(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121421
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】アンテナ装置の調整方法及びアンテナ装置
(51)【国際特許分類】
H01Q 5/335 20150101AFI20240830BHJP
【FI】
H01Q5/335
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028524
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】000001443
【氏名又は名称】カシオ計算機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐野 貴司
(72)【発明者】
【氏名】松江 剛志
(72)【発明者】
【氏名】瀬尾 宗隆
(57)【要約】 (修正有)
【課題】簡易な構成のアンテナ装置及び複数の周波数の電波をより適切に送信又は受信可能に調整するアンテナ調整方法を提供する。
【解決手段】環状のアンテナ11と、アンテナ11に対して直列な第1の回路部分121及び第2の回路部分122を有する調整回路12と、調整回路12に接続された無線通信回路13と、を備えるアンテナ装置1において、調整方法は、同調対象の2つの周波数に対し、第1の回路部分121の出力端から見たアンテナ側のインピーダンスZaの第1のレジスタンスがいずれも整合対象のレジスタンスと等しく、かつ、リアクタンスの絶対値が異なるように第1の回路部分121の回路定数を定め、2つの周波数に対し、調整回路12の出力端から見たアンテナ側のインピーダンスZaのレジスタンスを第1のレジスタンスに保ちつつリアクタンスが整合対象のリアクタンスと複素共役となるように第2の回路部分122の回路定数を定める。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状のアンテナと、前記アンテナに対して直列に接続された第1の回路部分及び第2の回路部分を有する調整回路と、前記調整回路に接続された無線通信回路と、を備えるアンテナ装置の調整方法であって、
前記調整回路において、
同調対象の2つの周波数に対し、前記第1の回路部分の出力端から前記アンテナ側を見た場合における第1のインピーダンスの第1のレジスタンスがいずれも整合対象のレジスタンスと等しく、かつ、前記第1のインピーダンスの第1のリアクタンスの絶対値が異なるように、前記第1の回路部分の回路定数を定め、
前記2つの周波数に対し、前記調整回路の出力端から前記アンテナ側を見た場合における第2のインピーダンスの第2のレジスタンスを前記第1のレジスタンスに保った状態で、前記第2のインピーダンスの第2のリアクタンスが前記整合対象のリアクタンスと複素共役となるように、前記第2の回路部分の回路定数を定める
調整方法。
【請求項2】
前記第2の回路部分は、並列共振回路である、請求項1記載の調整方法。
【請求項3】
前記第1の回路部分は、
前記アンテナ及び前記無線通信回路と直列に接続された第1の回路素子と、
前記無線通信回路に対して並列に接続された第2の回路素子と、
を有する、
請求項2記載の調整方法。
【請求項4】
前記第1の回路素子及び前記第2の回路素子のうち一方がインダクタであり、
当該一方とは異なる他方がキャパシタである、
請求項3記載の調整方法。
【請求項5】
前記第2の回路素子は、前記第2の回路部分と併用されている、請求項3記載の調整方法。
【請求項6】
前記2つの周波数は、互いに異なる電波の受信周波数である、請求項1記載の調整方法。
【請求項7】
環状のアンテナと、
前記アンテナに対して直列に接続された第1の回路部分及び第2の回路部分を有する調整回路と、
前記調整回路に接続された無線通信回路と、
を備え、
前記第1の回路部分は、同調対象の2つの周波数に対し、当該第1の回路部分の出力端から前記アンテナ側を見た場合における第1のインピーダンスの第1のレジスタンスがいずれも整合対象のレジスタンスと等しく、かつ、前記第1のインピーダンスの第1のリアクタンスの絶対値が異なるように変換し、
前記第2の回路部分は、前記2つの周波数に対し、前記調整回路の出力端から前記アンテナ側を見た場合における第2のインピーダンスの第2のレジスタンスを前記第1のレジスタンスに保った状態で、前記第2のインピーダンスの第2のリアクタンスがいずれも前記整合対象のリアクタンスと複素共役、かつ、VSWRを2以下とし、
前記第1の回路部分は、前記2つの周波数の中間周波数に共振する並列共振回路を前記第2の回路部分の位置に挿入した場合に、前記中間周波数におけるVSWRが2より大きくなる
アンテナ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アンテナ装置の調整方法及びアンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
無線電波の送受信を行う携帯型の電子機器では、多くの場合、アンテナが筐体内に内蔵される。電子腕時計といった小型の電子機器では、アンテナ及び送受信回路を含むアンテナ装置を収容するスペースが限られる。複数の周波数の電波を送受信する場合には、当該複数の周波数におけるリアクタンスを同程度に合わせつつ、これらの中間周波数付近でインピーダンス整合を行ったアンテナ装置を用いることで、広帯域で整合しつつスペースや部品点数を省略している(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、実際の回路中には寄生容量などが存在してインピーダンス整合に影響を及ぼす。この影響などにより、複数の周波数の間の差が大きいと、いずれの周波数もカバーする広帯域で信号を適切な強度で送信又は受信しづらくなるという課題がある。
【0005】
この発明の目的は、簡易な構成のアンテナ装置において、複数の周波数の電波をより適切に送信又は受信可能に調整することのできる調整方法及びアンテナ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は、
環状のアンテナと、前記アンテナに対して直列に接続された第1の回路部分及び第2の回路部分を有する調整回路と、前記調整回路に接続された無線通信回路と、を備えるアンテナ装置の調整方法であって、
前記調整回路において、
同調対象の2つの周波数に対し、前記第1の回路部分の出力端から前記アンテナ側を見た場合における第1のインピーダンスの第1のレジスタンスがいずれも整合対象のレジスタンスと等しく、かつ、前記第1のインピーダンスの第1のリアクタンスの絶対値が異なるように、前記第1の回路部分の回路定数を定め、
前記2つの周波数に対し、前記調整回路の出力端から前記アンテナ側を見た場合における第2のインピーダンスの第2のレジスタンスを前記第1のレジスタンスに保った状態で、前記第2のインピーダンスの第2のリアクタンスが前記整合対象のリアクタンスと複素共役となるように、前記第2の回路部分の回路定数を定める。
【発明の効果】
【0007】
本発明に従うと、簡易な構成のアンテナ装置において、複数の周波数の電波をより適切に送信又は受信するような調整が可能になるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】調整回路の調整時のイミッタンスチャートの例を示す図である。
【
図3】調整回路の調整時のイミッタンスチャートの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態のアンテナ装置1の構成図である。
【0010】
アンテナ装置1は、アンテナ素子11(アンテナ)と、調整回路12と、通信回路13(無線通信回路)とを備える。
アンテナ素子11は、受信対象の電波を捕捉したり、送信対象の電波を発信したりする。アンテナ素子11は、ここでは、平面視円形状の表示面の周囲に沿って環状に位置している。なお、アンテナ素子11の形状は、完全に周回していなくてもよい。途中で途切れた部分を有するC型形状などの円弧状のものであってもよい。本実施形態では、このような円弧状のものも含めて環状と記す。アンテナ素子11は、特には限られないが、ユニポールアンテナであってもよい。
【0011】
アンテナ装置1は、2つの周波数の電波が送受信可能なものであって、例えば、衛星測位に係るGPS(Global Positioning System)衛星からのL1帯の周波数f1(1.57542GHz)の電波とL5帯の周波数f2(1.17645GHz)の電波とを受信対象(同調対象)とする。これに伴い、アンテナ素子11は、受信に係る特定の部分の長さが、これら受信対象の互いに異なる電波の周波数(受信周波数)間における適宜な周波数の電波の波長の1/4程度とされている。
【0012】
調整回路12は、アンテナ素子11による受信周波数を上記2つの周波数に同調させるための回路である。調整回路12は、第1調整回路121(第1の回路部分)と、第2調整回路122(第2の回路部分)とを含む。
【0013】
通信回路13は、受信した電波を復調、復号して電波中の信号を取得する回路である。通信回路13は、アンテナ素子11及び調整回路12に対して接続される負荷として動作する。
【0014】
アンテナ素子11のインピーダンスZaと、通信回路13のインピーダンスZLとでは、それらのレジスタンスRa、RLが同一ではなくてもよい。アンテナ素子11は、調整回路12との間の接続配線の寄生容量などに伴って若干のリアクタンスXaを含み得る。通信回路13は、その寄生容量やノイズなどを考慮したインピーダンスがZf=Rf+Xfとされる。
【0015】
調整回路12は、通信回路13との接続点からみたアンテナ素子11の側(上流側)のインピーダンスZ2(第2のインピーダンス)を、通信回路13(下流側)のインピーダンス(対象インピーダンスZf)と整合させる。整合されたインピーダンスは、対象インピーダンスZf(整合対象のインピーダンス)の複素共役、すなわち、Rf-Xfの近傍である。このとき、リアクタンスXfが十分小さく抑えられることで、実質的にインピーダンスZ2のレジスタンスR2がレジスタンスRfと略等しく、例えば、VSWR(電圧定在波比)が2.0以下の範囲となるように、調整回路12が動作すればよい。
【0016】
第1調整回路121及び第2調整回路122は、アンテナ素子11と通信回路13との間に直列に接続されている。
本実施形態のアンテナ装置1では、第1調整回路121は、アンテナ素子11と通信回路13とを結ぶ信号経路内に直列に接続された第1インダクタL1(第1の回路素子、一方)と、信号経路と接地面との間に位置する、すなわち通信回路13に並列な第1キャパシタC1(第2の回路素子、他方)とを調整素子として含むL字型回路である。第2調整回路122は、信号経路と接地面との間に並列に位置する第2インダクタL2と第2キャパシタC2とを調整素子として含む。
【0017】
次に、アンテナ装置1におけるインピーダンス整合に係る調整方法について説明する。
図2及び
図3には、調整回路12の調整時のイミッタンスチャートの例を示す。
図2(a)の右端を含む周状の各破線上では等レジスタンス(R)であり、右端から放射状に延びる各破線上では等リアクタンス(X)である。
図2(a)の左端を含む周状の各点線上では等コンダクタンス(G=1/R)であり、左端から放射状に延びる各点線上では等サセプタンス(B=1/X)である。
図2(a)の中心位置Oを通る周状の破線上/点線上では、それぞれ整合対象のインピーダンスZ/アドミッタンスYのレジスタンスR/コンダクタンスGが対象インピーダンスZfのレジスタンスRf/コンダクタンスGfと等しい。周半径が小さいほどレジスタンス(R)やサセプタンス(B)が大きい。放射状の各線が大きく曲がる(曲率半径が小さい)ほど、リアクタンスX/サセプタンスBが小さい。また、中心位置Oを通る横線よりも上側半分では、リアクタンスXが正であり、サセプタンスが負である。当該横線よりも下側半分では、リアクタンスXが負であり、サセプタンスBが正である。
【0018】
このイミッタンスチャート上の実線は、周波数f1、f2を含む範囲におけるインピーダンスZを示す。点f1H、点f1C、点f1Lで示される範囲が周波数f1の範囲であり、点f2Cが周波数f2を示す。点fcCは、点f1Cと点f2Cの周波数の中間周波数fcである。
【0019】
図2(a)は、アンテナ素子11の出力からアンテナ素子を見たインピーダンスZを示している。ここでは、周波数f1に対してリアクタンスXが0程度となっているが、これに限られるものではない。レジスタンスRは、対象インピーダンスZfのレジスタンスよりも大きい。周波数f2に対しては、インピーダンスが大きく外れている。中間周波数fcに対しては、レジスタンスRが対象インピーダンスZfのレジスタンスと概ね一致しているが、これに限られない。
【0020】
このような状態から、本実施形態の調整方法により調整回路12の各素子のパラメータを調整してインピーダンスの整合をとる。調整回路12において、直列に位置するインダクタは、リアクタンスXを増大させる向きに働き、直列に位置するキャパシタは、リアクタンスXを減少させる(負の値を増大させる)方向に働く。また、調整回路12において、並列に位置するインダクタは、サセプタンスBを増大させる向きに働き、並列に位置するキャパシタは、サセプタンスBを減少させる向きに働く。
【0021】
図2(b)及び
図3(a)では、第1調整回路121と第2調整回路122の間の点(第1調整回路121の出力端)からアンテナ素子11の側を見た場合のインピーダンスZ1(第1のインピーダンス)が示されている。サセプタンスBが変化すると、レジスタンスRは変化する。したがって、
図2(b)に示すように、第1キャパシタC1により、点f1C及び点f2Cがそれぞれ等コンダクタンス線E1に沿って
図2(a)の各位置から移動することで、これら点f1C及び点f2CのレジスタンスR1が変化する。
【0022】
一方で、第1インダクタL1により、点f1C及び点f2Cは、それぞれ等レジスタンス線に沿って移動するので、これら点f1C、点f2CのコンダクタンスG1の値及びその差が変化するが、これらのレジスタンスR1は変化しない。第1インダクタL1のインダクタンス及び第1キャパシタC1の電気容量(パラメータ;回路定数)とを適宜な値に組み合わせて、
図3(a)に示すように、インピーダンスZ1のレジスタンスR1を、点f1C及び点f2Cにおいて、対象インピーダンスZfのレジスタンスRfと等しい値とする(変換する)ことができる。この場合、レジスタンスR1の値さえそろえば、点f1Cと点f2CのリアクタンスX1(第1のリアクタンス)は共役である必要はない。すなわち、点f1Cと点f2CのリアクタンスXは、正負が異なっていてもよく、また、絶対値が異なっていてもよい。ここでいう絶対値の差は、製品誤差などを含み得ない明確な差異であり、例えば、イミッタンスチャート上での点f1Cと点f2Cとの距離として表される反射係数Γが0.33以上などである。また、この調整において、点fcCのインピーダンスZやアドミッタンスYは考慮されない。
【0023】
上記に対して更に、第2キャパシタC2及び第2インダクタL2の並列回路が付加される。
図3(b)では、第2調整回路122(調整回路12)の出力端からアンテナ素子11の側(上流側)を見た場合のインピーダンスZ2が示されている。第2キャパシタC2の電気容量及び第2インダクタL2のインダクタンスの両パラメータ(回路定数)に応じて、当該並列回路(並列共振回路)の共振周波数が定まる。これらのパラメータの組み合わせにより、インピーダンスZ2が調整される。上記パラメータの組み合わせを適切に定めることで、このインピーダンスZ2には、第1調整回路121より上流側の回路に係る共振周波数の上下に、レジスタンスR2(第2のレジスタンス)を上記第1調整回路121で調整された値(第1のレジスタンス)に保ったままサセプタンスBが0となる位置が追加され得る。このサセプタンスBが0となる、すなわち、インピーダンスZ2のリアクタンスX2(第2のリアクタンス)が0(整合対象のインピーダンスの複素共役)となる周波数が、周波数f1及び周波数f2程度となるように調整される。上記2つの周波数に対して、レジスタンスR2及びリアクタンスX2が適切に合わされることで、これら両周波数共にインピーダンスの整合がとられる。
【0024】
ここでは、破線GthがVSWR=2を示す。周波数f1に係る点f1L~f1Hの全体と、周波数f2に係る点f2Cは、いずれもこのVSWRが2以下の範囲内に位置している。一方で、これらの間の中間周波数fcを示す点fcCは、VSWRが2よりも明らかに大きくなっている。すなわち、同調対象ではない中間周波数fcについては、インピーダンスの整合がとられていない。
図3(a)の状態で、第2調整回路122の代わりに、中間周波数fcを共振周波数とする並列共振回路が挿入されても、点fcCは、VSWRが2より大きいままである。
【0025】
このように、第1調整回路121は、2つの周波数の受信側(上流側)をそれぞれ対象インピーダンスZfのレジスタンスRfと合わせるのに用いられる。特に、第1調整回路121は、直列の素子と並列の素子との組み合わせにより受信対象の両周波数で適切にレジスタンスR1を対象インピーダンスZfのレジスタンスRfと合わせることを可能に調整される。例えば、したがって、調整回路12の上流側から見たアンテナ素子11の共振周波数と、2つの周波数f1、f2との関係が大きく縛られず、装置構成に柔軟性を持たせることができる。また、2つの周波数f1、f2におけるレジスタンスR1を直接対象のレジスタンスRfに整合させるので、調整作業が容易になる。
【0026】
また、第2調整回路122は、2つの周波数f1、f2のリアクタンスX2を整合させるのに用いられる。例えば、2つの素子のうち一方(例えば、第2インダクタL2)のパラメータ(インダクタンス)を定めると、受信したい周波数f1、f2に共振させるための他方の素子(例えば、第2キャパシタC2)のパラメータ(キャパシタンス)が定まる。
【0027】
図4及び
図5は、調整回路12の変形例を示す図である。
第1調整回路121は、上記のように、レジスタンスR1を変更せずにリアクタンスX1を変更して2周波数f1、f2のリアクタンスX1の対応関係を変更する調整と、サセプタンスBの変更によるレジスタンスR1の調整との組み合わせである。したがって、リアクタンスX1及びサセプタンスBの変更が容量性又は誘導性のどちらであってもよい。
【0028】
図4(a)に示すように、第1調整回路121aは、直列に第1キャパシタC1が位置し、並列に第1インダクタL1が位置していてもよい。
図4(b)に示すように、第1調整回路121bは、第1インダクタL1の下流側(通信回路13)の側で、第1キャパシタC1が第2調整回路122と並列に分岐していてもよい。
図4(c)に示すように、第2調整回路122cは、並列に位置する第2キャパシタC2と第2インダクタL2の順番が入れ替えられていてもよい。この場合に、第2調整回路122cと組み合わされるのは、上記第1調整回路121~121bのいずれであってもよい。
【0029】
図4(c)の場合、直列の第1インダクタL1と並列の第2インダクタL2への分岐点との間で、第1キャパシタC1と第2キャパシタC2とが並列に並んでいる。これらは、
図5(a)のように統合されて、単一のキャパシタC12が位置していてもよい。キャパシタC12は、第1調整回路121bと第2調整回路122cとに併用される。キャパシタC12の電気容量は、第1キャパシタC1と第2キャパシタC2の各電気容量の和である。
【0030】
図4(a)の第1調整回路121aにおいて、第1インダクタL1の接続端と第1キャパシタC1との順番が入れ替えられると、第1キャパシタC1と第2キャパシタC2の接続端との間に、並列の第1インダクタL1及び第2インダクタL2が続けて並ぶことになる。これらは、
図5(b)のように統合されて、単一のインダクタL12が位置していてもよい。インダクタL12は、第1調整回路121bと第2調整回路122cとに併用される。インダクタL12のインダクタンスは、第1インダクタL1と第2インダクタL2のインダクタンスの逆数の和の逆数である。
【0031】
また、第1調整回路121aは、場合によっては、2つの素子がいずれもインダクタ又はいずれもキャパシタであっても調整可能な場合がある。したがって、アンテナ装置1の第1調整回路121aは、インダクタとキャパシタの組み合わせに限られなくてもよい。
【0032】
一度アンテナ装置1又はアンテナ装置1を含む電子機器などにおいて上記調整が行われて、調整回路12の各素子のパラメータが特定された後は、当該パラメータに従って製品を組み立て製造することができてもよい。あるいは、パラメータが特定されて製造された個々の製品に対して改めて微調整が可能な構成で、各素子のパラメータを変更可能にアンテナ装置1が組み立て製造されてもよい。
【0033】
以上のように、環状のアンテナ素子11と、アンテナ素子11に対して直列に接続された第1調整回路121及び第2調整回路122を有する調整回路12と、調整回路12に接続された通信回路13と、を備える本実施形態のアンテナ装置1の調整方法は、調整回路12において、同調対象の2つの周波数f1、f2に対し、第1調整回路121の出力端からアンテナ素子11の側を見た場合におけるインピーダンスZ1のレジスタンスR1がいずれも整合対象のレジスタンスRfと等しく、かつ、インピーダンスZ1のリアクタンスX1の絶対値が異なるように、第1調整回路121の回路定数を定め、2つの周波数f1、f2に対し、調整回路12の出力端からアンテナ素子11の側を見た場合におけるインピーダンスZ2のレジスタンスR2をレジスタンスR1に保った状態で、インピーダンスZ2のリアクタンスX2が整合対象のリアクタンスXfと複素共役となるように、第2調整回路122の回路定数を定める。
このように、第1調整回路121において、2つの周波数f1、f2におけるレジスタンスR1を対象のレジスタンスRfと適切にあわせる。このように、レジスタンスR1と整合させる対象のレジスタンスRfとの間の比較が直接的に可能なので、最適な第1調整回路121のパラメータを柔軟かつ容易に探すことが可能となる。また、この段階では、リアクタンスX1を合わせる必要がなく、これらは第2調整回路122で調整されるので、調整するパラメータを2つの回路で分離することができる。また、そもそも受信に関係のない2周波数の中間周波数fcに係るインピーダンスを考慮しないので、不要な調整の手間や縛りが生じない。
【0034】
また、第2調整回路122は、並列共振回路である。リアクタンスX(サセプタンスB)2つの素子を適切に調整して並列に並ばせることで、2周波数が離隔していて中間周波数fcへの同調ではカバーしきれない場合でも、当該2周波数について適切にインピーダンスを整合させることができる。
【0035】
また、第1調整回路121は、アンテナ素子11及び通信回路13と直列に接続された第1の回路素子、例えば第1インダクタL1と、通信回路13に対して並列に接続された第2の回路素子、例えば第1キャパシタC1と、を有する。このような直列素子と並列素子とが組み合わされたL型回路により、元の2周波数の差に大小があっても、適切に2周波数に応じたインピーダンスZ1のレジスタンスR1を同一の値に変換することが可能である。
【0036】
また、第1の回路素子及び第2の回路素子のうち一方が第1インダクタL1であり、当該一方とは異なる他方が第1キャパシタC1である。これらの組み合わせにより、元のアンテナ素子11のインピーダンスZaと対象インピーダンスZfとの差分(位置関係)などに応じてイミッタンスチャート上で適切な調整を行いやすい。
【0037】
また、第2の回路素子は、第2調整回路122と併用されていてもよい。
図5に示したように、2つの素子が並列に並ぶのであれば、これらをまとめた1つの素子とされてもよい。素子1つ分のスペースを節約することができる。
【0038】
また、2つの周波数f1、f2は、互いに異なる電波の受信周波数であってもよい。すなわち、マルチバンドの受信回路に利用されるアンテナ装置1の調整に本発明が利用されてもよい。近年、マルチバンドの受信が必要なケースが多くなっているので、本発明により効率よく適切に、単一のアンテナ素子11のインピーダンス調整が可能となる。
【0039】
また、本発明のアンテナ装置1は、環状のアンテナ素子11と、アンテナ素子11に対して直列に接続された第1調整回路121及び第2調整回路122を有する調整回路12と、調整回路12に接続された通信回路13と、を備える。第1調整回路121は、同調対象の2つの周波数f1、f2に対し、第1調整回路121の出力端からアンテナ素子11側を見た場合におけるインピーダンスZ1のレジスタンスR1がいずれも整合対象のレジスタンスRfと等しく、かつ、インピーダンスZ1のリアクタンスX1の絶対値が異なるように変換する。第2調整回路122は、2つの周波数f1、f2に対し、調整回路12の出力端からアンテナ素子11側を見た場合におけるインピーダンスZ2のレジスタンスR2をレジスタンスR1に保った状態で、インピーダンスZ2のリアクタンスX2がいずれも整合対象のリアクタンスX2と複素共役、かつ、VSWRを2以下とする。第1調整回路121は、2つの周波数f1、f2の中間周波数fcに共振する並列共振回路を第2調整回路122の位置に第2調整回路122の代わりに挿入した場合に、中間周波数fcにおけるVSWRが2より大きくなる。
このような、アンテナ装置1は、中間周波数fcを意識せずに、受信対象の2つの周波数f1、f2で、直接確実にインピーダンスを整合させることで得られる。よって、アンテナ装置1は、互いに異なる2周波数を簡易な構成で適切に受信又は送信することができる。
【0040】
なお、本発明は、上記実施の形態に限られるものではなく、様々な変更が可能である。
例えば、第1調整回路121における並列の素子と直列の素子との並び順に応じて、どちらを先に調整するかなどは適宜定められてよい。
【0041】
また、上記では、アンテナ素子11と通信回路13との間には、調整回路12しかないものとして説明したが、これに限られない。間にフィルタや増幅部などがあってもよい。この場合には、これらの素子に伴う電気容量やインダクタンスが影響する。したがって、これらを含めた回路としてインピーダンス整合の調整が行われる。
【0042】
また、上記実施の形態では、2周波数の受信の場合を例に挙げて説明したが、2周波数の送信であってもよいし、異なる送信周波数と受信周波数の組み合わせであってもよい。
【0043】
また、調整回路12内の素子の数は、上記に限られない。例えば、第1キャパシタC1や第2キャパシタC2などが複数のキャパシタに分割されていてもよい。
【0044】
また、上記実施の形態では、イミッタンスチャート上で確認しながら調整を行ったが、スミスチャート(インピーダンスチャート)のみが用いられながら調整されてもよい。また、チャートを利用せずに調整を行うことも可能である。
【0045】
その他、上記実施の形態で示した具体的な構成、調整動作の内容及び手順などは、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。本発明の範囲は、特許請求の範囲に記載した発明の範囲とその均等の範囲を含む。
【符号の説明】
【0046】
1 アンテナ装置
11 アンテナ素子
12 調整回路
13 通信回路
121 第1調整回路
122 第2調整回路
C1 第1キャパシタ
C2 第2キャパシタ
C12 キャパシタ
L1 第1インダクタ
L2 第2インダクタ
L12 インダクタ
Zf 対象インピーダンス
f1、f2 周波数
fc 中間周波数