(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121274
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】細胞リン酸化酵素の共発現によるレンチウイルスベクター産生の増強方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/867 20060101AFI20240830BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240830BHJP
C12N 7/01 20060101ALI20240830BHJP
C07K 14/155 20060101ALI20240830BHJP
C12N 15/49 20060101ALN20240830BHJP
C12N 15/54 20060101ALN20240830BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20240830BHJP
C12N 9/12 20060101ALN20240830BHJP
【FI】
C12N15/867 Z ZNA
C12N5/10
C12N7/01
C07K14/155
C12N15/49
C12N15/54
C12N15/12
C12N9/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】25
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028288
(22)【出願日】2023-02-27
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業「大学発新産業創出プログラム 社会還元加速プログラム(SCORE)大学推進型 拠点都市環境整備型」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504179255
【氏名又は名称】国立大学法人 東京医科歯科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山岡 昇司
【テーマコード(参考)】
4B050
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B050CC03
4B050DD11
4B050EE10
4B050KK07
4B050LL01
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AA97X
4B065AA97Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA23
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA09
4H045CA01
4H045DA86
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】レンチウイルスベクターの産生を増強させる方法および増強させるための試薬の提供。
【解決手段】レンチウイルスベクターを産生する方法であって、レンチウイルスの粒子の形成に必須であるタンパク質をコードする遺伝子を含む複数のプラスミド、ならびにレンチウイルスの粒子に取り込まれるRNAを転写する遺伝子および発現させようとする目的導入遺伝子を含むプラスミドを含むパッケージングミックスで哺乳類細胞をコトランスフェクトするときに、同時に哺乳類細胞中でIKK2もしくはIKK2の活性を恒常的に有するIKK2の変異体、IKK2もしくはIKK2の活性を恒常的に有するIKK2の変異体とNF-κB RelA、IKK2もしくはIKK2の活性を恒常的に有するIKK2の変異体とTat、MAP3KもしくはMAP3Kの触媒ドメインの活性を有するMAP3Kの変異体、MAP3KもしくはMAP3Kの触媒ドメインの活性を有するMAP3Kの変異体とNF-κB RelA、またはMAP3KもしくはMAP3Kの触媒ドメインの活性を有するMAP3Kの変異体とTatを発現させることによりレンチウイルスベクター産生量を増強させる、レンチウイルスベクターを産生する方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンチウイルスベクターを産生する方法であって、レンチウイルスの粒子の形成に必須であるタンパク質をコードする遺伝子を含む複数のプラスミド、ならびにレンチウイルスの粒子に取り込まれるRNAを転写する遺伝子および発現させようとする目的導入遺伝子を含むプラスミドを含むパッケージングミックスで哺乳類細胞をコトランスフェクトするときに、同時に哺乳類細胞中でIKK2もしくはIKK2の活性を恒常的に有するIKK2の変異体、IKK2もしくはIKK2の活性を恒常的に有するIKK2の変異体とNF-κB RelA、IKK2もしくはIKK2の活性を恒常的に有するIKK2の変異体とTat、MAP3KもしくはMAP3Kの触媒ドメインの活性を有するMAP3Kの変異体、MAP3KもしくはMAP3Kの触媒ドメインの活性を有するMAP3Kの変異体とNF-κB RelA、またはMAP3KもしくはMAP3Kの触媒ドメインの活性を有するMAP3Kの変異体とTatを発現させることによりレンチウイルスベクター産生量を増強させる、レンチウイルスベクターを産生する方法。
【請求項2】
MAP3Kが、MAP3Kファミリーの1個または複数の分子である、請求項1記載のレンチウイルスベクターを産生する方法。
【請求項3】
MAP3Kが、MAP3K1、MAP3K7、MAP3K8およびMAP3K11からなる群から選択される、請求項2記載のレンチウイルスベクターを産生する方法。
【請求項4】
IKK2の活性を恒常的に有するIKK2の変異体が、IKK2EEである、請求項1記載のレンチウイルスベクターを産生する方法。
【請求項5】
MAP3K1の触媒ドメインの活性を有するMAP3K1の変異体がMAP3K1CDである、請求項3記載のレンチウイルスベクターを産生する方法。
【請求項6】
哺乳類細胞が293T細胞またはその派生細胞である、請求項1記載のレンチウイルスベクターを産生する方法。
【請求項7】
パッケージングミックスを構成する複数のプラスミドが、少なくともLTR(5'LTRおよび3'LTR)、パッケージングシグナル(Ψ)および目的導入遺伝子(トランスジーン)を含むレンチウイルスベクタープラスミド、ならびにgag、pol、revおよびenvを分割して含む複数のプラスミドからなる、請求項1記載のレンチウイルスベクターを産生する方法。
【請求項8】
パッケージングミックスを構成する複数のプラスミドが、(1)少なくともLTR(5'LTRおよび3'LTR)、パッケージングシグナル(Ψ)および目的導入遺伝子(トランスジーン)を含むレンチウイルスベクタープラスミド、(2)パッケージングに必要なgagおよびpolを含み、制御遺伝子であるrevおよびtatを含んでいてもよいパッケージングプラスミド、ならびに(3)VSV-Gをコードする遺伝子を含むエンベローププラスミドの3つのプラスミドからなる、請求項1記載のレンチウイルスベクターを産生する方法。
【請求項9】
パッケージングミックスを構成する複数のプラスミドが、(A)少なくともLTR(5'LTRおよび3'LTR)、パッケージングシグナル(Ψ)および目的導入遺伝子(トランスジーン)を含むレンチウイルスベクタープラスミド、(B)パッケージングに必要なgagおよびpolを含むパッケージングプラスミド、(C)VSV-Gをコードする遺伝子を含むエンベローププラスミド、ならびに(D)revを含むrev発現プラスミドの4つのプラスミドからなる、請求項1記載のレンチウイルスベクターを産生する方法。
【請求項10】
パッケージングミックスを構成する複数のプラスミドが、(A)少なくともLTR(5'LTRおよび3'LTR)、パッケージングシグナル(Ψ)および目的導入遺伝子(トランスジーン)を含むレンチウイルスベクタープラスミド、(B)パッケージングに必要なgagおよびpolを含むパッケージングプラスミド、ならびに(C)VSV-Gをコードする遺伝子を含むエンベロープ発現ユニットおよびrevを含むrev発現ユニットを含むプラスミドの3つのプラスミドからなる、請求項1記載のレンチウイルスベクターを産生する方法。
【請求項11】
レンチウイルスベクタープラスミド中の5'LTRおよび3'LTRが改変されている、請求項9記載のレンチウイルスベクターを産生する方法。
【請求項12】
レンチウイルスベクタープラスミド中の5'LTRおよび3'LTRが改変されている、請求項10記載のレンチウイルスベクターを産生する方法。
【請求項13】
レンチウイルスベクターの産生が浮遊細胞培養系で行われる、請求項1~12のいずれか1項に記載のレンチウイルスベクターを産生する方法。
【請求項14】
レンチウイルスの粒子の形成に必須であるタンパク質をコードする遺伝子を含む複数のプラスミド、ならびにレンチウイルスの粒子に取り込まれるRNAを転写する遺伝子および発現させようとする目的導入遺伝子を含むプラスミドを含むパッケージングミックス、およびIKK2もしくはIKK2の活性を恒常的に有するIKK2の変異体を発現する発現ベクター、IKK2もしくはIKK2の活性を恒常的に有するIKK2の変異体とNF-κB RelAを発現する発現ベクター、IKK2もしくはIKK2の活性を恒常的に有するIKK2の変異体とTatを発現する発現ベクター、MAP3KもしくはMAP3Kの触媒ドメインの活性を有するMAP3Kの変異体を発現する発現ベクター、MAP3KもしくはMAP3Kの触媒ドメインの活性を有するMAP3Kの変異体とNF-κB RelAを発現する発現ベクター、またはMAP3KもしくはMAP3Kの触媒ドメインの活性を有するMAP3Kの変異体とTatを発現する発現ベクターを含む、哺乳動物細胞中でレンチウイルスベクターを産生するためのキット。
【請求項15】
MAP3Kが、MAP3Kファミリーの1個または複数の分子である、請求項14記載のレンチウイルスベクターを産生するためのキット。
【請求項16】
MAP3Kが、MAP3K1、MAP3K7、MAP3K8およびMAP3K11からなる群から選択される、請求項15記載のレンチウイルスベクターを産生するためのキット。
【請求項17】
IKK2の活性を恒常的に有するIKK2の変異体が、IKK2EEである、請求項14記載のレンチウイルスベクターを産生するためのキット。
【請求項18】
MAP3K1の触媒ドメインの活性を有するMAP3K1の変異体がMAP3K1CDである、請求項16記載のレンチウイルスベクターを産生するためのキット。
【請求項19】
哺乳類細胞が293T細胞またはその派生細胞である、請求項14記載のレンチウイルスベクターを産生するためのキット。
【請求項20】
パッケージングミックスを構成する複数のプラスミドが、少なくともLTR(5'LTRおよび3'LTR)、パッケージングシグナル(Ψ)および目的導入遺伝子(トランスジーン)を含むレンチウイルスベクタープラスミド、ならびにgag、pol、revおよびenvを分割して含む複数のプラスミドからなる、請求項14記載のレンチウイルスベクターを産生するためのキット。
【請求項21】
パッケージングミックスを構成する複数のプラスミドが、(1)少なくともLTR(5'LTRおよび3'LTR)、パッケージングシグナル(Ψ)および目的導入遺伝子(トランスジーン)を含むレンチウイルスベクタープラスミド、(2)パッケージングに必要なgagおよびpolを含み、制御遺伝子であるrevおよびtatを含んでいてもよいパッケージングプラスミド、ならびに(3)VSV-Gをコードする遺伝子を含むエンベローププラスミドの3つのプラスミドからなる、請求項14記載のレンチウイルスベクターを産生するためのキット。
【請求項22】
パッケージングミックスを構成する複数のプラスミドが、(A)少なくともLTR(5'LTRおよび3'LTR)、パッケージングシグナル(Ψ)および目的導入遺伝子(トランスジーン)を含むレンチウイルスベクタープラスミド、(B)パッケージングに必要なgagおよびpolを含むパッケージングプラスミド、(C)VSV-Gをコードする遺伝子を含むエンベローププラスミド、ならびに(D)revを含むrev発現プラスミドの4つのプラスミドからなる、請求項14記載のレンチウイルスベクターを産生するためのキット。
【請求項23】
パッケージングミックスを構成する複数のプラスミドが、(A)少なくともLTR(5'LTRおよび3'LTR)、パッケージングシグナル(Ψ)および目的導入遺伝子(トランスジーン)を含むレンチウイルスベクタープラスミド、(B)パッケージングに必要なgagおよびpolを含むパッケージングプラスミド、ならびに(C)VSV-Gをコードする遺伝子を含むエンベロープ発現ユニットおよびrevを含むrev発現ユニットの3つのプラスミドからなる、請求項14記載のレンチウイルスベクターを産生するためのキット。
【請求項24】
レンチウイルスベクタープラスミド中の5'LTRおよび3'LTRが改変されている、請求項22記載のレンチウイルスベクターを産生するためのキット。
【請求項25】
レンチウイルスベクタープラスミド中の5'LTRおよび3'LTRが改変されている、請求項23記載のレンチウイルスベクターを産生するためのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレンチウイルスベクターの効率的な産生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)由来のレンチウイルスベクターは、インビトロおよびインビボの両方において、分裂細胞および非分裂細胞に外来遺伝子を形質導入するための貴重なツールである。レンチウイルスベクターの安全性と利便性は、種々の方法によって、改善されてきた。また、種々の方法でレンチウイルスベクター産生を増強することが報告されていた。例えば、HEK293T細胞を用いてレンチウイルスベクターを産生する際に、HTLV-1 Tax、HIV-1 Tat、NF-κB RelA、AP-1、CREB/ATF等のプロモーターを活性化させる因子を同時に発現させることによりレンチウイルスベクター産生量が増大することが報告されていた(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第WO2020/059848号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
レンチウイルスベクターは、細胞内での安定した発現のために外来遺伝子を送達するための貴重なツールである。レンチウイルスベクター(以下、レンチベクター)の産生量を増大させることによって、遺伝子治療用細胞製剤の製造コストを下げることが可能である。
【0005】
本発明は、レンチウイルスベクターの産生を増強させる方法および増強させるための試薬の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、ヒト由来の細胞株(HEK293T等)において、細胞リン酸化酵素の遺伝子(MAP3K1、IKK2など)を共発現させることで、ウイルス粒子産生を飛躍的に増大させることを見出した。この結果、レンチウイルスベクターの大量かつ安価な提供を可能とした。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0007】
[1] レンチウイルスベクターを産生する方法であって、レンチウイルスの粒子の形成に必須であるタンパク質をコードする遺伝子を含む複数のプラスミド、ならびにレンチウイルスの粒子に取り込まれるRNAを転写する遺伝子および発現させようとする目的導入遺伝子を含むプラスミドを含むパッケージングミックスで哺乳類細胞をコトランスフェクトするときに、同時に哺乳類細胞中でIKK2もしくはIKK2の活性を恒常的に有するIKK2の変異体、IKK2もしくはIKK2の活性を恒常的に有するIKK2の変異体とNF-κB RelA、IKK2もしくはIKK2の活性を恒常的に有するIKK2の変異体とTat、MAP3KもしくはMAP3Kの触媒ドメインの活性を有するMAP3Kの変異体、MAP3KもしくはMAP3Kの触媒ドメインの活性を有するMAP3Kの変異体とNF-κB RelA、またはMAP3KもしくはMAP3Kの触媒ドメインの活性を有するMAP3Kの変異体とTatを発現させることによりレンチウイルスベクター産生量を増強させる、レンチウイルスベクターを産生する方法。
[2] MAP3Kが、MAP3Kファミリーの1個または複数の分子である、[1]のレンチウイルスベクターを産生する方法。
[3] MAP3Kが、MAP3K1、MAP3K7、MAP3K8およびMAP3K11からなる群から選択される、[2]のレンチウイルスベクターを産生する方法。
[4] IKK2の活性を恒常的に有するIKK2の変異体が、IKK2EEである、[1]~[3]のいずれかのレンチウイルスベクターを産生する方法。
[5] MAP3K1の触媒ドメインの活性を有するMAP3K1の変異体がMAP3K1CDである、[3]のレンチウイルスベクターを産生する方法。
[6] 哺乳類細胞が293T細胞またはその派生細胞である、[1]~[5]のいずれかのレンチウイルスベクターを産生する方法。
[7] パッケージングミックスを構成する複数のプラスミドが、少なくともLTR(5'LTRおよび3'LTR)、パッケージングシグナル(Ψ)および目的導入遺伝子(トランスジーン)を含むレンチウイルスベクタープラスミド、ならびにgag、pol、revおよびenvを分割して含む複数のプラスミドからなる、[1]~[6]のいずれかのレンチウイルスベクターを産生する方法。
[8] パッケージングミックスを構成する複数のプラスミドが、(1)少なくともLTR(5'LTRおよび3'LTR)、パッケージングシグナル(Ψ)および目的導入遺伝子(トランスジーン)を含むレンチウイルスベクタープラスミド、(2)パッケージングに必要なgagおよびpolを含み、制御遺伝子であるrevおよびtatを含んでいてもよいパッケージングプラスミド、ならびに(3)VSV-Gをコードする遺伝子を含むエンベローププラスミドの3つのプラスミドからなる、[1]~[6]のいずれかのレンチウイルスベクターを産生する方法。
[9] パッケージングミックスを構成する複数のプラスミドが、(A)少なくともLTR(5'LTRおよび3'LTR)、パッケージングシグナル(Ψ)および目的導入遺伝子(トランスジーン)を含むレンチウイルスベクタープラスミド、(B)パッケージングに必要なgagおよびpolを含むパッケージングプラスミド、(C)VSV-Gをコードする遺伝子を含むエンベローププラスミド、ならびに(D)revを含むrev発現プラスミドの4つのプラスミドからなる、[1]~[6]のいずれかのレンチウイルスベクターを産生する方法。
[10] パッケージングミックスを構成する複数のプラスミドが、(A)少なくともLTR(5'LTRおよび3'LTR)、パッケージングシグナル(Ψ)および目的導入遺伝子(トランスジーン)を含むレンチウイルスベクタープラスミド、(B)パッケージングに必要なgagおよびpolを含むパッケージングプラスミド、ならびに(C)VSV-Gをコードする遺伝子を含むエンベロープ発現ユニットおよびrevを含むrev発現ユニットを含むプラスミドの3つのプラスミドからなる、[1]~[6]のいずれかのレンチウイルスベクターを産生する方法。
[11] レンチウイルスベクタープラスミド中の5'LTRおよび3'LTRが改変されている、[9]のレンチウイルスベクターを産生する方法。
[12] レンチウイルスベクタープラスミド中の5'LTRおよび3'LTRが改変されている、[10]のレンチウイルスベクターを産生する方法。
[13] レンチウイルスベクターの産生が浮遊細胞培養系で行われる、[1]~[12]のいずれかのレンチウイルスベクターを産生する方法。
[14] レンチウイルスの粒子の形成に必須であるタンパク質をコードする遺伝子を含む複数のプラスミド、ならびにレンチウイルスの粒子に取り込まれるRNAを転写する遺伝子および発現させようとする目的導入遺伝子を含むプラスミドを含むパッケージングミックス、およびIKK2もしくはIKK2の活性を恒常的に有するIKK2の変異体を発現する発現ベクター、IKK2もしくはIKK2の活性を恒常的に有するIKK2の変異体とNF-κB RelAを発現する発現ベクター、IKK2もしくはIKK2の活性を恒常的に有するIKK2の変異体とTatを発現する発現ベクター、MAP3KもしくはMAP3Kの触媒ドメインの活性を有するMAP3Kの変異体を発現する発現ベクター、MAP3KもしくはMAP3Kの触媒ドメインの活性を有するMAP3Kの変異体とNF-κB RelAを発現する発現ベクター、またはMAP3KもしくはMAP3Kの触媒ドメインの活性を有するMAP3Kの変異体とTatを発現する発現ベクターを含む、哺乳動物細胞中でレンチウイルスベクターを産生するためのキット。
[15] MAP3Kが、MAP3Kファミリーの1個または複数の分子である、[14]のレンチウイルスベクターを産生するためのキット。
[16] MAP3Kが、MAP3K1、MAP3K7、MAP3K8およびMAP3K11からなる群から選択される、[15]のレンチウイルスベクターを産生するためのキット。
[17] IKK2の活性を恒常的に有するIKK2の変異体が、IKK2EEである、[14]~[16]のいずれかのレンチウイルスベクターを産生するためのキット。
[18] MAP3K1の触媒ドメインの活性を有するMAP3K1の変異体がMAP3K1CDである、[16]のレンチウイルスベクターを産生するためのキット。
[19] 哺乳類細胞が293T細胞またはその派生細胞である、[14]~[18]のいずれかのレンチウイルスベクターを産生するためのキット。
[20] パッケージングミックスを構成する複数のプラスミドが、少なくともLTR(5'LTRおよび3'LTR)、パッケージングシグナル(Ψ)および目的導入遺伝子(トランスジーン)を含むレンチウイルスベクタープラスミド、ならびにgag、pol、revおよびenvを分割して含む複数のプラスミドからなる、[14]~[19]のいずれかのレンチウイルスベクターを産生するためのキット。
[21] パッケージングミックスを構成する複数のプラスミドが、(1)少なくともLTR(5'LTRおよび3'LTR)、パッケージングシグナル(Ψ)および目的導入遺伝子(トランスジーン)を含むレンチウイルスベクタープラスミド、(2)パッケージングに必要なgagおよびpolを含み、制御遺伝子であるrevおよびtatを含んでいてもよいパッケージングプラスミド、ならびに(3)VSV-Gをコードする遺伝子を含むエンベローププラスミドの3つのプラスミドからなる、[14]~[20]のいずれかのレンチウイルスベクターを産生するためのキット。
[22] パッケージングミックスを構成する複数のプラスミドが、(A)少なくともLTR(5'LTRおよび3'LTR)、パッケージングシグナル(Ψ)および目的導入遺伝子(トランスジーン)を含むレンチウイルスベクタープラスミド、(B)パッケージングに必要なgagおよびpolを含むパッケージングプラスミド、(C)VSV-Gをコードする遺伝子を含むエンベローププラスミド、ならびに(D)revを含むrev発現プラスミドの4つのプラスミドからなる、[14]~[20]のいずれかのレンチウイルスベクターを産生するためのキット。
[23] パッケージングミックスを構成する複数のプラスミドが、(A)少なくともLTR(5'LTRおよび3'LTR)、パッケージングシグナル(Ψ)および目的導入遺伝子(トランスジーン)を含むレンチウイルスベクタープラスミド、(B)パッケージングに必要なgagおよびpolを含むパッケージングプラスミド、ならびに(C)VSV-Gをコードする遺伝子を含むエンベロープ発現ユニットおよびrevを含むrev発現ユニットの3つのプラスミドからなる、[14]~[20]のいずれかのレンチウイルスベクターを産生するためのキット。
[24] レンチウイルスベクタープラスミド中の5'LTRおよび3'LTRが改変されている、[22]のレンチウイルスベクターを産生するためのキット。
[25] レンチウイルスベクタープラスミド中の5'LTRおよび3'LTRが改変されている、[23]のレンチウイルスベクターを産生するためのキット。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法によりヒト由来の細胞株(HEK293T等)において、細胞リン酸化酵素の遺伝子(MAP3K1、IKK2など)を共発現させることで、ウイルス粒子産生を飛躍的に増大させることができる。該方法において、ごく少量のプラスミドを製造時に追加投与するだけであり、新たな設備投資を必要としない。したがって、レンチベクター産生でコストがかかる培養規模とプラスミド量を縮減できる。また、工業的生産で採用が見込まれる浮遊細胞培養系でも効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1-1】代表的な第一世代、第二世代および第三世代のレンチウイルスベクターシステムの構造を示す図である。
【
図1-2】VSV-Gおよびrevが1つのプラスミド中に含まれる第三世代のレンチウイルスベクターシステムの構造を示す図である。
【
図2】トランスファープラスミドであるpCSII-CMV-luc-IRES2-Bsdの構造を示す図である。
【
図3】レンチウイルスベクター産生細胞におけるIKK2EEの共発現によるレンチウイルスベクターの産生増強を示し、さらに、IKK2EEがRelAによるレンチベクターの産生増強を倍加することを示す図である。
【
図4】レンチウイルスベクター産生細胞におけるMAP3K1CDの共発現によるレンチウイルスベクターの産生増強を示す図である。
図4AはMAP3K1CDのみの共発現による産生増強を示し、
図4Bは、RelAがMAP3K1CDによるレンチウイルスベクターの産生増強をさらに増強することを示す図である。
【
図5】浮遊細胞培養系でのレンチウイルスベクター産生細胞におけるRelA(
図5A)又はMAP3K1CD(
図5B)の発現によるレンチウイルスベクターの産生増強を示す図である。
【
図6】レンチウイルスベクター産生細胞における恒常的酵素活性を有するIKK2EE(
図6A)およびMAP3K1CD(
図6B)が野生型全長IKK2およびMAP3K1よりも強いレンチウイルスべクター産生増強能を有することを示す図である。
【
図7-1】レンチウイルスベクター産生細胞におけるTAK1 (MAP3K7)(
図7-1B)、TPL2 (MAP3K8)(
図7-1A)を発現させた場合のレンチウイルスベクターの産生増強を示す図である
【
図7-2】レンチウイルスベクター産生細胞におけるMLK3 (MAP3K11)を発現させた場合のレンチウイルスベクターの産生増強を示す図である
【
図8】レンチウイルスベクター産生細胞におけるRelAおよびTAK1の共発現によるレンチウイルスベクターの産生増強を示す図である。
【
図9】レンチウイルスベクター産生細胞におけるTLP2およびMLK3の共発現によるレンチウイルスベクターの産生増強を示す図である。
【
図10-1】レンチウイルスベクター産生細胞におけるMAP3K1CD(
図10-1A)、もしくはTAK1(
図10-1B)とTatの共発現によるレンチウイルスベクターの産生増強を示す図である。
【
図10-2】レンチウイルスベクター産生細胞におけるTPL2(
図10-2C)、もしくはMLK3(
図10-2D)とTatの共発現によるレンチウイルスベクターの産生増強を示す図である。
【
図11】浮遊細胞培養系でのレンチウイルスベクター産生細胞におけるTatおよびMAP3K1CDの共発現によるレンチウイルスベクターの産生増強を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明の方法においては、レンチウイルスベクターを産生する能力を有するパッケージング細胞として、293T(HEK293T)細胞等の哺乳動物細胞を用い、該哺乳動物細胞中でレンチウイルスを産生する際に、IKK2もしくはIKK2の活性を恒常的に有するIKK2の変異体、またはMAP3KもしくはMAP3Kの触媒ドメインの活性を有するMAP3Kの変異体を共発現させる。
【0012】
本発明において、IKK2、MAP3K、TAK1、TPL2及びMLK3は以下の略語を示す。
IKK2:Iκβkinase 2
MAP3K:Mitogen-activated protein kinase kinase kinase
TAK1:Transforming growth factor-beta-activated kinase 1
TPL2:Tumour Progression Locus 2
MLK3:Mixed-lineage protein kinase 3
【0013】
IKK2とは、ヒトリン酸化酵素であるセリンスレオニンタンパク質キナーゼであり、NFκB複合体のRelAを活性化することにより、転写因子NFκB複合体の阻害剤であるIκBタンパク質をリン酸化する。IKK2をIKKB1やIKK-βとも呼ぶ。IKK2のアミノ酸配列を配列番号1に、IKK2をコードするDNAの塩基配列を配列番号2に示す。本発明で共発現させるIKK2の変異体としては、配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1もしくは数個、例えば、1~10個、好ましくは1~5個、さらに好ましくは1もしくは2個、さらに好ましくは1個のアミノ酸が欠失、置換、付加されたアミノ酸配列からなり、IKK2の活性を恒常的に有するタンパク質が含まれる。
【0014】
このような、上記の配列番号で示されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列として、上記配列番号で示されるアミノ酸配列と、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool at the National Center for Biological Information(米国国立生物学情報センターの基本ローカルアラインメント検索ツール))等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータ)を用いて計算したときに、少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、さらに好ましくは少なくとも91%、さらに好ましくは少なくとも92%、さらに好ましくは少なくとも93%、さらに好ましくは少なくとも94%、さらに好ましくは少なくとも95%、さらに好ましくは少なくとも96%、さらに好ましくは少なくとも97%、さらに好ましくは少なくとも98%、特に好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有しているものが挙げられる。このような、上記配列番号で示されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質は上記配列番号で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質と実質的に同一である。このようなIKK2の変異体として、IKK2EEが挙げられる。
【0015】
IKK2EEとは、ヒトリン酸化酵素であるIKK2の177番目のアミノ酸であるセリンをグルタミン酸に、181番目のアミノ酸であるセリンをグルタミン酸に変えた変異体である。この変異によって、IKK2は恒常的酵素活性を有する恒常的活性化体となる。IKK2EEのアミノ酸配列を配列番号3に、IKK2EEをコードするDNAの塩基配列を配列番号4に示す。
【0016】
IKK2またはその活性を恒常的に有する変異体を共発現することにより、NF-κB RelAの活性化が長時間持続し、その結果レンチベクターの産生量が増加する。
【0017】
MAP3Kとは、ヒトリン酸化酵素であり、下流のMAP2Kをリン酸化することでMAPK系を活性化させる。MAP3Kには多数のファミリー分子が存在するが、本発明ではMAP3Kのファミリー分子を用いることができる。MAP3Kのファミリー分子としてMAP3K1、MAP3K2、MAP3K3、MAP3K4、MAP3K5、MAP3K6、MAP3K7、MAP3K8、MAP3K9、MAP3K10、MAP3K11、MAP3K12、MAP3K13、MAP3K14、MAP3K15、MAP3K16、MAP3K17、MAP3K18、MAP3K19、MAP3K20、RAF1、BRAF1、ARAF等が挙げられる。この中でも、MAP3K1、MAP3K7(TAK1)、MAP3K8(TPL2)、MAP3K11(MLK3)が好ましい。また、MAP3Kのファミリーの複数を組合せて用いてもよい。例えば、MAP3Kのファミリー分子の2つを組合せて用いればよい。組合せとして、例えば、MAP3K1とMAP3K7、MAP3K1とMAP3K8、MAP3K1とMAP3K11、MAP3K7とMAP3K8、MAP3K7とMAP3K11、MAP3K8とMAP3K11の組合せが挙げられる。
【0018】
MAP3K1のアミノ酸配列を配列番号5に、MAP3K1をコードするDNAの塩基配列を配列番号6に、MAP3K7のアミノ酸配列を配列番号10に、MAP3K7をコードするDNAの塩基配列を配列番号9に、MAP3K8のアミノ酸配列を配列番号12に、MAP3K8をコードするDNAの塩基配列を配列番号11に、MAP3K11のアミノ酸配列を配列番号14に、MAP3K11をコードするDNAの塩基配列を配列番号13に示す。本発明で共発現させるMAP3K1、MAP3K7、MAP3K8およびMAP3K11の変異体としては、それぞれ、配列番号5、10、12又は14に示されるアミノ酸配列において、1もしくは数個、例えば、1~10個、好ましくは1~5個、さらに好ましくは1もしくは2個、さらに好ましくは1個のアミノ酸が欠失、置換、付加されたアミノ酸配列からなり、MAP3K1の活性を有するタンパク質が含まれる。
【0019】
このような、上記の配列番号で示されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列として、上記配列番号で示されるアミノ酸配列と、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool at the National Center for Biological Information(米国国立生物学情報センターの基本ローカルアラインメント検索ツール))等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータ)を用いて計算したときに、少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、さらに好ましくは少なくとも91%、さらに好ましくは少なくとも92%、さらに好ましくは少なくとも93%、さらに好ましくは少なくとも94%、さらに好ましくは少なくとも95%、さらに好ましくは少なくとも96%、さらに好ましくは少なくとも97%、さらに好ましくは少なくとも98%、特に好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有しているものが挙げられる。このような、上記配列番号で示されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質は上記配列番号で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質と実質的に同一である。MAK3KがMAP3K1の場合、MAP3K1の変異体として、後述のMAP3K1CD部分のアミノ酸配列を含み、MAP3K1CDの活性を有するものが挙げられる。好ましくは、MAP3K1CDが挙げられる。
【0020】
MAP3K1CDは、MAP3K1のカルボキシル末端に存在する触媒ドメインであり、MAP3K1の1197番目のアミノ酸であるアラニンから1512番目のアミノ酸であるトリプトファンまでからなる。触媒ドメイン部分だけを発現させることで、細胞内に存在する負のフィードバック阻害を受けず、全長(1512アミノ酸)に比べてより強力で持続的な酵素活性、すなわち恒常的酵素活性を発揮させることができる。MAP3K1CDのアミノ酸配列を配列番号5に、MAP3K1CDをコードするDNAの塩基配列を配列番号8に示す。MAP3K1CD部分のアミノ酸配列を含み、MAP3K1CDの活性を有する、MAP3K1の変異体として、配列番号5に示されるアミノ酸配列において、2番目のアミノ酸から1196番目のアミノ酸のいずれから始まり1512番目までのアミノ酸配列からなる変異体が挙げられる。
【0021】
さらに、IKK2もしくはIKK2の活性を恒常的に有するIKK2の変異体と共にNF-κB RelAを発現させてもよい。レンチウイルスを産生する際に、NF-κB RelAを単独で共発現させてもレンチウイルス産生が増大するが、さらにIKK2もしくはIKK2の活性を恒常的に有するIKK2の変異体を共発現することにより、さらに増大する。IKK2もしくはIKK2の活性を恒常的に有するIKK2の変異体は細胞に内在するNF-κB RelAにも、外来性のNF-κB RelAにも作用し、NF-κB RelAを活性化し、レンチベクターの産生を増大させる。
【0022】
さらに、MAP3KもしくはMAP3Kの触媒ドメインの活性を有するMAP3Kの変異体と共にNF-κB RelAを発現させてもよい。レンチウイルスを産生する際に、NF-κB RelAを単独で共発現させてもレンチウイルス産生が増大するが、さらにMAP3KもしくはMAP3Kの触媒ドメインの活性を有するMAP3Kの変異体を共発現することにより、さらに増大する。MAP3KもしくはMAP3Kの触媒ドメインの活性を有するMAP3Kの変異体は細胞に内在するNF-κB RelAにも、外来性のNF-κB RelAにも作用し、NF-κB RelAを活性化し、レンチベクターの産生を増大させる。例えば、MAP3K1、MAP3K7、MAP3K8、若しくはMAP3K11、又はそれらの触媒ドメインの活性を有する変異体とNF-κB RelAを発現させればよい。
【0023】
さらに、MAP3KもしくはMAP3Kの触媒ドメインの活性を有するMAP3Kの変異体と共にTatを発現させてもよい。Tatは、HIV-1のTrans activator of transcriptionをいう。レンチウイルスを産生する際に、Tatを単独で共発現させてもレンチウイルス産生が増大するが、さらにMAP3KもしくはMAP3Kの触媒ドメインの活性を有するMAP3Kの変異体を共発現することにより、さらに増大する。例えば、MAP3K1、MAP3K7、MAP3K8、若しくはMAP3K11、又はそれらの触媒ドメインの活性を有する変異体とTatを発現させればよい。
【0024】
レンチウイルスベクターは、ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)を基に開発された。
レンチウイルスベクターを製造するためには、HIV-1プロウイルスゲノムを複数のプラスミドに分割して含ませ、各プラスミドを細胞にコトランスフェクト(同時(共)トランスフェクト)させればよい。この際、ウイルスゲノムのすべてを複数のプラスミドに分割して含ませる必要はなく、アクセサリー遺伝子等の遺伝子を除いたウイルスゲノムの一部を含んでいればよい。すなわち、レンチウイルスの粒子の形成に必須であるタンパク質をコードする遺伝子を含む複数のプラスミドおよびレンチウイルスの粒子に取り込まれるRNAを転写する遺伝子および発現させようとする目的導入遺伝子を含むプラスミド(レンチウイルスベクタープラスミド)をパッケージング細胞にコトランスフェクトすればよい。レンチウイルスの粒子の形成に必須であるタンパク質として、パッケージングに必要なgag、pol、rev、あるいはさらにtat等のタンパク質、VSV-G(G glycoprotein of vesicular stomatitis virus:水疱性口内炎ウイルス糖タンパク質)等のエンベロープ(env)タンパク質が挙げられる。VSV-Gは、広範囲な宿主域を持ち、物理的な強度が高いという点で好ましいが、他のエンベロープを用いることができる。gag遺伝子は、内部構造(細胞間質、キャプシドおよびヌクレオキャプシド)タンパク質をコードし、pol遺伝子は、RNA依存性DNAポリメラーゼ(逆転写酵素)、プロテアーゼおよびインテグラーゼをコードし、env遺伝子は、ウイルスエンベロープ糖タンパク質をコードする。また、レンチウイルスベクタープラスミドは、パッケージングシグナル(Ψ)を含み目的遺伝子を挿入したプラスミドである。
【0025】
パッケージングに必要なgag、pol、rev、あるいはさらにtat等のタンパク質をコードする核酸、VSV-G等のエンベロープ(env)タンパク質をコードする核酸は、複数のプラスミド、例えば、3~5個のプラスミド、好ましくは3または4個のプラスミドに分割して含ませ、それらの複数のプラスミドとレンチウイルスベクタープラスミドをコトランスフェクトすればよい。
【0026】
コトランスフェクトの結果、レンチウイルスベクタープラスミドから転写された組換えウイルスRNAゲノムが、パッケージングシグナル(Ψ)の作用でパッケージングタンパク質に取り込まれ、ウイルスコアが形成される。
【0027】
このように、ウイルス形成に必須のタンパク質をコードする核酸が異なるプラスミドに分散して含まれる結果、相同組換えにより野生型HIV-1が生成されるのを防止する。細胞に感染したレンチウイルスベクターは細胞中で自己複製できないので、非再感染性であり、安全である。
【0028】
例えば、レンチウイルスベクタープラスミド、gag、pol、tat、rev等のタンパク質をコードする核酸を含むプラスミド、およびVSV-G等のエンベロープ(env)タンパク質をコードする核酸を含むプラスミドを用いることができる。また、制御遺伝子であるrevやtatは他のプラスミドに分割してもよい。
【0029】
具体的には、(1)少なくともLTR(5'LTRおよび3'LTR)、パッケージングシグナル(Ψ)および目的導入遺伝子(トランスジーン)を含むレンチウイルスベクタープラスミド、(2)パッケージングに必要なgagおよびpolを含み、制御遺伝子であるrevおよびtatを含んでいてもよいパッケージングプラスミド、ならびに(3)VSV-G等のエンベロープ(env)をコードするenv遺伝子を含むenv発現プラスミド(エンベローププラスミド)の3つのプラスミドを用いることができる。さらに、(A)少なくともLTR(5'LTRおよび3'LTR)、パッケージングシグナル(Ψ)および目的導入遺伝子(トランスジーン)を含むレンチウイルスベクタープラスミド、(B)パッケージングに必要なgagおよびpolを含むパッケージングプラスミド、(C)VSV-G等のエンベロープ(env)をコードするenv遺伝子を含むenv発現プラスミド(エンベローププラスミド)、ならびに(D)revを含むrev発現プラスミドの4つのプラスミドを用いてもよい。また、(A)少なくともLTR(5'LTRおよび3'LTR)、パッケージングシグナル(Ψ)および目的導入遺伝子(トランスジーン)を含むレンチウイルスベクタープラスミド、(B)パッケージングに必要なgagおよびpolを含むパッケージングプラスミド、ならびに(C)VSV-G等のエンベロープ(env)をコードするenv遺伝子を含むenv発現ユニットおよびrevを含むrev発現ユニットを含むプラスミドの3つのプラスミドを用いてもよい。
【0030】
5'LTRおよび3'LTRは、改変されていてもよく、例えば、5'LTRおよび3'LTRのU3が欠失、あるいは変異していてもよく、この際、5'LTRのU3がCMVプロモーター等のプロモーターにより置換されていてもよい。
【0031】
細胞内でレンチウイルスベクターの産生に用いる上記の複数のプラスミドをレンチウイルス産生のためのパッケージングミックスという。
【0032】
好ましくは、レンチウイルスベクタープラスミド以外のプラスミドの3'末端側には、ポリA付加配列(ポリアデニル化配列、poly A)を連結させる。ポリA付加配列(ポリアデニル化配列、polyA)の由来は限定されず、成長ホルモン遺伝子由来のポリA付加配列、例えばウシ成長ホルモン遺伝子由来のポリA付加配列やヒト成長ホルモン遺伝子由来ポリA付加配列、SV40ウイルス由来ポリA付加配列、ヒトやウサギのβグロビン遺伝子由来のポリA付加配列等が挙げられる。ポリA付加配列を発現用カセットに含ませることにより、RNAの安定性や翻訳効率が向上する。
【0033】
上記のレンチウイルスベクタープラスミドは、パッケージングシグナル(Ψ)を含んだ両端のHIV-LTRの間に内部プロモーターと目的とする遺伝子が組込まれている。
【0034】
レンチウイルスベクタープラスミドおよびパッケージングプラスミドには、RRE(rev response element)が含まれていてもよい。
【0035】
また、各プラスミドの5'末端側にはプロモーターを連結させてもよい。さらに、上記のように、レンチウイルスベクタープラスミド中の目的遺伝子の上流にプロモーターを含む。用いるプロモーターは限定されず、CMVプロモーター、CMV-iプロモーター(hCMV + イントロンプロモーター)、SV40プロモーター、UbCプロモーター、EF1aプロモーター、RSVプロモーター、βアクチンプロモーター、CAGプロモーター、組織特異的なプロモーター、tet発現制御プロモーター等を用いることができるが、この中でもCMVプロモーターが好ましい。
【0036】
vif、vpr、vpu、vpx、nef等のHIVのアクセサリー遺伝子の少なくとも1つは除かれているか不活性化されていることが好ましい。
【0037】
さらに、レンチウイルスベクタープラスミドは、cPPT(central polypurine tract)やWPRE(woodchuck hepatitis virus posttranscriptional regulatory element)を含んでいてもよい。cPPTは逆転写効率を向上させ、WPREはRNAの発現効率を向上させる。
【0038】
プラスミド中の各エレメントは、機能的に連結している必要がある。ここで、機能的に連結しているとは、それぞれのエレメントがその機能を発揮して、発現させようとする遺伝子の発現が増強されるように連結していることをいう。
【0039】
レンチウイルスベクターを産生するためのレンチウイルスベクターシステムは、相同組換えによる野生型ウイルスの発生を防止するために、第一世代レンチウイルスベクターシステム、第二世代レンチウイルスベクターシステム、第三世代レンチウイルスベクターシステムと改良されていった。
【0040】
上記の(1)~(3)の3つのプラスミドを用いるレンチウイルスベクターシステムが第二世代レンチウイルスベクターシステムであり、(A)~(D)の4つのプラスミドを用いるレンチウイルスベクターシステムが第三世代レンチウイルスベクターシステムである。
【0041】
第三世代レンチウイルスベクターシステムにおいては、レンチウイルスベクタープラスミドの5'LTRのU3をCMVプロモーターに置換し、3'LTRのU3に変異を加えてそのプロモーター活性を無力化してもよい。このようなレンチウイルスベクタープラスミドをSIN(self inactivating)プラスミドと呼ぶ。5'LTRのU3をCMVプロモーターに置換した場合、tatは不要であり、パッケージングプラスミドからtatを除くことができると報告されている(MIYOSHI et al., J. Virol., 70, 8150, 1998; Dull et al., J. Virol., 72, 8463, 1998.)。第三世代レンチウイルスベクターはtatを含んでいないtat非依存性レンチウイルスベクターシステムとされている。
【0042】
図1-1に、代表的な第一世代レンチウイルスベクターシステム、第二世代レンチウイルスベクターシステム、第三世代レンチウイルスベクターシステムの構成を示す(Biochem J. (2012)443, 603-618より改変)。また、
図1-2にVSV-Gおよびrevが1つのプラスミド中に含まれる第三世代のレンチウイルスベクターシステムの構成を示す。
【0043】
本発明においては、好ましくは第二世代レンチウイルスベクターシステム、または第三世代レンチウイルスベクターシステムを用いる。第二世代レンチウイルスベクターシステムはレンチウイルスベクターの産生量が高いという利点があり、第三世代レンチウイルスベクターシステムは安全性が高いという利点がある。
【0044】
本発明の方法においては、上記のレンチウイルスベクターシステムを構成するプラスミドを293T細胞でコトランスフェクトする際に、細胞中で同時にIKK2もしくはIKK2の活性を恒常的に有するIKK2の変異体、またはMAP3KもしくはMAP3Kの触媒ドメインの活性を有するMAP3Kの変異体を共発現させる。
【0045】
IKK2もしくはIKK2の活性を恒常的に有するIKK2の変異体、MAP3KもしくはMAP3Kの触媒ドメインの活性を有するMAP3Kの変異体、またはNF-κB RelAを共発現させるには、レンチウイルスベクターシステムを構成するプラスミドの他に、IKK2もしくはIKK2の活性を恒常的に有するIKK2の変異体、MAP3KもしくはMAP3Kの触媒ドメインの活性を有するMAP3Kの変異体、またはNF-κB RelAをコードする核酸を含む発現ベクターを細胞に共トランスフェクトして、共発現させればよい。発現ベクターとしてレンチウイルスベクター以外のウイルスベクター、例えば、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ガンマレトロウイルス等を用いることもできる。IKK2もしくはIKK2の活性を恒常的に有するIKK2の変異体、MAP3KもしくはMAP3Kの触媒ドメインの活性を有するMAP3Kの変異体またはNF-κB RelAを発現するベクター中のプロモーターも限定されず、CMVプロモーター、CMV-iプロモーター(hCMV + イントロンプロモーター)、SV40プロモーター、EF1αプロモーター、RSVプロモーター、βアクチンプロモーター、CAGプロモーター、組織特異的なプロモーター等を用いることができる。発現は一過性の発現でもよいし、恒常的な発現でもよい。恒常的な発現は、例えば、IKK2もしくはIKK2の活性を恒常的に有するIKK2の変異体、MAP3KもしくはMAP3Kの触媒ドメインの活性を有するMAP3Kの変異体またはNF-κB RelAをコードする核酸を細胞のゲノムに組込めばよい。
【0046】
各ベクターの投入量は適宜設定すればよく、例えば、24 well plateを用いて共トランスフェクトする場合、IKK2もしくはIKK2の活性を恒常的に有するIKK2の変異体をコードする核酸を含むベクターは0.01μg~0.05μg/24 well、好ましくは0.02μg~0.03μg/24 well程度、MAP3KもしくはMAP3Kの触媒ドメインの活性を有するMAP3Kの変異体をコードする核酸を含むベクターは0.01μg~0.1μg/24 well、好ましくは、0.03μg~0.07μg/24 well程度、NF-κB RelAをコードする核酸を含むベクターは0.025μg~0.2μg/24 well、好ましくは0.05μg~0.15μg/24 well程度トランスフェクトすればよい。
【0047】
レンチウイルスベクターを産生する能力を有するパッケージング細胞として、293T(HEK293T)細胞等の哺乳動物細胞を用いる。哺乳動物細胞として、293T細胞やその派生細胞等が挙げられる。例えば、HEK293細胞、293T細胞、293E細胞、293H細胞、293F細胞、freestyle 293F細胞等が挙げられる。293T(HEK293T)細胞は、ヒト胎児の腎由来の細胞株である293細胞(HEK293細胞)の派生株であり、SV40 Large T抗原を発現する細胞株である。293T細胞は、市販されており、ATCC(American Type Culture Collection)等から入手可能である。本発明においては、293T細胞由来の派生細胞も用いることができ、そのような細胞として、Lenti-X(商標)293T細胞(タカラバイオ株式会社)が挙げられる。本発明においては、このような293T細胞の派生株も293T細胞と呼ぶ。293T細胞は、接着細胞培養系で培養しても、浮遊細胞培養系で培養してもよい。浮遊細胞培養系の場合、293T細胞の派生細胞である293T/17SF細胞(ATCC)を用いればよい。
【0048】
プラスミドによる293T細胞等の細胞のトランスフェクトは、公知の方法で行うことができる。例えば、遺伝子導入試薬を用いた方法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、DEAEデキストラン法、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法等が挙げられる。遺伝子導入試薬としては、ポリエチレンイミン(PEI、直鎖型もしくは分岐型)や市販の遺伝子導入試薬が挙げられる。市販の遺伝子導入試薬として、Lipofectamine(登録商標)、Lipofectamine plus(登録商標)、jet PEI(登録商標)、TransIT(登録商標)、Xfect(商標)、Transfectin-Lipid(登録商標)、Oligofectamine(登録商標)、siLentFect(登録商標)、DMRIE-C(登録商標)、Effectene(登録商標)、FuGENE(登録商標)等を挙げることができる。ポリエチレンイミン(PEI)には、直鎖PEIと1級、2級、3級アミンを含む分岐PEIとが存在するがいずれも用いることができる。また、PEIの分子量も限定されない。さらに脱アシル化等の化学修飾されたPEIも用いることができる。
【0049】
細胞にコトランスフェクト後、数日間の培養後に培養上清を回収し、培養上清からレンチウイルス粒子を回収する。細胞の培養に用いる培地、培養条件は通常の動物細胞の培養に用いる培地、条件である。レンチウイルスを産生するための培養期間は、例えば12~72時間、好ましくは48~72時間である。この際、十分なタイターのウイルスベクターを回収するために、培養上清のタイター(力価)を測定するのが好ましい。ここで、十分なタイターとは、1×105IFU/mL以上、好ましくは5×105IFU/mL以上をいう。タイターは、リアルタイムRT-PCR、P24の測定ELISA、フローサイトメトリー等を用いて測定することができる。また、得られたレンチウイルスベクターの量を細胞への形質導入効率により確認することができる。
【0050】
本発明の方法により、レンチウイルスの産生量は、細胞、例えばルシフェラーゼレポーターアッセイによるMT-4細胞への形質導入効率を指標にした場合に、少なくとも2倍、好ましくは2.5倍、さらに好ましくは3倍、さらに好ましくは3.5倍、さらに好ましくは5倍、さらに好ましくは7倍、さらに好ましくは10倍、さらに好ましくは12倍、さらに好ましくは14倍、さらに好ましくは16倍、さらに好ましくは18倍、さらに好ましくは20倍増強される。
【0051】
回収したレンチウイルスベクターは、超遠心分離等により濃縮、精製して用いることもできる。得られたレンチウイルスベクターは、凍結保存すればよい。
【0052】
このようにして得られたレンチウイルスベクターは、増殖中の細胞、増殖停止中の細胞を問わず哺乳類細胞への遺伝子導入に用いることができ、導入した遺伝子は宿主細胞のゲノムに安定に組込まれ、長期間の遺伝子発現が可能になる。従って、遺伝子治療用ベクターとして好適に用いることができる。
【0053】
本発明は、293T細胞等の動物細胞を用いたレンチウイルスベクターの産生を増強するための試薬またはキットを包含する。
【0054】
該試薬またはキットは、上記のレンチウイルスの粒子の形成に必須であるタンパク質をコードする遺伝子を含む複数のプラスミドおよびレンチウイルスの粒子に取り込まれるRNAを転写する遺伝子および発現させようとする目的導入遺伝子を含むプラスミド(レンチウイルスベクタープラスミド)を含むパッケージングミックスとIKK2もしくはIKK2の活性を恒常的に有するIKK2の変異体を発現する発現ベクター、IKK2もしくはIKK2の活性を恒常的に有するIKK2の変異体を発現する発現ベクターとNF-κB RelAを発現する発現ベクター、またはMAP3KもしくはMAP3Kの触媒ドメインの活性を有するMAP3Kの変異体を発現する発現ベクター、MAP3Kの触媒ドメインの活性を有するMAP3Kの変異体を発現する発現ベクターとNF-κB RelAを発現する発現ベクターを含む。
【実施例0055】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0056】
[実施例1] IKK2EEまたはNF-κB RelAの単独でまたは同時に発現させた場合のレンチウイルスベクターの産生増強
細胞
10(w/v)%ウシ胎仔血清(FBS)、100U/mlのペニシリンおよび100μg/mlのストレプトマイシンを補充したダルベッコ改変イーグル培地(ナカライテスク)で細胞株HEK293T(Invitrogen Corp.、Carlsbad、CA)を培養した。MT-4細胞は、10%FBS、100U/mlのペニシリンおよび100μg/ mlのストレプトマイシンを補充した完全RPMI 1640培地(ナカライテスク)中に維持した。
【0057】
プラスミド
pCSII-CMV-MCS-IRES2-Bsd、pCAG-HIVgp、pCMV-VSV-G-RSV-Revは、文部科学省国立バイオ・リソース・プロジェクトを通じて理研BRCより提供された。pCSII-CMV-luc-IRES2-Bsdを生成するために、pCSII-CMV-MCS-IRES2-BsdおよびpCMV-lucをXhoIおよびNotIで消化した。次いで、pCMV-luc由来のホタルルシフェラーゼ遺伝子を保持するXhoI-NotIフラグメントをpCSII-CMV-MCS-IRES2-BsdのXhoI-NotI部位に挿入した。得られたプラスミドをpCSII-CMV-luc-IRES2-Bsdと命名した。pCSII-CMV-luc-IRES2-Bsdの構造を
図2に示す。
【0058】
また、pRC/CMVRelAは、それぞれ、Schmitz and Baeuerle, EMBO J., 10, 3805-3817,1991に記載の方法で調製した。
【0059】
IKK2EEとは、ヒトリン酸化酵素であるIKK2の177番目のアミノ酸であるセリンをグルタミン酸に、181番目のアミノ酸であるセリンをグルタミン酸に変えた変異体である。この変異によって、IKK2は恒常的活性化体となる。IKK2EEを発現させるためのプラスミドがpcDNA3IKK2EEであり、IKK2 cDNAに変異を導入した後、pcDNA3ベクターのHindIII/Not1にクローニングした。
【0060】
(1) Human Embryonic Kidney (HEK) 293T細胞をコラーゲンでコートした24-wellプレートに、0.5 mLの10%牛胎児血清入りDMEMを用いて3.0 × 105 細胞/wellで播種・接着させた。
【0061】
(2) 2時間後に、(i)から(iii)のプラスミドをOpti-MEM(Gibco) 900μLと混合し、1μg/μL Polyethylenimine (PEI)を48μL加えて混合した後、このうち80μLにさらに(iv)または(v)、あるいは(iv)と(v)の混合物に加えて30分間室温でインキュベートした後、細胞に滴下した。
(i) 3.6 μg pCAG-HIVgp
(ii) 2.4 μg pCMV-VSV-G-RSV-Rev
(iii) 5.4 μg pCSII-CMV-luc-IRES2-Bsd
(iv) 0.1 μg pRC/CMVRelAもしくはpRC/CMV(Invitrogen社製)
(v) 0.025μg pcDNA3IKK2EEもしくはpcDNA3 なお、IKK2EEは、まず293T細胞のmRNAからcomplementary DNA (cDNA)を作製し、pcDNA3 (Invitrogen社)にクローニングした。IKK2EEについては、オリゴヌクレオチドによる変異導入法でアミノ酸変異を導入した。変異導入に使用したオリゴヌクレオチド配列は以下の通りであった。
IKK2MutF
GGCGAACTTTGCACAGAATTCGTGGGGACCCTGCAGTA(配列番号15)
IKK2MutR
GAATTCTGTGCAAAGTTCGCCCTGATCCAGCTCCTTGG(配列番号16)
【0062】
(3) 24時間後、培養液を交換した。
(4) 48時間後にレンチウイルスベクターを含む培養上清を回収し、0.22μmフィルターで濾過後、直ちにそのうち35μLを用いて7.5 × 104 MT4細胞(ヒトT細胞株)に感染させた。
【0063】
(5) 24時間後、MT4細胞を遠心回収し、TritonX 1%を含むバッファー(25mMトリスpH7.8,8mM MgCl2,1mM DTT,1(w/v)%Triton-X100,15(w/v)%グルセロール)50μLで溶解した。遠心後、その20μLを用いてルシフェラーゼアッセイを行い、製造元のプロトコールおよびGloMax-Multi Detectionシステムに従って測定した。
【0064】
図2に(iii)のトランスファープラスミド(導入遺伝子を含むレンチウイルスベクターのゲノムRNAを発現する)の構造を示す。
図3にルシフェラーゼアッセイの結果を示す。
図3AはIKK2EE単独発現の結果を、
図3BはRelA単独発現およびIKK2EEとRelAの共発現の結果を示す。
図3に示すようにIKK2EE単独発現で2倍程度、RelA単独発現で3.5倍程度、両者共発現で7倍程度、感染標的細胞における遺伝子(ルシフェラーゼ)発現量が増加した。
【0065】
[実施例2]
2-1. MAP3K1CDを発現させた場合のレンチウイルスベクターの産生増強
MAP3K1CDとはヒトリン酸化酵素であるMAP3K1のカルボキシル末端に存在する触媒ドメインであり、MAP3K1の1197番目のアミノ酸であるアラニンから1512番目のアミノ酸であるトリプトファンまでから成る。この部分だけを発現させることで、全長(1512アミノ酸)に比べてより強力で持続的な酵素活性を発揮させることができる。MAP3K1CDのアミノ末端にHAエピトープを接続したタンパク質を発現させるプラスミドがpcDNA3HAMAP3K1CDで、MAP3K1CDのcDNAは、pcDNA3HAベクターのBamH1/Xho1サイトにクローニングした。pcDNA3HAについては、Doffinger R et al. Nat Genet. 2001;27:277-285に記載されている。
【0066】
(1) Human Embryonic Kidney (HEK) 293T細胞をコラーゲンでコートした24-wellプレートに、0.5 mLの10(w/v)%牛胎児血清入りDMEMを用いて3.0 × 105 細胞/wellで播種・接着させた。
【0067】
(2) 2時間後に、(i)から(iii)のプラスミドをOpti-MEM(Gibco) 900μLと混合し、1μg/μL Polyethylenimine (PEI)を48μL加えて混合した後、このうち80μLにさらに(iv)に加えて30分間室温でインキュベートした後、細胞に滴下した。
(i) 3.6 μg pCAG-HIVgp
(ii) 2.4 μg pCMV-VSV-G-RSV-Rev
(iii) 5.4 μg pCSII-CMV-luc-IRES2-Bsd
(iv) 0.05 μg pcDNA3HAMAP3K1CDもしくはpcDNA3HA
なお、MAP3K1CDは、まず293T細胞のmRNAからcomplementary DNA (cDNA)を作製し、pcDNA3HA (Suzie Lefebvre et al., Hum Mol Genet 2002 May 1;11(9):1017-27. doi: 10.1093/hmg/11.9.1017.)にクローニングした。
【0068】
(3) 24時間後、培養液を交換した。
(4) 48時間後にレンチウイルスベクターを含む培養上清を回収し、0.22μmフィルターで濾過後、直ちにそのうち35μLを用いて7.5 × 104 MT4細胞(ヒトT細胞株)に感染させた。
【0069】
(5) 24時間後、MT4細胞を遠心回収し、TritonX 1(w/v)%を含むバッファー(25mMトリスpH7.8,8mM MgCl2,1mM DTT,1(w/v)%Triton-X100,15(w/v)%グルセロール)50μLで溶解した。遠心後、その20μLを用いて実施例1と同様にルシフェラーゼアッセイを行い、製造元のプロトコールおよびGloMax-Multi Detectionシステムに従って測定した。
【0070】
図4Aにルシフェラーゼアッセイの結果を示す。
図4Aに示すようにMAP3K1CD単独発現で3.5倍程度、感染標的細胞における遺伝子(ルシフェラーゼ)発現量が増加した。
【0071】
2-2. MAP3K1CDによるレンチウイルスベクターの産生増強の、RelA1によるさらなる増強 実施例1と同様の方法で、MAP3K1CDによるレンチウイルスベクターの産生増強効果の、RelAによるさらなる増強効果を確認した。
【0072】
実施例1の(2)の(iv) 0.3 μg pRC/CMVRelAもしくはpRC/CMV、(v) 0.2 μg pcDNA3HAMAP3K1CDもしくはpcDNA3HAの代わりに、以下のプラスミドDNAを用いた。
(iv) 0.10 μg pRC/CMVRelAもしくはpRC/CMV(Invitrogen)
(v) 0.05μg pcDNA3HAMAP3K1CDもしくはpcDNA3HA
【0073】
図4Bに、結果を示す。
図4Bに示すように、MAP3K1CDを発現させ、さらにRelAを発現させた場合に、さらにレンチウイルスベクターの産生増強が達成された。
【0074】
[実施例3] RelA、MAP3K1CDは浮遊細胞培養系においてレンチウイルスベクターの産生を増強する
(1)浮遊状態で増殖する293T/17SF細胞(ATCC)を1.0 × 106 細胞/500μL/96-deep wellに播種し、900 rpmで振とう培養を開始した。
【0075】
(2)(i)から(iii)のプラスミドをOpti-MEM(Gibco)288μLと混合した。transfection reagent (Thermofisher LV-MAXキット) 36μLをOpti-MEM288μLに加えて混合したところに上記プラスミドとOpti-MEMの混合物を加え混合した。このうち50μLを(iv)または(v)に加えて約15分間室温でインキュベートした後、細胞に滴下した。
(i) 4.8 μg pCAG-HIVgp
(ii) 2.4 μg pCMV-VSV-G-RSV-Rev
(iii) 4.8 μg pCSII-CMV-luc-IRES2-Bsd
(iv) 0.3 μg pRC/CMVRelAもしくはpRC/CMV
(v) 0.2 μg pcDNA3HAMAP3K1CDもしくはpcDNA3HA
【0076】
(3)96-deep well plateは直ちに900 rpmで振とう培養した。
(4)20時間後、Enhancer (Thermofisher LV-MAXキット)を19μL/96-deep well加えた。
【0077】
(5)48時間後に培養上清を回収し、0.22μmフィルターで濾過後、直ちにそのうち70μLを用いて1.5 × 105 MT4細胞(ヒトT細胞株)に感染させた。
【0078】
(6)24時間後、MT4細胞を遠心回収し、TritonX 1%を含むバッファー(25mMトリスpH7.8,8mM MgCl2,1mM DTT,1(w/v)%Triton-X100,15(w/v)%グルセロール)50μLで溶解した。遠心後、その20μLを用いて実施例1と同様にルシフェラーゼアッセイを行い、製造元のプロトコールおよびGloMax-Multi Detectionシステムに従って測定した。
【0079】
図5にルシフェラーゼアッセイの結果を示す。
図5AはRelA単独の結果を、
図5BはMAP3K1CDの結果を示す。
図5に示すようにRelA単独で2.5倍程度、MAP3K1CD単独発現で2.8倍程度、感染標的細胞における遺伝子(ルシフェラーゼ)発現量が増加した。
【0080】
[実施例4] 恒常的酵素活性を有するIKK2EE、MAP3K1CDは、より強いレンチウイルス増産効果をもたらす
IKK2、MAP3K1それぞれの全長野生型と恒常的酵素活性を有する変異型であるIKK2EE、MAP3K1CDのレンチベクター増産効果を比較した。
【0081】
(1) Human Embryonic Kidney (HEK) 293T細胞をコラーゲンでコートした24-wellプレートに、0.5 mLの10(w/v)%牛胎児血清入りDMEMを用いて3.0 × 105 細胞/wellで播種・接着させた。
【0082】
(2) 2時間後に、(i)から(iii)のプラスミドをOpti-MEM(Gibco) 900μLと混合し、1μg/μL Polyethylenimine (PEI)を48μL加えて混合した後、このうち80μLに (iv)または(v)を加えて30分間室温でインキュベートした後、細胞に滴下した。
(i) 3.6 μg pCAG-HIVgp
(ii) 2.4 μg pCMV-VSV-G-RSV-Rev
(iii) 5.4 μg pCSII-CMV-luc-IRES2-Bsd
(iv) 0.1 μg のpcDNA3 またはpcDNA3IKK2wtまたはpcDNA3IKK2EE
(v) 0.05 μg のpcDNA3HA またはpCRMAP3K1またはpcDNA3HAMAP3K1CD
なお、IKK2wtについては上記のように293T細胞からクローニングした。pCRMAP3K1はProc. Natl. Acad. Sci. USA, Vol. 95, pp. 3537-3542 1998に記載の方法で調製した。
【0083】
(3) 24時間後、培養液を交換した。
(4) 48時間後にレンチウイルスベクターを含む培養上清を回収し、0.22μmフィルターで濾過後、直ちにそのうち35μLを用いて7.5 × 104 MT4細胞(ヒトT細胞株)に感染させた。
【0084】
(5) 24時間後、MT4細胞を遠心回収し、TritonX 1(w/v)%を含むバッファー(25mMトリスpH7.8,8mM MgCl2,1mM DTT,1(w/v)%Triton-X100,15(w/v)%グルセロール)50μLで溶解した。遠心後、その20μLを用いて実施例1と同様にルシフェラーゼアッセイを行い、製造元のプロトコールおよびGloMax-Multi Detectionシステムに従って測定した。
【0085】
図6にルシフェラーゼアッセイの結果を示す。
図6AはIKK2wt(野生型)およびIKK2EEの結果を示し、
図6BはMAP3K1全長およびMAP3K1CDの結果を示す。
図6に示すようにIKK2EE、MAP3K1CDはIKK2wt、MAP3K1よりも高い感染標的細胞における遺伝子(ルシフェラーゼ)発現量を達成した。
【0086】
[実施例5] TAK1 (MAP3K7)、TPL2 (MAP3K8)、MLK3 (MAP3K11)を発現させた場合のレンチウイルスベクターの産生増強
実施例2と同様の方法で、MAP3K1と同じMAP3Kファミリーに属するリン酸化酵素であるTAK1 (MAP3K7)、TPL2 (MAP3K8)及びMLK3 (MAP3K11)のレンチウイルスベクターの産生増強効果を確認した。
【0087】
実施例2の(2)の(iv) 0.05 μg pcDNA3HAMAP3K1CDもしくはpcDNA3HAの代わりに、それぞれ以下のプラスミドDNAを用いた。
TAK1 (MAP3K7)
(iv) pcDNA3HA 0.05 μgもしくはpcDNA3HATAK1 0.05 μg
TPL2 (MAP3K8)
(iv) pSG5 0.15 μgもしくはpSG5TPL2 0.15 μg
MLK3 (MAP3K11)
(iv) pcDNA3HA 0.025 μgもしくはpcDNA3HAMLK3 0.025 μg
【0088】
pSG5ベクターの由来:Stratagene: Manual: pSG5 Vector (chem-agilent,com)
TAK1 cDNAは、pcDNA3HAベクターのBamH1/Xho1サイトにクローニングした。
TPL2 cDNAは、pSG5ベクターのEcoR1サイトにクローニングした。
MLK3 cDNAはpcDNA3HAベクターのBamH1/Xho1サイトにクローニングした。
【0089】
図7-1および7-2に、結果を示す。
図7-1AがTPL2、
図7-1BがTAK1、
図7-2CがMLK3の産生増強効果の結果を示す。
【0090】
図7-1および7-2に示すように、TAK1 (MAP3K7)、TPL2 (MAP3K8)、MLK3 (MAP3K11)を発現させた場合にレンチウイルスベクターの発現が増強された。
【0091】
[実施例6] RelAによるレンチウイルスベクターの産生増強の、TAK1によるさらなる増強
実施例1と同様の方法で、RelAによるレンチウイルスベクターの産生増強効果の、TAK1によるさらなる増強効果を確認した。
【0092】
実施例1の(2)の(iv) 0.13 μg pRC/CMVRelAもしくはpRC/CMV、(v) 0.0252 μg 0.025μg pcDNA3IKK2EE、pcDNA3HAMAP3K1CDもしくはpcDNA3pcDNA3HAの代わりに、以下のプラスミドDNAを用いた。
(iv) 0.05 μg pRC/CMVRelAもしくはpRC/CMV(Invitrogen)
(v) 0.05μg pcDNA3HATAK1もしくはpcDNA3HA
【0093】
図8に、結果を示す。
図8に示すように、RelAを発現させた場合にレンチウイルスベクターの産生が増強され、さらにTAK1を発現させた場合に、さらにレンチウイルスベクターの産生増強が達成された。
【0094】
[実施例7] TPL2及びMLK3の共発現によるレンチウイルスベクターの産生増強
実施例1と同様の方法で、TPL2及びMLK3の共発現によるレンチウイルスベクターの産生増強効果を確認した。
【0095】
実施例1の(2)の(iv) 0.13 μg pRC/CMVRelAもしくはpRC/CMV、(v) 0.0252 μg 0.025μg pcDNA3IKK2EE、pcDNA3HAMAP3K1CDもしくはpcDNA3pcDNA3HAの代わりに、以下のプラスミドDNAを用いた。
(iv) 0.15 μg pSG5TPL2もしくはpSG5
(v) 0.025μg pcDNA3HAMLK3もしくはpcDNA3HA
【0096】
図9に、結果を示す。
図9に示すように、TPL2又はMLK3の1つを発現させた場合にレンチウイルスベクターの産生が増強され、TPL2及びMLK3を共発現させた場合に、1つを発現させた場合よりも高い産生増強が達成された。
【0097】
[実施例8] MAP3K1CD、TAK1、TPL2、もしくはMLK3とTatの共発現によるレンチウイルスベクターの産生増強
実施例1と同様の方法で、MAP3K1CD、TAK1、TPL2、もしくはMLK3とTatの共発現によるレンチウイルスベクターの産生増強効果を確認した。
【0098】
実施例1の(2)の(iv) 0.13 μg pRC/CMVRelAもしくはpRC/CMV、(v) 0.0252 μg 0.025μg pcDNA3IKK2EE、pcDNA3HAMAP3K1CDもしくはpcDNA3pcDNA3HAの代わりに、以下のプラスミドDNAを用いた。
MAP3K1CDとTatの共発現
(iv) pcDNA3HA 0.05 μgもしくはpcDNA3HAMAP3K1CD 0.05 μg
TAK1とTatの共発現
(iv) pcDNA3HA 0.05 μgまたはpcDNA3HATAK1 0.05 μg
TPL2とTatの共発現
(iv) pSG5 0.15 μgもしくはpSG5TPL2 0.15 μg
MLK3とTatの共発現
(iv) pcDNA3HA 0.025 μgもしくはpcDNA3HAMLK3 0.025 μg
(v) 0.1μg pSV2もしくはpSV2tat
【0099】
図10-1および10-2に、結果を示す。
図10-1AはMAP3K1CDとTatの共発現の結果を、
図10-1BはTAK1とTatの共発現の結果を、
図10-2CはTPL2とTatの共発現の結果を、
図10-2DはMLK3とTatの共発現の結果を示す。
【0100】
図10-1および10-2に示すように、MAP3K1CD、TAK1、TPL2又はMLK3を単独で発現させる場合に比べ、これらをTatと共発現させることにより、レンチウイルスベクターの産生増強が達成された。
【0101】
[実施例9] Tat、MAP3K1CDは浮遊細胞培養系においてレンチウイルスベクターの産生を増強する
実施例3と同様の方法で、浮遊細胞培養系においてTatがMAP3K1CDによるレンチウイルスベクターの産生増強効果をさらに増強するか確認した。
【0102】
実施例3の(2)の(iv) 0.3 μg pRC/CMVRelAもしくはpRC/CMV、(v) 0.2 μg pcDNA3HAMAP3K1CDもしくはpcDNA3HAの代わりに、以下のプラスミドDNAを用いた。
(iv) pcDNA3HA 0.3 μgもしくはpcDNA3HAMAP3K1CD 0.3 μg
(v) pSV2 0.2 μgもしくはpSV2tat 0.2 μg
【0103】
図11に、結果を示す。
図11に示すように、浮遊細胞培養系において、TatがMAP3K1CDによるレンチウイルスベクターの産生を増強した。