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特開2024-121321複合セラミックスの製造方法、セラミックスの修復方法、及び複合セラミックス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121321
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】複合セラミックスの製造方法、セラミックスの修復方法、及び複合セラミックス
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/117 20060101AFI20240830BHJP
   C23C 4/11 20160101ALI20240830BHJP
   C23C 4/134 20160101ALI20240830BHJP
   C04B 41/88 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
C04B35/117
C23C4/11
C23C4/134
C04B41/88 U
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028360
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(71)【出願人】
【識別番号】390001801
【氏名又は名称】大阪富士工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】北 英紀
(72)【発明者】
【氏名】山下 誠司
(72)【発明者】
【氏名】中川 敬太
(72)【発明者】
【氏名】駄木 初
【テーマコード(参考)】
4K031
【Fターム(参考)】
4K031AA08
4K031AB02
4K031CB43
4K031DA04
4K031FA05
(57)【要約】
【課題】セラミックスなどの脆性材料の物理的特性を向上させる。
【解決手段】複合セラミックス1の製造方法は、セラミックスの基材2の内部に、セラミックスと化学反応する反応材を浸透又は拡散させるステップと、基材2の内部において、セラミックスと反応材の化学反応により生成物4を生成させるステップと、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックスの基材の内部に、前記セラミックスと化学反応する反応材を浸透又は拡散させるステップと、
前記基材の内部において、前記セラミックスと前記反応材の化学反応により生成物を生成させるステップと、
を備える複合セラミックスの製造方法。
【請求項2】
前記反応材を浸透又は拡散させるステップは、前記反応材の融点以上に加熱するステップを含む
請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
残留した前記反応材を除去するステップを含む
請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記セラミックスは、アルミナを含む
請求項1から3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記生成物は、スピネル型酸化物を含む
請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記反応材は、銅、マグネシウム、亜鉛、ニッケル、及びマンガンのうち少なくとも1つを含む
請求項4に記載の製造方法。
【請求項7】
前記生成物は、CuAl及びCuAlOのうち少なくとも一方を含む
請求項4に記載の製造方法。
【請求項8】
前記基材は、前記セラミックスの水プラズマ溶射により製造される
請求項1から3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記基材は、表面に亀裂を含む前記セラミックスの焼結体である
請求項1から3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
亀裂又は間隙を含むセラミックスの基材の亀裂又は間隙に、前記セラミックスと化学反応する反応材を浸透又は拡散させるステップと、
前記基材の亀裂又は間隙において、前記セラミックスと前記反応材の化学反応により生成物を生成させるステップと、
を備えるセラミックスの修復方法。
【請求項11】
アルミナを含むセラミックスの基材と、
前記基材の内部に存在する、アルミニウムと金属を含む複合酸化物と、
を備える複合セラミックス。
【請求項12】
前記複合酸化物は、少なくとも前記基材の表面近傍の亀裂又は間隙に存在する
請求項11に記載の複合セラミックス。
【請求項13】
前記複合酸化物は、スピネル型酸化物を含む
請求項12に記載の複合セラミックス。
【請求項14】
前記複合酸化物は、CuAl及びCuAlOのうち少なくとも一方を含む
請求項13に記載の複合セラミックス。
【請求項15】
前記基材の相対密度は、80%以上である
請求項11から14のいずれか1項に記載の複合セラミックス。
【請求項16】
前記基材の結晶化度は、50%以下である
請求項11から14のいずれか1項に記載の複合セラミックス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複合セラミックスの製造方法、セラミックスの修復方法、及び複合セラミックスに関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックスなどの脆性材料は、見かけ上緻密であっても、小さな亀裂や欠陥が存在すると、外力が加わったときに亀裂や欠陥の先端に応力が集中し、応力の大きさが材料強度を上回ると破壊が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2020-529379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、セラミックスなどの脆性材料の物理的特性を向上させる技術が必要であることを課題として認識した。
【0005】
本開示は、このような課題に鑑みてなされ、その目的は、セラミックスなどの脆性材料の物理的特性を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示のある態様の複合セラミックスの製造方法は、セラミックスの基材の内部に、セラミックスと化学反応する反応材を浸透又は拡散させるステップと、基材の内部において、セラミックスと反応材の化学反応により生成物を生成させるステップと、を備える。
【0007】
本開示の別の態様は、セラミックスの修復方法である。この方法は、亀裂又は間隙を含むセラミックスの基材の亀裂又は間隙に、セラミックスと化学反応する反応材を浸透又は拡散させるステップと、基材の亀裂又は間隙において、セラミックスと反応材の化学反応により生成物を生成させるステップと、を備える。
【0008】
本開示のさらに別の態様は、複合セラミックスである。この複合セラミックスは、アルミナを含むセラミックスの基材と、基材の内部に存在する、アルミニウムと金属を含む複合酸化物と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、セラミックスなどの脆性材料の物理的特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1(a)は、Alの断面を示す図であり、図1(b)は、Al-ZrOの断面を示す図である。
図2】実施の形態に係る複合セラミックスの構造を模式的に示す図である。
図3】4点曲げ試験の結果を示す図である。
図4】4点曲げ試験の結果を示す図である。
図5】4点曲げ試験の結果を示す図である。
図6】4点曲げ試験の結果を示す図である。
図7】4点曲げ試験の結果を示す図である。
図8】4点曲げ試験の結果を示す図である。
図9】4点曲げ試験の結果を示す図である。
図10】実施例1の複合セラミックスの断面の反射電子組成像を示す図である。
図11図11(a)(b)(c)は、それぞれ、実施例3、実施例4、実施例5の試験片の外観を示す図である。
図12】実施例3の試験片の微構造を示す図である。
図13】熱衝撃を加えた試験片Fの亀裂を染色した後の断面の外観を示す図である。
図14】4点曲げ試験の結果を示す図である。
図15】実施例6の複合セラミックスの断面の反射電子組成像を示す図である。
図16】実施例6の複合セラミックスの試験片のエネルギー分散型X線分光法のライン分析結果を示す図である。
図17】実施の形態に係る複合セラミックスの製造方法の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
セラミックスの強度や靱性などの物理的特性を向上させる技術について説明する。
【0012】
セラミックス材を製造する技術として、焼結やプラズマ溶射などがある。プラズマ溶射は、高温高速のプラズマジェットを熱源として、原料粒子を溶融状態にして被処理物へ吹き付けることにより成膜する技術である。とくに、プラズマトーチの冷却水を蒸気化して作動ガスとして使用する水プラズマ溶射は、他の作動ガス種と比較して安価である上、プラズマの保有エンタルピーが非常に大きく、火炎温度が高温(約30000℃)であるので、融点の高いセラミックス材であっても容易に成膜することができる。また、厚肉盛が可能であるので、大型バルク体を製造することができる。
【0013】
図1(a)(b)は、水プラズマ溶射により製造されたセラミックス材の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。図1(a)は、Alの断面を示し、図1(b)は、Al-ZrOの断面を示す。断面は緻密に見えるが、拡大すると、材料が層状に堆積しており、微細な間隙が存在することが分かる。上述したように、この微細な間隙がセラミックス材の強度の低下をもたらしうる。したがって、この微細な間隙を何らかの材料で充填すれば、セラミックス材の強度や靱性などの物理的特性を向上させることができると考えられる。
【0014】
多孔体などのように、空孔の径や体積が比較的大きい場合には、内部の空孔を充填材などにより容易に充填することができる。しかし、水プラズマ溶射により製造されたセラミックス材のように、材料の密度が高く、内部に存在する間隙が微細である場合は、従来の方法で間隙に充填材を充填するのは困難である。
【0015】
このような課題を解決するために、本実施の形態の複合セラミックスの製造方法は、セラミックスの基材の内部に、セラミックスと化学反応する反応材を浸透又は拡散させるステップと、基材の内部において、セラミックスと反応材の化学反応により生成物を生成させるステップとを備える。基材を構成するセラミックスと化学反応する反応材を使用することにより、基材の内部への反応材の浸透又は拡散を促進することができるので、微細な間隙も生成物で充填することができる。これにより、セラミックスの強度や靱性などの物理的特性を向上させることができる。また、物理的な衝撃や化学変化などによって生じた亀裂や間隙も生成物で充填することができるので、セラミックスの基材の亀裂や間隙を修復して物理的特性を向上させることができる。水プラズマ溶射により製造されたセラミックスの基材だけでなく、焼結などにより製造されたセラミックスの基材であっても、同様の方法で複合セラミックスを製造したり、セラミックスの基材を修復したりすることができる。
【0016】
反応材を浸透又は拡散させるステップは、反応材の融点以上に加熱するステップを含んでもよい。これにより、基材の表面近傍に存在する亀裂や間隙に液体の反応材を浸透又は拡散させることができるので、亀裂や間隙を生成物で効果的に充填することができる。
【0017】
生成物を生成させるステップは、セラミックスと反応材の化学反応が促進される温度に加熱するステップを含んでもよい。これにより、亀裂や間隙を生成物で効率良く充填することができる。
【0018】
本実施の形態の複合セラミックスの製造方法は、セラミックスと化学反応せずに残留した不要な反応材を除去するステップを更に含んでもよい。酸を含む液体などにより複合セラミックスを洗浄することにより反応材を除去してもよい。
【0019】
セラミックスは、アルミナ(Al)などの任意の物質から構成されてもよい。
【0020】
反応材は、セラミックスを構成する物質と化学反応する物質を含む。反応材は、銅(Cu)、マグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)、ニッケル(Ni)、及びマンガン(Mn)のうち少なくとも1つを含んでもよい。銅は、アルミナとの反応性が高いので、セラミックスの基材がアルミナを含む場合にはとくに好適である。
【0021】
生成物は、スピネル型酸化物を含んでもよい。生成物は、CuAl及びCuAlOのうち少なくとも一方を含んでもよい。生成物は、MgAl、ZnAl、NiAl、MnAlのうち少なくとも1つを含んでもよい。
【0022】
基材は、セラミックスの水プラズマ溶射により製造されたものであってもよい。基材は、セラミックスの焼結体であってもよい。基材は、その他の任意の方法で製造されたセラミックスであってもよい。基材は、表面に亀裂や間隙を含むものであってもよい。この場合、反応材が亀裂や間隙に浸透してセラミックスと化学反応し、亀裂や間隙が生成物で充填されてもよい。基材は、アモルファスであってもよい。この場合、反応材が基材の内部に拡散してセラミックスと化学反応し、微細な間隙が生成物で充填されてもよい。
【0023】
基材の相対密度は、70%以上、80%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上であってもよい。上述したように、本開示の技術によれば、基材の相対密度が高いセラミックス材であっても、内部に含まれる亀裂や間隙を生成物で効果的に充填して、物理的特性を向上させることができる。
【0024】
基材の結晶化度は、50%以下、45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、9%以下、8%以下、7%以下、6%以下、5%以下、4%以下、3%以下、2%以下、1%以下であってもよい。上述したように、基材の結晶化度が比較的低く、アモルファスを含む場合は、反応材が基材の内部に拡散してセラミックスとの化学反応が進行しやすいので、とくに好適である。結晶化度の測定方法には、X線回折パターンにおける結晶成分のピークの半値幅を用いて結晶化度を算出するX線回折法、ラマン分光スペクトルの強度又は半値幅を用いて結晶化度を算出する方法、密度法、熱分析法、NMR法、IR法などがあるが、上記の結晶化度の数値は、X線回折法で測定したものとする。
【0025】
本実施の形態のセラミックスの修復方法は、亀裂又は間隙を含むセラミックスの基材の亀裂又は間隙に、セラミックスと化学反応する反応材を浸透又は拡散させるステップと、基材の亀裂又は間隙において、セラミックスと反応材の化学反応により生成物を生成させるステップと、を備える。これにより、亀裂や間隙が生じて物理的特性が低下したセラミックスの亀裂や間隙を修復し、セラミックスの強度や靱性などの物理的特性を向上させることができる。
【0026】
反応材を浸透又は拡散させるステップは、反応材の融点以上に加熱するステップを含んでもよい。これにより、基材の表面近傍に存在する亀裂や間隙に液体の反応材を浸透又は拡散させることができるので、亀裂や間隙を生成物で効果的に修復することができる。
【0027】
生成物を生成させるステップは、セラミックスと反応材の化学反応が促進される温度に加熱するステップを含んでもよい。これにより、亀裂や間隙を生成物で効率良く修復することができる。
【0028】
本実施の形態のセラミックスの修復方法は、セラミックスと化学反応せずに残留した反応材を除去するステップを更に含んでもよい。酸を含む液体などにより複合セラミックスを洗浄することにより反応材を除去してもよい。
【0029】
セラミックスは、アルミナ(Al)などの任意の物質から構成されてもよい。
【0030】
反応材は、セラミックスを構成する物質と化学反応する物質を含む。反応材は、銅(Cu)、マグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)、ニッケル(Ni)、及びマンガン(Mn)のうち少なくとも1つを含んでもよい。銅は、アルミナとの反応性が高いので、セラミックスの基材がアルミナを含む場合にはとくに好適である。また、マンガンは、一般的な酸化数であるMn2+が3d電子を5個有しており、高スピン状態でも低スピン状態でも不対電子に由来する常磁性を示すので、磁性材料が用いられる応用、例えば核磁気共鳴装置のプローブなどに用いることができる。
【0031】
生成物は、スピネル型酸化物を含んでもよい。生成物は、CuAl及びCuAlOのうち少なくとも一方を含んでもよい。生成物は、MgAl、ZnAl、NiAl、MnAlのうち少なくとも1つを含んでもよい。
【0032】
基材は、セラミックスの水プラズマ溶射により製造されたものであってもよい。基材は、セラミックスの焼結体であってもよい。基材は、その他の任意の方法で製造されたセラミックスであってもよい。基材は、表面に亀裂や間隙を含むものであってもよい。
【0033】
本実施の形態の複合セラミックスは、アルミナを含むセラミックスの基材と、基材の内部に存在する、アルミニウムと金属を含む複合酸化物と、を備える。
【0034】
図2は、実施の形態に係る複合セラミックスの構造を模式的に示す。複合セラミックス1は、セラミックスの基材2と、基材2の表面近傍に存在する亀裂3から基材2の内部に浸透又は拡散された反応材とセラミックスの化学反応により生成された生成物4とを備える。亀裂3の内部に浸透又は拡散された反応材のうち、基材2のセラミックスと化学反応しなかったものは、そのままの形で、又は酸化物として、亀裂3の内部に充填される。
【0035】
複合酸化物は、少なくとも基材2の表面近傍の亀裂3又は間隙に存在してもよい。
【0036】
複合酸化物は、スピネル型酸化物を含んでもよい。複合酸化物は、CuAl及びCuAlOのうち少なくとも一方を含んでもよい。複合酸化物は、MgAl、ZnAl、NiAl、MnAlのうち少なくとも1つを含んでもよい。
【0037】
[水プラズマ溶射により作製したAl材を用いた実施例]
水プラズマ溶射により作製したAl材を使用して4×3×40mmの試験片を作製した。これを比較実施例1のAlの試験片とする。Cuの粉末(ニラコ株式会社製、平均粒径:100μm)1.27gを、1重量%のCMC(カルボキシメチルセルロース)水溶液に加え、体積比でCu:溶液=10:1となるように調整した。調整した溶液をAlの試験片の上面に塗布して乾燥した。試験片を大気圧中で1200℃に1時間加熱し、CuをAlの内部に浸透、拡散させるとともに、CuとAlを化学反応させて、実施例1の複合セラミックスの試験片を作製した。このようにして作製した比較実施例1の試験片と実施例1の試験片を使用して4点曲げ試験を実施した。
【0038】
図3図4、及び図5は、4点曲げ試験の結果を示す。図3において、丸印は、比較実施例1の試験片の測定値を示し、黒三角印は、上記の方法で1回目に作製した実施例1の試験片の測定値を示し、白三角印は、上記の方法で2回目に作製した実施例1の試験片の測定値を示す。1回目に作製した実施例1の試験片と、2回目に作製した実施例1の試験片は、いずれも、比較実施例1の試験片より高い曲げ強度を示した。これにより、実施の形態の方法によってAl材の曲げ強度が向上されることが確認された。また、曲げ強度の向上に再現性があることが確認された。
【0039】
[間隙量依存性]
溶射距離を350mm、300mm、250mmとして水プラズマ溶射により作製したAl材を使用して、上記と同様の方法で比較実施例2のAlの試験片A、B、Cと実施例2の複合セラミックスの試験片A’、B’、C’を作製した。水プラズマ溶射の溶射距離が長いと、構造欠陥量の多い粗いAl材が作製される。このようにして作製した比較実施例2の試験片A、B、Cと実施例2の試験片A’、B’、C’を使用して4点曲げ試験を実施した。
【0040】
図6図7図8、及び図9は、4点曲げ試験の結果を示す。図6において、丸印は、比較実施例2の試験片の測定値を示し、三角印は、実施例2の試験片の測定値を示す。実施例2の試験片A’、B’、C’は、いずれも、比較実施例2の試験片A、B、Cより高い曲げ強度を示した。図8に示すように、溶射距離が長いほど、Al材の表面粗さRaが大きく、比較実施例2の試験片の曲げ強度が低くなるが、図9に示すように、実施例2の試験片の曲げ強度は逆に高くなっている。これは、表面が粗いAl材の方が、内部にCuが浸透、拡散しやすくなり、内部の間隙が効果的に充填されるためである可能性がある。
【0041】
[内部構造評価]
図10は、実施例1の複合セラミックスの断面の反射電子組成像(COMPO像)を示す。CuがAlと反応しながら試料の深部まで浸透、拡散していることが分かる。試料の内部にはCuOが偏析しており、CuAlOも存在している。CuAlOは、下記の化学反応により生成されたと考えられる。
2Cu+O→2CuO
CuO+Al→CuAl
2CuO+Al→2CuAlO+(1/2)O
O2が低い場合は、下記の化学反応も進行すると考えられる。
4CuAlO→2CuAl+CuO+(3/2)O
【0042】
[焼結により作製したAl材を用いた実施例]
水プラズマ溶射により作製したAl材から切り出した約10mmの試験片Dと、市販のAl焼結体(SSA-T、ニッカトー、Al:99.5%以上)から切り出した約10mmの試験片Eを用いて、実施例1と同様の方法で複合セラミックスの試験片を作製した。試験片Dの重量:Cu=1:0.048となる重量のCuを用いて試験片Dから作製した試験片(実施例3)、試験片Dの重量:Cu=1:0.007となる重量のCuを用いて試験片Dから作製した試験片(実施例4)、試験片Eの重量:Cu=1:0.16となる重量のCuを用いて試験片Eから作製した試験片(実施例5)を使用して4点曲げ試験を実施した。なお、AlとCuの反応理論比は、モル比で1:1、重量比で1:0.62である。
【0043】
図11(a)(b)(c)は、それぞれ、実施例3、実施例4、実施例5の試験片の外観を示す。上段及び中段は、切断面の外観を示し、下段は、切断した残りの部分の上面の外観を示す。図12は、実施例3の試験片の微構造を示す。実施例3の試験片では、底部までCuが浸透、拡散している。実施例4の試験片では、表面の近傍にCuが浸透、拡散している。実施例5の試験片では、Cuはほとんど内部に浸透、拡散していない。これは、焼結体が非常に緻密であり、亀裂や間隙がほとんどないためであると考えられる。
【0044】
Al焼結体から切り出した試験片Eに亀裂を導入するために、約300℃に加熱した後、水中に入れることにより、ΔT=300Kの熱衝撃を加えて試験片Fを作製した。図13は、熱衝撃を加えた試験片Fの亀裂を染色した後の断面の外観を示す。熱衝撃によって試験片Fに亀裂が導入されたことが分かる。Al焼結体から切り出した試験片Eに亀裂を導入するために、試験片Eの表面を切削加工して試験片Gを作製した。
【0045】
試験片E(比較実施例3)、試験片Eから実施例1と同様にして作製した試験片(実施例4)、試験片F(比較実施例4)、試験片Fから実施例1と同様にして作製した試験片(実施例6)、試験片Gから実施例1と同様にして作製した試験片(実施例7)を使用して4点曲げ試験を実施した。
【0046】
図14は、4点曲げ試験の結果を示す。実施例4の試験片は、わずかであるが比較実施例3の試験片より高い曲げ強度を示した。実施例6の試験片は、比較実施例3の試験片4よりかなり高い曲げ強度を示し、亀裂が導入される前の比較実施例3と同等の曲げ強度まで回復した。実施例7の試験片も、実施例6の試験片と同等以上の曲げ強度を示し、亀裂が導入される前の比較実施例3と同等の曲げ強度まで回復した。これにより、実施の形態の方法によって、亀裂が生じたAlの焼結体の亀裂を修復し、強度を向上させることができることが確認された。
【0047】
[内部構造評価]
図15は、実施例6の複合セラミックスの断面の反射電子組成像(COMPO像)を示す。図16は、実施例6の複合セラミックスの試験片のエネルギー分散型X線分光法(EDX)のライン分析結果を示す。CuがAlの界面に、Al-Cu複合酸化物が生成されていることが分かる。CuがAlの表面欠陥に浸透、拡散していることが確認された。
【0048】
図17は、実施の形態に係る複合セラミックスの製造方法の手順を示すフローチャートである。セラミックスの基材の表面に、セラミックスと化学反応する反応材を塗布する(S10)。反応材の融点以上に加熱して、基材の内部に反応材を浸透又は拡散させる(S12)。基材の内部において、セラミックスと反応材の化学反応により生成物を生成させる(S14)。残留した反応材を除去する(S16)。
【0049】
以上、本開示を、実施例をもとに説明した。この実施例は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本開示の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0050】
1 複合セラミックス、2 基材、3 亀裂、4 生成物。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17