(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121339
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】レトルト用積層フィルム
(51)【国際特許分類】
B32B 15/085 20060101AFI20240830BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
B32B15/085 A
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028384
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】市川 裕之
(72)【発明者】
【氏名】植田 佳樹
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
【Fターム(参考)】
3E086AB01
3E086AD24
3E086BA04
3E086BA13
3E086BA15
3E086BA33
3E086BB02
3E086BB05
3E086BB51
3E086BB62
3E086CA01
3E086DA08
4F100AB00B
4F100AB10B
4F100AB33B
4F100AK03C
4F100AK03E
4F100AK07C
4F100AK07E
4F100AK24C
4F100AK41A
4F100AL05C
4F100AL07C
4F100AR00D
4F100AT00A
4F100BA04
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4F100BA07
4F100CB00C
4F100GB15
4F100GB23
4F100GB66
4F100JL12D
4F100YY00A
4F100YY00B
4F100YY00C
(57)【要約】
【課題】高温でのレトルト殺菌処理を行った後でもラミネート強度が担保され、内容物耐性に優れるレトルト用積層フィルムを提供すること。
【解決手段】基材層と、金属層と、接着層と、シーラント層をこの順序で含み、前記接着層は酸変性ポリオレフィンP
1と、アタクチック構造をとるポリオレフィン系樹脂P
2を含有する第1接着層を含み、前記第1接着層と前記シーラント層との間に、ランダムポリプロピレンP
3と、アタクチック構造をとるポリオレフィン系樹脂P
4を含有する第2接着層を含むことを特徴とするレトルト用積層フィルムである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と、金属層と、接着層と、シーラント層をこの順序で含み、前記接着層は酸変性ポリオレフィンP1と、アタクチック構造をとるポリオレフィン系樹脂P2を含有する第1接着層を含むことを特徴とするレトルト用積層フィルム。
【請求項2】
前記酸変性ポリオレフィンP1に対する前記アタクチック構造を取るオレフィン系樹脂P2の配合比P2/(P1+P2)が5質量%以上50質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載のレトルト用積層フィルム。
【請求項3】
前記酸変性ポリプロピレンP1は、無水マレイン酸グラフト重合ポリプロピレンであることを特徴とする請求項1または2に記載のレトルト用積層フィルム。
【請求項4】
前記接着層は、前記第1接着層と前記シーラント層との間に、ランダムポリプロピレンP3と、アタクチック構造をとるポリオレフィン系樹脂P4を含有する第2接着層を含むことを特徴とする請求項1に記載のレトルト用積層フィルム。
【請求項5】
前記第1接着層の膜厚をt1、前記第2接着層の膜厚をt2とすると膜厚比t1/t2が25/75~75/25の範囲内であることを特徴とする請求項1または4に記載のレトルト用積層フィルム。
【請求項6】
前記ランダムポリプロピレンP3に対するアタクチック構造を取るポリオレフィン系樹脂P4の配合比P4/(P3+P4)が5質量%以上50質量%以下であることを特徴とする請求項1または4に記載のレトルト用積層フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レトルト加熱殺菌用包材の用途に使用されるレトルト用積層フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
食品、医薬品等の包装に用いられる包装材料としては、水蒸気、酸素、その他の内容物を変質させる気体の進入を遮断するために、様々な層構成のガスバリア性積層フィルムが開発され、用いられている。
【0003】
積層フィルムがレトルト加熱殺菌用包材の用途に使用される場合、デラミネーション(積層された層の剥離)を起こさない耐熱性を有することが求められる。また、ガスバリア性を有する積層フィルムの一例として、基材層、ガスバリア層、シーラント層などを積層した積層フィルムがあり、ガスバリア層とシーラント層を貼り合わせる方法として、一般的には、ガスバリア層上にウレタン系接着剤を塗布して接着層を形成し、既に製膜されたシーラント層のフィルムをラミネートする方法(ドライラミネート法)等が考えられる。
【0004】
しかし、包装材料により包装される内容物には、アルカリ性物質、香料、界面活性剤、高沸点有機溶剤などを含有するものが多くあり、ガスバリア層とシーラント層とをドライラミネーション用接着剤を用いてドライラミネート法で貼り合わせた場合、ガスバリア層とシーラント層の間の接着層が内容物により侵され、ラミネート強度が経時的に低下しデラミネーション(剥離)を引き起こす問題があったため、これらの内容物に起因するデラミネーションを起こさない程度の内容物耐性も求められている。
【0005】
このような状況に対応するため、ラミネート加工に使用される接着剤の改良が種々行われており、特許文献1では、内容物が影響してくる、ガスバリア層とシーラント層の間の接着層として、無水マレイン酸グラフト重合ポリプロピレンを使い、グラフト率を調整することにより、金属層との接着性に優れ、強い浸透力をもつ内容物の包装に適した内容物耐性に優れる積層体が提案されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1の接着層は、無水マレイン酸グラフト重合ポリプロピレンのみから成り、高温でのレトルト殺菌処理を行うと、徐々に接着層が冷まされていく過程で結晶が成長し、膜が硬化するため、接着層の柔軟性が損なわれる。そのため、ラミネート強度が低下してしまう虞がある。また、蓋材として使用される場合、この接着層が原因で積層フィルムがちぎれる虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述のような背景技術の問題を鑑みて、高温でのレトルト殺菌処理を行った後でもラミネート強度が担保され、内容物耐性に優れるレトルト用積層フィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するための手段として、本発明の第1の態様は、
基材層と、金属層と、接着層と、シーラント層をこの順序で含み、前記接着層は酸変性ポリオレフィンP1と、アタクチック構造をとるポリオレフィン系樹脂P2を含有する第1接着層を含むことを特徴とするレトルト用積層フィルムである。
【0010】
接着層が、酸変性ポリオレフィンと、アタクチック構造をとる同一樹脂からなることにより、融点を変動させずに接着層に柔軟性を付与することができる。アタクチック構造をとるポリオレフィン系樹脂を混合することにより、高温でのレトルト殺菌処理を行うと、徐々に接着層が冷まされていく過程で生じる結晶化が阻害され、接着層の柔軟性が向上する。柔軟性が向上することで、接着層が硬化して層が割れることにより、内容物が積層体を侵す可能性が低減する。そのためラミネート強度は担保され、経時的なラミネート強度の低下を抑制する。
【0011】
また、本発明の第2の態様は、
前記第一接着層に対する前記アタクチック構造を取るオレフィン系樹脂P2の配合比P2/(P1+P2)が5質量%以上50質量%以下であってもよい。
【0012】
P2の配合比P2/(P1+P2)が5質量%より低いと、レトルト殺菌後の冷却過程で結晶化の阻害が行えず接着層の柔軟性が損なわれ、配合比が50質量%より高くてもそれ以上柔軟性が変わらないためコスト高になるだけになる。この柔軟性は、曲げ弾性率で測ることができる。
【0013】
また、本発明の第3の態様は、
前記酸変性ポリプロピレンP1は、無水マレイン酸グラフト重合ポリプロピレンであってもよい。熱ラミネーション工程によりラミネート強度が向上する樹脂且つ、加工性に優れる樹脂である無水マレイン酸グラフト重合ポリプロピレンを用いることができる。
【0014】
また、本発明の第4の態様は、
前記接着層は、前記第1接着層と前記シーラント層との間に、ランダムポリプロピレンP3と、アタクチック構造をとるポリオレフィン系樹脂P4からなる第2接着層を含んでもよい。第2の接着層が、ランダムポリプロピレンP3と、アタクチック構造を取る同一樹脂からなることにより、第2の接着層を追加しても接着層の融点を変動させずに柔軟性を付与することができ、押出ラミネート時、加工速度を上げても押出し樹脂が切れにくく、引取性が改善される。
【0015】
また、本発明の第5の態様は、
前記第1接着層の膜厚をt1、前記第2接着層の膜厚をt2とすると膜厚比t1/t2が25/75~75/25の範囲内であってもよい。この膜厚比になるように、第2の接着層を追加すると、上記引取性改善効果を発現することができる。
【0016】
また、本発明の第6の態様は、
前記第2接着層に対するアタクチック構造を取るオレフィン系樹脂P4の配合比P4/(P3+P4)が5質量%以上50質量%以下であってよい。この膜厚比になるように、オレフィン系樹脂P4を追加すると、上記引取性改善効果を発現することができる。
【発明の効果】
【0017】
高温でのレトルト処理を行った後でもラミネート強度が担保され、内容物耐性に優れるレトルト用積層フィルムを提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係る積層フィルムの層構成の一例を示す概略断面図である。
【
図2】本発明に係る積層フィルムの層構成の他の例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を図を参照しながら、更に詳しい説明を加える。ただし本発明は、ここに示す例によってのみ限定されるものではない。
【0020】
金属層とシーラント層とをドライラミネート用接着剤を用いて接着層を形成し、貼り合わせた場合、内容物耐性が低いため、金属層とシーラント層の間の接着層が内容物により侵され、ラミネート強度が経時的に低下し、デラミネーションを引き起こす問題があった。これに対し、本実施形態において金属層とシーラント層間の接着層として上記第1接着層を含むことにより、接着層の柔軟性が向上し、高温でのレトルト殺菌処理を行った後でも、ラミネート強度は担保され、経時変化を抑制することが可能となる。さらに、酸変性ポリオレフィンP1に、アタクチック構造をとるポリオレフィン樹脂P2を加えても、同一樹脂の混合であるため融点が変わらず、成形性が損なわれることがない。
【0021】
図1は、本発明の第1実施形態に係るレトルト用積層フィルムの一例を概略的に示す部分断面図である。
図1に示されるレトルト用積層フィルム10は、基材層11と、印刷層12と、第3接着層13と、金属層14と、接着層15(第1接着層15aを含む)と、シーラント層16とをこの順序で含んでいる。このうち印刷層12と第3接着層13は、必要に応じて形成される任意の層である。レトルト用積層フィルム10に含まれる各層について、以下に説明する。
【0022】
(基材層)
基材層11としては、一般的な樹脂フィルムを用いることができる。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレン-2、6-ナフタレート、ポリブチレンテレフタレートやこれらの共重合体等のポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ナイロン-6、ナイロン-66、ナイロン-12等のポリアミド系樹脂;ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体等の水酸基含有重合体等が挙げられる。中でも、PETやポリアミド系樹脂が好ましく用いられる。これらの樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
基材層11は、延伸フィルムであってもよく、未延伸フィルムであってもよい。なかでも、機械的強度や寸法安定性に優れる点から、一軸延伸フィルム、二軸延伸フィルムが好ましく、二軸延伸フィルムがより好ましい。
【0024】
基材層11は、1枚の基材フィルムからなる単層構成であってもよく、2枚以上の基材フィルムが積層された複層構成であってもよい。基材層11の厚さは特に限定されないが、一例によれば3μm~200μmであってよく、他の例によれば6μm~30μmであってよい。
【0025】
(印刷層)
印刷層12は、基材層11における金属層14側の主面上に形成されている。印刷層12を形成するためのインキは、一般的な樹脂フィルムへの印刷に適したインキを用いることができる。例えばエステル系、アルコール系等の溶剤にフタロシアニン、酸化チタン等の有色顔料を含むインキであってよい。
【0026】
(第3接着層)
第3接着層13は、基材層11および印刷層12からなる外層側積層体の印刷層12を、金属層14に接着するための層である。第3接着層13の形成には、一般的な接着剤もしくは接着性樹脂を用いることができる。例えばポリエステル系、ポリエーテル系等の接着剤、もしくは同様のアンカーコート剤を設け、その上にポリオレフィン系等の接着性樹脂を押し出して形成することができる。
【0027】
(金属層)
金属層14は、外部から包装体内部に水蒸気等が浸入することを防止し、さらに包装体内容物を外部へ逃がさないことを目的としたガスバリア層である。アルミニウム箔、錫箔、銀箔、銅箔、ニッケル箔、などの単一元素で形成される金属箔や、黄銅箔、ステンレス箔、洋白箔、アルミニウム合金箔、などの合金で形成される金属箔が使用できる。これらのうち、特にアルミニウム箔が、展延性が高く、2次加工した時の形状に沿って変形し易く、かつ、安価であるため、金属層14として好適に使用される。金属層14の厚さは、例えば、6μm~50μmの範囲内において用途に応じて適宜設定することができる。
【0028】
(防腐コート層)
本実施形態に係るレトルト用積層フィルム10は、金属層14と第1接着層15aとの間に、図示しない防腐コート層を更に含んでいてよい。防腐コート層は、金属層14と第1接着層15aとに接して金属層14の腐食を抑える。防腐コート層は、金属原子とその金属化合物である。
【0029】
防腐コート層に含有される金属原子は、例えば、Ti、W、Mn、Zr及びCeから構成される群から選択される少なくとも1種であってよく、これら金属原子の何れかを含む金属化合物として含有されてもよい。金属化合物としては、酸化物、水酸化物、錯化合物、無機酸及び有機酸などが挙げられる。
【0030】
防腐コート層が金属層14における第1接着層15a側の面の少なくとも一部を被覆することにより、内容物によって金属層14が腐食することが抑えられる。これにより、金属層14の腐食に起因して金属層14と第1の接着層15aとの間においてデラミネーションが生じることが抑えられる。
【0031】
(接着層:第1接着層)
図1に示されるレトルト用積層フィルム10の、金属層14とシーラント層16との間に介在する接着層15は、第1接着層15aを含む。
【0032】
第1接着層15aは、アタクチック構造をとるポリオレフィン系樹脂P2が添加された酸変性ポリオレフィンP1を含む。第1接着層15aは、酸変性ポリオレフィンP1と、同一樹脂でアタクチック構造をとるポリオレフィン系樹脂P2を押し出す前に混合させ、このブレンド樹脂を溶融押出しすることで形成される押出層である。
【0033】
本実施形態では、酸変性ポリオレフィンP1の代表として、熱ラミネーション工程によりラミネート強度が向上する樹脂且つ、加工性に優れる樹脂である無水マレイン酸グラフト重合ポリプロピレンを用いている。そしてこの時に添加されたアタクチック構造をとるポリオレフィン系樹脂P2はポリプロピレンが相当する。
【0034】
金属層14とシーラント層16とをドライラミネーション法で貼り合わせることに替えて、接着層として酸変性ポリプロピレンからなる押出層を介在させた場合、レトルト殺菌前におけるラミネート強度は高いが、レトルト殺菌直後における金属層14とシーラント層16間のラミネート強度は高くないことを本発明者らは見出した。そして更なる鋭意研究の結果、酸変性ポリオレフィンP1にアタクチック構造をとるポリオレフィン系樹脂P2を添加することにより接着層15の柔軟性が向上し、上記2層間のレトルト殺菌直後のラミネート強度が改善し、これに伴い内容物耐性も改善され、経時によるラミネート強度の低下を抑制できることを見出した。
【0035】
また、酸変性ポリオレフィンP1にアタクチック構造をとるポリオレフィン系樹脂P2をブレンドしても、同一樹脂であるため、ブレンド後も融点は変動しない。接着層15の融点が変動した場合、特に低融点側に融点が変動した場合、熱ラミネーション工程やレトルト殺菌処理を行った際に樹脂が溶け出し、成形性が損なわれることがある。したがって、本発明によって、成形性はそのままで、高温でのレトルト殺菌処理を行った後でも、ラミネート強度は担保され、経時変化を抑制することが可能な内容物耐性に優れるレトルト用積層フィルムを提供することが可能である。
【0036】
第1接着層15aにおいて、酸変性ポリプロピレンP1に対するアタクチック構造をとるポリプロピレンP2の配合比P2/(P1+P2)は、5質量%以上50質量%以下であってよい。P2の配合比P2/(P1+P2)が5質量%より低いと、接着層の柔軟性が損なわれ、配合比が50質量%より高くてもそれ以上柔軟性が変わらないためコスト高になるだけになる。
【0037】
(接着層:第2接着層)
また、接着層15は、第1接着層15aとシーラント層16との間に、ランダムポリプロピレンP
3と、アタクチック構造をとるポリオレフィン系樹脂P
4を含有する第2接着層15bを含んでもよい。
図2に、接着層15に第2接着層15bを含む積層フィルム10の概略断面図を示す。
【0038】
第2の接着層15bが、ランダムポリプロピレンP3と、アタクチック構造を取る同一樹脂を含有することにより、第2の接着層15bを追加しても接着層15の融点を変動させずに柔軟性を付与することができ、押出ラミネート時、加工速度を上げても押出し樹脂が切れにくく、引取性が改善される。
【0039】
第2接着層15bにおいて、ランダムポリプロピレンP3に対するアタクチック構造をとるポリオレフィン系樹脂P4の配合比P4/(P3+P4)は、5質量%以上50質量%以下であってよい。P4の配合比P4/(P3+P4)が5質量%より低いと、接着層15の柔軟性が損なわれ、配合比が50質量%より高くてもそれ以上柔軟性が変わらないためコスト高になるだけになる。
【0040】
第1接着層15aの厚みをt1、第1接着層15bの厚みをt2とすると、t1/t2は25/75~75/25の範囲であればよい。t1が優位になりすぎるとラミネート時の押出し樹脂の引取性が悪くなり、t2が優位になりすぎると熱ラミネーション後にラミネート強度が発現しなくなるため、t1/t2は上記範囲にあることが望ましい。添加されるP2、P4は、アタクチック構造を取るポリプロピレンであれば特定なく用いることができる。
【0041】
(シーラント層)
シーラント層16としては、例えば、加熱によって溶融し相互に融着し得るヒートシール性を有する樹脂のフィルムを使用して形成することができる。例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、メチルペンテンポリマー、ポリブテンポリマー等の樹脂のフィルムを使用することができる。シーラント層16は、単層構造であってもよく、複層構造であってもよい。
【0042】
本実施形態において、シーラント層16を形成する方法としては、溶融押出コーティン
グ法、加熱溶融したホットメルト用組成物をグラビアシリンダーで塗布するグラビアホットメルトコーティング法等によって形成することができるが、これらに限らず公知のコーティング法から適宜選択して採用することができる。
【0043】
シーラント層16の厚みは、特に制限されない。レトルト用積層体10が蓋材に用いられる場合、一例によれば、20μm以上60μm以下が好ましく用いられる。20μm未満では、容器本体のフランジ部の微細な凹凸に対応できなかったり、シール時の圧力が均一に伝わらなかったりして、シール不良を起こす可能性がある。一方、60μmより厚いと、シール時の熱が伝わりづらく、シーラント層16の蓋材としての外側の方が早く溶解して、シールの圧力によって未シール側に押し出され、きれいにシールできず、また、開封するときイージーピール性が悪くなる可能性がある。また、開封してフタを折り曲げるとき腰が強くなっているので、折り曲げにくくなる傾向がある。
【実施例0044】
以下、本発明を具体的に実施した実施例で説明する。
【0045】
(実施例1)
先ず、基材層11として、16μmの厚さを有したポリエステルフィルム(FE2001、フタムラ化学(株)製)と、金属層14として、50μmの厚さを有したアルミニウム箔(東洋アルミ(株)製)を準備した。接着剤としてエステル主鎖を含む主剤(A525、三井化学(株)製)と硬化剤(A52、三井化学(株)製)の混合液を、基材層11の一方の主面に塗布し、第3接着層13を形成した。ドライラミネート法により、第3接着層13を介して、基材層11と金属層14とを貼り合わせることにより、基材層11/第3接着層13/金属層14からなる外層側積層体を得た。
【0046】
第1接着層15aは、無水マレイン酸グラフト重合ポリプロピレンP1(融点ピーク:141℃、密度:0.90g/cm3、MFR:15g/10分)と、アタクチック構造をとるポリプロピレンP2(タフセレンR、住友化学製)を、無水マレイン酸グラフト重合ポリプロピレン/アタクチック構造をとるポリプロピレン=80/20の質量比でブレンドすることにより得た。
【0047】
次に、シーラント層16として、厚さ35μmのイージーピールシーラント(TP6、オカモト(株)製)を準備した。上記で調製した第1接着層を形成する樹脂ブレンドを溶融押出しして形成した厚み18μmの第1接着層15aを、上記外層側積層体の金属層14とシーラント層16との間に挟んで押出しラミネーション法により貼り合わせることにより、レトルト用積層フィルムを得た。得られたレトルト用積層フィルムに、140℃で15秒間熱を加えることにより、レトルト用積層フィルム10を得た。
【0048】
(実施例2)
実施例1の基材層11と金属層14の間に印刷層を設けた。また、第2接着層15bは、ランダムポリプロピレンP3(プライムポリプロ F329RA、(株)プライムポリマー製)と、P2と同じアタクチック構造をとるポリプロピレンP4(タフセレンR、住友化学製)を、ランダムポリプロピレン/アタクチック構造をとるポリプロピレン樹脂=80/20の質量比でブレンドすることにより得た。そして、第1接着層15aの厚みが12μm、第2接着層15bの厚みが12μmとなるように溶融押し出しを行った。他は実施例1と同様にして、レトルト用積層フィルムを得た。得られたレトルト用積層フィルムに、140℃で15秒間熱を加えることにより、レトルト用積層フィルム10を得た。
【0049】
(比較例1)
実施例1の第1接着層15aが、アタクチック構造をとるポリプロピレンを添加せず、
無水マレイン酸グラフト重合ポリプロピレンのみを使用した。他は実施例1と同様にして、レトルト用積層フィルムを得た。得られたレトルト用積層フィルムに、140℃で15秒間熱を加えることにより、レトルト用積層フィルム10を得た。
【0050】
(比較例2)
実施例2のアタクチック構造をとるポリプロピレンP2、P4の代わりに、プロピレン/エチレン/1-ブテンのランダムコポリマーを使用した。他は実施例1と同様にして、レトルト用積層フィルムを得た。得られたレトルト用積層フィルムに、140℃で15秒間熱を加えることにより、レトルト用積層フィルム10を得た。
【0051】
(比較例3)
実施例1の第1接着層15aの代わりに、ドライラミネート用接着剤を使用した。他は実施例1と同様にして、レトルト用積層フィルムを得た。得られたレトルト用積層フィルムに、140℃で15秒間熱を加えることにより、レトルト用積層フィルム10を得た。
【0052】
[評価方法]
実施例および比較例のレトルト用積層フィルム10の10cm×10cmシートを2枚用意し、袋形状になるよう3辺をヒートシールする。その袋内に飽和t-ブチル安息香酸水を入れ、残りの辺をシールして、121℃で30分間レトルト加熱殺菌を実施し、ラミネート強度、融点、引取性、開封性を下記方法にて評価した。結果を表1に示す。
【0053】
(ラミネート強度)
15mm幅の短冊状に試料を切り、金属層14/接着層15間を剥離し、JIS Z1707に基づき測定。ラミネート強度の測定は、レトルト処理前後と1週間、2週間、4週間保管後にそれぞれ行い、経時によるラミネート強度の安定性を評価した。なお、測定は5点行い、それらの平均値を測定値とした。
【0054】
(融点)
基材層11/第3接着層13/金属層14の金属層14上に接着層15のみ押出しラミネート法により製膜(シーラント層と貼り合わせない)し、その後示差走査熱量分析(DCS)を実施した。測定条件は昇温速度10℃/min、温度範囲50℃~300℃にて融点を測定した。
【0055】
(引取性)
各積層フィルムを製造する際、押出し温度を同一にし、ラミネートした際の接着層15の厚みが同一となる条件で、樹脂を押し出しながら引取速度を上げていき、押し出された樹脂が破断する速度を計測した。
【0056】
(開封性)
各積層フィルムを蓋剤として用い、ポリプロピレンから作成した容器に、内容物に飽和t-ブチル安息香酸水を充填し、容器フランジ部に蓋剤をヒートシールする。その後121℃30分レトルト加熱殺菌処理を実施し、蓋剤を開封した際の2重蓋の有無を確認した。
【0057】
【0058】
[評価結果]
(融点)
実施例1~2および比較例1の接着層15の融点を比較すると、アタクチック構造をとるポリプロピレンP2を添加しても、P1と比較して融点が変わらないことが分かる。融点が変動しないことで成形性が保たれる。一方、比較例2ではプロピレン/エチレン/1-ブテンのランダムコポリマーを添加すると、融点が低温側にシフトした。比較例2では、ブレンドされたオレフィンが複数あり、それぞれが持つ融点がP1の融点より低いためと思われる。
(ラミネート強度)
4週間保存後のラミネート強度を比較すると、実施例1~2および比較例2ではラミネート強度がレトルト前より高い結果になった。一方、比較例1ではレトルト処理を行うと、一度溶融したP1が冷却されていく際に結晶化を阻害するアタクチック構造をとるポリプロピレンP2が添加されていないため、結晶化が進み膜が固くなり、ラミネート強度が低下した。比較例3では4週間保存していると内容物が徐々に接着層15を犯し、ラミネート強度が低下した。
(開封性)
比較例1では結晶化を阻害するアタクチック構造をとるポリプロピレンP2が添加されていないため、結晶化が進み膜が固くなり2重蓋になる試料が見られた。
(引取性)
引取性の評価では、実施例1、比較例1と比較し、実施例2、比較例2の方が引取性が良い結果となった。これはランダムポリプロピレンを添加することにより、ポリプロピレンの結晶性を低めることができ、共押出しにおける流動性を高めることができたためと思われる。
【0059】
実施例1~2の結果から、本発明によって、高温でのレトルト処理を行った後でもラミネート強度が担保され、経時でラミネート強度が低下することがない内容物耐性に優れるレトルト用積層フィルムを提供することが可能になった。