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  • 特開-エミッタ 図1
  • 特開-エミッタ 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121498
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】エミッタ
(51)【国際特許分類】
   H01J 1/18 20060101AFI20240830BHJP
【FI】
H01J1/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028638
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(74)【代理人】
【識別番号】100177910
【弁理士】
【氏名又は名称】木津 正晴
(72)【発明者】
【氏名】茶谷 洋光
(57)【要約】
【課題】チップ部を効率的に加熱することができると共に省電力化を図ることができるエミッタを提供する。
【解決手段】エミッタ1は、碍子2と、互いに離隔して碍子2に固定された一対の端子3と、一対の端子3に固定されたフィラメント4と、電子放出材料により形成され、フィラメント4に固定されたチップ部5と、を備える。一対の端子3の各々は、第1金属材料により形成された第1部分11と、第1金属材料よりも電気抵抗率が低く且つ熱伝導率が高い第2金属材料により形成された第2部分12と、を有し、第1部分11においてフィラメント4に電気的に接続されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
碍子と、
互いに離隔して前記碍子に固定された一対の端子と、
前記一対の端子に固定されたフィラメントと、
電子放出材料により形成され、前記フィラメントに固定されたチップ部と、を備え、
前記一対の端子の各々は、第1金属材料により形成された第1部分と、前記第1金属材料よりも電気抵抗率が低く且つ熱伝導率が高い第2金属材料により形成された第2部分と、を有し、前記第1部分において前記フィラメントに電気的に接続されている、エミッタ。
【請求項2】
前記フィラメントは、前記第1金属材料により形成されている、請求項1に記載のエミッタ。
【請求項3】
前記第1部分は前記碍子から離隔しており、前記一対の端子の各々は前記第2部分において前記碍子に固定されている、請求項1又は2に記載のエミッタ。
【請求項4】
前記第1金属材料は、タングステン、コバール、チタン又はモリブデンを含む、請求項1又は2に記載のエミッタ。
【請求項5】
前記第2金属材料は、銅を含む、請求項1又は2に記載のエミッタ。
【請求項6】
前記第1部分と前記第2部分とは、液相拡散接合により互いに接合されている、請求項1又は2に記載のエミッタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エミッタに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、碍子と、碍子に固定された一対の端子と、一対の端子に固定されたアーチ状のフィラメントと、フィラメントに固定されたチップ部と、を備えるエミッタが記載されている。このエミッタでは、端子を介したフィラメントへの通電によりチップ部が加熱され、チップ部から電子ビームが放出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4789122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、チップ部を効率的に加熱することができると共に省電力化を図ることができるエミッタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のエミッタは、[1]「碍子と、互いに離隔して前記碍子に固定された一対の端子と、前記一対の端子に固定されたフィラメントと、電子放出材料により形成され、前記フィラメントに固定されたチップ部と、を備え、前記一対の端子の各々は、第1金属材料により形成された第1部分と、前記第1金属材料よりも電気抵抗率が低く且つ熱伝導率が高い第2金属材料により形成された第2部分と、を有し、前記第1部分において前記フィラメントに電気的に接続されている、エミッタ」である。
【0006】
このエミッタでは、一対の端子の各々が、第1金属材料により形成された第1部分と、第1金属材料よりも電気抵抗率が低く且つ熱伝導率が高い第2金属材料により形成された第2部分と、を有し、第1部分においてフィラメントに電気的に接続されている。熱伝導率が高い第2部分が設けられていることで、端子における電力消費量を低減することができる。また、電気抵抗率が高い第1部分が設けられ、当該第1部分において端子がフィラメントに電気的に接続されていることで、フィラメントへの通電により発生した熱が端子へ逃げることを抑制することができ、チップ部を効率的に加熱することができる。よって、このエミッタによれば、チップ部を効率的に加熱することができると共に省電力化を図ることができる。すなわち、単に端子の全体を熱伝導率が高い第2金属材料により形成するとフィラメントへの通電により発生した熱が端子へ逃げてしまい、チップ部を効率的に加熱することができない可能性があるのに対し、このエミッタによれば、第2部分に加えて第1部分が形成されていることで、省電力化とチップ部の効率的な加熱の両立を図ることができる。
【0007】
本発明のエミッタは、[2]「前記フィラメントは、前記第1金属材料により形成されている、[1]に記載のエミッタ」であってもよい。この場合、フィラメントと第1部分とが同一の材料により形成されるため、フィラメントと第1部分とを良好に接続することができる。
【0008】
本発明のエミッタは、[3]「前記第1部分は前記碍子から離隔しており、前記一対の端子の各々は前記第2部分において前記碍子に固定されている、[1]又は[2]に記載のエミッタ」であってもよい。この場合、第2部分の長さを長くすることができ、電力消費量を一層低減することができる。
【0009】
本発明のエミッタは、[4]「前記第1金属材料は、タングステン、コバール、チタン又はモリブデンを含む、[1]~[3]のいずれかに記載のエミッタ」であってもよい。この場合、チップ部を効率的に加熱することができる。
【0010】
本発明のエミッタは、[5]「前記第2金属材料は、銅を含む、[1]~[4]のいずれかに記載のエミッタ」であってもよい。この場合、電力消費量を低減することができる。
【0011】
本発明のエミッタは、[6]「前記第1部分と前記第2部分とは、液相拡散接合により互いに接合されている、[1]~[5]のいずれかに記載のエミッタ」であってもよい。動作時には端子が高温になるが、液相拡散接合は例えば一般的なロウ付接合と比べて耐熱温度が高いため、このエミッタでは、十分な耐熱性を確保することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、チップ部を効率的に加熱することができると共に省電力化を図ることができるエミッタを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態に係るエミッタの側面図である。
図2】(a)は一般的なロウ付接合を説明するための図であり、(b)は液相拡散接合を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を用い、重複する説明を省略する。
【0015】
図1に示されるように、エミッタ1は、碍子2と、一対の端子3と、フィラメント4と、チップ部5(電子源)と、を備えている。エミッタ1は、熱電界放出(Thermal Field Emission)型のエミッタである。エミッタ1は、サプレッサ電極、引出電極等と共に電子銃を構成し、電子顕微鏡、半導体製造装置、検査装置又は加工装置等において用いられ得る。エミッタ1では、一対の端子3を介したフィラメント4への通電によってチップ部5が加熱され、チップ部5の先端部から電子ビームが放出される。以下、図1に示されるX方向、Y方向(X方向に垂直な方向)及びZ方向(X方向及びY方向に垂直な方向)を参照しつつ説明する。
【0016】
碍子2は、例えば、絶縁材料により円柱状に形成されている。端子3は、例えば、金属材料により棒状に形成されている。この例では、端子3は、円柱状に真っ直ぐに延在している。端子3は、Z方向に沿って碍子2を貫通し、その中間部において碍子2に固定されている。一対の端子3は、X方向において互いに離隔している。端子3の更なる詳細については後述する。
【0017】
フィラメント4は、アーチ状に形成されており、両端部において一対の端子3に固定されている。すなわち、フィラメント4は、Z方向における一方側(端子3とは反対側)に向かって凸となるように湾曲した部分を有するように、一対の端子3の間において延在している。フィラメント4は、各端子3の突出部3aに例えばスポット溶接により固定されている。突出部3aは、端子3における碍子2から突出した部分である。
【0018】
フィラメント4は、例えば融点が2200℃以上の高融点金属により形成されている。この例では、フィラメント4はタングステンにより形成されている。フィラメント4の材料の他の例としては、タングステンと高融点金属(例えばレニウム)の合金が挙げられる。フィラメント4の材料は、組織安定化のためのアルカリ金属(例えばカリウム)がドープされたタングステンであってもよい。
【0019】
チップ部5は、フィラメント4の頂部に固定されている。チップ部5は、例えば、電子放出材料により棒状に形成されている。チップ部5の材料の例としては、タングステン、タンタル、ハフニウム等の高融点金属並びにその酸化物、炭化物及び窒化物、ホウ化ランタン(LaB6)、ホウ化セリウム(CeB6)等の希土類ホウ化物、イリジウムセリウム等の貴金属-希土類系合金が挙げられる。この例では、チップ部5はZ方向に沿って延在するように固定されている。
【0020】
端子3について更に説明する。各端子3は、第1部分11及び第2部分12を有している。第1部分11は端子3の長手方向(Z方向)における一方側の部分を構成しており、第2部分12は長手方向における他方側の部分を構成している。この例では、第1部分11は第2部分12よりも短い。端子3は、第1部分11においてフィラメント4に電気的に接続されており、第2部分12において碍子2に固定されている。第1部分11は、碍子2から離隔している。換言すれば、第1部分11は碍子2から離隔する程度に短く形成されており、これにより第2部分12の長さが確保されている。端子3の突出部3aは、第1部分11の全部と第2部分12の一部とにより構成されている。第1部分11は、突出部3aを構成する第2部分12の当該一部よりも短い。
【0021】
第1部分11は第1金属材料により形成されており、第2部分12は第2金属材料により形成されている。第2金属材料の電気抵抗率は第1金属材料の電気抵抗率よりも低く、第2金属材料の熱伝導率は第1金属材料の熱伝導率よりも高い。すなわち、第1金属材料の電気抵抗率は第2金属材料の電気抵抗率よりも高く、第1金属材料の熱伝導率は第2金属材料の熱伝導率よりも低い。
【0022】
この例では、第1金属材料はタングステンであり、第2金属材料はアルミナを含有する銅合金である。この場合、第1金属材料の電気抵抗率は5.29×10-8Ω・mであり、第2金属材料の電気抵抗率は1.6×10-8Ω・mである。また、第1金属材料の熱伝導率は173W/K・mであり、第2金属材料の熱伝導率は372W/K・mである。この例では、第1金属材料はフィラメント4の材料と同一である。すなわち、フィラメント4は第1部分11と同じ第1金属材料により形成されている。
【0023】
第1金属材料は、タングステンと高融点金属(例えばレニウム)の合金、又は組織安定化のためのアルカリ金属(例えばカリウム)がドープされたタングステンであってもよい。第1金属材料は、コバール、チタン又はモリブデンであってもよいし、それらを含む合金であってもよい。すなわち、第1金属材料は、タングステン、コバール、チタン又はモリブデンを含む金属材料であってもよい。第2金属材料は、この例では銅合金であるが、銅であってもよい。すなわち、第2金属材料は、銅を含む金属材料であってもよい。第2金属材料は、金、銀、アルミ、タンタル、ニオブ、亜鉛又は鉄を含む金属材料であってもよい。
【0024】
第1部分11と第2部分12とは、液相拡散(Transient Liquid Phase Diffusion)接合により互いに接合されている。図2に示されるように、一般的なロウ付接合により第1部分11と第2部分12とを接合した場合、それらの間に純銅の緩衝材15とロウ材層16とが形成され得る。このロウ材層16の融点は低く、そのため、端子3の耐熱温度は500℃程度となる。これに対し、液相拡散接合により第1部分11と第2部分12とを接合した場合、接合後には第1部分11と第2部分12との間にロウ材層16が無いかのような状態となる。そのため、端子3の耐熱温度を1000℃程度まで高めることができる。これにより、エミッタ1の動作時にフィラメント4が1550℃程度にまで加熱されたとしても、そのような高温環境に端子3が耐えることができる。
[作用及び効果]
【0025】
エミッタ1では、各端子3が、第1金属材料により形成された第1部分11と、第1金属材料よりも電気抵抗率が低く且つ熱伝導率が高い第2金属材料により形成された第2部分12と、を有し、第1部分11においてフィラメント4に電気的に接続されている。熱伝導率が高い第2部分12が設けられていることで、端子3における電力消費量を低減することができる。また、電気抵抗率が高い第1部分11が設けられ、第1部分11において端子3がフィラメント4に電気的に接続されていることで、フィラメント4への通電により発生した熱が端子3へ逃げることを抑制することができ、チップ部5を効率的に加熱することができる。よって、エミッタ1によれば、チップ部5を効率的に加熱することができると共に省電力化を図ることができる。すなわち、単に端子3の全体を熱伝導率が高い第2金属材料により形成するとフィラメント4への通電により発生した熱が端子3へ逃げてしまい、チップ部5を効率的に加熱することができない可能性があるのに対し、エミッタ1によれば、第2部分12に加えて第1部分11が形成されていることで、省電力化とチップ部5の効率的な加熱の両立を図ることができる。
【0026】
フィラメント4が、第1金属材料により形成されている。これにより、フィラメント4と第1部分11とが同一の材料により形成されるため、フィラメント4と第1部分11とを良好に接続することができる。
【0027】
第1部分11が碍子2から離隔しており、各端子3が第2部分12において碍子2に固定されている。これにより、第2部分12の長さを長くすることができ、電力消費量を一層低減することができる。
【0028】
第1部分11を構成する第1金属材料が、タングステン、コバール、チタン又はモリブデンを含む。これにより、チップ部5を効率的に加熱することができる。
【0029】
第2部分12を構成する第2金属材料が、銅を含む。これにより、電力消費量を低減することができる。
【0030】
第1部分11と第2部分12とが、液相拡散接合により互いに接合されている。これにより、動作時には端子3が高温になるが、液相拡散接合は例えば一般的なロウ付接合と比べて耐熱温度が高いため、エミッタ1では、十分な耐熱性を確保することができる。
【0031】
本発明は、上記実施形態及び変形例に限られない。例えば、各構成の材料及び形状には、上述した材料及び形状に限らず、様々な材料及び形状を採用することができる。上記実施形態では第1部分11が碍子2から離隔していたが、第1部分11の一部が碍子2内に配置されていてもよい。
【符号の説明】
【0032】
1…エミッタ、2…碍子、3…端子、4…フィラメント、5…チップ部、11…第1部分、12…第2部分。
図1
図2