(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121476
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】溶接トーチ
(51)【国際特許分類】
B23K 9/29 20060101AFI20240830BHJP
【FI】
B23K9/29 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028609
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】源元 徹志
【テーマコード(参考)】
4E001
【Fターム(参考)】
4E001LD09
4E001MA02
4E001MB03
4E001NA06
4E001NA07
(57)【要約】
【課題】溶接トーチを廉価に構成しつつ、ハンドルの仮想軸周りの種々の角度においてトーチボディの位置を固定する。
【解決手段】溶接トーチは、トーチボディ3と、ハンドル4とを備える。ハンドル4には、トーチボディ3が接続される。トーチボディ3は、ハンドル4との導体接触面となる鍔状の第1面部110および第1面部110からハンドル4側に向かって突出した突出部122を含む。ハンドル4は、第1面部110と嵌合しつつ当接する第2面部210を含む。第2面部210には、ハンドル4の仮想軸Aの周方向に互いに間隔をあけて複数の凹部213が設けられている。突出部122が複数の凹部213のいずれかに係合することによって、ハンドル4に対するトーチボディ3の周方向の位置が固定される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トーチボディと、
前記トーチボディが接続されるハンドルとを備え、
前記トーチボディは、前記ハンドルとの導体接触面となる鍔状の第1面部および該第1面部からハンドル側に向かって突出した突出部を含み、
前記ハンドルは、前記第1面部と嵌合しつつ当接する第2面部を含み、
前記第2面部には、前記ハンドルの仮想軸の周方向に互いに間隔をあけて複数の凹部が設けられており、
前記突出部が前記複数の凹部のいずれかに係合することによって、前記ハンドルに対する前記トーチボディの前記周方向の位置が固定される、溶接トーチ。
【請求項2】
前記第1面部は、前記仮想軸の軸周りに位置する第1傾斜面部を有し、
前記第2面部は、前記第1傾斜面部に嵌合する第2傾斜面部を有し、
前記突出部の少なくとも一部は、前記第1傾斜面部から突出しており、
前記複数の凹部の各々の少なくとも一部は、前記第2傾斜面部に形成されている、請求項1に記載の溶接トーチ。
【請求項3】
前記第1面部は、前記仮想軸に直交する環状の第1平面部をさらに有し、
前記第2面部は、前記第1平面部と当接する第2平面部をさらに有し、
前記第1傾斜面部は、前記第1平面部の内側に位置しており、
前記第1傾斜面部は、前記ハンドル側に向かうにしたがって縮径している、請求項2に記載の溶接トーチ。
【請求項4】
前記第1面部は、前記仮想軸に直交する環状の第1平面部をさらに有し、
前記第2面部は、前記第1平面部と当接する第2平面部をさらに有し、
前記第1傾斜面部は、前記第1平面部の外側に位置しており、
前記第1傾斜面部は、前記ハンドル側に向かうにしたがって拡径しており、
前記第1傾斜面部の先端は、前記突出部の先端よりハンドル寄りに位置している、請求項2に記載の溶接トーチ。
【請求項5】
前記トーチボディは、前記第1面部に対して前記ハンドル側とは反対側に雄ねじ部をさらに含み、
前記ハンドルは、前記第2面部を外側から囲みつつ、内周に雌ねじ部を有するナット部材をさらに含み、
前記雄ねじ部および前記雌ねじ部が螺合することによって、前記トーチボディおよび前記ハンドルが接続される、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の溶接トーチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接トーチに関する。
【背景技術】
【0002】
水冷式溶接トーチのパイプエルボと接続装置とを着脱自在に接続するプラグ部およびソケット部を開示した先行技術文献として、米国特許第9533369号明細書(特許文献1)がある。特許文献1に記載された溶接トーチは、トーチネックを備える。トーチネックは、ホースパッケージを通じて溶接装置に接続されている。トーチネックは、接続装置によってホースパッケージに着脱可能である。接続装置は、プラグ部と、ソケット部とを備える。プラグ部は、トーチネックに接続されている。ソケット部は、ホースパッケージに接続されている。プラグ部には、少なくとも1つの開口が設けられている。ソケット部は、ピン状要素を含む。プラグ部の開口とソケット部のピン状要素とが嵌合することによって、トーチネックが特定の角度で固定される。
【0003】
ロボットまたは自動溶接機におけるトーチ構造を開示した先行技術文献として、特開平8-229688号公報(特許文献2)がある。特許文献2に記載されたトーチは、把持部ボディと、トーチボディとを備える。把持部ボディは、前方突出部を含む。前方突出部には、溝が形成されている。トーチボディにはフランジが装着されている。フランジの両側面は、上記溝と略同じ幅となるようにカットされたカット面が形成されている。把持部ボディにおける前方突出部の溝にフランジのカット面を当接させることによって、把持部ボディに対するトーチボディの曲がり方向が決められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第9533369号明細書
【特許文献2】特開平8-229688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1においては、溶接装置側に配置されるソケット部が冷却水流路などの複雑な内部構成を有するため、トーチボディ側に配置されるプラグ部と比較して、高価になることがある。プラグ部とソケット部との着脱時に、外部からの衝撃などによってソケット部のピン状要素が破損した場合、ピン状要素を高価なソケット部とともに交換するため、溶接トーチの維持コストが高くなる。このため、溶接トーチをより廉価に構成しつつ、トーチボディの位置を固定することができる余地がある。
【0006】
特許文献2においては、把持部ボディ側に形成された溝とトーチボディのフランジの両面に形成されたカット面とを当接させる構造上、把持部ボディに対するトーチボディの周方向における一方向の位置を決めることはできるが、周方向の種々の角度でトーチボディの位置を固定することが難しい。
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、廉価に構成しつつ、ハンドルの仮想軸周りの種々の角度においてトーチボディの位置を固定することができる、溶接トーチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に基づく溶接トーチは、トーチボディと、ハンドルとを備える。ハンドルには、トーチボディが接続される。トーチボディは、ハンドルとの導体接触面となる鍔状の第1面部および第1面部からハンドル側に向かって突出した突出部を含む。ハンドルは、第1面部と嵌合しつつ当接する第2面部を含む。第2面部には、ハンドルの仮想軸の周方向に互いに間隔をあけて複数の凹部が設けられている。突出部が複数の凹部のいずれかに係合することによって、ハンドルに対するトーチボディの周方向の位置が固定される。
【0009】
この場合、溶接トーチを廉価に構成しつつ、ハンドルの仮想軸周りの種々の角度においてトーチボディの位置を固定することができる。
【0010】
本発明の一形態においては、第1面部は、上記仮想軸の軸周りに位置する第1傾斜面部を有する。第2面部は、第1傾斜面部に嵌合する第2傾斜面部を有する。突出部の少なくとも一部は、第1傾斜面部から突出している。複数の凹部の各々の少なくとも一部は、第2傾斜面部に形成されている。
【0011】
これにより、第1傾斜面部および第2傾斜面部における傾斜面形状の誘い込みにより、凹部に対する突出部の挿入性を向上させることができる。
【0012】
本発明の一形態においては、第1面部は、上記仮想軸に直交する環状の第1平面部をさらに有する。第2面部は、第1平面部と当接する第2平面部をさらに有する。第1傾斜面部は、第1平面部の内側に位置している。第1傾斜面部は、ハンドル側に向かうにしたがって縮径している。
【0013】
この場合、第1傾斜面部が第1平面部の外側に位置し、かつ、ハンドル側に向かうにしたがって拡径している場合と比較して、上記仮想軸に沿う方向における第1傾斜面部および第2傾斜面部の高さを確保できるため、第1接続部材と第2接続部材との通電面積を広く確保することができる。
【0014】
本発明の一形態においては、第1面部は、上記仮想軸に直交する環状の第1平面部をさらに有する。第2面部は、第1平面部と当接する第2平面部をさらに有する。第1傾斜面部は、第1平面部の外側に位置している。第1傾斜面部は、ハンドル側に向かうにしたがって拡径している。第1傾斜面部の先端は、突出部の先端よりハンドル寄りに位置している。
【0015】
この場合、第1傾斜面部が突出部の外側に位置し、かつ第1傾斜面部を拡径することによって、外部の衝撃が第1接続部材に加わる場合に、第1傾斜面部によって外部の衝撃から突出部を保護しやすくすることができる。
【0016】
トーチボディは、第1面部に対してハンドル側とは反対側に雄ねじ部をさらに含む。ハンドルは、第2面部を外側から囲みつつ、内周に雌ねじ部を有するナット部材をさらに含む。雄ねじ部および雌ねじ部が螺合することによって、トーチボディおよびハンドルが接続される。
【0017】
これにより、高価なナット部材をハンドル側に配置することによって、交換頻度が高いトーチボディに高価な部材を配置しない構成にすることができるため、溶接トーチを廉価に構成することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、溶接トーチを廉価に構成しつつ、ハンドルの仮想軸周りの種々の角度においてトーチボディの位置を固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施の形態1に係る溶接トーチの構成を示す斜視図である。
【
図2】
図1の溶接トーチをII-II線矢印方向から見た断面図である。
【
図3】本発明の実施の形態1に係る溶接トーチが備える第1接続部材の構成を示す斜視図である。
【
図4】本発明の実施の形態1に係る溶接トーチが備える第2接続部材の構成を示す斜視図である。
【
図5】ハンドルに対してトーチボディが種々の位置において固定される状態を示す正面図である。
【
図6】本発明の実施の形態2に係る溶接トーチの構成を示す断面図である。
【
図7】本発明の実施の形態2に係る溶接トーチが備える第1接続部材の構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の各実施の形態に係る溶接トーチについて図面を参照して説明する。以下の実施の形態の説明においては、図中の同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は繰り返さない。
【0021】
なお、図面においては、ハンドルの仮想軸における径方向の一方向をX方向、当該径方向のうちのX方向に直交する方向をY方向、ハンドルの仮想軸の軸方向をZ方向とする。また、以下の説明においては、Z方向において、トーチボディ側を先端側とし、ケーブル側を後端側と称する場合がある。また、図面における雄ねじ部および雌ねじ部については、ねじ部分の詳細な形状を省略している。
【0022】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る溶接トーチの構成を示す斜視図である。
図1に示すように、本発明の実施の形態1に係る溶接トーチ1は、ノズル部2と、トーチボディ3と、ハンドル4と、ケーブル5とを備える。
【0023】
溶接トーチ1は、その先端においてアークを発生させて図示しない被加工物を溶接する。ノズル部2は、その先端から図示しないワイヤが突出し、ワイヤ周囲にシールドガスを吐出する。ノズル部2の先端から突出するワイヤの先端と被加工物との間にアークが発生する。溶接トーチ1は、シールドガスを吐出しつつ、ワイヤおよび被加工物をアークの熱によって溶融させることにより被加工物を溶接する。シールドガスは、たとえば、アルゴンガスである。なお、シールドガスは、アルゴンガスに限定されず、炭酸ガスまたはヘリウムガスなどの他の不活性ガスであってもよい。
【0024】
トーチボディ3は、ノズル部2に接続されている。トーチボディ3は、ノズル部2に対してワイヤおよびシールドガスを供給する経路を構成している。なお、トーチボディ3の内部に冷却水流路が設けられていてもよい。
【0025】
ハンドル4は、溶接作業において溶接トーチ1を操作するための部分である。ハンドル4は、トーチボディ3の後端側に接続される。ハンドル4は、ハンドル本体20と、第2接続部材21と、ナット部材22とを含む。
【0026】
ハンドル本体20は、把持部200と、操作部201とを有する。把持部200は、溶接トーチ1を操作するために把持される部分である。操作部201は、把持部200の先端側に位置している。操作部201が押下されることにより、ノズル部2からシールドガスが噴射され、図示しないワイヤ供給部からノズル部2へ給電されつつワイヤが供給される。なお、第2接続部材21およびナット部材22については後述する。
【0027】
ケーブル5は、ハンドル4の後端に接続されている。ケーブル5は、溶接トーチ1と図示しない溶接装置とを接続する。ケーブル5は、ワイヤを供給するための配管、シールドガスを供給するための配管、溶接トーチ1へ給電するための配線、操作部201と溶接装置との信号を送受信するための信号配線などを含んでいる。
【0028】
図2は、
図1の溶接トーチをII-II線矢印方向から見た断面図である。
図3は、本発明の実施の形態1に係る溶接トーチが備える第1接続部材の構成を示す斜視図である。
【0029】
図2および
図3に示すように、本実施の形態に係るトーチボディ3は、ボディ本体10と、第1接続部材11とを含む。
【0030】
ボディ本体10は、ノズル部2に対してワイヤおよびシールドガスを供給する経路を構成している。ボディ本体10は、たとえば銅または真鍮により構成されている。ボディ本体10は、ハンドル4側に位置する後端部100と、後端部100の外周を構成する外周部101とを有する。
【0031】
第1接続部材11は、ハンドル4にトーチボディ3を接続するための部材である。第1接続部材11は、ボディ本体10の後端部100が露出するようにボディ本体10の外周に嵌合されている。
【0032】
第1接続部材11は、第1面部110と、突出部122と、ワッシャ123とを有する。
【0033】
第1面部110は、ハンドル4との導体接触面となる鍔状である。第1面部110は、第1平面部111と、第1傾斜面部112とを有する。
【0034】
第1平面部111は、XY平面上に配置されている。第1平面部111は、Z方向に沿う仮想軸Aに直交する環状である。
【0035】
第1傾斜面部112は、仮想軸Aの軸周りに位置している。本実施の形態における第1傾斜面部112は、第1平面部111の内側に位置している。第1傾斜面部112は、Z方向に対して傾斜している。具体的には、第1傾斜面部112は、ハンドル4側に向かうにしたがって縮径している。
【0036】
第1接続部材11には、第1貫通孔120および第2貫通孔121が設けられている。第1貫通孔120には、ボディ本体10の後端部100の一部が挿通している。第2貫通孔121には、突出部122が挿通している。
【0037】
突出部122は、第1面部110からハンドル4側に向かって突出している。本実施の形態における突出部122の少なくとも一部は、第1傾斜面部112から突出している。具体的には、突出部122における仮想軸Aの径方向の内側部分が第1傾斜面部112から突出している。一方、突出部122における仮想軸Aの径方向の外側部分は、第1平面部111から突出している。
【0038】
突出部122は、たとえば位置決めピンである。なお、突出部122は、位置決めピンに限定されず、プランジャなどであってもよい。ただし、プランジャは、内部にばね構造を有して、比較的強度が低い場合がある。このため、突出部122は、後述する凹部213と嵌合でき、かつ中実の内部構造を有して比較的強度が高い位置決めピンであることが望ましい。
【0039】
仮に、突出部122が破損した場合、第2貫通孔121の先端側から破損した突出部122を後端側に向かって押し出すことによって、第2貫通孔121から突出部122を取り出し、新品の突出部122を取り付けることができる。このため、突出部122が破損した場合でも、第1接続部材11自体を交換する必要がない。
【0040】
Z方向において、第1傾斜面部112の先端は、突出部122の先端よりハンドル4寄りに位置している。これにより、突出部122が衝撃を受けても第1傾斜面部112の第2貫通孔121の内周部分で突出部122を支持することができるため、突出部122の破損を防止することができる。
【0041】
ワッシャ123は、第1接続部材11の先端側の端面に位置している。ワッシャ123は、絶縁部材により構成されている。ワッシャ123は、第1接続部材11を外部に露出させないように被覆している。
【0042】
第1接続部材11の仮想軸Aの外周には、雄ねじ部124が設けられている。雄ねじ部124は、第1面部110に対してハンドル4側とは反対側に位置している。これにより、第1接続部材11と後述する第2接続部材21とが接続された場合に、ナット部材22の内部に第1接続部材11および第2接続部材21を収容することができる。
【0043】
図4は、本発明の実施の形態1に係る溶接トーチが備える第2接続部材の構成を示す斜視図である。
【0044】
図2および
図4に示すように、第2接続部材21は、第2面部210を含む。第2接続部材21には、第3貫通孔214が設けられている。第3貫通孔214には、後端部100の外周部101が嵌合するように接続可能である。
【0045】
第2面部210は、第1面部110と嵌合しつつ当接する。第2面部210は、第2平面部211と、第2傾斜面部212とを有する。
【0046】
第2平面部211は、第1平面部111と当接する。第1平面部111および第2平面部211とが当接することによって、第1接続部材11が第2接続部材21にZ方向において当て止めされる。このため、雄ねじ部124と後述するナット部材22の雌ねじ部231とが過度に螺合することによって、第2傾斜面部212に対して第1傾斜面部112が食い込むことが抑制される。また、第1平面部111および第2平面部211とが当接することによって、第1接続部材11と第2接続部材21との接触面積を増やして、通電時の接触抵抗を小さくすることができる。
【0047】
第2傾斜面部212は、Z方向に対して傾斜している。具体的には、第2傾斜面部212は、トーチボディ3から離れるにしたがって第1傾斜面部112に沿うように縮径している。これにより、第2傾斜面部212は、第1傾斜面部112に嵌合する。第1傾斜面部112および第2傾斜面部212の嵌合は、第1接続部材11と第2接続部材21との接続においてくさび効果を生じさせる。その結果、第1面部110と第2面部210との当接において、面圧力を大きくすることができるため、通電時の接触抵抗を小さくすることができる。
【0048】
第2面部210には、ハンドル4の仮想軸Aの周方向に互いに間隔をあけて複数の凹部213が設けられている。本実施の形態における複数の凹部213の各々の少なくとも一部は、第2傾斜面部212に形成されている。具体的には、複数の凹部213の各々における仮想軸Aの径方向の内側部分が第2傾斜面部212に形成されている。一方、複数の凹部213の各々における仮想軸Aの径方向の外側部分は、第2平面部211に形成されている。
【0049】
本実施の形態における複数の凹部213は、たとえば仮想軸Aの周方向において45°周期で8個設けられている。ただし、凹部213の数は限定されず、30°周期で12個設けられる構成などであってもよい。
【0050】
第2接続部材21は、ハンドル本体20との接続、トーチボディ3の第1接続部材11との接続、ワイヤへの十分な通電経路の確保、またはノズル部2を冷却する場合には冷却水流路の確保などを行なうための構成を有する必要がある。このため、第2接続部材21の構造は、第1接続部材11と比較して複雑になりやすい。これにより、第2接続部材21は、第1接続部材11に対して高価になる。
【0051】
仮に、第2接続部材21に突出部を設けた場合、突出部が外部から衝撃を受けて破損すると、高価な第2接続部材21を突出部とともに交換する必要がある。また、第2接続部材21に貫通孔を設けて突出部を交換可能に構成することも考慮できるが、トーチボディの後端部を挿入するための貫通孔、およびノズル部2を冷却する場合には冷却水流路構造を設ける必要があり、突出部を交換するための貫通孔を設けることが難しい。したがって、本実施の形態における溶接トーチ1は、第1接続部材11に突出部122を設けることによって、第2接続部材21に突出部を設ける場合と比較して、廉価に構成することができる。
【0052】
ナット部材22は、第2面部210を外側から囲んでいる。ナット部材22は、第2接続部材21に対して仮想軸Aの軸周りに回転自在に、第2接続部材21に取り付けられている。ナット部材22は、第1筒部220と、第2筒部230と、止めネジ240とを有する。
【0053】
第1筒部220は、外周に位置する部材である。第1筒部220は、絶縁部材で構成されている。第2筒部230は、第1筒部220の内周側に位置している。第2筒部230は、たとえば銅または真鍮により構成されている。第1筒部220と第2筒部230とは、止めネジ240によって仮想軸Aの周方向の互いの位置が固定されている。
【0054】
第2筒部230は、内周に雌ねじ部231を有している。第1接続部材11の雄ねじ部124およびナット部材22の雌ねじ部231が螺合することによって、トーチボディ3およびハンドル4が接続される。
【0055】
ナット部材22は、構造的または材料的な要因によって他の構成部材と比較して高価になりやすい。ナット部材は、トーチボディ3側に取り付けられる場合がある。トーチボディ3は、他の溶接トーチの部材と比較して、ノズル部2のメンテナンスなどにより交換する頻度が高い。トーチボディ3は、交換時に落下または他の構成に当てる可能性がある。トーチボディ3が落下した、または他の構成に当たった場合、トーチボディ3に取り付けたナット部材の雌ねじ部などが破損することがある。これにより、比較的高価なナット部材を交換する周期が短くなることがある。
【0056】
一方、上述したように、本実施の形態におけるナット部材22は、ハンドル4側に取り付けられている。ハンドル4に取り付けたナット部材22は、トーチボディ3側にナット部材を取り付ける場合と比較して落下または他の構成に当てる可能性が低いため、ナット部材の交換頻度を長くすることができる。これにより、部材交換などの維持コストを含んで、溶接トーチ1を廉価に構成することができる。
【0057】
図5は、ハンドルに対してトーチボディが種々の位置において固定される状態を示す正面図である。
【0058】
図2~
図5に示すように、突出部122が複数の凹部213のいずれかに係合することによって、ハンドル4に対するトーチボディ3の周方向の位置が固定される。本実施の形態においては、8つの凹部213のいずれかに突出部122を係合することによって、仮想軸Aの周方向において45°周期の任意の位置に、ハンドル4に対してトーチボディ3を固定することができる。
【0059】
本発明の実施の形態1に係る溶接トーチ1においては、突出部122をトーチボディ3に配置することによって、トーチボディ3に凹部を設ける場合と比較して廉価に構成することができ、かつハンドル4に設けた複数の凹部213のいずれかに突出部122を係合させている。これにより、溶接トーチ1を廉価に構成しつつ、ハンドル4の仮想軸A周りの種々の角度においてトーチボディ3の位置を固定することができる。ひいては、ハンドル4に対するトーチボディ3の位置ずれおよび緩みを抑制することができる。
【0060】
本発明の実施の形態1に係る溶接トーチ1においては、突出部122の少なくとも一部が第1傾斜面部112から突出し、複数の凹部213の各々の少なくとも一部が第2傾斜面部212に形成されている。その結果、傾斜面形状の誘い込みにより、凹部213に対する突出部122の挿入性を向上させることができる。
【0061】
本発明の実施の形態1に係る溶接トーチ1においては、第1傾斜面部112が第1平面部111の内側に位置し、かつ、ハンドル4側に向かうにしたがって縮径している。これにより、第1傾斜面部が第1平面部の外側に位置し、かつ、ハンドル4側に向かうにしたがって拡径している場合と比較して、仮想軸Aに沿う方向(Z方向)における第1傾斜面部112および第2傾斜面部212の高さを確保できる。その結果、第1接続部材11と第2接続部材21との通電面積を確保しやすくすることができる。
【0062】
本発明の実施の形態1に係る溶接トーチ1においては、高価なナット部材22をハンドル4側に配置することによって、交換頻度が高いトーチボディ3に高価な部材を配置しない構成にすることができる。これにより、溶接トーチ1を廉価に構成することができる。
【0063】
(実施の形態2)
以下、本発明の実施の形態2に係る溶接トーチについて図を参照して説明する。本発明の実施の形態2に係る溶接トーチは、第1接続部材および第2接続部材の構成が本発明の実施の形態1に係る溶接トーチ1と異なるため、本発明の実施の形態1に係る溶接トーチ1と同様である構成については説明を繰り返さない。
【0064】
図6は、本発明の実施の形態2に係る溶接トーチの構成を示す断面図である。
図7は、本発明の実施の形態2に係る溶接トーチが備える第1接続部材の構成を示す斜視図である。
【0065】
図6および
図7に示すように、本発明の実施の形態2に係る溶接トーチ1Aは、ノズル部と、トーチボディ3Aと、ハンドル4Aと、ケーブルとを備える。
【0066】
トーチボディ3Aは、ボディ本体10Aと、第1接続部材11Aとを含む。トーチボディ3Aの内部には、図示しない冷却水流路が設けられている。ボディ本体10Aは、後端部100Aを有する。
【0067】
第1接続部材11Aは、ボディ本体10Aの後端部100Aに接続されている。第1接続部材11Aは、第1面部110Aと、突出部122Aと、ワッシャ123とを有する。
【0068】
第1面部110Aは、ハンドル4Aとの導体接触面となる鍔状である。第1面部110Aは、第1平面部111Aと、第1傾斜面部112Aとを有する。
【0069】
第1平面部111Aは、XY平面上に配置されている。第1平面部111Aは、Z方向に沿う仮想軸Aに直交する環状である。
【0070】
第1傾斜面部112Aは、仮想軸Aの軸周りに位置している。本実施の形態における第1傾斜面部112Aは、第1平面部111Aの外側に位置している。第1傾斜面部112Aは、ハンドル4A側に向かうにしたがって拡径している。
【0071】
第1接続部材11Aには、第1貫通孔120Aおよび第2貫通孔121Aが設けられている。第1貫通孔120Aには、先端側においてボディ本体10Aの後端部100Aが挿通し、後端側において後述する第2接続部材21Aの冷却水流路215Aの一部が挿通している。第2貫通孔121Aには、突出部122Aが挿通している。
【0072】
突出部122Aは、第1面部110Aからハンドル4A側に向かって突出している。本実施の形態における突出部122Aの少なくとも一部は、第1傾斜面部112Aから突出している。具体的には、突出部122Aにおける仮想軸Aの径方向の外側部分が第1傾斜面部112Aから突出している。一方、突出部122Aにおける仮想軸Aの径方向の内側部分は、第1平面部111Aから突出している。
【0073】
Z方向において、第1傾斜面部112Aの先端は、突出部122Aの先端よりハンドル4A寄りに位置している。これにより、突出部122Aを外部の衝撃から保護することができるため、突出部122Aの破損を防止することができる。
【0074】
ハンドル4Aは、ハンドル本体と、第2接続部材21Aと、ナット部材22とを含む。第2接続部材21Aは、第2面部210Aと、冷却水流路215Aを含む。第2接続部材21Aには、第3貫通孔214Aが設けられている。第3貫通孔214Aには、ワイヤが挿通可能である。
【0075】
第2面部210Aは、第1面部110Aと嵌合しつつ当接する。第2面部210は、第2平面部211Aと、第2傾斜面部212Aとを有する。
【0076】
第2平面部211Aは、第1平面部111Aと当接する。第1平面部111Aおよび第2平面部211Aとが当接することによって、第1接続部材11Aが第2接続部材21AにZ方向において当て止めされる。第2傾斜面部212Aは、第1傾斜面部112Aに嵌合する。
【0077】
第2面部210Aには、ハンドル4Aの仮想軸Aの周方向に互いに間隔をあけて複数の凹部213Aが設けられている。本実施の形態における複数の凹部213Aの各々の少なくとも一部は、第2傾斜面部212Aに形成されている。具体的には、複数の凹部213Aの各々における仮想軸Aの径方向の外側部分が第2傾斜面部212Aに形成されている。一方、複数の凹部213Aの各々における仮想軸Aの径方向の内側部分は、第2平面部211Aに形成されている。
【0078】
冷却水流路215Aは、第3貫通孔214Aの外側に設けられている。冷却水流路215Aは、第1接続部材11Aの後端突起部113Aが冷却水流路215A内に挿入されることにより、冷却水が通流可能状態になる。これにより、第2接続部材21A、第1接続部材11Aを経由してハンドル4Aからノズル部まで冷却水を流すことができる。
【0079】
突出部122Aが複数の凹部213Aのいずれかに係合することによって、ハンドル4Aに対するトーチボディ3Aの周方向の位置が固定される。
【0080】
本発明の実施の形態2に係る溶接トーチ1Aにおいては、第1傾斜面部112Aが突出部122Aの外側に位置し、かつ第1傾斜面部112Aを拡径することによって、外部の衝撃が第1接続部材11Aに加わる場合に、第1傾斜面部112Aによって外部の衝撃から突出部122Aを保護しやすくすることができる。
【0081】
なお、本発明の各実施の形態に係る溶接トーチにおいては、ハンドルに対してトーチボディの周方向の位置を固定する構成として、突出部が少なくとも1つの凹部に係合する構成について例示したが、この構成に限定されない。ハンドルに対してトーチボディの周方向の位置を固定する構成は、たとえばトーチボディ側に12角の凹凸を周方向に有する穴部を設け、ハンドル側に6角の周面を有する突出部を設け、穴部の12角の凹凸のいずれかに突出部の6角の周面が係合する構成であってもよい。このように、周面に複数の角部を有する突出部が、当該角部の数より多い数の凹凸を有する穴部に係合することによって、ハンドルに対するトーチボディの周方向の位置を固定してもよい。
【0082】
また、本発明の各実施の形態に係る溶接トーチにおいては、MIG(Metal Inert Gas)溶接について例示したが、本発明の適用はMIG溶接用の溶接装置に限定されない。本発明は、MAG(Metal Active Gas)溶接などの非消耗式電極を用いる他のアーク溶接においても適用することができる。
【0083】
なお、今回開示した上記実施の形態はすべての点で例示であって、限定的な解釈の根拠となるものではない。したがって、本開示の技術的範囲は、上記した実施の形態のみによって解釈されるものではない。また、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。上述した実施の形態の説明において、組み合わせ可能な構成を相互に組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0084】
1,1A 溶接トーチ、3,3A トーチボディ、4,4A ハンドル、22 ナット部材、110,110A 第1面部、111,111A 第1平面部、112,112A 第1傾斜面部、122,122A 突出部、124 雄ねじ部、210,210A 第2面部、211,211A 第2平面部、212,212A 第2傾斜面部、213,213A 凹部、231 雌ねじ部、A 仮想軸。