IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立GEニュークリア・エナジー株式会社の特許一覧

特開2024-121483メカニカルシール状態監視システムおよびメカニカルシール状態監視方法
<>
  • 特開-メカニカルシール状態監視システムおよびメカニカルシール状態監視方法 図1
  • 特開-メカニカルシール状態監視システムおよびメカニカルシール状態監視方法 図2
  • 特開-メカニカルシール状態監視システムおよびメカニカルシール状態監視方法 図3
  • 特開-メカニカルシール状態監視システムおよびメカニカルシール状態監視方法 図4
  • 特開-メカニカルシール状態監視システムおよびメカニカルシール状態監視方法 図5
  • 特開-メカニカルシール状態監視システムおよびメカニカルシール状態監視方法 図6
  • 特開-メカニカルシール状態監視システムおよびメカニカルシール状態監視方法 図7
  • 特開-メカニカルシール状態監視システムおよびメカニカルシール状態監視方法 図8
  • 特開-メカニカルシール状態監視システムおよびメカニカルシール状態監視方法 図9
  • 特開-メカニカルシール状態監視システムおよびメカニカルシール状態監視方法 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121483
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】メカニカルシール状態監視システムおよびメカニカルシール状態監視方法
(51)【国際特許分類】
   G21C 17/02 20060101AFI20240830BHJP
   G21C 15/243 20060101ALI20240830BHJP
   F01D 25/18 20060101ALI20240830BHJP
   F01D 11/00 20060101ALI20240830BHJP
   F02C 7/28 20060101ALI20240830BHJP
   F04D 29/08 20060101ALI20240830BHJP
   F04D 29/12 20060101ALI20240830BHJP
   F01D 25/00 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
G21C17/02
G21C15/243
F01D25/18 C
F01D11/00
F02C7/28 B
F04D29/08 C
F04D29/12 B
F01D25/18 E
F01D25/00 W
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028620
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】田村 明紀
(72)【発明者】
【氏名】清水 岳
(72)【発明者】
【氏名】池田 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】吉江 豊
【テーマコード(参考)】
2G075
3G202
3H130
【Fターム(参考)】
2G075AA03
2G075BA03
2G075CA14
2G075DA03
2G075DA04
2G075EA01
2G075FA03
2G075FB09
2G075GA38
3G202KK06
3G202KK23
3H130AA02
3H130AA12
3H130AB22
3H130AB27
3H130AB60
3H130AC30
3H130BA32F
3H130BA33F
3H130BA53D
3H130BA53F
3H130BA90F
3H130DC02X
3H130DF03X
3H130ED04F
(57)【要約】
【課題】実運用までの時間が短くても高精度で異常判定できるメカニカルシール状態監視システムおよびメカニカルシール状態監視方法を提供する。
【解決手段】回転機械の回転部と静止部との間をシールするメカニカルシールの状態を監視するメカニカルシール状態監視システムであって、前記メカニカルシールのシール室へ流入する第1流体の流量および温度、前記シール室内の圧力、前記シール室から排出される第2流体の流量および温度、並びに、前記シール室から前記回転機械へ回収される第3流体の温度を取得する状態量取得装置と、前記状態量取得装置によって取得された状態量に基づき、前記回転部と前記静止部とのシール面における発熱量を算出するとともに、前記発熱量に基づき前記メカニカルシールの異常の有無を判定する監視装置と、を備えた。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転機械の回転部と静止部との間をシールするメカニカルシールの状態を監視するメカニカルシール状態監視システムであって、
前記メカニカルシールのシール室へ流入する第1流体の流量および温度、前記シール室内の圧力、前記シール室から排出される第2流体の流量および温度、並びに、前記シール室から前記回転機械へ回収される第3流体の温度を取得する状態量取得装置と、
前記状態量取得装置によって取得された状態量に基づき、前記回転部と前記静止部とのシール面における発熱量を算出するとともに、前記発熱量に基づき前記メカニカルシールの異常の有無を判定する監視装置と、
を備えたメカニカルシール状態監視システム。
【請求項2】
請求項1に記載のメカニカルシール状態監視システムにおいて、
前記監視装置は、
前記シール室内の圧力、前記第1流体の温度、前記第2流体の温度、および前記第3流体の温度に基づき、各流体のエンタルピを算出するエンタルピ算出部と、
各流体の流量およびエンタルピに基づき、前記第1流体が前記シール室に持ち込む第1熱量、前記第2流体が前記シール室から持ち去る第2熱量、および前記第3流体が前記シール室から持ち去る第3熱量を算出するとともに、前記第1熱量、前記第2熱量および前記第3熱量に基づき、前記シール面における摺動熱を算出する摺動熱算出部と、
前記摺動熱および予め定めた閾値により、前記メカニカルシールの異常の有無を判定する異常判定部と、
を有することを特徴とするメカニカルシール状態監視システム。
【請求項3】
請求項2に記載のメカニカルシール状態監視システムにおいて、
前記監視装置は、
前記状態量取得装置が取得した前記第1流体および前記第2流体の体積流量に基づき、前記第1流体および前記第2流体の質量流量を算出する流量算出部をさらに有することを特徴とするメカニカルシール状態監視システム。
【請求項4】
請求項1に記載のメカニカルシール状態監視システムにおいて、
前記状態量取得装置が取得する前記第1流体の温度および前記第2流体の温度は、センサによる実測値であり、
前記状態量取得装置が取得する他の状態量は、センサによる実測値、解析による推定値、設計データによる推定値、のいずれかであることを特徴とするメカニカルシール状態監視システム。
【請求項5】
請求項2に記載のメカニカルシール状態監視システムにおいて、
前記監視装置は、前記メカニカルシールの設計データ、または、前記摺動熱の過去データ、を格納するデータベースをさらに有し、
前記異常判定部は、評価対象である現在の前記摺動熱を、前記設計データに基づき定まる摺動熱または正常時の前記過去データにおける摺動熱で除した比率が、所定の閾値より大きい場合に、前記メカニカルシールが異常であると判定することを特徴とするメカニカルシール状態監視システム。
【請求項6】
請求項2に記載のメカニカルシール状態監視システムにおいて、
前記監視装置は、前記摺動熱の過去データを格納するデータベースをさらに有し、
前記異常判定部は、評価対象である現在の前記摺動熱の波形を、正常時の前記過去データにおける前記摺動熱の波形と比較する、パターンマッチングのアルゴリズムを用いて異常を判定することを特徴とするメカニカルシール状態監視システム。
【請求項7】
請求項2に記載のメカニカルシール状態監視システムにおいて、
前記監視装置は、前記摺動熱の過去データ、および、前記過去データを学習データとして予め学習された学習モデル、を格納するデータベースをさらに有し、
前記異常判定部は、評価対象である現在の前記摺動熱を、前記学習モデルに対して入力することで、異常判定の結果を出力することを特徴とするメカニカルシール状態監視システム。
【請求項8】
請求項2に記載のメカニカルシール状態監視システムにおいて、
前記状態量取得装置は、前記シール室の内部を冷却する熱交換器へ流入する流入冷却水の流量、圧力および温度、前記熱交換器から流出する流出冷却水の温度を取得し、
前記エンタルピ算出部は、前記流入冷却水の圧力および前記流入冷却水の温度に基づき、前記流入冷却水のエンタルピを算出するとともに、前記流入冷却水の圧力および前記流出冷却水の温度に基づき、前記流出冷却水のエンタルピを算出し、
前記摺動熱算出部は、前記流入冷却水の流量、前記流入冷却水のエンタルピおよび前記流出冷却水のエンタルピに基づき、前記熱交換器による除熱量を算出するとともに、前記第1熱量、前記第2熱量、前記第3熱量および前記除熱量に基づき、前記摺動熱を算出することを特徴とするメカニカルシール状態監視システム。
【請求項9】
回転機械の回転部と静止部との間を高圧側と低圧側の2段階でシールするメカニカルシールの状態を監視するメカニカルシール状態監視システムであって、
前記メカニカルシールの第1シール室へ流入する第1流体の流量および温度、前記第1シール室内の圧力および温度、前記第1シール室より低圧側の第2シール室から排出される第2流体の流量および温度、前記第2シール室内の圧力および温度、前記第1シール室から前記回転機械へ回収される第3流体の温度、並びに、前記第1シール室と前記第2シール室をつなぐ減圧機構の温度を取得する状態量取得装置と、
前記状態量取得装置によって取得された状態量に基づき、高圧側のシール面における第1発熱量と低圧側のシール面における第2発熱量を算出するとともに、前記第1発熱量および前記第2発熱量に基づき前記メカニカルシールの異常の有無を診断する監視装置と、
を備えたメカニカルシール状態監視システム。
【請求項10】
請求項9に記載のメカニカルシール状態監視システムにおいて、
前記監視装置は、
各流体の温度、各シール室の温度および各シール室内の圧力に基づき、各流体のエンタルピ、各シール室のエンタルピおよび前記減圧機構のエンタルピを算出するエンタルピ算出部と、
各流体の流量および各エンタルピに基づき、前記第1流体が前記第1シール室に持ち込む第1熱量、前記第2流体が前記第2シール室から持ち去る第2熱量、前記第3流体が前記第1シール室から持ち去る第3熱量および前記減圧機構を通過する通過熱量を算出するとともに、前記第1熱量、前記第2熱量、前記第3熱量および前記通過熱量に基づき、高圧側のシール面における第1摺動熱および低圧側のシール面における第2摺動熱を算出する摺動熱算出部と、
前記第1摺動熱、前記第2摺動熱および予め定めた閾値により、前記メカニカルシールの異常の有無を判定する異常判定部と、
を有することを特徴とするメカニカルシール状態監視システム。
【請求項11】
回転機械の回転部と静止部との間をシールするメカニカルシールの状態を監視するメカニカルシール状態監視方法であって、
前記メカニカルシールのシール室へ流入する第1流体の流量および温度、前記シール室内の圧力、前記シール室から排出される第2流体の流量および温度、並びに、前記シール室から前記回転機械へ回収される第3流体の温度を取得するステップと、
取得された各状態量に基づき、前記回転部と前記静止部とのシール面における発熱量を算出するステップと、
前記発熱量に基づき前記メカニカルシールの異常の有無を診断するステップと、
を備えたメカニカルシール状態監視方法。
【請求項12】
回転機械の回転部と静止部との間を高圧側と低圧側の2段階でシールするメカニカルシールの状態を監視するメカニカルシール状態監視方法であって、
前記メカニカルシールの第1シール室へ流入する第1流体の流量および温度、前記第1シール室内の圧力および温度、前記第1シール室より低圧側の第2シール室から排出される第2流体の流量および温度、前記第2シール室内の圧力および温度、前記第1シール室から前記回転機械へ回収される第3流体の温度、並びに、前記第1シール室と前記第2シール室をつなぐ減圧機構の温度を取得するステップと、
取得された各状態量に基づき、高圧側のシール面における第1発熱量と低圧側のシール面における第2発熱量を算出するステップと、
前記第1発熱量および前記第2発熱量に基づき前記メカニカルシールの異常の有無を診断するステップと、
を備えたメカニカルシール状態監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メカニカルシールの状態監視技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ポンプ等の回転機械には、回転軸と容器側の摺動面(シール面)からの液漏れを防止するため、メカニカルシールが設けられているものがある。メカニカルシールを備えた回転機械は、自動車、船舶、プラント、住宅設備等、様々な分野で使用されている。メカニカルシールは、回転軸側に設置される回転リングと、容器側に設置される静止リングとを有し、回転リングと静止リングとの摺動面に液体膜(例えば水膜や油膜)を形成することで摺動面からの液漏れを防止する。
【0003】
沸騰水型原子炉には、原子炉内の冷却材を循環させるため、原子炉冷却材再循環ポンプ(以下、再循環ポンプ)が備えられている。再循環ポンプでは、メカニカルシール内部の温度上昇や原子炉内の冷却材の流入による放射性物質や異物の混入を防止するため、一定流量のパージ水を常時注入するとともに、ブリードオフラインから外部へ排出している。再循環ポンプは、炉心出力制御に必要な再循環流量の確保に必須の設備であり、再循環ポンプの停止はプラントの停止を招くため、再循環ポンプのメカニカルシールは、高い信頼性が求められる。また、プラントの運転中にメカニカルシールの状態を監視して、異常を早期検知することで計画外のプラント停止を抑制することが重要である。
【0004】
メカニカルシールの状態監視に関する技術としては、例えば、特許文献1が知られている。この特許文献1には、シール圧力信号中に含まれる微少な揺らぎ成分を、APSD(オートパワースペクトル密度)を用いて評価することで、メカニカルシールのシール能力の低下を早期に判定する旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-12602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の技術では、実機適用前に、あらかじめ正常時のデータを取得し、異常判定のための基準を設定しておく必要がある。APSDはメカニカルシールの内部構造や運転環境によって変化すると考えられるので、精度良く異常判定するためには、実機で長期間にわたり正常時のAPSDデータを取得しなければならず、実運用まで時間を要してしまう。また、判定精度向上のためには、あらかじめ異常時のAPSDデータも取得することが望ましいが、実機でのメカニカルシール異常は、プラント停止に繋がるため、異常時のAPSDデータの取得は容易でない。
【0007】
本発明の目的は、実運用までの時間が短くても高精度で異常判定できるメカニカルシール状態監視システムおよびメカニカルシール状態監視方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述の課題を解決するために、本発明は、回転機械の回転部と静止部との間をシールするメカニカルシールの状態を監視するメカニカルシール状態監視システムであって、前記メカニカルシールのシール室へ流入する第1流体の流量および温度、前記シール室内の圧力、前記シール室から排出される第2流体の流量および温度、並びに、前記シール室から前記回転機械へ回収される第3流体の温度を取得する状態量取得装置と、前記状態量取得装置によって取得された状態量に基づき、前記回転部と前記静止部とのシール面における発熱量を算出するとともに、前記発熱量に基づき前記メカニカルシールの異常の有無を判定する監視装置と、を備えた。
【0009】
また、前述の課題を解決するために、本発明は、回転機械の回転部と静止部との間を高圧側と低圧側の2段階でシールするメカニカルシールの状態を監視するメカニカルシール状態監視システムであって、前記メカニカルシールの第1シール室へ流入する第1流体の流量および温度、前記第1シール室内の圧力および温度、前記第1シール室より低圧側の第2シール室から排出される第2流体の流量および温度、前記第2シール室内の圧力および温度、前記第1シール室から前記回転機械へ回収される第3流体の温度、並びに、前記第1シール室と前記第2シール室をつなぐ減圧機構の温度を取得する状態量取得装置と、前記状態量取得装置によって取得された状態量に基づき、高圧側のシール面における第1発熱量と低圧側のシール面における第2発熱量を算出するとともに、前記第1発熱量および前記第2発熱量に基づき前記メカニカルシールの異常の有無を診断する監視装置と、を備えた。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、実運用までの時間が短くても高精度で異常判定できるメカニカルシール状態監視システムおよびメカニカルシール状態監視方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1に係るメカニカルシール状態監視システムの構成を示す図。
図2】実施例1における監視装置の構成の詳細を示すブロック図。
図3】メカニカルシールのCFD解析に用いた解析対象および解析メッシュの断面図。
図4】注入されるパージ水の質量流量が0.028kg/sの場合の流速ベクトルを示す図。
図5】注入されるパージ水の質量流量が0.028kg/sかつ摺動熱が150Wの場合の温度分布を示す図。
図6】摺動熱の入力値と、CFD解析により得られる流量、温度および圧力から本実施例の演算方法で摺動熱を算出した値(摺動熱の評価値)と、を示すグラフ。
図7】実施例2に係るメカニカルシール状態監視システムの構成を示す図。
図8】実施例2における監視装置の構成の詳細を示すブロック図。
図9】実施例3に係るメカニカルシール状態監視システムの構成を示す図。
図10】実施例3における監視装置の構成の詳細を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。
【実施例0013】
図1は、実施例1に係るメカニカルシール状態監視システムの構成を示す図である。図1に示すように、メカニカルシール状態監視システム1は、状態量取得装置2と、監視装置3と、で構成される。状態量取得装置2は、メカニカルシールの各所に取り付けられるセンサと、センサによる状態量データを取り込むデータロガー12と、を備える。監視装置3は、状態量取得装置2で取得された状態量データに基づき、メカニカルシールの異常の有無を判定する。
【0014】
メカニカルシールは、回転機械(再循環ポンプ)に接続された回転軸4と、回転軸4に固定された回転リング5(回転部)と、静止したメカニカルシール容器に固定された静止リング6(静止部)と、高圧液体が充填されたシール室7と、回転リング5および静止リング6の摺動面を冷却するための低温高圧のパージ水を外部からシール室7へ流入させるパージ水注入ライン8と、パージ水の一部をシール室7から回転機械側へ回収させる戻りライン9と、摺動面を介して漏洩する漏洩水を排出させる漏洩水排出ライン10と、パージ水をシール室から排出させるCBOライン11(コントロールブリードオフライン)と、で構成される。
【0015】
状態量取得装置2が備えるセンサは、図1においてFで示す流量センサ、図1においてPで示す圧力センサ、図1においてTで示す温度センサであり、具体的には、パージ水注入ライン8を流れる第1流体に対する流量センサおよび温度センサ、シール室7内の圧力を測定する圧力センサ、CBOライン11を流れる第2流体に対する流量センサおよび温度センサ、戻りライン9を流れる第3流体に対する温度センサ、である。なお、図1は、最小限のセンサを示しており、必要に応じて他のセンサが追加されても良い。また、図1に示すセンサのうち、パージ水注入ライン8を流れる第1流体の温度を測定する温度センサおよびCBOライン11を流れる第2流体の温度を測定する温度センサ以外のセンサは、状態量を実測する物理的なセンサでなくても良い。物理的なセンサによる実測値を用いない場合には、ソフトセンサで数値解析した推定値や、設計データによる推定値などが、実測値の代わりに用いられる。
【0016】
メカニカルシールは、回転リング5と静止リング6との摺動面に液体膜を形成することで、摺動面からの液漏れを防止する。摺動面では、流体摩擦により発熱し、その発熱量Q(以下、摺動熱)は、摩擦の法則により以下の(式1)で得られる。
【0017】
【数1】
【0018】
ここで、μは摺動面の摩擦係数、Pは面圧、vは平均回転速度、Aは摺動面積である。摺動面が正常であればμは一定値となるが、摺動面に面荒れが生じるとμが増加するため、面圧等の条件が同一であっても摺動熱Qが上昇する。一方で、摺動熱Qは、メカニカルシール内の各所における入出熱量のバランスを評価することにより、算出することも可能である。このため、本実施例では、メカニカルシールの各所のセンサによって取得された状態量に基づき摺動熱Qを算出し、摺動熱Qを予め定めた閾値と比較するなどして、メカニカルシールの摺動面における摩擦係数μの異常の有無を間接的に判定する。
【0019】
メカニカルシールの各所のセンサは、信号線を介してデータロガー12に接続されている。データロガー12は、データ転送ケーブルによって監視装置3に接続されており、データロガー12に蓄積された状態量データが監視装置3へ常時転送される。メカニカルシールの設置環境などの要因で、データロガー12と監視装置3とのケーブル接続が難しい場合は、データロガー12を記録用ハードディスク(以下、HDD)に接続して状態量データをHDDに蓄積しておき、定期的にHDDを取り外して監視装置に接続し、データ転送しても良い。
【0020】
図2は、実施例1における監視装置の構成の詳細を示すブロック図である。監視装置3は、例えばPCであり、受信した状態量データを用いて、所定の演算をすることにより、メカニカルシールの異常をリアルタイムで判定する。監視装置3は、プロセッサ16、メモリ15と、ストレージ17と、出力部14と、入力部13と、を備えている。図2では、概念的にプロセッサ16が実行する機能を、流量算出部15a、エンタルピ算出部15b、摺動熱算出部15cおよび異常判定部15dとして示している。これらの機能を実現するためのプログラムは、メモリ15に格納される。なお、これらのプログラムは、ROM等に予め組み込まれて提供されたり、インストール可能な形式または実行可能な形式のファイルでCD-ROM等の計算機で読み取り可能な記録媒体に記録して提供されたり、配布されても良い。さらには、これらのプログラムは、インターネットなどのネットワークに接続された計算機上に格納され、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供されたり、配布されたりしても良い。
【0021】
流量算出部15aは、状態量取得装置2が取得した第1流体および第2流体の体積流量に基づき、第1流体および第2流体の質量流量を算出する。エンタルピ算出部15bは、シール室7内の圧力、第1流体の温度、第2流体の温度、および第3流体の温度に基づき、各流体のエンタルピを算出する。摺動熱算出部15cは、各流体の質量流量およびエンタルピに基づき、第1流体がシール室7に持ち込む第1熱量、第2流体がシール室から持ち去る第2熱量、および第3流体がシール室から持ち去る第3熱量を算出するとともに、第1熱量、第2熱量および第3熱量に基づき、摺動熱Qを算出する。異常判定部15dは、摺動熱Qおよび予め設定された閾値により、メカニカルシールの異常の有無を判定する。
【0022】
ストレージ17は、蒸気表関数データベース17aと、設計・過去データベース17bと、を有している。蒸気表関数データベース17aには、例えば、日本機械学会が公開している蒸気表関数などが格納されている。設計・過去データベース17bには、例えば、メカニカルシールの設計データや、過去に算出された摺動熱Qなどの過去データが格納されている。この他、異常判定のための閾値や式なども、ストレージ17に格納される。
【0023】
出力部14および入力部13は、ユーザーインターフェースである。出力部14は、異常判定部15dによる異常判定結果や、その根拠となる摺動熱変化を表示することで、ユーザーにメカニカルシールの運転状態を知らせる。入力部13は、閾値の設定や、出力部14の表示内容に関する設定などの入力をユーザーから受け付ける。ユーザーは、出力部14に出力された情報を参照して、メカニカルシールの今後の運転方針を判断する。
【0024】
以下、流量算出部15a、エンタルピ算出部15b、摺動熱算出部15cおよび異常判定部15dが実行する演算の詳細について、説明する。
【0025】
流量算出部15aは、状態量取得装置2のセンサで取得した、体積流量F、圧力Pおよび温度Tに基づき、質量流量Gを算出する。具体的な演算方法は、次の通りである。
【0026】
まず、流量算出部15aは、パージ水注入ライン8内の圧力(シール室7内の圧力P7)と、パージ水注入ライン8を流れる第1流体の温度T8と、蒸気表関数データベース17aに格納された蒸気表関数に基づき、第1流体の流体密度D8を算出する。第1流体が純水である場合、流量算出部15aは、日本機械学会が公開している蒸気表関数を参照し、以下の(式2)により流体密度D8を算出する。
【0027】
【数2】
【0028】
ここで、st_DPT(P,T)は圧力Pと温度Tから圧縮水の密度を求める蒸気表関数である。第1流体が純水以外の場合は、化学工学便覧など、対象流体の熱力学特性が記載された文献値を参照して流体密度D8が算出される。
【0029】
同様に、流量算出部15aは、CBOライン11内の圧力P11と、CBOライン11を流れる第2流体の温度T11と、蒸気表関数データベース17aに格納された蒸気表関数に基づき、第2流体の流体密度D11を算出する。CBOライン11の出口が大気開放されている場合は圧力P11を大気圧、CBOライン11の出口が他の機器に接続されている場合は圧力P11を開放端圧力とする。第2流体が純水である場合、流量算出部15aは、日本機械学会が公開している蒸気表関数を参照し、以下の(式3)により流体密度D11を算出する。
【0030】
【数3】
【0031】
次に、流量算出部15aは、流量センサで実測された体積流量F8、F11を、当該箇所における圧力P、温度T、密度Dを用いて、以下の(式4)により補正する。
【0032】
【数4】
【0033】
ここで、P0、T0、D0は、流量センサの設計データに基づき定まる圧力、温度、密度である。
【0034】
その後、流量算出部15aは、補正後の体積流量F8’、F11’と、流体密度D8、D11と、以下の(式5)、(式6)と、に基づき、第1流体の質量流量G8、第2流体の質量流量G11を算出する。
【0035】
【数5】
【0036】
【数6】
【0037】
さらに、実機環境によっては、CBOライン11における流量センサの実測値がドリフトすることがあるため、ドリフトに対する補正も行われる。具体的には、流量算出部15aが、シール室7内の圧力P7と、CBOライン11内の圧力P11と、以下の(式7)と、に基づき、質量流量G11を間接評価する。
【0038】
【数7】
【0039】
ここで、Kは補正係数であり、定期検査直後の実測値から得られる質量流量G11と、圧力P7、P11、(式7)により間接評価したG11’と、が一致するように設定される。
【0040】
次に、流量算出部15aは、メカニカルシール内の質量バランス、すなわち、以下の(式8)により、戻りライン9を流れる第3流体の質量流量G9を算出する。
【0041】
【数8】
【0042】
エンタルピ算出部15bは、状態量取得装置2のセンサで取得した、圧力Pおよび温度Tに基づき、エンタルピHを算出する。具体的な演算方法は、次の通りである。
【0043】
まず、エンタルピ算出部15bは、パージ水注入ライン8内の圧力(シール室7内の圧力P7)と、パージ水注入ライン8を流れる第1流体の温度T8と、蒸気表関数データベース17aに格納された蒸気表関数に基づき、第1流体のエンタルピH8を算出する。第1流体が純水である場合、エンタルピ算出部15bは、日本機械学会が公開している蒸気表関数を参照し、以下の(式9)によりエンタルピH8を算出する。
【0044】
【数9】
【0045】
ここで、st_HPT(P,T)は、圧力Pと温度Tから圧縮水のエンタルピを求める蒸気表関数である。第1流体が純水以外の場合は、化学工学便覧など、対象流体の熱力学特性が記載された文献値を参照してエンタルピH8が算出される。
【0046】
同様に、エンタルピ算出部15bは、戻りライン9内の圧力(シール室7内の圧力P7)と、戻りライン9を流れる第3流体の温度T9と、蒸気表関数データベース17aに格納された蒸気表関数に基づき、第3流体のエンタルピH9を算出する。第3流体が純水である場合、エンタルピ算出部15bは、日本機械学会が公開している蒸気表関数を参照し、以下の(式10)によりエンタルピH9を算出する。
【0047】
【数10】
【0048】
同様に、エンタルピ算出部15bは、CBOライン11内の圧力と、CBOライン11を流れる第2流体の温度T11と、蒸気表関数データベース17aに格納された蒸気表関数に基づき、第2流体のエンタルピH11を算出する。CBOライン11の出口が大気開放されている場合は圧力P11を大気圧、CBOライン11の出口が他の機器に接続されている場合は圧力P11を開放端圧力とする。第2流体が純水である場合、エンタルピ算出部15bは、日本機械学会が公開している蒸気表関数を参照し、以下の(式11)によりエンタルピH11を算出する。
【0049】
【数11】
【0050】
摺動熱算出部15cは、流量算出部15aで算出された質量流量G、エンタルピ算出部15bで算出されたエンタルピHに基づき、摺動熱Qを算出する。ここで、パージ水注入ライン8を流れる第1流体がシール室7に持ち込む第1熱量Q8は、第1流体の質量流量G8と第1流体のエンタルピH8の積となる。また、戻りライン9を流れる第3流体がシール室7から持ち去る第3熱量Q9は、第3流体の質量流量G9と第3流体のエンタルピH9の積となる。同様に、CBOライン11を流れる第2流体がシール室7から持ち去る第2熱量Q11は、第2流体の質量流量G11と第2流体のエンタルピH11の積となる。また、メカニカルシール内の熱量バランスは、以下の(式12)で表される。
【0051】
【数12】
【0052】
(式12)において、左辺はメカニカルシールへの入熱量を表し、右辺はメカニカルシールからの出熱量を表している。したがって、摺動熱算出部15cは、以下の(式13)のように、各流体の質量流量およびエンタルピに基づいて、摺動熱Qを算出することができる。
【0053】
【数13】
【0054】
異常判定部15dは、摺動熱算出部15cで算出された摺動熱Q、設計・過去データベース17bに格納されたデータに基づき、メカニカルシールの異常有無を判定する。このとき、異常判定部15dは、メカニカルシールの設計データに基づき定まる摺動熱Qdesi、または、正常時の過去データにおける摺動熱Qprevを参照し、評価対象である現在の摺動熱Qと比較する。異常判定部15dにおける判定には、例えば、以下の(式14)が用いられる。
【0055】
【数14】
【0056】
ここで、Cは、異常判定のための閾値であり、例えば設計・過去データベース17bに予め格納される。また、閾値Cは、運用条件によって調整可能であり、通常1.5~2.0の範囲内に設定される。異常判定部15dは、(式14)が成立すれば正常と判定し、(式14)が成立しなければ異常と判定する。すなわち、評価対象である現在の摺動熱Qを、設計データに基づき定まる摺動熱Qdesiまたは正常時の過去データにおける摺動熱Qprevで除した比率が、閾値Cより大きい場合は、メカニカルシールが異常であると判定される。なお、異常判定のための式は、(式14)に限られない。
【0057】
また、異常判定方法も、さまざまな方法が利用可能である。例えば、正常時の過去データにおける摺動熱Qprevを学習データとして予め学習させた、ニューラルネットワークなどの機械学習モデルに対して、評価対象である現在の摺動熱Qを入力することで、異常判定の結果を出力する方法であっても良い。この場合、学習済みの機械学習モデルは、例えば設計・過去データベース17bに格納される。さらには、評価対象である現在の摺動熱Qの波形(直近の時間波形)を、正常時の過去データにおける摺動熱Qprevの波形と比較する、パターンマッチングのアルゴリズムを用いて異常を判定する方法であっても良い。
【0058】
さらに、メカニカルシールでは、温度ハンチングが進展し、摺動面の損傷に繋がることがある。そこで、異常判定部15dは、温度ハンチングによる異常の有無を、以下の(式15)を用いて判定しても良い。
【0059】
【数15】
【0060】
ここで、count(条件式)は単位時間内に条件式を満たす回数を出力する関数であり、Cは温度ハンチングの発生有無を判定するための閾値であり、Cは温度ハンチングの発生回数の時間変化により異常の有無を判定するための閾値である。異常判定部15dは、(式15)が成立すれば正常と判定し、(式15)が成立しなければ異常と判定する。なお、閾値C≦閾値Cとすることで、温度ハンチングの判定精度を向上させることが可能である。
【0061】
以下、本実施例の効果を確認するため、数値流体解析(以下、CFD解析)を用い、メカニカルシール内の熱流動現象を解析して検証した結果を説明する。
【0062】
図3は、メカニカルシールのCFD解析に用いた解析対象および解析メッシュの断面図である。図3では、解析対象として、シール室7、パージ水注入ライン8、戻りライン9、漏洩水排出ライン10、CBOライン11、回転リング5および静止リング6がモデル化されている。各部の寸法は、大型回転機器向けの一般的なメカニカルシールの寸法に基づいている。回転リング5と静止リング6との間隙は0.5mmであり、間隙内にも十分な解析メッシュが配置されている。動作流体として、15℃の高圧の純水であるパージ水が、パージ水注入ライン8を介して0.028kg/sまたは0.050kg/sで注入され、CBOライン11を介して0.012kg/sで流出される。摺動熱を模擬するため、回転リング5および静止リング6の間隙接液部に発熱源を与え、シール室7内の純水への熱伝達、回転リング5と静止リング6への熱伝導を解析した。回転リング5と静止リング6の材質は、ステンレス鋼である。間隙接液部における発熱量をパラメータとして、150W、300W、450W、600Wと変化させて解析した。
【0063】
図4は、注入されるパージ水の質量流量が0.028kg/sの場合の流速ベクトルを示す図である。図4によれば、パージ水注入ライン8からシール室7に流入したパージ水の流れが、回転リング5の表面に到達した後、戻りライン9およびCBOライン11から流出し、低温のパージ水で回転リング5が冷却されることが分かる。なお、回転リング5と静止リング6の摺動面から漏洩する流れは、ほぼゼロであった。
【0064】
図5は、注入されるパージ水の質量流量が0.028kg/sかつ摺動熱が150Wの場合の温度分布を示す図である。図5によれば、摺動面の発熱で回転リング5と静止リング6の温度が上昇しているが、パージ水との接液部は熱伝達により温度上昇量が小さいことが分かる。パージ水は、回転リング5と静止リング6の表面で加熱され、CBOライン11および戻りライン9から流出する。
【0065】
図6は、摺動熱の入力値と、CFD解析により得られる流量、温度および圧力から本実施例の演算方法で摺動熱を算出した値(摺動熱の評価値)と、を示すグラフである。図6によれば、注入されるパージ水の質量流量が増加すると、摺動熱入力値と摺動熱評価値との偏差は拡大するものの、いずれの条件でも(質量流量が0.028kg/sでも)偏差は10%以内に収まることが分かった。この結果から、摺動面状態の悪化による摺動熱の増加を、本実施例の方法により検知でき、メカニカルシールの異常判定が可能であることが確認された。
【0066】
以上述べたとおり、本実施例によれば、メカニカルシールの正常時におけるデータを長期間にわたって取得しなくても、メカニカルシールを異常判定できるので、状態監視システムの実運用までの時間を短くできる。また、温度、圧力、流量などの状態量から、メカニカルシールの摺動状況と直接的な関係にある摺動熱を評価できるため、過去データを用いた精度検証が容易であり、状態監視システムの導入初期であっても、高精度で異常判定が可能である。
【実施例0067】
メカニカルシールによっては、シール室の冷却能力を高めるため、内装熱交換器が設けられることがある。実施例2は、そのような構成のメカニカルシールにおける状態監視を対象とするものである。
【0068】
図7は、実施例2に係るメカニカルシール状態監視システムの構成を示す図である。図7に示すように、メカニカルシール状態監視システム21は、状態量取得装置22と、監視装置3と、で構成される。状態量取得装置22は、メカニカルシールの各所に取り付けられるセンサと、センサによる状態量データを取り込むデータロガー12と、を備える。監視装置3は、状態量取得装置2で取得された状態量データに基づき、メカニカルシールの異常の有無を判定する。
【0069】
メカニカルシールは、回転機械(再循環ポンプ)に接続された回転軸4と、回転軸4に固定された回転リング5(回転部)と、静止したメカニカルシール容器に固定された静止リング6(静止部)と、高圧液体が充填されたシール室7と、回転リング5および静止リング6の摺動面を冷却するための低温高圧のパージ水を外部からシール室7へ流入させるパージ水注入ライン8と、パージ水の一部をシール室7から回転機械側へ回収させる戻りライン9と、摺動面を介して漏洩する漏洩水を排出させる漏洩水排出ライン10と、パージ水をシール室から排出させるCBOライン11と、シール室7の内部の冷却性能を高める内装熱交換器23と、内装熱交換器23へ冷却水を流入させる冷却水流入ライン24と、内装熱交換器23から冷却水を流出させる冷却水流出ライン25と、で構成される。
【0070】
状態量取得装置22が備えるセンサは、図7においてFで示す流量センサ、図7においてPで示す圧力センサ、図7においてTで示す温度センサであり、具体的には、パージ水注入ライン8を流れる第1流体に対する流量センサおよび温度センサ、シール室7内の圧力を測定する圧力センサ、CBOライン11を流れる第2流体に対する流量センサおよび温度センサ、戻りライン9を流れる第3流体に対する温度センサ、冷却水流入ライン24を流れる流入冷却水に対する流量センサ、温度センサおよび圧力センサ、冷却水流出ライン25を流れる流出冷却水に対する温度センサである。なお、図7は、最小限のセンサを示しており、必要に応じて他のセンサが追加されても良い。また、図7に示すセンサのうち、パージ水注入ライン8を流れる流体の温度を測定する温度センサ、CBOライン11を流れる流体の温度を測定する温度センサ、冷却水流入ライン24を流れる流入冷却水の温度を測定する温度センサおよび冷却水流出ライン25を流れる流出冷却水の温度を測定する温度センサ以外のセンサは、状態量を実測する物理的なセンサでなくても良い。物理的なセンサによる実測値を用いない場合には、ソフトセンサで数値解析した推定値や、設計データによる推定値などが、実測値の代わりに用いられる。
【0071】
メカニカルシールの各所のセンサは、信号線を介してデータロガー12に接続されている。データロガー12は、データ転送ケーブルによって監視装置3に接続されており、データロガー12に蓄積された状態量データが監視装置3へ常時転送される。メカニカルシールの設置環境などの要因で、データロガー12と監視装置3とのケーブル接続が難しい場合は、データロガー12を記録用ハードディスク(以下、HDD)に接続して状態量データをHDDに蓄積しておき、定期的にHDDを取り外して監視装置に接続し、データ転送しても良い。
【0072】
図8は、実施例2における監視装置の構成の詳細を示すブロック図である。図8に示すように、監視装置3の構成自体は、実施例2も実施例1と同様である。以下、実施例2において、流量算出部15a、エンタルピ算出部15b、摺動熱算出部15cおよび異常判定部15dが実行する演算の詳細について、説明する。
【0073】
流量算出部15aは、状態量取得装置22のセンサで取得した、体積流量F、圧力Pおよび温度Tに基づき、質量流量Gを算出する。具体的な演算方法は、次の通りである。
【0074】
まず、流量算出部15aは、パージ水注入ライン8内の圧力(シール室7内の圧力P7)と、パージ水注入ライン8を流れる第1流体の温度T8と、蒸気表関数データベース17aに格納された蒸気表関数に基づき、第1流体の流体密度D8を算出する。第1流体が純水である場合、流量算出部15aは、日本機械学会が公開している蒸気表関数を参照し、前記した(式2)により流体密度D8を算出する。
【0075】
同様に、流量算出部15aは、CBOライン11内の圧力P11と、CBOライン11を流れる第2流体の温度T11と、蒸気表関数データベース17aに格納された蒸気表関数に基づき、第2流体の流体密度D11を算出する。CBOライン11の出口が大気開放されている場合は圧力P11を大気圧、CBOライン11の出口が他の機器に接続されている場合は圧力P11を開放端圧力とする。第2流体が純水である場合、流量算出部15aは、日本機械学会が公開している蒸気表関数を参照し、前記した(式3)により流体密度D11を算出する。
【0076】
さらに、本実施例では、流量算出部15aが、冷却水流入ライン24内の圧力P24と、冷却水流入ライン24を流れる流入冷却水の温度T24と、蒸気表関数データベース17aに格納された蒸気表関数に基づき、流入冷却水の流体密度D24を算出する。流入冷却水が純水である場合、流量算出部15aは、日本機械学会が公開している蒸気表関数を参照し、以下の(式16)により流体密度D24を算出する。
【0077】
【数16】
【0078】
ここで、流入冷却水が純水以外の場合は、化学工学便覧など、対象流体の熱力学特性が記載された文献値を参照して流体密度D24が算出される。
【0079】
次に、流量算出部15aは、流量センサで実測された体積流量F8、F11、F24を、当該箇所における圧力P、温度T、密度Dを用いて、前記した(式4)により補正する。その後、流量算出部15aは、補正後の体積流量F8’、F11’、F24’と、流体密度D8、D11、D24と、前記した(式5)、前記した(式6)、以下の(式17)と、に基づき、第1流体の質量流量G8、第2流体の質量流量G11、冷却水の質量流量G24を算出する。
【0080】
【数17】
【0081】
さらに、実機環境によっては、CBOライン11における流量センサの実測値がドリフトすることがあるため、実施例1と同様に、ドリフトに対する補正も行われる。また、流量算出部15aは、メカニカルシール内の質量バランスにより、戻りライン9を流れる第3流体の質量流量G9を算出する。
【0082】
エンタルピ算出部15bは、状態量取得装置22のセンサで取得した、圧力Pおよび温度Tに基づき、エンタルピHを算出する。具体的な演算方法は、次の通りである。
【0083】
まず、エンタルピ算出部15bは、パージ水注入ライン8内の圧力(シール室7内の圧力P7)と、パージ水注入ライン8を流れる第1流体の温度T8と、蒸気表関数データベース17aに格納された蒸気表関数に基づき、第1流体のエンタルピH8を算出する。第1流体が純水である場合、エンタルピ算出部15bは、日本機械学会が公開している蒸気表関数を参照し、前記した(式9)によりエンタルピH8を算出する。第1流体が純水以外の場合は、化学工学便覧など、対象流体の熱力学特性が記載された文献値を参照してエンタルピH8が算出される。
【0084】
同様に、エンタルピ算出部15bは、戻りライン9内の圧力(シール室7内の圧力P7)と、戻りライン9を流れる第3流体の温度T9と、蒸気表関数データベース17aに格納された蒸気表関数に基づき、第3流体のエンタルピH9を算出する。第3流体が純水である場合、エンタルピ算出部15bは、日本機械学会が公開している蒸気表関数を参照し、前記した(式10)によりエンタルピH9を算出する。
【0085】
同様に、エンタルピ算出部15bは、CBOライン11内の圧力と、CBOライン11を流れる第2流体の温度T11と、蒸気表関数データベース17aに格納された蒸気表関数に基づき、第2流体のエンタルピH11を算出する。CBOライン11の出口が大気開放されている場合は圧力P11を大気圧、CBOライン11の出口が他の機器に接続されている場合は圧力P11を開放端圧力とする。第2流体が純水である場合、エンタルピ算出部15bは、日本機械学会が公開している蒸気表関数を参照し、前記した(式11)によりエンタルピH11を算出する。
【0086】
さらに、本実施例では、エンタルピ算出部15bが、冷却水流入ライン24内の圧力P24と、冷却水流入ライン24を流れる流入冷却水の温度T24と、蒸気表関数データベース17aに格納された蒸気表関数に基づき、流入冷却水のエンタルピH24を算出する。流入冷却水が純水である場合、エンタルピ算出部15bは、日本機械学会が公開している蒸気表関数を参照し、以下の(式18)によりエンタルピH24を算出する。
【0087】
【数18】
【0088】
さらに、本実施例では、エンタルピ算出部15bが、冷却水流出ライン25内の圧力(冷却水流入ライン24の圧力P24)と、冷却水流出ライン25を流れる流出冷却水の温度T25と、蒸気表関数データベース17aに格納された蒸気表関数に基づき、流出冷却水のエンタルピH25を算出する。流出冷却水が純水である場合、エンタルピ算出部15bは、日本機械学会が公開している蒸気表関数を参照し、以下の(式19)によりエンタルピH25を算出する。
【0089】
【数19】
【0090】
摺動熱算出部15cは、流量算出部15aで算出された質量流量G、エンタルピ算出部15bで算出されたエンタルピHに基づき、摺動熱Qを算出する。ここで、パージ水注入ライン8を流れる第1流体がシール室7に持ち込む第1熱量Q8は、第1流体の質量流量G8と第1流体のエンタルピH8の積となる。また、戻りライン9を流れる第3流体がシール室7から持ち去る第3熱量Q9は、第3流体の質量流量G9と第3流体のエンタルピH9の積となる。同様に、CBOライン11を流れる第2流体がシール室7から持ち去る第2熱量Q11は、第2流体の質量流量G11と第2流体のエンタルピH11の積となる。さらに、内装熱交換器23による除熱量Q23は、冷却水の質量流量G24と、流出冷却水のエンタルピH25から流入冷却水のエンタルピH24を減じた値と、の積となる。また、メカニカルシール内の熱量バランスは、以下の(式20)で表される。
【0091】
【数20】
【0092】
(式20)において、左辺はメカニカルシールへの入熱量を表し、右辺はメカニカルシールからの出熱量を表している。したがって、摺動熱算出部15cは、以下の(式21)のように、各流体の質量流量およびエンタルピに基づいて、摺動熱Qを算出することができる。
【0093】
【数21】
【0094】
異常判定部15dは、摺動熱算出部15cで算出された摺動熱Q、設計・過去データベース17bに格納されたデータに基づき、メカニカルシールの異常有無を判定する。このとき、異常判定部15dは、メカニカルシールの設計データに基づき定まる摺動熱Qdesi、または、正常時の過去データにおける摺動熱Qprevを参照し、評価対象である現在の摺動熱Qと比較する。異常判定部15dにおける判定には、例えば、前記した(式14)が用いられる。異常判定部15dは、(式14)が成立すれば正常と判定し、(式14)が成立しなければ異常と判定する。すなわち、評価対象である現在の摺動熱Qを、設計データに基づき定まる摺動熱Qdesiまたは正常時の過去データにおける摺動熱Qprevで除した比率が、閾値Cより大きい場合は、メカニカルシールが異常であると判定される。なお、異常判定のための式は、(式14)に限られない。
【0095】
また、異常判定方法も、さまざまな方法が利用可能である。例えば、正常時の過去データにおける摺動熱Qprevを学習データとして予め学習させた、ニューラルネットワークなどの機械学習モデルに対して、評価対象である現在の摺動熱Qを入力することで、異常判定の結果を出力する方法であっても良い。この場合、学習済みの機械学習モデルは、例えば設計・過去データベース17bに格納される。さらには、評価対象である現在の摺動熱Qの波形(直近の時間波形)を、正常時の過去データにおける摺動熱Qprevの波形と比較する、パターンマッチングのアルゴリズムを用いて異常を判定する方法であっても良い。
【0096】
さらに、異常判定部15dは、温度ハンチングによる異常の有無を、前記した(式15)を用いて判定しても良い。異常判定部15dは、(式15)が成立すれば正常と判定し、(式15)が成立しなければ異常と判定する。
【0097】
本実施例によれば、内装熱交換器を備えたメカニカルシールであっても、実運用までの時間を短くしつつ高精度の異常判定が可能な状態監視を実現できる。
【実施例0098】
原子炉内の冷却材を循環させるために用いられる再循環ポンプなど、容器内部が高圧となる回転機械の場合、容器内外の圧力差が大きいため、高圧から中圧、中圧から低圧へ段階的に圧力を低下させる、2段のメカニカルシールが採用されることがある。実施例3は、そのような構成のメカニカルシールにおける状態監視を対象とするものである。
【0099】
図9は、実施例3に係るメカニカルシール状態監視システムの構成を示す図である。図9に示すように、メカニカルシール状態監視システム30は、状態量取得装置38と、監視装置3と、で構成される。状態量取得装置38は、メカニカルシールの各所に取り付けられるセンサと、センサによる状態量データを取り込むデータロガー12と、を備える。監視装置3は、状態量取得装置38で取得された状態量データに基づき、メカニカルシールの異常の有無を判定する。
【0100】
メカニカルシールは、回転機械(再循環ポンプ)に接続された回転軸4と、回転軸4に固定された回転リング5(回転部)と、高圧液体が充填された第1シール室32と、中圧液体が充填された第2シール室31と、高圧液体をシールする第1回転リング34および第1静止リング35と、中圧液体をシールする第2回転リング36および第2静止リング37と、シール面を冷却するための低温高圧のパージ水を外部から第1シール室32へ流入させるパージ水注入ライン8と、パージ水の一部を第1シール室32から回転機械側へ回収させる戻りライン9と、中圧液体のシール面を介して漏洩する漏洩水を排出させる漏洩水排出ライン10と、パージ水を第2シール室31から排出させるCBOライン11と、第1シール室32と第2シール室31をつなぐ減圧機構33と、で構成される。
【0101】
状態量取得装置38が備えるセンサは、図9においてFで示す流量センサ、図9においてPで示す圧力センサ、図9においてTで示す温度センサであり、具体的には、パージ水注入ライン8を流れる第1流体に対する流量センサおよび温度センサ、第1シール室32内の温度や圧力を測定する温度センサおよび圧力センサ、第2シール室31内の温度や圧力を測定する温度センサおよび圧力センサ、CBOライン11を流れる第2流体に対する流量センサおよび温度センサ、戻りライン9を流れる第3流体に対する温度センサ、減圧機構33の温度を測定する温度センサである。なお、図9は、最小限のセンサを示しており、必要に応じて他のセンサが追加されても良い。また、図9に示すセンサのうち、パージ水注入ライン8を流れる流体の温度を測定する温度センサ、CBOライン11を流れる流体の温度を測定する温度センサ、第1シール室32内の温度を測定する温度センサおよび第2シール室31内の温度を測定する温度センサ以外のセンサは、状態量を実測する物理的なセンサでなくても良い。物理的なセンサによる実測値を用いない場合には、ソフトセンサで数値解析した推定値や、設計データによる推定値などが、実測値の代わりに用いられる。
【0102】
メカニカルシールの各所のセンサは、信号線を介してデータロガー12に接続されている。データロガー12は、データ転送ケーブルによって監視装置3に接続されており、データロガー12に蓄積された状態量データが監視装置3へ常時転送される。メカニカルシールの設置環境などの要因で、データロガー12と監視装置3とのケーブル接続が難しい場合は、データロガー12を記録用ハードディスク(以下、HDD)に接続して状態量データをHDDに蓄積しておき、定期的にHDDを取り外して監視装置に接続し、データ転送しても良い。
【0103】
図10は、実施例3における監視装置の構成の詳細を示すブロック図である。図10に示すように、監視装置3の構成自体は、実施例3も実施例1や実施例2と同様である。以下、実施例3において、流量算出部15a、エンタルピ算出部15b、摺動熱算出部15cおよび異常判定部15dが実行する演算の詳細について、説明する。
【0104】
流量算出部15aは、状態量取得装置38のセンサで取得した、体積流量F、圧力Pおよび温度Tに基づき、質量流量Gを算出する。具体的な演算方法は、次の通りである。
【0105】
まず、流量算出部15aは、パージ水注入ライン8内の圧力(第1シール室32内の圧力P32)と、パージ水注入ライン8を流れる第1流体の温度T8と、蒸気表関数データベース17aに格納された蒸気表関数に基づき、第1流体の流体密度D8を算出する。第1流体が純水である場合、流量算出部15aは、日本機械学会が公開している蒸気表関数を参照し、以下の(式22)により流体密度D8を算出する。
【0106】
【数22】
【0107】
同様に、流量算出部15aは、CBOライン11内の圧力P11と、CBOライン11を流れる第2流体の温度T11と、蒸気表関数データベース17aに格納された蒸気表関数に基づき、第2流体の流体密度D11を算出する。CBOライン11の出口が大気開放されている場合は圧力P11を大気圧、CBOライン11の出口が他の機器に接続されている場合は圧力P11を開放端圧力とする。第2流体が純水である場合、流量算出部15aは、日本機械学会が公開している蒸気表関数を参照し、前記した(式3)により流体密度D11を算出する。
【0108】
次に、流量算出部15aは、流量センサで実測された体積流量F8、F11を、当該箇所における圧力P、温度T、密度Dを用いて、前記した(式4)により補正する。その後、流量算出部15aは、補正後の体積流量F8’、F11’と、流体密度D8、D11と、前記した(式5)、前記した(式6)と、に基づき、第1流体の質量流量G8、第2流体の質量流量G11を算出する。
【0109】
さらに、実機環境によっては、CBOライン11における流量センサの実測値がドリフトすることがあるため、実施例1や実施例2と同様に、ドリフトに対する補正も行われる。また、流量算出部15aは、メカニカルシール内の質量バランス、すなわち、前記した(式8)により、戻りライン9を流れる第3流体の質量流量G9を算出する。
【0110】
エンタルピ算出部15bは、状態量取得装置38のセンサで取得した、圧力Pおよび温度Tに基づき、エンタルピHを算出する。具体的な演算方法は、次の通りである。
【0111】
まず、エンタルピ算出部15bは、パージ水注入ライン8内の圧力(第1シール室32内の圧力P32)と、パージ水注入ライン8を流れる第1流体の温度T8と、蒸気表関数データベース17aに格納された蒸気表関数に基づき、第1流体のエンタルピH8を算出する。第1流体が純水である場合、エンタルピ算出部15bは、日本機械学会が公開している蒸気表関数を参照し、以下の(式23)によりエンタルピH8を算出する。
【0112】
【数23】
【0113】
第1流体が純水以外の場合は、化学工学便覧など、対象流体の熱力学特性が記載された文献値を参照してエンタルピH8が算出される。
【0114】
同様に、エンタルピ算出部15bは、戻りライン9内の圧力(第1シール室32内の圧力P32)と、戻りライン9を流れる第3流体の温度T9と、蒸気表関数データベース17aに格納された蒸気表関数に基づき、第3流体のエンタルピH9を算出する。第3流体が純水である場合、エンタルピ算出部15bは、日本機械学会が公開している蒸気表関数を参照し、以下の(式24)によりエンタルピH9を算出する。
【0115】
【数24】
【0116】
同様に、エンタルピ算出部15bは、CBOライン11内の圧力と、CBOライン11を流れる第2流体の温度T11と、蒸気表関数データベース17aに格納された蒸気表関数に基づき、第2流体のエンタルピH11を算出する。CBOライン11の出口が大気開放されている場合は圧力P11を大気圧、CBOライン11の出口が他の機器に接続されている場合は圧力P11を開放端圧力とする。第2流体が純水である場合、エンタルピ算出部15bは、日本機械学会が公開している蒸気表関数を参照し、前記した(式11)によりエンタルピH11を算出する。
【0117】
さらに、本実施例では、エンタルピ算出部15bが、第1シール室32内の圧力P32および温度T32と、蒸気表関数データベース17aに格納された蒸気表関数に基づき、第1シール室32のエンタルピH32を算出する。第1シール室32内の流体が純水である場合、エンタルピ算出部15bは、日本機械学会が公開している蒸気表関数を参照し、以下の(式25)によりエンタルピH32を算出する。
【0118】
【数25】
【0119】
さらに、本実施例では、エンタルピ算出部15bが、第2シール室31内の圧力P31および温度T31と、蒸気表関数データベース17aに格納された蒸気表関数に基づき、第2シール室31のエンタルピH31を算出する。第2シール室31内の流体が純水である場合、エンタルピ算出部15bは、日本機械学会が公開している蒸気表関数を参照し、以下の(式26)によりエンタルピH31を算出する。
【0120】
【数26】
【0121】
また、本実施例では、エンタルピ算出部15bが、第2シール室31内の圧力P31と、減圧機構33の温度T33と、蒸気表関数データベース17aに格納された蒸気表関数に基づき、減圧機構33のエンタルピH33を算出する。減圧機構33を通過する流体が純水である場合、エンタルピ算出部15bは、日本機械学会が公開している蒸気表関数を参照し、以下の(式27)によりエンタルピH33を算出する。
【0122】
【数27】
【0123】
摺動熱算出部15cは、流量算出部15aで算出された質量流量G、エンタルピ算出部15bで算出されたエンタルピHに基づき、高圧側のシール面における第1摺動熱Q1と低圧側のシール面における第2摺動熱Q2を算出する。ここで、パージ水注入ライン8を流れる第1流体が第1シール室32に持ち込む第1熱量Q8は、第1流体の質量流量G8と第1流体のエンタルピH8の積となる。また、戻りライン9を流れる第3流体が第1シール室32から持ち去る第3熱量Q9は、第3流体の質量流量G9と第3流体のエンタルピH9の積となる。同様に、CBOライン11を流れる第2流体が第2シール室31から持ち去る第2熱量Q11は、第2流体の質量流量G11と第2流体のエンタルピH11の積となる。さらに、減圧機構33を通過する通過熱量Q33は、第2流体の質量流量G11と減圧機構33のエンタルピH33の積となる。
【0124】
また、本実施例では、メカニカルシール内の熱量バランスについて、シール室ごとに評価する。すなわち、第1シール室32に関する熱量バランスは、以下の(式28)で表され、第2シール室31に関する熱量バランスは、以下の(式29)で表される。
【0125】
【数28】
【0126】
【数29】
【0127】
(式28)および(式29)において、左辺はシール室への入熱量を表し、右辺はシール室からの出熱量を表している。したがって、摺動熱算出部15cは、以下の(式30)および(式31)のように、各流体の質量流量およびエンタルピに基づいて、第1摺動熱Q1および第2摺動熱Q2を算出することができる。
【0128】
【数30】
【0129】
【数31】
【0130】
なお、減圧機構33の温度T33を測定していない場合は、第1シール室32のエンタルピH32および第2シール室31のエンタルピH31を用いることで、第1摺動熱Q1および第2摺動熱Q2を以下の(式32)および(式33)により算出することもできる。
【0131】
【数32】
【0132】
【数33】
【0133】
異常判定部15dは、摺動熱算出部15cで算出された第1摺動熱Q1および第2摺動熱Q2、設計・過去データベース17bに格納されたデータに基づき、メカニカルシールの異常有無を判定する。このとき、異常判定部15dは、メカニカルシールの設計データに基づき定まる第1摺動熱Q1desiや第2摺動熱Q2desi、または、正常時の過去データにおける第1摺動熱Q1prevや第2摺動熱Q2prevを参照し、評価対象である現在の第1摺動熱Q1や第2摺動熱Q2と比較する。異常判定部15dにおける判定には、例えば、前記した(式14)が用いられる。異常判定部15dは、(式14)が成立すれば正常と判定し、(式14)が成立しなければ異常と判定する。すなわち、評価対象である現在の第1摺動熱Q1や第2摺動熱Q2を、設計データに基づき定まる第1摺動熱Q1desiや第2摺動熱Q2desiまたは正常時の過去データにおける第1摺動熱Q1prevや第2摺動熱Q2prevで除した比率が、閾値Cより大きい場合は、メカニカルシールが異常であると判定される。なお、異常判定のための式は、(式14)に限られず、閾値Cも、シール面ごとに異なる値が設定されても良い。
【0134】
また、異常判定方法も、さまざまな方法が利用可能である。例えば、正常時の過去データにおける第1摺動熱Q1prevや第2摺動熱Q2prevを学習データとして予め学習させた、ニューラルネットワークなどの機械学習モデルに対して、評価対象である現在の第1摺動熱Q1や第2摺動熱Q2を入力することで、異常判定の結果を出力する方法であっても良い。さらには、評価対象である現在の第1摺動熱Q1や第2摺動熱Q2の波形(直近の時間波形)を、正常時の過去データにおける第1摺動熱Q1prevや第2摺動熱Q2prevの波形と比較する、パターンマッチングのアルゴリズムを用いて異常を判定する方法であっても良い。
【0135】
さらに、異常判定部15dは、温度ハンチングによる異常の有無を、前記した(式15)を用いて判定しても良い。異常判定部15dは、(式15)が成立すれば正常と判定し、(式15)が成立しなければ異常と判定する。
【0136】
本実施例によれば、2段のシール室を備えたメカニカルシールであっても、実運用までの時間を短くしつつ高精度の異常判定が可能な状態監視を実現できる。また、どちらのシール室で異常が発生したのかも特定することが可能である。
【0137】
本発明は前述した各実施例に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、前述の各実施例では、状態量取得装置の流量センサが体積流量を測定し、監視装置の流量算出部が体積流量を質量流量に変換するものであったが、流量センサが質量流量を測定しても良い。
【0138】
また、前述した実施例は本発明を理解しやすく説明するために例示したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。さらに、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることも可能であり、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることも可能である。
【符号の説明】
【0139】
1…メカニカルシール状態監視システム、2…状態量取得装置、3…監視装置、4…回転軸、5…回転リング、6…静止リング、7…シール室、8…パージ水注入ライン、9…戻りライン、10…漏洩水排出ライン、11…CBOライン、12…データロガー、13…入力部、14…出力部、15…メモリ、15a…流量算出部、15b…エンタルピ算出部、15c…摺動熱算出部、15d…異常判定部、16…プロセッサ、17…ストレージ、17a…蒸気表関数データベース、17b…設計・過去データベース、21…メカニカルシール状態監視システム、22…状態量取得装置、23…内装熱交換器、24…冷却水流入ライン、25…冷却水流出ライン、30…メカニカルシール状態監視システム、31…第2シール室、32…第1シール室、33…減圧機構、34…第1回転リング、35…第1静止リング、36…第2回転リング、37…第2静止リング、38…状態量取得装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10