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特開2024-121311炭素繊維用メソフェーズピッチ及びメソフェーズピッチ系炭素繊維の製造方法
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  • 特開-炭素繊維用メソフェーズピッチ及びメソフェーズピッチ系炭素繊維の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121311
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】炭素繊維用メソフェーズピッチ及びメソフェーズピッチ系炭素繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C10C 3/02 20060101AFI20240830BHJP
   D01F 9/14 20060101ALI20240830BHJP
   C10C 3/06 20060101ALI20240830BHJP
   C10C 3/08 20060101ALI20240830BHJP
   C10C 3/04 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
C10C3/02 C
D01F9/14 511
C10C3/06
C10C3/08
C10C3/04 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028343
(22)【出願日】2023-02-27
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「燃料電池等利用の飛躍的拡大に向けた共通課題解決型産学官連携研究開発事業/水素利用等高度化先端技術開発/低コストと高性能を両立した炭素繊維の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(72)【発明者】
【氏名】中林 康治
(72)【発明者】
【氏名】島ノ江 明生
(72)【発明者】
【氏名】宮脇 仁
(72)【発明者】
【氏名】尹 聖昊
【テーマコード(参考)】
4H058
4L037
【Fターム(参考)】
4H058DA03
4H058DA07
4H058DA33
4H058DA34
4H058DA38
4H058EA03
4H058EA12
4H058EA13
4H058EA14
4H058EA17
4H058EA32
4H058EA38
4H058EA46
4H058EA47
4H058GA02
4H058GA08
4H058GA22
4H058HA02
4L037CS02
4L037CS03
4L037FA01
4L037FA10
4L037PA31
4L037PC07
4L037PC11
4L037PG04
4L037PP01
4L037PP02
4L037PP03
4L037PP13
4L037PP20
4L037PP31
4L037PP32
4L037PS02
4L037UA09
(57)【要約】
【課題】 メソフェーズピッチ系炭素繊維の前駆体であるメソフェーズピッチを安価に製造できる方法を提供すること。
【解決手段】 重質残渣油を加圧熱処理した後、不活性ガス吹込み熱処理をして、光学異方性成分であるメソゲン成分及び光学等方性成分である溶媒成分を含むピッチ成分aを調製するA工程と、重質残渣油を加圧熱処理した後、不活性ガス吹込み熱処理をして、光学異方性成分であるメソゲン成分及び光学等方性成分である溶媒成分を含むピッチ成分a’を調製し、該ピッチ成分a’からメソゲン成分を分離して、メソゲン成分を主体とするピッチ成分bを取得するB工程と、前記A工程で取得したメソゲン成分及び溶媒成分を含むピッチ成分a、並びに前記B工程で取得したメソゲン成分を主体とするピッチ成分bを、混合し、熱処理するC工程と、を有するメソフェーズピッチの製造方法である。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重質残渣油を加圧熱処理した後、不活性ガス吹込み熱処理をして、光学異方性成分であるメソゲン成分及び光学等方性成分である溶媒成分を含むピッチ成分aを調製するA工程と、
重質残渣油を加圧熱処理した後、不活性ガス吹込み熱処理をして、光学異方性成分であるメソゲン成分及び光学等方性成分である溶媒成分を含むピッチ成分a’を調製し、該ピッチ成分a’からメソゲン成分を分離して、メソゲン成分を主体とするピッチ成分bを取得するB工程と、
前記A工程で取得したメソゲン成分及び溶媒成分を含むピッチ成分a、並びに前記B工程で取得したメソゲン成分を主体とするピッチ成分bを、混合し、熱処理するC工程と、
を有することを特徴とする炭素繊維用メソフェーズピッチの製造方法。
【請求項2】
前記ピッチ成分a中に、溶媒成分が50wt%以上含まれていることを特徴とする請求項1記載の炭素繊維用メソフェーズピッチの製造方法。
【請求項3】
前記B工程におけるメソゲン成分を分離する方法が、溶媒抽出法であることを特徴とする請求項1記載の炭素繊維用メソフェーズピッチの製造方法。
【請求項4】
前記溶媒抽出法に用いる溶媒が、テトラヒドロフラン、キノリン、ピリジン、及びジメチルホルムアミドから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項3記載の炭素繊維用メソフェーズピッチの製造方法。
【請求項5】
前記A工程において、不活性ガス吹込み熱処理の後に、減圧蒸留処理を行うことを特徴とする請求項1記載の炭素繊維用メソフェーズピッチの製造方法。
【請求項6】
前記A工程及び/又はB工程における加圧熱処理が、密閉容器内で250~450℃で行われることを特徴とする請求項1記載の炭素繊維用メソフェーズピッチの製造方法。
【請求項7】
前記A工程及び/又はB工程における不活性ガス吹込み熱処理が、350~500℃で行われることを特徴とする請求項1記載の炭素繊維用メソフェーズピッチの製造方法。
【請求項8】
前記C工程における熱処理が300~500℃で行われることを特徴とする請求項1記載の炭素繊維用メソフェーズピッチの製造方法。
【請求項9】
前記C工程において、混合成分中の初期のメソゲン成分が50wt%以上となるようピッチ成分a及びピッチ成分bを混合することを特徴とする請求項1記載の炭素繊維用メソフェーズピッチの製造方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか記載の製造方法により製造した炭素繊維用メソフェーズピッチを溶融紡糸するD工程と、
溶融紡糸したメソフェーズピッチを不融化するE工程と、
不融化したメソフェーズピッチを炭素化及び黒鉛化するF工程と、
を有することを特徴とするメソフェーズピッチ系炭素繊維の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維用メソフェーズピッチの製造方法、及びかかる製造方法により得られた炭素繊維用メソフェーズピッチを用いたメソフェーズピッチ系炭素繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
代表的な炭素繊維の一つであるメソフェーズピッチ系炭素繊維は、比強度および比弾性率が高いことで知られている。このメソフェーズピッチは、一般的に、石炭及び石油の蒸留或いは乾留で生じる重質残渣油を原料に、熱処理工程を経て製造される。具体的には、熱処理過程中に、光学等方性であった原料に、徐々に光学異方性である球晶が生じ始め、それらが発生・成長・合体を繰り返すことで、最終的に光学異方性のピッチに変化し、メソフェーズピッチが製造される。
【0003】
例えば、炭素繊維用メソフェーズピッチは、コールタール(CT)や石油分解重油(スラリーオイル、SO)を原料に、水素化による構造の最適化、熱処理による適度な縮重合と分子積層の促進などを行うことで得ることができる(特許文献1参照)。水素化工程では、原料に含まれる芳香族化合物にナフテン構造を導入することで、溶融紡糸におけるピッチの流動性を増加させ、メソフェーズピッチに紡糸性を付与する。その後の熱処理工程では、導入したナフテン構造を確保しながら、適当な縮重合反応を誘起させ、平面性の高い芳香族化合物を形成させる。これら形成した化合物らが、(002)方向に積層することで、光学異方性が生じ、メソフェーズピッチが得られる。
【0004】
このような工程を経て炭素繊維用メソフェーズピッチは製造されるが、この水素化処理を用いる方法には、得られたメソフェーズピッチの原料対比収率が低いという問題がある。例えば、軽度の水素化工程を経て製造されたメソフェーズピッチの原料対比収率は、15wt%程度であり、さらに高い紡糸性(溶融紡糸時に糸切れしない)を有するメソフェーズピッチを製造するとなると、水素化程度を増加させる必要があり、メソフェーズピッチの原料対比収率はより低くなる。
【0005】
この原料対比収率の低下は、水素化処理により、高分子成分であるメソゲン成分の一部が低分子化によって溶媒成分へと変化し、溶媒成分が過度に増加してしまうことが要因と考えられる。他方で、水素化の程度を下げ、水素化処理において低分子化を抑制したとしても、光学異方性のメソフェーズピッチを調製するためには、厳しい条件での熱処理が必要となり、これにより、不融性の固形分が生じ、また、溶媒成分の量や種類が不足することで紡糸性を担保できない。
【0006】
このようなメソフェーズピッチの原料対比収率の低さによって、炭素繊維製造のコストが大幅に上昇しており、炭素繊維の社会的普及の障害となっている。
【0007】
上記の問題を解決するために、水素化処理を用いない製造方法も提案されており、その代表的な一つの手法が、ナフタレンを原料としたHF/BF触媒の熱処理合成である(非特許文献1参照)。この手法を用いれば、水素化工程を経ずとも炭素繊維用メソフェーズピッチの製造が可能であり、この手法で製造された炭素繊維用メソフェーズピッチは、実際に、商品化・市販されていた。
【0008】
しかしながら、この手法も、石炭・石油由来の重質残渣油よりも高価なナフタレンを原料としていることや、特殊で高価な設備が必要であり、その維持にコストもかかることなどの問題から、炭素繊維製造のコストの低減を十分に図ることはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許5956610号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Mochida I., Shimizu K., Korai Y., Otsuka H., Sakai Y., Fujiyama S., Preparation of mesophase pitch from aromatic hydrocarbons by the aid of HF/BF3, Carbon 1990; 28(2-3):311-319.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このような状況下、安価にメソフェーズピッチ系炭素繊維を製造するために、上記のような水素化処理や、高価な原料及び特殊な設備を用いることなく、その前駆体であるメソフェーズピッチを安価に製造する新たな手法が求められている。
【0012】
本発明の課題は、メソフェーズピッチ系炭素繊維の前駆体であるメソフェーズピッチを安価に製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を達成するために、本発明者らは、メソフェーズピッチのリオトロピック液晶特性に着目した。ここで、メソフェーズピッチは、通常、低分子量成分である溶媒成分と高分子量成分であるメソゲン(溶質)成分の二つの成分から構成されているが、リオトロピック液晶特性とは、このメソゲン成分の濃度が増加していくにつれて、ピッチの異方性組織の量が増加し、ある濃度(臨界メソゲン成分濃度)以上となると、異方性組織が急激に増加し、高い異方性含有率の組織が発現する特性をいう。
【0014】
本発明者らは、緩やか且つ適度な条件で熱処理を施して異方性組織を発現したメソゲン成分を一部に含むピッチ(ピッチ成分a)に対して、別途調製したメソゲン成分(ピッチ成分b)を加え、混ぜ合わせて熱処理を行うことで、異方性組織の炭素繊維用メソフェーズピッチを安価に製造できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明の製造方法では、ある程度のメソゲン成分を含有しながら、種類・量ともに豊富な溶媒成分が含まれているピッチ成分aに、メソゲン成分を主体とするピッチ成分bを加えることで、混合ピッチ成分のメソゲン成分濃度が臨界メソゲン成分濃度以上となり、異方性組織の炭素繊維用メソフェーズピッチを得ることができる。
【0016】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
[1] 重質残渣油を加圧熱処理した後、不活性ガス吹込み熱処理をして、光学異方性成分であるメソゲン成分及び光学等方性成分である溶媒成分を含むピッチ成分aを調製するA工程と、
重質残渣油を加圧熱処理した後、不活性ガス吹込み熱処理をして、光学異方性成分であるメソゲン成分及び光学等方性成分である溶媒成分を含むピッチ成分a’を調製し、該ピッチ成分a’からメソゲン成分を分離して、メソゲン成分を主体とするピッチ成分bを取得するB工程と、
前記A工程で取得したメソゲン成分及び溶媒成分を含むピッチ成分a、並びに前記B工程で取得したメソゲン成分を主体とするピッチ成分bを、混合し、熱処理するC工程と、
を有することを特徴とする炭素繊維用メソフェーズピッチの製造方法。
【0017】
[2] 前記ピッチ成分a中に、溶媒成分が50wt%以上含まれていることを特徴とする上記[1]記載の炭素繊維用メソフェーズピッチの製造方法。
[3] 前記B工程におけるメソゲン成分を分離する方法が、溶媒抽出法であることを特徴とする上記[1]又は[2]記載の炭素繊維用メソフェーズピッチの製造方法。
[4] 前記溶媒抽出法に用いる溶媒が、テトラヒドロフラン(THF)、キノリン、ピリジン、及びジメチルホルムアミドから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする上記[3]記載の炭素繊維用メソフェーズピッチの製造方法。
【0018】
[5] 前記A工程において、不活性ガス吹込み熱処理の後に、減圧蒸留処理を行うことを特徴とする上記[1]~[4]のいずれか記載の炭素繊維用メソフェーズピッチの製造方法。
[6] 前記A工程及び/又はB工程における加圧熱処理が、密閉容器内で250~450℃で行われることを特徴とする上記[1]~[5]のいずれか記載の炭素繊維用メソフェーズピッチの製造方法。
[7] 前記A工程及び/又はB工程における不活性ガス吹込み熱処理が、350~500℃で行われることを特徴とする上記[1]~[6]のいずれか記載の炭素繊維用メソフェーズピッチの製造方法。
【0019】
[8] 前記C工程における熱処理が300~500℃で行われることを特徴とする上記[1]~[7]のいずれか記載の炭素繊維用メソフェーズピッチの製造方法。
[9] 前記C工程において、混合成分中の初期のメソゲン成分が50wt%以上となるようピッチ成分a及びピッチ成分bを混合することを特徴とする上記[1]~[8]のいずれか記載の炭素繊維用メソフェーズピッチの製造方法。
【0020】
[10] 上記[1]~[9]のいずれか記載の製造方法により製造した炭素繊維用メソフェーズピッチを溶融紡糸するD工程と、
溶融紡糸したメソフェーズピッチを不融化するE工程と、
不融化したメソフェーズピッチを炭素化及び黒鉛化するF工程と、
を有することを特徴とするメソフェーズピッチ系炭素繊維の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明の製造方法によれば、メソフェーズピッチ系炭素繊維の前駆体であるメソフェーズピッチを安価に製造でき、これにより、メソフェーズピッチ系炭素繊維を安価に製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の炭素繊維用メソフェーズピッチの製造方法の概要を示す図である。
図2】実施例1の炭素繊維用メソフェーズピッチの製造手順の概要を示す図である。
図3】実施例2の炭素繊維用メソフェーズピッチの製造手順の概要を示す図である。
図4】比較例1及び2の炭素繊維用メソフェーズピッチの製造手順の概要を示す図である。
図5】実施例1~2及び比較例1~2の炭素繊維用メソフェーズピッチの偏光顕微鏡写真、並びに原料対収率及び軟化点の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の炭素繊維用メソフェーズピッチの製造方法は、
重質残渣油を加圧熱処理した後、不活性ガス吹込み熱処理をして、光学異方性成分であるメソゲン成分及び光学等方性成分である溶媒成分を含むピッチ成分aを調製するA工程と、
重質残渣油を加圧熱処理した後、不活性ガス吹込み熱処理をして、光学異方性成分であるメソゲン成分及び光学等方性成分である溶媒成分を含むピッチ成分a’を調製し、該ピッチ成分a’からメソゲン成分を分離して、メソゲン成分を主体とするピッチ成分bを取得するB工程と、
前記A工程で取得したメソゲン成分及び溶媒成分を含むピッチ成分a、並びに前記B工程で取得したメソゲン成分を主体とするピッチ成分bを、混合し、熱処理するC工程と、
を有することを特徴とする。
なお、本発明の炭素繊維用メソフェーズピッチの製造方法は、A工程の前に行う前処理等、上記A~C工程以外の工程を有していてもよい。
【0024】
本発明の製造方法は、リオトロピック液晶特性を利用したこれまでにない新規な手法であり、水素化処理や、高価な原料及び特殊な設備を用いることなく、加圧熱処理や不活性ガス吹込み熱処理といった一般的、簡易的な熱処理手法でメソフェーズピッチを高収率で製造することができる。
【0025】
本発明の製造方法において用いることができる原料は、重質残渣油であり、メソフェーズピッチを製造できるものであればその由来は特に問わない。例えば、SOやCTのような石油、石炭由来のものの他、バイオマス由来のもの、廃プラスチック由来のもの、産業廃棄物由来のもの等を挙げることができる。
【0026】
図1に、本発明の炭素繊維用メソフェーズピッチの製造方法の概要を示す。
以下、各工程について具体的に説明する。
【0027】
[A工程]
A工程は、重質残渣油を加圧熱処理した後、不活性ガス吹込み熱処理をして、光学異方性成分であるメソゲン成分及び光学等方性成分である溶媒成分を含むピッチ成分aを調製する工程である。
【0028】
ここで、A工程で調製されるピッチ成分a中には、溶媒成分が50wt%以上含まれていることが好ましく、50~80wt%含まれていることがより好ましく、55~75wt%含まれていることがさらに好ましい。
【0029】
(加圧熱処理)
加圧熱処理は、後の工程である不活性ガス吹込み熱処理で除去されやすい低分子成分(溶媒成分)を重合反応で高分子化する工程である。
なお、加圧熱処理の前処理として、重質残渣油中の不純物(固形分)を取り除く処理を行うことが好ましい。このような処理としては、例えば、THFに溶解しない不溶分を取り除く処理を挙げることができる。重質残渣油/THF(重量比)としては、1/5~1/10程度が好ましい。
【0030】
具体的に、加圧熱処理は、不活性ガス雰囲気の密閉容器内で行われ、熱処理温度としては、例えば、250~450℃が好ましく、280~420℃がより好ましく、300~400℃がさらに好ましく、300~350℃が特に好ましい。温度が低いほど、低分子成分の重合反応は緩やかであり、最終的に製造されるピッチ成分aに含まれる溶媒成分の量・種類ともに豊富となる。一方、温度が高いほど、低分子成分の重合反応が激しく起こり、メソゲン成分が多く生成される。したがって、上記温度範囲内で行うことにより、メソゲン成分及び溶媒成分のよりバランスの取れた配合量のピッチ成分aを得ることができる。
【0031】
(不活性ガス吹込み熱処理)
不活性ガス吹込み熱処理は、コーキングを抑制しつつ、脱アルキル化及び適当な縮重合反応を行い、異方性組織の発現・成長を促す工程である。
【0032】
具体的に、不活性ガス吹込み熱処理は、窒素や、ヘリウム、アルゴン等の希ガスの吹き込みを行いつつ行われる。不活性ガスの吹込み量としては、原料重質残渣油100gに対して、50mL/min以上が好ましく、80~2000mL/min以上がより好ましく、100~1500mL/minがさらに好ましく、150~1000mL/minが特に好ましい。このような吹込み量で熱処理を行うことにより、コーキングの発生を抑制して、ピッチ成分aの原料対比収率を高めることができる。
【0033】
熱処理温度としては、例えば、350~500℃が好ましく、380~450℃がより好ましく、390~430℃がさらに好ましい。このような温度範囲で熱処理を行うことにより、コーキングの発生を抑制しつつ、縮重合反応が促進され、異方性組織が発達する。なお、温度が高いとコーキングが発生しやすいため、高温の場合は、不活性ガスの吹込みによる部分的なクーリング効果が重要となる。
【0034】
(減圧蒸留)
不活性ガス吹込み熱処理の後に、減圧蒸留処理を行うことが好ましい。この減圧蒸留処理は、不活性ガス吹込み処理されたピッチ成分a中の等方性成分(低分子成分)である揮発成分を少量取り除き、後工程の工程Cにおける混合熱処理、及び炭素繊維用メソフェーズピッチの溶融紡糸の際のピッチ成分の熱安定性を高める。
【0035】
減圧の程度としては、100hPa以下が好ましく、50hPa以下がより好ましく、30hPa以下がさらに好ましい。熱処理温度としては、300~500℃が好ましく、350~450℃がより好ましい。また、具体的に、薄膜減圧蒸留法を用いることが好ましい。
【0036】
[B工程]
B工程は、重質残渣油を加圧熱処理した後、不活性ガス吹込み熱処理をして、光学異方性成分であるメソゲン成分及び光学等方性成分である溶媒成分を含むピッチ成分a’を調製し、該ピッチ成分a’からメソゲン成分を分離して、メソゲン成分を主体とするピッチ成分bを取得する工程である。なお、メソゲン成分を主体とするピッチ成分bとは、ピッチ成分b中にメソゲン成分が90wt%以上のものをいい、好ましくは95wt%のものであり、特に好ましくは実質的にメソゲン成分のみからなるものをいう。ここで、メソゲン成分の割合は、偏光顕微鏡により測定することができる。
【0037】
ここで、B工程のピッチ成分a’としては、A工程で調製するピッチ成分aを用いることができる。すなわち、一工程で、ピッチ成分a及びピッチ成分a’を得ることができる。一方、ピッチ成分aとは別にピッチ成分a’を調製する場合には、ピッチ成分a’中にメソゲン成分が多く含まれるよう調製することが好ましく、メソゲン成分が50wt%以上含まれていることが好ましく、60wt%以上含まれていることがより好ましく、70wt%以上含まれていることがさらに好ましい。
【0038】
(加圧熱処理)
B工程における加圧熱処理は、A工程における加圧熱処理と同一条件で行ってもよいし、異なる条件で行ってもよい。ピッチ成分aとは別にピッチ成分a’を調製する場合等には、B工程はメソゲン成分を調製することが目的とすることから、比較的高い温度で熱処理することが好ましく、熱処理温度としては、300~450℃が好ましく、350~450℃がより好ましく、350~400℃が特に好ましい。
【0039】
(不活性ガス吹込み熱処理)
B工程における不活性ガス吹込み熱処理は、基本的にA工程における不活性ガス吹込み熱処理と同様の処理である。ピッチ成分aとは別にピッチ成分a’を調製する場合には、異なる条件で行ってもよい。また、工程Bは、メソゲン成分を得ることを目的とすることから、減圧蒸留を必ずしも行う必要はない。
【0040】
(メソゲン成分分離処理)
メソゲン成分分離処理は、上記加圧熱処理及び不活性ガス吹込み熱処理を経て調製されたメソゲン成分及び溶媒成分を含むピッチ成分a’から、メソゲン成分を分離できる処理であれば特に制限されるものではなく、溶媒抽出法が好ましい。溶媒抽出法においては、不溶分としてメソゲン成分を得ることができる。
【0041】
溶媒抽出法において用いる溶媒としては、THF、キノリン、ピリジン、ジメチルホルムアミド等を挙げることができ、THFが好ましい。
【0042】
[C工程]
C工程は、A工程で取得したメソゲン成分及び溶媒成分を含むピッチ成分a、並びにB工程で取得したメソゲン成分を主体とするピッチ成分bを、混合し、熱処理するである。この工程では、メソゲン成分を主体とするピッチ成分bを添加することにより、ピッチ成分a中のメソゲン成分濃度を向上させ、リオトロピック液晶特性を利用して炭素繊維用メソフェーズピッチを製造する。
【0043】
ここで製造される炭素繊維用メソフェーズピッチは、異方性組織を80vol%以上含むものであり、90vol%以上含むものが好ましく、95vol%以上含むものがさらに好ましく、実質的に異方性組織のみからなるもの(異方性組織100vol%)が特に好ましい。ここで、異方性組織の割合は、ピッチ全体の偏光顕微鏡写真を用いた光学異方性組織の面積計算により算出することができる。
【0044】
ピッチ成分a及びピッチ成分bの混合割合としては、ピッチ成分a及び/又はピッチ成分bのメソゲン成分の濃度に依存するが、混合成分中のメソゲン成分が50wt%以上となるようピッチ成分a及びピッチ成分bを混合することが好ましく、55wt%以上となるように混合することがより好ましく、60~80wt%となるように混合することがさらに好ましい。混合方法としては、乳鉢を用いる方法や、機械式ミル器を用いる方法等を挙げることができる。
【0045】
熱処理は、不活性ガス雰囲気下で又は不活性ガスを吹き込みながら行われ、その熱処理温度としては、300~500℃が好ましく、320~450℃がより好ましく、350~410℃がさらに好ましい。
【0046】
上記製造方法により製造した炭素繊維用メソフェーズピッチを用いて、メソフェーズピッチ系炭素繊維を製造することができる。その製造方法としては、従来公知の方法を用いることができる。
【0047】
例えば、メソフェーズピッチ系炭素繊維の製造方法としては、上記製造方法により製造した炭素繊維用メソフェーズピッチを溶融紡糸するD工程と、溶融紡糸したメソフェーズピッチを不融化するE工程と、不融化したメソフェーズピッチを炭素化及び黒鉛化するF工程とを有する方法を挙げることができる。
【0048】
D(紡糸工程)工程では、例えば、溶融したメソフェーズピッチを、紡糸装置の口金から押し出し、引き伸ばして細長い繊維状にする。E(不融化工程)工程では、例えば、溶融紡糸したメソフェーズピッチを200~350℃程度の空気(酸性化ガス)中を通過させ、酸素架橋を行う。F工程(炭素化黒鉛化工程)では、例えば、1000~1500℃程度の不活性ガス中で、不融化したメソフェーズピッチを緊張状態で熱処理して炭素化し、さらに、2000~3000℃程度の不活性ガス中で、緊張状態で熱処理して黒鉛化する。黒鉛化後、表面処理、サイジング等が行われ、炭素繊維が得られる。
【実施例0049】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
本発明の炭素繊維用メソフェーズピッチを以下の手順で製造した。その概要を、図2~4に示す。
【0050】
<ピッチ成分aの調製(A工程)>
(前処理)
SOを原料とし、SO300gとTHF2700gを混合した(重量比1:9)。この混合物を6時間撹拌した後、減圧濾過によってSOのTHF可溶分とTHFの混合物を回収した。回収した混合物をロータリーエバポレーターに設置し、100rpmの回転速度で撹拌しながら、水浴温度25℃および圧力200hPaの条件でTHFを回収した。その後、完全にTHFを混合物から除去するために、水浴温度60℃と圧力100hPaの条件で加熱し、回収トラップにTHFが滴下されなくなるまで減圧蒸留を行った。最後に、SOのTHF可溶分を回収した。
【0051】
(加圧熱処理)
オートクレーブ容器300mL型にSOのTHF可溶分を100g入れた。オートクレーブ内のガスが窒素で満たされるまで、10回程窒素置換を行った。150rpmの撹拌速度に設定し、自圧下の条件で320℃まで昇温させた。320℃に到達後、3時間放置し、室温に下がるまで空冷を行い、加圧処理されたSOのTHF可溶分を回収した。
【0052】
(不活性ガス吹込み処理)
窒素吹込み熱処理用のガラス容器(内径:40mm、高さ:300mm程度、枝付き排出部の位置:底面から200mm程度、枝付き排出部の内径:20mm)に加圧熱処理を施したSOのTHF可溶分を50g入れた。羽根つきステンレス鋼鋼管(管中心点から羽先端までの長さ:10mm)の先端が容器の底の近くになるようにセットし、100rpmで撹拌しながら、ステンレス鋼鋼管に窒素ガス200mL/minを流した。415℃まで5℃/minで昇温、6時間保持の条件で加熱処理を行い、空冷した後、容器内残ったSO由来のピッチを回収した。
【0053】
(減圧蒸留処理)
回収したピッチを丸底ガラス容器(内径:30mm,高さ:250mm程度)に5g入れ、ロータリーエバポレーターに設置後、容器全体を10hPaまで減圧させた。このとき、ガラス容器自体は水平から約30℃傾けていた。ピッチの入ったガラス容器を100rpmで回転させながら、セラミック電気炉を用いて370℃まで5℃/minで昇温、10分間保持の条件で加熱した。そして、空冷を行い、混合熱処理に用いるピッチ成分を回収した。
【0054】
本実施で調製したSO由来のメソゲン成分(異方性組織成分)を含むピッチ成分a(s)のメソゲン成分の含有量は35wt%であり、原料対比収率は36.0wt%であった。
【0055】
<ピッチ成分bの調製(B工程)>
メソゲン成分を主体とするピッチ成分bについては、SO由来のピッチ成分b(s)と、CT由来のピッチ成分b(c)を調製した。
【0056】
(1)ピッチ成分b(s)の調製
SO由来のピッチ成分b(s)を調製するためのピッチ成分a’(s)の調製は、上記ピッチ成分aの調製方法において、加圧熱処理温度を340℃、薄膜減圧蒸留の温度を390℃とする以外同様に行った。
【0057】
続いて、調製したSO由来のピッチ成分a’(s)を乳鉢で粉末状になるまで粉砕した。粉末状のピッチ成分a’(s)と50℃のTHFの重量比が1/9(wt/wt)になるように混合し、24時間撹拌させた。撹拌後、減圧濾過を行い、濾紙上に残った固形分に対して、60℃の減圧乾燥(減圧ゲージ:-0.1MPa)を6時間行った。最後に不溶分であるピッチ成分b(s)を回収した。
回収したSO由来のピッチ成分b(s)の原料対比収率は18.4wt%であった。
【0058】
(2)ピッチ成分b(c)の調製
CT由来のピッチ成分b(c)を調製するためのピッチ成分a’(c)の調製は、上記成分aの調整方法において、加圧熱処理温度を370℃、薄膜減圧蒸留の温度を390℃とする以外同様に行った。
【0059】
これ以降は、上記ピッチ成分b(s)の調製と同様にして、THFの不溶分であるピッチ成分b(c)を回収した。回収したCT由来のピッチ成分b(c)の原料対比収率は32.7wt%であった。
【0060】
<炭素繊維用メソフェーズピッチの調製(C工程)>
SO由来のピッチ成分a(s)及びSO由来のピッチ成分b(s)を用いて、実施例1の炭素繊維用メソフェーズピッチ(SS-MP)を調製した。また、SO由来のピッチ成分a(s)及びCT由来のピッチ成分b(c)を用いて、実施例2の炭素繊維用メソフェーズピッチ(CS-MP)を調製した。
【0061】
(1)実施例1のSS-MPの調製
調製したSO由来の異方性組織を含むピッチ成分a(s)2.8gと、SO由来のピッチ成分b(s)1.2gとを乳鉢を用いて混合した(重量比3:7)。異方性組織量80vol%以上の炭素繊維用メソフェーズピッチを作るためには、混合物のメソゲン成分濃度が50wt%以上である必要がある。混合物のメソゲン成分濃度を計算すると、
メソゲン成分濃度=35×0.7+30=54.5[wt%]
であり、50wt%以上であった。
【0062】
この混合物を丸底ガラス容器(内径:30mm,高さ:250mm程度)に入れ、ガラス容器自体を水平から約30℃傾けた。ピッチの入ったガラス容器を100rpmで回転させながら、窒素ガス100mL/minで容器全体を窒素で満たした。セラミック電気炉を用いて370℃まで5℃/minで昇温、10分間保持の条件で加熱した。加熱後、空冷を行い、実施例1のSS-MPを回収した。
【0063】
(2)実施例2のCS-MPの調製
加熱処理温度を390℃とした以外は、上記実施例1のSS-MPの調製と同様にして、実施例2のCS-MPを回収した。
【0064】
<水素化処理を用いたメソフェーズピッチの調製(従来法)>
SOを用いて、従来法により、比較例1の炭素繊維用メソフェーズピッチ(HS-MP)を調製した。また、CTを用いて、従来法により、比較例2の炭素繊維用メソフェーズピッチ(HC-MP)を調製した。
【0065】
(1)比較例1のHS-MPの調製
ピッチ成分aの調製の前処理と同様の前処理を行い、SOのTHF可溶分を回収した。
【0066】
SOのTHF可溶分75gとテトラリン75gを混合した液体をオートクレーブ容器300mL型に入れた(重量比1:1)。オートクレーブ内のガスが窒素で満たされるまで、10回程窒素置換を行った。150rpmの撹拌速度に設定し、自圧下の条件で370℃まで昇温させた。370℃に到達後、1時間放置し、室温まで下がるまで空冷を行い、水素化されたSOのTHF可溶分とテトラリンを回収した。
【0067】
THF可溶分とテトラリン・ナフタレンの混合物からテトラリン・ナフタレンを取り除くために、200℃の減圧蒸留を、回収トラップに滴下されたテトラリン・ナフタレンが最初のテトラリンの添加量と同程度の量になるまで行った。
【0068】
続いて、水素化された可溶分50gを用いて、ピッチ成分aの調製の窒素吹込み熱処理と同様に、熱処理条件415℃まで5℃/minで昇温、6時間保持、窒素ガス流量600mL/minで窒素吹込み熱処理を行った。
【0069】
さらに、ピッチ成分aの調製の薄膜減圧蒸留と同様に、熱処理条件390℃まで5℃/minで昇温、10分間保持、10hPaで薄膜減圧蒸留を行った。空冷を行い、比較例1のHS-MPを回収した。
【0070】
(2)比較例2のHC-MPの調製
水素化の熱処理温度を450℃とすること以外は比較例1のHS-MPと同様にして、比較例2のHC-MPを調製した。
【0071】
<メソフェーズピッチの物性・性能評価>
(原料対収率及び軟化点)
図5に、製造した実施例1及び2の炭素繊維用メソフェーズピッチ、並びに比較例1及び2の炭素繊維用メソフェーズピッチの偏光顕微鏡写真、並びに原料対収率及び軟化点の結果を示す。
【0072】
図5に示すように、実施例1のSS-MPの原料対比収率及び軟化点は、それぞれ30.2wt%、276℃であり、実施例2のCS-MPの原料対比収率及び軟化点は、それぞれ34.7wt%、281℃であった。実施例1のSS-MP及び実施例2のCS-MPのいずれも90vol%程度の異方性組織を含むメソフェーズピッチであった。
【0073】
一方、比較例1のHS-MPの原料対比収率及び軟化点は、それぞれ13.1wt%、245℃であり、比較例2のHC-MPの原料対比収率及び軟化点は、それぞれ21.4wt%、258℃であった。比較例1のHS-MP及び比較例2のHC-MPも同様に、90vol%程度の異方性組織を含むメソフェーズピッチであった。
【0074】
水素化を経て調製した比較例の炭素繊維用メソフェーズピッチと比べて、本特許技術で調製した実施例の炭素繊維用メソフェーズピッチは、軟化点が溶融紡糸可能な範囲(軟化点300℃以下)ながら収率が30wt%以上と高い値を示した。
【0075】
(紡糸性評価)
単一孔型溶融紡糸器を用いて調製した炭素繊維用メソフェーズピッチの紡糸性評価を行った。
具体的には、まずノズル(単一孔の長さ/直径=0.5mm/0.5mm=1,60°)を取り付けた紡糸器に調製したピッチを入れ、窒素ガスで満たしながら、ピッチの軟化点+100℃程度の温度で加熱した。その後、ノズルから吐出されるピッチの吐出量が50mg/minになるように、紡糸機内の窒素圧力を調整した。最後に、巻取器(回転速度:400rpm)に吐出したピッチを巻き取っていった。この時、巻取開始から3分間の間に糸切れした回数を計った。その糸切れ回数が少ない程、紡糸性が高いことを意味する。表1に、各調製ピッチの各巻取速度における糸切れ回数と紡糸繊維の平均繊維径を示す。
【0076】
【表1】
【0077】
表1に示すように、実施例2のCS-MPは糸切れ回数が比較的多いものの、実施例1のSS-MPは、HC-MPよりも紡糸性が高く、HS-MPの紡糸性に近いことがわかる。このように水素化を行わずとも、炭素繊維用のメソフェーズピッチは製造可能であることがわかる。
【0078】
<炭素繊維の製造>
上記紡糸性評価において調製した紡糸繊維を不融化、炭素化、黒鉛化を行った。
【0079】
具体的には、セラミック電気炉と石英炉心管を用いて、空気雰囲気で270℃,0.5℃で不融化した。大型黒鉛炉を用いて、真空下で1000℃まで20℃/minで昇温、30分間保持で炭素化処理を行い、アルゴン雰囲気で2800℃まで15℃/minで昇温10分間保持で黒鉛化を行い、炭素繊維を製造した。
【0080】
<炭素繊維の物性・性能評価>
黒鉛化して調製した炭素繊維をJIS R7606:2000に沿って単一繊維強度試験を行った。調製した炭素繊維の平均繊維径と強度を表2に示す。
【0081】
【表2】
【0082】
表2に示すように、実施例1のSS-MP由来炭素繊維の引張強度は、比較例1のHS-MP由来炭素繊維の同等の引張強度を示すことがわかる。さらに、実施例2のCS-MP由来の炭素繊維は、比較例2のHC-MP由来炭素繊維と同等であった。CT由来のメソゲン成分はSO由来よりも平面性が高い芳香族化合物が元々原料に多く含まれているため、黒鉛化構造が発達しやすい。この結果から、ピッチ成分a及びピッチ成分bに使用する原料をそれぞれ最適な原料を選択すれば、最適な紡糸性や炭素繊維の機械的物性が得られることが期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、炭素繊維の製造に使用可能なメソフェーズピッチを安価に製造できることから、産業上有用である。
図1
図2
図3
図4
図5