(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121485
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】グラウト材料、グラウトモルタル組成物及び硬化体
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20240830BHJP
C04B 22/04 20060101ALI20240830BHJP
C04B 18/14 20060101ALI20240830BHJP
C04B 18/08 20060101ALI20240830BHJP
C04B 22/06 20060101ALI20240830BHJP
C04B 111/70 20060101ALN20240830BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B22/04
C04B18/14 A
C04B18/08 Z
C04B18/14 Z
C04B22/06 Z
C04B111:70
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028622
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 高志
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 誠
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 崇
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112PA27
4G112PA28
4G112PA29
4G112PB02
4G112PB03
(57)【要約】
【課題】流動性の保持効果が高く、練り混ぜ抵抗性が低く、凝結が早まり、発泡効果を高め、収縮量を低減することができるグラウト材料、グラウトモルタル組成物及び硬化体を提供する。
【解決手段】本発明のグラウト材料は、セメントと、発泡物質と、減水剤とを含有し、セメントが化学成分としてMnOとTiO2とP2O5を含有し、セメント中のMnOとTiO2とP2O5の合計含有量が0.05質量%以上2.0質量%以下であり、セメント中のP2O5の含有量に対するMnOとTiO2の合計含有量の質量比((MnO+TiO2)/P2O5)が0.3以上15以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントと、発泡物質と、減水剤とを含有し、
前記セメントが化学成分としてMnOとTiO2とP2O5を含有し、
前記セメント中のMnOとTiO2とP2O5の合計含有量が0.05質量%以上2.0質量%以下であり、
前記セメント中のP2O5の含有量に対するMnOとTiO2の合計含有量の質量比((MnO+TiO2)/P2O5)が0.3以上15以下である、グラウト材料。
【請求項2】
さらにポゾラン物質を含有する、請求項1に記載のグラウト材料。
【請求項3】
前記ポゾラン物質が高炉水砕スラグ微粉末である、請求項2に記載のグラウト材料。
【請求項4】
さらに骨材を含有する、請求項1に記載のグラウト材料。
【請求項5】
前記骨材の含有量は、前記セメント100質量部に対して、40質量部以上300質量部以下である、請求項4に記載のグラウト材料。
【請求項6】
前記骨材が、密度2.7g/cm3以上の重量骨材である、請求項4に記載のグラウト材料。
【請求項7】
さらに膨張材を含有する、請求項1に記載のグラウト材料。
【請求項8】
さらに凝結調整剤を含有する、請求項1に記載のグラウト材料。
【請求項9】
請求項1~8に記載されたグラウト材料と水とを含有する、グラウトモルタル組成物。
【請求項10】
請求項9に記載されたグラウトモルタル組成物を用いてなる硬化体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に、土木・建築分野において使用するグラウト材料、グラウトモルタル組成物及び硬化体に関する。
【背景技術】
【0002】
グラウト材料は、モルタル、コンクリートの作業性や充填性を改善し、グラウト方法によりグラウト工事を円滑に行うために使用されている。
主な用途としては、地下構造物の施工、橋梁支承部の据付け、各種機械類の据付け、耐震補強における壁、柱の間隙充填等であり、構造物の間隙を充填して一体化するために、(1)充填箇所および充填方法等に応じた所要の流動性、(2)充填後にブリーディング、沈下および空隙を発生させない無収縮性、(3)構造物の使用条件に応じた所要の各種強度などが要求される(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
また、近年では環境負荷低減がさらに求められ、ポルトランドセメントに副産物である高炉スラグやフライアッシュ、シリカフューム等を多量に混和したモルタルやコンクリートが積極的に用いられている。さらにこれら副産物を用いた方法も知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-128618号公報
【特許文献2】特開2017-226557公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】新セメント・コンクリート用混和材料、304-307頁、笠井芳夫・坂井悦郎著、技術書院、平成19年1月15発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、このような副産物を利用した場合は特に流動性は改善され施工性は向上する傾向がある一方、凝結が遅れ工期を遅延させることや、ブリーディングや収縮によるひび割れが発生しやすいといった課題がある。
【0007】
本発明は、流動性の保持効果が高く、練り混ぜ抵抗性が低く、凝結が早まり、発泡効果を高め、収縮量を低減することができるグラウト材料、グラウトモルタル組成物及び硬化体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、本発明者は、上記課題を解決すべく、種々の努力を重ねた結果、セメント中にMnO、TiO2、及びP2O5を含有し、セメント中のMnOとTiO2とP2O5の合計含有量を特定量とし、セメント中のP2O5の含有量に対するMnOとTiO2の合計含有量の質量比((MnO+TiO2)/P2O5)を特定値とすることで、流動性の保持効果が高く、練り混ぜ抵抗性が低く、凝結が早まり、発泡効果を高め、収縮量を低減することができることを知見し、本発明を完成するに至った。本発明の要旨は、以下のとおりである。
[1]セメントと、発泡物質と、減水剤とを含有し、前記セメントが化学成分としてMnOとTiO2とP2O5を含有し、前記セメント中のMnOとTiO2とP2O5の合計含有量が0.05質量%以上2.0質量%以下であり、前記セメント中のP2O5の含有量に対するMnOとTiO2の合計含有量の質量比((MnO+TiO2)/P2O5)が0.3以上15以下である、グラウト材料。
[2]さらにポゾラン物質を含有する、[1]に記載のグラウト材料。
[3]前記ポゾラン物質が高炉水砕スラグ微粉末である、[2]に記載のグラウト材料。
[4]さらに骨材を含有する、[1]~[3]のいずれかに記載のグラウト材料。
[5]前記骨材の含有量は、前記セメント100質量部に対して、40質量部以上300質量部以下である、[4]に記載のグラウト材料。
[6]前記骨材が、密度2.7g/cm3以上の重量骨材である、[4]又は[5]に記載のグラウト材料。
[7]さらに膨張材を含有する、[1]~[6]に記載のグラウト材料。
[8]さらに凝結調整剤を含有する、[1]~[7]に記載のグラウト材料。
[9][1]~[8]に記載されたグラウト材料と水とを含有する、グラウトモルタル組成物。
[10][9]に記載されたグラウトモルタル組成物を用いてなる硬化体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、流動性の保持効果が高く、練り混ぜ抵抗性が低く、凝結が早まり、発泡効果を高め、収縮量を低減することができるグラウト材料、グラウトモルタル組成物及び硬化体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本明細書における部や%は特に規定しない限り質量基準である。
また、本発明でいうコンクリートとは、セメントペースト、モルタル、コンクリートを総称するものである。
【0011】
[グラウト材料]
(セメント)
本発明のグラウト材料は、セメントを含有する。
本発明で使用するセメントは、特に限定されるものではなく、普通、早強、超早強、低熱および中庸熱等の各種セメント、市販されている微粒子セメント、白色セメントなどが挙げられ、各種セメントや各種混合セメントを微粉末化して使用することも可能である。また、通常セメントに使用されている成分(例えば石膏等)量を増減して調整されたものも使用可能である。さらに、これらを2種以上組み合わせたものも使用可能である。
本発明では、強度発現性が高く、収縮量を低減する観点から、普通ポルトランドセメントや早強ポルトランドセメントを選定することが好ましい。
【0012】
本発明で使用するセメントは、製造コストや強度発現性の観点から、セメントのブレーン比表面積値(以下、ブレーン値ともいう)は、2,500cm2/g以上7,000cm2/g以下であることが好ましく、2,750cm2/g以上6,000cm2/g以下であることがより好ましく、3,000cm2/g以上4,500cm2/g以下であることがさらに好ましい。ブレーン値は、JIS R 5201(セメントの物理試験方法)に準拠して求められる。
【0013】
本発明のグラウト材料は、セメントに化学成分としてMnOとTiO2とP2O5を含有する。これらを含有することで、凝結の促進や収縮量を低減することができる。
セメント中のMnOは、0.008質量%以上0.35質量%以下であることが好ましく、0.03質量%以上0.25質量%以下であることがより好ましい。
セメント中のTiO2は、0.01質量%以上1.4質量%以下であることが好ましく、0.03質量%以上1.0質量%以下であることがより好ましい。
セメント中のP2O5は、0.008質量%以上0.35質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以上0.3質量%以下であることがより好ましい。
【0014】
本発明において、「セメントに化学成分としてMnOとTiO2とP2O5を含有する」とは、MnO、TiO2、及びP2O5のそれぞれがセメントの他成分と混在している状態でもよく、MnO、TiO2、及びP2O5のそれぞれがセメントの他成分と一部固溶している状態であってもよい。なお、セメント中のMnO、TiO2、及びP2O5の含有量は、蛍光X線測定で測定することができる。
【0015】
本発明のグラウト材料は、セメント中のMnOとTiO2とP2O5の合計含有量が0.05質量%以上2.0質量%以下である。セメント中のMnOとTiO2とP2O5の合計含有量が0.05質量%未満であると、グラウト材料の流動性の保持効果が低くなり、練り混ぜ抵抗性が高くなる等の困難が生じる。また、セメント中のMnOとTiO2とP2O5の合計含有量が2.0質量%超であると、凝結が遅くなったり、収縮量が大きくなったりしてしまう。
セメント中のMnOとTiO2とP2O5の合計含有量は、グラウト材料の流動性の保持効果が高く、練り混ぜ抵抗性が低く、凝結が早まり、収縮量を低減する観点から、0.07質量%以上1.7質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上1.5質量%以下であることがより好ましい。
MnO、TiO2及びP2O5のそれぞれの量、並びに、これらの合計含有量を上記範囲とするには、例えば、セメントを構成する成分中のそれぞれの含有量を測定し、足りない場合には、所望の各量、及び合計含有量となるように、MnO、TiO2及びP2O5をそれぞれ含む原料の混合量を調整すればよい。
【0016】
MnOを含む原料としては、例えば、酸化マンガン等が挙げられる。
TiO2を含む原料としては、例えば、酸化チタン等が挙げられる。
P2O5を含む原料としては、例えば、リン酸三カルシウム等が挙げられる。
【0017】
本発明のグラウト材料は、セメント中のP2O5の含有量に対するMnOとTiO2の合計含有量の質量比((MnO+TiO2)/P2O5)が0.3以上15以下である。質量比((MnO+TiO2)/P2O5)が0.3未満であると、グラウト材料の凝結が遅くなったり、収縮量が大きくなったりしてしまう。また、質量比((MnO+TiO2)/P2O5)が15超であると、グラウト材料の流動性の保持効果が低くなり、練り混ぜ抵抗性が高くなる等の困難が生じる。
セメント中のP2O5の含有量に対するMnOとTiO2の合計含有量の質量比((MnO+TiO2)/P2O5)は、グラウト材料の流動性の保持効果が高く、練り混ぜ抵抗性が低く、凝結が早まり、収縮量を低減する観点から、0.6以上13以下であることが好ましく、0.7以上10以下であることがより好ましい。
セメント中のMnO、TiO2及びP2O5の量は、蛍光X線回折法(XRF)で測定することができ、測定した値から質量比((MnO+TiO2)/P2O5)を算出することができる。
【0018】
(発泡物質)
本発明のグラウト材料は、発泡物質を含有する。発泡物質は、水と練り混ぜた際にガスを発生し、練り混ぜ後のグラウトモルタル組成物の初期膨張を得ることで、まだ固まらない状態のグラウトモルタル組成物のブリーディングによる沈下や収縮を有効に防ぐことでき、乾燥状態に置かれた際の収縮量を低減することができる。
本発明で使用する発泡物質としては、水と練り混ぜた際に気体を発生するものであればよく、特に限定されるものではない。
【0019】
発泡物質としては、植物油及び鉱物油等の油状物質が挙げられる。また、発泡物質としては、ステアリン酸で表面処理した燐片状のアルミニウム粉末、及びアトマイズ製法で製造したアルミニウム粉末等の粉末物質が挙げられる。また、発泡物質としては、アゾ化合物、ニトロソ化合物及びヒドラジン誘導体等のアルカリ雰囲気下で窒素ガスを発泡する窒素発泡物質が挙げられる。また、発泡物質としては、過炭酸ナトリウム、過炭酸カリウム及び過炭酸アンモニウムなどの過炭酸塩、過ホウ酸ナトリウムや過ホウ酸カリウム等の過ホウ酸塩、過マンガン酸ナトリウム及び過マンガン酸カリウムなどの過マンガン酸塩、並びに、過酸化水素等の過酸化物質が挙げられる。
本発明で使用する発泡物質としては、モルタル施工面の沈下や収縮を抑制する効果が大きいことから、ステアリン酸等で表面処理したアルミニウム粉末を用いることが好ましい。
【0020】
本発明で使用する発泡物質として使用する窒素発泡物質は、グラウト材料中に含まれるセメントが、水と共に練混ぜた際に生成するアルカリとの反応により、窒素ガスを発生する化合物を含有するものであり、一酸化炭素、二酸化炭素、及びアンモニアなどのガスを副生してもよい。
本発明で使用する窒素発泡物質としては、構造物と一体化させるために、また、まだ固まらない状態のモルタル施工面が沈下や収縮するのを抑止するために、さらには、乾燥状態に置かれた際の収縮量を低減するために使用できるものであれば特に限定されるものではない。
【0021】
発泡物質の含有量は、セメント100質量部に対して、0.0001質量部以上1質量部以下が好ましく、0.0005質量部以上0.5質量部以下がより好ましく、0.0007質量部以上0.2質量部以下がさらに好ましい。発泡物質の含有量が上記下限値以上であることで、充分な初期膨張効果を付与することができる。また、発泡物質の含有量が上記上限値以下であることで、強度発現性が良好となる。
【0022】
(減水剤)
本発明のグラウト材料は、減水剤を含有する。減水剤は、各材料の分散を助けるとともに、グラウト材料と水とを練り上げたグラウトモルタル組成物に流動性を付与する役割を担う。
本発明で使用する減水剤は、特に限定されるものではなく、例えば、ナフタレン系減水剤、メラミン系流減水剤、アミノスルホン酸系減水剤、及びポリカルボン酸系減水剤が挙げられ、本発明ではこれら減水剤のうちの一種又は二種以上が使用可能である。
【0023】
減水剤の具体例としては、例えば、ナフタレン系減水剤としては、エヌエムビー社製商品名「レオビルドSP-9シリーズ」、花王社製商品名「マイティ2000シリーズ」、及び日本製紙社製商品名「サンフローHS-100」などが挙げられる。メラミン系減水剤としては、日本シーカ社製商品名「シーカメント1000シリーズ」及び日本製紙社製商品名「サンフローHS-40」などが挙げられる。アミノスルホン酸系減水剤としては、藤沢薬品工業社製商品名「パリックFP-200シリーズ」などが挙げられる。ポリカルボン酸系減水剤としては、エヌエムビー社製商品名「レオビルドSP-8シリーズ」、グレースケミカルズ社製商品名「ダーレックススーパー100PHX」、及び竹本油脂社製商品名「チューポールHP-8シリーズ」、「チューポールHP-11シリーズ」などが挙げられる。
減水剤には粉末状のものも存在する。具体的には、ナフタレン系減水剤としては、花王社製商品名「マイティ100」、及び第一工業製薬社製商品名「セルフロー110P」などが挙げられる。メラミン系減水剤としては、BASFポゾリス社製「メルメントF10M」などが挙げられる。ポリカルボン酸系減水剤としては、花王社製商品名「CAD9000P」などが挙げられる。
【0024】
減水剤の含有量は、セメント100質量部に対して、固形分換算で0.1質量部以上3.0質量部以下が好ましく、0.2質量部以上2.5質量部以下がより好ましく、0.3質量部以上2.0質量部以下がさらに好ましい。減水剤の含有量が上記下限値以上であることで、十分な流動性を得ることができる。また、減水剤の含有量が上記上限値以下であることで、材料分離を抑制することができる。
【0025】
(ポゾラン物質)
本発明のグラウト材料は、さらにポゾラン物質を含有することが好ましい。
本発明で使用するポゾラン物質は、副産物からなりセメントに混和することで、流動性の保持効果を助長する役割を担う。ポゾラン物質としては、特に限定されるものではなく、例えば、高炉水砕スラグ微粉末、フライアッシュ、シリカフューム、パルプスラッジ焼却灰、下水汚泥焼却灰、廃ガラス粉末等が挙げられ、これらの1種または2種以上を使用することができる。なかでも、高炉水砕スラグ微粉末及びフライアッシュの使用が好ましく、高炉水砕スラグ微粉末の使用がより好ましい。
【0026】
高炉水砕スラグ微粉末の粉末度は、特に限定されるものではないが、通常、ブレーン値で3,000~9,000cm2/g程度の範囲にある。
フライアッシュとシリカヒュームの粉末度は、特に限定されるものではないが、通常、フライアッシュについては、ブレーン値で3,000~9,000cm2/g程度の範囲にあり、シリカヒュームについては、BET比表面積で2~20m2/g程度の範囲にある。
【0027】
ポゾラン物質の含有量は、セメント100質量部に対して、5質量部以上350質量部以下が好ましく、10質量部以上300質量部以下がより好ましく、15質量部以上250質量部以下がさらに好ましい。ポゾラン物質の含有量が上記上限値以下であることで、練り混ぜ抵抗性が低く、凝結が早まり、収縮量を低減することができるようになる。また、ポゾラン物質の含有量が上記下限値以上であることで、流動性の保持効果が十分となる。
【0028】
(骨材)
本発明のグラウト材料は、さらに骨材を含有することが好ましい。
本発明で使用する骨材としては、通常のセメントモルタルやコンクリートに使用するものと同様の細骨材や粗骨材が使用可能である。即ち、川砂、川砂利、山砂、山砂利、砕石、砕砂、石灰石骨材、石灰砂、けい砂、色砂、人口骨材、高炉スラグ骨材、海砂、海砂利、人工軽量骨材、及び重量骨材等が使用可能であり、これらを組み合わせることも可能である。特に、流動性の保持効果が高く、練り混ぜ抵抗性が低い効果を目的とした用途では、シリカ質のけい砂や石灰石骨材や石灰砂や重量骨材の使用が好ましい。
【0029】
骨材の含有量は、セメント100質量部に対して、50~350質量部が好ましく、70~250質量部であることがより好ましい。骨材の含有量が上記範囲内であることで、練混ぜ抵抗性を低減し、発泡効果をより高めることができるようになる。
【0030】
本発明で使用する重量骨材としては、練混ぜ抵抗性を低減し、発泡効果、流動性の保持等が得られれば特に限定されるものではないが、例えば、フェロニッケルスラグ、フェロクロムスラグ、橄欖石、磁鉄鉱石、赤鉄鉱石、銅スラグ、電気炉酸化スラグ等が挙げられるが、本発明では、これらのうち一種または二種以上を併用することが可能である。重量骨材の密度は2.7g/cm3以上であることが好ましく、2.8g/cm3以上であることがより好ましい。重量骨材が、密度2.7g/cm3以上の重量骨材であるとき、モルタルの流動性が良く、材料分離がし難い。プレミックス製品として使用する際には各々を乾燥した乾燥砂が好ましく、その粒度は流動性の面から最大粒径が10.0mmであることが好ましい。なお、細骨材の密度は、JIS A 1109に規定された方法に準拠して計測できる。
【0031】
本発明のグラウト材料は、さらに膨張材を含有することが好ましい。
本発明で使用する膨張材は、特に限定されるものではなく、膨張性水和物を生成させ、グラウト材料を膨張させ、ブリーディングや収縮を抑制するものであれば、いかなるものでも使用可能である。
膨張材として遊離石灰、遊離マグネシア、カルシウムフェライト、エトリンガイト系、石灰系、エトリンガイト-石灰複合系を含むものが知られ特に限定されるものではないが、長期安定性の観点から、遊離石灰を含むものが好ましい。遊離石灰を含むものとしては、例えば、遊離石灰-無水セッコウ系、遊離石灰-水硬性化合物系、ならびに、遊離石灰-水硬性化合物-無水セッコウ系などが挙げられる。
【0032】
本発明で使用する膨張材は、膨張性能が良好なことから、遊離石灰-水硬性化合物-無水セッコウ系を用いることが好ましく、特に遊離石灰含有量が40%を超えるものが好ましい。
ここで、水硬性化合物としては、例えば、アウイン、カルシウムフェライト、カルシウムアルミノフェライト、カルシウムシリケート、カルシウムアルミネートなどの1種または2種以上が挙げられる。本発明では、膨張材としては、市販の膨張材や静的破砕材が利用できる。
膨張材や静的破砕材は各社より市販されており、その代表例としては、例えば、デンカ社製「デンカCSA♯20」、「デンカパワーCSA」、太平洋マテリアル社製「エクスパン」、「ハイパーエクスパン」「N-EX」、「ブライスター」やこれらの粉砕品などが挙げられる。
【0033】
本発明の膨張材の粒度は、特に限定されるものではないが、通常、ブレーン比表面積値で2,000~15,000cm2/gの範囲にあり、2,200~8,000cm2/g程度のものがより好ましい。膨張材の粒度が上記範囲内であることで、ブリーディングを抑制し、膨張性が十分に得られる。
本発明の膨張材の含有量は、セメント100質量部に対して、0.5~20質量部が好ましく、1~18質量部がより好ましく、1.5~15質量部がさらに好ましい。膨張材の含有量が上記範囲内であることで、ブリーディングや収縮抑制効果を十分に得ることができ、強度を高く維持することができる。
い。
【0034】
本発明のグラウト材料は、さらに凝結調整剤を含有することが好ましい。凝結調整剤はセメントの凝結を促進、遅延するものであれば特に限定されるものではない。グラウト材料としては、具体的には、水酸化アルカリ、アルカリ金属塩化物塩、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属重炭酸塩、アルカリ金属硫酸塩、チオ硫酸塩、ギ酸又はその塩、カルシウムアルミネート、カルシウムアルミノシリケート、オキシカルボン酸又はその塩、リン酸又はその塩、デキストリン、ショ糖、ポリアクリル酸又はその塩、などを1種又は2種以上、本発明の目的を実質的に阻害しない範囲で使用することが可能である。本発明の凝結調整剤の含有量は、セメント100質量部に対して、0.1~10質量部が好ましく、0.2~8質量部がより好ましく、0.3~5質量部がさらに好ましい。凝結調整剤の含有量が上記範囲内であることで、流動性の保持効果や練り混ぜ抵抗性や凝結時間をさらに調整することができる。
【0035】
(セメント混和用ポリマー)
本発明のグラウト材料は、さらにセメント混和用ポリマーを含有させてもよい。
本発明で使用するセメント混和用ポリマーは、特に限定されるものではないが、例えば、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、天然ゴム等のゴムラテックスや、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリアクリル酸エステル、スチレン・アクリル酸エステル共重合体やアクリロニトリル・アクリル酸エステルに代表されるアクリル酸エステル系共重合体、酢酸ビニルビニルバーサテート系共重合体等の樹脂エマルジョン等が挙げられる。
ポリマーの形態としては、再乳化型粉末タイプや液体タイプがあり、いずれの使用も可能であり、下地部分との付着性改善、さらに、モルタルの耐久性向上のために使用される。
【0036】
セメント混和用ポリマーの含有量は、セメント100質量部に対して、固形分量で1~15質量部が好ましく、3~10質量部がより好ましい。セメント混和用ポリマーの含有量が上記範囲内であることで、流動性を高め、収縮量を低減することができる。
【0037】
(繊維)
本発明のグラウト材料は、さらに繊維を含有させてもよい。繊維は、グラウト材料の収縮量の低減を図ることができる。
繊維の種類としては、特に限定されるものではないが、例えば、ビニロン繊維、プロピレン繊維、アクリル繊維、ナイロン繊維、アラミド繊維等の高分子繊維類や、鋼繊維、ガラス繊維、炭素繊維、及び玄武岩等の岩石を溶融紡糸した繊維等の無機繊維類が挙げられる。
【0038】
繊維の含有量は、セメント100質量部に対して、0.02~1.5質量部が好ましく、0.05~1.0質量部がより好ましい。繊維の含有量が上記範囲内であることで、グラウト材料の流動性を維持しつつ、収縮量を低減することができる。
繊維の長さは、コテ仕上げ面の美観の観点から、15mm以下であることが好ましく、12mm以下であることがより好ましく、10mm以下であることがさらに好ましい。
【0039】
(消泡剤)
本発明のグラウト材料は、さらに消泡剤を含有させてもよい。消泡剤は、練り混ぜで巻き込む空気量を抑制する目的で使用するものである。
消泡剤の種類としては、グラウト材料の強度特性に著しく悪影響を与えるものでない限り特に限定されるものではなく、液体状及び粉末状いずれも使用できる。例えば、ポリエーテル系消泡剤、多価アルコールのエステル化物やアルキルエーテル等の多価アルコール系消泡剤、アルキルホスフェート系消泡剤、シリコーン系消泡剤等が挙げられる。
【0040】
消泡剤の含有量は、セメント100質量部に対して、0.002~0.5質量部が好ましく、0.01~0.4質量部がより好ましい。消泡剤の含有量が0.002質量部以上であることで、消泡効果を十分に発現することができる。また、消泡剤の含有量が0.5質量部以下であることで、流動性の低下や収縮量を低減することができる。
【0041】
(その他添加剤)
本発明では、性能に悪影響を与えない範囲で、収縮低減剤、促進剤、AE剤、防錆剤、撥水剤、抗菌剤、着色剤、防凍剤、石灰石微粉末、高炉徐冷スラグ微粉末、下水汚泥焼却灰やその溶融スラグ、都市ゴミ焼却灰やその溶融スラグ、及びパルプスラッジ焼却灰等の混和材料、増粘剤、及び収縮低減剤、ポリマー、ベントナイト、セピオライトなどの粘土鉱物、並びに、ハイドロタルサイトなどのアニオン交換体等のうちの一種又は二種以上を、本発明の目的を実質的に阻害しない範囲で使用することが可能である。
【0042】
本発明のグラウト材料において、各材料の混合方法は特に限定されるものではなく、それぞれの材料を施工時に混合しても良いし、あらかじめ一部を、あるいは全部を混合しておいても差し支えない。
混合装置としては、既存のいかなる装置、例えば、傾胴ミキサ、オムニミキサ、ヘンシェルミキサ、V型ミキサ、及びナウタミキサなどの使用が可能である。
【0043】
[グラウトモルタル組成物及び硬化体]
本発明のグラウトモルタル組成物は、既述の本発明のグラウト材料と水とを含有するものであり、グラウト材料と水とを混錬してなる。
本発明の練り混ぜ水量は、使用する目的・用途や各材料の含有量によって変化するため特に限定されるものではないが、グラウト材料100質量部に対して、10質量部以上70質量部以下であることが好ましく、14質量部以上65質量部以下であることがより好ましく、16質量部以上60質量部以下であることがさらに好ましい。練り混ぜ水量が上記下限値以上であることで、流動性の低下を抑制し、発熱量が極めて大きくなることを抑制することができる。また、練り混ぜ水量が上記上限値以下であることで、強度発現性を確保することができる。
【0044】
本発明において、グラウト材料と水との練り混ぜ方法は特に限定されるものではないが、回転数が900rpm以上のハンドミキサ、通常の高速グラウトミキサ、又は二軸型の強制ミキサを使用することが好ましい。
【0045】
ハンドミキサや高速グラウトミキサでの練り混ぜは、例えば、ペール缶等の容器やミキサにあらかじめ所定の水を入れ、その後ミキサを回転させながらグラウトモルタル組成物を投入し、3分以上練り混ぜることが好ましい。又、強制ミキサでの練り混ぜは、例えば、あらかじめグラウトモルタル組成物をミキサに投入し、ミキサを回転させながら所定の水を投入し、少なくとも4分以上練り混ぜることが好ましい。練り混ぜ時間が所定時間未満では、練り不足のため適切なグラウトモルタル組成物の流動性が得られない場合がある。
練り混ぜられたグラウトモルタル組成物は、通常、手動式注入ガン、ダイヤフラム式手押しポンプ、あるいは、スクイズ式等のモルタルポンプにより施工箇所まで圧送し、充填施工されることで、本発明のグラウトモルタル組成物を用いてなる硬化体となる。
【0046】
[グラウト方法]
本発明のグラウト方法は、本発明のグラウト材料を用いる。
本発明のグラウト方法は、本発明のグラウト材料に所定の水を加え練り混ぜたグラウトモルタル組成物を、コテを用いて補修箇所に塗り付ける方法や、場合によっては、施工に支障のない程度にポンプを用いて練り混ぜて圧送し、補修箇所に圧縮空気を用いて吹き飛ばしコテで仕上げる方法が挙げられる。グラウトモルタル組成物の練り混ぜ方法は、ペール缶等の容器に材料を投入しハンドミキサで練り混ぜる方法や、パン型ミキサ等を用いて練り混ぜる方法であればよい。
【0047】
具体的なグラウト方法を例に挙げると、劣化したコンクリート部分をウォータージェットで除去後、プライマーを塗布する。次に、練り混ぜたグラウトモルタル組成物をコテで塗り付けるか、吹付けによって塗り付ける。壁面や天井面の場合は、30mm程度の修復厚みであれば、1回で塗り付けられるので表面をコテによって仕上げればよい。30mmを超える修復厚みの場合は、複数層に分割して修復を行う。その際、打ち継ぎ面は平滑にコテ仕上げを行うのではなく、粗い仕上げ状態とし付着力を確保できるようにする。また、打ち継ぐときのタイミングは外気温等で変化するが、先に塗り付けたグラウトモルタル組成物を指で触って、へこまない程度に硬化が進んだ段階で行えばよい。最後に、表面が平滑となるようにコテ仕上げを行う。より念入りな施工を行うには、養生シートや養生剤等を用いて乾燥防止対策を実施することが好ましい。
【0048】
[コンクリート構造物]
以上のようなグラウト方法により、既述の本発明のグラウト材料を用いて補修したコンクリート構造物が得られる。
【実施例0049】
以下、実施例に基づいて、本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0050】
(グラウト材料の作製)
普通ポルトランドセメントにMnO、TiO2、及びP2O5量が表1に示す割合となるように、酸化マンガン(試薬)、酸化チタン(試薬)、リン酸三カルシウム(試薬)を混合してセメントを作製した。さらに、得られたセメントに、発泡物質、減水剤A、及び減水剤Bを表1に示す割合となるように添加し、グラウト材料を作製した。
【0051】
得られたグラウト材料100質量部に対して、ポゾラン物質A、ポゾラン物質B、ポゾラン物質C、膨張材、促進剤、骨材A、骨材B、骨材C、及び骨材Dで表1に示す配合で混合し、さらにグラウト材料100質量部に対して、水25質量部を混練しグラウトモルタル組成物を調製した。調製したグラウトモルタル組成物について、流動性保持効果、練混ぜ抵抗性、凝結、発泡効果、収縮量を測定した。結果を表1に併記する。
【0052】
<使用材料>
・発泡物質:ステアリン酸で表面処理した燐片状のアルミニウム粉末、市販品
・減水剤A:ナフタレン系減水剤、市販品(第一工業製薬社製「セルフロ-110P」)
・減水剤B:ポリカルボキシ系減水剤、市販品(BASFポゾリス社製「メルフラックスAP101F」)
・ポゾラン物質A:高炉水砕スラグ微粉末、ブレーン値4,000cm2/g、市販品
・ポゾラン物質B:フライアッシュ、ブレーン値4,300cm2/g、市販品
・ポゾラン物質C:シリカヒューム(ジルコニア起源)、比表面積(BET)10m2/g
・膨張材:デンカ社製CSA♯20(ブレーン値;3,000cm2/g)
・凝結調整剤:硫酸ナトリウム、市販品
・骨材A:細骨材、石灰砂0.6mm未満を50%、0.6~1.2mmを50%混合したもの、密度2.60g/cm3
・骨材B:粗骨材、川砂利、最大寸法20mm、密度2.60g/cm3
・骨材C:重量骨材、フェロニッケルスラグ細骨材、密度3.11g/cm3、最大骨材径2.0mm、市販品
・骨材D:製鋼スラグ細骨材、密度3.61g/cm3、最大骨材径2.0mm、市販品
・水:水道水
【0053】
<測定項目>
・流動性保持効果:JSCE-F541に準拠し、20℃環境下で練混ぜ直後と30分後のJ14漏斗流下値を測定し、30分後のJ14漏斗流下値から練混ぜ直後のJ14漏斗流下値を減じたものを流動性保持効果とした。
・練混ぜ抵抗性:20℃環境下でモルタル混和用ハンドミキサを用い、90秒間練り混ぜ、このときの電流値をクランプメーターで測定し、最大値を練混ぜ抵抗性の指標とした。
・凝結:JIS A 1171に準拠し、凝結終結の時間を測定した。
・発泡効果:JSCE F 533に準拠し、材齢24時間後の膨張率を測定した。
・収縮量:ゲージプラグを設置した4cm×4cm×16cmの型枠にグラウト組成物を入れ、供試体を作製した。供試体は材齢1日で脱型後、材齢7日まで水中養生(20℃)とし,材齢7日以降は気乾養生(20℃,60%RH)とした。材齢28日にダイヤルゲージで長さ変化率を測定する.
【0054】
【0055】
表1の結果より、セメント中にMnO、TiO2、及びP2O5を含有し、セメント中のMnOとTiO2とP2O5の合計含有量を特定量とし、セメント中のP2O5の含有量に対するMnOとTiO2の合計含有量の質量比((MnO+TiO2)/P2O5)を特定値とするグラウト材料を用いることで、流動性の保持効果を高め、練り混ぜ抵抗性を低減し、凝結を促進し、発泡効果を高め、収縮量を低減する効果を確認した。