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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121273
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】車両駆動装置
(51)【国際特許分類】
   H02K 11/33 20160101AFI20240830BHJP
【FI】
H02K11/33
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028283
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】島野 薫
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 良太
(72)【発明者】
【氏名】春日井 康二
【テーマコード(参考)】
5H611
【Fターム(参考)】
5H611BB01
5H611BB02
5H611TT01
5H611UA04
5H611UB01
(57)【要約】
【課題】複数のインバータモジュールと軸まわりのバスバーとの間の接合構造を効率化しつつ、軸まわりのバスバーにおける必要な寸法精度の確保を容易化する。
【解決手段】軸上に回転軸を有する回転電機と、回転電機の軸方向一方側にかつ軸まわりの円環状に配置される複数のインバータモジュールであって、回転電機に複数相の交流電力を供給するインバータ装置を形成する複数のインバータモジュールと、軸まわりに配置される1つ以上のバスバーと、を備え、複数のインバータモジュールは、軸方向に延在する複数の端子部を有し、1つ以上のバスバーは、複数の端子部が通る複数の軸方向の貫通孔を有し、複数の端子部は、複数の軸方向の貫通孔から軸方向に露出する軸方向端面に、1つ以上のバスバーに接合する溶接部を有する、車両駆動装置が開示される。
【選択図】図3A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸上に回転軸を有する回転電機と、
前記回転電機の軸方向一方側にかつ軸まわりの円環状に配置される複数のインバータモジュールであって、前記回転電機に複数相の交流電力を供給するインバータ装置を形成する複数のインバータモジュールと、
軸まわりに配置される1つ以上のバスバーと、を備え、
前記複数のインバータモジュールは、軸方向に延在する複数の端子部を有し、
前記1つ以上のバスバーは、前記複数の端子部が通る複数の軸方向の貫通孔を有し、
前記複数の端子部は、前記複数の軸方向の貫通孔から軸方向に露出する軸方向端面に、前記1つ以上のバスバーに接合する溶接部を有する、車両駆動装置。
【請求項2】
前記複数の軸方向の貫通孔は、前記複数の端子部を形成する部分に対して、径方向の隙間及び周方向の隙間うちの少なくともいずれか一方が形成される孔形状を有する、請求項1に記載の車両駆動装置。
【請求項3】
前記1つ以上のバスバーは、電源の正極側に電気的に接続される正極側バスバーと、電源の負極側に電気的に接続される負極側バスバーとを含み、
前記正極側バスバーと前記負極側バスバーは、それぞれ軸まわりの円環状の形態であり、かつ、互いに対して軸方向に重なる、請求項1に記載の車両駆動装置。
【請求項4】
前記正極側バスバーと前記負極側バスバーは、前記複数のインバータモジュールに対して軸方向でオフセットして配置され、
前記複数のインバータモジュールのそれぞれは、パワースイッチング素子を含む第1サブモジュールと、平滑コンデンサを含む第2サブモジュールとを、前記第1サブモジュールが前記第2サブモジュールの径方向内側に位置する態様で、含み、
前記正極側バスバーと前記負極側バスバーは、軸方向に視て、前記第1サブモジュールに対して径方向外側に位置しかつ前記第2サブモジュールの径方向内側部分に重なる、請求項3に記載の車両駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回転電機の軸方向外側に、軸まわりの円環状に複数のインバータモジュールを配置するとともに、軸まわりの円環状の電源用バスバーを、径方向に重ねて、複数のインバータモジュールの近傍に配置しつつ、複数のインバータモジュールに接合する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-138516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような従来技術では、複数のインバータモジュールから延びる端子部と円環状の電源用バスバーとの間の接合構造が複雑化するという問題がある。具体的には、電源用バスバーにおいて、端子部との間の接合のための接合部を軸方向に延在させるための曲げ加工や絞り等のプレス成形が必要となり、電源用バスバーにおける必要な寸法精度を確保し難いという問題が生じる。
【0005】
そこで、1つの側面では、本開示は、複数のインバータモジュールと軸まわりのバスバーとの間の接合構造を効率化しつつ、軸まわりのバスバーにおける必要な寸法精度の確保を容易化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの側面では、軸上に回転軸を有する回転電機と、
前記回転電機の軸方向一方側にかつ軸まわりの円環状に配置される複数のインバータモジュールであって、前記回転電機に複数相の交流電力を供給するインバータ装置を形成する複数のインバータモジュールと、
軸まわりに配置される1つ以上のバスバーと、を備え、
前記複数のインバータモジュールは、軸方向に延在する複数の端子部を有し、
前記1つ以上のバスバーは、前記複数の端子部が通る複数の軸方向の貫通孔を有し、
前記複数の端子部は、前記複数の軸方向の貫通孔から軸方向に露出する軸方向端面に、前記1つ以上のバスバーに接合する溶接部を有する、車両駆動装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
1つの側面では、本開示によれば、複数のインバータモジュールと軸まわりのバスバーとの間の接合構造を効率化しつつ、軸まわりのバスバーにおける必要な寸法精度の確保を容易化することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施例による回転電機を含む電気回路の一例の概略図である。
図2】本実施例による回転電機を含む車両用駆動システムのスケルトン図である。
図3A】本実施例による車両駆動装置の要部を概略的に示す断面図である。
図3B】本実施例による車両駆動装置の他の要部を概略的に示す断面図である。
図4A】本実施例によるモータ駆動装置をX1側から視た斜視図である。
図4B】本実施例によるモータ駆動装置をX2側から視た斜視図である。
図5】本実施例によるモータ駆動装置の各部品の説明図である。
図6】一の出力バスバーの単品状態の斜視図である。
図7】本実施例の車両駆動装置における回転電機よりも軸方向外側の部分を軸方向視で示す平面図である。
図8】電源用バスバーとインバータモジュールとの間の接合構造の説明図であり、一部の接合構造(接合前の状態)を拡大して示す斜視図である。
図9】一対の貫通孔と端子部との位置関係(接合前の状態)を軸方向に視て示す平面図である。
図10】接合方法の一例の説明図である。
図11】一の接合構造(接合後の状態)を拡大して示す斜視図である。
図12】コンデンサモジュールのコンデンサバスバーの端子部の説明図であり、一のコンデンサモジュールを径方向内側から示す斜視図である。
図13】モジュール形態の電源用バスバーの分解斜視図である。
図14】一の電源用バスバーを示す斜視図である。
図15】周方向の位置ズレが生じた場合の、一対の貫通孔と端子部との位置関係(接合前の状態)を軸方向に視て示す平面図である。
図16】回転方向の位置ズレが生じた場合の、一対の貫通孔と端子部との位置関係(接合前の状態)を軸方向に視て示す平面図である。
図17】比較例によるモータ駆動装置を示す斜視図である。
図18】比較例による電源用バスバーを示す斜視図である。
図19】比較例による車両駆動装置の要部を概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら各実施例について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率はあくまでも一例であり、これに限定されるものではなく、また、図面内の形状等は、説明の都合上、部分的に誇張している場合がある。また、図面では、見易さのために、複数存在する同一属性の部位には、一部のみしか参照符号が付されていない場合がある。
【0010】
以下では、本実施例の車両駆動装置10の電気系(制御系)、及び、本実施例の車両駆動装置10を含む駆動システム全体を概説してから、本実施例の車両駆動装置10の詳細について説明する。
【0011】
[車両駆動装置の電気系]
図1は、回転電機1を含む電気回路200の一例の概略図である。図1には、制御装置500についても併せて示される。図1において、制御装置500に対応付けられた点線矢印は、情報(信号やデータ)のやり取りを表す。
【0012】
回転電機1は、制御装置500によるインバータINVの制御を介して駆動される。図1に示す電気回路200では、回転電機1は、電源VaにインバータINVを介して電気的に接続される。なお、インバータINVは、例えば、相ごとに、電源Vaの高電位側Pと低電位側Nとにそれぞれパワースイッチング素子(例えばMOSFET:Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect TransistorやIGBT:Insulated Gate Bipolar Transistor等)を備え、高電位側Pのパワースイッチング素子と低電位側Nのパワースイッチング素子とが上下アームを形成する。なお、インバータINVは、相ごとに、複数組の上下アームを備えてもよい。各パワースイッチング素子は、制御装置500による制御下で、所望の回転トルクが発生するようにPWM(Pulse Width Modulation)駆動されてよい。なお、電源Vaは、例えば比較的定格電圧の高いバッテリであり、例えばリチウムイオンバッテリや燃料電池等であってよい。
【0013】
本実施例では、図1に示す電気回路200のように、電源Vaの高電位側Pと低電位側Nの間には、インバータINVに対して並列に、平滑コンデンサCが電気的に接続される。なお、平滑コンデンサCは、複数組、互いに並列に、電源Vaの高電位側Pと低電位側Nの間に電気的に接続されてもよい。また、電源VaとインバータINVとの間にDC/DCコンバータが設けられてもよい。
【0014】
[駆動システム全体]
図2は、回転電機1を含む車両用駆動システム100のスケルトン図である。図2には、X方向と、X方向に沿ったX1側とX2側が定義されている。X方向は、第1軸A1の方向(以下、「軸方向」とも称する)に平行である。
【0015】
図2に示す例では、車両用駆動システム100は、車輪Wの駆動源となる回転電機1と、回転電機1と車輪Wとを結ぶ動力伝達経路に設けられた駆動伝達機構7と、を備える。駆動伝達機構7は、入力部材3と、カウンタギヤ機構4と、差動歯車機構5と、左右の出力部材61、62と、を備える。
【0016】
入力部材3は、入力軸31と、入力ギヤ32とを有する。入力軸31は、第1軸A1まわりに回転する回転部材である。入力ギヤ32は、回転電機1からの回転トルク(駆動力)をカウンタギヤ機構4に伝達するギヤである。入力ギヤ32は、入力部材3の入力軸31と一体的に回転するように、入力部材3の入力軸31に連結される。
【0017】
カウンタギヤ機構4は、動力伝達経路において、入力部材3と差動歯車機構5との間に配置される。カウンタギヤ機構4は、カウンタ軸41と、第1カウンタギヤ42と、第2カウンタギヤ43とを有する。
【0018】
カウンタ軸41は、第2軸A2まわりに回転する回転部材である。第2軸A2は、第1軸A1に平行に延在する。第1カウンタギヤ42は、カウンタギヤ機構4の入力要素である。第1カウンタギヤ42は、入力部材3の入力ギヤ32と噛み合う。第1カウンタギヤ42は、カウンタ軸41と一体的に回転するように、カウンタ軸41に連結される。
【0019】
第2カウンタギヤ43は、カウンタギヤ機構4の出力要素である。本実施例では、一例として、第2カウンタギヤ43は、第1カウンタギヤ42よりも小径に形成される。第2カウンタギヤ43は、カウンタ軸41と一体的に回転するように、カウンタ軸41に連結される。
【0020】
差動歯車機構5は、その回転軸心としての第3軸A3上に配置される。第3軸A3は、第1軸A1に平行に延在する。差動歯車機構5は、回転電機1の側から伝達される駆動力を、左右の出力部材61、62に分配する。差動歯車機構5は、差動入力ギヤ51を備え、差動入力ギヤ51は、カウンタギヤ機構4の第2カウンタギヤ43と噛み合う。また、差動歯車機構5は、差動ケース52を備え、差動ケース52内には、ピニオンシャフトや、ピニオンギヤ、左右のサイドギヤ等が収容される。左右のサイドギヤは、それぞれ、左右の出力部材61、62と一体的に回転するように連結される。
【0021】
左右の出力部材61、62のそれぞれは、左右の車輪Wに駆動連結される。左右の出力部材61、62のそれぞれは、差動歯車機構5によって分配された駆動力を車輪Wに伝達する。なお、左右の出力部材61、62は、2つ以上の部材により構成されてもよい。
【0022】
このようにして回転電機1は、駆動伝達機構7を介して車輪Wを駆動する。ただし、他の実施例では、回転電機1は、ホイールインモータとして、車輪内に配置されてもよい。この場合、車両用駆動システム100は、駆動伝達機構7を含まない構成であってよい。また、他の実施例では、駆動伝達機構7の一部又は全部を共用化する複数の回転電機1が設けられてもよい。
【0023】
[車両駆動装置の詳細]
図3A及び図3Bは、本実施例の車両駆動装置10の要部の断面図であり、図3Aは、油路2530を通る断面図であり、図3Bは、冷却水路2528を通る断面図である。
【0024】
車両駆動装置10は、上述した回転電機1と、ケース2と、モータ駆動装置8とを含む。
【0025】
車両駆動装置10は、車両用駆動システム100の一部として車両に搭載され、上述したように、車両を前進又は後退させる駆動力を生成する。なお、車両は、任意の形態であり、例えば4輪の自動車であってもよいし、バス、トラック、二輪車や建設機械等であってもよい。なお、車両駆動装置10は、他の駆動源(例えば内燃機関)とともに車両に搭載されてもよい。
【0026】
回転電機1は、ロータ310及びステータ320を有する。図3A及び図3Bには、回転電機1の軸方向一端側(X1側)の一部が示されている。回転電機1は、インナロータタイプであり、ステータ320がロータ310の径方向外側を囲繞するように設けられる。すなわち、ロータ310は、ステータ320の径方向内側に配置される。
【0027】
ロータ310は、ロータコア312と、シャフト部314とを備える。
【0028】
ロータコア312は、例えば円環状の磁性体の積層鋼板からなってよい。ロータコア312の内部には、永久磁石325が埋め込まれてよい。あるいは、永久磁石325は、ロータコア312の外周面に取り付けられてもよい。なお、永久磁石325の配列等は任意である。ロータコア312は、シャフト部314の外周面に固定され、シャフト部314と一体となって回転する。
【0029】
シャフト部314は、第1軸A1上に配置され、回転電機1の回転軸を第1軸A1上に画成する。シャフト部314は、ロータコア312が固定される部分よりもX1側において、ケース2のカバー部材252(後述)にベアリング240を介して回転可能に支持される。なお、シャフト部314は、回転電機1の軸方向他端側(X2側)において、ベアリング240に対応するベアリングを介してケース2に回転可能に支持される。このようにして、シャフト部314が軸方向両端で回転可能にケース2に支持されてよい。
【0030】
シャフト部314は、例えば中空管の形態であり、中空内部314Aを有する。中空内部314Aは、シャフト部314の軸方向の全長にわたり延在してよい。中空内部314Aは、軸心油路として機能することができる。この場合、シャフト部314は、ステータ320のコイルエンド部322A等に油を吐出する油孔が形成されてよい。
【0031】
ステータ320は、ステータコア321と、ステータコイル322とを備える。
【0032】
ステータコア321は、例えば円環状の磁性体の積層鋼板からなってよい。ステータコア321の内周部には、径方向内側に突出するティース(図示せず)が放射状に形成される。
【0033】
ステータコイル322は、例えば断面平角状又は断面円形状の導体に絶縁被膜が付与された形態であってよい。ステータコイル322は、ステータコア321のティース(図示せず)まわりに巻装される。なお、ステータコイル322は、例えば、1つ以上の並列関係で、Y結線で電気的に接続されてもよいし、Δ結線で電気的に接続されてもよい。
【0034】
ステータコイル322は、ステータコア321のスロットから軸方向外側に突出する部分であるコイルエンド部322Aを有する。以下の説明において、コイルエンド部322Aとは、特に言及しない限り、ステータコイル322の一部であって、ステータコア321の軸方向両側のそれぞれで周方向に沿って延在する部分のうちの、リード側である軸方向一端側(X1側)で沿って延在する部分を指す。
【0035】
ケース2は、例えばアルミ等により形成されてよい。ケース2は、例えば鋳造等により形成できる。ケース2は、モータケース250と、カバー部材252とを含む。ケース2は、回転電機1及びモータ駆動装置8を収容する。また、図2に示した車両用駆動システム100の場合、ケース2は、図2に模式的に示すように、駆動伝達機構7を更に収容してもよい。
【0036】
モータケース250は、回転電機1を収容するモータ収容室SP1を形成する。なお、モータ収容室SP1は、回転電機1(及び/又は駆動伝達機構7)を冷却及び/又は潤滑するための油を含む油密空間であってよい。モータケース250は、回転電機1の径方向外側を囲繞する周壁部を有する形態である。モータケース250は、複数の部材を結合して実現されてもよい。また、モータケース250は、軸方向他端側(X2側)で、駆動伝達機構7を収容する他のケース部材に一体化されてよい。
【0037】
カバー部材252は、比較的高い伝熱性を有する材料(例えばアルミ)により形成される。カバー部材252は、モータケース250の軸方向一端側(X1側)に結合される。カバー部材252は、モータ収容室SP1における軸方向一端側(X1側)を覆うカバーの形態であり、回転電機1に軸方向に対向する。この場合、カバー部材252は、モータケース250の軸方向一端側(X1側)の開口部を完全に又は略完全に閉塞する態様で覆ってもよい。
【0038】
カバー部材252は、モータ駆動装置8を収容するインバータ収容室SP2を形成する。なお、インバータ収容室SP2の一部は、モータケース250により形成されてもよいし、逆に、モータ収容室SP1の一部は、カバー部材252により形成されてもよい。
【0039】
カバー部材252は、モータ駆動装置8を支持する。例えばモータ駆動装置8は、後述するモジュールの形態で、カバー部材252に取り付けられてもよい。これにより、カバー部材252にモータ駆動装置8の一部又は全体を組み付けてから、カバー部材252とモータケース250とを結合でき、モータ駆動装置8の組み付け性が向上する。
【0040】
カバー部材252には、ロータ310を回転可能に支持するベアリング240が設けられる。すなわち、カバー部材252は、ベアリング240を支持するベアリング支持部2524を有する。なお、ベアリング支持部2524とは、カバー部材252のうちの、ベアリング240が設けられる軸方向範囲の部分全体を指す。
【0041】
ベアリング240は、図3A及び図3Bに示すように、シャフト部314のX1側の端部における径方向外側に設けられる。具体的には、ベアリング240は、アウタレースの径方向外側がカバー部材252に支持され、インナレースの径方向内側がシャフト部314の外周面に支持される。なお、変形例では、逆に、ベアリング240は、インナレースの径方向内側がカバー部材252に支持され、アウタレースの径方向外側がシャフト部314の内周面に支持されてもよい。
【0042】
カバー部材252は、図3A及び図3Bに示すように、第1軸A1を中心とした円形状の底部2521と、底部2521の外周縁から軸方向他端側(X2側)へと突出する周壁部2522とを含み、底部2521と周壁部2522とが、インバータ収容室SP2を画成する。底部2521における軸方向他端側(X2側)の中央部(第1軸A1を中心とした部分)には、ベアリング支持部2524が設定される。
【0043】
インバータ収容室SP2は、空間であってもよいが、好ましくは、比較的高い伝熱性を有するフィラーを含む樹脂により封止される。すなわち、カバー部材252は、好ましくは、伝熱性のモールド樹脂部2523を有する。この場合、モールド樹脂部2523は、後述するモータ駆動装置8を封止して支持する機能と、モータ収容室SP1内の油に対してモータ駆動装置8を保護する機能と、モータ駆動装置8からの熱をカバー部材252に伝達する機能を有することができる。なお、図3A及び図3Bでは、モールド樹脂部2523内に封止される要素(後述するインバータモジュール90等)の一部が透視で示されている。モールド樹脂部2523の形成範囲は、図3A等に示す範囲に限られず、底部2521側から、よりX1側までしか延在しなくてもよいし、よりX2側まで延在してもよい。
【0044】
ここで、図3A及び図3Bを参照して、本実施例に適用可能な冷却構造の一例について説明する。以下では、径方向、軸方向及び周方向の各用語は、特に言及しない限り、第1軸A1に関する各方向である。すなわち、軸方向は、第1軸A1に平行な方向(第1軸A1と同軸の線に沿った方向を含む)であり、径方向は、第1軸A1を通りかつ第1軸A1に直交する方向であり、周方向は、第1軸A1に直交する任意の平面内における第1軸A1まわりの方向である。また、軸まわりとは、第1軸A1まわりを指す。
【0045】
図3A及び図3Bに示す例では、冷却構造は、カバー部材252にそれぞれ形成される冷却水路2528及び油路2530(以下、「カバー油路2530」と称する)と、軸心油路を形成する中空内部314Aと、中空内部314Aに油を供給する軸心供給用の管状部材180と、上掛け油路を形成する管状部材181とを含む。
【0046】
冷却水路2528には、冷却水が流される。なお、冷却水は、例えばLLC(Long Life Coolant)を含む水であってよい。この場合、冷却水路2528を流れる冷却水は、車両に搭載されるラジエーター(図示せず)で放熱されることで、比較的低温に維持できる。
【0047】
冷却水路2528は、軸方向に視て任意の形態であってよく、例えば、円環状の形態であってもよいし、螺旋状の形態であってもよいし、径方向外側と内側に蛇行しながら周方向に沿って延在する形態であってもよい。なお、カバー部材252を中子等を用いて製造する場合は、冷却水路2528の形状等の自由度を高めることができる。
【0048】
カバー油路2530には、油が流れる。カバー油路2530には、図示しないオイルポンプから油が供給される。オイルポンプは、例えば駆動伝達機構7に連動する機械式であってよいし、電動式であってもよい。
【0049】
カバー油路2530は、径方向に視て、冷却水路2528とオーバラップしてもよい。この場合、カバー油路2530と冷却水路2528とが径方向に視てオーバラップしない場合に比べて、カバー部材252の厚み(軸方向の底部2521の厚み)の低減を図り、車両駆動装置10の軸方向の体格の低減を図ることができる。
【0050】
カバー油路2530に供給される油は、カバー油路2530を通ってから、管状部材180に供給される。管状部材180は、中空の管状の形態であり、内部が流路を形成する。管状部材180は、第1軸A1と同心状に、軸方向に延在し、軸方向の両端が開口されてよい。管状部材180は、図3Aに示すように、X1側でカバー油路2530(軸心側の出口部25302)に接続され、中空内部314A内までX2側に軸方向に延在し、X2側の端部の開口が中空内部314Aに連通する。
【0051】
管状部材180に供給される油は、軸心油路(中空内部314A)に供給される。中空内部314Aに供給された油は、ロータ310の回転時の遠心力の作用により、シャフト部314の内周面を伝って流れ、ロータコア312及びそれに伴い永久磁石325を径方向内側から冷却する。また、シャフト部314に径方向の油孔を形成して、径方向内側からコイルエンド部322A(図示しないX2側のコイルエンド部322Aも同様、以下同様)に向けて油を吐出することも可能である。この場合、コイルエンド部322Aを径方向内側から冷却できる。
【0052】
また、カバー油路2530に供給される油は、カバー油路2530を通ってから、管状部材181に供給される。管状部材181は、中空の管状の形態であり、内部が流路を形成する。管状部材181は、軸方向に視てステータ320よりも径方向外側において、軸方向に延在し、軸方向の両端が開口されてよい。
【0053】
管状部材181に供給された油は、重力の作用により、管状部材181に形成される径方向の油孔1810を介して、ステータ320に落下する。ステータ320に落下した油は、ステータ320の外周面等を伝って下方へと流れる。これにより、ステータ320を径方向外側から冷却できる。
【0054】
管状部材181の油孔1810は、例えば、コイルエンド部322Aに径方向で対向する油孔1810Aを含んでよい。これにより、コイルエンド部322Aを径方向外側から冷却できる。
【0055】
また、管状部材181の油孔1810は、ステータコア321の外周面に径方向で対向する油孔1810Bを含んでよい。これにより、ステータコア321(及びステータコイル322)を径方向外側から冷却できる。
【0056】
なお、ここでは、一例として、図3A及び図3Bを参照して特定の冷却構造に付いて説明したが、冷却構造の構成の詳細は任意である。例えば、管状部材180及び/又は管状部材181等は省略されてもよい。あるいは、油冷自体が省略されてもよい。
【0057】
本実施例では、モータ駆動装置8は、パワーモジュール80と、コンデンサモジュール82と、制御基板84と、配線部88とを含む。
【0058】
図4Aは、本実施例によるモータ駆動装置8をX1側から視た斜視図である。図4Bは、本実施例によるモータ駆動装置8をX2側から視た斜視図である。図5は、本実施例によるモータ駆動装置8の各部品の説明図である。図6は、一の出力バスバー887の単品状態の斜視図である。図7は、本実施例の車両駆動装置10における回転電機1よりもX1側(X方向負側)の部分を軸方向視で示す平面図である。なお、図4A及び図5では、制御基板84及び配線部88の一部の図示は省略されている。図4A等では、右手座標系で直交する3軸(X軸、Y軸、Z軸)が示されている。X軸は、図2等で定義したX軸と同じであり、図4A等の3軸表記のX軸の負側が、図2等で定義したX軸のX1側に対応する。
【0059】
本実施例では、パワーモジュール80及びコンデンサモジュール82は、図4A及び図5に示すように、複数の組(図4A及び図5に示す例では、12組)をなして、周方向に沿って配置される。パワーモジュール80及びコンデンサモジュール82の組の数は、回転電機1の仕様に応じて変化されてよい。基本的には、パワーモジュール80及びコンデンサモジュール82の組の数が増加すると、回転電機1の出力が高くなる。従って、回転電機1の設計の際に、パワーモジュール80及びコンデンサモジュール82の組の数(及びそれに伴い回転電機1の出力)が異なる複数のバリエーションを設定できる。
【0060】
パワーモジュール80及びコンデンサモジュール82は、組ごとに、軸まわりに環状に配置される。パワーモジュール80及びコンデンサモジュール82の各組は、好ましくは、相ごとに纏まりつつ、軸まわりに環状に分散して配置される。この際、パワーモジュール80及びコンデンサモジュール82の各組は、例えば、等ピッチで配置されてもよい。図示の例では、パワーモジュール80及びコンデンサモジュール82の組数は12組であり、12組は、30度ピッチで配置される。これにより、パワーモジュール80及びコンデンサモジュール82からの熱に起因した周方向に沿った温度分布を均一化できる。
【0061】
パワーモジュール80及びコンデンサモジュール82は、好ましくは、複数の組のそれぞれにおいて、一体化された組立体の形態である。すなわち、各組のパワーモジュール80及びコンデンサモジュール82は、一体化されたインバータモジュール90を形成する。
【0062】
インバータモジュール90のそれぞれにおいて、パワーモジュール80は同じ構成を有し、コンデンサモジュール82は同じ構成(電気的特性や形状等)を有する。これにより、インバータモジュール90ごとの交換や整備も可能であり、汎用性を高めることができる。本実施例では、インバータモジュール90のそれぞれにおいて、パワーモジュール80は、サブモジュール800と、放熱部材810とを含む。この場合、インバータモジュール90のそれぞれにおいて、サブモジュール800は同じ構成(電気的特性や形状等)を有し、放熱部材810は同じ構成(材料や形状等)を有する。これにより、複数のインバータモジュール90を周方向に沿って配置する際、どのインバータモジュール90を、どの周方向の位置に配置するかを考慮する必要性がなくなり、組付け性が良好となる。
【0063】
なお、本実施例では、上述したように、12個のインバータモジュール90のうちのU相用の4つのインバータモジュール90は、周方向に隣接して一塊で配置され、V相用の4つのインバータモジュール90は、周方向に隣接して一塊で配置され、W相用の4つのインバータモジュール90は、周方向に隣接して一塊で配置される。
【0064】
サブモジュール800のそれぞれは、インバータINV(図1参照)における一の相に係る上下アームを形成する。これにより、上下アームごとにサブモジュール化が可能となり、配線効率が向上する。具体的には、12組のうちの、4組におけるパワーモジュール80において、サブモジュール800のそれぞれは、U相に係る上下アームを形成し、他の4組におけるパワーモジュール80において、サブモジュール800のそれぞれは、V相に係る上下アームを形成し、更なる他の4組におけるパワーモジュール80において、サブモジュール800のそれぞれは、W相に係る上下アームを形成する。
【0065】
また、インバータモジュール90のそれぞれにおいて、サブモジュール800は、対のパワー半導体チップ801、802を有する。具体的には、対のパワー半導体チップ801、802は、高電位側Pの上アームを形成するパワー半導体チップ801と、低電位側Nの下アームを形成するパワー半導体チップ802とからなる。パワー半導体チップ801、802は、それぞれ、上述したパワースイッチング素子を含む。
【0066】
パワー半導体チップ801及びパワー半導体チップ802は、図5に示すように、好ましくは、放熱部材810と一体化される。これにより、上述したパワーモジュール80が放熱部材810を一体的に含むことになり、放熱部材810を介して対のパワー半導体チップ801、802の熱を効率的に放熱できる。また、対のパワー半導体チップ801、802及び放熱部材810をそれぞれ別々にカバー部材252又はコンデンサモジュール82に組み付ける場合に比べて、組み付け性を高めることができる。
【0067】
また、パワー半導体チップ801及びパワー半導体チップ802は、図5に示すように、樹脂モールド部805とともに、配線部88の一部としてバスバー881、882、883、884を有する。パワー半導体チップ801と一体化されるバスバー881は、パワー半導体チップ801とコンデンサモジュール82(例えば図5のコンデンサバスバー821)とを電気的に接続する。また、パワー半導体チップ801と一体化されるバスバー883は、パワー半導体チップ801と、回転電機1における対応する相のステータコイル322とを電気的に接続する。同様に、パワー半導体チップ802と一体化されるバスバー882は、パワー半導体チップ802とコンデンサモジュール82(例えば図5のコンデンサバスバー822)とを電気的に接続する。また、パワー半導体チップ802と一体化されるバスバー884は、パワー半導体チップ802と、回転電機1における対応する相のステータコイル322とを電気的に接続する。本実施例では、バスバー883及びバスバー884は、接続バスバー885を介して、出力バスバー887(図4A及び図6等参照)の一端に接続される。出力バスバー887の他端は、回転電機1における対応する相のステータコイル322に電気的に接続される。
【0068】
本実施例では、対のパワー半導体チップ801、802は、放熱部材810の周方向の側面に接合される。この際、パワー半導体チップ801は、放熱部材810の周方向一方側の側面(表面)に接合され、パワー半導体チップ802は、放熱部材810の周方向他方側の側面(表面)に接合される。なお、接合方法は任意であり、比較的高い伝熱性の接着材料等が利用されてもよい。これにより、放熱部材810は、対のパワー半導体チップ801、802から周方向の側面を介して効率的に熱を受けることができる。また、周方向で隣り合う放熱部材810の間のスペースを効率的に利用して、対のパワー半導体チップ801、802を配置できる。
【0069】
放熱部材810は、比較的高い伝熱性を有する材料(例えばアルミ)により形成される。放熱部材810は、サブモジュール800からの熱を効率的に受け、受けた熱をカバー部材252(及び冷却水路2528内の冷却水)に効率的に伝達する機能を有する。
【0070】
放熱部材810は、好ましくは、図4A及び図5に示すように、軸方向に視て、径方向内側に向かうほど周方向幅が小さくなる形態である。すなわち、放熱部材810は、好ましくは、対のパワー半導体チップ801、802が接合される周方向の側面間の距離L1が、径方向で第1軸A1に近い側の方が第1軸A1よりも遠い側よりも小さい。これにより、放熱部材810をコンデンサモジュール82よりも径方向内側に配置しつつ、パワーモジュール80及びコンデンサモジュール82の組数(すなわちインバータモジュール90の数)を比較的大きくした場合でも、放熱部材810のレイアウトを比較的容易に成立させることができる。
【0071】
なお、放熱部材810には、冷却水路2528に連通する流路が形成されてもよい。あるいは、放熱部材810は、中空の形態であり、内部に冷却水路2528に連通する管状部材が通されてもよい。
【0072】
コンデンサモジュール82は、平滑コンデンサC(図1参照)を形成するモジュールの形態である。コンデンサモジュール82は、平滑コンデンサCを形成するコンデンサ素子や配線部88のコンデンサバスバー821、822を樹脂により封止した形態であってよい。なお、コンデンサバスバー821、822は、それぞれ、封止樹脂部から露出した各端部である端子部8211、8221(図12参照)が、コンデンサ素子の高電位側端子と、コンデンサ素子の低電位側端子とを形成する。コンデンサバスバー821、822は、サブモジュール800に接続されるとともに、電源用バスバー886(図3A及び図3B参照)に接続される。コンデンサバスバー821、822と電源用バスバー886との間の接合構造について、後に詳説する。
【0073】
インバータモジュール90のそれぞれにおいて、コンデンサモジュール82は、対応する組のサブモジュール800の高電位側Pと低電位側Nとの間に並列に電気的に接続される平滑コンデンサC(図1参照)を形成する。
【0074】
本実施例では、コンデンサモジュール82は、パワーモジュール80の径方向外側に配置される。これにより、コンデンサモジュール82がパワーモジュール80の径方向内側に配置される場合に比べて、配置できる周方向範囲が広くなり、コンデンサモジュール82の体格を大きくしやすくなる。例えば、パワーモジュール80及びコンデンサモジュール82の組数を比較的大きくした場合でも、比較的大きな体格のコンデンサモジュール82を実現できる。この結果、回転電機1の高出力化に対応することが容易となる。
【0075】
また、本実施例では、コンデンサモジュール82の軸方向の延在範囲は、図3A及び図3Bに示すように、パワーモジュール80の軸方向の延在範囲とオーバラップする。特に、本実施例では、パワーモジュール80のサブモジュール800は、径方向に視て、コンデンサモジュール82とオーバラップする。これにより、車両駆動装置10の軸方向の体格の最小化を図りつつ、軸方向でカバー部材252と回転電機1との間にコンデンサモジュール82及びサブモジュール800を配置できる。
【0076】
制御基板84は、制御装置500(図1参照)の一部又は全体を形成する。制御基板84は、例えば多層プリント基板により形成されてもよい。制御基板84は、カバー部材252に固定されてよい。制御基板84は、基板表面に対する法線方向が軸方向に沿う向きに配置される。これにより、制御基板84を軸方向の僅かなスペースを利用して配置できる。例えば、本実施例では、制御基板84は、図3A及び図3Bに示すように、軸方向で回転電機1とパワーモジュール80との間に配置されてよい。より詳細には、制御基板84は、軸方向で回転電機1のコイルエンド部322Aとパワーモジュール80との間に配置されてよい。これにより、デッドスペースになりやすいスペースを利用した効率的な配置を実現できる。また、制御基板84は、軸方向に視て、コイルエンド部322Aにオーバラップする径方向位置まで径方向外側に延在できるので、制御基板84の面積(回路部形成範囲)の最大化を図ることができる。なお、制御基板84には、コネクタCN(図7参照)を介して外部のECU(Electronic Control Unit)等が接続されてよい。また、変形例では、制御基板84は、軸方向に視て、コンデンサモジュール82にオーバラップする径方向位置まで径方向外側に延在してもよい。
【0077】
配線部88は、上述したコンデンサバスバー821、822と、上述したバスバー881、882、883、884と、電源用バスバー886(図3A等参照)と、出力バスバー887とを含む。
【0078】
電源用バスバー886は、図4Bに示すように、例えば円環状の形態であってよく、第1軸A1まわりに延在する。本実施例では、電源用バスバー886は、軸方向でカバー部材252の近傍に延在する。これにより、電源用バスバー886をカバー部材252(及び冷却水路2528内の冷却水)により効率的に冷却できる。
【0079】
電源用バスバー886は、図7に示すように、電源側の電源コネクタCN0への接続のための接続部位8869が、径方向に延在してよい。この場合、接続部位8869は、相ごとのインバータモジュール90に係る纏まりの間を通って、径方向に延在してよい。
【0080】
出力バスバー887は、相ごとに設けられる。出力バスバー887は、各パワーモジュール80と回転電機1とをつなぐバスバーである。図6に示すように、出力バスバー887は、円弧状の部位8871と、直線状の部位8872と、引き出し部位8873とを含む。
【0081】
出力バスバー887は、円弧状の部位8871が、例えば図4Aに示すように、各インバータモジュール90の径方向内側で軸まわりに配置されてよい。この際、一の相に係る出力バスバー887は、同相に係るインバータモジュール90の纏まりの周方向の延在範囲に対応した周方向範囲(従って、約120度の周方向範囲)に延在する。このようにして3つの出力バスバー887に係る円弧状の部位8871は、互いに周方向でオーバラップしない態様で、軸まわりに円環状に配置される。この場合、出力バスバー887に係る円弧状の部位8871は、各インバータモジュール90の径方向内側で、上述した接続バスバー885に径方向に当接することで、対応するインバータモジュール90のパワーモジュール80に電気的に接続できる。
【0082】
次に、図8以降を参照して、電源用バスバー886及びそれに関連した構成について更に説明する。
【0083】
図8は、電源用バスバー886とインバータモジュール90との間の接合構造の説明図であり、一部の接合構造(接合前の状態)を拡大して示す斜視図である。図9は、一対の貫通孔8862と端子部8211との位置関係(接合前の状態)を軸方向に視て示す平面図である。図9では、説明用に、端子部8211のうちの、貫通孔8862を通る部分の外形部分がハッチングで示されている。図10は、接合方法の一例の説明図であり、図11は、一の接合構造(接合後の状態)を拡大して概略的に示す斜視図である。図12は、コンデンサモジュール82のコンデンサバスバー821、822の端子部8211、8221の説明図であり、一のコンデンサモジュール82を径方向内側から示す斜視図である。図13は、モジュール形態の電源用バスバー886の分解斜視図である。図14は、一の電源用バスバー886を示す斜視図である。
【0084】
電源用バスバー886とインバータモジュール90との間の接合構造は、インバータモジュール90ごとに実質的に同じであり、以下では、一の接合構造を主に説明する。
【0085】
電源用バスバー886は、図8図3A等も参照)に示すように、インバータモジュール90の本体部(配線部88に係る要素を除く部分)に対して軸方向X1側に配置される。インバータモジュール90からのコンデンサバスバー821、822は、軸方向に延在し、軸方向X1側の端部の端子部8211、8221にて電源用バスバー886に接合される。
【0086】
本実施例では、電源用バスバー886は、コンデンサバスバー821、822の端子部8211、8221が通る複数の軸方向の貫通孔8862を有する。具体的には、電源用バスバー886は、径方向内側に突出する突出部8860を有し、突出部8860に軸方向の貫通孔8862を有する。
【0087】
以下では、コンデンサバスバー821の端子部8211と貫通孔8862との関係について主に説明するが、コンデンサバスバー822の端子部8221と貫通孔8862との関係についても同様であってよい。
【0088】
本実施例では、貫通孔8862は、好ましくは、図9に示すように、端子部8211を形成する部分に対して周方向に隙間Δ1が形成される孔形状を有する。なお、「端子部8211を形成する部分」とは、接合前(溶接前)の端子部8211の部分に対応する。後述するように、端子部8211は、溶接されることで、形状が変化する。従って、「端子部8211を形成する部分」とは、接合前(溶接前)、すなわち形状変化前の部分(図9のハッチング部分参照)を表す。また、本実施例では、貫通孔8862は、図9に示すように、端子部8211を形成する部分に対して径方向に隙間Δ2が形成される孔形状を有する。隙間Δ1、Δ2の技術的な意義は後述する。
【0089】
端子部8211は、図11に模式的に示すように、貫通孔8862から軸方向に露出する軸方向端面(X1側の端面)に、対応するコンデンサバスバー821の端子部8211に接合する溶接部Wdを有する。溶接部Wdは、図10に模式的に示すように、端子部8211の軸方向端面にレーザビームを照射することで、形成されてよい。なお、図10では、レーザビームの照射態様が矢印R10で模式的に示されている。レーザビームは、端子部8211の軸方向端部が熱により溶融し、溶融した材料が、電源用バスバー886の貫通孔8862まわりに付着(接合)するように、照射される。すなわち、溶接部Wdは、端子部8211の軸方向端面から、電源用バスバー886の貫通孔8862まわりの領域まで連続的に延在する。この場合、溶接部Wdは、上述した隙間Δ1、Δ2のうちの少なくともいずれか一方を、少なくとも部分的に埋める態様で延在する。なお、レーザビームに係るレーザの波長等は任意であり、赤外レーザやグリーンレーザ等が利用されてもよい。
【0090】
なお、端子部8211は、かかる溶接部Wdを形成するために、溶接前に貫通孔8862から軸方向に適切な長さで突出するように、形成されてもよい。すなわち、端子部8211における貫通孔8862から軸方向に突出する部分(溶接前の状態)は、かかる溶接部Wdを適切な範囲で確保できるような容積を有する。
【0091】
このようにして本実施例では、電源用バスバー886とコンデンサバスバー821との間の接合は、コンデンサバスバー821の端子部8211の軸方向端面に溶接部Wdを形成することで実現できる。
【0092】
本実施例では、電源用バスバー886は、正極側バスバー886-1と負極側バスバー886-2とが絶縁部材886-3を介して一体化されたモジュールの形態である。なお、正極側バスバー886-1は、電源Vaの正極側(高電位側P)に電気的に接続され、負極側バスバー886-2は、電源Vaの負極側(低電位側N)に電気的に接続される。
【0093】
この場合、正極側バスバー886-1、負極側バスバー886-2、及び絶縁部材886-3は、図13に示すように、それぞれ軸まわりの円環状の形態(本実施例では同心の円環状の形態)である。正極側バスバー886-1及び負極側バスバー886-2は、互いに対して絶縁部材886-3を介して軸方向に重なる。正極側バスバー886-1、負極側バスバー886-2、及び絶縁部材886-3は、樹脂材料により円環状部分(突出部8860を除く円環状部分)が封止されてもよい。正極側バスバー886-1、負極側バスバー886-2、及び絶縁部材886-3は、好ましくは、図13に示すように、軸方向が法線方向となる板状の部材である。この場合、正極側バスバー886-1、負極側バスバー886-2、及び絶縁部材886-3は、板金のプレス加工により容易に形成(成形)できる。また、上述した突出部8860及び貫通孔8862も、プレス加工(打ち抜き加工)により容易に形成(成形)できる。
【0094】
なお、図13等に示す例では、正極側バスバー886-1、負極側バスバー886-2、及び絶縁部材886-3は、完全な円環状ではなく、接続部位8869を形成するための曲げ加工部位を有してもよい。ただし、接続部位8869は、円環状部分とは別に形成される別ピースの部材により形成されてもよい。
【0095】
次に、図17から図19に示す比較例と対比しつつ、図3Aや、図3B図4B図13から図16等を参照して本実施例の更なる効果を説明する。
【0096】
図15は、周方向の位置ズレが生じた場合の、一対の貫通孔8862と端子部8211との位置関係(接合前の状態)を軸方向に視て示す平面図である。図16は、回転方向の位置ズレが生じた場合の、一対の貫通孔8862と端子部8211との位置関係(接合前の状態)を軸方向に視て示す平面図である。図17から図19は、比較例の説明図であり、図17は、比較例によるモータ駆動装置8’を示す斜視図である。図18は、比較例による電源用バスバー886’を示す斜視図である。図19は、比較例による車両駆動装置10’の要部を概略的に示す断面図である。
【0097】
比較例による車両駆動装置10’は、本実施例による車両駆動装置10に対して、電源用バスバー886が電源用バスバー886’で置換された点が主に異なる。これに伴う相違点として、比較例による車両駆動装置10’は、本実施例による車両駆動装置10に対して、モータ駆動装置8がモータ駆動装置8’で置換され、ケース2がケース2’で置換された点が異なる。
【0098】
比較例による電源用バスバー886’は、本実施例による電源用バスバー886に対して、図17及び図18に示すように、軸まわりに円環状に配置される点は同じであるが、接合構造及び向き等が異なる。具体的には、電源用バスバー886’は、本実施例による電源用バスバー886に対して、貫通孔8862を備えていない点が異なり、その代わりに、接合端子部8861’を備える点が異なる。接合端子部8861’は、インバータモジュール90’からの端子部8211’、8221’に接合する。また、電源用バスバー886’は、本実施例による電源用バスバー886に対して、軸方向ではなく径方向に重なる正極側バスバー886-1’及び負極側バスバー886-2’を備える点が異なる。なお、正極側バスバー886-1’及び負極側バスバー886-2’は、図示しない絶縁層を介して、径方向に重なってよい。
【0099】
このような比較例による電源用バスバー886’は、接合端子部8861’が、インバータモジュール90’からの端子部8211’、8221’と同様に軸方向に延在する。この場合、電源用バスバー886’の接合端子部8861’とインバータモジュール90’からの端子部8211’、8221’とが周方向に当接された状態で、レーザビームの照射により接合できる。
【0100】
このような比較例では、電源用バスバー886’が円環状の部分において接合端子部8861’を備えるので、円環状の部分において曲げ加工や絞り加工等のプレス成形が必要となる。このため、比較例では、電源用バスバー886’において必要な寸法精度を確保し難いという問題が生じる。かかる問題を解決するために、電源用バスバー886’を、周方向に分割(例えば3分割)することも可能であるが、この場合、部品点数の増加と溶接箇所(分割体同士の溶接箇所、図18のQ18部参照)の増加という別の問題が生じる。
【0101】
これに対して、本実施例によれば、上述したように、電源用バスバー886は、円環状の部分が、平らな形態であり、突出部8860や貫通孔8862とともに、曲げ加工や絞り加工を伴わないプレス加工により容易に形成できる。従って、本実施例によれば、上述した比較例において生じる各種問題を解消できる。
【0102】
また、比較例では、電源用バスバー886’の接合端子部8861’とインバータモジュール90’からの端子部8211’、8221’とを接合する際、両者を周方向に当接させる必要がある。しかしながら、部品精度や組み付け精度に依存して、電源用バスバー886’の接合端子部8861’とインバータモジュール90’からの端子部8211’、8221’とが周方向に離れるような位置ズレが生じた場合、レーザビームの照射が困難となる。すなわち、比較例では、部品精度や組み付け精度に依存して生じうる各種の位置ズレに対してロバストな構成を実現できない。
【0103】
これ対して、本実施例では、上述したように、電源用バスバー886は、特に円環状の部分について、平らな形態であり、板金のプレス加工により形成でき、曲げ加工や絞り加工を伴わずに、形成できる。従って、電源用バスバー886は、特に円環状の部分について、必要な寸法精度を確保しやすく、それ故に、組み付け時の必要な位置精度を確保しやすい。
【0104】
また、本実施例によれば、電源用バスバー886を形成する正極側バスバー886-1、負極側バスバー886-2、及び絶縁部材886-3は、それぞれ、一ピースの部材として形成できる。これにより、電源用バスバー886を形成する部材に係る部品点数の低減を図ることができる。
【0105】
また、本実施例によれば、部品精度や組み付け精度に依存して、電源用バスバー886の貫通孔8862とインバータモジュール90からの端子部8211、8221とが正規の位置関係からズレる位置ズレが生じた場合でも、上述した溶接部Wdの形成が可能である。すなわち、本実施例では、部品精度や組み付け精度に依存して生じうる各種の位置ズレに対してロバストな構成を実現できる。
【0106】
具体的には、本実施例では、図9を参照して上述したように、貫通孔8862と端子部8211(端子部8221についても同様、以下同じ)との間には、正規の位置関係に対して、周方向両側で隙間Δ1と径方向両側の隙間Δ2が設定される。
【0107】
従って、本実施例では、図15にて矢印R151で模式的に示すように、貫通孔8862と端子部8211との位置関係が正規の位置関係に対して周方向にズレる位置ズレが生じた場合でも、隙間Δ1により当該位置ズレを吸収でき、貫通孔8862を端子部8211が通ることができる。従って、この場合、図10を参照して上述したレーザビームの照射(端子部8211の軸方向端面に対する照射)が依然として可能であり、その結果、上述した溶接部Wdによる両者の接合(すなわち電源用バスバー886とコンデンサバスバー821の接合)が可能である。これは、貫通孔8862と端子部8211との位置関係が正規の位置関係に対して径方向にずれた場合(R152参照)も同様である。
【0108】
また、本実施例では、図16にて矢印R16で模式的に示すように、貫通孔8862と端子部8211との位置関係が正規の位置関係に対して回転方向にズレる位置ズレが生じた場合でも、隙間Δ1、Δ2の組み合わせにより当該位置ズレを吸収でき、貫通孔8862を端子部8211が通ることができる。従って、この場合も、図10を参照して上述したレーザビームの照射(端子部8211の軸方向端面に対する照射)が依然として可能であり、その結果、上述した溶接部Wdによる両者の接合(すなわち電源用バスバー886とコンデンサバスバー821の接合)が可能である。
【0109】
また、比較例では、電源用バスバー886’は、正極側バスバー886-1’及び負極側バスバー886-2’が径方向に重なる態様で形成されるので、軸方向の体格が比較的大きくなりやすい。このため、比較例では、電源用バスバー886’を、インバータモジュール90’に対してX1側にオフセットして配置することが難しい。この場合、電源用バスバー886’は、図19に示すように、径方向でコンデンサバスバー821’とパワーモジュール80’の間に配置される傾向となる。また、比較例では、電源用バスバー886’は、円環状の形態に対して径方向外側でコンデンサバスバー821’に接合されるので、径方向の体格も比較的大きくなる。その結果、径方向でコンデンサバスバー821’とパワーモジュール80’の間に比較的広い配置スペースが必要となり、パワーモジュール80’の径方向の体格が制約を受けやすくなる。具体的には、図19に模式的に示すように、パワーモジュール80’のうちの、放熱部材810’の径方向の長さであって、冷却水路2528が形成可能なカバー部材252’に当接する部分の径方向の長さL1’について、十分な長さを確保することが困難となりやすい。このため、放熱部材810’とカバー部材252’との間の接触面積(熱伝導に係る接触面積)が不足し、インバータモジュール90’の冷却性能が比較的低くなるという問題がある。
【0110】
これに対して、本実施例では、図4B図12等に示すように、電源用バスバー886は、正極側バスバー886-1及び負極側バスバー886-2が径方向に重なる態様で形成されるので、軸方向の体格の低減を図ることができる。このため、本実施例では、比較例とは異なり、電源用バスバー886を、インバータモジュール90に対してX1側にオフセットして配置することが可能である。この場合、電源用バスバー886は、図3A図3B図4B等に示すように、パワーモジュール80よりも径方向外側の位置、かつ、軸方向に視て、コンデンサモジュール82の径方向内側部分に重なる位置に、配置できる。従って、本実施例では、径方向でコンデンサバスバー821とパワーモジュール80の間に、電源用バスバー886の配置スペースが不要となり、電源用バスバー886に起因したパワーモジュール80の径方向の体格が制約を低減又は無くすことができる。これにより、図3A及び図3Bに模式的に示すように、パワーモジュール80のうちの、放熱部材810の径方向の長さであって、冷却水路2528が形成可能なカバー部材252に当接する部分の径方向の長さL1について、十分な長さを確保することが容易となる。すなわち、本実施例によれば、インバータモジュール90とカバー部材252との間の限られたスペースを効率的に利用しつつ、インバータモジュール90の冷却性能を高めることができる。
【0111】
以上、各実施例について詳述したが、特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。また、前述した実施例の構成要素を全部又は複数を組み合わせることも可能である。
【0112】
例えば、上述した実施例による電源用バスバー886とコンデンサバスバー821、822との間の接合構造は、出力バスバー887と接続バスバー885(又はバスバー883、884)との間の接合構造にも適用可能である。この場合、出力バスバー887は、相ごとの円弧状の形態(例えば120度相当の円弧状の形態)であってよく、上述した電源用バスバー886の貫通孔8862に対応した貫通孔を有し、接続バスバー885(又はバスバー883、884)は、当該貫通孔を通る端子部を有してよい。この場合も、接続バスバー885(又はバスバー883、884)の端子部の軸方向端面に、溶接部Wdと同様の態様で溶接部を形成することで、出力バスバー887と接続バスバー885(又はバスバー883、884)との間の接合構造を実現できる。
【符号の説明】
【0113】
10・・・車両駆動装置、1・・・回転電機、90・・・インバータモジュール(インバータ装置)、80・・・パワーモジュール(第1サブモジュール)、82・・・コンデンサモジュール(第2サブモジュール)、8211、8221・・・端子部、886・・・電源用バスバー(バスバー)、886-1・・・正極側バスバー、886-2・・・負極側バスバー、8862・・・貫通孔、887・・・出力バスバー(バスバー)、801、802・・・パワー半導体チップ(パワースイッチング素子)、C・・・平滑コンデンサ、Wd・・・溶接部、A1・・・第1軸(軸)、Δ1・・・隙間
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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図13
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図15
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図19