(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121478
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】溶接用ケーブルおよびそれを備える溶接トーチ
(51)【国際特許分類】
B23K 9/29 20060101AFI20240830BHJP
H01B 7/00 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
B23K9/29 Z
B23K9/29 E
B23K9/29 B
H01B7/00 310
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028611
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】源元 徹志
【テーマコード(参考)】
4E001
5G309
【Fターム(参考)】
4E001NB06
4E001NB07
5G309KA07
(57)【要約】
【課題】撚線に過度な負荷がかかって撚線が断線することを抑制する。
【解決手段】圧着部110には、パイプ部20の仮想軸Aの径方向にパイプ部20の外形が凹みつつパイプ部20の軸方向に沿って延在し、かつ仮想軸Aの軸周りに等間隔に配置された少なくとも3つの凹条部111が形成されており、かつ、軸周りに隣り合う凹条部111同士の間に、絶縁被覆部40の内周面に接している凸条部112が形成されている。パイプ部20には、少なくとも3つの凹条部111の各々の第2の端部側に隣接してパイプ部20の外側と内側とを連通させる少なくとも3つの貫通孔が設けられている。絶縁被覆部40の内周面と少なくとも3つの凹条部111とに囲まれた領域から少なくとも3つの貫通孔の各々を通過してパイプ部20の内部からノズル部の内部に冷却水が通流可能な冷却水流路60が形成されている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
撚線と、
第1の端部、該第1の端部とは反対側に位置する第2の端部、および、第1の端部寄りに位置して前記撚線を圧着する圧着部を含むパイプ部と、
前記パイプ部の前記第2の端部に接続されたノズル部と、
前記パイプ部の外周に固定され、前記パイプ部のうちの少なくとも前記圧着部および前記撚線を被覆する絶縁被覆部とを備え、
前記圧着部には、前記パイプ部の仮想軸の径方向に前記パイプ部の外形が凹みつつ前記パイプ部の軸方向に沿って延在し、かつ前記仮想軸の軸周りに等間隔に配置された少なくとも3つの凹条部が形成されており、かつ、前記軸周りに隣り合う前記凹条部同士の間に、前記絶縁被覆部の内周面に接している凸条部が形成されており、
前記パイプ部には、前記少なくとも3つの凹条部の各々の第2の端部側に隣接して前記パイプ部の外側と内側とを連通させる少なくとも3つの貫通孔が設けられており、
前記絶縁被覆部の前記内周面と前記少なくとも3つの凹条部とに囲まれた領域から前記少なくとも3つの貫通孔の各々を通過して前記パイプ部の内部から前記ノズル部の内部に冷却水が通流可能な冷却水流路が形成されている、溶接用ケーブル。
【請求項2】
前記圧着部には、前記少なくとも3つの凹条部として、4つの凹条部が形成されている、請求項1に記載の溶接用ケーブル。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の溶接用ケーブルと、
前記溶接用ケーブルに接続されるハンドル部とを備える、溶接トーチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接用ケーブルおよびそれを備える溶接トーチに関する。
【背景技術】
【0002】
抵抗溶接用二次ケーブルの構成を開示した先行技術文献として、実願昭61-57316号(実開昭62-169784号)のマイクロフィルム(特許文献1)がある。特許文献1に記載された抵抗溶接用二次ケーブルは、ケーブル体と、ケーブル端子と、銅スリーブとを備える。ケーブル体は、複数の導線が撚り合わされたものである。ケーブル端子には筒形ガイドが設けられる。筒形ガイドの胴体には銅スリーブが嵌入される。銅スリーブを加圧して筒形ガイドの内部に挿入したケーブル体と胴体とを圧着する。圧着によって銅スリーブの両側の2箇所に生じた凹所は、通水路を構成している。
【0003】
また、特許文献1に類似する溶接用ケーブルの構成を開示した先行技術文献として、特許第3761113号公報(特許文献2)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実願昭61-57316号(実開昭62-169784号)のマイクロフィルム
【特許文献2】特許第3761113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1または特許文献2においては、一方向から撚線を圧着してパイプ部と撚線とを接続するため、パイプ部の圧着による撚線への押圧力がパイプ部の周方向において不均一になりやすい。このため、溶接トーチの取り回しのために溶接用ケーブルが動かされる場合、撚線に対して過度に負荷が加わって、パイプ部の端部と撚線とが擦れることにより、撚線が断線する可能性がある。
【0006】
また、溶接用ケーブルは、溶接トーチへの給電に加えて、溶接トーチを冷却するための冷却水流路を確保するため、ケーブル径が大径化しやすい。溶接用ケーブルが大径である場合、溶接用ケーブルを屈曲させにくいため、溶接トーチを取り回す際に溶接トーチを強い力で動かす必要がある。この溶接トーチを動かす強い力は、溶接用ケーブルにおける撚線に過度の負荷がかかって、撚線が断線する要因となる。
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、撚線に過度な負荷がかかって撚線が断線することを抑制することができる、溶接用ケーブルおよびそれを備える溶接トーチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に基づく溶接用ケーブルは、撚線と、パイプ部と、ノズル部と、絶縁被覆部とを備える。パイプ部は、第1の端部、第1の端部とは反対側に位置する第2の端部、および、第1の端部寄りに位置して撚線を圧着する圧着部を含む。ノズル部は、パイプ部の第2の端部に接続されている。絶縁被覆部は、パイプ部の外周に固定され、パイプ部のうちの少なくとも圧着部および撚線を被覆する。圧着部には、パイプ部の仮想軸の径方向にパイプ部の外形が凹みつつパイプ部の軸方向に沿って延在し、かつ上記仮想軸の軸周りに等間隔に配置された少なくとも3つの凹条部が形成されており、かつ、軸周りに隣り合う凹条部同士の間に、絶縁被覆部の内周面に接している凸条部が形成されている。パイプ部には、少なくとも3つの凹条部の各々の第2の端部側に隣接してパイプ部の外側と内側とを連通させる少なくとも3つの貫通孔が設けられている。絶縁被覆部の内周面と少なくとも3つの凹条部とに囲まれた領域から少なくとも3つの貫通孔の各々を通過してパイプ部の内部からノズル部の内部に冷却水が通流可能な冷却水流路が形成されている。
【0009】
この場合、仮想軸Aの軸周りに等間隔に配置された少なくとも3つの凹条部が圧着部に形成され、かつ、凸条部が絶縁被覆部の内周面に接して溶接用ケーブルを小径化することによって、撚線に過度な負荷がかかって撚線が断線することを抑制することができる。
【0010】
本発明の一形態においては、圧着部には、少なくとも3つの凹条部として、4つの凹条部が形成されている。
【0011】
これにより、仮想軸の軸周りに等間隔に冷却水流路を確保して、冷却水の偏流を抑制することができる。また、圧着部の加工時に対向する加工治具により圧着部を加工する力を受け止めることができるため、凹条部を形成しやすい構成にすることができる。
【0012】
本発明に基づく溶接トーチは、上記溶接用ケーブルと、ハンドル部とを備える。ハンドル部は、溶接用ケーブルに接続されている。
【0013】
この場合、溶接トーチの取り回しのために頻繁に動かされるハンドル部に上述の圧着部を有する溶接用ケーブルを接続することによって、溶接用ケーブルにおける撚線に過度な負荷がかかって撚線が断線することを抑制することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、撚線に過度な負荷がかかって撚線が断線することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る溶接トーチの構成を示す斜視図である。
【
図2】本発明の一実施の形態に係る溶接トーチが備える溶接用ケーブルの構成を示す斜視図である。
【
図3】
図2の溶接用ケーブルをIII-III線矢印方向から見た断面図である。
【
図4】
図3の溶接用ケーブルをIV-IV線矢印方向から見た断面図である。
【
図5】溶接用ケーブルの内部構造を示す斜視図である。
【
図6】比較例に係る溶接用ケーブルの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施の形態に係る溶接用ケーブルおよびそれを備える溶接トーチについて図面を参照して説明する。以下の実施の形態の説明においては、図中の同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は繰り返さない。
【0017】
なお、図面においては、パイプ部の仮想軸における径方向の一方向をX方向、当該径方向のうちのX方向に直交する方向をY方向、パイプ部の仮想軸の軸方向をZ方向とする。また、以下の溶接用ケーブルの説明においては、Z方向において、ノズル部側を先端側とし、撚線側を後端側と称する場合がある。また、図面における撚線については、撚線を構成する導線ごとの記載は省略し、外形のみを示している。
【0018】
図1は、本発明の一実施の形態に係る溶接トーチの構成を示す斜視図である。
図1に示すように、本発明の一実施の形態に係る溶接トーチ1は、トーチ本体2と、ハンドル部3と、主ケーブル4とを備える。
【0019】
溶接トーチ1は、その先端においてアークを発生させて図示しない被加工物を溶接する。トーチ本体2は、その先端から図示しないワイヤが突出し、ワイヤ周囲にシールドガスを吐出する。トーチ本体2の先端から突出するワイヤの先端と被加工物との間にアークが発生する。溶接トーチ1は、シールドガスを吐出しつつ、ワイヤおよび被加工物をアークの熱によって溶融させることにより被加工物を溶接する。シールドガスは、たとえば、アルゴンガスである。トーチ本体2の内部には、図示しない冷却水流路が設けられている。なお、シールドガスは、アルゴンガスに限定されず、炭酸ガスまたはヘリウムガスなどの他の不活性ガスであってもよい。
【0020】
ハンドル部3は、溶接作業において溶接トーチ1を操作するための部分である。ハンドル部3は、トーチ本体2の後端側に接続されている。また、ハンドル部3は、後述する溶接用ケーブル5を含む主ケーブル4に接続されている。
【0021】
ハンドル部3は、把持部3aと、操作部3bとを含む。把持部3aは、溶接トーチ1を操作するために把持される部分である。操作部3bは、把持部3aの先端側に位置している。操作部3bが押下されることにより、トーチ本体2からシールドガスが噴射され、図示しないワイヤ供給部からトーチ本体2へ給電されつつワイヤが供給される。
【0022】
主ケーブル4は、ハンドル部3の後端に接続されている。主ケーブル4は、溶接トーチ1と図示しない溶接装置とを接続する。主ケーブル4は、溶接トーチ1に冷却水を通流させて溶接トーチ1を冷却しつつ溶接トーチ1に給電するための溶接用ケーブル5、ワイヤを供給するための配管、シールドガスを供給するための配管、および、操作部3bと溶接装置との信号を送受信するための信号配線などを含んでいる。
【0023】
図2は、本発明の一実施の形態に係る溶接トーチが備える溶接用ケーブルの構成を示す斜視図である。
図3は、
図2の溶接用ケーブルをIII-III線矢印方向から見た断面図である。
図4は、
図3の溶接用ケーブルをIV-IV線矢印方向から見た断面図である。
図5は、溶接用ケーブルの内部構造を示す斜視図である。
【0024】
図2~
図5に示すように、本実施の形態に係る溶接用ケーブル5は、撚線10と、パイプ部20と、ノズル部30と、絶縁被覆部40と、固定部50と、冷却水流路60とを含む。
【0025】
撚線10は、図示しない複数の導線がらせん状に絡み合うように構成されている。撚線10は、たとえば銅により構成されている。
【0026】
パイプ部20は、撚線10を圧着することによって接続する、およびノズル部30に接続されつつ冷却水流路60の一部を構成するために設けられている。パイプ部20は、たとえば銅または真鍮により構成されている。
【0027】
パイプ部20は、第1の端部100と、第2の端部101と、環状溝部102と、圧着部110とを有する。
【0028】
第1の端部100は、撚線10側に位置している。第2の端部101は、第1の端部100とは反対側のノズル部30側に位置している。環状溝部102は、第2の端部101寄りに位置してパイプ部20の仮想軸A方向(Z方向)に沿って互いに間隔をあけて複数設けられている。環状溝部102は、パイプ部20の外周に位置する絶縁被覆部40がパイプ部20から抜けることを防止するために設けられている。
【0029】
圧着部110は、第1の端部100寄りに位置して撚線10を圧着する。本実施の形態においては、圧着部110は、第1の端部100に隣接して設けられている。圧着部110は、第1の端部100に隣接して設けることによって、第1の端部100周辺における冷却水流路60を確保しやすい。
【0030】
圧着部110は、パイプ部20の外形が凹んだ部分である。圧着部110は、圧着によりパイプ部20の断面積が小さくなることによって、パイプ部20の内周部と撚線10とを密着させて固定する。
【0031】
圧着部110には、少なくとも3つの凹条部111と、凸条部112とが形成されている。凹条部111および凸条部112は、Z方向から見て、滑らかに湾曲した曲面を有している。
【0032】
本実施の形態においては、圧着部110には、少なくとも3つの凹条部111として、4つの凹条部111が形成されている。4つの凹条部111は、パイプ部20の仮想軸Aの径方向(XY平面上の一方向)にパイプ部20の外形が凹みつつパイプ部20の軸方向(Z方向)に沿って延在している。
【0033】
本実施の形態における4つの凹条部111は、パイプ部20の軸方向(Z方向)に沿って略平行に延在しているが、この構成に限定されない。4つの凹条部111は、たとえば、第2の端部101側から第1の端部100側に向かうにしたがって仮想軸Aから離れるように傾斜していてもよい。これにより、圧着部110によって撚線10とパイプ部20とを接続しつつも、第1の端部100側において撚線10に対してパイプ部20の圧着による負荷を軽減することによって、パイプ部20の第1の端部100と撚線10とが過度に擦れることを抑制することができる。
【0034】
4つの凹条部111は、仮想軸Aの軸周りに等間隔に配置されている。なお、圧着部110の製造時における加工誤差によって4つの凹条部111の各々の間隔が異なる場合も実質的に等間隔であるとして、「4つの凹条部111が仮想軸Aの軸周りに等間隔に配置されている」ことに含む。
【0035】
なお、凹条部111の数量は4つに限定されない。凹条部111の数量は、少なくとも3つであればよく、たとえば6つまたは8つでもよい。また、凹条部111の数量は、4つ以上の偶数が望ましい。これにより、径方向において凹条部111同士を仮想軸A中心に対向配置でき、加工時に対向する加工治具で圧着部を加工する力を受け止めることができるため、凹条部111を形成しやすくすることができる。
【0036】
凸条部112は、仮想軸Aの軸周りに隣り合う凹条部111同士の間に位置している。凸条部112は、仮想軸Aの軸周りにおいて凹条部111と連続している。
【0037】
圧着部110に4つの凹条部111が配置されているため、凸条部112は圧着部110に4つ形成されている。凸条部112は、4つの凹条部111に対応して仮想軸Aの軸周りに等間隔に配置されている。
【0038】
凸条部112は、絶縁被覆部40の内周面に接している。本実施の形態における凸条部112は、絶縁被覆部40の内周面に面接触している。なお、凸条部112は、絶縁被覆部40の内周面に線接触してもよい。ただし、溶接用ケーブル5が溶接トーチ1の取り回しによって頻繁に動かされる場合、凸条部112と絶縁被覆部40の内周面とが線接触することによって凸条部112から絶縁被覆部40の内周面に局所的に負荷がかかることを抑制する観点から、凸条部112と絶縁被覆部40の内周面とは面接触することが望ましい。
【0039】
圧着部110は、たとえばX方向およびY方向からパイプ部20を押圧可能な加工治具によって形成される。本実施の形態における圧着部110は、X方向およびY方向から同時に加工治具によって押圧されることによって、凹条部111および凸条部112が形成される。
【0040】
パイプ部20には、少なくとも3つの凹条部111の各々の第2の端部101側に隣接する少なくとも3つの貫通孔120が設けられている。本実施の形態においては、パイプ部20には、少なくとも3つの貫通孔120として、4つの貫通孔120が設けられている。
【0041】
4つの貫通孔120は、パイプ部20の外側と内側とを連通させる。4つの貫通孔120は、冷却水流路60の一部を構成する。なお、貫通孔120は、圧着部110に沿うようにZ方向から傾斜している。このため、機械加工を容易にする観点から、圧着部110が形成される前に貫通孔120が形成されることが望ましい。
【0042】
ノズル部30は、ハンドル部3に通電しつつ接続され、かつ冷却水流路60の一部を構成するために設けられている。ノズル部30は、パイプ部20の第2の端部101に接続されている。ノズル部30は、たとえばパイプ部20の第2の端部101に圧入されて接続されている。
【0043】
絶縁被覆部40は、パイプ部20の外周に固定されている。絶縁被覆部40は、パイプ部20のうちの少なくとも圧着部110および撚線10を被覆している。本実施の形態における絶縁被覆部40は、パイプ部20の外周の全体および撚線10を被覆している。
【0044】
固定部50は、円筒部材である。固定部50は、パイプ部20の外周に絶縁被覆部40を固定する。具体的には、固定部50は、パイプ部20の環状溝部102に対して絶縁被覆部40を圧着する。固定部50は、たとえば銅により構成されている。
【0045】
冷却水流路60は、溶接用ケーブル5の全長に亘って形成されている。冷却水流路60は、第1の端部100より後端側においては、撚線10と絶縁被覆部40の内周面との間に形成されている。
【0046】
冷却水流路60は、パイプ部20が冷却水流路60の一部を構成する部分においては、第1の端部100側においてパイプ部20の外周側に形成され、第2の端部101側においてパイプ部20の内周側に形成される。
【0047】
具体的には、冷却水流路60は、絶縁被覆部40の内周面と少なくとも3つの凹条部111とに囲まれた領域から少なくとも3つの貫通孔120の各々を通過してパイプ部20の内部からノズル部30の内部に冷却水が通流可能に形成されている。本実施の形態における冷却水流路60は、パイプ部20の第1の端部100側において、仮想軸Aの軸周りに等間隔に配置される4つの凹条部111に合わせて、仮想軸Aの軸周りに等間隔に形成されている。
【0048】
冷却水流路60を流れる冷却水は、ノズル部30の内部を通流した後、ハンドル部3を経由してトーチ本体2に供給される。これにより、トーチ本体2が冷却可能となる。
【0049】
ここで、本発明の比較例に係る溶接用ケーブルについて図を参照して説明する。本比較例に係る溶接用ケーブルは、圧着部の構成が本発明の一実施の形態に係る溶接用ケーブル5と異なるため、本発明の一実施の形態に係る溶接用ケーブル5と同様である構成については説明を繰り返さない。
【0050】
図6は、比較例に係る溶接用ケーブルの構成を示す断面図である。
図6に示すように、比較例に係る溶接用ケーブル9は、撚線90と、パイプ部91と、絶縁被覆部92と、冷却水流路93とを含む。
【0051】
パイプ部91は、圧着部910を有する。圧着部910は、撚線90を圧着する。圧着部910には、1つの凹条部911と、1つの凸条部912とが形成されている。1つの凹条部911は、パイプ部91の仮想軸の径方向(XY平面上の一方向)にパイプ部91の外形が凹みつつパイプ部91の軸方向(Z方向)に沿って延在している。1つの凹条部911は、Y方向の一方側に位置している。1つの凸条部912は、Y方向の他方側に位置している。
【0052】
絶縁被覆部92は、パイプ部91の外周に固定されている。冷却水流路93は、絶縁被覆部92の内周面と1つの凹条部911とに囲まれた領域に冷却水が通流可能に形成されている。
【0053】
圧着部910によってパイプ部91に圧着された撚線90は、一方向から圧着されているため、パイプ部91の圧着による撚線90への押圧力がパイプ部91の周方向において不均一になりやすい。本比較例においては、圧着部910がY方向に1つの凹条部911および1つの凸条部912を形成するように撚線90を圧着しているため、撚線90に対してY方向にパイプ部91から押圧力がかかっている。
【0054】
溶接トーチの取り回しのために溶接用ケーブル9が動かされた場合、撚線90は、Y方向の一方側または他方側におけるパイプ部91との接触部分において、パイプ部91から押圧力を受けて局所的に負荷が加わることによって、断線しやすい。
【0055】
一方、
図4に示すように、本発明の一実施の形態に係る圧着部110は、4つの凹条部111が仮想軸Aの軸周りに等間隔に配置されているため、撚線10に対するパイプ部20からの押圧力が仮想軸Aの軸周りに均等に分散されている。これにより、本実施の形態における撚線10には、比較例と比べて、パイプ部20からの過度な負荷がかかることが抑制されている。
【0056】
本発明の一実施の形態に係る溶接用ケーブル5においては、仮想軸Aの軸周りに等間隔に配置された少なくとも3つの凹条部111が圧着部110に形成されることによって、圧着部110に2つ以下の凹条部が形成される場合と比較して、撚線10に対するパイプ部20からの押圧力を仮想軸Aの軸周りに均等に分散することができる。これにより、撚線10に過度な負荷がかかることを抑制することができる。また、圧着部110における凸条部112が絶縁被覆部40の内周面に接していることによって、仮想軸Aにおける軸周りの全周に冷却水流路60を形成するために、凸条部と絶縁被覆部との間に隙間を設ける場合と比較して、溶接用ケーブル5を小径化することができる。これにより、溶接用ケーブルが大径である場合と比較して、溶接用ケーブル5が屈曲させやすいため、溶接トーチ1を取り回す際に溶接用ケーブル5に大きな力をかけることを抑制することができる。これらによって、撚線10に過度な負荷がかかって撚線10が断線することを抑制することができる。
【0057】
本発明の一実施の形態に係る溶接用ケーブル5においては、凸条部と絶縁被覆部との間に隙間を設ける場合と比較して、圧着部110における凸条部112を絶縁被覆部40に密着させて溶接用ケーブル5を小径化した場合でも、冷却水流路60を仮想軸Aの軸周りに等間隔に配置することができるため、溶接用ケーブル5の内部における冷却水流路60の配置の偏りを抑制することができる。
【0058】
本発明の一実施の形態に係る溶接用ケーブル5においては、圧着部110に4つの凹条部111が仮想軸Aの軸周りに等間隔に配置されていることによって、仮想軸Aの軸周りに等間隔に冷却水流路60を確保することができるため、冷却水の偏流を抑制することができる。
【0059】
本発明の一実施の形態に係る溶接用ケーブル5においては、圧着部110の凹条部111を4つとして偶数にすることによって、径方向において凹条部111同士を仮想軸A中心に対向配置でき、圧着部110の加工時に対向する加工治具により圧着部110を加工する力を受け止めることができる。これにより、凹条部111を形成しやすい構成にすることができる。
【0060】
本発明の一実施の形態に係る溶接トーチ1においては、溶接トーチ1の取り回しのために頻繁に動かされるハンドル部3に上述の圧着部110を有する溶接用ケーブル5を接続することによって、溶接用ケーブル5における撚線10に過度な負荷がかかって撚線10が断線することを抑制することができる。
【0061】
なお、本発明の一実施の形態に係る溶接用ケーブルおよび溶接トーチにおいては、MIG(Metal Inert Gas)溶接について例示したが、本発明の適用はMIG溶接用の溶接装置に限定されない。本発明は、MAG(Metal Active Gas)溶接またはTIG(Tungsten Inert Gas)溶接などの他のアーク溶接においても適用することができる。
【0062】
また、今回開示した上記実施の形態はすべての点で例示であって、限定的な解釈の根拠となるものではない。したがって、本開示の技術的範囲は、上記した実施の形態のみによって解釈されるものではない。また、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。上述した実施の形態の説明において、組み合わせ可能な構成を相互に組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0063】
1 溶接トーチ、3 ハンドル部、5,9 溶接用ケーブル、10,90 撚線、20,91 パイプ部、30 ノズル部、40,92 絶縁被覆部、60,93 冷却水流路、100 第1の端部、101 第2の端部、110,910 圧着部、111,911 凹条部、112,912 凸条部、120 貫通孔、A 仮想軸。