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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121262
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】シコンの抽出物を含有する剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/30 20060101AFI20240830BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240830BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240830BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALI20240830BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20240830BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20240830BHJP
【FI】
A61K36/30
A61P43/00 111
A61P17/00
A61K8/9789
A61Q19/00
C12N15/12 ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028269
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】000119472
【氏名又は名称】一丸ファルコス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100188824
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 秀雄
(72)【発明者】
【氏名】金井 杏子
(72)【発明者】
【氏名】桝谷 晃明
(72)【発明者】
【氏名】西垣 祥子
【テーマコード(参考)】
4C083
4C088
【Fターム(参考)】
4C083AA111
4C083AA112
4C083CC02
4C083DD23
4C083DD27
4C083EE12
4C083FF01
4C088AB12
4C088AC11
4C088CA06
4C088CA17
4C088NA05
4C088NA14
4C088ZA89
4C088ZB21
4C088ZC41
(57)【要約】
【課題】表皮角化細胞の角化関連遺伝子の発現促進効果を誘導でき、主に、ヒトの皮膚に適用可能な新たな剤を提供する。
【解決手段】シコンの抽出物を含有する剤であって、TGM1遺伝子、IVL遺伝子、FLG遺伝子及びCERS1遺伝子の発現を誘導するための剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シコンの抽出物を含有する剤であって、TGM1遺伝子、IVL遺伝子、FLG遺伝子及びCERS1遺伝子の発現を誘導するための剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、シコンの抽出物を含有する剤などに関する。
【背景技術】
【0002】
ムラサキの根であるシコン(紫根)は、古くから、紫雲膏等の漢方薬、医薬品の原料、および天然染料として使用されている。シコンやその抽出物には、シコニンやシコニン誘導体(以下、「シコニン類」ともいう。)が含有されており、前記シコニン類が抗炎症作用や抗菌作用等の効果を有することが報告されている。このため、前記シコニン類に着目した、前記効果を有する化粧料や外用剤等が種々検討されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-075613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本開示は、例えば、シコンの抽出物を含有する剤の新たな用途を提供すること等を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するために、本開示に記載される発明では、シコンの抽出物を含有する剤であって、TGM1遺伝子、IVL遺伝子、FLG遺伝子及びCERS1遺伝子の発現を誘導するための剤、などを提供する。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、当該剤により、主に、例えば、ヒトの皮膚に適用可能な新たな剤を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本開示について、例をあげて具体的に説明する。以下、特に言及しない限り、各開示は、他の開示の説明を援用できる。
【0008】
(シコン抽出物)
シコン抽出物は、ムラサキ科ムラサキ(Lithospermum officinale L. var. erythrorhizon Maximowicz (Boraginaceae))の根を原料に製造される抽出物である。以下実施例では、次の製造例により作製されたシコン抽出物を用いた。
【0009】
(シコン抽出物の製造例)
ムラサキ Lithospermum erythrorhizon Siebold & Zucc. (Boraginaceae) の根に微アルカリ性のエタノールと1,3-ブチレングリコールとの混液を加えて抽出し、抽出液を得る。これをpH調整し、ろ過する。ろ液を減圧濃縮した後、エタノール及び1,3-ブチレングリコールの混液を加えて溶解し、ろ過してシコン抽出物とする。
【0010】
(表皮角化)
「表皮角化」は、表皮において、基底細胞が有棘細胞、顆粒細胞、角層細胞と変わっていく過程のことである。前記表皮角化は、ケラチノサイト(表皮角化細胞または角化細胞)が基底層において細胞分裂し、一つは基底層にとどまり、もう一つは有棘(ゆうきょく)層、顆粒層を経て角層に至り、最終的には垢(あか)となってはがれ落ちる一連の過程をいう。「表皮角化細胞の角化促進」は、当該過程が促進されることである。前記表皮角化細胞の角化促進は、例えば、直接的または間接的に評価できる。前記直接的な評価の場合、前記表皮角化細胞の角化促進は、例えば、前記表皮角化細胞の角化を評価することにより実施できる。前記間接的な評価の場合、前記表皮角化細胞の角化促進は、例えば、角化関連遺伝子の発現の程度を測定することによって評価でき、具体的には、前記角化関連遺伝子の発現促進により評価できる。
【0011】
前記「表皮角化細胞」は、表皮の基底層細胞が分裂することにより生じる細胞を意味する。前記表皮角化細胞は、表皮を構成する基底細胞、有棘細胞、顆粒細胞、および角質細胞に分化する能力を有する。前記表皮角化細胞は、前記表皮においてさらに分化し、最終的に角質層を形成する角質細胞へと分化することが知られており、この過程は角化と呼ばれる。
【0012】
前記「角化関連遺伝子」は、表皮角化細胞の分化等に寄与する遺伝子を意味する。前記角化関連遺伝子は、例えば、TGM1遺伝子、IVL遺伝子、FLG遺伝子、およびCERS1遺伝子、があげられる。
【0013】
前記「TGM1(トランスグルタミナーゼ1、Transglutaminase 1)」は、タンパク質架橋酵素の一種である。前記TGM1遺伝子は、角化扁平上皮の最終分化時に発現が誘発され、例えば、表皮の角化したエンベロープ(コーニファイドエンベロープ)の形成促進に寄与すること等が知られている。前記コーニファイドエンベロープは、角質層において強靭な裏打ち構造となることで、バリア機能を果たすと考えられている。また、バリア機能が低下しているアトピー性皮膚炎の肌等において、コーニファイドエンベロープの未熟な細胞が多数観察されることが知られている。このため、コーニファイドエンベロープの形成促進機能を有するTGM1遺伝子は、例えば、バリア機能の強化作用などに寄与するということができる。
【0014】
前記TGM1遺伝子の一例として、ヒトTGM1遺伝子がコードするmRNAは、例えば、Genbankにおいてアクセッション番号:NM_000359.3で登録されている塩基配列からなるポリヌクレオチド等があげられる。前記TGM1遺伝子の発現量としては、いずれか1または2つ以上のTGM1遺伝子のアイソフォームの発現量を測定してもよいし、全てのアイソフォームの発現を測定してもよい。
【0015】
前記「IVL(インボルクリン、Involucrin)」は、コーニファイドエンベロープを構成するタンパク質の一種である。前記IVL遺伝子は、表皮角化細胞の分化および成熟の初期において発現が誘発され、例えば、表皮角化細胞の分化に寄与すること等が知られている。また、前記IVLはコーニファイドエンベロープを構成するタンパク質の一種であるため、前記IVL遺伝子は、例えば、バリア機能の強化作用などに寄与するということができる。
【0016】
前記IVL遺伝子の一例として、ヒトIVL遺伝子がコードするmRNAは、例えば、Genbankにおいてアクセッション番号:NM_005547.4で登録されている塩基配列からなるポリヌクレオチド等があげられる。前記TGM1遺伝子の発現量としては、いずれか1または2つ以上のIVL遺伝子のアイソフォームの発現量を測定してもよいし、全てのアイソフォームの発現を測定してもよい。
【0017】
前記「FLG(フィラグリン、Filaggrin)」は、ケラチン線維に結合し凝縮させる線維間凝縮物質であり、後に分解され天然保湿因子となるタンパク質である。前記FLG遺伝子は、表皮角化細胞の分化および成熟時に発現する遺伝子であり、例えば、表皮角化細胞の角質化誘導、表皮角化細胞の成熟、およびバリア機能の強化作用等に寄与することが知られている。
【0018】
前記FLG遺伝子の一例として、ヒトFLG遺伝子がコードするmRNAは、例えば、Genbankにおいてアクセッション番号:NM_002016.2で登録されている塩基配列からなるポリヌクレオチド等があげられる。前記FLG遺伝子の発現量としては、いずれか1または2つ以上のFLG遺伝子のアイソフォームの発現量を測定してもよいし、全てのアイソフォームの発現を測定してもよい。
【0019】
前記「CERS1(セラミド合成酵素1、Ceramide Synthase 1」は、セラミドの合成を触媒する酵素である。前記CERS1遺伝子は、表皮角化細胞の分化初期において発現する遺伝子であり、例えば、セラミドを合成することにより、表皮角化細胞の分化、バリア機能の強化作用等に寄与することが知られている。
【0020】
前記CERS1遺伝子の一例として、ヒトCERS1遺伝子がコードするmRNAは、例えば、Genbankにおいてアクセッション番号:NM_021267.5で登録されている塩基配列からなるポリヌクレオチド等があげられる。前記CERS1遺伝子の発現量としては、いずれか1または2つ以上のCERS1遺伝子のアイソフォームの発現量を測定してもよいし、全てのアイソフォームの発現を測定してもよい。
【0021】
前記「遺伝子の発現促進」は、対象遺伝子の発現量が促進または増加することを意味し、前記対象遺伝子の発現がない状態から発現がある状態に変化することを意味してもよい。前記対象遺伝子の発現は、例えば、後述の実施例1に準じて、対象遺伝子のmRNAの発現量を、定量的PCRを用いて測定することによって評価できる。前記対象遺伝子が複数のアイソフォームを有する場合、前記対象遺伝子の発現量としては、いずれか1または2つ以上の対象遺伝子のアイソフォームの発現量を測定してもよいし、全てのアイソフォームの発現を測定してもよいが、好ましくは、後者である。
【0022】
前記「遺伝子」は、RNA(例えば、mRNA)の形態、またはDNAの形態(例えば、cDNAまたはゲノムDNA)で存在し得る。DNAは、二本鎖であっても、一本鎖であってもよい。本明細書において、前記「遺伝子」は、非翻訳領域(UTR)の配列等の付加的な配列を含むものであってもよい。
【0023】
本開示の剤の使用条件(投与条件)は、特に制限されず、例えば、投与対象の種類等に応じて、投与形態、投与時期、投与量等を適宜設定できる。
【0024】
本開示の剤は、例えば、in vivoで使用してもよいし、in vitroで使用してもよい。
【実施例0025】
つぎに、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は、以下の実施例により制限されない。市販の試薬は、特に示さない限り、それらのプロトコルに基づいて使用した。なお、「mol/L」は、「M」と標記することもある。なお、以下の実施例において、各種成分の添加量を示す数値の単位%は、v/v%を意味する。
【0026】
(試験1)シコン抽出による各遺伝子の発現量試験
12ウェルプレートに、正常ヒト表皮角化細胞であるNHEK(KK-4009、凍結NHEK(NB)、新生児由来、クラボウ社製)を播種した。培地は、0.06mmol/Lカルシウムを含有したKGM(商標)Gold Keratinocyte Growth Medium BulletKit(商標)培地(Lonza社製)からトランスフェリン、ハイドロコルチゾン、およびエピネフリンを除去した培地(KGM Tfn-/HC-/Epfn-、実施例において以下同じ)を使用した。前記播種後、前記NHEKが100%コンフルエントになるまで培養した。前記培養後、各ウェルの培地を、シコン抽出物を添加したKGM Tfn-/HC-/Epfn-培地に交換した。ポジティブコントロール群(PC群)では、1mmol/L Ca2+を添加したKGM Tfn-/HC-/Epfn-培地に交換した。前記交換後、前記NHEKを16時間培養した。前記培養後、RNeasy mini kit(QIAGEN社製)を用いて、添付のプロトコルに従ってトータルRNAを抽出した。前記抽出後、測定したトータルRNAの濃度値に基づきReverTra Ace(登録商標)qPCR RT Master Mix(TOYOBO社製)を用いて、cDNAを合成した。前記合成後、合成したcDNAからTHUNDERBIRD(登録商標)Next SYBR(登録商標)qPCR Mix(TOYOBO社製)を用いて、リアルタイムPCRによる遺伝子発現量の定量解析を行った。前記リアルタイムPCRでは、各遺伝子のプライマーセット(以下、表5に記載。)として、下記TGM1遺伝子用プライマーセット、IVL遺伝子用プライマーセット、FLG遺伝子プライマーセット、CERS1遺伝子プライマーセット、およびRPS18遺伝子用プライマーセット(フォワードプライマー:配列番号1、リバースプライマー:配列番号2)を用いた。PCR装置としては、Thermal Cycler Dice(登録商標)Real Time System(タカラバイオ社製)を用いた。データの解析は、付属のソフトウェアを用いた。統計解析は、JMP8を用い、各群n=3にて、Dunnett検定又はStudent’s t-testにより実施した。
【0027】
試験1の結果、表1から表4に示すように、シコン抽出物の添加により、各遺伝子の発現上昇が確認された。表1から表4において、未添加群との比較で、各統計解析の結果を、以下のように示す。
・*:Dunnett検定にて、未添加群の値に比べて、p<0.05
・**:Dunnett検定にて、未添加群の値に比べて、p<0.01
・***:Dunnett検定にて、未添加群の値に比べて、p<0.001
・†:Student’s t-testにて、未添加群の値に比べて、p<0.05
・††:Student’s t-testにて、未添加群の値に比べて、p<0.01
・†††:Student’s t-testにて、未添加群の値に比べて、p<0.001
【0028】
(TGM1の遺伝子発現量)
以下表1に、シコン抽出物の添加量と当該発現量を示す。未添加群の値を1.00として示す。
【0029】
【表1】
【0030】
(IVLの遺伝子発現量)
以下表2に、シコン抽出物の添加量と当該発現量を示す。未添加群の値を1.00として示す。
【0031】
【表2】
【0032】
(FLGの遺伝子発現量)
以下表3に、シコン抽出物の添加量と当該発現量を示す。未添加群の値を1.00として示す。
【0033】
【表3】
【0034】
(CERS1の遺伝子発現量)
以下表4に、シコン抽出物の添加量と当該発現量を示す。未添加群の値を1.00として示す。
【0035】
【表4】
【0036】
【表5】
【0037】
以上、実施形態および実施例を参照して本開示を説明したが、本開示は、上記実施形態および実施例に限定されるものではない。本開示の構成や詳細には、本開示のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をすることができる。
【配列表】
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