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特開2024-121264リチウムイオン二次電池正極活物質用リチウム系ポリアニオン粒子の製造方法
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  • 特開-リチウムイオン二次電池正極活物質用リチウム系ポリアニオン粒子の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121264
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池正極活物質用リチウム系ポリアニオン粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20240830BHJP
   H01M 10/54 20060101ALI20240830BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240830BHJP
   C01B 25/45 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
H01M4/58
H01M10/54
H01M4/36 A
C01B25/45 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028272
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池上 潤
(72)【発明者】
【氏名】大神 剛章
(72)【発明者】
【氏名】横山 歩
【テーマコード(参考)】
5H031
5H050
【Fターム(参考)】
5H031AA00
5H031RR02
5H050AA15
5H050AA17
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB12
5H050EA08
5H050FA17
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA12
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA10
(57)【要約】
【課題】使用済みリチウムイオン電池の再生処理として、高い安全性を保持しながら、工程の簡略化及び効率化を有効に図ることのできる、リチウムイオン二次電池正極活物質用リチウム系ポリアニオン粒子の製造方法に関する。
【解決手段】炭素を担持してなるリチウム系ポリアニオン粒子(A)を含む正極によって構築された使用済みリチウムイオン二次電池の正極から得られる粉体(X)を用いる、リチウムイオン二次電池正極活物質用リチウム系ポリアニオン粒子の製造方法であって、工程(I):(I)粉体(X)、及び特定の水溶性リチウム化合物(Y)を特定量混合してスラリー水Iを得る工程、工程(II):得られたスラリー水IのpHを9~14に調整した後、特定の還元剤(Z)を混合して、スラリー水IIを得る工程、工程(III)得られたスラリー水IIを水熱反応に付した後に固液分離して、固形物III及びろ液IIIを得る工程、工程(IV)得られたろ液IIIからリチウムを回収する工程を備え、さらに同様の工程(I)'~(III)'を備える、固形物III及び固形物III'をリチウム系ポリアニオン粒子(A)として得るための製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素を担持してなるリチウム系ポリアニオン粒子(A)を含む正極によって構築された使用済みリチウムイオン二次電池の正極から得られる粉体(X)を用いる、リチウムイオン二次電池正極活物質用リチウム系ポリアニオン粒子の製造方法であって、
次の工程(I)~(IV):
(I)粉体(X)、及び粉体(X)100質量部に対して28質量部以上の水溶性リチウム化合物(Y)を混合してスラリー水Iを得る工程
(II)得られたスラリー水IのpHを9~14に調整した後、還元剤(Z)を混合して、スラリー水IIを得る工程
(III)得られたスラリー水IIを水熱反応に付した後に固液分離して、固形物III及びろ液IIIを得る工程
(IV)得られたろ液IIIからリチウムを回収する工程
を備え、さらに次の工程(I)'~(III)':
(I)'粉体(X)、及び工程(IV)で回収したリチウムを混合してスラリー水I'を得る工程
(II)'得られたスラリー水I'のpHを9~14に調整した後、還元剤(Z)を混合して、スラリー水II'を得る工程
(III)'得られたスラリー水II'を水熱反応に付した後に固液分離して、固形物III'及びろ液III'を得る工程
を備え、
またさらに、工程(III)'に次いで、得られたろ液III'からリチウムを回収する工程(IV)'を備えて、工程(IV)'で回収したリチウムを工程(IV)で回収したリチウムの代わりに用いることにより、工程(I)'~(III)'又は工程(I)'~(IV)'を繰り返し備えてもよい、
固形物III及び固形物III'をリチウム系ポリアニオン粒子(A)として得るための製造方法であり、
水溶性リチウム化合物(Y)が、水酸化リチウム、ハロゲン化リチウム、無機酸リチウム、有機酸リチウム、及びこれらの水和物から選ばれる1種又は2種以上であり、
還元剤(Z)が、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、及びアスコルビン酸から選ばれる1種又は2種以上であり、かつ
リチウム系ポリアニオン粒子(A)が、下記式(A)
LiaMnbFecxPO4・・・(A)
(式(A)中、MはMg、Al、Ti、Cu、Zn、Nb、Co、Ni、Ca、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd又はGdを示す。a、b、c、及びxは、0<a≦1.2、0≦b≦1.2、0≦c≦1.2、0≦x≦0.3、及びb+c≠0を満たし、かつa+(Mnの価数)×b+(Feの価数)×c+(Mの価数)×x=3を満たす数を示す。)
で表される、リチウムイオン二次電池正極活物質用リチウム系ポリアニオン粒子の製造方法。
【請求項2】
工程(IV)又は工程(IV)'における、ろ液III又はろ液III'からリチウムを回収する工程が、次の工程(xi)~(xii):
(xi)ろ液III又はろ液III'からリチウム以外のアルカリ金属を除去して、スラリー水xiを得る工程
(xii)得られたスラリー水xiから水酸化物イオン以外の陰イオンを除去して、リチウムを含むスラリー水xiiを得る工程
を備える、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池正極活物質用リチウム系ポリアニオン粒子の製造方法。
【請求項3】
工程(xi)が、リチウム以外のアルカリ金属吸着剤を用いた工程であり、かつ
工程(xii)が、陰イオン交換樹脂を用いた工程である、請求項2に記載のリチウムイオン二次電池正極活物質用リチウム系ポリアニオン粒子の製造方法。
【請求項4】
工程(IV)又は工程(IV)'における、ろ液III又はろ液III'からリチウムを回収する工程が、リチウム選択吸着剤を用いた工程(y)である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池正極活物質用リチウム系ポリアニオン粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用済みリチウムイオン二次電池を簡易な工程により有効活用することのできる、リチウムイオン二次電池正極活物質用リチウム系ポリアニオン粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等の二次電池は、携帯電話やデジタルカメラ、ノートPC、ハイブリッド自動車、及び電気自動車等、広い分野に利用されている。なかでも、LiMnxFe1-xPO4のようなリチウム系ポリアニオン粒子は、その安全性の高さや容量の大きさから、こうしたリチウムイオン二次電池の正極材料として極めて有用性が高い。
ところで、近年、環境意識が世界的にも高まり、資源枯渇への対応も要求されるなか、廃棄される使用済みリチウムイオン電池のリサイクル実現化が強く望まれており、正極材料の再生処理についても種々試みられている。
【0003】
例えば、非特許文献1には、使用済みLiFePO4カソード材料の再生処理が開示されており、熱水条件下にてリチウムの補充しつつ、還元剤としてN24・H2Oを投入している。また、特許文献1には、廃棄リン酸鉄リチウムの選択的酸化還元再生方法が開示されており、特定の条件下における1次焼結、及び2次焼結により、リチウムや炭素の補填、及び組成調整を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2022-517160号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Qiankun Jing 外、「Direct Regeneration of Spent LiFePO4 Cathode Material by a Green and Efficient One-Step Hydrothermal Method」、ACS Sustainable Chemical Engineering、 2020、Vol 8、No.48、17622-17628
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記非特許文献1に記載の技術では、過酷な処理条件に付す必要がある上、還元剤の毒性にも配慮しなければならず、工業化を図るには未だ改善すべき余地がある。また特許文献1に記載の技術であっても、依然として処理工程の煩雑化が避けられない状況にある。
また、こうした従来技術においては、再生処理の対象物の組成に応じ、用いる材料の量を細部にわたって調整する必要があり、特に生産工程等の負荷が大きい高価な材料であるリチウムについては、処理工程の簡略化に加え、効率化を図ることも強く望まれる状況にある。
【0007】
したがって、本発明は、使用済みリチウムイオン電池の再生処理として、高い安全性を保持しながら、工程の簡略化及び効率化を有効に図ることのできる、リチウムイオン二次電池正極活物質用リチウム系ポリアニオン粒子の製造方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、使用済みリチウムイオン二次電池の正極から得た粉体を原料として用い、水熱反応を利用した簡易な工程でありながら、リチウム源として用いる化合物について、その組成に過度に注力することなく繰り返し活用して、リチウム系ポリアニオン粒子の再生を有効かつ効率的に図ることのできる製造方法を見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、炭素を担持してなるリチウム系ポリアニオン粒子(A)を含む正極によって構築された使用済みリチウムイオン二次電池の正極から得られる粉体(X)を用いる、リチウムイオン二次電池正極活物質用リチウム系ポリアニオン粒子の製造方法であって、
次の工程(I)~(IV):
(I)粉体(X)、及び粉体(X)100質量部に対して28質量部以上の水溶性リチウム化合物(Y)を混合してスラリー水Iを得る工程
(II)得られたスラリー水IのpHを9~14に調整した後、還元剤(Z)を混合して、スラリー水IIを得る工程
(III)得られたスラリー水IIを水熱反応に付した後に固液分離して、固形物III及びろ液IIIを得る工程
(IV)得られたろ液IIIからリチウムを回収する工程
を備え、さらに次の工程(I)'~(III)':
(I)'粉体(X)、及び工程(IV)で回収したリチウムを混合してスラリー水I'を得る工程
(II)'得られたスラリー水I'のpHを9~14に調整した後、還元剤(Z)を混合して、スラリー水II'を得る工程
(III)'得られたスラリー水II'を水熱反応に付した後に固液分離して、固形物III'及びろ液III'を得る工程
を備え、
またさらに、工程(III)'に次いで、得られたろ液III'からリチウムを回収する工程(IV)'を備えて、工程(IV)'で回収したリチウムを工程(IV)で回収したリチウムの代わりに用いることにより、工程(I)'~(III)'又は工程(I)'~(IV)'を繰り返し備えてもよい、
固形物III及び固形物III'をリチウム系ポリアニオン粒子(A)として得るための製造方法であり、
水溶性リチウム化合物(Y)が、水酸化リチウム、ハロゲン化リチウム、無機酸リチウム、有機酸リチウム、及びこれらの水和物から選ばれる1種又は2種以上であり、
還元剤(Z)が、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、及びアスコルビン酸から選ばれる1種又は2種以上であり、かつ
リチウム系ポリアニオン粒子(A)が、下記式(A)
LiaMnbFecxPO4・・・(A)
(式(A)中、MはMg、Al、Ti、Cu、Zn、Nb、Co、Ni、Ca、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd又はGdを示す。a、b、c、及びxは、0<a≦1.2、0≦b≦1.2、0≦c≦1.2、0≦x≦0.3、及びb+c≠0を満たし、かつa+(Mnの価数)×b+(Feの価数)×c+(Mの価数)×x=3を満たす数を示す。)
で表される、リチウムイオン二次電池正極活物質用リチウム系ポリアニオン粒子の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のリチウムイオン二次電池正極活物質用リチウム系ポリアニオン粒子の製造方法によれば、安全性高く簡易な方法でありながら、リチウム源として用いる化合物について、その組成に過度に注力することなく繰り返し活用して、工程の簡略化とともに効率化をも図り、優れた電池物性を発現するリチウムイオン二次電池の正極材料として有用性の高いリチウム系ポリアニオン粒子を得ることができる。
したがって、本発明であれば、使用済みリチウムイオン二次電池のリサイクル実現化に大いに寄与することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1におけるXRDパターンの解析結果を示すパターン図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のリチウムイオン二次電池正極活物質用リチウム系ポリアニオン粒子の製造方法は、炭素を担持してなる式(A)で表されるリチウム系ポリアニオン粒子(A)(以下、単に「リチウム系ポリアニオン粒子(A)」とも称する)を含む正極によって構築された使用済みリチウムイオン二次電池の正極から得られる粉体(X)を用いる、リチウムイオン二次電池正極活物質用リチウム系ポリアニオン粒子の製造方法である。
すなわち、リチウム系ポリアニオン粒子(A)を一材料としつつ作製された正極によって構築された、使用前のリチウムイオン二次電池は、使用に供されている間、正極において次第にリチウムが離脱して劣化状態となるため、使用後は破棄の対象となるにすぎないところ、本発明では、こうした使用済みリチウムイオン二次電池の正極に粉砕等の処理を施して粉体(X)とし、これを原材料の一つとして用いる製造方法である。
【0013】
本発明によれば、粉体(X)に含まれる劣化したリチウム系ポリアニオン粒子に対して、離脱したリチウムを有効に補充し、当初正極に含まれていた式(A)で表されるリチウム系ポリアニオン粒子(A)(以下、「当初リチウム系ポリアニオン粒子(A)」とも称する)へと再生することができる。したがって、本発明により得られるリチウム系ポリアニオン粒子であれば、再び電池特性に優れるリチウムイオン二次電池を構築するための正極材料として、有効に活用することができる。
なお、本発明により得られるリチウム系ポリアニオン粒子は、当初リチウム系ポリアニオン粒子(A)へと再生されたリチウム系ポリアニオン粒子であって、当初リチウム系ポリアニオン粒子(A)と同様、式(A)で表されるリチウム系ポリアニオン粒子であるが、当初リチウム系ポリアニオン粒子(A)と同一の組成であってもよく、式(A)で表される限り、異なる組成であってもよい。
したがって、例えば、本発明により得られるリチウム系ポリアニオン粒子について、式(A)中のbやc等を適宜所望の値になるよう調整してもよい。
【0014】
かかるリチウム系ポリアニオン粒子(A)は、炭素が担持されてなり、かつ下記式(A)で表される粒子であり、少なくとも遷移金属としてマンガン(Mn)又は鉄(Fe)の一方を含む、いわゆるオリビン型リン酸遷移金属リチウム化合物である。
LiaMnbFecxPO4・・・(A)
(式(A)中、MはMg、Al、Ti、Cu、Zn、Nb、Co、Ni、Ca、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd又はGdを示す。a、b、c、及びxは、0<a≦1.2、0≦b≦1.2、0≦c≦1.2、0≦x≦0.3、及びb+c≠0を満たし、かつa+(Mnの価数)×b+(Feの価数)×c+(Mの価数)×x=3を満たす数を示す。)
【0015】
上記式(A)中、Mは、電池特性を高め得る有用性の高い材料として再生する観点から、さらにMg、Al、Ti、Zn、Nb、Co、Zr、又はGdであってもよい。また、aについては、0.6≦a≦1.2が好ましく、0.65≦a≦1.15がより好ましく、0.7≦a≦1.1がさらに好ましい。bについては、0.4≦b≦0.8が好ましい。cについては、0.2≦c≦0.6が好ましい。xについては、0≦x≦0.2であってもよく、さらに0≦x≦0.15であってもよく、0≦x≦0.1であってもよい。
【0016】
具体的には、例えばLiMnPO4、LiFePO4、LiMn0.3Fe0.7PO4、LiMn0.4Fe0.6PO4、LiMn0.45Fe0.55PO4、LiMn0.7Fe0.3PO4、LiMn0.9Fe0.1PO4、LiMn0.8Fe0.2PO4、LiMn0.75Fe0.15Mg0.1PO4、LiMn0.75Fe0.19Zr0.03PO4、LiMn0.6Fe0.4PO4、LiMn0.5Fe0.5PO4、Li1.2Mn0.63Fe0.27PO4、Li0.6Mn0.84Fe0.36PO4等が挙げられる。なかでもLiMn0.4Fe0.6PO4、LiMn0.45Fe0.55PO4、LiMn0.7Fe0.3PO4、LiMn0.8Fe0.2PO4、LiMn0.6Fe0.4PO4、Li1.2Mn0.63Fe0.27PO4が好ましい。
【0017】
なお、リチウム系ポリアニオン粒子(A)に担持してなる炭素を形成する炭素材料としては、その種類は特に限定されないが、一般的には、セルロースナノファイバー、及び水溶性炭素材料から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。これらセルロースナノファイバーや水溶性炭素材料は、炭化されて炭素となり、リチウム系ポリアニオン粒子(A)にセルロースナノファイバー由来の炭素や水溶性炭素材料由来の炭素として担持してなる。
セルロースナノファイバーとしては、繊維径1nm~1000nmのものが挙げられる。
水溶性炭素材料としては、例えば、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース等の単糖類;マルトース、スクロース、セロビオース等の二糖類;デンプン、デキストリン等の多糖類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ブタンジオール、プロパンジオール、ポリビニルアルコール、グリセリン等のポリオールやポリエーテル;クエン酸、酒石酸等の有機酸が挙げられる。
その他の炭素材料としては、例えば、カーボンナノファイバー、グラファイト、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラックのような水不溶性炭素材料が挙げられる。
【0018】
本発明で用いる粉体(X)は、炭素を担持してなるリチウム系ポリアニオン粒子(A)を含む正極によって構築された使用済みリチウムイオン二次電池の正極から得られる粉体である。使用前のリチウムイオン二次電池を構築する正極には、式(A)で表されるリチウム系ポリアニオン粒子(A)が含まれていたことから、使用済みリチウムイオン二次電池の正極から得た粉体(X)には、リチウム系ポリアニオン粒子(A)が劣化した状態で含まれることとなる。かかる粉体(X)を得るにあたり、その方法は特に制限されないが、例えば、使用済みリチウムイオン二次電池を分解、破砕、又は焙焼等して正極を取り出し、これに粉砕、又は比重分離等の処理を施せばよい。
なお、粉体(X)は、適宜溶媒として水を用いてスラリー形態にて得てもよい。
【0019】
本発明のリチウムイオン二次電池正極活物質用リチウム系ポリアニオン粒子の製造方法は、具体的には、次の工程(I)~(IV):
(I)粉体(X)、及び粉体(X)100質量部に対して28質量部以上の水溶性リチウム化合物(Y)を混合してスラリー水Iを得る工程
(II)得られたスラリー水IのpHを9~14に調整した後、還元剤(Z)を混合して、スラリー水IIを得る工程
(III)得られたスラリー水IIを水熱反応に付した後に固液分離して、固形物III及びろ液IIIを得る工程
(IV)得られたろ液IIIからリチウムを回収する工程
を備え、さらに次の工程(I)'~(III)':
(I)'粉体(X)、及び工程(IV)で回収したリチウムを混合してスラリー水I'を得る工程
(II)'得られたスラリー水I'のpHを9~14に調整した後、還元剤(Z)を混合して、スラリー水II'を得る工程
(III)'得られたスラリー水II'を水熱反応に付した後に固液分離して、固形物III'及びろ液III'を得る工程
を備え、
またさらに、工程(III)'に次いで、得られたろ液III'からリチウムを回収する工程(IV)'を備えて、工程(IV)'で回収したリチウムを工程(IV)で回収したリチウムの代わりに用いることにより、工程(I)'~(III)'又は工程(I)'~(IV)'を繰り返し備えてもよい、
固形物III及び固形物III'をリチウム系ポリアニオン粒子(A)として得るための製造方法である。
【0020】
すなわち、本発明は、粉体(X)に含まれる劣化したリチウム系ポリアニオン粒子を、当初正極に含まれていた式(A)で表されるリチウム系ポリアニオン粒子(A)(以下、「当初リチウム系ポリアニオン粒子(A)」とも称する)へと再生し、これを固形物III及び固形物III'として得る製造方法である。
このように、本発明であれば、離脱したリチウムを補填するためのリチウム源として用いる水溶性リチウム化合物(Y)について、粉体(X)に対する質量のみに着目して過剰なる量とすれば足りることから、かかる水溶性リチウム化合物(Y)の組成について過度に注力する必要がなく、工程の簡略化を図ることができる。
そして、一旦工程(I)~(IV)を経て、再生されたリチウム系ポリアニオン粒子(A)として固形物IIIを得る一方で余剰のリチウムを回収し、これを再びリチウム源として用いて工程(I)'~(III)'を経ることにより、また再生されたリチウム系ポリアニオン粒子(A)として固形物III'を得ることができる。また、ここでさらに工程(IV)'を経ることにより余剰のリチウムを回収すれば、工程(I)'~(III)'又は工程(I)'~(IV)'を繰り返し経ることにより、固形物III'も繰り返し得ることが可能となるため、本発明はリチウム源を無駄なく効率的に活用する製造方法である。
【0021】
本発明において、最初に経る工程である、工程(I)~(IV)について説明する。
工程(I)は、粉体(X)、及び粉体(X)100質量部に対して28質量部以上の水溶性リチウム化合物(Y)を混合してスラリー水Iを得る工程であって、水溶性リチウム化合物(Y)が水酸化リチウム、ハロゲン化リチウム、無機酸リチウム、有機酸リチウム、及びこれらの水和物から選ばれる1種又は2種以上である。
なお、粉体(X)は、上記のとおり、使用済みリチウムイオン二次電池の正極から得られた粉体であり、粉体そのものを直接用いてもよく、粉体(X)を含有するスラリー水として用いてもよい。
【0022】
水溶性リチウム化合物(Y)は、水酸化リチウム、ハロゲン化リチウム、無機酸リチウム、有機酸リチウム、及びこれらの水和物から選ばれる1種又は2種以上の、水溶性を示す化合物である。かかる水溶性リチウム化合物(Y)は、粉体(X)に劣化した状態で含まれるリチウム系ポリアニオン粒子に対し、離脱してしまったリチウムを補充するためのリチウム源であるが、その組成を過度に考慮することなく、簡易に質量のみを測定することにより、単に粉体(X)100質量部に対して28質量部以上なる過剰な量に調整すればよい。
なお、「水溶性」を示す化合物とは、20℃における水100gに対し、30g以上溶解する化合物のことを意味する。
【0023】
水溶性リチウム化合物(Y)としては、より具体的には、例えば、LiOH、LiOH・H2O等の水酸化リチウム又はその水和物;LiClやLiBr等のハロゲン化リチウム;LiNO3やLiNO3・3H2O等の硝酸リチウム又はその水和物、Li2SO4やLi2SO4・H2O等の硫酸リチウム又はその水和物である無機酸リチウム;CHLiO2やCHLiO2・2H2O等のギ酸リチウム、C23LiO2やC23LiO2・2H2O等の酢酸リチウム又はその水和物、Li2H(C35O(COO)3)等のクエン酸リチウムである有機酸リチウムから選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。なかでも、水酸化リチウム又はその水和物、硫酸リチウム又はその水和物が好ましく、水酸化リチウム又はその水和物がより好ましい。
【0024】
水溶性リチウム化合物(Y)の添加量は、本発明では、過剰な量で用いて後に回収し、リチウム源として繰り返し活用することができることから、粉体(X)100質量部に対し、28質量部以上であって、32質量部以上であってもよく、また36質量部以上であってもよく、さらに40質量部以上であってもよい。
【0025】
工程(I)において、本発明により得ようとする式(A)で表されるリチウム系ポリアニオン粒子の組成に応じ、さらにマンガン化合物、鉄化合物、又はマンガン化合物及び鉄化合物以外の金属(M:Mは式(A)中のMと同義)化合物を適宜添加してもよい。この際、リンが不足する場合は、さらにリン酸化合物を適宜添加してもよい。
用い得るマンガン化合物としては、酢酸マンガン、硝酸マンガン、硫酸マンガン等が挙げられる。
用い得る鉄化合物としては、酢酸鉄、硝酸鉄、硫酸鉄等が挙げられる。
用い得るリン酸化合物としては、オルトリン酸(H3PO4、リン酸)、メタリン酸、ピロリン酸、三リン酸、四リン酸、リン酸アンモニウム、リン酸水素アンモニウム等が挙げられる。
【0026】
スラリー水Iを得るにあたり、これら粉体(X)、及び水溶性リチウム化合物(Y)のほか、これらの溶媒として適宜水を用いて調整してもよく、また上記のとおり、粉体(X)をスラリー水形態として用いてもよい。
なお、スラリー水Iの固形分濃度は、後の工程における複合体の形成を有効に促進させる観点から、好ましくは0.1質量%~40質量%であり、より好ましくは1質量%~30質量%である。
工程(I)において、粉体(X)、及び水溶性リチウム化合物(Y)を混合するにあたり、これらの添加順については特に制限はないが、これら各成分を良好に溶解又は分散させて、後の工程における複合体の形成を有効に促進させる観点、及び離脱してしまったリチウムをより効果的に補充する観点から、水溶性リチウム化合物(Y)を混合した後、粉体(X)を混合するのが好ましく、さらに、予め水に水溶性リチウム化合物(Y)を溶解させたスラリー水に、粉体(X)を添加して混合するのがより好ましい。
【0027】
スラリー水Iは、次なる工程(II)へ移行する前に、予め撹拌するのが好ましい。これにより、各成分を良好に溶解又は分散させて、後の工程(III)における固形物IIIの形成を有効に促進させつつ、リチウムの補充も効果的に促進させることができる。攪拌の時間は、好ましくは1分~60分であり、より好ましくは5分~30分であり、さらに好ましくは10分~20分である。
なお、工程(I)において、スラリー水IのpHは、粉体(X)、及び水溶性リチウム化合物(Y)の性状によって変動し得るものであり、特に制限されないが、好ましくは8以上である。
【0028】
工程(II)は、工程(I)で得られたスラリー水IのpHを9~14に調整した後、還元剤(Z)を混合して、スラリー水IIを得る工程である。これにより、続く工程(III)において、粉体(X)から不要にリチウム系ポリアニオン粒子が溶出してしまうのをより有効に抑制しつつ、当初リチウム系ポリアニオン粒子(A)へと良好に再生されたリチウム系ポリアニオン粒子を固形物IIIとして、良好に形成させることができる。
【0029】
工程(II)において、スラリー水IのpHは、9~14に調整し、好ましくは10~14に調整し、より好ましくは10.5~13に調整する。
なお、pHを調整するにあたり、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、硫酸、及び塩酸から選ばれる1種又は2種以上のpH調整剤を用いるのが好ましく、水酸化ナトリウム、及び硫酸から選ばれる1種又は2種のpH調整剤を用いるのがより好ましい。かかるpH調整剤の添加量は、スラリー水IのpHによっても変動し得るが、溶け残りが生じない量であればよい。
【0030】
工程(II)では、pHを上記範囲に調整した後のスラリー水Iに還元剤(Z)を混合して、スラリー水IIを得る。
用いる還元剤(Z)は、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、及びアスコルビン酸から選ばれる1種又は2種以上である。なかでも、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウムが好ましく、亜硫酸ナトリウムがより好ましい。
【0031】
還元剤(Z)の添加量は、得られる複合体における式(A)で表されるリチウム系ポリアニオン粒子(A)への再生を有効に実現する観点から、スラリー水I中における粉体(X)と還元剤(Z)との質量比((X):(Z))が、1:0.1~1:0.9となる量であるのが好ましく、1:0.1~1:0.7となる量であるのがより好ましい。
また、スラリー水I中における水溶性リチウム化合物(Y)と還元剤(Z)とのモル比((Y):(Z))が、1:0.3~1:1.2であるのが好ましく、1:0.3~1:0.8であるのがより好ましい。
【0032】
なお、スラリー水IIは、続く工程(III)へ移行する前に、撹拌してもよい。
また、スラリー水IIの固形分濃度は、後の工程(III)における固形物IIIの形成を有効に促進させる観点から、好ましくは0.1質量%~40質量%であり、より好ましくは1質量%~30質量%である。
【0033】
工程(III)は、工程(II)で得られたスラリー水IIを水熱反応に付した後に固液分離して、固形物III及びろ液IIIを得る工程である。このような簡易な工程を経ることにより、粉体(X)に含まれる劣化したリチウム系ポリアニオン粒子に対して、離脱したリチウムを有効に補充することができる。
【0034】
水熱反応の温度は、離脱したリチウムを有効に補充する観点、及び良好に再生されたリチウム系ポリアニオン粒子を固形物IIIとして形成させる観点から、好ましくは100℃~200℃であり、より好ましくは110℃~200℃であり、さらに好ましくは140℃~190℃であり、よりさらに好ましくは150℃~170℃である。
また、水熱反応に付す時間は、水熱反応を迅速かつ効率的に進行させる観点から、好ましくは0.1時間~2.5時間であり、より好ましくは1時間~2時間である。
【0035】
水熱反応に付した後、得られたスラリーを固液分離して、固形物IIIとろ液IIIを得る。これにより、一旦工程(III)において、当初正極に含まれていた式(A)で表されるリチウム系ポリアニオン粒子(A)へと再生されたリチウム系ポリアニオン粒子を固形物IIIとして得ることができる。
固形物IIIは、水で洗浄した後、乾燥するのがよい。乾燥手段としては、凍結乾燥、真空乾燥が挙げられる。
一方、ろ液IIIは、工程(I)において用いた過剰なる量の水溶性リチウム化合物(Y)由来の余剰リチウムを含んでいることから、これを有効活用すべく、続く工程(IV)において用いる。
【0036】
工程(IV)は、工程(III)で得られたろ液IIIからリチウムを回収する工程である。これにより、一旦再生されたリチウム系ポリアニオン粒子を固形物IIIとして得ながらも、余剰のリチウムを含むろ液IIIの有効活用を図り、次なる工程(I)'~(III)'における有用な材料として用いることが可能となる。
【0037】
工程(IV)におけるリチウムを回収する方法としては、例えば、次の工程(xi)~(xii):
(xi)ろ液IIIからリチウム以外のアルカリ金属を除去して、スラリー水xiを得る工程
(xii)得られたスラリー水iから水酸化物イオン以外の陰イオンを除去して、リチウムを含むスラリー水xiiを得る工程
を備える方法であってもよい。
ここで工程(xi)は、具体的には、リチウム以外のアルカリ金属吸着剤(リチウム以外のアルカリ金属を除去する吸着剤)を用いた工程であるのが好ましい。かかる吸着剤としては、具体的には、例えば、特開2005-262096号公報に記載のナトリウムイオンを水素イオンに交換したプロトン型吸着剤等が挙げられる。
なお、リチウム以外のアルカリ金属吸着剤を用いる場合、予めろ液IIIのpHを調整しておくのがよい。かかるpHの値は、好ましくは8~14であり、より好ましくは9~13である。
このような、リチウム以外のアルカリ金属吸着剤をカラムに充填し、これにろ液IIIを通すことにより、リチウム以外のアルカリ金属が除去され、余剰のリチウムを含んだままのスラリー水xiを得ることができる。
【0038】
工程(xi)に次ぐ工程(xii)は、具体的には、陰イオン交換樹脂を用いた工程であるのが好ましい。これにより、スラリー水xiから水酸化物イオン以外の不要な陰イオンを除去し、リチウム以外のアルカリ金属が除去されたスラリー水xiから、効果的にリチウムを回収することができる。
かかる陰イオン交換樹脂としては、具体的には、例えば、デュオライトA161JCL(住化ケムテック社製)、ダイヤイオンHPA25(三菱ケミカル社製)等が挙げられる。
このような陰イオン交換樹脂をカラムに充填し、これにスラリー水xiを通すことにより、スラリー水xiから水酸化物イオン以外の陰イオンを除去することにより回収された、リチウムを含むスラリー水xiiを得ることができる。
【0039】
他方、工程(IV)におけるリチウムを回収する方法として、リチウム選択吸着剤(リチウムイオンを選択的に吸着する吸着剤)を用いた工程(y)を採用してもよい。
かかる工程(y)は、具体的には、例えば、予めリチウム選択吸着剤をカラムに充填し、かつ塩酸、硝酸、又は硫酸等の酸溶液を使用し、このカラムから酸溶液側へとろ液IIIを通すことによりリチウムを溶出させて溶液yiを得た後、工程(xii)のように、得られた溶液yiを陰イオン交換樹脂に通してリチウムを含む溶液yiiを得ることにより、リチウムを回収する工程である。
かかるリチウム選択吸着剤としては、具体的には、例えば、特願2011-540450に記載のHaMn2b(1.8≦a≦2.4、4<b≦4.2)が挙げられる。また、特開2017-177064号公報に記載のチタン酸系リチウム吸着剤のほか、特開2016-88832号公報や特開2018-75566号公報に記載のマンガン酸水素やマンガン酸リチウム等もリチウム選択吸着剤として用いることができる。
このようなリチウム選択吸着剤を用いることにより、ろ液IIIから余剰のリチウムのみを有効に回収することができる。
【0040】
その他、工程(IV)におけるリチウムを回収する方法として、特開2020-12153号公報に記載のような、イオン交換樹脂を用いてリチウムを吸着させる方法や、特開2017-131863号公報に記載のような、リチウム選択透過膜を用いる方法等を適宜利用してもよい。
【0041】
本発明において、上記工程(I)~(IV)を経た後、続いて経る工程である、工程(I)'~(III)'について説明する。
なお、後述するとおり、工程(III)'に次いで工程(IV)'を備えれば、かかる工程(IV)'の後に工程(I)'~(III)'又は工程(I)'~(IV)'を繰り返し備えることができる。
【0042】
工程(I)'は、粉体(X)、及び工程(IV)で回収したリチウムを混合してスラリー水I'を得る工程である。かかる工程(I)'において、工程(IV)で回収したリチウムを用いることにより、一旦工程(I)~(IV)を経ることにより、固形物IIIとともに得られた余剰のリチウムを再び有効活用することができる。
ここで、工程(IV)で回収したリチウムとしては、例えば上記工程(xi)~(xii)を経た場合にはスラリー水xiiを用いればよく、上記工程(y)を経た場合にはスラリー水yを用いればよい。すなわち、工程(I)'では、上記工程(I)における水溶性リチウム化合物(Y)として、スラリー水xii又はスラリー水yを用いる以外は、上記工程(I)においてスラリー水Iを得たのと同様の操作を繰り返し、スラリー水I'を得ればよい。
【0043】
なお、上記工程(I)における水溶性リチウム化合物(Y)として用いるスラリー水xii又はスラリー水yの量が、粉体(X)100質量部に対して28質量部以上には不足するような場合、適宜水溶性リチウム化合物(Y)を加えてもよい。
【0044】
工程(II)'は、工程(I)'で得られたスラリー水I'のpHを10~14に調整した後、還元剤(Z)を混合して、スラリー水II'を得る工程である。すなわち、かかる工程(II)'は、スラリー水Iとしてスラリー水I'を用いる以外、上記工程(II)においてスラリー水IIを得るのと同様の操作を行い、スラリー水II'を得ればよい。
【0045】
工程(III)'は、得られたスラリー水II'を水熱反応に付した後に固液分離して、固形物III'及びろ液III'を得る工程である。すなわち、かかる工程(III)'についても、スラリー水IIとしてスラリー水II'を用いる以外、上記(III)において固形物III及びろ液IIIを得るのと同様の操作を行い、固形物III'及びろ液III'を得ればよい。かかる工程(III)'を経ることにより、固形物IIIと同様、粉体(X)に含まれる劣化したリチウム系ポリアニオン粒子に対して、離脱したリチウムを有効に補充してなる固形物III'を得ることができる。
このように、本発明では、一旦工程(I)~(IV)を経て、固形物IIIを得ながら余剰のリチウムを回収し、これを再びリチウム源として用いて工程(I)~(III)と同様の操作を繰り返す工程(I)'~(III)'を経ることにより、リチウム源を効率的に用いつつ、固形物IIIのみならず、粉体(X)に含まれるリチウム系ポリアニオン粒子をリチウム系ポリアニオン粒子(A)へ再生された固形物III'をも得ることができる。
【0046】
またさらに、本発明では、一旦工程(I)~(IV)を経て、工程(I)'~(III)'を経た後、かかる工程(III)'に次いで、得られたろ液III'からリチウムを回収する工程(IV)'を備え、かかる工程(IV)'で回収したリチウムを工程(IV)で回収したリチウムの代わりに用いることにより、工程(I)'~(IV)'を繰り返し備えてもよい。すなわち、上記工程(III)'において固形物III'とともに得られたろ液III'を再びリチウム源として用いるべく、ろ液III'に含まれるリチウムを工程(IV)と同様の操作を行って回収し、かかる回収したリチウムを用いて工程(I)'~(III)'又は工程(I)'~(IV)'を何度も繰り返し、複数の固形物III'を得ることが可能である。
【0047】
本発明の原材料の一つとして用いた粉体(X)に含まれるリチウム系ポリアニオン粒子は、そもそも炭素が担持されてなるため、本発明により得られた固形物III及び固形物III'においても、担持してなる炭素が存在する。したがって、リチウムイオン二次電池を構築するための有用な正極材料として、本発明により得られた固形物III及び固形物III'をそのまま用いることができる。
【0048】
また、本発明により得られた固形物III及び固形物III'に新たに炭素を担持させてもよい。例えば、得られた固形物III及び固形物III'に対し、新たに炭素を担持させる場合、これに水を添加してスラリー水とし、さらに炭素源として、適宜セルロースナノファイバー由来の炭素、及び水溶性炭素材料由来の炭素から選ばれる1種又は2種以上を添加すればよい。次いで、これらを添加した後、噴霧乾燥に付し、焼成することにより、正極材料として用いるための固形物III及び固形物III'として得ることができる。
【0049】
本発明により得られた固形物III及び固形物III'を正極材料として用い、常法にしたがって、リチウムイオン二次電池を構築することができる。具体的には、例えば得られた固形物III及び固形物III'と、アセチレンブラックやケッチェンブラック、ポリフッ化ビニリデン、N-メチル-2-ピロリドン等とを混練して正極スラリーを調製した後、集電体に塗工し、次いでプレス成形して正極を作製する。
かかる正極を適用できるリチウムイオン二次電池としては、正極と負極と電解液とセパレータ、若しくは正極と負極と固体電解質を必須構成とするものであれば特に限定されない。
【0050】
ここで、負極については、リチウムイオンを充電時には吸蔵し、かつ放電時には放出することができれば、その材料構成で特に限定されるものではなく、公知の材料構成のものを用いることができる。たとえば、リチウム金属、グラファイト、シリコン系(Si、SiOx)、チタン酸リチウム又は非晶質炭素等の炭素材料等を用いることができる。そしてリチウムイオンを電気化学的に吸蔵・放出し得るインターカレート材料で形成された電極、特に炭素材料を用いることが好ましい。さらに、2種以上の上記の負極材料を併用してもよく、たとえばグラファイトとシリコン系の組み合わせを用いることができる。
【0051】
電解液は、有機溶媒に支持塩を溶解させたものである。有機溶媒は、通常リチウムイオン二次電池の電解液に用いられる有機溶媒であれば特に限定されるものではなく、例えば、カーボネート類、ハロゲン化炭化水素、エーテル類、ケトン類、ニトリル類、ラクトン類、オキソラン化合物等を用いることができる。
【0052】
支持塩は、その種類が特に限定されるものではないが、LiPF6、LiBF4、LiClO4及びLiAsF6から選ばれる無機塩、該無機塩の誘導体、LiSO3CF3、LiC(SO3CF32及びLiN(SO3CF32、LiN(SO2252及びLiN(SO2CF3)(SO249)から選ばれる有機塩、並びに該有機塩の誘導体の少なくとも1種であることが好ましい。
【0053】
セパレータは、正極及び負極を電気的に絶縁し、電解液を保持する役割を果たすものである。たとえば、多孔性合成樹脂膜、特にポリオレフィン系高分子(ポリエチレン、ポリプロピレン)の多孔膜を用いればよい。
【0054】
固体電解質は、正極及び負極を電気的に絶縁し、高いリチウムイオン電導性を示すものである。たとえば、La0.51Li0.34TiO2.94、Li1.3Al0.3Ti1.7(PO43、Li7La3Zr212、50Li4SiO4・50Li3BO3、Li2.9PO3.30.46、Li3.6Si0.60.44、Li1.07Al0.69Ti1.46(PO43、Li1.5Al0.5Ge1.5(PO43、Li10GeP212、Li3.25Ge0.250.754、30Li2S・26B23・44LiI、63Li2S・36SiS2・1Li3PO4、57Li2S・38SiS2・5Li4SiO4、70Li2S・30P25、50Li2S・50GeS2、Li7311、Li3.250.954を用いればよい。
【0055】
上記の構成を有するリチウムイオン二次電池の形状としては、特に制限を受けるものではなく、コイン型、円筒型,角型等種々の形状や、ラミネート外装体に封入した不定形状であってもよい。
【実施例0056】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0057】
[製造例1:使用済みリチウムイオン二次電池の正極から得られる粉体(X1)の製造]
使用済みリチウムイオン二次電池の正極から得られる粉体(X1)につき、以下の方法により疑似的に作製した。
具体的には、まずLiOH・H2O 1272g、及び水4Lを混合してスラリーaを得た。次いで、得られたスラリーaを、25℃の温度に保持しながら3分間撹拌しつつ85%のリン酸水溶液1153gを35mL/分で滴下し、速度400rpmで12時間撹拌して、Li3PO4を含むスラリーbを得た。得られたスラリーbに窒素パージして、スラリーbの溶存酸素濃度を0.5mg/Lとした後、スラリーb全量に対し、MnSO4・5H2Oを1929 g、FeSO4・7H2Oを556g添加してスラリーcを得た。添加したMnSO4・5H2OとFeSO4・7H2Oのモル比(マンガン化合物:鉄化合物)は、80:20であった。
【0058】
次いで、得られたスラリーcをオートクレーブに投入し、170℃で1時間水熱反応を行った。オートクレーブ内の圧力は0.8MPaであった。水熱反応後、生成した結晶をろ過し、次いで結晶1質量部に対し12質量部の水により洗浄した。洗浄した結晶を-50℃で12時間凍結乾燥して複合体dを得た。
【0059】
得られた複合体dを1500g分取し、セルロースナノファイバー(FD200L、ダイセル社製)120gと水2.2Lを添加して、スラリーeを得た。得られたスラリーeを超音波攪拌機(T25、IKA社製)で30分間分散処理して、全体を均一に呈色させた後、スプレードライ装置(MDL-050M、藤崎電機株式会社製)を用いてスプレードライ(ノズルエアー流量50L/min、給気温度190℃)に付して造粒体S1を得た。
【0060】
得られた造粒体S1を、アルゴン水素雰囲気下(水素濃度3%)にて750℃で1時間焼成して、式(A)で表されるリチウム系ポリアニオン粒子A1(LiMn0.8Fe0.2PO4、炭素量=1.2質量%)を得た。
水1Lに対し、得られたリチウム系ポリアニオン粒子A1を120g、Na228を36g加え、常温で24時間撹拌してリチウム系ポリアニオン粒子A1を疑似的に劣化させた。その後、これをろ過して乾燥した後、回収することにより、粉体(X1)を得た。
なお、ICP発光分光分析装置(PS3520 UVDD2、日立ハイテクサイエンス社製)を用い、得られた粉体(X1)のICP分析を行ったところ、粉体(X1)のP1モルあたりのLiモル量は、0.6であった。
【0061】
[製造例2:使用済みリチウムイオン二次電池の正極から得られる粉体(X2)の製造]
製造例1で得られたリチウム系ポリアニオン粒子A1(LiMn0.8Fe0.2PO4、炭素量=1.2質量%)を用い、加えるNa228を72gとした以外、製造例1と同様にして疑似的に劣化させた後、ろ過して乾燥した後に回収することにより、粉体(X2)を得た。
なお、製造例1と同様にして、得られた粉体(X2)のICP分析を行ったところ、粉体(X2)のP1モルあたりのLiモル量は、0.2であった。
【0062】
[製造例3:使用済みリチウムイオン二次電池の正極から得られる粉体(X3)の製造]
窒素パージして溶存酸素濃度を0.5mg/Lとした後のスラリーb全量に対し、FeSO4・7H2Oのみを2780gを添加した以外、製造例1と同様にして水熱反応を行った。その後、凍結乾燥、スプレードライ及び焼成を行って、リチウム系ポリアニオン粒子A2(LiFePO4、炭素量=1.2質量%)を得た。
次いで、得られたリチウム系ポリアニオン粒子A2を用い、製造例1と同様にして疑似的に劣化させた後、ろ過して乾燥した後に回収することにより、粉体(X3)を得た。
なお、製造例1と同様にして、得られた粉体(X3)のICP分析を行ったところ、粉体(X3)のP1モルあたりのLiモル量は、0.6であった。
【0063】
[実施例1:工程(I)~(IV)を経た後、工程(I)'~(III)'を経る製造例]
水1000gにLiOH・H2Oを30g添加して溶解させた水溶液f1に、粉体(X1)を100g添加して撹拌混合し、スラリー水I1を得た。
次に、NaOHを用い、得られたスラリー水I1のpHを12に調製した後、Na2SO3を加えて粉体(X1)とNa2SO3の質量比((X1):(Z))=1:0.6となるように調整し、混合してスラリーII1を得た。得られたスラリーII1をオートクレーブに投入し、160℃で1時間水熱反応を行った。なお、オートクレーブ内の圧力は0.6MPaであった。
水熱反応後にろ過洗浄し、固形物III1とろ液III1を得た。なお、固形物III1は、ろ過洗浄により生成した結晶を乾燥して得た。
【0064】
次に、得られたろ液III1を用いてリチウムを回収した。具体的には、まず、Na8Nb2259を酸処理してナトリウムイオンを水素イオンに交換したプロトン型吸着剤を充填したカラムを用意した。次いで、ろ液III1のpHを9に調整した後、かかるカラムにろ液III1を通し、ろ液III1-iを得た。
続いて、陰イオン交換樹脂(ダイヤイオンHPA25、三菱ケミカル社製)が充填されたカラムにろ液III1-iを通し、リチウム含有のろ液III1-iiを得た。
【0065】
得られたろ液III1-iiを用い、これに再びLiOH・H2Oを30g添加して溶解させて水溶液f1'とし、さらに粉体(X1)を100g添加して撹拌混合し、スラリー水I1'を得た。
得られたスラリー水I1'を用い、スラリー水I1を用いることにより固形物III1とろ液III1を得た操作と同じ操作を繰り返して、固形物III1'とろ液III1'を得た。
得られた固形物III1及び固形物III1'についてICP分析を行ったところ、固形物III1の組成及び固形物III1'の組成ともに、LiMn0.8Fe0.2PO4であった。
【0066】
[実施例2:工程(I)~(IV)を経た後、工程(I)'~(III)'を経る製造例]
水1000gにLiOH・H2Oを35g添加して溶解させた水溶液f2に、粉体(X2)を100g添加して撹拌混合し、スラリー水I2を得た。
次に、NaOHを用い、得られたスラリー水I2のpHを12に調製した後、Na2SO3を加えて粉体(X2)とNa2SO3の質量比((X2):(Z))=1:0.7となるように調整し、混合してスラリーII2を得た。得られたスラリーII2をオートクレーブに投入し、160℃で1時間水熱反応を行った。なお、オートクレーブ内の圧力は0.6MPaであった。
水熱反応後にろ過洗浄し、固形物III2とろ液III2を得た。なお、固形物III2は、ろ過洗浄により生成した結晶を乾燥して得た。
【0067】
次に、実施例1におけるろ液III1の代わりとして、得られたろ液III2を用い、実施例1におけるろ液III1から最終的に固形物III1'とろ液III1'を得た操作と同様の操作を行って、最終的に固形物III2'とろ液III2'を得た。
得られた固形物III2及び固形物III2'についてICP分析を行ったところ、固形物III2の組成及び固形物III2'の組成ともに、LiMn0.8Fe0.2PO4であった。
【0068】
[実施例3:工程(I)~(IV)を経た後、工程(I)'~(III)'及び工程(IV)'を経て、再び工程(I)'~(III)'を経る製造例]
実施例1で最終的に得られたろ液III1'を用い、実施例1におけるろ液III1を用いてリチウムを回収する操作と同様の操作を行い、リチウム含有のろ液III1-ii'を得た。
次いで、得られたろ液III1-ii'を用い、実施例1におけるろ液III1-iiを用いた操作を再び繰り返した。すなわち、実施例1において、得られたろ液III1-iiに再びLiOH・H2Oを30g添加することにより最終的に固形物III1'とろ液III1'を得た操作と同様の操作を再び繰り返して、ろ液III1'からリチウムを回収してろ液III1-ii3'とし、これを再びリチウム源として用いることにより、最終的に固形物III1-3'とろ液III1-3'を得た。
得られた固形物III1-3'についてICP分析を行ったところ、その組成は、LiMn0.8Fe0.2PO4であった。
【0069】
[実施例4:工程(I)~(IV)を経た後、工程(I)'~(III)'を経る製造例]
粉体(X1)の代わりとして粉体(X3)を用い、実施例1における最終的に固形物III1'とろ液III1'を得た操作と同様の操作を行って、最終的に固形物III4'とろ液III4'を得た。
得られた固形物III4'についてICP分析を行ったところ、その組成は、LiFePO4であった。
【0070】
《Li回収効率の算出》
ICP発光分光分析装置(PS3520 UVDD2、日立ハイテクサイエンス社製)を用いて各Liモル量を測定し、工程(I)'~(III)'を繰り返した回数(x)に応じて下記式にしたがい、Li回収効率を算出した。
・x=1のとき
Li回収効率(%)={(固形物III'中のLiモル量(x)+ろ液III中のLi モル量)/スラリー水I中のLiモル量}×100
・x>1のとき
Li回収効率(%)={(固形物III'中のLiモル量(x)+ろ液III'中の
Liモル量(x-1))/スラリー水I'中のLiモル量(x-1)}×100
結果を表1に示す。
【0071】
《電池特性の評価》
製造例1で得られたリチウム系ポリアニオン粒子A1、及び上記実施例で最終的に得られた固形物III'(固形物III1'、固形物III2'、固形物III1-3'、固形物III4')を使用して、リチウムイオン二次電池の正極を作製した。
具体的には、粒子A1又は各固形物、ケッチェンブラック、ポリフッ化ビニリデンを質量比75:20:5の配合割合で混合し、これにN-メチル-2-ピロリドンを加えて充分混練し、正極スラリーを調製した。正極スラリーを厚さ20μmのアルミニウム箔からなる集電体に塗工機を用いて塗布し、80℃で12時間の真空乾燥を行った。その後、φ14mmの円盤状に打ち抜いてハンドプレスを用いて16MPaで2分間プレスし、正極とした。
【0072】
次いで、上記正極を用いてコイン型二次電池を構築した。負極には、φ15mmに打ち抜いたリチウム箔を用いた。電解液には、エチレンカーボネート及びエチルメチルカーボネートを体積比3:7の割合で混合した混合溶媒に、LiPF6を1mol/Lの濃度で溶解したものを用いた。セパレータには、高分子多孔フィルムを用いた。これらの電池部品を露点が-50℃以下の雰囲気で常法により組み込み収容し、コイン型二次電池(CR-2032)を得た。
上記得られたコイン型二次電池を用い、放電容量測定装置(HJ-1001SD8、北斗電工社製)にて30℃環境での0.2C、終止電圧4.5Vの定電流充電、放電条件を0.2C、終止電圧2Vの定電流放電とした場合の放電容量(mAh/g)を求めた。
結果を表1に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
《XRDパターンの解析》
上記実施例1で得られた固形物III1及び固形物III1'について、XRD(D8-ADVANCE A-25型、BrukerAXS社製)を用い、ターゲットCuKα、管電圧40 kV、管電流40 mA、走査範囲10~80°(2θ)、ステップ幅0.0234°及びスキャンスピード0.13°/stepで測定し、XRDパターンを得た。
製造例1で得られたリチウム系ポリアニオン粒子A1も含め、得られたXRDパターン図を図1に示す。
【0075】
上記図1に示すように、実施例1において最終的に得られた固形物III1'は、固形物III1と同じく、一旦劣化した粉体(X1)に含まれるリチウム系ポリアニオン粒子を、使用前のリチウムイオン二次電池を構成した当初リチウム系ポリアニオン粒子A1へと有効に再生されたリチウム系ポリアニオン粒子であることがわかる。
また、実施例において最終的に得られた各固形物III'(固形物III1'、固形物III2'、固形物III13'、固形物III4')は、使用前のリチウムイオン二次電池を構成した当初リチウム系ポリアニオン粒子A1と同等に、優れた電池特性を発揮できることがわかる。
図1