(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121359
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】積層体及び積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/36 20060101AFI20240830BHJP
C08J 7/043 20200101ALI20240830BHJP
【FI】
B32B27/36 102
C08J7/043 A CFD
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028423
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【弁理士】
【氏名又は名称】河原 肇
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 敦史
(72)【発明者】
【氏名】爪田 智仁
【テーマコード(参考)】
4F006
4F100
【Fターム(参考)】
4F006AA36
4F006AB37
4F006AB43
4F006AB76
4F006BA01
4F006CA05
4F006CA08
4F006EA03
4F100AA01B
4F100AK25B
4F100AK45A
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100BA10C
4F100CC00C
4F100DE01B
4F100EH46B
4F100EJ08B
4F100EJ54B
4F100JB14B
4F100JK06
4F100JK09B
4F100JL11C
(57)【要約】
【課題】ポリカーボネート樹脂基材に対して密着性よく、種々のコーティング層を適用することができるアンカーコート層を含む積層体、及び該積層体の製造方法を提供する。
【解決手段】本開示の積層体は、ポリカーボネート樹脂基材の少なくとも片面に紫外線硬化アンカーコート層を含み、アンカーコート層における基材側の面と反対側の面をATR法によるFT-IRで測定したときに、該測定面が、810cm-1付近及び1730cm-1付近に最大ピークを有し、アンカーコート層における、紫外線硬化前のそれぞれの最大ピーク強度をI0(810)及びI0(1730)とし、紫外線硬化後のそれぞれの最大ピーク強度をI(810)及びI(1730)としたときに、以下の式3を満たす:
R0=I0(810)/I0(1730) …式1
R=I(810)/I(1730) …式2
0.21<R/R0<0.50 …式3
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂基材の少なくとも片面に紫外線硬化アンカーコート層を含み、
前記アンカーコート層における前記基材側の面と反対側の面をATR法によるFT-IRで測定したときに、該測定面が、810cm-1付近及び1730cm-1付近に最大ピークを有し、
前記アンカーコート層における、紫外線硬化前のそれぞれの最大ピーク強度をI0(810)及びI0(1730)とし、紫外線硬化後のそれぞれの最大ピーク強度をI(810)及びI(1730)としたときに、以下の式3を満たす、
積層体:
R0=I0(810)/I0(1730) …式1
R=I(810)/I(1730) …式2
0.21<R/R0<0.50 …式3
【請求項2】
前記アンカーコート層が、(メタ)アクリル系樹脂を含む、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記アンカーコート層の厚さが、2.0μm以上である、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項4】
前記アンカーコート層が、無機粒子を含む、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項5】
#0000番のスチールウールで500g/cm2の荷重をかけながら、前記アンカーコート層における前記基材側の面と反対側の面を5回往復してこすった後の傷が、3本以下である、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項6】
オーバーコート層及び接着層からなる群から選択される少なくとも一種をさらに含む、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項7】
無溶剤型のコーティング剤を適用するためのものである、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項8】
ポリカーボネート樹脂基材の少なくとも片面に、紫外線硬化型樹脂組成物を適用して未硬化のアンカーコート層を形成することと、
前記未硬化のアンカーコート層に紫外線を照射して紫外線硬化アンカーコート層を形成することであって、該アンカーコート層における前記基材側の面と反対側の面をATR法によるFT-IRで測定したときに、該測定面が、810cm-1付近及び1730cm-1付近に最大ピークを有し、かつ、前記アンカーコート層における、紫外線硬化前のそれぞれの最大ピーク強度をI0(810)及びI0(1730)とし、紫外線硬化後のそれぞれの最大ピーク強度をI(810)及びI(1730)としたときに、以下の式6を満たす、前記紫外線硬化アンカーコート層を形成することと、
を含む、積層体の製造方法:
R0=I0(810)/I0(1730) …式4
R=I(810)/I(1730) …式5
0.21<R/R0<0.50 …式6
【請求項9】
前記紫外線硬化アンカーコート層を形成することが、窒素パージ雰囲気下で実施されない、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記紫外線硬化アンカーコート層に対し、無溶剤型のコーティング剤を適用することをさらに含む、請求項8又は9に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、紫外線硬化アンカーコート層及びポリカーボネート樹脂基材を含む積層体、並びに該積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリカーボネート樹脂で構成される成形品の表面にハードコート層などのコーティング層を適用する技術が種々開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ポリカーボネート樹脂成形品に紫外線硬化型塗料をトップコートしてポリカーボネート樹脂成形品の表面を硬化する方法において、該ポリカーボネート樹脂成形品として、予め、アルキルアクリレート及びアルキルメタクリレートからなる群から選ばれたモノマーから得られるポリマー、コポリマー又はこれらの混合物を有機溶剤に溶解したプライマー塗料を下塗りした成形品を使用する、ポリカーボネート樹脂成形品の表面硬化法が開示されている。
【0004】
特許文献2には、ポリカーボネート樹脂成形品から形成された窓ガラスであって、外側の面が下記(i)の特性を有するシリコンハードコートで被覆され、内側の面が下記(ii)の特性を有するメラミンコートで被覆され、かつ該メラミンコート面に印刷が施されたポリカーボネート樹脂窓ガラスが開示されている:
(i)第1層としてアクリル系樹脂を主成分とするシリコンプライマーコートと第2層のオルガノポリシロキサン樹脂を主成分とする熱硬化膜からなるシリコントップコートからなり、そのASTM D1044によるテーバー摩耗試験(CS-10F摩耗輪を使用し、荷重500g下100回転で測定)による摩耗テストの結果、ヘイズ値の変化が5%以下である。
(ii)ヘキサメトキシメチロールメラミンとブタンジオール、ヘキサンジオール、又は特定のポリエチレングリコールの1種又は2種以上の混合物との縮合物であり、そのASTM D1044によるテーバー摩耗試験(CS-10F摩耗輪を使用し、荷重500g下100回転で測定)による摩耗テストの結果、ヘイズ値の変化が0.5%以上5%以下の範囲である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61-143448号公報
【特許文献2】特許第4473490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ポリカーボネート樹脂基材には、ハードコート層、接着層などの種々のコーティング層が適用され得る。そして、かかる層との密着性を向上させるために、特許文献2に記載されるようなアンカーコート層(プライマーコート層)が、基材に対して予め適用される場合がある。しかしながら、ポリカーボネート樹脂基材に適用される従来のアンカーコート層は、一般的に、特定のコーティング層に対しては密着性を向上させ得るが、それ以外の層に対しては密着性を向上させることができない場合があった。そのため、ポリカーボネート樹脂基材に適用するコーティング層に応じてアンカーコート層を選定する必要があった。
【0007】
したがって、本開示の目的は、ポリカーボネート樹脂基材に対して密着性よく、種々のコーティング層を適用することができるアンカーコート層を含む積層体、及び該積層体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
〈態様1〉
ポリカーボネート樹脂基材の少なくとも片面に紫外線硬化アンカーコート層を含み、
前記アンカーコート層における前記基材側の面と反対側の面をATR法によるFT-IRで測定したときに、該測定面が、810cm-1付近及び1730cm-1付近に最大ピークを有し、
前記アンカーコート層における、紫外線硬化前のそれぞれの最大ピーク強度をI0(810)及びI0(1730)とし、紫外線硬化後のそれぞれの最大ピーク強度をI(810)及びI(1730)としたときに、以下の式3を満たす、
積層体:
R0=I0(810)/I0(1730) …式1
R=I(810)/I(1730) …式2
0.21<R/R0<0.50 …式3
〈態様2〉
前記アンカーコート層が、(メタ)アクリル系樹脂を含む、態様1に記載の積層体。
〈態様3〉
前記アンカーコート層の厚さが、2.0μm以上である、態様1又は2に記載の積層体。
〈態様4〉
前記アンカーコート層が、無機粒子を含む、態様1~3のいずれかに記載の積層体。
〈態様5〉
#0000番のスチールウールで500g/cm2の荷重をかけながら、前記アンカーコート層における前記基材側の面と反対側の面を5回往復してこすった後の傷が、3本以下である、態様1~4のいずれかに記載の積層体。
〈態様6〉
オーバーコート層及び接着層からなる群から選択される少なくとも一種をさらに含む、態様1~5のいずれかに記載の積層体。
〈態様7〉
無溶剤型のコーティング剤を適用するためのものである、態様1~6のいずれかに記載の積層体。
〈態様8〉
ポリカーボネート樹脂基材の少なくとも片面に、紫外線硬化型樹脂組成物を適用して未硬化のアンカーコート層を形成することと、
前記未硬化のアンカーコート層に紫外線を照射して紫外線硬化アンカーコート層を形成することであって、該アンカーコート層における前記基材側の面と反対側の面をATR法によるFT-IRで測定したときに、該測定面が、810cm-1付近及び1730cm-1付近に最大ピークを有し、かつ、前記アンカーコート層における、紫外線硬化前のそれぞれの最大ピーク強度をI0(810)及びI0(1730)とし、紫外線硬化後のそれぞれの最大ピーク強度をI(810)及びI(1730)としたときに、以下の式6を満たす、前記紫外線硬化アンカーコート層を形成することと、
を含む、積層体の製造方法:
R0=I0(810)/I0(1730) …式4
R=I(810)/I(1730) …式5
0.21<R/R0<0.50 …式6
〈態様9〉
前記紫外線硬化アンカーコート層を形成することが、窒素パージ雰囲気下で実施されない、態様8に記載の製造方法。
〈態様10〉
前記紫外線硬化アンカーコート層に対し、無溶剤型のコーティング剤を適用することをさらに含む、態様8又は9に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、ポリカーボネート樹脂基材に対して密着性よく、種々のコーティング層を適用することができるアンカーコート層を含む積層体、及び該積層体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施の形態について詳述する。本開示は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、発明の本旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0011】
本開示の積層体は、ポリカーボネート樹脂基材の少なくとも片面に紫外線硬化アンカーコート層を含み、このアンカーコート層における基材側の面と反対側の面をATR法(全反射測定法:Attenuated Total Reflection)によるFT-IRで測定したときに、該測定面が、810cm-1付近及び1730cm-1付近に最大ピークを有し、アンカーコート層における、紫外線硬化前のそれぞれの最大ピーク強度をI0(810)及びI0(1730)とし、紫外線硬化後のそれぞれの最大ピーク強度をI(810)及びI(1730)としたときに、以下の式3を満たす:
R0=I0(810)/I0(1730) …式1
R=I(810)/I(1730) …式2
0.21<R/R0<0.50 …式3
【0012】
原理によって限定されるものではないが、本開示の積層体が、ポリカーボネート樹脂基材に対して密着性よく、種々のコーティング層を適用することができる作用原理は以下のとおりであると考える。
【0013】
本開示の積層体は、ポリカーボネート樹脂基材の少なくとも片面に、紫外線硬化アンカーコート層(単に「アンカーコート層」と称する場合がある。)を含んでいる。そして、かかるアンカーコート層は、紫外線によって硬化させられるが、本開示のアンカーコート層は、その表面付近の硬化度(反応率)を完全には硬化させず、特定の硬化度となるように制御している。これにより、ポリカーボネート樹脂基材とアンカーコート層との間の密着性が確保されることに加え、アンカーコート層に対して適用するコーティング層が、アンカーコート層と馴染みやすくなるため、アンカーコート層に適用し得るコーティング層の種類の幅が広がり、また、アンカーコート層と、該層に適用したコーティング層との密着性も向上し得たと考えている。
【0014】
なお、ポリカーボネート樹脂基材は、例えば、ロールの形態で出荷される場合がある。このとき、出荷先において、各種のコーティング層が基材に対して適用される場合がある。このような場合、典型的には、予めアンカーコート層を基材に適用した状態で出荷され得る。アンカーコート層は、一般的に、ハードコート層に比べて脆弱な層であるため、例えば、出荷用のロール体を得るときにアンカーコート層に傷がついてしまい、製品として出荷できなくなるおそれがある。いくつかの実施形態における本開示の積層体のアンカーコート層は、耐擦傷性能も呈し得るため、積層体の製造時における傷などの不具合を低減又は防止することができる。これは、このようなアンカーコート層は、密着性と耐擦傷性との性能がバランスよく得られる最適な硬化度領域で硬化したためであると考えられる。
【0015】
本開示における用語の定義は以下のとおりである。
【0016】
本開示において、例えば、「810cm-1付近」の「付近」とは、「810cm-1付近」によれば、810cm-1を基準にして、±10%、±5%又は±2%程度の変動が許容されることを意図する。つまり、「810cm-1付近」とは、最大で729~891cm-1の範囲を意味する。
【0017】
本開示において「(メタ)アクリル」とは、アクリル又はメタクリルを意味し、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート又はメタクリレートを意味する。
【0018】
《積層体》
本開示の積層体は、少なくとも、ポリカーボネート樹脂基材と紫外線硬化アンカーコート層とを含み、典型的には、かかるアンカーコート層に対してオーバーコート層(例えばハードコート層)などの任意の追加の層が適用され得る。
【0019】
まず、本開示の積層体を構成する各層について以下に説明する。
【0020】
〈ポリカーボネート樹脂基材〉
本開示の積層体を構成するポリカーボネート樹脂基材としては特に制限はなく、例えば、ポリカーボネート樹脂を、基材の樹脂成分の全量に対し、50質量%以上、70質量%以上、又は90質量%以上含む基材、或いは基材の樹脂成分としてポリカーボネート樹脂のみからなる基材を使用することができる。
【0021】
基材に使用するポリカーボネート樹脂としては特に制限はなく、例えば、芳香族ポリカーボネート樹脂を挙げることができる。芳香族ポリカーボネート樹脂は、例えば、二価フェノールとカーボネート前駆体を反応させて得ることができる。かかる反応の方法としては、例えば、界面重縮合法、溶融エステル交換法、カーボネートプレポリマーの固相エステル交換法、及び、環状カーボネート化合物の開環重合法を挙げることができる。ポリカーボネート樹脂は単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。
【0022】
二価フェノールとして特に制限はなく、具体例としては、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4’-ジヒドロキシジフェニル、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス{(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチル)フェニル}メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、2,2-ビス{(4-ヒドロキシ-3-メチル)フェニル}プロパン、2,2-ビス{(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチル)フェニル}プロパン、2,2-ビス{(3-イソプロピル-4-ヒドロキシ)フェニル}プロパン、2,2-ビス{(4-ヒドロキシ-3-フェニル)フェニル}プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-メチルブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3-ジメチルブタン、2,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2-メチルブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-メチルペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-イソプロピルシクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス{(4-ヒドロキシ-3-メチル)フェニル}フルオレン、α,α’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-o-ジイソプロピルベンゼン、α,α’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-m-ジイソプロピルベンゼン、α,α’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-p-ジイソプロピルベンゼン、1,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-5,7-ジメチルアダマンタン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’-ジヒドロキシジフェニルケトン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、及び4,4’-ジヒドロキシジフェニルエステルが挙げられる。二価フェノールは単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。
【0023】
二価フェノールのうち、ビスフェノールA、2,2-ビス{(4-ヒドロキシ-3-メチル)フェニル}プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-メチルブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3-ジメチルブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-メチルペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、及びα,α’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-m-ジイソプロピルベンゼンからなる群より選ばれた少なくとも1種のビスフェノールより得られる単独重合体又は共重合体が好ましく、特に、ビスフェノールAの単独重合体及び1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンとビスフェノールA、2,2-ビス{(4-ヒドロキシ-3-メチル)フェニル}プロパン、又は、α,α’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-m-ジイソプロピルベンゼンとの共重合体がより好ましく使用される。
【0024】
カーボネート前駆体としては、例えば、カルボニルハライド、カーボネートエステル、及び、ハロホルメートが挙げられ、具体的には、ホスゲン、ジフェニルカーボネート、及び二価フェノールのジハロホルメートが挙げられる。
【0025】
界面重縮合法及びエステル交換法によるポリカーボネート樹脂の合成方法ついて以下に簡単に説明するが、ポリカーボネート樹脂の合成方法はこの方法に限定されない。
【0026】
カーボネート前駆体としてホスゲンを用いる界面重縮合法では、一般に、酸結合剤及び有機溶媒の存在下において、二価フェノール成分とホスゲンとの反応を行う。酸結合剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、又は、ピリジン等のアミン化合物が用いられる。有機溶媒としては、例えば、塩化メチレン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素が用いられる。反応促進のために、例えば、第三級アミン、第四級アンモニウム塩等の触媒を用いることができ、分子量調節剤として、例えばフェノール、p-tert-ブチルフェノールのようなアルキル置換フェノール等の末端停止剤を用いることもできる。
【0027】
反応温度としては、例えば0℃~40℃の範囲で適宜設定することができ、反応時間としては、例えば10分~5時間の範囲で適宜設定することができ、反応中のpHとしては、例えば10以上の範囲で適宜設定することができる。
【0028】
カーボネート前駆体として炭酸ジエステルを用いるエステル交換法(溶融法)は、不活性ガスの存在下に所定割合の二価フェノール成分と炭酸ジエステルとを加熱しながら撹拌し、生成するアルコール又はフェノール類を留出させる方法である。
【0029】
反応温度は生成するアルコール又はフェノール類の沸点により異なるが、例えば120℃~350℃の範囲で適宜設定することができる。反応方法は、反応の初期から減圧にして、生成するアルコール又はフェノール類を留出させながら反応させる方法を好適に用いることができる。
【0030】
反応を促進するために、エステル交換反応触媒を用いることができる。このエステル交換反応に用いる炭酸ジエステルとしては、例えばジフェニルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、及びジブチルカーボネートが挙げられ、特にジフェニルカーボネートが好ましい。
【0031】
いくつかの実施形態において、ポリカーボネート樹脂基材に含まれるポリカーボネート樹脂は、粘度平均分子量が17,000以上又は20,000以上、40,000以下又は30,000以下のポリカーボネート樹脂を使用することができる。ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量がこのような範囲であると、得られる積層体は、十分な強度及び良好な溶融流動性を有するため、耐候性、耐沸性及び耐摩耗性を向上させることができ、なかでも耐候性を好適に向上させることができる。粘度平均分子量はポリカーボネート樹脂が2種以上の混合物の場合は混合物全体での分子量を表す。ここで、粘度平均分子量とは、塩化メチレン100mLにポリカーボネート0.7gを溶解した溶液の20℃における比粘度(ηsp)を測定し、下記の式a及びbから粘度平均分子量(M)を算出したものである:
ηsp/c=[η]+0.45×[η]2c …式a
[η]=1.23×10-4 M0.83 …式b
(但し、c=0.7g/dL、[η]は極限粘度である。)
【0032】
いくつかの実施形態において、ポリカーボネート樹脂基材は、上述した粘度平均分子量が17,000~40,000以外のポリカーボネート樹脂、及び、ポリカーボネート樹脂以外の樹脂を含んでもよい。粘度平均分子量が17,000~40,000以外のポリカーボネート樹脂は、基材の樹脂成分の全量に対し、50質量%以上、70質量%以上、90質量%以上、又は100質量%とすることができる。
【0033】
本開示のポリカーボネート樹脂基材は、本開示の効果に悪影響を及ぼさない範囲で、各種成分を適宜配合することができる。このような任意成分としては、例えば、熱安定剤、離型剤、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、発泡剤、補強剤(例えば、タルク、マイカ、クレー、ワラストナイト、炭酸カルシウム、ガラス繊維、ガラスビーズ、ガラスバルーン、ミルドファイバー、ガラスフレーク、炭素繊維、炭素フレーク、カーボンビーズ、カーボンミルドファイバー、金属フレーク、金属繊維、金属コートガラス繊維、金属コート炭素繊維、金属コートガラスフレーク、シリカ、セラミック粒子、セラミック繊維、アラミド粒子、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、グラファイト、導電性カーボンブラック、及び各種ウイスカー)、難燃剤(例えば、ハロゲン系難燃剤、リン酸エステル系難燃剤、金属塩系難燃剤、赤リン系難燃剤、シリコーン系難燃剤、フッ素系難燃剤、及び金属水和物系難燃剤)、着色剤(例えば、カーボンブラック、酸化チタン等の顔料、及び染料)、光拡散剤(例えば、アクリル架橋粒子、シリコーン架橋粒子、極薄ガラスフレーク、及び炭酸カルシウム粒子)、蛍光増白剤、蓄光顔料、蛍光染料、帯電防止剤、流動改質剤、結晶核剤、無機及び有機の抗菌剤、光触媒系防汚剤(例えば、微粒子酸化チタン、及び微粒子酸化亜鉛)、グラフトゴムに代表される衝撃改質剤、並びにフォトクロミック剤を挙げることができる。任意成分は単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。
【0034】
ポリカーボネート樹脂の製造方法としては特に制限はなく、任意の公知の方法を採用することができる。かかる製造方法としては、例えば、ポリカーボネート樹脂原料及び任意に他の添加剤を、V型ブレンダー、ヘンシェルミキサー、メカノケミカル装置、押出混合機などの予備混合手段を用いて十分に混合した後、場合により押出造粒器、又はブリケッティングマシーンにより造粒を行い、その後ベント式一軸又は二軸押出機に代表される溶融混練機で溶融混練、及び、ペレタイザー等の機器によりペレット化する方法が挙げられる。
【0035】
この他、ポリカーボネート樹脂の製造方法として、例えば、各成分をそれぞれ独立にベント式一軸又は二軸押出機に代表される溶融混練機に供給する方法、及び、各成分の一部を予備混合した後、残りの成分と独立に溶融混練機に供給する方法も挙げられる。各成分の一部を予備混合する方法としては、例えば、リン系安定化剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤等の添加剤を予め予備混合した後、ポリカーボネート樹脂に混合又は押出機に直接的に供給する方法が挙げられる。
【0036】
予備混合する方法としては、例えば、パウダーの形態を有するものを含む場合、かかるパウダーの一部と配合する添加剤とをブレンドして、パウダーで希釈した添加剤のマスターバッチとする方法が挙げられる。さらに、予備混合する方法としては、一成分を独立に溶融押出機の途中から供給する方法なども挙げられる。なお、配合する成分に液状のものがある場合には、溶融押出機への供給に対し、液注装置又は液添装置と称する装置を使用することができる。
【0037】
押出機としては特に制限はなく、例えば、原料中の水分、及び溶融混練樹脂から発生する揮発ガスを脱気できるベントを有するものを好適に使用することができる。発生した水分及び揮発ガスを効率よく押出機の外部へ排出するために、ベントに対して真空ポンプが設置されていることが好ましい。
【0038】
押出原料中に混入した異物などを除去するために、押出機ダイス部前のゾーンにスクリーンを設置してもよい。かかるスクリーンとしては、例えば、金網、スクリーンチェンジャー、及び焼結金属プレート(ディスクフィルターなど)を挙げることができる。
【0039】
溶融混練機としては、例えば、二軸押出機の他に、バンバリーミキサー、混練ロール、単軸押出機、及び三軸以上の多軸押出機を挙げることができる。
【0040】
押出された樹脂は、一般的には、直接切断してペレット化するか、又は、ストランドを形成した後、かかるストランドをペレタイザーで切断してペレット化され得る。ペレット化するときに外部の埃などの影響を低減する必要がある場合には、押出機周囲の雰囲気を清浄化することが好ましい。
【0041】
ポリカーボネート樹脂基材は、例えば、ポリカーボネート樹脂ペレットを射出成形して得ることができる。射出成形としては、通常の射出成形法に限らず、例えば、射出圧縮成形、射出プレス成形、ガスアシスト射出成形、インサート成形、インモールドコーティング成形、断熱金型成形、急速加熱冷却金型成形、二色成形、サンドイッチ成形、及び超高速射出成形を採用することができる。成形においては、コールドランナー方式、及び、ホットランナー方式のいずれも選択することができる。
【0042】
ポリカーボネート樹脂基材の形態としては特に制限はなく、例えば、フィルム又は板のような平坦形状、曲面形状、各種三次元形状などであってもよい。シート、フィルムの成形には、例えば、押出成形法、インフレーション法、カレンダー法、又はキャスティング法などを使用することができる。ポリカーボネート樹脂は、特定の延伸操作をかけることにより熱収縮チューブとして成形することも可能である。またポリカーボネート樹脂を、回転成形、又はブロー成形により中空成形品とすることも可能である。
【0043】
ポリカーボネート樹脂基材の厚みとしては特に制限はなく、積層体の使用用途等に応じて適宜設定することができる。かかる厚みとして、例えば、10μm以上、30μm以上、50μm以上、又は100μm以上とすることができる。厚みの上限値としては特に制限はなく、例えば、20mm以下、15mm以下、10mm以下、5.0mm以下、3.0mm以下、1.0mm以下、500μm以下、300μm以下、又は100μm以下とすることができる。
【0044】
なお、本開示の積層体における各層の厚さは、デジマチックノギス(ABSデジマチックキャリパCD-AX、株式会社ミツトヨ製)若しくは高精度デジマチックマイクロメータ(MDH-25MB、株式会社ミツトヨ製)、及び/又は、光学顕微鏡若しくは走査型電子顕微鏡を使用して求めることができる。例えば、アンカーコート層、任意の接着層及びハードコート層のような比較的薄い層に関しては、光学顕微鏡若しくは走査型電子顕微鏡を使用して積層体の厚さ方向断面を測定し、積層構成のうちの目的とする層、例えば、アンカーコート層における任意の少なくとも5箇所の厚さの平均値として求めることができる。基材の厚さに関しては、デジマチックノギス(ABSデジマチックキャリパCD-AX、株式会社ミツトヨ製)若しくは高精度デジマチックマイクロメータ(MDH-25MB、株式会社ミツトヨ製)を用いて積層体における任意の少なくとも5箇所の厚さを求め平均値を算出した後、かかる値から、光学顕微鏡若しくは走査型電子顕微鏡を使用して得られた他の層(アンカーコート層等)の厚さを差し引くことで求めることができる。
【0045】
〈紫外線硬化アンカーコート層〉
本開示の紫外線硬化アンカーコート層は、オーバーコート層(例えばハードコート層)などの任意の追加の層が適用され得る層であり、ポリカーボネート樹脂基材の片面又は両面に適用される。
【0046】
本開示の紫外線硬化アンカーコート層は、アンカーコート層における基材側の面と反対側の面(オーバーコート層などの任意の追加の層が適用され得る面)をATR法によるFT-IRで測定したときに、該測定面が、810cm-1付近及び1730cm-1付近に最大ピークを有している。ここで、例えば、(メタ)アクリル系樹脂では、810cm-1付近における最大ピークは、(メタ)アクリルの二重結合の反応部に対応するピークであり、かかるピークの値は紫外線硬化反応による反応の進行度合いに応じて変動する。一方、1730cm-1付近の最大ピークは、紫外線硬化反応に関与しないカルボニル基に対応するピークであり、本開示では、かかるピークを基準ピークとし、その値を基準値として使用している。
【0047】
本開示の紫外線硬化アンカーコート層は、アンカーコート層における、紫外線硬化前の810cm-1付近及び1730cm-1付近それぞれの最大ピーク強度をI0(810)及びI0(1730)とし、紫外線硬化後の810cm-1付近及び1730cm-1付近それぞれの最大ピーク強度をI(810)及びI(1730)としたときに、以下の式3を満たす:
R0=I0(810)/I0(1730) …式1
R=I(810)/I(1730) …式2
0.21<R/R0<0.50 …式3
【0048】
R/R0の値は、その値が小さくなると、紫外線硬化反応が進行している、すなわち、アンカーコート層表面付近の硬化度(反応率)が高いことを意図し、逆にR/R0の値が大きくなると、紫外線硬化反応が進行していない、すなわち、アンカーコート層表面付近の硬化度(反応率)が低いことを意図する。本開示の紫外線硬化アンカーコート層は、種々のコーティング層との密着性との観点から、R/R0の値は、0.22以上、0.22超、0.23以上、0.23超、0.24以上、又は0.24超であることが好ましい。種々のコーティング層との密着性に加え、アンカーコート層自身の耐擦傷性の観点から、R/R0の値は、0.45以下、0.40以下、0.35以下、0.30以下、又は0.30未満であることが好ましい。ここで、R/R0の値は、例えば、アンカーコート層を形成するときの紫外線の照射強度(照度)及び/又は積算光量を調整して制御することができ、或いは、紫外線照射時の窒素パージ量を調整して制御することができる。この他、例えば、紫外線硬化型樹脂組成物に配合する光重合開始剤の配合量を調整して制御することもできる。
【0049】
本開示の紫外線硬化アンカーコート層の厚さとしては特に制限はなく、例えば、1.0μm以上、1.5μm以上、2.0μm以上、2.5μm以上、又は3.0μm以上とすることができ、また、20μm以下、10μm以下、8.0μm以下、又は5.0μm以下とすることができる。アンカーコート層の表面付近における所定の硬化度(反応率)分布(上記のR/R0の値)は、アンカーコート層の厚さが厚くなるとより好適に形成される傾向にある。したがって、アンカーコート層の表面付近において所望の硬化度を得る観点から、アンカーコート層の厚さは、2.0μm以上であることが好ましく、2.5μm以上であることがより好ましく、3.0μm以上であることが特に好ましい。
【0050】
本開示の紫外線硬化アンカーコート層を構成する紫外線硬化型樹脂としては、上記の式3の関係を満たす限り特に制限はない。かかる樹脂材料としては、単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。種々のコーティング層との密着性、及びアンカーコート層の耐擦傷性の観点から、アンカーコート層は、(メタ)アクリル系樹脂を含むことが好ましい。アンカーコート層は、種々のコーティング層との密着性、及びアンカーコート層の耐擦傷性の観点から、アンカーコート層の樹脂成分の全量に対し、(メタ)アクリル系樹脂が、50質量%以上、70質量%以上、又は90質量%以上含まれていることが好ましく、(メタ)アクリル系樹脂のみからなることがより好ましい。
【0051】
(メタ)アクリル系樹脂としては特に制限はなく、例えば、ポリエステル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ホスファゼン(メタ)アクリレート、メラミン(メタ)アクリレート、アミノ(メタ)アクリレートなどの各種の多官能(メタ)アクリレートモノマーを用いて調製され得る(メタ)アクリル系樹脂を挙げることができる。なかでも、種々のコーティング層との密着性、及びアンカーコート層の耐擦傷性の観点から、ウレタン(メタ)アクリレート及びエポキシ(メタ)アクリレートが好ましい。この他、(メタ)アクリル系樹脂を得るときに、多官能モノマーに加えて単官能モノマー(例えば、多官能モノマーと同種の単官能モノマー)を適宜使用することもできる。使用するモノマーは単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。
【0052】
本開示のアンカーコート層は紫外線によって硬化する層である。したがって、アンカーコート層を形成する紫外線硬化型樹脂組成物は、典型的には、光重合開始剤を含み得る。光重合開始剤としては特に制限はなく、少なくとも紫外線によりラジカル等を生じて重合反応を開始させ得る公知の材料を使用することができる。光重合開始剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。
【0053】
光重合開始剤の種類としては特に制限はなく、例えば、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤、フェニルグリオキシル酸エステル系光重合開始剤、ベンジルケタール系光重合開始剤、α-ヒドロキシアルキルフェノン系光重合開始剤、及びα-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤を挙げることができる。なかでも、種々のコーティング層との密着性、及びアンカーコート層の耐擦傷性の観点から、α-ヒドロキシアルキルフェノン系光重合開始剤が好ましい。
【0054】
α-ヒドロキシアルキルフェノン系光重合開始剤としては、例えば、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(IGM Resins B.V.社製、Omnirad(登録商標)184)、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン(BASF社製、Irgacure 1173)、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン(IGM Resins B.V.社製、Omnirad(登録商標)2959)、2-ヒロドキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン(IGM Resins B.V.社製、Omnirad(登録商標)127)を挙げることができる。なかでも、種々のコーティング層との密着性、及びアンカーコート層の耐擦傷性の観点から、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(IGM Resins B.V.社製、Omnirad(登録商標)184)、及び2-ヒロドキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン(IGM Resins B.V.社製、Omnirad(登録商標)127)が好ましい。
【0055】
光重合開始剤の含有量としては特に制限はないが、例えば、アンカーコート層を形成する樹脂組成物中の全モノマー成分100質量部に対し、0.10質量部以上、0.50質量部以上、1.0質量部以上、2.0質量部以上、又は3.0質量部以上とすることができ、10質量部以下、9.0質量部以下、又は8.5質量部以下とすることができる。
【0056】
本開示のアンカーコート層、及びアンカーコート層を形成する紫外線硬化型樹脂組成物は、本開示の効果に悪影響を及ぼさない範囲で、各種成分を適宜配合することができる。このような任意成分としては、例えば、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、溶媒、染料、顔料、及びフィラー(例えば無機粒子)が挙げられる。かかる成分は、単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。紫外線硬化型樹脂組成物に紫外線吸収剤を配合すると、紫外線硬化を抑制する効果を奏するため、紫外線吸収剤の種類及び/又は配合量を調整することによって、本開示のアンカーコート層表面の硬化度を所定の範囲に制御することもできる。
【0057】
任意成分のなかでも、無機粒子の使用が好ましい。アンカーコート層が無機粒子を含んでいると、例えば、積層体の巻取り時などにおけるブロッキングを低減又は抑制することができる。
【0058】
無機粒子の種類としては特に制限はなく、例えば、アルミナ(酸化アルミ)、酸化スズ、酸化アンチモン、シリカ(酸化ケイ素)、ジルコニア(酸化ジルコニウム)、チタニア(酸化チタン)などの無機酸化物を挙げることができる。無機粒子は単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。なかでも、耐ブロッキング性の観点から、シリカが好ましく、シリカゾルがより好ましい。
【0059】
無機粒子の配合量としては特に制限はない。例えば、耐ブロッキング性の観点から、アンカーコート層の全量、又はアンカーコート層を形成する樹脂組成物の固形分に対し、10質量%以上、20質量%以上、又は30質量%以上とすることができ、60質量%以下、55質量%以下、50質量%以下、又は45質量%以下とすることができる。
【0060】
いくつかの実施形態において、本開示のアンカーコート層は、種々のコーティング層との密着性を向上させることに加え、耐擦傷性も呈し得る。耐擦傷性は、後述する実施例に記載される耐擦傷性の試験で評価することができる。具体的には、いくつかの実施形態において、本開示のアンカーコート層は、#0000番のスチールウールで500g/cm2の荷重をかけながら、かかるアンカーコート層における基材側の面と反対側の面(オーバーコート層などの任意の追加の層が適用され得る面)を5回往復してこすった後の傷が、3本以下、2本以下、1本以下、又は0本であり得る。
【0061】
〈任意の層〉
本開示の積層体は、本開示の効果に悪影響を及ぼさない範囲で、使用用途等に応じて、任意の層を一層以上さらに備えてもよい。任意の層は、本開示のアンカーコート層に直接的に適用される層であってもよく、或いは、直接的に適用されない層であってもよい。
【0062】
本開示の紫外線硬化アンカーコート層は、その表面の硬化度(反応率)が調整され、種々のコーティング層を適用することができるため、かかるアンカーコート層に対して様々な任意の追加の層を適用することができる。なかでも、従来、無溶剤型のコーティング剤は、溶剤型のコーティング剤に比べてアンカーコート層に対して密着させることが難しかったが、本開示のアンカーコート層によれば、このような無溶剤型のコーティング剤を用いて形成した層に対しても密着性を向上させることができる。したがって、本開示の積層体は、無溶剤型のコーティング剤を適用するために好適に使用することができる。無溶剤型のコーティング剤の使用は、作業環境の改善などに対しても好適に貢献することができる。ここで、本開示において「無溶剤型のコーティング剤」とは、コーティング剤中に溶剤が全く含まれていない剤に限らず、低量の溶剤が含まれている剤も包含することができる。具体的には、溶剤が、コーティング剤の全量に対し、5質量%以下、1質量%以下、0.5質量%以下、又は0.1質量%以下含まれているようなコーティング剤も、本開示においては「無溶剤型のコーティング剤」に包含され得る。
【0063】
任意の層としては特に制限はなく、様々な層を採用することができる。例えば、以下にオーバーコート層及び接着層について詳細に説明するが、任意の層はこれらに限定されない。
【0064】
(オーバーコート層)
本開示の積層体には、様々なオーバーコート層を適用することができる。オーバーコート層は、耐擦傷性等の性能を有するハードコート層であってもよく、かかる性能を有しない層(例えば防汚層、防曇層、ガスバリア層)であってもよい。オーバーコート層は、単層構成であってもよく、或いは積層構成であってもよい。オーバーコート層は、積層体の全面に適用されてもよく、或いは部分的に適用されてもよい。密着性等の観点から、オーバーコート層は、アンカーコート層に直接的に適用されることが好ましい。なお、本開示における「オーバーコート層」には、接着層は包含されない。
【0065】
オーバーコート層の材料としては、特に制限はなく、例えば、無機材料及び樹脂材料を挙げることができる。
【0066】
無機材料としては特に制限はなく、例えば、アルミニウム、ニッケル、金、銀、銅、白金、クロム、鉄、スズ、インジウム、チタニウム、鉛、亜鉛、及びゲルマニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属、又はこれらの合金若しくは化合物を挙げることができる。この他に、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属酸化窒化物、金属酸化ホウ化物、及びこれらの組み合わせが挙げられる。具体的には、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化インジウム、酸化スズ、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化タンタル、酸化ジルコニウム、酸化ニオビウム、炭化ホウ素、炭化タングステン、炭化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素、酸化窒化アルミニウム、酸化窒化ケイ素、酸化窒化ホウ素、酸化ホウ化ジルコニウム、酸化ホウ化チタン、及びこれらの組み合わせなどが挙げられる。無機材料は単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。
【0067】
無機材料から構成される層は、例えば、物理気相成長法又は化学気相成長法を用いて形成することができる。例えば、かかる層は、スパッタリング(例えば、カソード又は平面マグネトロンスパッタリング)、蒸着(例えば、抵抗又は電子ビーム蒸着)、化学蒸着、プラズマ蒸着、原子層蒸着(ALD)、めっきなどのドライコーティング技術を使用して形成することができる。このようなドライコーティング法によって形成されるオーバーコート層は、後述するウェットコーティング法によって形成された層と区別するために、「オーバードライコート層」と称することもできる。
【0068】
樹脂材料としては特に制限はなく、例えば、(メタ)アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、アミド系樹脂、エポキシ系樹脂を挙げることができる。樹脂材料は、電離放射線(例えば紫外線、X線、電子線)硬化型樹脂であってもよく、熱硬化型樹脂であってもよい。ここで、(メタ)アクリル系樹脂としては、例えば、上述したアンカーコート層における(メタ)アクリル系樹脂などを同様に採用することができる。樹脂材料のなかでも、アンカーコート層との密着性等の観点から、(メタ)アクリル系樹脂及びシリコーン系樹脂が好ましい。樹脂材料は単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。樹脂材料から構成されるオーバーコート層は、公知のウェットコーティング法などによって適用することができる。このようなウェットコーティング法によって形成されるオーバーコート層は、上述したドライコーティング法によって形成された層と区別するために、「オーバーウェットコート層」と称することもできる。
【0069】
樹脂材料から構成されるオーバーコート層には、本開示の効果に悪影響を及ぼさない範囲で、各種成分を適宜配合することができる。このような任意成分としては、例えば、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、レベリング剤、消泡剤、防汚剤(例えば界面活性剤)、分散剤、シランカップリング剤、表面改質剤、染料、顔料、及びフィラー(例えば有機フィラー及び無機フィラー)を挙げることができる。任意成分は、単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。
【0070】
オーバーコート層の厚みとしては特に制限はなく、用途に応じた所望の性能(例えば耐摩耗性)が発揮し得るように適宜設定することができる。かかる厚みとして、例えば、10nm以上、50nm以上、100nm以上、500nm以上、1μm以上、3μm以上、又は5μm以上とすることができる。かかる厚みの上限値としては特に制限はなく、例えば、100μm以下、50μm以下、30μm以下、20μm以下、又は10μm以下とすることができる。
【0071】
(接着層)
本開示の積層体には、様々な接着層を適用することができる。接着層は、単層構成であってもよく、或いは積層構成であってもよい。接着層は、積層体の全面に適用されてもよく、或いは部分的に適用されてもよい。密着性等の観点から、接着層は、アンカーコート層に直接的に適用されることが好ましい。接着層は、典型的には、本開示の積層体を被着体に貼り合わせるときに使用され得る。
【0072】
接着層を形成し得る接着剤としては特に制限はない。接着剤として、例えば、一般に使用される、(メタ)アクリル系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ゴム系などの、溶剤型、エマルジョン型、感圧型、感熱型、熱硬化型又は紫外線硬化型の接着剤を使用することができる。接着剤のなかでも、アンカーコート層との密着性等の観点から、(メタ)アクリル系接着剤が好ましい。接着剤は単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。接着層は、公知のウェットコーティング法などによって適用することができる。
【0073】
接着層には、本開示の効果に悪影響を及ぼさない範囲で、各種成分を適宜配合することができる。このような任意成分としては、例えば、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、分散剤、粘着付与剤、分散剤、可塑剤、レベリング剤、消泡剤、防汚剤(例えば界面活性剤)、シランカップリング剤、表面改質剤、染料、顔料、及びフィラー(例えば有機フィラー及び無機フィラー)を挙げることができる。任意成分は、単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。
【0074】
接着層の厚さは、次のものに限定されないが、例えば、5μm以上、10μm以上、又は20μm以上とすることができ、200μm以下、100μm以下、又は80μm以下とすることができる。このような厚さを有する接着層は、例えば、80℃以上の高温環境下においてガスを発生させる場合がある。本開示のアンカーコート層は接着層との接着力にも優れるため、接着層からガスが発生したとしても、発生したガスによるアンカーコート層と接着層との界面剥離を低減又は抑制することができる。その結果、アンカーコート層と接着層との界面におけるガス溜まりによる発泡等の不具合を低減又は抑制することができる。
【0075】
(他の層)
任意の層として、この他に、帯電防止層、導電層、意匠層、剥離ライナーなどの任意の機能を付与し得る機能層を適宜採用することもできる。
【0076】
《積層体の製造方法》
本開示の積層体の製造方法としては特に制限はない。以下に、本開示の積層体の製造方法の一例を示す。なお、製造方法においては、積層体を構成する上述した各種の材料、各種の特性(例えば、R/R0の数値範囲など)を同様に採用することができる。
【0077】
本開示の積層体の製造方法は、(1)ポリカーボネート樹脂基材の少なくとも片面に、紫外線硬化型樹脂組成物を適用して未硬化のアンカーコート層を形成することと、(2)未硬化のアンカーコート層に紫外線を照射して紫外線硬化アンカーコート層を形成することであって、該アンカーコート層における基材側の面と反対側の面(オーバーコート層などの任意の追加の層が適用され得る面)をATR法によるFT-IRで測定したときに、該測定面が、810cm-1付近及び1730cm-1付近に最大ピークを有し、かつ、アンカーコート層における、紫外線硬化前のそれぞれの最大ピーク強度をI0(810)及びI0(1730)とし、紫外線硬化後のそれぞれの最大ピーク強度をI(810)及びI(1730)としたときに、以下の式6を満たす、紫外線硬化アンカーコート層を形成することと、を含む:
R0=I0(810)/I0(1730) …式4
R=I(810)/I(1730) …式5
0.21<R/R0<0.50 …式6
【0078】
工程(1)において、ポリカーボネート樹脂基材に対し、紫外線硬化型樹脂組成物を適用する方法としては特に制限はなく、公知のコーティング法を適宜使用することができる。かかる方法としては、例えば、グラビアコート、ロールコート、ダイコート、バーコート、ナイフコートなどのコーティング法を挙げることができる。この他、インクジェット印刷などの印刷法を採用することもできる。工程(1)において、必要に応じ、乾燥工程等の任意の追加の工程を採用してもよい。
【0079】
工程(2)では、紫外線による硬化反応を制御することによって、上記の式6を満足する紫外線硬化アンカーコート層を形成することができる。硬化反応の制御方法としては、例えば、紫外線の照射強度(照度)を調整して制御する方法、アンカーコート層に照射する紫外線の積算光量を調整して制御する方法、及び紫外線照射時の窒素パージの量を調整して制御する方法などを挙げることができる。なかでも、アンカーコート層表面付近の硬化度(反応率)を所定の割合に簡易に設定し得る観点から、紫外線照射時の窒素パージの量を調整して制御する方法が好ましい。
【0080】
紫外線硬化型樹脂組成物を硬化させる場合、典型的には、酸素阻害に伴う該組成物の硬化不良を防止するために、該組成物に対して紫外線を照射する領域は、窒素パージされ窒素雰囲気下で実施される。一方、本開示の紫外線硬化アンカーコート層は、その表面付近の硬化度(反応率)が所定の割合になるように、硬化不良を敢えて生じさせているとも言える。したがって、紫外線照射時の窒素パージの量を調整して制御する方法を採用する場合には、空気中の窒素と酸素の割合に関し、窒素が約78体積%、酸素が約21体積%であることを考慮し、紫外線を照射する領域の酸素濃度が、約10体積%以上、約15体積%以上、又は約20体積%以上、約21体積%以下の範囲になるように窒素パージを実施することが好ましい。あるいは、本開示の製造方法においては、紫外線硬化型樹脂組成物の紫外線照射による硬化を窒素パージ雰囲気下で実施しないこと、すなわち、大気雰囲気下において実施することが好ましい。
【0081】
いくつかの実施形態において、本開示の積層体の製造方法は、上述した任意の層を適用する工程を含み得る。任意の層の適用方法としては、上述したように、例えば、無機系のオーバーコート層であれば、スパッタリング法などの公知のドライコーティング法を用いて実施することができる。樹脂材料から構成される層であれば、公知のウェットコーティング法を用いて実施することができる。ウェットコーティング法としては、例えば、グラビアコート、ロールコート、ダイコート、バーコート、及びナイフコートなどのコーティング法を挙げることができる。この他、インクジェット印刷などの印刷法を採用することもできる。
【0082】
上述したように、従来、無溶剤型のコーティング剤は、溶剤型のコーティング剤に比べてアンカーコート層に対して密着させることが難しかったが、本開示のアンカーコート層によれば、このような無溶剤型のコーティング剤を用いて形成した層に対しても密着性を向上させることができる。したがって、本開示の積層体の製造方法によれば、紫外線硬化アンカーコート層に対し、無溶剤型のコーティング剤を適用することができる。
【実施例0083】
以下に実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。実施例、比較例で行った物性測定は以下の方法で行い、その結果を表1にまとめる。また、実施例に記載される各種物性の測定方法は、実施例に記載される積層体及びその製造方法に限らず、上述した積層体及びその製造方法に対しても同様に実施することができる。
【0084】
《実施例1~4及び比較例1~3》
〈各種物性の測定方法〉
(FT-IRピーク強度比:R/R0)
アンカーコート層の表面に対し、ATR法によるFT-IRスペクトルの測定を行った。測定装置及び測定条件は以下の通りである:
測定装置:NICOLET iS50(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)
測定条件:検出器 MCT/A
ビームスプリッタ KBr
ATRプリズム 結晶Ge
ATR入射角 30°
測定範囲 650cm-1~4000cm-1
【0085】
得られたスペクトルから、800~820cm-1に観測されるピーク強度I(810)と1710~1750cm-1に観測されるピーク強度I(1730)を求めた。アンカーコート層の紫外線硬化前の最大ピーク強度をI0(810)及びI0(1730)、紫外線硬化後の最大ピーク強度をI(810)及びI(1730)とし、以下の式で定められるR0及びRから、FT-IR強度比であるR/R0を求めた:
R0=I0(810)/I0(1730)
R=I(810)/I(1730)
【0086】
(密着性:アンカーコート層とオーバーコート層との間の密着性評価)
試験フィルムのアンカーコート層の表面に対し、以下に示すようにして二種類のオーバーコート層を適用した。オーバーコート層が最上層となるように、オーバーコート層を適用した試験フィルムをステンレス製平板に強粘着テープによって貼り付けて固定した後、当該フィルムにカッターナイフで1mm間隔の100個の碁盤目を作成した。続いて、粘着テープ(商品名「セロテープ(登録商標)No.405」、ニチバン株式会社製)を碁盤目上に指先にてしっかりと圧着した後、粘着テープを垂直に強く引き剥がした。試験フィルム上においてオーバーコート層が残った程度を観察し、100個の碁盤目のうち剥離せずに残った数により密着性を評価した。残った数が100個のものを「A」、50~99個のものを「B」、50個未満のものを「C」と評価した。
【0087】
1.無溶剤型アクリレート系オーバーコート層
無溶剤型のアクリレート組成物である紫外線硬化型樹脂組成物(商品名「PAK―02」、東洋合成工業株式会社製)を、試験フィルムのアンカーコート層に対してバーコーターを用いて塗工した。次いで、塗工面に対し、積算光量が1,000mJ/cm-2となるように紫外線を照射してオーバーコート層を形成した。オーバーコート層の膜厚は10μmであった。
【0088】
2.シリコーン系オーバーコート層
γ-グリシドキシプロピルトリメトキシラン(商品名「KBM403」、信越化学工業株式会社製)とメチルトリメトキシシラン(商品名「KBM13」、信越化学工業株式会社製)を1:1のモル比で混合し、酢酸水溶液(pH=3.0)により公知の方法で、混合したシランの加水分解を行った。得られたシランの加水分解物に対し、固形分の重量比率が20:1の割合となるようにN-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメトキシシラン(商品名「KBM603」、信越化学工業株式会社製)を添加し、さらにイソプロピルアルコールとn-ブタノールの混合溶液で希釈してコーティング液を得た。得られたコーティング液を試験フィルムのアンカーコート層に対してバーコーターを用いて塗工してオーバーコート層を形成した。オーバーコート層の厚みは1.5μmであった。
【0089】
(耐発泡性:アンカーコート層と接着層との間の密着性評価)
試験フィルムのアンカーコート層の表面に両面接着テープ(商品名「LA-50」、日東電工株式会社製)を貼り付け、該接着テープ介して試験フィルムをガラスに貼り付けて試験サンプルを調製した。得られた試験サンプルを、85℃、85%RHの雰囲気下で72時間静置した。その後、試験サンプルにおける気泡の有無を目視にて確認した。気泡が発生しなかったものを「良」、気泡が確認されたものを「不良」と評価した。
【0090】
(耐ブロッキング性:アンカーコート層のブロッキング評価)
アンカーコート層を形成した試験フィルムを2枚用意し、アンカーコート層がそれぞれ接するように重ねた状態で100kg/m2の荷重を24時間かけた。その後、ブロッキングの状態を目視で観察し、ブロッキングが発生しなかったものを「良」、ブロッキングが見られたものを「不良」と評価した。
【0091】
(耐擦傷性:アンカーコート層の傷つき性評価)
株式会社井元製作所製、製品名「ラビングテスター1509」を用い、試験フィルムのアンカーコート層の表面に対し、スチールウール#0000(ボンスター販売株式会社製)を500gf荷重で5回往復させた後、アンカーコート層表面の傷を目視で確認した。傷が確認されなかったものを「良」、傷が確認されたものを「不良」と評価した。
【0092】
〈実施例1〉
(ポリカーボネートフィルム(基材)の製膜)
ビスフェノールAのホモポリマーであるポリカーボネート樹脂(商品名「パンライト(登録商標)L-1225」、粘度平均分子量22,200、帝人株式会社製)の樹脂ペレットを、株式会社松井製作所製の除湿熱風乾燥機を用いて120℃で4時間乾燥させた。単軸スクリューの溶融押出機における110℃に加熱した加熱ホッパーに、乾燥した樹脂ペレットを投入した。押出機のシリンダ温度を270℃とし、押出機とT-ダイの間には平均目開きが10μmのSUS不織布製リーフディスク状フィルターを設置した。吐出直後の溶融樹脂を260℃に設定したT-ダイにより、回転する冷却ロール面に押出した。ここで、冷却ロールは3本構成であり、直径が360mmφ、ロール面長が1,900mm、ロールの表面温度が均一になるように冷媒を循環させて制御する構造のものを用いた。
【0093】
ダイリップの先端部と冷却ロール面とのエアーギャップを15mm、第1冷却ロール温度を130℃、第2冷却ロール温度を125℃、第3冷却ロール温度を120℃とし、第1冷却ロールの周速度をR1、第2冷却ロールの周速度をR2、第3冷却ロールの周速度をR3としたときに、R1を8m/分、比率R2/R1を1.005、比率R3/R2を1.000とした。第1冷却ロール、第2冷却ロール及び第3冷却ロールとフィルムとを順次外接させ、テイクオフロールを介してフィルムを巻き取り、ポリカーボネートフィルムAを得た。巻き取ったフィルムの厚みは75μmであった。
【0094】
(アンカーコート層用塗料の調製)
a.ウレタンアクリレートAの合成
撹拌装置及び冷却管を備えた反応容器に、ヘキサメチレンジイソシアネートのアロファネート体(商品名「コロネート(登録商標)2793」、東ソー株式会社製)634質量部、4-ヒドロキシブチルアクリレート(商品名「4-HBA」、大阪有機化学工業株式会社製)183質量部、オクチル酸スズ0.05質量部、4-メトキシフェノール0.5質量部を仕込んだ後、約15分かけて、系内の温度を70℃に昇温した。次いで、同温度において、反応系内を1.5時間保温した後、60℃まで冷却した。そして、4-ヒドロキシブチルアクリレート183質量部、オクチル酸スズ0.05質量部を仕込んだ後、約15分かけて、系内の温度を75℃に昇温した。次いで、同温度において、反応系を1時間保持した後、4-メトキシフェノール0.5質量部を仕込んだ後、冷却して、ウレタンアクリレートAを得た。ウレタンアクリレートAの重量平均分子量は4,000であった。
【0095】
b.エポキシアクリレートAの合成
撹拌装置、冷却管、温度計、及び窒素流入口を備えた反応容器に、メチルイソブチルケトン142質量部、グリシジルメタクリレート(商品名「GMA」、三菱ガス化学株式会社製)142質量部、アゾビスイソブチロニトリル7.1質量部を仕込んで撹拌し、窒素気流下で100℃まで昇温した後、10時間反応させた。反応終了後、60℃まで冷却して、アクリル酸72質量部、トリフェニルホスフィン0.9質量部、メトキノン0.9質量部を仕込み、窒素流入口をエアーバブリング装置に取り換えて空気を反応液中にバブリングさせながら撹拌して、110℃まで昇温させ9時間保温反応させることで、固形分60%のエポキシアクリレートAを得た。エポキシアクリレートAの重量平均分子量は15,000であった。
【0096】
c.アンカーコート層用塗料Aの調製
遮光された撹拌装置、温度計、及び冷却管が備え付けられた反応容器に、光重合開始剤(IGM Resins B.V社製の商品名「Omnirad(登録商標)127」を5質量部及び商品名「Omnirad(登録商標)184」を2質量部)、ウレタンアクリレートA40質量部、アクリレートモノマー(商品名「TPGDA」、ダイセル・オルネクス株式会社製)30質量部、エポキシアクリレートA16.7質量部、オルガノシリカゾル(商品名「IPA―ST」、平均粒子径40~50nm、日産化学株式会社製)66.7質量部を仕込み、35℃に加熱し、30分間撹拌混合した後、400メッシュの金網で濾過してアンカーコート層用の塗料Aを得た。得られた塗料Aの固形分は66.7%であった。
【0097】
d.アンカーコート層用塗料Bの調製
塗料Aの調製において、オルガノシリカゾルを加えずに、イソプルピルアルコールで固形分を66.7%に調整したものをアンカーコート層用の塗料Bとした。
【0098】
(紫外線硬化アンカーコート層の形成)
ポリカーボネートフィルムAの片面に塗料Aをバーコート法により塗工し、60℃で1分間乾燥した後、窒素パージを実施しない状態、すなわち大気雰囲気下において、積算光量が350mJ/cm2となるように、塗工面に対して紫外線を照射して硬化させ、厚さ3μmの紫外線硬化アンカーコート層Aを形成した。次いで、ポリカーボネートフィルムAのアンカーコート層Aが形成されていない面に対し、アンカーコート層Aと同様にして厚さ3μmの紫外線硬化アンカーコート層Bを形成した。得られた各アンカーコート層のFT-IRピーク強度比は0.29であった。
【0099】
〈実施例2〉
紫外線の積算光量を700mJ/cm2としたこと以外は、実施例1と同様にしてアンカーコート層を各々形成した。得られた各アンカーコート層のFT-IRピーク強度比は0.25であった。
【0100】
〈実施例3〉
紫外線の積算光量を1,400mJ/cm2としたこと以外は、実施例1と同様にしてアンカーコート層を各々形成した。得られた各アンカーコート層のFT-IRピーク強度比は0.22であった。
【0101】
〈実施例4〉
塗料Aを、無機粒子(オルガノシリカゾル)を含まない塗料Bに変更したこと以外は、実施例1と同様にしてアンカーコート層を各々形成した。得られた各アンカーコート層のFT-IRピーク強度比は0.29であった。
【0102】
〈比較例1〉
ポリカーボネートフィルムAの片面に塗料Aをバーコート法により塗工し、60℃で1分間乾燥した後、窒素ボンベに接続したパージボックス(株式会社アイテックシステム製)にフィルムAを入れ、ボックス内に窒素ガスを充てんした。次いで、積算光量が350mJ/cm2となるように、塗工面に対して紫外線を照射して硬化させ、厚さ3μmの紫外線硬化アンカーコート層Cを形成した。次いで、ポリカーボネートフィルムAのアンカーコート層Cが形成されていない面に対し、アンカーコート層Cと同様にしてアンカーコート層Dを形成した。得られた各アンカーコート層のFT-IRピーク強度比は0.21であった。
【0103】
〈比較例2〉
紫外線の積算光量を1,400mJ/cm2としたこと以外は、比較例1と同様にしてアンカーコート層を各々形成した。得られた各アンカーコート層のFT-IRピーク強度比は0.16であった。
【0104】
〈比較例3〉
紫外線の積算光量を2,100mJ/cm2としたこと以外は、実施例1と同様にしてアンカーコート層を各々形成した。得られた各アンカーコート層のFT-IRピーク強度比は0.19であった。
【0105】
ポリカーボネート樹脂基材及び紫外線硬化アンカーコート層、並びに任意に追加層を含む本開示の積層体は、例えば、光学レンズ、光ディスク、光学フィルム、プラセル基板、光カード、液晶パネル、ヘッドランプレンズ、導光板、拡散板、保護フィルム、前面板、筐体、トレー、水槽、照明カバー、看板、又は樹脂窓等の部材として有用である。