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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121509
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】ホウ素置換芳香族化合物
(51)【国際特許分類】
   C07F 5/02 20060101AFI20240830BHJP
【FI】
C07F5/02 C CSP
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028653
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100155516
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 亜子佳
(72)【発明者】
【氏名】瀧宮 和男
(72)【発明者】
【氏名】川畑 公輔
(72)【発明者】
【氏名】花木 亮太
(72)【発明者】
【氏名】矢野 輝
(72)【発明者】
【氏名】新見 一樹
【テーマコード(参考)】
4H048
【Fターム(参考)】
4H048AA01
4H048AB91
4H048VA22
4H048VA42
(57)【要約】
【課題】
有機エレクトロニクスデバイスの製造コストアップや製造プロセスの複雑化を提言する有機半導体材料を提供する。
【解決手段】
下記一般式(1)で表される新規なホウ素置換芳香族化合物、該化合物を含む有機薄膜、及び該有機薄膜を有する有機エレクトロニクスデバイス。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】
(式(1)中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基若しくは芳香族基を表し、該アルキル基若しくは芳香族基の有する水素原子は置換基で置換されていてもよく、R及びRが連結した構造を形成しても良い。
Arは下記式(2)乃至(4)
【化2】
から選択されるいずれかの芳香族基を表し、該芳香族基の有する水素原子は置換基で置換されていてもよく、Xは酸素原子、硫黄原子又はセレン原子を表す。)
で表される化合物。
【請求項2】
及びRが連結した構造を形成する請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
固体状態でのフェルミ準位が‐4.8eV以上である請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
大気中で測定した固体状態でのキャリア密度が2.0×1016/cm以上である請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の化合物を含む有機薄膜。
【請求項6】
請求項5に記載の有機薄膜を備えた有機エレクトロニクスデバイス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規なホウ素置換芳香族化合物、該化合物を含む有機薄膜、及び該有機薄膜を有する有機エレクトロニクスデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロニクスデバイスは、多分野へ応用展開される可能性をはらんでいる。これらのデバイスは、無機のそれに比べて、低重量、低消費電力、柔軟性などの面で優れているが(非特許文献1)、有機半導体の低電荷移動度は大きな弱点の一つであり(非特許文献2)、電荷キャリアを少量ドーピングする手法が、移動度の改善のため広く用いられている(非特許文献3)。
【0003】
しかしながら、有機半導体材料とは別に用意したドーパントを添加するドーピング手法は、そのドーパントを用意するコストと添加プロセスが必要であり、有機エレクトロニクスデバイスの製造コストアップや製造プロセスの複雑化を招く。
【0004】
即ち、安価なドーパントを用いることができ、尚且つ簡単なプロセスでドーピングでき、高い移動度を示す有機半導体材料が、有機エレクトロニクスデバイスのブレークスルーのために強く求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】(a) H.E.Katz, A.J.Lovinger, J.Johnson, C.Kloc, T.Siegrist, W.Li, Y.-Y.Lin, A.Dodabalapur, Nature, 2000, 404, 478; (b) I.D.W.Samuel, G.A.Turnbull, Chem.Rev., 2007, 107, 1272; (c) J.E.Anthony, Angew. Chem. Int.Ed.,2008, 47, 452.
【非特許文献2】(a) V.Coropceanu, J.Cornil, D.A.da Silva Filho, Y. Olivier, R.Silbey, J.-L. Bredas,Chem. Rev., 2007, 107, 926; (b) V.Podzorov, E.Menard,A.Borissov, V. Kiryukhin, J.A.Rogers, M.E.Gershenson, Phys. Rev.Lett.,2004, 93, 086602.
【非特許文献3】(a) Z.Wang, D.P.McMeekin, N.Sakai, S.van Reenen, K.Wojciechowski, J.B.Patel, M.B.Johnston, H.J.Snaith, Adv.Mater., 2017, 29, 1604186; (b) K.H.Yim, G.L.Whiting, C.E.Murphy, J.J.M.Halls, J.H.Burroughes, R.H.Friend, J.S.Kim, Adv. Mater., 2008, 20, 3319; (c) Q.Bao, X.Liu, S.Braun, Y.Li, J.Tang, C.Duan, M.Fahlman, ACSAppl. Mater.Interfaces, 2017, 9, 35476; (d) C.Kuang, G.Tang, T.Jiu, H. Yang, H. Liu, B.Li, W.Luo, X.Li, W.Zhang, F.Lu, J.Fang, Y.Li, NanoLett., 2015, 15, 2756; (e) Z.-K Wang, L.-S.Liao, Adv. OpticalMater., 2018, 6, 1800276.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来の課題を鑑みてなされたものであり、その目的は、安価なドーパントを用いて簡単なプロセスでドーピングできる有機半導体化合物、該有機半導体化合物を含む有機薄膜、及び該有機薄膜を備えた電荷移動度が高い有機エレクトロニクスデバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討の結果、特定構造のホウ素置換芳香族化合物を用いることにより上記の課題が解決されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明は、
[1]下記式(1)
【0009】
【化1】
【0010】
(式(1)中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基若しくは芳香族基を表し、該アルキル基若しくは芳香族基の有する水素原子は置換基で置換されていてもよく、R及びRが連結した構造を形成しても良い。
Arは下記式(2)乃至(4)
【0011】
【化2】
【0012】
から選択されるいずれかの芳香族基を表し、該芳香族基の有する水素原子は置換基で置換されていてもよく、Xは酸素原子、硫黄原子又はセレン原子を表す。)
で表される化合物、
[2]R及びRが連結した構造を形成する前記[1]に記載の化合物、
[3]固体状態でのフェルミ準位が‐4.8eV以上である前記[1]に記載の化合物、
[4]大気中で測定した固体状態でのキャリア密度が2.0×1016/cm以上である前記[1]に記載の化合物、
[5]前記[1]乃至前記[4]のいずれか一項に記載の化合物を含む有機薄膜、
[6]前記[5]に記載の有機薄膜を備えた有機エレクトロニクスデバイス、
に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の化合物を用いることにより、安価なドーパントを用いて簡単なプロセスでドーピングできる有機半導体化合物、該有機半導体化合物を含む有機薄膜、及び該有機薄膜を備えた電荷移動度が高い有機エレクトロニクスデバイスを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のホウ素置換芳香族化合物(以下、単に「本発明の化合物」とも記載する)は上記式(1)で表される。
式(1)中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基又は芳香族基を表す。
【0015】
式(1)のR及びRが表すアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状又は環状のいずれでもよく、またその炭素数も特に限定されない。
式(1)のR及びRが表すアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、アリル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、n-デシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-セチル基、n-ヘプタデシル基、2-エチルへキシル基、3-エチルヘプチル基、4-エチルオクチル基、2-ブチルオクチル基、3-ブチルノニル基、4-ブチルデシル基、2-ヘキシルデシル基、3-オクチルウンデシル基、4-オクチルドデシル基、2-オクチルドデシル基、2-デシルテトラデシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基及びシクロヘキシル基等が挙げられ、炭素数1乃至24のアルキル基が好ましく、炭素数1乃至20のアルキル基がより好ましく、炭素数1乃至12のアルキル基が更に好ましく、炭素数1乃至6のアルキル基が特に好ましく、炭素数1乃至4のアルキル基が最も好ましい。また、R及びRは同一の置換基が好ましい。
尚、式(1)のR及びRが表すアルキル基中の水素原子は置換基で置換されていてもよい。アルキル基中の水素原子と置換する置換基は特に限定されないが、アルキル基及び/又は芳香族基が挙げられる。
【0016】
式(1)のR及びRが表すアルキル基に置換するアルキル基は、特に限定されないが、具体例としてはR及びRが表すアルキル基と同一のものが挙げられる。
【0017】
式(1)のR及びRが表すアルキル基に置換する芳香族基は、芳香族化合物の芳香環から水素原子を一つ除いた残基であり、芳香族基となる化合物は、芳香性を有する化合物でありさえすれば特に限定されない。具体例としては、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基及びアンスリル基等の芳香族炭化水素基、ピリジル基、キノリル基、イソキノリル基、カルバゾリル基、チエニル基、フリル基及びピラニル基等の複素環基、ベンゾチエニル基及びベンゾフリル基等の縮合系複素環基等が挙げられ、フェニル基が好ましい。
【0018】
式(1)のR及びRが表す芳香族基は、特に限定されないが、具体例としては式(1)のR及びRが表すアルキル基に置換する芳香族基と同一のものが挙げられ、フェニル基が好ましい。
【0019】
式(1)のR及びRは、それぞれから水素原子を一つ除いた残基が連結(即ち、R及びRが互いに連結)して形成する構造であってもよい。該構造の具体例としては、置換基を有していてもよい直鎖、分岐鎖、環状のアルキレン基から二つの水素原子を除いた二価の残基、置換基を有していてもよい芳香族環から二つの水素原子を除いた二価の残基、又は、置換基を有していてもよい複素環から二つの水素原子を除いた二価の残基である。
【0020】
前記置換基を有していてもよい直鎖、分岐鎖、環状のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、などの炭素数が1~8のアルキレン基が挙げられる。該アルキレン基において水素原子が除かれる炭素の位置は異なっても同一でもよい。中でも炭素数が1~6のアルキレン基が好ましく、特に炭素数が2~6のアルキレン基が好ましい。
【0021】
前記置換基を有していてもよい芳香族環から二つの水素原子を除いた二価の残基としては、例えば、フェニレン基、ナフチレン基、などの芳香族環から二つの水素原子を除いた二価の残基、フラン環、ピロール環、イミダゾール環、チオフェン環、ピラゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、ピリジン環及びピラジン環等の五員環又は六員環の複素環から二つの水素原子を除いた二価の残基が挙げられる。これらの中でもフェニレン基、ナフチレン基が好ましく、特にフェニレン基が好ましい。
【0022】
及びRが結合して形成する構造が有していてもよい置換基は特に限定されないが、具体例としてはR及びRが表すアルキル基に置換するものと同一のものが挙げられる。
【0023】
式(1)中のArは式(2)乃至(4)から選ばれる芳香族基であり、式(2)または(3)が好ましく、式(2)がより好ましい。
【0024】
次に、式(1)で表される化合物の合成方法について説明する。合成方法は特に限定されないが、式(5)に示すように、公知の合成方法又はその組み合わせで得られるハロゲン置換芳香族化合物に対してパラジウム触媒を用いてホウ素置換基を導入することができる。または、式(6)及び式(7)に示すように、アルキルリチウムのような塩基を用いてホウ素源を作用させることでホウ素置換基を導入することができる。
式(5)及び式(6)中のYは塩素原子、臭素原子又はヨウ素ヨウ素原子のようなハロゲン原子を表し、式(5)乃至式(7)中R及びRは式(1)中のR及びRと同一である。
【0025】
【化3】
【0026】
上記の方法で得られた式(1)で表される化合物は、精製により不純物を除去して化合物純度を高めた後に有機薄膜(後述する)の作製等に供することが好ましい。精製方法は特に限定されず、再結晶、カラムクロマトグラフィー、活性炭などの吸着剤による吸着精製、及び真空昇華精製等の公知の方法が採用できる。また必要に応じてこれらの方法を組み合わせることもできる。
【0027】
以下に、本発明の式(1)で表される化合物の具体例を記載するが、本発明の式(1)で表される化合物はこれらの具体例に限定されるものではない。
【0028】
【化4】
【0029】
本発明の化合物のフェルミ準位は、酸化的雰囲気によるドープの観点から、-4.8eV以上が好ましく、-4.7eV以上がより好ましく、-4.6eV以上が更に好ましく、-4.5eV以上が更に好ましく、-4.4eV以上が更に好ましく、-4.3eV以上が特に好ましく、-4.2eV以上が最も好ましい。
【0030】
尚、本明細書におけるイオン化ポテンシャルは、サイクリックボルタンメトリーや光電子分光法などの公知の方法で測定した値を意味する。光電子分光法での測定は固体状態が好ましい。固体状態は測定物が固体状態であれば特に限定されないが、粉末状や薄膜状であることが多く、薄膜の作製法としては、蒸着法等のドライプロセスや種々の溶液プロセス等が挙げられる。溶液プロセスとしては、例えば、スピンコート法、ドロップキャスト法、ディップコート法、スプレー法、フレキソ印刷、樹脂凸版印刷などの凸版印刷法、オフセット印刷法、ドライオフセット印刷法、パッド印刷法などの平板印刷法、グラビア印刷法などの凹版印刷法、スクリーン印刷法、謄写版印刷法、リングラフ印刷法などの孔版印刷法、インクジェット印刷法、マイクロコンタクトプリント法等、さらにはこれらの手法を複数組み合わせた方法が挙げられる。溶液プロセスで成膜する場合、上記の方法で本発明の化合物を含む有機溶媒溶液を基材に塗布、印刷したのち、有機溶媒を蒸発させて薄膜を形成することが好ましい。
【0031】
本発明の化合物を含む有機薄膜において、本化合物の含有率は特に限定されないが、好ましくは0.01乃至100質量%、より好ましくは1乃至100質量%、更に好ましくは50乃至100質量%、特に好ましくは90乃至100質量%、最も好ましくは99乃至100質量%である。
【0032】
また、膜厚については用途に適した膜厚であれば特に限定されないが、好ましくは0.01乃至1000nm、より好ましくは1乃至500nm、更に好ましくは10乃至500nm、特に好ましくは20乃至500nm、最も好ましくは50乃至400nmである。
【0033】
キャリア密度の測定方法は特に限定されないが、電界効果トランジスタを作製し、その電界効果移動度、ソース電極-ドレイン電極方向の電気伝導度、及び電荷素量に基づいて求める方法や、電子スピン共鳴(ESR)スペクトルを測定し、得られたスピン数に基づいて求める方法が挙げられる。固体状態の化合物について測定を行う場合は、粉末状や薄膜状であることが多く、薄膜の作製法としては前述の方法が挙げられる。
【0034】
キャリア密度は伝導性の観点から高い方が適しており、本発明の化合物のキャリア密度としては固体状態で測定した値が2.0×1016/cm以上であり、好ましくは2.0×1016乃至1.0×1021/cmであり、好ましくは5.0×1016乃至1.0×1021/cm/cm、より好ましくは5.0×1016乃至5.0×1020/cm、更に好ましくは5.0×1016乃至1.0×1020/cmである。
【0035】
本発明の化合物を含む有機薄膜は本発明の有機エレクトロニクスデバイスに好適に用いられる。本発明の有機エレクトロニクスデバイスの代表例としては、有機エレクトロルミネッセントデバイス、有機電界効果トランジスタ(OFET)、熱電変換素子、ペロブスカイト太陽電池等の有機ソーラーセル(OSC)、有機光センサー、有機発光ダイオード、有機集積回路(OIC)、有機薄膜トランジスタ(OTFT)、有機光受容器等が挙げられるが、本発明の有機エレクトロニクスデバイスはこれらに限定されるものではない。
【0036】
有機エレクトロルミネッセントデバイスの具体例としては、有機発光トランジスタ(OLET)、有機電場消光デバイス(OFQD)、有機発光電気化学セル(OLEC、LEC、LEEC)、有機レーザーダイオード(O-レーザー)、および有機発光ダイオード(OLED)などが挙げられる。
【0037】
有機電界効果トランジスタは、本発明の化合物を含む有機半導体材料からなる半導体膜に接して設けた2つの電極(ソース電極及びドレイン電極)の間に流れる電流を、ゲート電極と呼ばれるもう一つの電極に印加する電圧で制御するものであり、本発明の化合物を含む有機薄膜は、従来公知の何れの有機電界効果トランジスタにも用いることができる。なお、有機電界効果トランジスタにおいては、熱酸化膜付きのnドープシリコンウェハーにおける熱酸化膜が絶縁層の機能を有し、nドープシリコンウェハーが基板及びゲート電極の機能を兼ね備えている。
【0038】
有機電界効果トランジスタの性能は、ゲートに電位をかけた状態でソース電極とドレイン電極の間に電位をかけた時に流れる電流量に依存する。この電流値の測定結果を、有機半導体層に生じるキャリア種の電気特性を表現する下記式(a)に用いることにより、移動度を算出することができる。
Id=ZμCi(Vg-Vt)/2L・・・(a)
式(a)中、Idは飽和したソース・ドレイン電流値、Zはチャネル幅、Ciは絶縁体の電気容量、Vgはゲート電位、Vtはしきい電位、Lはチャネル長であり、μは決定する移動度(cm/Vs)である。Ciは用いたSiO絶縁膜の誘電率、Z、Lは有機トランジスタデバイスのデバイス構造よりに決まり、Id、Vgは電界効果トランジスタデバイスの電流値の測定時に決まり、VtはId、Vgから求めることができる。式(a)に各値を代入することで、それぞれのゲート電位での移動度を算出することができる
【0039】
熱電変換素子は、基材上に、第1の電極、熱電変換層および第2の電極を有するものであり、本発明の化合物を含む有機薄膜は、従来公知の何れの熱電変換素子にも用いることができる。
【0040】
本発明の化合物を含む有機薄膜からなる熱電変換層は、ドライプロセスと溶液プロセスのいずれで設けてもよい。尚、熱電変換素子中の熱電変換層は1層でも複数でもよく、複数の熱電変換層を有する場合、本発明の化合物を含む有機薄膜からなる熱電変換層のみを複数層有する素子であってもよいし、本発明の化合物を含む有機薄膜からなる熱電変換層と本発明の化合物を含まない熱電変換層を有する素子であってもよい。
【0041】
ペロブスカイト太陽電池は、ペロブスカイト層の上下に正孔輸送層及び電子輸送層が積層され、その積層体を二つの電極で挟んだ構造となっており、素子を構成するいずれかの有機薄膜に本発明の化合物を用いることができる。
【0042】
有機光センサーは光電変換機能をもった有機活性層を含む有機薄膜を二つの電極で挟んだ構造となっており、素子を構成するいずれかの有機薄膜に本発明の化合物を用いることができる。
【0043】
有機発光ダイオード(OLED)は電圧を印加することで発光する機能をもった有機活性層を含む有機薄膜を二つの電極で挟んだ構造となっており、素子を構成するいずれかの有機薄膜に本発明の化合物を用いることができる。
【0044】
これら本発明の化合物を含む有機薄膜を使用した有機エレクトロニクス素子を作製する際に、いずれかの過程でキャリア密度を高めるためにドーピングを行ってもよい。ドーピングの手法やドーパントについては特に限定されないが、ドーパントのコストやドーピングプロセスの簡便性から、酸化性雰囲気に晒すことが好ましく、酸化性雰囲気としては特に限定されないが、空気などの酸素を含んだものが特に好ましい。
【0045】
ドーピングさせた本発明の化合物を含む有機薄膜を使用した有機エレクトロニクス素子に対して、還元性雰囲気に晒すことで脱ドーピングさせ、電気特性の変化を検出することで雰囲気検知に使用してもよい。還元性雰囲気としては特に限定されないが、水素やアミン蒸気などを含んだものが挙げられる。
【実施例0046】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。実施例中、特に指定しない限り「部」は「質量部」を、また「%」は「質量%」をそれぞれ表す。「M」はモル濃度を表す。また、反応温度は特に断りのない限り、反応系内の内温を記載した。
実施例中の核磁気共鳴スペクトルの測定はBruker社製Avance III 500およびを日本電子社製JNM-ECS400を使用し、実施例中に記載の溶媒を用いて測定した。元素分析はジェイ・サイエンス・ラボ社製JM10およびヤナコテクニカルサイエンス社製MT-6 CHN CORDERを使用して測定した。MSスペクトルの測定は、日本電子社製 JMS-T100GCVを使用した。電子スピン共鳴(ESR)スペクトルの測定はBruker社製Magnettech ESR 5000を使用した。フェルミ準位の測定は理研計器社製FAC-2を使用した。電界効果トランジスタの移動度測定はKeithley社製半導体パラメーターアナライザー4200-SCSを使用した。
【0047】
実施例1(前記No.1で表される化合物の合成)
窒素雰囲気下、公知の手法で得られた式(a)で表される化合物を0.42部(1.0mmol)、4,4,4’,4’,5,5,5’,5’-オクタメチル-2,2’-ビ(1,3,2-ジオキサボロラン)(B2pin2)を2.6部(10mmol)、酢酸パラジウム(II)0.0047部(0.021mmol)、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,6’-ジメトキシビフェニル(sphos)を0.019部(0.05mmol)およびリン酸三カリウム水和物0.644部(3.0mmol)を1,4-ジオキサン50mLに溶解させた。前記で得られた混合溶液を120℃で3時間攪拌した後、反応溶液を、クロロホルムを移動相とするシリカゲルクロマトグラフィーとゲル浸透カラムクロマトグラフィーで精製し、昇華精製を行うことにより、前記No.1で表される化合物を0.326部(0.699mmol、収率69.8%)黄色固体として得た。
得られた化合物の融点、核磁気共鳴スペクトル、HR-MSスペクトルおよび元素分析の結果は以下の通りであった。
m.p. 363.5 ℃.
1H-NMR (CDCl3, 500 MHz): δ (ppm) 8.48 (s, 1H), 8.45 (s, 1H), 8.42 (s, 1H), 8.38 (s, 1H), 8.35 (s, 1H), 8.05-8.03 (m, 1H), 8.01 (d, J = 9.0 Hz, 1H), 7.96-7.94 (m, 1H), 7.87 (dd, J = 8.3, 0.7 Hz, 1H) 7.55-7.52 (m, 2H), 1.42 (s, 12H).
13C NMR (CDCl3, 125 MHz): δ (ppm) 140.87, 140.68, 135.89, 134.40, 133.82, 133.21, 132.66, 132.34, 131.54, 131.27, 130.85, 130.05, 128.33, 127.36, 127.30, 125.97, 125.68, 123.32, 122.46, 120.28, 119.95, 84.06, 24.98.
HRMS (FD) m/z: Calcd for C28H23BO2S2 [M]+: 466.1233. Found: 466.1230.
Elemental analysis: Calcd for C28H23BO2S2: C, 72.10; H, 4.97. Found: C, 72.02; H, 4.98.
得られた化合物の大気下でのキャリア密度をESRスペクトル測定から求めたところ、1.5×1017/cmであった。
また、ITOが成膜されたガラス基板上に真空蒸着法にて50nmの膜厚になるように得られた化合物の薄膜を作製し、フェルミ準位を測定したところ-4.2eVであった。
【0048】
【化5】
【0049】
実施例2(実施例1で得られた前記No.1で表される化合物を用いた有機電界効果トランジスタAの作製と評価)
オクチルトリクロロシランにより表面処理を施したSi熱酸化膜付きのnドープシリコンウェハー上に、基板温度を100℃、蒸着速度を0.1乃至0.2Å毎秒の条件とした抵抗加熱真空蒸着によって実施例1で得られた前記No.1で表される化合物の厚さ40nmの薄膜を形成した。次に、前記で得られた薄膜上に、シャドウマスクを用いて基板温度を室温、蒸着速度を0.2Å毎秒の条件としてAuの厚さ60nmの薄膜を形成することで、チャネル長100μm、チャネル幅1200μmのソース電極及びドレイン電極をそれぞれ作製し、トップコンタクト型有機電界効果トランジスタAを作製した。
【0050】
実施例3(前記No.11で表される化合物の合成)
テトラヒドロフラン(20mL)に公知の手法で得られた式(b)で表される化合物(0.1部,0.43mmol)を混合し、窒素雰囲気下、-50℃で2.8Mノルマルブチルリチウム(0.2mL,0.56mmol)を加え、2時間攪拌した。その後、-50℃でイソプロポキシボロン酸ピナコール(0.2mL,0.99mmol)を加え、30分攪拌し、20℃まで昇温した後一晩攪拌した。得られた反応液を、水(10mL)を用いてクエンチし、ジクロロメタンを用いて分液抽出した。得られた有機層を、硫酸ナトリウムを用いて乾燥し、溶媒を減圧留去した。得られた固体を、ジクロロメタンを移動相とするシリカゲルクロマトグラフィーとゲル浸透カラムクロマトグラフィーで精製することで、前記No.7で表される化合物(0.046部,0.13mmol,収率30%)を得た。
得られた化合物の核磁気共鳴スペクトル、MS、元素分析の結果は以下の通りであった。
1H-NMR (CDCl3, 500 MHz): δ (ppm) 8.62 (s, 1H), 8.56 (s, 2H), 8.51 (s, 1H), 8.00 (d, J = 10.0 Hz, 2H), 7.97 (s, 1H), 7.43-7.41 (m, 2H), 1.41 (s, 12H).
FD+(eiFi) m/z: Calcd for C22H21BO2S[M+]:360.14. Found: 360.14
Elemental analysis: Calcd for C22H21BO2S: C, 81.37; H, 6.54. Found: C, 81.41; H, 6.46.
得られた化合物の大気下でのキャリア密度をESRスペクトル測定から求めたところ、3.9×1017/cmであった。
また、ITOが成膜されたガラス基板上に真空蒸着法にて50nmの膜厚になるように得られた化合物の薄膜を作製し、フェルミ準位を測定したところ-4.5eVであった。
【0051】
【化6】
【0052】
実施例4(前記No.8で表される化合物の合成)
テトラヒドロフラン(20mL)に公知の手法で得られた式(c)で表される化合物(0.1部,0.32mmol)を混合し、窒素雰囲気下、-50℃で2.8Mノルマルブチルリチウム(0.2mL,0.56mmol)を加え、2時間攪拌した。その後、-50℃でイソプロポキシボロン酸ピナコール(0.2mL,0.99mmol)を加え、30分攪拌し、20℃まで昇温した後一晩攪拌した。得られた反応液を、水(10mL)を用いてクエンチし、ジクロロメタンを用いて分液抽出した。得られた有機層を、硫酸ナトリウムを用いて乾燥し、溶媒を減圧留去した。得られた固体を、ジクロロメタンを移動相とするシリカゲルクロマトグラフィーとゲル浸透カラムクロマトグラフィーで精製することで、No.7で表される化合物(0.0046部,0.13mmol,収率30%)を得た。
得られた化合物の核磁気共鳴スペクトル、MS、元素分析の結果は以下の通りであった。
1H-NMR (CDCl3, 500 MHz): δ (ppm) 9.04 (s, 1H), 8.71 (s, 1H), 8.55 (s, 1H), 8.51 8.15 (s, 1H), 8.04-8.01 (m, 2H), 7.45-7.41 (m, 2H), 1.45 (s, 12H).
FD+(eiFi) m/z: Calcd for C22H21BO2S[M+]:360.14. Found: 360.14
Elemental analysis: Calcd for C22H21BO2S: C, 73.34; H, 5.88. Found: C, 72.79; H, 6.54.
得られた化合物の大気下でのキャリア密度をESRスペクトル測定から求めたところ、2.7×1017/cmであった。
また、ITOが成膜されたガラス基板上に真空蒸着法にて50nmの膜厚になるように得られた化合物の薄膜を作製し、フェルミ準位を測定したところ-4.45eVであった。
【0053】
【化7】
【0054】
実施例5(前記No.9で表される化合物の合成)
テトラヒドロフラン(20mL)に公知の手法で得られた式(d)で表される化合物(0.1部,0.43mmol)を混合し、窒素雰囲気下、-50℃で2.8Mノルマルブチルリチウム(0.2mL,0.56mmol)を加え、2時間攪拌した。その後、-50℃でトリイソプロポキシボラン(0.2mL,0.87mmol)を加え、30分攪拌し、20℃まで昇温した後2時間攪拌した。得られた反応液を、水(10mL)を用いてクエンチし、1M塩酸水溶液(20ML)ジクロロメタンを用いて分液抽出した。得られた有機層を、硫酸ナトリウムを用いて乾燥し、溶媒を減圧留去することで前記No.9で表される化合物(0.12部,0.43mmol,収率100%)を得た。
【0055】
【化8】
【0056】
実施例6(前記No.10で表される化合物の合成)
トルエン(20mL)に実施例5で得られたNo.9で表される化合物(0.12部,0.43mmol)を混合し,窒素雰囲気下で1,2-ジヒドロキシベンゼン(0.5部,4.5mmol)を加え,還流温度まで上昇し,12時間攪拌した。得られた反応溶液を冷却し,析出した固体を濾別し,昇華精製を行うことにより、前記No.10で表される化合物(0.032部,0.091mmol、収率21%)を橙色固体として得た。
得られた化合物の核磁気共鳴スペクトル、MS、の結果は以下の通りであった。
1H-NMR (DMSO-d6, 500 MHz): δ (ppm) 8.78 (s, 1H), 8.72 (s, 1H), 8.71 (s, 1H), 8.67 (s, 1H), 8.10-8.08 (m, 2H), 8.10 (s, 1H), 7.48-7.47 (m, 2H), 6.72-6.70 (m, 2H), 6.60-6.58 (m, 2H),
FD+(eiFi) m/z: Calcd for C22H13BO2S[M+]:352.07. Found: 352.07
【0057】
【化9】
【0058】
実施例7(前記No.11で表される化合物の合成)
トルエン(20mL)に実施例5で得られたNo.9で表される化合物(0.12部,0.43mmol)を混合し、窒素雰囲気下で1,2-ジヒドロキシエタン(0.55部,8.9mmol)を加え、還流温度まで上昇し、12時間攪拌した。得られた反応溶液を冷却し、ヘキサン(20mL)を加え、析出した固体を濾別し、昇華精製を行うことにより、No.11で表される化合物(29mg,0.095mmol、収率22%)を黄色固体として得た。
得られた化合物の核磁気共鳴スペクトル、MS、の結果は以下の通りであった。
1H-NMR (CDCl3, 500 MHz): δ (ppm) 8.63 (s, 1H), 8.61 (s, 1H), 8.51 (s, 1H), 8.53 (s, 1H), 8.03-8.01 (m, 2H), 8.00 (s, 1H), 7.44-7.43 (m, 2H), 4.48 (s, 4H).
FD+(eiFi) m/z: Calcd for C18H13BO2S[M+]:304.07. Found:304.07
Elemental analysis: Calcd for C18H13BO2S: C, 68.27; H, 4.63. Found: C, 71.08; H, 4.31.
【0059】
【化10】
【0060】
実施例8(前記No.12で表される化合物の合成)
トルエン(20mL)に実施例5で得られた前記No.9で表される化合物(0.12部,0.43mmol)を混合し、窒素雰囲気下で2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール(0.5部,4.8mmol)を加え、還流温度まで上昇し、12時間攪拌した。得られた反応溶液を冷却し、ジクロロメタンを用いて分液抽出した。得られた有機層を、硫酸ナトリウムを用いて乾燥し、溶媒を減圧留去した。得られた固体を、ジクロロメタンを移動相としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーと昇華精製を行い、前記No.12で表される化合物(46mg,0.13mmol,収率30%)を得た。
得られた化合物の核磁気共鳴スペクトル、MS、の結果は以下の通りであった。
1H-NMR (CDCl3, 500 MHz): δ (ppm) 8.61 (s, 1H), 8.55 (s, 2H), 8.01-7.99 (m, 2H), 7.90 (s, 1H), 7.43-7.41 (m, 2H), 3.84 (s, 4H), 1.08 (s, 6H).
FD+(eiFi) m/z: Calcd for C21H19BO2S[M+]:346.12. Found: 346.12
Elemental analysis: Calcd for C21H19BO2S: C, 72.71; H, 5.56. Found: C, 72.85; H, 5.53.
ITOが成膜されたガラス基板上に真空蒸着法にて50nmの膜厚になるように得られた化合物の薄膜を作製し、フェルミ準位を測定したところ-4.37eVであった。
【0061】
【化11】
【0062】
実施例9(前記No.13で表される化合物の合成)
テトラヒドロフラン(20mL)に公知の手法で得られた式(e)で表される化合物(100mg,0.46mmol)を混合し、窒素雰囲気下、-50℃で2.8Mノルマルブチルリチウム(0.2mL,0.56mmol)を加え、2時間攪拌した。その後、-50℃でイソプロポキシボロン酸ピナコール(0.2mL,0.99mmol)を加え、30分攪拌し、20℃まで昇温した後一晩攪拌した。得られた反応液を、水(10mL)を用いてクエンチし、ジクロロメタンを用いて分液抽出した。得られた有機層を、硫酸ナトリウムを用いて乾燥し、溶媒を減圧留去した。得られた固体を、ジクロロメタンを移動相とするシリカゲルクロマトグラフィーとゲル浸透カラムクロマトグラフィーで精製することで、前記No.13で表される化合物(46mg,0.13mmol,収率29%)を得た。
得られた化合物の核磁気共鳴スペクトル、MS、元素分析の結果は以下の通りであった。
1H-NMR (CDCl3, 500 MHz): δ (ppm) 8.58 (s, 1H), 8.55 (s, 1H), 8.32 (s, 1H), 8.10 (s, 1H), 8.00-7.97 (m, 2H), 7.52 (s, 1H), 7.44-7.39 (m, 2H), 1.43 (s, 12H).
FD+(eiFi) m/z: Calcd for C22H21BO3[M+]:344.16. Found: 344.16
Elemental analysis: Calcd for C22H21BO3: C, 76.77; H, 6.15. Found: C, 76.61; H, 6.18.
【0063】
【化12】
【0064】
実施例10(前記No.14で表される化合物の合成)
テトラヒドロフラン(20mL)に公知の手法で得られた式(f)で表される化合物(0.1部,0.36mmol)を混合し、窒素雰囲気下、-50℃で2.8Mノルマルブチルリチウム(0.2mL,0.56mmol)を加え、2時間攪拌した。その後、-50℃でイソプロポキシボロン酸ピナコール(0.2mL,0.99mmol)を加え、30分攪拌し、20℃まで昇温した後一晩攪拌した。得られた反応液を、水(10mL)を用いてクエンチし、ジクロロメタンを用いて分液抽出した。得られた有機層を、硫酸ナトリウムを用いて乾燥し、溶媒を減圧留去した。得られた固体を、ジクロロメタンを移動相とするシリカゲルクロマトグラフィーとゲル浸透カラムクロマトグラフィーで精製することで、前記No.14で表される化合物(46mg,0.13mmol,収率29%)を得た。
得られた化合物の核磁気共鳴スペクトル、MS、元素分析の結果は以下の通りであった。
1H-NMR (CDCl3, 500 MHz): δ (ppm) 8.61 (s, 1H), 8.58 (s, 1H), 8.57 (s, 1H), 8.47 (s, 1H), 8.22 (s, 1H), 8.02-8.00 (m, 2H), 7.46-7.42 (m, 2H), 1.40 (s, 12H).
FD+(eiFi) m/z: Calcd for C22H21BO2Se[M+]:408.08. Found: 408.08
Elemental analysis: Calcd for C22H21BO2Se: C, 64.89; H, 5.20. Found: C, 64.92; H, 5.26.
【0065】
【化13】
【0066】
実施例11(前記No.15で表される化合物の合成)
テトラヒドロフラン(20mL)に公知の手法で得られた式(g)で表される化合物(0.1部,0.36mmol)を混合し、窒素雰囲気下、-50℃で2.8Mノルマルブチルリチウム(0.2mL,0.56mmol)を加え、2時間攪拌した。その後、-50℃でトリイソプロポキシボラン(0.2mL,0.87mmol)を加え、30分攪拌し、20℃まで昇温した後2時間攪拌した。得られた反応液を、水(10mL)を用いてクエンチし、1M塩酸(20mL)ジクロロメタンを用いて分液抽出した。得られた有機層を、硫酸ナトリウムを用いて乾燥し、溶媒を減圧留去することで前記No.15で表される化合物(0.12部,0.36mmol,収率100%)を得た。
【0067】
【化14】
【0068】
実施例12(前記No.16で表される化合物の合成)
トルエン(20mL)に実施例11で得られた前記No.15で表される化合物(0.12部,0.36mmol)を混合し、窒素雰囲気下で1,2-ジヒドロキシベンゼン(0.5部,4.5mmol)を加え,還流温度まで上昇し,12時間攪拌した。得られた反応溶液を冷却し,析出した固体を濾別し,昇華精製を行うことにより、前記No.16で表される化合物(0.019部,0.091mmol、収率21%)を橙色固体として得た。
得られた化合物の核磁気共鳴スペクトル、MS,の結果は以下の通りであった。
1H-NMR (CDCl3, 500 MHz): δ (ppm) 8.73 (s, 1H), 8.69 (s, 1H), 8.67 (s, 1H), 8.58 (s, 1H), 8.54 (s, 1H), 8.08-8.06 (m, 2H), 7.51-7.48 (m, 2H), 7.40-7.38 (m, 2H), 7.21-7.19 (m, 2H).
FD+(eiFi) m/z: Calcd for C22H13BO2Se[M+]:400.02. Found: 400.02
Elemental analysis: Calcd for C22H13BO2Se: C, 66.21; H, 3.28. Found: C, 65.79; H, 3.47.
【0069】
【化15】
【0070】
比較例1((X)で表される化合物のキャリア密度とフェルミ準位の測定)
実施例1で得られた前記No.1で表される化合物の代わりに、公知の方法で合成した下記式(X)で表される化合物のキャリア密度とフェルミ準位を測定した。その結果、キャリア密度は1.5×1016/cm、フェルミ準位は-4.9eVであった。
【0071】
【化16】
【0072】
比較例2(比較用有機電界効果トランジスタBの作製)
実施例1で得られた前記No.1で表される化合物の代わりに、上記式(X)で表される化合物を使用したこと以外は実施例1と同じ操作によって、比較用の有機電界効果トランジスタBを作製した。
【0073】
(移動度の評価)
実施例1、比較例1で作製した有機電界効果トランジスタA及びBについて、ドレイン電圧-60Vにて素子作製直後に窒素雰囲気下で移動度測定を行った。その後、大気下で4日間静置後に同様に移動度測定を行い、作製直後に対する移動度の相対値を求めて下記基準にて評価した。その結果を表1に有機電界効果トランジスタの評価結果として示す。
・評価基準
移動度の相対値が素子作製直後に対して、
0.80以上の場合:「A」
0.80未満0.65以上の場合:「B」
0.65未満0.50以上:「C」
0.50未満0.35以上の場合:「D」
0.35未満の場合:「E」
実用上、有機電界効果トランジスタを大気に晒すことでドーピングされ移動度が向上する、若しくは移動度の低下が小さいことが好ましいため、「A」が最も優れており、「E」が最も劣っていることを意味する。
【0074】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の化合物を用いることにより、安価なドーパントを用いて簡単なプロセスでドーピングできる有機半導体化合物、該有機半導体化合物を含む有機薄膜、及び該有機薄膜を備えた電荷移動度が高い有機エレクトロニクスデバイスを提供することができる。