IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 沖電気工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-性能予測装置及び性能予測方法 図1
  • 特開-性能予測装置及び性能予測方法 図2
  • 特開-性能予測装置及び性能予測方法 図3
  • 特開-性能予測装置及び性能予測方法 図4
  • 特開-性能予測装置及び性能予測方法 図5
  • 特開-性能予測装置及び性能予測方法 図6
  • 特開-性能予測装置及び性能予測方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121327
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】性能予測装置及び性能予測方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/526 20060101AFI20240830BHJP
【FI】
G01S7/526 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028367
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】000000295
【氏名又は名称】沖電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001461
【氏名又は名称】弁理士法人きさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】森下 到
【テーマコード(参考)】
5J083
【Fターム(参考)】
5J083AA05
5J083AC18
5J083AC29
5J083AE03
(57)【要約】
【課題】対象の信号の波形における有色性又は歪度の検出性能を短時間で予測することができる性能予測装置及び性能予測方法を提供することを目的とするものである。
【解決手段】性能予測装置は、対象の信号を正規化する信号正規化部と、正規化された信号から、自己相関又はバイ相関の期待値を算出する期待値算出部と、正規化された信号から、自己相関又はバイ相関の分散を算出する分散算出部と、期待値と、分散とに基づいて、有色性又は歪度の検出指標を算出する検出指標算出部と、を備えている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の信号を正規化する信号正規化部と、
正規化された前記信号から、自己相関又はバイ相関の期待値を算出する期待値算出部と、
正規化された前記信号から、自己相関又はバイ相関の分散を算出する分散算出部と、
前記期待値と、前記分散とに基づいて、有色性又は歪度の検出指標を算出する検出指標算出部と、を備えた性能予測装置。
【請求項2】
前記期待値算出部は、自己相関の期待値E[C]を下記の式(a)によって算出するものであり、nは時間を表すインデックスであり、r=1,2,...,Lであり、Nは前記信号を含むように予め決められたデータ長であり、Lは予め決められたrの最大値である請求項1に記載の性能予測装置。
【数72】
【請求項3】
前記分散算出部は、自己相関の分散V[C]を下記の式(b)によって算出するものであり、mはnとは異なる時間を表すインデックスである請求項2に記載の性能予測装置。
【数73】
【請求項4】
前記検出指標算出部は、下記の式(c)によって算出した有色性の期待値E[Hauto]を有色性の前記検出指標とする請求項3に記載の性能予測装置。
【数74】
【請求項5】
前記期待値算出部は、バイ相関の期待値E[Crq]を下記の式(d)によって算出するものであり、nは時間を表すインデックスであり、r=1,2,...,L-1であり、q=2,3,...,Lであり、Nは前記信号を含むように予め決められたデータ長であり、Lは予め決められたqの最大値である請求項1に記載の性能予測装置。
【数75】
【請求項6】
前記分散算出部は、バイ相関の分散V[Crq]を下記の式(e)及び式(f)によって算出するものであり、mはnとは異なる時間を表すインデックスである請求項5に記載の性能予測装置。
【数76】
【数77】
【請求項7】
前記検出指標算出部は、下記の式(g)によって算出した歪度の期待値E[Hbi]を歪度の前記検出指標とする請求項6に記載の性能予測装置。
【数78】
【請求項8】
対象の信号を正規化するステップと、
正規化された前記信号から、自己相関又はバイ相関の期待値を算出するステップと、
正規化された前記信号から、自己相関又はバイ相関の分散を算出するステップと、
前記期待値と、前記分散とに基づいて、有色性又は歪度の検出指標を算出するステップと、を含む性能予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、性能予測装置及び性能予測方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、海洋生物が発する鳴音などの、対象物が放射する信号をとらえて分析することにより、対象物の存在を検出することが知られている。対象物が連続的に信号を放射している場合には、受信データを高速フーリエ変換などによって周波数分析することで対象物の存在と対象物が放射している信号の周波数を知ることができる。
【0003】
一方、対象物が一時的に放射する信号を検出する場合、受信データの有色性及び歪度を算出して信号の検出を行うことが知られている。受信データの有色性及び歪度は、様々な信号処理に用いられる。例えば、非特許文献1には、有色性及び歪度を用いて電力のスポット価格の時系列データを分析することによって、スポット価格の変動が通常と異なることを検出することが開示されている。また、特許文献1には、被検体に由来する原信号の有色性及び定常性(歪度)を用いて信号を分離することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-311723号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Phillip Wild, Melvin J. Hinich and John Foster著, “The Use of Trimming to Improve the Performance of Tests for Nonlinear Serial Dependence with Application to the Australian National Electricity Market”,2008年2月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、有色性及び歪度のうち、何れの検出性能が高いかは信号の波形に依存する。対象とする信号の波形に対して有色性及び歪度の何れを用いるかを決定するためには、何れの検出性能が高いかを予め知る必要がある。
【0007】
有色性及び歪度の検出性能を求める従来技術として、有色性及び歪度の期待値を複数回の試行結果の平均から近似値として求める方法がある。しかしながら、この場合は、算出した結果は誤差を有する。そして、この誤差を十分に小さくするためには、試行回数を十分に多くする必要があり、そのために計算に多くの時間を要するという問題があった。
【0008】
本発明は、上記のような課題を背景としたものであり、対象の信号の波形における有色性又は歪度の検出性能を短時間で予測することができる性能予測装置及び性能予測方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る性能予測装置は、対象の信号を正規化する信号正規化部と、正規化された信号から、自己相関又はバイ相関の期待値を算出する期待値算出部と、正規化された信号から、自己相関又はバイ相関の分散を算出する分散算出部と、期待値と、分散とに基づいて、有色性又は歪度の検出指標を算出する検出指標算出部と、を備えている。
【0010】
本発明に係る性能予測方法は、対象の信号を正規化するステップと、正規化された信号から、自己相関又はバイ相関の期待値を算出するステップと、正規化された信号から、自己相関又はバイ相関の分散を算出するステップと、期待値と、分散とに基づいて、有色性又は歪度の検出指標を算出するステップと、を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明の性能予測装置及び性能予測方法によると、正規化された信号から自己相関又はバイ相関の期待値及び分散を算出し、期待値と分散に基づいて有色性又は歪度の検出指標を算出することで、有色性又は歪度の検出性能を短時間で予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】有色性Hautoの検出性能に関わる指標を説明する図である。
図2】実施の形態1に係る性能予測装置の概略構成図である。
図3図2の性能予測装置の構成の一例を示すハードウェア構成図である。
図4図2の性能予測装置の構成の他の例を示すハードウェア構成図である。
図5】式(64)の各項の要素の組合せを示す表である。
図6】式(64)の各項の要素の組合せを示す表である。
図7】式(64)の各項の要素の組合せを示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
まず、一般的な有色性及び歪度のそれぞれの算出方法について説明する。受信データの時系列x (0)の信号s (0)と雑音e (0)との和は、下記の式(1)で表される。
【数1】
【0014】
ここで、n=0,1,...,N-1である。また、nは時間を表すインデックスであり、Nは一時的に放射された信号を含むように予め決められたデータ長である。また、上付きの(0)は、この後に続く処理を行う前のデータであることを表す。また、異なる時間インデックスの2つの雑音e (0)とe (0)(n≠m)は無相関であると仮定する。受信データの時系列x (0)は、下記の式(2)の通り、雑音e (0)の期待値μe(0)と標準偏差σe(0)で正規化される。
【数2】
【0015】
これにより、信号s (0)と雑音e (0)はそれぞれ下記の式(3)及び式(4)の通り正規化される。
【数3】
【数4】
【0016】
正規化された雑音eの期待値E[e]と分散V[e]はそれぞれ下記の式(5)及び式(6)となる。
【数5】
【数6】
【0017】
また、異なる時間インデックスの2つの雑音e (0)とe (0)(n≠m)は無相関であることから、正規化された雑音eとe(n≠m)も無相関である。
【0018】
正規化された受信データxから以下のように有色性が算出される。まず、r=1,2,...,Lに対して、下記の式(7)から自己相関Cを算出する。ここで、Lは予め決められたrの最大値である。
【数7】
【0019】
そして、下記の式(8)によって自己相関Cから有色性Hautoを算出する。そして、算出された有色性Hautoが、予め決められた閾値を超えた場合、信号があると判定する。
【数8】
【0020】
ここで、受信データに信号sが含まれない、つまりx=eの場合を考える。その場合の自己相関C (e)は、下記の式(9)となる。
【数9】
【0021】
この場合の自己相関C (e)の期待値E[C (e)]は、下記の式(10)である。
【数10】
【0022】
ここで、r>0より、n≠n+rのため、雑音eとen+rは無相関であり、E[en+r]=E[e]E[en+r]が成り立つ。式(10)では、式(5)よりE[e]=E[en+r]=0であることを用いている。
【0023】
次に自己相関C (e)の分散V[C (e)]は、下記の式(11)となる。
【数11】
【0024】
ここで、r>0より、n≠n+rのため、雑音eとen+rは無相関であり、E[e n+r ]=E[e ]E[en+r ]が成り立つ。そこで、式(6)よりE[e ]=E[en+r ]=1を用いると、下記の式(12)が成り立つ。
【数12】
【0025】
また、式(11)の括弧内の2項目については、n≠m及びr>0より、4つの項e、en+r、e、em+rは互いに無相関である。そのため、式(5)よりE[e]=E[en+r]=E[e]=E[em+r]=0となり、下記の式(13)が成り立つ。
【数13】
【0026】
従って、式(11)に、式(12)及び式(13)を代入すると、下記の式(14)となる。
【数14】
【0027】
次に雑音に対する有色性Hauto (e)の期待値E[Hauto (e)]と分散V[Hauto (e)]について考える。雑音に対する自己相関C (e)は、式(9)のとおりN-L個の和で表されているため、中心極限定理より正規分布に従っていると仮定する。つまり式(10)及び式(14)におけるE[C (e)]=0及び分散V[C (e)]=1/(N-L)の正規分布に従っているとする。このとき、自己相関C (e)を標準正規分布に従うように正規化した量の二乗値のL個の和は下記の式(15)で表され、自由度Lのカイ二乗分布に従い、期待値はL、分散は2Lである。
【数15】
【0028】
ここで、有色性を算出する式(8)を見ると、式(15)から期待値Lを減算し、標準偏差(2L)1/2で割る計算を行っている。そのため、雑音に対する有色性の期待値E[Hauto (e)]及び分散V[Hauto (e)]はそれぞれ下記の式(16)及び式(17)となる。
【数16】
【数17】
【0029】
続いて、正規化された受信データxから以下のように歪度が算出される。まず、r=1,2,...,L-1、q=2,3,...,Lに対して、式(18)からバイ相関(bicorrelation)Crqを算出する。ここで、r<qであり、Lは予め定められたqの最大数である。
【数18】
【0030】
そして、歪度Hbiをバイ相関Crqから下記の式(19)によって算出する。算出された歪度Hbiが、予め設定された閾値を超えた場合、信号があると判定する。
【数19】
【0031】
ここで、受信データに信号sが含まれない、つまりx=eの場合を考える。その場合のバイ相関Crqは、下記の式(20)となる。
【数20】
【0032】
そして、バイ相関Crqの期待値E[Crq (e)]は、下記の式(21)となる。
【数21】
【0033】
ここで、0<r<qより、n、n+r及びn+qは互いに異なるため、雑音e、en+r、及びen+qは互いに無相関であり、E[en+rn+q]=E[e]E[en+r]E[en+q]が成り立つ。また、式(21)では、式(5)より、E[e]=E[en+r]=E[en+q]=0であることを用いている。
【0034】
次にバイ相関Crq (e)の分散V[Crq (e)]は、下記の式(22)である。
【数22】
【0035】
ここで、0<r<qより、n、n+r及びn+qは互いに異なるため、雑音e、en+r、及びen+qは互いに無相関であり、E[e n+r n+q ]=E[e ]E[en+r ]E[en+q ]が成り立つ。また、式(6)より、E[e ]=E[en+r ]=E[en+q ]=1であるため、式(23)が成り立つ。
【数23】
【0036】
また、式(22)の括弧内の2項目については、n≠m及び0<r<qのため、6つの要素の添え字n、n+r、n+q、m、m+r、及びm+qのうち2つは必ず異なる。例えば、n=m+r、且つn+r=m+qとなる可能性はあるが、残る2つの要素n+q及びmは必ず異なる。なぜなら前者2つの関係からq=2rであり、これをn+q+mに代入するとn+2r=mとなり、1つ目の関係n=m+rも満足するためには、r=0とならなければならず、r>0の前提と矛盾するからである。すると、この場合はE[en+rn+qm+rm+q]=E[e n+r n+q]=E[e ]E[en+r ]E[en+q]E[e]=0である。このように6つの要素のうち少なくとも2つの要素は異なるため、n≠mに対して常にE[en+rn+qm+rm+q]=0であり、下記の式(24)となる。
【数24】
【0037】
従って、式(22)に式(23)及び式(24)を代入すると、下記の式(25)となる。
【数25】
【0038】
次に雑音に対する歪度Hbi (e)の期待値E[Hbi (e)]と分散V[Hbi (e)]について考える。雑音に対するバイ相関Crq (e)は、式(20)のとおりN-L個の和で表されているため、中心局限定理より正規分布にしたがっていると仮定する。つまり式(21)及び式(25)における期待値E[Crq (e)]=0、分散V[Crq (e)]=1/(N-L)の正規分布に従っているとする。このとき、バイ相関Crq (e)を標準正規分布に従うように正規化した量(N-L)1/2rq (e)の二乗値の(L-1)L/2個の和は、下記の式(26)となり、自由度(L-1)L/2のカイ二乗分布に従い、その期待値は(L-1)L/2、分散は(L-1)Lである。
【数26】
【0039】
ここで、歪度を算出する式(19)を見ると、式(26)からその期待値(L-1)L/2を減算し、標準偏差{(L-1)L}1/2で割る計算を行っている。そのため、雑音に対する歪度の期待値E[Hbi (e)]及び分散V[Hbi (e)]は、それぞれ下記の式(27)及び式(28)となる。
【数27】
【数28】
【0040】
有色性Hauto及び歪度Hbiのうちの何れの検出性能が高いかは信号の波形に依存する。対象とする信号の波形に対して有色性Hauto及び歪度Hbiの何れを用いるかを決めるためには、何れの検出性能が高いかを予め知る必要がある。ここで、有色性Hautoの検出性能に関わる指標を求める式として、下記の式(29)を定義する。
【数29】
【0041】
図1は、有色性Hautoの検出性能に関わる指標を説明する図である。図1に示すように、dautoは信号を含む受信データに対する有色性の期待値E[Hauto]が雑音に対する有色性Hauto (e)のばらつきからどれだけ飛び出しているかを表す指標であり、以下では検出指標と呼ぶ。そして、信号を検出するための検出処理に用いられる検出閾値Tautoに対する検出指標dautoの比dauto/Tautoが大きいほど、有色性の検出性能が高いことを意味する。
【0042】
ここで、式(16)及び式(17)に示すように、E[Hauto (e)]=0、及びV[Hauto (e)]=1のため、有色性に対する検出指標dautoは、下記の式(30)となる。
【数30】
【0043】
信号を含む受信データに対する有色性の期待値E[Hauto]は、雑音の系列e(n=0,1,...,N-1)を擬似乱数によって発生させ、正規化された受信データを下記の式(31)によって作成して、式(7)及び式(8)によって有色性を算出する。
【数31】
【0044】
上記の有色性の算出を発生させる雑音の系列を変えながら何回も試行し、下記の式(32)を用いて、それらの結果の平均値を算出することで有色性の期待値E[Hauto]の近似値を得ることができる。ここでHauto (k)はk番目(ただし、k=1,2,...,K)に発生させた雑音に対する有色性であり、Kは試行回数である。
【数32】
【0045】
歪度Hbiについても、有色性Hautoと同様にその検出指標dbiは、下記の式(33)となる。
【数33】
【0046】
そして、信号を検出するための検出処理に用いられる検出閾値Tbiに対する検出指標dbiの比dbi/Tbiが大きいほど歪度の検出性能が高いことを意味する。ここでE[Hbi]は信号を含む受信データに対する歪度の期待値である。有色性と同様に、歪度の期待値E[Hbi]も、複数回の試行によって式(18)及び式(19)から得られる複数個の歪度の平均値を下記の式(34)によって算出することで近似値を得ることができる。ここでHbi (k)はk番目(ただし、k=1,2,...,K)に発生させた雑音に対する歪度であり、Kは試行回数である。
【数34】
【0047】
ここで、上記のように複数回の試行結果の平均から期待値E[Hauto]及び期待値E[Hbi]を求める場合、算出結果の誤差を十分に小さくするために、試行回数Kを十分に多くする必要がある。例えば、K回の試行から得られた有色性Hauto (k)(k=1,2,…,K)の分散をVap[Hauto]とすると、近似値として得られる平均値Eap[Hauto]は、Vap[Hauto]/Kだけの分散を持つことが知られており、Kを大きくするほど近似値として得られる平均値の分散は小さくなる。同様に歪度についても試行回数Kを大きくするほど近似値として得られる平均値Eap[Hbi]の分散は小さくなる。ただし、この場合は計算に多くの時間が必要となってしまう。これに対し、以下に説明する実施の形態1の性能予測装置100は、短時間で、有色性の検出指標dauto及び歪度の検出指標dbiを求めることができる。
【0048】
実施の形態1.
図2は、実施の形態1に係る性能予測装置100の概略構成図である。性能予測装置100は、ソーナー等により受信された信号s (0)(n=0,1,2,...,N-1)における有色性及び歪度の検出性能を予測する装置である。信号s (0)(n=0,1,2,...,N-1)は、例えば海洋中の対象物から一時的に放射される信号である。
【0049】
図2に示すように、性能予測装置100は、機能部として、信号正規化部1と、自己相関期待値算出部2と、自己相関分散算出部3と、有色性検出指標算出部4と、バイ相関期待値算出部5と、バイ相関分散算出部6と、歪度検出指標算出部7とを有している。
【0050】
信号正規化部1は、雑音レベルNLを用いて受信した信号s (0)(n=0,1,2,...,N-1)を正規化する。雑音レベルNLは、雑音強度を測定する既知の雑音強度測定装置によって測定されたもの、又は信号s (0)を受信した環境に応じて予め実験等により求められたものである。正規化された信号s(n=0,1,2,...,N-1)は、自己相関期待値算出部2、自己相関分散算出部3、バイ相関期待値算出部5及びバイ相関分散算出部6に入力される。
【0051】
自己相関期待値算出部2は、正規化された信号s(n=0,1,2,...,N-1)から自己相関の期待値E[C](r=1,2,...,L)を算出する。算出された自己相関の期待値E[C](r=1,2,...,L)は有色性検出指標算出部4に入力される。
【0052】
自己相関分散算出部3は、正規化された信号s(n=0,1,2,...,N-1)から自己相関の分散V[C](r=1,2,...,L)を算出する。自己相関の分散V[C](r=1,2,...,L)は有色性検出指標算出部4に入力される。
【0053】
有色性検出指標算出部4は、自己相関の期待値E[C]及び分散V[C](r=1,2,...,L)から有色性の期待値E[Hauto]を算出し、算出結果を検出指標dautoとして出力する。
【0054】
バイ相関期待値算出部5は、正規化された信号s(n=0,1,2,...,N-1)からバイ相関の期待値E[Crq](r=1,2,...,L-1、q=2,3,...,L、r<q)を算出する。バイ相関の期待値E[Crq](r=1,2,...,L-1、q=2,3,...,L、r<q)歪度検出指標算出部7に入力される。
【0055】
バイ相関分散算出部6は、正規化された信号s(n=0,1,2,...,N-1)からバイ相関の分散V[Crq](r=1,2,...,L-1、q=2,3,...,L、r<q)を算出する。バイ相関の分散V[Crq](r=1,2,...,L-1、q=2,3,...,L、r<q)は歪度検出指標算出部7に入力される。
【0056】
歪度検出指標算出部7は、バイ相関の期待値E[Crq]及び分散V[Crq](r=1,2,...,L-1、q=2,3,...,L、r<q)から歪度の期待値E[Hbi]を算出し、算出結果を歪度の検出指標dbiとして出力する。
【0057】
図3は、図2の性能予測装置100の構成の一例を示すハードウェア構成図である。性能予測装置100の各機能がハードウェアで実行される場合、図2の性能予測装置100における信号正規化部1、自己相関期待値算出部2、自己相関分散算出部3、有色性検出指標算出部4、バイ相関期待値算出部5、バイ相関分散算出部6、及び歪度検出指標算出部7の各機能は、処理回路21により実現される。
【0058】
各機能がハードウェアで実行される場合、処理回路21は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、又はこれらを組み合わせたものが該当する。性能予測装置100は、信号正規化部1、自己相関期待値算出部2、自己相関分散算出部3、有色性検出指標算出部4、バイ相関期待値算出部5、バイ相関分散算出部6、及び歪度検出指標算出部7の各部の機能それぞれを処理回路21で実現してもよいし、各部の機能を1つの処理回路21で実現してもよい。
【0059】
図4は、図2の性能予測装置100の構成の他の例を示すハードウェア構成図である。性能予測装置100の各種機能がソフトウェアで実行される場合、図2の性能予測装置100は、図4に示すように、プロセッサ22及びメモリ23で構成される。性能予測装置100において、信号正規化部1、自己相関期待値算出部2、自己相関分散算出部3、有色性検出指標算出部4、バイ相関期待値算出部5、バイ相関分散算出部6、及び歪度検出指標算出部7の各機能は、プロセッサ22及びメモリ23により実現される。
【0060】
各機能がソフトウェアで実行される場合、性能予測装置100において、信号正規化部1、自己相関期待値算出部2、自己相関分散算出部3、有色性検出指標算出部4、バイ相関期待値算出部5、バイ相関分散算出部6、及び歪度検出指標算出部7の機能は、ソフトウェア、ファームウェア、又はソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。ソフトウェア及びファームウェアは、プログラムとして記述され、メモリ23に格納される。プロセッサ22は、メモリ23に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、各部の機能を実現する。
【0061】
メモリ23として、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable and Programmable ROM)及びEEPROM(Electrically Erasable and Programmable ROM)等の不揮発性又は揮発性の半導体メモリ等が用いられる。また、メモリ23として、例えば、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、CD(Compact Disc)、MD(Mini Disc)及びDVD(Digital Versatile Disc)等の着脱可能な記録媒体が用いられてもよい。
【0062】
このように、性能予測装置100は、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア又はこれらの組み合わせによって、上述した各機能を実現することができる。
【0063】
続いて、性能予測装置100の動作の説明をする前に、有色性及び歪度の検出指標を算出する原理について説明する。
【0064】
有色性の検出指標dautoは以下の原理によって算出される。有色性の検出指標dautoを算出するために、まず自己相関の期待値E[C]を算出する。自己相関Cの定義(式(7))より、自己相関Cの期待値E[C]は、下記の式(35)となる。
【数35】
【0065】
ここで、下記の式(36)に示すように、xは正規化された信号sと雑音eの和であり、式(5)より雑音eの期待値E[e]は0である。
【数36】
【0066】
また、式(6)より、雑音eの分散V[e]が1であることより、下記の式(37)が成り立つ。
【数37】
【0067】
そして、式(36)を式(35)に代入すると、下記の式(38)となる。
【数38】
【0068】
ここで、信号sは確定的な値であり、E[s]=sであるため、式(38)の括弧内の各項は、下記の式(39)となる。
【数39】
【0069】
また、時間の異なる2つの雑音e、en+rは互いに無相関のため、下記の式(40)が成り立つ。
【数40】
【0070】
さらに、式(5)より、E[e]=E[en+r]=0なので、下記の式(41)が成り立つ。
【数41】
【0071】
そして、式(38)に式(39)及び式(41)を代入すると、下記の式(42)が得られる。
【数42】
【0072】
次に自己相関の分散V[C]を算出する。分散の定義より、分散V[C]は下記の式(43)で表される。
【数43】
【0073】
式(43)の右辺の1項目は、自己相関Cの定義(式(7))より、下記の式(44)である。
【数44】
【0074】
ここで、式(44)の括弧内の2項目は、n,m=0,1,...,N-L-1のうち、n≠mとなるものだけを加算することを示す。式(44)に式(36)を代入すると、右辺の括弧内の1項目は、下記の式(45)となる。
【数45】
【0075】
ここで定数2及び4と、信号sは確定値であること、雑音の添え字がnの項とn+rの項とが互いに無相関であることから、式(45)は、下記の式(46)で表される。
【数46】
【0076】
ここで式(5)より、E[e]=E[en+r]=0であり、また、式(37)より、E[e ]=E[en+r ]=1であるため、式(46)は、下記の式(47)で表される。
【数47】
【0077】
また、式(44)の括弧内の2項目は、下記の式(48)となる。
【数48】
【0078】
ここで、式(48)の括弧内の2、3、5、9項目は、式(5)より0である。また、4、6、11、13項目は、2つの雑音が無相関であること、及び式(5)より0である。また、8、12、14、15項目には3つの雑音があるが、これらのうち1つは必ず他の2つと無相関になること、及び式(5)より0である。また、最後の16項目の4つの雑音を含む項は、互いに必ず無相関になるため0である。また、7項目はn+r=mのとき、式(37)より、下記の式(49)で表される。
【数49】
【0079】
また、10項目は、n=m+rのとき、式(37)より、下記の式(50)で表される。
【数50】
【0080】
従って、式(48)は、下記の式(51)となる。
【数51】
【0081】
式(44)に式(47)及び式(51)を代入すると、下記の式(52)となる。
【数52】
【0082】
ここで、式(52)に式(42)を代入すると下記の式(53)が得られる。
【数53】
【0083】
そして、分散の定義より、自己相関Cの分散V[C]は、下記の式(54)となる。
【数54】
【0084】
有色性の期待値E[Hauto]は、有色性の定義(式(8))より、下記の式(55)で求められる。
【数55】
【0085】
従って、式(55)に式(42)及び式(54)を代入することによって、有色性の期待値E[Hauto]が得られ、得られた結果が式(30)により有色性の検出指標dautoとなる。
【0086】
次に歪度の検出指標dbiの算出の原理について述べる。歪度の検出指標dbiを算出するために、まずバイ相関の期待値E[Crq]を算出する。バイ相関の期待値E[Crq]は、バイ相関の定義(式(18))より、下記の式(56)で表される。
【数56】
【0087】
式(56)に、x=s+e、xn+r=sn+r+en+r、及びxn+q=sn+q+en+qを代入すると、下記の式(57)となる。
【数57】
【0088】
ここで、式(57)の括弧内の2、3及び5項目は、式(5)より0である。また、4、6及び7項目は、2つの雑音が無相関であること、及び式(5)より0である。また、最後の8項目は、3つの雑音が互いに無相関であること、及び式(5)より0である。従って、式(57)は、下記の式(58)となる。
【数58】
【0089】
次にバイ相関の分散V[Crq]を算出する。分散の定義より、分散V[Crq]は、下記の式(59)である。
【数59】
【0090】
式(59)の右辺の1項目は、バイ相関の定義(式(18))より、下記の式(60)となる。
【数60】
【0091】
ここで、式(60)の括弧内の1項目は、x=s+e、xn+r=sn+r+en+r、及びxn+q=sn+q+en+qを代入すると、下記の式(61)となる。
【数61】
【0092】
ここで、式(61)の括弧内の2項目から8項目は、雑音の一乗を含み、各項の他の要素とは無相関なので0となる。そのため、式(61)は、下記の式(62)となる。
【数62】
【0093】
ここで、雑音が2つ又は3つ含まれる項は、それらが互いに無相関である。また式(37)より、式(62)は下記の式(63)となる。
【数63】
【0094】
式(60)の括弧内の2項目は、x=s+e、xn+r=sn+r+en+r、xn+q=sn+q+en+q、x=s+e、xm+r=sm+r+em+r、及びxm+q=sm+q+em+qを代入すると、下記の式(64)となる。
【数64】
【0095】
ここで、式(64)の括弧内は添え字n、n+r、n+q、m、m+r、及びm+qの6つの要素のそれぞれが信号又は雑音である64個の項から成る。図5図6及び図7は、式(64)の各項の要素の組合せを示す表である。図5図7において、各項の6つの要素のうち雑音の要素である添え字に〇が記されている。例えば、図5において、番号2は、添え字nの要素のみが雑音であるE[en+rn+qm+rm+q]を表し、番号8は、添え字nと添え字n+rの2つの要素が雑音であるE[en+rn+qm+rm+q]を表す。
【0096】
図5図7の表のうち、番号1は全て信号の要素から成るのでE[sn+rn+qm+rm+q]=sn+rn+qm+rm+qである。次に番号2~7は、雑音の要素が1つだけ含まれる項であり、それらの雑音は信号とは無相関である。従って、例えば番号2は、式(5)を用いると、E[en+rn+qm+rm+q]=E[e]E[sn+rn+qm+rm+q]=0である。番号3~7も同様に0である。
【0097】
番号8~22は、雑音の要素が2つ含まれる項である。n≠m及び0<r<qより、例えば番号8の2つの雑音の要素eとen+rは無相関であり、またこれら2つの雑音の要素は何れも信号と無相関なので、E[en+rn+qm+rm+q]=E[e]E[en+r]E[sn+qm+rm+q]=0となる。同様にして番号9、10、13、15、19、20、21及び22の項も0となる。
【0098】
番号11の項はn、m及びrの組合せによって、n=m+rとなる可能性があり、その場合にはE[em+r]=E[e ]=1となる。また、雑音の要素と信号の要素は無相関なので、E[en+rn+qm+rm+q]=E[em+r]E[sn+rn+qm+q]=sn+rn+qm+qとなり、雑音の要素である添え字n及びm+r以外の添え字n+r、n+q、m及びm+qの信号の値が残る結果となる。同様にして番号12、14、16、17及び18の項も以下のとおり信号の値が残る結果となる。
番号12:E[en+rn+qm+rm+q]=sn+rn+qm+r
(n=m+qのとき)
番号14:E[sn+rn+qm+rm+q]=sn+qm+rm+q
(n+r=mのとき)
番号16:E[sn+rn+qm+rm+q]=sn+qm+r
(n+r=m+qのとき)
番号17:E[sn+rn+qm+rm+q]=sn+rm+rm+q
(n+q=mのとき)
番号18:E[sn+rn+qm+rm+q]=sn+rm+q
(n+q=m+rのとき)
【0099】
図6に示すように、番号23~42は、6つの要素のうち3つが雑音である。番号23及び番号42の3つの雑音の添え字は互いに異なり、3つの雑音は互いに無相関である。従って、例えば番号23の項は、E[en+rn+qm+rm+q]=E[e]E[en+r]E[en+q]E[sm+rm+q]=0である。同様にして番号42の項も0となる。
【0100】
番号24~41の項は3つの雑音の要素の添え字のうち2つが同じになる可能性があるが、残りの1つは同じになった2つの添え字とは必ず異なる。例えば番号24の項はn+r=mとなる可能性があるが、n≠n+r及びn≠mである。このとき番号24の項はE[en+rn+qm+rm+q]=E[e]E[en+r ]E[sn+qm+rm+q]=0となる。同様にして番号25~番号41の項も0である。以上から6つの要素のうち3つが雑音である番号23から42の項は全て0となる。
【0101】
図7に示すように、番号43~57は、6つの要素のうち4つが雑音である項である。このうち番号43、44、45、52、56、及び57は、4つの雑音の添え字のうち3つは必ず異なるが、その3つのうちの1つは他のもう1つと同じになる可能性がある。例えば番号43はn<n+r<n+qだが、n+r=mとなる可能性がある。このときE[en+rn+qm+rm+q]=E[en+r n+qm+rm+q]=E[e]E[en+r ]E[en+q]E[sm+rm+q]=0である。同様にして番号44、45、52、56、及び57も0である。
【0102】
番号46及び55は、4つの雑音の添え字のうち2つが同じになる可能性があるが、残りの2つは必ず異なる。例えば番号46は、n=m+rとなる可能性がある。このときr>0よりn≠n+rでありn+r≠mである。従って、E[en+rn+qm+rm+q]=E[e n+rn+qm+q]=E[e ]E[en+r]E[sn+q]E[e]E[sm+q]=0である。同様にして番号55の項も0である。
【0103】
番号47、48、49、51、53及び54は、4つの雑音の添え字のうち2つずつが同じになる可能性がある。例えば番号47は、n=m+q、且つn+r=mとなる可能性があり、その場合にはn=m+q≠n+r=mである。従って、E[en+rn+qm+rm+q]=E[e n+r n+qm+r]=E[e ]E[en+r ]E[sn+qm+r]=sn+qm+rである。同様にして番号48、49、51、53及び54も以下のとおり信号の値が残る結果となる。
番号48:E[en+rn+qm+rm+q]=sn+q
(n=m+r、且つm+r=m+qのとき)
番号49:E[en+rn+qm+rm+q]=sn+rm+q
(n=m+r、且つn+q=mのとき)
番号51:E[en+rn+qm+rm+q]=sn+r
(n=m+q、且つn+q=m+rのとき)
番号53:E[sn+rn+qm+rm+q]=sm+q
(n+r=m、且つn+q=m+rのとき)
番号54:E[sn+rn+qm+rm+q]=sm+r
(n+r=m+q、且つn+q=mのとき)
【0104】
番号56~63までは6つの要素のうち5つが雑音である項である。ここで5つの雑音の添え字のうち3つは必ず異なる。またそのうちの2つがそれぞれ残りの2つの何れかと等しくなる可能性がある。例えば、番号58の雑音の要素の添え字についてn<n+r<n+qである。このときn=m+r、n+q=mとなる可能性があるが、その場合でもE[en+rn+qm+rm+q]=E[e n+rn+q m+q]=E[e ]E[en+r]E[en+q ]E[sm+q]=0となる。番号59~63までについても同様に0となり、5つの要素が雑音である項は全て0となる。
【0105】
番号64は、6つ全ての要素が雑音となる項である。この場合には、番号48のようにn=m+r、且つn+r=m+qとなる可能性がある、しかしながら、n+q=mとはならない。なぜなら前者2つの関係からq=2rであり、これをn+q=mに代入するとn+2r=mとなり1つめの関係n=m+rも満足するためにはr=0とならなければならず、r>0の前提と矛盾するからである。そのため、E[en+rn+qm+rm+q]=E[e n+r n+q]=E[e ]E[en+r ]E[en+q]E[e]=0となる。また、同様に番号47のように、n=m+q、且つn+r=mとなる可能性があるが、このときはn+q≠m+rである。従って、E[en+rn+qm+rm+q]=E[e n+r n+qm+r]=E[e ]E[en+r ]E[en+q]E[em+r]=0である。従って番号64の項は常に0である。
【0106】
以上のことから、図5図7に示す表の各項のうち、太線で囲った項以外は常に0であり、太線で囲った12個の項は添え字がある条件を満足するときには0ではない。従って、式(64)は、下記の式(65)となる。
【数65】
【0107】
ただし、式(65)のαrqは、下記の式(66)である。
【数66】
【0108】
式(63)及び式(65)を式(60)に代入すると、下記の式(67)が得られる。
【数67】
【0109】
従って式(59)より、バイ相関の分散V[Crq]は、下記の式(68)となる。
【数68】
【0110】
歪度の期待値E[Hbi]は、式(19)の歪度の定義より、下記の式(69)となる。
【数69】
【0111】
式(69)に、式(58)及び式(68)の結果を代入することによって、歪度の期待値E[Hbi]が得られ、得られた結果が式(33)より歪度の検出指標dbiとなる。
【0112】
以上が動作の原理の説明である。以下に実施の形態1における性能予測装置100の動作を説明する。
【0113】
性能予測装置100の信号正規化部1は、入力された雑音レベルNL及び信号s (0)(n=0,1,...,N-1)から正規化された信号s(n=0,1,...,N-1)を式(3)によって算出し、算出結果を出力する。ここで式(3)におけるμe(0)及びσe(0)は、それぞれ下記の式(70)及び式(71)であるとする。
【数70】
【数71】
【0114】
自己相関期待値算出部2は信号正規化部1から入力された信号s(n=0,1,...,N-1)から自己相関の期待値E[C](r=1,2,...,L)を式(42)によって算出し、算出結果を出力する。
【0115】
自己相関分散算出部3は信号正規化部1から入力された信号s(n=0,1,...,N-1)から自己相関の分散V[C](r=1,2,...,L)を式(54)によって算出し、算出結果を出力する。
【0116】
有色性検出指標算出部4は、自己相関期待値算出部2から入力された自己相関の期待値E[C](r=1,2,...,L)及び自己相関分散算出部3から入力された自己相関の分散V[C](r=1,2,...,L)から有色性の期待値E[Hauto]を式(55)によって算出し、算出結果を式(30)より有色性の検出指標dautoとして出力する。出力された有色性の検出指標dautoを用いて、検出処理において決められている検出閾値Tautoに対する比dauto/Tautoを算出することで、有色性の検出性能を得ることができる。なお、性能予測装置100にて、dauto/Tautoを算出して有色性の検出性能を得てもよい。
【0117】
バイ相関期待値算出部5は信号正規化部1から入力された信号s(n=0,1,...,N-1)からバイ相関の期待値E[Crq](r=1,2,...,L-1、q=2,3,...,L、r<q)を式(58)によって算出し、算出結果を出力する。
【0118】
バイ相関分散算出部6は信号正規化部1から入力された信号s(n=0,1,...,N-1)からバイ相関の分散V[Crq](r=1,2,...,L-1、q=2,3,...,L、r<q)を式(66)及び式(68)によって算出し、算出結果を出力する。
【0119】
歪度検出指標算出部7はバイ相関期待値算出部5から入力されたバイ相関の期待値E[Crq](r=1,2,...,L-1、q=2,3,...,L、r<q)及びバイ相関分散算出部6から入力されたバイ相関の分散V[Crq](r=1,2,...,L-1、q=2,3,...,L、r<q)から歪度の期待値E[Hbi]を式(69)によって算出し、算出結果を式(33)より歪度の検出指標dbiとして出力する。出力された歪度の検出指標dbiを用いて、検出処理において決められている検出閾値Tbiに対する比dbi/Tbiを算出すれば歪度の検出性能を得ることができる。なお、性能予測装置100にて、dbi/Tbiを算出して歪度の検出性能を得てもよい。
【0120】
以上のように本実施の形態によれば、信号s (0)(n=0,1,...,N-1)と雑音レベルNLのみを使って自己相関の期待値E[C]と分散V[C](r=1,2,...,L)を明示的に表された式(式(42)及び式(54))によって算出し、それらの結果から明示的に表された式(55)によって有色性の期待値E[Hauto]を算出し、その結果を検出指標dautoとして求めることによって、従来のように乱数を使った多数の試行を不要とすることができると共に、多数の試行によって近似値として算出する平均値がもつ誤差を除去することができる。
【0121】
また、s (0)(n=0,1,...,N-1)と雑音レベルNLのみを使ってバイ相関の期待値E[Crq]と分散V[Crq](r=1,2,...,L-1、q=2,3,...,L、r<q)を明示的に表された式(それぞれ式(58)、式(66)及び式(68))によって算出し、それらの結果から明示的に表された式(69)によって歪度の期待値[Hbi]を算出し、その結果を検出指標dbiとして求めることによって、従来のように乱数を使った多数の試行を不要とすることができると共に、多数の試行によって近似値として算出する平均値がもつ誤差を除去することができる。
【0122】
これにより、本実施の形態の性能予測装置100によると、対象の信号の波形における有色性及び歪度の検出性能を短時間で予測することが可能となる。また、予測した検出性能に応じて、対象とする信号の波形に対して有色性及び歪度の何れを用いて検出処理を行うかを決定することができる。
【0123】
以上が本発明の実施の形態の説明であるが、本発明は、上記の実施の形態の構成に限定されるものではなく、その技術的思想の範囲内で様々な変形又は組み合わせが可能である。例えば、本発明の有色性Hauto及び歪度Hbiは、海洋中の対象物から一時的に放射される信号を検出するためのものとして説明しているが、信号の種類はそれに限らない。一般に、雑音の中に雑音とは異なる成分が一時的に含まれていることを検出することを目的として有色性及び歪度を用いる場合に対して本発明を適用することができる。
【0124】
また、海洋中に限らず空気中などの媒質中を伝搬してきたものを信号s (0)(n=0,1,2,...,N-1)として受信する状況を考える。対象物から放射された時点での放射波形が既知であれば、放射位置から受信位置までの信号伝搬の影響を放射波形に加味することによって受信した信号s (0)(n=0,1,2,...,N-1)を算出してもよい。信号伝搬の影響を加味する方法としては、例えば信号伝搬のインパルス応答と放射波形とを畳み込む方法がある。そして、算出した信号s (0)(n=0,1,2,...,N-1)を信号正規化部1に入力すればよい。
【0125】
また、上記実施の形態では、性能予測装置100にて、有色性及び歪度の両方の検出指標を算出する構成としたが、性能予測装置100は、有色性又は歪度の少なくとも何れか一方の検出指標を算出するものであればよい。
【符号の説明】
【0126】
1 信号正規化部、2 自己相関期待値算出部、3 自己相関分散算出部、4 有色性検出指標算出部、5 バイ相関期待値算出部、6 バイ相関分散算出部、7 歪度検出指標算出部、21 処理回路、22 プロセッサ、23 メモリ、100 性能予測装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7