(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121248
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】ギ酸燃料電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/96 20060101AFI20240830BHJP
H01M 8/1009 20160101ALI20240830BHJP
【FI】
H01M4/96 M
H01M8/1009
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028239
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辻口 拓也
(72)【発明者】
【氏名】吉田 航也
(72)【発明者】
【氏名】古橋 資丈
(72)【発明者】
【氏名】林 裕二
【テーマコード(参考)】
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
5H018AA06
5H018DD06
5H018EE05
5H018HH02
5H018HH03
5H018HH05
5H126BB06
5H126DD02
5H126DD05
5H126DD17
5H126EE03
5H126EE24
(57)【要約】
【課題】カーボンペーパーを拡散層として用い、高い出力が得られるギ酸燃料電池を提供する。
【解決手段】ギ酸燃料電池1は、電解質膜21と、電解質膜21の第一の面上に配置されたアノード22と、アノード22上に配置されたアノード拡散層23と、電解質膜の第二の面上に配置されたカソード24と、カソード24上に配置されたカソード拡散層25と、を有する膜電極接合体2と、アノード拡散層23上に配置されたアノード側セパレータ3と、カソード拡散層25上に配置されたカソード側セパレータ4と、を含んでおり、ギ酸を燃料として用い、膜電極接合体2における電極反応によって発電可能に構成されている。アノード拡散層23は、その厚み方向に貫通した複数の貫通孔を有するカーボンペーパーから構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜と、前記電解質膜の第一の面上に配置されたアノードと、前記アノード上に配置されたアノード拡散層と、前記電解質膜の第二の面上に配置されたカソードと、前記カソード上に配置されたカソード拡散層と、を有する膜電極接合体と、
前記アノード拡散層上に配置されたアノード側セパレータと、
前記カソード拡散層上に配置されたカソード側セパレータと、を含み、
ギ酸を燃料として用い、前記膜電極接合体における電極反応によって発電可能に構成されたギ酸燃料電池であって、
前記アノード拡散層は、その厚み方向に貫通した複数の貫通孔を有するカーボンペーパーから構成されている、ギ酸燃料電池。
【請求項2】
前記アノード拡散層における前記貫通孔の開口面積の面積率が1%以上8%以下である、請求項1に記載のギ酸燃料電池。
【請求項3】
前記アノード拡散層における前記貫通孔の開口面積の面積率が2%以上6%以下である、請求項1に記載のギ酸燃料電池。
【請求項4】
前記アノード拡散層における前記貫通孔の開口面積の面積率が1%以上7%以下であり、前記カソード拡散層がカーボンクロスから構成されている、請求項1に記載のギ酸燃料電池。
【請求項5】
前記アノード拡散層における前記貫通孔の開口面積の面積率が2%以上8%以下であり、前記カソード拡散層がカーボンペーパーから構成されている、請求項1に記載のギ酸燃料電池。
【請求項6】
前記アノード側セパレータは前記アノードにギ酸を供給可能に構成された燃料流路を有しており、少なくとも一部の前記貫通孔が前記燃料流路に対面して配置されている、請求項1に記載のギ酸燃料電池。
【請求項7】
前記貫通孔の円相当径が50μm以上180μm以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載のギ酸燃料電池。
【請求項8】
前記アノード拡散層における前記貫通孔の開口面積の面積率が1%以上9%以下であり、前記貫通孔の円相当径が60μm以上130μm以下であり、前記カソード拡散層がカーボンペーパーから構成されている、請求項1に記載のギ酸燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ギ酸燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池等の燃料電池は、電解質膜と、電解質膜の一方の面上に設けられたアノードと、電解質膜の他方の面上に設けられたカソードと、を含む膜電極接合体を有している。燃料電池は、膜電極接合体のアノードに燃料を供給するとともに、カソードに酸化剤を供給することにより、アノードとカソードとの間に起電力を生じさせ、発電を行うことができる。
【0003】
膜電極接合体には、燃料や酸化剤を拡散させ、アノードやカソードにおける電極反応を促進する目的で、導電性多孔質からなる拡散層が設けられていることがある。水素ガスを燃料として用いる燃料電池においては、拡散層としてカーボンペーパーが多用されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、燃料としてギ酸を用いる直接ギ酸形燃料電池が開発されている。ギ酸は水素ガス等の気体に比べて、取り扱いが容易であり、単位体積当たりエネルギー密度を高くすることができるため、極めて有用である。
【0006】
ところが、ギ酸は水素ガスに比べて拡散性に劣るため、カーボンペーパー内の空隙に流通しにくい。そのため、直接ギ酸形燃料電池における拡散層としてカーボンペーパーを用いると、拡散層内にギ酸が十分に拡散せず、発電時の出力を高めることが難しいという問題がある。
【0007】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、カーボンペーパーを拡散層として用い、高い出力が得られるギ酸燃料電池を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、電解質膜と、前記電解質膜の第一の面上に配置されたアノードと、前記アノード上に配置されたアノード拡散層と、前記電解質膜の第二の面上に配置されたカソードと、前記カソード上に配置されたカソード拡散層と、を有する膜電極接合体と、
前記アノード拡散層上に配置されたアノード側セパレータと、
前記カソード拡散層上に配置されたカソード側セパレータと、を含み、
ギ酸を燃料として用い、前記膜電極接合体における電極反応によって発電可能に構成されたギ酸燃料電池であって、
前記アノード拡散層は、その厚み方向に貫通した複数の貫通孔を有するカーボンペーパーから構成されている、ギ酸燃料電池にある。
【発明の効果】
【0009】
前記ギ酸燃料電池のアノード拡散層は、その厚み方向に貫通した複数の貫通孔を有するカーボンペーパーから構成されている。このように、アノード拡散層に複数の貫通孔を設けることにより、比較的拡散性の低いギ酸を燃料として用いる場合においても、ギ酸をアノード拡散層全体に容易に拡散させることができる。そして、アノード拡散層内においてギ酸が拡散しやすくなることにより、アノードへのギ酸の供給をより円滑に行い、ギ酸燃料電池の出力を高めることができる。
【0010】
以上のごとく、上記態様によれば、カーボンペーパーを拡散層として用い、高い出力が得られるギ酸燃料電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施形態におけるギ酸燃料電池の要部を示す一部断面図である。
【
図2】
図2は、実施形態におけるアノード拡散層を模式的に示した平面図である。
【
図3】
図3は、
図2のIII-III線一部矢視断面図である。
【
図4】
図4は、実験例1における、試験材A2の光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(実施形態)
前記ギ酸燃料電池に係る実施形態について、
図1~
図3を参照しつつ説明する。
図1に示すように、本形態のギ酸燃料電池1は、電解質膜21と、電解質膜21の第一の面上に配置されたアノード22と、アノード22上に配置されたアノード拡散層23と、電解質膜21の第二の面上に配置されたカソード24と、カソード24上に配置されたカソード拡散層25と、を有する膜電極接合体(以下、「MEA」という。)2と、アノード拡散層23上に配置されたアノード側セパレータ3と、カソード拡散層25上に配置されたカソード側セパレータ4と、を含んでいる。ギ酸燃料電池1は、ギ酸を燃料として用い、MEA2における電極反応によって発電可能に構成されている。また、
図2に示すように、アノード拡散層23は、その厚み方向に貫通した複数の貫通孔231を有するカーボンペーパーから構成されている。なお、
図1においては、便宜上、貫通孔231の記載を割愛した。
【0013】
ギ酸燃料電池1は、例えば
図1に示すように、MEA2、アノード側セパレータ3及びカソード側セパレータ4を含む単セル11を1個以上有している。図には示さないが、ギ酸燃料電池1が複数の単セル11を有している場合、これらの単セル11は、互いに積層されることによりセルスタックを構成していてもよい。また、ギ酸燃料電池1が複数の単セル11を有している場合、各単セル11は、他の単セル11と電気的に直列に接続されていてもよいし、並列に接続されていてもよい。
【0014】
MEA2における電解質膜21は、電気絶縁性を有し、水素イオン(H+)等のカチオンを選択的に透過可能に構成されたカチオン交換樹脂からなる。カチオン交換樹脂としては、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸系ポリマー(例えば、デュポン社製「ナフィオン(登録商標)」)等を使用することができる。
【0015】
アノード22及びカソード24は、電解質膜21の中央部に配置されており、電解質膜21上に層状に形成されている。アノード22及びカソード24は、電極反応を促進可能に構成された触媒が含まれている。例えば、アノード22及びカソード24には、パラジウム(Pd)や白金(Pt)などの貴金属触媒を担持した触媒担持カーボンが含まれていてもよい。また、アノード22及びカソード24には、触媒担持カーボンを保持可能に構成されたバインダが含まれていてもよい。
【0016】
MEA2におけるアノード22上には、カーボンペーパーからなるアノード拡散層23が設けられている。アノード拡散層23に用いられるカーボンペーパーは、導電性炭素繊維と炭素との複合材料である。より具体的には、アノード拡散層23を構成するカーボンペーパーとしては、燃料電池のガス拡散層用として公知のカーボンペーパーを使用することができる。
【0017】
また、アノード拡散層23は、
図2に示すように、その厚み方向に貫通した複数の貫通孔231を有している。貫通孔231は、
図3に示すように、アノード拡散層23におけるアノード22に接する面232とアノード側セパレータ3に接する面233との両方に開口234(234a、234b)を有しており、一方の開口234aから他方の開口234bまでの範囲にわたってアノード拡散層23の厚み方向に延在している。なお、アノード拡散層23は、貫通孔231の他に、アノード拡散層23を構成する導電性炭素繊維や炭素の間の空隙から構成された細孔を有しているが、これらの細孔は貫通孔231には含まれない。
【0018】
アノード拡散層23の貫通孔231は、前述した細孔の開口径に比べて大きな開口径を有しているため、燃料としてのギ酸が貫通孔231内に容易に進入しやすい。そして、ギ酸が貫通孔内231内に進入することにより、アノード拡散層23全体にギ酸が拡散しやすくなり、アノード22へのギ酸の供給を円滑に行い、ギ酸燃料電池1の出力を向上させることができる。
【0019】
貫通孔231の開口234は種々の態様を取り得る。例えば、貫通孔231の開口234の形状は、
図2に示すように円形であってもよい。また、開口234の形状は、三角形や四角形などの多角形であってもよい。同様に、貫通孔231の断面形状も特に限定されることはなく、円形や多角形などの種々の形状をとり得る。
【0020】
また、貫通孔231の配置は種々の態様を取り得る。例えば、貫通孔231は、
図2に示すように、隣り合う貫通孔231の間隔が概ね一定となるように規則的に配置されていてもよい。また、図には示さないが、貫通孔231は無秩序に配置されていてもよい。
【0021】
アノード拡散層23に設けられた複数の貫通孔231のうち、少なくとも一部の貫通孔231は、
図1に示すアノード側セパレータ3の燃料流路32と対面する位置に配置されていることが好ましい。後述するように、アノード側セパレータ3の燃料流路は、ギ酸燃料電池1の外部から供給されたギ酸を流通可能に構成されている。そのため、燃料流路32に対面する位置に貫通孔231を設けることにより、燃料流路内を流れるギ酸が貫通孔231内により進入しやすくなる。それ故、この場合には、ギ酸がアノード拡散層23全体により拡散しやすくなり、ギ酸燃料電池1の出力をより容易に向上させることができる。
【0022】
貫通孔231を燃料流路32に対面する位置に配置する方法としては、例えば、貫通孔231の間隔を燃料流路32の幅よりも狭くする方法が考えられる。このように、貫通孔231の間隔を燃料流路32の幅よりも狭くすることにより、アノード拡散層23における燃料流路32に対面する位置に、いずれかの貫通孔231を確実に配置することができる。同様の観点から、貫通孔231の間隔を、燃料流路32と、当該燃料流路32に隣り合う燃料流路との間隔よりも狭くすることが好ましい。
【0023】
アノード拡散層23への貫通孔231の形成方法は特に限定されることはなく、種々の態様を取り得る。例えば、貫通孔231は、カーボンペーパーに針を刺入することにより形成されていてもよい。また、貫通孔231は、パンチなどの工具を用いてカーボンペーパーを打ち抜くことにより形成されていてもよい。さらに、貫通孔231は、カーボンペーパーにレーザ光を照射することにより形成されていてもよい。
【0024】
アノード拡散層23における貫通孔231の円相当径は、少なくともアノード拡散層23における細孔の開口径、つまり、アノード拡散層23の表面における、導電性炭素繊維や炭素の間の隙間の大きさよりも大きければよい。より具体的には、アノード拡散層における貫通孔231の円相当径は、例えば10μm以上であればよい。
【0025】
アノード拡散層23における貫通孔231の円相当径は、50μm以上であることが好ましく、60μm以上であることがより好ましく、70μm以上であることがさらに好ましく、80μm以上であることが特に好ましい。この場合には、ギ酸が貫通孔231内により進入しやすくなるため、その結果、ギ酸がアノード拡散層23全体により拡散しやすくなり、ギ酸燃料電池1の出力をより向上させることができる。
【0026】
一方、貫通孔231の円相当径が過度に大きくなると、アノード22に供給されるギ酸の量が過度に多くなり、アノード22における電極反応とカソード24における電極反応とのバランスが損なわれるおそれがある。その結果、かえってギ酸燃料電池1の出力の低下を招くおそれがある。貫通孔231の円相当径を好ましくは180μm以下、より好ましくは160μm以下、さらに好ましくは140μm以下、特に好ましくは120μm以下とすることにより、かかる問題を容易に回避することができる。
【0027】
貫通孔231の円相当径の好ましい範囲を構成するに当たっては、前述した貫通孔231の円相当径の上限と下限とを任意に組み合わせることができる。例えば、貫通孔231の円相当径の好ましい範囲は、50μm以上180μm以下であってもよく、60μm以上160μm以下であってもよく、70μm以上140μm以下であってもよく、80μm以上120μm以下であってもよい。
【0028】
貫通孔231の円相当径は、例えば以下の方法により測定することができる。まず、顕微鏡等を用いて取得したアノード拡散層23の拡大写真を取得する。この拡大写真において、貫通孔231に内接する円を決定し、この内接円の直径を貫通孔231の円相当径とする。なお、以上の操作は、画像解析ソフト等を用いて行うことができる。
【0029】
アノード拡散層23における貫通孔231の開口面積の面積率は、例えば10%以下の範囲から適宜設定することができる。貫通孔231の開口面積の面積率が過度に高い場合には、アノード22に供給されるギ酸の量が過度に多くなり、アノード22における電極反応とカソード24における電極反応とのバランスが損なわれるおそれがある。その結果、かえってギ酸燃料電池1の出力の低下を招くおそれがある。また、貫通孔231の開口面積の面積率が過度に高い場合には、アノード拡散層23がその形状を維持できなくなるおそれもある。これらの問題を容易に回避する観点から、貫通孔231の開口面積の面積率は10%以下であることが好ましく、9%以下であることがより好ましく、8%以下であることがさらに好ましく、7%以下であることが特に好ましく、6%以下であることが最も好ましい。
【0030】
一方、貫通孔231の開口面積の面積率は、0.5%以上であることが好ましく、1%以上であることがより好ましく、2%以上であることがさらに好ましく、3%以上であることが特に好ましい。このように、貫通孔231の開口面積の面積率を適度に高くすることにより、ギ酸がアノード拡散層23全体により拡散しやすくなり、ギ酸燃料電池1の出力をより高めることができる。
【0031】
貫通孔231の開口面積の面積率の好ましい範囲を構成するに当たっては、前述した貫通孔231の開口面積の面積率の上限と下限とを任意に組み合わせることができる。例えば、貫通孔231の開口面積の面積率の好ましい範囲は、0.5%以上10%以下であってもよく、1%以上9%以下であってもよく、1%以上8%以下であってもよく、1%以上7%以下であってもよく、2%以上6%以下であってもよい。
【0032】
アノード拡散層23に供給されるギ酸の量を適正な範囲内にし、ギ酸燃料電池1の出力をより向上させる観点からは、アノード拡散層23における貫通孔231の開口面積の面積率は1%以上8%であることが好ましく、2%以上6%以下であることがより好ましい。また、アノード拡散層23における貫通孔231の開口面積の面積率を2%以上6%以下にすることにより、ギ酸燃料電池1の出力をより向上させる効果に加え、ギ酸のクロスオーバー、つまり、アノード22に供給されたギ酸が電解質膜21を透過してカソード24に到達する現象を抑制することができる。
【0033】
貫通孔231の開口面積の面積率は、例えば以下の方法により測定することができる。まず、顕微鏡等を用い、視野内に10箇所以上の貫通孔231が含まれるようにしてアノード拡散層23の拡大写真を取得する。この拡大写真における個々の貫通孔231について、貫通孔231に内接する円を決定し、内接円の面積を算出する。そして、拡大写真の視野の面積に対する貫通孔231の内接円の面積の合計の比率を、貫通孔231の開口面積の面積率とする。
【0034】
図1に示すように、MEA2におけるカソード24上には、カソード拡散層25が設けられている。カソード拡散層25としては、導電性炭素繊維と炭素との複合材料であるカーボンペーパーや導電性炭素繊維からなるカーボンクロス等の、細孔や隙間を有する導電性炭素材料を用いることができる。また、カソード拡散層25として、アノード拡散層23と同様の、貫通孔を備えたカーボンペーパーを使用することもできる。
【0035】
カソード拡散層25としては、カーボンクロスまたは貫通孔を有しないカーボンペーパーを用いることが好ましく、貫通孔を有しないカーボンペーパーを用いることがより好ましい。この場合には、貫通孔の形成に伴う加工コストが生じないため、コストの上昇を容易に回避することができる。
【0036】
カソード拡散層25がカーボンクロスから構成されている場合、アノード拡散層23における貫通孔231の開口面積の面積率は1%以上7%以下であることが好ましい。この場合には、ギ酸燃料電池1の出力をより向上させることができる。
【0037】
また、カソード拡散層25がカーボンペーパーから構成されている場合、アノード拡散層23における貫通孔231の開口面積の面積率は2%以上8%以下であることが好ましい。この場合にも、ギ酸燃料電池1の出力をより向上させることができる。同様の観点から、カソード拡散層25がカーボンペーパーから構成されている場合には、アノード拡散層23における貫通孔231の開口面積の面積率が1%以上9%以下であり、貫通孔231の円相当径が60μm以上130μm以下であることが好ましい。
【0038】
アノード側セパレータ3は、MEA2におけるアノード22を有する側の面上に設けられている。アノード側セパレータ3は、金メッキが施されたステンレス鋼等の金属材料や、導電性カーボンなどの導電性非金属材料、導電性複合材料等の電気伝導体から構成されていてもよい。電気伝導性を有するアノード側セパレータ3は、MEA2での電極反応によって生じた電子を集める集電体として機能し、MEA2で発電した電力を外部へ導くことができる。
【0039】
アノード側セパレータ3におけるアノード拡散層23と当接する電極当接面31には、アノード22に燃料を供給可能に構成された燃料流路32が設けられている。燃料流路32の形状や配置などは、種々の態様をとり得る。例えば、燃料流路32は、矩形状、三角形状及び半円状などの断面形状を有し、アノード側セパレータ3に設けられた溝であってもよい。また、燃料流路32は、例えば、互いに平行に並んだ複数の直線部と、各直線部の端部と当該直線部に隣接する直線部の端部とを接続する折り返し部とを有しており、当接面側から見た平面視において、蛇行するように配置されていてもよいが、これ以外の配置も取り得る。
【0040】
MEA2におけるカソード24を有する側の面上には、カソード側セパレータ4が設けられている。カソード側セパレータ4は、アノード側セパレータ3と同様に、金メッキが施されたステンレス鋼等の金属材料や、導電性カーボンなどの導電性非金属材料、導電性複合材料等の電気伝導体から構成されていてもよい。電気伝導性を有するカソード側セパレータ4は、MEA2での電極反応によって生じた電子を集める集電体として機能し、MEA2で発電した電力を外部へ導くことができる。
【0041】
カソード側セパレータ4におけるカソード拡散層25と当接する電極当接面41には、カソード24に酸化剤を供給可能に構成された酸化剤流路42が設けられている。酸化剤流路42の形状や配置などは、燃料流路32と同様に種々の態様をとり得る。例えば、酸化剤流路42は、矩形状、三角形状及び半円状などの断面形状を有し、カソード側セパレータ4に設けられた溝であってもよい。また、酸化剤流路42は、例えば、互いに平行に並んだ複数の直線部と、各直線部の端部と当該直線部に隣接する直線部の端部とを接続する折り返し部とを有しており、当接面側から見た平面視において、蛇行するように配置されていてもよいが、これ以外の配置も取り得る。
【0042】
MEA2の電解質膜21とアノード側セパレータ3との間及び電解質膜21とカソード側セパレータ4との間には、それぞれ、シール材5が設けられている。シール材5は、電解質膜21とアノード側セパレータ3との間の隙間及び電解質膜21とカソード側セパレータ4との間の隙間を閉鎖し、ギ酸燃料電池1の内部から外部への意図しないギ酸の漏出等を抑制することができるように構成されている。
【0043】
本形態のギ酸燃料電池1におけるアノード拡散層23は、その厚み方向に貫通した複数の貫通孔231を有するカーボンペーパーから構成されている。このように、複数の貫通孔231が形成されたカーボンペーパーをアノード拡散層23として用いることにより、比較的拡散性の低いギ酸を燃料として用いる場合においても、ギ酸をアノード拡散層23全体に容易に拡散させることができる。そして、アノード拡散層23内においてギ酸が拡散しやすくなることにより、アノード22へのギ酸の供給を円滑に行い、ギ酸燃料電池1の出力を高めることができる。
【0044】
(実験例1)
本例では、貫通孔231の態様を種々変更したアノード拡散層23を作製し、これらのアノード拡散層23を備えたギ酸燃料電池1の出力の評価を行った。なお、本実験例以降において用いた符号のうち、既出の形態において用いた符号と同一の符号は、特に示さない限り、既出の実施形態における構成要素と同様の構成要素等を表す。
【0045】
本例において使用したアノード拡散層23(表1、試験体A1~A6)は、いずれも、燃料電池のガス拡散層用に構成されたカーボンペーパー(具体的には、東レ株式会社製カーボンペーパー「TGP-H-060-H」)から構成されており、複数の貫通孔231を有している。アノード拡散層23に設けられた貫通孔231の円相当径は、表1に示すように80μmまたは150μmのいずれかであり、隣り合う貫通孔231の間隔が表1に示す値となるように形成されている。
図3に、一例として、試験体A2の表面をマイクロスコープで観察した拡大写真を示す。なお、貫通孔231は、カーボンペーパーに刺針機を用いて針を刺入することにより形成されている。
【0046】
表1に、試験体A1~A6における貫通孔231の開口面積の面積率を示す。なお、表1に示す試験体B1は、試験体A1~A6との比較のための試験体である。試験体B1は、貫通孔231を有しないカーボンペーパー(具体的には、東レ株式会社製カーボンペーパー「TGP-H-060-H」)から構成されている。
【0047】
次に、表1に示すいずれかの試験体を用いてギ酸燃料電池1を組み立て、最大電力密度の測定を行った。ギ酸燃料電池1の構成及び最大電力密度の測定方法は以下の通りである。
【0048】
〔ギ酸燃料電池1の構成〕
本例のギ酸燃料電池1は、
図1に示す実施形態1のギ酸燃料電池と同様に、MEA2と、MEA2のアノード22上に配置されたアノード拡散層23と、アノード拡散層23上に配置されたアノード側セパレータ3と、MEA2のカソード24上に配置されたカソード拡散層25と、カソード拡散層25上に配置されたカソード側セパレータ4とを有している。また、MEA2の電解質膜21とアノード側セパレータ3との間及び電解質膜21とカソード側セパレータ4との間にはシール材5が設けられている。
【0049】
本例におけるMEA2の電解質膜21は、パーフルオロアルキルスルホン酸系ポリマーから構成されている。また、アノード22及びカソード24には、電解質としてのパーフルオロアルキルスルホン酸系ポリマーと貴金属触媒とが含まれている。MEA2は、電解質膜21の両面に、電解質と貴金属触媒とを含む電極合材を塗布することにより得られる。
【0050】
また、カソード拡散層25としては、貫通孔231を有しないカーボンペーパーを使用した。
【0051】
〔最大電力密度〕
ギ酸燃料電池1に負荷を接続した状態でギ酸燃料電池1から電力を発生させ、電流-電力曲線を取得した。そして、この電流-電力曲線における電力の最大値を試験体の面積で除することにより最大電力密度を算出した。なお、発電時のギ酸燃料電池1の温度は60℃とした。また、燃料としては濃度5mol/Lのギ酸を使用し、燃料の流量は5mL/分とした。酸化剤としては乾燥空気を使用し、酸化剤の流量は1L/分とした。各試験体を用いた場合のギ酸燃料電池1の最大電力密度は表1に示す通りであった。
【0052】
【0053】
表1に示すように、貫通孔231を有するカーボンペーパーからなる試験体A1~A6は、貫通孔231を有しないカーボンペーパーからなる試験体B1に比べてギ酸燃料電池1の最大電力密度を向上させることができた。
【0054】
(実験例2)
本例では、カソード拡散層25としてカーボンクロスを使用した場合のギ酸燃料電池1の出力及びギ酸のクロスオーバー量の測定を行った例を説明する。本例において使用した試験体A1~A4及び試験体B1の構成及び作製方法は、実験例1と同様である。また、本例において組み立てたギ酸燃料電池1の構成は、カソード拡散層25としてカーボンペーパーに替えてカーボンクロスを使用した以外は実験例1と同様である。
【0055】
このようにして作製したギ酸燃料電池1を用い、酸化剤として乾燥空気に替えて酸素を使用したこと以外は実験例1と同様の方法により最大電力密度の測定を行った。表2に、各試験体を用いたギ酸燃料電池1の最大電力密度を示す。
【0056】
ギ酸のクロスオーバー量の測定方法は以下の通りである。
【0057】
〔クロスオーバー量〕
最大電力密度の測定を行っているときに、単位時間あたりにカソード24から発生する二酸化炭素の量を測定し、この二酸化炭素の量をギ酸の量に換算することによりギ酸のクロスオーバー量を算出した。各試験体を用いた場合のギ酸燃料電池1におけるギ酸のクロスオーバー量は表2に示す通りであった。
【0058】
【0059】
表2に示すように、カーボンクロスからなるカソード拡散層25を使用する場合においても、貫通孔231を有する試験体A1~A4は、貫通孔231を有しない試験体B1に比べてギ酸燃料電池1の最大電力密度を向上させることができた。また、これらの試験体の中でも、貫通孔231の開口面積の面積率が2%以上6%以下である試験体A2及び試験体A3は、試験体A1及び試験体A4に比べて最大電力密度を向上させることができると共に、ギ酸のクロスオーバー量を低減することができた。
【0060】
以上、実施形態及び実験例に基づいて前記ギ酸燃料電池の態様を説明したが、本発明に係るギ酸燃料電池の具体的な態様は前述した実施形態及び実験例の態様に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜構成を変更することができる。
【符号の説明】
【0061】
1 ギ酸燃料電池
2 膜電極接合体
21 電解質膜
22 アノード
23 アノード拡散層
231 貫通孔
24 カソード
25 カソード拡散層
3 アノード側セパレータ
4 カソード側セパレータ