(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121266
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】無機系塗料の塗装方法
(51)【国際特許分類】
B05D 1/36 20060101AFI20240830BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20240830BHJP
C09D 1/00 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
B05D1/36 Z
B05D7/24 302B
B05D7/24 301V
C09D1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028274
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】000159032
【氏名又は名称】菊水化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】棚橋 泰士
(72)【発明者】
【氏名】都築 和貴
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 貴久
(72)【発明者】
【氏名】岡嶋 祐樹
【テーマコード(参考)】
4D075
4J038
【Fターム(参考)】
4D075AA01
4D075AC14
4D075AC21
4D075AC57
4D075AE03
4D075BB16X
4D075BB60Z
4D075BB91Y
4D075CA13
4D075CA47
4D075CA48
4D075DA06
4D075DB11
4D075DB12
4D075DC01
4D075DC02
4D075DC05
4D075EA06
4D075EA25
4D075EB02
4D075EB22
4D075EB51
4D075EC01
4D075EC03
4D075EC33
4D075EC35
4J038AA011
(57)【要約】
【課題】ジオポリマーを主成分とした無機系塗材により形成された塗膜の強度や層間の付着力が十分で、塗膜表面が硬い塗膜構造を得ることができる無機系塗材の塗装方法を提供する。
【解決手段】潜在水硬性物質とアルカリ化合物から構成されるジオポリマーを主成分とした無機系塗材の塗装方法であって、塗装下地に対して、前記無機系塗材を塗布し、乾燥させ、1層目の塗膜を形成させた後に、前記無機系塗材により2層目の塗膜を形成させることで、ジオポリマーを主成分とした無機系塗材により形成された塗膜の強度や層間の付着力が十分で、塗膜表面が硬い塗膜構造を得ることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
潜在水硬性物質とアルカリ化合物から構成されるジオポリマーを主成分とした無機系塗材の塗装方法であって、
塗装下地に対して、
前記無機系塗材を塗布し、乾燥させ、1層目の塗膜を形成させた後に、
更に、前記無機系塗材により2層目の塗膜を形成させる
無機系塗材の塗装方法。
【請求項2】
1層目の無機系塗材の粘度がB型粘度計で20rpm、23℃で測定した際に150~35000mPa・sの範囲であり、その塗布量が100~3000g/m2の範囲であり、2層目の無機系塗材の粘度がB型粘度計で20rpm、23℃で測定した際に50~35000mPa・sの範囲であり、その塗布量が50~2000g/m2の範囲である請求項1に記載の無機系塗材の塗装方法。
【請求項3】
前記塗装下地のpHが7~14の範囲を示すものである請求項1又は請求項2に記載の無機系塗材の塗装方法。
【請求項4】
前記塗装下地が、下地に対して、潜在水硬性物質とアルカリ化合物から構成されるジオポリマーを主成分とした無機系下地調整塗材を塗布し、下地調整材層を形成させたものである請求項1又は請求項2に記載の無機系塗材の塗装方法。
【請求項5】
前記下地のpHが7~14の範囲を示すものである請求項4に記載の無機系塗材の塗装方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、建物などの構造物の内外壁面などの壁面に塗布する塗材であり、その塗料の中でもバインダー成分にジオポリマーを用いた無機系塗材の塗装方法に関するもので、その利用分野は、主に建築や土木分野である。
【背景技術】
【0002】
従来から建物などの構造物の内外壁面などの壁面に塗布する塗材として、合成樹脂エマルションなどの有機系の結合材を主成分としたものやセメントなどの無機系の結合材を用いたものなどが数多く存在している。
これらの塗料により形成された塗膜は、壁面の耐久性を向上させることや意匠性向上のために用いられている。
【0003】
これらの中でも、塗装対象の面がコンクリートなどには、セメントと合成樹脂エマルションとを混合したものやセメントなどの無機系の結合材を用いたものも用いられることもある。
このセメントなどの無機系の結合材を用いたものは、形成された塗膜の強度や使い勝手、入手の容易さなどにより多く用いられることがある。その中でも特開2021-1260号公報には、高炉スラグ系塗料が提案されている。
【0004】
これは、高炉スラグを含有する安定化された高炉スラグ水性懸濁液を主材の主要成分とし、該懸濁液の水硬反応を誘発させる珪酸ナトリウムもしくは炭酸ナトリウム、炭酸カリウムが溶解したアルカリ性液体を水硬反応誘発剤として、前記主剤と水硬反応誘発剤とを別々にパッケージしてなることを特徴とする高炉スラグ系2剤型塗料が記載されている。
【0005】
これにより、高炉スラグを用いた場合でもアルミナセメントの場合と同様の効果が得ることができたものであって、高炉スラグを主要成分とする液体懸濁液からなる液状の無機系素材と、その流体懸濁液を用いた高炉スラグ系2剤型もしくは1剤型水性塗料を得ることができるものであった。
この水性塗料により常温で硬化し強度の高いもので、耐水性や耐候性などの各種物性の優れた塗膜を得ることができるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このような塗料の場合、塗料中に含まれるアルカリ成分が、下地に分散媒である水と一緒に吸収され、塗膜全体の強度が不十分な場合がある。又、その塗膜表面では分散媒が速く蒸発することで、アルカリ成分の働きが十分でなく、塗膜表面強度が低くなることがある。
本開示は、ジオポリマーを主成分とした無機系塗材により形成された塗膜の強度や層間の付着力が十分であり、塗膜表面が硬い塗膜構造を得ることができる無機系塗材の塗装方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
潜在水硬性物質とアルカリ化合物から構成されるジオポリマーを主成分とした無機系塗材の塗装方法であって、塗装下地に対して、前記無機系塗材を塗布し、乾燥させ、1層目の塗膜を形成させた後に、更に、前記無機系塗材により2層目の塗膜を形成させることである。
このことにより、ジオポリマーを主成分とした無機系塗材により形成された塗膜の強度や層間の付着力が十分であり、塗膜表面が硬い塗膜構造を得ることができるものである。
【0009】
1層目の無機系塗材の粘度がB型粘度計で20rpm、23℃で測定した際に150~35000mPa・sの範囲であり、その塗布量が100~3000g/m2の範囲であり、2層目の無機系塗材の粘度がB型粘度計で20rpm、23℃で測定した際に50~35000mPa・sの範囲であり、その塗布量が50~2000g/m2の範囲である。
これにより、ジオポリマーを主成分とした無機系塗材により形成された塗膜が比較的厚くなり、塗膜全体のアルカリ成分を十分に確保することができ、塗膜全体の強度をより十分なものとすることができる。
【0010】
前記塗装下地のpHが7~14の範囲を示すものであることにより、塗装下地への密着性が良好なものとなる。
【0011】
前記塗装下地が、下地に対して、潜在水硬性物質とアルカリ化合物から構成されるジオポリマーを主成分とした無機系下地調整塗材を塗布し、下地調整材層を形成させたものである。
このことにより、ジオポリマーを主成分とした無機系塗材により形成された塗膜と塗装下地との密着性がより向上し、無機系塗材と無機系下地調整塗材により形成された複合塗膜の強度や層間の付着力が十分であり、塗膜表面が硬い塗膜構造を得ることができるものである。
【0012】
前記下地のpHが7~14の範囲を示すものであることにより、下地への密着性が良好なものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示の実施形態を説明する。
本開示は、潜在水硬性物質とアルカリ化合物から構成されるジオポリマーを主成分とした無機系塗材の塗装方法であって、塗装下地に対して、前記無機系塗材を塗布し、乾燥させ、1層目の塗料層を形成させた後に、更に、前記無機系塗材により2層目の塗料層を形成させることである。
【0014】
まず、ジオポリマーとは、潜在水硬性物質とアルカリ化合物から構成されるものであり、
潜在水硬性物質は、アルカリ溶液などのアルカリ化合物のアルカリ性に刺激され、硬化するものである。
【0015】
これは、アルカリ水溶液に可溶な潜在水硬性物質がアルカリ化合物により、その表面が溶解し、不安定となり、そのアルカリ化合物の水分がなくなるにつれて、潜在水硬性物質同士が近づきそれぞれが結合する水硬性反応によるもので、その硬化反応が比較的強いものである。
その潜在水硬性物質の代表的なものとして高炉スラグが挙げられる。この高炉スラグは、鉄鉱石をコークスで還元、溶融し、銑鉄を製造する溶鉱炉から銑鉄と共に約1500℃の溶融状態で取り出された後、比重差により分離された脈石分で、冷却固化の方法により、徐冷スラグと水砕スラグがある。
【0016】
この潜在水硬性物質の粒子径は、1~50μmの範囲の微粉末のものが好ましく、反応性が高いため、硬化性が良好で、塗膜を形成し易く、初期の耐水性が良好なものとなる。又、色が白いため、塗膜の隠蔽性を高め、塗料の着色を行い易いものとなる。
その組成は、CaO,SiO2,Al2O3を主成分としており、セメントに似た化学成分を有しているものである。
【0017】
この潜在水硬性物質は、無機系塗材組成物中に10~40重量%含有したものが好ましく、40重量%より多い場合では、塗膜の結合力が強くなり、塗膜に割れが生じることが多くなり、10重量%より少ない場合では、塗膜の強度や下地への密着が悪くなることが多い。
また、潜在水硬性物質の含有量が10~35重量%の範囲内であれば、塗膜強度や下地への密着性が良好で、塗膜の割れが生じ難いものとなる。更に含有量が15~30重量%の範囲内であれば、塗膜の割れと強度及び密着性の釣り合いの取れたものとなる。
【0018】
アルカリ化合物は、前記潜在水硬性物質が可溶で、その表面を不安定にすることができるものであれば良く、水など揮発成分に溶けているものであれば良い。
このアルカリ化合物は、水酸化ナトリウム,水酸化カリウム,メタケイ酸ナトリウムなど水に溶け、アルカリ性を示すことができる物質を水に溶かすことでpHが7~14のアルカリ水溶液を得られる。
【0019】
また、コロイダルシリカなどのシリカ溶液のなかでアルカリ性を示す分散液や水ガラス,リチウムシリケート,アルミナゾルなどの溶液や分散液であっても良く、好ましく用いられる。
これら水溶液や分散液を用いることで、高炉スラグと反応し、無機系塗材組成物により形成される塗膜に強度を持たせ、下地との密着性が良好なものとなる。これらのアルカリ刺激剤は、単独で用いても良いし、2種以上を混合して用いても良い。
【0020】
コロイダルシリカは、非晶質であるシリカの微細粒子が水などの溶媒にコロイド状に分散された状態のものであり、水ガラスは、ケイ酸ナトリウムの濃い水溶液で、ケイ酸ナトリウムを水に溶かして加熱することで得られる高い粘性を持つものである。
リチウムシリケートは、アルカリ珪酸塩の一種で、有機系バインダーと比べて耐熱性に優れたもので、アルミナゾルは、水を分散媒とした、アルミナ水和物のコロイド溶液である。
【0021】
これらの水溶液や分散液の中でも、シリカ微細粒子の水分散液であるコロイダルシリカが好ましく用いられる。
このコロイダルシリカは、取り扱いの容易さや表面強度を上げることができ、下地との密着性が良好であり、塗膜を親水性にすることができ、良好な親水性の塗膜を形成することから雨だれ汚れなどの汚れが付き難くなるために好ましく用いられる。
【0022】
このシリカ溶液中に分散されるシリカ微粒子の平均粒子径は、好ましくは4~100nmであり、より好ましくは6~50nmであり、最も好ましくは10~20nmである。
この範囲にあるとき、親水性を調整することが容易であり、シリカ微粒子間の結合力が最適になる。
【0023】
シリカ微粒子の平均粒子径が4nm未満の場合には、シリカ微粒子間の結合力が強すぎて、塗膜に収縮クラックが発生するおそれがある。逆に、100nmを超える場合には、シリカ微粒子間の結合力が弱く、塗膜の強度が弱い場合がある。
前記シリカ微粒子の粒子形状としては球状、パールネックレス状、針状、棒状などがあり、球状であることが好ましく用いられ、これは、シリカ微粒子が乾燥して乾燥ゲルとなったときに、粒子同士が最密充填構造をとることができるため、塗膜の強度を向上させることができる。
【0024】
本開示に用いられる無機系塗材は、上記記載の潜在水硬性物質とアルカリ化合物により構成されるものであり、この無機系塗材を1又は2種類以上を用いて積層させるものである。
これらの構成成分の他に、有機バインダーや無機バインダーなどの補助的なバインダー成分,フィラー成分,顔料成分,繊維類を含有させることが好ましく行われている。
【0025】
また、一般的な塗料に用いられる消泡剤,分散剤,湿潤剤などとして用いられる界面活性剤、粘度,粘性調整のための増粘剤やレベリング剤、防腐剤、防藻剤、防黴剤、pH調整剤等の各種添加剤を必要に応じて添加することができる。
場合によっては、造膜助剤,防凍剤などとして用いられる高沸点溶剤も添加することができ、撥水剤や親水化剤、光触媒、紫外線防止剤などのように塗膜の性能を付与させる添加剤を加えることも可能である。
【0026】
この補助的なバインダー成分の有機バインダーには、合成樹脂エマルションが好ましく用いられ、これを添加することで、下地や塗装下地への密着性が良好で、塗膜に適度な柔らかさを与えることができ、塗膜表面の割れを少なくすることができるものとなる。
この合成樹脂エマルションの添加量は、その合成樹脂の種類にもよるが、無機系塗料の固形分に対して、合成樹脂エマルションの固形分量で、1~50重量%の範囲が好ましい。
【0027】
この範囲内であれば、塗膜の硬化に影響を与えることなく、形成された塗膜に適度な柔らかさを持たせることができる。
この合成樹脂エマルションは、通常の塗料や塗材の配合に用いられるものでよく、アルカリ化合物と良好に混和できるものであればよい。
【0028】
この合成樹脂エマルションは、合成樹脂を水に分散させたものであり、その合成樹脂には、アクリル樹脂,スチレン樹脂,ウレタン樹脂,シリコーン樹脂,フッ素樹脂,エポキシ樹脂,塩化ビニル樹脂,酢酸ビニル樹脂,ポリエステル樹脂などを単独又は共重合したものが挙げられる。
この合成樹脂エマルションは、乳化重合のような通常の重合技術で製造できる一般的なもので、前記記載の合成樹脂などより製造された合成樹脂エマルションなどがある。またこの合成樹脂エマルションをパウダー状にしたパウダーエマルションも好ましく用いられる。
【0029】
無機バインダーには、セメントなどの水硬性結合材や消石灰などの気硬性結合材、フライアッシュやシリカヒュームなどのポゾラン反応成分も加えることも可能である。これらを加えることで、無機系塗材による塗膜の強度をより向上させることが可能となる。
フィラー成分には、亜鉛華,カオリン,タルク,クレー,炭酸カルシウム,珪藻土,ベントナイト,ホワイトカーボン,ガラスビーズ,水酸化アルミニウム,水酸化マグネシウムや珪砂などのフィラーがある。
【0030】
このフィラーは、無機系塗材による塗膜の硬化時に潜在水硬性物質がフィラーと干渉することで、硬化反応に発生する応力を緩和させ、乾燥収縮を低減させるためのものである。
そのため、フィラーの粒子径が5~2000μmの範囲であり、フィラーの粒子径が潜在水硬性物質の粒子径に比べ大きいものが好ましいものである。
【0031】
これにより塗膜硬化時に、フィラーが潜在水硬性物質同士の間に入り易く、干渉し易くなり、硬化反応に発生する応力を緩和させることができる。
より好ましくは、フィラーの粒子径が5~1000μmの範囲であり、この範囲内であれば、よりその効果が良好なものとなり、塗膜の割れが少ないものとなる。
【0032】
着色成分には、白色顔料の酸化チタンや着色顔料などがあり、酸化チタンを含有させることが好ましく行われ、酸化チタンの粒子が、比較的硬く、その形状が球形に近いため、形成される比較的薄い塗膜の表面に割れの発生が少なく、比較的硬い塗膜を形成し、被覆物を保護することができる。
この含有量が塗料中に0.1~15.0重量%の範囲であることが好ましく、この範囲内であれば、隠蔽性が十分な塗料となり、無機系塗材の着色も容易なものとなる。又、比較的薄い塗膜の表面に割れの発生が少なく、硬い塗膜を形成することができる。
【0033】
着色顔料は、塗膜に色を付けるために用いられるものであり、無機,有機系顔料及びその両方を用いられ、酸化チタン,カーボンブラック,オキサイドイエロー,弁柄,シアニンブルー,シアニングリーンなど一般的な塗料の着色に使用することができるものである。
また、繊維を加えることが好ましく行われ、この繊維を加えることで、無機系塗材を塗布した後の急激な乾燥を緩和させることができ、塗膜のアルカリ湿潤状態を長くすることが可能になり、反応硬化をゆっくり進行させることができることで、より塗膜強度が向上するものである。
【0034】
また、塗膜の収縮を抑えることができ、塗膜の割れを低減させることもできる。この繊維には、パルプや綿など天然繊維やガラス繊維、鉱物繊維などがある。
このように構成される無機系塗材は、その固形分が30.0~80.0重量%の範囲であることがより好ましいものである。
【0035】
この無機系塗材の固形分は、30.0~80.0重量%であることが好ましく、潜在水硬性物質とアルカリ化合物の水溶液とのバランスも良好で、十分な塗膜強度を得ることができ、その塗材による塗膜の表面に割れの発生が少なくなる。
この固形分が30.0重量%より少ない場合では、十分な成膜ができず、塗膜表面に割れが生じることがあり、80.0重量%より高い場合では、塗材を構成する粒子間に空隙ができ、塗膜表面に割れが生じることがある。
【0036】
この無機系塗材は、その塗材の粘度がB型粘度計で20rpm、23℃で測定した際に50~35000mPa・sの範囲であることが好ましい。
この塗材粘度が50mPa・sより低い場合では、比較的比重のある潜在水硬性物質の分離を抑えられないことがあり、35000mPa・sより高い場合では、比較的薄く均一な塗膜を形成させることができず、この範囲外では、良好な塗膜を形成させることが難しい。
【0037】
また、この塗材粘度は、簡易型の粘度計であるビスコテスタにより測定した場合は、1~200dPa・sの範囲である。このビスコテスタはB型粘度計より簡易的に測定できる粘度計であり、現場で容易に管理することができる。
B型粘度計で測定した値とビスコテスタで測定した値には完全には相関があるものではないが、ビスコテスタの1~200dPa・sの範囲は、B型粘度計の50~35000mPa・sの範囲の中に入る値であり、好ましい範囲である。
【0038】
ジオポリマーを主成分とした無機系塗材では、潜在水硬性とアルカリ化合物のアルカリ性に刺激され硬化するものであり、その塗材によっては、混ぜ合わせてから大きく粘度が変化する場合がある。
このビスコテスタを用いることで、塗装現場でも容易に粘度を測定することができるため、塗装直前に測定することで、より安定的に塗装作業を行うことができる。
【0039】
本開示の無機系塗材は、1層目と2層目とに分けて塗装を行うものであることから、1層目の無機系塗材と2層目の無機系塗材が異なるものを用いた場合では、その無機系塗材の粘度が異なるものを用いることが好ましく行われている。
この粘度は、B型粘度計の20rpm、23℃の状態で測定した場合に、1層目の無機系塗材の粘度が150~35000mPa・sの範囲であり、2層目の無機系塗材の粘度が50~35000mPa・sの範囲であることが好ましい。
【0040】
そのため1層目の無機系塗材では、その塗材に含まれるアルカリ成分が、塗装下地に分散媒の水と一緒に吸収され難く、2層目の無機系塗材では、塗膜表面で分散媒の蒸発を遅くすることができ、塗膜全体でアルカリ成分を効率的に作用させることができ、その強度をより十分なものとすることができる。
また、1層目に用いる無機系塗材の粘度が2層目に用いる無機系塗材料の粘度より高いことにより、1層目の無機系塗材の塗布量を2層目の無機系塗材の塗布量より比較的容易に多くすることができ、アルカリ成分の量を確保することが容易なものとなる。
【0041】
そのため、1層目の無機系塗材に含まれるアルカリ成分が塗装下地にある程度吸収されても、1層目の塗膜の強度を十分に確保することができ、2層目の無機系塗材に含まれるアルカリ成分が吸い込まれ難いものとすることができ、塗膜全体の強度も十分にすることができる。
前記粘度の1層目と2層目の各無機系塗材を塗布した場合では、その塗布量が1層目の無機系塗材が100~3000g/m2の範囲で、2層目の無機系塗材の塗布量が50~2000g/m2の範囲であることが好ましい状態である。
【0042】
この塗布量の範囲であることで、塗膜中のアルカリ成分が単位面積当たりで、十分な量になり、塗膜全体の強度を確保することができる。
それぞれの塗膜の膜厚が50~3000μmの範囲であることが好ましく、未硬化の塗膜のアルカリ成分を保持し易く、その表面に割れの発生が少なく、塗装下地を保護することができるものである。
【0043】
この塗膜の厚みが50μmより薄い場合では、下地を十分に被覆することができないことがあり、被覆物を保護しきれないことがある。
3000μmより厚い場合は、垂直面での効率的な塗布作業が行うことが難しく、硬化乾燥過程で、塗料の垂れなどが発生し、きれいな塗膜を得ることができないことがある。塗膜の厚みムラが多くなり、塗膜の厚み差による割れが発生することがある。
【0044】
好ましい膜厚としては、100~2000μmの範囲であり、この範囲内であれば、この塗料により形成される塗膜の性能を十分に発揮し、その表面に割れの発生が少なくすることができる。
上記記載のようなものにより構成される無機系塗材は、塗装下地に対して、1層目の無機系塗材が塗布され、塗膜を形成させた後に、2層目の無機系塗材を塗布し、塗膜を形成させるものである。
【0045】
このように積層された塗膜であれば、その塗膜の強度や層間の付着力が十分であり、塗膜表面が硬い塗膜構造を得ることができるものである。
この塗装下地は、上記無機系塗材を塗布することが可能な状態のものであり、建築物の壁面であれば、その表面の欠損や不陸などを処理した状態のものである。
【0046】
塗装下地には、建築物の壁面を構成するコンクリート,モルタル,ALCパネル,サイディングボード,押出成型板,石膏ボード,スレート,セラミック,プラスチック,木材,石材,タイル等があり、これらを塗装下地として、無機系塗材を塗布することが可能である。
この塗装下地の好ましい条件としては、その塗装下地のpHが7~14の範囲を示すものであり、この状態であれば、1層目の無機系塗材による塗膜が塗装下地との界面との反応硬化が進み易く、密着性が良好で、塗膜全体として、十分な強度を得ることができる。
【0047】
このpHが7~14の範囲を示す塗装下地には、セメントを主成分としたコンクリート,モルタル,ALCパネル,サイディングボード,押出成型板,スレートなどがある。好ましくは、pHが8以上である。
また、塗装下地にアルカリ付与剤を塗布し、下地のpHを7~14の範囲に調整した後に、無機系塗材を塗布することも可能であり、好ましく行われ、塗装下地のpHが6以下の場合に行われることが多い。
【0048】
このようにすることで、塗布したアルカリ付与剤により下地との界面の反応硬化が進み易く、密着性が良好で、塗膜全体として、十分な強度を得ることができる。
このアルカリ付与剤には、前記記載のアルカリ化合物と同様で、水酸化ナトリウム,水酸化カリウムなど水に溶け、アルカリ性を示すことができる物質を水に溶かすことにより得られる。
【0049】
また、コロイダルシリカなどのシリカ溶液のなかでアルカリ性を示す分散液や水ガラス,リチウムシリケート,アルミナゾルなどの溶液や分散液であっても良く、好ましく用いられる。
さらに、コンクリートの防錆目的で使用されるような亜硝酸系の亜硝酸カルシウムや亜硝酸リチウムなどの溶液も好ましく用いられる。
【0050】
また、このアルカリ付与剤は、1層目の塗膜を形成させた後に塗布し、その後に2層目の無機系塗材を塗布することも可能であり、このアルカリ付与剤を用いることで、積層された塗膜の強度をより向上させることができる。
さらに、無機系塗材による塗膜を積層した場合に、その表面にアルカリ付与剤を塗布することも好ましいもので、塗膜の乾燥を緩やかにし、硬化が進むことになり、そのため塗膜表面が緻密になり、強度や硬度も上がることになる。そのため塗膜表面の耐摩耗性も向上し、耐久性の優れたものとなる。
【0051】
この、アルカリ付与剤がコロイダルシリカの場合では、塗膜表面にコロイダルシリカの粒子が点在することになり、そのため塗膜表面が親水性の状態となり、塗膜表面に汚れが付き難いものとなり、付着した汚れも落とし易いものとなる。
この無機系塗材が良好に塗装できる状態の塗装下地を形成する場合に、一般的に塗装工事などに用いられるセメントを主成分とした下地調整材を用いることも可能であり、好ましく用いられる。
【0052】
この下地調整材を用いることで、塗装下地を容易に形成させることができ、塗装下地のpHを7以上にすることができる。
この下地調整材を潜在水硬性物質とアルカリ化合物から構成されるジオポリマーを主成分とした無機系下地調整塗材であることがより好ましいものである。
【0053】
この無機系下地調整塗材を下地に対し塗布し、塗装下地を形成させた後に、無機系塗材を塗布することになる。
このことにより、ジオポリマーを主成分とした無機系塗材により形成された塗膜と塗装下地との密着性がより向上し、無機系塗材と無機系下地調整塗材により形成された複合塗膜の強度や層間の付着力が十分であり、塗膜表面が硬い塗膜構造を得ることができるものでる。
【0054】
この無機系塗材の塗布には、吹付け,塗装用ローラーや刷毛など一般的に塗装工事で用いられる塗装方法により塗装することができる。
また、塗装済み外壁板など板材に前もって工場などで塗装機械を用いて行うライン塗装の場合では、レシプロタイプのスプレー,ロールコーターやカーテンフローコータなどにより塗装を行うこともできる。
【0055】
上記アルカリ付与剤についてもこのような塗装で行うことができる。
上記のように構成される無機系塗材及びその塗装方法を、より具体的な実施形態を用いて説明する。
【0056】
表1に示す原材料を均一に撹拌して無機系下地調整塗材、無機系塗料A、無機系塗料Bを作製した。潜在水硬性物質として、粒子径が5μmの高炉スラグを使用した。無機バインダーとして、粒子径が9μmのフライアッシュを使用した。
フィラーとして、粒子径が10μmの炭酸カルシウムを使用した。なお、それぞれの粒子径はレーザー回折法で測定した体積基準の粒度分布から算出されるD50値である。
【0057】
有機バインダーである合成樹脂エマルションは、固形分50%のアクリル樹脂エマルションを使用した。
アルカリ刺激剤として、pHが11のコロイダルシリカや、水酸化カリウム5%水溶液を使用した。
【0058】
その他に、添加剤として増粘剤と消泡剤を使用した。
作製した無機系下地調整塗材、無機系塗料A、無機系塗料Bの粘度を、B型粘度計(東機産業株式会社製)を用いて、23℃で20rpmの条件で測定した。
【0059】
【0060】
これらを表2に記載の塗装仕様で塗装し試験体を作製した。なお、下地調整塗材EはJIS A6916の合成樹脂エマルション系下地調整塗材に準拠した一般的に市販されているものを使用した。
アクリル塗料は一般的に市販されている水性アクリル塗料を使用し、アルカリ付与剤は、pHが11のコロイダルシリカを使用した。
【0061】
無機系下地調整塗材,下地調整塗材Eはリシンガンで吹付け、無機系塗料Aは多孔質ローラーで、無機系塗料B,アクリル塗料はウールローラーで、アルカリ付与剤は刷毛でそれぞれ均一に塗装した。無機系下地調整塗材の塗布量はおよそ1500g/m2、無機系塗料Aの塗布量はおよそ1500g/m2、無機系塗料Bとアクリル塗料の塗布量はおよそ150g/m2だった。
それぞれの表面をpH試験紙で測定すると、モルタル板はpH9、無機系下地調整塗材,無機系塗料A,無機系塗料BはpH10、下地調整塗材E,アクリル塗膜,石膏ボードはpH7だった。なお、塗材のpHは塗布後に形成された塗膜を測定した。
【0062】
【0063】
この様にして作製した試験体で、表面強度と付着強さを確認した。
表面強度は、試験体表面に布粘着テープを貼り付け、上から布で擦ってから60°程度の角度で布粘着テープを一気に剥がし、布粘着テープに付いた粉の量を確認した。布粘着テープに付いている粉の面積が全体の0~5%の場合は◎、5~10%の場合は○、10%以上の場合は×とした。
【0064】
付着強さは、JIS A6909 7.10付着強さ試験に準拠した。23°で14日間養生した試験体に上部引張り用鋼製ジグを貼付け、ジグの周り4辺に基板に達するまで切込みを入れた後、引張試験機を用いて確認した。
表3に表面強度、付着強さ試験の結果を示す。
【0065】
【0066】
比較例1~4は、無機系塗材が1層だけであるため、無機系塗材のアルカリ分が下地に吸われて反応が不十分となり付着強さの強度が低かった。また、比較例1,3,4は表面強度も弱かった。
それに対し、実施例1~7は無機系塗材が2層あるため、1層目の無機系塗材のアルカリ分が下地に吸われたとしても、2層目の無機系塗材によりアルカリ分が補填され塗膜強度が出た。特に、実施例2は、無機系下地調整塗材を塗装したことで、下地との界面の反応硬化が進み易くなり、密着性や塗膜全体の強度が増加した。
【0067】
実施例4,5は、粘度が高い無機系塗料Aが表層になるためアルカリ分が十分に補填されずに下地に吸われてしまい表面強度が少し弱かった。
実施例6は、下地がアルカリ性でないため、下地界面との反応が不十分で実施例1と比較すると付着強さの強度が低かったが、アルカリ付与剤を塗布した実施例7は実施例6と比較すると強度が上がった。