(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121544
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】車両駆動装置及び製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 11/33 20160101AFI20240830BHJP
H02K 15/14 20060101ALI20240830BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20240830BHJP
【FI】
H02K11/33
H02K15/14 Z
H02M7/48 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028696
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 良太
【テーマコード(参考)】
5H611
5H615
5H770
【Fターム(参考)】
5H611TT01
5H611UB02
5H615AA01
5H615PP15
5H615PP28
5H615SS44
5H770BA01
5H770QA06
5H770QA13
5H770QA28
5H770QA31
(57)【要約】
【課題】車両駆動装置の軸方向の体格低減を図りつつ、モールド樹脂部の形成を容易化する。
【解決手段】ケースと、ケース内に配置され、軸上に回転軸を有し、油が供給される回転電機と、ケース内に配置され、軸まわりに円環状に延在し、回転電機に複数相の交流電力を供給するインバータ装置と、ケース内において、基板表面が軸方向に対して垂直になる向きで、軸まわりに配置され、インバータ装置を制御する制御基板と、ケース内において制御基板を封止し、軸方向で回転電機に近い側の第1軸方向位置まで延在するモールド樹脂部とを備え、ケースは、制御基板の径方向外側において、軸方向で回転電機から遠い側に凹む凹部を有し、凹部は、第1軸方向位置にて終端する軸方向の壁部を有し、モールド樹脂部は、壁部における径方向内側に接合するとともに、凹部内に延在する、車両駆動装置が開示される。
【選択図】
図3B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケースと、
前記ケース内に配置され、軸上に回転軸を有し、油が供給される回転電機と、
前記ケース内に配置され、軸まわりに円環状に延在し、前記回転電機に複数相の交流電力を供給するインバータ装置と、
前記ケース内において、基板表面が軸方向に対して垂直になる向きで、軸まわりに配置され、前記インバータ装置を制御する制御基板と、
前記ケース内において前記制御基板を封止し、軸方向で前記回転電機に近い側の第1軸方向位置まで延在するモールド樹脂部とを備え、
前記ケースは、前記制御基板の径方向外側において、軸方向で前記回転電機から遠い側に凹む凹部を有し、
前記凹部は、前記第1軸方向位置にて終端する軸方向の壁部を有し、
前記モールド樹脂部は、前記壁部における径方向内側に接合するとともに、前記凹部内に延在する、車両駆動装置。
【請求項2】
前記ケースは、軸まわりの周壁部と、前記周壁部の軸方向端部から連続しかつ前記制御基板に軸方向に対向する底壁部とを有し、前記底壁部と前記周壁部とで形成される収容室内に、前記制御基板が配置され、
前記モールド樹脂部は、前記収容室における空間部を埋める態様で形成され、
前記壁部は、軸方向に視て、前記周壁部より径方向内側において、前記収容室の少なくとも一部を囲む態様で延在し、
前記凹部内の空間は、前記収容室に対して前記壁部を介して径方向で仕切られる、請求項1に記載の車両駆動装置。
【請求項3】
前記回転電機と前記インバータ装置とを電気的に接続するバスバーを更に備え、
前記バスバーは、前記凹部内に延在し、
前記モールド樹脂部は、前記凹部内で前記バスバーに接合する、請求項1に記載の車両駆動装置。
【請求項4】
前記制御基板における前記回転電機に軸方向に対向する側に配置され、前記制御基板上の電子部品を覆うカバー部材を更に備え、
前記カバー部材は、軸方向で前記回転電機に向かう側に突出する突出部位を有し、
前記モールド樹脂部は、前記制御基板における前記回転電機に軸方向に対向する側において、前記突出部位よりも径方向外側を封止し、
前記突出部位は、前記モールド樹脂部よりも軸方向で前記回転電機に近い側の第2軸方向位置まで突出する、請求項1に記載の車両駆動装置。
【請求項5】
請求項1から4のうちのいずれか1項に記載の車両駆動装置の製造方法であって、
軸方向が上下方向となり、かつ、前記凹部が下向きの凹む向きとなる姿勢で、前記モールド樹脂部に係る樹脂材料を、前記制御基板に向けて注入する注入工程を含み、
前記注入工程は、前記樹脂材料が前記壁部を越えて前記凹部内に流れ込むように、前記樹脂材料を注入することを含む、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両駆動装置及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
油が供給される回転電機と、回転電機に電力を供給するインバータ装置と、軸方向でインバータ装置と回転電機との間に配置される制御基板とを備える車両駆動装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような従来技術では、軸方向でインバータ装置と回転電機との間に、ケースの隔壁部に代えて、制御基板を配置することで、車両駆動装置の軸方向の体格低減を図ることができるものの、制御基板上の電子部品を適切に保護できないおそれがある。すなわち、回転電機に供給される油がかかることになり、電子部品の機能が阻害されるおそれがある。これに対して、制御基板全体をモールド樹脂部により封止する場合、制御基板上の電子部品に油がかかる不都合を回避できるものの、比較的広い範囲に樹脂材料を注入する必要があり、モールド樹脂部の形成範囲を適切に規制することが難しい。これに対して、モールド樹脂部に係る樹脂材料が溢れ出して意図しない箇所(例えば封止対象でない部材や部位)に至ることがないように樹脂材料の注入速度を低下させると、モールド樹脂部の形成に要する時間が増加しやすくなる。
【0005】
そこで、1つの側面では、本開示は、車両駆動装置の軸方向の体格低減を図りつつ、モールド樹脂部の形成を容易化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの側面では、ケースと、
前記ケース内に配置され、軸上に回転軸を有し、油が供給される回転電機と、
前記ケース内に配置され、軸まわりに円環状に延在し、前記回転電機に複数相の交流電力を供給するインバータ装置と、
前記ケース内において、基板表面が軸方向に対して垂直になる向きで、軸まわりに配置され、前記インバータ装置を制御する制御基板と、
前記ケース内において前記制御基板を封止し、軸方向で前記回転電機に近い側の第1軸方向位置まで延在するモールド樹脂部とを備え、
前記ケースは、前記制御基板の径方向外側において、軸方向で前記回転電機から遠い側に凹む凹部を有し、
前記凹部は、前記第1軸方向位置にて終端する軸方向の壁部を有し、
前記モールド樹脂部は、前記壁部における径方向内側に接合するとともに、前記凹部内に延在する、車両駆動装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
1つの側面では、本開示によれば、車両駆動装置の軸方向の体格低減を図りつつ、モールド樹脂部の形成を容易化することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】回転電機を含む電気回路の一例の概略図である。
【
図2】回転電機を含む車両用駆動システムのスケルトン図である。
【
図3A】本実施例による車両駆動装置の要部を概略的に示す断面図である。
【
図3B】本実施例による車両駆動装置の他の要部を概略的に示す断面図である。
【
図4A】本実施例によるモータ駆動装置をX2側から視た斜視図である。
【
図4B】本実施例による制御基板を概略的に示す平面図である。
【
図4C】一の出力バスバーの単品状態の斜視図である。
【
図5】車両駆動装置から回転電機及びモータケース等を取り外した状態を回転電機側から示す斜視図である。
【
図5A】
図4Bに示す制御基板にカバー部材が配置された状態を概略的に示す平面図である。
【
図6】本実施例によるモールド樹脂部の形成方法の説明図である。
【
図6A】モールド樹脂部に係る樹脂材料の流れの説明図(その1)であり、
図6の一部を拡大した断面図である。
【
図6B】モールド樹脂部に係る樹脂材料の流れの説明図(その2)であり、
図6の一部を拡大した断面図である。
【
図7】比較例によるモールド樹脂部の形成方法の説明図である。
【
図8】
図5のQ5部を拡大して異なるビューで示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら各実施例について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率はあくまでも一例であり、これに限定されるものではなく、また、図面内の形状等は、説明の都合上、部分的に誇張している場合がある。また、図面では、見易さのために、複数存在する同一属性の部位には、一部のみしか参照符号が付されていない場合がある。
【0010】
以下では、本実施例の車両駆動装置10の電気系(制御系)、及び、本実施例の車両駆動装置10を含む駆動システム全体を概説してから、本実施例の車両駆動装置10の詳細について説明する。
【0011】
[車両駆動装置の電気系]
図1は、回転電機1を含む電気回路200の一例の概略図である。
図1には、制御装置500についても併せて示される。
図1において、制御装置500に対応付けられた点線矢印は、情報(信号やデータ)のやり取りを表す。
【0012】
回転電機1は、制御装置500によるインバータINVの制御を介して駆動される。
図1に示す電気回路200では、回転電機1は、電源VaにインバータINVを介して電気的に接続される。なお、インバータINVは、例えば、相ごとに、電源Vaの高電位側Pと低電位側Nとにそれぞれパワースイッチング素子(例えばMOSFET:Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect TransistorやIGBT:Insulated Gate Bipolar Transistor等)を備え、高電位側Pのパワースイッチング素子と低電位側Nのパワースイッチング素子とが上下アームを形成する。なお、インバータINVは、相ごとに、複数組の上下アームを備えてもよい。各パワースイッチング素子は、制御装置500による制御下で、所望の回転トルクが発生するようにPWM(Pulse Width Modulation)駆動されてよい。なお、電源Vaは、例えば比較的定格電圧の高いバッテリであり、例えばリチウムイオンバッテリや燃料電池等であってよい。
【0013】
本実施例では、
図1に示す電気回路200のように、電源Vaの高電位側Pと低電位側Nの間には、インバータINVに対して並列に、平滑コンデンサCが電気的に接続される。なお、平滑コンデンサCは、複数組、互いに並列に、電源Vaの高電位側Pと低電位側Nの間に電気的に接続されてもよい。また、電源VaとインバータINVとの間にDC/DCコンバータが設けられてもよい。
【0014】
[駆動システム全体]
図2は、回転電機1を含む車両用駆動システム100のスケルトン図である。
図2には、X方向と、X方向に沿ったX1側とX2側が定義されている。X方向は、第1軸A1の方向(以下、「軸方向」とも称する)に平行である。
【0015】
図2に示す例では、車両用駆動システム100は、車輪Wの駆動源となる回転電機1と、回転電機1と車輪Wとを結ぶ動力伝達経路に設けられた駆動伝達機構7と、を備える。駆動伝達機構7は、入力部材3と、カウンタギヤ機構4と、差動歯車機構5と、左右の出力部材61、62と、を備える。
【0016】
入力部材3は、入力軸31と、入力ギヤ32とを有する。入力軸31は、第1軸A1まわりに回転する回転部材である。入力ギヤ32は、回転電機1からの回転トルク(駆動力)をカウンタギヤ機構4に伝達するギヤである。入力ギヤ32は、入力部材3の入力軸31と一体的に回転するように、入力部材3の入力軸31に連結される。
【0017】
カウンタギヤ機構4は、動力伝達経路において、入力部材3と差動歯車機構5との間に配置される。カウンタギヤ機構4は、カウンタ軸41と、第1カウンタギヤ42と、第2カウンタギヤ43とを有する。
【0018】
カウンタ軸41は、第2軸A2まわりに回転する回転部材である。第2軸A2は、第1軸A1に平行に延在する。第1カウンタギヤ42は、カウンタギヤ機構4の入力要素である。第1カウンタギヤ42は、入力部材3の入力ギヤ32と噛み合う。第1カウンタギヤ42は、カウンタ軸41と一体的に回転するように、カウンタ軸41に連結される。
【0019】
第2カウンタギヤ43は、カウンタギヤ機構4の出力要素である。本実施例では、一例として、第2カウンタギヤ43は、第1カウンタギヤ42よりも小径に形成される。第2カウンタギヤ43は、カウンタ軸41と一体的に回転するように、カウンタ軸41に連結される。
【0020】
差動歯車機構5は、その回転軸心としての第3軸A3上に配置される。第3軸A3は、第1軸A1に平行に延在する。差動歯車機構5は、回転電機1の側から伝達される駆動力を、左右の出力部材61、62に分配する。差動歯車機構5は、差動入力ギヤ51を備え、差動入力ギヤ51は、カウンタギヤ機構4の第2カウンタギヤ43と噛み合う。また、差動歯車機構5は、差動ケース52を備え、差動ケース52内には、ピニオンシャフトや、ピニオンギヤ、左右のサイドギヤ等が収容される。左右のサイドギヤは、それぞれ、左右の出力部材61、62と一体的に回転するように連結される。
【0021】
左右の出力部材61、62のそれぞれは、左右の車輪Wに駆動連結される。左右の出力部材61、62のそれぞれは、差動歯車機構5によって分配された駆動力を車輪Wに伝達する。なお、左右の出力部材61、62は、2つ以上の部材により構成されてもよい。
【0022】
このようにして回転電機1は、駆動伝達機構7を介して車輪Wを駆動する。ただし、他の実施例では、回転電機1は、ホイールインモータとして、車輪内に配置されてもよい。この場合、車両用駆動システム100は、駆動伝達機構7を含まない構成であってよい。また、他の実施例では、駆動伝達機構7の一部又は全部を共用化する複数の回転電機1が設けられてもよい。
【0023】
[車両駆動装置の詳細]
図3A及び
図3Bは、本実施例の車両駆動装置10の要部の断面図であり、
図3Aは、油路2530を通る断面図であり、
図3Bは、冷却水路2528を通る断面図である。
図3Cは、
図3BのQ3部の拡大図である。
【0024】
車両駆動装置10は、上述した回転電機1と、ケース2と、モータ駆動装置8とを含む。
【0025】
車両駆動装置10は、車両用駆動システム100の一部として車両に搭載され、上述したように、車両を前進又は後退させる駆動力を生成する。なお、車両は、任意の形態であり、例えば4輪の自動車であってもよいし、バス、トラック、二輪車や建設機械等であってもよい。なお、車両駆動装置10は、他の駆動源(例えば内燃機関)とともに車両に搭載されてもよい。
【0026】
回転電機1は、ロータ310及びステータ320を有する。
図3A及び
図3Bには、回転電機1の軸方向一端側(X1側)の一部が示されている。回転電機1は、インナロータタイプであり、ステータ320がロータ310の径方向外側を囲繞するように設けられる。すなわち、ロータ310は、ステータ320の径方向内側に配置される。
【0027】
ロータ310は、ロータコア312と、シャフト部314とを備える。
【0028】
ロータコア312は、例えば円環状の磁性体の積層鋼板からなってよい。ロータコア312の内部には、永久磁石325が埋め込まれてよい。あるいは、永久磁石325は、ロータコア312の外周面に取り付けられてもよい。なお、永久磁石325の配列等は任意である。ロータコア312は、シャフト部314の外周面に固定され、シャフト部314と一体となって回転する。
【0029】
シャフト部314は、第1軸A1上に配置され、回転電機1の回転軸を第1軸A1上に画成する。シャフト部314は、ロータコア312が固定される部分よりもX1側において、ケース2のモータカバー252(後述)にベアリング240を介して回転可能に支持される。なお、シャフト部314は、回転電機1の軸方向他端側(X2側)において、ベアリング240に対応するベアリングを介してケース2に回転可能に支持される。このようにして、シャフト部314が軸方向両端で回転可能にケース2に支持されてよい。
【0030】
シャフト部314は、例えば中空管の形態であり、中空内部314Aを有する。中空内部314Aは、シャフト部314の軸方向の全長にわたり延在してよい。中空内部314Aは、軸心油路として機能することができる。この場合、シャフト部314は、ステータ320のコイルエンド部322A等に油を吐出する油孔が形成されてよい。
【0031】
ステータ320は、ステータコア321と、ステータコイル322とを備える。
【0032】
ステータコア321は、例えば円環状の磁性体の積層鋼板からなってよい。ステータコア321の内周部には、径方向内側に突出するティース(図示せず)が放射状に形成される。
【0033】
ステータコイル322は、例えば断面平角状又は断面円形状の導体に絶縁被膜が付与された形態であってよい。ステータコイル322は、ステータコア321のティース(図示せず)まわりに巻装される。なお、ステータコイル322は、例えば、1つ以上の並列関係で、Y結線で電気的に接続されてもよいし、Δ結線で電気的に接続されてもよい。
【0034】
ステータコイル322は、ステータコア321のスロットから軸方向外側に突出する部分であるコイルエンド部322Aを有する。以下の説明において、コイルエンド部322Aとは、特に言及しない限り、ステータコイル322の一部であって、ステータコア321の軸方向両側のそれぞれで周方向に沿って延在する部分のうちの、リード側である軸方向一端側(X1側)に沿って延在する部分を指す。
【0035】
ケース2は、例えばアルミ等により形成されてよい。ケース2は、例えば鋳造等により形成できる。ケース2は、複数のケース部材やカバー部材の組み合わせにより形成されてよい。この場合、ケース2は、一体的に結合される各部材を含み、当該各部材の形状や材質等は任意である。本実施例では、ケース2は、モータケース250と、モータカバー252とを含む。ケース2は、回転電機1及びモータ駆動装置8を収容する。また、
図2に示した車両用駆動システム100の場合、ケース2は、
図2に模式的に示すように、駆動伝達機構7を更に収容してもよい。
【0036】
モータケース250は、回転電機1を収容するモータ収容室SP1を形成する。なお、モータ収容室SP1は、回転電機1(及び/又は駆動伝達機構7)を冷却及び/又は潤滑するための油を含む油密空間であってよい。モータケース250は、回転電機1の径方向外側を囲繞する周壁部を有する形態である。モータケース250は、複数の部材を結合して実現されてもよい。また、モータケース250は、軸方向他端側(X2側)で、駆動伝達機構7を収容する他のケース部材に一体化されてよい。
【0037】
モータカバー252は、比較的高い伝熱性を有する材料(例えばアルミ)により形成される。モータカバー252は、モータケース250の軸方向一端側(X1側)に結合される。モータカバー252は、モータ収容室SP1における軸方向一端側(X1側)を覆うカバーの形態であり、回転電機1に軸方向に対向する。この場合、モータカバー252は、モータケース250の軸方向一端側(X1側)の開口部を完全に又は略完全に閉塞する態様で覆ってもよい。
【0038】
モータカバー252は、モータ駆動装置8を収容するインバータ収容室SP2を形成する。なお、インバータ収容室SP2の一部は、モータケース250により形成されてもよいし、逆に、モータ収容室SP1の一部は、モータカバー252により形成されてもよい。
【0039】
モータカバー252は、モータ駆動装置8を支持する。例えばモータ駆動装置8は、後述するモジュールの形態で、モータカバー252に取り付けられてもよい。これにより、モータカバー252にモータ駆動装置8の一部又は全体を組み付けてから、モータカバー252とモータケース250とを結合でき、モータ駆動装置8の組み付け性が向上する。
【0040】
モータカバー252には、ロータ310を回転可能に支持するベアリング240が設けられる。すなわち、モータカバー252は、ベアリング240を支持するベアリング支持部2524を有する。なお、ベアリング支持部2524とは、モータカバー252のうちの、ベアリング240が設けられる軸方向範囲の部分全体を指す。
【0041】
ベアリング240は、
図3A及び
図3Bに示すように、シャフト部314のX1側の端部における径方向外側に設けられる。具体的には、ベアリング240は、アウタレースの径方向外側がモータカバー252に支持され、インナレースの径方向内側がシャフト部314の外周面に支持される。なお、変形例では、逆に、ベアリング240は、インナレースの径方向内側がモータカバー252に支持され、アウタレースの径方向外側がシャフト部314の内周面に支持されてもよい。
【0042】
モータカバー252は、
図3A及び
図3Bに示すように、第1軸A1を中心とした円形状の底部2521と、底部2521の外周縁から軸方向他端側(X2側)へと突出する周壁部2522とを含み、底部2521と周壁部2522とが、インバータ収容室SP2を画成する。底部2521における軸方向他端側(X2側)の中央部(第1軸A1を中心とした部分)には、ベアリング支持部2524が設定される。
【0043】
インバータ収容室SP2は、樹脂により封止される。すなわち、モータカバー252は、好ましくは、伝熱性のモールド樹脂部2523を有する。この場合、モールド樹脂部2523は、後述するモータ駆動装置8を封止して支持する機能と、モータ収容室SP1内の油に対してモータ駆動装置8を保護する機能と、モータ駆動装置8からの熱をモータカバー252に伝達する機能を有することができる。なお、
図3A及び
図3Bでは、モールド樹脂部2523内に封止される要素(後述するインバータモジュール90等)の一部が透視で示されている。
【0044】
ここで、
図3A及び
図3Bを参照して、本実施例に適用可能な冷却構造の一例について説明する。以下では、径方向、軸方向及び周方向の各用語は、特に言及しない限り、第1軸A1に関する各方向である。すなわち、軸方向は、第1軸A1に平行な方向(第1軸A1と同軸の線に沿った方向を含む)であり、径方向は、第1軸A1を通りかつ第1軸A1に直交する方向であり、周方向は、第1軸A1に直交する任意の平面内における第1軸A1まわりの方向である。また、軸まわりとは、第1軸A1まわりを指す。
【0045】
図3A及び
図3Bに示す例では、冷却構造は、モータカバー252にそれぞれ形成される冷却水路2528及び油路2530(以下、「カバー油路2530」と称する)と、軸心油路を形成する中空内部314Aと、中空内部314Aに油を供給する軸心供給用の管状部材180と、上掛け油路を形成する管状部材181とを含む。
【0046】
冷却水路2528には、冷却水が流される。なお、冷却水は、例えばLLC(Long Life Coolant)を含む水であってよい。この場合、冷却水路2528を流れる冷却水は、車両に搭載されるラジエーター(図示せず)で放熱されることで、比較的低温に維持できる。
【0047】
冷却水路2528は、軸方向に視て任意の形態であってよく、例えば、円環状の形態であってもよいし、螺旋状の形態であってもよいし、径方向外側と内側に蛇行しながら周方向に沿って延在する形態であってもよい。なお、モータカバー252を中子等を用いて製造する場合は、冷却水路2528の形状等の自由度を高めることができる。
【0048】
カバー油路2530には、油が流れる。カバー油路2530には、図示しないオイルポンプから油が供給される。オイルポンプは、例えば駆動伝達機構7に連動する機械式であってよいし、電動式であってもよい。
【0049】
カバー油路2530は、径方向に視て、冷却水路2528とオーバラップしてもよい。この場合、カバー油路2530と冷却水路2528とが径方向に視てオーバラップしない場合に比べて、モータカバー252の厚み(軸方向の底部2521の厚み)の低減を図り、車両駆動装置10の軸方向の体格の低減を図ることができる。
【0050】
カバー油路2530に供給される油は、カバー油路2530を通ってから、管状部材180に供給される。管状部材180は、中空の管状の形態であり、内部が流路を形成する。管状部材180は、第1軸A1と同心状に、軸方向に延在し、軸方向の両端が開口されてよい。管状部材180は、
図3Aに示すように、X1側でカバー油路2530(軸心側の出口部25302)に接続され、中空内部314A内までX2側に軸方向に延在し、X2側の端部の開口が中空内部314Aに連通する。
【0051】
管状部材180に供給される油は、軸心油路(中空内部314A)に供給される。中空内部314Aに供給された油は、ロータ310の回転時の遠心力の作用により、シャフト部314の内周面を伝って流れ、ロータコア312及びそれに伴い永久磁石325を径方向内側から冷却する。また、シャフト部314に径方向の油孔を形成して、径方向内側からコイルエンド部322A(図示しないX2側のコイルエンド部322Aも同様、以下同様)に向けて油を吐出することも可能である。この場合、コイルエンド部322Aを径方向内側から冷却できる。
【0052】
また、カバー油路2530に供給される油は、カバー油路2530を通ってから、管状部材181に供給される。管状部材181は、中空の管状の形態であり、内部が流路を形成する。管状部材181は、軸方向に視てステータ320よりも径方向外側において、軸方向に延在し、軸方向の両端が開口されてよい。
【0053】
管状部材181に供給された油は、重力の作用により、管状部材181に形成される径方向の油孔1810を介して、ステータ320に落下する。ステータ320に落下した油は、ステータ320の外周面等を伝って下方へと流れる。これにより、ステータ320を径方向外側から冷却できる。
【0054】
管状部材181の油孔1810は、例えば、コイルエンド部322Aに径方向で対向する油孔1810Aを含んでよい。これにより、コイルエンド部322Aを径方向外側から冷却できる。
【0055】
また、管状部材181の油孔1810は、ステータコア321の外周面に径方向で対向する油孔1810Bを含んでよい。これにより、ステータコア321(及びステータコイル322)を径方向外側から冷却できる。
【0056】
なお、ここでは、一例として、
図3A及び
図3Bを参照して特定の冷却構造について説明したが、冷却構造の構成の詳細は任意である。例えば、管状部材180及び/又は管状部材181等は省略されてもよい。あるいは、冷却水による冷却自体が省略されてもよい。
【0057】
図4Aは、モータ駆動装置8をX1側から視た斜視図である。
図4Bは、制御基板84を概略的に示す平面図である。
図4Cは、一の出力バスバー887の単品状態の斜視図である。なお、
図4Aでは、モータ駆動装置8のうちの制御基板84の図示は省略されている。
図4A等では、右手座標系で直交する3軸(X軸、Y軸、Z軸)が示されている。X軸は、
図2等で定義したX軸と同じであり、
図4等の3軸表記のX軸の負側が、
図2等で定義したX軸のX1側に対応する。
【0058】
モータ駆動装置8は、パワーモジュール80と、コンデンサモジュール82と、制御基板84と、配線部88とを含む。
【0059】
本実施例では、パワーモジュール80及びコンデンサモジュール82は、
図4Aに示すように、複数の組(
図4Aに示す例では、12組)をなして、周方向に沿って配置される。パワーモジュール80及びコンデンサモジュール82の組の数は、回転電機1の仕様に応じて変化させる。基本的には、パワーモジュール80及びコンデンサモジュール82の組の数が増加すると、回転電機1の出力が大きくなる。従って、回転電機1の設計の際に、パワーモジュール80及びコンデンサモジュール82の組の数が異なる複数のバリエーションを設定できる。
【0060】
パワーモジュール80及びコンデンサモジュール82は、好ましくは、複数の組のそれぞれにおいて、一体化された組立体の形態である。すなわち、各組のパワーモジュール80及びコンデンサモジュール82は、一体化されたインバータモジュール90(
図3A及び
図3B参照)を形成する。なお、
図3A等に示す例では、インバータモジュール90は、その全体がモールド樹脂部2523により封止されるが、一部だけが露出する態様で封止されてもよい。
【0061】
インバータモジュール90のそれぞれにおいて、パワーモジュール80は同じ構成を有し、コンデンサモジュール82は同じ構成(電気的特性や形状等)を有する。これにより、インバータモジュール90ごとの交換や整備も可能であり、汎用性を高めることができる。本実施例では、インバータモジュール90のそれぞれにおいて、パワーモジュール80は、サブモジュール800と、放熱部材810とを含む(
図3A及び
図3B参照)。
【0062】
サブモジュール800のそれぞれは、インバータINV(
図1参照)における一の相に係る上下アームを形成する。
【0063】
放熱部材810は、比較的高い伝熱性を有する材料(例えばアルミ)により形成される。本実施例では、放熱部材810は、中実のブロックの形態である。これにより、放熱部材810の熱容量を効率的に高めることができる。
【0064】
制御基板84は、後出の
図5に良く示すように、径方向外側の部分が締結具BT1等によりモータカバー252に結合されることで、モータカバー252に支持される。制御基板84は、制御装置500(
図1参照)の一部又は全体を形成する。なお、締結具BT1は、上述したモールド樹脂部2523に封止されてもよい。
【0065】
制御基板84は、例えば多層プリント基板により形成されてもよい。制御基板84は、基板表面に対する法線方向が軸方向に沿う向きに配置される。これにより、制御基板84を軸方向の僅かな隙間を利用して配置でき、車両駆動装置10の軸方向の体格の低減を図ることができる。例えば、本実施例では、制御基板84は、
図3A及び
図3Bに示すように、軸方向で回転電機1とインバータモジュール90との間に配置されてよい。より詳細には、制御基板84は、軸方向で回転電機1のコイルエンド部322Aとパワーモジュール80及びコンデンサモジュール82との間に配置されてよい。これにより、デットスペースになりやすいスペースを利用した効率的な配置を実現できる。また、制御基板84は、軸方向に視て、コイルエンド部322Aにオーバラップする径方向位置まで径方向外側に延在できるので、制御基板84の面積(回路部形成範囲)の最大化を図ることができる。
【0066】
制御基板84は、好ましくは、
図4Bに示すように、ロータ310のシャフト部314(
図3A及び
図3Bも参照)が通る中央孔84aを有する円環状の形態である。この場合、周方向に沿って配置された複数のパワーモジュール80のいずれに対してもその近傍に制御基板84を配置できる。これにより、パワーモジュール80のサブモジュール800を形成する各パワー半導体チップ(例えばパワースイッチング素子のゲート端子)と制御基板84の駆動回路(図示せず)との間の電気的な接続(図示せず)が容易となる。
【0067】
制御基板84は、
図4Bに示すように、中央孔84aまわりに円環状の内径側の素子実装領域841と、内径側の素子実装領域841よりも径方向外側に円環状の外径側の素子実装領域842とを有する。外径側の素子実装領域842と内径側の素子実装領域841との間には、円環状の素子非実装領域843が形成されてよい。素子非実装領域843には、素子が配置されない平らな領域(基板自体の平らな表面領域)である。なお、素子非実装領域843は、外径側の素子実装領域842と内径側の素子実装領域841との間の絶縁領域として機能してもよい。この場合、制御基板84において、円環状の2つの領域(内径側の素子実装領域841及び外径側の素子実装領域842)のそれぞれに低圧系の回路と高圧系の回路とを共存させることができる。例えば、制御基板84における内径側の素子実装領域841には、電源Vaに係る高圧を扱う回路部や素子が配置されてよく、外径側の素子実装領域842には、制御装置500を実現するマイコン(マイクロコンピュータの略)等が配置されてよい。
【0068】
本実施例では、制御基板84において、例えば、外径側の素子実装領域842には、低圧系の電子部品503が設けられてもよい。また、内径側の素子実装領域841には、トランス502とともに、他の電子部品(例えばサブモジュール800のパワー半導体チップを駆動するための駆動回路等)が設けられる。トランス502は、ECU(Electronic Control Unit)に搭載の電源トランス部等であってよく、比較的細い導線(例えば銅線)を巻回した形態であってよい。なお、制御基板84には、モータ収容室SP1内の油を循環させる電動オイルポンプを駆動するための電子部品が実装されてもよい。
【0069】
なお、本実施例では、内径側の素子実装領域841は、軸方向に視て、円形の外形であるが、非円形の外形であってもよい。また、円環状の素子非実装領域843についても同様であり、軸方向に視て、外形が円形の形態であるが、外形が非円形の形態であってもよい。
【0070】
配線部88は、電源用バスバー886と、出力バスバー887とを含む。
【0071】
電源用バスバー886は、例えば円環状の形態であってよく、第1軸A1まわりに延在する。本実施例では、電源用バスバー886は、軸方向でモータカバー252とサブモジュール800の間において、サブモジュール800に対してX1側から隣接する態様で周方向に延在する。これにより、電源用バスバー886をモータカバー252(及び冷却水路2528内の冷却水)により効率的に冷却できる。
【0072】
電源用バスバー886は、
図4Aに示すように、電源側の電源コネクタCN0への接続のための部位8861が、径方向に延在してよい。この場合、部位8861は、相間モジュール間スペースS10(すなわち相ごとのインバータモジュール90に係る纏まりの間)を通って、径方向に延在する。
出力バスバー887は、相ごとに設けられる。出力バスバー887は、各パワーモジュール80と回転電機1とをつなぐバスバーである。
図4Cに示すように、出力バスバー887は、円弧状の部位8871と、直線状の部位8872と、引き出し部位8873と、締結部8874とを含む。
【0073】
出力バスバー887は、円弧状の部位8871が、例えば
図4Aに示すように、各インバータモジュール90の径方向内側で軸まわりに配置されてよい。この際、一の相に係る出力バスバー887は、同相に係るインバータモジュール90の纏まりの周方向の延在範囲に対応した周方向範囲(従って、約120度の周方向範囲)に延在する。このようにして3つの出力バスバー887に係る円弧状の部位8871は、互いに周方向でオーバラップしない態様で、軸まわりに円環状に配置される。この場合、出力バスバー887に係る円弧状の部位8871は、各インバータモジュール90の径方向内側で、対応するインバータモジュール90のパワーモジュール80に電気的に接続できる。
【0074】
また、出力バスバー887は、直線状の部位8872が、相間モジュール間スペースS10(すなわち相ごとのインバータモジュール90に係る纏まりの間)を通って、径方向に延在する。なお、上述したように、相間モジュール間スペースS10は、3つあり、従って、3本の出力バスバー887に係る直線状の部位8872は、
図8に良く示すように、1本ずつ、3つのいずれかの1つの相間モジュール間スペースS10を通って径方向に延在できる。
【0075】
引き出し部位8873は、直線状の部位8872の径方向外側から形成され、軸方向X2側に軸方向に延在する。締結部8874は、軸方向X1側に軸方向に延在する。引き出し部位8873及び締結部8874は、周方向に視てC字状に連結されてもよい。具体的には、引き出し部位8873及び締結部8874は、凹部20の壁部22をX2側に乗り越える態様で、周方向に視てC字状の形態を有する。
【0076】
また、出力バスバー887は、締結部8874を介して他の出力バスバー887に連結される。すなわち、2つの出力バスバー887は、互いの締結部8874を合わせてボルトBT2により締結されてもよい。締結部8874は、出力バスバー887の端部に形成されてもよい。本実施例では、締結部8874は、ケース2の凹部20内に延在する後述するモールド樹脂部2523(凹部内樹脂部25234)により固定される。
【0077】
なお、出力バスバー887は、引き出し部位8873の一部(X2側の端部)や締結部8874の一部(後述する凹部内樹脂部25234に接合される部位)を除きモールド樹脂部2523に封止されてよい。
【0078】
次に、前出の
図3A、
図3B、及び
図4Bとともに、
図5を参照して、本実施例のカバー部材70と、それに関連した構成について説明する。
【0079】
図5は、車両駆動装置10から回転電機1及びモータケース250等を取り外した状態を回転電機1側から示す斜視図である。
図5では、見やすさのため、制御基板84にはハッチングが付与され、制御基板84よりもX1側の構成(モータ駆動装置8のインバータモジュール90のコンデンサモジュール82)が透視で示されている。
図5Aは、
図4Bに示す制御基板84にカバー部材70が配置された状態を概略的に示す平面図である。
【0080】
本実施例では、車両駆動装置10は、樹脂材料により形成されるカバー部材70を備える。カバー部材70は、制御基板84上の電子部品を覆うことで、当該電子部品に油(モータ収容室SP1内に流れる油等)が掛かるのを防止する機能を有する。
【0081】
具体的には、カバー部材70は、
図3A、
図3B、
図5、及び
図5Aに示すように、制御基板84におけるX2側(回転電機1に軸方向に対向する側)に配置される。カバー部材70は、制御基板84のX2側表面上に実装される複数の電子部品のうちの少なくとも一部を覆う。なお、変形例では、カバー部材70は、制御基板84のX2側表面上に実装される複数の電子部品すべてを覆ってもよい。
【0082】
カバー部材70は、好ましくは、
図5及び
図5Aに示すように、軸方向に視て、軸まわりの周方向全体にわたって延在する円環状の形態である。この場合、カバー部材70は、
図3A及び
図3Bに示すように、径方向内側の端部が、モータケース250に圧入固定されてよい。具体的には、カバー部材70の径方向内側の端部は、ベアリング240よりも径方向外側でベアリング支持部2524に圧入固定されることで、圧入固定部74を形成してよい。この場合、カバー部材70は、ベアリング240よりも径方向外側に延在することになるので、制御基板84よりもX1側にベアリング240を配置する場合でも組み付け性が向上する。すなわち、モータケース250にモータ駆動装置8やカバー部材70を組み付けた後に、モータケース250のベアリング支持部2524にベアリング240とともにシャフト部314(及び回転電機1)を組み付けることができる。
【0083】
カバー部材70は、好ましくは、X2側に突出する突出部位71を有することで、軸方向で制御基板84との間に空間部SP7を形成する。空間部SP7には、制御基板84上に実装される複数の電子部品のうちの一部が配置される。具体的には、空間部SP7には、制御基板84上の内径側の素子実装領域841上の電子部品(例えばトランス502)が配置される。なお、空間部SP7には、制御基板84上の内径側の素子実装領域841上のすべての電子部品が配置されてもよいし、制御基板84上の内径側の素子実装領域841上の一部の電子部品だけが配置されてもよい。
【0084】
カバー部材70の突出部位71は、上述した空間部SP7を形成する機能を有するとともに、後述するように、モールド樹脂部2523に係る樹脂材料が注入時に、制御基板84のX2側の表面を伝ってベアリング240等に径方向内側へと流れるのを防止する機能をも有する。本実施例では、モールド樹脂部2523は、制御基板84のX2側の表面上にも延在し、突出部位71の径方向外側まわりに延在する。
【0085】
以下では、モールド樹脂部2523のうちの、軸方向で制御基板84とモータカバー252との間に延在する樹脂部を、インバータ側の樹脂部25231とも称し、それ以外の樹脂部(制御基板84のX2側に延在する樹脂部)をモータ側の樹脂部25232とも称する。
【0086】
このようにして、本実施例では、制御基板84上にモールド樹脂部2523が延在する。モールド樹脂部2523は、制御基板84上の電子部品を封止することで、モータ収容室SP1内の油が制御基板84上の電子部品に掛かるのを防止できる。従って、本実施例では、軸方向でインバータモジュール90と回転電機1の間に、モータ収容室SP1に対してインバータ収容室SP2を仕切るためのケース部材(ケース2の一部)が不要となり、車両駆動装置10の軸方向の体格低減を図ることができる。
【0087】
ところで、モールド樹脂部2523は、制御基板84上の電子部品の一部とは線膨張係数が有意に異なりうるため、線膨張係数差に起因した熱応力を電子部品に発生させる要因となりうる。特に、比較的繊細な導線を有するトランス502のような電子部品は、モールド樹脂部2523により封止されると、熱応力に起因してダメージを受けやすい傾向がある。
【0088】
この点、本実施例によれば、カバー部材70を設けることで、制御基板84のX2側の表面上の一部(例えば外径側の素子実装領域842上)にモールド樹脂部2523を延在させつつ、モールド樹脂部2523が延在しない空間部SP7を形成できる。これにより、モールド樹脂部2523との間で線膨張係数に有意差がある要素(例えば露出した銅線)を有する電子部品を、空間部SP7内に配置することで、当該電子部品を、油から保護するとともに、熱応力から保護することができる。すなわち、本実施例によれば、カバー部材70を設けることで、モールド樹脂部2523で封止された場合に熱応力に起因してダメージを受けやすい電子部品を、適切に保護できる。また、制御基板84における回転電機1のコイルエンド部322A近傍に配置されることに起因して電子部品が受けやすい熱衝撃に対しても、空間部SP7により低減できる。なお、このような観点から、空間部SP7に配置される電子部品は、トランス502等、モールド樹脂部2523で封止された場合に熱応力に起因してダメージを受けやすい電子部品であることが好適となる。
【0089】
本実施例において、カバー部材70は、好ましくは、径方向外側において、軸まわりの全周にわたって、制御基板84に軸方向に対向する軸方向の端面72を有する。この際、制御基板84に軸方向に対向する軸方向の端面72は、円環状のカバー部材70の全周にわたって形成されてよい。この場合、後述するモールド樹脂部2523に係る樹脂材料の注入工程の際に、樹脂材料が空間部SP7に侵入する可能性を低減できる。この可能性を更に低減するために、カバー部材70の軸方向の端面72と制御基板84との間に、シール部材(図示せず)が配置されてもよい。この場合、カバー部材70の軸方向の端面72と制御基板84との間に僅かな隙間が発生しうる場合でも、樹脂材料が空間部SP7に侵入する可能性を低減できる。このような構成は、モールド樹脂部2523に係る樹脂材料の粘性が低い場合に特に好適である。
【0090】
また、カバー部材70の軸方向の端面72は、制御基板84における素子非実装領域843に軸方向で対向又は当接してよい。素子非実装領域843は、電子部品が実装されていないがゆえに、平らな表面を有する。従って、カバー部材70の軸方向の端面72が制御基板84における素子非実装領域843に軸方向で対向又は当接することで、カバー部材70の端面72と制御基板84との間の密着性(すなわち空間部SP7への樹脂材料の侵入に対する防御性)を高めることができる。
【0091】
なお、制御基板84のX2側の表面は、軸方向で回転電機1に対して比較的近い位置で対向するので、回転電機1から受熱しやすくなる。この点、かかる受熱を低減するために、モールド樹脂部2523のうちの、モータ側の樹脂部25232は、比較的高い断熱性を有してもよい。他方、モールド樹脂部2523のうちの、インバータ側の樹脂部25231は、インバータモジュール90からの熱を効率的に冷却水路2528等の冷却水へと伝達すべく、比較的高い熱伝導性を有することが望ましい。従って、モールド樹脂部2523は、異なる2種類の樹脂材料により形成されてもよい。
【0092】
【0093】
本実施例では、ケース2は、制御基板84の径方向外側において、軸方向外側(X1側)に凹む凹部20を有する。凹部20は、制御基板84まわりの全周にわたって設けられてもよいが、
図5に示すように、制御基板84まわりの全周のうちの一部に局所的に設けられてもよい。すなわち、本実施例では、凹部20は、軸方向に視て、周壁部2522よりも径方向内側において、インバータ収容室SP2の少なくとも一部を囲む態様で延在する。本実施例では、凹部20は、モータカバー252に、X2側に開口する向きで形成される。
【0094】
凹部20のX1側の軸方向位置(すなわち凹部20の底部の軸方向位置)は、任意であるが、例えば、制御基板84よりもX1側であってよい。例えば、凹部20は、径方向に視て、パワーモジュール80やコンデンサモジュール82に重なってよい。凹部20のX1側の軸方向位置や形成範囲(容積)は、後述する必要なオーバーフロー受け機能を確保する観点から適合されてよい。凹部20のX1側の軸方向位置(すなわち凹部20の深さ)は、一定である必要はなく、凹部20の位置(制御基板84まわりの各位置)ごとに適宜異なってもよい。
【0095】
凹部20には、モールド樹脂部2523の一部(以下、「凹部内樹脂部25234」とも称する)が設けられる。凹部20は、上述したように制御基板84等を封止するモールド樹脂部2523を形成する際の、樹脂材料のオーバーフローを受ける機能(以下、「オーバーフロー受け機能」とも称する)を有する。具体的には、凹部20は、
図3Cに示すように、軸方向位置P1(第1軸方向位置の一例)にて終端する軸方向の壁部22により仕切られる空間部(樹脂材料のオーバーフローを受ける空間部)を形成する。壁部22の軸方向X1側の端部位置である軸方向位置P1は、壁部22の全体にわたって一定であってよい。軸方向の壁部22は、インバータ収容室SP2に隣接する態様で形成されてよい。すなわち、凹部20内の空間SP3は、インバータ収容室SP2に対して壁部22を介して径方向で仕切られてよい。
【0096】
凹部内樹脂部25234は、凹部20のうちの一部であるX1側端部に延在する。凹部内樹脂部25234は、出力バスバー887の締結部8874に接合し、締結部8874を固定する。この際、凹部内樹脂部25234は、締結用のボルトBT2(
図3C参照)の挿通可能とするモータカバー252の挿通孔2525よりもX1側に延在してよい。
【0097】
図6は、本実施例によるモールド樹脂部2523の形成方法の説明図である。
図6A~
図6Bは、モールド樹脂部2523に係る樹脂材料Rsの流れの説明図であり、
図6の一部を拡大した断面図である。
【0098】
本実施例によるモールド樹脂部2523は、モータカバー252に、モータ駆動装置8(インバータモジュール90及び制御基板84等)を組み付けた状態で、X方向を上下方向としかつX1側を下側とした姿勢で、形成される。具体的には、
図6に矢印R6で示すように、制御基板84の上側から樹脂材料Rsを流し込むことで形成される。なお、樹脂材料Rsは、任意であるが、熱硬化性樹脂材料であってよく、例えばエポキシ系の樹脂材料であってよい。
【0099】
なお、樹脂材料Rsの注入工程は、出力バスバー887の組み付け状態で実行される。従って、樹脂材料Rsの注入工程は、凹部20に出力バスバー887の締結部8874が延在する状態で、実行される。
【0100】
樹脂材料Rsは、
図6Aに模式的に示すように、制御基板84の上側の表面上を伝って水平方向に広がりつつ、自重により、インバータ収容室SP2のうちの制御基板84の下側の空間へと流れる(矢印R60参照)。なお、制御基板84は、制御基板84の下側の空間への樹脂材料Rsの流れを促進するスリット(軸方向に貫通する孔)を有してもよい。
【0101】
樹脂材料Rsの注入が更に進み、インバータ収容室SP2に係る空間部を樹脂材料Rsが埋めると、
図6Bに模式的に示すように、制御基板84の上側での樹脂材料Rsの高さ(液面)が上昇し、壁部22の高さに達する。すなわち、樹脂材料Rsが壁部22に対して溢れ出しかける。樹脂材料Rsの高さが壁部22の高さに達すると、その時点で又はその後まもなく、樹脂材料Rsの注入が停止されてよい。
【0102】
このようにして、本実施例では、制御基板84のX2側の表面のうちの、カバー部材70の突出部位71よりも径方向外側にも、モールド樹脂部2523を形成できる。この結果、モールド樹脂部2523により制御基板84上の外径側の素子実装領域842上の電子部品を封止できる。なお、モータ側の樹脂部25232は、壁部22の径方向内側を向く面に接合する。樹脂部25232の軸方向X2側の端部は、壁部22の軸方向位置P1と同じ軸方向位置(壁部22のX2側の端面に至る軸方向位置)まで延在する。
【0103】
本実施例では、樹脂材料Rsの高さが壁部22の高さに達すると、樹脂材料Rsの一部は、
図6Bにて矢印R61で模式的に示すように、壁部22を乗り越え(径方向外側へと移動し)、
図6Bにて矢印R62で模式的に示すように、自重により、凹部20内へと流動する。すなわち、壁部22に対して溢れ出した樹脂材料Rsは、自重により、凹部20内の底部に溜まる。これにより、凹部内樹脂部25234が形成される。
【0104】
このようにして本実施例では、ケース2の凹部20は、オーバーフロー受け機能を実現する。すなわち、凹部20は、インバータ収容室SP2に注入される樹脂材料Rsのうちの、壁部22を越えて溢れる樹脂材料Rsの部分を受け入れる。
【0105】
ここで、本実施例では、モールド樹脂部2523の形成時の姿勢において、壁部22の高さは、カバー部材70の突出部位71の高さよりも低い。すなわち、壁部22のX2側の軸方向位置P1は、突出部位71のX2側の軸方向位置P2(
図6A参照)(第2軸方向位置の一例)よりもX1側に距離ΔXだけオフセットする。従って、モールド樹脂部2523の形成時に、モールド樹脂部2523に係る樹脂材料を、軸方向でX2側へと突出部位71を越えない態様で、注入できる。すなわち、モールド樹脂部2523に係る樹脂材料が軸方向でX2側へと突出部位71を越える前に、壁部22に係るオーバーフロー受け機能が働き、モールド樹脂部2523に係る樹脂材料が軸方向でX2側へと突出部位71を越えて径方向内側へと流動してしまうこと(
図6Bの矢印R63)を適切に防止できる。その結果、突出部位71よりも径方向内側に位置するベアリング240に樹脂材料Rsが付着することを防止できる。
【0106】
なお、軸方向位置P2と軸方向位置P1の間の軸方向の距離ΔXは、上述した凹部20の構成とともに、必要なオーバーフロー受け機能を確保する観点から適合されてよい。
【0107】
ここで、
図7に示す比較例と対比して、本実施例の更なる効果を説明する。
図7は、比較例によるモールド樹脂部2523’の形成方法の説明図である。比較例では、モータカバー252がモータカバー252’で置換され、かつ、モールド樹脂部2523がモールド樹脂部2523’で置換された点が異なる。
【0108】
比較例によるモータカバー252’は、本実施例によるモータカバー252に対して、凹部20を備えていない点が異なる。また、比較例によるモールド樹脂部2523’は、本実施例によるモールド樹脂部2523に対して、凹部内樹脂部25234を備えていない点が異なる。
【0109】
比較例では、
図7に模式的に示すように、樹脂材料Rsを注入する際、凹部20を備えていない分だけ、突出部位71を乗り越えて径方向内側へと流動しやすくなる(矢印R72参照)。これは、比較例では、壁部22’を乗り越えて径方向外側へ溢れ出すことができる樹脂材料(矢印R71参照)の量が、本実施例に比べて有意に少なくなるためである。この点、樹脂材料Rsの高さ(X2側の軸方向位置)が上昇するにつれて、樹脂材料Rsの注入量を徐々に低減する対策が可能となるが、かかる対策では、モールド樹脂部2523の形成に要する工程時間(タクトタイム)が比較的長くなるという問題が生じる。
【0110】
これに対して、本実施例によれば、このような比較例で生じる各種不都合を低減できる。すなわち、本実施例によれば、壁部22を樹脂材料Rsが乗り越える時点又はその直前若しくはその直後まで、注入速度(単位時間あたりの注入量)を比較的大きくすることができる。これは、本実施例では、壁部22を樹脂材料Rsが乗り越えた時点又は直後で樹脂材料Rsの注入を停止したとしても、上述した凹部20のオーバーフロー受け機能に起因して、壁部22を乗り越えて径方向外側へ溢れ出す樹脂材料Rsの許容量が比較的大きいためである。
【0111】
このようにして本実施例によれば、モールド樹脂部2523の形成の効率化かつ容易化を図ることが可能となる。すなわち、モールド樹脂部2523の形成範囲を適切に規制しつつ、モールド樹脂部2523の形成に要する工程時間(タクトタイム)の短縮を図ることができる。
【0112】
次に、
図4A、
図5及び
図8等を参照して、出力バスバー887の締結部8874の固定構造について説明する。
図8は、
図5のQ5部を拡大して異なるビューで示す斜視図である。
【0113】
ところで、本実施例では、
図4A及び
図5に示すように、出力バスバー887は、比較的長尺の部材であり、締結部8874に至るまで、ケース2に対する直接的な支持点を有さない。このような比較的長い出力バスバー887のようなバスバーを搭載する場合、バスバー端部の位置安定性を高めることが難しい。
【0114】
この点、本実施例では、凹部20には、出力バスバー887の端部の締結部8874(
図4C参照)が配置され、締結部8874は、モールド樹脂部2523の一部である凹部内樹脂部25234により固定される。
【0115】
この場合、出力バスバー887の端部の締結部8874が凹部20内で凹部内樹脂部25234により固定されるので、出力バスバー887の端部の位置安定性を高めることができる。すなわち、本実施例によれば、上述したオーバーフロー受け機能に起因して形成される凹部内樹脂部25234を利用して、出力バスバー887の端部の位置安定性を高めることができる。
【0116】
以上、各実施例について詳述したが、特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。また、前述した実施例の構成要素を全部又は複数を組み合わせることも可能である。
【0117】
例えば、上述した実施例では、ベアリング240は、シャフト部314を回転可能に支持しているが、シャフト部314と一体回転する他の軸部材を回転可能に支持してもよい。
【0118】
上記の各実施例に関連して、以下の付記を開示する。
【0119】
[付記1]
ケースと、
前記ケース内に配置され、軸上に回転軸を有し、油が供給される回転電機と、
前記ケース内に配置され、軸まわりに円環状に延在し、前記回転電機に複数相の交流電力を供給するインバータ装置と、
前記ケース内において、基板表面が軸方向に対して垂直になる向きで、軸まわりに配置され、前記インバータ装置を制御する制御基板と、
前記ケース内において前記制御基板を封止し、軸方向で前記回転電機に近い側の第1軸方向位置まで延在するモールド樹脂部とを備え、
前記ケースは、前記制御基板の径方向外側において、軸方向で前記回転電機から遠い側に凹む凹部を有し、
前記凹部は、前記第1軸方向位置にて終端する軸方向の壁部を有し、
前記モールド樹脂部は、前記壁部における径方向内側に接合するとともに、前記凹部内に延在する、車両駆動装置。
【0120】
[付記2]
前記回転軸を又は前記回転軸と一体回転する軸部材を回転可能に前記ケースに対して支持するベアリングを更に備え、
前記ベアリングは、前記制御基板よりも前記回転電機の軸方向中心から離れる側、かつ、前記制御基板よりも径方向内側に、配置される、付記1に記載の車両駆動装置。
【符号の説明】
【0121】
10・・・車両駆動装置、1・・・回転電機、314・・・シャフト部(回転軸)、2・・・ケース、2521・・・底部(底壁部)、2522・・・周壁部、20・・・凹部、22・・・壁部、90・・・インバータモジュール(インバータ装置)、84・・・制御基板、502・・・トランス(電子部品)、240・・・ベアリング、70・・・カバー部材、71・・・突出部位、2523・・・モールド樹脂部、887・・・出力バスバー(バスバー)、SP2・・・インバータ収容室(収容室)、SP3・・・空間(凹部内の空間)