(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121508
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】保持器付き軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/78 20060101AFI20240830BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20240830BHJP
F16C 33/80 20060101ALI20240830BHJP
F16C 33/41 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
F16C33/78 F
F16C19/06
F16C33/80
F16C33/41
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028652
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【弁理士】
【氏名又は名称】飛田 高介
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 大介
(72)【発明者】
【氏名】河合 敏宏
【テーマコード(参考)】
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3J216AA02
3J216AA12
3J216AB01
3J216AB31
3J216BA30
3J216CA01
3J216CA05
3J216CB10
3J216CC68
3J216CC70
3J701AA02
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA25
3J701BA44
3J701BA49
3J701FA48
3J701FA51
3J701FA53
3J701XB03
3J701XB11
3J701XB26
(57)【要約】
【課題】樹脂製の冠型保持器の剛性を高めつつ、軸受の小型化、軽量化および高速化を併せて実現することができ、且つ内輪と外輪との間への異物の混入を防止する可能な保持器付き軸受を提供する。
【解決手段】本発明にかかる保持器付き軸受(軸受100)の構成は、内輪110と、外輪120と、内輪および外輪間を転動する複数の転動体130と、転動体を保持する樹脂製の冠型保持器(保持器140)とを備え、冠型保持器は、内輪と外輪との間で軸方向に延びる複数の基部142と、隣接する基部の間に形成されるポケット146と、基部と同等の厚みを有し複数の基部を連続させる第1円環部150と、第1円環部と連続していて径方向の厚みが第1円環部よりも厚い第2円環部160と、を有し、第2円環部の外径は外輪の内径よりも大きく、第2円環部の内径は内輪の外径よりも小さいことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪と、外輪と、前記内輪および前記外輪間を転動する複数の転動体と、前記転動体を保持する樹脂製の冠型保持器とを備え、
前記冠型保持器は、
前記内輪と前記外輪との間で軸方向に延びる複数の基部と、
隣接する前記基部の間に形成されるポケットと、
前記基部と同等の厚みを有し前記複数の基部を連続させる第1円環部と、
前記第1円環部と連続していて径方向の厚みが該第1円環部よりも厚い第2円環部と、
を有し、
前記第2円環部の外径は前記外輪の内径よりも大きく、前記第2円環部の内径は前記内輪の外径よりも小さいことを特徴とする保持器付き軸受。
【請求項2】
前記内輪および前記外輪は、前記冠型保持器が取り付けられる側の端面から前記第2円環部の軸方向の厚みと同等またはそれ以上に突出した保護部をそれぞれ有することを特徴とする請求項1に記載の保持器付き軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製の冠型保持器を備える保持器付き軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
軸受は保持器を用いるのが一般的である。保持器は、複数のポケットそれぞれに転動体(玉やころ)を保持することで、転動体の間隔を保ち、また転動体同士がこすれないようにする役割を有している。用いられる保持器はさまざまな形状のものがあるが、そのひとつとして冠型保持器がある。
【0003】
例えば特許文献1には、「外周面に内輪軌道溝を有する内輪と、内周面に外輪軌道溝を有する外輪と、内輪軌道溝及び外輪軌道溝間に転動自在に配置された複数の玉と、玉を回転自在に保持する複数のポケットを有する樹脂製の冠型保持器と、を備える多点接触玉軸受」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、軸受には高速回転への対応が求められている。しかしながら、樹脂製の冠型保持器(特にその基部)は、高速回転時の遠心力によって変形して転動体(玉やころ)との接触による摩耗が生じやすくなる。このため高速回転対応の軸受では、樹脂製の冠型保持器の軸受の軸方向の厚みを厚くすることで剛性を高めることが検討された。しかし、冠型保持器の軸受の軸方向の厚みを厚くすると、冠型保持器を収容する内輪および外輪もそれに応じて寸法が大きくなる。すると軸受が大型化し且つ重量が増すため、アプリケーションの効率悪化を招いてしまう。
【0006】
また高速回転時には、軸受に供給される潤滑油として低粘度潤滑油が用いられることが多い。この場合、従来の粘度(粘度が高い潤滑油)を用いる場合と比して、外輪と内輪との間の隙間への異物混入による影響を受けやすくなる。異物混入を防ぐためには内輪と外輪との間の隙間を封止するゴム製等のシールを用いることが好適である。しかし、内輪と外輪との間にシールを設ける場合、軸受の幅寸法が大きくなってしまうため、軸受が大型化してしまう。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑み、樹脂製の冠型保持器の剛性を高めつつ、軸受の小型化、軽量化および高速化を併せて実現することができ、且つ内輪と外輪との間への異物の混入を防止することが可能な保持器付き軸受を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明にかかる保持器付き軸受の代表的な構成は、内輪と、外輪と、内輪および外輪間を転動する複数の転動体と、転動体を保持する樹脂製の冠型保持器とを備え、冠型保持器は、内輪と外輪との間で軸方向に延びる複数の基部と、隣接する基部の間に形成されるポケットと、基部と同等の厚みを有し複数の基部を連続させる第1円環部と、第1円環部と連続していて径方向の厚みが第1円環部よりも厚い第2円環部と、を有し、第2円環部の外径は外輪の内径よりも大きく、第2円環部の内径は内輪の外径よりも小さいことを特徴とする。
【0009】
上記内輪および外輪は、冠型保持器が取り付けられる側の端面から第2円環部の軸方向の厚みと同等またはそれ以上に突出した保護部をそれぞれ有していてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、樹脂製の冠型保持器の剛性を高めつつ、軸受の小型化、軽量化および高速化を併せて実現することができ、且つ内輪と外輪との間への異物の混入を防止することが可能な保持器付き軸受を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態にかかる保持器付き軸受を説明する模式的な図である。
【
図3】本実施形態の軸受および従来の軸受を対比説明する模式的な断面図である。
【
図4】本実施形態の軸受の他の例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0013】
図1は、本実施形態にかかる保持器付き軸受(以下、軸受100と称する)を説明する模式的な図である。
図1に示すように本実施形態の軸受100は、内輪110と、外輪120と、内輪110および外輪120間を転動する複数の転動体130と、転動体130を保持する樹脂製の冠型保持器(以下、保持器140と称する)を備える。
【0014】
なお、
図1は環状の軸受100の断面図であるため転動体130は1つしか図示されていないが、実際には軸受100は複数の転動体130を有する。
【0015】
図2は、
図1の保持器140の全体斜視図である。
図2に示す保持器140は、ナイロン(ポリアミド合成樹脂)やABSなどの樹脂製であり、複数の基部142、爪部144およびポケット146を有する。基部142は、内輪110と外輪120との間で軸受100の軸方向(以下、軸方向D1と称する)に延びていて、先端に爪部144が形成されている。隣接する基部142の間には、転動体130を保持するポケット146が形成され、爪部144によってポケット146からの転動体130の離脱が防止される。
【0016】
本実施形態の軸受100は、
図1および
図2に示すように保持器140が第1円環部150および第2円環部160を有することを特徴としている。第1円環部150および第2円環部160はともに軸受100の軸心Cを中心として環状の部位である。第1円環部150は、基部142と同等の径方向D2の厚みを有し、複数の基部142を連続させる(連結している)。第2円環部160は、第1円環部150と連続していて径方向D2の厚みが第1円環部150よりも厚く設定されている。
【0017】
以下、基部142の径方向D2の厚みをt1、第1円環部150の径方向D2の厚みをt2、第2円環部160の径方向D2の厚みをt3と称する。すると本実施形態では、「第1円環部150の厚みt2=基部142の厚みt1」、「第2円環部160の厚みt3>第1円環部150の厚みt2」となる。
【0018】
また第2円環部160の外径d1は外輪120の内径d3よりも大きく設定されていて、第2円環部160の内径d2は内輪110の外径d4よりも小さく設定されている。これにより、
図1に示すように保持器140において、第1円環部150は内輪110および外輪120との間に配置されているのに対し、第2円環部160は、第1円環部150と連続しつつ内輪110の端面112および外輪120の端面122に張り出すように配置される。したがって、保持器140の断面はT字状となっている。
【0019】
図3は、本実施形態の軸受および従来の軸受を対比説明する模式的な断面図である。なお、従来の軸受との違いを理解容易にするために、
図3(a)として
図1と同じ図面を再度用いている。また以下の説明では、先に説明した本実施形態の軸受100と実質的に共通の構成要素については同一の符号を付すことにより、重複説明を避ける。
【0020】
図3(b)に例示する従来の軸受10aでは、保持器14aは、複数の基部142を連結する円環部15aを有する。このとき、内輪110および外輪120は、保持器14aの円環部15aを収容しているため、軸方向D1(
図1参照)の厚みはt4となっている。
【0021】
このような従来の軸受10aにおいて保持器14aの剛性を高めるためには、円環部15aの軸方向の厚みt5を厚くすることが考えられる。
【0022】
そこで
図3(c)に例示する軸受10bのように円環部15bの軸方向の厚みをt7まで厚くしたと仮定する。すると、保持器14bの剛性は高くなるが、保持器14bを収容する内輪110および外輪120の寸法も大きくしなければならなくなる。このため、軸受10bの内輪110および外輪120の軸方向D1の厚みはt6となり、軸受10bが大型化し且つ重量が増してしまい、アプリケーションの効率悪化を招いてしまう。
【0023】
これに対し
図1および
図3(a)に示す本実施形態の軸受100によれば、
図3(b)に示す従来の保持器14aの円環部15aに相当する箇所は、軸方向D1の厚みがt9(第1円環部150および第2円環部160の厚みの和)となる。このとき、本実施形態の第2円環部160が内輪110の端面112および外輪120の端面122に張り出すように配置されていることにより、遠心力による曲げモーメントMに対する剛性を高めることができる。
【0024】
さらに、
図3(a)に示す本実施形態の軸受100によれば、内輪110および外輪120が収容する部分は第1円環部150までであり、第2円環部160はこれらの外に配置される。したがって、
図3(a)に示す軸受100の厚みt8は、
図3(b)に示す軸受10aの厚みt4よりも薄くすることができる。これにより、軸受の小型化軽量化、および高速化併せて実現し、アプリケーションの効率を高めることが可能となる。
【0025】
また
図1に示すように本実施形態の軸受100では、第2円環部160が内輪110の端面112および外輪120の端面122に張り出すように配置されている。これにより、内輪110と外輪120との間の隙間が第2円環部160によって封止された状態(非接触のラビリンスシール)となる。したがって、内輪110と外輪120との間の隙間への異物の混入を好適に防ぐことができ、ゴム製等の接触式のシールを用いる場合に比して高速回転性能の向上を妨げることなくシール機能を持たせることができる。
【0026】
図4は、本実施形態の軸受の他の例を説明する図である。
図4に例示する本実施形態の軸受100aでは、内輪110および外輪120において、保持器140が取り付けられる側の端面112・122から、第2円環部160の軸方向の厚みと同等またはそれ以上に突出した保護部114・124がそれぞれ設けられている。
図4に示す軸受100aでは、保護部114・124の端面と、第1円環部150と連続してない側の面である表面162とが、同一平面に設定されている。すなわち内輪110の第2円環部160側の端部は、端面112と保護部114が階段形状となっている。同様に外輪120の第2円環部160側の端部は、端面122と保護部124が階段形状となっている。
【0027】
かかる構成によれば、軸受100aをケーシング(不図示)に組み付ける際に、内輪110および外輪120の保護部114・124がケーシングに先に接触することにより、保持器140が保護される。したがって、軸受100aの組付時における保持器140の破損や変形を好適に防ぐことが可能となる。またラビリンスシールのシール面積が大きくなるため、よりシール性能を向上させることが可能となる。
【0028】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、内輪と、外輪と、内輪および外輪間を転動する転動体と、転動体を保持する樹脂製の冠型保持器とを備える保持器付き軸受として利用することができる。
【符号の説明】
【0030】
D1…軸方向、D2…径方向、10a…軸受、10b…軸受、14a…保持器、14b…保持器、15a…円環部、15b…円環部、100…軸受、100a…軸受、110…内輪、112…端面、114…保護部、120…外輪、122…端面、124…保護部、130…転動体、140…保持器、142…基部、144…爪部、146…ポケット、150…第1円環部、160…第2円環部、162…表面、164a…内周面、164b…外周面