(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121510
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】解析装置、情報処理方法および情報処理プログラム
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20240830BHJP
【FI】
G05B23/02 301Y
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028655
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川ノ上 真輔
【テーマコード(参考)】
3C223
【Fターム(参考)】
3C223AA11
3C223BA03
3C223CC02
3C223DD03
3C223EB01
3C223FF13
3C223FF22
3C223FF24
3C223FF35
3C223GG01
3C223HH02
3C223HH03
3C223HH05
3C223HH08
(57)【要約】
【課題】製造設備に生じ得る事象に対する対策の効果をより簡単に推定できる技術を提供する。
【解決手段】解析装置は、製造設備に関する第1の時系列データに基づいて、製造設備に存在する1または複数の要因と製造設備において異常と評価される事象との因果関係を示す因果関係グラフを生成する生成部と、因果関係グラフに含まれる1つの要因に対応する第1のノードの選択、および、第1の時系列データに対する対象区間の設定に応じて、第1の時系列データのうち対象区間の値を、第1のノードに対応する要因に対する対策の効果を反映した値に更新した第2の時系列データを生成する更新部と、第1の時系列データに基づく第1の評価指標と、第2の時系列データに基づく第2の評価指標とを算出する算出部とを含む。第1の評価指標および第2の評価指標の各々は、製造設備の理想的な状態への近さを示す。
【選択図】
図14
【特許請求の範囲】
【請求項1】
製造設備に関する第1の時系列データに基づいて、前記製造設備に存在する1または複数の要因と前記製造設備において異常と評価される事象との因果関係を示す因果関係グラフを生成する生成部と、
前記因果関係グラフに含まれる1つの要因に対応する第1のノードの選択、および、前記第1の時系列データに対する対象区間の設定に応じて、前記第1の時系列データのうち前記対象区間の値を、前記第1のノードに対応する要因に対する対策の効果を反映した値に更新した第2の時系列データを生成する更新部と、
前記第1の時系列データに基づく第1の評価指標と、前記第2の時系列データに基づく第2の評価指標とを算出する算出部とを備え、前記第1の評価指標および前記第2の評価指標の各々は、前記製造設備の理想的な状態への近さを示す、解析装置。
【請求項2】
前記更新部は、前記第1のノードに加えて、前記因果関係グラフにおいて、前記第1のノードから前記事象を示すノードまでの経路に存在する別の要因に対応する第2のノードについて、前記対象区間の値を更新する、請求項1に記載の解析装置。
【請求項3】
前記更新部は、前記第1のノードに対応する変数を目的変数および説明変数とする回帰モデルを用いて、前記対象区間の前記第1のノードに対応する値を補間する、請求項2に記載の解析装置。
【請求項4】
前記更新部は、前記第2のノードに対応する変数を目的変数とし、前記因果関係グラフにおいて前記第2のノードの要因になるノードに対応する変数を説明変数とする回帰モデルを用いて、前記対象区間の前記第2のノードに対応する値を補間する、請求項2に記載の解析装置。
【請求項5】
前記更新部は、前記回帰モデルが予め定められた精度を有していなければ、前記回帰モデルに代えて、平均値代入法を用いて、前記対象区間の値を算出する、請求項3または4に記載の解析装置。
【請求項6】
前記算出部は、
前記第1の時系列データに基づいて生成された評価モデルを用いて、前記第1の評価指標を算出し、
前記第2の時系列データおよび前記評価モデルを用いて、前記第2の評価指標を算出する、請求項1~4のいずれか1項に記載の解析装置。
【請求項7】
前記第1のノードに対応する変数の時間波形、および、前記第1のノードに対する対策の効果を反映した値、を表示出力する表示出力部をさらに備える、請求項1~4のいずれか1項に記載の解析装置。
【請求項8】
前記表示出力部は、前記事象に対する対策の効果が最も高いと予想されるノードを他のノードとは異なる態様で表示出力する、請求項7に記載の解析装置。
【請求項9】
コンピュータが実行する情報処理方法であって、
製造設備に関する第1の時系列データに基づいて、前記製造設備の理想的な状態への近さを示す第1の評価指標を算出することと、
前記第1の時系列データに基づいて、前記製造設備に存在する1または複数の要因と前記製造設備において異常と評価される事象との因果関係を示す因果関係グラフを生成することと、
前記因果関係グラフに含まれる1つの要因に対応する第1のノードの選択を受け付けることと、
前記第1の時系列データに対する対象区間の設定を受け付けることと、
前記第1の時系列データのうち前記対象区間の値を、前記第1のノードに対応する要因に対する対策の効果を反映した値に更新した第2の時系列データを生成することと、
前記第2の時系列データに基づいて、前記製造設備の理想的な状態への近さを示す第2の評価指標を算出することとを備える、情報処理方法。
【請求項10】
情報処理プログラムであって、コンピュータに、
製造設備に関する第1の時系列データに基づいて、前記製造設備の理想的な状態への近さを示す第1の評価指標を算出することと、
前記第1の時系列データに基づいて、前記製造設備に存在する1または複数の要因と前記製造設備において異常と評価される事象との因果関係を示す因果関係グラフを生成することと、
前記因果関係グラフに含まれる1つの要因に対応する第1のノードの選択を受け付けることと、
前記第1の時系列データに対する対象区間の設定を受け付けることと、
前記第1の時系列データのうち前記対象区間の値を、前記第1のノードに対応する要因に対する対策の効果を反映した値に更新した第2の時系列データを生成することと、
前記第2の時系列データに基づいて、前記製造設備の理想的な状態への近さを示す第2の評価指標を算出することとを実行させる、情報処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、解析装置、情報処理方法および情報処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、実験データおよび観測データなどの不完全な情報に基づいて、製造設備に存在する1または複数の要因と製造設備において異常と評価される事象との因果関係を統計的に推定する技術が公知である。このような技術を産業オートメーション(industrial automation)に適用することで、製造現場で生じる異常の要因の特定を容易化できる。
【0003】
一例として、センサなどのフィールドデバイスから収集する情報に基づいて生成された因果関係グラフを参照することで、品質不良および装置停止などの異常の要因をより容易に特定できるようになる。
【0004】
例えば、特開2009-104523号公報(特許文献1)は、検査工程の検査結果に基づいて、製造プロセスでの不良要因を抽出する不良要因抽出方法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した技術を用いて異常の要因を特定した後に、特定された要因に対してとり得る対策の効果を確認することが難しい。例えば、異常の要因を特定するために、データ解析に機械学習を利用する場合には、モデルを更新しなければ、対策の効果を評価できない。また、実際の装置に対して対策をとる場合には、装置の調整などが必要となる。
【0007】
本発明は、製造設備に生じ得る事象に対する対策の効果をより簡単に推定できる技術を提供することを一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一例に従う解析装置は、製造設備に関する第1の時系列データに基づいて、製造設備に存在する1または複数の要因と製造設備において異常と評価される事象との因果関係を示す因果関係グラフを生成する生成部と、因果関係グラフに含まれる1つの要因に対応する第1のノードの選択、および、第1の時系列データに対する対象区間の設定に応じて、第1の時系列データのうち対象区間の値を、第1のノードに対応する要因に対する対策の効果を反映した値に更新した第2の時系列データを生成する更新部と、第1の時系列データに基づく第1の評価指標と、第2の時系列データに基づく第2の評価指標とを算出する算出部とを含む。第1の評価指標および第2の評価指標の各々は、製造設備の理想的な状態への近さを示す。
【0009】
この構成によれば、評価指標に基づいて、因果関係グラフに含まれる任意のノードに対する対策をとった場合の効果を客観的に判断できる。これによって、因果関係グラフに含まれるノードのうち、いずれのノードに対する対策が有効であるかを容易に推定できる。
【0010】
更新部は、第1のノードに加えて、因果関係グラフにおいて、第1のノードから事象を示すノードまでの経路に存在する別の要因に対応する第2のノードについて、対象区間の値を更新してもよい。この構成によれば、第1のノードに対して対策をとった場合に、第1のノードが影響を与える他のノードの値も更新することで、対策の効果をより正確に推定できる。
【0011】
更新部は、第1のノードに対応する変数を目的変数および説明変数とする回帰モデルを用いて、対象区間の第1のノードに対応する値を補間してもよい。この構成によれば、第1のノードに対応する変数の傾向に応じて、対象区間の値を補間できる。
【0012】
更新部は、第2のノードに対応する変数を目的変数とし、因果関係グラフにおいて第2のノードの要因になるノードに対応する変数を説明変数とする回帰モデルを用いて、対象区間の第2のノードに対応する値を補間してもよい。この構成によれば、第2のノードに対応する変数に影響を与える他のノードに対応する変数の傾向に応じて、対象区間の値を補間できる。
【0013】
更新部は、回帰モデルが予め定められた精度を有していなければ、回帰モデルに代えて、平均値代入法を用いて、対象区間の値を算出してもよい。この構成によれば、生成された回帰モデルの精度が低くても、対象区間の値を適切に補間できる。
【0014】
算出部は、第1の時系列データに基づいて生成された評価モデルを用いて、第1の評価指標を算出し、第2の時系列データおよび評価モデルを用いて、第2の評価指標を算出してもよい。この構成によれば、同一の評価モデルを用いて第1の評価指標および第2の評価指標を算出するので、対策の効果をより適切に評価できる。
【0015】
解析装置は、第1のノードに対応する変数の時間波形、および、第1のノードに対する対策の効果を反映した値、を表示出力する表示出力部をさらに含んでもよい。この構成によれば、時間波形および対策の効果を反映した値を参照することで、対象区間をより適切に設定できる。
【0016】
表示出力部は、事象に対する対策の効果が最も高いと予想されるノードを他のノードとは異なる態様で表示出力してもよい。この構成によれば、より少ない手間で、対策をとるべきノードを決定できる。
【0017】
本発明の別の一例に従うコンピュータが実行する情報処理方法は、製造設備に関する第1の時系列データに基づいて、製造設備の理想的な状態への近さを示す第1の評価指標を算出することと、第1の時系列データに基づいて、製造設備に存在する1または複数の要因と製造設備において異常と評価される事象との因果関係を示す因果関係グラフを生成することと、因果関係グラフに含まれる1つの要因に対応する第1のノードの選択を受け付けることと、第1の時系列データに対する対象区間の設定を受け付けることと、第1の時系列データのうち対象区間の値を、第1のノードに対応する要因に対する対策の効果を反映した値に更新した第2の時系列データを生成することと、第2の時系列データに基づいて、製造設備の理想的な状態への近さを示す第2の評価指標を算出することとを含む。
【0018】
本発明のさらに別の一例に従う情報処理プログラムは、コンピュータに、製造設備に関する第1の時系列データに基づいて、製造設備の理想的な状態への近さを示す第1の評価指標を算出することと、第1の時系列データに基づいて、製造設備に存在する1または複数の要因と製造設備において異常と評価される事象との因果関係を示す因果関係グラフを生成することと、因果関係グラフに含まれる1つの要因に対応する第1のノードの選択を受け付けることと、第1の時系列データに対する対象区間の設定を受け付けることと、第1の時系列データのうち対象区間の値を、第1のノードに対応する要因に対する対策の効果を反映した値に更新した第2の時系列データを生成することと、第2の時系列データに基づいて、製造設備の理想的な状態への近さを示す第2の評価指標を算出することとを実行させる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、本発明は、製造設備に生じ得る事象に対する対策の効果をより簡単に推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本実施の形態に従う情報処理システムの解析装置が提供する表示画面の一例を示す模式図である。
【
図2】本実施の形態に従う情報処理システムの解析装置が提供する表示画面の一例を示す模式図である。
【
図3】本実施の形態に従う情報処理システムの解析装置が提供する表示画面の一例を示す模式図である。
【
図4】本実施の形態に従う情報処理システムの制御装置のハードウェア構成例を示すブロック図である。
【
図5】本実施の形態に従う情報処理システムの解析装置のハードウェア構成例を示すブロック図である。
【
図6】本実施の形態に従う情報処理システムの機能構成を示す模式図である。
【
図7】本実施の形態に従う情報処理システムが処理する時系列データの一例を示す模式図である。
【
図8】本実施の形態に従う解析装置が実行する解析処理の処理手順を示すフローチャートである。
【
図9】異常検知モデルの生成処理および評価指標の算出処理に係る処理手順を示すフローチャートである。
【
図10】回帰モデルの生成処理および評価指標の算出処理に係る処理手順を示すフローチャートである。
【
図11】因果関係グラフの生成に係る処理手順を示すフローチャートである。
【
図12】変数更新処理における値の推定方法を説明するための図である。
【
図13】変数更新処理に係る処理手順を示すフローチャートである。
【
図14】本実施の形態に従う解析装置における解析処理の内容を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分については、同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0022】
本明細書において、「または」との用語は、「または」に加えて、「および」の意味も包含する。
【0023】
<A.適用例>
本発明が適用される場面の一例について説明する。以下では、製造設備から収集される情報に基づいて、因果関係グラフを生成する例について説明する。
【0024】
本明細書において、「製造設備」は、製品または半製品するための任意の1または複数の装置に加えて、製品または半製品の検査といった付帯処理を行うための任意の1または複数の装置を含み得る。
【0025】
本明細書において、「因果関係グラフ」は、製造設備に存在する1または複数の要因と製造設備において異常と評価される事象との因果関係を示す。
【0026】
本実施の形態に従う情報処理システム1は、一例として、製造設備を制御する1または複数の制御装置100と、制御装置100などを介して取得されたデータに基づいて、
図1~
図3に示すような情報を提供する解析装置200とを含む。
【0027】
制御装置100は、予め用意されたユーザプログラムに従って、製造設備を稼動するために必要な制御演算をサイクリックに実行する。
【0028】
解析装置200は、制御装置100からの時系列データ50を解析する。時系列データ50は、解析対象の製造設備に関する第1の時系列データに相当する。時系列データ50は、例えば、制御装置100が取り扱うプロセスデータを含む。プロセスデータは、センサによるセンシングデータなどを含む入力データと、制御演算により算出される指令値を含む出力データと、制御装置100の内部で保持される変数値などを含む内部データとを含み得る。
【0029】
時系列データ50は、複数の制御装置100からそれぞれ収集された時系列データの集合であってもよい。
【0030】
制御装置100は、製造設備に存在する1または複数の要因と製造設備において異常と評価される事象との因果関係を示す因果関係グラフを用いて、目的の事象の要因をユーザに視覚的に提示する。制御装置100は、特定された事象の要因に対して何らかの対策をとったときに得られるであろう効果をユーザに提示する。
【0031】
図1~
図3は、本実施の形態に従う情報処理システム1の解析装置200が提供する表示画面の一例を示す模式図である。
【0032】
図1を参照して、表示画面300は、因果関係グラフ310を含む。
図1に示す因果関係グラフ310は、事象を示すノード316と、事象を示すノード316に関係するノード311,312,313,314,315とを含む。ノード311,312,313,314,315の各々が事象に関係する要因を示す。
【0033】
因果関係グラフ310は、事象毎に動的または静的に生成される。
図1に示す例では、事象1についての因果関係グラフ310を示すが、別の事象が選択されると、因果関係グラフ310のグラフ構造は更新される。
【0034】
本実施の形態においては、典型的には、「異常」と評価される事象を想定する。そのため、事象としては、例えば、製造設備を構成するいずれかの装置の故障、製造設備を構成するいずれかの装置の動作不要、および、製造設備により製造される製品の品質不良などが挙げられる。
【0035】
因果関係グラフ310は、因果関係グラフ310に含まれる要因のうち1つの要因に対応する、対策を行うノード(以下、「対象ノード」とも称す。)を選択し、対策の効果を算出した結果を示す対策効果表示エリア320と、算出された対策の効果を順次格納する履歴表示エリア330とを含む。
【0036】
図2を参照して、解析装置200は、因果関係グラフ310に含まれる1つの要因に対応するノードを対象ノードとして選択するためのユーザ指示を受け付ける。
【0037】
なお、因果関係グラフ310において、対象の事象に対する対策の効果が最も高いと予想されるノード(要因)が予め選択されていてもよい。対策の効果が最も高いと予想されるノードは、対応する特徴量の貢献度(
図11など参照)に基づいて選択されてもよい。このように、解析装置200(後述するGUIモジュール280)は、事象に対する対策の効果が最も高いと予想されるノードを他のノードとは異なる態様で表示出力してもよい。
【0038】
対象ノードが選択されると、選択された対象ノードが示す変数の時間波形340(時系列データ)が表示される。また、表示変数ラベル342には、表示されている時間波形340に対応する変数名が表示される。
【0039】
時間波形340に含まれる各値には、「正常」または「異常」のラベルが付与されている。「正常」または「異常」のラベルを付与する処理は、ユーザが行ってもよいし、解析装置200が行ってもよい。時間波形340において、「正常」のデータにはOKラベル10が付加されており、「異常」のデータにはNGラベル12が付加されている。なお、時間波形340に含まれる値のうち外れ値については、無効なデータとして「除去」のラベルが付与されてもよい。
【0040】
ユーザは、表示画面300の因果関係グラフ310を参照して、対象ノードの変数の値が示す傾向を確認する。解析装置200は、ユーザから、因果関係グラフ310の任意の区間(以下、「対象区間344」とも称す。)の設定を受け付けるとともに、対策ボタン348の押下を受け付ける。解析装置200は、対象区間344の値を対策の効果を反映した値に更新する。因果関係グラフ310の対象区間344には、更新後の値からなる更新後波形346が表示される。
図2に示す例では、正常のラベルが付与される範囲の値に更新されている。
【0041】
解析装置200は、対象ノードの変数だけではなく、対象ノードから事象を示すノードまでの経路に存在する、別の要因に対応するすべてのノード(以下、「関係ノード」とも称す。)の変数についても、対策の効果を反映した値に更新する。詳細な処理については後述する。
【0042】
さらに、解析装置200は、元の時間波形340のうち、対象区間344を更新後波形346に変更した時間波形を用いて、対策の効果の度合いを算出する。対策の効果の度合いとしては、評価モデルを用いて算出される評価指標が用いられる。
【0043】
本明細書において、「評価指標」は、製造設備の理想的な状態(あるいは、設計上の理想値)への近さを示す指標である。「評価指標」として、製品または半製品の「良品率」、ならびに、製造設備の「稼働率」などが採用される場合には、対策により、より高い値を示すようになれば効果があると判断できる。一方、「評価指標」として、製品または半製品の「不良率」、ならびに、製造設備の「停止時間」などが採用される場合には、対策により、より低い値を示すようになれば効果があると判断できる。
【0044】
対策効果表示エリア320には、評価指標として「良品率」が採用されている例を示す。
図2に示す例において、対策効果表示エリア320は、元の時間波形340に基づく評価指標(良品率)が「97.3%」であり、対象区間344を更新後波形346に変更した場合の評価指標(良品率)が「99.8%」であることを示す。
【0045】
図3を参照して、解析装置200は、対策リセットボタン350の押下を受け付けると、対象ノードおよび対象区間344の設定を解除する。
【0046】
対策ボタン348が押下されて実行された処理の結果は、履歴表示エリア330に順次格納される。履歴表示エリア330には、算出される対策の効果(評価指標)に加えて、選択された対象ノードおよび対応する関係ノードも併せて表示される。
【0047】
ユーザは、履歴表示エリア330の表示内容を参照して、いずれのノードに対する対策が最も有効であるかを探ることができる。
【0048】
以下、
図1~
図3に示す機能を提供するための構成および処理について説明する。
<B.ハードウェア構成例>
まず、本実施の形態に従う情報処理システム1のハードウェア構成例について説明する。
【0049】
(b1:制御装置100)
図4は、本実施の形態に従う情報処理システム1の制御装置100のハードウェア構成例を示すブロック図である。
図4を参照して、制御装置100は、PLC(プログラマブルロジックコントローラ)などの、一種のコンピュータとして具現化されてもよい。
【0050】
一例として、制御装置100は、プロセッサ102と、チップセット104と、主記憶装置106と、二次記憶装置108と、フィールドバスコントローラ110と、USB(Universal Serial Bus)コントローラ112と、メモリカードインターフェイス114とを含む。
【0051】
プロセッサ102は、二次記憶装置108に格納された各種プログラムを読み出して、主記憶装置106に展開して実行することで、制御対象を制御するための処理を実現する。チップセット104は、プロセッサ102と各コンポーネントとの間のデータ伝送などを制御する。
【0052】
二次記憶装置108には、制御演算を実行するためのPLCエンジン150を提供するためのシステムプログラム131に加えて、制御演算に係る処理を定義したユーザプログラム132が格納される。
【0053】
フィールドバスコントローラ110は、フィールドバスを介してフィールドデバイス40との間でデータをやり取りする。フィールドバスは、産業用の通信プロトコルを採用することが好ましい。このような通信プロトコルとしては、EtherCAT(登録商標)、EtherNet/IP(登録商標)、DeviceNet(登録商標)、または、CompoNet(登録商標)などが知られている。
【0054】
USBコントローラ112は、USB接続を介して解析装置200との間でデータをやり取りする。
【0055】
メモリカードインターフェイス114は、メモリカード116を着脱可能に構成されており、メモリカード116に対してデータを書込み、メモリカード116から各種データ(ユーザプログラム132およびトレースデータなど)を読み出すことが可能になっている。
【0056】
図4には、プロセッサ102がプログラムを実行することで必要な機能が提供される構成例を示したが、これらの提供される機能の一部または全部を、専用のハードウェア回路(例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)またはFPGA(Field-Programmable Gate Array)など)を用いて実装してもよい。あるいは、制御装置100の主要部を、汎用的なアーキテクチャに従うハードウェア(例えば、汎用パソコンをベースとした産業用パソコン)を用いて実現してもよい。この場合には、仮想化技術を用いて、用途の異なる複数のOS(Operating System)を並列的に実行させるとともに、各OS上で必要なアプリケーションを実行させるようにしてもよい。
【0057】
(b2:解析装置200)
本実施の形態に従う解析装置200は、一例として、汎用的なアーキテクチャに従うハードウェア(例えば、汎用パソコン)を用いてプログラムを実行することで実現される。
【0058】
図5は、本実施の形態に従う情報処理システム1の解析装置200のハードウェア構成例を示すブロック図である。
図5を参照して、解析装置200は、プロセッサ202と、光学ドライブ204と、主記憶装置206と、二次記憶装置208と、USBコントローラ212と、ネットワークコントローラ214と、入力部216と、表示部218とを含む。これらのコンポーネントはバス220を介して接続される。
【0059】
プロセッサ202は、二次記憶装置208に格納されたプログラムを読み出して、主記憶装置206に展開して実行することで、後述するような各種処理を実現する。
【0060】
二次記憶装置208は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)またはSSD(Solid State Drive)などで構成される。二次記憶装置208には、例えば、OS222と、制御装置100との間で必要なデータをやり取りするためのPLCインターフェイスプログラム224と、因果関係グラフ310を生成するための解析プログラム226と、GUI(Graphical User Interface)に係る処理を実行するGUIプログラム228とが格納される。これらのプログラムの一部または全部が情報処理プログラムに相当する。二次記憶装置208には、
図5に示すプログラム以外の必要なプログラムが格納されてもよい。
【0061】
解析装置200は、光学ドライブ204を有しており、コンピュータ可読なプログラムを非一時的に格納するコンピュータ可読媒体205(例えば、DVD(Digital Versatile Disc)などの光学記録媒体)から、その中に格納されたプログラムが読み取られて二次記憶装置208などにインストールされる。
【0062】
解析装置200で実行されるプログラムは、コンピュータ可読媒体205を介してインストールされてもよいが、ネットワーク上のサーバ装置などからダウンロードする形でインストールするようにしてもよい。また、本実施の形態に従う解析装置200が提供する機能は、OS222が提供するモジュールの一部を利用する形で実現される場合もある。
【0063】
USBコントローラ212は、USB接続を介して制御装置100との間のデータのやり取りを制御する。ネットワークコントローラ214は、任意のネットワークを介した他の装置との間のデータのやり取りを制御する。
【0064】
入力部216は、キーボードおよびマウスなどで構成され、ユーザ操作を受け付ける。表示部218は、ディスプレイ、各種インジケータ、プリンタなどで構成され、プロセッサ202からの処理結果などを出力する。
【0065】
図5には、プロセッサ202がプログラムを実行することで必要な機能が提供される構成例を示したが、これらの提供される機能の一部または全部を、専用のハードウェア回路(例えば、ASICおよびFPGAなど)を用いて実装してもよい。
【0066】
<C.機能構成例>
次に、本実施の形態に従う情報処理システム1の機能構成例について説明する。
【0067】
図6は、本実施の形態に従う情報処理システム1の機能構成を示す模式図である。
図6を参照して、情報処理システム1は、1または複数の制御装置100と、解析装置200とを含む。
【0068】
図6を参照して、制御装置100は、機能構成として、PLCエンジン150と、変数マネジャ152と、インターフェイス154と、TSDB(Time Series Data Base)156とを含む。
【0069】
制御装置100は、センサ42およびアクチュエータ44を含むフィールドデバイス40と接続される。制御装置100は、フィールドデバイス40(センサ42)からセンシングデータ(入力データ)を収集するとともに、PLCエンジン150による制御演算の結果に従って、フィールドデバイス40(アクチュエータ44)に指令値(出力データ)を出力する。
【0070】
PLCエンジン150は、ユーザプログラム132に従って、製造設備を構成する装置を制御するための制御演算を実行する。制御演算は、シーケンス制御またはモーション制御を含む。
【0071】
変数マネジャ152は、PLCエンジン150がユーザプログラム132を実行するにあたって参照可能な変数(変数が示す値)を管理する。変数マネジャ152は、予め登録された変数の値をTSDB156に周期的またはイベント的に書込む。
【0072】
インターフェイス154は、フィールドデバイス40との間で周期的にデータ(入力データおよび出力データ)をやり取りする。このような周期的なデータのやり取りは、「I/Oリフレッシュ処理」と称されることもある。
【0073】
TSDB156は、予め登録された変数の値を時系列に格納する。そのため、TSDB156には、時系列データ50が格納されることになる。
【0074】
図7は、本実施の形態に従う情報処理システム1が処理する時系列データ50の一例を示す模式図である。
図7を参照して、時系列データ50の各レコードは、タイムスタンプ51と、1または複数のプロセスデータ52と、フレーム変数53とを含む。
【0075】
タイムスタンプ51は、制御装置100または解析装置200が管理するタイマにより付与される時刻情報である。プロセスデータ52は、入力データ、出力データ、および、内部データなどを含む。フレーム変数53は、解析処理における処理単位であるフレームを規定するための情報である。
【0076】
再度
図6を参照して、解析装置200は、制御装置100のTSDB156に格納される時系列データ50を任意の方法で取得する。例えば、制御装置100と解析装置200とを電気的に接続して、制御装置100から解析装置200に時系列データ50を送信してもよい。あるいは、制御装置100が時系列データ50をメモリカード116に書込み、解析装置200がメモリカード116から時系列データ50を読出してもよい。
【0077】
解析装置200は、機能構成として、因果関係グラフ生成モジュール250と、変数更新モジュール260と、評価モジュール270と、GUIモジュール280とを含む。解析装置200の各モジュールは、例えば、解析装置200のプロセッサ202が情報処理プログラム(
図5に示すPLCインターフェイスプログラム224、解析プログラム226、および、GUIプログラム228など)を実行することで実現される。
【0078】
因果関係グラフ生成モジュール250は、生成部に相当し、製造設備に関する第1の時系列データである時系列データ50に基づいて、製造設備に存在する1または複数の要因と製造設備において異常と評価される事象との因果関係を示す因果関係グラフ310を生成する。一例として、因果関係グラフ生成モジュール250は、ノード生成モジュール252と、因果関係探索モジュール254とを含む。
【0079】
ノード生成モジュール252は、取得した時系列データ50から特徴量(各ノードが示す値)を算出する。また、因果関係グラフ生成モジュール250は、各特徴量の貢献度および特徴量の偏相関を算出する。
【0080】
因果関係探索モジュール254は、各特徴量の貢献度と、特徴量間の偏相関とに基づいて、目的の事象(異常)に関係するノードを探索する。因果関係探索モジュール254は、目的の事象に至る因果関係を統計的に推定してもよいし、演繹的に決定してもよい。
【0081】
因果関係グラフ生成モジュール250は、対象の事象(異常)が選択または更新されるたびに、因果関係グラフ310を都度生成してもよい。
【0082】
変数更新モジュール260は、更新部に相当し、因果関係グラフ310に含まれる1つの要因に対応する対象ノード(第1のノード)の選択、および、時系列データ50に対する対象区間344の設定に応じて、時系列データ50のうち対象区間344の値を、対象ノードに対する対策の効果を反映した値に更新した時系列データ55(第2の時系列データ)を生成する。一例として、変数更新モジュール260は、回帰モデル生成モジュール262と、データ補間モジュール264とを含む。
【0083】
回帰モデル生成モジュール262は、対象ノードを補間するための自己回帰モデル、および、関係ノードを補間するための回帰モデルを生成する。
【0084】
データ補間モジュール264は、自己回帰モデルまたは回帰モデルに基づいて、対象区間344の値を補間する。
【0085】
評価モジュール270は、算出部に相当し、時系列データ50に基づく現在の評価指標276(第1の評価指標)と、時系列データ55に基づく対策後の評価指標278(第2の評価指標)とを算出する。一例として、評価モジュール270は、モデル生成モジュール272と、評価指標算出モジュール274とを含む。
【0086】
モデル生成モジュール272は、評価指標276を算出するための評価モデルを生成する。
【0087】
評価指標算出モジュール274は、生成された評価モデルに基づいて、現在の評価指標276および対策後の評価指標278を算出する。
【0088】
GUIモジュール280は、表示出力部に相当し、時系列データ50と、因果関係グラフ生成モジュール250が生成する因果関係グラフ310と、変数更新モジュール260が生成する時系列データ55と、評価モジュール270が算出する現在の評価指標276および対策後の評価指標278とを含む表示画面を表示出力する。
【0089】
例えば、GUIモジュール280は、対象ノードに対応する変数の時間波形(
図2に示す時間波形340)、および、対象ノードに対する対策の効果を反映した値(
図2に示す更新後波形346)を表示出力する。
【0090】
ここで、「表示出力」は、解析装置200が有している表示部218または解析装置200の外部に存在する表示部に対して、表示画面を表示するためのデータまたは信号を出力することを意味する。
【0091】
図6には、制御装置100と解析装置200とを別体の装置として例示するが、制御装置100と解析装置200とを一体の装置として構成してもよい。また、解析装置200に含まれる機能(因果関係グラフ生成モジュール250、変数更新モジュール260、評価モジュール270、および、GUIモジュール280)の一部をクラウド上のリソースで実行するようにしてもよい。すなわち、本実施の形態に従う解析装置200は、単一の装置として実装してもよいし、複数の装置を用いて実装してもよい。
【0092】
<D.解析処理>
次に、本実施の形態に従う解析装置200が実行する情報処理の一例である解析処理について説明する。
【0093】
(d1:全体処理)
図8は、本実施の形態に従う解析装置200が実行する解析処理の処理手順を示すフローチャートである。
図8に示す各ステップは、例えば、解析装置200のプロセッサ202が情報処理プログラム(
図5に示すPLCインターフェイスプログラム224、解析プログラム226、および、GUIプログラム228など)を実行することで実現される。
【0094】
図8を参照して、解析装置200は、解析対象に関係する時系列データ50を取得する(ステップS1)。解析装置200は、制御装置100から時系列データ50を直接取得してもよいし、メモリカード116を媒介として時系列データ50を取得してもよい。
【0095】
解析装置200は、時系列データ50に基づいて評価モデルを生成し、生成した評価モデルに基づいて評価指標を算出する(ステップS2)。このように、解析装置200(評価モジュール270)は、製造設備に関する時系列データ50に基づいて生成された評価モデルを用いて、現在の評価指標276(第1の評価指標)を算出する。
【0096】
生成される評価モデルは、対策の効果を評価するための評価指標の算出に用いられる。例えば、評価モデルとしては、異常を検知するための異常検知モデル、および、将来の値を推定する回帰モデルなどを用いることができる。異常検知モデルを用いた場合の評価指標としては、良品率および設備利用効率などが挙げられる。回帰モデルを用いた場合の評価指標としては、予測精度などが挙げられる。
【0097】
解析装置200は、時系列データ50から因果関係グラフ310を生成し(ステップS3)、生成された因果関係グラフ310を表示する(ステップS4)。
【0098】
解析装置200は、表示された因果関係グラフ310に対して、対象ノードが選択されたか否かを判断する(ステップS5)。すなわち、解析装置200は、因果関係グラフ310に含まれる対象ノード(第1のノード)の選択を受け付ける。
【0099】
対象ノードが選択されると(ステップS5においてYES)、解析装置200は、対象ノードに対応する時間波形を表示する(ステップS6)。表示される時間波形は、対象ノードに対応する変数の時系列データである。
【0100】
解析装置200は、表示された時間波形に対して、いずれかの対象区間344が設定されたか否かを判断する(ステップS7)。すなわち、解析装置200は、時系列データ50に対する対象区間344の設定を受け付ける。
【0101】
いずれかの対象区間344が設定されると(ステップS7においてYES)、解析装置200は、設定された対象区間344に対応する開始時刻および終了時刻を特定する(ステップS8)。
【0102】
解析装置200は、対策ボタン348が押下されたか否かを判断する(ステップS9)。対策ボタン348が押下されると(ステップS9においてYES)、解析装置200は、設定された対象区間344の値を対策の効果を反映した値に更新する処理を実行する(ステップS10)。対策の効果を反映した値に更新する処理(以下、「変数更新処理」とも称す。)は、何らかの対策がとられたことで変化するであろう値を推定する。このように、解析装置200は、時系列データ50のうち対象区間344の値を、対象ノードに対する対策の効果を反映した値に更新した時系列データ55を生成する。
【0103】
解析装置200は、生成した評価モデルに更新後の時系列データ55を入力して、対策後の評価指標を算出し(ステップS11)、算出した対策後の評価指標を表示する(ステップS12)。このように、解析装置200は、更新後の時系列データ55に基づいて、対策後の評価指標278(第2の評価指標)を算出する。より具体的には、解析装置200(評価モジュール270)は、更新後の時系列データ55および評価モデルを用いて、対策後の評価指標278(第2の評価指標)を算出する。
【0104】
(d2:評価モデル生成)
次に、
図8に示す評価モデルの生成処理および評価指標の算出処理(ステップS2)について説明する。生成される評価モデルとしては、異常検知モデルであってもよいし、回帰モデルであってもよい。
【0105】
図9は、異常検知モデルの生成処理および評価指標の算出処理に係る処理手順を示すフローチャートである。なお、時系列データ50に含まれるフレーム毎に、正常ラベルまたは異常ラベルが付与されているとする。
【0106】
図9を参照して、解析装置200は、時系列データ50に含まれる正常ラベルが付与されたデータから暫定の異常検知モデルを生成する(ステップS21)。続いて、解析装置200は、正常ラベルが付与されているデータに異常ラベルが付与されたデータを追加した集合に基づいて、異常検知モデルの正答率が最大化するように、異常検知モデルを定義するハイパーパラメータを最適化する(ステップS22)。解析装置200は、ハイパーパラメータが最適化された異常検知モデルを出力する(ステップS23)。
【0107】
解析装置200は、出力された異常検知モデルの正答率に基づいて、設備利用効率および良品率などの評価指標を算出する(ステップS24)。
【0108】
図10は、回帰モデルの生成処理および評価指標の算出処理に係る処理手順を示すフローチャートである。時系列データ50は、複数の変数の時系列データを含んでいる。回帰モデルは、時系列データ50に含まれる1または複数の変数(説明変数)の入力に対して、1つの変数(目的変数)の値を算出する。
【0109】
図10を参照して、解析装置200は、目的変数と同じ変数を説明変数に選択して、暫定の回帰モデルを生成する(ステップS25)。生成される暫定の回帰モデルは、目的変数についての自己回帰モデルとなる。続いて、解析装置200は、回帰モデルのRMSE(Root Mean Squared Error:二乗平均平方根誤差)が最小化するように、目的変数として、時系列データ50に含まれる他の1または複数の変数の時系列データを追加して、回帰モデルを再生成する(ステップS26)。
【0110】
ステップS26において、説明変数として最適な1または複数の変数が決定されると、当該決定された説明変数を用いる回帰モデルを出力する(ステップS27)。
【0111】
解析装置200は、出力された回帰モデルのRMSEに基づいて、予測精度などの評価指標を算出する(ステップS28)。そして、処理はリターンする。
【0112】
(d3:因果関係グラフ生成)
次に、
図8に示す因果関係グラフ生成処理(ステップS3)について説明する。
【0113】
図11は、因果関係グラフ生成処理に係る処理手順を示すフローチャートである。
図11を参照して、解析装置200は、時系列データ50をフレーム毎に分割し(ステップS31)、フレーム毎に各変数の特徴量を算出する(ステップS32)。特徴量は、各変数について、各フレームにおける平均値、最小値、最大値といった、各フレームを代表する任意の値である。特徴量の各々は、因果関係グラフを構成するノードとなる。
【0114】
解析装置200は、何らかの異常が発生したフレーム(異常ラベルが付与されたフレーム)に着目して、各特徴量の貢献度を算出する(ステップS33)とともに、特徴量間の偏相関を算出する(ステップS34)。各特徴量の貢献度は、着目しているフレームに各特徴量(変数)がどのような影響を与えたかを示すSHAP(SHapley Additive exPlanations)値などを用いることができる。
【0115】
解析装置200は、各特徴量の貢献度と、特徴量間の偏相関とに基づいて、因果関係グラフを生成する(ステップS35)。このように、解析装置200は、取得された時系列データ50から算出された、各特徴量の貢献度と、特徴量の偏相関とに基づいて、因果関係グラフを生成する。そして、処理はリターンする。
【0116】
このように、解析装置200は、特徴量(ノード)間の結合関係(エッジ)を決定する。決定される結合関係(エッジ)は、無向性であってもよいし、有向性であってもよい。
【0117】
(d4:変数更新処理)
次に、
図8に示す変数更新処理(ステップS10)について説明する。
【0118】
図12は、変数更新処理における値の推定方法を説明するための図である。
図12を参照して、因果関係グラフ310は、製造設備において異常と評価される事象を示すノード316に至る因果関係を示す。一例として、因果関係グラフ310は、製造設備に存在する1または複数の要因を示すノード311,312,313,314,315を含む。
【0119】
例えば、対象ノードとしてノード313が選択された場合を想定する。ノード313に対して何らかの対策がとられると、ノード313が示す変数の値が更新されるとともに、対象ノード(ノード313)から事象を示すノード316の方向(以下、「ターゲット方向」とも称す。)に存在するノード314およびノード315がそれぞれ示す変数の値も更新される。
【0120】
解析装置200(変数更新モジュール260)は、対象ノード(第1のノード;ノード313)に対応する変数を目的変数および説明変数とする回帰モデル(すなわち、自己回帰モデル)を用いて、対象区間344の対象ノードに対応する値を補間する。そのため、ノード313が示す変数の値については、自己回帰モデルを用いた補間により値が更新される。
【0121】
一方、解析装置200(変数更新モジュール260)は、関係ノード(第2のノード;ノード314,315)に対応する変数を目的変数とし、因果関係グラフ310において関係ノードの要因になるノードに対応する変数を説明変数とする回帰モデルを用いて、対象区間344の関係ノードに対応する値を補間する。
【0122】
例えば、ノード314が示す変数の値については、ノード314の要因になるノード313が示す値を説明変数とする回帰モデル(D=f1(C))を用いた補間により値が更新される。また、ノード315が示す変数の値については、ノード314の要因になるノード313およびノード312が示す値を説明変数とする回帰モデル(E=f2(B,C))を用いた補間により値が更新される。
【0123】
説明の便宜上で、
図11に示す因果関係グラフ310においては、対象ノードから事象を示すノード316までに2つのノード314,315のみが存在する例を示すが、変数更新処理は、対象ノードから事象を示すノード316までの経路に存在する、別の要因に対応するすべての関係ノードに対して実行される。
【0124】
このように、変数更新モジュール260は、対象ノード(第1のノード)に加えて、因果関係グラフ310において、対象ノードから事象を示すノード316までの経路に存在する関係ノード(第2のノード)について、対象区間344の値を更新する。
【0125】
図13は、変数更新処理に係る処理手順を示すフローチャートである。
図13を参照して、解析装置200は、対象ノードに対応する変数の自己回帰モデルを生成し、生成した自己回帰モデルを評価する(ステップS1001~S1005)。その上で、解析装置200は、対象区間344の値を更新する(ステップS1006およびS1007)。
【0126】
一例として、解析装置200は、対象ノードに対応する変数の時系列データから対象区間344の時系列データを除外し(ステップS1001)、除外後の時系列データを学習用データと評価用データとに分離する(ステップS1002)。例えば、解析装置200は、除外後の時系列データのうち互いに重複しない2つの区間を設定し、一方の区間の時系列データを学習用データとして決定し、他方の区間の時系列データを評価データとして決定する。
【0127】
解析装置200は、学習用データに基づいて自己回帰モデルを生成する(ステップS1003)。そして、解析装置200は、評価データを用いて、生成した自己回帰モデルの精度指標を算出する(ステップS1004)。
【0128】
例えば、自己回帰モデルとして、ARIMA(Auto Regressive Integrated Moving Average)モデルを用いる場合には、評価データを用いて算出されるMAE(Mean Absolute Error:平均絶対誤差)を精度指標としてもよい。
【0129】
解析装置200は、算出された精度指標が予め定められたしきい値を超えているか否かを判断する(ステップS1005)。
【0130】
精度指標が予め定められたしきい値を超えていれば、解析装置200は、生成した自己回帰モデルを用いて、対象区間344の値(時系列データ)を算出する(ステップS1006)。すなわち、解析装置200は、生成した自己回帰モデルが予め定められた推定精度を有していると判断できる場合に、自己回帰モデルを用いた補間を行う。
【0131】
一方、精度指標が予め定められたしきい値を超えていなければ、解析装置200は、平均値代入法を用いて、対象区間344の値(時系列データ)を算出する(ステップS1007)。このように、解析装置200(変数更新モジュール260)は、自己回帰モデルが予め定められた精度を有していなければ、自己回帰モデルに代えて、平均値代入法を用いて、対象区間344の値を算出する。
【0132】
続いて、解析装置200は、関係ノードの値を更新する(ステップS1008~S1015)。
【0133】
解析装置200は、対象ノードのターゲット方向に存在する1つの関係ノードを選択し(ステップS1008)、選択した関係ノードに対応する変数を目的変数として決定し、選択した関係ノードと依存関係にある1または複数のノードに対応する変数を説明変数として決定する(ステップS1009)。
【0134】
目的変数および1または複数の説明変数の時系列データから対象区間344の時系列データを除外し(ステップS1010)、除外後の時系列データを学習用データと評価用データとに分離する(ステップS1011)。
【0135】
例えば、解析装置200は、除外後の時系列データのうち互いに重複しない2つの区間を設定し、一方の区間の時系列データを学習用データとして決定し、他方の区間の時系列データを評価データとして決定する。学習データおよび評価データは、いずれも目的変数および1または複数の説明変数の時系列データを含む。
【0136】
解析装置200は、学習用データに基づいて回帰モデルを生成する(ステップS1012)。生成される回帰モデルは、1または複数の説明変数を入力とし、目的変数を出力とするものである。そして、解析装置200は、評価データを用いて、生成した回帰モデルの精度指標を算出する(ステップS1013)。
【0137】
例えば、XGBoost(eXtreme Gradient Boosting:勾配ブースティング回帰木)を用いて回帰モデルを生成する場合には、評価データを用いて算出されるRMSE(二乗平均平方根誤差)を精度指標としてもよい。
【0138】
解析装置200は、算出された精度指標が予め定められたしきい値を超えているか否かを判断する(ステップS1014)。
【0139】
精度指標が予め定められたしきい値を超えていれば、解析装置200は、生成した回帰モデルを用いて、目的変数の対象区間344の値(時系列データ)を算出する(ステップS1015)。すなわち、解析装置200は、生成した回帰モデルが予め定められた推定精度を有していると判断できる場合に、回帰モデルを用いた補間を行う。
【0140】
一方、精度指標が予め定められたしきい値を超えていなければ、解析装置200は、平均値代入法を用いて、目的変数の対象区間344の値(時系列データ)を算出する(ステップS1016)。このように、解析装置200(変数更新モジュール260)は、自己回帰モデルが予め定められた精度を有していなければ、自己回帰モデルに代えて、平均値代入法を用いて、対象区間344の値を算出する。
【0141】
解析装置200は、対象ノードのターゲット方向に存在するすべての関係ノードを選択済であるか否かを判断する(ステップS1017)。対象ノードのターゲット方向に存在するすべての関係ノードを選択済でなければ(ステップS1017においてNO)、ステップS1008以下の処理が繰り返される。
【0142】
対象ノードのターゲット方向に存在するすべての関係ノードを選択済であれば(ステップS1017においてYES)、処理はリターンする。
【0143】
(d5:解析装置の機能構成)
上述の解析装置200が実行する解析処理を
図6に示す解析装置200の機能構成と対応付けて説明する。
【0144】
図14は、本実施の形態に従う解析装置200における解析処理の内容を説明するための模式図である。
図14を参照して、因果関係グラフ生成モジュール250は、時系列データ50から因果関係グラフ310を生成する。
【0145】
変数更新モジュール260は、対象ノードの選択および対象区間の設定に応じて、時系列データ50の対象区間344の値を対策の効果を反映した値に更新する。そして、変数更新モジュール260は、対象区間344の値を更新した時系列データ55を出力する。
【0146】
対象区間344の値の更新にあたって、変数更新モジュール260は、対象ノードの値を補間するための自己回帰モデル266を生成し、関係ノードを補間するための回帰モデル268を生成する。
【0147】
評価モジュール270は、時系列データ50に基づいて、現在の評価指標276を算出するとともに、対象区間344の値を更新した時系列データ55に基づいて、対策後の評価指標278を算出する。
【0148】
評価指標276および評価指標278の算出にあたって、評価モジュール270は、時系列データ50に基づいて評価モデル290(異常検知モデルまたは回帰モデル)を生成する。
【0149】
<E.付記>
上述したような本実施の形態は、以下のような技術思想を含む。
【0150】
[構成1]
製造設備に関する第1の時系列データ(50)に基づいて、前記製造設備に存在する1または複数の要因と前記製造設備において異常と評価される事象との因果関係を示す因果関係グラフ(310)を生成する生成部(250)と、
前記因果関係グラフに含まれる1つの要因に対応する第1のノードの選択、および、前記第1の時系列データに対する対象区間(344)の設定に応じて、前記第1の時系列データ(55)のうち前記対象区間の値を、前記第1のノードに対応する要因に対する対策の効果を反映した値に更新した第2の時系列データを生成する更新部(260)と、
前記第1の時系列データに基づく第1の評価指標(276)と、前記第2の時系列データに基づく第2の評価指標(278)とを算出する算出部(270)とを備え、前記第1の評価指標および前記第2の評価指標の各々は、前記製造設備の理想的な状態への近さを示す、解析装置。
【0151】
[構成2]
前記更新部は、前記第1のノードに加えて、前記因果関係グラフにおいて、前記第1のノードから前記事象を示すノードまでの経路に存在する別の要因に対応する第2のノードについて、前記対象区間の値を更新する、構成1に記載の解析装置。
【0152】
[構成3]
前記更新部は、前記第1のノードに対応する変数を目的変数および説明変数とする回帰モデル(266)を用いて、前記対象区間の前記第1のノードに対応する値を補間する、構成1または2に記載の解析装置。
【0153】
[構成4]
前記更新部は、前記第2のノードに対応する変数を目的変数とし、前記因果関係グラフにおいて前記第2のノードの要因になるノードに対応する変数を説明変数とする回帰モデル(268)を用いて、前記対象区間の前記第2のノードに対応する値を補間する、構成1~3のいずれか1項に記載の解析装置。
【0154】
[構成5]
前記更新部は、前記回帰モデルが予め定められた精度を有していなければ、前記回帰モデルに代えて、平均値代入法を用いて、前記対象区間の値を算出する、構成3または4に記載の解析装置。
【0155】
[構成6]
前記算出部は、
前記第1の時系列データに基づいて生成された評価モデル(290)を用いて、前記第1の評価指標を算出し、
前記第2の時系列データおよび前記評価モデルを用いて、前記第2の評価指標を算出する、構成1~5のいずれか1項に記載の解析装置。
【0156】
[構成7]
前記第1のノードに対応する変数の時間波形(340)、および、前記第1のノードに対する対策の効果を反映した値(346)、を表示出力する表示出力部(280)をさらに備える、構成1~6のいずれか1項に記載の解析装置。
【0157】
[構成8]
前記表示出力部は、前記事象に対する対策の効果が最も高いと予想されるノードを他のノードとは異なる態様で表示出力する、構成7に記載の解析装置。
【0158】
[構成9]
コンピュータ(100)が実行する情報処理方法であって、
製造設備に関する第1の時系列データ(50)に基づいて、前記製造設備の理想的な状態への近さを示す第1の評価指標(276)を算出すること(S2)と、
前記第1の時系列データに基づいて、前記製造設備に存在する1または複数の要因と前記製造設備において異常と評価される事象との因果関係を示す因果関係グラフを生成すること(S3)と、
前記因果関係グラフに含まれる1つの要因に対応する第1のノードの選択を受け付けること(S5)と、
前記第1の時系列データに対する対象区間(344)の設定を受け付けること(S7)と、
前記第1の時系列データのうち前記対象区間の値を、前記第1のノードに対応する要因に対する対策の効果を反映した値に更新した第2の時系列データ(55)を生成すること(S10)と、
前記第2の時系列データに基づいて、前記製造設備の理想的な状態への近さを示す第2の評価指標(278)を算出すること(S11)とを備える、情報処理方法。
【0159】
[構成10]
情報処理プログラム(224,226,228)であって、コンピュータ(200)に、
製造設備に関する第1の時系列データ(50)に基づいて、前記製造設備の理想的な状態への近さを示す第1の評価指標(276)を算出すること(S2)と、
前記第1の時系列データに基づいて、前記製造設備に存在する1または複数の要因と前記製造設備において異常と評価される事象との因果関係を示す因果関係グラフを生成すること(S3)と、
前記因果関係グラフに含まれる1つの要因に対応する第1のノードの選択を受け付けること(S5)と、
前記第1の時系列データに対する対象区間(344)の設定を受け付けること(S7)と、
前記第1の時系列データのうち前記対象区間の値を、前記第1のノードに対応する要因に対する対策の効果を反映した値に更新した第2の時系列データ(55)を生成すること(S10)と、
前記第2の時系列データに基づいて、前記製造設備の理想的な状態への近さを示す第2の評価指標(278)を算出すること(S11)とを実行させる、情報処理プログラム。
【0160】
本実施の形態に係る発明は、上記の情報処理プログラムを格納した非一時的なコンピュータ可読媒体としても実現可能である。
【0161】
<F.利点>
本実施の形態によれば、因果関係グラフに含まれる任意のノードに対する対策をとった場合の効果を客観的に判断できる。これによって、因果関係グラフに含まれるノードのうち、いずれのノードに対する対策が有効であるかを推定できるとともに、対策による効果の度合いも推定できる。
【0162】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0163】
1 情報処理システム、40 フィールドデバイス、42 センサ、44 アクチュエータ、50,55 時系列データ、51 タイムスタンプ、52 プロセスデータ、53 フレーム変数、100 制御装置、102,202 プロセッサ、104 チップセット、106,206 主記憶装置、108,208 二次記憶装置、110 フィールドバスコントローラ、112,212 USBコントローラ、114 メモリカードインターフェイス、116 メモリカード、131 システムプログラム、132 ユーザプログラム、150 PLCエンジン、152 変数マネジャ、154 インターフェイス、156 TSDB、200 解析装置、204 光学ドライブ、205 コンピュータ可読媒体、214 ネットワークコントローラ、216 入力部、218 表示部、220 バス、222 OS、224 インターフェイスプログラム、226 解析プログラム、228 GUIプログラム、250 因果関係グラフ生成モジュール、252 ノード生成モジュール、254 因果関係探索モジュール、260 変数更新モジュール、262 回帰モデル生成モジュール、264 データ補間モジュール、266 自己回帰モデル、268 回帰モデル、270 評価モジュール、272 モデル生成モジュール、274 評価指標算出モジュール、276,278 評価指標、280 モジュール、290 評価モデル、300 表示画面、310 因果関係グラフ、311,312,313,314,315,316 ノード、320 対策効果表示エリア、330 履歴表示エリア、340 時間波形、342 表示変数ラベル、344 対象区間、346 更新後波形、348 対策ボタン、350 対策リセットボタン。