IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社河合楽器製作所の特許一覧

<>
  • 特開-鍵盤装置 図1
  • 特開-鍵盤装置 図2
  • 特開-鍵盤装置 図3
  • 特開-鍵盤装置 図4
  • 特開-鍵盤装置 図5
  • 特開-鍵盤装置 図6
  • 特開-鍵盤装置 図7
  • 特開-鍵盤装置 図8
  • 特開-鍵盤装置 図9
  • 特開-鍵盤装置 図10
  • 特開-鍵盤装置 図11
  • 特開-鍵盤装置 図12
  • 特開-鍵盤装置 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121466
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】鍵盤装置
(51)【国際特許分類】
   G10B 3/12 20060101AFI20240830BHJP
   G10H 1/34 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
G10B3/12 100
G10B3/12 110
G10H1/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028594
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】000001410
【氏名又は名称】株式会社河合楽器製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 昭裕
【テーマコード(参考)】
5D478
【Fターム(参考)】
5D478BD01
(57)【要約】
【課題】押鍵時にヒンジ部に不要な変形が生じにくい技術を提供すること。
【解決手段】鍵盤装置は、複数の鍵が回動可能に設けられた鍵盤と、鍵盤を支持する鍵盤シャーシと、を備える。鍵は、前後方向に延びる鍵本体と、鍵盤シャーシに固定される固定部と、鍵本体の後端側と固定部とを接続する接続部と、備える。接続部は、弾性を有し固定部と接続されるヒンジ部を備える。ヒンジ部は、押鍵時にヒンジ部と固定部との接続部分における鍵の回動の支点に加わる力の方向と同じ方向に沿って、固定部から上方に延びるように設けられている。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の鍵が回動可能に設けられた鍵盤と、前記鍵盤を支持する鍵盤シャーシと、を備えた鍵盤装置であって、
前記鍵は、前後方向に延びる鍵本体と、前記鍵盤シャーシに固定される固定部と、前記鍵本体の後端側と前記固定部とを接続する接続部と、備え、
前記接続部は、一部又は全体が、弾性を有し前記固定部と接続されるヒンジ部により構成されており、
前記ヒンジ部は、押鍵時に前記ヒンジ部と前記固定部との接続部分における前記鍵の回動の支点に加わる力の方向と同じ方向に沿って、前記固定部から上方に延びるように設けられた、
鍵盤装置。
【請求項2】
請求項1に記載の鍵盤装置であって、
前記接続部は、前記上方に突出するように曲がった形状を有するとともに、前記接続部の後端側に前記ヒンジ部を有する、
鍵盤装置。
【請求項3】
請求項2に記載の鍵盤装置であって、
前記接続部は、前記鍵本体の後端側より前記上方に突出する接続凸部を備え、
前記ヒンジ部は、前記接続凸部の後端側と前記固定部とを接続するように構成された、
鍵盤装置。
【請求項4】
請求項3に記載の鍵盤装置であって、
前記鍵盤を前記複数の鍵の並び方向から見た場合に、前記鍵本体及び前記接続凸部の厚みは、前記ヒンジ部の厚みよりも大である、
鍵盤装置。
【請求項5】
請求項1に記載の鍵盤装置であって、
前記鍵盤を前記複数の鍵の並び方向から見た場合に、前記ヒンジ部は、前記回動の支点において鉛直線に対して前側に傾斜して設けられた、
鍵盤装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電子ピアノ等の鍵盤楽器に用いることができる鍵盤装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、鍵盤楽器の押鍵時に鍵を回動可能に支持するために、鍵と鍵を鍵盤シャーシに固定する固定部とを接続するように、薄肉で板状のヒンジ部を設けた構造が知られている。このヒンジ部は、弾性を有しており、押鍵時には固定部との接続部分を回動の支点にして回動することにより押鍵を可能にする部材である。
【0003】
ヒンジ部としては、例えば、特許文献2に記載のように、鍵と固定部とを水平に繋ぐように延びる構成や、垂直方向にU字状に曲げられた構成が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平3-30874号公報
【特許文献2】特開平10-116066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来技術では、ヒンジ部は薄肉で板状の部材であるので、演奏に際に強く押鍵された場合(即ち、強打演奏時)などには、ヒンジ部に不要な変形が生じる恐れがある。例えば、強打演奏時などでは、回動の支点以外の箇所で、ヒンジ部の上下方向や前後方向に変形が生じる恐れがある。このようにヒンジ部に不要な変形が生じると、ヒンジ部が破損し易くなったり、強打時の手応え感がなくなるなどの不具合が生じる恐れがある。
【0006】
本開示の一局面は、押鍵時にヒンジ部に不要な変形が生じにくい技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本開示の一態様は、複数の鍵が回動可能に設けられた鍵盤と、鍵盤を支持する鍵盤シャーシと、を備えた鍵盤装置である。
この鍵盤装置では、鍵は、前後方向に延びる鍵本体と、鍵盤シャーシに固定される固定部と、鍵本体の後端側と固定部とを接続する接続部と、を備える。接続部は、一部又は全体が、弾性を有し固定部と接続されるヒンジ部により構成される。ヒンジ部は、押鍵時にヒンジ部と固定部との接続部分における鍵の回動の支点に加わる力の方向と同じ方向に沿って、固定部から上方に延びるように設けられている。
【0008】
このような構成により、鍵盤楽器の演奏時に(特に、強打演奏時に)、ヒンジ部に大きな力が加わった場合でも、ヒンジ部に変形が生じにくいという効果がある。つまり、ヒンジ部は、押鍵の際に回動の支点に加わる力の方向と同じ方向に沿って延びるように設けられているので、強打演奏時等に回動の支点に大きな力が加わった場合でも、ヒンジ部に不要な変形が生じにくい。それにより、ヒンジ部の破損を抑制できるという効果や、強打時の手応え感がなくなることを抑制できるという効果がある。
【0009】
(2)本開示の一態様では、接続部は、上方に突出するように曲がった形状を有するとともに、接続部の後端側にヒンジ部を有していてもよい。このような構成により、接続部の下側の空間を有効利用することができる。
【0010】
(3)本開示の一態様では、接続部は、鍵本体の後端側より上方に突出する接続凸部を備え、ヒンジ部は、接続凸部の後端側と固定部とを接続するように構成されていてもよい。このような構成により、例えば、押鍵時に、接続凸部の後端側が上方に引き上げられるような力を受けた場合でも、ヒンジ部は破損し難いという利点がある。
【0011】
(4)本開示の一態様では、鍵盤を複数の鍵の並び方向から見た場合に、鍵本体及び接続凸部の厚みは、ヒンジ部の厚みよりも大であってもよい。つまり、ヒンジ部は、ヒンジ部が接続される部材より薄肉であるので、押鍵時にヒンジ部が好適に回動することが可能である。
【0012】
(5)本開示の一態様では、鍵盤を複数の鍵の並び方向から見た場合に、ヒンジ部は、回動の支点において鉛直線に対して前側に傾斜して設けられていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】鍵盤装置を鍵の並び方向から見た側面図である。
図2】(a)は鍵盤を示す斜視図、(b)は鍵盤を分解して示す分解斜視図である。
図3】(a)は白鍵用のハンマーの斜視図、(b)は白鍵用のハンマーをYZ平面に沿って破断した断面図である。
図4】白鍵用のハンマーの構造を示し、図5のIV-IV断面図である。
図5】鍵盤装置のうち白鍵の押鍵前の構成を示す側面図である。
図6】鍵盤装置のうち白鍵の押鍵後の構成を示す側面図である。
図7】白鍵の接続部の周辺を拡大して示す側面図である。
図8】(a)は白鍵の押鍵の開始時にヒンジ部に加わる力の方向を示す説明図、(b)は白鍵の押鍵後にヒンジ部に加わる力の方向を示す説明図である。
図9】黒鍵用のハンマーの構造を示し、図10のIX-IX断面図である。
図10】鍵盤装置のうち黒鍵の押鍵前の構成を示す側面図である。
図11】鍵盤装置のうち黒鍵の押鍵後の構成を示す側面図である。
図12】黒鍵の接続部の周辺を拡大して示す側面図である。
図13】(a)は黒鍵の押鍵の開始時にヒンジ部に加わる力の方向を示す説明図、(b)は黒鍵の押鍵後にヒンジ部に加わる力の方向を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の例示的な実施形態について図面を参照しながら説明する。
[1.全体構成]
図1に示すように、本実施形態の鍵盤装置1は、例えば電子ピアノ等の鍵盤楽器の鍵盤装置1として用いられるものである。
【0015】
鍵盤装置1は、白鍵3W及び黒鍵3Bの各鍵3が回動可能なように複数配置された鍵盤5と、鍵盤5を支持する鍵盤シャーシ7と、を備えている。
なお、以下では、白鍵3W側の部材にはWの記号を付し、黒鍵3B側の部材にはBの符号を付すが、白鍵3Wと黒鍵3Bとを区別しない場合には、WやBの記号を付さないことがある。
【0016】
また、図1等において、前後方向がXYZの直交座標系のY軸方向に対応し、上下方向(即ち、鉛直方向)がZ軸方向に対応し、Y軸及びZ軸に垂直な方向(即ち、鍵3が配列される左右方向)がX軸方向に対応する。なお、図1等の各図においては、鍵盤装置1は水平面上に載置されている状態を示している。
【0017】
図2(a)に鍵盤5の一部を示すように、鍵盤5は、複数の鍵3(即ち、白鍵3Wと黒鍵3B)が左右方向に配列されたものである。
この鍵盤5は、図2(b)に示すように、例えば、3本の白鍵3Wが一体になった白鍵部材11と、4本の白鍵3Wが一体になった他の白鍵部材13と、5本の黒鍵3Bが一体になった黒鍵部材15とを組み合わせて構成することができる。
【0018】
白鍵部材11、13及び黒鍵部材15は、それぞれ樹脂(例えば、ABS樹脂)により一体に構成されている。また、白鍵部材11、13には、それぞれ後端側に左右方向に延びる長尺の略板状の固定部17、19が設けられており、それぞれの固定部17、19に各白鍵3Wの後端側が一体に接続されている。同様に、黒鍵部材15には、後端側に左右方向に延びる長尺の略板状の固定部21が設けられており、その固定部21に各黒鍵3Bの後端側が一体に接続されている。
なお、各固定部17~21は、上下方向に重ね合わされて、ボルト22等の固定部材によって、鍵盤シャーシ7に対して一体に固定される(図1参照)。
【0019】
図1に示すように、鍵盤5の下方には、各鍵3毎に、各鍵3の押鍵動作に伴って、回動支点K1を中心に回動するハンマー23がそれぞれ配置されている。また、鍵盤シャーシ7には、ハンマー23の上方に、押鍵時にハンマー23の所定以上の回動を規制するために、ストッパ25が配置されている。なお、ストッパ25は、例えばフェルト等のクッション性を有する材料(即ち、緩衝材)からなる。
【0020】
例えば、図3及び図4に示すように、白鍵3W用のハンマー23Wは、樹脂製(例えば、ポリアセタール製)の長尺のハンマー本体27Wと、ハンマー本体27Wの後端側に取り付けられた金属製(例えば、鉄製)の錘29Wと、を有する。
【0021】
ハンマー23Wの前端側には、上方及び前方が開口した溝部31Wが設けられており、溝部31Wの底部33Wには、後述するように、白鍵3Wのアクチュエータ45W(例えば、図5参照)が接して摺動する摺動面37Wが設けられている。なお、黒鍵3B側のハンマー23Bについても、後述するように、ほぼ同様な構成を有する。
【0022】
[2.白鍵側の構成]
次に、白鍵3W側の構成について、図5図8に基づいて説明する。なお、ここでは、白鍵部材13を例に挙げて説明する。
【0023】
図5は白鍵3Wの押鍵前の状態を示しているので、ハンマー23Wの後端側の錘29Wは下に下がった状態である。一方、図6は押鍵後の状態を示しているので、ハンマー23Wの後端側の錘29Wは上に上がった状態である。
【0024】
図5及び図6に示すように、白鍵3Wは、前後方向に延びる長尺の鍵本体41Wと、鍵盤シャーシ7に固定される前記固定部19と、鍵本体41Wの後端側と固定部19の前端側とを接続する接続部43Wと、を備える。なお、図5及び図6では、黒鍵3B側の構成は省略してある。
【0025】
鍵本体41Wの下面側には、鍵本体41Wに対して垂直に、鍵本体41Wから下方に向かって突出するようにアクチュエータ45Wが設けられている。
アクチュエータ45Wは、鍵本体41Wから下方に突出する柱状の柱本体47Wと、柱本体47Wの先端側(即ち、下端側)に取り付けられた半球状の先端部49Wと、を備える。
【0026】
先端部49Wの半球状の表面は、押鍵前は、ハンマー23Wの摺動面37Wに接触しており、押鍵動作に伴って、摺動面37W上を摺動するとともに、ハンマー23Wの前端側を押し下げる機能を有する。
【0027】
そして、図6に示すように、ハンマー23Wの前端側が押し下げられると、ハンマー23Wは回動支点K1を中心に回動(即ち、左回転方向に回動)することにより、ハンマー23Wの後端側(即ち、錘29W)が押し上げられる。
【0028】
また、前記接続部43Wは、X軸方向から見た場合に(即ち、側面視で)、鍵本体41Wの上面41Waを含む平面よりも上方に突出するように曲がった形状(即ち、下側が開口するように台形状に屈曲する形状)を有している。そして、接続部43Wの後端側に、弾性を有する薄肉で板状のヒンジ部51Wを備えている。
【0029】
つまり、接続部43Wは、X軸方向から見た場合に、鍵本体41Wの後端側に、略L字形状の接続凸部53Wを備えるとともに、接続凸部53Wの後端側にヒンジ部51Wを備えている。接続凸部53Wは、鍵本体41Wの上面41Waを含む平面よりも上方に延びており、接続凸部53Wの後端側と固定部19の前端側とが、ヒンジ部51Wによって接続されている。
【0030】
具体的には、接続凸部53Wは、鍵本体41Wの後端側から上方に向かって(詳しくは、斜め後方に)延びる突出部55Wと、突出部55Wの後端側から鍵本体41Wの上面41Waと平行に後方に延びる(即ち、前後方向に延びる)平行部57Wと、を備えている。そして、平行部57Wの後端側に、ヒンジ部51Wの上端が接続されており、ヒンジ部51Wは、平行部57Wの後端から下方に向かって(詳しくは、斜め後方に)延びている。
【0031】
ヒンジ部51Wは、演奏時に押鍵された場合には、回動可能な平板形状の部材である。即ち、ヒンジ部51Wは、押鍵時(即ち、打鍵時)には、固定部19との接続部分である鍵支点K2を中心にして曲がるように回動可能である。なお、ヒンジ部51Wは、板厚方向から見た場合の形状は長方形であり、その厚みは一定である。
【0032】
また、鍵盤5を複数の鍵3の並び方向(即ち、X軸方向)から見た場合に、鍵本体41W及び接続凸部53Wの厚みは、ヒンジ部51Wの厚みよりも大である。つまり、ヒンジ部51Wは、鍵本体41W及び接続凸部53Wの厚みよりは薄い。なお、ヒンジ部51Wの厚みは、固定部19の厚みより薄い。
【0033】
従って、ヒンジ部51Wは、例えば矢印P1の位置で白鍵3Wを押した場合の押鍵時には、固定部19との接続部分(即ち、鍵支点K2)において、矢印A方向(詳しくは、図6における左回転方向)に回動可能となっている。
【0034】
特に本実施形態では、図7図6の一部を拡大して示すように、ヒンジ部51Wは、固定部19の前端部分から上方に(詳しくは、若干前方に傾斜して)延びるように、即ち、鍵本体41Wの上面41Waを含む平面よりも上方に延びるように設けられている。
しかも、ヒンジ部51Wは、押鍵時にヒンジ部51Wと固定部19との接続部分(即ち、鍵支点K2)に加わる力の方向(即ち、矢印B方向)と同じ方向に沿って延びるように設けられている。
【0035】
詳しくは、X軸方向から見た場合に、ヒンジ部51Wは、鍵支点K2において、Z軸方向に延びる垂線(即ち、鉛直線)SUに対して、所定角度(即ち、傾斜角θ)だけ前方に傾斜している。ここで、傾斜角θとしては、例えば、ヒンジ部51Wの下端(即ち、鍵支点K2)と上端とを結ぶ線と垂線SUとの角度を採用できる。なお、押鍵後(即ち、ストッパ25での停止後)の傾斜角θは押鍵前の傾斜角θより大である。
【0036】
また、傾斜角θとしては、押鍵の前後において、例えば16°~19°の範囲を採用できる。傾斜角θがこの範囲であれば、押鍵時に、鍵支点K2において、ヒンジ部51Wの延びる方向とヒンジ部51Wに加わる力の方向とを一致させることが可能である。
【0037】
つまり、本実施形態では、押鍵時に、詳しくは、押鍵開始時から押鍵後までの期間のある時点(例えば、押鍵開始時又は押鍵後の時点)にて、鍵支点K2において、ヒンジ部51Wに加わる力の方向とヒンジ部51Wの延びる方向とが一致するように、ヒンジ部51Wの傾斜角θ(例えば、押鍵前の傾斜角θ)が設定してある。なお、押鍵前と押鍵開始時との傾斜角θは同じとする。
【0038】
<接続部周辺の構成>
ここで、接続部43Wの周辺の特徴的な構成について説明する。
図7に示すように、接続部43Wは、上述したように、上方に凸となるように曲がった構成である。具体的には、下方にゆくほど広がる左右一対の脚部を備えた台形のように、平行部57Wの前端から斜め下方の前側に向かって突出部55Wが延び、平行部57Wの後端から斜め下方の後側に向かってヒンジ部51Wが延びる構成である。
【0039】
従って、接続部43Wの下側には、X軸方向から見て略台形の空間61が、X軸方向に沿って形成されている。
この空間61には、接続部43Wの下側の内側面に沿って、X軸方向から見た場合の形状が略台形の板状の内部支持部63が、X軸方向に延びるように配置されている。また、内部支持部63の上面には、平行部57Wに達するように上方に突出する上部規制部65が設けられている。なお、上部規制部65とは、押鍵時に左右方向(即ち、X軸方向)に力が加わった場合に、平行部57Wに接触してその左右方向の移動を規制することにより、ヒンジ部51Wの破損を防ぐ部材である。
【0040】
<白鍵の動作>
次に、白鍵3Wの動作について、図8に基づいて説明する。
図8(a)に示すように、白鍵3Wの押鍵前の状態では、アクチュエータ45Wの先端部49Wが、ハンマー23Wの摺動面37Wに接触している。
【0041】
この状態で、例えば白鍵3Wの前端側が矢印P1の位置にて押されると(即ち、押鍵の開始時には)、白鍵3Wを押す力がアクチュエータ45Wを介して、ハンマー23Wの摺動面37Wを押圧する。なお、矢印P1の位置とは、アクチュエータ45Wが設けられた位置より前側の位置である。
【0042】
このとき、ヒンジ部51Wに加わる力の方向は、X軸方向から見て、アクチュエータ45Wの先端部49Wと摺動面37Wとの接点S1と鍵支点K2とを結ぶ直線L1に対して垂直の方向(矢印R1方向)である。
【0043】
このように、白鍵3Wが矢印P1の位置にて押されると、アクチュエータ45Wの先端部49Wの接点S1を支点として、鍵支点K2において矢印R1方向の上側に向かって(即ち、Rupの向きの)力が加わることになる。
【0044】
なお、白鍵3Wがアクチュエータ45Wよりも後端側の矢印P2の位置にて押されると、アクチュエータ45Wの先端部49Wの接点S1を支点として、鍵支点K2において矢印R1方向の下側に向かって(即ち、Rdwの向きの)力が加わることになる。
【0045】
次に、図8(b)に示すように、白鍵3Wの押鍵が下端までなされた場合には、アクチュエータ45Wによってハンマー23Wの摺動面37Wが下端まで押し下げられるので、ハンマー23Wの後端側が上昇し、ストッパ25に当たって、その上昇が規制される。
【0046】
このとき、ヒンジ部51Wに加わる力の方向は、X軸方向から見て、アクチュエータ45Wの先端部49Wと摺動面37Wとの接点S1と鍵支点K2とを結ぶ直線L2に対して垂直の方向(矢印R2方向)である。
【0047】
このように、白鍵3Wが矢印P1の位置にて押されると、アクチュエータ45Wの先端部49Wの接点S1を支点として、鍵支点K2において矢印R2方向の上側に向かって(即ち、Rupの向きの)力が加わることになる。
【0048】
なお、白鍵3Wがアクチュエータ45Wよりも後端側の矢印P2の位置にて押されると、アクチュエータ45Wの先端部49Wの接点S1を支点として、鍵支点K2において矢印R2方向の下側に向かって(即ち、Rdwの向きの)力が加わることになる。
【0049】
なお、直線L1と直線L2の傾きは、若干異なっており、水平(Y軸)に対して、直線L2の傾きは直線L1の傾きに比べて大きい。
[3.黒鍵側の構成]
次に、黒鍵3B側の構成について、図9図13に基づいて説明するが、白鍵3Wと同様な構成については、説明を省略又は簡易化する。
【0050】
図9及び図10に示すように、各黒鍵3B毎に配置されるハンマー23Bは、白鍵3W側のハンマー23Wと同様に、ハンマー本体27Bと錘29Bとを備える。
ハンマー本体27Bは、基本的に、ハンマー本体27Wとほぼ同様な形状であり、ハンマー本体27Bの前端側に、ハンマー本体27Wの溝部31Wや底部33Wや摺動面37Wと同じ形状の溝部31Bや底部33Bや摺動面37Bを備える。なお、この摺動面37Bは、アクチュエータ45Bの先端部49Bが摺動する摺動面である。
【0051】
また、錘29Bの形状は、図10及び図11に示すように、錘29Wの形状と若干異なっており、錘29Bの上端は錘29Wの上端よりも高さが低くなっている。
また、黒鍵3Bは、前後方向に延びる鍵本体41Bと、鍵盤シャーシ7に固定される前記固定部21と、鍵本体41Bの後端側と固定部21とを接続する接続部43Bと、備える。なお、図10及び図11では、白鍵3W側の構成は省略してある。
【0052】
鍵本体41Bの先端部分の下面側には、鍵本体41Bに対して垂直に、鍵本体41Bから下方に向かって突出するようにアクチュエータ45Bが設けられている。
アクチュエータ45Bは、鍵本体41Bから突出する柱状の柱本体47Bと、柱本体47Bの先端側(即ち、下端側)に取り付けられた半球状の先端部49Bと、を備える。
【0053】
先端部49Bは、押鍵前は、ハンマー23Bの摺動面37Bに接触しており、押鍵動作に伴って、摺動面37B上を摺動するとともに、ハンマー23Bの先端側を押し下げる機能を有する。そして、図11に示すように、ハンマー23Bの先端側が押し下げられると、ハンマー23Bは回動支点K1を中心に回動することにより、ハンマー23Bの後端側(即ち、錘29B)が押し上げられる。
【0054】
図11に示すように、接続部43Bは、白鍵3Wと同様に、上方に突出するように曲がった形状(即ち、下側が開口し台形状に凸に曲がった形状)を有している。この接続部43BをX軸方向から見た形状は、白鍵3Wの接続部43Wと同様である。つまり、接続部43Bは、X軸方向から見た場合に、接続部43Bの周囲の上面41Baより上方に突出している。
【0055】
また、接続部43Bの後端側に、弾性を有する薄肉で板状のヒンジ部51Bを備えている。このヒンジ部51Bは、演奏時に押鍵された場合には、白鍵3Wと同様に、鍵支点K2にて回動可能な長方形の平板形状の部材である。なお、ヒンジ部51Bの厚みは一定である。
【0056】
詳しくは、接続部43Bは、X軸方向から見た場合に、鍵本体41Bの後端側より、上方に突出して延びる略L字形状の接続凸部53Bを備えており、ヒンジ部51Bは、接続凸部53Bの後端側と固定部21とを接続するように構成されている。
【0057】
具体的には、接続凸部53Bは、鍵本体41Bの後端側から上方に向かって(詳しくは、斜め後方に)延びる突出部55Bと、突出部55Bの後端側から前後方向に平行に後方に延びる平行部57Bと、を備えている。そして、平行部57Bの後端側に、ヒンジ部51Bの上端が接続されており、ヒンジ部51Bは、平行部57Bの後端から下方に向かって(詳しくは、斜め後方に)延びている。
【0058】
また、鍵盤5をX軸方向から見た場合に、鍵本体41B及び接続凸部53Bの厚みは、ヒンジ部51Bの厚みよりも大である。つまり、ヒンジ部51Bは、鍵本体41B及び接続凸部53Bの厚みよりは薄い。なお、ヒンジ部51Bの厚みは、固定部21の厚みより薄い。
【0059】
従って、ヒンジ部51Bは、例えば矢印P3の位置で黒鍵3Bを押した場合には、固定部21との接続部分(即ち、鍵支点K2)において、矢印A方向(詳しくは、図11における左回転方向)に回動可能となっている。
【0060】
特に本実施形態では、図12図11の一部を拡大して示すように、ヒンジ部51Bは、固定部21から上方に延びるように設けられ、且つ、押鍵時にヒンジ部51Bと固定部21との接続部分の鍵支点K2に加わる力の方向(即ち、矢印B方向)と同じ方向に沿って設けられている。
【0061】
また、X軸方向から見た場合に、ヒンジ部51Bは、白鍵3Wと同様に、鍵支点K2において、Z軸方向に延びる垂線SUに対して、所定角度(即ち、傾斜角θ)だけ前方に傾斜して設けられている。なお、前記傾斜θとしては、前記白鍵3Wと同じ値及び範囲を採用できる。
【0062】
<接続部周辺の構成>
ここで、接続部43Bの周辺の特徴的な構成について説明するが、基本的には、白鍵3Wの接続部43Wの周辺と同様な構成である。
【0063】
接続部43Bは、上述したように(即ち、白鍵3Wの接続部43Wと同様に)、上方に凸となるように曲がった構成である。つまり、下方にゆくほど広がる左右一対の脚部を備えた台形の形状である。
【0064】
従って、接続部43Bの下側には、X軸方向から見て、略台形の空間61が形成されている。
この空間61には、接続部43Bの下側の内側面に沿って、X軸方向に延びる略台形の前記内部支持部63が配置されている。また、内部支持部63の上面には、平行部57Bに達するように上方に突出する前記上部規制部65が設けられている。
【0065】
<黒鍵の動作>
次に、黒鍵3Bの動作について、図13に基づいて説明する。
図13(a)に示すように、黒鍵3Bの押鍵前の状態では、アクチュエータ45Bの先端部49Bが、ハンマー23Bの摺動面37Bに接触している。
【0066】
この状態で、例えば黒鍵3Bが矢印P3の位置にて押されると(即ち、押鍵の開始時には)、黒鍵3Bを押す力がアクチュエータ45Bを介して、ハンマー23Bの摺動面37Bを押圧する。
【0067】
このとき、ヒンジ部51Bに加わる力の方向は、X軸方向から見て、アクチュエータ45Bの先端部49Bと摺動面37Bとの接点S1と鍵支点K2とを結ぶ直線L3に対して垂直の方向(矢印R3方向)である。
【0068】
このように、黒鍵3Bが矢印P3の位置にて押されると、鍵支点K2において矢印R3方向の下側に向かって(即ち、Rdwの向きの)力が加わることになる。
次に、図13(b)に示すように、黒鍵3Bの押鍵が下端までなされた場合には、アクチュエータ45Bによってハンマー23Bの摺動面37Bが下端まで押し下げられるので、ハンマー23Bの後端側が上昇し、ストッパ25に当たって、その上昇が規制される。
【0069】
このとき、ヒンジ部51Bに加わる力の方向は、X軸方向から見て、アクチュエータ45Bの先端部49Bと摺動面37Bとの接点S1と鍵支点K2とを結ぶ直線L4に対して垂直の方向(矢印R4方向)である。
【0070】
このように、黒鍵3Bが矢印P3の位置にて押されると、鍵支点K2において矢印R4方向の下側に向かって(即ち、Rdwの向きの)力が加わることになる。
なお、直線L3と直線L4の傾きは、若干異なっており、水平(Y軸)に対して、直線L4の傾きは直線L3の傾きに比べて大きい。
【0071】
[4.効果]
以上詳述した実施形態によれば、以下の効果が得られる。なお、以下では、W、Bの記号を省略している。
【0072】
(4a)本実施形態では、鍵盤装置1では、各鍵3は、前後方向に延びる鍵本体41と、鍵盤シャーシ7に固定される固定部17~21と、鍵本体41の後端側と固定部17~21とを接続する接続部43と、備える。さらに、接続部43は、弾性を有し固定部17~21と接続されるヒンジ部51を備える。ヒンジ部51は、押鍵時にヒンジ部51と固定部17~21との接続部分における鍵支点K2に加わる力の方向と同じ方向に沿って、固定部17~21から上方に延びるように設けられている。
【0073】
このような構成により、鍵盤楽器の演奏時に(特に、強打演奏時に)、ヒンジ部51に大きな力が加わった場合でも、ヒンジ部51に変形が生じにくいという効果がある。つまり、ヒンジ部51は、押鍵の際に鍵支点K2に加わる力の方向と同じ方向に沿って延びるように設けられているので、強打演奏時等に鍵支点K2に大きな力が加わった場合でも、ヒンジ部51に不要な変形が生じにくい。それにより、ヒンジ部51の破損を抑制できるという効果や、強打時の手応え感がなくなることを抑制できるという効果がある。
【0074】
(4b)本実施形態では、接続部43は、上方に突出するように曲がった形状を有するとともに、接続部43の後端側にヒンジ部51を有している。このような構成により、接続部43の下側の空間61を有効利用することができる。
【0075】
(4c)本実施形態では、接続部43は、鍵本体41の後端側より上方に突出する接続凸部53を備え、ヒンジ部51は、接続凸部53の後端側と固定部17~21とを接続するように構成されている。このような構成により、例えば、押鍵時に、接続凸部53の後端側が上方に引き上げられるような力を受けた場合でも、ヒンジ部51は力の加わる方向に延びているので破損し難いという利点がある。
【0076】
(4d)本実施形態では、鍵盤5を複数の鍵3の並び方向から見た場合に、鍵本体41及び接続凸部53の厚みは、ヒンジ部51の厚みよりも大である。つまり、ヒンジ部51は、ヒンジ部51が接続される部材より薄肉であるので、押鍵時にヒンジ部51が好適に回動することが可能である。
【0077】
[5.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は、上記実施形態に限定されることなく、種々の形態を採り得ることは言うまでもない。
【0078】
(5a)例えば、接続部の形状(X軸方向から見た形状)としては、台形の形状に限らず、各種の形状を採用できる。例えば、上方に突出するように湾曲した形状などを採用できる。
【0079】
(5b)前記実施形態では、接続部に略L字形状の接続凸部を設け、その後端側にヒンジ部を設ける例を挙げたが、その構成に限定されるものではない。例えば、接続凸部は上方に突出していればいいので、略L字形状でなくともよい。
【0080】
(5c)また、接続部としては、前記実施形態のように、後端側の一部がヒンジ部である構成以外に、全体がヒンジ部からなる構成を採用できる。例えば、鍵本体に対して固定部の位置を下げる構成を採用する場合には、鍵本体の後端側に直接にヒンジ部を接続するようにしてもよい(つまり、接続部全体をヒンジ部としてもよい)。この場合は、鍵本体の位置が高いので、鍵本体の後端から斜め下方に向かって(即ち、斜め下方の固定部に向かって)ヒンジ部が延びる構成を採用できる。
【0081】
(5d)上記実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素として分散させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に統合したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。
【符号の説明】
【0082】
1…鍵盤装置、3…鍵、5…鍵盤、7…鍵盤シャーシ、17、19、21…固定部、23、23W、23B…ハンマー、41W、41B…鍵本体、43W、43B…接続部、51W、51B…ヒンジ部、53W、53B…接続凸部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13