(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121432
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】脱硝制御装置及び脱硝制御方法並びにプログラム
(51)【国際特許分類】
F23J 15/00 20060101AFI20240830BHJP
F22B 37/00 20060101ALI20240830BHJP
F22B 35/18 20060101ALI20240830BHJP
B01D 53/86 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
F23J15/00 A
F22B37/00 B
F22B35/18
B01D53/86 222
B01D53/86 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028544
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 明紀
(72)【発明者】
【氏名】溝脇 豊
【テーマコード(参考)】
3K070
3L021
4D148
【Fターム(参考)】
3K070DA02
3K070DA14
3L021DA28
3L021FA14
4D148AA06
4D148AB02
4D148AC03
4D148AC04
4D148DA01
4D148DA02
4D148DA08
4D148DA10
(57)【要約】
【課題】脱硝出口NOx濃度の安定制御を長期にわたって実現すること。
【解決手段】脱硝制御装置は、ボイラから排出される燃焼ガス中のNOxを分解させる脱硝装置に注入するアンモニア量を制御する。脱硝制御装置は、脱硝出口NOx設定値を補正する補正部60と、補正後の脱硝出口NOx設定値と脱硝出口NOx値と脱硝入口NOx値とを用いて脱硝反応に必要なアンモニア量を算出するアンモニア量演算部とを備えている。補正部60は、煙突入口NOx値を平滑化した平滑NOx値と脱硝出口NOx設定値との偏差を用いて、脱硝出口NOx設定値を補正する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼設備から排出される燃焼ガス中のNOxを分解させる脱硝装置に注入する還元剤量を制御する脱硝制御装置であって、
脱硝出口NOx設定値を補正する補正手段と、
補正後の前記脱硝出口NOx設定値と脱硝出口NOx値と脱硝入口NOx値とを用いて脱硝反応に必要な還元剤量を算出する還元剤量演算手段と
を備え、
前記補正手段は、煙突入口NOx値を平滑化した平滑NOx値と脱硝出口NOx設定値との偏差を用いて、前記脱硝出口NOx設定値を補正する脱硝制御装置。
【請求項2】
前記補正手段は、前記平滑NOx値と前記脱硝出口NOx設定値との偏差が所定の上下限範囲を外れている場合に、前記脱硝出口NOx設定値を補正する請求項1に記載の脱硝制御装置。
【請求項3】
前記補正手段は、
予め設定されている補正許可条件を満たすか否かを判定する補正許可判定手段と、
前記補正許可条件を満たす場合に、前記平滑NOx値と脱硝出口NOx設定値との偏差を用いて、前記脱硝出口NOx設定値を補正するための補正値を設定する補正値設定手段と
を具備する請求項1に記載の脱硝制御装置。
【請求項4】
前記補正許可判定手段は、前記平滑NOx値と前記脱硝出口NOx設定値との偏差が所定の上下限範囲を外れており、前記平滑NOx値が所定範囲内である状態が所定期間維持されており、前記燃焼設備に設けられたバーナが点火動作中又は消火動作中でなく、負荷変化中でなく、脱硝制御に関連するプロセス値が異常値を示しておらず、かつ、前記燃焼設備が動作している場合に、補正許可条件を満たすと判定する請求項3に記載の脱硝制御装置。
【請求項5】
前記補正値設定手段は、前記補正許可条件を満たさない場合に、前記補正値の前回値を維持する請求項3に記載の脱硝制御装置。
【請求項6】
前記補正値設定手段は、
前記平滑NOx値と前記脱硝出口NOx設定値との偏差に対して比例積分制御を行うことにより第1補正値を演算する第1補正値演算手段と、
前記偏差がプラス方向に大きくなるとプラス方向に大きくなり、前記偏差がマイナス方向に大きくなるとマイナスの方向に大きくなるような第2補正値を演算する第2補正値演算手段と、
前記第1補正値と前記第2補正値とを用いて前記補正値を設定する設定手段と
を備える請求項3に記載の脱硝制御装置。
【請求項7】
前記第2補正値演算手段は、前記偏差の絶対値が所定値以下の場合に、第2補正値をゼロに設定する請求項6に記載の脱硝制御装置。
【請求項8】
前記補正手段は、脱硝制御の補正演算が可能な動作条件を満たさない場合に、前記脱硝出口NOx設定値を補正せずに前記還元剤量演算手段に出力する請求項1に記載の脱硝制御装置。
【請求項9】
前記補正手段は、脱硝制御に関連するプロセス値が異常値を示しており、又は、前記燃焼設備が動作していない場合に、前記動作条件を満たさないと判定する動作判定手段を備える請求項8に記載の脱硝制御装置。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載の脱硝制御装置を備える脱硝装置。
【請求項11】
請求項10に記載の脱硝装置を備える発電プラント。
【請求項12】
燃焼設備から排出される燃焼ガス中のNOxを分解させる脱硝装置に注入する還元剤量を制御する脱硝制御方法であって、
コンピュータが、
脱硝出口NOx設定値を補正する補正工程と、
補正後の前記脱硝出口NOx設定値と脱硝出口NOx値と脱硝入口NOx値とを用いて脱硝反応に必要な還元剤量を算出する還元剤量演算工程と
を実行し、
前記補正工程は、煙突入口NOx値を平滑化した平滑NOx値と脱硝出口NOx設定値との偏差を用いて、前記脱硝出口NOx設定値を補正する脱硝制御方法。
【請求項13】
コンピュータを請求項1から9のいずれかに記載の脱硝制御装置として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、脱硝制御装置及び脱硝制御方法並びにプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
火力発電プラントでは、ガスタービン又はボイラ等の燃焼設備から排出された燃焼ガス中の窒素酸化物(NOx)を除去するために、脱硝装置が設置されることが多い。脱硝装置における脱硝制御は、例えば、煙突から排出されるガス中のNOx濃度が規制値を超えないように脱硝装置出口のNOx濃度の設定値を決め、燃焼設備出口の燃焼ガスに含まれるNOx濃度に基づいて投入するアンモニア量を決定することで行われる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、燃焼設備の負荷変動時やバーナの点火/消火時など、投入される燃料量が過渡的に増減する場合には、燃焼ガスに含まれるNOx濃度が急変する場合がある。このため、例えば、負荷変動時やバーナの点火/消火時には、投入するアンモニア量を補正する先行制御を行い脱硝出口NOx濃度の安定制御の維持を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、再生可能エネルギーの普及拡大に伴い、火力発電プラントは、電力の供給量調整を担う役割が大きくなっており、出力調整のためのバーナの点火/消火が頻繁に繰り返し行われるようになっている。このため、燃焼ガスに含まれるNOx濃度が急変する頻度が増加しており、脱硝制御が適切に行われないとアンモニアの消費量が増大して運転コストが増加する懸念がある。また、アンモニアが過剰投入されると、脱硝装置で未反応のアンモニアが後流側に回り、燃焼ガス中の硫化化合物と反応して、空気予熱器で酸性硫安が生成される可能性がある。これにより、空気予熱器が閉塞され、プラントの運転継続ができなくなる懸念がある。
【0006】
また、脱硝装置の経年劣化により脱硝性能が低下している場合、脱硝出口NOx濃度が設定値よりも高めに推移し、煙突から排出されるガス中のNOx濃度が規制値を超過する懸念がある。
このように、脱硝出口NOx濃度の管理は非常に重要であるが、長期にわたって安定制御を維持することは難しく、発電プラントにおける一つの課題となっている。
【0007】
本開示は、このような事情に鑑みてなされたものであって、脱硝出口NOx濃度の安定制御を長期にわたって実現することのできる脱硝制御装置及び脱硝制御方法並びにプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様は、燃焼設備から排出される燃焼ガス中のNOxを分解させる脱硝装置に注入する還元剤量を制御する脱硝制御装置であって、脱硝出口NOx設定値を補正する補正手段と、補正後の前記脱硝出口NOx設定値と脱硝出口NOx値と脱硝入口NOx値とを用いて脱硝反応に必要な還元剤量を算出する還元剤量演算手段とを備え、前記補正手段は、煙突入口NOx値を平滑化した平滑NOx値と脱硝出口NOx設定値との偏差を用いて、前記脱硝出口NOx設定値を補正する脱硝制御装置である。
【0009】
本開示の一態様は、上記脱硝制御装置を備える脱硝装置である。
【0010】
本開示の一態様は、上記脱硝装置を備える発電プラントである。
【0011】
本開示の一態様は、燃焼設備から排出される燃焼ガス中のNOxを分解させる脱硝装置に注入する還元剤量を制御する脱硝制御方法であって、コンピュータが、脱硝出口NOx設定値を補正する補正工程と、補正後の前記脱硝出口NOx設定値と脱硝出口NOx値と脱硝入口NOx値とを用いて脱硝反応に必要な還元剤量を算出する還元剤量演算工程とを実行し、前記補正工程は、煙突入口NOx値を平滑化した平滑NOx値と脱硝出口NOx設定値との偏差を用いて、前記脱硝出口NOx設定値を補正する脱硝制御方法である。
【0012】
本開示の一態様は、コンピュータを上記脱硝制御装置として機能させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0013】
本開示の脱硝制御装置及び脱硝制御方法並びにプログラムによれば、脱硝出口NOx濃度の安定制御を長期にわたって実現できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本開示の一実施形態に係る発電プラントの全体概略構成図である。
【
図2】本開示の一実施形態に係るボイラの概略構成図である。
【
図3】本開示の一実施形態に係る脱硝装置の概略構成図である。
【
図4】本開示の一実施形態に係る脱硝制御装置が備える機能の一例を示した機能構成図である。
【
図5】本開示の一実施形態に係る補正部が備える機能の一例を示した機能構成図である。
【
図6】本開示の一実施形態に係る補正許可判定部及び動作判定部が備える機能の一例を示した機能構成図である。
【
図7】本開示の一実施形態に係る補正値設定部が備える機能の一例を示した機能構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本開示の一実施形態に係る脱硝制御装置及び脱硝制御方法並びにプログラムについて、図面を参照して説明する。以下、脱硝制御装置を、火力発電プラントのボイラ(燃焼設備)において発生する燃焼ガス中のNOxを除去する脱硝装置に適用する場合を例示して説明する。なお、燃焼設備の他の一例として、ガスタービン、工業炉、ゴミ焼却炉等が挙げられる。
以下の説明において、上や上方とは鉛直方向上側を示し、下や下方とは鉛直方向下側を示すものであり、鉛直方向は厳密ではなく誤差を含むものである。
【0016】
図1は、本開示の一実施形態に係る発電プラント1の全体概略構成図である。
図1に示すように、本実施形態の発電プラント1は、ボイラ10と、ボイラ10で生成した蒸気によって回転駆動される蒸気タービン2と、蒸気タービン2に連結され蒸気タービン2の回転力によって発電を行う発電機3とを主な構成として備えている。蒸気タービン2を駆動した後の蒸気は、復水器4において復水され、ボイラ10に戻される。
【0017】
ボイラ10は、例えば、固体燃料を粉砕した微粉燃料をバーナにより燃焼させ、この燃焼により発生した熱を給水や蒸気と熱交換して過熱蒸気を生成することが可能なボイラである。固体燃料としては、石炭、バイオマス燃料、石油コークス(PC:Petroleum Coke)燃料、石油残渣などが使用される。なお、ボイラ10の燃料は、固体燃料に限られず、例えば、重油、軽油、重質油などの石油類や工場廃液、液化アンモニアなどの液体燃料も使用することができる。また、天然ガスや各種石油ガス、製鉄プロセスなどで発生する副生ガス、水素ガス、アンモニアガスなどの気体燃料も使用することができる。さらに、これらの各種燃料を組み合わせて使用することも可能である。
【0018】
図2は、本実施形態に係るボイラ10の概略構成図である。
図2に示すように、ボイラ10は、例えば、火炉11と、燃焼ガス通路12と、煙道13とを有している。
【0019】
火炉11は、例えば、四角筒の中空形状をなして鉛直方向に沿って設置されている。火炉11の下部領域には燃焼装置として複数のバーナ14が設けられている。複数のバーナ14は、それぞれ複数の微粉燃料供給管19を介して複数のミル(粉砕機)15に連結されている。ミル15は、固体燃料を粉砕して微粉燃料を生成する。微粉燃料は、一次空気と混合され、微粉燃料混合気としてバーナ14に供給される。バーナ14から火炉11に投入された微粉燃料混合気が着火し、バーナ14から別途投入される二次空気と反応することで火炎を形成する。これにより、高温の燃焼ガスが火炉11内を上昇し、燃焼ガス通路12に流入する。
【0020】
燃焼ガス通路12は、火炉11の鉛直方向上部に連結されている。燃焼ガス通路12には、燃焼ガスの熱を回収するための熱交換器(図示略)が設けられている。熱交換器として、過熱器、再熱器、及び節炭器等が挙げられる。これら熱交換器で燃焼ガスと熱交換されることにより蒸気が生成され、上述した蒸気タービン2(
図1参照)に供給される。
【0021】
燃焼ガス通路12の下流側には、熱交換器で熱回収された燃焼ガスが排出される煙道13が連結されている。煙道13には、風道16との間に空気予熱器(エアヒータ)17が設けられており、風道16を流れる空気と、煙道13を流れる燃焼ガスとの間で熱交換を行い、ミル15に供給する一次空気やバーナ14に供給する二次空気を加熱することで、水や蒸気との熱交換後の燃焼ガスから、さらに熱回収を行う。
【0022】
また、煙道13には、空気予熱器17よりも上流側の位置に、脱硝装置20が設けられている。脱硝装置20は、アンモニア、尿素水等の窒素酸化物を還元する作用を有する還元剤を、煙道13内を流通する燃焼ガスに供給し、還元剤が供給された燃焼ガス中の窒素酸化物(NOx)と還元剤との反応を、脱硝装置20内に設置された脱硝触媒の触媒作用により促進させることで、燃焼ガス中の窒素酸化物を除去、低減するものである。なお、脱硝装置20の詳細については後述する。
【0023】
煙道13の空気予熱器17より下流側には、ガスダクト18が連結されている。ガスダクト18には、燃焼ガス中の灰などを除去する電気集じん機などの集じん装置21、硫黄酸化物を除去する脱硫装置などの環境装置22、また、それらの環境装置に燃焼ガスを導くための誘引通風機(IDF:Induced Draft Fan)23が設けられている。ガスダクト18の下流端部は、煙突24に連結されており、環境装置22で処理された燃焼ガスが、排ガスとして系外に排出される。また、例えば、煙突24と環境装置22との間には、煙突24から排出される燃焼ガスG中のNOx濃度(以下、「煙突入口NOx濃度」という。)を計測するための煙突入口NOx分析計36が設けられている。
【0024】
図3は、本実施形態に係る脱硝装置20の概略構成図である。脱硝装置20は、ボイラ10から排出される燃焼ガスG中のNOxを分解させるものである。脱硝装置20は、例えば、燃焼ガスGの流れ方向上流側から、入口ダクト32、反応部31、出口ダクト33を備えている。脱硝装置20では、入口ダクト32から導入された燃焼ガスGに対して、還元剤であるアンモニアが注入され、反応部31において脱硝処理されて、出口ダクト33に排出される。
【0025】
入口ダクト32には、アンモニアを注入するためのアンモニア注入器34が設けられている。アンモニア注入器34は、アンモニア供給配管35に連結されている。アンモニア供給配管35には、アンモニアの流量を計測するアンモニア流量計39、及びアンモニアの流量を調整するためのアンモニア流量調節弁40が設けられている。アンモニア流量調節弁40の弁開度が後述する脱硝制御装置50によって制御されることにより、入口ダクト32を流通する燃焼ガスG中のNOx濃度に見合った量のアンモニアがアンモニア注入器34から注入される。
【0026】
反応部31には、脱硝触媒が充填されている。反応部31に導入された燃焼ガスG中のNOxは、アンモニア注入器34から供給されるアンモニアと、反応部31に充填された脱硝触媒のはたらきによって、無害な水蒸気と窒素ガスに分解されることで、除去される。
【0027】
通常、脱硝装置20の運用は、燃焼ガスGの発生源(例えばボイラ10等)の負荷変化時など、入口ダクト32における燃焼ガスG中のNOx濃度(以降、「脱硝入口NOx濃度」と言う。)が変動する場合においても、出口ダクト33における燃焼ガスG中のNOx濃度(以降、「脱硝出口NOx濃度」と言う。)が規定値以下になるように制御される。ここで、脱硝入口NOx濃度は脱硝入口NOx分析計37で、脱硝出口NOx濃度は脱硝出口NOx分析計38で計測される。
【0028】
次に、本実施形態に係る脱硝制御装置50について図面を参照して説明する。
図4は、本実施形態に係る脱硝制御装置50が備える機能の一例を示した機能構成図である。
脱硝制御装置50は、例えば、コンピュータであり、CPU(Central Processing Unit:プロセッサ)、主記憶装置(Main Memory)、二次記憶装置(Secondary storage:メモリ)などを備えている。
【0029】
脱硝制御装置50が備える機能を実現するための一連の処理は、一例として、プログラムの形式で二次記憶装置などに記憶されており、このプログラムをCPU(プロセッサ)が主記憶装置に読み出して、情報の加工・演算処理を実行することにより、各種機能が実現される。なお、プログラムは、二次記憶装置に予めインストールされている形態や、他の非一時的なコンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶された状態で提供される形態、有線又は無線による通信手段を介して配信される形態等が適用されてもよい。非一時的なコンピュータ読み取り可能な記憶媒体の一例として、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリなどが挙げられる。
【0030】
上述したように脱硝制御装置50は、脱硝装置20に注入するアンモニア量を制御する。
図4に示すように、例えば、脱硝制御装置50は、補正部(補正手段)60、アンモニア量演算部(還元剤量演算手段)51、減算器52、制御器53を備えている。
【0031】
補正部60は、脱硝出口NOx設定値を補正する。なお、補正部60の詳細については後述する。
アンモニア量演算部51は、補正部60によって補正された補正後の脱硝出口NOx設定値、脱硝出口NOx濃度、及び脱硝入口NOx濃度を用いて、脱硝反応に必要なアンモニア量を演算し、演算したアンモニア量をアンモニア流量目標値(NH3流量目標値)に変換して出力する。なお、アンモニア量演算部51による必要アンモニア量の算出手法については、多くの公知の手法が提案されていることから、これらの手法を適宜採用すればよい。したがって、ここでの詳細な説明は省略する。なお、一例として、特開2003-10645号公報に開示された手法を用いることが可能である。
脱硝出口NOx設定値は、例えば、大気汚染防止法等の法令で規定された値や発電プラントの事業者と立地自治体との間で締結された協定等に準じた値に基づいて設定される。
【0032】
減算器52は、アンモニア流量計39(
図3参照)によって計測されたアンモニア流量(NH3流量)とアンモニア流量目標値(NH3流量目標値)との差である制御偏差を演算する。
制御器53は、制御偏差に対してフィードバック演算、例えば、PI(Proportional-Integral)制御(比例積分演算)を行い、弁開度指令を算出する。なお、制御器53が実行するフィードバック演算はこの例に限られない。例えば、PID(Proportional-Integral-Differential)制御を行うこととしてもよいし、フィードバックに関する他の公知の演算を行うこととしてもよい。
弁開度指令は、アンモニア流量調節弁40(
図3参照)に与えられ、アンモニア注入量が適切な値に制御される。
【0033】
図5は、本実施形態に係る補正部60が備える機能の一例を示した機能構成図である。
図5に示すように、補正部60は、例えば、平滑化処理部61、減算器62、補正許可判定部(補正許可判定手段)63、動作判定部(動作判定手段)64、及び補正値設定部(補正値設定手段)65、及び加算器66を備えている。
【0034】
平滑化処理部61は、所定期間において取得された煙突入口NOx濃度の時系列データに対して平滑化処理を行い、平滑化処理後の煙突入口NOx濃度(以下「平滑NOx濃度」という。)を出力する。平滑化処理の一例として、移動平均化処理が挙げられる。平均化を行う期間は、例えば、発電プラントが設置されている自治体との協定等によって決まるが、一例として、1時間平均値が挙げられる。
減算器62は、平滑NOx濃度と脱硝出口NOx設定値との差分を演算する。本実施形態では、減算器62は、平滑NOx濃度から脱硝出口NOx設定値を減算する。
【0035】
補正許可判定部63は、例えば、予め設定されている補正許可条件を満たすか否かを判定する。補正許可判定部63は、例えば、平滑NOx濃度から脱硝出口NOx設定値を減算したNOx偏差が所定の上下限範囲を外れており、平滑NOx濃度が所定範囲内である状態が所定期間維持されており、ボイラ10に設けられたバーナ14が点火動作中又は消火動作中でなく、ボイラ10が負荷変化中でなく、脱硝制御に関連するプロセス値が異常値を示しておらず、かつ、ボイラ10が動作している場合に、補正許可条件を満たすと判定する。
そして、補正許可判定部63は、例えば、補正許可条件を満たす状態が所定期間維持された場合に、「0(オフ)」の補正許可判定信号を出力し、それ以外の場合に「1(オン)」の補正許可判定信号を出力する。
【0036】
動作判定部64は、例えば、脱硝装置20による脱硝制御が継続可能か否かを判定するための動作条件を満たすか否かを判定する。動作判定部64は、例えば、脱硝制御に関連するプロセス値(例えば、煙突入口NOx濃度、脱硝出口NOx濃度、脱硝入口NOx濃度、アンモニア流量等)が異常値を示しておらず、かつ、ボイラ10が動作している場合、換言すると、ボイラ10において燃焼が行われている場合に、動作条件を満たすと判定する。動作判定部64は、例えば、動作条件を満たしている場合に「0(オフ)」の動作判定信号を出力し、動作条件を満たしていない場合に「1(オン)」の動作判定信号を出力する。
【0037】
図6は、補正許可判定部63及び動作判定部64が備える機能の一例を示した機能構成図である。
図6に示すように、動作判定部64には、プロセス値異常信号及び燃料遮断信号が入力される。プロセス値異常信号は、例えば、脱硝制御に関連するプロセス値が異常値を示していない場合、換言すると、これらプロセス値を検出するセンサに異常が生じていない場合に、「1(オン信号)」が入力され、脱硝制御に関係するプロセス値が異常値を示している場合、換言すると、これらプロセス値を検出するセンサに異常が生じている場合に、「0(オフ信号)」が入力される。また、燃焼遮断信号は、ボイラ10が運転中か停止中かを示す信号であり、ボイラ10が運転中の場合には「1」が入力され、ボイラ停止中の場合には「0」が入力される。燃焼遮断信号として、例えば、MFT(Master Fuel Trip)信号を用いることができる。
【0038】
プロセス値異常信号及び燃焼遮断信号は、AND回路(論理積回路)81に入力され、2つの信号が共にオン信号である場合に、「1」が出力され、続く、NOT回路82により信号が反転されて「0」となる。また、AND回路81において、上記2つの信号のいずれかが「0」である場合には、「0」が出力され、続く、NOT回路82により信号が反転されて「1」となる。NOT回路82の出力は、動作判定信号として補正値設定部65に出力される。
【0039】
補正許可判定部63には、平滑NOx濃度、脱硝出口NOx設定値、バーナ点消火信号、負荷信号が入力される。また、補正許可判定部63には、動作判定部64のAND回路81の出力が入力される。
【0040】
補正許可判定部63において、平滑NOx濃度と脱硝出口NOx濃度とは、差分比較器71に入力され、平滑NOx濃度と脱硝出口NOx濃度との差分であるNOx偏差が所定の上下限範囲を外れている場合に「1」が出力され、所定範囲内の場合には「0」が出力される。
【0041】
また、平滑NOx濃度は、比較器72に入力され、平滑NOx濃度が所定範囲内である場合に「0」が出力され、続く、NOT回路(否定回路)73により信号が反転されて「1」となり、更に、オンディレータイマ74により信号が「1」の状態が所定期間維持された場合に、「1」(オン信号)が出力される。一方、平滑NOx濃度が所定範囲を外れていた場合には、比較器72から「1」が出力され、続く、NOT回路73により信号が反転されて「0」となる。これにより、オンディレータイマ74からは「0」が出力される。
【0042】
また、バーナ点消火信号は、点火していたバーナ14を消火させる消火動作中又は消火していたバーナ14を点火させる点火動作中でない場合に「1」が入力され、消火動作中又は点火動作中の場合に「0」が入力される。
【0043】
負荷信号は、負荷変化中でないときに「1」が入力され、負荷変化中のときに「0」が入力される。
【0044】
上述した差分比較器71の出力、オンディレータイマ74の出力、バーナ点消火信号、負荷信号、及びAND回路81の出力は、AND回路76に出力される。AND回路76は、これらの全ての信号が「1」である場合に、「1」を出力する。この出力「1」は、続く、NOT回路77により反転されて「0」となり、「0」が所定期間維持されると、オフディレータイマ78から「0」の信号が出力される。
他方、AND回路76において、上記信号のいずれかが「0」である場合には、「0」が出力される。この出力「0」は、続くNOT回路77により反転されて「1」となる。これにより、オフディレータイマ78からは「1」が出力される。
オフディレータイマ78の出力は、補正許可判定信号として補正値設定部65に出力される。
【0045】
以上の通り、補正許可判定部63からは、補正許可条件を満たす場合に「0」の補正許可判定信号が、補正許可条件を満たさない場合に「1」の補正許可判定信号が出力されることとなる。
また、動作判定部64からは、動作条件を満たす場合に「0」の動作判定信号が、動作条件を満たさない場合に「1」の動作判定信号が出力されることとなる。
【0046】
補正値設定部65は、補正許可条件を満たす場合に、平滑NOxから脱硝出口NOx設定値を減算したNOx偏差を用いて、脱硝出口NOx設定値を補正するための補正値を設定する。
また、補正値設定部65は、補正許可条件を満たさない場合に、補正値の前回値を維持する。
また、補正値設定部65は、動作条件を満たさない場合に、補正値をゼロに設定する。
【0047】
図7は、本実施形態に係る補正値設定部65が備える機能の一例を示した機能構成図である。
図7に示すように、補正値設定部65は、例えば、第1補正値演算部90、第2補正値演算部100、設定部110、及び信号切替器115を備えている。
【0048】
第1補正値演算部90は、例えば、PI制御器91及び信号切替器92を備えている。
PI制御器91は、平滑NOx濃度から脱硝出口NOx濃度を減算したNOx偏差に対して比例積分制御を行うことにより第1補正値を演算する。具体的には、PI制御器91は、補正許可信号が「0」の場合に、NOx偏差に対して比例積分演算を行い、補正許可信号が「1」の場合に、比例積分演算を停止する。PI制御器91の出力には、リミッタが設けられている。このため、PI制御器91から出力される第1補正値は、所定の上下限範囲を超えないように調整される。
【0049】
更に、PI制御器91には、信号切替器92の出力が入力される。信号切替器92は、動作判定信号が「1」の場合に「0%」をPI制御器91に出力し、動作判定信号が「0」の場合に、PI制御器91の出力(前回値)をPI制御器91にフィードバックする。
【0050】
第2補正値演算部100は、例えば、関数発生器101及び信号切替器102を備えている。
関数発生器101は、NOx偏差がプラス方向に大きくなるとプラス方向に大きくなり、NOx偏差がマイナス方向に大きくなるとマイナスの方向に大きくなるような第2補正値を演算する。例えば、関数発生器101は、予め設定されているバイアス関数を用いてNOx偏差から第2補正値を算出し、出力する。関数発生器101は、例えば、煙突入口NOx濃度の変動を効果的に緩和させるための第2補正値を出力する。
【0051】
バイアス関数には、脱硝出口NOx濃度の制御性向上のために、NOx偏差の絶対値が所定値以下の場合に、第2補正値をゼロとするためのデットバンドが設けられていてもよい。また、バイアス関数は、NOx偏差の絶対値が所定値を超える範囲において、PI制御器91の比例ゲインよりも大きな値の比例ゲインが設定されているとよい。このように構成することで、NOx偏差の絶対値が一定値を超えて大きい場合には、速やかにそのNOx偏差を小さくする方向に制御するための第2補正値を設定することが可能となる。
【0052】
関数発生器101の出力側には、信号切替器102が設けられている。信号切替器102は、補正許可判定信号が「0」の場合に、関数発生器101から入力された第2補正値を出力し、補正許可判定信号が「1」の場合に、関数発生器101の出力(前回値)をホールドする。
【0053】
設定部110は、第1補正値演算部90から出力された第1補正値と、第2補正値演算部100から出力された第2補正値とを加算することにより、脱硝出口NOx設定値を補正するための補正値を演算する。
【0054】
設定部110の出力側には、信号切替器115が設けられている。信号切替器115は、動作判定信号が「0」の場合に、設定部110の出力を補正値として出力し、動作判定信号がオン信号「1」の場合に、「0%」を補正値として出力する。
【0055】
このような補正値設定部65によれば、以下の補正値が演算され、出力される。
【0056】
〔状態A:補正許可判定信号が「0」、かつ、動作判定信号が「0」の場合〕
この場合、NOx偏差に基づく比例積分制御がPI制御器91において行われ、その出力が第1補正値として設定部110に出力される。また、関数発生器101においてNOx偏差に応じたバイアス値が第2補正値として演算され、この第2補正値が信号切替器102を介して設定部110に出力される。設定部110は、第1補正値と第2補正値とを加算した値を補正値として出力する。この補正値は、信号切替器115を介して補正値として、出力される。この補正値は、加算器66において、脱硝出口NOx設定値に加算され、補正後の脱硝出口NOx設定値がアンモニア量演算部51に出力される。
【0057】
〔状態B:補正許可判定信号が「1」、かつ、動作判定信号が「0」の場合〕
この場合、第1補正値演算部90のPI制御器91は比例動作制御を停止する。これにより、信号切替器92によってPI制御器91の前回値がホールドされる。また、第2補正値演算部100では、信号切替器102によって第2補正値の前回値がホールドされる。
この結果、設定部110から出力される補正値は、第1補正値の前回値と第2補正値の前回値とを加算した値となり、この補正値がホールドされることとなる。
よって、状態Bでは、同じ補正値が維持される。加算器66では、同じ値の補正値が脱硝出口NOx設定値に加算され、補正後の脱硝出口NOx設定値がアンモニア量演算部51に出力される。
【0058】
〔状態C:補正許可判定信号が「1」、かつ、動作判定信号が「1」の場合〕
この場合には、信号切替器115において0%が選択され、補正値はゼロとなる。これにより、状態Cの場合には、脱硝出口NOx設定値は補正されずに、アンモニア量演算部51に出力されることとなる。
【0059】
以上、説明してきたように、本実施形態に係る脱硝制御装置50及び脱硝制御方法並びにプログラムによれば、以下の作用効果を奏する。
本実施形態に係る脱硝制御装置50によれば、脱硝出口NOx設定値を補正する補正部60と、補正後の脱硝出口NOx設定値と脱硝出口NOx値と脱硝入口NOx値とを用いて脱硝反応に必要なアンモニア量を算出するアンモニア量演算部51とを備え、補正部60は、煙突入口NOx値を平滑化した平滑NOx値と脱硝出口NOx設定値とのNOx偏差を用いて脱硝出口NOx設定値を補正する。
【0060】
このように、本実施形態によれば、アンモニア量演算部51によって算出されたアンモニア量を直接的に補正するのではなく、アンモニア量を算出するために用いられるパラメータの一つである脱硝出口NOx設定値を補正する。これにより、反応部31に投入するアンモニア量を適正化することができ、環境に排出されるNOx濃度を適切に抑制しつつ、アンモニアの過剰投入によるトラブル発生を抑制することが可能となる。この結果、脱硝制御の安定制御を実現することが可能となる。
【0061】
また、本実施形態によれば、煙突入口NOx値を平滑化した平滑NOx値と脱硝出口NOx設定値との偏差を用いて脱硝出口NOx設定値を補正するので、反応部31の経年劣化により脱硝出口NOx濃度が抑えにくくなった場合でも、経年劣化を考慮した量のアンモニアを注入することが可能となる。
また、煙突入口NOx値を平滑化した平滑NOx値と脱硝出口NOx設定値との偏差を用いて脱硝出口NOx設定値を補正するので、アンモニア量演算部51によって算出されるアンモニア量に、その時々の平滑NOx値の状態を反映させることが可能となる。これにより、アンモニアの先行投入を行う場合には、先行して注入するアンモニア量(ベースとなるバイアス量)を低めに設定し、その不足分や過剰分については、補正部60による補正で調整することが可能となる。この結果、アンモニアの過剰投入を抑制することができ、アンモニアの過剰投入に伴うコスト増大、空気予熱器の閉塞などのトラブル発生を抑制することが可能となる。
以上から、脱硝出口NOx濃度の安定制御を長期にわたって実現することが可能となる。
【0062】
以上、本開示について実施形態を用いて説明したが、本開示の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。発明の要旨を逸脱しない範囲で上記実施形態に多様な変更又は改良を加えることができ、該変更又は改良を加えた形態も本開示の技術的範囲に含まれる。また、上記実施形態を適宜組み合わせてもよい。
【0063】
以上説明した各実施形態に記載の脱硝制御装置及び脱硝制御方法並びにプログラムは、例えば以下のように把握される。
【0064】
本開示の第1態様に係る脱硝制御装置(50)は、燃焼設備(10)から排出される燃焼ガス中のNOxを分解させる脱硝装置(20)に注入する還元剤量を制御する脱硝制御装置(50)であって、脱硝出口NOx設定値を補正する補正手段(60)と、補正後の前記脱硝出口NOx設定値と脱硝出口NOx値と脱硝入口NOx値とを用いて脱硝反応に必要な還元剤量を算出する還元剤量演算手段(51)とを備え、前記補正手段は、煙突入口NOx値を平滑化した平滑NOx値と脱硝出口NOx設定値との偏差を用いて、前記脱硝出口NOx設定値を補正する。
【0065】
この態様によれば、煙突入口NOx値を平滑化した平滑NOx値と脱硝出口NOx設定値との偏差を用いて、脱硝出口NOx設定値を補正する。例えば、還元剤量演算手段よりも下流側のパラメータである還元剤流量調整弁の開度指令値を補正する場合は、還元剤流量計によって計測された還元剤流量と還元剤流量目標値との差である制御偏差に対するフィードバック演算結果に基づき出力された値を補正することとなる。このため、補正値が還元剤流量調整弁の開度指令値に与える影響が大きくなる可能性があり、還元剤が過剰に投入されるおそれがある。これに対し、本態様は、還元剤量演算手段において必要な還元剤量を算出するために用いられるパラメータの一つである脱硝出口NOx設定値を補正する。これにより、補正値が最終的な還元剤量の出力値に与える影響を適正化することができ、還元剤の投入量を適正化することができる。この結果、環境に排出されるNOx濃度を適切に抑制しつつ、還元剤の過剰投入によるトラブル発生を抑制することが可能となる。よって、脱硝制御の安定制御及びコスト低減を実現することが可能となる。
ここで、NOx値とは、NOxに関するパラメータであり、例えば、NOx濃度、NOx流量等が挙げられる。上述した実施形態では、NOx値として、NOx濃度を用いた場合を例示して説明している。
【0066】
本開示の第2態様に係る脱硝制御装置(50)は、上記第1態様において、前記補正手段は、前記平滑NOx値と前記脱硝出口NOx設定値との偏差が所定の上下限範囲を外れている場合に、前記脱硝出口NOx設定値を補正する。
【0067】
この態様によれば、平滑NOx値と前記脱硝出口NOx設定値との偏差が所定の上下限範囲を外れている場合に、脱硝出口NOx設定値が補正される。換言すると、平滑NOx値と脱硝出口NOx設定値との差分が所定値以下の場合には、補正手段による補正は行われずに、脱硝出口NOx設定値を用いて脱硝反応に必要な還元剤量が演算される。このように、平滑NOx値が規定値に近い値を示している場合には、補正手段による脱硝出口NOx設定値の補正を停止することができるため、環境に排出されるNOx濃度を適切に抑制しつつ、脱硝制御の安定制御を実現することが可能となる。
【0068】
本開示の第3態様に係る脱硝制御装置(50)は、上記第1態様又は第2態様において、前記補正手段は、予め設定されている補正許可条件を満たすか否かを判定する補正許可判定手段(63)と、前記補正許可条件を満たす場合に、前記平滑NOx値と脱硝出口NOx設定値との偏差を用いて、前記脱硝出口NOx設定値を補正するための補正値を設定する補正値設定手段(65)とを具備する。
【0069】
この態様によれば、脱硝出口NOx設定値の補正が必要か否かを適切に判別することが可能となる。
【0070】
本開示の第4態様に係る脱硝制御装置(50)は、上記第3態様において、前記補正許可判定手段(63)は、前記平滑NOx値と前記脱硝出口NOx設定値との偏差が所定の上下限範囲を外れており、前記平滑NOx値が所定範囲内である状態が所定期間維持されており、前記燃焼設備(10)に設けられたバーナ(14)が点火動作中又は消火動作中でなく、負荷変化中でなく、脱硝制御に関連するプロセス値が異常値を示しておらず、かつ、前記燃焼設備(10)が動作している場合に、補正許可条件を満たすと判定する。
【0071】
この態様によれば、プラントの状態や脱硝制御に関連するプロセス値の状態に応じて脱硝出口NOx設定値の補正が必要か否かを適切に判別することが可能となる。
【0072】
本開示の第5態様に係る脱硝制御装置(50)は、上記第3態様又は第4態様において、前記補正値設定手段(65)は、前記補正許可条件を満たさない場合に、前記補正値の前回値を維持する。
【0073】
この態様によれば、プラントの状態や脱硝制御に関連するプロセス値の状態に応じて、適切な補正値を設定することが可能となる。
【0074】
本開示の第6態様に係る脱硝制御装置(50)は、上記第3態様から第5態様のいずれかにおいて、前記補正値設定手段(65)は、前記平滑NOx値と前記脱硝出口NOx設定値との偏差に対して比例積分制御を行うことにより第1補正値を演算する第1補正値演算手段(90)と、前記偏差がプラス方向に大きくなるとプラス方向に大きくなり、前記偏差がマイナス方向に大きくなるとマイナスの方向に大きくなるような第2補正値を演算する第2補正値演算手段(100)と、前記第1補正値と前記第2補正値とを用いて前記補正値を設定する設定手段(110)と、を備える。
【0075】
この態様によれば、比例積分制御によって演算された第1補正値と、偏差に応じて直接的に演算される第2補正値とを用いて補正値が設定される。第1補正値を用いることにより、偏差に応じた還元剤注入の安定制御を実現することができ、また、第2補正値を用いることにより、偏差に対する還元剤注入の応答性を高めることができる。このように第1補正値及び第2補正値を用いて算出された補正値を用いて脱硝出口NOx設定値を補正することで、NOx偏差に対する応答性を高めるとともに、安定したNOx抑制制御を行うことが可能となる。
【0076】
本開示の第7態様に係る脱硝制御装置(50)は、上記第3態様から第6態様のいずれかにおいて、前記第2補正値演算手段(100)は、前記偏差の絶対値が所定値以下の場合に、第2補正値をゼロに設定する。
【0077】
この態様によれば、脱硝出口NOx設定値が頻繁に補正されることを抑制することができる。これにより、環境に排出されるNOx濃度を適切に抑制しつつ、脱硝制御の安定制御を実現することが可能となる。
【0078】
本開示の第8態様に係る脱硝制御装置(50)は、上記第1態様から第7態様のいずれかにおいて、前記補正手段(60)は、脱硝制御の補正演算が可能な動作条件を満たさない場合に、前記脱硝出口NOx設定値を補正せずに前記還元剤量演算手段に出力する。
【0079】
この態様によれば、脱硝制御が不安定な状態において、脱硝出口NOx設定値の補正を停止することが可能となる。すなわち、脱硝制御が不安定になっているときの過渡的な状態において、補正演算を止めることで、誤った補正値を算出することを防止することが可能となる。
【0080】
本開示の第9態様に係る脱硝制御装置(50)は、上記第8態様において、前記補正手段は、脱硝制御に関連するプロセス値が異常値を示しており、又は、前記燃焼設備が動作していない場合に、前記動作条件を満たさないと判定する動作判定手段を備える。
【0081】
この態様によれば、脱硝制御に関連するプロセス値が異常値を示している場合、又は、燃焼設備が動作していない場合、換言すると、燃焼が行われていない場合に、動作条件を満たさないと判定され、補正値がリセットされる。すなわち、脱硝制御が継続できない状態が続くと、運転状態も変わり、前回の補正値が外乱となる可能性がある。この態様によれば、新たに脱硝制御を再開する際には、補正値がゼロにリセットされているので、少なくとも運転実績のある通常状態に戻すことが可能となる。
【0082】
本開示の第10態様に係る脱硝装置(20)は、上記第1態様から第9態様のいずれかに係る脱硝制御装置(50)を備える。
【0083】
本開示の第11態様に係る発電プラント(1)は、上記第10態様に係る脱硝装置を備える。
【0084】
本開示の第12態様に係る脱硝制御方法は、燃焼設備(10)から排出される燃焼ガス中のNOxを分解させる脱硝装置(20)に注入する還元剤量を制御する脱硝制御方法であって、コンピュータが、脱硝出口NOx設定値を補正する補正工程と、補正後の前記脱硝出口NOx設定値と脱硝出口NOx値と脱硝入口NOx値とを用いて脱硝反応に必要な還元剤量を算出する還元剤量演算工程とを実行し、前記補正工程は、煙突入口NOx値を平滑化した平滑NOx値と脱硝出口NOx設定値との偏差を用いて、前記脱硝出口NOx設定値を補正する。
【0085】
本開示の第13態様に係るプログラムは、コンピュータを上記第1態様から第9態様のいずれかに記載の脱硝制御装置(50)として機能させる。
【符号の説明】
【0086】
1 :発電プラント
10 :ボイラ
14 :バーナ
17 :空気予熱器
20 :脱硝装置
24 :煙突
31 :反応部
32 :入口ダクト
33 :出口ダクト
34 :アンモニア注入器
35 :アンモニア供給配管
36 :煙突入口NOx分析計
37 :脱硝入口NOx分析計
38 :脱硝出口NOx分析計
39 :アンモニア流量計
40 :アンモニア流量調節弁
50 :脱硝制御装置
51 :アンモニア量演算部(還元剤量演算手段)
52 :減算器
53 :制御器
60 :補正部(補正手段)
61 :平滑化処理部
62 :減算器
63 :補正許可判定部(補正許可判定手段)
64 :動作判定部
65 :補正値設定部(補正値設定手段)
66 :加算器
71 :差分比較器
72 :比較器
73 :NOT回路
74 :オンディレータイマ
76 :AND回路
77 :NOT回路
78 :オフディレータイマ
81 :AND回路
82 :NOT回路
90 :第1補正値演算部(第1補正値演算手段)
91 :PI制御器
92 :信号切替器
100 :第2補正値演算部(第2補正値演算手段)
101 :関数発生器
102 :信号切替器
110 :設定部(設定手段)
115 :信号切替器