(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024012127
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂、その修復方法およびリサイクル方法
(51)【国際特許分類】
C08G 73/10 20060101AFI20240118BHJP
B29B 17/00 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
C08G73/10
B29B17/00 ZAB
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023110594
(22)【出願日】2023-07-05
(31)【優先権主張番号】111126352
(32)【優先日】2022-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(71)【出願人】
【識別番号】509035129
【氏名又は名称】ナショナル・ツィン・ファ・ユニヴァーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】ホ-シウ チョウ
(72)【発明者】
【氏名】クエイ-イ チュアン
【テーマコード(参考)】
4F401
4J043
【Fターム(参考)】
4F401AA24
4F401BA13
4F401CA06
4F401CA51
4F401CB01
4F401DC04
4F401EA67
4F401EA68
4F401FA07Z
4J043PA19
4J043PC145
4J043PC146
4J043QB15
4J043QB26
4J043RA35
4J043SA06
4J043SA47
4J043SA54
4J043SB03
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4J043TA47
4J043TB03
4J043UA131
4J043UA151
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4J043UB062
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4J043UB401
4J043UB402
4J043VA021
4J043XA16
4J043ZA12
4J043ZA35
4J043ZA60
4J043ZB47
(57)【要約】 (修正有)
【課題】剛性、耐薬品性、耐熱性、修復性およびリサイクル性があるポリイミドポリマー樹脂、ならびにその修復方法およびリサイクル方法を提供する。
【解決手段】式(I)で表される化学構造単位を含む、修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂である。前記式(I)で表される化学構造単位は、少なくとも1つの縮合重合性モノマーと結合して、修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂を形成し、縮合重合性モノマーは、ジアミンモノマーまたは二無水物モノマーである。
式中、Aは単結合、ベンゼン、ビフェニル、ベンゾフェノンまたは3,3’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジメチルビフェニルであり、R
1およびR
2は、独立して、メチル、エチルまたはトリフルオロメチルであり、X
1はジフェニルエーテル、ビフェニル、ベンゾフェノン、2,2-ジフェニルプロパン等であり、X
2は特定の基である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)で表される化学構造単位を含む、修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂:
【化1】
前記式(I)中、Aは単結合、ベンゼン、ビフェニル、ベンゾフェノンまたは3,3’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジメチルビフェニルであり、R
1およびR
2のそれぞれは、独立して、メチル、エチルまたはトリフルオロメチルであり、X
1はジフェニルエーテル、ビフェニル、ベンゾフェノン、2,2-ジフェニルプロパン、(-)-ジ-p-トルエンスルホニル、または3,3’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジメチルビフェニルであり、X
2は式(IA)で表される基である:
【化2】
前記式(IA)中、Qはベンゼン、ヘキサフルオロ-2,2-ジフェニルメタン、ビフェニル、ベンゾフェノン、ジフェニルエーテルまたは脂環式構造であり、P
1およびP
2のそれぞれは、独立して、ベンゼン、ビフェニル、ヘキサフルオロ-2,2-ジフェニルメタンまたは脂環式構造であり、P
1およびP
2は互いに結合されるかまたは結合されておらず;
前記式(I)で表される前記化学構造単位は、少なくとも1つの縮合重合性モノマーと結合して、修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂を形成し、前記縮合重合性モノマーは、ジアミンモノマーまたは二無水物モノマーである。
【請求項2】
前記式(I)で表される前記化学構造単位は、式(I-1)、式(I-2)、式(I-3)、式(I-4)、式(I-5)、式(I-6)、式(I-7)または式(I-8)で表される構造を含む、請求項1に記載の修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂。
【化3】
【請求項3】
化合物をさらに含み、前記式(I)で表される前記化学構造単位は、前記化合物とさらに混合され、加熱によって重合が行われ、前記化合物は、式(II)で表される構造を含む、請求項1に記載の修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂:
【化4】
前記式(II)において、Q’は、ベンゼン、ヘキサフルオロ-2,2-ジフェニルメタン、ビフェニル、ベンゾフェノン、ジフェニルエーテルまたは脂環式構造であり得、P
3およびP
4のそれぞれは、独立して、ベンゼン、ビフェニル、ヘキサフルオロ-2,2-ジフェニルメタンまたは脂環式構造であり、P
3およびP
4は、互いに結合されるかまたは結合されていない。
【請求項4】
前記修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂は、修復温度下で修復プロセスによって修復される、請求項1に記載の修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂の修復方法。
【請求項5】
前記修復温度は、80℃~150℃である、請求項4に記載の修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂の修復方法。
【請求項6】
前記修復プロセスは、加熱修復プロセスまたは圧縮修復プロセスである、請求項4に記載の修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂の修復方法。
【請求項7】
溶解プロセスを実施する工程であって、前記修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂を、ジエチレントリアミン溶液に溶解して、リサイクルポリイミド溶液を得る工程;および
フィルム形成プロセスを実施する工程であって、前記リサイクルポリイミド溶液を塗布および焼成して、リサイクルポリイミドフィルムを形成する工程
を含む、請求項1に記載の修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂のリサイクル方法。
【請求項8】
前記ジエチレントリアミン溶液の溶媒はジメチルアセトアミドであり、前記ジエチレントリアミン溶液中のジエチレントリアミンの体積百分率は1%~10%である、請求項7に記載の修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂のリサイクル方法。
【請求項9】
前記リサイクルポリイミド溶液の固形分は10%~20%である、請求項7に記載の修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂のリサイクル方法。
【請求項10】
前記溶解プロセスにおいて、前記修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂を、25℃~80℃で前記ジエチレントリアミン溶液に溶解する、請求項7に記載の修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂のリサイクル方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
〔関連出願の相互参照〕
本出願は、2022年7月13日に出願された台湾特許出願第111126352号への優先権を主張し、その開示は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
(発明の分野)
本開示は、ポリイミドポリマー樹脂、その修復方法およびリサイクル方法に関する。より詳細には、本開示は、剛性、耐薬品性、耐熱性、修復性およびリサイクル性などの特性を有し、携帯電話、タブレットおよびウェアラブルデバイスなどの電子製品に適用可能であり、ならびに温度を制御する方法によって修復およびリサイクル可能な、ポリイミドポリマー樹脂に関する。
【0003】
(関連技術の説明)
熱硬化性樹脂ポリマーは、種々の分野に適用することができる。しかしながら、従来の熱硬化性樹脂ポリマー製の製品が破損するまたはそのライフサイクルが過ぎると、当該製品を修理することはできず、廃棄され、資源の浪費となる。さらに、廃棄された熱硬化性樹脂ポリマーは自然に分解されにくいので、当該廃棄されたポリマーは、今日では、埋設または焼却によってのみ処理することができ、これは、深刻な環境汚染をもたらす。
【0004】
すでに、修復可能またはリサイクル可能なポリイミド(PI)樹脂についての関連研究がなされている。しかしながら、上述したポリイミド樹脂の耐熱性および耐薬品性は比較的劣るため、その商業的用途は限られている。
【0005】
この点に関し、剛性、耐薬品性、耐熱性、修復性およびリサイクル性があるポリイミドポリマー樹脂を開発すること、ならびにその修復方法およびリサイクル方法を開発することが、商業的価値のある目標である。
【発明の概要】
【0006】
本開示によれば、修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂は、式(I)で表される化学構造単位を含む:
【0007】
【0008】
前記式(I)中、Aは単結合、ベンゼン、ビフェニル、ベンゾフェノンまたは3,3’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジメチルビフェニルであり、R1およびR2のそれぞれは、独立して、メチル、エチルまたはトリフルオロメチルであり、X1はジフェニルエーテル、ビフェニル、ベンゾフェノン、2,2-ジフェニルプロパン、(-)-ジ-p-トルエンスルホニル、または3,3’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジメチルビフェニルであり、X2は式(IA)で表される基である:
【0009】
【0010】
前記式(IA)中、Qはベンゼン、ヘキサフルオロ-2,2-ジフェニルメタン、ビフェニル、ベンゾフェノン、ジフェニルエーテルまたは脂環式構造であり、P1およびP2のそれぞれは、独立して、ベンゼン、ビフェニル、ヘキサフルオロ-2,2-ジフェニルメタンまたは脂環式構造であり、P1およびP2は互いに結合されるかまたは結合されておらず;前記式(I)で表される化学構造単位は、少なくとも1つの縮合重合性モノマーと結合して、修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂を形成し、前記縮合重合性モノマーは、ジアミンモノマーまたは二無水物モノマーである。
【0011】
本開示によれば、上述した修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂の修復方法が提供される。修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂は、修復温度で修復プロセスによって修復される。
【0012】
本開示によれば、上述した修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂のリサイクル方法は、以下の工程を含む:溶解プロセスが実施され、フィルム形成プロセスが実施される。溶解プロセスにおいて、修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂をジエチレントリアミン溶液に溶解して、リサイクルポリイミド溶液を得る。フィルム形成プロセスにおいて、リサイクルポリイミド溶液を塗布および焼成して、リサイクルポリイミドフィルムを形成する。
【0013】
〔発明の説明〕
本開示は、以下の特定の実施形態によってさらに例示される。しかしながら、実施形態は、種々の発明概念に適用することができ、様々な特定の範囲で実施することができる。特定の実施形態は、説明の目的のためだけにあり、その実際的な内容に限定されない。
【0014】
本開示において、化合物構造は骨格式で表すことができ、この表現は、炭素原子、水素原子および炭素-水素結合を省略することができる。官能基が構造式において明確に識別される場合、識別された構造式に従うべきである。
【0015】
本開示において、簡潔さおよび滑らかさを保つために、「式(II)で表される構造を含む化合物」は、場合によっては、式(II)で表される化合物と記載することができ、他の化合物または基についても同様に記載することができる。
【0016】
本開示によれば、修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂は、式(I)で表される化学構造単位を含む:
【0017】
【0018】
式(I)中、Aは、単結合、ベンゼン、ビフェニル、ベンゾフェノンまたは3,3’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジメチルビフェニルであり、R1およびR2のそれぞれは、独立して、メチル、エチルまたはトリフルオロメチルであり、X1は、ジフェニルエーテル、ビフェニル、ベンゾフェノン、2,2-ジフェニルプロパン、(-)-ジ-p-トルエンスルホニル、または3,3’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジメチルビフェニルであり、X2は、式(IA)で表される基である:
【0019】
【0020】
式(IA)において、Qは、ベンゼン、ヘキサフルオロ-2,2-ジフェニルメタン、ビフェニル、ベンゾフェノン、ジフェニルエーテルまたは脂環式構造であり、P1およびP2のそれぞれは、独立して、ベンゼン、ビフェニル、ヘキサフルオロ-2,2-ジフェニルメタンまたは脂環式構造であり、P1およびP2は、互いに結合されるかまたは結合されておらず;式(I)で表される化学構造単位は、少なくとも1つの縮合重合性モノマーと結合して、修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂を形成し、縮合重合性モノマーは、ジアミンモノマーまたは二無水物モノマーである。したがって、ジアミンの種類を変えることによって、本開示の修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂は、剛性、耐薬品性、修復性およびリサイクル性の特性を有することができ、高い熱安定性を有することができる。
【0021】
本開示の修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂は、式(I)で表される化学構造単位を含む。前記化学構造単位は、修復可能な構造単位であり、これは、ポリイミドポリマー樹脂フィルムが修復およびリサイクル利用されるのに好適であり、ポリイミドポリマー樹脂が高い耐熱性および機械的特性を有することを確実にする。
【0022】
式(I)で表される化学構造単位は、式(I-1)、式(I-2)、式(I-3)、式(I-4)、式(I-5)、式(I-6)、式(I-7)または式(I-8)で表される構造を含むことができる:
【0023】
【0024】
特に、本開示の修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂の熱膨張係数(CTE)は、10ppm/℃~70ppm/℃であり得る。本開示の修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂のガラス転移温度(Tg)は、170℃~380℃であり得る。
【0025】
本開示の修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂は、化合物をさらに含むことができ、式(I)で表される化学構造単位は、前記化合物とさらに混合され、加熱によって重合が行われ、前記化合物は、式(II)で表される構造を含む:
【0026】
【0027】
式(II)において、Q’は、ベンゼン、ヘキサフルオロ-2,2-ジフェニルメタン、ビフェニル、ベンゾフェノン、ジフェニルエーテルまたは脂環式構造であり得、P3およびP4のそれぞれは、独立して、ベンゼン、ビフェニル、ヘキサフルオロ-2,2-ジフェニルメタンまたは脂環式構造であり得、そしてP3およびP4は、互いに結合されていてもよく、または結合されていなくてもよい。
【0028】
特に、式(II)で表される化合物は、芳香環または脂環式構造をより高い比率で含むため、式(I)で表される化学構造単位と式(II)で表される化合物とから合成される修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂は、式(I)で表される化学構造単位のみから合成される修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂よりも、より良好な耐薬品性および耐熱性を発揮することができ、且つ用途が広い。
【0029】
式(I)で表される化学構造単位と式(II)で表される化合物とは、モル分率の範囲で混合することができる。前述のモル分率の範囲は、0.1:99.9~99.9:0.1とすることができる。さらに、前述のモル分率の範囲は、1:99~99:1とすることができ、その結果、より良好な修復特性を得ることができる。さらに、前述のモル分率の範囲は、1:99~40:60とすることができ、その結果、より良好な耐熱性を得ることができる。
【0030】
具体的には、本開示の修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂を合成する工程において、式(I)で表される化学構造単位と式(II)で表される化合物とは、既に互いに混合されている。
【0031】
本開示によれば、上述した修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂の修復方法が提供される。修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂は、修復温度下で、修復プロセスによって修復される。具体的には、修復温度は、80℃~150℃とすることができ、修復プロセスは、加熱修復プロセスまたは圧縮修復プロセスとすることができる。
【0032】
本開示によれば、上述した修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂のリサイクル方法は、以下の工程を含む:溶解プロセスが実施され、フィルム形成プロセスが実施される。溶解プロセスにおいて、修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂をジエチレントリアミン(DETA)の溶液に溶解して、リサイクルポリイミド溶液を得る。フィルム形成プロセスにおいて、リサイクルポリイミド溶液を塗布および焼成して、リサイクルポリイミドフィルムを形成する。
【0033】
具体的には、溶解プロセスにおいて、修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂を、1cm2未満のチップに切断し、ジエチレントリアミン溶液中に浸漬することができる。ジエチレントリアミン溶液の溶媒は、ジメチルアセトアミド(DMAc)であり得る。ジエチレントリアミン溶液中のジエチレントリアミンの体積百分率は、1%~10%であり得る。リサイクルポリイミド溶液の固形分は、10%~20%とすることができる。
【0034】
さらに、修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂は、25℃~80℃でジエチレントリアミン溶液に溶解することができる。特に、修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂は、室温(約25℃)で完全に溶解するのに約1週間かかり、温度が80℃のときに溶解するのに48時間未満しかかからない。本開示の修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂のリサイクル方法によって形成されたリサイクルポリイミドフィルムは、優れた機械的特性を維持することができる。
【0035】
<修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂の合成方法>
1-1.実施例1、実施例2および実施例3:前記式(I-1)で表される構造と、前記式(I-3)で表される構造と、前記式(II)で表される化合物とを混合することによって、修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂を得る。
【0036】
2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)と式(AZ)で表される化合物とをフラスコに入れ、溶媒としてN-メチル-2-ピロリドン(NMP)をそこに加える。4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(6-FDA)およびビフェニル-テトラカルボン酸二無水物(BPDA)を、前述の反応物を溶解した後に添加する。この溶液を、室温で12時間~18時間撹拌し、実施例1、実施例2および実施例3の修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂を得ることができる。詳細には、4-アミノアセトフェノン、トリエチルアミンおよび硫酸ヒドラジンをエタノール中で反応させることによって、式(AZ)で表される化合物を合成する。前述のTFMB、式(AZ)で表される化合物、6-FDAおよびBPDAの構造を以下に示す:
【0037】
【0038】
実施例1、実施例2および実施例3を合成するための、TFMB、式(AZ)で表される化合物、6-FDAおよびBPDAのそれぞれのモル分率を、以下の表1に示す。
【0039】
【0040】
具体的には、TFMBは、6-FDAおよびBPDAとそれぞれ反応して、式(II)で表される化合物を形成し、式(AZ)で表される化合物は、6-FDAおよびBPDAとそれぞれ反応して、式(I-1)で表される構造および式(I-3)で表される構造を形成する。式(I)で表される化学構造単位と式(II)で表される化合物とのモル分率の範囲は、0.1:99.9~99.9:0.1とすることができる。
【0041】
1-2.実施例4、実施例5および実施例6:式(I-2)で表される構造、式(I-4)で表される構造および式(II)で表される化合物を混合することによって、修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂を得る。
【0042】
TFMBと式(AFZ)で表される化合物とをフラスコに入れ、溶媒としてNMPをそこに加える。BPDAおよび6-FDAを、前述の反応物を溶解した後に添加する。この溶液を、室温で12時間~18時間撹拌し、実施例4、実施例5および実施例6の修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂を得ることができる。詳細には、(4-アミノフェニル)-2,2,2-トリフルオロ-1-エタノン、トリエチルアミンおよび硫酸ヒドラジンをエタノール中で反応させることによって、式(AFZ)で表される化合物を合成し、その構造を以下に示す:
【0043】
【0044】
実施例4、実施例5および実施例6を合成するための、TFMB、式(AFZ)で表される化合物、6-FDAおよびBPDAのそれぞれのモル分率を、以下の表2に示す。
【0045】
【0046】
具体的には、TFMBは、6-FDAおよびBPDAとそれぞれ反応して、縮重合によって式(II)で表される化合物を形成し、式(AFZ)で表される化合物は、6-FDAおよびBPDAとそれぞれ反応して、式(I-2)で表される構造および式(I-4)で表される構造を形成する。式(I)で表される化学構造単位と式(II)で表される化合物とのモル分率の範囲は、0.1:99.9~99.9:0.1とすることができる。
【0047】
1-3.実施例7、実施例8および実施例9:式(I-5)で表される構造、式(I-7)で表される構造および式(II)で表される化合物を混合することによって、修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂を得る。
【0048】
TFMBと式(IFZ-1)で表される化合物とをフラスコに入れ、溶媒としてNMPをそこに加える。BPDAおよび6-FDAを、前述の反応物を溶解した後に添加する。この溶液を、室温で12時間~18時間撹拌し、実施例7、実施例8および実施例9の修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂を得ることができる。詳細には、4-アミノベンズアルデヒドおよび2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンをテトラヒドロフラン(THF)中で反応させることによって、式(IFZ-1)で表される化合物を合成し、その構造を以下に示す:
【0049】
【0050】
実施例7、実施例8および実施例9を合成するためのTFMB、式(IFZ-1)で表される化合物、6-FDAおよびBPDAのそれぞれのモル分率を、以下の表3に示す。
【0051】
【0052】
具体的には、TFMBは、6-FDAおよびBPDAとそれぞれ反応して、式(II)で表される化合物を形成し、式(IFZ-1)で表される化合物は、6-FDAおよびBPDAとそれぞれ反応して、式(I-5)で表される構造および式(I-7)で表される構造を形成する。式(I)で表される化学構造単位と式(II)で表される化合物とのモル分率の範囲は、0.1:99.9~99.9:0.1とすることができる。
【0053】
1-4.実施例10、実施例11および実施例12:式(I-6)で表される構造、式(I-8)で表される構造および式(II)で表される化合物を混合することによって、修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂を得る。
【0054】
TFMBと式(IFZ-2)で表される化合物とをフラスコに入れ、溶媒としてNMPをそこに加える。BPDAおよび6-FDAを、前述の反応物を溶解した後に添加する。この溶液を、室温で12時間~18時間撹拌し、実施例10、実施例11および実施例12の修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂を得ることができる。詳細には、1,4-ジアセチルベンゼンおよび2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンをテトラヒドロフラン中で反応させることによって、式(IFZ-2)で表される化合物を合成し、その構造を以下に示す:
【0055】
【0056】
実施例10、実施例11および実施例12を合成するための、TFMB、式(IFZ-2)で表される化合物、6-FDAおよびBPDAのそれぞれのモル分率を、以下の表4に示す。
【0057】
【0058】
具体的には、TFMBは、6-FDAおよびBPDAとそれぞれ反応して、縮重合によって式(II)で表される化合物を形成し、式(IFZ-2)で表される化合物は、6-FDAおよびBPDAとそれぞれ反応して、式(I-6)で表される構造および式(I-8)で表される構造を形成する。式(I)で表される化学構造単位と式(II)で表される化合物とのモル分率の範囲は、0.1:99.9~99.9:0.1とすることができる。
【0059】
他の実施例において、BPDAまたは6-FDAを他の化合物で置き換えて前述の反応を行って、異なる特性を有する修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂を得ることができる。例えば、他の化合物は、以下の表5に示すような、式(A)、式(B)、式(C)、式(D)、式(E)、式(F)および式(G)で表される化合物であってもよいし、または以下の表6に示すような、式(H)、式(J)、式(K)、式(L)、式(M)、式(N)、式(O)および式(P)で表される化合物であってもよい。しかし、本開示はこれに限定されるものではない。
【0060】
以下の表5に示すように、式(A)で表される化合物は1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物であり、式(B)で表される化合物は3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物であり、式(C)で表される化合物はピロメリット酸二無水物であり、式(D)で表される化合物は4,4’-オキシジフタル酸無水物であり、式(E)で表される化合物はビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸2,3,5,6-二無水物であり、式(F)で表される化合物はジシクロヘキシル-3,4,3’,4’-テトラカルボン酸二無水物であり、式(G)で表される化合物は1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物である。
【0061】
【0062】
以下の表6に示すように、式(H)で表される化合物は4,4’-ジアミノジフェニルオキシド(ODA)であり、式(J)で表される化合物は1,4-シクロヘキサンジアミンであり、式(K)で表される化合物はビス(アミノメチル)ノルボルナンであり、式(L)で表される化合物は4,4’-メチレンビス(2-メチルシクロヘキシルアミン)であり、式(M)で表される化合物は4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)であり、式(N)で表される化合物は2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパンであり、式(O)で表される化合物は2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンであり、式(P)で表される化合物は4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニルである。
【0063】
【0064】
全体として、全ての実施例の化学構造は大量の芳香環を含み、したがって、本開示の修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂は、高い耐薬品性を有すると定めることができる。
【0065】
<修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂の特性および修復方法>
各実施例の修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂の修復試験を実施して、各実施例の修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂の特性および修復効果を理解するようにする。
【0066】
特に、前述の修復試験において、各実施例の修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂を薄いフィルムとし、CTE、Tgおよび引張強度について試験する。試験が終了した後、前述の薄いフィルムを半分に切断する。2枚の切断したフィルムを積み重ね、80~150℃の環境で加熱して修復させる。修復が終了すると、修復されたフィルムの引張強度を試験して、薄いフィルムが切断される前の引張強度値と修復された後の引張強度値とを比較し、回復率を計算する。
【0067】
詳細には、各実施例の修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂をガラス上に塗布し、200℃~240℃のオーブンに入れて2時間~4時間反応させる。そして、冷却および型から取り出した後に前述の薄いフィルムを得る。各薄いフィルムおよび各修復されたフィルムのTg、CTEおよび引張強度を、全て、IPC-TM-650 2.4.24.5の試験法に従う熱機械分析器(TMA)によって測定する。各実施例の薄いフィルムの熱膨張係数およびガラス転移温度を以下の表7に示す。各実施例の、薄いフィルムを切断する前の引張強度および修復後の引張強度を、以下の表8に示す。
【0068】
【0069】
【0070】
表7において、各実施例の修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂から作られた薄いフィルムのCTEは、18ppm/℃~62ppm/℃である。広いCTE範囲は、本開示の修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂が異なるCTE要求を有する種々の要素に適用され得ることを表す。各実施例の修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂から作られた薄いフィルムのTgは、235℃~322℃であり、これは、前述の実施例の修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂の硬度は、温度が235℃を超える場合にのみ変化し得ることを表す。他の実施例において、修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂から作られた薄いフィルムのCTEは、10ppm/℃~70ppm/℃であり得、そのTgは、170℃~380℃であり得る。従って、本開示の修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂は、剛性特性および高い耐熱性を有することを示す。
【0071】
特に、本開示の修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂は、イミン官能基を含み、加熱後にイミン官能基の結合強度が低下する。したがって、本開示の修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂は、加熱後に流動することができ、これは、加工、リサイクルまたは修復を容易にする。その破損領域は、修復され、密封され得る。さらに、表8において、実施例1、実施例3、実施例4、実施例6、実施例7、実施例9、実施例10および実施例12の回復率は、いずれも86%を超えている。これは、修復後の本開示の修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂の引張強度性能は、損傷される前の引張強度性能と同様であり得ることを意味する。
【0072】
<電気的特性試験>
本開示の修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂が、その電気的特性を維持しながら、オプトエレクトロニクス産業、半導体、回路基板、ディスプレイ、エネルギーおよび他の関連分野および用途に適用され得ることを証明するために、以下の試験を行なう。
【0073】
まず、実施例2の薄いフィルムの表面に、銀を含む回路をスクリーン印刷法によって作製する。105Ωの電気抵抗が、回路の2つの端部でマルチメータによって測定される。その後、薄いフィルムを割って回路を切断すると、回路の2つの端部における電気抵抗がマルチメータによって測定されない。次に、80~150℃で(200PSI~250PSIの圧力で)圧縮して薄いフィルムを修復させ、回路の2つの端部でマルチメータによって101Ωの電気抵抗が測定される。同様の結果が、他の実施例の修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂を同様に試験する場合に得られ、これは、修復後の本開示の修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂の電気的特性は、損傷前の電気的特性と同様であり得ることを意味する。
【0074】
<修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂のリサイクル方法およびリサイクルポリイミドフィルムの特性>
本開示の修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂が、リサイクルされた後に依然として優れた機械的特性を有することを証明するために、修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂を、本開示のリサイクル方法によってリサイクルポリイミドフィルムにリサイクルする。元の修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂およびリサイクルポリイミドフィルムの機械的特性を比較し、比較結果を以下の表9に示す。
【0075】
【0076】
前記修復率は、「リサイクルポリイミドフィルムの引張強度/元の修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂の引張強度*100%」と定義付けられる。表9において、本開示の修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂のリサイクル方法によって作製したリサイクルポリイミドフィルムは、リサイクル前の機械的特性と同様の機械的特性を維持することができることを示す。
【0077】
この点について、本開示によれば、修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂およびその修復方法は、その特殊な化学構造に起因して、剛性、耐薬品性および耐熱性などの特性を有することができ、この特性は、種々の分野における幅広い用途を提供することができる。さらに、その流動性もまた、修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂が加熱されるにつれて増加するので、修復可能かつリサイクル可能なポリイミドポリマー樹脂は、温度を制御することによって修復され、リサイクルされ、およびさらに加工され得る。その結果、環境に優しくかつ資源の無駄を減らすという効果および目標を達成することができる。
【0078】
本開示は、その特定の実施形態を参照して、かなり詳細に記載されているが、他の実施形態が可能である。したがって、添付の特許請求の範囲の主旨および範囲は、本明細書に含まれる実施形態の記載に限定されるべきではない。
【0079】
本開示の範囲または主旨から逸脱することなく、本開示の構造に対して種々の修正および変更を加えることができることが当業者には明らかであろう。上記を考慮すると、以下の特許請求の範囲内に含まれる限り、本開示は本開示の修正および変更をカバーすることが意図される。