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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121242
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】加工工具の検査方法及び検査装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/95 20060101AFI20240830BHJP
   G01B 11/00 20060101ALI20240830BHJP
   G01N 21/88 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
G01N21/95 Z
G01B11/00 H
G01N21/88 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028227
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】000140502
【氏名又は名称】株式会社岡本
(74)【代理人】
【識別番号】100078190
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 三千雄
(74)【代理人】
【識別番号】100115174
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 正博
(72)【発明者】
【氏名】古木 辰也
(72)【発明者】
【氏名】永井 友樹
(72)【発明者】
【氏名】西垣 功一
【テーマコード(参考)】
2F065
2G051
【Fターム(参考)】
2F065AA17
2F065CC10
2F065DD04
2F065DD06
2F065FF04
2F065FF10
2F065GG17
2F065JJ19
2F065JJ26
2F065LL04
2F065LL46
2F065QQ04
2F065QQ08
2F065QQ16
2F065QQ24
2F065QQ25
2F065QQ31
2F065QQ34
2F065SS02
2G051AA07
2G051AB20
2G051BA01
2G051CA03
2G051CA04
2G051EA11
2G051EA12
2G051EC05
(57)【要約】
【課題】加工工具の有効な検査方法及び検査装置を提供する。
【解決手段】所定の加工に供された加工工具の先端加工部を撮影して、加工部画像を採取する画像採取工程10と、採取された加工部画像から、フーリエ変換によるフィルタ処理によって摩耗部を抽出して、加工部摩耗画像として取り出す画像抽出工程12と、取り出された加工部摩耗画像から、設定された所定の閾値に基づいて各画素の二値化を行い、摩耗部が白色画素にて構成される二値化画像を形成する二値化工程14と、そのような二値化画像からノイズとを除去して、摩耗部をより鮮明に表示するノイズ処理画像を取り出すノイズ除去工程16と、ノイズ処理画像における摩耗部を構成する白色画素から、加工工具における先端加工部の摩耗状態を評価する評価工程16とを含むようにして、加工工具の検査方法を構成した。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の加工に供された加工工具の先端加工部を撮影して、検査されるべき加工部画像を採取する画像採取工程と、
該採取された加工部画像から、フーリエ変換によるフィルタ処理によって、前記先端加工部の前記所定の加工によって生じた摩耗部を抽出して、加工部摩耗画像として取り出す画像抽出工程と、
かかる取り出された加工部摩耗画像から、設定された所定の閾値に基づいて、各画素の二値化を行い、前記摩耗部が白色画素にて構成されてなる二値化画像を形成する二値化工程と、
該形成された二値化画像において、白色画素の密度の高い摩耗部に該当しない微少の白色画素部位をノイズとして除去することにより、該摩耗部をより鮮明に表示するノイズ処理画像を取り出すノイズ除去工程と、
該ノイズ処理画像における摩耗部を構成する白色画素から、前記加工工具における先端加工部の摩耗状態を評価する評価工程とを、
含むことを特徴とする加工工具の検査方法。
【請求項2】
前記画像採取工程が、
前記加工工具の先端加工部を、工具軸方向に工具先端部から工具輪郭部に向かって所定間隔で焦点が位置するように撮影することにより、複数の先端部画像を取得する撮像工程と、
かかる複数の先端部画像を用いて、被写界深度合成法により、前記先端加工部の全体に亘って焦点の合った一つの合成画像を、前記加工部画像として形成する画像合成工程と、
を含むことを特徴とする請求項1に記載の加工工具の検査方法。
【請求項3】
前記画像合成工程において、前記撮像工程で得られた各先端部画像をそれぞれ縦横に複数に分割して、多数の分割画像を形成した後、各先端部画像における同一場所の分割画像を比較して、最も鮮明な分割画像を選択することにより、前記一つの合成画像が形成されることを特徴とする請求項2に記載の加工工具の検査方法。
【請求項4】
前記画像抽出工程において、前記加工部画像を高速フーリエ変換して、スペクトル画像を形成した後、該スペクトル画像に対して、高周波数部分が残るマスク処理を施して、逆高速フーリエ変換することにより、前記加工部摩耗画像が取り出されることを特徴とする請求項1に記載の加工工具の検査方法。
【請求項5】
前記ノイズ除去工程において、前記二値化画像を構成する各画素に対して、膨張・縮小処理及び微少面積の白色画素の塗潰し処理が、少なくとも実施されることを特徴とする請求項1に記載の加工工具の検査方法。
【請求項6】
前記加工部画像における前記加工工具が写っている縦方向及び横方向の区間を、それぞれ、該加工部画像の縦方向及び横方向に位置する画素の各列及び各行の高速フーリエ変換にて得られる振幅の和をプロットして、求めた後、それら縦方向及び横方向の区間の中心に位置する画素列及び画素行が交差する点を、前記加工工具の工具中心として求めることからなる工具中心検出工程を、更に含むことを特徴とする請求項1に記載の加工工具の検査方法。
【請求項7】
前記工具中心検出工程において求められた加工工具の工具中心を用い、かかる工具中心の周りに、前記ノイズ処理画像を所定角度ずつ回転せしめ、それぞれの回転角度における画像を二等分して、その二つの等分画像を比較することにより、前記摩耗部が水平方向に延びるように、該ノイズ処理画像の位相を補正する位相補正工程を、更に有していることを特徴とする請求項6に記載の加工工具の検査方法。
【請求項8】
前記位相補正工程により位相補正されたノイズ処理画像を用い、その回転中心から一定距離の円周上にあり、且つ前記水平位置にある摩耗部から所定の角度をもって位置する白色画素部位を除去せしめた後、前記評価工程が実施されることを特徴とする請求項7に記載の加工工具の検査方法。
【請求項9】
前記加工工具が、ドリルであることを特徴とする請求項1乃至請求項8の何れか1項に記載の加工工具の検査方法。
【請求項10】
前記加工工具が、ダイヤモンドコーティングドリルであることを特徴とする請求項1乃至請求項8の何れか1項に記載の加工工具の検査方法。
【請求項11】
所定の加工に供された加工工具の先端加工部を撮影して、検査されるべき加工部画像を採取する画像採取手段と、
該採取された加工部画像から、フーリエ変換によるフィルタ処理によって、前記先端加工部の前記所定の加工によって生じた摩耗部を抽出して、加工部摩耗画像として取り出す画像抽出手段と、
かかる取り出された加工部摩耗画像から、設定された所定の閾値に基づいて、各画素の二値化を行い、前記摩耗部が白色画素にて構成されてなる二値化画像を形成する二値化手段と、
該形成された二値化画像において、白色画素の密度の高い摩耗部に該当しない微少の白色画素部位をノイズとして除去することにより、該摩耗部をより鮮明に表示するノイズ処理画像を取り出すノイズ除去手段と、
該ノイズ処理画像における摩耗部を構成する白色画素から、前記加工工具における先端加工部の摩耗状態を評価する評価手段と、
を含むことを特徴とする加工工具の検査装置。
【請求項12】
前記画像採取手段が、
前記加工工具の下方において、工具軸を中心にして円環状に位置し、該加工工具の先端加工部に光を照射するリング状照明手段と、
該リング状照明手段からの光の照射により前記加工工具の先端加工部から下方に反射された光を水平方向に屈折せしめる直角プリズムと、
該直角プリズムにて屈折された光を受光して、前記加工部画像を撮影するカメラと、
を有していることを特徴とする請求項11に記載の加工工具の検査装置。
【請求項13】
前記画像採取手段が、前記加工工具にて所定の加工を行う加工機内に配設されていることを特徴とする請求項11又は請求項12に記載の加工工具の検査装置。
【請求項14】
前記画像採取手段が、
前記加工工具の先端加工部を、工具軸方向に工具先端部から工具輪郭部に向かって所定間隔で焦点が位置するように撮影することにより、複数の先端部画像を取得する撮像装置と、
かかる複数の先端部画像を用いて、被写界深度合成法により、前記先端加工部の全体に亘って焦点の合った一つの合成画像を、前記加工部画像として形成する画像合成手段と、
を含むことを特徴とする請求項11に記載の加工工具の検査装置。
【請求項15】
前記撮像装置が、
前記加工工具の下方において、工具軸を中心にして円環状に位置し、該加工工具の先端加工部に光を照射するリング状照明手段と、
該リング状照明手段からの光の照射により前記加工工具の先端加工部から下方に反射された光を水平方向に屈折せしめる直角プリズムと、
該直角プリズムにて屈折された光を受光して、前記加工部画像を撮影するカメラと、
を有していることを特徴とする請求項14に記載の加工工具の検査装置。
【請求項16】
前記撮像装置が、前記加工工具にて所定の加工を行う加工機内に配設され、該加工工具の該加工機による軸方向への移動によって、前記カメラの焦点位置が工具先端部から工具輪郭部に向かって所定間隔で移動せしめられるように構成されていることを特徴とする請求項14又は請求項15に記載の加工工具の検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工工具の検査方法及び検査装置に係り、特に、所定の加工に用いられた加工工具の摩耗状態を有利に検査することの出来る方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、ドリルやエンドミル等の加工工具を装着した加工機械を用いて、被加工物の穴開け加工や切削加工が行われているが、そのような加工の進行に伴って、ドリルやエンドミル等の加工工具の先端部分が、漸次摩耗したり、欠けたりして、加工精度が低下する等の問題が惹起されるようになる。このため、目的とする加工に供された加工工具の先端加工面の検査や、その管理が重要となっているのであるが、それを目視によって判断することは、極めて難しい。
【0003】
例えば、半導体の製造装置部品の材料として用いられているアルミナ部品にあっては、ダイヤモンドコーティングされた小径ドリルによる穴開け加工の工程が多数必要とされているのであるが、難加工材であるアルミナ部品の小径の穴開け加工となるものであるところから、加工の進行に伴うところのドリル先端加工部(刃部)の摩耗に加えて、加工中におけるドリルの折損が多発する問題があり、それによって、製品不良や作業性(生産性)の低下等が惹起されるようになる。このため、そのようなドリルの先端加工部の検査が行われることとなるが、その検査では、被加工物の所定量を加工する毎に、ドリルを加工機から取り外し、熟練技術者が、拡大鏡等を使用して、目視にて、ドリル先端の摩耗状況を確認し、その交換の判断を行っているのであるが、そのようなドリルの検査は、属人的であって、手間のかかる煩雑な作業となっているところから、検査精度の安定化や効率化にも、問題が内在しているのである。
【0004】
そこで、検査対象となる加工工具には、その外径や刃先形状が異なる多くの種類があるところから、画像処理技術を利用して、その検査方法を目視から画像処理に置き換えるべく、各種の手法が提案されてきている。例えば、特開2001-129711号公報においては、ドリルの回転軸方向からだけでなく、ドリル切刃面に対して垂直な方向から撮像することにより、刃先全体をレンズの被写界深度内に収まるように撮像した後、その撮像した画像を二値化して、形状データに変換し、そしてその形状データと予め設定しておいた設定値とを比較することにより、ドリルの良否を判定するようにしたドリルの検査方法が、明らかにされている。また、特許第4128613号公報においては、ドリルの刃先を回転軸に沿う方向に撮像する撮像部と、かかる撮像部から入力された画像について、その各画素値を二値化し、得られた二値化画像の位置合わせを行う画像処理部と、この画像処理部により処理された画像内の刃先領域の形状情報を測定する測定部と、測定部により測定された形状情報からドリルの刃先の状態を判定する判定部とを備えたドリル検査装置が、提案されている。
【0005】
しかしながら、それら従来のドリルの検査手法や検査装置にあっては、撮影して得られる画像情報から、単なる二値化処理にて、形状データを得るようにしたものであるところから、撮影対象となる加工工具たるドリルの刃部の表面が、例えば、コーティングによって凹凸形状を呈する場合の如く、粗面となっていると、撮影時の照明光による反射光量のバラツキが大きくなり、ドリルの摩耗部以外の部位を誤検出する問題が内在している。また、ドリルによる加工の進展に伴い、ドリル刃部の表面には、汚れが付着するようになるが、そのような付着汚れを、同時に検出して、摩耗部として誤認する恐れも、内在するものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001-129711号公報
【特許文献2】特許第4128613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、加工工具の有効な検査方法及び検査装置を提供することにあり、また他の課題とするところは、所定の加工に供された加工工具の先端加工面の摩耗状態を、より一層効果的に把握することの出来る技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そして、本発明は、上記した課題を解決するために、以下に列挙せる如き各種の態様において、好適に実施され得るものであるが、また、以下に記載の各態様は、任意の組み合わせにおいて、採用可能である。なお、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに何等限定されることなく、明細書全体の記載、及び図面に開示の発明思想に基づいて、認識され得るものであることが、理解されるべきである。
【0009】
先ず、上記した課題を解決するための本発明の第一の態様は、所定の加工に供された加工工具の先端加工部を撮影して、検査されるべき加工部画像を採取する画像採取工程と;該採取された加工部画像から、フーリエ変換によるフィルタ処理によって、前記先端加工部の前記所定の加工によって生じた摩耗部を抽出して、加工部摩耗画像として取り出す画像抽出工程と;かかる取り出された加工部摩耗画像から、設定された所定の閾値に基づいて、各画素の二値化を行い、前記摩耗部が白色画素にて構成されてなる二値化画像を形成する二値化工程と;該形成された二値化画像において、白色画素の密度の高い摩耗部に該当しない微少の白色画素部位をノイズとして除去することにより、該摩耗部をより鮮明に表示するノイズ処理画像を取り出すノイズ除去工程と;該ノイズ処理画像における摩耗部を構成する白色画素から、前記加工工具における先端加工部の摩耗状態を評価する評価工程とを、含むことを特徴とする加工工具の検査方法にある。
【0010】
また、本発明の第二の態様は、前記画像採取工程が、前記加工工具の先端加工部を、工具軸方向に工具先端部から工具輪郭部に向かって所定間隔で焦点が位置するように撮影することにより、複数の先端部画像を取得する撮像工程と;かかる複数の先端部画像を用いて、被写界深度合成法により、前記先端加工部の全体に亘って焦点の合った一つの合成画像を、前記加工部画像として形成する画像合成工程とを含むことを特徴としている。
【0011】
さらに、本発明の第三の態様は、前記画像合成工程において、前記撮像工程で得られた各先端部画像をそれぞれ縦横に複数に分割して、多数の分割画像を形成した後、各先端部画像における同一場所の分割画像を比較して、最も鮮明な分割画像を選択することにより、前記一つの合成画像が形成されることを特徴とするものである。
【0012】
加えて、本発明の第四の態様は、前記画像抽出工程において、前記加工部画像を高速フーリエ変換して、スペクトル画像を形成した後、該スペクトル画像に対して、高周波数部分が残るマスク処理を施して、逆高速フーリエ変換することにより、前記加工部摩耗画像が取り出されることを特徴とする。
【0013】
そして、本発明の第五の態様は、前記ノイズ除去工程において、前記二値化画像を構成する各画素に対して、膨張・縮小処理及び微少面積の白色画素の塗潰し処理が、少なくとも実施されることを特徴としている。
【0014】
また、本発明の第六の態様は、前記加工部画像における前記加工工具が写っている縦方向及び横方向の区間を、それぞれ、該加工部画像の縦方向及び横方向に位置する画素の各列及び各行の高速フーリエ変換にて得られる振幅の和をプロットして、求めた後、それら縦方向及び横方向の区間の中心に位置する画素列及び画素行が交差する点を、前記加工工具の工具中心として求めることからなる工具中心検出工程を、更に含むことを特徴としている。
【0015】
さらに、本発明に従う第七の態様は、前記工具中心検出工程において求められた加工工具の工具中心を用い、かかる工具中心の周りに、前記ノイズ処理画像を所定角度ずつ回転せしめ、それぞれの回転角度における画像を二等分して、その二つの等分画像を比較することにより、前記摩耗部が水平方向に延びるように、該ノイズ処理画像の位相を補正する位相補正工程を、更に有していることを特徴とするものである。
【0016】
加えて、本発明の第八の態様は、前記位相補正工程により位相補正されたノイズ処理画像を用い、その回転中心から一定距離の円周上にあり、且つ前記水平位置にある摩耗部から所定の角度をもって位置する白色画素部位を除去せしめた後、前記評価工程が実施されることを特徴とする。
【0017】
本発明に従う第九の態様は、前記加工工具が、ドリルであることを特徴とするものであり、また、第十の態様は、前記加工工具が、ダイヤモンドコーティングドリルであることを特徴としている。
【0018】
そして、本発明の第十一の態様は、所定の加工に供された加工工具の先端加工部を撮影して、検査されるべき加工部画像を採取する画像採取手段と;該採取された加工部画像から、フーリエ変換によるフィルタ処理によって、前記先端加工部の前記所定の加工によって生じた摩耗部を抽出して、加工部摩耗画像として取り出す画像抽出手段と;かかる取り出された加工部摩耗画像から、設定された所定の閾値に基づいて、各画素の二値化を行い、前記摩耗部が白色画素にて構成されてなる二値化画像を形成する二値化手段と;該形成された二値化画像において、白色画素の密度の高い摩耗部に該当しない微少の白色画素部位をノイズとして除去することにより、該摩耗部をより鮮明に表示するノイズ処理画像を取り出すノイズ除去手段と;該ノイズ処理画像における摩耗部を構成する白色画素から、前記加工工具における先端加工部の摩耗状態を評価する評価手段とを含むことを特徴とする加工工具の検査装置にある。
【0019】
また、本発明の第十二の態様は、前記画像採取手段が、前記加工工具の下方において、工具軸を中心にして円環状に位置し、該加工工具の先端加工部に光を照射するリング状照明手段と;該リング状照明手段からの光の照射により前記加工工具の先端加工部から下方に反射された光を水平方向に屈折せしめる直角プリズムと;該直角プリズムにて屈折された光を受光して、前記加工部画像を撮影するカメラとを有していることを特徴とするものである。
【0020】
さらに、本発明の第十三の態様は、前記画像採取手段が、前記加工工具にて所定の加工を行う加工機内に配設されていることを特徴とする。
【0021】
加えて、本発明の第十四の態様は、前記画像採取手段が、前記加工工具の先端加工部を、工具軸方向に工具先端部から工具輪郭部に向かって所定間隔で焦点が位置するように撮影することにより、複数の先端部画像を取得する撮像装置と;かかる複数の先端部画像を用いて、被写界深度合成法により、前記先端加工部の全体に亘って焦点の合った一つの合成画像を、前記加工部画像として形成する画像合成手段とを含むことを特徴とする。
【0022】
また、本発明の第十五の態様は、前記撮像装置が、前記加工工具の下方において、工具軸を中心にして円環状に位置し、該加工工具の先端加工部に光を照射するリング状照明手段と;該リング状照明手段からの光の照射により前記加工工具の先端加工部から下方に反射された光を水平方向に屈折せしめる直角プリズムと;該直角プリズムにて屈折された光を受光して、前記加工部画像を撮影するカメラとを有していることを特徴とする。
【0023】
さらに、本発明の第十六の態様は、前記撮像装置が、前記加工工具にて所定の加工を行う加工機内に配設され、該加工工具の該加工機による軸方向への移動によって、前記カメラの焦点位置が工具先端部から工具輪郭部に向かって所定間隔で移動せしめられるように構成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0024】
このような本発明によれば、所定の加工に供された加工工具、特に、ダイヤモンドコーティングドリルの如き、表面凹凸の大きなドリルの先端加工部の摩耗状態を、より効果的に検出して、精密に摩耗部を判別し、その評価を有利に行うことが可能となるのである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明に従う加工工具の検査方法の概略を示す工程説明図である。
図2】本発明に従う加工工具の検査装置の一例を示す概略説明図である。
図3図2に示される装置において、焦点をドリル軸方向に移動させて撮影して得られる複数の先端部画像を模式的に示す説明図である。
図4】ドリル先端に焦点を合わせて撮影して得られた先端部画像の一例を示すものである。
図5】ドリルの輪郭に焦点を合わせて撮影して得られた先端部画像の一例を示すものである。
図6】模式的に示す一つの先端部画像について、その分割の形態を示す説明図である。
図7】複数の先端部画像を分割して、その分割画像を比較する形態を示す説明図である。
図8】被写界深度合成法により得られた合成画像の一例を、その一部を拡大した画像を含んで示す図である。
図9】合成画像から、フーリエ変換によるフィルタ処理によって、加工部摩耗画像(IFFT画像)を取り出す一例を示す説明図である。
図10】ドリル中心の測定に用いられる高速フーリエ変換(FFT)の結果の一例を示す説明図であって、(a)及び(b)は、それぞれ、1行分及び1列分の高速フーリエ変換(FFT)の結果の一例、並びに各行の振幅の和及び各列の振幅の和を示す説明図である。
図11】二値化画像の一例を示すものであって、(a)は、逆高速フーリエ変換して得られた画像(IFFT画像)から、閾値を設定することなく、得られた二値化画像であり、(b)は、IFFT画像から、摩耗部以外の検出が抑制されるように、閾値を設定して、得られた二値化画像である。
図12】ノイズ処理して得られた画像の一例を、一部拡大画像を含んで示すものであって、(a)は、二値化画像に膨張・縮小処理を施して得られた画像を示し、(b)は、微少面積の塗潰し処理を施して得られた画像である。
図13】位相補正の方法を説明するための図である。
図14】摩耗部から離れた位置に存在するノイズを除去する第2のノイズ処理の前後を示す画像であって、(a)は、その処理前の画像であり、(b)は、その処理後の画像である。
図15】本発明に従う加工工具の検査装置の好ましい一つの形態を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の構成を更に具体的に明らかにするために、本発明の代表的な実施の形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明することとする。
【0027】
先ず、図1には、本発明に従う加工工具の検査方法の工程が、概略的に示されている。そこにおいて、10は、画像採取工程であって、そこでは、所定の加工に供された加工工具の先端加工部を撮影して、検査されるべき加工部画像が採取されることとなる。なお、加工工具としては、穴開け加工や切削加工を行うドリルやエンドミル等が、その対象とされるのであるが、その中でも、ドリル、特にダイヤモンドコーティングが施されてなる、表面の凹凸による反射光量のバラツキの大きなドリルにおいて、本発明の特徴が有利に発揮され得るのである。
【0028】
なお、上記の画像採取工程10において採取される加工部画像の被写界深度が、不足する場合にあっては、加工工具の先端加工部を、工具軸方向に工具先端部から工具輪郭部に向かって所定間隔で焦点が位置するように、撮影することにより、複数の先端部画像を取得する撮像工程と、その得られた複数の先端部画像を用いて、被写界深度合成法により、前記先端加工部の全体に亘って焦点の合った一つの合成画像を、前記加工部画像として形成する画像合成工程とを含むように、かかる画像採取工程を構成することが望ましい。
【0029】
そして、画像抽出工程12においては、上記で採取された加工部画像から、フーリエ変換によるフィルタ処理によって、前記先端加工部の前記所定の加工によって生じた摩耗部を抽出して、加工部摩耗画像として取り出すことが行われる。特に、この画像抽出工程12においては、有利には、前記加工部画像を高速フーリエ変換して、スペクトル画像を形成した後、かかるスペクトル画像に対して、高周波数部分が残るようにマスク処理を施して、逆高速フーリエ変換することにより、前記した加工部摩耗画像が取り出されることとなるのである。
【0030】
また、上記のようにして取り出された加工部摩耗画像から、上記の画像抽出工程12に続く二値化工程14においては、設定された所定の閾値に基づいて、各画素の二値化を行い、前記摩耗部が白色画素にて構成されてなる二値化画像が、形成される。
【0031】
次いで、ノイズ除去工程16においては、かかる形成された二値化画像において、白色画素の密度の高い摩耗部に該当しない微少の白色画素部位を、ノイズとして除去することにより、該摩耗部をより鮮明に表示するノイズ処理画像が、取り出される。なお、このノイズ除去工程16においては、有利には、前記二値化画像を構成する各画素に対して、膨張・縮小処理及び微少面積の白色画素の塗潰し処理が、少なくとも実施されることとなるのである。
【0032】
最後に、上記したノイズ除去工程16において得られたノイズ処理画像を用いて、評価工程18において、その画像における摩耗部を構成する白色画素から、前記加工工具における先端加工部の摩耗状態が、評価されるのである。なお、その評価においては、一般に、摩耗部を構成する白色画素から、加工工具における先端加工部の摩耗面積を求めて、かかる先端加工部の摩耗状態を評価する手法が、有利に採用される。
【0033】
ところで、図2には、加工工具としてのドリルを対象として、その摩耗状態を評価することの出来る検査装置の一例が、概略的に示されている。そこにおいて、20は、ドリルであり、その先端加工部(刃部)に対して、その下方に位置するリング状照明手段であるリング照明22から、検査用の光が、照射せしめられるようになっている。なお、リング照明22は、ドリル20の下方において、ドリル軸を中心にして、多数の光源を円環状に位置せしめて、ドリル20の先端加工部に、検査光を照射するようになっている。また、かかるリング照明22からの光の照射により、ドリルの先端加工部の摩耗部位(摩耗面)から下方に反射された光を、水平方向に屈折せしめるように、直角プリズム24が配置され、更に、その直角プリズム24にて水平方向に屈折せしめられた反射光は、レンズ26を介して、CCDカメラやCMOSカメラ等のカメラ28にて受光され、ドリル20における加工部画像として撮影され、その画像情報が、画像処理装置30に対して出力せしめられるようになっている。
【0034】
なお、このようにしてカメラ28にて撮影して得られる加工部画像に関して、その被写界深度が充分に満足し得るものである場合にあっては、その画像情報をそのまま用いて、加工部摩耗画像として取り出す画像抽出操作が実施されることとなるが、カメラ28において採取される画像の被写界深度が不足している場合にあっては、リング照明22と直角プリズム24とカメラ28とを含む撮像装置(ユニット)が、ドリル20に対して、そのドリル軸方向に相対的に変位せしめられ得るようにして、ドリル20の先端加工部を、ドリル軸方向にドリル先端部からドリル輪郭部に向かって、所定間隔、例えば20μmの間隔で、焦点が位置するようにして、撮影することにより、複数の先端部画像が取得され得るようにする。そして、それと共に、それら複数の先端部画像を用いて、被写界深度合成法により、先端加工部の全体に亘って焦点の合った一つの合成画像を、加工部画像として形成する画像合成手段が設けられることとなるのであるが、図2に示される検査装置においては、そのような画像合成手段が、画像処理装置30における画像合成部32として、示されている。
【0035】
特に、検査されるべき加工工具の先端加工部(加工面)が、水平な平坦面ではなく、ドリル(20)の如く、傾斜した湾曲面にて構成される場合や、摩耗による刃先の後退、ドリル(20)の位置決め誤差等が存在する場合等にあっては、画像採取工程(手段)として、上述の如き撮像工程(装置)と画像合成工程(手段)とを含む構成が、有利に採用されることとなるのである。
【0036】
また、図2に示される検査装置における画像処理装置30は、画像合成部32において形成された合成画像からなる加工部画像を用いて、その加工部画像から、フーリエ変換によるフィルタ処理によって、ノズル先端加工部に対する所定の加工によって生じた摩耗部を抽出して、加工部摩耗画像として取り出す画像抽出部(手段)34を有すると共に、更に、その取り出された加工部摩耗画像から、設定された所定の閾値に基づいて、各画素の二値化を行い、摩耗部が白色画素にて構成されてなる二値化画像を形成する二値化部(手段)36と、その形成された二値化画像において、白色画素の密度の高い摩耗部に該当しない微少の白色画素部位をノイズとして除去することにより、摩耗部をより鮮明に表示するノイズ処理画像を取り出すノイズ除去部(手段)38と、かかるノイズ処理画像における摩耗部を構成する白色画素から、ドリル20における先端加工部の摩耗状態を評価する評価部(手段)40とを含んで、構成されている。
【0037】
具体的には、図2に示される検査装置において、撮像装置を構成するカメラ28にて、ドリル20の先端から輪郭まで、ドリル軸方向に所定間隔において焦点を位置せしめてなる状態において、撮影することにより、焦点(ピント)の合った位置が順次変化する複数(ここでは6枚)の先端部画像が、取得されることとなる。なお、図3には、それら6枚の先端部画像が、模式的に示されている。また、図4及び図5には、それぞれ、実際の撮影画像が示されており、そこで、図4の画像は、ドリル先端に焦点を合わせて撮影して得られたものであり、また図5の画像は、ドリルの輪郭に焦点を合わせて撮影して得られたものである。
【0038】
次いで、このようにして得られた複数の先端部画像を用いて、画像処理装置30の画像合成部32において、ドリル20の先端加工部の全体に亘って焦点の合った一つの合成画像(加工部画像)を、被写界深度合成法により形成するに際しては、一般に、それら複数の先端部画像を、それぞれ、十数ピクセル角で縦横に複数に分割して、多数の分割画像を形成した後、各先端部画像における同一場所の分割画像を比較して、最も鮮明な分割画像を選択することにより、目的とする精細な合成画像を形成せしめる手法が採用され、その一例が、図6及び図7に示されている。
【0039】
すなわち、多数の画素にて構成される画像である先端部画像の複数は、ここでは、それぞれ、図6に示される如く、縦:2048画素、横:2448画素にて構成されており、そしてそれらが、それぞれ、縦:16画素、横:16画素からなる分割画像の19584枚を与えるように、縦横に分割されるのである。そして、各先端部画像における分割画像の同一場所のものが、図7に示される如く、それぞれ比較され、その中で最も鮮明な分割画像を選択して、一つの画像を構成することにより、視野全域でピント(焦点)の合った一つの合成画像として、取り出されることとなる。
【0040】
なお、各先端部画像の分割画像についての比較・抽出(選択)は、それぞれの分割画像の各画素について、それぞれ、ラプラシアンフィルタを用いて画素値を求め、そのフィルタ処理画像における分散(ラプラシアン値)が大きい分割画像をピントの合った画像と判別して、選択し、そしてその選択された分割画像にて、一つの全体画像を形成することにより、図8に示される如き合成画像が、構成されることとなるのである。そして、そのような合成画像において、その中央部に位置して、両端部に向かって漸次幅広となるように水平方向に延びる杵状の白色部分(図8の下方の拡大画像部位参照)が、摩耗部(面)からの反射光部分を示している一方、その上下に位置する、所定幅の円弧状の薄雲領域(図8の上方の拡大画像部位参照)が、汚れによる反射部位を示している。
【0041】
また、上述の如くして採取された合成画像(加工部画像)から、加工部摩耗画像を取り出す画像抽出工程を実行する画像抽出部34においては、かかる合成画像に対して、フーリエ変換によるフィルタ処理が実施され、それにより、ドリル20の先端加工部における、所定の加工によって生じた摩耗部が、抽出されることとなる。具体的には、図9に示される如く、合成画像を高速フーリエ変換(FFT)して、スペクトル画像を形成した後、かかるスペクトル画像に対して、高周波数部分が残るマスク処理を施して、逆高速フーリエ変換(IFFT)することにより、ドリル表面の汚れの検出を抑制しつつ、摩耗部(高周波数領域)を抽出することで、目的とする加工部摩耗画像(IFFT画像)が、有利に取り出されることとなるのである。
【0042】
要するに、撮影対象の加工工具であるドリル20は、コーティング表面の凹凸が大きいために、反射光量のバラツキが大きくなり、単純な二値化では、摩耗部以外の部位を誤検出するようになるところから、本発明では、高速フーリエ変換手法(FFT)を採用して、高周波数領域である摩耗部のみの検出を行うようにしているのであり、また、かかるFFTを用いることで、ドリル表面に付着している汚れの検出を有利に抑制することが出来るようになっている。
【0043】
さらに、本発明にあっては、後述する位相補正工程や、その位相補正されたノイズ処理画像から、不要な白色画素部位を除去せしめる工程を実施する上において、前記した合成画像を用いた、ドリル中心の検出工程が、有利に採用されることとなる。即ち、加工部画像である合成画像の縦方向及び横方向に位置する画素の各列及び各行の高速フーリエ変換(FFT)にて得られる振幅の和をプロットして、合成画像における、ドリル20が写っている縦方向及び横方向の区間を求めた後、それら縦方向及び横方向の区間の中心に位置する画素列及び画素行が交差する点を、ドリル20におけるドリル中心として求めることからなるドリル中心の検出工程が、実施されるのである。
【0044】
具体的には、合成画像を構成する各行の画素行(2048行)及び各列の画素列(2448列)について、それぞれ、FFTを実施することにより、それぞれの行及び列における周波数に対する振幅が求められ、その一例が、それぞれ、図10(a)及び(b)の上段に示されている。そして、そのようなFFTにより得られた各画素行及び各画素列の振幅の和をプロットすることにより、図10(a)及び(b)の下段に示される如く、それぞれ、各行及び各列の振幅の和が、行数及び列数に対する図として求められ、そこでは、背景部とドリル部では振幅の和の差が大きくなるところから、それらの図から明らかな如く、ドリル(20)部と背景部とが明確に認識され得ることとなるのである。なお、図10に示される各行の振幅の和を示す左側の図においては、ドリル(20)部と背景部との境界は、340行と1558行に位置することが認められ、また各列の振幅の和を示す右側の図においては、背景部とドリル(20)部との境界は、560列と1978列において認めることが出来るのである。そして、そのようなドリル20が写っている区間における各行のFFTを行った振幅の和の中心(ここでは、949行目)及び各列のFFTを行った振幅の和の中心(ここでは、1269列目)が、それぞれ求められた後、それら中心に位置する画素列(1269列)及び画素行(949行)が交差する点が、ドリル20におけるドリル中心として求められることとなるのである。
【0045】
そして、本発明にあっては、画像処理装置30の二値化部36において、前述の如くして合成画像から取り出された加工部摩耗画像である、画素値が0~255の256階調で表示されるIFFT画像(グレースケール)を用いて、画素値が0と255の2階調で表示される二値化処理を、各画素について実施して、摩耗部が白色画素にて構成されてなる二値化画像を形成せしめ、以て、その255(白)の画素数で、面積等の測定が可能とされているのである。
【0046】
なお、この二値化処理においては、摩耗部以外の検出を抑制して、かかる摩耗部をより正確に把握する上において、二値化に際しての閾値が、選定されることとなる。具体的には、IFFT画像内の画素値のヒストグラムを求めて、背景部の画素やドリル輪郭の画素等が除去される(黒となる)ように、所定の閾値が選定され、その選定された閾値に基づいて、上記した二値化処理が実施されて、二値化画像が求められるのであって、その一例が図11の(b)に示されている。なお、図11(a)には、そのような閾値を設定することなく、得られた二値化画像が示されているが、そこでは、摩耗部以外の領域にも、白色画素が多数存在していることが認められるのである。
【0047】
次いで、かくの如くして得られた二値化画像には、ノイズ除去部38において、本発明に従って、ノイズ除去処理が実施され、かかる二値化画像から、白色画素の密度の高い摩耗部に該当しない、微少の白色画素部位を、ノイズとして除去することにより、目的とする摩耗部をより鮮明に表示するノイズ処理画像が、取り出されることとなる。
【0048】
具体的には、そのようなノイズ除去処理においては、二値化画像を構成する各画素に対して、膨張・縮小処理及び微少面積の白色画素の塗潰し処理が、少なくとも実施される。そこにおいて、膨張・縮小処理には、背景部のノイズを消す役割と、摩耗部を鮮明にする役割とがあり、一般に、オープニング・フィルタとクロージング・フィルタを用いた画像処理が、実施されることとなるのである。そこで、オープニング・フィルタは、同じ回数だけ収縮処理を行った後、膨張処理を行う処理であり、またクロージング・フィルタは、同じ回数だけ膨張処理を行った後、縮小処理を行う処理である。なお、クロージング・フィルタによる処理では、白色部分内側の細い線を塗り潰し、一方オープニング・フィルタによる処理では、黒色の背景部分にある白色の細い線を塗り潰すこととなる。また、そのような摩耗部の抽出に際しては、クロージング・フィルタを用いて摩耗部をより鮮明にした後、オープニングフィルタを用いて摩耗部以外の微少なノイズ等を除去することを目的として、それらのフィルタが、使用されているのである。図12(a)には、かかる二値化画像に対して膨張・縮小処理を施して得られた画像の一例が示されている。
【0049】
また、微少面積の白色画素の塗潰し処理では、二値化画像の背景部における白色画素の微小領域が、大部分の背景部(黒色)と同様に、黒く塗り潰されることとなる。その塗り潰される白色画素の微小領域は、それがノイズであるか、どうか、認識される面積の限界値を、閾値として判断され、その閾値以下の面積が黒く塗り潰されることにより、図12(b)に示される如く、大部分のノイズを除去してなる画像として求められることとなるのである。
【0050】
なお、かかる微少面積の白色画素の塗潰し処理に際して、二値化画像に大量の微少面積が存在すると、かかる塗潰し処理の処理時間が長くなるところから、上記した塗潰し処理に先立って、メディアン・フィルタによる一部ノイズの除去が行われ、これによって、ノイズ処理に掛かるプログラム実行時間の短縮が、有利に図られ得ることとなる。ここで、メディアン・フィルタによる処理とは、対象画素の周りに設定したカーネルサイズの画素について、それらの画素値を昇順に並び替え、その中央の画素値を、対象画素の画素値として、採用することにより、画像全体の各画素の画素値を求めて、メディアン・フィルタによる処理画像が求められるのであり、これによって、ノイズの抑制された画像が、提供されることとなる。
【0051】
加えて、本発明にあっては、上記のノイズ処理にて得られるノイズ処理画像の位相を補正する位相補正処理(操作)も、有利に採用されることとなる。そこでは、前記ドリル中心の検出工程において求められた、ドリル20におけるドリル中心を用い、図13に示される如く、かかるドリル中心の周りに、ノイズ処理画像を所定角度ずつ(例えば、1°ずつ)回転せしめた後、それぞれの回転角度における画像を、ドリル中心で左右に2等分して、その二つの等分画像を比較することにより、例えば、左右反転して、白色画素の位置を比較(位置の一致数を対比)することにより、摩耗部が水平方向に延びるように、ノイズ処理画像の位相を補正することが行われる。なお、このような位相補正操作において、摩耗部が水平方向に対して垂直な方向に位置する場合においても、左右に2分割した画像の比較において、白色画素の一致数が多くなるところから、その位相補正された画像について、その中心を含む所定幅の画素領域(例えば、水平方向の中心を含む200画素の領域)をトリミングして、そのトリミング画像の白色画素をカウントして、その白色画素数の閾値以上の場合には、90°回転させる一方、閾値よりも低い場合にあっては、そのまま、摩耗部が水平方向に位置するものと判定されることとなる。
【0052】
さらに、上述の如く位相補正して得られたノイズ処理画像には、中心から一定距離の円周上にあり、また水平位置からの角度が大きいノイズが、図14(a)に示される如く存在しているところから、その距離や角度について、それぞれ閾値を設定して、ノイズとなる白色画素部位を除去せしめることにより、図14(b)に示される如き摩耗部抽出画像が取り出されるのである。
【0053】
そして、本発明にあっては、上述の如くして得られたノイズ処理画像(摩耗部抽出画像)を用いて、画像処理装置30の評価部40において、そのような画像における摩耗部を構成する白色画素から、加工工具たるドリル20における先端加工部の摩耗状態が、摩耗部面積や摩耗部幅等において、定量的に評価され得ることとなるのである。また、そのような評価結果は、表示部において示されたり、図示されていない印刷部にて印刷されたりするようになっている。
【0054】
例えば、摩耗部面積の測定にあっては、ノイズ処理画像(摩耗部抽出画像)における白色画素数をカウントして、1画素の面積と白色画素数を乗算することにより、摩耗部となる白色部分の面積(摩耗面積)の測定が可能となるのである。そして、これにより、ドリル(加工工具)の摩耗状態を、定量的に評価することが可能となるのである。
【0055】
なお、上記した実施形態において、カメラ28から出力される画像データを処理する画像処理装置30は、一般に、汎用のコンピュータにて構成され、そのようなコンピュータのCPU、メモリ、その他のLSIにて、画像合成部32、画像抽出部34、二値化部36、ノイズ除去部38、評価部40等を構成することが可能であり、そこで、画像処理は、ソフトウェア的には、メモリにロードされた画像処理プログラムや数値解析プログラム等によって、実現されることとなる。
【0056】
また、本発明における画像採取手段、例えば、図2に示される如きリング照明22や直角プリズム24、レンズ26、カメラ28を含む撮像ユニットを、所定の加工工具にて加工を行う加工機内に設置することが望ましく、その一例が、図15に示されている。そこにおいて、穴開け加工機50は、その基台52上に配設された加工テーブル54にセットされた加工対象物56に対して、ドリルチャック58にて保持されるドリル60を、加工機本体の駆動機構にて回転させつつ、三次元移動(垂直動及び水平動)せしめることにより、所定の加工を行うようになっている一方、かかる基台52上に、本発明に従う撮像ユニット62が配設されており、加工の進行に伴って、ドリル60の先端加工部を検査するに際しては、加工機本体の駆動機構にて、ドリル60を、水平方向に移動せしめて、撮像ユニット62の上方に位置せしめて、本発明に従う検査が行われるようになっている。従って、このような穴開け加工機50内に配設された撮像ユニット62を用いて、検査されるべき加工部画像を採取することにより、加工機50からドリル60を着脱する手間を省略することが出来、その着脱によるタイムロスを除去して、生産性の低下が有利に回避され得ることとなるのである。
【0057】
そして、そのような加工機(50)内への撮像ユニット62の配設により、ドリル60の如き加工工具の先端加工部を、加工機50の本体の駆動機構を用いて、工具軸方向に工具先端部から工具輪郭部に向かって所定間隔で焦点が位置するように、容易に移動せしめ得て、撮影することが出来ることとなり、これによって、複数の先端部画像が容易に且つ迅速に取得することが可能となるのである。
【0058】
以上、本発明の代表的な実施形態について詳述してきたが、それは、あくまでも、例示に過ぎないものであって、本発明は、そのような実施形態に係る具体的な記述によって、何等限定的に解釈されるものでないことが、理解されるべきである。
【0059】
例えば、例示の実施形態においては、加工工具としてドリルを対象として説明してきたが、ドリルの他にも、タップや各種エンドミル等の切削加工用の棒状回転工具等も、その対象とすることが可能である。
【0060】
また、穴開け等の所定の加工に供された加工工具(ドリル)の先端加工部を撮影するカメラ(28)により、被写界深度が充分に足りている、換言すれば、加工工具の先端加工部の全体に亘ってピントの合った加工部画像が得られる場合にあっては、カメラ(28)からの画像データを、そのまま、図2に示される画像処理装置30における画像抽出部34に入力せしめられるようにして、画像合成部32を省略することが可能である。
【0061】
さらに、図15に示される実施形態においては、撮像ユニット62が基台52上に配設されてなる構造とされているのであるが、そのような撮像ユニット62を、基台52内に埋設した形態において、収容してなる構造も、採用することが可能である。
【0062】
更にまた、撮像装置(ユニット)の構造にあっても、例示の構造の他、ドリルの如き加工工具の先端加工部の摩耗部(面)の反射光を撮影して、加工部画像として採取することの出来る、当業者において容易に採用し得る各種の構造が採用可能であることは、言うまでもないところである。
【0063】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得るものであり、そして、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、何れも、本発明の範疇に属するものであることが、理解されるべきである。
【符号の説明】
【0064】
10 画像採取工程 12 画像抽出工程
14 二値化工程 16 ノイズ除去工程
18 評価工程 20 ドリル
22 リング照明 24 直角プリズム
26 レンズ 28 カメラ
30 画像処理装置 32 画像合成部
34 画像抽出部 36 二値化部
38 ノイズ除去部 40 評価部
50 穴開け加工機 52 基台
54 加工テーブル 56 加工対象物
58 ドリルチャック 60 ドリル
62 撮像ユニット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図15