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特開2024-121428シリカ系複合酸化物粉粒体及びその製造方法、歯科用硬化性組成物、並びに歯科切削加工用ブランク
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121428
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】シリカ系複合酸化物粉粒体及びその製造方法、歯科用硬化性組成物、並びに歯科切削加工用ブランク
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/12 20060101AFI20240830BHJP
   A61K 6/16 20200101ALI20240830BHJP
   A61K 6/76 20200101ALI20240830BHJP
   A61K 6/17 20200101ALI20240830BHJP
   A61K 6/849 20200101ALI20240830BHJP
   A61K 6/64 20200101ALI20240830BHJP
   A61K 6/878 20200101ALI20240830BHJP
   A61K 6/853 20200101ALI20240830BHJP
   A61K 6/62 20200101ALI20240830BHJP
【FI】
C01B33/12 A
A61K6/16
A61K6/76
A61K6/17
A61K6/849
A61K6/64
A61K6/878
A61K6/853
A61K6/62
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028537
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】391003576
【氏名又は名称】株式会社トクヤマデンタル
(72)【発明者】
【氏名】大矢 直之
(72)【発明者】
【氏名】森▲崎▼ 宏
(72)【発明者】
【氏名】西川 晶
【テーマコード(参考)】
4C089
4G072
【Fターム(参考)】
4C089AA06
4C089BA01
4C089BA02
4C089BA05
4C089BA06
4C089BA13
4C089BC03
4C089BC06
4C089BD09
4G072AA25
4G072AA28
4G072AA35
4G072AA37
4G072AA41
4G072BB05
4G072CC13
4G072DD05
4G072GG01
4G072GG03
4G072HH30
4G072JJ14
4G072JJ23
4G072JJ46
4G072KK03
4G072LL11
4G072MM01
4G072MM21
4G072QQ09
4G072RR05
4G072RR12
4G072TT01
4G072UU23
(57)【要約】
【課題】 歯科用硬化性組成物に配合したときに好ましいペースト物性や硬化体物性を与えることができる、シリカ含有率が80~92モル%の複合酸化物球状粉子からなる平均一次粒子径が350~600nmである粉粒体であって、保存安定性の低下や、硬化体外観色の厚みによる変化という現象を引起こし難い粉粒体を提供する。
【解決手段】 前記組成に対応した組成の加水分解性化合物が溶解した溶液を塩基性溶液に添加するゾルゲル法において、前記溶液及び反応液中の有機溶媒組成を制御することによって所定の平均粒子径を有する「内部シリカコアを有さない複合酸化物球状粒子」を析出させた後に各析出粒子の表面にシリカ前駆体層を形成してから焼成することによって得られる、前記組成を有する複合酸化物球状粉子の表面が厚さ3~15nmのシリカコート層で被覆された粒子の集合体からなるシリカ系複合酸化物粉粒体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素と、少なくともチタン又はジルコニウム含む1種又は複数種の金属と、の複合酸化物からなる球状本体粒子の表面の少なくとも一部がシリカからなるシリカコート層によって被覆されてなる球状一次粒子の集合体からなるシリカ系複合酸化物粉粒体であって、
前記球状一次粒子の平均粒子径は、350~600nmであり、
前記球状本体粒子を構成する前記複合酸化物中のシリカ(ケイ素酸化物)成分の含有率は80~92(モル%)で、残余は、前記1種又は複数種の金属の酸化物成分からなる金属酸化物成分であり、
前記球状本体粒子は、その内部にシリカ成分のみからなる中心層を有さず、
前記シリカコート層の平均厚みは3~15nmである、
ことを特徴とするシリカ系複合酸化物粉粒体。
【請求項2】
請求項1に記載のシリカ系複合酸化物粉粒体を製造する方法であって、
I: シリカ成分の原料となる、「縮合性シリカ成分原料化合物」;及び前記球状本体粒子を構成する前記複合酸化物の金属酸化物成分の原料となる、少なくとも1種の「縮合性金属酸化物原料化合物」;が、水を含んでいてもよい「有機溶媒」中に溶解した溶液からなり、該溶液中で、前記「縮合性シリカ成分原料化合物」と前記「縮合性金属酸化物原料化合物」とは反応して「溶解性複合体」を形成していてもよく、該溶液に含まれる前記「縮合性シリカ成分原料化合物」に由来するケイ素原子と前記「縮合性金属酸化物原料化合物」に由来する少なくとも1種の金属原子の量比は、前記球状本体粒子を構成する前記複合酸化物の組成に対応している、「本体粒子原料溶液」を準備する本体粒子原料溶液準備工程;
II: 水を含む「水溶解性有機溶媒」に「塩基性化合物」が溶解した「塩基性溶液」中に前記「本体粒子原料溶液」を添加して、前記球状本体粒子を析出させる析出工程;
III: 前記「縮合性シリカ成分原料化合物」が、水を含んでいてもよい「有機溶媒」中に溶解した溶液からなる「シリカコート層原料溶液」を準備し、前記析出工程で析出した前記球状本体粒子が分散した塩基性溶液に前記「シリカコート層原料溶液」を添加して、前記球状本体粒子の表面上に該表面の少なくとも一部を覆う平均厚さが4~20nmのシリカ及び/又はその前駆体からなるコート層を形成するコート層形成工程;及び
IV: 球状本体粒子の表面上に前記コート層が形成された粒子を700~1500℃で焼成して前記コート層を、平均厚さが3~15nmであるシリカコート層とする焼成工程、
を含み、
前記I:本体粒子原料溶液準備工程では、前記「本体粒子原料溶液」における水を除く前記「有機溶媒」として、メタノール含有率が80質量%以上の有機溶媒を使用し、
前記II:析出工程では、
前記「塩基性溶液」における「水溶解性有機溶媒」として、「炭素数1~5のアルキル基を有するアルコール」を含み、「炭素数3のアルキル基を有するアルコール」及び「炭素数4~5のアルキル基を有するアルコール」の合計含有率が80質量%以上であり、且つ「炭素数3以下のアルキル基を有するアルコール」の含有量が5~50質量%である水溶解性有機溶媒を使用し、更に
前記「本体粒子原料溶液」添加した後における前記「塩基性溶液」中における水を除く全有機溶媒の合計質量の65質量%以上を「炭素数3~5のアルキル基を有するアルコール」とする、
ことにより、前記析出工程において、前記球状本体粒子を析出させると共に、析出する球状本体粒子の平均一次粒子径を350~650nmとする、
ことを特徴とする、シリカ系複合酸化物粉粒体の製造方法。
【請求項3】
前記II:本体粒子原料溶液準備工程が、
シリコンアルコキシド、メタノール、水及び酸を混合して、シリコンアルコキシドの部分加水分解物及び/又は該部分加水分解物が縮合したオリゴマーからなる「縮合性シリカ成分原料化合物」が溶解した「シリカ成分原料組成物」を調製する工程;
少なくともチタン又はジルコニウム含む1種又は複数種の金属のアルコキシドと、該金属アルコキシドと、を溶解する水を含んでいてもよい極性有機溶媒を混合して、前記金属アルコキシド、その部分加水分解物及び該部分加水分解物が縮合したオリゴマーからなる群より選ばれる少なくとも1種からなる「金属酸化物原料化合物」が溶解した「金属酸化物成分原料組成物」を調製する工程;
前記「シリカ成分原料組成物」及び前記「金属酸化物成分原料組成物」を用いて前記原料溶液」を調製する工程
を含んでなる、請求項2に記載のシリカ系複合酸化物粉粒体の製造方法。
【請求項4】
前記III:析出工程で析出させる球状粒子の平均粒子径の標準偏差値を1.00~1.30の範囲内とする、請求項2又は3に記載のシリカ系複合酸化物粉粒体の製造方法。
【請求項5】
ラジカル重合性単量体:100質量部、請求項1に記載のシリカ系複合酸化物粉粒体:100~800質量部、及び重合開始剤を含んでなる、ことを特徴とする歯科用硬化性組成物。
【請求項6】
前記ラジカル重合性単量体が、その硬化体の25℃、波長589nmの光に対する屈折率をnPで表し、前記シリカ系複合酸化物粉粒体の25℃、波長589nmの光に対する屈折率をnFで表したときに、
式:0.01<nF-nP<0.1
を満足する硬化体を与える(メタ)アクリル化合物系ラジカル重合性単量体のみからなり、
前記シリカ系複合酸化物粉粒体の平均粒子径の標準偏差値が1.00~1.30である、請求項5に記載の歯科用硬化性組成物。
【請求項7】
被切削加工部を有する歯科切削加工用ブランクにおいて、
前記被切削加工部の少なくとも一部が請求項5又は6に記載の歯科用硬化性組成物又は該歯科用硬化性組成物に色素を配合して調色した歯科用硬化性組成物、の硬化体からなる、
ことを特徴とする前記歯科切削加工用ブランク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカ系複合酸化物粉粒体及びその製造方法、歯科用硬化性組成物、並びに歯科切削加工用ブランクに関する。
【背景技術】
【0002】
歯科補綴治療で用いられるハイブリッドレジン(以下、「HR」と略記することもある。)は無機充填材及び樹脂等の有機成分の複合材料であり、補綴修復で用いられるインレー、アンレー、クラウン、ブリッジ、インプラント上部構造体などの材料としても広く使用されている。
【0003】
HRの原料となる歯科用硬化性組成物は、強度等の点から、シリカ等の無機充填材、メタクリレート樹脂などの重合性単量体および重合開始剤を含有する組成物からなり、切削や研磨の作業性や高審美性の点から、無機充填材としては球状無機酸化物粒子からなるものが使用されることが多い(特許文献1参照)。そして、球状無機酸化物粒子からなる充填材としては、ケイ素や各種金属のアルコキシドなどの加水分解性化合物を塩基性含水溶液中で加水分解及び脱水縮合させる所謂ゾルゲル法で製造される「シリカ系複合酸化物からなる球状粒子」、具体的には、周期律表第I~IV族からなる群から選ばれた少なくとも1種の金属成分と珪素成分とを主な構成成分とする無機酸化物、特にシリカジルコニアなどのシリカ-チタン族系複合酸化物、からなる球状粒子が、一般的に使用されている(特許文献1~3参照)。
【0004】
なお、上記ゾルゲル法においては、塩基性含水溶液中にシリカ原料化合物のみ添加して内部コアとなるシリカを形成してから、シリカ原料化合物と縮合性金属酸化物原料化合物の混合物を添加して前記内部シリカコアの周りに複合酸化物層を成長させると、得られる球状粒子の粒度分布を良好なものとすることができる(粒子径のそろった球状粒子が得られる)とされており(特許文献3)、歯科用充填材として使用されるシリカ-チタン族系複合酸化物球状粒子においてもそのような方法で製造されることが多い(たとえば、特許文献2の製造例5及び6参照)。
【0005】
デジタル技術の進展に伴い近年急速に普及が進んでいる歯科切削加工用ブランクにおいても、上記したようなシリカ-チタン族系複合酸化物を配合したHRで構成された被切削加工部を有する歯科切削加工用ハイブリッドレジン系ブランク(以下、歯科切削加工用ハイブリッドレジン系ブランクを単に「HRブランク」ともいう。)が知られている(特許文献4参照。)。なお、歯科切削加工用ブランクとは、コンピュータ支援設計(CAD:Computer Aided Design)及びコンピュータ支援製造(CAM:Computer Aided Manufacturing)技術を用いた切削加工システム(CAD/CAMシステム)の切削加工機に取り付け可能にした専用被切削体(ミルブランクとも呼ばれる。)意味し、通常は、非金属材料からなる所定形状のブロック状被切削加工部とこれを切削加工機に取り付けるための部材とを有する。そして、CAD/CAMシステムにより、被切削加工部を、口腔内形状や模型形状等のデジタル情報に基づきCADにより設計された補綴物形状に切削加工して(CAM)して、目的とする形状の歯科用修復物が高精度に作製される。
【0006】
ところで、HRを歯科用補綴物材料として使用する場合には、審美性の観点から顔料等の着色剤を用いて天然歯牙の色(色相と、明度及び彩度の混合指標との組み合わせからなる指標、又は色相、明度及び彩度を考慮した指標で表される。以下このような指標で特定される色を「シェード」ともいう。)と近似した色に調色されたものを使用する必要がある。天然歯牙の色(シェード)には個人差があるため、HRやCRの製品については、通常、互い異なる所定の色(シェード)に調色したものを複数準備し、その中から修復する歯牙の色或いはその周囲の歯牙の色(シェード)をとマッチするものを選定して使用するのが一般的である。
【0007】
このような色(シェード)の選定(一般に、「シェードテイキング」と言われる。)は、シェードガイドと呼ばれる歯牙の色調見本を用いて行われるのが一般的である。シェードガイドには、色見本の数や色見本を保持する保持用器具の構成等が色の判定作業をしやすいように工夫された様々なものがあるが、全16種の色の見本からなり、該シェードガイドと修復部位および周囲の歯の色とを照らし合わせることで修復部位の色を決定することができるVITA社製の“VITA Classical”(商品名)が、最も広く普及している。VITAシェードガイドでは、A~D系統の色を明度によって分類し記号を付して表している。すなわちA系統(赤茶)、B系統(赤黄)、C系統(灰)及びD系統(赤灰)に分類し、16シェードを明度順(明度高→低)に並べると、「B1→A1→B2→D2→A2→C1→C2→D4→A3→D3→B3→A3.5→B4→C3→A4→C4」となっており、HR製歯科材料や、CRが商品化(製品化)される場合には、(HRやCR硬化体の外観色が)上記16種のシェード或いはその中から選ばれる幾つかのシェードとなるものが取り揃えられることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平3-10603号公報
【特許文献2】特開平8-12305号公報
【特許文献3】特公平1-38044号公報
【特許文献4】特開2017-213394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らが検討したところ、特許文献2に記載されるようなゾルゲル法を用いて合成されたシリカジルコニア球状粒子を用い、特許文献2に記載されるような無機組成物として配合した歯科用硬化性組成物から得られたHRは、機械的強度、耐摩耗性及び表面滑沢性が優れたものとなることが確認された。
【0010】
一方で、調色した上記HRについては、厚さによって目視で観察される色調が異なる場合があることが判明した。具体的には、歯冠形態においてHRの厚みが薄い場合は、青味が強くなり、厚さが厚い場合には赤味が強くなる場合があることが判明した。なお、HRはある程度の透明性を有するため、厚さによって外観色の濃淡が変化することは良く知られたことであるが、厚さによって青味と赤味のバランスが変化することはほとんど認識されていない。
【0011】
HRの厚みよって色調が変化すると、その程度にもよるが、商品として提供されるHR製歯科材料やCRのシェードテイキングに混乱を来すことになる。すなわち、各商品について取り揃えられるシェードは、所定の厚さ(以下、「基準厚み」ともいう。)を有するHR(又はCR硬化体)の外観色によって決定しなければならず、実際の使用形態(補綴物に加工された状態や充填された状態)におけるHR(又はCR硬化体)の厚さと基準厚みとに差が生じる場合には、その差の大きさに応じて色ズレ(外観色の不一致の程度)が生じることになる。
【0012】
たとえば、上記色ズレを起こすような系のHRを用いた1.5cm×1.5cm×2cm程度の大きさの直方体形状の被切削加工部を有するHRブランクのシェードを基準厚み1mmで決定した場合には、被切削加工部の外観色は、決定されたシェードよりも赤味が強いものとなってしまう。このため、上記色ズレを起こすことを知らないユーザーにとっては、商品のシェードか間違っているのではないかという誤解を与えることになるばかりでなく、実際に作成した補綴物の主要部分の厚さが基準厚みと異なる場合には、原理的には、所期の色調調和性が得られないことになる。
【0013】
また、上記HRの原料となる上記歯科用硬化性組成物において、ジルコニア球状粒子の含有率が高い場合には、長期保管時に該歯科用硬化性組成物の流動性が低下する場合があることが確認された。
【0014】
そこで、本発明は、どのような系のHRが、厚さによって外観色の青味と赤味のバランスが変化するのかを明らかにして、上記厚みによる色ズレを起こさない調色HRを与えることができる歯科用硬化性組成物を提供し、延いては厚みによる色ズレを起こさない調色HRからなる被切削加工部を有するHRブランクを提供することを第1の目的とする。また、当該第1の目的を達成し、且つジルコニア球状粒子の含有率が高い歯科用硬化性組成物であって、長期保管時も流動性の変化が少ない歯科用硬化性組成物を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記課題を解決するものであり、本発明の第一の形態は、
ケイ素と、少なくともチタン又はジルコニウム含む1種又は複数種の金属と、の複合酸化物からなる球状本体粒子の表面の少なくとも一部がシリカからなるシリカコート層によって被覆されてなる球状一次粒子の集合体からなるシリカ系複合酸化物粉粒体であって、
前記球状一次粒子の平均粒子径は、350~600nmであり、
前記球状本体粒子を構成する前記複合酸化物中のシリカ(ケイ素酸化物)成分の含有率は80~92(モル%)で、残余は、前記1種又は複数種の金属の酸化物成分からなる金属酸化物成分であり、
前記球状本体粒子は、その内部にシリカ成分のみからなる中心層(以下、「内部シリカコア」ともいう。)を有さず、
前記シリカコート層の平均厚みは3~15nmである、
ことを特徴とするシリカ系複合酸化物粉粒体(以下、「本発明のシリカ系複合酸化物粉粒体」ともいう。)である。
【0016】
本発明の第2の形態は、本発明のシリカ系複合酸化物粉粒体を製造する方法であって、
I: シリカ成分の原料となる、「縮合性シリカ成分原料化合物」;及び前記球状本体粒子を構成する前記複合酸化物の金属酸化物成分の原料となる、少なくとも1種の「縮合性金属酸化物原料化合物」;が、水を含んでいてもよい「有機溶媒」中に溶解した溶液からなり、該溶液中で、前記「縮合性シリカ成分原料化合物」と前記「縮合性金属酸化物原料化合物」とは反応して「溶解性複合体」を形成していてもよく、該溶液に含まれる前記「縮合性シリカ成分原料化合物」に由来するケイ素原子と前記「縮合性金属酸化物原料化合物」に由来する少なくとも1種の金属原子の量比は、前記球状本体粒子を構成する前記複合酸化物の組成に対応している、「本体粒子原料溶液」を準備する本体粒子原料溶液準備工程;
II: 水を含む「水溶解性有機溶媒」に「塩基性化合物」が溶解した「塩基性溶液」中に前記「本体粒子原料溶液」を添加して、前記球状本体粒子を析出させる析出工程;
III: 前記「縮合性シリカ成分原料化合物」が、水を含んでいてもよい「有機溶媒」中に溶解した溶液からなる「シリカコート層原料溶液」を準備し、前記析出工程で析出した前記球状本体粒子が分散した塩基性溶液に前記「シリカコート層原料溶液」を添加して、前記球状本体粒子の表面上に該表面の少なくとも一部を覆う平均厚さが4~20nmのシリカ及び/又はその前駆体からなるコート層を形成するコート層形成工程;及び
IV: 球状本体粒子の表面上に前記コート層が形成された粒子を700~1500℃で焼成して前記コート層を、平均厚さが3~15nmであるシリカコート層とする焼成工程、
を含み、
前記I:本体粒子原料溶液準備工程では、前記「本体粒子原料溶液」における水を除く前記「有機溶媒」として、メタノール含有率が80質量%以上の有機溶媒を使用し、
前記II:析出工程では、
前記「塩基性溶液」における「水溶解性有機溶媒」として、「炭素数1~5のアルキル基を有するアルコール」を含み、「炭素数3のアルキル基を有するアルコール」及び「炭素数4~5のアルキル基を有するアルコール」の合計含有率が80質量%以上であり、且つ「炭素数3以下のアルキル基を有するアルコール」の含有量が5~50質量%である水溶解性有機溶媒を使用し、更に
前記「本体粒子原料溶液」添加した後における前記「塩基性溶液」中における水を除く全有機溶媒の合計質量の65質量%以上を「炭素数3~5のアルキル基を有するアルコール」とする、
ことにより、前記析出工程において、前記球状本体粒子を析出させると共に、析出する球状本体粒子の平均粒一次子径を350~650nmとする、
ことを特徴とする、シリカ系複合酸化物粉粒体の製造方法である。
【0017】
上記形態の製造方法(以下、「本発明の製造方法」ともいう。)においては、前記II:本体粒子原料溶液準備工程が、
シリコンアルコキシド、メタノール、水及び酸を混合して、シリコンアルコキシドの部分加水分解物及び/又は該部分加水分解物が縮合したオリゴマーからなる「縮合性シリカ成分原料化合物」が溶解した「シリカ成分原料組成物」を調製する工程;
少なくともチタン又はジルコニウム含む1種又は複数種の金属のアルコキシドと、該金属アルコキシドと、を溶解する水を含んでいてもよい極性有機溶媒を混合して、前記金属アルコキシド、その部分加水分解物及び該部分加水分解物が縮合したオリゴマーからなる群より選ばれる少なくとも1種からなる「金属酸化物原料化合物」が溶解した「金属酸化物成分原料組成物」を調製する工程;
前記「シリカ成分原料組成物」及び前記「金属酸化物成分原料組成物」を用いて前記原料溶液」を調製する工程
を含んでなる、ことが好ましい。
【0018】
また、前記III:析出工程で析出させる球状粒子の平均粒子径の標準偏差値を1.00~1.30の範囲内とする、ことが好ましい。
【0019】
本発明の第3の形態は、ラジカル重合性単量体:100質量部、本発明のシリカ系複合酸化物粉粒体:100~800質量部、及び重合開始剤を含んでなる、ことを特徴とする歯科用硬化性組成物である。
【0020】
上記形態の歯科用硬化性組成物(以下、「本発明の歯科用硬化性組成物」ともいう。)においては、前記ラジカル重合性単量体が、その硬化体の25℃、波長589nmの光に対する屈折率をnPで表し、前記シリカ系複合酸化物粉粒体の25℃、波長589nmの光に対する屈折率をnFで表したときに、
式:0.01<nF-nP<0.1
を満足する硬化体を与える(メタ)アクリル化合物系ラジカル重合性単量体のみからなり、
前記シリカ系複合酸化物粉粒体の平均粒子径の標準偏差値が1.00~1.30である、ことが好ましい。
本発明の第4の形態は、被切削加工部を有する歯科切削加工用ブランクにおいて、
前記被切削加工部の少なくとも一部が本発明の歯科用硬化性組成物又は該歯科用硬化性組成物に色素を配合して調色した歯科用硬化性組成物、の硬化体からなる、
ことを特徴とする前記歯科切削加工用ブランク(以下「本発明の歯科切削加工用ブランク」ともいう)である。
【発明の効果】
【0021】
本発明のシリカ系複合酸化物粉粒体は、前記課題を解決するものである。すなわち、本発明の歯科用硬化性組成物は、シリカ系複合酸化物球状粒子を無機充填材と配合している従来の歯科用硬化性組成物と同様に、強度、切削や研磨の作業性、及び高審美性が良好な硬化体を与えることができるだけでなく、シリカ系複合酸化物球状粒子として本発明のシリカ系複合酸化物粉粒体を含むことにより、流動性の保存安定性が高くなり、且つ硬化体としたときに、厚みが変化しても前記したような色ズレが起こり難くなる。
【0022】
このため、本発明の歯科用硬化性組成物の硬化体を被切削加工部とする本発明の歯科切削加工用ブランクは、被切削加工部にシリカ系複合酸化物球状粒子が配合されているにも拘らず、被切削加工部の外観上の色調(シェード)をベースにシェードテイキングを行うことができるため、製品に対する違和感が発生し難いという特長を有する。
【0023】
また、本発明の製造方法によれば、前記(これを配合した歯科用硬化性組成物に前記した特長を付与できるという)特徴を有する本発明のシリカ系複合酸化物粉粒体を効率よく製造することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明者らは、特許文献2に記載されるようなゾルゲル法を用いて合成されたシリカジルコニア球状粒子を用いたHRの外観色が厚み依って異なる現象が発生する原因について検討を行った。その結果、上記現象は、球状粒子がシリカ成分のみから成るコア(内部シリカコア)を有する場合に顕著に表れ、このような内部シリカコアを有さずに全体が複合酸化物で構成される粒子(コアレス粒子ともいう。)である場合には現れ難いこと、及びシリカジルコニア等のシリカチタン族系複合酸化物の球状粒子を、チタン族系酸化物の組成比が高い条件にて、シリカコアを形成させずに製造しようとした場合には、粒子径が350nm以上となるような比較的大粒径の球状粒子を得ることが非常に困難である、という知見を得るに至った。
【0025】
そこで、平均一次粒子径が350nm以上である、シリカチタン族系複合酸化物球状コアレス粒子を製造する条件について更に検討を行ったところ、シリカ成分の原料となる「縮合性シリカ成分原料化合物」と金属酸化物成分の原料となる「縮合性金属酸化物原料化合物」が溶解した「原料溶液」を、アンモニア水を含む塩基性水性有機溶液に添加して球状粒子を析出させるに際して、前記原料溶液の溶媒を、メタノールを主成分とするものとし、前記塩基性水性有機溶媒として炭素数1~3アルキル基を有するアルコールと炭素数4~5アルキル基を有するアルコールとを併用すると共にその組成を制御し、さらに前記原料溶液を添加した後における前記塩基性溶液中における水を除く全有機溶媒の合計質量の65質量%以上を「炭素数3~5のアルキル基を有するアルコール」とした場合には、平均一次粒子径が350nm以上のシリカチタン族系複合酸化物球状コアレス粒子を製造できること、及び該粒子又は該粒子を必用に応じて焼成した粒子を用いることにより前記第1の目的を達成できる歯科用硬化性組成物を得ることができることを見出し、既に提案を行っている(特願2022-153435)。
【0026】
本発明は、このような方法により製造されたシリカチタン族系複合酸化物球状コアレス粒子(本発明のシリカ系複合酸化物粉粒体を構成する「球状一次粒子」における「球状本体粒子」に相当する。)の表の面の少なくとも一部、好ましくは全体をシリカの先駆体となるコート層で覆ってから焼成したものを歯科用硬化性組成物に配合した場合には、上記したよう特徴を損なうことなく、更に流動性の保存安定性を高くすることができる場合があることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0027】
なお、内部シリカコアを有する、シリカ系複合酸化物球状粒子を用いた場合に、HRの厚みにより外観色が変化する原因は、必ずしも明らかではなく、本発明は何ら論理に拘束されるものではないが、本発明者らは次のようなものであると考えている。すなわち、内部シリカコアを有する場合には、内部シリカコアと周囲の複合酸化物であるシェルとの屈折率差が異なるためシリカコアが微細粒子と認識されて、(シリカ系複合酸化物球状粒子を配合した歯科用硬化性組成物の)硬化体の厚さが薄い場合には透過光が所謂レイリー散乱を起こして入射した光のうち青色光が散乱される(以下、該散乱光を「青色散乱光」とも呼ぶ。)ため、青味掛かって見えるようになるものと考えられる。加えて、内部シリカコアを有するシリカ系複合酸化物粒子を含む歯科用硬化性組成物では前記青色散乱光の影響を抑制するために、赤及び黄色顔料の添加量を増加させることが多く、このような場合には、硬化体の厚みが厚くなると、顔料の色調が強く発色するようになり、硬化体の色調が赤味掛かって見えるもの一因であると考えられる。
【0028】
これに対し、特願2022-153435で提案した内部シリカコアを有しないシリカ系複合酸化物球状粒子(球状本体粒子をそのまま)では上記したような散乱が起こらないため、硬化体の厚み変化による色ズレが抑制されたものと考えられる。球状本体粒子表面にシリカコート層を形成した場合には、上記散乱の発生が起こり得るが、本発明のシリカ系複合酸化物粉粒体を構成する球状本体粒子表面上に形成されるシリカコート層の厚さが極めて薄いので、上記散乱が起こらないか起こっても僅かであるため上記特長が保持されたものと考えられる。
【0029】
なお、溶媒種をコントロールすることにより内部シリカコアレスで大粒径のシリカ系複合酸化物球状粒子(球状本体粒子)が得られるようになったのは、原料溶液中で前記「縮合性シリカ成分原料化合物」と前記「縮合性金属酸化物原料化合物」とが反応して「溶解性複合体」、すなわち構造中にケイ素原子及び金属原子の両方を有するオリゴマーが形成されると共に、塩基性水性有機溶液に添加したときに粒子の核の形成速度が遅くなり(一気にたくさんの核が形成されなくなり)粒成長できるようになったためであると考えている。
【0030】
また、流動性の保存安定性が高くなったことに関しては、歯科用硬化性組成物に通常のシリカ系複合酸化物球状粒子を配合した場合には、その表面に存在することが知られている強い酸点(以下、「強酸点」ともいう。)が存在し、その影響により重合性単量体が変質したり、重合開始剤の分解が進んだりして部分的にゲル化することで、保存中に流動性が変化するのに対し、本発明のシリカ系複合酸化物粒粉体ではシリカコート層の形成により強酸点が重合性単量体や重合開始剤と接触しなくなったためであると考えられる。
【0031】
前記したように、シリカジルコニア等のシリカチタン族系複合酸化物の球状粒子については、内部シリカコアを形成させずに粒子径が350nm以上となるような比較的大粒径の球状粒子を得ることが非常に困難であり、本発明者の知る限りにおいて、前記の提案前に、そのような内部シリカコアレスの大粒径シリカチタン族系複合酸化物球状粒子は知られていない。本発明の歯科用硬化性組成物は、このような内部シリカコアレスの大粒径シリカチタン族系複合酸化物球状粒子を効率的に製造することを可能とする技術を用いることによって始めて実現可能となったものである。そこで、以下に、本発明のシリカ系複合酸化物粒粉体及び本発明の製造方法について説明した上で、本発明の歯科用硬化性組成物及び本発明のブランクについて詳しく説明する。
【0032】
なお、本明細書においては特に断らない限り、数値x及びyを用いた「x~y」という評価は「x以上y以下」を意味するものとする。かかる表記において数値yのみに単位を付した場合には、当該単位が数値xにも適用されるものとする。また、本明細書において、複合酸化物とは、複数種類の酸化物が複合化したものを意味し、その組成は、複合酸化物を構成する全酸化物量(モル)に対する、該複合酸化物を構成する特定の1種の酸化物の含有量(モル)の比を当該特定の1種の酸化物の含有率として表すものとする。また、金属は、(半金属または半導体である)ケイ素(Si)を含まないものとする。また、「粉粒体」とは粒子の集合体を意味するが、粉粒体を構成する粒子を以て粉粒体を表すこともある。さらに、「(メタ)アクリル」との用語は、「アクリル」及び「メタクリル」の両者を意味する。同様に、「(メタ)アクリレート」との用語は、「アクリレート」及び「メタクリレート」の両者を意味し、「(メタ)アクリロイル」との用語は、「アクリロイル」及び「メタクリロイル」の両者を意味する。
【0033】
1.本発明のシリカ系複合酸化物粉粒体
本発明のシリカ系複合酸化物粉粒体は、ケイ素と、少なくともチタン又はジルコニウム含む1種又は複数種の金属と、の複合酸化物からなる球状本体粒子の表面の少なくとも一部がシリカからなるシリカコート層によって被覆されてなる球状一次粒子の集合体からなるシリカ系複合酸化物粉粒体であって、
前記球状一次粒子の平均粒子径は、350~600nmであり、
前記球状本体粒子を構成する前記複合酸化物中のシリカ(ケイ素酸化物)成分の含有率は80~92(モル%)で、残余は、前記1種又は複数種の金属の酸化物成分からなる金属酸化物成分であり、
前記球状本体粒子は、その内部にシリカ成分のみからなる中心層(内部シリカコア)を有さず、
前記シリカコート層の平均厚みは3~15nmである、
ことを特徴とする。
【0034】
本発明のシリカ系複合酸化物粉粒体を用いることで、上述のようにHRとした際の厚みによる色ズレを抑制できるうえ、歯科用硬化性組成物に配合した際、長期保管後においても流動性を維持することができる。
【0035】
本発明のシリカ系複合酸化物粉粒体を構成する前記球状一次粒子の平均粒子径は350~600nmであるため、平均一次粒子径が100nm未満の無機粉粒体と併用した際の無機粒子の充填率が上がり、硬化体の強度が向上する。前記平均一次粒子径が350nmを下回った場合、重合性単量体と混合し組成物とした際の糸引きやべたつきが生じやすくなり、組成物への高充填率での配合が困難になる虞がある。また、平均一次粒子径が600nmを超えた場合は、研磨性が低下する虞がある。より高い強度が得られるという観点から、平均一次粒子径は350~550nmであることが好ましい。
【0036】
ここで、前記球状一次粒子の平均粒子径とは、走査型電子顕微鏡(SEM)像による画像解析により決定される平均一次粒子径を意味し、粉体試料をSEMで、全体の形状が確認できる球状粒子が視野内に100個以上含まれるように5000~100000倍の倍率で観察したときに得られる画像(又は写真)に基づき、任意に選択した30個以上、好ましくは100個以上の各粒子の最大径(nm)を測定し、その総和を個数:n(≧30の自然数)で除した値を意味する。すなわち、各粒子の最大径をx(iは1~nの自然数である。)で表し、平均粒子径をxAVで表した場合、xAV=(Σx)/n で定義される値を意味する。ここで、各粒子の最大径(nm)を測定に際して市販の画像解析ソフトを用いてもよい。所謂ゾルゲル法で得られる球状粒子は、粒子径が揃っており、極端に大きな粒子や極端に小さな粒子はほとんど存在しないことが知られており、本発明の製造方法においてもこの点は同様であることから、上記方法で決定される平均粒子径は、全体の平均粒子径を表すものといえる。これらの点は、後述する本発明の製造方法の析出工程で析出した球状本体粒子の平均一次粒子径:D1(nm)についても同様である。
【0037】
前記球状一次粒子の平均粒子径の標準偏差値は、1.00~1.30であることが好ましい。ここで、平均粒子径の標準偏差値とは、平均一次粒子径を決定するのに用いた前記SEM画像における前記30個以上の球状粒子の粒子径の標準偏差をσ(nm)としたときに、式:標準偏差値={(xAV+σ)/xAV}で定義されるものである。
【0038】
前記シリカコート層は前記球状本体粒子表面の少なくとも一部を覆うものであればよいが、表面の50%以上、特に80%以上を覆うことが好ましく、前表面を覆うことが最も好ましい。また、前記シリカコート層の平均厚みは3~15nmである必要がある。平均厚みが3nm未満のときには、前記流動性の保存安定性を向上させる効果が得られ難くなり、平均厚みが15nmを超えるときには、前記(硬化体厚み変化による)色ズレを防止する効果が得られ難くなる。これら効果の観点から、シリカコート層の平均厚みは、4~14nmであることが好ましい。
【0039】
シリカコート層の平均厚みT(nm)は、X線光電子分光法(XPS)などの方法により確認することもできるが、本発明のシリカ系複合酸化物粉粒体が本発明の製造法により製造されるものである場合には、後述するように、II:析出工程で析出した前記球状本体粒子の平均一次粒子径:D1(nm)と、III:コート層形成工程でコート層を形成した後の球状本体粒子の平均一次粒子径:D2(nm)と、の差:ΔD=D2-D1に基づき、T=(ΔD/200)×{100-(焼成による収縮率:%)}より、求めることもできる。さらに、析出工程で析出した前記球状本体粒子を一部サンプリングし、これをIVの焼成条件と同一の焼成条件で焼成したものの平均粒一次子径:D4(nm)を求め、この値とIVの焼成後に得られた本発明のシリカ系複合酸化物粉粒体の平均粒一次子径D3(nm)の値に基づき、式:T=(D4-D3)/2から求めることもできる。
【0040】
また、前記球状一次粒子は、略球状であればよく、必ずしも完全な真球である必要はない。すなわち、前記球状一次粒子が、平均均斉度が0.6以上であることを意味する。ここで、平均均斉度とは、球状粒子の長径に対する短径の比の平均値であり、上記n(≧30の自然数)個の球状粒子の核粒子ついて測定される最大径である長径をLとし、該長径に直交する方向の径である短径をBとしたときに、式:平均均斉度={Σ(B/L)/n}で定義されるものであり、1.0を最大値とし、平均均斉度が1.0に近いほど真球に近いことを意味する。前記平均均斉度は、0.8以上であることが好ましい。
【0041】
本発明のシリカ系複合酸化物粉粒体を構成する前記球状本体粒子は、ケイ素と、少なくともチタン又はジルコニウム含む1種又は複数種の金属と、の複合酸化物であり、且つ該複合酸化物中のシリカ(ケイ素酸化物)成分の含有率は80~92(モル%)で、残余は、前記1種又は複数種の金属の酸化物成分からなる金属酸化物成分であり、更に内部にシリカ成分のみからなる中心層(内部シリカコア)を有しないものである必要がある。
【0042】
複合酸化物組成が上記範囲外である場合には、歯科用組成物に配合した場合に、好ましいX線不透過性を付与することが困難となり、また、歯科用組成物配合用無機フィラーとして好ましい屈折率の範囲、具体的には25℃、波長589nmの光に対する屈折率で1.50~1.58の範囲に調整することが困難となる。
【0043】
2.本発明の製造方法
本発明の製造方法は、本発明のシリカ系複合酸化物粉粒体であり、要約すれば、I:球状本体粒子の原料となる本体粒子原料溶液を調製する本体粒子原料溶液準備工程、II:本体粒子原料溶液を用いて塩基性溶液中に球状本体粒子を析出させる析出工程、III:前記球状本体粒子の表面上に該表面の少なくとも一部を覆う平均厚さが4~20nmのシリカ及び/又はその前駆体からなるコート層を形成するコート層形成工程;及びIV:球状本体粒子の表面上に前記コート層が形成された粒子を700~1500℃で焼成工程、を含み、I:本体粒子原料溶液準備工程原料となる化合物を溶解させる有機溶媒として特定のものを使用し、II:析出工程で反応液として使用する水溶性有機溶媒として特定のものを使用すると共に反応液の組成を制御して均粒一次子径が350~650nmの球状本体粒子を析出させること、具体的には下記条件(1)~(3)を同時に満足することを特徴としている。
【0044】
(1)前記原料溶液における水を除く有機溶媒として、メタノール含有率が80質量%以上の有機溶媒を使用すること。
(2)前記塩基性溶液における水溶解性有機溶媒として、炭素数1~5のアルキル基を有するアルコールを含み、「炭素数3アルキル基を有するアルコール」及び「炭素数4~5のアルキル基を有するアルコール」の合計含有率が80質量%以上であり、且つ炭素数3以下のアルキル基を有するアルコールの含有量が5~50質量%である水溶解性有機溶媒を使用すること。
(3)前記原料溶液を添加した後における前記塩基性溶液中における水を除く全有機溶媒の合計質量の65質量%以上を「炭素数3~5のアルキル基を有するアルコール」とすることにより、前記析出工程において、粒子内部にシリカのみからなるコア層を有しない球状粒子を析出させると共に、析出する球状粒子の平均一次粒子径を350~650nmとすること。
【0045】
なお、一般的な縮合性シリカ成分原料化合物や縮合性金属酸化物原料化合物の濃度の原料溶液を用いた場合、これらの加水分解により生成した、アルコール等の有機物の濃度及びこれが与える影響は小さく、各溶液中の各種アルコール濃度を正確に分析することは困難であるため、上記(1)~(3)で規定する各アルコールの含有率は、溶媒として使用した有機溶媒量に基づき算出されるものとしている。
【0046】
前記したように一般的なゾルゲル法を採用した場合には、内部シリカコアを有しない大粒径シリカ系複合酸化物球状粒子を得ることが困難であったのに対し、本発明の製造方法では、平均一次粒子径が350~650nmの球状本体粒子を得ることに成功している。これは、本体粒子原料溶液における有機溶媒の組成、並びに(塩基性溶液中の水溶性有機溶媒の組成および前記本体粒子原料溶液と塩基性溶液の混合比を制御する等によって)本体粒子原料溶液を添加した後における前記塩基性溶液中における水を除く全有機溶媒の組成を制御することによって、おそらく核形成速度及び粒成長速度が好適に制御されて、シリカコアレスの大粒径シリカ系複合酸化物球状粒子(コア粒子)を効率的に得ることができるようになったものと思われる。
【0047】
後述する比較例に示されるように、前記条件(1)を満足せずに、前記本体粒子原料溶液における水を除く全有機溶媒中のメタノール濃度(以下、「本体粒子原料溶液有機溶媒中メタノール濃度」ともいう。)が80質量%未満の時には粒子同士の凝集が生じやすくなり均斉度の高い粒子を得ることができない。また、前記塩基性水溶液中の水溶解性有機溶媒が前記条件(2)を満足しない場合には、粒子同士の凝集が生じやすくなり均斉度の高いコア粒子を得ることができず、粒子を350nm以上へ成長させることもできない。さらに、前記条件(3)を満足せずに前記添加後の塩基性溶液中における水を除く全有機溶媒中の「炭素数3~5のアルキル基を有するアルコール」濃度(以下、「添加後塩基性溶液有機溶媒中特定アルコール濃度」ともいう。)を、65質量%未満とした時には、核粒子の析出が促進されるため、コア粒子の粒径が小さくなり、粒子を350nm以上へ成長させることができない。効果の観点から、本体粒子原料溶液有機溶媒中メタノール濃度は80~98質量%とすることが好ましく、添加後塩基性溶液有機溶媒中特定アルコール濃度は65~85質量%とすることが好ましい。
【0048】
本発明の製造方法によれば、例えば平均粒子径の標準偏差値を1.00~1.30の範囲、更には1.00~1.25の範囲といった粒度分布の幅の狭い(粒子径の揃った)前記コアシェル粒子からなる粉体を得ることができる。また、形状についても平均斉度が0.6~0.7、特に0.8~0.9と真球に近いコアシェル粒子からなる粉体を得ることができる。
以下に、各工程について詳しく説明する。
【0049】
I:本体粒子原料溶液準備工程
I:本体粒子原料溶液準備工程では、水を含んでいてもよい「有機溶媒」に、「縮合性シリカ成分原料化合物」と、(「縮合性金属酸化物原料化合物」と、を溶解させて前記球状本体粒子の原料となる「本体粒子原料溶液」を調製する。
【0050】
ここで「縮合性シリカ成分原料化合物」とは、シリカ成分の原料となる化合物であり、縮重合することにより3次元的にシロキサン結合を成長させて(組成式:SiOで表される)シリカ構造を形成できる化合物を意味し、通常は、シリコンアルコキシドの部分加水分解物及び/又は該部分加水分解物が縮合したオリゴマーが、これに該当する。
【0051】
また、「縮合性金属酸化物原料化合物」とは、前記球状本体粒子を構成する前記複合酸化物の金属酸化物成分の原料となる化合物であり、脱溶媒縮合することにより3次元的に金属原子-酸素原子結合を成長させて、金属原子の種類に応じて安定な酸化物組成の構造を形成できる化合物を意味し、通常は、金属アルコキシド、その部分加水分解物、及びこれらが縮合したオリゴマーからなる群より選ばれる少なくとも1種が、これに該当する。なお、「縮合性金属酸化物原料化合物」は前記金属酸化物成分の原料となるものであることから、含まれる金属の種類や組成(金属原子の量比)は、前記金属酸化物成分の組成に対応するものとなる。たとえば、前記金属酸化物成分が酸化チタン(T)1モルと酸化ジルコニウム(ZrO)2モルを含む場合には、酸化チタンの原料となる「縮合性金属酸化物原料化合物(縮合性酸化チタン原料化合物)」と酸化ジルコニウムの原料となる「縮合性金属酸化物原料化合物(縮合性酸化ジルコニウム原料化合物)」を、Ti:Zr(原子数比)=1:2で含む混合物となる。
【0052】
さらに、「本体粒子原料溶液」は、前記球状本体粒子の原料となるものであることから、「本体粒子原料溶液」に含まれる「縮合性シリカ成分原料化合物」と「縮合性金属酸化物原料化合物」の量比は、前記球状本体粒子を構成する前記複合酸化物の組成に対応する必要がある。たとえば、前記複合酸化物がシリカ(S)2モル、酸化チタン(T)1モルと酸化ジルコニウム(ZrO)2モルを含む場合には、「縮合性シリカ成分原料化合物」をシリカ換算で2モル、酸化チタンの原料となる「縮合性金属酸化物原料化合物(縮合性酸化チタン原料化合物)」を酸化チタン換算で1モル、及び酸化ジルコニウムの原料となる「縮合性金属酸化物原料化合物(縮合性酸化ジルコニウム原料化合物)」を酸化ジルコニウム換算で2モル混合物となる。
【0053】
なお、本体粒子原料溶液中において、前記「縮合性シリカ成分原料化合物」と前記「縮合性金属酸化物原料化合物」とは反応して「溶解性複合体」を形成していてもよい。
【0054】
本体粒子原料溶液調製工程においては、前記条件(1)を満足する必要がある。すなわち、後述のII:析出工程にて平均粒子径を350~650nmの球状本体粒子(内部シリカコアレスのシリカ系複合酸化物球状粒子)を析出させるために、「本体粒子原料溶液」を調製する際に使用する前記「有機溶媒」中のメタノール濃度を80質量%以上、好ましくは85~95質量%とする必要がある。
【0055】
なお、全有機溶媒の20質量%以下、好ましくは5~15質量%を占める(メタノール以外の)他の有機溶媒としては、極性有機溶媒、具体的には、2-プロパノール、1-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール等のアルコール類が使用される。また、本体粒子原料溶液中における「縮合性シリカ成分原料化合物」の濃度は、シリコンアルコキシド換算のモル/リットルで表して通常、1.1~1.9モル/リットル、好ましくは1.6~1.8モル/リットルである。
【0056】
本体粒子原料準備工程は、操作性及び組成制御の容易性等の観点から、シリコンアルコキシド、メタノール、水及び酸を混合して、シリコンアルコキシドの部分加水分解物及び/又は該部分加水分解物が縮合したオリゴマーからなる「縮合性シリカ成分原料化合物」が溶解した「シリカ成分原料組成物」を調製する工程(シリカ成分原料組成物調製工程ともいう。);少なくともチタン又はジルコニウム含む1種又は複数種の金属のアルコキシドと、該金属アルコキシドを溶解する極性有機溶媒と、を混合して、前記金属アルコキシド、その部分加水分解物及び該部分加水分解物が縮合したオリゴマーからなる群より選ばれる少なくとも1種からなる「縮合性金属酸化物原料化合物」が溶解した「金属酸化物成分原料組成物」を調製する工程(金属酸化物成分原料組成物調製工程ともいう。);及び前記「シリカ成分原料組成物」及び前記「金属酸化物成分原料組成物」を用いて前記「本体粒子原料溶液」を調製する工程(原料溶液調製工程ともいう。)を含んでなる、ことが好ましい。以下に、上記各工程の詳細について説明する。
【0057】
I-1.シリカ成分原料組成物調製工程
シリカ成分原料組成物調製工程では、シリコンアルコキシド、メタノール、水及び酸を混合して、溶液中で「縮合性シリカ成分原料化合物」を生成させる。本工程で使用するシリコンアルコキシドは、式:Si(OR)(式中、Rはアルキル基を示す。)で表される化合物である。特に、反応性の制御が容易であり、均一な粒子径を有する粒子を得やすいという点から、式中のRがメチル基、エチル基、イソプロピル基、又はブチル基であるシリコンアルコキシドを使用することが好ましい。シリコンアルコキシドは、必ずしも単量体として存在していなければならない訳でなく、二量体、三量体等の縮合物(以下、「低縮合物」ともいう。)を含んでいてもよい。
【0058】
混合方法は、35~55℃で容器内に保持されたメタノールに、撹拌下でシリコンアルコキシド、水及び酸を添加するのが好ましい。このとき、メタノールの量は、メタノール1リットル当たりのシリコンアルコキシドのモル数が2.0~3.0モル/リットル、特に2.5~2.9モル/リットルとなるような量とすることが好ましい。また、添加順序等は特に限定されず、水及び酸を添加した後にシリコンアルコキシドを添加してもよく、シリコンアルコキシドを添加した後に水及び酸を添加してもよい。水及び酸は別々に添加にしてもよいし、酸水溶液の形で添加してもよい。酸としては工業的に容易に入手できる点から塩酸や硫酸といった無機酸が好ましい。上述した平均一次粒子径を有する粒子を生産性高く製造できる点から、シリコンアルコキシドに対する水のモル比は、0.1~1の範囲とすることが好ましい。また、使用する酸の量は、当該酸が放出するプロトン量が、シリコンアルコキシドに対してモル比で2.0×10-5~1.0×10-3となる量添加することが好ましい。さらに、添加終了後は35~55℃で1~20時間程度撹拌を続けることが好ましい。このような条件で反応を行うことによりシリコンアルコキシドのアルコシキ基の一部が加水解されて-OHとなると共にさらにその一部が脱水(或いは脱アルコール)縮合して、部分加水分解物及び/又は該部分加水分解物が縮合したオリゴマーからなる「縮合性シリカ成分原料化合物」が形成される。
【0059】
I-2.金属酸化物成分原料組成物調製工程
金属酸化物成分原料組成物調製工程では、少なくともチタン又はジルコニウム含む1種又は複数種の金属のアルコキシドと該金属アルコキシドを溶解する極性有機溶媒とを混合する。当該工程において、チタン又はジルコニウムを含む金属アルコキシドとして好ましいものを例示すれば、Ti(OC、Ti(OC、Zr(OC等を挙げることができる。
【0060】
チタン又はジルコニウムを含む金属アルコキシド以外の金属アルコキシド(その他金属アルコキシドともいう。)を併用する場合、好適に使用されるその他金属アルコキシドを例示すれば、Ba(OC、Sr(OC、Ca(OC、Al(OC等の周期表2族あるいは13族の金属アルコキシドや、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、リチウムメトキシド、リチウムエトキシド等のアルカリ金属アルコキシドを挙げることができる。その他金属アルコキシドを併用する場合の量は、目的に応じて適宜決定すればよいが、通常はチタン又はジルコニウムを含む金属アルコキシドとその他金属アルコキシドの総モルを基準として5~40モル%であり、好適には10~25モル%である。表面酸点をナトリウムイオンで中和することで表面酸点の少ないシリカ系複合酸化物球状粒子が得られるという理由からは、ナトリウムメトキシドを8~25モル%含むことが好適である。
【0061】
金属アルコキシドを溶解する極性有機溶媒は、実際に使用する金属アルコキシドを溶解する極性有機溶媒であれば特に限定されないが、チタン又はジルコニウムを含む金属アルコキシドに対する溶解性が高いという理由から、2-プロパノール、1-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール等のメタノール以外のアルコール類が好適に使用される。なお、複数種の金属アルコキシドを用いる場合には、共通の極性有機溶媒に複数種の金属アルコキシドを溶解させてもよく、夫々を予め(必要に応じて異なる)極性有機溶媒に溶解させたものを混合してもよい。また、金属酸化物成分原料組成物の溶媒となる極性有機溶媒は、水を含んでいてもよいが酸は含まないことが好ましく、(不純物等不可避的に含まれる水を除いて)水及び酸を含まないことが好ましい。
【0062】
「金属酸化物成分原料組成物」中に含まれる金属アルコキシドの濃度は、金属アルコキシド換算の総モル/リットルで表して、通常、1.1~1.9モル/リットル、好ましくは1.2~1,8モル/リットルである。
【0063】
なお、その他金属アルコキシドを用いる場合は、その他金属アルコキシドは、必ずしも金属酸化物成分原料組成物とする必要はなく、原料溶液調製工程で得られるシリカ成分原料組成物と金属酸化物成分原料組成物の混合物に直接添加してもよい。
【0064】
I-3.原料溶液調製工程
原料溶液調製工程では、前記「シリカ成分原料組成物」及び前記「金属酸化物成分原料組成物」を用いて、具体的には両組成物を混合して「本体粒子原料溶液」を調製する。両組成物を混合する方法は特に限定されないが、撹拌下で「シリカ成分原料組成物」に「金属酸化物原料組成物」を添加して混合する方法を採用することが好ましい。混合する両組成物の量は、各組成物における「縮合性シリカ成分原料化合物」及び「縮合性金属酸化物原料化合物」の濃度(配合されたシリコンアルコキシド及び金属アルコキシドの濃度に対応する)、目的とするシリカ系複合酸化物の組成により決定すればよい。
【0065】
混合に際しては、得られる原料溶液における原料溶液有機溶媒中メタノール濃度を80質量%以上、好ましくは85~95質量%とする必要がある。上記メタノール濃度を80質量%以上とすることにより、恐らく原料溶液中で前記「縮合性シリカ成分原料化合物」と前記「縮合性金属酸化物原料化合物」とが反応して「溶解性複合体」、すなわち構造中にケイ素原子及び金属原子の両方を有するオリゴマーが形成され、析出工程時における核形成及び粒成長過程における縮合性シリカ成分原料化合物と縮合性金属酸化物原料化合物との分離が抑制されるようになるものと思われる。
【0066】
本工程において、組成比に基づき両組成物を混合した後の上記メタノール濃度が80質量%未満となるときには、新たにメタノールを追加して調整すればよい。メタノールの追加は、計算して求められる必要量を、予めシリカ成分原料組成物に添加してもよいし、混合後に添加してもよい。
【0067】
縮合性金属酸化物原料化合物(及び必要に応じて直接添加されるその他金属アルコキシド)を添加後は、5~30分ほど撹拌することが好ましい。
【0068】
II:析出工程
II:析出工程では、水を含む「水溶解性有機溶媒」に「塩基性化合物」が溶解した「塩基性溶液」中に前記「本体粒子原料溶液」を添加して、平均粒子径が350~650nmである前記球状本体粒子を析出させる。このとき、前記条件(2)及び(3)を満足する必要がある。すなわち、平均一次粒子径を350~650nmの球状粒子を効率良く得るために、前記塩基性溶液における水溶解性有機溶媒として、「炭素数1~5のアルキル基を有するアルコール」を含み、「炭素数3アルキル基を有するアルコール」及び「炭素数4~5のアルキル基を有するアルコール」の合計含有率が80質量%以上、好ましくは85質量%以上であり、且つ「炭素数3以下のアルキル基を有するアルコール」の含有量が5~50質量%、好ましくは6~40質量%である水溶解性有機溶媒を使用し、更に前記原料溶液を添加した後における前記塩基性溶液中における水を除く全有機溶媒の合計質量の65質量%以上を「炭素数3~5のアルキル基を有するアルコール」(以下、「特定アルコール」ともいう。)とする。
【0069】
塩基性溶液調製の際に使用される水溶解性有機溶媒は、上記条件を満足するため、「炭素数3以下のアルキル基を有するアルコール」と、「炭素数4~5のアルキル基を有するアルコール」と、を併用する必要がある。上記水溶解性有機溶媒は「炭素数1~5のアルキル基を有するアルコール」以外の水溶解性有機溶媒を含んでいてもよい。効果の観点から、塩基性溶液調製の際に使用される水溶解性有機溶媒は、特定アルコールのみからなることがより好ましい。特定アルコールとしては、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、1-ペンタノール等が好適に用いられる。
【0070】
前記塩基性溶液に用いられる塩基性化合物としては、アンモニア及び水酸化ナトリウムが好適に使用され、アンモニア(水)が特に好適に使用される。塩基性混合溶液の塩基性成分の濃度は、15~20モル%の範囲とすることが好ましく、水の濃度は15~25質量%とすることが好ましい。
【0071】
コア粒子製造工程における、塩基性溶液への本体粒子原料溶液の添加方法については、特に制限されないが、粒子径の揃った粒子が得られやすいことから、撹拌翼、スターラー等で撹拌している塩基性混合溶液に対して、加水分解性原料溶液を少量ずつ連続的に添加する方法が好ましい。
【0072】
上記コア粒子製造工程において、平均粒子径は塩基性溶液の温度及び原料溶液の滴下時間で制御することが可能である。すなわち、粒子径の均斉度が向上する観点から塩基性溶液の温度は35~55℃とすることが好ましく、該温度が高いほど粒子径を小さくすることが可能である。原料溶液の滴下時間が長いほど粒子形状が良好になる傾向があり、また滴下時間が長いほど、粒子径を大きくすることが可能である。上記を加味し、平均一次粒子径350~650nmの粒子を生産性よく得ることが可能であることから、反応槽の温度は40~50℃、滴下時間を1~9時間とすることが好ましい。
【0073】
III:コート層形成工程
III:コート層形成工程では、前記「縮合性シリカ成分原料化合物」が、水を含んでいてもよい「有機溶媒」中に溶解した溶液からなる「シリカコート層原料溶液」を準備し、前記析出工程で析出した前記球状本体粒子が分散した塩基性溶液に前記「シリカコート層原料溶液」を添加して、前記球状本体粒子の表面上に該表面の少なくとも一部を覆う平均厚さが4~20nmのシリカ及び/又はその前駆体からなるコート層を形成する。
【0074】
「縮合性シリカ成分原料化合物」はI:本体粒子原料準備工程で使用したものと同じく、縮重合することにより3次元的にシロキサン結合を成長させて(組成式:SiOで表される)シリカ構造を形成できる化合物を意味する。本工程で使用する「縮合性シリカ成分原料化合物」としては、工業的な入手の容易さから、式:Si(OR)(式中、Rはメチル基、エチル基、イソプロピル基、又はブチル基である。)で表されるシリコンアルコキシドを使用することが好ましい。当該シリコンアルコキシドは、必ずしも単量体として存在していなければならない訳でなく、二量体、三量体等の縮合物(以下、「低縮合物」ともいう。)を含んでいてもよい。
【0075】
また、「シリカコート層原料溶液」調製に用いる上記「有機溶媒」としては、球状本体粒子の分散媒となる塩基性溶液との相溶性の観点から、炭素数1~5のアルキル基を有するアルコールであることが好ましい。また、「シリカコート層原料溶液」中における「縮合性シリカ成分原料化合物」の濃度は、シリコンアルコキシド換算の総モル/リットルで表して、通常、0.3~1.0モル/リットルであり、好ましくは0.5~0.9モル/リットルである。
【0076】
前記球状本体粒子が分散した塩基性溶液は、II:析出工程で析出した球状本体粒子を分離回収して改めて塩基性溶液に分散させてもよいが、効率性の観点からII:析出工程で所期の平均粒子径が析出した状態の反応液をそのまま使用することが好ましい。但し、何れの場合にも、本工程で形成するコート層の厚さを管理する上で、II:析出工程で析出した球状本体粒子を一部サンプリングし、コア粒子の平均一次粒子径:D1(nm)を測定しておくことが好ましい。
【0077】
コート層の形成は、撹拌したにある前記分散液に前記「シリカコート層原料溶液」を添加することにより行われるが、所定の平均厚さのコート層を形成するために、シリカコート液を少量ずつ滴下し、適宜、反応溶液中のサンプリングを行いその平均一次粒子径D2(nm)を測定し、D2とD1との差:ΔDが8~40nmの範囲内の所定の値となった時点で滴下を終了することが好ましい。
【0078】
上記ΔDはコート層の平均厚さの2倍に対応するため、ΔDを8~40nmとすることは、コート層の平均厚みを4~20nmとすることに対応する。このような平均厚みのコート層は、IV:焼成工程で焼成することにより、平均厚み3~15nmのシリカコート層となる。
【0079】
一般にゾルゲル法にて合成した複合酸化物粒子の湿体の表層部には、溶媒成分や有機成分が残留するため、このような残留成分を除去してシリカコート層とするためには、好気性雰囲気にて焼成する必要がある。その際に起こる収縮率を勘案して上記ΔDの範囲は決められたものである。
【0080】
なお、このような操作は毎回行う必要はなく、同一条件を採用する場合には、滴化時間時間でΔDを管理してもよく、事前に滴化条件とΔDとの関係を調べておき、滴化条件によりΔDを管理するようにしてもよい。本発明者等の経験に基づけば、添加する「シリカコート層原料溶液」の総量に含まれるシリコンアルコキシドの含有量が、II析出工程で用いた「縮合性シリカ成分原料化合物」及び「縮合性金属酸化物原料化合物」の合計100質量部に対し、10~50質量部となるようにした場合には、「シリカコート層原料溶液」の全量を添加し終えるとΔDを上記範囲内に制御できることが多い。したがって、このような量の「シリカコート層原料溶液」を添加することが好ましい。
【0081】
コート層形成後は、デカンテーション或いは濾別することにより、コアシェル前駆体粒子を回収し、乾燥させればよい。
【0082】
IV:焼成工程
IV:焼成工程では、球状本体粒子の表面上に前記コート層が形成された粒子を700~1500℃で焼成して前記コート層を、平均厚さが3~15nmであるシリカコート層とする。焼成工程をおこなうことにより、下地となる球状本体粒子自体も収縮して緻密な結晶構造とすることもできる。なお、この温度範囲内の焼成であれば、球状本体粒子とシリカコート層の溶融は起こらないので層構造は維持され、(複合)酸化物の組成も維持される。
【0083】
緻密な結晶構造を有し、且つ分散良好な粉粒体を得ることが可能であるという理由から焼成温度は800~1000℃とすることが好ましい。また、焼成時間は、通常1~18時間であり、前駆体粒子に含まれる溶媒成分を除去しつつ生産性を維持するという観点から3~12時間とすることが好ましい。
【0084】
V.その他の工程
本発明のシリカ系複合酸化物粉粒体を構成する粒子と歯科用硬化性組成物の有機マトリックスとの親和性向上のため、該粒子にシランカップリング処理を施してもよい。シランカップリング処理において使用するシランカップリング剤としては、シリカ粒子やシリカ系複合酸化物粒子の表面処理に使用されるものが特に制限なく使用可能である。
【0085】
3.本発明の歯科用硬化性組成物
本発明の歯科用硬化性組成物は、ラジカル重合性単量体及び重合開始剤を含む歯科用硬化性組成物において、ラジカル重合性単量体:100質量部に対して本発明のシリカ系複合酸化物粉粒体:100~800質量部を含むことを特徴とする。そして、このような条件を満足することにより、未硬化の状態での流動性の保存安定性が良好である歯科用硬化性組成物となり、且つ硬化したときに、厚みの違いによる硬化体の色ズレ(外観色調の青味や赤味の変化)の発生を抑制することが可能となる。
【0086】
本発明のシリカ系複合酸化物粉粒体の含有量は、重合性単量体成分100質量部に対して100~800質量部の範囲であればよいが、硬化性組成物の流動性を好適な範囲とする観点から、100~600質量部であることが好ましく、200~500質量部であることがさらに好ましい。
【0087】
また、組成物とした際に無機充填率の高い組成物を得やすいという理由から、前記シリカ系複合酸化物粉粒体の平均粒子径の標準偏差値が1.00~1.30、特に1.00~1.25であることが好ましい。、
発明のシリカ系複合酸化物粉粒体の詳細は既に説明した通りであるので、ここでは、本発明の歯科用硬化性組成物を構成する他の成分を中心に説明する。
【0088】
(1)重合性単量体
重合性単量体としては、歯科用硬化性組成物で使用可能な(メタ)アクリル化合物等のラジカル重合性単量体;エポキシ類、オキセタン類等のカチオン重合性単量体;などが特に制限なく使用できるが、(メタ)アクリル化合物を使用することが好ましい。好適に使用される重合性単量体を例示すれば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、N-(メタ)アクリロイルグリシン、N-(メタ)アクリロイルアスパラギン酸、N-(メタ)アクリロイル-5-アミノサリチル酸、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、2,2-ビス[(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート等を挙げることができる。
【0089】
重合性単量体成分としては、一般に複数種の重合性単量体が使用される。その際、本発明の歯科用硬化性組成物を硬化させて得られる硬化体の有機マトリックスの屈折率とシリカ系複合酸化物球状粒子の屈折率差の絶対値が0.1以内となるように重合性単量体の種類及び混合量を設定することが、有機マトリックス-シリカ系複合酸化物球状粒子間の屈折率差による光散乱を低減し、以て硬化体の透明性を天然歯質に近いものとする観点から好ましい。具体的には、前記無機粉体を構成する前記「シリカ系複合酸化物」の球状粒子の25℃、波長589nmの光に対する屈折率をnFで表し、(メタ)アクリル化合物からなるラジカル重合性単量体の硬化体の25℃、波長589nmの光に対する屈折率をnPで表したときに、式:0.01<nF-nP<0.1を満足する硬化体を与える(メタ)アクリル化合物(のみ)からなるラジカル重合性単量体を使用することが好ましい。
【0090】
(2)重合開始剤
重合開始剤としては、公知の重合開始剤を特に制限なく使用することができる。中でも、熱重合開始剤を用いることが好ましい。
【0091】
好適な熱重合開始剤としては、ベンゾイルパーオキサイド、p-クロロベンゾイルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート等の過酸化物が好ましい。、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、トリブチルボラン、トリブチルボラン部分酸化物、テトラフェニルホウ酸ナトリウム、テトラキス(p-フロルオロフェニル)ホウ酸ナトリウム、テトラフェニルホウ酸トリエタノールアミン塩等のホウ素化合物、5-ブチルバルビツール酸、1-ベンジル-5-フェニルバルビツール酸等のバルビツール酸類、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、p-トルエンスルフィン酸ナトリウム等のスルフィン酸塩類等があげられる。これら重合開始剤は単独で用いることもあるが、2種以上を混合して使用してもよい。
【0092】
(3)その他の添加剤
本発明の硬化性組成物は、歯科用途で一般的に使用される顔料等の色素を配合して硬化体が所定の色調となるように調色して用いることが好ましい。シリカコアを有するシリカ系複合酸化物球状粒子を用いた場合には、使用時における硬化体の厚さに応じて、該粒子に由来の青色散乱光の影響を打ち消すために顔料成分を配合する必要があったが、本発明の硬化性組成物では、このような目的で顔料成分を配合する必要はなく、(調色した)所期の色調が硬化体の厚さによって変化し難い。顔料等の色素の配合量は、通常、歯科用硬化性組成物の総質量を基準として800~8000質量ppm配合される。本発明の硬化性組成物の硬化体を歯科用切削加工用ブランクの被被切削加工部として用いる場合には、硬化体の色調が前記した16種のシェードから選ばれる幾つかのシェードとなるように調色したものを取り揃えることが好ましい。
【0093】
また、本発明の効果を阻害しない範囲で、重合禁止剤、紫外線吸収剤等の他の添加剤を含有していてもよい。
【0094】
4,本発明の歯科用切削加工用ブランク
本発明の歯科用切削加工用ブランクは、被被切削加工部として前記の歯科用硬化性組成物の硬化体を用いることで、ブランク形態と切削加工後の形態とで外観色の変化を抑制した点に特徴を有する。
【0095】
本発明のブランクは、前記特徴点を除けば従来のHRブランクと特に変わる点は無く、必要に応じて保持ピン等の切削加工機に固定するための保持部材を有していてもよい。また、被切削加工部の形状及び大きさも特に限定されず、直方体や円柱の形状に成形された(ソリッド)ブロックであってもよく、板状若しくは盤状に形成された(ソリッド)ディスクであってもよい。
【0096】
また、被切削加工部は少なくとも一部が本発明の歯科用硬化性組成物の硬化体より構成されていればよく、例えば、本発明の歯科用硬化性組成物の硬化体に他のHRブランクを積層した、所謂積層構造を有するものであってもよい。
【実施例0097】
以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0098】
1.複合酸化物粒子(粉粒体)の製造に関する実施例、比較及び参考例
複合酸化物粒子(粉粒体)の製造に使用した化合物の略称を以下に示す。
<縮合性シリカ成分原料化合物>
・TES:テトラエチルシリケート
<縮合性金属酸化物原料化合物>
・TBZ:テトラ(n-ブトキシ)ジルコネート
・TiPT:テトラ(イソプロポキシ)チタネート
・NaOMe:ナトリウムメトキシド
<(水溶解性)有機溶媒>
・MeOH:メタノール
炭素数3のアルキル基を有するアルコール(C3アルコールともいう。)
・IPA:2-プロパノール
炭素数4のアルキル基を有するアルコール(C4アルコールともいう。)
・NBA:1-ブタノール
・IBA:2-メチル-1-プロパノール
炭素数5のアルキル基を有するアルコール(C5アルコールともいう。)
・NPeA:1-ペンタノール
【0099】
実施例1[シリカ系複合酸化物球状粒子(粉粒体)F1の製造と評価]
(1)シリカ系複合酸化物球状粒子F1の製造
I:本体粒子原料溶液準備工程
0.05質量%-塩酸水10gと、縮合性シリカ成分原料化合物(表1においては「シリカ原料」と略記する。)であるTES(コルコート社製)300gをMeOH400gに溶かし、40℃にて5時間混合して加水分解し、シリカ成分原料組成物(表1においては「シリカ原料溶液」と略記する。)を調製した。続けて、縮合性金属酸化物原料化合物(表1において「MO原料」と略記する。)であるTBZ(日本曹達(株)製)80gと「水溶解性有機溶媒」(表1において「溶媒1」と略記する。)となるC4アルコールであるであるIBA50gとを混合し、金属酸化物成分原料組成物(表1においては「MO属原料溶液」と略記する。)である溶液1を調製した。そして、上記シリカ成分原料組成物に上記金属酸化物成分原料組成物(溶液1)を添加して10分間撹拌することにより得られた混合溶液に、他の金属酸化物原料組成物としてNaOMe濃度が28質量%であるメタノール溶液(溶液2)9gを撹拌下に添加して「本体粒子原料溶液」を調製した。
該I:本体粒子原料溶液準備工程における各条件を表1{表中の原料の欄の数値は各原料の使用量(単位:g)}を表している。}にまとめる。表1に示されるように、原料溶液における有機溶媒中のメタノール含有率は89.0質量%となっている。なお、表中の「↑」は、「同上」を意味する。
【0100】
【表1】
【0101】
II:析出工程
撹拌機付きの内容積3Lのガラス製反応容器に入れられたC3アルコールであるIPA100g及びC4アルコールであるIBA700gに320gの25質量%アンモニア水溶液を加え、アンモニア性アルコール溶液からなる「塩基性溶液」を調製した。
その後、上記塩基性溶液に、先に調製した「本体粒子原料溶液」を、反応容器の温度を45℃に保ちながら7時間かけて添加し、添加終了後、30分間撹拌を続けることで球状本体粒子を得た。球状本体粒子を含む反応溶液をサンプリングし、後述する走査型電子顕微鏡を用いた方法にて球状本体粒子の平均一次粒子径を測定したところ、532nmであった。
該II:析出工程における各条件及び測定結果を表2{表中の原料の欄の数値は各原料の使用量(単位:g)}を表している。}にまとめる。表2に示されるように、塩基性溶液における水溶解性有機溶媒中に含まれる「炭素数3アルキル基を有するアルコール」及び「炭素数4~5のアルキル基を有するアルコール」の合計含有率は、100質量%となり、「炭素数3以下のアルキル基を有するアルコール」の含有率は、12.5質量%となり、原料溶液を添加した後における塩基性溶液中における水を除く全有機溶媒中における「炭素数3~5のアルキル基を有するアルコール」の含有率は67.6質量%となっている。
【0102】
【表2】
【0103】
III:コート層形成工程
次に、TES60gをメタノール200gに溶かし、「シリカコート層原料溶液」とした。続けて、球状本体粒子を含む反応溶液に上記シリカコート層原料溶液を2時間かけて添加し、添加終了後、30分間撹拌を続けることで球状本体粒子の表面にコート層を形成した。得られた、球状本体粒子の表面にコート層が形成された粒子(粉粒体。以下、「前駆体粒子」ともいう。)を含む反応溶液をサンプリングし、後述する走査型電子顕微鏡を用いた方法にて粒子の平均一次粒子径を測定し、シリカ層の平均形成度ΔDを評価したところ、22nmであり、コート層の平均厚みは11nmであることが確認された。
シリカコート層原料溶液の組成及び前駆体粒子に関する測定結果を表3に示す。
【0104】
【表3】
【0105】
IV:焼成工程
得られた前駆体粒子を吸引濾過にて回収し、80℃で減圧乾燥して白色粉粒体を得た。粉末を800℃で4時間焼成し、得られた粉粒体をシリカ系複合酸化物球状粒子(球状一次粒子からなる粉粒体。以下、「焼成後粒子」ともいう。)F1とした。得られた焼成後粒子F1の平均一次粒子径、粒子径の標準偏差値、平均均斉度、シリカコート層の平均厚み、及び屈折率を以下に示す方法で評価した。その結果を表4に示す。
【0106】
[焼成後粒子F1の評価方法]
<焼成後粒子の平均一次粒子径、粒子径の標準偏差値および平均均斉度の測定方法>
焼成後粒子の平均一次粒子径:xAV(nm)は、走査型電子顕微鏡(「XL-30S」、フィリップス社製)を用いて5000~100000倍の倍率で撮影した粉体の写真について、画像解析ソフト(「IP-1000PC」、旭化成エンジニアリング(株)製)を用い画像処理を行い、単位視野内に観察される100個以上の粒子の中から任意に選択したn個(但し、nは30以上の自然数を意味する。)の粒子について各粒子の最大径:x(単位はnm。iは1~nの自然数を意味する。)を測定し、その総和:Σxから下記式
AV=(Σx)/n
により平均一次粒子径を算出した。なお、球状本体粒子及び前駆体粒子の平均一次粒子径についても、上記測定方法にて算出した。
【0107】
また、平均粒子径の標準偏差値標準偏差値は、平均粒子径を決定するのに用いた前記SEM画像における前記30個以上の球状粒子について求められる、平均1次粒子径:
の各粒子の最大径:xと平均一次粒子径xAVとの差の2乗:(xAV-xの総和:Σ(xAV-xから下記式
σ=〔{Σ(xAV-x}/n〕1/2
より求めた粒子径の標準偏差σ(nm)から下記式
標準偏差値={(xAV+σ)/xAV
によって求めた。
【0108】
さらに、平均均斉度は、上記n(≧30の自然数)個の球状粒子の核粒子ついて測定される最大径である長径をLとし、該長径に直交する方向の径である短径をBとしたときに、各粒子における両者の比:B/Lの総和:Σ(B/L)から、下記式
平均均斉度={Σ(B/L)/n}
によって求めた。
【0109】
<シリカコート層の平均厚みの評価方法>
走査型電子顕微鏡で(サンプリングした)球状本体粒子の焼成物及び焼成後粒子(前駆体粒子の焼成物)の写真を撮り、前記の平均一次粒子径の評価方法に従って、球状本体粒子の焼成物の平均一次粒子径D3及び焼成後粒子の平均一次粒子径D4を算出した。そして、下記式:
T=(D4-D3)/2
に従い、焼成後粒子のシリカコート層の平均厚みを算出した。
【0110】
<焼成後粒子の屈折率:nFの測定方法>
焼成後粒子の屈折率は、アッベ屈折率計((株)アタゴ製)を用いて液浸法によって測定した(測定波長:589nm)。すなわち、25℃の恒温室において、100mLのサンプル瓶中、シリカ系複合酸化物球状粒子1gを無水トルエン50mL中に分散させた。この分散液をスターラーで撹拌しながら1-ブロモトルエンを少しずつ滴下し、分散液が最も透明になった時点の分散液の屈折率:nFを測定し、得られた値を焼成後粒子の屈折率とした。
【0111】
<焼成後粒子平均組成>
焼成後においても球状本体粒子の組成は変化するものではないが、参考としてシリカコート層を含めた焼成後粒子の平均組成を計算により求めた。
【0112】
【表4】
【0113】
実施例2~5および7~9並びに比較例1~5
[シリカ系複合酸化物球状粒子F2~F5及びF7~F14の製造及び評価]
原料及びその使用量を表1及び表2に示すように変更したほかは実施例1と同様にして、シリカ系複合酸化物球状粒子F2~F5及びF7~F14を得た。得られたこれらシリカ系複合酸化物球状粒子について実施例1と同様の評価を行った。結果を表3及び4に示す。
【0114】
実施例6[シリカ系複合酸化物球状粒子F6の製造及び評価]
原料及びその使用量を表1及び表2に示すように変更した他は実施例1と同様にして、シリカ系複合酸化物球状粒子を合成した。続けて、当該粒子を吸引濾過にて回収し、80℃で減圧乾燥して白色粉末を得た。粉末を700℃で4時間焼成し、得られた粉末をシリカ系複合酸化物球状粒子F6とした。得られた複合酸化物粒子F6について実施例1と同様の評価を行った。結果を表3及び4に示す。
【0115】
参考例1
[内部シリカコア構造を有するシリカ系複合酸化物球状粒子F15の製造及び評価]
0.05質量% 塩酸水10gとTES(コルコート社製)270gとをMeOH400gに溶かし、40℃にて5時間混合して加水分解し、シリカ原料溶液とした。続けて、TBZ(日本曹達(株)製)80gとIBA50gとを混合し、MO属原料溶液(溶液1)とした。そして、シリカ原料溶液に溶液1を添加し、10分間撹拌した。続けて、得られた混合溶液に前記NaOMeのメタノール溶液9gを撹拌しながら投入し、本体粒子原料溶液を得た。
次に、撹拌機付きの内容積3Lのガラス製反応容器にIBA700g及びIPA100gを満たし、これに320gの25質量%アンモニア水溶液を加え、アンモニア性アルコール溶液を調製した。この溶液に、反応容器の温度を45℃に保ちながらTES30gを投入し、30分撹拌し内部シリカコアとなる粒子を反応容器中に形成した。ここに、先に調製した本体粒子原料溶液を、反応容器の温度を45℃に保ちながら7時間かけて添加し、添加終了後、30分間撹拌を続けることで内部シリカコアを有するシリカ系複合酸化物粒子(「シリカコア含有本体粒子」ともいう。)を得た。シリカコア含有本体粒子を含む反応溶液をサンプリングし、走査型電子顕微鏡にてその平均一次粒子径を測定した。
次に、TES60gをメタノール200gに溶かし、シリカコート層原料溶液とした。続けて、前記シリカコア含有本体粒子を含む反応溶液に上記シリカコート層原料溶液を2時間かけて添加し、添加終了後、30分間撹拌を続けることで前駆体粒子を得た。前駆体粒子を含む反応溶液をサンプリングし、走査型電子顕微鏡にてその平均一次粒子径を測定し、シリカ層の平均形成度ΔDを評価した。続けて、当該粒子を吸引濾過にて回収し、80℃で減圧乾燥して白色粉粒体を得た。これを800℃で4時間焼成し、焼成後粒子F15を得た。該F15について実施例1と同様の評価を行った。これらの結果を表3及び4に示す。
【0116】
表4に示されるように、本発明の製造方法を採用した実施例1~9で得られたF1~F9は、平均一次粒子径、平均均斉度、球状本体粒子の組成及び構造、並びにシリカコート層の平均厚みの点で本発明のシリカ系複合酸化物粉粒体の条件を満足している。また、平均一次粒子径の標準偏差値が1.30以内であることから、粒子同士の癒着及び凝集が少ないものであるといえる。これに対し、本発明の製造方法の条件を満たさない条件で製造されたF10及びF11は、平均均斉度が0.6未満であり、(略)球状を保つことができてないばかりでなく、標準偏差値が大きいことから、粒子同士の癒着が生じていることが分かる。同様に本発明の製造方法の条件を満たさないで製造されたF12は、略球状であるものの、平均粒子径が350nmに届かなかった。また、F13及び14はシリカコート層の平均厚みが本発明のシリカ系複合酸化物粉粒体の条件の範囲外となっている。さらに、F15は前記した様に本体粒子内部にシリカコアを有する点で本発明のシリカ系複合酸化物粉粒体とは異なっている。
【0117】
2.歯科用硬化性組成物(非着色)に関する実施例及び比較例
歯科用硬化性組成物の調製に用いた化合物の略称を以下に示す。
・UDMA:1,6-ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)トリメチルヘキサン
・Bis-GMA:2,2-ビス[(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)フェニル]プロパン
・3G:トリエチレングリコールジメタクリレート
・BPO:過酸化ベンゾイル
・BHT:ジブチルヒドロキシトルエン
なお、歯科用硬化性組成物の調製に際しては、表5に示す組成を有するモノマー組成物(マトリックスともいう)M1およびM2を予め調製し、これを使用した。また、歯科用硬化性組成物の調製に使用した複合酸化物粒子F1~F15は、何れもγ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランで表面処理を行い、表面を疎水化した後に、マトリックスに添加して混合した。なお、表5における硬化前後の屈折率は、次のようにして測定した。
【0118】
<硬化前屈折率の測定>
アッベ屈折率計((株)アタゴ製)を用いて25℃の恒温室にて測定した(測定波長:589nm)。
【0119】
<硬化後屈折率:nPの測定>
各モノマー組成物に、4質量%のBPO、0.2質量%のBHTを混合して均一化したものを、7mmφ×0.5mmの孔を有する型に入れ、両面にポリエステルフィルムを圧接した。その後、加圧容器内で0.4MPaの窒素加圧を行い、90℃の加熱装置内に静置した。この状態で3時間加熱することで重合硬化し、冷却速度20℃/minで室温まで冷却を行った後、型から取り出して硬化体試料を作製した。アッベ屈折率計((株)アタゴ製)に試料をセットする際に、試料と測定面を密着させる目的で、試料を溶解せず、且つ、試料よりも屈折率の高い溶媒(ブロモナフタレン)を試料に滴下し、硬化前屈折率と同様にして屈折率:nPの測定を行った。
【0120】
【表5】
【0121】
実施例10[歯科用硬化性組成物CR1の調製及び評価]
マトリックスM1:100質量部とBPO5.0質量部及びBHT0.5質量部を混合した後に、シリカ系複合酸化物球状粒子F1:200質量部を添加し、プラネタリーミキサーで混練して均一な硬化性ペーストとした。さらにこのペーストを減圧下脱泡して気泡を除去し歯科用硬化性組成物CR1を製造した。得られたCR1は以下に示す評価方法に基づいてペーストの操作性及び分光反射率を測定した。組成及び評価方法を表6に示す。
【0122】
<歯科用硬化性組成物の操作性の測定方法>
φ8mm×深さ3mmの円柱形の窪みを有するSUS製の治具にペーストを填入して表面を平らにならし、23℃一定の条件で2分間静置した。次いで前記の治具をサンレオメーター(株式会社サン科学)に取り付け、感圧棒(SUS製、φ5mm円柱形)を、240mm毎分の速度で前記ペーストに圧縮進入させて、荷重を測定した。その際、2mmの深さまで圧縮進入させた際の最大荷重(単位:kg)を操作性の指標とした。前記操作性の測定は、ペースト製造時(以下、「保存前」ともいう。)及び37℃1か月保管後に実施した。操作性の判定は以下のように行った。
◎:ペーストの操作性が保存前及び37℃1か月保管後で同等である。
×:37℃1か月保管後にペーストが硬くなっている(操作性が変化している)。
【0123】
<歯科用硬化性組成物の硬化体の分光反射率測定方法>
調製した歯科用硬化性組成物CR1を、7mmφ×厚さ1mm及び3mmの孔を有する型に入れ、両面にポリエステルフィルムを圧接した。次いで、当該充填物を加圧容器内に入れて0.4MPaの窒素加圧を行い、90℃の加熱装置内に静置した。この状態で15時間加熱することで重合硬化し、冷却速度20℃/minで室温まで冷却を行った後、型から取り出して、硬化体を得た。これら硬化体表面を鏡面研磨して、1mm厚み硬化体試料A及び3mm厚み硬化体試料Bとした。該試料から、分光光度計(東京電色製、「TC-1800MKII」、ハロゲンランプ:12V100W、測定波長範囲380~780nm)を用いて、黒いカーボンテープを使用した背景色黒で分光反射率を測定し、分光反射率曲線を得た。当該分光反射曲線の波長450nmの分光反射率Rを読み取り、R/R(Rの添え字は硬化体試料名を表す)を求めた。
【0124】
実施例11~18及び比較例6~8
表6に記載のマトリックス、及びシリカ系複合酸化物球状粒子を用いた以外は実施例10と同様の操作で歯科用硬化性組成物CR2~12の製造及び評価を行った。組成及び結果を表4へ示した。なお、表中の「↑」は「同上」を意味する。
【0125】
【表6】
【0126】
表未硬化のペーストが37℃1か月保存後に硬くなっていることから、保存安定性に劣6に示されるように、本発明のシリカ系複合酸化物粉粒体であるF1~F9を用いたCR1~CR9はペーストの操作性の保存安定性に優れており、加えて厚みによる分光反射率の比R/Rが0.8以上2.0未満を満たしており、青色散乱光の影響が小さいことがかる。これに対して、シリカコート層の平均厚みが本発明の条件の下限未満であるF13を用いたCR10ではっていることが分かる。また、シリカコート層の平均厚みが本発明の条件の上限を超えたF14を用いたCR11は、R/Rが2.0を超えており、青色散乱光を呈していることが分かる。そして、内部シリカコア有する構造のF15を用いたCR12はR/Rが2.0を超えており、青色散乱光を呈していることが分かる。
【0127】
3.歯科切削加工用ブランク(HRブランク)に関する実施例及び比較例
前記の歯科用硬化性組成物CR1~CR9、CR11、及びCR12について、下記顔料を用いて調色し、HRブランクの製造に用いた。
・R:赤色顔料(ピグメントレッド166)
・Y:黄色顔料(ピグメントイエロー95)
・B:青色顔料(ピグメントブルー60)。
【0128】
実施例19
歯科用硬化性組成物CR1:100質量部に、R:600質量ppm、Y:1000質量ppm、及びB:600質量ppmを混合して、1mm厚みの条件において、VITAシェードガイドの「A3」シェードとなるように調色した着色ペーストを調製した。該着色ペーストを真空脱泡した後、厚さ14.5mmで断面が14.5mm×18mmの略矩形形状を有する柱状の空洞を有する金型の前記空洞内に充填し、加圧容器内で0.4MPaの窒素加圧を行い、90℃の加熱装置内に静置した。この状態で15時間加熱することで重合硬化し、冷却速度20℃/minで室温まで冷却を行った後、金型から抜き出すことで、前記空洞形状に対応したブロック状の着色HR(硬化体)を得た。
【0129】
上記着色HRから、14.5mm×18mmの主平面を有する厚さ1mm及び3mmの板状試験片を切り出し、前記主平面を光沢研磨して目視評価用試験片とした。該目視評価用試験片と「A3」のVITAシェードガイドを黒背景下で並べ、目視評価にて下記評価基準で色調適合性を評価した。結果を表7に示す。
【0130】
<評価基準>
◎:色調がVITAシェードガイドの色調と良く合致している。
〇:色調がVITAシェードガイドの色調と類似している。
△:色調がVITAシェードガイドの色調と類似しているが、適合性は良好でない。
×:色調がVITAシェードガイドの色調と適合していない。
【0131】
実施例20~27
使用する歯科用硬化性組成物を表7に記載のものとした以外は、実施例19と同様の方法で着色HR(硬化体)を製造し、実施例15と同様の評価を行った。結果を表7に示す。
【0132】
比較例9
歯科用硬化性組成物CR11:100質量部に、R:900質量ppm、Y:1500質量ppm、及びB:500質量ppmを混合して、1mm厚みの条件において、VITAシェードガイドの「A3」シェードとなるように調色した着色ペーストを調製した。該着色ペーストについて、実施例19と同様の操作を行い重合して、着色HR(硬化体)を製造し、実施例19と同様の評価を行った。結果を表7に示す。
【0133】
比較例10
使用する歯科用硬化性組成物を表5に記載のものとした以外は、比較例9と同様の方法で着色HR(硬化体)を製造し、比較例9と同様の評価を行った。結果を表7に示す。
【0134】
【表7】
【0135】
表7に示されるように、本発明の条件を満たす実施例19~27は、1mm厚み及び3mm厚みの両方において、VITAシェードガイドと良好な色調適合性を示していることが分かる。これに対し、比較例9及び10では1mm厚みにおいてVITAシェードガイドと良好な色調適合性を示したものの、3mm厚みにおいてはVITAシェードガイドよりも彩度が高く(色味が強く)見えており、色調適合性が実施例に劣っていた。