(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121320
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】軸受の状態監視システム
(51)【国際特許分類】
G01M 13/04 20190101AFI20240830BHJP
F16C 41/00 20060101ALI20240830BHJP
F16C 19/52 20060101ALI20240830BHJP
F16C 19/26 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
G01M13/04
F16C41/00
F16C19/52
F16C19/26
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028359
(22)【出願日】2023-02-27
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-07-12
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】中野 勇大
(72)【発明者】
【氏名】畠山 航
【テーマコード(参考)】
2G024
3J217
3J701
【Fターム(参考)】
2G024AC01
2G024BA21
2G024BA22
2G024CA13
2G024FA04
3J217JA02
3J217JA13
3J217JA14
3J217JA15
3J217JA24
3J217JA34
3J217JA44
3J217JA49
3J217JB16
3J217JB17
3J217JB36
3J217JB55
3J217JB56
3J217JB68
3J217JB84
3J701AA02
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA80
3J701FA23
3J701FA24
3J701FA25
3J701FA26
3J701FA41
3J701GA31
(57)【要約】
【課題】高回転速度で使用される軸受が組み込まれる設備の生産性を著しく低下させることなく、その軸受の異常診断を精度よく行うことができる状態監視システムを提供する。
【解決手段】軸受の回転速度、振動および軸受に負荷されている外力を検出するセンサ部1と、センサ部1で検出した外力に基づいて軸受の運転状態を判断する運転状態判断手段2と、運転状態判断手段2で軸受が軽負荷運転状態にあると判断されたときにセンサ部1で検出した軸受の回転速度および振動に基づいて、軸受の精密診断を行う際の精密診断速度を設定する診断速度設定手段3と、軸受の回転速度を精密診断速度に変更して軸受の精密診断を行う異常診断手段4とを備え、軸受の速度低下を抑えた適切な精密診断速度で精密診断を行うようにした。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受の状態監視システムにおいて、
前記軸受の回転速度を検出する回転速度検出手段と、
前記軸受の振動を検出する振動検出手段と、
前記軸受が負荷運転状態にあるか軽負荷運転状態にあるかを判断する運転状態判断手段と、
前記運転状態判断手段により軸受が軽負荷運転状態にあると判断されたときに前記回転速度検出手段で検出した回転速度および前記振動検出手段で検出した振動に基づいて、前記軸受の精密診断を行う際の精密診断速度を設定する診断速度設定手段と、
前記軸受の回転速度を前記診断速度設定手段によって設定された精密診断速度に変更して軸受の精密診断を行う異常診断手段とを備えていることを特徴とする軸受の状態監視システム。
【請求項2】
前記異常診断手段は、
前記軸受が任意の回転速度で運転されているときに、前記振動検出手段で検出した振動の波形から少なくとも1つの簡易診断値を算出して、その簡易診断値を所定の閾値と比較することにより、前記軸受の簡易診断を行う簡易診断手段と、
前記軸受の回転速度を前記精密診断速度に変更して、前記回転速度検出手段で検出した回転速度に基づいて前記軸受が損傷したときに発生する損傷周波数を算出し、その損傷周波数と前記振動検出手段で検出した振動から得られるスペクトルデータに含まれる周波数成分とを比較することにより、前記軸受の精密診断を行う精密診断手段とを含み、
前記簡易診断手段で軸受の異常が検出されたときにのみ、前記精密診断手段による軸受の回転速度の変更および精密診断を行うことを特徴とする請求項1に記載の軸受の状態監視システム。
【請求項3】
前記診断速度設定手段は、前記振動検出手段で検出した単位時間あたりの振動イベント数に基づいて前記精密診断速度を設定することを特徴とする請求項1または2に記載の軸受の状態監視システム。
【請求項4】
前記診断速度設定手段は、前記精密診断時に予め想定された単位時間あたりの振動イベント数が得られているかを確認するイベント数確認手段を含むことを特徴とする請求項3に記載の軸受の状態監視システム。
【請求項5】
前記イベント数確認手段は、前記軸受が損傷したときに発生する損傷周波数に基づいて前記精密診断時の単位時間あたりの振動イベント数を想定することを特徴とする請求項4に記載の軸受の状態監視システム。
【請求項6】
前記診断速度設定手段は、前記振動検出手段で検出した振動のオーバーオール値に基づいて前記精密診断速度を設定することを特徴とする請求項1または2に記載の軸受の状態監視システム。
【請求項7】
前記軸受に負荷されている外力を検出する外力検出手段をさらに備え、
前記運転状態判断手段は、前記外力検出手段で検出した外力が所定の大きさ未満であるときに前記軸受が軽負荷運転状態にあると判断するものであることを特徴とする請求項1または2に記載の軸受の状態監視システム。
【請求項8】
前記軸受は、工作機械の主軸を回転可能に支持するものであることを特徴とする請求項1または2に記載の軸受の状態監視システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械の主軸を支持する軸受等、高回転速度で使用される軸受の状態監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械の主軸を支持する軸受は、1分間に数万回転という高回転速度で使用されることが多い。このような工作機械用軸受では、その損傷を早期に発見するために、軸受の振動を検出して異常診断を行う状態監視システムを付設することが多くなってきている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、高回転速度で使用される軸受では、主軸の回転に伴うベース振動や潤滑油の吹き付けに伴う風切り音を含むノイズが広い周波数帯に分布しており、そのノイズによる振動成分と軸受の損傷によって発生する振動成分の分離が困難である。このため、状態監視システムで精度よく異常診断を行うには、ノイズによる振動成分の影響を受けにくい回転速度での振動データを用いる必要がある。
【0005】
これに対しては、状態監視システムで異常診断を行う際に主軸の回転速度を下げることが考えられるが、使用している軸受が定位置予圧を負荷されたアンギュラ玉軸受や、円すいころ軸受、円筒ころ軸受である場合は、その予圧荷重や転動体荷重が小さいので、回転速度が下がるにしたがって、軸受から発せられる振動自体が低くなり、主軸や軸受の損傷を精度よく検出することは難しくなる。
【0006】
また、主に高回転速度領域で使用される工作機械の場合は、異常診断のために回転速度を低速域まで下げてしまうと、その主軸や軸受の温度変化が大きくなって、もとの回転速度の温度平衡状態まで回復するのに時間を要してしまい、生産性の著しい低下を招く。
【0007】
そこで、本発明は、高回転速度で使用される軸受が組み込まれる設備の生産性を著しく低下させることなく、その軸受の異常診断を精度よく行うことができる状態監視システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明は、軸受の状態監視システムにおいて、前記軸受の回転速度を検出する回転速度検出手段と、前記軸受の振動を検出する振動検出手段と、前記軸受が負荷運転状態にあるか軽負荷運転状態にあるかを判断する運転状態判断手段と、前記運転状態判断手段により軸受が軽負荷運転状態にあると判断されたときに前記回転速度検出手段で検出した回転速度および前記振動検出手段で検出した振動に基づいて、前記軸受の精密診断を行う際の精密診断速度を設定する診断速度設定手段と、前記軸受の回転速度を前記診断速度設定手段によって設定された精密診断速度に変更して軸受の精密診断を行う異常診断手段とを備えている構成(構成1)を採用した。
【0009】
上記の構成1によれば、診断速度設定手段が、軸受の軽負荷運転状態の回転速度と振動のデータを用いて、軸受が通常使用される回転速度からの速度低下を抑えた適切な精密診断速度を設定し、その精密診断速度で異常診断手段が精密診断を行うので、軸受が組み込まれる設備の生産性を著しく低下させることなく、軸受の異常診断を精度よく行うことができる。
【0010】
上記構成1において、前記異常診断手段としては、前記軸受が任意の回転速度で運転されているときに、前記振動検出手段で検出した振動の波形から少なくとも1つの簡易診断値を算出して、その簡易診断値を所定の閾値と比較することにより、前記軸受の簡易診断を行う簡易診断手段と、前記軸受の回転速度を前記精密診断速度に変更して、前記回転速度検出手段で検出した回転速度に基づいて前記軸受が損傷したときに発生する損傷周波数を算出し、その損傷周波数と前記振動検出手段で検出した振動から得られるスペクトルデータに含まれる周波数成分とを比較することにより、前記軸受の精密診断を行う精密診断手段とを含み、前記簡易診断手段で軸受の異常が検出されたときにのみ、前記精密診断手段による軸受の回転速度の変更および精密診断を行うものを採用することができる(構成2)。
【0011】
上記構成1または2における前記診断速度設定手段は、前記振動検出手段で検出した単位時間あたりの振動イベント数に基づいて前記精密診断速度を設定するものとすることができる(構成3)。この構成3において、前記診断速度設定手段は、前記精密診断時に予め想定された単位時間あたりの振動イベント数が得られているかを確認するイベント数確認手段を含むものとすることが望ましい(構成4)。さらに、この構成4における前記イベント数確認手段は、前記軸受が損傷したときに発生する損傷周波数に基づいて前記精密診断時の単位時間あたりの振動イベント数を想定するものとすることが望ましい(構成5)。
【0012】
あるいは、上記構成1または2における前記診断速度設定手段として、前記振動検出手段で検出した振動のオーバーオール値に基づいて前記精密診断速度を設定するものを採用することもできる(構成6)。
【0013】
また、上記構成1乃至6のいずれにおいても、前記軸受に負荷されている外力を検出する外力検出手段をさらに備え、前記運転状態判断手段は、前記外力検出手段で検出した外力が所定の大きさ未満であるときに前記軸受が軽負荷運転状態にあると判断するものである構成を採用することができる(構成7)。
【0014】
そして、本発明は、上記構成1乃至7のいずれにおいても、前記軸受が工作機械の主軸を回転可能に支持するものである場合に、特に効果的に適用することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の軸受の状態監視システムは、上述したように、軸受の通常使用時の回転速度からの速度低下の少ない精密診断速度で精密診断を行うので、その軸受が組み込まれる設備の生産性を著しく低下させることなく、精度の高い軸受診断を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施形態の状態監視システムの監視対象となる軸受の縦断面図
【
図3】a、bはそれぞれ
図2のセンサ部の振動センサで検出される振動イベント数を説明する模式的なグラフであり、aが高速回転時のグラフ、bが低速回転時のグラフ
【
図4】
図2のセンサ部の振動センサで検出される振動のオーバーオール値比(異常時の値/正常時の値)と軸受回転速度の関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面に基づき本発明の実施形態を説明する。
図1は実施形態の状態監視システムの監視対象となる軸受30を示す。この軸受30は、内輪31と外輪32との間に転動体としてのボール33が保持器34で保持され、軸受空間の一端側がシール35でシールされ、シール35でシールされた側と反対側に、監視システムの一部を構成するセンサ部1が取り付けられた深溝玉軸受であり、図示省略した工作機械の主軸を回転可能に支持するものである。
【0018】
センサ部1は、軸受30の回転速度を検出する回転速度検出手段としての回転センサ10と、軸受30の振動を検出する振動検出手段としての振動センサ20と、軸受30に負荷されている外力を検出する外力検出手段としての荷重センサ21とからなる。その回転センサ10は、内輪31の外周面に嵌合された芯金11と、芯金11に装着された磁気エンコーダ12と、外輪32の内周面に嵌合された外環13と、外環13に装着されたセンサハウジング14とを備えている。センサハウジング14には、磁気エンコーダ12と対向し、磁気エンコーダ12とともに回転センサを構成するホールIC15と、ホールIC15の脚15aに接続されたプリント基板16とが、モールド樹脂14aで固定されている。そのプリント基板16には電子回路を構成する電気部品17が取り付けられている。また、振動センサ20は、加速度センサであり、固定輪である外輪32の振動を検出するようになっている。荷重センサ21は、ひずみゲージまたは圧電素子を用いたものが外輪32の外周の凹部に組み込まれている。
【0019】
この実施形態の状態監視システムは、
図2に示すように、前述の軸受30の周辺部に設けられるセンサ部1(回転センサ10、振動センサ20および荷重センサ21)と、荷重センサ21で検出した外力に基づいて軸受30の運転状態を判断する運転状態判断手段2と、運転状態判断手段2により軸受30が軽負荷運転状態にあると判断されたときに回転センサ10で検出した回転速度および振動センサ20で検出した振動に基づいて、軸受30の精密診断を行う際の精密診断速度を設定する診断速度設定手段3と、軸受30の回転速度を診断速度設定手段3によって設定された精密診断速度に変更して軸受30の精密診断を行う異常診断手段4とを備えている。
【0020】
運転状態判断手段2は、荷重センサ21で検出した外力(軸受30に負荷されている外力)が所定の大きさ以上であるときは軸受30が負荷運転状態(工作機械が加工中)であると判断し、外力が所定の大きさ未満であるときは軸受30が軽負荷運転状態(工作機械が非加工中)であると判断するものである。
【0021】
診断速度設定手段3は、振動センサ20で検出した単位時間あたりの振動イベント数に基づいて精密診断速度を設定する方法を用いている。振動イベント数(以下、単に「イベント数」とも称する。)とは、
図3(a)、(b)に示すように、振動値(この例では加速度)の波形において観測されるピーク(図中の黒丸)の数のことであり、当然ながら単位時間あたりのイベント数は低速回転時(
図3(b))の方が高速回転時(
図3(a))よりも少なくなる。
【0022】
そして、一般的な軸受の異常診断では、異常時に発生する振動波形のピークを検出して周波数解析(FFT)することによって異常の判定を行っており、高速回転中は判定に必要な波形のピークの数すなわちイベント数は得られやすいが、ピークがノイズ成分に紛れて特徴を見出すことができず、判定が困難になる場合が多い。これに対して、回転速度を下げると、ノイズ成分の影響は小さくなるが、振動値も低くなって波形のピークを検出しにくくなる場合があり、また、判定に必要なイベント数を得るための診断時間が長くなるうえ、主軸や軸受の温度変化が大きくなって、加工を再開するまでに時間がかかるようになり、生産性が低下するという問題が生じる。
【0023】
そこで、この診断速度設定手段3では、過去に正しく精密診断できた際のイベント数等に基づいて判定に必要なイベント数を算出し、精密診断を行える時間(例えば、工作機械におけるワーク交換等のインターバル時間)で必要なイベント数を得られる回転速度範囲を導出し、その回転速度範囲内の適切な速度を精密診断速度として設定するようにしている。
【0024】
ここで、診断速度設定手段3は、軸受30が損傷したときに発生する損傷周波数に基づいて精密診断時の単位時間あたりのイベント数を想定し、精密診断時に予め想定された単位時間あたりのイベント数が得られているかを確認するイベント数確認手段を含むものとすることが望ましい。
【0025】
異常診断手段4は、軸受30が任意の回転速度で運転されているときに軸受30の簡易診断を行う簡易診断手段4aと、軸受30の回転速度を前述の精密診断速度に変更して軸受30の精密診断を行う精密診断手段4bと、簡易診断手段4aおよび精密診断手段4bの診断結果情報を工作機の制御部40とパソコンやサーバ等の外部装置50に出力する診断結果出力部4cとを備えており、簡易診断手段4aで軸受30の異常が検出されたときにのみ、精密診断手段4bによる軸受30の回転速度の変更および精密診断を行うようになっている。
【0026】
その簡易診断手段4aは、振動センサ20で検出した振動の波形から少なくとも1つの簡易診断値を算出して、その簡易診断値を所定の閾値と比較することにより軸受30の診断を行うものである。その簡易診断値とは、例えば、振動波形データの実効値の時間的変化率を用いることができる。
【0027】
一方、精密診断手段4bは、軸受30の回転速度を前述の精密診断速度に変更して(工作機の制御部40に速度変更情報を出力して)、回転センサ10で検出した回転速度に基づいて軸受30が損傷したときに発生する損傷周波数を算出し、その損傷周波数と振動センサ20で検出した振動から得られるスペクトルデータに含まれる周波数成分とを比較することにより軸受30の診断を行うものである。具体的な診断方法としては、例えば、振動波形をエンベロープ処理して周波数解析した結果のスペクトルデータ(横軸:振動周波数、縦軸:振動レベル)において、振動レベルのピークが現れる周波数と軸受30の部品ごとの損傷周波数とを比較して、一致するものがあれば、その一致する損傷周波数に対応する部品に異常があると判定する方法を採用することができる。
【0028】
この状態監視システムは、上記の構成であり、異常診断手段4に含まれる簡易診断手段4aで軸受30の異常が検出されたときにのみ、精密診断手段4bが軸受30の回転速度を、正確に異常判定できるイベント数が得られる速度範囲内の適切な精密診断速度に下げたうえで精密診断を行うようにしているので、精密診断速度をなるべく高く(例えば、軸受30の通常使用中の回転速度からの速度低下が最低限となるように)設定して、生産性を著しく低下させることなく、精度の高い診断を行うことができる。
【0029】
なお、診断速度設定手段3による精密診断速度の設定は、上述の単位時間あたりのイベント数に基づいて行う方法のほか、振動センサ20で検出した振動のオーバーオール値(OA値)に基づいて行う方法を用いることもできる。具体的には、
図4に示すように、正常な状態の軸受の振動のOA値に対する異常の生じた軸受のOA値の比(OA値比)は回転速度によって変化するので、予め正常な状態の軸受30のOA値を記憶しておき、軸受30の使用中に、対応する回転速度で異常の生じた軸受30のOA値比が得られる回転速度を特定し、精密診断速度とする。
【0030】
すなわち、一般に、軸受に異常が生じると、OA値比が異常振動成分の影響により1以上になる。しかし、高速回転域では、その異常振動成分(損傷周波数に一致するピーク)がノイズに紛れ、OA値比が1に近い値を示す。そのため、ノイズの影響を受けず、OA値比が1よりもある程度以上高くなる回転数で、通常使用中の回転速度からの速度低下が最低限となる回転数を精密診断速度とする(
図4では、中高速回転となる。)。この方法を採用しても、なるべく高い精密診断速度で精度よく診断を行える。この方法は、工作機械の起動時等、主軸回転速度を通常使用回転速度になるように徐々に上昇させるとき等にも有効である。
【0031】
また、上述した実施形態の変形例として、軸受30周辺のセンサ部1のうち、外力検出手段としての荷重センサ21を省略し、運転状態判断手段2は、工作機械自体に備わっているセンサの情報に基づいて負荷運転状態と軽負荷運転状態とを判別するものや、工作機械のシーケンスプログラムから非加工時のタイミングの情報を取得して軽負荷運転状態と判断するものとした構成を採用することもできる。
【0032】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0033】
例えば、実施形態の異常診断手段における簡易診断では、簡易診断値と閾値との比較により異常判定を行っているが、軸受の通常使用中の回転速度がFFTを実施できる許容範囲にあれば、簡易診断でもFFTによる異常判定を行うようにしてもよい。
【0034】
また、実施形態の異常診断手段のうちの簡易診断手段を省略し、定期的にあるいは任意のタイミングで精密診断を行うようにすることもできる。
【0035】
そして、本発明は、実施形態のように軸受が工作機械の主軸を回転可能に支持するものである場合に特に効果的に適用できるが、これに限らず、高回転速度で使用される軸受の状態監視システムに広く適用することができる。
【符号の説明】
【0036】
1 センサ部
2 運転状態判断手段
3 診断速度設定手段
4 異常診断手段
4a 簡易診断手段
4b 精密診断手段
4c 診断結果出力部
10 回転センサ(回転速度検出手段)
20 振動センサ(振動検出手段)
21 荷重センサ(外力検出手段)
30 軸受