被覆負極活物質の別の一つの好ましい実施形態Yは、加熱によって同一分子間および/または異種分子間で縮合反応が起きる化合物(A)と負極活物質を含む組成物を加熱して得られる被覆負極活物質である。
【0013】
[負極活物質]
本発明に用いられる負極活物質は特に限定されないが、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、難黒鉛化性炭素、易黒鉛化炭素材、非晶質炭素材、金属シリコンおよび金属スズ等が好ましい。チタン酸リチウム等の合金系の負極活物質であってもよい。
【0014】
[炭素被覆負極活物質の一つの好ましい実施形態X]
炭素被覆負極活物質の一つの好ましい実施形態Xは、炭素材料と負極活物質とを、溶媒(S)中で混合する工程(混合工程(I))を含む製造方法によって得られる炭素被覆負極活物質である。この実施形態Xにおける炭素材料は、好ましくは、溶媒(S)に可溶な可溶性炭素材料である。
【0015】
混合の方法としては、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な混合方法を採用することができる。このような混合方法としては、例えば、炭素材料と負極活物質と溶媒(S)とを、任意の適切な方法(例えば、超音波処理など)で混合する方法が挙げられる。この場合、炭素材料や負極活物質は、任意の適切な処理(例えば、解砕、破砕、粉砕など)を行って混合してもよい。
【0016】
混合の温度としては、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な混合温度を採用することができる。このような混合温度としては、本発明の効果をより発現させ得る点で、好ましくは0℃~100℃であり、より好ましくは10℃~90℃であり、さらに好ましくは20℃~80℃である。上記の温度範囲にあることで、炭素材料を十分に迅速に溶解して負極活物質と混合することができる。
【0017】
混合の際には、本発明の効果を損なわない範囲で、炭素材料と負極活物質と溶媒(S)以外の、任意の適切な他の成分が含まれていてもよい。このような他の成分としては、例えば、触媒、母材、担体などが挙げられる。
【0018】
炭素材料と負極活物質との配合割合は、負極活物質100質量部に対して、炭素材料が、好ましくは0.01質量部~1000000質量部であり、より好ましくは0.1質量部~100000質量部であり、特に好ましくは1質量部~1000質量部である。炭素材料と負極活物質との配合割合が上記範囲内にあれば、炭素被覆負極活物質をより温和な条件でより簡便に製造することができる。これらの炭素材料と負極活物質との配合割合は、目的とする炭素被覆負極活物質の物性に応じて、任意に調整することができる。
【0019】
炭素材料は、好ましくは、溶媒(S)に可溶な可溶性炭素材料である。ここで、炭素材料が溶媒(S)に可溶である場合とは、従来の炭素材料に比べて溶媒への溶解性に優れ、良好な取り扱い性を実現することができる場合である。
【0020】
炭素材料が溶媒(S)に可溶であるという実施態様としては、好ましくは、下記の実施態様である。
(実施態様1)炭素材料の全てが溶媒(S)に溶解する実施態様。すなわち、炭素材料が、溶媒(S)に溶解する成分(成分A)のみからなる実施態様。
(実施態様2)炭素材料の一部が溶媒(S)に溶解する態様。すなわち、炭素材料が、溶媒(S)に溶解する成分(成分A)と溶媒(S)に溶解しない成分(成分B)からなる実施態様。
【0021】
本発明において「溶媒(S)に可溶」とは、任意の適切な溶媒(S)に溶解する成分がある態様を意味する。このような溶媒(S)としては、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な溶媒を採用することができる。このような溶媒(S)としては、好ましくは、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、2-プロパノール、ブタノール、クロロホルム、ジクロロメタン等が挙げられる。すなわち、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、2-プロパノール、ブタノール、クロロホルム、ジクロロメタン、水(酸性、塩基性水を含む)からなる群から選択される少なくとも1種の溶媒に溶解する成分がある態様が好ましい。溶媒(S)は、1種の溶媒のみからなるものであってもよいし、2種以上の溶媒の混合溶媒であってもよい。
【0022】
炭素材料が溶媒(S)に可溶である一つの実施形態は、炭素材料が、溶媒(S)に可溶である炭素系化合物を含む実施形態である。
【0023】
溶媒(S)に可溶であるか否かの判定方法としては、例えば、炭素材料を溶媒(S)に対して0.001質量%となるように混合したのち、超音波処理を1時間行い、得られた液をPTFE製濾紙(孔径0.45μm)に通したとき、濾紙を通過した液に炭素系化合物が含まれるか否かで判定することができる。濾紙を通過した液に炭素系化合物が含まれる場合、炭素材料が溶媒に可溶である炭素系化合物を含むと判定される。上記PTFE製濾紙としては、例えば、ジーエルサイエンス株式会社製のGLクロマトディスク(型式13P)を用いることができる。
【0024】
炭素材料は、代表的には、加熱によって同一分子間および/または異種分子間で縮合反応が起きる化合物(A)を加熱して得られる。
【0025】
化合物(A)の加熱温度は、化合物(A)の縮合反応温度がT℃であるときに、好ましくは(T-150)℃以上であり、より好ましくは(T-150~T+50)℃であり、さらに好ましくは(T-130~T+45)℃であり、さらに好ましくは(T-100~T+40)℃であり、特に好ましくは(T-80~T+35)℃であり、最も好ましくは(T-50~T+30)℃である。
【0026】
化合物(A)の縮合反応温度は、TG-DTA分析によって決定できる。具体的には、下記の通りである。
(1)化合物(A)として1種の化合物を用いる場合には、化合物(A)のTG-DTA分析を、窒素ガス雰囲気下、40℃から、昇温速度10℃/分で昇温し、DTAの最も低温側のピークトップ温度を化合物(A)の縮合反応温度(T℃)と決定する。
(2)化合物(A)として2種以上の化合物の混合物を用いる場合には、該混合物のTG-DTA分析を、窒素ガス雰囲気下、40℃から、昇温速度10℃/分で昇温し、DTAの最も低温側のピークトップ温度を化合物(A)(2種以上の化合物の混合物)の縮合反応温度(T℃)と決定する。
(3)ただし、1種の化合物や2種以上の化合物の混合物としての化合物(A)に、例えば、溶媒や水分や水和水等の不純物が含まれている場合は、該不純物の脱離に伴うDTAピーク(不純物ピークと称することもある)が縮合反応温度よりも低温で観測されることがある。このような場合には、上記の不純物ピークは無視して、その化合物(A)の縮合反応温度を決定する。通常は、上記の不純物ピークは無視した上で、DTAの最も低温側のピークトップ温度を、その化合物(A)の縮合反応温度と決定する。
【0027】
化合物(A)の加熱温度は、具体的な加熱温度として、好ましくは200℃~500℃であり、より好ましくは220℃~400℃であり、さらに好ましくは230℃~350℃であり、最も好ましくは250℃~300℃である。化合物(A)の加熱温度を上記範囲に調整することにより、溶媒への可溶性により優れる可溶性炭素材料や、構造がより精密に制御された可溶性炭素材料をより温和な条件でより簡便に製造することができる。
【0028】
化合物(A)の加熱時間は、具体的な加熱時間として、好ましくは0.1時間~120時間であり、より好ましくは0.5時間~100時間であり、さらに好ましくは1時間~50時間であり、最も好ましくは2時間~24時間である。加熱時間を上記範囲に調整することにより、溶媒への可溶性により優れる可溶性炭素材料や、構造がより精密に制御された可溶性炭素材料をより温和な条件でより簡便に製造することができる。
【0029】
化合物(A)は、好ましくは、23℃環境下で固体であって融点を有する。融点を有することで、焼成の過程で融解し、分子間での反応が良好に進行する。仮に融点を有さない場合、焼成の過程で融解しないので、分子の位置が固定され、分子間での反応が促進されにくく、炭素材料化しにくい。このような化合物(A)を採用することにより、縮合反応を促進し、分解反応を抑制したり、得られる炭素材料の溶媒への溶解性がより優れる(例えば、溶媒に溶解する成分がより多くなったり、溶解できる溶媒の種類がより増えたりする)。
【0030】
化合物(A)は、縮合に寄与しない骨格が芳香族構造であることが好ましい。骨格が芳香族であることによって、得られる可溶性炭素材料の炭素成分がより安定になり得る。このような芳香族構造としては、例えば、ベンゼン、ナフタレンのような炭素原子からなる芳香族構造;ピリジン、ピリミジン、フラン、チオフェンのような炭素原子およびヘテロ原子(窒素や酸素など)からなるヘテロ芳香族構造;などが好ましく、これらの中でも、ベンゼン、ピリジンのような六員環構造をもつ芳香族構造およびヘテロ芳香族構造がより好ましい。
【0031】
化合物(A)の分子量は、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な分子量を採用することができる。このような分子量としては、本発明の効果をより発現させ得る点で、好ましくは500以下であり、より好ましくは75~450であり、さらに好ましくは80~400であり、最も好ましくは100~350である。
【0032】
化合物(A)の縮合反応温度は、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な縮合反応温度を採用することができる。このような縮合反応温度としては、本発明の効果をより発現させ得る点で、好ましくは450℃以下であり、より好ましくは400℃以下であり、さらに好ましくは200℃~370℃であり、特に好ましくは250℃~350℃である。
【0033】
化合物(A)の代表的な実施形態は、その縮合反応によって、2種以上の基から1つの中性分子が形成されて脱離する化合物である。この実施形態においては、1つの化合物(A)が2種以上の基を有している場合であってもよいし、2つ以上の化合物(A)のそれぞれの有する基を組み合わせて2種以上の基となる場合であってもよい。このような化合物(A)が、同一分子間および/または異種分子間で縮合反応を起こし、炭素材料となり得る。
【0034】
縮合反応としては、2種以上の基から1つの中性分子が形成されて脱離することによる縮合反応であれば、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な縮合反応を採用することができる。このような縮合反応とすることにより、比較的低温で反応を行うことが可能となり得る。このような縮合反応としては、例えば、
(a)-H基と-OH基とからH2Oが形成されて脱離することによる縮合反応、
(b)-H基と-OR基(Rは任意の適切な置換または無置換のアルキル基)とからROHが形成されて脱離することによる縮合反応、
(c)-H基と-X基(XはハロゲンまたはCN)とからHXが形成されて脱離することによる縮合反応、
(d)-H基と-NH2基とからNH3が形成されて脱離することによる縮合反応、
(e)-H基と-NHR基(Rは任意の適切な置換または無置換のアルキル基)とからRNH2が形成されて脱離することによる縮合反応、
(f)-H基と-NR1R2基(R1、R2は任意の適切な置換または無置換のアルキル基)とからR1R2NHが形成されて脱離することによる縮合反応、
(g)-H基と-SH基とからH2Sが形成されて脱離することによる縮合反応、
(h)-H基と-SR基(Rは任意の適切な置換または無置換のアルキル基)とからRSHが形成されて脱離することによる縮合反応、
(i)-H基と-OOCR基(Rは任意の適切な置換または無置換のアルキル基)とからRCOOHが形成されて脱離することによる縮合反応、
(j)-H基と-OSO(OH)基とからH2SO3が形成されて脱離することによる縮合反応、
(k)-H基と-OSO2R基(Rは任意の適切な置換または無置換のアルキル基)とからRSO2(OH)が形成されて脱離することによる縮合反応、
(l)-H基と-OSO2(OR)基(Rは任意の適切な置換または無置換のアルキル基)とからROSO3Hが形成されて脱離することによる縮合反応、
(m)-H基と-OSO2(OH)基とからH2SO4が形成されて脱離することによる縮合反応、
などが挙げられ、
(a)-H基と-OH基とからH2Oが形成されて脱離することによる縮合反応、
(b)-H基と-OR基(Rは任意の適切な置換または無置換のアルキル基)とからROHが形成されて脱離することによる縮合反応、
(i)-H基と-OOCR基(Rは任意の適切な置換または無置換のアルキル基)とからRCOOHが形成されて脱離することによる縮合反応、
が好ましい。特に、脱離した中性成分が該脱離温度(焼成温度)で気体成分であると、可溶性炭素材料に取り込まれることなく、気相部にあるため、不純物となりにくい。
【0035】
縮合反応として、上記(a)の縮合反応、すなわち、-H基と-OH基とからH2Oが形成されて脱離することによる縮合反応を代表例として説明する。
【0036】
上記(a)の縮合反応に好適な化合物(A)の一つの実施形態(実施形態(X)と称することがある)は、1個の炭素6員環構造からなる骨格を有する化合物(a1)または2個以上の炭素6員環構造が結合および/または縮環した骨格を有する化合物(a2)であり、該骨格の構造形成に寄与していない置換基の数の半数が-OH基であり、もう半数が-H基である。
【0037】
実施形態(X)においては、
(i)化合物(A)が、1個の炭素6員環構造からなる骨格を有する化合物(a1)である場合、
(ii)化合物(A)が、2個以上の炭素6員環構造が結合および/または縮環した骨格を有する化合物(a2)である場合、
の2つの場合のいずれかを採り得る。
【0038】
実施形態(X)において、「骨格の構造形成に寄与していない置換基」とは、上記(i)の場合の「1個の炭素6員環構造からなる骨格」または上記(ii)の場合の「2個以上の炭素6員環構造が結合および/または縮環した骨格」の該骨格の構造形成に寄与していない置換基を意味する。例えば、上記(i)の場合として、1個の炭素6員環構造からなる骨格を有する化合物(a1)が後に示す化学式(a1-1)で表される場合、1個の炭素6員環構造からなる骨格の構造形成に寄与していない置換基は6個の-OH基と6個の-H基であり、1個の炭素6員環構造からなる骨格を有する化合物(a1)が後に示す化学式(a1-2)で表される場合、1個の炭素6員環構造からなる骨格の構造形成に寄与していない置換基は3個の-OH基と3個の-H基である。また、例えば、上記(ii)の場合として、2個以上の炭素6員環構造が結合および/または縮環した骨格を有する化合物(a2)が後に示す化学式(a2-1)で表される場合、2個以上の炭素6員環構造が結合および/または縮環した骨格の構造形成に寄与していない置換基は6個の-OH基と6個の-H基である。
【0039】
実施形態(X)においては、1個の炭素6員環構造からなる骨格を有する化合物(a1)の該骨格の構造形成に寄与していない置換基の数の半数が-OH基であり、もう半数が-H基であり、2個以上の炭素6員環構造が結合および/または縮環した骨格を有する化合物(a2)の該骨格の構造形成に寄与していない置換基の数の半数が-OH基であり、もう半数が-H基である。このような置換基の構成を有することにより、化合物(A)は、加熱により、同一分子同士および/または異なる分子間で効果的に脱水反応が起き得る。
【0040】
実施形態(X)において採用することができる化合物(A)としては、1個の炭素6員環構造からなる骨格を有する化合物(a1)または2個以上の炭素6員環構造が結合および/または縮環した骨格を有する化合物(a2)であり、該骨格の構造形成に寄与していない置換基の数の半数が-OH基であり、もう半数が-H基である化合物であれば、本発明の効果を損なわない範囲で任意の適切な化合物を採用することができる。このような化合物(A)としては、例えば、下記のような化合物が挙げられる。
【0041】
【0042】
実施形態(X)において採用することができる化合物(A)の中でも、-H基と-OH基とからH2Oが形成されて脱離することによる縮合反応が起こりやすいと推察され、低温で反応が進行しやすいと推察される点で、フロログルシノール(化合物(a1-2))、ヘキサヒドロキシトリフェニレン(HHTP)(化合物(a2-1))が好ましい。
【0043】
上記(a)の縮合反応に好適な化合物(A)の別の一つの実施形態(実施形態(Y)と称することがある)は、1個の炭素6員環構造からなる骨格を有する化合物(a1)および/または2個以上の炭素6員環構造が結合および/または縮環した骨格を有する化合物(a2)から選ばれる2種以上であり、該化合物(a1)の骨格の構造形成に寄与していない置換基の数および該化合物(a2)の骨格の構造形成に寄与していない置換基の数の合計の半数が-OH基であり、もう半数が-H基である。
【0044】
実施形態(Y)においては、
(i)化合物(A)が、1個の炭素6員環構造からなる骨格を有する化合物(a1)から選ばれる2種以上からなる場合、
(ii)化合物(A)が、2個以上の炭素6員環構造が結合および/または縮環した骨格を有する化合物(a2)から選ばれる2種以上からなる場合、
(iii)化合物(A)が、1個の炭素6員環構造からなる骨格を有する化合物(a1)から選ばれる1種以上と2個以上の炭素6員環構造が結合および/または縮環した骨格を有する化合物(a2)から選ばれる1種以上とからなる場合、
の3つの場合のいずれかを採り得る。
【0045】
実施形態(Y)において、「化合物(a1)の骨格の構造形成に寄与していない置換基の数および化合物(a2)の骨格の構造形成に寄与していない置換基の数の合計」とは、下記のような意味である。すなわち、上記(i)の場合、2種以上の化合物(a1)のそれぞれにおける「1個の炭素6員環構造からなる骨格」の該骨格の構造形成に寄与していない置換基の数を、全て合計した数を意味する。上記(ii)の場合、2種以上の化合物(a2)のそれぞれにおける「2個以上の炭素6員環構造が結合および/または縮環した骨格」の該骨格の構造形成に寄与していない置換基の数を、全て合計した数を意味する。上記(iii)の場合、1種以上の化合物(a1)のそれぞれにおける「1個の炭素6員環構造からなる骨格」の該骨格の構造形成に寄与していない置換基の数と、1種以上の化合物(a2)のそれぞれにおける「2個以上の炭素6員環構造が結合および/または縮環した骨格」の該骨格の構造形成に寄与していない置換基の数とを、全て合計した数を意味する。
【0046】
実施形態(Y)において、例えば、上記(i)の場合として、2種以上の化合物(a1)が下記の化学式(a1-5)および化学式(a1-6)で表される場合、化学式(a1-5)で表される化合物の1個の炭素6員環構造からなる骨格の構造形成に寄与していない置換基は2個の-OH基と4個の-H基であり、化学式(a1-6)で表される化合物の1個の炭素6員環構造からなる骨格の構造形成に寄与していない置換基は4個の-OH基と2個の-H基であり、それらの合計は、6個の-OH基と6個の-H基である。また、例えば、上記(iii)の場合として、1種以上の化合物(a1)が下記の化学式(a1-5)および化学式(a1-7)で表され、1種以上の化合物(a2)が下記の化学式(a2-3)で表される場合、化学式(a1-5)で表される化合物の1個の炭素6員環構造からなる骨格の構造形成に寄与していない置換基は2個の-OH基と4個の-H基であり、化学式(a1-7)で表される化合物の1個の炭素6員環構造からなる骨格の構造形成に寄与していない置換基は6個の-OH基であり、化学式(a2-3)で表される化合物の2個以上の炭素6員環構造が結合および/または縮環した骨格の構造形成に寄与していない置換基は2個の-OH基と6個の-H基である。
【0047】
【0048】
【0049】
このような化合物(A)を用いることにより、反応触媒を必要とすることなく、自身の脱水反応による反応が起こるため、化学反応の副生成物や反応触媒が炭素材料中に存在してしまって致命的な不純物となることを抑制でき、より高品質な炭素材料を得ることができる。また、このような化合物(A)を用いることにより、可燃性ガスを使用することなく、比較的温和な温度環境下において、炭素材料を得ることができる。また、このような化合物(A)は、触媒作用を必要としない高反応性を有することができる。
【0050】
上記(a)の縮合反応に好適な化合物(A)の好ましい実施形態として、分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物が挙げられる。
【0051】
分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物としては、本発明の効果を損なわない範囲で任意の適切な、分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物を採用することができる。
【0052】
分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物において、該フェノール性ヒドロキシル基が結合する芳香環は炭化水素芳香環であることが好ましい。フェノール性ヒドロキシル基が結合する芳香環がヘテロ芳香環であっても本発明の効果を発揮することができるが、環構造がより安定な炭化水素芳香環であるほうが、得られる炭素材料がより安定となり得る。なお、ヘテロ芳香環とは、炭素によって環構造が構成されている炭化水素芳香環とは異なり、炭素と炭素以外の元素によって環構造が構成されている芳香環を意味する。
【0053】
分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物は、フェノール性ヒドロキシル基以外の置換基を有していてもよい。このような置換基としては、本発明の効果を損なわない範囲で任意の適切な置換基を採用することができる。このような置換基としては、本発明の効果をより高める点では、ヒドロキシル基のみであることが好ましい。ヒドロキシル基以外の置換基が存在しても本発明の効果は発揮され得るが、ヒドロキシル基以外の置換基が存在しないほうが、副反応を防ぎやすく、より炭素材料化しやすい。なお、ここにいうフェノール性ヒドロキシル基以外の置換基としての「ヒドロキシル基」は、フェノール性ではないヒドロキシル基を意味する。なお、当然のことであるが、置換基とは、水素基(-H)に代わって置き換えられた基である。
【0054】
分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物を構成する元素としては、本発明の効果を損なわない範囲で任意の適切な元素を採用することができる。このような元素としては、本発明の効果を高める点では、炭素、酸素、水素のみであることが好ましい。炭素、酸素、水素以外の元素が存在しても本発明の効果は発揮され得るが、炭素、酸素、水素以外の元素が存在しないほうが、副反応を防ぎやすく、より炭素材料化しやすい。
【0055】
分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物としては、本発明の効果をより発揮させ得るため、該化合物の縮合反応温度が200℃~450℃の範囲であることが好ましく、200~400℃の範囲であることがより好ましい。これにより、効果的に炭素材料化することができる。
【0056】
分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。2種以上の場合でも、分子間での縮合反応温度は上述の範囲内であることが好ましい。
【0057】
分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物としては、例えば、一般式(1)~(11)に示す化合物が挙げられる。
【0058】
【0059】
一般式(1)~(11)のそれぞれにおいて、Xは水素原子または水酸基を表し、Xの中の3つ以上が水酸基(フェノール性ヒドロキシル基)である。
【0060】
ここで、フェノール性ヒドロキシル基とは、芳香環に結合した水酸基を意味する。すなわち、一般式(1)においては、芳香環に結合した6つのXの中の3つ以上がフェノール性ヒドロキシル基であり、一般式(2)においては、芳香環に結合した6つのXの中の3つ以上がフェノール性ヒドロキシル基であり、一般式(3)においては、芳香環に結合した10個のXの中の3つ以上がフェノール性ヒドロキシル基であり、一般式(4)においては、芳香環に結合した11個のXの中の3つ以上がフェノール性ヒドロキシル基であり、一般式(5)においては、芳香環に結合した9つのXの中の3つ以上がフェノール性ヒドロキシル基であり、一般式(6)においては、芳香環に結合した9つのXの中の3つ以上がフェノール性ヒドロキシル基であり、一般式(7)においては、芳香環に結合した10個のXの中の3つ以上がフェノール性ヒドロキシル基であり、一般式(8)においては、芳香環に結合した11個のXの中の3つ以上がフェノール性ヒドロキシル基であり、一般式(9)においては、芳香環に結合した9つのXの中の3つ以上がフェノール性ヒドロキシル基であり、一般式(10)においては、芳香環に結合した9つのXの中の3つ以上がフェノール性ヒドロキシル基であり、一般式(11)においては、芳香環に結合した12個のXの中の3つ以上がフェノール性ヒドロキシル基である。
【0061】
分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物の中でも、-H基と-OH基とからH2Oが形成されて脱離することによる縮合反応が起こりやすいと推察され、反応が進行しやすいと推察される点で、好ましくは、フロログルシノール、ヘキサヒドロキシトリフェニレンであり、より好ましくは、フロログルシノールである。
【0062】
炭素被覆負極活物質の製造方法の一つの実施形態Xにおいては、混合工程(I)以外に、本発明の効果を損なわない範囲で任意の適切な工程を含んでいてもよい。例えば、混合工程(I)の後、
(1)溶媒(S)の少なくとも一部を除去する溶媒除去工程(IIa)、
(2)炭素材料の少なくとも一部を除去する炭素材料除去工程(IIb)、
(3)加熱工程(III)、
からなる群から選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよい。これらの順序は、目的に応じて、適宜設定することができる。
【0063】
溶媒除去工程(IIa)においては、溶媒(S)の少なくとも一部を除去する。代表的には、溶媒除去工程(IIa)においては、溶媒(S)の実質的に全てを除去する。
【0064】
溶媒除去工程(IIa)において、溶媒(S)の少なくとも一部を除去する手段としては、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な溶媒除去手段を採用することができる。このような溶媒除去手段としては、例えば、蒸留、透析などが挙げられる。
【0065】
炭素材料除去工程(IIb)においては、炭素材料の少なくとも一部を除去する。代表的には、炭素材料除去工程(IIb)においては、炭素材料部分の中で、負極活物質部分の最表面と強固に相互作用して該負極活物質部分の表面に固着している炭素材料部分(この部分は炭素材料除去工程(IIb)によって除去されない)以外の、炭素材料除去工程(IIb)によって除去することができる炭素材料部分の少なくとも一部を除去する。代表的には、炭素材料除去工程(IIb)によって除去することができる炭素材料部分の実質的に全てを除去する。
【0066】
炭素材料除去工程(IIb)において、炭素材料の少なくとも一部を除去する手段としては、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な炭素材料除去手段を採用することができる。このような炭素材料除去手段としては、例えば、任意の適切な溶媒による洗浄などが挙げられる。洗浄は適切な溶媒で可溶部分を溶かし出した後、ろ過や遠心分離を行うことで達成できる。このような溶媒としては、回収した溶媒でもよいが、洗浄効果を上げる点で、フレッシュな溶媒が好ましい。また、洗浄は、1回でもよいし、2回以上の複数回でもよい。
【0067】
加熱工程(III)においては、代表的には、炭素材料部分が高炭素化される。
【0068】
加熱工程(III)における加熱温度としては、具体的な加熱温度として、好ましくは300℃~3000℃であり、より好ましくは400℃~2000℃であり、さらに好ましくは500℃~1200℃である。加熱工程(III)における加熱温度を上記範囲に調整することにより、炭素材料部分を効果的に高炭素化させることができる。上記温度は負極活物質の耐熱温度以下であることが好ましい。
【0069】
加熱工程(III)における加熱時間は、具体的な加熱時間として、好ましくは0.1時間~120時間であり、より好ましくは0.5時間~100時間であり、さらに好ましくは1時間~50時間であり、最も好ましくは2時間~24時間である。加熱時間を上記範囲に調整することにより、炭素材料部分を効果的に高炭素化させることができる。
【0070】
炭素被覆負極活物質の製造方法の一つの実施形態Xにおいては、精製工程が含まれていてもよい。精製工程としては、例えば、精製対象物を、任意の適切な溶媒によって洗浄する工程などが挙げられる。このような溶媒としては、回収した溶媒でもよいが、洗浄効果を上げる点で、フレッシュな溶媒が好ましい。また、洗浄は、1回でもよいし、2回以上の複数回でもよい。なお、このような洗浄は、例えば、前述の各種工程の中で行われてもよい。
【0071】
炭素被覆負極活物質の一つの好ましい実施形態Xとしては、代表的には、有機無機複合体、コアシェル粒子、高炭素化コアシェル粒子などが挙げられる。もちろん、これら以外の実施形態の炭素被覆負極活物質も、本発明の炭素被覆負極活物質となり得る。
【0072】
実施形態Xにおける有機無機複合体は、代表的には、混合工程(I)の後に溶媒除去工程(IIa)を行って得られる炭素被覆負極活物質であって、負極活物質部分と炭素材料部分(炭素被覆部分)を含み、該炭素材料部分が、該負極活物質部分の最表面と強固に相互作用して該負極活物質部分の表面に固着している炭素材料部分のみの態様、または、該炭素材料部分および可溶性炭素材料除去工程(IIb)によって除去することができる炭素材料部分との両方を含む態様とを有する炭素被覆負極活物質である。
【0073】
実施形態Xにおけるコアシェル粒子は、代表的には、上記の有機無機複合体に対して、可溶性炭素材料除去工程(IIb)を行って得られる、負極活物質部分と炭素材料部分(実質的に、該負極活物質部分の最表面と強固に相互作用して該負極活物質部分の表面に固着している炭素材料部分のみ)とを有する炭素被覆負極活物質である。
【0074】
実施形態Xにおける高炭素化コアシェル粒子は、代表的には、上記のコアシェル粒子に対して、加熱工程(III)を行って得られる、炭素被覆負極活物質である。
【0075】
[炭素被覆負極活物質の一つの好ましい実施形態Y]
炭素被覆負極活物質の一つの好ましい実施形態Yは、加熱によって同一分子間および/または異種分子間で縮合反応が起きる化合物(A)と負極活物質を含む組成物を加熱して得られる炭素被覆負極活物質である。
【0076】
化合物(A)と負極活物質との配合割合は、負極活物質100質量%に対して、化合物(A)が、好ましくは0.01質量%~1000000質量%であり、より好ましくは0.1質量%~100000質量%であり、特に好ましくは1質量%~1000質量%である。化合物(A)と負極活物質との配合割合が上記範囲内にあれば、構造がより精密に制御された炭素被覆負極活物質をより温和な条件でより簡便に製造することができる。負極活物質と化合物(A)の配合割合は、目的とする炭素被覆負極活物質の物性に応じて、任意に調整することができる。例えば、化合物(A)と負極活物質の配合割合を調整することにより、得られる炭素被覆負極活物質の物性、形態(例えば、溶媒への溶解性や、炭素成分または無機成分の形状(粒子状や非粒子状)、炭素成分または無機成分のサイズなど)を制御することができる。
【0077】
化合物(A)と負極活物質を含む組成物中には、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な他の成分が含まれていてもよい。このような他の成分としては、例えば、溶媒、触媒、母材、担体などが挙げられる。
【0078】
化合物(A)と負極活物質を含む組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な方法で調製すればよい。このような方法としては、例えば、化合物(A)と負極活物質とを、任意の適切な方法(例えば、破砕、粉砕など)で固体状態のまま混合する方法が挙げられる。また、化合物(A)と負極活物質と溶剤と、必要に応じて溶剤以外の他の成分とを、任意の適切な方法(例えば、超音波処理など)で混合し、任意の適切な方法(例えば、真空乾燥)によって溶剤を除去する方法などが挙げられる。また、必要に応じて、解砕を行ってもよい。
【0079】
化合物(A)と負極活物質を含む組成物の加熱温度は、好ましくは200℃~500℃であり、より好ましくは220℃~400℃であり、さらに好ましくは230℃~350℃であり、最も好ましくは250℃~300℃である。加熱温度を上記範囲に調整することにより、構造がより精密に制御された炭素被覆負極活物質をより温和な条件でより簡便に製造することができる。
【0080】
化合物(A)と負極活物質を含む組成物の加熱時間は、好ましくは0.1時間~120時間であり、より好ましくは0.5時間~100時間であり、さらに好ましくは1時間~50時間であり、最も好ましくは2時間~24時間である。加熱時間を上記範囲に調整することにより、構造がより精密に制御された炭素被覆負極活物質をより温和な条件でより簡便に製造することができる。
【0081】
化合物(A)の詳細については、[炭素被覆負極活物質の一つの好ましい実施形態X]における化合物(A)の説明を援用することができる。
【0082】
炭素被覆負極活物質の一つの好ましい実施形態Yとしては、代表的には、有機無機複合体、コアシェル粒子、高炭素化コアシェル粒子などが挙げられる。もちろん、これら以外の実施形態の炭素被覆負極活物質も、本発明の炭素被覆負極活物質となり得る。
【0083】
実施形態Yにおける有機無機複合体は、加熱によって同一分子間および/または異種分子間で縮合反応が起きる化合物(A)と負極活物質を含む組成物を加熱して得られ、化合物(A)の加熱によって生成する炭素材料と負極活物質を含む。炭素材料の詳細については、[炭素被覆負極活物質の一つの好ましい実施形態X]における炭素材料の説明を援用することができる。
【0084】
実施形態Yにおけるコアシェル粒子は、加熱によって同一分子間および/または異種分子間で縮合反応が起きる化合物(A)と負極活物質を含む組成物を加熱した後に、代表的には、化合物(A)の加熱によって生成する炭素材料の少なくとも一部を除去することによって得られ得る。化合物(A)の加熱によって生成する炭素材料の少なくとも一部を除去する方法としては、代表的には、[炭素被覆負極活物質の一つの好ましい実施形態X]における可溶性炭素材料除去工程(IIb)の方法を援用することができる。
【0085】
実施形態Yにおける高炭素化コアシェル粒子は、代表的には、コアシェル粒子に対して、さらに加熱を行うことによって得られ得る。このような加熱の方法としては、代表的には、[炭素被覆負極活物質の一つの好ましい実施形態X]における加熱工程(III)の方法を援用することができる。
【0086】
上記のような炭素被覆技術によれば、対象の粒子の形状は問わず、鱗片状、球状、針状、丸み状など種々の形状にコーティングが可能である。
【0087】
上記のような炭素被覆技術によれば、炭素被覆された負極活物質を用いることで、炭素被覆されていない原料を用いた場合と比べて、集電極、結着剤、導電助剤等との界面相互作用が上昇し、潤滑性や流動性が高いことから、配管中の移送性や、型枠への充填性が向上するというメリットや、解砕性が増すというメリットがある。これにより、集電極との密着性の向上や導電性の向上が期待できる。
【実施例0088】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
<実施形態Xに用いる溶媒(S)に可溶な可溶性炭素材料の調製>
フロログルシノール(東京化成工業製)10gをチューブ炉(柴田科学製GTO-350RG)を用いて300℃で2時間加熱した。得られた固体を乳鉢ですりつぶし、可溶性炭素材料粉体を得た。
【0089】
[調製例(A)]
負極活物質(1)(昭和電工マテリアルズ社製、黒鉛活物質、「MAGE」)、負極活物質(2)(信越化学工業社製、シリコン活物質、「KSC-1265」)のそれぞれ10gをN,N-ジメチルホルムアミド(DMF、富士フイルム和光純薬製)100gに懸濁させ、そこに0.1gの可溶性炭素材料粉体を投入し、撹拌しながら超音波処理を行った。処理後、ろ過、DMFによる洗浄を繰り返すことで、表面が炭素被覆された炭素被覆負極活物質(1A)および(2A)が得られた。
【0090】
[調製例(B)]
負極活物質(1)、負極活物質(2)のそれぞれ10gをアセトン100g中に懸濁し、そこへフロログルシノール0.2gを溶解し、超音波処理により混合した。ロータリーエバポレーターにより乾固させたのち、チューブ炉を用いて300℃で2時間加熱した。加熱後DMF中で超音波処理し、ろ過、DMFによる洗浄を繰り返すことで、表面が炭素被覆された炭素被覆負極活物質(1B)および(2B)が得られた。
【0091】
[LIB評価]
(1-1)電極用スラリーの調製
カルボキシメチルセルロース(ダイセルファインケム社製、商品名「CMCダイセル2200」、以下「CMC」と称する)をイオン交換水に投入し、撹拌脱泡機(シンキー社製、あわとり練太郎ARE-310)を使用して、2000rpmで10分間撹拌
混合することにより、濃度2質量%のCMC水溶液を調製した。
【0092】
前記で得られたCMC水溶液50部と、負極活物質100質量部(実施例、比較例として組成について表1にまとめた)、導電助剤(1)(昭和電工社製、「VGCF-H」)2部、導電助剤(2)(デンカ社製、「デンカブラック粉状品」)3部、イオン交換水を所定量添加し、撹拌脱泡機を使用して、2000rpmで27分間撹拌混合した。その後、バインダーとしてSBRエマルション(固形分48.5% 粒子径195nm 水分散体)6.18質量部、および所定量のイオン交換水を加えて混合することで電極用スラリー(負極組成物)を調製した。その際、電極用スラリー粘度が1350±150mPa・sとなるように加えるイオン交換水の量を調整した。
【0093】
(1-2)電池評価用の負極の作製
銅集電体に、前記で得られた電極用スラリーを、乾燥後の塗工重量5.82g/cm2となるようにアプリケーターで塗布し、60℃で10分間熱風乾燥し、次いで80℃で10時間真空乾燥処理を行った。その後、ロールプレス機により密度1.5g/cm3となるまで加圧成形し、負極を得た。
【0094】
(1-3)電池の作製
正極としてリチウム箔(本城金属社製、厚み0.5mm)、前記で得られた負極、及びポリエチレン製セパレーター(厚み25μm)を、それぞれ円形(負極Φ12mm、リチウム箔Φ15mm、セパレーターΦ16mm)に打ち抜いた。CR2032コイン型電池用部品(宝泉社製:ケース(SUS316L製)、キャップ(SUS316L製)、スペーサー(0.5mm厚、SUS316L製)、ウェーブワッシャー(SUS316L製)、ガスケット(ポリプロピレン製))を用いて、以下の手順でコイン型リチウムイオン二次電池をそれぞれ作製した。まず、ガスケットを装着したキャップ、リチウム箔、セパレーターをこの順で重ねた。次に、エチレンカーボネート(キシダ化学社製):ジメチルカーボネート(キシダ化学社製):フルオロエチレンカーボネート(キシダ化学社製)=2:7:1(体積比)溶液にLiPF6(ステラケミファ社製)を1.0mol/Lの濃度で溶解させて調製した電解液を、セパレーターに含浸させた。そして、負極塗布面がリチウム箔と対向するように、前記で得られた負極を設置し、その上にスペーサー、ウェーブワッシャー、ケースをこの順で重ね、カシメ機(宝泉社製)で封口してコイン型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0095】
(1-4)充放電試験
前記で得られたコイン型リチウムイオン二次電池(設計容量3.73mAh)について、温度25℃の環境下、充放電試験装置(アスカ電子社製)を使用し、充放電試験を実施した。0.1Cで0.01Vまで定電流定電圧放電し、0.1C、0.1C、0.2C、1C、2C、0.1C、0.1Cの順で、1.5Vまで定電流充電した後、0.5Cで0.01Vまで定電流定電圧放電し、0.5Cで1.5Vまで定電流充電することを23回繰り返し、合計30サイクル充放電試験を実施した。サイクル特性(%)=30サイクル目の放電容量/10サイクル目の放電容量×100とした。
【0096】
実施例1-6、比較例1での済極活物質組成を用いてLIB評価を行ったところ、表2の結果となり、本開示の炭素被覆負極活物質を用いることで、高いサイクル特性を発現することが明らかとなった。
【0097】
【0098】