IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人明治大学の特許一覧 ▶ 株式会社ユーグレナの特許一覧

特開2024-121434培地組成物、酵母増殖促進剤、酵母が産生する芳香成分の調整剤、酵母の培養方法、酵母が産生する芳香成分を変化させる方法、発酵食品の芳香成分を変化させる方法、発酵食品の製造方法
<>
  • 特開-培地組成物、酵母増殖促進剤、酵母が産生する芳香成分の調整剤、酵母の培養方法、酵母が産生する芳香成分を変化させる方法、発酵食品の芳香成分を変化させる方法、発酵食品の製造方法 図1
  • 特開-培地組成物、酵母増殖促進剤、酵母が産生する芳香成分の調整剤、酵母の培養方法、酵母が産生する芳香成分を変化させる方法、発酵食品の芳香成分を変化させる方法、発酵食品の製造方法 図2
  • 特開-培地組成物、酵母増殖促進剤、酵母が産生する芳香成分の調整剤、酵母の培養方法、酵母が産生する芳香成分を変化させる方法、発酵食品の芳香成分を変化させる方法、発酵食品の製造方法 図3
  • 特開-培地組成物、酵母増殖促進剤、酵母が産生する芳香成分の調整剤、酵母の培養方法、酵母が産生する芳香成分を変化させる方法、発酵食品の芳香成分を変化させる方法、発酵食品の製造方法 図4
  • 特開-培地組成物、酵母増殖促進剤、酵母が産生する芳香成分の調整剤、酵母の培養方法、酵母が産生する芳香成分を変化させる方法、発酵食品の芳香成分を変化させる方法、発酵食品の製造方法 図5
  • 特開-培地組成物、酵母増殖促進剤、酵母が産生する芳香成分の調整剤、酵母の培養方法、酵母が産生する芳香成分を変化させる方法、発酵食品の芳香成分を変化させる方法、発酵食品の製造方法 図6
  • 特開-培地組成物、酵母増殖促進剤、酵母が産生する芳香成分の調整剤、酵母の培養方法、酵母が産生する芳香成分を変化させる方法、発酵食品の芳香成分を変化させる方法、発酵食品の製造方法 図7
  • 特開-培地組成物、酵母増殖促進剤、酵母が産生する芳香成分の調整剤、酵母の培養方法、酵母が産生する芳香成分を変化させる方法、発酵食品の芳香成分を変化させる方法、発酵食品の製造方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121434
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】培地組成物、酵母増殖促進剤、酵母が産生する芳香成分の調整剤、酵母の培養方法、酵母が産生する芳香成分を変化させる方法、発酵食品の芳香成分を変化させる方法、発酵食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/16 20060101AFI20240830BHJP
   C12P 5/00 20060101ALI20240830BHJP
   C12N 1/12 20060101ALI20240830BHJP
   A23L 33/14 20160101ALI20240830BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20240830BHJP
【FI】
C12N1/16 D
C12P5/00
C12N1/16 A
C12N1/12 A
A23L33/14
A23L5/00 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028547
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】801000027
【氏名又は名称】学校法人明治大学
(71)【出願人】
【識別番号】506141225
【氏名又は名称】株式会社ユーグレナ
(74)【代理人】
【識別番号】100088580
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 敦
(74)【代理人】
【識別番号】100195453
【弁理士】
【氏名又は名称】福士 智恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100205501
【弁理士】
【氏名又は名称】角渕 由英
(72)【発明者】
【氏名】小山内 崇
(72)【発明者】
【氏名】芳賀 麻由香
(72)【発明者】
【氏名】中込 千秋
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健吾
【テーマコード(参考)】
4B018
4B035
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B018LB01
4B018LB08
4B035LC01
4B035LG50
4B035LP42
4B064AB07
4B065AA72X
4B065AA72Y
4B065AA83X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA01
4B065BB28
4B065CA03
4B065CA41
(57)【要約】
【課題】酵母を培養することが可能な培地組成物を提供すること、酵母増殖促進剤、酵母が産生する芳香成分の調整剤、酵母の培養方法、酵母が産生する芳香成分を変化させる方法、発酵食品の芳香成分を変化させる方法、発酵食品の製造方法を提供する。
【解決手段】ユーグレナを含有し、酵母を培養するために用いられる培地組成物である。ユーグレナを含有し、酵母増殖促進剤、酵母が産生する芳香成分の調整剤である。ユーグレナを含有する培地を用意する工程と、前記培地で酵母を培養する工程と、を行う酵母の培養方法、酵母が産生する芳香成分を変化させる方法である。ユーグレナと食品原料を、酵母で発酵させる発酵食品の芳香成分を変化させる方法、発酵食品の製造方法である。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーグレナを含有し、
酵母を培養するために用いられる培地組成物。
【請求項2】
ユーグレナを含有する酵母増殖促進剤。
【請求項3】
ユーグレナを含有し、酵母が産生する芳香成分の調整剤。
【請求項4】
ユーグレナを含有する培地を用意する工程と、
前記培地で酵母を培養する工程と、を行う酵母の培養方法。
【請求項5】
ユーグレナを含有する培地を用意する工程と、
前記培地で酵母を培養する工程と、を行う酵母が産生する芳香成分を変化させる方法。
【請求項6】
ユーグレナと食品原料を、酵母で発酵させる発酵食品の芳香成分を変化させる方法。
【請求項7】
ユーグレナと食品原料を、酵母で発酵させる発酵食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培地組成物、酵母増殖促進剤、酵母が産生する芳香成分の調整剤、酵母の培養方法、酵母が産生する芳香成分を変化させる方法、発酵食品の芳香成分を変化させる方法、発酵食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Saccharomyces cerevisiae(以下、S.cerevisiae)は、ビールや日本酒などのアルコール飲料やパンの製造に欠かせない微生物である。S.cerevisiaeは、「出芽酵母」、「パン酵母」と呼ばれ、産業界で最も多く使用されている酵母である。
【0003】
酵母は一般的に、嫌気条件下でグルコースを消費してエタノールを産生するエタノール発酵を行う。S.cerevisiaeは、ドライイーストとしてパンの製造に多く利用されるほか、清酒やビール、ワインなどの醸造にも広く使われている。
【0004】
S.cerevisiaeは数ある酵母の中でも特に高いエタノール発酵能力とエタノール耐性を有している。そのため、S.cerevisiaeは再生可能エネルギーであるバイオエタノール生産においても最もよく使われている酵母である。
【0005】
微細藻類の一種であるEuglena gracilis(以下、E.gracilis)は、アミノ酸やビタミン類などのほか、多糖類であるパラミロンや、燃料の元となるワックスエステルといった多種多様な物質を生産する。また、E.gracilisは、グルコースが重合したβ-1,3-グルカンの構造を持つ貯蔵多糖であるパラミロンを産生する。このような性質をもつことから、E.gracilisは食料、栄養、環境問題の解決に貢献することが期待されている。
【0006】
ユーグレナを他の微生物と組み合わせて培養する技術の例として、ユーグレナ及びその培養抽出物が乳酸菌の生育を促進することが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7-99967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
酵母の生育には多くの窒素源をはじめとして多種類の栄養源が必要である。酵母の培養に用いられる合成培地には、ビタミンやミネラル、炭素源、硫酸アンモニウム、各種アミノ酸などが含まれている。酵母を培養することが可能な培地が求められていた。
【0009】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、酵母を培養することが可能な培地組成物を提供することにある。
本発明の他の目的は、酵母増殖促進剤、酵母が産生する芳香成分の調整剤、酵母の培養方法、酵母が産生する芳香成分を変化させる方法、発酵食品の芳香成分を変化させる方法、発酵食品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、ユーグレナを用いて、酵母を培養すると、酵母を培養できること等を見出した。
【0011】
したがって、前記課題は、本発明によれば、ユーグレナを含有し、酵母を培養するために用いられる培地組成物により解決される。
また、前記課題は、本発明によれば、ユーグレナを含有する酵母増殖促進剤により解決される。
また、前記課題は、本発明によれば、ユーグレナを含有し、酵母が産生する芳香成分の調整剤により解決される。
また、前記課題は、本発明によれば、ユーグレナを含有する培地を用意する工程と、前記培地で酵母を培養する工程と、を行う酵母の培養方法により解決される。
また、前記課題は、本発明によれば、ユーグレナを含有する培地を用意する工程と、前記培地で酵母を培養する工程と、を行う酵母が産生する芳香成分を変化させる方法により解決される。
また、前記課題は、本発明によれば、ユーグレナと食品原料を、酵母で発酵させる発酵食品の芳香成分を変化させる方法により解決される。
また、前記課題は、本発明によれば、ユーグレナと食品原料を、酵母で発酵させる発酵食品の製造方法により解決される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、酵母を培養することが可能な培地組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、酵母増殖促進剤、酵母が産生する芳香成分の調整剤、酵母の培養方法、酵母が産生する芳香成分を変化させる方法、発酵食品の芳香成分を変化させる方法、発酵食品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】酵母用合成培地(DOB培地、CSM培地)の組成を示す図である。
図2】試験1において検証を行った、培地成分の違いによる増殖曲線。以下の図において、各点は平均を、エラーバーは標準偏差を示す。
図3】試験2において検証を行った、加水分解物濃度の違いによる増殖曲線。
図4】試験3において検証を行った、イーストAの増殖曲線(n=3)。
図5】試験3において検証を行った、イーストBの増殖曲線(n=3)。
図6】試験3において検証を行った、イーストCの増殖曲線(n=3)。
図7】試験3において検証を行った、イーストDの増殖曲線(n=3)。
図8】試験3の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図1図8を参照しながら説明する。本実施形態は、培地組成物、酵母増殖促進剤、酵母が産生する芳香成分の調整剤、酵母の培養方法、酵母が産生する芳香成分を変化させる方法、発酵食品の芳香成分を変化させる方法、発酵食品の製造方法に関するものである。
【0015】
<ユーグレナ>
実施形態において、「ユーグレナ」とは、分類学上、ユーグレナ属(Euglena)に分類される微生物、その変種、その変異種及びユーグレナ科(Euglenaceae)の近縁種を含む。ここで、ユーグレナ属(Euglena)とは、真核生物のうち、エクスカバータ、ユーグレノゾア門、ユーグレナ藻綱、ユーグレナ目、ユーグレナ科に属する生物の一群である。
【0016】
ユーグレナ属に含まれる種として、具体的には、Euglena chadefaudii、Euglena deses、Euglena gracilis、Euglena granulata、Euglena mutabilis、Euglena proxima、Euglena spirogyra、Euglena viridisなどが挙げられる。ユーグレナとして、ユーグレナ・グラシリス(E. gracilis),特に、ユーグレナ・グラシリス(E. gracilis)Z株を用いることができるが、そのほか、ユーグレナ・グラシリス(E. gracilis)Z株の変異株SM-ZK株(葉緑体欠損株)や変種のE. gracilis var. bacillaris、これらの種の葉緑体の変異株等の遺伝子変異株、Astasia longa等のその他のユーグレナ類であってもよい。
【0017】
ユーグレナ属は、池や沼などの淡水中に広く分布しており、これらから分離して使用しても良く、また、既に単離されている任意のユーグレナ属を使用してもよい。ユーグレナ属は、その全ての変異株を包含する。また、これらの変異株の中には、遺伝的方法、たとえば組換え、形質導入、形質転換等により得られたものも含有される。
【0018】
(ユーグレナ藻体)
本実施形態では、ユーグレナとしてユーグレナ藻体を用いることが可能である。ユーグレナ藻体として、遠心分離,濾過又は沈降等によって分離したユーグレナ生細胞をそのまま用いることができる。ユーグレナ生細胞は、培養槽から収穫後そのままの状態で使用することもできるが、水若しくは生理食塩水で洗浄するのが好ましい。また、ユーグレナ藻体が水などの液体に分散した分散液の状態で用いてもよい。本実施形態において、ユーグレナ生細胞を凍結乾燥処理やスプレー乾燥処理して得たユーグレナの乾燥藻体(ユーグレナ粉末)をユーグレナ藻体として用いると好適である。
【0019】
更に、ユーグレナ生細胞を超音波照射処理や、ホモゲナイズ等の機械処理を行うことにより得た藻体の機械的処理物をユーグレナ藻体として用いてもよい。また、機械的処理物に乾燥処理を施した機械的処理物乾燥物をユーグレナ藻体として用いてもよい。
【0020】
(ユーグレナ加工処理物)
また、ユーグレナを加工処理した加工処理物を用いることも可能である。加工処理としては、加水分解処理が挙げられる。加水分解処理は、典型的には酵素加水分解、酸又はアルカリの存在下において、ユーグレナ藻体の全体を処理する。好ましくは、加水分解処理は、酸又はアルカリによる加水分解処理である。加水分解処理物は、典型的には、水相に不溶な残渣を除去した、主として水相溶解物を回収することによって得ることができる。
【0021】
<酵母>
本実施形態において酵母は、特に限定されるものではないが、パン酵母、清酒酵母、焼酎酵母、ビール酵母、ワイン酵母などの酵母が例示される。酵母は、その全ての変異株を包含する。また、これらの変異株の中には、遺伝的方法、たとえば組換え、形質導入、形質転換等により得られたものも含有される。
【0022】
酵母は、サッカロマイセス属であることが好ましい。サッカロマイセス属の酵母としては、例えば、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロマイセス・パラドキサス(Saccharomyces paradoxus)、サッカロマイセス・ミカタエ(Saccharomyces mikatae)、サッカロマイセス・バヤヌス(Saccharomyces bayanus)、サッカロマイセス・クドリアヴゼヴィイ(Saccharomyces kudriavzevii)が例示されるがこれらに限定されるものではない。
【0023】
清酒酵母とは、清酒醸造に用いられる酵母である。清酒醸造に用いられる酵母は、主にサッカロミセス・セレビシアエ(S.cerevisiae)に分類される。清酒酵母として、例えば、協会6号(財団法人日本醸造協会頒布)、協会601号(財団法人日本醸造協会頒布)、協会1501号(財団法人日本醸造協会頒布)などが挙げられる。
【0024】
焼酎酵母とは、焼酎醸造に用いられる酵母である。焼酎醸造に用いられる酵母は、主にサッカロミセス・セレビシアエ(S.cerevisiae)に分類される。焼酎酵母としては、例えば、焼酎用協会2号(財団法人日本醸造協会頒布)、焼酎用協会3号(財団法人日本醸造協会頒布)などが挙げられる。
【0025】
ビール酵母としては、下面ビール酵母や上面ビール酵母が例示される。下面ビール酵母は、サッカロミセス・セレビシアエ(Saccharomyces cerevisiae)とサッカロミセス・バヤナス(S. bayanus)との交雑体であってサッカロミセス・パストリアヌス(S. pastorianus)に分類される。下面ビール酵母としては、例えば、Weihenstephan-34株が挙げられる。
【0026】
上面ビール酵母とは、エールタイプのビール醸造に用いられる酵母である。ビール醸造に用いられる上面ビール酵母は、主としてサッカロミセス・セレビシアエ(S. cerevisiae)に分類される。上面ビール酵母として、例えば、Weihenstephan-165株、Weihenstephan-184株、Weihenstephan-197株などが挙げられる。
【0027】
ワイン酵母とは、ワイン醸造に用いられる酵母である。ワイン酵母は、例えば、サッカロミセス・セレビシアエ(S.cerevisiae)やサッカロミセス・バヤナス(S.bayanus)に分類される。ワイン酵母として、例えば、LalvinEC-1118株が挙げられる。
【0028】
<培地組成物>
本実施形態の培地組成物は、ユーグレナを含有し、酵母を培養するために用いられる培地組成物である。「培地」とは、酵母の培養において、酵母に生育環境を提供するものをいう。培地は、炭素源やビタミン、無機塩類など栄養素の供給源となる他、酵母の増殖に必要な足場や液相を与える物理的な要素を含む。
【0029】
培地組成物に添加するユーグレナ藻体又はユーグレナ処理物の量は、その乾燥重量が培地組成物の0.1%~10%程度であることが好ましい。より好ましくは、培地組成物に添加するユーグレナ藻体又はユーグレナ処理物の量は、その乾燥重量が培地組成物の1%~5%であると、酵母の増殖を促進させることができる。
【0030】
<酵母増殖促進剤>
本実施形態の酵母増殖促進剤は、ユーグレナを含有する酵母増殖促進剤である。本実施形態に係る酵母殖促進剤は、酵母の増殖を促進するために用いられるものであり、酵母を培養する培地に添加されるものである。
【0031】
ここで、「酵母の増殖を促進する」とは、本実施形態に係る酵母増殖促進剤を用いて酵母を培養した場合に酵母の細胞数が、本実施形態に係る酵母増殖促進剤を用いずに酵母を培養した場合における酵母の細胞数と比較して増えることをいう。
【0032】
<酵母が産生する芳香成分の調整剤>
本実施形態の酵母が産生する芳香成分の調整剤は、ユーグレナを含有し、酵母が産生する芳香成分の調整剤である。ここで、「酵母が産生する芳香成分の調整」とは、本実施形態に係る芳香成分の調整剤を用いて酵母を培養した場合と、本実施形態に係る芳香成分の調整剤を用いずに酵母を培養した場合において、酵母が産生する芳香成分の種類及び/又は量が異なることをいう。
【0033】
<酵母の培養方法>
本実施形態の酵母の培養方法は、ユーグレナを含有する培地を用意する工程と、前記培地で酵母を培養する工程と、を行う酵母の培養方法である。本実施形態の酵母の培養方法では、酵母の増殖を促進したり、酵母が産生する芳香成分を調整したりすることができる。
【0034】
<酵母が産生する芳香成分を変化させる方法>
本実施形態の酵母が産生する芳香成分を変化させる方法は、ユーグレナを含有する培地を用意する工程と、前記培地で酵母を培養する工程と、を行う酵母が産生する芳香成分を変化させる方法である。ここで、「酵母が産生する芳香成分を変化させる」とは、本実施形態に係る芳香成分の調整剤を用いて酵母を培養した場合に、本実施形態に係る芳香成分の調整剤を用いずに酵母を培養した場合と比較して、酵母が産生する芳香成分の種類及び/又は量が変化することをいう。
【0035】
<発酵食品の芳香成分を変化させる方法>
本実施形態の発酵食品の芳香成分を変化させる方法は、ユーグレナと食品原料を、酵母で発酵させる発酵食品の芳香成分を変化させる方法である。酵母は、例えば、パンの製造、清酒やビール、ワインなどの醸造に利用されるが、これら酵母を利用して製造される発酵食品における芳香成分を変化させることが可能である。
【0036】
<発酵食品の製造方法>
本実施形態の発酵食品の製造方法は、ユーグレナと食品原料を、酵母で発酵させる発酵食品の製造方法である。対象となる発酵食品は特に限定されるものではないが、例えば、パン、清酒やビール、ワインなどのアルコール飲料があげられる。
【実施例0037】
以下、具体的実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0038】
<試験1>
酵母の培養に用いられるSD培地は、酵母の生育に必須の成分と炭素源が含まれたDOB培地と、アミノ酸が多く含まれるCSM培地を合わせたものである(図1)。試験1では、ユーグレナ粉末でCSM培地のアミノ酸成分を代替し、従来のSD培地よりも酵母の培養を促進させる培地を作製できるか検討した。
【0039】
<ユーグレナの加水分解処理>
ユーグレナとして、ユーグレナ・グラシリスを含有する、からだにユーグレナプラスグリーンカプセル(ユーグレナ)内容物を用いた。これに含有されるユーグレナ粉末は、ユーグレナの生細胞に乾燥処理及び機械的処理がなされたユーグレナの死滅藻体(ユーグレナ死細胞)である。この粉末250mgを3.5%硫酸5mlに懸濁し、100℃で22時間インキュベートすることによって加水分解を促進した。その後さらにCa(OH)水溶液で中和しpH=4.5に調整した。pH調整した溶液をオートクレーブ処理し、これをユーグレナの加水分解物とした。このように調製したユーグレナ加水分解物を、下記の試験に利用した。
【0040】
<酵母の培養>
酵母は日清スーパーカメリヤ(登録商標)ドライイースト(日清製粉welna)を利用し、DOB培地を用いて30℃、24時間の前培養を行った。本培養の条件は(1)DOB培地のみ、(2)SD培地(DOB+CSM)、(3)DOB培地2ml+ユーグレナ栄養成分1ml、(4)ユーグレナ栄養成分のみの4条件とし、全て3mlスケールで30℃、150rpmで培養を行った。分光光度計(島津UV-2700)を使用し、24時間ごとに波長600nmの濁度(OD600)により、酵母の増殖の測定を行った。
【0041】
<試験1の結果と考察>
図2に示す結果より、DOB培地単体より、CSM培地を添加したSD培地の方が最終到達濃度が高いことを確認した。また、ユーグレナの栄養成分だけを培地成分として用いた場合にも酵母はSD培地と同等の増殖を示し、DOB培地にユーグレナ栄養成分を添加した場合には、各培地よりも高い増殖を示した。
【0042】
<試験2>
試験2では、ユーグレナ生細胞が含有する栄養成分でCSM培地のアミノ酸成分を代替し、従来のSD培地よりも酵母の培養を促進させる培地を作製できるか検討した。
【0043】
<ユーグレナの培養>
ユーグレナとして、ユーグレナ・グラシリスZ株(NIES-48株)を用いた。ユーグレナの細胞を多く回収する必要があるため糖を含むKH培地を使用し、70mlの培養スケールを2本分作製した。培養はインキュベーターCLE-303で、空気中の濃度1%(v/v)のCOを含んだ空気を培地にバブリングしながら6日間行った。インキュベーター内の温度は25℃で、アルミホイルで遮光し、暗条件とした。
【0044】
<ユーグレナの加水分解処理>
培養終了後、ユーグレナの細胞1.1306g相当を遠心分離によって回収し、培地成分を洗浄後、凍結乾燥機で細胞を乾燥させた。乾燥細胞を3.5%硫酸17mlで100℃、22時間の熱処理を行った後、Ca(OH)水溶液を用いてpH=4.5に調整した。pH調整した溶液をオートクレーブ処理し、これをユーグレナの加水分解物とした。このように調製したユーグレナ加水分解物を、下記の試験に利用した。
【0045】
<酵母の培養>
酵母は日清スーパーカメリヤ(登録商標)ドライイースト(日清製粉welna)を利用し、DOB培地を用いて30℃、24時間の前培養を行った。本培養の条件はDOB培地に対して、ユーグレナ加水分解物各種濃度を1ml加え、全て3mlスケールで30℃、150rpmで培養を行った。培地のユーグレナ加水分解物の濃度はそれぞれ10%、20%、30%、40%、50%、60%とした。
【0046】
分光光度計(島津UV-2700)を使用し、24時間ごとに波長600nmの濁度(OD600)により、酵母の増殖の測定を行った。
【0047】
<試験2の結果と考察>
測定結果より、増殖全体の大きい差は見られなかったものの、10%程度の低い濃度では全体を通してOD600の値が小さく、50%~60%程度の高い濃度では48時間までのOD600の値が小さくなる傾向にあった(図3)。
【0048】
これらの結果から、ユーグレナ生細胞の加水分解物をDOB培地に添加すると、その濃度に依存して酵母の増殖が促進されることがわかった。ユーグレナの持つアミノ酸やビタミンなどが栄養成分として利用されたほか、加水分解処理によってパラミロンが分解されて糖として利用されたことで、通常の培地よりも増殖が促進した可能性も考えられる。また、ユーグレナ加水分解物の濃度を30~40%程度にすると、最も酵母が増殖する傾向にあるといえる。
【0049】
<試験3>
酵母用合成培地中のアミノ酸をE.gracilisで代替することを目的とし、S.cerevisiaeの増殖量を調べることとした。試験3では、E.gracilisの酸加水分解物を培地成分として利用してS.cerevisiaeを複数種類比較して培養することで、E.gracilisの酵母用培地としての有用性を検討した。
【0050】
<E.gracilis培養・酸加水分解>
ユーグレナ・グラシリスZ株(NIES-48株)を従属栄養培地であるKH培地(70ml)に添加し、暗好気条件下で8日間培養した。インキュベーター内で培養し、温度は25℃とした。細胞洗浄を行った後、6日間凍結保存した。サンプル(新鮮重量で1.24g)に3.5%のHSO水溶液(25ml)を加え、100℃で22時間酸加水分解を行った。Ca(OH)水溶液でpH3.5まで中和した後、オートクレーブで滅菌した。これをE.gracilis酸加水分解物とした。
【0051】
<S.cerevisiae培養>
4種類のドライイースト(イーストA:日清スーパーカメリヤ(登録商標)ドライイースト、イーストB:パイオニア企画-お徳用ドライイースト、イーストC:saf-instant(登録商標)ドライイースト-赤、イーストD:Tomizインスタントドライイースト-金)を使用した。酵母用合成培地は、酵母の生育に必要最低限な栄養素を含むDOB培地(26.7g/L)と、14種類のアミノ酸を含むCSM培地(0.79g/L)を使用した。
【0052】
DOB培地(3ml)、DOB培地(2ml)+CSM培地(1ml)、DOB培地(2ml)+E.gracilis酸加水分解物(1ml)のそれぞれに前培養したドライイーストをOD600=0.1となるように添加し、7日間振盪培養を行った。
【0053】
<試験3の結果と考察>
4種類の全てのドライイーストにおいて、DOB培地にE.gracilis酸加水分解物を添加した培地でOD600の値が最も高くなった(図4図7)。次いでDOB培地、DOB培地+CSM培地の順にOD600の値が高かった(図4図7)。イーストD:Tomizドライイーストでは、DOB培地で最大OD600の値が5.4、DOB培地+CSM培地で3.9であったのに対して、DOB培地+E.gracilis酸加水分解物では8.5であった(図7)。
【0054】
以上の結果より、DOB培地にE.gracilis酸加水分解物を添加した培地でS.cerevisiaeを培養すると、DOB培地及びDOB培地+CSM培地での培養よりもよく増殖した(図8)。これより、E.gracilis酸加水分解物には、S.cerevisiaeが増殖するために利用する糖類、ビタミン、ミネラル、アミノ酸などの栄養素を十分に含んでいる可能性があるといえる。
【0055】
DOB培地+CSM培地よりもDOB培地のみで培養した方が、OD600の値が高くなった理由としては、CSM培地に含まれるアミノ酸によりS.cerevisiaeの生育阻害が起きたと考えられる。
【0056】
<試験4>
ユーグレナとドライイーストを混合してパンを作製した。発酵中はエタノールに加えて、有機酸やエステル、アルデヒド、ケトン類など、複数の化合物が混在する香りがした。また、パンを焼いた時は、メイラード反応で生成するアミノ酸と糖などからなる人工的な化合物であるメラノイジン(褐色物質)の香りがした。ユーグレナが豊富に持つ含硫アミノ酸、及び香りのもととなる各種化合物を代謝して、条件によっては芳香も放つ可能性もある。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8