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  • 特開-窒化物半導体素子 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121300
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】窒化物半導体素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/32 20100101AFI20240830BHJP
【FI】
H01L33/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028325
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 恒輔
(72)【発明者】
【氏名】奥秋 裕介
(72)【発明者】
【氏名】小林 敬嗣
(72)【発明者】
【氏名】李 太起
【テーマコード(参考)】
5F241
【Fターム(参考)】
5F241AA43
5F241CA05
5F241CA40
5F241CA57
5F241CA65
5F241CA74
5F241CA86
5F241CA88
5F241CB11
(57)【要約】
【課題】 Al組成比率が0.8以上と高いAlGaNが窒化物半導体層の最上層に用いられていても、窒化物半導体素子の駆動時にAlGaNの変質が起きにくく長寿命な窒化物半導体素子を得る。
【解決手段】 窒化物半導体素子は、AlGa1-xN(x≧0.8)で形成された窒化物半導体層と、窒化物半導体層上に形成された電極と、窒化物半導体層上の一部に形成された保護層と、電極及び保護層の上の一部に形成された金属配線と、を備え、金属配線の平面視での全ての外形線は、保護層の外形線の内側に位置している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
AlGa1-xN(x≧0.8)で形成された窒化物半導体層と、
前記窒化物半導体層上に形成された電極と、
前記窒化物半導体層上の一部に形成された保護層と、
前記電極及び前記保護層の上の一部に形成された金属配線と、
を備え、
前記金属配線の平面視での全ての外形線は、前記保護層の外形線の内側に位置している
窒化物半導体素子。
【請求項2】
前記窒化物半導体層の前記電極と反対側の面に配置された基板を備え、
前記窒化物半導体層の前記基板から最も離れた最上層が、前記AlGa1-xN(x≧0.8)で形成されている
請求項1に記載の窒化物半導体素子。
【請求項3】
前記保護層は、前記電極を構成する材料と同様の元素を含む材料により形成されている
請求項1又は2に記載の窒化物半導体素子。
【請求項4】
前記保護層の上に形成された絶縁層を備え、
前記絶縁層の上に前記金属配線が形成されている
請求項1又は2に記載の窒化物半導体素子。
【請求項5】
前記保護層は、前記電極及び前記絶縁層と同様の元素を含む材料により形成されている
請求項4に記載の窒化物半導体素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、窒化物半導体素子に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化物半導体素子は発光ダイオードや薄膜トランジスタなどに応用されており、その材料としてはAl、Ga及びNの混晶であるAlGaNが広範に用いられている(特許文献1,2)。AlGaNを用いた窒化物半導体素子は材料となる薄膜母材にAlGaNを用いているが、バンドギャップを大きくするためにAl/(Al+Ga)で示されるIII族組成比率(Al組成比率)を高くしたAlGaNが一般的に用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-117299号広報
【特許文献2】特開2022-103163号広報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、発明者らが鋭意検討を行った結果、Al組成比率の高いAlGaNを用いた窒化物半導体素子に電気を流して使用すると、大気中の水や酸素とAlGaNとが反応して変質し、窒化物半導体素子に電気が流れなくなる問題があることが分かった。この現象は、特にAl組成比率が0.8を越えるAlGaNを窒化物半導体層の最上層として用いた場合に顕著であることが分かった。
【0005】
上述した課題を解決するために、本開示は、Al組成比率が0.8以上と高いAlGaNが窒化物半導体層の最上層に用いられていても、窒化物半導体素子の駆動時にAlGaNの変質が起きにくく長寿命な窒化物半導体素子を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、本開示の一態様に係る窒化物半導体素子は、AlGa1-xN(x≧0.8)で形成された窒化物半導体層と、窒化物半導体層上に形成された電極と、窒化物半導体層上の一部に形成された保護層と、電極及び保護層の上の一部に形成された金属配線と、を備え、金属配線の平面視での全ての外形線は、保護層の外形線の内側に位置している。
【発明の効果】
【0007】
本開示の窒化物半導体素子によれば、Al組成比率が0.8以上と高いAlGaNが窒化物半導体層の最上層に用いられていても、窒化物半導体素子の駆動時にAlGaNの変質が起きにくく長寿命な窒化物半導体素子を得ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示の第一実施形態に係る窒化物半導体素子の一構成例を示す断面図である。
図2A】本開示の第一実施形態に係る窒化物半導体素子の一構成例の第1導電型半導体層上に形成された電極近傍の構成を拡大して示す断面図である。
図2B】本開示の第一実施形態に係る窒化物半導体素子の他の構成例の第1導電型半導体層上に形成された電極近傍の構成を拡大して示す断面図である。
図2C】本開示の第一実施形態に係る窒化物半導体素子の他の構成例の第2導電型半導体層上に形成された電極近傍の構成を拡大して示す断面図である。
図3】本開示の第一実施形態に係る窒化物半導体素子の第1の変形例の構成例を示す断面図である。
図4A】本開示の第一実施形態に係る窒化物半導体素子の第2の変形例の構成例を示す断面図である。
図4B】本開示の第一実施形態に係る窒化物半導体素子の第2の変形例の他の構成例を示す断面図である。
図5】本開示の第一実施形態に係る窒化物半導体素子の第3の変形例の構成例を示す断面図である。
図6】本開示の比較例の窒化物半導体素子の構成例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態を通じて本開示に係る窒化物半導体素子を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明に限定されない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0010】
1.第一実施形態
以下、本開示の第一実施形態に係る窒化物半導体素子について、図1から図6を参照して説明する。なお、本実施形態の窒化物半導体素子は、例えば紫外線発光素子である。
以下、窒化物半導体素子1の構成を説明する。
【0011】
本実施形態の窒化物半導体素子1は、図1に示すように、基板11と、AlGa1-xN(x≧0.8)で形成された窒化物半導体層(例えば後述する第一導電型半導体層121)を含む積層薄膜層12と、電極21及び22と、保護層25と、金属配線23及び24と、を備えている。また、窒化物半導体素子1は、図1に示すように、電極21及び金属配線23と、電極22及び金属配線24とを絶縁する絶縁層26も備えていてもよい。なお、以下の各図には、絶縁層26が設けられた場合の窒化物半導体素子1の構成を記載する。
【0012】
窒化物半導体素子1は、積層薄膜層12として、基板11上に設けられた第1導電型半導体層121と、第1導電型半導体層121の上に設けられた発光層122と、発光層122の上に設けられた第2導電型半導体層123と、を備えている。窒化物半導体素子1は、樹脂等で封止された形態や、サブマウント基板に実装された形態なども含む。なお、以下、第1導電型半導体層121と第2導電型半導体層123とのいずれかを「窒化物半導体層」と記載する。本実施形態の窒化物半導体素子1では、窒化物半導体層のうち第1導電型半導体層121がAlGa1-xN(x≧0.8)で形成され、第1導電型半導体層121上に設けられ、電極21、保護層25及び金属配線23が後述する配置となっている場合について説明する。
以下、窒化物半導体素子1の各層について詳細に説明する。
【0013】
(1.1)窒化物半導体素子の基本構成
<基板>
基板11は、第1主面11Aと、第1主面11Aの反対側に位置する第2主面11Bとを有している。基板を構成する材料は、第1主面11A上に第1導電型半導体層121を配置することが可能であれば特に制限されない。具体的には、基板11を構成する材料として、窒化アルミニウム基板、サファイア基板、GaN基板などが挙げられる。基板11上に結晶性の高い半導体層を配置する観点から、基板11は窒化アルミニウム基板であることが好ましく、単結晶窒化アルミニウム基板であることがより好ましい場合がある。ここで、本実施形態の窒化物半導体素子1の説明において、「Aの上にBを配置する」とは、Aの表面上に直接Bを配置する形態と、Aの表面から別の物質を介して間接的にBを配置する形態の両方を意味する。例えば、基板11の表面(第1主面11A)から別の物質(一例として、窒化アルミニウム(AlN)層)を介して間接的に第1導電型半導体層121が配置されていてもよい。
【0014】
基板11は、第1主面11A上に発光層122を含む積層薄膜12を配置可能であればよく、形状は特に制限されない。窒化物半導体素子1は、基板11の発光層122と反対側の第2主面11Bの方向に光を放射する。
基板11の膜厚は、上層にAlGaNで形成された薄膜を積層させる目的であるならば特に制限されないが、50μm以上1mm以下であることが好ましい。
基板11は、上層の薄膜の支持、及び結晶性の向上、外部への放熱を目的として使用される。そのため、AlGaNを高品質で成長させることが出来、熱伝導率の高い材料である窒化アルミニウム基板を用いることが好ましい。
【0015】
基板11の結晶品質には特に制限はないが、高い発光効率を有する素子薄膜を上層に形成することを目的として貫通転位密度が1×10cm-2以下であることが好ましく、1×10cm-2以下であることがより好ましい。
基板11の成長面は、一般的に用いられる+c面AlNが低コストなため好ましいが、-c面AlNであっても、半極性面基板であっても、非極性面基板であっても良い。分極ドーピングの効果を大きくする観点から、基板11の成長面は、+c面AlNであることが好ましい。
【0016】
基板11の第1主面11A以外の面が外界に露出している場合、基板11がサファイア基板であると、窒化物半導体素子1の発熱により基板11が外界の水等と反応して基板11の表面に水酸化膜が形成される場合がある。また、基板11が窒化アルミニウム基板であると、窒化物半導体素子1の発熱により基板11が外界の酸素と反応して酸化膜が形成される場合がある。これらの膜(水酸化膜又は酸化膜)は、発光スペクトルの中心波長を含む光を減衰させたり、反射させたりして、所望の波長の光の発光効率を低減、すなわち出力を低下させてしまう。これらの膜は、形成時に外界の二酸化炭素若しくは基板11中に不純物として混入している炭素、又は窒化物半導体素子1のパッケージで使用されている樹脂由来の炭素を取り込むことがある。これにより、各膜のバンドギャップエネルギーが発光エネルギーよりも大きい場合でも、各膜において不純物由来の光の吸収が起こり、光の減衰が起こる。また、基板11と屈折率の異なる膜が基板11表面に形成されると、基板11と膜との界面で反射が起こる。特に、例えば窒化アルミニウム製の基板11の表面に、基板11よりも低屈折率の酸化アルミニウム膜が形成されると、比較的強い反射が起こり外界に光が取り出せなくなる。これらを防止する観点から、基板11の表面に保護層を配置しても良い。
【0017】
積層薄膜層12の転位密度低減の観点から、基板11の第1主面11A側の二乗平均平方根(RMS:Root Mean Square)高さ(二乗平均平方根高さRq)は、10μm×10μmの面積に対して10nm未満であることが好ましく、1nm未満であることがより好ましい。
【0018】
<積層薄膜層>
積層薄膜層12は、窒化物半導体層である第1導電型半導体層121及び第2導電型半導体層133と、発光層122とを含み、基板11の第1主面11A上に配置されていれば、その構成は特に制限されない。
積層薄膜層12は、発光効率向上の観点から、発光層122を挟むように第1導電型半導体層121と第2導電型半導体層123とを更に備えることが好ましい。ここで、「第1導電型」「第2導電型」は、互いに異なる導電性を示す半導体であることを意味し、一方がn型導電性の場合、他方はp型導電性となる。一般的には発光層122と基板11との間の第1導電型半導体層121がn型半導体層であるが、本実施形態はこれに制限されない。
また、積層薄膜層12は、一部に発光層122を含んだ凸部形状のメサ構造であってもよい。
【0019】
積層薄膜層12は、例えば、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:有機金属気相成長)法により形成することが可能である。メサ構造を有する積層薄膜層12は、上述したMOCVD法等により積層薄膜層12を構成する薄膜層を形成した後に、所望の領域をエッチングすることで形成することができる。積層薄膜層12にはAlGaNの混晶であるAlGa1-xN(0≦x≦1)で構成されており、AlGaN薄膜積層体の最上層にAl/(Al+Ga)で示されるAl組成比率が0.8以上と高Al組成比率のAlGaNが設けられていても良い。ここで、積層薄膜層12の最上層とは、積層薄膜層12と積層薄膜層12以外(例えば、後述する電極21及び22や保護層25、外界の大気等)とを区分する面の積層薄膜層12側の層を指す。すなわち、本願実施形態で説明する窒化物半導体素子1のメサ凸部においては、メサ最上層の第2導電型半導体層123が「最上層」該当し、メサ凹部においては、最上層の第1導電型半導体層121が「最上層」該当する。窒化物半導体素子1の場合では、第1導電型半導体層121のAl組成比率が0.8以上である場合、本開示に含まれる。
以下、窒化物半導体層12の各層について説明する。
【0020】
(第1導電型半導体層)
第1導電型半導体層121は、Al組成比率が0.8以上のAlGaN(AlGa1-xN(x≧0.8))で形成されている。Al組成比率が0.8以上となることで、窒化物半導体素子1が発光ダイオード(LED)の場合には発光波長が210nm以上280nm以下のUV-C LED(新紫外線発光素子)を作製することが出来る。この波長帯の光を放射するUV-C LEDは、ウイルスや菌の不活化による水、空気、物質表面の除染や殺菌、硝酸塩の検知による水質の検査、クロマトグラフィーにおける有機物の検知・分析用の励起光源として用いることが出来る。
【0021】
第1導電型半導体層121は、本実施形態の窒化物半導体素子1の場合、第1導電型半導体層の一部が除去されることにより形成された第1積層領域121Aと、第1積層領域121A上に位置してメサ構造を構成する第2積層領域121Bとを有している(図1参照)。
【0022】
第1導電型半導体層121を構成する第1導電型半導体がn型半導体である場合、第1導電型半導体として例えばSiが1×1019cm-3の濃度でドープされたAlGaNを用いることができる。また、第1導電型半導体として、極性を有する混晶半導体の混晶組成比率を連続的に変化させる分極ドーピング法によりn型化したAlGaNを用いても良い。
【0023】
第1導電型半導体層121を構成する第1導電型半導体がp型半導体である場合、第1導電型半導体として例えばMgが3×1019cm-3の濃度でドープされたAlGaNを用いることができる。また、第1導電型半導体として、極性を有する混晶半導体の混晶組成比率を連続的に変化させる分極ドーピング法によりp型化したAlGaNを用いても良い。230nm未満のピーク波長を有する光を発光する発光層122の活性層に効率良くキャリアを輸送する観点から、第1導電型半導体としてAl組成比率が0.8以上のAlGaNを用いることが好ましい。
【0024】
本実施形態の窒化物半導体素子1の場合、第1積層領域121Aにおける積層薄膜層12の最上層がAl組成比率0.8以上のAlGaNであれば、本開示に係る窒化物半導体素子1に含まれる。すなわち、第2積層領域121Bの最上層(最も発光層122側の層)がAl組成比率0.8以上のAlGaNでは無い場合でも、第2積層領域121Bの最上層がAl組成比率0.8以上のAlGaNであれば本開示に係る窒化物半導体素子に含まれる。
【0025】
なお、第1導電型半導体層121は、2層以上の層が積層されて形成されていても良く、1層のみで形成されていても良い。つまり、基板11上にAl組成比率0.8以上のAlGaN1層のみが積層されて第1導電型半導体層121が形成されていたとしても、第1積層領域121Aの最上層はAl組成比率0.8以上のAlGaNであり、本開示に係る窒化物半導体素子に含まれる。
【0026】
(発光層)
発光層122は、発光層122に電力が印加された時に発光層122のバンドギャップに応じた光を発する層である。発光層122は、第1導電型半導体層121の第2積層領域121Bの上層に設けられている。本実施形態の窒化物半導体素子1における発光層122は、発光スペクトルのピーク波長が紫外線域であれば特に制限されないが、好ましくはピーク波長が硝酸等を検出する光源として有効な200nm以上280nm以下であり、より好ましくはピーク波長が硝酸等を高精度に検出する光源として有効な波長220nm以上235nm以下であり、さらに好ましくはピーク波長が硝酸等をより高精度に検出する光源として有効な225nm以上235nm以下である。ここで、発光層122で発光される光の発光スペクトルが複数のピークを有する場合、発光強度が最も大きいピークの波長が光の中心波長として定義される。
【0027】
なお、本開示の窒化物半導体素子1は、上述した硝酸等の検出用途には制限されず、例えばウイルス不活化光源として用いられても良い。この場合、窒化物半導体素子1は、動物細胞への影響が少ない波長のウイルス不活化光源として、発光層122が発光する光のピーク波長が例えば220nm以上240nm以下であっても良い。
【0028】
発光層122の具体的構造の一例としては、量子井戸構造が挙げられる。例えば、組成比が異なる(バンドギャップが異なる)AlGaN層を積層した量子井戸構造が採用可能である。より好ましくは組成比が異なる(バンドギャップが異なる)AlGaN層を多層積層した多重量子井戸が採用可能である。より具体的な構造としては、組成がAl0.87Ga0.13Nの井戸層(厚さ1nm)3層と、組成がAl0.97Ga0.03Nの障壁層(厚さ5nm)2層とを交互に積層した3重量子井戸構造が挙げられる。また、多重量子井戸層の量子井戸数は1層であっても(つまり、多重量子井戸ではなく単量子井戸)、2層、4層、5層等の3層以外の多重量子井戸層であっても良い。
【0029】
発光層122を形成する材料としては、AlN、GaN、及びその混晶が挙げられる。発光層122のAlGa1-xNのAl組成比率xは、電極から注入したキャリアを効率よく発光層122に閉じ込めるために、第1導電型半導体層121及び第2導電型半導体層123のAl組成比率より小さいことが好ましい。また、発光層122を形成する材料としては、In又はBといったIII族元素、C、H、F、O、Si、Cd、Zn又はBeなどの不純物が含まれていてもよい。
【0030】
発光層122がn型半導体の場合、上述したAlN、GaN、及びその混晶等に対して例えばSiを1×1019cm-3ドープすることでn型化させることが可能である。
発光層122がp型半導体の場合、上述したAlN、GaN、及びその混晶等に対して例えばMgを3×1019cm-3ドープすることでp型化させることが可能である。
また、発光層122は、不純物がドープされていないアンドープ層でもよい。
【0031】
発光層122を構成する材料中のAl組成比率は、断面構造のエネルギー分散型X線解析(EDX:Energy Dispersive X-ray spectroscopy)により特定することが出来る。Al組成比率は、AlとGaとのモル数の和に対するAlのモル数の比率、すなわちAl/(Al+Ga)と定義でき、具体的にはEDXから分析及び定量されたAl、Gaのモル数の値を用いて定義することができる。
【0032】
(第2導電型半導体層)
第2導電型半導体層123は、多重量子井戸構造である発光層122上に配置される層であれば特に制限されない。つまり、第2導電型半導体層123は第2積層領域121Bに形成されている。第2導電型半導体層123を構成する材料としては、AlN、GaN、InNの単結晶及び混晶が挙げられ、これらの組み合わせ(多層)であっても良い。
【0033】
第2導電型半導体層123を構成する第2導電型半導体がn型半導体である場合、第2導電型半導体として例えばSiが1×1019cm-3の濃度でドープされたAlGaNを用いることができる。また、第2導電型半導体として、極性を有する混晶半導体の混晶組成比率を連続的に変化させる分極ドーピング法によりn型化したAlGaNを用いても良い。
【0034】
第2導電型半導体層123を構成する第2導電型半導体がp型半導体である場合、第2導電型半導体として例えばMgが3×1019cm-3の濃度でドープされたAlGaNを用いることができる。第2導電型半導体がp型半導体である場合、第2導電型半導体層123はAl組成比率が基板11から離れる方向に連続的又は段階的に小さくなるAlGaN傾斜組成を有していても良い。これにより、積層薄膜層12上に設けられる電極22と第2導電型半導体層123との間のコンタクト抵抗を下げることができる。
【0035】
第2導電型半導体層123の厚みは特に制限されないが、高い光出力を実現するという観点から、5nm以上1000nm以下であることが好ましい。第2導電型半導体層123の厚さは薄い方が光の吸収を抑制できるため好ましいが、5nmより薄いと薄膜積層面中の組成ムラの影響が大きくなり、均一な電流の注入が困難となる。第2導電型半導体層123の厚さが1000nmより厚くなると、薄膜形成の時間が長くなるためコストが高くなる。
なお、窒化物半導体層123の最上層がAl組成比率0.8以上のAlGaNであれば、本開示に係る窒化物半導体素子1に含まれる。すなわち、第1積層領域121AがAl組成比率0.8以上のAlGaNでは無い場合でも、本開示に係る窒化物半導体素子に含まれる。
【0036】
<電極>
窒化物半導体素子1に備えられる電極21は、第1導電型半導体層121上に形成された電極であり、電極22は、第2導電型半導体層123上に形成された電極である。電極21及び電極22は、接触する窒化物半導体層(第1導電型半導体層121又は第2導電型半導体層123)とオーミック接続となる材料で形成されることが好ましい。
【0037】
n型の窒化物半導体層と接する電極21及び22のうちの一方を構成する材料としては、Ti、Al、Ni、Au、Cr、V、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、W若しくはその合金、又はITO等が挙げられ、アルミニウムとニッケルとを含む材料がコンタクト抵抗低減の観点からより好ましい。
p型の窒化物半導体層と接する電極21及び22のうちの一方を構成する材料としては、例えばNi、Au、Pt、Ag、Rh、Pd、Pt、Cu及びその合金、又はITO等が挙げられる。p型の窒化物半導体層と接する電極21又は22は、窒化物半導体層とのコンタクト抵抗が小さいことから、Ni、Au若しくはこれらの合金、又はITOで形成されることがより好ましい。
【0038】
電極21,22は接続のために、例えばAu、Al、Cu、Ag、W等の金属層を連続して形成しても良く、導電性の高いAuが用いられることが望ましい場合がある。また、電極21,22は、密着性向上のため、積層薄膜層12との界面にTiをさらに含んでいても良い。
【0039】
本実施形態に係る窒化物半導体素子1において、電極21は第1積層領域121Aにおいて第1導電型半導体層121上に設けられている。窒化物半導体素子1において、電極22は、第2積層領域121Bにおいて第2導電型半導体層123上に設けられている。本開示においては、電極21が第1導電型半導体層121上に設けられ、電極22が第2導電型半導体層123上に設けられているが、電極21のみ又は電極22のみが設けられていても良い。また、電極21,22の双方が設けられている場合、電極21,22は同様の材料で形成されていてもよく、異なる材料で形成されていても良い。
【0040】
電極21,22は、積層薄膜層12上に形成したレジストをリソグラフィー技術を用いてパターニングし、パターニングされたレジスト上に金属材料を蒸着法で蒸着した後レジストを除去するリフトオフ法を用いて形成されて良い。また、電極21,22は、パターニングした金属材料に対してさらに熱処理を行うことで合金化させて形成しても良い。例えば、基板11上に形成した積層薄膜層12のメサ凹部に露出した第1導電型半導体層121上に、蒸着法にてTi、Al、Ni、Auを積層させた後に、窒素雰囲気化で850℃で5分加熱処理を行うことで、電極21を形成することが出来る。
【0041】
電極21,22は、図2Aに示すように、後述する保護層25の外形線に対して覆いかぶさるように配置されていても良い。また、図2Bに示すように、保護層25が電極21,22の外形線に対して覆いかぶさるように配置されていても良い。図2A及び図2Bは、電極21近傍の構成を拡大して示している。
ここで、電極21,22の「外形線」とは、上面視において、電極21又は22が保護層25と積層薄膜層12の薄膜積層方向と垂直な方向で接する界面の位置をいう。また、保護層25の「外形線」も同様に、上面視において、保護層25が電極21又は22と積層薄膜層12の薄膜積層方向と垂直な方向で接する界面の位置をいう。
【0042】
図2A及び図2Bを参照して、「外形線」の具体的な位置を説明する。
図2Aでは、保護層25の外形線L1に対して電極21が覆いかぶさるように配置されている。図2Aに示すように、保護層25が電極21と、積層薄膜層12(第1導電型半導体層121)の薄膜積層方向(図2中の上下方向)と垂直な方向(図2中の左右方向)で接する界面の位置が、保護層25の外形線L1となる。図2Aにおいて、保護層25の電極21側の外形線L1と電極21の外形線L2とが上面視で重複している。また、図2Aには、金属配線の外形線L3及び絶縁層26の外形線L4も示されている。
【0043】
また、図2Bでは、電極21の外形線L2に対して保護層25が覆いかぶさるように配置されている。図2Bに示すように、電極21が、保護層25と積層薄膜層12(第1導電型半導体層121)の薄膜積層方向(図2中の上下方向)と垂直な方向(図2中の左右方向)で接する界面の位置が、電極21の外形線L2となる。
上述する実施形態においては、第1導電型半導体層121としてn-Al0.8Ga0.2Nを用いた窒化物半導体素子1に対して適用することが可能である。
【0044】
<金属配線>
金属配線23は、図示しない外部端子と電極21とを電気的に繋ぐ目的で配置される。また、金属配線24は、図示しない外部端子と電極22とを電気的に繋ぐ目的で配置される。金属配線23,24の材料としては、導電率が高く、酸素や湿気で変質しにくいAu、Ag、Al、Cu、W、Mo、Ni、Pt、Cr等の金属材料を用いることが好ましい。また、金属配線23,24の材料として、ITOやIZOなどの酸化物導電性材料、導電性カーボンペースト材料、錫や鉛などの半田材料を用いることも可能である。
【0045】
窒化物半導体素子1は、PIN発光素子のように、n型窒化物半導体層とp型窒化物半導体層とを有している。このため、n型窒化物半導体とp型窒化物半導体とのそれぞれの材料の電気的接触によりリーク不良を誘発する構造の場合、n型窒化物半導体層と接続された電極上に設けられた金属配線はn型窒化物半導体層上のみに、p型窒化物半導体層と接続された電極上に設けられた金属配線はp型窒化物半導体層上のみに配置されていることが好ましい。
金属配線23,24の形成は、上述した電極21,22の形成方法と同様に、一般的な半導体製造装置を用いて行うことができる。金属配線23,24の形成には、純度の高い金属層を形成できる観点から、蒸着法を採用することが好ましい。
【0046】
金属配線23,24は、電極21,22上に形成したレジストをリソグラフィー技術
用いてパターニングした後、パターニングされたレジスト上に金属材料を蒸着法で蒸着した後レジストを除去するリフトオフ法を用いて形成されて良い。この際、金属配線23,24の平面視での全ての外形線L4が、保護層25の外形線L1の内側に位置するように金属配線23,24が配置される。また、金属配線23,24の平面視での全ての外形線L4が、電極21,22の外形線L2と保護層25の外形線L1との間に位置するように金属配線23,24が配置されることが好ましい。金属配線23,24は、電極21,22、保護層25、絶縁層26の上に配置して良い。金属配線23,24の外形線L3が保護層25の外形線L1よりも外側に配置すると(例えば図2Aにおいて保護層25の外形線L1が金属配線L3の内側にある場合)、金属配線23,24が絶縁層26を介して積層薄膜層12と対向する。このため、窒化物半導体素子1に電流を流す際に積層薄膜層12(例えば絶縁層26を介して金属配線23と対向する第1導電型半導体層121)表面に電荷が溜まり、外気(酸素や水など)と電気化学反応を起こすことで積層薄膜層12の窒化物半導体層(第1導電型半導体層121及び第2導電型半導体層123)表面が変質する。これは、例えばAlGaNで構成された窒化物半導体層表面でAlGaやAlGaOHが生成するためである。窒化物半導体層表面が変質することにより、窒化物半導体素子1の抵抗増大やリーク電流の増大などの不良に繋がる。金属配線23,24の外形線L3が保護層25の外形線L1よりも内側となるように金属配線23,24を配置することで、上述したような窒化物半導体層表面に電荷が溜まることを防ぎ、電気化学反応の進行を妨げてAlGaNの変質を抑制することが可能となる。
【0047】
<保護層>
保護層25は、窒化物半導体素子1に通電を行い使用している途中で、AlGaNを含む積層薄膜層12の窒化物半導体層表面が変質することを抑制する目的で配置する。保護層25は、電極21,22を構成する材料と同様の元素を含む材料により形成されていることが好ましい。また、窒化物半導体素子1が絶縁層26を有する場合、保護層25は、電極21,22及び絶縁層26と同様の元素を含む材料により形成されていることが好ましく、例えば電極21,22に後述する絶縁層26の材料が混合された層であることがより好ましい。保護層25は、具体的にはTi、Al、Ni、Auが合金化した金属材料に絶縁体であるSiNが拡散している構成が挙げられる。この保護層25を積層薄膜層12表面に配置することで、保護層25の上に金属配線23,24が配置されていても、窒化物半導体素子1に通電を行った際にても、積層薄膜層12の窒化物半導体層表面が変質せずに長期間窒化物半導体素子1を使用することが出来る。
【0048】
保護層25は、積層薄膜層12上に形成したレジストをリソグラフィー技術を用いてパターニングし、パターニングされたレジスト上に保護層25を構成する材料を配置した後レジストを除去するリフトオフ法を用いて形成されて良い。この際、保護層25の外形線L1が平面視で絶縁層26の内側に位置するように保護層25が配置されてもよく、金属配線23,24の外形線L3と絶縁層26との間に位置するように保護層25が配置されても良い。これは、リソグラフィーにおけるパターニングの設計を行うことで実現できる。保護層25は、積層薄膜層12上に配置されていても良い。
【0049】
保護層25の材料としては、第1導電型半導体層121表面に電荷を溜めないために、導電性を有していることが好ましい。一方で保護層25は、第2導電型半導体層23から第1導電型半導体層21あるいは保護層25を介して第1導電型半導体層121へ電流が流れる際の第1導電型半導体層21あるいは保護層25の「外形」に当たり、かつ上部に第2導電型半導体層23が無い領域があり(具体的には外形線L3よりも外側)、外気に晒される。つまり、腐食を進行させる水や空気と接触しやすい箇所である。つまり、積層薄膜層121は耐湿性、耐腐食性が高いことも求められる。
この観点から、保護膜25の材料には、例えば導電率が高く、酸素や湿気で変質しにくいAu、Ag、Al、Cu、W、Mo、Ni、Pt、Cr等の金属材料と、SiOやSiN、SiON、Al等の酸化物または窒化物の絶縁材料との混合物を用いることが良い。これらの材料の組み合わせを用いることで、導電性を有しかつ耐湿性の高い保護膜25を形成することが可能となる。
【0050】
保護膜25の形成方法としては、例えば上述した金属材料を蒸着法やスパッタ法を用いて第1導電型半導体層121上に形成した後に、上述した絶縁材料を積層させて、高温熱処理(例えば700℃以上)を行うことで拡散させることで保護膜25とすることが出来る。また、保護膜25は、金属材料の坩堝と絶縁材料の坩堝とから同時に電子ビーム法にて蒸着を行い、混合物とすることで形成することも出来る。
【0051】
他にも、次の方法で形成が出来る。保護層25の形成方法は一例として以下の通りである。レジストを用いてパターニングを行った開口部に、電極21,22の材料、絶縁層26の材料を蒸着法で蒸着し、その後熱処理を行うことで形成を行う。この際、保護層25は電極の材料を用いているために導電性を有している一方で、絶縁層26の材料も含んでいるためにその抵抗値は電極21,22よりも低くなっても良い。保護層25に導電性を持たせることで、電極21,22と保護層25とが電気的に繋がり、さらに保護層25を介して積層薄膜層12に電気を流すことが可能となる。この場合、保護層25を備えることで、保護層25を備えていない場合と比較して窒化物半導体素子1に電気を流すことが出来る導体と積層薄膜層12との接触面積が大きくなり、窒化物半導体素子1の抵抗を低くすることが出来る。保護層25が電極21,22と異なり絶縁層26の材料を含むことにより、積層薄膜層12の窒化物半導体層表面の変質を抑制する効果がある。窒化物半導体層を構成するAlGaNは大気中の水や酸素と反応して変質を起こすが、この際に保護層25に絶縁層26を構成する材料を含んでいると、保護層25内での水や酸素の移動速度が低下する。これは、水や酸素は保護層25中では主に原子間での電子のやり取りを介して移動するが、絶縁層26の材料は導電性が極めて低いために、電子のやり取りを伴う移動の阻害剤となるためである。このため、保護層25を設けることにより、保護層25を設けない場合よりも積層薄膜層12の窒化物半導体層表面の変質を抑制することが出来、さらに保護層25なしで絶縁層26を形成した場合よりも窒化物半導体素子1の抵抗を下げて省エネルギー化することが出来る。保護層25の熱処理には、例えば窒素雰囲気化で850℃で5分間加熱する方法が挙げられる。
【0052】
<絶縁層>
本実施形態の窒化物半導体素子1では、積層薄膜層12と金属配線23,24との間で電気が流れることを抑制する目的で、金属配線23,24と積層薄膜層12との間に絶縁層26が配置されてもよい。絶縁層26の材料としては、例えば、SiOやSiN、SiON、Al等の酸化物または窒化物などが挙げられる。絶縁層26の形成プロセスが簡便であることから、絶縁層26の材料としては、特に、SiOまたはSiNが用いられることが好ましい。また、絶縁層26は、単層でもよいし、複数の材料が積層された多層構造でもよい。
【0053】
絶縁層26を構成する材料の絶縁破壊電圧をEとし、絶縁層26の厚さをdとした際に、この絶縁層26の耐圧はEdで表される。絶縁層26の一方の面に接触する積層薄膜層12と他方の面に接触するチップ上配線である金属配線23,24との電位差がこの耐圧Edより大きい場合、絶縁破壊が生じて積層薄膜層12と金属配線23,24とが電気的に接続される。その場合、積層薄膜層12に想定外の電流経路が形成され、電流の流れに偏りが出来、通電時の局所破壊などの素子不良を誘発するため、耐圧Edを上述した電位差より大きくする必要がある。
積層薄膜層12と金属配線23,24との間に絶縁層26を設けた窒化物半導体素子1は、高出力を実現するために大電流を要する紫外線発光素子や、高温でも安定した特性を実現することが求められる車載用半導体トランジスタ等として用いられる場合に特に大きい効果を奏する。
【0054】
AlGaN層を積層薄膜層12として用いた窒化物半導体素子1では、耐圧Edの値は10Vより大きいことが好ましく、20Vより大きいことがより好ましい。絶縁層26が多層構造である場合は、各層において算出された耐圧Edの和が10Vより大きいことが好ましい。
【0055】
なお、第一実施形態に係る窒化物半導体素子1では、金属配線23,24と積層薄膜層12との間に形成された絶縁層26の耐圧Edが基準となる。このため、絶縁層26のうち、金属配線23,24と積層薄膜層12との間で最も薄い部分の厚さを「絶縁層26の厚さd」として使用し、絶縁層26の絶縁破壊電圧Eとして、絶縁層26の材料に対して当業者が一般的に用いる物性値を使用して、耐圧Edの値を算出する。
【0056】
第一実施形態に係る窒化物半導体素子1は、積層薄膜層12の表面が絶縁層26で覆われていることで、静電気、水、物理的な衝撃などから保護される。
絶縁層26の形成は、一般的な半導体製造装置を用いて行うことができる。半導体製造装置としては、例えば、原料ガスをプラズマ雰囲気下で分解し、積層薄膜層12を構成する半導体薄膜上に絶縁層26を成膜するプラズマ気相成長装置(プラズマCVD:Chemical Vapor Deposition)や、原材料をスパッタリングで成膜するスパッタ装置、熱や電子ビームで原材料を気化し成膜する蒸着装置などが挙げられる。
【0057】
絶縁層26は、積層薄膜層12上の電極21,22を露出させる部分以外の全面に形成されていてもよい。また、積層薄膜層12上の電極21,22を露出させる部分以外の一部に絶縁層26が形成されていない領域を設けて、この領域に金属配線23,24を設けてもよい。
絶縁層26は、金属配線23,24及び保護層25上に形成したレジストをリソグラフィー技術を用いてパターニングし、パターニングされたレジスト上に上述の手法で絶縁層26を構成する材料を配置した後レジストを除去するリフトオフ法を用いて形成されて良い。この際、絶縁層26の外形線L4が電極21,22の外形線L2と金属配線23,24の外形線L3との間に位置するように絶縁層26が配置されても良い。また、絶縁層26のもう一方の外形線L5が保護層25の電極21,22(図2A参照)では無い方に間を空けて位置するように絶縁層26が配置されても良い。これは、リソグラフィーにおけるパターニングの設計を行うことで実現できる。
【0058】
絶縁層26は、積層薄膜層12、電極21,22、保護層25の上に配置して良い。絶縁層26の外形線L4を金属配線23の外形線L3よりも外側に配置すると、絶縁層26で被覆されていない保護層25が大気に露出され、積層薄膜層12の窒化物半導体層を構成するAlGaNの変質が進行しやすくなる。絶縁層26の電極21側の外形線L4を金属配線23,24の外形線L3よりも内側に配置すると、保護層25が絶縁層で隙間無く被覆される。このため、保護層25が大気に露出されることが無く、窒化物半導体層を構成するAlGaNの変質を抑制することが出来る。
【0059】
<電極、金属配線、保護層の外形線の関係に関して>
本実施形態に係る窒化物半導体素子1では、AlGa1-xN(x≧0.8)で形成された積層薄膜層12の上層に電極21,22が配置されて、電極21,22の外形線L2に沿う形で電極21,22の外側に保護層25が配置されて、電極21,22の上に金属配線23,24がそれぞれ配置されている。この構造において、金属配線23,24の平面視での全ての外形線L3は、保護層25の外形線L1の内側に位置している。
【0060】
<AlGa1-xN(x≧0.8)に関して>
上述した本実施形態に係る窒化物半導体素子1の電極21,22、金属配線23,24及び保護層25の配置は、AlGa1-xN(x≧0.8)で形成された窒化物半導体層を含む積層薄膜層12上に設けられる電極、金属配線、保護層に対して適用される。AlGa1-xN(x≧0.8)はn型半導体でも、p型半導体でも良い。これは、n-AlGa1-xN(x≧0.8)が電子を運搬する材料であるために、酸化還元反応においては酸化されやすい、つまり大気中の酸素や水と反応しやすく、本実施形態で説明した電極21,22、金属配線23,24及び保護層25の配置によるAlGaNの変質抑制の効果が大きいためである。
ここで、発明者らが鋭意検討を行った結果、AlGa1-xNのxの値が0.8以上であると、本実施形態で説明した電極21,22、金属配線23,24及び保護層25の配置によるAlGaNの変質抑制効果が極めて大きいことを見出した。これは、xの値が高いとAlGa1-xN材料のAl組成比率(Al/(Al+Ga))が高くなり、Gaに対してより反応性が高く酸化・変質しやすいAlの割合が高くなり、AlGaNの変質抑制効果が生じやすくなるためである。
なお、上述する実施形態では、AlGa1-xN(x≧0.8)で形成された第1導電型半導体層121A上の保護膜25、金属配線23、電極21の例で外形線の位置関係を説明したが、当該構成に限られない。例えば図2Cに示すように、第2導電型半導体123がAlGa1-xN(x≧0.8)である場合には、上述する実施形態と同様に、第2導電型半導体123上の電極22に保護膜25を配置し、配線金属24の配置を、上述した実施形態と同様の配置とすることが出来る。この場合、第1導電型半導体層121AがAlGa1-xN(x<0.8)で形成されているときには、電極21と金属配線23とが積層配置されていれば良く、上述する実施形態で説明した保護膜25、金属配線23、電極21の配置となっていなくても良い。
【0061】
<測定方法>
(電極、金属配線、絶縁層、保護層の配置の確認方法)
本実施形態に係る窒化物半導体素子1の電極21,22、金属配線23,24、保護層25及び絶縁層26の配置は、基板11の断面を走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)により観察し、SEM測長機能を使用することで測定できる。測定方法としては、先ず、SEMを用いて窒化物半導体素子1の基板11の第1主面11Aに対して垂直な断面を観察する。具体的には、例えば、窒化物半導体素子1の基板11の第1主面11Aに対して垂直な断面を示すSEM画像内の、基板11の第1主面11Aに対して平行な方向において5μm以上の範囲を観察幅とする。この観察幅の範囲(観察領域)において、組成の異なる二層の界面にはコントラストが観察される。このため、このコントラストを目印として電極21,22の外形線L2、金属配線23,24の外形線L3、保護層25の外形線L1及び絶縁層26の外形線の外形線L4又はL5を観察する。この観察領域内に含まれる各層の配置関係を、上述した5μm以上の観察幅から任意に抽出した5箇所から算出することで、各層の配置関係を得る。
【0062】
(組成測定)
本実施形態の電極21,22、金属配線23,24、保護層25及び絶縁層26の材料組成の測定法として、エネルギー分散型X線分光法(EDX)が挙げられる。各層を構成する材料の組成は、上述した各層の配置の確認方法で観察する断面において、点分析が可能なEDXで同定する。
【0063】
(2)変形例
(2.1)第1の変形例
以下、本実施形態に係る窒化物半導体素子1の第1の変形例である窒化物半導体素子1Aについて説明する。
窒化物半導体素子1Aは、例えば図3に示すように、発光層122と、第1導電型半導体層121及び第2導電型半導体層123の少なくとも一方との間に、電子又は正孔をブロックするブロック層124が備えられている。すなわち、窒化物半導体素子1Aの積層薄膜層12Aが、第1導電型半導体層121、発光層122及び第2導電型半導体層123と、ブロック層124とが備えられている。なお、図3では、発光層122と第2導電型半導体層123との間にブロック層124として電子ブロック層が設けられた窒化物半導体素子1Aを示している。
【0064】
電子ブロック層であるブロック層124は、第1導電型半導体層121側から流入されて発光層122の活性層に注入されなかった電子を反射して電子を活性層に注入することができる。発光層122の活性層に注入されなかった電子は、例えば、第2導電型半導体層123の正孔濃度が低い場合に、活性層に注入されずに第2導電型半導体層123側に流れてしまう電子である。電子が第2導電型半導体層123側に流れると、発光層122の活性層への電子の注入効率が低下するので、発光効率を十分に向上させることが困難になる。ブロック層124を設けることにより、活性層への電子の注入効率が向上し、発光効率の向上を図ることができる。
【0065】
(2.2)第2の変形例
以下、本実施形態に係る窒化物半導体素子1の第2の変形例である窒化物半導体素子1Bについて説明する。
窒化物半導体素子1Bは、例えば図4Aに示すように、第2導電型半導体層123の電極22側(第2導電型半導体層123と電極22との間)に、電極22との接触抵抗を低減する観点から、不純物が多量にドーピングされたコンタクト層125を有している。すなわち、窒化物半導体素子1Bの積層薄膜層12Bは、第1導電型半導体層121、発光層122及び第2導電型半導体層123と、コンタクト層125とを備えている。
【0066】
なお、図4Bに示すように、例えば発光層122と第2導電型半導体層123との間には、さらに第1の変形例で説明したブロック層124を備えていても良い。図4Bでは、第1導電型半導体層121、発光層122及び第2導電型半導体層123と、ブロック層124及びコンタクト層125とを有する積層薄膜層12Cが備えられた窒化物半導体素子1Cを示している。
【0067】
(2.3)第3の変形例
以下、本実施形態に係る窒化物半導体素子1の第3の変形例である窒化物半導体素子1Dについて説明する。
窒化物半導体素子1Dは、例えば図5に示すように、積層薄膜層12の結晶性向上の観点から、積層薄膜層12の基板11と接する側の面にバッファ層13を更に備えている。
バッファ層13は、基板11との間の格子定数差及び熱膨張係数差が小さく欠陥の少ない積層薄膜層12(第1導電型半導体層121)をバッファ層13上に形成させることができる。また、バッファ層13は、圧縮応力下で第1導電型半導体層121を成長させることができ、第1導電型半導体層121にクラックの発生を抑制することができる。
【0068】
一例として、バッファ層13は、基板11の全面に形成されている。バッファ層13は、例えばAlNによって形成されている。
バッファ層13は、数μm(例えば1.6μm)の厚さを有していてもよいが、この値には限らない。具体的には、バッファ層13の膜厚は、10nmより厚く10μmより薄いことが好ましい。バッファ層13の膜厚が10nmより厚いことで、結晶性の高いAlNを作製することができ、バッファ層13の膜厚が10μmより薄いことでウェハ全面においてクラックの無い結晶成長が可能である。バッファ層13は、より好ましくは50nmより厚く、5μmより薄い膜厚を有しているとよい。バッファ層13の膜厚が50nmより厚いことで結晶性の高いAlNを再現良く作製することができ、バッファ層13の膜厚が5μmより薄いことでクラック発生確率の低い結晶成長が可能となる。
【0069】
基板11の形成材料としてAlNを用いた場合、バッファ層13と基板11との間の差異が同一材料のため、バッファ層13と基板11との境界が不明確となる。本実施形態では、基板11がAlNで形成されている場合には、基板上にバッファ層13が積層されていなくても、窒化物半導体素子1はバッファ層13を有していると見做すことにする。
【0070】
バッファ層13は、第1導電型半導体層121よりも薄く形成されていることが好ましいが、これに限らない。第1導電型半導体層121がバッファ層13よりも厚い場合、クラックを抑制する範囲内で第1導電型半導体層121を出来る限り厚膜化することができる。このため、第1導電型半導体層121の薄膜面内方向の抵抗が低減され、低電圧駆動の窒化物半導体素子を実現することができる。窒化物半導体素子1の低電圧駆動が実現すると、発熱による高電流密度駆動下での破壊をより抑制することが可能となる。バッファ層13を設けることにより、バッファ層13との間の格子定数差及び熱膨張係数差が小さく、欠陥の少ない第1導電型半導体層121をバッファ層13上に成長させることができる。
【0071】
さらに、バッファ層13は、圧縮応力下で第1導電型半導体層121を成長させることができ、第1導電型半導体層121にクラックの発生を抑制することができる。基板11がGaN、AlN及びAlGaN等の窒化物半導体で形成されている場合、上述した理由のため欠陥の少ない窒化物半導体層を基板11上に成長させることができる。このため、基板11がGaN、AlN及びAlGaN等の窒化物半導体で形成されている場合、バッファ層13が設けられていなくてもよい。また、その他の材料により形成された基板11上においても、高品質のAlGaNを直接基板11上に形成することができればバッファ層13が設けられていなくても良い。
バッファ層13には、炭素やケイ素、鉄、マグネシウム等の不純物が混入されていてもよい。
【実施例0072】
<実施例1>
AlN単結晶基板上に、有機金属気相成長(MOCVD)装置を用いて窒化物半導体層を以下手順で形成し、波長230nmの光を発する窒化物半導体素子を得た。
基板上に、バッファ層となるAlN層を500nmと、第1導電型半導体層となるSiをドーパント不純物として用いたn型AlGaN層(Al組成比率:0.87)を350nmとを形成した。次に、発光層となる5回の繰り返し周期をもつ量子井戸層AlGa1-xNとバリア層AlGa1-yNとを形成した。このとき、量子井戸層の厚さは1nm、Al組成比率は0.82とし、バリア層の厚さは6nm、Al組成比率は0.92とした。
【0073】
続いて、繰り返し周期をもつ量子井戸層上に電子ブロック層を形成した。電子ブロック層は、ドーパントを含まないAlGaN層とした。電子ブロック層は、Al組成比率が0.95で、10nmの厚さで形成した。
続いて、電子ブロック層上に第2導電型半導体層を形成した。第2導電型半導体層は、基板から遠ざかる方向にAl組成比率が分布をもち、Al組成比率が0.85から0.25まで変化する30nmの厚みを有するAlGaN層とした。
続いて、第2導電型半導体層上に、pコンタクト層となるp型の導電性を有する窒化物半導体膜を形成した。pコンタクト層は、10nmの厚さを有し、GaN層(p-GaN、Al組成比率:0)とした。
【0074】
このようにして形成した積層薄膜層に対して塩素ガスを用いたドライエッチングを行うことにより、n型AlGaN層(Al組成比率:0.87)表面を露出させ、第1導電型半導体層を形成した。
続いて、露出させたn型AlGaN層(Al組成比率:0.87)に対して、保護層材料としてTi、Al、Ni、Auをこの順に電子ビーム蒸着法にて蒸着して、さらにスパッタ法にてSiNを積層させた。その後900℃の窒素中で加熱することにより、保護層を形成した。
【0075】
次に、電極材料としてTi、Al、Ni、Auをこの順に電子ビーム蒸着法にて蒸着し、その後900℃の窒素中で加熱することで電極を形成した。このとき、電極は、図2Aに示すように、後述する保護層25の外形線に対して覆いかぶさるように形成した。
次に、絶縁層としてSiNをスパッタ法にて外形線L4が図2Aに示す位置となるように形成した。次に、金属配線としてTiとAuの金属積層膜を図2Aに示す外形線L3の位置となるように電子ビーム蒸着法にて形成した。これにより、電極の外形線L2、金属配線の外形線L3及び保護層の外形線L1が窒化物半導体素子中央側から外側に向けてこの順で配置された、波長230nmの光を発する窒化物半導体素子を得た。
【0076】
実施例1の窒化物半導体素子を、環境温度55℃、湿度85%の高温高湿環境下において、電流20mAとなるように駆動させた。この窒化物半導体素子では、通電開始から500時間まで駆動電圧の変動が見られなかった。また、通電開始から500時間経過後に窒化物半導体素子を確認したところ、第1導電型半導体層のAlGaN表面の変質は観察されなかった。
つまり、窒化物半導体層のAl組成比率が0.8以上であっても、実施例1の各外形線の位置関係とすることで通電開始後の窒化物半導体層のAlGaN表面の変質を抑制して窒化物半導体素子の抵抗増大やリーク電流の増大などの不良を抑制することができた。
【0077】
<比較例1>
実施例1と同様の方法で、基板、窒化物半導体層を含む積層薄膜、電極、保護層、金属配線、絶縁層を備えるピーク波長230nmの窒化物半導体素子を作製した。この際、図6に示すように、電極の外形線L2、保護層の外形線L1及び金属配線の外形線L3が窒化物半導体素子中央側から外側に向けてこの順で配置されるように電極、保護層及び金属配線を形成した。なお、図6では、第1導電型半導体層1121、電極1021、金属配線1023、保護層1025、絶縁層1026を示している。
【0078】
比較例1の窒化物半導体素子を、環境温度55℃、湿度85%の高温高湿環境下において、電流20mAとなるように駆動させた。この窒化物半導体素子では、駆動電圧が、通電開始から119時間後に10.7Vから11.7Vへ上昇し、199時間後に13.5Vに上昇し、344時間後に18Vへ上昇した。
通電開始から344時間経過後に窒化物半導体素子を光学顕微鏡にて確認したところ、保護層の外形線L1と金属配線の外形線L3との間の窒化物半導体層のAlGaNが変質しており、また、このAlGaNの変質が電極下まで延伸して電極下のAlGaNが変質していた。このようなAlGaNの変質により、窒化物半導体素子の駆動電圧が上昇することが分かった。
【0079】
以上、本開示を実施の形態を用いて説明したが、本開示の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更又は改良を加えた形態も本開示の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0080】
1,1A,1B,1C,1D 窒化物半導体素子
11 基板
11A 第1主面
11B 第2主面
12,12A,12B,12C 積層薄膜層
121 第1導電型半導体層
122 発光層
123 第2導電型半導体層
124 ブロック層
125 コンタクト層
13 バッファ層
21,22 電極
23,24 金属配線
25 保護層
26 絶縁層
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4A
図4B
図5
図6