(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121477
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】マイクロカプセル顔料、このマイクロカプセル顔料を含む筆記具用水性インク組成物及び筆記具
(51)【国際特許分類】
C09C 3/10 20060101AFI20240830BHJP
C09C 3/12 20060101ALI20240830BHJP
C09D 11/16 20140101ALI20240830BHJP
C09D 11/322 20140101ALI20240830BHJP
C09D 11/326 20140101ALI20240830BHJP
【FI】
C09C3/10
C09C3/12
C09D11/16
C09D11/322
C09D11/326
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028610
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112335
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英介
(74)【代理人】
【識別番号】100101144
【弁理士】
【氏名又は名称】神田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100101694
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 明茂
(74)【代理人】
【識別番号】100124774
【弁理士】
【氏名又は名称】馬場 信幸
(72)【発明者】
【氏名】小椋 孝介
【テーマコード(参考)】
4J037
4J039
【Fターム(参考)】
4J037AA02
4J037CA24
4J037CB23
4J037CC15
4J037CC26
4J037DD24
4J037EE06
4J037EE12
4J037EE28
4J037EE43
4J037EE46
4J037FF03
4J039BC10
4J039BC13
4J039BC15
4J039BE01
4J039BE22
4J039BE23
4J039BE30
4J039CA06
4J039CA11
4J039DA02
4J039EA14
4J039EA29
4J039EA43
4J039GA21
4J039GA27
(57)【要約】 (修正有)
【課題】発色性に優れたマイクロカプセル顔料、このマイクロカプセル顔料を含む筆記具用水性インク組成物及び筆記具を提供する。
【解決手段】本発明のマイクロカプセル顔料は、色材を内包し、ポリウレタンまたはポリウレアを含むシェル部に、シロキサン結合を含むことを特徴とし、また、色材を内包し、ポリウレタンまたはポリウレアを含むシェル部に、シリカ粒子を含むことを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
色材を内包し、ポリウレタンまたはポリウレアを含むシェル部に、シロキサン結合を含むことを特徴とする、マイクロカプセル顔料。
【請求項2】
色材を内包し、ポリウレタンまたはポリウレアを含むシェル部に、シリカ粒子を含むことを特徴とする、マイクロカプセル顔料。
【請求項3】
上記シリカ粒子の平均粒子径が10~200nmであることを特徴とする、請求項2記載のマイクロカプセル顔料。
【請求項4】
上記マイクロカプセル顔料の平均粒子径が0.3~6.0μmであることを特徴とする、請求項1又は2に記載のマイクロカプセル顔料。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のマイクロカプセル顔料を含むことを特徴とする、筆記具用水性インク組成物。
【請求項6】
請求項5に記載の筆記用水性インク組成物を搭載したことを特徴とする、筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発色性に優れたマイクロカプセル顔料、このマイクロカプセル顔料を含む筆記具用水性インク組成物及び筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来における、発色性能を良好としてなるマイクロカプセル顔料等として、例えば、
〔1〕 芯物質である顔料粒子をポリマーを主成分とするカプセル壁材によって被覆したマイクロカプセル化顔料であって、前記顔料粒子がイオン性基を表面に有し、かつ、前記ポリマーが、1)顔料表面のイオン性基の電荷と反対の電荷を有するイオン性基、疎水性基、及び重合性基を有する重合性界面活性剤から誘導された繰り返し構造単位、並びに、2)前記重合性界面活性剤と共重合可能な疎水性モノマーから誘導された繰り返し構造単位とを含むポリマーを主成分とするカプセル壁材で覆ってマイクロカプセル化顔料とし、ここで、カプセル壁材のポリマーを重合するために用いた原料モノマーから前記重合性界面活性剤を除いた残りのモノマーを乳化重合して得られる重合体の屈折率nd(20℃)が1.50以上となるように前記原料モノマーが選択されたものであることを特徴とするイクロカプセル化顔料(例えば、特許文献1参照)、
〔2〕 低温における発色性能を向上させた発色剤マイクロカプセルを提供するために、電子供与性ロイコ染料、感圧複写紙用溶剤、炭酸プロピレン及びスチレンダイマーを内包する発色剤マイクロカプセル(例えば、特許文献2参照)、
【0003】
〔3〕 濃淡差がなく優れた筆跡発色性と良好な筆跡を形成できる前記可逆熱変色性水性インキ組成物を用いた筆記具を提供するために、(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)前記両者の呈色反応の生起温度を決める反応媒体からなる可逆熱変色性組成物を内包させた可逆熱変性色マイクロカプセル顔料と、水と90~185の原子量を有する6族元素の酸素酸またはその塩からなる比重調整剤を少なくとも含むビヒクルとからなり、20℃において、水を基準物質とした場合の前記可逆熱変色性マイクロカプセル顔料の比重が1.05~1.20であり、前記ビヒクルの比重が1.00~1.30の範囲であり、かつ前記ビヒクルの比重が前記可逆熱変色性マイクロカプセル顔料の比重に対して0.90倍~1.20倍の範囲内である可逆熱変色性インキ組成物(例えば、特許文献3参照)などが知られている。
【0004】
しかしながら、上記特許文献1~3に記載のマイクロカプセル顔料を含む筆記具用水性インク組成物等において、未だ発色性が不十分であり、発色性に優れたマイクロカプセル顔料、このマイクロカプセル顔料を含む筆記具用水性インク組成物及び筆記具が切望されているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-255755号公報 (特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献2】特開2017-177403号公報 (特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献3】WO2019/082722号(特許請求の範囲、実施例等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の課題及び現状などに鑑み、これを解消しようとするものであり、発色性に優れたマイクロカプセル顔料、このマイクロカプセル顔料を含む筆記具用水性インク組成物及び筆記具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記従来の課題等に鑑み、鋭意研究を行った結果、色材を内包し、ポリウレタンまたはポリウレアを含むシェル部を特定物性等に構成することにより、上記目的の発色性に優れたマイクロカプセル顔料、このマイクロカプセル顔料を含む筆記具用インク組成物及び筆記具が得られることを見出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0008】
すなわち、本発明のマイクロカプセル顔料は、色材を内包し、ポリウレタンまたはポリウレアを含むシェル部に、シロキサン結合を含むことを特徴とし、また、色材を内包し、ポリウレタンまたはポリウレアを含むシェル部に、シリカ粒子を含むことを特徴とする。
上記シリカ粒子の平均粒子径が10~200nmであることが好ましい。
上記マイクロカプセル顔料の平均粒子径が0.3~6.0μmであることが好ましい。
本発明の筆記具用水性インク組成物は、上記構成のマイクロカプセル顔料を含むことを特徴とし、また、本発明の筆記具は、上記組成の筆記用水性インク組成物を搭載したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、発色性に優れたマイクロカプセル顔料、この発色性に優れたマイクロカプセル顔料を含む筆記具用インク組成物及び筆記具が提供される。
本発明の目的及び効果は、特に請求項において指摘される構成要素及び組み合わせを用いることによって認識され且つ得られるものである。上述の一般的な説明及び後述の詳細な説明の両方は、例示的及び説明的なものであり、特許請求の範囲に記載されている本発明を制限するものではない。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施形態を詳しく説明する。但し、本発明の技術的範囲は下記で詳述する実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶ点に留意されたい。また、本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識(設計事項、自明事項を含む)に基づいて実施することができる。
【0011】
〈マイクロカプセル顔料〉
本発明の第1発明のマイクロカプセル顔料は、色材を内包し、ポリウレタンまたはポリウレアを含むシェル部に、シロキサン結合を含むことを特徴とし、また、第2発明のマイクロカプセル顔料は、色材を内包し、ポリウレタンまたはポリウレアを含むシェル部に、シリカ粒子を含むことを特徴とするものである。
以下(本明細書)において、第1発明と第2発明で共通する成分等をいう場合には「本発明」という。また、「シェル部」とは、マイクロカプセルの壁部をいい、「コア部」とは、シェル部に内包される部分をいい、「内包」とは、目的物(色材)がマイクロカプセルのシェル部に覆われて閉じ込められている状態をいう。
【0012】
<色材>
本発明に用いる色材としては、水に溶解もしくは分散する染料、従来公知の無機系および有機顔料系、顔料を含有した樹脂粒子顔料、樹脂エマルションを染料で着色した疑似顔料、ワックス粒子、着色中空樹脂粒子、シリカや雲母を基材とし表層に酸化鉄などを多層コーティングした顔料、熱変色性粒子、光変色性粒子等、およびこれらの複合粒子を使用することができる。但し、これらの色材の中で、本発明の効果の点から、酸化チタンなどの白色の色材は除かれ、白色以外の有色であれば、上述の水に溶解もしくは分散する染料、各種従来公知の無機系および有機顔料系、顔料を含有した樹脂粒子顔料、樹脂エマルションを染料で着色した疑似顔料などを使用することができる。
染料としては、例えば、エオシン、フオキシン、ウォーターイエロー#6-C、アシッドレッド、ウォーターブルー#105、ブリリアントブルーFCF、ニグロシンNB等の酸性染料;ダイレクトブラック154,ダイレクトスカイブルー5B、バイオレットBB等の直接染料;ローダミン、メチルバイオレット等の塩基性染料などが挙げられる。
【0013】
無機系顔料としては、例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、キレートアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレンおよびペリノン顔料、ニトロソ顔料などが挙げられる。より具体的には、カーボンブラック、チタンブラック、亜鉛華、べんがら、アルミニウム、酸化クロム、鉄黒、コバルトブルー、酸化鉄黄、ビリジアン、硫化亜鉛、リトポン、カドミウムエロー、朱、カドミウムレッド、黄鉛、モリブデードオレンジ、ジンククロメート、ストロンチウムクロメート、ホワイトカーボン、クレー、タルク、群青、沈降性硫酸バリウム、バライト粉、炭酸カルシウム、鉛白、紺白、紺青、マンガンバイオレット、アルミニウム粉、真鍮粉等の無機顔料、C.I.ピグメントブルー17、C.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー17、C.I.ピグメントブルー27、C.I.ピグメントレッド5、C.I.ピグメントレッド22、C.I.ピグメントレッド38、C.I.ピグメントレッド48、C.I.ピグメントレッド49、C.I.ピグメントレッド53、C.I.ピグメントレッド57、C.I.ピグメントレッド81、C.I.ピグメントレッド104、C.I.ピグメントレッド146、C.I.ピグメントレッド245、C.I.ピグメントイエロー1、C.I.ピグメントイエロー3、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー34、C.I.ピグメントイエロー55、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー95、C.I.ピグメントイエロー166、C.I.ピグメントイエロー167、C.I.ピグメントオレンジ5、C.I.ピグメントオレンジ13、C.I.ピグメントオレンジ16、C.I.ピグメントバイオレット1、C.I.ピグメントバイオレット3、C.I.ピグメントバイオレット19、C.I.ピグメントバイオレット23、C.I.ピグメントバイオレット50、C.I.ピグメントグリーン7等が挙げられる。
【0014】
熱変色性粒子としては、発色剤として機能するロイコ色素と、該ロイコ色素を発色させる能力を有する成分となる顕色剤及び上記ロイコ色素と顕色剤の呈色において変色温度をコントロールすることができる変色温度調整剤を少なくとも含む熱変色性組成物を、所定の平均粒子径(例えば、0.3~6.0μm)となるように、マイクロカプセル化することにより製造された熱変色性顔料などを挙げることができる。
光変色性粒子としては、例えば、少なくともフォトクロミック色素(化合物)、蛍光色素などから選択される1種以上と、テルペンフェノール樹脂などの樹脂とにより構成される光変色性粒子や、少なくともフォトクロミック色素(化合物)、蛍光色素などから選択される1種以上と、有機溶媒と、酸化防止剤、光安定剤、増感剤などの添加剤とを含む光変色性組成物を、所定の平均粒子径(例えば、0.3~6.0μm)となるように、マイクロカプセル化することにより製造された光変色性粒子などを挙げることができる。
本発明(実施例等含む)において、「平均粒子径」は、粒子径分布解析装置HR9320-X100(日機装株式会社製)を用いて、屈折率1.81、体積基準にて算出されたD50の値である。
【0015】
第1発明のマイクロカプセル顔料は、上記色材を内包し、ポリウレタンまたはポリウレアを含むシェル部に、シロキサン結合(―Si-O-Si-)を含むものであり、シェル部表面にシロキサン結合を存在させることにより、ポリウレタンまたはポリウレアによるポリマーネットワークが有機・無機ハイブリッド化されることで、シェル部の透明性を向上させることにより、内包する色材の発色性を良好とするものであり、また、第2発明のマイクロカプセル顔料は、記色材を内包し、ポリウレタンまたはポリウレアを含むシェル部にシリカ粒子を存在させることにより、マイクロカプセルのシェル部で生じる光の乱反射抑制されることで、シェル部の透明性を向上させることにより、内包する色材の発色性を良好とするものである。
【0016】
第1発明の開示において、シェル部表面にシロキサン結合を存在させるためには、マイクロカプセル顔料の調製の際にシランカップリング剤を用いることにより、シェル部にシロキサン結合(―Si-O-Si-)を含ませることができる。
シェル部の表面に、シロキサン結合を含ませるには、例えば、シラノール基又は加水分解性シリル基などを含ませることにより行うことができる。
シェル部を構成するポリウレタン又はポリウレアのマイクロカプセルの表面側にシロキサン結合となるシラノール基又は加水分解性シリル基などが存在することで、ポリウレタンまたはポリウレアによるポリマーネットワークが有機・無機ハイブリッド化されることで、シェル部の透明性を向上させることにより、内包する色材の発色性を良好とすることができる。
【0017】
第1発明におけるシロキサン結合となるシラノール基又は加水分解性シリル基は、発色性の向上の点から、下記(式1)又は下記(式2)もしくは(式3)の少なくともいずれかで表わされる部分構造の一部であることが好ましい。
*-NH-CO-NH-R4-NH-R3-Si(OR1)3-nR2n …(式1)
*-NH-CO-NH-R4-Si(OR1)3-nR2n …(式2)
*-NH-CO-NH-R4-NH-Si(OR1)2-O-Si(OR1)2-R4-NH-CO-NH-* ……(式3)
〔上記(式1)、(式2)及び(式3)中、R1は水素原子又は直鎖、分岐若しくは環状のアルキル基を表し、R2は直鎖、分岐又は環状のアルキル基を表し、R3及びR4はそれぞれ独立に2価の有機連結基を表す。nは0~2の整数を表し、*はシェル部を構成する他の構造との結合部位を表す。〕
【0018】
上記R1としては、付着性の観点から、直鎖、分岐若しくは環状のアルキル基が好ましい。また、本開示のマイクロカプセルはR1及びR2が、ともに直鎖のアルキル基であることがより好ましい。また、上記アルキル基としては、付着性の観点から、炭素数1~8のアルキル基が好ましく、炭素数1~6のアルキル基がより好ましく、炭素数1または2のアルキル基がさらに好ましい。
上記nとしては、付着性の観点から、0及び1がより好ましく、0が更に好ましい。
シラノール基又は加水分解性シリル基は、(式1)又は(式2)もしくは(式3)で表される部分構造の中でも、付着性の観点から、(式1)で表される部分構造がより好ましい。
R3及びR4は、それぞれ独立に2価の有機連結基を表す。
2価の有機連結基としては、具体的には、直鎖、分岐若しくは環状のアルキレン基、フェニレン基、エーテル基、ケトン基、エステル基、アミド基、ウレタン基、ウレア基、カーボネート基等が挙げられる。
R3及びR4は直鎖、分岐若しくは環状のアルキレン基が好ましく、炭素数1~8のアルキレン基がより好ましく、炭素数1~6のアルキレン基がさらに好ましく、炭素数2~4のアルキレン基が最も好ましい。
*はシェル材を構成する他の構造との結合部位を表す。すなわち、(式1)又は(式2)もしくは(式3)で表される構造部分は、末端のNH基がシェル材と結合することによりシェルの表面に存在している。
上記(式1)、(式2)及び(式3)の中で本発明の効果を更に発揮せしめる点から、上記(式3)で表される構造のものを用いることが好ましい。
【0019】
第1発明の開示において、シェル部の表面にシロキサン結合となるシラノール基又は加水分解性シリル基を導入する方法としては、例えば、少なくとも上記色材などを含むものを、所定の平均粒子径となるように、マイクロカプセル化の際に、シェル部を形成する際にシランカップリング剤を用いることにより製造することができる。
マイクロカプセル化法としては、例えば、界面重合法、界面重縮合法、insitu重合法、液中硬化被覆法、水溶液からの相分離法、有機溶媒からの相分離法、融解分散冷却法、気中懸濁被覆法、スプレードライニング法などを挙げることができ、好ましくは、作業性、好適なマイクロカプセルを制御できる点などから、界面重合法などが好ましい。
具体的には、1)ウレタン、ウレア及びウレタンウレアのうち少なくとも1つのモノマ成分と、上記酸化チタンやカーボンブラックなどの色材を分散させた媒体中などにて界面重合の際にシランカップリング剤を用いてシェル部の表面にシロキサン結合を形成したり、あるいは、2)イソシアネート成分とを含む油状成分(油性相)を、水系溶媒(水性相)中に分散させて乳化液を調整する乳化工程と、この乳化駅を調製する際にシランカップリング剤を分散させ、この乳化液にアミン成分及びアルコール成分のうち少なくとも1つを添加して界面重合の界面重合工程とを含む製造方法により形成することができる。
【0020】
上記導入に用いられるシランカップリング剤としては、シラノール基又は加水分解性シリル基をシェルの表面に導入できるものであれば特に限定されないが、シラノール基又は加水分解性シリル基が、下記(式4)又は下記(式5)もしくは下記(式6)で表わされる化合物(シランカップリング剤)によりシェル材に導入されることが好ましい。
NH2-R4-NH-R3-Si(OR1)3-nR2n ……(式4)
NH2-R4-Si(OR1)3-nR2n ……(式5)
NH2-R4-NH-Si(OR1)2-O-Si(OR1)2-R4-NH2 ……(式6)
【0021】
上記(式4)及び(式5)もしくは(式6)中、R1は水素原子又は直鎖、分岐若しくは環状のアルキル基を表し、R2は直鎖、分岐又は環状のアルキル基を表し、R3及びR4はそれぞれ独立に2価の有機連結基を表す。nは0~2の整数を表す。
また、(式4)及び(式5)もしくは(式6)中のR1及びR2、アルキル基及びnについての好ましい範囲は上述の式1及び式2と同様である。
シラノール基又は加水分解性シリル基は、(式4)及び(式5)もしくは(式6)で表されるシランカップリング剤の中でも、末端のNH基によるシェル材との結合性を高める観点から(式6)で表されるシランカップリング剤によりシェル材に導入されることがより好ましい。
上記(式4)で表されるシランカップリング剤の市販品としては、KBM-603(N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン)、KBM-602(N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルアミノプロピルメチルジメトキシシラン)(以上、信越化学工業社製)等が挙げられる。
上記(式5)で表されるシランカップリング剤の市販品としては、KBE-903(3-アミノプロピルトリエトキシシラン)、KBM-903(3-アミノプロピルトリメトキシシラン)(以上、信越化学工業社製)等が挙げられる。
上記(式6)で表されるシランカップリング剤の市販品としては、KBP-90、KBP-64(以上、信越化学工業社製)等が挙げられる。
これらの中で、本発明の効果を更に発揮せしめる点から、上記(式6)で表されるシランカップリング剤の使用が望ましい。
【0022】
第1発明では、作製のしやすさの点、品質の点から、マイクロカプセルを構成するシェル成分が、ウレタン、ウレア、もしくはウレアウレタンなどの熱硬化型樹脂で構成されるものであり、好ましくは、内包する成分量を多くすることが可能であること、また内包成分の種類の制限が少ない、再分散性に優れるという理由からウレタン、ウレア、もしくはウレアウレタンを用いるものである。
このシェル部の形成に用いられるウレタン(ポリウレタン樹脂)、ウレア(ポリウレア樹脂)、ウレアウレタン(ポリウレア樹脂/ポリウレタン樹脂)は、イソシアネート成分とアミン成分またはアルコール成分などと反応して形成されるものである。
【0023】
用いることができるイソシアネート成分としては、例えば、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメリックジフェニルメタンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、3,3’-ジメチルジフェニル-4,4’-ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、トランスシクロヘキサン1,4-ジイソシアネート、ジフェニルエーテルジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、2,6-ジイソシアネートカプロン酸、テトラメチル-m-キシリレンジイソシアネート、テトラメチル-p-キシリレンジイソ
シアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス(イソシアネートフェニル)チオホスフェート、イソシアネートアルキル2,6-ジイソシアネートカプロネート、1,6,11-ウンデカントリイソシアネート、1,8-ジイソシアネート-4-イソシアネートメチルオクタン、1,3,6-ヘキサメチレントリイソシアネート、ビシクロヘプタントリイソシアネートなどが挙げられる。
【0024】
また、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、ナフタレン-1,4-ジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、3,3’-ジメトキシ-4,4-ビフェニル-ジイソシアネート、3,3’-ジメチルフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、キシリレン-1,4-ジイソシアネート、4,4’-ジフェニルプロパンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、プロピレン-1,2-ジイソシアネート、ブチレン-1,2-ジイソシアネート、シクロヘキシレン-1,2-ジイソシアネート、シクロヘキシレン-1,4-ジイソシアネート等のジイソシアネート、4,4’,4’’-トリフェニルメタントリイソシアネート、トルエン-2,4,6-トリイソシアネート等のトリイソシアネート、4,4’-ジメチルジフェニルメタン-2,2’,5,5’-テトライソシアネート等のテトライソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンの付加物、2,4-トリレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンの付加物、キシリレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンの付加物、トリレンジイソシアネートとヘキサントリオールの付加物等のイソシアネートプレポリマー等が挙げられる。これらのイソシアネート成分は単独で用いてもよく、混合して用いても良い。
【0025】
用いることができるアミン成分としては、具体的には、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジアミノシクロヘキサン、ピペラジン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタンミン、イミノビスプロピルアミン、ジアミノエチルエーテル、1,4-ジアミノブタン、ペンタメチレンジアミン、2-メチルピペラジン、2,5-ジメチルピペラジン、2-ヒドロキシトリメチレンジアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ジアミノプロピルアミン、ジアミノプロパン、2-メチルペンタメチレンジアミン、キシレンジアミン等の脂肪族系アミン、m-フェニレンジアミン、トリアミノベンゼン、3,5-トリレンジアミン、ジアミノジフェニルアミン、ジアミノナフタレン、t-ブチルトルエンジアミン、ジエチルトルエンジアミン、ジアミノフェノール等が挙げられる。中でもフェニレンジアミン、ジアミノフェノール、トリアミノベンゼンなどの芳香族系アミンが好ましい。
【0026】
用いることができるアルコール成分としては、具体的には、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、グリセリン、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノンなどの水酸基を2つ以上有するポリオール等が挙げられる。これらのアルコール成分は単独で用いてもよく、混合して用いても良い。またアルコール成分とアミン成分とを混合して用いても良い。
【0027】
これらのウレタン、ウレア、もしくはウレアウレタンによるシェル部の形成としては、上述の、1)の製造方法、あるいは、2)の製造方法により形成することができる。
上記2)の製造方法において、乳化液の調整に際しては、低沸点の溶剤が用いることができる。低沸点の溶剤としては、沸点が100℃以下のものが使用でき、例えば、n-ペンタン、メチレンクロライド、エチレンクロライド、二硫化炭素、アセトン、酢酸メチル、酢酸エチル、クロロホルム、メチルアルコール、エチルアルコール、テトラヒドロフラン、n-ヘキサン、四塩化炭素、メチルエチルケトン、ベンゼン、エチルエーテル、石油エーテル等を挙げることができる。これらは単独で使用してもよく、混合して使用してもよい。
一方、上記油性相を乳化させるために使用する水性相には、予め保護コロイドを含有させてもよい。保護コロイドとしては、水溶性高分子が使用でき、公知のアニオン性高分子、ノニオン性高分子、両性高分子の中から適宜選択することができるが、ポリビニルアルコール、ゼラチンおよびセルロース系高分子化合物を含ませるのが特に好ましい。
また、水性相には、界面活性剤を含有させてもよい。界面活性剤としては、アニオン性またはノニオン性の界面活性剤の中から、上記保護コロイドと作用して沈殿や凝集を起こさないものを適宜選択して使用することができる。好ましい界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸ソーダ(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)、スルホコハク酸ジオクチルナトリウム塩、ポリアルキレングリコール(例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル)等を挙げることができる。
【0028】
上記のようにして作製された油性相をシランカップリング剤を分散させた水性相に加え、機械力を用いて乳化した後、必要に応じて系の温度を上昇させることにより油性液滴界面で界面重合を起こし、粒子化することができる。また、同時あるいは界面重合反応終了後、脱溶媒を行うことができる。カプセル粒子は、界面重合反応および脱溶媒を行った後、粒子を水性相から分離、洗浄した後、乾燥することなどにより得られる。
第1発明では、上記各製造方法でシェル部の表面にシロキサン結合を形成することにより、ポリウレタンまたはポリウレアによるポリマーネットワークが有機・無機ハイブリッド化されることで、となり、シェル部の透明性が向上するため、内包される色材の発色性に優れたマイクロカプセル顔料が得られるものとなる。
【0029】
第1発明の製造において、少なくとも上記色材、シロキサン結合を形成せしめるシランカップリング剤の各含有量は、分散性、比重、粒子径を任意にコントロールとする点、発色性、安定性などを高度に両立することなどから変動するものであるが、マイクロカプセル成分全量(色材+シランカップリング剤+シェル部を構成するポリマー成分、以下同様)に対して、上記色材の含有量は5~50質量%、上記シランカップリング剤の含有量は、0.1~5.0質量%とすることが好ましい。なお、上記各含有量の範囲となるようにするためには、マイクロカプセル化の際に用いる各原料(シェル部構成原料成分、色材、シランカップリング剤など)を好適な範囲で調整して重合することなどにより行うことができる。
【0030】
用いるシランカップリング剤の含有量が0.1質量%未満では、本発明の効果を発揮するには不十分であり、一方、5.0質量%超過では、マイクロカプセルの形成に影響を及ぼし、数十μm以上の粗大なマイクロカプセルを生じたり、マイクロカプセルの凝集を生じることがある。
より好ましい上記色材の含有量は、分散性、比重、粒子径を任意に好ましくコントロールとする点などから、マイクロカプセル成分全量に対して0.5~40質量%である。また、より好ましいシランカップリング剤の含有量は、マイクロカプセル顔料全量に対して、0.1~3.0質量%、特に好ましくは、0.1~2.0質量%である。
【0031】
また、第1発明において、上記色材を少なくとも内包し、シェル部表面にシロキサン結合を含むマイクロカプセル顔料は、マイクロカプセル顔料の用途(筆記具用:ボールペン用、マーキングペン用、各種インクジェット用インク、印刷用インクなどの用途等)ごとに、平均粒子径0.3~6.0μmになるように調整することができ、好ましくは、0.3~4.0μmの範囲が上記各用途の実用性を満たすものとなる。
更に、本発明のマイクロカプセルの表面には、目的に応じて更に二次的な樹脂皮膜を設けて耐久性を付与させたり、表面特性を改質させて実用に供することもできる。
【0032】
次に、本第2発明のマイクロカプセル顔料は、上述の色材を内包し、ポリウレタンまたはポリウレアを含むシェル部にシリカ粒子を含ませる(存在させる)ことにより、マイクロカプセルのシェル部で生じる光の乱反射が抑制されるため、シェル部の透明性を向上させることにより、内包する色材の発色性が良好とするものである。
第2発明の開示において、シェル部にシリカ粒子を含ませる方法としては、例えば、少なくとも上記色材などを含むものを、所定の平均粒子径となるように、マイクロカプセル化の際に、シェル部を形成する際にシリカ粒子を含ませることにより製造することができる。
マイクロカプセル化法としては、上述の界面重合法、界面重縮合法、insitu重合法、液中硬化被覆法、水溶液からの相分離法、有機溶媒からの相分離法、融解分散冷却法、気中懸濁被覆法、スプレードライニング法などの各種製造方法を挙げることができ、好ましくは、作業性、好適なマイクロカプセルを制御できる点などから、界面重合法などが好ましい。
具体的には、ウレタン、ウレア及びウレタンウレアのうち少なくとも1つのモノマ成分と、上記酸化チタンやカーボンブラックなどの色材を分散させた媒体中などにシリカ粒子を分散させ、界面重合の際に、機械力を用いて乳化した後、必要に応じて系の温度を上昇させることにより油性液滴界面で界面重合を起こし、粒子化することができる。
【0033】
シリカ粒子としては、例えば、平均粒子径が、10~200nmのシリカ粒子が挙げられ、例えば、ゾルゲルシリカ粒子、水性コロイダルシリカ粒子、アルコール性シリカ粒子、気相法により得られるフェームドシリカ粒子、溶融シリカ粒子の少なくとも1種が挙げられる。また、これらシリカ粒子表面をジメチルシリル、トリメチルシリル、ジメチルポリシロキサン、ジメチルシロキサン、アミノアルキルシリル、アルキルシリル、メタクリルシリルのいずれかの官能基で疎水化表面処理したシリカ粒子も用いることができる。
用いることができるシリカ粒子の市販品として、具体的には、日産化学社製の「オルガノシリカゾルシリーズ」MEK-ST-L、MEK-ST-ZL、MIBK-ST-L、MEK-AC-5140Z、PGM-AC-4130Y,MIBK-SD-L等が挙げられる。
【0034】
第2発明の製造において、少なくとも上記色材、シリカ粒子の各含有量は、分散性、比重、粒子径を任意にコントロールとする点、発色性、安定性などを高度に両立することなどから変動するものであるが、マイクロカプセル成分全量(色材+シリカ粒子+シェル部を構成するポリマー成分、以下同様)に対して、上記色材の含有量は5~50質量%、上記シリカ粒子の含有量は、0.1~8.0質量%とすることが好ましい。なお、上記各含有量の範囲となるようにするためには、マイクロカプセル化の際に用いる各原料(シェル部構成原料成分、色材、シリカ粒子など)を好適な範囲で調整して重合することなどにより行うことができる。
【0035】
用いるシリカ粒子の含有量が0.1質量%未満では、本発明の効果を発揮するには不十分であることがあり、一方、8.0質量%超過では、マイクロカプセルの形成に影響を及ぼし、数十μm以上の粗大なマイクロカプセルを生じたり、マイクロカプセルの凝集を生じることがある。
より好ましい上記色材の含有量は、分散性、比重、粒子径を任意に好ましくコントロールとする点などから、マイクロカプセル成分全量に対して0.1~5.0質量%である。また、より好ましいシリカ粒子の含有量は、マイクロカプセル顔料全量に対して、0.1~4.0質量%、特に好ましくは、0.1~3.0質量%である。
【0036】
また、第2発明において、上記色材を少なくとも内包し、シェル部にシリカ粒子を含むマイクロカプセル顔料は、マイクロカプセル顔料の用途(筆記具用:ボールペン用、マーキングペン用、各種インクジェット用インク、印刷用インクなどの用途等)ごとに、第1発明と同様に、平均粒子径0.3~6.0μmになるように調整することができ、好ましくは、0.3~4.0μmの範囲が上記各用途の実用性を満たすものとなる。
更に、本発明のマイクロカプセルの表面には、目的に応じて更に二次的な樹脂皮膜を設けて耐久性を付与させたり、表面特性を改質させて実用に供することもできる。
この第2発明では、上記製造方法でシェル部にシリカ粒子を形成することにより、マイクロカプセルのシェル部で生じる光の乱反射が抑制されるため、シェル部の透明性を向上させることにより、内包する色材の発色性に優れたマイクロカプセル顔料が得られるものとなる。
【0037】
<筆記具用水性インク組成物>
本発明の筆記具用水性インク組成物は、少なくとも上記第1発明及び/又は第2発明のマイクロカプセル顔料を含有することを特徴とするものであり、例えば、水性のボールペン、マーキングペンなどの筆記具用インク組成物として使用に供される。
本発明において、上記特性のマイクロカプセル顔料の(合計)含有量は、筆記具用水性インク組成物中(全量)に対して、好ましくは、5~50質量%、更に好ましくは、5~30質量%とすることが望ましい。
このマイクロカプセル顔料の含有量が5質量%未満では、上記特性のマイクロカプセル顔料特有の効果を発現せず、一方、50質量%を超えると、粘度が高くなるため、インクの流動性が低下することがあるので好ましくない。
【0038】
本発明の筆記具用水性インク組成物には、上記特性のマイクロカプセル顔料の少なくとも1種の他、少なくとも上記特性のマイクロカプセル顔料以外の汎用の着色剤、水溶性溶剤が含有される。
用いることができる着色剤としては、水溶性染料、本発明の効果を損なわない範囲で顔料、例えば、無機顔料、有機顔料、プラスチックピグメント、粒子内部に空隙のある中空樹脂粒子は白色顔料として、または、発色性、分散性に優れる塩基性染料で染色した樹脂粒子(擬似顔料)等も適宜量使用できる。
水溶性染料としては、直接染料、酸性染料、食用染料、塩基性染料のいずれも本発明の効果を損なわない範囲で適宜量用いることができる。
【0039】
用いることができる水溶性溶剤としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、3-ブチレングリコール、チオジエチレングリコール、グリセリン等のグリコール類や、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、単独或いは混合して使用することができる。この水溶性溶剤の含有量は、筆記具用水性インク組成物全量中、5~40質量%とすることが望ましい。
【0040】
本発明の筆記具用水性インク組成物には、上記特性のマイクロカプセル顔料の少なくとも1種、該マイクロカプセル顔料以外の着色剤、水溶性溶剤の他、残部として溶媒である水(水道水、精製水、蒸留水、イオン交換水、純水等)の他、本発明の効果を損なわない範囲で、分散剤、潤滑剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤もしくは防菌剤、増粘剤などを適宜含有することができる。
【0041】
用いることができる分散剤としては、ノニオン、アニオン界面活性剤や水溶性樹脂が用いられる。好ましくは水溶性高分子が用いられる。
潤滑剤としては、顔料の表面処理剤にも用いられる多価アルコールの脂肪酸エステル、糖の高級脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン高級脂肪酸エステル、アルキル燐酸エステルなどのノニオン系や、高級脂肪酸アミドのアルキルスルホン酸塩、アルキルアリルスルホン酸塩などのアニオン系、ポリアルキレングリコールの誘導体やフッ素系界面活性剤、ポリエーテル変性シリコーンなどが挙げられる。
【0042】
pH調整剤としては、アンモニア、尿素、モノエタノーアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンや、トリポリリン酸ナトリウム、炭酸ナトリウムなとの炭酸やリン酸のアルカリ金属塩、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属の水和物などが挙げられる。また、防錆剤としては、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、ジシクロへキシルアンモニウムナイトライト、サポニン類など、防腐剤もしくは防菌剤としては、フェノール、ナトリウムオマジン、安息香酸ナトリウム、ベンズイミダゾール系化合物などが挙げられる。
増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)又はその塩、発酵セルロース、結晶セルロース、多糖類などが挙げられる。用いることができる多糖類としては、例えば、キサンタンガム、グアーガム、ヒドロキシプロピル化グアーガム、カゼイン、アラビアガム、ゼラチン、アミロース、アガロース、アガロペクチン、アラビナン、カードラン、カロース、カルボキシメチルデンプン、キチン、キトサン、クインスシード、グルコマンナン、ジェランガム、タマリンドシードガム、デキストラン、ニゲラン、ヒアルロン酸、プスツラン、フノラン、HMペクチン、ポルフィラン、ラミナラン、リケナン、カラギーナン、アルギン酸、トラガカントガム、アルカシーガム、サクシノグリカン、ローカストビーンガム、タラガムなどが挙げられ、これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、これらの市販品があればそれを使用することができる。
【0043】
本発明の筆記具用水性インク組成物は、上記特性のマイクロカプセル顔料、水溶性溶剤、その他の各成分を筆記具用(ボールペン用、マーキングペン用等)インクの用途に応じて適宜組み合わせて、ホモミキサー、ホモジナイザーもしくはディスパー等の撹拌機により撹拌混合することにより、更に必要に応じて、ろ過や遠心分離によってインク組成物中の粗大粒子を除去すること等によって発色性に優れた筆記具用水性インク組成物が得られる。
また、本発明の筆記具用水性インク組成物のpH(25℃)は、使用性、安全性、インク自身の安定性、インク収容体とのマッチング性の点からpH調整剤などにより5~10に調整されることが好ましく、更に好ましくは、6~9.5とすることが望ましい。
【0044】
〈筆記具〉
本発明の筆記具は、上記特性の筆記具用水性インク組成物を搭載したものであり、例えば、ボールペンチップ、繊維チップ、フェルトチップ、プラスチックチップ、繊維芯、多孔質芯などのペン先部を備えたボールペン、マーキングペン等に搭載される。
本発明において、「マーキングペン」とは、インク貯蔵部に貯蔵されているインクを、毛細管現象により樹脂製の筆記部に供給する機構を有するペンを意味し、「サインペン」として言及されるペンをも包含する。また、「ボールペン」とは、筆記部に備えられているボールの回転によって、インク貯蔵部に貯蔵されているインクを滲出させる機構を有するペンを意味する。
ボールペンとしては、前記組成の筆記具用水性インク組成物を直径が0.18~2.0mmのボールを備えたボールペン用インク収容体(リフィール)に収容すると共に、インク追従体を追加する。インク追従体には、インク収容体内に収容された上記特性の筆記具用水性インク組成物とは相溶性がなく、かつ、該水性インク組成物に対して比重が小さい液体、例えば、ポリブテン、シリコーンオイル、鉱油等が使用される。
なお、ボールペン、マーキングペン等の構造は、特に限定されず、例えば、軸筒自体をインク収容体として該軸筒内に前記構成の筆記具用水性インク組成物を充填したコレクター構造(インク保持機構)を備えた直液式のボールペン、マーキングペンであってもよい。
【実施例0045】
次に、製造例、実施例及び比較例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記実施例等に限定されるものではない。なお、下記製造例の「部」は「質量部」を意味する。
下記製造例1~4はシランカップリング剤を使用したマイクロカプセル顔料(粒子1~4)であり、製造例5~8はシリカ粒子を使用したマイクロカプセル顔料(粒子5~8)である。
【0046】
〔製造例1:粒子1〕
油相溶液として、ベンジルグリコール11.6部と分散剤(DISPERBYK-111、ビックケミー・ジャパン社製)1.8部とを60℃に加温しながら、色材として、顔料(カーボンブラック、Cabot Mogul L、キャボット社製)2.0部を加えて十分に分散させた。次いで、キシリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパン変性体(D-110N、三井化学社製)9.0部を加えて65℃で撹拌した。
水相溶液としては、65℃に加温した蒸留水100部に対して、ポリビニルアルコール(PVA-205、クラレ社製)15部を溶解し、これに前記油相溶液を投入し、更にシランカップリング剤(KBP-90 信越化学工業社製)2部を加え、乳化混合して重合を完了した。
得られた分散体を遠心処理することでマイクロカプセルを回収し、マイクロカプセル顔料(粒子1)を得た。この製造例1(粒子1)の平均粒子径は、1.4μmであった。
【0047】
〔製造例2:粒子2〕
製造例1のシランカップリング剤(KBP-90 信越化学工業社製)1部に代えて、
シランカップリング剤(KBP-64 信越化学工業社製)2部を用いた以外は、上記製造例1と同様にして、マイクロカプセル顔料(粒子2)を得た。この製造例2(粒子2)の平均粒子径は、1.8μmであった。
【0048】
〔製造例3:粒子3〕
製造例1の色材(顔料(カーボンブラック、Cabot Mogul L、キャボット社製)2.0部)に代え、色材として、Valifast Black 3830(オリヱント化学工業社社製)2.4部を加えて十分に溶解させ、分散剤(DISPERBYK-111、ビックケミー・ジャパン社製)1.8部を用いないこととした以外は、上記製造例1と同様にして、マイクロカプセル顔料(粒子3)を得た。この製造例3(粒子3)の平均粒子径は、2.5μmであった。
【0049】
〔製造例4:粒子4〕
製造例3のシランカップリング剤(KBP-90 信越化学工業社製)2部に代えて、
シランカップリング剤(KBP-64 信越化学工業社製)2部を用いた以外は、上記製造例3等と同様にして、マイクロカプセル顔料(粒子4)を得た。この製造例4(粒子4)の平均粒子径は、2.6μmであった。
【0050】
〔製造例5:粒子5〕
ベンジルグリコール11.6部と分散剤(DISPERBYK-111、ビックケミー・ジャパン社製)1.8部とを60°Cに加温しながら、色材として、顔料(カーボンブラック、Cabot Mogul L、キャボット社製)2.0部を加えて十分に分散させた。次いで、シリカ粒子(MEK-ST-L 平均粒子径:45nm、日産化学社製)2部を加えて、更にキシリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパン変性体(D-110N、三井化学社製)9.0部を加えて65℃で撹拌した。
水相溶液としては、65℃に加温した蒸留水100部に対して、ポリビニルアルコール(PVA-205、クラレ社製)15部を溶解し、これに前記油相溶液を投入し、更にヘキサメチレンジアミン6部を加え、乳化混合して重合を完了した。
得られた分散体を遠心処理することでマイクロカプセルを回収し、マイクロカプセル顔料(粒子5)を得た。この製造例5(粒子5)の平均粒子径は、2.5μmであった。
【0051】
〔製造例6:粒子6〕
製造例5のシリカ粒子(MEK-ST-L 平均粒子径:45nm、日産化学社製)4部に代えて、シリカ粒子(MEK-ST-ZL 平均粒子径:80nm、日産化学社製)4部を用いた以外は、上記製造例5と同様にして、マイクロカプセル顔料(粒子6)を得た。この製造例6(粒子6)の平均粒子径は、3.1μmであった。
【0052】
〔製造例7:粒子7〕
製造例5の色材(顔料(カーボンブラック、Cabot Mogul L、キャボット社製)2.0部)に代え、色材として、Valifast Black 3830(オリヱント化学工業社社製)2.4部を加えて十分に溶解させ、分散剤(DISPERBYK-111、ビックケミー・ジャパン社製)1.8部を用いないこととした以外は、上記製造例5と同様にして、マイクロカプセル顔料(粒子7)を得た。この製造例7(粒子7)の平均粒子径は、3.1μmであった。
【0053】
〔製造例8:粒子8〕
製造例7(製造例5)で用いたシリカ粒子(MEK-ST-L 平均粒子径:45nm、日産化学社製)4部に代えて、シリカ粒子(MEK-ST-ZL 平均粒子径:80nm、日産化学社製)4部を用いた以外は、上記製造例7(製造例5)と同様にして、マイクロカプセル顔料(粒子8)を得た。この製造例8(粒子8)の平均粒子径は3.2μmであった。
【0054】
〔製造例9:粒子9〕
上記製造例1において、シランカップリング剤を用いないで、上記製造例1と同様にして、マイクロカプセル顔料(粒子9)を得た。この製造例9(粒子9)の平均粒子径は、
1.5μmであった。
【0055】
〔製造例10:粒子10〕
上記製造例3において、シランカップリング剤を用いないで、上記製造例1と同様にして、マイクロカプセル顔料(粒子10)を得た。この製造例9(粒子9)の平均粒子径は、1.9μmであった。
【0056】
〔製造例11:粒子11〕
上記製造例5において、シリカ粒子を用いないで、上記製造例5と同様にして、マイクロカプセル顔料(粒子11)を得た。この製造例11(粒子11)の平均粒子径は、2.2μmであった。
【0057】
〔製造例12:粒子12〕
上記製造例7において、シリカ粒子を用いないで、上記製造例7と同様にして、マイクロカプセル顔料(粒子11)を得た。この製造例11(粒子11)の平均粒子径は、2.9μmであった。
【0058】
〔実施例1~8及び比較例1~4〕
上記で得た製造例1~12の各マイクロカプセル顔料(粒子1~12)についての透明性(発色性)を下記方法で算出し評価した。
(透明性の算出評価)
マイクロカプセル顔料を20%となるように水に分散した後、黒色の色上質紙(ペーパーミツヤマ、色上質紙、厚口 黒 大王製紙社製)に展色し、塗膜が乾燥した後の白化(白くぼやける現象)を目視で、下記評価基準に基づいて、透明性を評価した。
評価基準:
A:白化がみられない
B:わずかに白化がみられる
C:白化がみられる
D:明らかな白化がみられる。
【0059】
次に、上記で得た製造例1~12の各マイクロカプセル顔料(粒子1~12)を用いて、下記表1に示す配合組成により、常法により、各筆記具用水性インク組成物を調製した。
上記で得られた各筆記具用水性インク組成物について、下記方法により水性ボールペンを作製して、下記評価方法でインク発色性の評価を行った。
これらの結果を下記表1に示す。
【0060】
(ボールペンの作製)
上記で得られた各インク組成物を用いてボールペンを作製した。具体的には、ボールペン〔三菱鉛筆株式会社製、商品名:UF-202〕の軸を使用し、内径3.8mm、長さ90mmポリプロピレン製インク収容管とステンレス製チップ(超硬合金ボール、ボール径0.5mm)及び該収容管と該チップを連結する継手からなるリフィールに上記各インクを充填し、インク後端に鉱油を主成分とするインク追従体を装填し、ボールペンを作製した。得られた実施例1~8及び比較例1~4の各ボールペンを用いて、下記評価方法で発色性評価を行った。これらの結果を下記表1に示す。
【0061】
(発色性の評価方法)
上記ペンを用いて5周のらせんをPPC用紙に筆記後、筆記描線の発色性を目視で、下記評価基準に基づいて評価した。
評価基準:
A:とても濃く鮮やか
B:濃い
C:若干薄い
D:薄い
【0062】
【0063】
上記表1の結果から明らかなように、本発明となる実施例1~8の各マイクロカプセル顔料を用いた筆記具用水性インク組成物は、本発明の範囲外となる比較例1~4のマイクロカプセル顔料を用いた筆記具用水性インク組成物に較べて、発色性に優れることが判明した。