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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121304
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】ナノタグ検知器
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/65 20060101AFI20240830BHJP
【FI】
G01N21/65
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028334
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】523069795
【氏名又は名称】アーカイラス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】505032148
【氏名又は名称】株式会社ラムダビジョン
(71)【出願人】
【識別番号】300076068
【氏名又は名称】福岡 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100098969
【弁理士】
【氏名又は名称】矢野 正行
(72)【発明者】
【氏名】福岡 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】柴田 卓哉
(72)【発明者】
【氏名】清水 健太
(72)【発明者】
【氏名】清水 健彦
(72)【発明者】
【氏名】安永 峻也
(72)【発明者】
【氏名】山口 明啓
【テーマコード(参考)】
2G043
【Fターム(参考)】
2G043AA01
2G043EA03
2G043FA06
2G043HA09
2G043JA01
2G043KA01
2G043KA05
2G043KA09
2G043LA01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】貴金属ナノ粒子のプラズモンを利用したナノタグを簡便に検知する小型で安価なナノタグ検知器が必要である。
【解決手段】スマートフォンに接続した光学系とカメラを用いて、ナノタグ等からの表面増強ラマン散乱光を光学系の回折格子によって100cm-1程度の低分解能で撮像し、ひとつ以上のピークに対応する特定波長の光に対応する像の強度を数値化してスペクトル分布を得て、既知の表面増強ラマン散乱スペクトルと比較して、対応するナノタグの有無の検出およびナノタグの種類の識別を行う。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物にレーザー光を照射する光源と、前記測定対象物によるラマン散乱光を分光する光学系と、前記ラマン散乱光のスペクトル分布を測定する検出器とを含むナノタグ検知器において、
前記測定対象物が前記レーザー光によって表面増強ラマン散乱を発するナノタグ等のナノ構造体であり、
前記光学系が、レーザー、光学レンズ、光学フィルター、スリット、透過型あるいは反射型回折格子を有する小型分光ユニットであり、
前記検出器が、スマートフォンにて操作可能なカメラであり、
前記回折格子と検出器の距離が5cm以下であり、
前記検出器においてスペクトル画像を撮像することにより、ひとつ以上のピークに対応する特定波長の光に対応する像の強度を数値化してスペクトル分布とし、
前記撮像に要する時間が0.1秒以上180秒以下であり、
スペクトル分布における前記ピークの波数分解能が50cm-1以上150cm-1以下であり、
前記ピークを既知の表面増強ラマン散乱スペクトルと比較して、対応するナノタグの有無の検出及び/又はナノタグの種類の識別を行うことを特徴とするナノタグ検知器。
【請求項2】
前記カメラが、スマートフォンに内蔵されている、又は無線もしくは有線でスマートフォンに外付け接続されている、請求項1に記載のナノタグ検知器。
【請求項3】
前記回折格子と検出器の距離が3cm以下である、請求項1に記載のナノタグ検知器。
【請求項4】
前記撮像に要する時間が1秒以上10秒以下である、請求項1に記載のナノタグ検知器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貴金属ナノ粒子のプラズモンを利用したナノタグを簡便かつ安価に検知する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
光の波長よりも小さな貴金属ナノ粒子には、粒子の形状、凝集状態、周辺の誘電率等に依存して光と強く相互作用する現象が知られている。大英博物館に所蔵のLycurgusコップの色調は、金ナノ粒子および銀ナノ粒子の局在プラズモン共鳴によるものである。
【0003】
特許文献1には、この局在プラズモン共鳴を利用したナノタグの例が記載されている。特許文献1によれば、貴金属ナノ粒子をナノタグとして利用し、それが発現する近赤外領域の表面増強ラマン散乱スペクトルを、ラマン分光器を用いて検知する。 また特許文献2には該ナノタグから発現する表面増強ラマン散乱スペクトルのうち注目するラマン光をバンドパスフィルターで検出する小型検出器の概念が開示されている。
【0004】
非特許文献1にはスマートフォンに取り付けるラマン分光器の例が記載されている。非特許文献1の図1によれば、スマートフォンと同じ大きさの筐体に、レーザー、レンズ、光学フィルター、フォーカスミラーやコリメーターなどの光学ミラー群、回折格子、CCD検出器からなる光学系を内蔵したラマン分光器を組み込み、組み込んだ筐体をスマートフォンに接続し、分光器の制御とラマン分光スペクトルの表示と試料の同定をスマートフォンで行う機構が開示されている。
【0005】
非特許文献2にはスマートフォンのカメラを検出器とするラマン分光器の例が記載されている。非特許文献2の図2および図3によれば、外付けのレーザー、レンズ、スリット、透過型の回折格子をスマートフォン前に配置し、分光されたスペクトルをスマートフォンのカメラで約3分間撮像させることによりラマン分光を行う長さ約15cmの機構が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2020/171010「数値情報の表現方法」
【特許文献2】特開2017-156086「ナノタグ検知器」
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Fanyu Zeng, Taotao Mou, Chengchen Zhang, Xiaoqing Huang, Bing Wang, Xing Ma, Jinhong Guo, Paper-based SERS analysis with smartphones as Raman spectral analyzers, Analyst, 144(1), 137-142(2018).
【非特許文献2】Dinesh Dhankhar, Anushka Nagpal, and Peter M. Rentzepis, Cell-phone camera Raman spectrometer, Review of Scientific Instruments 92, 054101(2021).
【非特許文献3】Gaurav Pal Singh and Neha Sardana, Smartphone-based Surface Plasmon Resonance Sensors: a Review, Plasmonics (2022).https://doi.org/10.1007/s11468-022-01672-1.
【非特許文献4】Iftak Hussain and Audrey K. Bowden, Smartphone-based optical spectroscopic platforms for biomedical applications: A review, Biomed. Opt. Express, 12(4), 1974-1998(2021).
【非特許文献5】R. F. Wolffenbuttel, State-of-the-Art in Integrated Optical Microspectrometers, IEEE Trans. Instrum. Meas., 53(1), 197-202 (2004).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
貴金属ナノ粒子のプラズモンを利用したナノタグを簡便かつ迅速に検知する技術を実現させるためには、小型で安価なナノタグ検知器が必要である。近年、スマートフォンを利用した分光器の小型化簡易化は非特許文献3および4に示すように活発であり、スマートフォンで写真を撮るだけでラマンスペクトルが得られるラマン分光器を実現できればナノタグ検知器として便利である。しかしスマートフォンのように小型な装置で分光しようとすると、分光を行う回折格子と検出を行うCCDあるいはカメラとの距離である光路長Lが短くなる。光路長Lとピークの幅△λの関係は非特許文献5に示されている。波長λ、格子定数aのときの光学分解能R=λ/△λは次の式1にしたがって低下する。
R=(λL)0.5/a (式1)
Rが低下するとピークの幅△λ=λ/Rが大きくなり、近接するラマンピークの分離が困難になる。したがって、ラマン分光器を小型化するには複数の光学ミラーを設けて反射を繰り返させることにより光路長を長くする工夫が必要で、部品点数の少ない安価なラマン分光器の実現は難しい。事実、非特許文献1に例示された分光器は反射型コリメータ、反射型回折格子、フォーカシングミラーを精密に配置し複数回の反射を行う複雑な機構であり高価である。
【0009】
また非特許文献2に例示された分光器では、レンズ口径2.5mmのカメラの直前に透過型回折格子を置く配置でスペクトル分布を撮像することにより、光路長が約1cm未満でもR =2000を達成している。大型のラマン分光器よりも幅の狭い150μmのスリットを用いて約50cm-1の波数分解能を得たと主張する。しかし分解能を上げるためにスリット幅を狭くするとカメラに届く光量が減り、ラマン光の検出に3分間の撮像時間を要している。また、集光レンズを加えたり収差を抑えるなどの必要性のために光学系は約15cmの長さとなり、携帯性に欠け持ち運びに適さない。
【0010】
このようにラマン散乱スペクトルを測定するにはじゅうぶんに長い光路長や測定時間が必要であり、スマートフォンで写真を撮るだけでラマンスペクトルが得られるラマン分光器はまだ実現されていない。スマートフォンの携帯性を利用した小型で迅速に検出できる安価なナノタグ検知器はまだ実現されていない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
測定対象物にレーザー光を照射する光源と、前記測定対象物によるラマン散乱光を分光する光学系と、前記ラマン散乱光のスペクトル分布を測定する検出器とを含むナノタグ検知器において、
前記測定対象物が前記レーザー光によって表面増強ラマン散乱を発するナノタグ等のナノ構造体であり、
前記光学系が、レーザー、光学レンズ、光学フィルター、スリット、透過型あるいは反射型回折格子を有する小型分光ユニットであり、
前記検出器が、スマートフォンに内蔵されたカメラ、又は無線もしくは有線でスマートフォンに接続した外付けカメラであり、
前記回折格子と検出器の距離が5cmを越えておらず、より好ましくは3cmを越えておらず、
前記検出器においてスペクトル画像を撮像することにより、ひとつ以上のピークに対応する特定波長の光に対応する像の強度を数値化してスペクトル分布とし、
スペクトル分布における前記ピークの波数分解能が50cm-1以上150cm-1以下であり、
前記撮像に要する時間が0.1秒以上180秒以下であり、
前記ピークを既知の表面増強ラマン散乱スペクトルと比較して、対応するナノタグの有無の検出およびナノタグの種類の識別を行う。
【0012】
既知の表面増強ラマン散乱光に対応するナノタグの有無の検出およびナノタグの種類の識別を行う目的であれば、必ずしも光路長が長く分解能の優れたラマン分光器である必要はない。また表面増強ラマン散乱の強度は通常のラマン散乱強度よりもはるかに強いので、短時間で検出が可能である。発明者は表面増強ラマン散乱についての長年の研究実績に基づいてこの解決法を発案し、実際に小型分光ユニットを試作してスマートフォンiPhone(登録商標)13proに取付け、スマートフォンのカメラでナノタグからの表面増強ラマン散乱スペクトルを1秒で撮像することに成功し、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0013】
高価で大きなラマン分光装置を必要とせずに、スマートフォンの携帯性を損なうことなく、スマートフォンで写真を撮るだけで、貴金属ナノ粒子のプラズモンを利用したナノタグを簡便に検知する小型で安価で簡便迅速なナノタグ検知器を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、ナノタグ検知器の光学系について反射型回折格子を用いた一例を示す模式図である。
【0015】
図2図2は、ナノタグ検知器の光学系について透過型回折格子を用いた一例を示す模式図である。
【0016】
図3図3は、ナノタグ検知器の光学系について反射型回折格子を用いた他の一例を示す模式図である。
【0017】
図4図4は、ナノタグ検知器の光学系について透過型回折格子を用いた他の一例を示す模式図である。
【0018】
図5図5は、532nmのレーザーを備えたナノタグ検知器で実測したダイヤモンドのsp3のラマンスペクトルを示す図である。
【0019】
図6図6は、532nmのレーザーを備えたラムダビジョン製顕微ラマン分光器microRAM300/532で測定したアデニン粉末のラマンスペクトル(破線)と532nmのレーザーを備えたナノタグ検知器で実測したアデニン粉末からのスペクトル(実線)を併記した図である。
【0020】
図7図7は、532nmのレーザーを備えたラムダビジョン製顕微ラマン分光器microRAM300/532で測定した4,4’ービピリジン入りナノタグのラマンスペクトル(破線)と532nmのレーザーを備えたナノタグ検知器で実測した該ナノタグからのスペクトル(実線)を併記した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明におけるレーザー光によって表面増強ラマン散乱を発するナノタグ等のナノ構造体とは、例えば、特許文献1に開示された局在プラズモン共鳴を利用したナノタグである。該ナノタグでは貴金属ナノ粒子からなるナノ構造体にラマン活性な分子があらかじめ添加されており、ラマン活性な分子特有の、それゆえに既知の表面増強ラマン散乱光を発する。ナノ構造体を構成する貴金属としては、レーザーの発振波長が532nmのときには銀を、785nmのときには金または銀を用いることができる。特許文献1に開示されたナノ構造体に限定されるものではなく、表面増強ラマン散乱を発するナノ構造体であればよい。
【0022】
本発明におけるレーザー、光学レンズ、光学フィルター、スリット、透過型あるいは反射型回折格子からなる小型分光ユニットとは、図1図2図3図4の模式図が示す光学系が代表的である。本発明におけるレーザーとは、前述のナノタグの局在プラズモン共鳴を励起する波長のレーザーであって、好ましくは488nm、532nm、633nm、785nmのいずれか、またはその近傍の波長に発振波長を有することが好ましい。またナノタグを構成する貴金属が銀のときには発振波長が488nm、532nm、633nm、785nmなどのレーザーを用いることができる。ナノタグを構成する貴金属が金のときには発振波長が633nm、785nmなどのレーザーを用いることができる。スリット幅は特に限定されないが、撮像の時間と分解能のバランスを見て選ぶことができる。透過型あるいは反射型回折格子については特に限定されないが、小型にするために検出器との距離を短くする光学配置が望ましく、回折格子と検出器の距離が5cmを越えないことが望ましい。より好ましくは3cmを越えないことが望ましい。小型分光ユニットにはミラーを含んでもよいが、その数は2枚以下、より好ましくは1枚以下であることが望ましい。
【0023】
本発明における検出器としては、スマートフォンに内蔵されたカメラ、あるいは無線あるいは有線でスマートフォンに接続した外付けカメラを用いることができる。スマートフォンiPhone(登録商標)13pro背面の外向けカメラは可視領域に感度を持つので、例えば532nmのレーザーで励起する表面増強ラマン散乱光の撮像に好ましい。またiPhone(登録商標)13proの内向きのフェイスカメラでは近赤外領域にも感度を持つので、例えば785nmのレーザーで励起する表面増強ラマン散乱光の撮像に好ましい。
【0024】
本発明においては、低分解能で分光したスペクトル分布をカメラ画像として撮像する。撮像に要する時間は0.1秒以上180秒以下が好ましいが、1秒以上10秒以下がスマートフォンで写真を撮るように使えるのでより好ましい。
【0025】
本発明の実施においてはラマン活性な分子の種類は決まっているのでナノタグの表面増強ラマン散乱は既知である。本発明における、ひとつ以上のピークに対応する特定波長の光とは、ナノタグの種別つまり添加されたラマン活性な分子の種類に応じて特定的に決まる表面増強ラマン散乱光である。取得されたカメラ画像からその光に対応する像の強度を既知の手法により数値化して、ひとつ以上のピークに対応する特定波長を決めることができる。
【0026】
本発明での既知の表面増強ラマン散乱スペクトルとは、4,4‘-ビピリジンを含むナノタグの例で説明すれば、図7の破線であり、特定波長には1040、1310、1620 cm-1などのピークが該当する。もちろんこの事例に限定されるものではない。ナノタグの発する表面増強ラマン散乱スペクトルは、ナノタグ製造時にあらかじめ決まるので、用いる光源の波長に応じて出現するスペクトルに応じて、ひとつまたはそれ以上の特定波長を選べばよい。
【0027】
図7で明らかように、1310、1620 cm-1近傍のピークは半値幅が大きく、波数分解能が約100cm-1であってもピークとして認識が可能である。このようにして、分光が低解像であっても既知の表面増強ラマン散乱光に対応するナノタグの有無の検出およびナノタグの種類の識別はじゅうぶん行うことができる。
【実施例0028】
図1図2図3図4にこの発明の具体的な光学系の例を示す。
図1は、ナノタグ検知器の光学系について反射型回折格子を用いた一例を示す模式図であり、(i)は測定対象物にレーザーを照射する光源、(ii)はレーザー光を絞るレンズ、(iii)は測定対象物であるナノタグである。(iv)(v)(vii)(ix)はラマン散乱光のレンズであるが必ずしも無くても良い。(vi)はスリット、(viii)は反射型回折格子、(x)はカメラである。
図2は、ナノタグ検知器の光学系について透過型回折格子を用いた一例を示す模式図であり、(i)は測定対象物にレーザーを照射する光源、(ii)はレーザー光を絞るレンズ、(iii)は測定対象物であるナノタグである。(iv)(v)(vii)はラマン散乱光のレンズであるが必ずしも無くても良い。(vi)はスリット、(viii)は透過型回折格子、(ix)はレンズ、(x)はカメラである。
図3は、ナノタグ検知器の光学系ノタグ検知器の光学系について反射型回折格子を用いた他の一例を示す模式図であり、(i)は測定対象物にレーザーを照射する光源、(ii)はレーザー光を絞るレンズ、(iii)は測定対象物であるナノタグである。(iv)(v)(vii)はラマン散乱光のレンズであるが必ずしも無くても良い。(vi)はスリット、(viii)は反射型回折格子、(ix)はミラー、(x)はレンズ、(xi)はカメラである。
図4は、ナノタグ検知器の光学系ノタグ検知器の光学系について透過型回折格子を用いた他の一例を示す模式図であり、(i)は測定対象物にレーザーを照射する光源、(ii)はレーザー光を絞るレンズ、(iii)(vi)はフィルター、(iv)はビームスプリッターあるはフィルター、(vii)は測定対象物であるナノタグである。(v)(vi)(ix)はレンズ、(viii)はスリット、(x)は透過型回折格子、(xi)はカメラである。
【0029】
[実施例1]
図1の光学系に基づいて実際に小型分光ユニットを試作してスマートフォンiPhone(登録商標)13proに取付けた。532nmのレーザーをダイヤモンドに照射し、スマートフォン背面の外向けカメラを用いてダイヤモンドからのラマン散乱スペクトルを1秒で撮像し、像の強度を数値化してダイヤモンドのsp3ピークに対応するピークを示すスペクトル(図5の実線)現れた。一方ダイヤモンドの無いときのバックグラウンド(図5の破線)には該当するピークが現れなかった。本発明による低解像のカメラ撮像でもラマン散乱ピークが検知できる可能性が示された。
【0030】
[実施例2]
実施例1の光学系を取付けたスマートフォンiPhone(登録商標)13proを用いた。アデニン粉末に532nmのレーザーを1秒間照射し、スマートフォン背面の外向けカメラを用いてラマン散乱スペクトルを1秒で撮像し、カメラ画像を数値化した。820、1375、1520cm-1の近傍に幅広いピークが現れた(図6の実線)。対照実験として、ラムダビジョン製microRAM300/532を用いて532nmのレーザーをアデニン粉末に1秒間照射し、アデニンの明瞭なラマン散乱スペクトルを得た。対照実験では755、1270、1350、1500cm-1の近傍にピークが現れた(図6の破線)。本発明による低解像のカメラ撮像でもアデニンのラマン散乱と思われる1375、1520cm-1の近傍のピークが検知できたが、物質を同定する目的には信頼性が乏しいように思われた。
【0031】
[実施例3]
実施例1の光学系を取付けたスマートフォンiPhone(登録商標)13proを用いた。4,4’ービピリジンを添加した銀ナノ粒子から調製したナノタグに532nmのレーザーを1秒間照射し、スマートフォン背面の外向けカメラを用いてラマン散乱スペクトルを1秒で撮像し、カメラ画像を数値化した。1325、1650cm-1の近傍に幅広いピークが現れた(図7の実線)。対照実験として、ラムダビジョン製microRAM300/532を用いて532nmのレーザーを該ナノタグに1秒間照射し、特徴的な表面増強ラマン散乱スペクトルを得た。ピークの半値幅が大きく、波数分解能が約100cm-1であってもピークとして認識が可能であった。対照実験では1044、1310、1620cm-1の近傍にピークが現れた(図7の破線)。図7から、低解像のカメラ撮像で得られた1325、1650cm-1のピークは、4,4’ービピリジンの表面増強ラマン散乱の1310、1620cm-1に対応すると推定された。このようにして、本発明による低解像のカメラ撮像であっても既知の表面増強ラマン散乱光に対応するナノタグの有無の検出およびナノタグの種類の識別はじゅうぶん行うことができることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0032】
貴金属ナノ粒子のプラズモンを利用したナノタグを小型で安価な装置で簡便迅速に検知できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7