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特開2024-12125モリブデンを含有するトランスミッション潤滑剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024012125
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】モリブデンを含有するトランスミッション潤滑剤
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/04 20060101AFI20240118BHJP
   C10M 159/24 20060101ALN20240118BHJP
   C10M 137/10 20060101ALN20240118BHJP
   C10M 139/00 20060101ALN20240118BHJP
   C10M 135/18 20060101ALN20240118BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20240118BHJP
   C10N 10/12 20060101ALN20240118BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20240118BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20240118BHJP
【FI】
C10M169/04
C10M159/24
C10M137/10 A
C10M139/00 Z
C10M135/18
C10N10:04
C10N10:12
C10N40:04
C10N30:06
【審査請求】未請求
【請求項の数】25
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023110422
(22)【出願日】2023-07-05
(31)【優先権主張番号】17/812,713
(32)【優先日】2022-07-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】391007091
【氏名又は名称】アフトン・ケミカル・コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】Afton Chemical Corporation
(74)【代理人】
【識別番号】110002848
【氏名又は名称】弁理士法人NIP&SBPJ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブライアン ロック
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA02A
4H104BA04A
4H104BA07A
4H104BB08A
4H104BB23A
4H104BB41A
4H104BG10C
4H104BH03A
4H104BH07C
4H104CB14A
4H104DA02A
4H104DA06A
4H104DB07C
4H104FA02
4H104FA06
4H104LA03
4H104PA03
(57)【要約】      (修正有)
【課題】Caterpillar TO-4規格の要求を満たすトランスミッション流体組成物を提供する。
【解決手段】トランスミッション流体組成物が、50重量%を超える潤滑粘度の基油と、2000ppm~5000ppmのカルシウムを提供する量の1つ以上の過塩基性スルホン酸カルシウム清浄剤と、700ppm~1500ppmの亜鉛を提供する量の1つ以上の亜鉛ジアルキルジチオホスフェート化合物と、5ppmw~300ppmwのモリブデンを提供する量の1つ以上のモリブデン含有化合物と、を含み、1つ以上のモリブデン含有化合物が、モリブデンジチオカルバメート、モリブデンホスホロジチオエート、有機モリブデン錯体、モリブデンジアルキルジチオホスフェート、及びそれらの混合物からなる群から選択される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランスミッション流体組成物であって、
50重量%を超える潤滑粘度の基油と、
前記トランスミッション流体組成物に対して2000ppm~5000ppmのカルシウムを提供する量の1つ以上の過塩基性スルホン酸カルシウム清浄剤と、
前記トランスミッション流体組成物に対して700ppm~1500ppmの亜鉛を提供する量の1つ以上の亜鉛ジアルキルジチオホスフェート化合物と、
前記トランスミッション流体組成物に対して5ppmw~300ppmwのモリブデンを提供する量の1つ以上のモリブデン含有化合物と、を含み、全ての量が、前記トランスミッション流体組成物の総重量に基づいており、前記1つ以上のモリブデン含有化合物が、モリブデンジチオカルバメート、モリブデンホスホロジチオエート、有機モリブデン錯体、モリブデンジアルキルジチオホスフェート、及びそれらの混合物からなる群から選択される、トランスミッション流体組成物。
【請求項2】
前記1つ以上のモリブデン含有化合物が、前記トランスミッション流体組成物の総重量に基づいて、前記トランスミッション流体組成物に対して10ppmw~280ppmwのモリブデン、又は15ppmw~240ppmwのモリブデン、又は25ppmw~200ppmwのモリブデンを提供する量で存在する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記1つ以上のモリブデン含有化合物が、前記トランスミッション流体組成物の総重量に基づいて、前記トランスミッション流体組成物に対して15ppmw~240ppmwのモリブデンを提供する量で存在する、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記1つ以上のモリブデン含有化合物が、前記トランスミッション流体組成物の総重量に基づいて、前記トランスミッション流体組成物に対して25ppmw~200ppmwのモリブデンを提供する量で存在する、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記1つ以上のモリブデン含有化合物が、前記トランスミッション流体組成物の総重量に基づいて、前記トランスミッション流体組成物に対して30ppmw~120ppmwのモリブデンを提供する量で存在する、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記トランスミッション流体が、Caterpillar静摩擦試験SEQ 1221の要求を満たす、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記1つ以上の亜鉛ジアルキルジチオホスフェート化合物が、各々3~10個の炭素原子を有するアルキル基を有する1つ以上の一級アルキルアルコールから誘導される、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記1つ以上の一級アルキルアルコールの前記アルキル基が、ヒドロキシル基に対してベータ炭素で分枝を有する、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記1つ以上の亜鉛ジアルキルジチオホスフェート化合物が、前記トランスミッション流体組成物の総重量に基づいて、前記トランスミッション流体組成物に対して750ppm~1400ppmの亜鉛を提供する量で存在する、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記1つ以上の亜鉛ジアルキルジチオホスフェート化合物が、前記トランスミッション流体組成物の総重量に基づいて、前記トランスミッション流体組成物に対して800ppm~1300ppmの亜鉛を提供する量で存在する、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記1つ以上の亜鉛ジアルキルジチオホスフェート化合物が、前記トランスミッション流体組成物の総重量に基づいて、前記トランスミッション流体組成物に対して850ppm~1200ppmの亜鉛を提供する量で存在する、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記1つ以上の過塩基性スルホン酸カルシウム清浄剤が、ASTM D-2896の方法によって測定される場合、200mg KOH/g以上の総塩基価(TBN)を有する、請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
前記1つ以上の過塩基性スルホン酸カルシウム清浄剤が、ASTM D-2896の方法によって測定される場合、250mg KOH/g以上の総塩基価(TBN)を有する、請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
前記1つ以上の過塩基性スルホン酸カルシウム清浄剤が、ASTM D-2896の方法によって測定される場合、300mg KOH/g以上の総塩基価(TBN)を有する、請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
前記1つ以上の過塩基性スルホン酸カルシウム清浄剤が、ASTM D-2896の方法によって測定される場合、350mg KOH/g以上の総塩基価(TBN)を有する、請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
前記1つ以上の過塩基性スルホン酸カルシウム清浄剤が、ASTM D-2896の方法によって測定される場合、400mg KOH/g以上の総塩基価(TBN)を有する、請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
前記モリブデン含有化合物が、以下の式のモリブデンジチオカルバメート:
【化1】
(式中、Y及びXが、独立して、酸素及び硫黄から選択され、各X及び各Yが、同じであってもよく、又は異なっていてもよく、Rが、1~30個の炭素原子を有する直鎖又は分枝鎖アルキル基から選択される)
以下の式のモリブデンジアルキルホスホロジチオエート:
【化2】
(式中、Rが、1~30個の炭素原子を有する直鎖又は分枝鎖アルキル基であるか、又はRが、2~30個の炭素原子を有するアルケニル基であり、各R基が、同じであってもよく、又は異なっていてもよい)
以下の式のモリブデンジアルキルジチオホスフェート:
【化3】
(式中、Rが、1~20個の炭素原子を有する直鎖又は分枝鎖アルキル基であり、各R基が、同じであってもよく、又は異なっていてもよい)
モリブデンスクシンイミド錯体又は有機アミドの有機モリブデン錯体、及び
前記化合物及び錯体のうちのいずれか2つ以上の混合物から選択される、請求項1~16のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項18】
前記トランスミッション流体組成物の総重量に基づいて、前記トランスミッション流体組成物に対して10ppm~200ppmの窒素を提供する量の1つ以上の分散剤を更に含む、請求項1~17のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項19】
前記1つ以上の分散剤が、スクシンイミド分散剤を含む、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
前記分散剤が、前記トランスミッション流体組成物の総重量に基づいて、5.0重量%未満の量で存在する、請求項18又は19に記載の組成物。
【請求項21】
前記分散剤が、前記トランスミッション流体組成物の総重量に基づいて、3.0重量%未満の量で存在する、請求項18又は19に記載の組成物。
【請求項22】
前記分散剤が、前記トランスミッション流体組成物の総重量に基づいて、1.0重量%未満の量で存在する、請求項18又は19に記載の組成物。
【請求項23】
前記トランスミッション流体が、オフロード車両及び/又は重機における使用のために配合される、請求項1~22のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項24】
トランスミッションを操作する方法であって、前記トランスミッションを、請求項1~23のいずれか一項に記載のトランスミッション流体組成物で潤滑させることを含む、方法。
【請求項25】
トランスミッションにおいてベアリングピッチング保護を提供し、Caterpillar TO-4 SEQ 1221に従う静摩擦性能に合格するための方法であって、前記トランスミッションを、請求項1~23のいずれか一項に記載のトランスミッション流体組成物で潤滑させることを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、摩擦要求を満たしつつ、ベアリングピッチング保護を提供するためにトランスミッションを潤滑させるための、亜鉛ジアルキルジチオホスフェート及びカルシウム清浄剤と組み合わせたモリブデン含有成分を含有するトランスミッション流体に関する。
【背景技術】
【0002】
潤滑組成物は、操作条件下で機械に対する損傷を防止するために使用される。具体的には、境界潤滑条件下では、潤滑剤は、有害な金属と金属の接触を最小限に抑えるように作用しなければならない。潤滑剤添加剤の化学は、境界潤滑条件下で保護を提供するのに有用であるが、これらの添加剤は、他の性能特徴に悪影響を及ぼすことがある。例えば、潤滑剤は、例えばピッチングを低減することなどによって表面疲労保護などを提供することができる場合があるが、摩擦性能に関する厳格な要求を満たすことができない場合がある。
【0003】
1990年代初期に、Caterpillar Corporationは、Caterpillarの重車両機で使用するための「Caterpillar TO-4」規格(2005年6月23日バージョン)として指定された一連のトランスミッション及びトライブトレイン流体の要求を導入した。「Caterpillar TO-4」規格の要求を満たす潤滑剤組成物は、オフロード用途に好適であると考えられる。全てのCaterpillar TO-4潤滑剤組成物は、Caterpillar TO-4規格に示されている特定の摩耗、粘度測定及び摩擦条件を含むいくつかの基準に適合しなければならない。ファイナルドライブ及びパワーシフトトランスミッション潤滑剤に使用される添加剤の多くは、多機能であり、許容される摩擦特徴を維持しつつ、ベアリングピッチング保護を提供する等、特性間に矛盾があることが多い。
【0004】
具体的には、Caterpillar TO-4準拠の潤滑剤組成物は、潤滑剤組成物の静摩擦特性に関する特定の要件を満たさなければならない。例えば、クランクケース潤滑剤組成物は、通常、摩擦調整剤を含有するため、Caterpillar TO-4規格による静摩擦特性の要求を満たさない。したがって、モリブデン含有摩擦調整剤の使用は、かかる摩擦調整剤がCaterpillar TO-4規格にもはや適合しないレベルまで静摩擦を低下させ得るため、典型的には、オフロード用途に向けた潤滑剤では回避される。
【0005】
Caterpillar TO-4規格の静摩擦要件を依然として満たしつつ、ベアリングピッチングの問題に対処するのに好適な潤滑剤組成物を特定する必要がある。
【0006】
欧州特許第2789679号は、TO-4規格を満たす潤滑剤組成物に関し、これを記載し、及びオフロード車両及び/又は機械を潤滑させる方法に関する。これらの潤滑剤は、構造P(=S)(SR)(OR)(OR)を有する少なくとも1つの無灰成分と、金属ジアルキルジチオホスフェート塩、例えば、亜鉛ジアルキルジチオホスフェートと、を含む。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、以下の文章によって説明され得る。
【0008】
1.第1の態様では、本発明は、トランスミッション流体組成物であって、
50重量%を超える潤滑粘度の基油と、
トランスミッション流体組成物に対して約2000ppm~約5000ppmのカルシウムを提供する量の1つ以上の過塩基性スルホン酸カルシウム清浄剤と、
トランスミッション流体組成物に対して約700ppm~約1500ppmの亜鉛を提供する量の1つ以上の亜鉛ジアルキルジチオホスフェート化合物と、
トランスミッション流体組成物に対して約5ppmw~約300ppmwのモリブデンを提供する量の1つ以上のモリブデン含有化合物と、を含み、
全ての量が、トランスミッション流体組成物の総重量に基づいており、1つ以上のモリブデン含有化合物が、モリブデンジチオカルバメート、モリブデンホスホロジチオエート、有機モリブデン錯体、モリブデンジアルキルジチオホスフェート、及びそれらの混合物からなる群から選択される、トランスミッション流体組成物に関する。
2.1つ以上のモリブデン含有化合物が、トランスミッション流体組成物の総重量に基づいて、トランスミッション流体組成物に対して約10ppmw~約280ppmwのモリブデン、又は約15ppmw~約240ppmwのモリブデン、又は約25ppmw~約200ppmwのモリブデンを提供する量で存在し得る、文章1の組成物。
3.1つ以上のモリブデン含有化合物が、トランスミッション流体組成物の総重量に基づいて、トランスミッション流体組成物に対して約30ppmw~約120ppmwのモリブデンを提供する量で存在し得る、文章1又は2の組成物。
4.トランスミッション流体が、Caterpillar静摩擦試験SEQ 1221の要求を満たし得る、文章1~3のうちのいずれか1つの組成物。
5.1つ以上の亜鉛ジアルキルジチオホスフェート化合物が、各々3~10個の炭素原子を有するアルキル基を有する1つ以上の一級アルキルアルコールから誘導され得る、文章1~4のうちのいずれか1つの組成物。
6.1つ以上の一級アルキルアルコールのアルキル基が、ヒドロキシル基に対してベータ炭素で分枝を有し得る、文章5の組成物。
7.1つ以上の亜鉛ジアルキルジチオホスフェート化合物が、トランスミッション流体組成物の総重量に基づいて、トランスミッション流体組成物に対して約750ppm~約1400ppmの亜鉛、又は約800ppm~約1300ppmの亜鉛、又は約850ppm~約1200ppmの亜鉛を提供する量で存在し得る、文章1~6のうちのいずれか1つの組成物。
8.過塩基性スルホン酸カルシウム清浄剤が、ASTM D-2896の方法によって測定される場合、約200mg KOH/g以上、又は約250mg KOH/g以上、又は約300mg KOH/g以上、又は約350mg KOH/g以上、又は約375mg KOH/g以上、又は約400mg KOH/g以上の総塩基価(total base number、TBN)を有し得る、文章1~7のうちのいずれか1つの組成物。
9.モリブデン含有化合物が、以下の式のモリブデンジチオカルバメート:
【0009】
【化1】
(式中、Y及びXが、独立して、酸素及び硫黄から選択され、各X及び各Yが、同じであってもよく、又は異なっていてもよく、Rが、1~30個の炭素原子を有する直鎖又は分枝鎖アルキル基から選択される)
以下の式のモリブデンジアルキルホスホロジチオエート:
【0010】
【化2】
(式中、Rが、1~30個の炭素原子を有する直鎖又は分枝鎖アルキル基であるか、又はRが、2~30個の炭素原子を有するアルケニル基であり、各R基が、同じであってもよく、又は異なっていてもよい)
以下の式のモリブデンジアルキルジチオホスフェート:
【0011】
【化3】
(式中、Rが、1~20個の炭素原子を有する直鎖又は分枝鎖アルキル基であり、各R基が、同じであってもよく、又は異なっていてもよい)、及び
モリブデンスクシンイミド錯体又は有機アミドの有機モリブデン錯体、及び
前述の化合物及び錯体のうちのいずれか2つ以上の混合物から選択され得る、文章1~8のうちのいずれか1つの組成物。
10.トランスミッション流体組成物の総重量に基づいて、トランスミッション流体組成物に対して約10ppm~約200ppmの窒素を提供する量の1つ以上の分散剤を更に含み得る、文章1~9のうちのいずれか1つの組成物。
11.1つ以上の分散剤が、スクシンイミド分散剤を含み得る、文章10の組成物。
12.分散剤が、トランスミッション流体組成物の総重量に基づいて、5.0重量%未満、又は3.0重量%未満、又は1.0重量%未満の量で存在し得る、文章10~11のうちのいずれか1つの組成物。
13.第2の態様では、本発明は、トランスミッションを操作する方法であって、前述のトランスミッションを、トランスミッション流体組成物で潤滑させることを含み、トランスミッション流体組成物が、
50重量%を超える潤滑粘度の基油と、
トランスミッション流体組成物に対して約2000~約5000ppmのカルシウムを提供する量の1つ以上の過塩基性スルホン酸カルシウム清浄剤と、
トランスミッション流体組成物に対して約700~約1500ppmの亜鉛を提供する量の1つ以上の亜鉛ジアルキルジチオホスフェート化合物と、
トランスミッション流体組成物に対して約5ppmw~約300ppmwのモリブデンを提供する量の1つ以上のモリブデン含有化合物と、を含み、
全ての量が、トランスミッション流体組成物の総重量に基づいており、1つ以上のモリブデン含有化合物が、モリブデンジチオカルバメート、モリブデンホスホロジチオエート、有機モリブデン錯体、及びモリブデンジアルキルジチオホスフェートからなる群から選択される、方法に関する。
14.1つ以上のモリブデン含有化合物が、トランスミッション流体組成物の総重量に基づいて、トランスミッション流体組成物に対して約10ppmw~約280ppmwのモリブデン、又は約15ppmw~約240ppmwのモリブデン、又は約25ppmw~約200ppmwのモリブデンを提供する量で存在する、文章13の方法。
15.1つ以上のモリブデン含有化合物が、トランスミッション流体組成物の総重量に基づいて、トランスミッション流体組成物に対して約30ppmw~約120ppmwのモリブデンを提供する量で存在し得る、文章13又は14の方法。
16.1つ以上の亜鉛ジアルキルジチオホスフェート化合物が、各々3~10個の炭素原子を有するアルキル基を有する1つ以上の一級アルキルアルコールから誘導され得る、文章13~15のうちのいずれか1つの方法。
17.1つ以上の一級アルキルアルコールのアルキル基が、ヒドロキシル基に対してベータ炭素で分枝を有し得る、文章16の方法。
18.1つ以上の亜鉛ジアルキルジチオホスフェート化合物が、トランスミッション流体組成物の総重量に基づいて、トランスミッション流体組成物に対して約750ppm~約1400ppmの亜鉛、又は約800ppm~約1300ppmの亜鉛、又は約850ppm~約1200ppmの亜鉛を提供する量で存在し得る、文章13~17のうちのいずれか1つの方法。
19.過塩基性スルホン酸カルシウム清浄剤が、ASTM D-2896の方法によって測定される場合、約200mg KOH/g以上、又は約250mg KOH/g以上、又は約300mg KOH/g以上、又は約350mg KOH/g以上、又は約375mg KOH/g以上、又は約400mg KOH/g以上の総塩基価(TBN)を有し得る、文章13~18のうちのいずれか1つの方法。
20.モリブデン含有化合物が、以下の式のモリブデンジチオカルバメート:
【0012】
【化4】
(式中、Y及びXが、独立して、酸素及び硫黄から選択され、各X及び各Yが、同じであってもよく、又は異なっていてもよく、Rが、1~30個の炭素原子を有する直鎖又は分枝鎖アルキル基から選択される)
以下の式のモリブデンジアルキルホスホロジチオエート:
【0013】
【化5】
(式中、Rが、1~30個の炭素原子を有する直鎖又は分枝鎖アルキル基であるか、又はRが、2~30個の炭素原子を有するアルケニル基であり、各R基が、同じであってもよく、又は異なっていてもよい)
以下の式のモリブデンジアルキルジチオホスフェート:
【0014】
【化6】
(式中、Rが、1~20個の炭素原子を有する直鎖又は分枝鎖アルキル基であり、各R基が、同じであってもよく、又は異なっていてもよい)、及び
モリブデンスクシンイミド錯体又は有機アミドの有機モリブデン錯体、及び
前述のモリブデン化合物及び錯体のうちのいずれか2つ以上の混合物から選択され得る、文章13~19のうちのいずれか1つの方法。
21.トランスミッション流体組成物の総重量に基づいて、トランスミッション流体組成物に対して約10ppm~約200ppmの窒素を提供する量の1つ以上の分散剤を更に含み得る、文章13~20のうちのいずれか1つの方法。
22.1つ以上の分散剤が、スクシンイミド分散剤を含み得る、文章21の方法。
23.分散剤が、トランスミッション流体組成物の総重量に基づいて、5.0重量%未満、又は3.0重量%未満、又は1.0重量%未満の量で存在し得る、文章21又は22の方法。
24.第3の態様では、本発明は、トランスミッションにおいてベアリングピッチング保護を提供し、Caterpillar TO-4 SEQ 1221に従う静摩擦性能に合格するための方法であって、トランスミッションを、トランスミッション流体組成物で潤滑させることを含み、トランスミッション流体組成物が、
50重量%を超える潤滑粘度の基油と、
トランスミッション流体組成物に対して約2000~約5000ppmのカルシウムを提供する量の1つ以上の過塩基性スルホン酸カルシウム清浄剤と、
トランスミッション流体組成物に対して約700~約1500ppmの亜鉛を提供する量の1つ以上の亜鉛ジアルキルジチオホスフェート化合物と、
トランスミッション流体組成物に対して約5ppmw~約300ppmwのモリブデンを提供する量の1つ以上のモリブデン含有化合物と、を含み、
全ての量が、トランスミッション流体組成物の総重量に基づいており、1つ以上のモリブデン含有化合物が、モリブデンジチオカルバメート、モリブデンホスホロジチオエート、有機モリブデン錯体、及びモリブデンジアルキルジチオホスフェートからなる群から選択される、方法に関する。
25.トランスミッション流体が、オフロード車両及び/又は重機における使用のために配合される、文章1~12のうちのいずれか1つの組成物、及び文章13~24のうちのいずれか1つの方法。
【0015】
以下の用語の定義は、本明細書で使用される特定の用語の意味を明確にするために提供される。
【0016】
「油組成物」、「潤滑組成物(lubrication composition)」、「潤滑油組成物」、「潤滑油」、「潤滑剤組成物」、「潤滑組成物(lubricating composition)」、「完全に配合された潤滑剤組成物」、「潤滑剤」、「ドライブシャフト潤滑剤」、「ドライブライン油」、「アクスル潤滑剤」、「アクスル油」、「機能性油」、「機能性流体」、「機能性潤滑剤」、「ドライブシャフト油」、「ドライブシャフト潤滑剤」、「デファレンシャル油」、及び「デファレンシャル潤滑剤」という用語は、主要な量の基油と、少量の添加剤組成物とを含む最終潤滑生成物を指す、同義の完全に互換性のある専門用語であると考えられる。
【0017】
本明細書で使用される場合、「添加剤パッケージ」、「添加剤濃縮物」、「添加剤組成物」、「機能性油添加剤パッケージ」、「機能性潤滑剤添加剤パッケージ」という用語は、主要な量の基油ストック混合物を除いたトランスミッション流体組成物の一部を指す、同義の完全に互換性のある専門用語であると考えられる。添加剤パッケージは、粘度指数向上剤又は流動点降下剤を含んでいてもよく、又は含んでいなくてもよい。
【0018】
「過塩基性」という用語は、存在する金属の量が化学量論量を超える、スルホネート、カルボキシレート、サリチレート、及び/又はフェネートの金属塩等の金属塩に関する。かかる塩は、100%を超える変換レベルを有し得る(すなわち、それらは、酸をその「正塩」、「中性塩」に変換するのに必要とされる金属の理論量の100%より多くを含み得る)。多くの場合、MR(metal ratio)と略される表現「金属比」は、既知の化学反応性及び化学量論に従って、過塩基性塩中の金属の総化学当量と中性塩中の金属の化学当量との比率を示すために使用される。正塩又は中性塩では金属比率は1であるが、過塩基性塩ではMRは1より大きい。これらは、一般的に、過塩基性、高塩基性、又は超塩基性塩と呼ばれ、有機硫黄酸、カルボン酸、サリチレート、及び/又はフェノールの塩であってもよい。
【0019】
本明細書で使用される場合、「ヒドロカルビル置換基」又は「ヒドロカルビル基」という用語は、その通常の意味で使用され、当業者には周知である。具体的には、それは、分子の残りの部分に直接結合した炭素原子を有し、かつ主に炭化水素の特徴を有する基を指す。各ヒドロカルビル基は、炭化水素置換基と、ハロ基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、メルカプト基、ニトロ基、ニトロソ基、アミノ基、ピリジル基、フリル基、イミダゾリル基、酸素、及び窒素のうちの1つ以上を含有する置換炭化水素置換基と、から独立して選択され、2個以下の非炭化水素置換基は、ヒドロカルビル基中の炭素原子10個ごとに存在する。
【0020】
本明細書で使用される場合、「ヒドロカルビレン置換基」又は「ヒドロカルビレン基」という用語は、当業者に周知のその通常の意味で使用される。具体的には、分子の2つの場所で炭素原子によって分子の残りの部分に直接結合し、主に炭化水素の特徴を有する基を指す。各ヒドロカルビレン基は、二価炭化水素置換基から独立して選択され、置換二価炭化水素置換基は、ハロ基、アルキル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、メルカプト基、ニトロ基、ニトロソ基、アミノ基、ピリジル基、フリル基、イミダゾリル基、酸素、及び窒素を含有し、2個以下の非炭化水素置換基は、ヒドロカルビレン基中の炭素原子10個ごとに存在する。
【0021】
本明細書で使用される場合、「重量パーセント」という用語は、他に明確に述べられていない限り、記載された成分が組成物全体の重量に対して表すパーセンテージを意味する。
【0022】
本明細書で使用される「可溶性」、「油溶性」、又は「分散性」という用語は、化合物又は添加剤が可溶性、溶解性、混和性、又は油中にあらゆる割合で懸濁可能であることを示し得るが、必ずしもそうではない。しかしながら、前述の用語は、それらが、例えば、油が用いられる環境においてそれらの意図された効果を発揮するのに十分な程度まで油中に可溶性、懸濁性、溶解性、又は安定して分散性であることを意味している。更に、所望ならば、他の添加剤を更に組み込むと、より高いレベルの特有な添加剤を組み込むことも可能になり得る。
【0023】
本明細書で使用される「TBN」という用語は、ASTM D2896又はASTM D4739又はDIN51639-1の方法によって測定した場合に、mgKOH/gでの総塩基価を示すのに使用される。
【0024】
本明細書で使用される「アルキル」という用語は、約1~約100個の炭素原子の直鎖、分枝鎖、環状、及び/又は置換飽和鎖部分を指す。
【0025】
本明細書で使用される「アルケニル」という用語は、約3~約10個の炭素原子の直鎖、分枝鎖、環状、及び/又は置換の不飽和鎖部分を指す。
【0026】
本明細書で使用される「アリール」という用語は、アルキル、アルケニル、アルキルアリール、アミノ、ヒドロキシル、アルコキシ、ハロ置換基、及び/又はこれらに限定されないが、窒素、酸素、及び硫黄を含むヘテロ原子を含むことができる単環式及び多環式の芳香族化合物を指す。
【0027】
「機能性流体」は、トラクタの作動流体、自動トランスミッション流体を含む動力伝達流体、連続可変トランスミッション流体及び手動トランスミッション流体、トラクタの作動流体を含む作動流体、一部のギア油、パワーステアリング流体、風力タービン、圧縮機に使用される流体、一部の工業用流体、及び動力伝達装置の部品に関連する流体を含むがこれらに限定されない様々な流体を包含する用語である。例えば、自動トランスミッション流体等のこれらの流体の各々の中には、顕著に異なる機能特性の流体を必要とする異なる設計を有する様々なトランスミッションのために様々な異なる種類の流体が存在することに留意すべきである。これは、動力の発生又は伝達に使用されない「潤滑流体」という用語とは対照的である。
【0028】
例えば、トラクタの作動流体に関しては、これらの流体は、エンジンを潤滑させることを除いて、トラクタの全ての潤滑剤用途に使用される汎用品である。これらの潤滑用途には、ギアボックス、パワーテイクオフ及びクラッチ、リアアクスル、リダクションギア、湿式ブレーキ、及び油圧アクセサリの潤滑が含まれてもよい。
【0029】
機能性流体が、自動トランスミッション流体である場合、自動トランスミッション流体は、クラッチプレートが動力を伝達するのに十分な摩擦を有していなければならない。しかしながら、流体の摩擦係数は、操作中に流体が加熱されるので温度の影響により低下する傾向を有するトラクタの作動流体又は自動トランスミッション流体は、高温で高い摩擦係数を維持することが重要であり、さもなければブレーキシステム又は自動トランスミッションが故障する可能性がある。
【0030】
本開示の更なる詳細及び利点は、以下の説明に部分的に記載され、かつ/又は本開示の実施によって習得し得る。本開示の詳細及び利点は、添付の特許請求の範囲に特に指摘された要素及び組み合わせによって実現及び達成し得る。前述の一般的な説明及び以下の詳細な説明が、両方とも例示的かつ説明的なものにすぎず、特許請求される本開示を限定するものではないことを理解されたい。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本明細書に開示されるのは、トランスミッション液組成物であって
50重量%を超える潤滑粘度の基油と、
トランスミッション流体組成物に対して約2000~約5000ppmのカルシウムを提供する量の1つ以上の過塩基性スルホン酸カルシウム清浄剤と、
トランスミッション流体組成物に対して約700~約1500ppmの亜鉛を提供する量の1つ以上の亜鉛ジアルキルジチオホスフェート化合物と、
トランスミッション流体組成物に対して約5ppmw~約300ppmwのモリブデンを提供する量の1つ以上のモリブデン含有化合物と、を含み、全ての量が、トランスミッション流体組成物の総重量に基づいており、1つ以上のモリブデン含有化合物が、モリブデンジチオカルバメート、モリブデンホスホロジチオエート、有機モリブデン錯体、及びモリブデンジアルキルジチオホスフェートからなる群から選択される、トランスミッション流体組成物である。
【0032】
また、本明細書に開示されるのは、上述のトランスミッション流体を使用してトランスミッションを潤滑させるための方法、及び上述のトランスミッション流体を使用してトランスミッションを潤滑させるステップを含む、Caterpillar TO-4静摩擦試験に合格にしつつ、ベアリングピッチングを低減するための方法である。
【0033】
基油
本開示によるトランスミッション流体組成物及びドライブライン潤滑剤を配合する際に使用するのに好適な基油は、好適な潤滑粘度を有する好適な合成若しくは天然の油又はそれらの混合物のうちのいずれかから選択され得る。天然油は、動物油及び植物油(例えば、ヒマシ油、ラード油)、並びに鉱物潤滑油、例えば、液体石油、及びパラフィン系、ナフテン系、又は混合パラフィン-ナフテン型の溶媒処理又は酸処理された鉱物潤滑油を含んでいてもよい。石炭又はシェールから誘導される油もまた好適であり得る。基油は、100℃で、2~15cSt、又は更なる例として、2~10cStの粘度を有し得る。更に、気液プロセスから誘導された油も好適である。
【0034】
好適な合成基油としては、ジカルボン酸のアルキルエステル類、ポリグリコール及びアルコール、ポリブテンを含むポリ-アルファ-オレフィン、アルキルベンゼン、リン酸の有機エステル、並びにポリシリコーン油が挙げられ得る。合成油としては、重合及び共重合オレフィン(例えば、ポリブチレン、ポリプロピレン、プロピレンイソブチレンコポリマーなど)等の炭化水素油;ポリ(1-ヘキセン)、ポリ-(1-オクテン)、ポリ(1-デセン)等、及びそれらの混合物;アルキルベンゼン(例えば、ドデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン、ジ-ノニルベンゼン、ジ-(2-エチルヘキシル)ベンゼン等);ポリフェニル(例えば、ビフェニル、ターフェニル、アルキル化ポリフェニル等);アルキル化ジフェニルエーテル、並びにそれらの誘導体、類似体及び同族体等が挙げられる。
【0035】
末端ヒドロキシル基がエステル化、エーテル化等によって修飾されているアルキレンオキシドポリマー及びインターポリマー並びにそれらの誘導体は、使用され得る別の種類の既知の合成油を構成する。かかる油は、エチレンオキシド若しくはプロピレンオキシドの重合によって製造された油、これらのポリオキシアルキレンポリマーのアルキルエーテル及びアリールエーテル(例えば、1000の平均分子量を有するメチル-ポリイソプロピレングリコールエーテル、500~1000の分子量を有するポリエチレングリコールのジフェニルエーテル、1000~1500の分子量を有するポリプロピレングリコールのジエチルエーテル等)、又はそのモノカルボン酸エステル及びポリカルボン酸エステル、例えば、酢酸エステル、混合C~C脂肪酸エステル、若しくはテトラエチレングリコールのC13オキソ酸ジエステルによって例示される。
【0036】
使用され得る別の種類の合成油としては、ジカルボン酸(例えば、フタル酸、コハク酸、アルキルコハク酸、アルケニルコハク酸、マレイン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、フマル酸、アジピン酸、リノール酸二量体、マロン酸、アルキルマロン酸、アルケニルマロン酸等)と、様々なアルコール(例えば、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、プロピレングリコール等)とのエステルが挙げられ得る。これらのエステルの具体例としては、アジピン酸ジブチル、セバシン酸ジ(2-エチルヘキシル)、フマル酸ジ-n-ヘキシル、セバシン酸ジオクチル、アゼライン酸ジイソオクチル、アゼライン酸ジイソデシル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジデシル、セバシン酸ジエイコシル、リノール酸二量体の2-エチルヘキシルジエステル、1モルのセバシン酸と2モルのテトラエチレングリコール及び2モルの2-エチルヘキサン酸とを反応させることによって形成される複合エステル等が挙げられる。
【0037】
合成油として有用なエステルとしては、C~C12モノカルボン酸並びにポリオール及びポリオールエーテル、例えばネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール等から作製されるものも挙げられる。
【0038】
したがって、本明細書に記載のトランスミッション流体組成物を作製するために使用され得る、使用される基油は、単一の基油であってもよく、又は2つ以上の基油の混合物であり得る。具体的には、1つ以上の基油は、望ましくは、American Petroleum Institute(API)Base Oil Interchangeability Guidelinesに指定されているような、グループI~Vの基油のうちのいずれかから選択され得る。そのような基油グループを、以下のように表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
1つの変形例では、前述の実施形態の各々では、基油は、少なくとも90%の飽和物を有するグループIIの基油、少なくとも90%の飽和物を有するグループIIIの基油、グループIVの基油、グループVの基油、又はこれらの基油のうちの2種以上の混合物から選択され得る。代替的に、基油は、グループIIIの基油、又はグループIVの基油、又はグループVの基油であり得るか、あるいは基油は、グループIIIの基油、グループIVの基油、及びグループVの基油のうちの2つ以上の混合物であり得る。
【0041】
基油は、少量又は多量のポリ-アルファ-オレフィン(PAO)を含有してもよい。典型的に、ポリ-アルファ-オレフィンは、4~30個、又は4~20個、又は6~16個の炭素原子を有するモノマーから誘導される。有用なPAOの例には、オクテン、デセン、それらの混合物等から誘導されるものが含まれる。PAOは、100℃で、2~15、又は3~12、又は4~8cStの粘度を有し得る。PAOの例としては、100℃で4cStのポリ-アルファ-オレフィン、100℃で6cStのポリ-アルファ-オレフィン、及びそれらの混合物が挙げられる。鉱油と前述のポリ-アルファ-オレフィンとの混合物を使用することができる。
【0042】
基油は、Fischer-Tropsch合成炭化水素から誘導された油であり得る。Fischer-Tropsch合成炭化水素は、Fischer-Tropsch触媒を使用して、H及びCOを含有する合成ガスから作製される。かかる炭化水素は、典型的には、基油として有用であるために更なる処理を必要とする。例えば、炭化水素は、米国特許第6,103,099号又は同第6,180,575号に開示されるプロセスを使用して水素異性化されてもよく、米国特許第4,943,672号又は同第6,096,940号に開示されるプロセスを使用して、水素化分解又は水素異性化されてもよく、米国特許第5,882,505号に開示される方法を使用して脱ロウしてもよく、又は米国特許第6,013,171号、同第6,080,301号、又は同第6,165,949号に開示されるプロセスを使用して、水素異性化され、脱ロウされてもよい。
【0043】
本明細書で上に開示した種類の未精製、精製、及び再精製油、天然油又は合成油のいずれか(並びにこれらのうちの任意の2つ以上の混合物)を基油に使用することができる。未精製油は、更なる精製処理なしに天然又は合成供給源から直接得られるものである。例えば、レトルト処理操作から直接得られたシェール油、一次蒸留から直接得られた石油、又はエステル化プロセスから直接得られそして更に処理することなく使用されたエステル油は、未精製油であろう。精製油は、それらが1つ以上の特性を改善するために1つ以上の精製ステップで更に処理されていることを除いて、未精製油と同様である。溶媒抽出、二次蒸留、酸又は塩基抽出、濾過、パーコレーション等の多くのそのような精製技術が当業者に知られている。再精製油は、既に現場で使用されている精製油に適用される精製油を得るために使用されるものと同様のプロセスによって得られる。そのような再精製油は、再生油又は再処理油としても知られており、使用済み添加剤、汚染物質、及び油分解生成物の除去を目的とした技術によって更に加工されることが多い。
【0044】
基油を、本明細書の実施形態に開示されるような添加剤組成物と合わせて、複数車両のトランスミッション流体組成物を提供し得る。したがって、基油は、トランスミッション流体組成物の総重量に基づいて、30重量%より多く95重量%まで、例えば、40重量%~90重量%、50重量%より多くの範囲の量で、本明細書に記載の流体組成物中に存在し得る。
【0045】
モリブデン含有成分
本明細書に記載のトランスミッション流体組成物は、1つ以上のモリブデン含有化合物を含む。油溶性モリブデン化合物は、耐摩耗剤、酸化防止剤、摩擦調整剤の機能的性能、又はこれらの機能の混合物を有し得る。油溶性モリブデン化合物としては、モリブデンジチオカルバメート、モリブデンジアルキルホスホロジチオエート、モリブデンジアルキルジチオホスフェート、モリブデンジチオホスフィナート、有機モリブデン錯体、モリブデン化合物のアミン塩、酸性モリブデン化合物、モリブデンキサンテート、モリブデンチオキサンテート、硫化モリブデン、モリブデンカルボキシレート、モリブデンアルコキシド、三核有機モリブデン化合物、及び/又はそれらの混合物が挙げられる。硫化モリブデンとしては、二硫化モリブデンが挙げられる。二硫化モリブデンは、安定な分散液の形態であり得る。
【0046】
一実施形態では、油溶性モリブデン化合物は、モリブデンジチオカルバメート、モリブデンジアルキルジチオホスフェート、モリブデン化合物のアミン塩、及びこれらの化合物のうちの2つ以上の混合物から選択される。一実施形態では、油溶性モリブデン化合物は、モリブデンジチオカルバメートである。
【0047】
本発明のモリブデンジチオカルバメートは、以下の式:
【0048】
【化7】
によって記載されてもよく、式中、Y及びXが、独立して、酸素及び硫黄から選択され、各X及び各Yが、同じであってもよく、又は異なっていてもよい。いくつかの実施形態では、Yは硫黄であり、Xは酸素である。Rは、1~30個の炭素原子、若しくは約2~約20個の炭素原子、若しくは約3個の炭素原子~約18個の炭素原子を有する直鎖又は分枝鎖アルキル基から選択されるか、又はRは、2~30個の炭素原子、若しくは約2~約20個の炭素原子、若しくは約3個の炭素原子~約18個の炭素原子を有するアルケニル基から選択され、各R基は、同じであってもよく、又は異なっていてもよい。
【0049】
モリブデンジアルキルジチオカルバメートの好適な例としては、モリブデンジエチルジチオカルバメート、モリブデンジプロピルジチオカルバメート、モリブデンジ-n-ブチルジチオ-カルバメート、モリブデンジペンチルジチオカルバメート、モリブデンジヘキシルジチオカルバメート、モリブデンジオクチルジチオカルバメート、モリブデンジデシルジチオカルバメート、モリブデンジドデシルジチオカルバメート、モリブデンジトリデシルジチオカルバメート、モリブデン(ブチルフェニル)ジチオカルバメート、及びモリブデンジ(ノニルフェニル)ジチオカルバメートが挙げられる。
【0050】
三核モリブデン化合物、例えば、三核モリブデンジアルキルジチオカルバメートも使用することができる。かかる三核モリブデン化合物は、かかる三核モリブデン化合物のそれらの開示について参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,888,945号及び同第6,010,987号によって教示されるように、当該技術分野で公知である。潤滑剤組成物中で使用され得る三核モリブデン化合物としては、式Mo(dtc)及びMo(dtc)を有するもの、及びそれらの混合物が挙げられ、dtcが、独立して選択される有機基を含有する独立して選択されるジオルガノジチオカルバメート配位子を表し、配位子が、基油中の化合物を可溶性又は分散性にするために化合物の配位子の全ての有機基の間に存在する十分な炭素原子を有する。
【0051】
本発明のモリブデンジアルキルホスホロジチオエートは、以下の式:
【0052】
【化8】
を有し、式中、Rが、1~30個の炭素原子、若しくは約2~約20個の炭素原子、若しくは約3個の炭素原子~約18個の炭素原子、若しくは約4個の炭素原子~約12個の炭素原子を有する直鎖又は分枝鎖アルキル基であるか、又はRは、2~30個の炭素原子、若しくは約2~約20個の炭素原子、若しくは約3個の炭素原子~約18個の炭素原子を有するアルケニル基であり、各R基は、同じであってもよく、又は異なっていてもよい。
【0053】
モリブデンジアルキルホスホロジチオエートの例としては、モリブデンジエチルホスホロジチオエート、モリブデンジプロピルホスホロジチオエート、モリブデンジ-n-ブチルホスホロジチオエート、モリブデンジペンチルホスホロジチオエート、モリブデンジヘキシルホスホロジチオエート、モリブデンジオクチルホスホロジチオエート、モリブデンドデシルホスホロジチオエート、モリブデンジドデシルホスホロジチオエート、モリブデンジトリデシルホスホロジチオエート、モリブデン(ブチルフェニル)ホスホロジチオエート、モリブデンジ(2-エチルヘキシル)ホスホロジチオエート、及びモリブデンジ(ノニルフェニル)ホスホロジチオエートが挙げられる。
【0054】
モリブデンジアルキルジチオホスフェートの例としては、以下の式:
【0055】
【化9】
を有するものが挙げられ、式中、Rが、1~20個の炭素原子、若しくは約1~約18個の炭素原子、若しくは約1~約16個の炭素原子、若しくは2~12個の炭素原子、若しくは約3~約8個の炭素原子を含む直鎖又は分枝鎖アルキル基であり、アルキル及びシクロアルキル部分等の部分を含み、各R基は、同じであってもよく、又は異なっていてもよい。これらの基は、例えば、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、sec-ブチル、アミル、n-ヘキシル、i-ヘキシル、4-メチル-ペンチル、n-オクチル、デシル、ドデシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、2-エチルヘキシル、ノナデシル、エイコシル、2-エチルヘキシル、シクロヘキシル、又はメチルシクロペンチルであり得る。
【0056】
本発明の有機モリブデン錯体としては、モリブデンスクシンイミド錯体又は有機アミドの有機モリブデン錯体、及びそれらの混合物が挙げられる。好適なモリブデン-スクシンイミド錯体は、例えば、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第8,076,275号に記載されている。これらの錯体は、酸性モリブデン化合物と、ポリアミンのアルキル又はアルケニルスクシンイミドとを反応させることを含むプロセスによって調製される。例えば、有機モリブデン錯体は、ココモノグリセリドとモリブデンオキシドとを反応させることによって調製され得る。
【0057】
使用可能なモリブデン化合物の好適な例としては、R.T.Vanderbilt Co.,Ltd.からのMolyvan 822(商標)、Molyvan(商標)A、Molyvan(商標)L、Molyvan(登録商標)807 NT、Molyvan(登録商標)822 NT、Molyvan(登録商標)3000、Molyvan(登録商標)855、Molyvan 2000(商標)及びMolyvan 855(商標)、及びAdeka Corporationから入手可能なSakura-Lube(商標)S-165、S-200、S-300、S-310G、S-525、S-600、S-700、及びS-710等の商品名で販売されている市販の材料、及びそれらの混合物が挙げられる。好適なモリブデン成分は、US 5,650,381、US RE 37,363 E1、US RE 38,929 E1、及びUS RE 40,595 E1に記載されており、それらの全体は参照により本明細書に組み込まれる。
【0058】
追加的に、モリブデン化合物は、酸性モリブデン化合物であり得る。モリブデン酸、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、他のモリブデン酸アルカリ金属及び他のモリブデン塩、例えば、モリブデン酸水素ナトリウム、MoOCl、MoOBr、MoCl、三酸化モリブデン、又は同様の酸性モリブデン化合物が含まれる。代替的に、組成物は、例えば、米国特許第4,263,152号、同第4,285,822号、同第4,283,295号、同第4,272,387号、同第4,265,773号、同第4,261,843号、同第4,259,195号及び同第4,259,194号、並びに国際公開第94/06897号に記載されているように、塩基性窒素化合物のモリブデン/硫黄錯体によってモリブデンを提供することができ、前述の特許文献は、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。
【0059】
別のクラスの好適な有機モリブデン化合物は、三核モリブデン化合物、例えば、式Moの化合物及びそれらの混合物であり、式中、Sは、硫黄を表し、Lは、化合物を油に可溶性又は分散性にするのに十分な数の炭素原子を有する有機基を有する独立して選択された配位子を表し、nは、1~4であり、kは、4~7で変化し、Qは、中性電子供与性化合物、例えば、水、アミン、アルコール、ホスフィン、及びエーテルの群から選択され、zは、0~5の範囲であり、非化学量論値を含む。
【0060】
典型的には、油溶性を提供するために、有機モリブデン化合物は、配位子の有機基中に少なくとも21個の総炭素原子を含有する。これらの有機モリブデン化合物は、少なくとも25個の総炭素原子、少なくとも30個の総炭素原子、又は少なくとも35個の総炭素原子を含有してもよい。
【0061】
追加の好適なモリブデン化合物は、参照により全体が本明細書に組み込まれる米国特許第6,723,685号に記載されている。
【0062】
油溶性モリブデン化合物は、トランスミッション流体組成物の総重量に基づいて、約0.005重量%~約5.0重量%、又は約0.0075重量%~約3.0重量%、又は約0.01~約2.5重量%、又は約0.015重量%~約1.0重量%の量でトランスミッション流体中に存在し得る。
【0063】
油溶性モリブデン化合物は、トランスミッション流体組成物の総重量に基づいて、トランスミッション流体組成物に対して約5ppm~約500ppm未満、約10ppm~約300ppm、約25ppm~約240ppm、約30ppm~約240ppm未満のモリブデン、約30ppm~約200ppmのモリブデン、又は約30ppm~約120ppmのモリブデンを提供するのに十分な量で、トランスミッション流体中で使用され得る。過剰量のモリブデンは、滑り過ぎるため力を生成又は伝達するのに十分でないトランスミッション流体を生成する可能性がある。
【0064】
亜鉛ジアルキルジチオホスフェート化合物
粘度制御を改善するために内燃機関において使用するための本開示のトランスミッション流体組成物は、ある量の1つ以上の亜鉛ジアルキルジチオホスフェート(zinc dialkyl dithiophosphates、ZDDP化合物)を含有する。1つ以上のZDDP化合物は、トランスミッション流体組成物の摩擦及び摩耗特性を改善することができる。
【0065】
1つ以上のZDDP化合物は、トランスミッション流体組成物の総重量に基づいて、約0.01重量%~約15重量%、又は約0.01重量%~約10重量%、又は約0.05重量%~約5重量%、又は約0.1重量%~約3重量%の量で、トランスミッション流体組成物中に存在し得る。
【0066】
1つ以上のZDDP化合物は、一級アルキルアルコール、二級アルキルアルコール、又は一級及び二級アルキルアルコールの組み合わせから誘導されたZDDPを含み得る。1つ以上のZDDP化合物を調製するために使用される一級アルキルアルコール及び二級アルキルアルコールは、1~20個の炭素原子、又は約1~約18個の炭素原子、又は約1~約16個の炭素原子、又は約2~約12個の炭素原子、又は約3~約10個の炭素原子を含むアルキル基を有し得る。好ましくは、一級アルキルアルコールは、ヒドロキシル基に対してベータ炭素で分枝を有する。ベータ(β)炭素で分枝を有するアルコールは、ヒドロキシル基の酸素原子から数えて2番目の炭素で分枝があり、例えば、
【0067】
【化10】
である。
【0068】
1つ以上のZDDP化合物を調製する際に使用するための一級アルキルアルコール及び二級アルキルアルコールの好適な例としては、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、2-ブタノール、イソブチルアルコール、n-ペンチルアルコール、アミルアルコール、ヘキサノール、メチルイソブチルカルビノール、イソヘキサノール、n-ヘプタノール、イソヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール、ノナデカノール、エイコサノール、及び2-エチルヘキサノールが挙げられる。
【0069】
トランスミッション流体組成物中の1つ以上のZDDP化合物を作製するために使用される二級アルキルアルコールに対する一級アルキルアルコールのモル比は、約100:0~0:100、又は約100:0~50:50、又は100:0~60:40であり得る。1つ以上のZDDP化合物は、約1.08~1.3、又は約1.08~1.2、又は約1.09~約1.15のZn:Pモル比を有し得る。いくつかの実施形態では、1つ以上の1つ以上のZDDP化合物は、酸化亜鉛で過塩基性化され得る。
【0070】
いくつかの実施形態では、1つ以上の1つ以上のZDDP化合物のアルキル基の100モルパーセントが、1つ以上の一級アルコール基から誘導され得る。
【0071】
1つ以上のZDDP化合物を製造するのに好適なアルコールは、一級アルキルアルコール、二級アルキルアルコール、又は一級及び二級アルキルアルコールの混合物であり得る。ある実施形態では、添加剤パッケージは、一級アルキル基を含むアルコールから誘導される1つのZDDP化合物と、二級アルキル基を含むアルコールから誘導される別のZDDP化合物と、を含む。別の実施形態では、ZDDP化合物は、少なくとも2つの二級アルコールから誘導される。アルコールは、分枝、環状、又は直鎖炭素鎖のいずれかを含有してもよい。
【0072】
1つ以上のZDDP化合物は、ジヒドロカルビルジチオリン酸の油溶性塩であってもよく、以下の式:
【0073】
【化11】
によって表されてもよく、式中、R及びRが、1~20個の炭素原子、若しくは約1~18個の炭素原子、若しくは約1~約16個の炭素原子、若しくは約2~約12個の炭素原子、若しくは約3~約8個の炭素原子を含む同じ又は異なるアルキル基であってもよく、アルキル及びシクロアルキル部分等の部分を含む。したがって、その部分は、例えば、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、sec-ブチル、アミル、n-ヘキシル、i-ヘキシル、4-メチル-ペンチル、n-オクチル、デシル、ドデシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、2-エチルヘキシル、ノナデシル、エイコシル、2-エチルヘキシル、シクロヘキシル、又はメチルシクロペンチルであり得る。
【0074】
ZDDP化合物についてのリン1モル当たりの炭素原子の平均総数は、4つのアルキル基R及びR中の炭素原子の合計を2で割ることによって計算され得る。例えば、単一のZDDP化合物の場合、RがCアルキル基であり、RがCアルキル基である場合、炭素原子の総数は、3+3+6+6=18である。これをZDDP1モル当たり2モルのリンで割ると、リン1モル当たりの炭素原子の平均総数は9になる。1つ以上のZDDP化合物を含有する組成物についてのリン1モル当たりの炭素原子の平均総数(ATCP)は、以下の式に従って、ZDDP化合物を生成するために使用されるアルコールから計算することができる:
ATCP=2[(alc1のモル%alc1におけるC原子の数)+(alc2のモル%alc2におけるC原子の数)+(alc3のモル%alc3におけるC原子の数)+...等]
式中、alc1、alc2、及びalc3はそれぞれ、ZDDP化合物を作製するために使用される異なるアルコールを表し、モル%は、ZDDP化合物を作製するために使用される反応混合物中に存在した各アルコールのモルパーセンテージである。「~等」は、3つより多くのアルコールを使用してZDDP化合物を作製する場合、式を拡張して、反応混合物中に存在する各アルコールを含めることができることを示す。
【0075】
ZDDP中のR及びRからの炭素原子の平均総数は、リン1モル当たり2個より多い炭素原子であり、一実施形態では、リン1モル当たり、4個より多く40個までの炭素原子、又は6個より多く約20個までの炭素原子、又は6個より多く約16個までの炭素原子、又は約6~約15個の炭素原子、又は約9~約15個の炭素原子、又は約12個の炭素原子の範囲である。
【0076】
亜鉛ジアルキルジチオホスフェート化合物は、既知の技術に従って、まず、ジアルキルジチオリン酸(DDPA)を、通常は、1つ以上のアルコールの反応によって形成し、次いで形成されたDDPAを亜鉛化合物で中和することによって、調製され得る。金属塩を作製するために、任意の塩基性又は中性の亜鉛化合物を使用してもよいが、酸化物、水酸化物、及びカーボネートが通常は使用される。成分(i)の亜鉛ジアルキルジチオホスフェートは、米国特許第7,368,596号に記載のプロセス等のプロセスによって作製され得る。
【0077】
いくつかの実施形態では、1つ以上のZDDP化合物は、トランスミッション流体組成物の総重量に基づいて、約100~約1500ppmのリン、又は約200~約1300ppmのリン、又は約300~約1200ppmのリン、又は約550~約1200ppmのリンを提供するのに十分な量でトランスミッション流体中に存在し得る。
【0078】
いくつかの実施形態では、1つ以上のZDDP化合物は、トランスミッション流体組成物の総重量に基づいて、トランスミッション流体組成物に対して約700ppmwの亜鉛~約1500ppmwの亜鉛、又は約750ppmwの亜鉛~約1400ppmwの亜鉛、又は約800ppmwの亜鉛~約1300ppmwの亜鉛、又は約850ppm~約1200ppmwの亜鉛を提供するのに十分な量でトランスミッション流体組成物中に存在し得る。
【0079】
本発明は、塩基性ZDDPである過塩基性ZDDPを含み得る。塩基性ZDDPという用語、又は同等の表現は、金属置換基がリン酸ラジカルよりも化学量論的に多い量で存在する亜鉛塩を記述するために本明細書で使用される。例えば、通常又は中性の亜鉛ホスホロジチオエートは、2当量(すなわち、2モル)のホスホロジチオ酸当たり2当量(すなわち、1モル)の亜鉛を有するが、一方で、塩基性亜鉛ジオルガノホスホロジチオエートは、2当量のホスホロジチオ酸当たり2当量を超える亜鉛を有する。
【0080】
例えば、過塩基性化は、酸化亜鉛等の基本的な亜鉛化合物を使用して行うことができる。所望の過塩基性化を与えるのに必要な基本的な塩基化合物の量は、重要ではない。本質的な因子は、過塩基化反応に十分な亜鉛化合物が反応混合物中に存在することである。絶対的に必須ではないが、反応に必要な量よりもわずかに過剰の亜鉛化合物を使用する場合、反応がより満足のいく方法で進行することが見出された。この過剰は、最終生成物から大量の固体を除去する必要性に対して最小限のレベルに維持されるべきである。一般的な記述として、過剰の亜鉛化合物は、10~15重量%を超えてはならない。
【0081】
清浄剤
トランスミッション流体組成物は、1つ以上の中性、低塩基性、又は過塩基性清浄剤、及びそれらの混合物を含み得る。好適な清浄剤及びその調製方法は、米国特許第7,732,390号及びその中に引用されている参考文献を含む多数の特許公報により詳細に記載されている。例えば、1つ以上の清浄剤は、過塩基性スルホン酸カルシウム清浄剤であり得る。
【0082】
清浄剤基質は、限定されないが、カルシウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウム、リチウム、バリウム、又はそれらの混合物等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属で塩化され得る。いくつかの実施形態では、清浄剤は、バリウムを含まない。いくつかの実施形態では、清浄剤は、マグネシウム又はカルシウム等の微量の他の金属を、50ppm以下、40ppm以下、30ppm以下、20ppm以下、又は10ppm以下等の量で含有していてもよい。好適な清浄剤には、石油スルホン酸及びアリール基がベンジル、トリル、及びキシリルである長鎖モノ又はジアルキルアリールスルホン酸のアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩が含まれてもよい。好適な清浄剤の例としては、限定されないが、カルシウムフィネート、カルシウム硫黄含有フィネート、スルホン酸カルシウム、カルシウムカリキサラート、カルシウムサリキサレート、サリチル酸カルシウム、カルシウムカルボン酸、カルシウムリン酸、カルシウムモノ及び/若しくはジチオリン酸、カルシウムアルキルフェノール、カルシウム硫黄カップリングアルキルフェノール化合物、カルシウムメチレン架橋フェノール、マグネシウムフィネート、マグネシウム硫黄含有フェネート、スルホン酸マグネシウム、マグネシウムカリキサラート、マグネシウムサリキサレート、サリチル酸マグネシウム、マグネシウムカルボン酸、マグネシウムリン酸、マグネシウムモノ及び/若しくはジチオリン酸、マグネシウムアルキルフェノール、マグネシウム硫黄カップリングアルキルフェノール化合物、マグネシウムメチレン架橋フェノール、ナトリウムフィネート、ナトリウム硫黄含有フェネート、スルホン酸ナトリウム、ナトリウムカリキサラート、ナトリウムサリキサレート、サリチル酸ナトリウム、ナトリウムカルボン酸、ナトリウムリン酸、ナトリウムモノ及び/若しくはジチオリン酸、ナトリウムアルキルフェノール、ナトリウム硫黄カップリングアルキルフェノール化合物、又はナトリウムメチレン架橋フェノールが挙げられる。
【0083】
過塩基性清浄剤添加剤は、当該技術分野において周知であり、アルカリ又はアルカリ土類金属過塩基性清浄剤添加剤であり得る。そのような清浄剤添加剤は、金属酸化物又は金属水酸化物を基材及び二酸化炭素ガスと反応させることによって、調製することができる。基材は、典型的には、酸、例えば、脂肪族置換スルホン酸、脂肪族置換カルボン酸、又は脂肪族置換フェノールのような酸である。
【0084】
「過塩基性」という用語は、存在する金属の量が化学量論的量を超える、スルホネート、カルボキシレート、及びフェネートの金属塩等の金属塩に関する。そのような塩は、100%を超える変換レベルを有し得る(すなわち、そのような塩は、酸をその「正塩」、「中性塩」に変換するのに必要とされる金属の理論量の100%より多くを含み得る)。多くの場合、MRと略される表現「金属比」は、既知の化学反応性及び化学量論に従って、過塩基性塩中の金属の総化学当量と中性塩中の金属の化学当量との比率を示すために使用される。正塩又は中性塩では、金属比は1であるが、過塩基性塩ではMRは1より大きい。それらは、一般に、過塩基性、高塩基性、又は超塩基性塩と称され、有機硫黄酸、カルボン酸、又はフェノールの塩であり得る。
【0085】
トランスミッション流体組成物の過塩基性清浄剤は、ASTM D-2896の方法によって測定される場合、約200mg KOH/グラム以上、又は更なる例として、約250mg KOH/グラム以上、又は約350mg KOH/グラム以上、又は約375mg KOH/グラム以上、又は約400mg KOH/グラム以上の総塩基価(TBN)を有していてもよい。そのような清浄剤組成物が、不活性希釈剤、例えばプロセス油、通常は鉱油中で形成されるとき、総塩基価は、希釈剤、及び清浄剤組成物に含まれ得る任意の他の物質(例えば、促進剤等)を含む全体組成物の塩基性を反映する。
【0086】
好適な過塩基性清浄剤の例としては、限定されないが、過塩基性カルシウムフィネート、過塩基性カルシウム硫黄含有フィネート、過塩基性スルホン酸カルシウム、過塩基性カルシウムカリキサラート、過塩基性カルシウムサリキサレート、過塩基性サリチル酸カルシウム、過塩基性カルシウムカルボン酸、過塩基性カルシウムリン酸、過塩基性カルシウムモノ及び/若しくはジチオリン酸、過塩基性カルシウムアルキルフェノール、過塩基性カルシウム硫黄カップリングアルキルフェノール化合物、過塩基性カルシウムメチレン架橋フェノール、過塩基性マグネシウムフィネート、過塩基性マグネシウム硫黄含有フェネート、過塩基性スルホン酸マグネシウム、過塩基性マグネシウムカリキサラート、過塩基性マグネシウムサリキサレート、過塩基性サリチル酸マグネシウム、過塩基性マグネシウムカルボン酸、過塩基性マグネシウムリン酸、過塩基性マグネシウムモノ及び/若しくはジチオリン酸、過塩基性マグネシウムアルキルフェノール、過塩基性マグネシウム硫黄カップリングアルキルフェノール化合物、又は過塩基性マグネシウムメチレン架橋フェノールが挙げられる。
【0087】
例えば、スルホン酸カルシウム清浄剤は、ASTM D-2896の方法によって測定される場合、約200mg KOH/g以上、又は約250mg KOH/g以上、又は約300mg KOH/g以上、又は約350mg KOH/g以上、又は約375mg KOH/g以上、又は約400mg KOH/g以上の総塩基価(TBN)を有する過塩基性スルホン酸カルシウム清浄剤であり得る。
【0088】
スルホン酸カルシウム清浄剤は、トランスミッション流体組成物の総重量に基づいて、トランスミッション流体組成物に対して約2000ppmwのカルシウム~約5000ppmwのカルシウム、又は約2250ppmwのカルシウム~約4500ppmwのカルシウム、又は約2500ppmwのカルシウム~約4000ppmwのカルシウム、又は約2750ppmwのカルシウム~約3750ppmwのカルシウムを提供する量で存在し得る。
【0089】
スルホン酸カルシウム清浄剤は、1.1:1から、又は2:1から、又は4:1から、又は5:1から、又は7:1から、又は10:1から、又はそれより大きい金属対基材比を有し得る。
【0090】
いくつかの実施形態では、スルホン酸カルシウム清浄剤は、分枝アルキル基を含んでもよい。
【0091】
いくつかの実施形態では、清浄剤は、エンジン内の錆を低減又は防止するのに有効である。
【0092】
清浄剤は、約0重量%~約10重量%、又は約0.1重量%~約8重量%、又は約1重量%~約4重量%、又は約4重量%より大きく約8重量%までで存在し得る。
【0093】
分散剤
トランスミッション流体組成物は、任意選択的に、1つ以上の分散剤又はそれらの混合物を更に含み得る。分散剤は、トランスミッション流体組成物に混合する前に、灰分形成金属を含有せず、潤滑剤に添加されるときに通常は灰分に寄与しないため、分散剤は、多くの場合、無灰型分散剤として知られている。無灰型分散剤は、極性基が比較的高分子量の炭化水素鎖に接続していることを特徴とする。典型的な無灰分散剤には、N-置換長鎖アルケニルスクシンイミドが含まれる。N置換長鎖アルケニルスクシンイミドの例としては、ポリイソブチレン置換基の数平均分子量が、GPCにより測定される場合に、約350~約50,000、又は約5,000まで、又は約3,000までの範囲にある、ポリイソブチレンスクシンイミドが挙げられる。スクシンイミド分散剤及びその調製は、例えば、米国特許第7,897,696号又は米国特許第4,234,435号に開示されている。アルケニル置換基は、約2~約16個、又は約2~約8個、又は約2~約6個の炭素原子を含有する重合性モノマーから調製されてもよい。スクシンイミド分散剤は、典型的には、ポリアミン(典型的にはポリ(エチレンアミン))から形成されたイミドである。
【0094】
好ましいアミンは、ポリアミン及びヒドロキシアミンから選択される。使用され得るポリアミンの例としては、限定されないが、ジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン(TETA)、テトラエチレンペンタミン(TEPA)、及びペンタエチルアミンヘキサミン(PEHA)等のより高級の同族体が挙げられる。
【0095】
好適な重質ポリアミンは、TEPA及びPEHA(ペンタエチレンヘキサミン)等の少量の低級ポリアミンオリゴマーを含むが、主に6個以上の窒素原子、分子当たり2個以上の一級アミン、及び従来のポリアミン混合物より広範な分枝を有するオリゴマーを含むポリアルキレン-ポリアミンの混合物である。重質ポリアミンは、好ましくは、分子当たり7個以上の窒素を含有し、分子当たり2個以上の一級アミンを有するポリアミンオリゴマーを含む。重質ポリアミンは、28重量%を超える(例えば、>32重量%)の総窒素と、1当量当たり120~160グラムの当量の重量の一級アミン基と、を含む。
【0096】
いくつかのアプローチでは、好適なポリアミンは、一般的にPAMとして知られており、TEPA及びペンタエチレンヘキサミン(PEHA)が、ポリアミンの主要部分であり、通常約80%未満である、エチレンアミンの混合物を含有する。
【0097】
典型的には、PAMは、1グラム当たり8.7~8.9ミリ当量の一級アミン(一級アミンの1当量当たり115~112グラムの当量)及び約33~34重量%の総窒素含有量を有する。実質的にTEPAを含まず、ごく少量のPEHAを含むが、主に6個より多い窒素及びより広範な分枝を有するオリゴマーを含有するPAMオリゴマーのより重質なカットは、分散性が改善された分散剤を生成してもよい。
【0098】
ある実施形態では、本開示は、GPCにより決定される場合に、約350~約50,000、又は約5000まで、又は約3000まで、又は約500~約2000、又は約750~約1800の範囲の数平均分子量を有するポリイソブチレンから誘導される少なくとも1つのポリイソブチレンスクシンイミド分散剤を更に含む。ポリイソブチレンスクシンイミドは、単独で、又は他の分散剤と組み合わせて使用され得る。
【0099】
いくつかの実施形態では、ポリイソブチレンは、含まれる場合、50モル%を超える、60モル%を超える、70モル%を超える、80モル%を超える、又は90モル%を超える末端二重結合の含有量を有していてもよい。そのようなPIBは、高反応性PIB(「HR-PIB」)とも呼ばれる。GPCにより決定される場合に約800~約5000の範囲の数平均分子量を有するHR-PIBが、本開示の実施形態における使用に好適である。従来のPIBは、典型的には、50モル%未満、40モル%未満、30モル%未満、20モル%未満、又は10モル%未満の末端二重結合の含有量を有する。
【0100】
GPCによって測定したときに約900~約3000の範囲の数平均分子量を有するHR-PIBが、好適であり得る。このようなHR-PIBは、市販されているか、又はBoerzel,et al.の米国特許第4,152,499号及びGateau,et al.の米国特許第5,739,355号に記載されているように、三フッ化ホウ素等の非塩素化触媒の存在下でのイソブテンの重合によって合成することができる。上記熱エン反応で使用されるとき、HR-PIBは、反応性の向上により反応中のより高い転化率、及びより少ない沈殿物形成量をもたらし得る。好適な方法は米国特許第7,897,696号に記載されている。
【0101】
一実施形態では、本開示は、ポリイソブチレン無水コハク酸(「PIBSA」)から誘導される少なくとも1つの分散剤を更に含む。PIBSAは、ポリマー当たり平均約1.0~約2.0のコハク酸部分を有していてもよい。
【0102】
アルケニル又はアルキル無水コハク酸の有効成分%は、クロマトグラフィー技術を使用して決定することができる。この方法は、米国特許第5,334,321号の第5欄及び第6欄に記載されている。ポリオレフィンの転化率は米国特許第5,334,321号の第5欄及び第6欄の式を用いて、有効成分%から算出される。
【0103】
別途明記しない限り、全てのパーセンテージは、重量パーセントであり、全ての分子量は、市販のポリスチレン標準(較正基準として180~約18,000の数平均分子量を有する)を使用するゲル浸透クロマトグラフィー(gel permeation chromatography、GPC)により決定される数平均分子量である。
【0104】
一実施形態では、分散剤は、ポリアルファオレフィン(PAO)無水コハク酸から誘導されてもよい。一実施形態では、分散剤は、オレフィン無水マレイン酸コポリマーから誘導されてもよい。一例として、分散剤は、ポリ-PIBSAとして記載されてもよい。ある実施形態では、分散剤は、エチレン-プロピレンコポリマーにグラフト化される無水物から誘導されてもよい。
【0105】
好適な種類の窒素含有分散剤は、オレフィンコポリマー(olefin copolymer、OCP)、より具体的には、無水マレイン酸でグラフト化され得るエチレン-プロピレン分散剤から誘導され得る。官能化OCPと反応させることができる窒素含有化合物のより完全なリストは、米国特許第7,485,603号、同第7,786,057号、同第7,253,231号、同第6,107,257号、及び同第5,075,383号に記載されており、かつ/又は市販されている。
【0106】
代替的に、ヒドロカルビル-ジカルボン酸のヒドロカルビル部分又は成分A)の無水物は、エチレン-アルファオレフィンコポリマーから誘導され得る。これらのコポリマーは、複数のエチレン単位及び複数の1つ以上のC~C10アルファ-オレフィン単位を含有する。C~C10アルファ-オレフィン単位は、プロピレン単位を含んでいてもよい。
【0107】
好適な分散剤の1つの種類は、マンニッヒ塩基であり得る。マンニッヒ塩基は、より高分子量のアルキル置換フェノール、ポリアルキレンポリアミン、及びホルムアルデヒド等のアルデヒドの縮合によって形成される材料である。マンニッヒ塩基は、米国特許第3,634,515号により詳細に記載されている。
【0108】
好適な種類の分散剤は、高分子量エステル又は半エステルアミドであり得る。
【0109】
好適な分散剤はまた、様々な薬剤のいずれかとの反応による従来の方法によって後処理することができる。これらの中には、ホウ素、尿素、チオ尿素、ジメルカプトチアジアゾール、二硫化炭素、アルデヒド、ケトン、カルボン酸、炭化水素置換無水コハク酸、無水マレイン酸、ニトリル、エポキシド、カーボネート、環状カーボネート、ヒンダードフェノールエステル、及びリン化合物がある。米国特許第7,645,726号、米国特許第7,214,649号、及び米国特許第8,048,831号は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0110】
カーボネート及びホウ酸の後処理に加えて、化合物はいずれも、異なる特性を改善又は付与するように設計された様々な後処理により後処理、又は更に後処理されてもよい。このような後処理は、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,241,003号の欄27~29に要約されたものを含む。かかる処理としては、
無機リン酸又は無水物による処理(例えば、米国特許第3,403,102号及び同第4,648,980号)、
有機リン化合物による処理(例えば、米国特許第3,502,677号)、
五硫化リンによる処理、
既に上述したホウ素化合物による処理(例えば、米国特許第3,178,663号及び同第4,652,387号)、
カルボン酸、ポリカルボン酸、無水物及び/又は酸ハロゲン化物による処理(例えば、米国特許第3,708,522号及び同第4,948,386号)、
エポキシドポリエポキシエート又はチオールエポキシドによる処理(例えば、米国特許第3,859,318号及び同第5,026,495号)、
アルデヒド又はケトンによる処理(例えば、米国特許第3,458,530号)、
二硫化炭素による処理(例えば、米国特許第3,256,185号)、
グリシドールによる処理(例えば、米国特許第4,617,137号)、
尿素、チオ尿素、又はグアニジンによる処理(例えば、米国特許第3,312,619号、同第3,865,813号、及び英国特許第GB1,065,595号)、
有機スルホン酸による処理(例えば、米国特許第3,189,544号及び英国特許第GB2,140,811号)、
シアン化アルケニルによる処理(例えば、米国特許第3,278,550号及び同第3,366,569号)、
ジケテンによる処理(例えば、米国特許第3,546,243号)、
ジイソシアネートによる処理(例えば、米国特許第3,573,205号)、
アルカンスルホンによる処理(例えば、米国特許第3,749,695号)、
1,3-ジカルボニル化合物による処理(例えば、米国特許第4,579,675号)、
アルコキシル化アルコール又はフェノールのサルフェートによる処理(例えば、米国特許第3,954,639号)、
環状ラクトンによる処理(例えば、米国特許第4,617,138号、同第4,645,515号、同第4,668,246号、同第4,963,275号、及び同第4,971,711号)、
環状カーボネート若しくはチオカーボネート、直鎖モノカーボネート若しくはポリカーボネート、又はクロロホルメートによる処理(例えば、米国特許第4,612,132号、同第4,647,390号、同第4,648,886号、同第4,670,170号)、
窒素含有カルボン酸による処理(例えば、米国特許第4,971,598号及び英国特許第GB2,140,811号)、
ヒドロキシ保護されたクロロジカルボニルオキシ化合物による処理(例えば、米国特許第4,614,522号)、
ラクタム、チオラクタム、チオラクトン、又はジトラクトン(ditholactone)による処理(例えば、米国特許第4,614,603号及び同第4,666,460号)、
環状カーボネート若しくはチオカーボネート、直鎖モノカーボネート若しくはプリカーボネート(plycarbonate)、又はクロロホルメートによる処理(例えば、米国特許第4,612,132号、同第4,647,390号、同第4,646,860号、及び同第4,670,170号)、
窒素含有カルボン酸による処理(例えば、米国特許第4,971,598号及び英国特許第GB2,440,811号)、
ヒドロキシ保護されたクロロジカルボニルオキシ化合物による処理(例えば、米国特許第4,614,522号)、
ラクタム、チオラクタム、チオラクトン、又はジチオラクトンによる処理(例えば、米国特許第4,614,603号、及び同第4,666,460号)、
環状カルバメート、環状チオカルバメート又は環状ジチオカルバメートによる処理(例えば、米国特許第4,663,062号及び同第4,666,459号)、
ヒドロキシ脂肪族カルボン酸による処理(例えば、米国特許第4,482,464号、同第4,521,318号、同第4,713,189号)、
酸化剤による処理(例えば、米国特許第4,379,064号)、
五硫化リンとポリアルキレンポリアミンとの組み合わせによる処理(例えば、米国特許第3,185,647号)、
カルボン酸又はアルデヒド又はケトンと硫黄又は塩化硫黄との組み合わせによる処理(例えば、米国特許第3,390,086号、同第3,470,098号)、
ヒドラジンと二硫化炭素との組み合わせによる処理(例えば、米国特許第3,519,564号)、
アルデヒドとフェノールとの組み合わせによる処理(例えば、米国特許第3,649,229号、同第5,030,249号、同第5,039,307号)、
アルデヒドとジチオリン酸のO-ジエステルとの組み合わせによる処理(例えば、米国特許第3,865,740号)、
ヒドロキシ脂肪族カルボン酸とホウ酸との組み合わせによる処理(例えば、米国特許第4,554,086号)、
ヒドロキシ脂肪族カルボン酸、次いでホルムアルデヒド及びフェノールの組み合わせによる処理(例えば、米国特許第4,636,322号)、
ヒドロキシ脂肪族カルボン酸、及び次いで脂肪族ジカルボン酸の組み合わせによる処理(例えば、米国特許第4,663,064号)、
ホルムアルデヒド及びフェノール、次いでグリコール酸の組み合わせによる処理(例えば、米国特許第4,699,724号)、
ヒドロキシ脂肪族カルボン酸又はシュウ酸、及び次いでジイソシアネートの組み合わせによる処理(例えば、米国特許第4,713,191号)、
リンの無機酸若しくは無水物又はそれらの部分若しくは全硫黄類似体とホウ素化合物との組み合わせによる処理(例えば、米国特許第4,857,214号)、
有機二酸、次いで不飽和脂肪酸、及び次いでニトロソ芳香族アミン、任意選択的に、その後のホウ素化合物、及び次いでグリコール化剤の組み合わせによる処理(例えば、米国特許第4,973,412号)、
アルデヒドとトリアゾールとの組み合わせによる処理(例えば、米国特許第4,963,278号)、
アルデヒド及びトリアゾール、次いでホウ素化合物の組み合わせによる処理(例えば、米国特許第4,981,492号)、
環状ラクトンとホウ素化合物との組み合わせによる処理(例えば、米国特許第4,963,275号及び同第4,971,711号)が挙げられる。上記特許は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0111】
好適な分散剤のTBNは、油を含まない基準で約10~約65であってもよく、これは約50%の希釈油を含有する分散剤試料で測定した場合、約5~約30TBNに相当する。TBNは、ASTM D2896の方法によって測定される。
【0112】
分散剤は、存在する場合、トランスミッション流体組成物の総重量に基づいて、約20重量%、又は約0.1重量%~約15重量%、又は約0.1重量%~約10重量%、又は約0.1~約8重量%、又は約1重量%~約10重量%、又は約1重量%~約8重量%、又は約1重量%~約6重量%で存在し得る。
【0113】
分散剤は、存在する場合、トランスミッション流体に対して5ppmの窒素~約1000ppmの窒素、又は約10ppmの窒素~約500ppmの窒素、又は約25ppmの窒素~約200ppmの窒素に寄与する量で存在し得る。
【0114】
いくつかの実施形態では、トランスミッション流体組成物は、混合分散剤系を利用する。単一の種類又は任意の所望の比率の2つ以上の種類の分散剤の混合物を使用することができる。
【0115】
他の任意選択的な成分
本明細書に記載のトランスミッション流体組成物は、上述の成分に加えて、自動トランスミッション流体組成物に使用される種類の従来の添加剤も含み得る。かかる添加剤としては、限定されないが、分散剤添加剤、清浄剤添加剤、酸化防止剤、腐食抑制剤、防錆添加剤、金属不活性化剤、消泡剤、流動点降下剤、空気連行添加剤、シール膨潤剤等が挙げられる。
【0116】
酸化防止剤
本明細書のトランスミッション流体組成物はまた、任意選択的に、1つ以上の酸化防止剤を含有し得る。酸化防止剤化合物は既知のものであり、例えば、フェネート、フェネートスルフィド、硫化オレフィン、ホスホ硫化テルペン、硫化エステル、芳香族アミン、アルキル化ジフェニルアミン(例えば、ノニルジフェニルアミン、ジ-ノニルジフェニルアミン、オクチルジフェニルアミン、ジ-オクチルジフェニルアミン)、フェニル-アルファ-ナフチルアミン、アルキル化フェニル-アルファ-ナフチルアミン、ヒンダード非芳香族アミン、フェノール、ヒンダードフェノール、油溶性モリブデン化合物、高分子酸化防止剤、又はそれらの混合物が挙げられる。酸化防止剤化合物は、単独で、又は組み合わせて使用され得る。
【0117】
ヒンダードフェノール酸化防止剤は、立体障害基として、二級ブチル基及び/又は三級ブチル基を含有し得る。フェノール基は、ヒドロカルビル基及び/又は第2の芳香族基に結合する架橋基で更に置換されていてもよい。好適なヒンダードフェノール酸化防止剤の例としては、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、4-メチル-2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、4-エチル-2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、4-プロピル-2,6-ジ-tert-ブチルフェノール又は4-ブチル-2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、又は4-ドデシル-2,6-ジ-tert-ブチルフェノールが挙げられる。一実施形態では、ヒンダードフェノール酸化防止剤は、エステルであってもよく、例えばBASFから入手可能なIrganox(商標)L-135又は2,6-ジ-tert-ブチルフェノール及びアクリル酸アルキルから誘導される付加生成物を含んでいてもよく、アルキル基は、約1~約18個、又は約2~約12個、又は約2~約8個、又は約2~約6個、又は約4個の炭素原子を含有していてもよい。別の市販のヒンダードフェノール酸化防止剤は、エステルであってもよく、Albemarle Corporationから入手可能なEthanox(商標)4716を含み得る。
【0118】
有用な酸化防止剤は、ジアリールアミン及び高分子量フェノールを含み得る。ある実施形態では、トランスミッション流体組成物は、ジアリールアミンと高分子量フェノールとの混合物を含有してもよく、その結果、各酸化防止剤は、トランスミッション流体組成物の総重量に基づいて、最大約5重量%を提供するのに十分な量で存在し得る。ある実施形態では、酸化防止剤は、トランスミッション流体組成物の総重量に基づいて、約0.3~約1.5重量%のジアリールアミンと、約0.2~約2.5重量%の高分子量フェノールとの混合物であり得る。
【0119】
硫化されて硫化オレフィンを形成してもよい好適なオレフィンの例としては、プロピレン、ブチレン、イソブチレン、ポリイソブチレン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、ノネン、デセン、ウンデセン、ドデセン、トリデセン、テトラデセン、ペンタデセン、ヘキサデセン、ヘプタデセン、オクタデセン、ノナデセン、エイコセン、又はそれらの混合物が挙げられる。一実施形態では、ヘキサデセン、ヘプタデセン、オクタデセン、ノナデセン、エイコセン、又はそれらの混合物、並びにそれらの二量体、三量体、及び四量体は、特に有用なオレフィンである。代替的に、オレフィンは、1,3-ブタジエン等のジエンのディールス・アルダー付加物及びアクリル酸ブチル等の不飽和エステルであってもよい。
【0120】
別の分類の硫化オレフィンには、硫化脂肪酸及びそのエステルが含まれる。脂肪酸は、多くの場合、植物油又は動物油から得られ、典型的には約4~約22個の炭素原子を含有する。好適な脂肪酸及びそのエステルの例としては、トリグリセリド、オレイン酸、リノール酸、パルミトレイン酸、又はそれらの混合物が挙げられる。多くの場合、脂肪酸は、ラード油、トール油、ピーナツ油、大豆油、綿実油、ヒマワリ種子油、又はそれらの混合物から得られる。脂肪酸及び/又はエステルは、α-オレフィン等のオレフィンと混合してもよい。
【0121】
別の代替の実施形態では、酸化防止剤組成物は、上述のフェノール性及び/又はアミン性酸化防止剤に加えて、モリブデン含有酸化防止剤も含有する。これらの3つの酸化防止剤の組み合わせが使用される場合、好ましくは、フェノールとアミンとモリブデン含有の比率は、(0~2):(0~2):(0~1)である。
【0122】
1つ以上の酸化防止剤は、トランスミッション流体組成物の約0重量%~約20重量%、又は約0.1重量%~約10重量%、又は約1重量%~約5重量%の範囲で存在し得る。
【0123】
腐食抑制剤
防錆剤又は腐食抑制剤もまた、本明細書に記載のトランスミッション流体中に含まれ得る。そのような材料としては、モノカルボン酸及びポリカルボン酸が挙げられる。好適なモノカルボン酸の例は、オクタン酸、デカン酸及びドデカン酸である。好適なポリカルボン酸は、トール油脂肪酸、オレイン酸、リノール酸のような酸から製造される二量体及び三量体の酸を含む。
【0124】
別の有用な種類の防錆剤は、例えば、テトラプロペニルコハク酸、テトラプロペニルコハク酸無水物、テトラデセニルコハク酸、テトラデセニルコハク酸無水物、ヘキサデセニルコハク酸、ヘキサデセニルコハク酸無水物等のアルケニルコハク酸及びアルケニルコハク酸無水物腐食抑制剤であり得る。アルケニル基中に8~24個の炭素原子を有するアルケニルコハク酸とポリグリコールのようなアルコールとの半エステルも有用である。他の好適な防錆剤又は腐食抑制剤としては、エーテルアミン、酸性ホスフェート、アミン、エトキシル化アミン、エトキシル化フェノール、及びエトキシル化アルコール等のポリエトキシル化化合物、イミダゾリン、アミノコハク酸又はその誘導体等が挙げられる。そのような防錆剤又は腐食抑制剤の混合物が使用され得る。腐食抑制剤の総量は、本明細書に記載される組成物中に存在する場合、組成物の総重量に基づいて、最大5.0重量%、又は0.01~2.0重量%の範囲であり得る。
【0125】
シール膨潤剤
本明細書に記載のトランスミッション流体組成物は、任意選択的に、エラストマー材料を膨潤させるアルコール、アルキルベンゼン、置換スルホラン、又は鉱油等のシール膨潤剤を含有し得る。アルコール型シール膨潤剤は、低揮発性直鎖アルキルアルコールである。好適なアルコールの例としては、デシルアルコール、トリデシルアルコール、及びテトラデシルアルコールが挙げられる。本明細書に記載された組成物と組み合わせて使用するためのシール膨潤剤として有用なアルキルベンゼンの例としては、ドデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン、ジノニル-ベンゼン、ジ(2-エチルヘキシル)ベンゼン等が挙げられる。置換スルホランの例は、米国特許第4,029,588号に記載されており、これは、参照により本明細書に組み込まれる。シール膨潤剤として有用な鉱油は、典型的には、高いナフテン含有量又は芳香族含有量を有する低粘度鉱油である。本明細書に記載のトランスミッション流体組成物に使用する場合、シール膨潤剤は、トランスミッション流体組成物の総重量に基づいて、1~30重量%、好ましくは2~20重量%、最も好ましくは5~15重量%を含み得る。
【0126】
摩擦調整剤
トランスミッション流体組成物に添加することができる別の成分は、摩擦調整剤である。摩擦調整剤を、本明細書に記載のトランスミッション流体組成物において使用し、低い滑り速度で、表面(例えば、トルクコンバータクラッチ又はシフティングクラッチの部材)間の摩擦を低下させるか、又は増加させる。典型的には、所望の結果は、正の傾きを有する摩擦対速度(μ-v)曲線であり、これにより、「スティック-スリップ」挙動(すなわち、シャダー、ノイズ、及びハーシュシフト(harsh shifts))を最小限に抑える滑らかなクラッチ係合がもたらされる。
【0127】
摩擦調整剤としては、脂肪族アミン又はエトキシル化脂肪族アミン、エーテルアミン、アルコキシル化エーテルアミン、サルコシン化合物、脂肪族脂肪酸アミド、アシル化アミン、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸エステル、ポリオールエステル、脂肪族カルボン酸エステル-アミド、イミダゾリン、三級アミン、脂肪族ホスホネート、脂肪族ホスフェート、脂肪族チオホスホネート、脂肪族チオホスフェート等の化合物が挙げられ、ここで、脂肪族基は、通常、化合物を好適な油溶性にするために1個以上の炭素原子を含有する。更なる例として、脂肪族基は、8個以上の炭素原子を含有し得る。1つ以上の脂肪族コハク酸又は無水物とアンモニア一級アミンとを反応させることによって形成される脂肪族置換スクシンイミドも好適である。
【0128】
摩擦調整剤は、望ましくは、トランスミッション流体組成物の総重量に基づいて、トランスミッション流体組成物に対して重量基準で50~800ppm、望ましくは150~500ppmの窒素を提供するのに十分である量でトランスミッション流体組成物中に存在する。
【0129】
他の摩擦調整剤化合物もまた、本明細書に記載のトランスミッション流体組成物中に含まれ得る。例えば、摩擦調整剤の1つのグループは、N-脂肪族ヒドロカルビル置換ジエタノールアミンを含み、N-脂肪族ヒドロカルビル置換基は、アセチレン性不飽和を含まず、14~20個の範囲の炭素原子を有する少なくとも1つの直鎖脂肪族ヒドロカルビル基である。
【0130】
使用され得る別の摩擦調整剤は、(i)ヒドロキシアルキル基が、同じであるか、又は異なり、各々が2~4個の炭素原子を含有し、脂肪族基が、10~25個の炭素原子を含有する非環式ヒドロカルビル基である、少なくとも1つのジ(ヒドロキシアルキル)脂肪族三級アミンと、(ii)ヒドロキシアルキル基が2~4個の炭素原子を含有し、脂肪族基が、10~25個の炭素原子を含有する非環式ヒドロカルビル基である、少なくとも1つのヒドロキシアルキル脂肪族イミダゾールとの組み合わせに基づく。この摩擦調整剤系に関する更なる詳細については、米国特許第5,344,579号を参照すべきである。
【0131】
一般的に言えば、本明細書に記載のトランスミッション流体組成物は、好適には、最大2.5重量%、望ましくは0.05重量%~2.2重量%、好ましくは最大1.8重量%、又は最大で1.25重量%のみ、又は更なる例として、最も好ましくは、0.75~1重量%の1つ以上の総摩擦調整剤をトランスミッション流体組成物中に含有し得る。
【0132】
極圧剤
トランスミッション流体組成物は、任意選択的に、1つ以上の極圧剤を含有し得る。油に可溶性である極圧剤としては、硫黄及びクロロ硫黄を含有する極圧剤、塩素化炭化水素EP剤、及びリンEP剤が挙げられる。このようなEP剤の例としては、塩素化ワックス;有機スルフィド及びポリスルフィド、例えば、硫化ポリイソブチレン、硫化脂肪酸、ジベンジルジスルフィド、ビス(クロロベンジル)ジスルフィド、ジブチルテトラスルフィド、オレイン酸の硫化メチルエステル、硫化アルキルフェノール、硫化ジペンテン、硫化テルペン、及び硫化ディールス・アルダー付加物;硫化リンとテルペンチン又はオレイン酸メチルとの反応生成物等のリン硫化炭化水素;ジヒドロカルビル及びトリヒドロカルビルホスファイト、例えば、ジブチルホスファイト、ジヘプチルホスファイト、ジシクロヘキシルホスファイト、ペンチルフェニルホスファイト等のリン酸エステル;ジペンチルフェニルホスファイト、トリデシルホスファイト、ジステアリルホスファイト、及びポリプロピレン置換フェニルホスファイト;亜鉛ジオクチルジチオカルバメート及びバリウムヘプチルフェノール二酸等の金属チオカルバメート;例えば、ジアルキルジチオリン酸とプロピレンオキシドとの反応生成物のアミン塩を含む、アルキル及びジアルキルリン酸のアミン塩、並びにこれらの混合物が挙げられる。好ましい極圧剤は、硫化ポリイソブチレン及び硫化脂肪酸である。
【0133】
極圧剤は、トランスミッション流体組成物中に存在する場合、最大10重量%の量で存在してもよく、又は潤滑剤組成物は、トランスミッション流体組成物の総重量に基づいて、0.001~2重量%、好ましくは0.01~0.3重量%、より好ましくは0.02~0.15重量%、最も好ましくは0.03~0.1重量%の極圧剤を含有し得る。
【0134】
消泡剤
いくつかの実施形態では、泡抑制剤は、本明細書に記載のトランスミッション流体組成物における使用に好適な別の成分を形成し得る。泡抑制剤は、シリコーン、ポリアクリレート等から選択され得る。存在する場合、本明細書に記載のトランスミッション流体組成物中の消泡剤の量は、トランスミッション流体組成物の総重量に基づいて、最高1.0重量%、又は0.001重量%~0.1重量%の範囲であり得る。更なる例として、消泡剤は、約0.004重量%~約0.10重量%の量で存在し得る。
【0135】
粘度指数向上剤
トランスミッション流体組成物は、任意選択的に、1つ以上の粘度指数向上剤を含有し得る。好適な粘度指数向上剤には、ポリオレフィン、オレフィンコポリマー、エチレン/プロピレンコポリマー、ポリイソブテン、水素化スチレン-イソプレンポリマー、スチレン/マレイン酸エステルコポリマー、水素化スチレン/ブタジエンコポリマー、水素化イソプレンポリマー、アルファ-オレフィン無水マレイン酸コポリマー、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリアルキルスチレン、水素化アルケニルアリール共役ジエンコポリマー、又はそれらの混合物が含まれ得る。粘度指数向上剤は、星型ポリマーを含んでもよく、好適な例は、米国特許公開第2012/0101017(A1)号に記載されている。
【0136】
本明細書のトランスミッション流体組成物はまた、任意選択的に、粘度指数向上剤に加えて、又は粘度指数向上剤の代わりに、1つ以上の分散剤粘度指数向上剤を含有し得る。好適な分散剤粘度指数向上剤としては、官能化ポリオレフィン、例えば、アシル化剤(無水マレイン酸等)とアミンとの反応生成物で官能化されたエチレン-プロピレンコポリマー;アミンで官能化されたポリメタクリレート、又はアミンと反応させたエステル化無水マレイン酸-スチレンコポリマーを挙げることができる。
【0137】
粘度指数向上剤及び/又は分散剤粘度指数向上剤の総量は、存在する場合、トランスミッション流体組成物の総重量に基づいて、最大30重量%であってもよく、又は0.001重量%~25重量%、又は0.01重量%~20重量%、又は0.1重量%~15重量%、又は0.1重量%~8重量%、又は0.5重量%~5重量%であってもよい。
【0138】
流動点降下剤
トランスミッション流体組成物は、任意選択的に、1つ以上の流動点降下剤を含有し得る。好適な流動点降下剤としては、無水マレイン酸-スチレンのエステル、ポリメタクリレート、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリレート若しくはポリアクリルアミド、又はそれらの混合物を挙げることができる。流動点降下剤は、存在する場合、潤滑剤組成物の総重量に基づいて、0.001重量%~1重量%、又は0.01重量%~0.5重量%、又は0.02重量%~0.04重量%の量で存在し得る。
【0139】
一実施形態では、潤滑剤組成物は、トリアルキルホスフェート、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、及び(エチレンオキシド-プロピレンオキシド)ポリマー等の1つ以上の乳化破壊剤を含み得る。
【0140】
本明細書に記載のトランスミッション流体組成物を配合する際に使用される添加剤は、個々に又は様々な部分的な組み合わせで、基油にブレンドすることができる。しかしながら、添加剤濃縮物(すなわち、添加剤と、炭化水素溶媒等の希釈剤)を使用して、成分の全てを同時にブレンドすることが好適であり得る。添加剤濃縮物の使用は、添加剤濃縮物の形態である場合には成分の組み合わせによってもたらされる相互相溶性を利用する。また、濃縮物の使用は、混合時間を短縮し、混合エラーの可能性を低減する。
【0141】
一般的に言えば、好適なトランスミッション流体組成物は、以下の表2に列挙される範囲の添加剤成分を含み得る。
【0142】
【表2】
【0143】
上の各成分のパーセンテージは、列挙された成分を含有する最終的なトランスミッション流体組成物の総重量に基づく各成分の重量パーセントを表す。トランスミッション流体組成物の残部は、1つ以上の基油からなる。
【0144】
本明細書に記載の組成物を配合する際に使用される添加剤は、個々に又は様々な部分的な組み合わせで基油にブレンドすることができる。しかしながら、添加剤濃縮物(すなわち、添加剤と、炭化水素溶媒等の希釈剤)を使用して、成分の全てを同時にブレンドすることが好適な場合がある。
【0145】
本明細書に開示される潤滑剤組成物は、トランスミッション流体、ドライブライン油、ギア油、又はアクスル潤滑剤であり得る。
【0146】
また、本明細書に開示されるのは、トランスミッション又はギアにおいてギアスカッフィングを低減するための方法であって、トランスミッション又はギアを上述のトランスミッション流体組成物で潤滑させるステップを含む、方法である。また、トランスミッションを操作する方法であって、上述のトランスミッションを本明細書に記載のトランスミッション流体組成物で潤滑させるステップと、トランスミッションを操作するステップと、を含む、方法も本開示の範囲内である。
【実施例0147】
以下の実施例は、本開示の方法及び組成物を例示するが、限定するものではない。当該分野において通常遭遇し、当業者に明らかである様々な条件及びパラメータの他の好適な改変及び適応は、本開示の趣旨及び範囲内である。本明細書で引用される全ての特許及び刊行物は、参照によりその全体が本明細書に完全に組み込まれる。
【0148】
モリブデン濃度及びモリブデン含有化合物の種類を変化させることが、摩擦及びベアリングピッチング性能に及ぼす影響を決定するために、一連の試験を行った。
【0149】
以下の実施例は、モリブデン含有化合物の量及び種類、並びに過塩基性スルホン酸カルシウム清浄剤の量及び種類を除き、同じ組成物を使用した。表4及び5は、各実施例に含まれるモリブデン含有化合物、そのモリブデン含有化合物によるトランスミッション流体組成物に寄与するモリブデンの量を示す。表4の配合物は、トランスミッション流体組成物に対して約3264ppmのCaを提供する量で、直鎖及び分枝鎖の過塩基性スルホン酸カルシウム清浄剤の混合物を含んでいた。表5の実施例は、トランスミッション流体組成物に対して約3422ppmのCaを提供する量で存在する分枝鎖過塩基性スルホン酸カルシウム清浄剤を含んでいた。
【0150】
加えて、各作業例は、表3に示されるように、1つ以上の酸化防止剤、1つ以上の腐食抑制剤、及び1つ以上のシール膨潤剤を含むDIパッケージを含んでいた。基油の大部分は、グループIの基油の混合物であった。全ての値は、別段指定されていない限り、トランスミッション流体組成物中の成分(すなわち、活性成分と、もしあれば希釈剤)の重量パーセントとして記述されている。
【0151】
【表3】
【0152】
表4の配合物に対して、ZFベアリングピッチング試験No.0000 702 232を行った。ZF試験は、100℃の流体温度で操作されるFE-8シリンダローラースラストベアリングからなる。ベアリングを、過度の振動を引き起こすのに十分な摩耗が生じるまで300rpmで回転させ、その時点で試験を停止する。「破損までの時間」は、過度の振動が発生するまでの運転時間を示す。750時間を超える破損までの時間は、潤滑剤組成物が合格であることを示し、750時間未満の破損までの時間は、潤滑剤組成物が不合格であることを示す。
【0153】
【表4】
【0154】
表5の配合物に対してCaterpillar TO-4 SEQ 1221摩擦試験を行い、静摩擦を試験した。この試験は、自由に回転する物質の運動エネルギーが、回転摩擦ディスク及び対向する静止鋼鉄プレートの反応によって吸収される、慣性動力計であるLink Model 1158 Oil/Friction Test Machineを利用する。フライホイールを、所定の速度まで加速し、ディスクとプレートとを様々な係合圧力で合わせることによって停止させる。
【0155】
【表5】
【0156】
表5の実施例は、様々な濃度でモリブデン含有化合物が含まれると、合格の静摩擦試験結果を提供したことを示している。また、表5の実施例は、異なる種類のモリブデン含有化合物が、ベアリングピッチング試験に合格するのに好適であることを示す。
【0157】
比較例1は、ベアリングピッチング試験に不合格であった唯一の例であり、比較例1と実施例1~7の配合物の唯一の差は、モリブデン含有化合物が存在しないことであった。更に、実施例3、5、及び6は、それぞれ、30ppmのモリブデン濃度でベアリングピッチング試験に合格し、これらの実施例は、それぞれ、モリブデンアミドエステル錯体、モリブデンジチオカルバメート、及びモリブデンジアルキルジチオホスフェートを含んでいた。同様に、実施例1及び4は、それぞれ、120ppmのモリブデン濃度でベアリングピッチング試験に合格し、これらの実施例は、それぞれ、モリブデンアミドエステル錯体及びモリブデンジチオカルバメートを含んでいた。これらの実施例は、様々なモリブデン含有化合物が、配合物の総重量に基づいて、30ppm~240ppm未満のモリブデン濃度で、ベアリングピッチング試験における性能を改善するのに有効であることを示す。
【0158】
表5のデータは、Caterpillar TO-4 SEQ 1221によって測定される場合、配合物が静摩擦試験に合格する能力を示す。対照1は、静摩擦試験に合格するために、モリブデン含有化合物の存在が必要ではないことを示す。しかしながら、実施例8は、120ppmのモリブデン濃度を有する流体が、依然として摩擦試験に合格したことを示し、一方で、比較例2は、240ppmのより高いモリブデン濃度を有する流体が、Caterpillar TO-4 SEQ 1221試験の要求を満たさなかったことを示す。
【0159】
表4及び5の結果に基づいて、対照1と比較例1、実施例1と実施例8、及び実施例7と比較例2とを関連付けることができる。これらの3セットの例はそれぞれ、スルホン酸カルシウム清浄剤の濃度の小さな変化を除き、本質的に同じ処方を有する。
【0160】
対照1は、摩擦試験に合格したが、対応する比較例1は、ベアリングピッチング試験に合格しなかった。実施例8は、摩擦試験に合格し、対応する実施例1は、ベアリングピッチング試験に合格した。最後に、比較例2は、摩擦試験に不合格であり、対応する実施例7は、ベアリングピッチング試験に合格した。これらの結果は、流体組成物に240ppm未満のモリブデンではあるが、30ppmより多いモリブデンを提供する量で存在するモリブデン含有化合物を有する配合物が、Caterpillar TO-4規格の静摩擦試験に合格することができる一方で、改善されたベアリングピッチング性能を提供することが期待できることを示す。
【0161】
本開示の他の実施形態は、本明細書の考慮及び本明細書に開示される実施形態の実施から当業者に明らかとなるであろう。明細書及び特許請求の範囲を通して使用される場合、「a」及び/又は「an」及び/又は「the」は、1つ、又は1つより多くを指すことができる。他に示されない限り、量、割合、パーセンテージ、又は他の数値を表す全ての数は、全ての場合において、「約」という用語によって修飾されるものとして理解されるべきである。したがって、反対の指示がない限り、本明細書及び特許請求の範囲に記載される数値パラメータは、本開示によって得ようとする所望の特性に応じて変化し得る近似値である。少なくとも、特許請求の範囲に対する均等論の適用を制限する試みとしてではなく、各数値パラメータは、少なくとも、報告された有効数字の数を考慮して、通常の丸め手法を適用することによって解釈されるべきである。
【0162】
本明細書に開示される各成分、化合物、置換基又はパラメータは、単独で、又は本明細書に開示されるありとあらゆる他の成分、化合物、置換基又はパラメータのうちの1つ以上と組み合わせて使用するために開示されていると解釈されるべきであることを理解されたい。
【0163】
本明細書に開示される各範囲は、同じ有効数字を有する開示範囲内の各特定の値の開示として解釈されるべきであることが更に理解される。したがって、例えば、1~4の範囲は、値1、2、3及び4並びにそのような値の任意の範囲の明示的な開示として解釈されるべきである。
【0164】
本明細書に開示される各範囲の各下限は、同じ成分、化合物、置換基又はパラメータについて本明細書に開示される各範囲の各上限及び各範囲内の各特定の値と組み合わせて開示されるものとして解釈されるべきであることが更に理解される。したがって、本開示は、各範囲の各下限を各範囲の各上限若しくは各範囲内の各特定の値と組み合わせることによって、又は各範囲の各上限を各範囲内の各特定の値と組み合わせることによって導出される全ての範囲の開示として解釈されるべきである。すなわち、広い範囲内の終点値の間の任意の範囲も本明細書で論じられることも更に理解される。したがって、1~4の範囲は、1~3、1~2、2~4、2~3等の範囲も意味する。
【0165】
更に、説明又は実施例に開示される成分、化合物、置換基又はパラメータの特定の量/値は、範囲の下限又は上限のいずれかの開示として解釈されるべきであり、したがって、その成分、化合物、置換基又はパラメータについての範囲を形成するために、本出願の他の場所に開示される同じ成分、化合物、置換基又はパラメータについての範囲又は特定の量/値の任意の他の下限若しくは上限と組み合わせることができる。