(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121367
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】状態監視システム
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20240830BHJP
【FI】
G05B23/02 302R
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028432
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】309019408
【氏名又は名称】株式会社 ケーエンジニアリング
(71)【出願人】
【識別番号】523069935
【氏名又は名称】株式会社ロッキテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100155882
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100154678
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 博子
(72)【発明者】
【氏名】金野 正史
(72)【発明者】
【氏名】田口 和彦
【テーマコード(参考)】
3C223
【Fターム(参考)】
3C223AA12
3C223BA01
3C223BB09
3C223CC01
3C223EB02
3C223EB03
3C223FF08
3C223FF35
3C223GG01
3C223HH02
3C223HH22
3C223HH24
3C223HH26
(57)【要約】
【課題】設備の状態変化検知又は異常判定に遅延が生じることを回避し、送信データ量を削減するとともに、計測に熟練した技術者がいなくても閾値などの設定値を適切に設定することが可能な状態監視システムを提供する。
【解決手段】状態監視システム1は、設備Eの状態を計測するセンサ2、アナログ信号データを所定のサンプリング間隔ごとにデジタル信号データに変換するA/D変換器3、及びデジタル信号データを周波数スペクトルに変換するFFTアナライザ4が設備Eに付設されるとともに、ネットワーク7を介してFFTアナライザ4と接続されるサーバ5が設備Eの遠隔に設けられる。FFTアナライザ4は、設備Eの状態変化を検知するために周波数スペクトルが所定の判定条件を満たすか否か判定し、周波数スペクトルの時系列データを用いて設備Eが異常か否かを判定し、サーバ5に所定範囲の周波数スペクトルの時系列データ及び判定結果を送信する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
設備の状態を監視する状態監視システムであって、
前記設備の状態を計測するセンサ、前記センサによって計測されるアナログ信号データを所定のサンプリング間隔ごとにデジタル信号データに変換するA/D変換器、及び前記A/D変換器から出力される前記デジタル信号データを周波数スペクトルに変換するFFTアナライザが前記設備に付設され、
ネットワークを介して前記FFTアナライザと接続されるサーバが前記設備の遠隔に設けられ、
前記FFTアナライザは、
前記設備の状態変化を検知するために前記周波数スペクトルが所定の判定条件を満たすか否か判定する状態変化判定手段と、
前記周波数スペクトルが前記所定の判定条件を満たす場合、前記周波数スペクトルの時系列データを用いて前記設備が異常か否かを判定する異常判定手段と、
前記設備が異常と判定された場合、前記サーバに所定範囲の前記周波数スペクトルの時系列データを送信するデータ送信手段と、
を備えることを特徴とする状態監視システム。
【請求項2】
前記サーバは、
前記所定の判定条件の候補を提示し、前記所定の判定条件の設定を支援する設定支援手段、
を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の状態監視システム。
【請求項3】
設備の状態を監視する状態監視システムであって、
前記設備の状態を計測するセンサ、前記センサによって計測されるアナログ信号データを所定のサンプリング間隔ごとにデジタル信号データに変換するA/D変換器、及び前記A/D変換器から出力される前記デジタル信号データを周波数スペクトルに変換するFFTアナライザが前記設備に付設され、
ネットワークを介して前記FFTアナライザと接続されるサーバが前記設備の遠隔に設けられ、
前記FFTアナライザは、
前記設備の状態変化を検知するために前記周波数スペクトルが所定の判定条件を満たすか否か判定する状態変化判定手段と、
前記周波数スペクトルが前記所定の判定条件を満たす場合、前記サーバに所定範囲の前記周波数スペクトルの時系列データを送信するデータ送信手段と、
を備え、
前記サーバは、
前記周波数スペクトルが前記所定の判定条件を満たす場合、前記周波数スペクトルの時系列データを用いて前記設備が異常か否かを判定する異常判定手段、
を備えることを特徴とする状態監視システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、設備の状態を監視する状態監視システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の状態監視システムは、設備の振動を計測する振動センサと、計測される振動のアナログデータをデジタルデータに変換するA/D変換器と、A/D変換器から出力されるデジタルデータに基づいて設備の状態を判定する機能及びデータを記録する機能を有する判定器とから構成される。振動センサとA/D変換器は設備に付設され、判定器は設備から離れた場所に設置される。判定器には判定の基準として使われる基準データが設定されている。この基準データは、設備の正常運転時の振動データを元にして作成される。また、判定器は、判定のための専用ソフトウエアがインストールされたサーバである。そして、A/D変換器と判定器との間のデータ通信には、インターネット等の通信ネットワークが使われる。このような構成の状態監視システムとして、例えば特許文献1が開示されている。
【0003】
振動変化から設備の状態を監視する従来の状態監視システムの動作について、計測対象の振動周波数が0.1kHzから10.0kHzの場合を例にして説明する。従来の状態監視システムは、監視の開始が指示されると、振動センサが設備の振動を計測してアナログ信号を出力する。A/D変換器は振動センサから出力されたアナログ信号を受信して、30kHz以上のサイクルでサンプリングする。A/D変換器は振動センサから受信したアナログ信号をデジタルデータへ変換して判定器へ送信する。判定器はA/D変換器から受信したデータを記録して、さらに受信データと判定基準データを比較する。比較の結果、受信データと判定基準データが大幅に異なる場合は、設備の状態が変化したと判定して異常の発生を警告する。さらに後ほど記録データの経過を確認して、設備の異常箇所を特定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、A/D変換器は、振動センサから得られるアナログ信号を30kHz以上のサイクルでサンプリングする必要がある。そのため、A/D変換器から判定器へ送信されるデータ量が大きくなるという課題がある。仮に、データ通信の部分に携帯キャリアの電波を使うと、多大な通信費がかかることになる。さらに、計測データは、常に判定器に記録され続けるため、監視時間の経過に従って、データ量は膨大になる。一方で、設備に異常が発生する頻度は低いため、記録された大半のデータは、設備の正常運転を示すものとなり、設備の管理には不要なものである可能性が高い。また、A/D変換器と判定器の間の通信にインターネットを使った場合、インターネット通信プロトコルの制約により、ネットワークの状況に応じた通信の遅延が発生することがあり、ひいては設備の状態変化検知や異常判定に遅延が生じることになる。
【0006】
また、判定器が精度良く異常発生を検知するためには、閾値などの設定値を適切に設定する必要がある。このような設定は、計測に熟練した技術者が必要となるが、工場現場では、計測に熟練した技術者が少ないため、適切な設定が困難という課題もある。
【0007】
本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とすることは、設備の状態変化検知又は異常判定に遅延が生じることを回避し、送信データ量を削減するとともに、計測に熟練した技術者がいなくても閾値などの設定値を適切に設定することが可能な状態監視システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した目的を達成するための第1の発明は、設備の状態を監視する状態監視システムであって、前記設備の状態を計測するセンサ、前記センサによって計測されるアナログ信号データを所定のサンプリング間隔ごとにデジタル信号データに変換するA/D変換器、及び前記A/D変換器から出力される前記デジタル信号データを周波数スペクトルに変換するFFTアナライザが前記設備に付設され、ネットワークを介して前記FFTアナライザと接続されるサーバが前記設備の遠隔に設けられ、前記FFTアナライザは、前記設備の状態変化を検知するために前記周波数スペクトルが所定の判定条件を満たすか否か判定する状態変化判定手段と、前記周波数スペクトルが前記所定の判定条件を満たす場合、前記周波数スペクトルの時系列データを用いて前記設備が異常か否かを判定する異常判定手段と、前記設備が異常と判定された場合、前記サーバに所定範囲の前記周波数スペクトルの時系列データを送信するデータ送信手段と、を備えることを特徴とする状態監視システムである。
【0009】
第1の発明における前記サーバは、前記所定の判定条件の候補を提示し、前記所定の判定条件の設定を支援する設定支援手段、を更に備えることが望ましい。
【0010】
第2の発明は、設備の状態を監視する状態監視システムであって、前記設備の状態を計測するセンサ、前記センサによって計測されるアナログ信号データを所定のサンプリング間隔ごとにデジタル信号データに変換するA/D変換器、及び前記A/D変換器から出力される前記デジタル信号データを周波数スペクトルに変換するFFTアナライザが前記設備に付設され、ネットワークを介して前記FFTアナライザと接続されるサーバが前記設備の遠隔に設けられ、前記FFTアナライザは、前記設備の状態変化を検知するために前記周波数スペクトルが所定の判定条件を満たすか否か判定する状態変化判定手段と、前記周波数スペクトルが前記所定の判定条件を満たす場合、前記サーバに所定範囲の前記周波数スペクトルの時系列データを送信するデータ送信手段と、を備え、前記サーバは、前記周波数スペクトルが前記所定の判定条件を満たす場合、前記周波数スペクトルの時系列データを用いて前記設備が異常か否かを判定する異常判定手段、を備えることを特徴とする状態監視システムである。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、設備の状態変化検知又は異常判定に遅延が生じることを回避し、送信データ量を削減するとともに、計測に熟練した技術者がいなくても閾値などの設定値を適切に設定することが可能な状態監視システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】状態監視システム1のFFTアナライザ4及びサーバ5の機能を示すブロック図
【
図3】状態監視システム1の処理の流れを示すフローチャート
【
図4】振動信号の波形の一例及び周波数スペクトルの一例
【
図5】設備Eが正常な状態における周波数スペクトルの一例及び判定条件の一例
【
図7】変形例の状態監視システム1aのFFTアナライザ4a及びサーバ5aの機能を示すブロック図
【
図8】変形例の状態監視システム1aの処理の流れを示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下図面に基づいて、本発明の実施形態を詳細に説明する。本発明の実施形態における状態監視システムは、工場等に設置される機械や装置等の設備の状態を監視する。本発明の実施形態では、設備の状態を計測するセンサは、振動センサを例にして説明するが、振動センサに限定されるものではなく、用途に合わせて、温度センサ、音響マイク、電流センサ、光センサ等、様々なセンサを使用できる。
【0014】
図1は、状態監視システム1の概要を示す図である。
図1に示すように、状態監視システム1は、設備Eの状態を計測するセンサ2、センサ2によって計測されるアナログ信号データを所定のサンプリング間隔ごとにデジタル信号データに変換するA/D変換器3、及びA/D変換器3から出力されるデジタル信号データを周波数スペクトルに変換するFFTアナライザ4が設備Eに付設される。また、状態監視システム1は、ネットワーク7を介してFFTアナライザ4と接続され、周波数スペクトルを記憶するサーバ5、及びネットワーク7を介して接続される端末6が設備Eの遠隔に設けられる。
【0015】
センサ2は、設備Eの振動を計測する振動センサである。FFTアナライザ4は、振動信号に含まれる低周波から高周波までの様々な波形を周波数スペクトルとして出力するものであり、FFT(Fast Fourier Transformation:高速フーリエ変換)によってデジタル信号データの周波数分析を行う機能を実現するためのプログラムがインストールされている。サーバ5は、データロガーの機能を実現するためのプログラムがインストールされている。端末6は、サーバ5との通信を実現するためのプログラム(例えば、ウェブブラウザ等)がインストールされている。ユーザは、端末6からサーバ5にアクセスし、サーバ5のデータを閲覧できる。ネットワーク7は、インターネット等である。
【0016】
FFTアナライザ4、サーバ5及び端末6はコンピュータであり、制御部としてのCPU(「Central Processing Unit」の略)、主記憶部としてのメモリ、補助記憶部としてのHDD(「Hard Disk Drive」の略)やフラッシュメモリ、表示部としての液晶ディスプレイ、入力部としてのキーボードやマウス、タッチパネルディスプレイ、有線通信部としてのLAN(Local Area Network)ケーブル又は無線通信部としての無線モジュール等を備える。補助記憶部としてのHDDやフラッシュメモリには、OS(「Operating System」の略)、アプリケーションプログラム、処理に必要なデータ等が記憶されている。CPUは、補助記憶部からOSやアプリケーションプログラムを読み出して主記憶部に格納し、主記憶部にアクセスしながら、その他の機器を制御し、後述する各手段として機能する。コンピュータ同士は、ネットワーク7を介して互いにデータの送受信を行う。
【0017】
図2は、状態監視システム1のFFTアナライザ4及びサーバ5の機能を示すブロック図である。FFTアナライザ4は、設備Eの状態変化を検知するために周波数スペクトルが所定の判定条件を満たすか否か判定する状態変化判定手段11と、周波数スペクトルが所定の判定条件を満たす場合、設備Eに状態変化があったことを出力する第1出力手段12と、周波数スペクトルが所定の判定条件を満たす場合、周波数スペクトルの時系列データを用いて設備Eが異常か否かを判定する異常判定手段13と、設備Eが異常と判定された場合、警告を出力する第2出力手段14と、設備Eが異常と判定された場合、サーバ5に所定範囲の周波数スペクトルの時系列データ及び判定結果を送信するデータ送信手段15と、を備える。FFTアナライザ4は、周波数スペクトルの時系列データだけでなく、デジタル信号データをサーバ5に送信しても良い。
【0018】
サーバ5は、FFTアナライザ4から受信する所定範囲の周波数スペクトルの時系列データやデジタル信号データを記憶するデータ記憶手段21と、設備Eの状態変化を検知するための判定条件の候補をFFTアナライザ4や端末6に提示し、判定条件の設定を支援する設定支援手段22と、を備える。
【0019】
図3は、状態監視システム1の処理の流れを示すフローチャートである。本実施の形態では、設備Eの振動周波数が0.1kHz~10.0kHzの場合を例にして説明する。
【0020】
図3に示すように、状態監視システム1による監視が開始されると、センサ2が設備Eの振動信号を計測し、アナログ信号データをA/D変換器に出力する(ステップS1)。A/D変換器3は、アナログ信号データを所定のサンプリング間隔ごとにデジタル信号データに変換し、デジタル信号データをFFTアナライザ4に出力する(ステップS2)。サンプリング周波数は、例えば30kHz以上のサイクルとし、サンプリング間隔は、サンプリング周波数の逆数である。FFTアナライザ4は、デジタル信号データを周波数スペクトルに変換する(ステップS3)。
【0021】
図4は、振動信号の波形の一例及び周波数スペクトルの一例である。
図4(a)は、振動信号の波形の一例を示しており、横軸が時刻、縦軸が振幅である。
図4(a)に示す振動信号の波形には、1kHzと4kHzを中心に様々な周波数の信号が含まれている。
図4(b)は、
図4(a)に示す振動信号のデジタル信号データから変換された周波数スペクトルを示しており、横軸が周波数、縦軸がレベルである。
図4(b)に示すように、1kHzと4kHzを中心とした2つのピークがある。
【0022】
図3の説明に戻る。FFTアナライザ4は、周波数スペクトルを所定の判定条件を満たすか否か判定する(ステップS4)。FFTアナライザ4は、周波数スペクトルが所定の判定条件を満たす場合(ステップS5のYes)、ステップS6に進む。周波数スペクトルが所定の判定条件を満たさない場合(ステップS5のNo)、ステップS1から繰り返す。
【0023】
図5は、設備Eが正常な状態における周波数スペクトルの一例及び判定条件の一例である。
図5(a)及び
図5(b)は、いずれも横軸が周波数、縦軸がレベルである。
図5(a)は、設備Eが正常な状態における周波数スペクトルの一例を示している。
図5(a)に示すように、設備Eが正常な状態における周波数スペクトルは、2~3kHzを中心にピークがあり、5~10kHzでは低いレベルで略平坦になっている。
図5(b)は、設備Eに対する閾値の一例である。この閾値は、設備Eが正常な状態における周波数スペクトルの波形に基づいて設定されている。この例における判定条件は、周波数スペクトルのレベルが1箇所以上閾値を超過することである。
【0024】
図6は、状態変化判定の3つの判定結果を示す図である。
図6(a)から
図6(c)は、いずれも横軸が周波数、縦軸がレベルである。
図6(a)は所定の判定条件を満たさない場合、すなわち設備Eの状態が変化していない場合の判定結果である。
図6(b)及び
図6(c)は所定の判定条件を満たす場合、すなわち設備Eの状態が変化している場合の判定結果である。
【0025】
図6(a)に示す例は、設備Eが正常な状態であり、周波数スペクトルの全てのレベルが閾値を下回っているので、FFTアナライザ4は、判定条件を満たさないと判定している。
図6(a)の右上には、判定条件を満たさないことを示す「Under」が出力されている。
【0026】
図6(b)に示す例は、設備Eの振動が増加し、設備Eの状態が変化した状態であり、低周波数の帯域における周波数スペクトルの4箇所のレベルが閾値を超過しているので、FFTアナライザ4は、判定条件を満たすと判定している。
図6(b)の右上には、判定条件を満たすことを示す「Over」が出力されている。
【0027】
図6(c)に示す例は、設備Eの振動周波数が変化し、設備Eの状態が変化した状態であり、高周波数の帯域における周波数スペクトルの5箇所のレベルが閾値を超過しているので、FFTアナライザ4は、判定条件を満たすと判定している。
図6(c)の右上には、判定条件を満たすことを示す「Over」が出力されている。
【0028】
この例における判定条件は、周波数スペクトルのレベルが1箇所以上閾値を超過することとしたが、判定条件は特に限定されるものではなく、従来のFFTアナライザやFFTコンパレータによる判定条件を用いることができる。例えば、FFTアナライザ4は、任意の周波数とレベルで範囲を設定した領域に対して所定の条件を満たすか否かを判定したり、周波数スペクトルの全体の形状が所定の形状と一致するか否かを判定したりしても良い。また、FFTアナライザ4は、連続する複数のサンプリングタイミングの周波数スペクトルを取得し、所定の周波数帯域における時間的な変動が所定の条件を満たすか否かを判定しても良い。また、FFTアナライザ4は、周波数スペクトルだけでなく、デジタル信号データも取得し、両者が所定の条件を満たすか否かを判定しても良い。
【0029】
図3の説明に戻る。FFTアナライザ4は、周波数スペクトルが所定の判定条件を満たす場合、設備Eに状態変化があったことを出力する(ステップS6)。出力方法は、FFTアナライザ4の画面に表示、FFTアナライザ4に接続されるスピーカーに音を出力、FFTアナライザ4に接続される警告ランプを点灯、ネットワーク7を介してサーバ5や端末6にメールやプッシュ通知を送信等が挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0030】
また、FFTアナライザ4は、周波数スペクトルが所定の判定条件を満たす場合、周波数スペクトルの時系列データを用いて設備Eが異常か否かを判定する(ステップS7)。設備Eが異常か否かの判定は、手動でも良いし、自動でも良い。
【0031】
異常か否かの判定を手動で行う場合、FFTアナライザ4は、周波数スペクトルの時系列データを画面に表示し、ユーザから異常か否かの入力を受け付ける。FFTアナライザ4は、例えば、周波数スペクトルの時系列表示(3次元データであり、「ウォーターフォール表示」ともいう。)を画面に出力するとともに、同一又は類似の設備Eが同一又は類似の状況(使用年数、使用環境等)で過去に異常と判定された時のデータを並列に画面に出力したり、異常か否かを判断するための目安の値を重畳して画面に出力したりしても良い。FFTアナライザ4は、異常か否かを判断するための目安の値として、同一又は類似の設備Eが過去に異常と判定された時のデータの統計値を予め記憶しておく。
【0032】
異常か否かの判定を自動で行う場合、FFTアナライザ4は、人工知能を用いて判定しても良い。すなわち、サーバ5が、同一又は類似の設備Eが過去に異常と判定された時のデータを教師データとして予め学習し、人工知能モデルを作成し、FFTアナライザ4に送信する。FFTアナライザ4は、人工知能モデルを記憶しておき、設備Eに状態変化があった時の周波数スペクトルの時系列データを人工知能モデルに入力し、異常か否かの判定結果を出力する。人工知能の学習方法は特に限定されるものではなく、公知の技術を用いることができる。
【0033】
FFTアナライザ4は、設備Eが異常と判定された場合(ステップS8のYes)、設備Eに異常ありと出力し(ステップS9)、周波数スペクトルの時系列データ及び判定結果をサーバ5に送信する(ステップS10)。サーバ5は、FFTアナライザ4から送信される周波数スペクトルの時系列データ及び判定結果を記憶する(ステップS11)。ユーザは、端末6を介してサーバ5のデータを閲覧し、設備Eの異常個所を特定する。設備Eが異常と判定されなかった場合(ステップS8のNo)、ステップS1から繰り返す。
【0034】
設備Eに異常ありと出力する方法は、ステップS6における設備Eの状態変化ありと出力する方法と同様、特に限定されるものではない。但し、FFTアナライザ4は、両者を識別可能に出力する。
【0035】
以上の通り、本発明の実施形態における状態監視システム1は、設備Eに付設されるFFTアナライザ4が設備Eの異常判定を行うので、データ通信の遅延は生じず、ひいては設備Eの異常判定に遅延が生じることを回避できる。また、FFTアナライザ4は、設備Eが異常と判定された場合のみ、サーバ5にデータを送信するので、送信データ量を大幅に削減できる。削減されるデータは、設備Eが正常な状態の時のデータなので、状態変化検知や異常判定において重要ではない。
【0036】
更に、FFTアナライザ4は、設備Eの異常判定を行う処理のトリガーとして、設備Eの状態変化を検知するために周波数スペクトルが所定の判定条件を満たすか否か判定する。この判定条件は事前に設定する必要があるが、設備Eの異常判定に用いるのではなく、設備Eの状態変化を検知するために用いるので、厳密な設定値を設定する必要はなく、安全側に余裕を持って設定すれば良い。従って、計測に熟練した技術者でなくても設定が可能である。更に、設備Eの異常判定を行う処理は周波数スペクトルの時系列データを用いるので、ある時刻の周波数スペクトルのデータだけを用いる場合と比較して判定精度を確保できる。
【0037】
ここで、サーバ5の設定支援手段22について説明する。サーバ5は、ユーザが設備Eの状態変化を検知するための判定条件を設定することを支援するために、判定条件の候補をFFTアナライザ4や端末6に提示する。
図5(b)に示す例であれば、サーバ5は、周波数スペクトルのレベルが低い周波数帯域(=5kHz~10kHz)に対しては一定値の閾値候補(=直線状の部分)を提示し、周波数スペクトルのレベルが高い周波数帯域(=0kHz~5kHz)に対しては正常な状態における周波数スペクトルの波形を一定の割合又は一定の値だけ上回る閾値候補(=階段状の部分)を提示する。具体的には、サーバ5は、正常な状態における複数の周波数スペクトルの波形から周波数スペクトルの平均波形を計算する。そして、サーバ5は、平均波形において、最大値のA%未満の周波数帯域に対しては閾値候補を一定値Bとし、最大値のA%以上の周波数帯域に対しては閾値候補を各周波数におけるレベルに一定の割合C%又は一定値Dを上乗せした値とする。
【0038】
サーバ5は、算出される閾値候補をFFTアナライザ4や端末6に送信し、FFTアナライザ4や端末6が画面に出力する。ユーザは、画面に出力される閾値候補を適宜修正し、判定条件としてFFTアナライザ4に記憶させる。端末6を用いて判定条件を設定する場合、端末6は、ネットワーク7を介してFFTアナライザ4に判定条件を送信し、FFTアナライザ4が送信される判定条件を記憶する。これによって、計測に熟練した技術者がいなくても判定条件を適切に設定することができる。
【0039】
前述の説明では、設備Eに付設されるFFTアナライザ4が設備Eの異常判定を行い、設備Eの異常判定に遅延が生じることを回避していた。一方、設備Eによっては、異常判定に若干の遅延が生じても問題が無い場合もある。そのような場合の変形例として、
図7及び
図8を参照しながら説明する。
【0040】
図7は、変形例の状態監視システム1aのFFTアナライザ4a及びサーバ5aの機能を示すブロック図である。状態監視システム1aのFFTアナライザ4aは、設備Eの状態変化を検知するために周波数スペクトルが所定の判定条件を満たすか否か判定する状態変化判定手段31と、周波数スペクトルが所定の判定条件を満たす場合、設備Eに状態変化があったことを出力する第1出力手段32と、周波数スペクトルが所定の判定条件を満たす場合、サーバ5に所定範囲の周波数スペクトルの時系列データを送信するデータ送信手段33と、設備Eが異常と判定された場合、警告を出力する第2出力手段34と、を備える。FFTアナライザ4は、周波数スペクトルの時系列データだけでなく、デジタル信号データをサーバ5に送信しても良い。
【0041】
サーバ5は、周波数スペクトルが所定の判定条件を満たす場合、周波数スペクトルの時系列データを用いて設備Eが異常か否かを判定する異常判定手段41と、FFTアナライザ4から受信する所定範囲の周波数スペクトルの時系列データやデジタル信号データを記憶するデータ記憶手段42と、設備Eの状態変化を検知するための判定条件の候補をFFTアナライザ4や端末6に提示し、判定条件の設定を支援する設定支援手段43と、を備える。
【0042】
状態変化判定手段31、第1出力手段32、データ送信手段33及び第2出力手段34は、それぞれ前述の状態変化判定手段11、第1出力手段12、データ送信手段15及び第2出力手段14に対応する。異常判定手段41、データ記憶手段42及び設定支援手段43は、それぞれ前述の異常判定手段13、データ記憶手段21及び設定支援手段22に対応する。
【0043】
図8は、変形例の状態監視システム1aの処理の流れを示すフローチャートである。ステップS21~ステップS26の処理は、
図3に示すステップS1~ステップS6の処理と同様であるため、説明を省略し、ステップS27の処理から説明する。
【0044】
FFTアナライザ4は、周波数スペクトルが所定の判定条件を満たす場合、サーバ5に所定範囲の周波数スペクトルの時系列データを送信する(ステップS27)。サーバ5は、FFTアナライザ4から送信される周波数スペクトルの時系列データを記憶し(ステップS28)、周波数スペクトルの時系列データを用いて設備Eが異常か否かを判定する(ステップS29)。
【0045】
サーバ5は、設備Eが異常と判定された場合(ステップS30のYes)、FFTアナライザ4に判定結果を送信する(ステップS31)。FFTアナライザ4は、サーバ5からの判定結果を受信すると、設備Eに異常ありと出力する(ステップS32)。設備Eが異常と判定されなかった場合(ステップS30のNo)、ステップS1から繰り返す。
【0046】
以上の通り、変形例の状態監視システム1aでは、設備Eに付設されたFFTアナライザ4は設備Eの状態変化を判定し、状態変化があればサーバ5に通知し、サーバ5が設備Eの異常判定を行う。これによって、サーバ5は、状態変化が始まった時点からの時系列データに基づいて設備Eの異常判定を行うことができるので、異常判定の精度が上がるとともに、設備Eの故障状況の大小、故障原因、更には故障個所を精度良く推定できる。
【0047】
また、FFTアナライザ4は、設備Eの状態変化ありと判定した場合のみ、サーバ5にデータを送信するので、送信データ量を一定程度削減できる。更に、設備Eの状態変化を検知するための判定条件は厳密な設定値を設定する必要はなく、安全側に余裕を持って設定すれば良いので、計測に熟練した技術者でなくても設定が可能である。更に、設備Eの異常判定を行う処理は周波数スペクトルの時系列データを用いるので、ある時刻の周波数スペクトルのデータだけを用いる場合と比較して判定精度を確保できる。また、状態変化検知はFFTアナライザ4が行うので、データ通信の遅延は生じず、設備Eの状態変化検知に遅延が生じることを回避できる。
【0048】
以上、添付図面を参照しながら、本発明に係る状態監視システムの好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0049】
1………状態監視システム
2………センサ
3………A/D変換器
4………FFTアナライザ
5………サーバ
6………端末
7………ネットワーク
11、31………状態変化判定手段
12、32………第1出力手段
13、41………異常判定手段
14、34………第2出力手段
15、33………データ送信手段
21、42………データ記憶手段
22、43………設定支援手段