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特開2024-121556コンクリートポールの耐用性の評価方法、評価システム、およびそのプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121556
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】コンクリートポールの耐用性の評価方法、評価システム、およびそのプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 19/00 20060101AFI20240830BHJP
   G01N 29/12 20060101ALI20240830BHJP
   G01N 29/46 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
G01N19/00 D
G01N29/12
G01N29/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028714
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】000164438
【氏名又は名称】九州電力株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591005280
【氏名又は名称】九州高圧コンクリート工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100219483
【弁理士】
【氏名又は名称】宇野 智也
(72)【発明者】
【氏名】池田 博嗣
(72)【発明者】
【氏名】井手 健太
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA10
2G047AB01
2G047BC04
2G047BC07
2G047BC11
2G047GG12
2G047GG32
(57)【要約】
【課題】コンクリートポールの耐用性を評価するシステム等を提供する。
【解決手段】コンクリートポール1の振動に伴うコンクリートポール1の所定の位置における経時変化である時刻歴変化を測定する測定手段2と、時刻歴変化に対応する、減衰自由振動の所定の式を用いて求められる粘性cと剛性kを解析する解析手段321と、基準コンクリートポールの劣化に影響を与える物理的変化および化学的変化に伴い変動する粘性cおよび剛性kの耐用性判断領域と照合して、コンクリートポールの耐用性を算出する算出手段322と、を有するコンクリートポールの耐用性を評価するシステム101。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートポールの振動に伴う前記コンクリートポールの所定の位置における経時変化である時刻歴変化を測定する工程と、
前記時刻歴変化に対応する、減衰自由振動の下記式(1)を満足する解の下記式(2-1)~(2-3)のいずれかを整合させることにより求められる粘性cと剛性kを解析する工程と、
基準コンクリートポールの劣化に影響を与える物理的変化および化学的変化に伴い変動する粘性cおよび剛性kの耐用性判断領域と照合して、コンクリートポールの耐用性を算出する工程と、を有するコンクリートポールの耐用性を評価する方法。
m・d2X/dt2+c・dX/dt+kX=0 ・・・式(1)
前記式(1)において、m:質量、c:粘性、k:剛性、X:変位、dX/dt:速度、d2X/dt2:加速度である。
X =A1・EXP(-h・ω0・t)・sin(ωd・t+φ1)
・・・式(2-1)
dX/dt =A1・A2・EXP(-h・ω0・t)・sin(ωd・t+φ1+φ2)
・・・式(2-2)
2X/dt2=A1・A2・A3・EXP(-h・ω0・t)・sin(ωd・t+φ1+2・φ2)
・・・式(2-3)
前記式(2-1)~(2-3)の一般解において、X:変位、dX/dt:速度、d2X/dt2:加速度、A1~A3:振幅、h:減衰定数、ω0:固有振動数、ωd:減衰振動時の固有振動数、φ1~φ2:位相角である。
【請求項2】
前記耐用性判断領域が、前記基準コンクリートポールの製造から破壊時点までを繰り返し載荷させた場合の粘性c・剛性kの解析値に基づいて作成された繰返し載荷曲線と破壊線で囲まれたものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記測定する工程で測定した前記時刻歴変化をフーリエ変換してスペクトル解析した測定結果と、
前記解析する工程で解析した粘性cと剛性kを用いてシミュレーションにより再現した時刻歴変化をフーリエ変換してスペクトル解析したシミュレーション結果との、スペクトル解析の結果を比較して、前記粘性cおよび前記剛性kを適用する信頼性を確認する工程を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
コンクリートポールの振動に伴う前記コンクリートポールの所定の位置における経時変化である時刻歴変化を測定する測定手段と、
前記時刻歴変化に対応する、減衰自由振動の下記式(1)を満足する解の下記式(2-1)~(2-3)のいずれかを整合させることにより求められる粘性cと剛性kを解析する解析手段と、
基準コンクリートポールの劣化に影響を与える物理的変化および化学的変化に伴い変動する粘性cおよび剛性kの耐用性判断領域と照合して、コンクリートポールの耐用性を算出する算出手段と、を有するコンクリートポールの耐用性を評価するシステム。
m・d2X/dt2+c・dX/dt+kX=0 ・・・式(1)
前記式(1)において、m:質量、c:粘性、k:剛性、X:変位、dX/dt:速度、d2X/dt2:加速度である。
X =A1・EXP(-h・ω0・t)・sin(ωd・t+φ1)
・・・式(2-1)
dX/dt =A1・A2・EXP(-h・ω0・t)・sin(ωd・t+φ1+φ2)
・・・式(2-2)
2X/dt2=A1・A2・A3・EXP(-h・ω0・t)・sin(ωd・t+φ1+2・φ2)
・・・式(2-3)
前記式(2-1)~(2-3)の一般解において、X:変位、dX/dt:速度、d2X/dt2:加速度、A1~A3:振幅、h:減衰定数、ω0:固有振動数、ωd:減衰振動時の固有振動数、φ1~φ2:位相角である。
【請求項5】
コンクリートポールの耐用性を評価するためのプログラムであり、
測定手段で測定した、コンクリートポールの振動に伴う前記コンクリートポールの所定の位置における経時変化である時刻歴変化に対応する、減衰自由振動の下記式(1)を満足する解の下記式(2-1)~(2-3)のいずれかを整合させることにより求められる粘性cと剛性kを解析する解析手段と、
基準コンクリートポールの劣化に影響を与える物理的変化および化学的変化に伴い変動する粘性cおよび剛性kの耐用性判断領域と照合して、コンクリートポールの耐用性を算出する算出手段としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
m・d2X/dt2+c・dX/dt+kX=0 ・・・式(1)
前記式(1)において、m:質量、c:粘性、k:剛性、X:変位、dX/dt:速度、d2X/dt2:加速度である。
X =A1・EXP(-h・ω0・t)・sin(ωd・t+φ1)
・・・式(2-1)
dX/dt =A1・A2・EXP(-h・ω0・t)・sin(ωd・t+φ1+φ2)
・・・式(2-2)
2X/dt2=A1・A2・A3・EXP(-h・ω0・t)・sin(ωd・t+φ1+2・φ2)
・・・式(2-3)
前記式(2-1)~(2-3)の一般解において、X:変位、dX/dt:速度、d2X/dt2:加速度、A1~A3:振幅、h:減衰定数、ω0:固有振動数、ωd:減衰振動時の固有振動数、φ1~φ2:位相角である。
【請求項6】
コンクリートポールの耐用性を評価する方法であり、
コンクリートポールの振動に伴う前記コンクリートポールの所定の位置における経時変化である時刻歴変化を測定する工程と、
前記時刻歴変化をフーリエ変換して応答スペクトルを得る工程と、
前記応答スペクトルの固有周期および/または固有周期での応答値を含む解析値を取得する工程と、
前記解析値を、前記コンクリートポールの基準コンクリートポールの耐用性スペクトル回帰式にあてはめて、前記コンクリートポールの耐用性を算出する工程と、を有する、評価方法。
【請求項7】
前記耐用性スペクトル回帰式が、予め前記基準コンクリートポールのひび割れ試験荷重の2倍の荷重による曲げ試験と、前記曲げ試験後の振動試験とを複数回行って得られたものであり、
前記耐用性を算出する工程で、前記耐用性スペクトル回帰式に、前記コンクリートポールの解析値を当てはめて、前記耐用性を算出するものである、請求項6に記載の評価方法。
【請求項8】
コンクリートポールの耐用性の評価システムであり、
コンクリートポールの振動に伴う前記コンクリートポールの所定の位置における変位の経時変化である時刻歴変化を測定する測定手段と、
前記時刻歴変化をフーリエ変換して応答スペクトルを得る振動解析手段と、
前記応答スペクトルの固有周期および/または固有周期での応答値を含む解析値を取得するスペクトル解析手段と、
前記解析値を、前記コンクリートポールの基準コンクリートポールの耐用性スペクトル回帰式に当てはめて、前記コンクリートポールの耐用性を算出する算出手段と、を有する、評価システム。
【請求項9】
コンクリートポールの耐用性を評価するためのプログラムであり、
コンクリートポールの振動に伴う前記コンクリートポールの所定の位置における経時変化である時刻歴変化を測定する測定手段により測定された時刻歴変化をフーリエ変換して応答スペクトルを得る振動解析手段と、
前記応答スペクトルの固有周期および/または固有周期での応答値を含む解析値を取得するスペクトル解析手段と、
前記解析値を、前記コンクリートポールの基準コンクリートポールの耐用性スペクトル回帰式と照合して、前記コンクリートポールの耐用性を算出する算出手段としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコンクリートポールの耐用性の評価方法に関する。また、本発明は、コンクリートポールの耐用性の評価システムに関する。また、本発明は、コンクリートポールの耐用性を評価するためのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートポールは、配電柱や電話通信柱などとして用いられている。電線の架線のためにコンクリートポールなどの電柱が広く使用されている。近年、景観などの観点から、電線を埋設式とすることも行われている。しかし、電柱は、埋設式よりもコストが低い。このため、配線の拡張や増設、撤去、災害からの復旧においては、依然として電柱も広く利用されている。
【0003】
一定期間、敷設されている電柱の評価方法としては、ひび割れ・表面あれ等の劣化変状の種類毎の劣化レベルや、外観などから総合的な評価などが行われている。また、特許文献1、2などの文献なども開示されている。
【0004】
特許文献1は、電柱の外周囲に沿って配され、一端で互いに蝶番により連結されているリング状のフレームと、該フレームの周方向における相互に間隔をおいた複数個所にそれぞれ径方向内方に突出して設けられ、前記電柱との間に弾性力を作用させる複数個の固定用バネと、前記フレーム上に互いに対向し、かつ周方向へ移動可能に設けられた一対のセンサ取付部と、該センサ取付部にそれぞれ前記フレームの径方向に移動可能に支持された劣化診断用センサと、該劣化診断用センサを前記センサ取付部上で前記フレームの径方向へ移動させるセンサ押付手段と、前記一対のセンサ取付部をお互いに対向させたまま、前記フレームの周方向へ移動させる駆動手段とからなることを特徴とする電柱劣化診断装置を開示している。
【0005】
特許文献2は、電柱もしくは電話柱の上端近辺を拘束する工程(a)と、前記電柱もしくは前記電話柱を打撃し、振動させる工程(b)と、前記電柱もしくは前記電話柱を振動させた際の固有振動数を測定する工程(c)と、前記固有振動数に基づき、前記電柱もしくは前記電話柱の健全度を判定する工程(d)と、を有することを特徴とする電柱もしくは電話柱の健全度判定方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実全平03-072352号公報
【特許文献2】特開2006-250682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
コンクリートポールは、送電線や配電線の電柱等にも、広く利用されている。一方で、設置から長期間が経った電柱も多くなってきている。高経年のコンクリート配電柱は、国の方針によると、65年以上が取替え検討対象として検討されている。
【0008】
電柱は様々な種類があるが、地域によっては、自然災害などの対策として、耐久性が高いものが設置されている。例えば、台風災害の影響を受けやすい地域では、その影響を考慮し、他の地域よりも高強度な設計及び高靭性な設計を採用している場合もあり、電柱によっては、65年を経過しても十分に利用可能と推測される。一方で、台風や、地震、事故などで過度の負荷がかかっている場合、問題なく立設しているように見えても、耐用性は想定よりも低下している場合もある。このため、実態に合った劣化データ等の知見に基づいていわゆる寿命に相当するような耐用性を想定することは重要である。
【0009】
特許文献1、2のように電柱も想定した評価手法が検討されているが、これらは、設置直後に過剰な負荷がかかったときや初期不良のときなど、電柱に明らかな異常があるときは発見できる可能性もあるが、破壊されるまでの指標が無く、いつまで利用できるかの評価はできない。
【0010】
また、コンクリートポール診断士テキストは、現行配電柱の取替え評価基準は、ひび割れ・表面あれ等の「劣化変状の種類」毎に定められた「劣化レベル(通常はIV・V)」に、塩害・凍害等の「周辺環境」等を加味して最終的な判断を提案している。この評価基準は、外観目視で調査できる範囲とし、非破壊試験装置を用いた評価は対象外としている。この評価基準を用いると、65年を経過した配電柱に変状が現れない「劣化レベルI」の場合は、「観察」対象と判定され、取替対象とならない。
【0011】
このような状況下、電柱ごとに、その耐用性を定量的に説明することが求められている。しかし、従来の評価基準を適用しても、正常品との違いまでは評価することができる場合があるものの、いわゆる寿命の目安となるような耐用性は評価できない。かかる状況下、本発明は、電柱などのコンクリートポールの耐用性を評価する方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
【0013】
<A1> コンクリートポールの振動に伴う前記コンクリートポールの所定の位置における経時変化である時刻歴変化を測定する工程と、前記時刻歴変化に対応する、減衰自由振動の下記式(1)を満足する解の下記式(2-1)~(2-3)のいずれかを整合させることにより求められる粘性cと剛性kを解析する工程と、基準コンクリートポールの劣化に影響を与える物理的変化および化学的変化に伴い変動する粘性cおよび剛性kの耐用性判断領域と照合して、コンクリートポールの耐用性を算出する工程と、を有するコンクリートポールの耐用性を評価する方法。
m・d2X/dt2+c・dX/dt+kX=0 ・・・式(1)
前記式(1)において、m:質量、c:粘性、k:剛性、X:変位、dX/dt:速度、d2X/dt2:加速度である。
X =A1・EXP(-h・ω0・t)・sin(ωd・t+φ1)
・・・式(2-1)
dX/dt =A1・A2・EXP(-h・ω0・t)・sin(ωd・t+φ1+φ2)
・・・式(2-2)
2X/dt2=A1・A2・A3・EXP(-h・ω0・t)・sin(ωd・t+φ1+2・φ2)
・・・式(2-3)
前記式(2-1)~(2-3)の一般解において、X:変位、dX/dt:速度、d2X/dt2:加速度、A1~A3:振幅、h:減衰定数、ω0:固有振動数、ωd:減衰振動時の固有振動数、φ1~φ2:位相角である。
<A2>前記耐用性判断領域が、前記基準コンクリートポールの製造から破壊時点までを繰り返し載荷させた場合の粘性c・剛性kの解析値に基づいて作成された繰返し載荷曲線と破壊線で囲まれたものである、前記<A1>に記載の方法。
<A3>前記測定する工程で測定した前記時刻歴変化をフーリエ変換してスペクトル解析した測定結果と、前記解析する工程で解析した粘性cと剛性kを用いてシミュレーションにより再現した時刻歴変化をフーリエ変換してスペクトル解析したシミュレーション結果との、スペクトル解析の結果を比較して、前記粘性cおよび前記剛性kを適用する信頼性を確認する工程を有する、前記<A1>または<A2>に記載の方法。
<A4>コンクリートポールの振動に伴う前記コンクリートポールの所定の位置における経時変化である時刻歴変化を測定する測定手段と、前記時刻歴変化に対応する、減衰自由振動の式(1)を満足する解の式(2-1)~(2-3)のいずれかを整合させることにより求められる粘性cと剛性kを解析する解析手段と、基準コンクリートポールの劣化に影響を与える物理的変化および化学的変化に伴い変動する粘性cおよび剛性kの耐用性判断領域と照合して、コンクリートポールの耐用性を算出する算出手段と、を有するコンクリートポールの耐用性を評価するシステム。
<A5>コンクリートポールの耐用性を評価するためのプログラムであり、測定手段で測定した、コンクリートポールの振動に伴う前記コンクリートポールの所定の位置における経時変化である時刻歴変化に対応する、減衰自由振動の式(1)を満足する解の式(2-1)~(2-3)のいずれかを整合させることにより求められる粘性cと剛性kを解析する解析手段と、基準コンクリートポールの劣化に影響を与える物理的変化および化学的変化に伴い変動する粘性cおよび剛性kの耐用性判断領域と照合して、コンクリートポールの耐用性を算出する算出手段としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【0014】
<B1>コンクリートポールの耐用性を評価する方法であり、コンクリートポールの振動に伴う前記コンクリートポールの所定の位置における経時変化である時刻歴変化を測定する工程と、前記時刻歴変化をフーリエ変換して応答スペクトルを得る工程と、前記応答スペクトルの固有周期および/または固有周期での応答値を含む解析値を取得する工程と、前記解析値を、前記コンクリートポールの基準コンクリートポールの耐用性スペクトル回帰式にあてはめて、前記コンクリートポールの耐用性を算出する工程と、を有する、評価方法。
<B2>前記耐用性スペクトル回帰式が、予め前記基準コンクリートポールの試験荷重の2倍の荷重による曲げ試験と、前記曲げ試験後の振動試験とを複数回行って得られたものであり、前記耐用性を算出する工程で、前記耐用性スペクトル回帰式に、前記コンクリートポールの解析値を当てはめて、前記耐用性を算出するものである、前記<B1>に記載の評価方法。
<B3>コンクリートポールの耐用性の評価システムであり、コンクリートポールの振動に伴う前記コンクリートポールの所定の位置における変位の経時変化である時刻歴変化を測定する測定手段と、前記時刻歴変化をフーリエ変換して応答スペクトルを得る振動解析手段と、前記応答スペクトルの固有周期および/または固有周期での応答値を含む解析値を取得するスペクトル解析手段と、前記解析値を、前記コンクリートポールの基準コンクリートポールの耐用性スペクトル回帰式に当てはめて、前記コンクリートポールの耐用性を算出する算出手段と、を有する、評価システム。
<B4>コンクリートポールの耐用性を評価するためのプログラムであり、コンクリートポールの振動に伴う前記コンクリートポールの所定の位置における経時変化である時刻歴変化を測定する測定手段により測定された時刻歴変化をフーリエ変換して応答スペクトルを得る振動解析手段と、前記応答スペクトルの固有周期および/または固有周期での応答値を含む解析値を取得するスペクトル解析手段と、前記解析値を、前記コンクリートポールの基準コンクリートポールの耐用性スペクトル回帰式と照合して、前記コンクリートポールの耐用性を算出する算出手段としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、コンクリートポールの耐用性を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第一の評価システムの実施形態を示す概要図である。
図2】本発明の第一の評価方法の一例を示すフロー図である。
図3】本発明の解析のための試験の状態などを示す概要図である。
図4】本発明の第一の評価システム等に関する知見に関する概要図である。
図5】本発明の第一の評価方法等を行うためのフィッティングパラメータを求めるフロー図である。
図6】本発明の第一の評価方法等のための粘性cと剛性kの評価例を示すグラフである。
図7】本発明の第二の評価システムの実施形態を示す概要図である。
図8】本発明の第二の評価方法の一例を示すフロー図である。
図9】本発明の第二の評価システム等の関する概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を変更しない限り、以下の内容に限定されない。なお、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値を含む表現として用いる。
【0018】
[本発明の電柱の耐用性の評価方法(本発明の第一の評価方法)]
本発明の第一の評価方法は、コンクリートポールの振動に伴う前記コンクリートポールの所定の位置における経時変化である時刻歴変化を測定する工程と、前記時刻歴変化に対応する、減衰自由振動の下記式(1)を満足する解の下記式(2-1)~(2-3)のいずれかを整合させることにより求められる粘性cと剛性kを解析する工程と、基準コンクリートポールの劣化に影響を与える物理的変化および化学的変化に伴い変動する粘性cおよび剛性kの耐用性判断領域と照合して、コンクリートポールの耐用性を算出する工程と、を有するコンクリートポールの耐用性を評価する方法である。
【0019】
m・d2X/dt2+c・dX/dt+kX=0 ・・・式(1)
前記式(1)において、m:質量、c:粘性、k:剛性、X:変位、dX/dt:速度、d2X/dt2:加速度である。
【0020】
X =A1・EXP(-h・ω0・t)・sin(ωd・t+φ1)
・・・式(2-1)
dX/dt =A1・A2・EXP(-h・ω0・t)・sin(ωd・t+φ1+φ2)
・・・式(2-2)
2X/dt2=A1・A2・A3・EXP(-h・ω0・t)・sin(ωd・t+φ1+2・φ2)
・・・式(2-3)
前記式(2-1)~(2-3)の一般解において、X:変位、dX/dt:速度、d2X/dt2:加速度、A1~A3:振幅、h:減衰定数、ω0:固有振動数、ωd:減衰振動時の固有振動数、φ1~φ2:位相角である。
【0021】
[本発明の電柱の耐用性の評価システム(本発明の第一の評価システム)]
本発明の第一の評価システムは、コンクリートポールの振動に伴う前記コンクリートポールの所定の位置における経時変化である時刻歴変化を測定する測定手段と、前記時刻歴変化に対応する、減衰自由振動の式(1)を満足する解の式(2-1)~(2-3)のいずれかを整合させることにより求められる粘性cと剛性kを解析する解析手段と、基準コンクリートポールの劣化に影響を与える物理的変化および化学的変化に伴い変動する粘性cおよび剛性kの耐用性判断領域と照合して、コンクリートポールの耐用性を算出する算出手段と、を有するコンクリートポールの耐用性を評価するシステムである。
【0022】
[本発明の第一のプログラム]
本発明の第一のプログラムは、コンクリートポールの耐用性を評価するためのプログラムであり、測定手段で測定した、コンクリートポールの振動に伴う前記コンクリートポールの所定の位置における経時変化である時刻歴変化に対応する、減衰自由振動の式(1)を満足する解の式(2-1)~(2-3)のいずれかを整合させることにより求められる粘性cと剛性kを解析する解析手段と、基準コンクリートポールの劣化に影響を与える物理的変化および化学的変化に伴い変動する粘性cおよび剛性kの耐用性判断領域と照合して、コンクリートポールの耐用性を算出する算出手段としてコンピュータを機能させるためのプログラムである。
【0023】
[本発明の電柱の耐用性の評価方法(本発明の第二の評価方法)]
本発明の第二の評価方法は、コンクリートポールの耐用性を評価する方法であり、コンクリートポールの振動に伴う前記コンクリートポールの所定の位置における経時変化である時刻歴変化を測定する工程と、前記時刻歴変化をフーリエ変換して応答スペクトルを得る工程と、前記応答スペクトルの固有周期および/または固有周期での応答値を含む解析値を取得する工程と、前記解析値を、前記コンクリートポールの基準コンクリートポールの耐用性スペクトル回帰式にあてはめて、前記コンクリートポールの耐用性を算出する工程と、を有する、評価方法である。本発明の評価方法によれば、電柱の耐用性を評価することができる。
【0024】
[本発明の電柱の耐用性の評価システム(本発明の第二の評価システム)]
本発明の第二の評価システムは、コンクリートポールの耐用性の評価システムであり、コンクリートポールの振動に伴う前記コンクリートポールの所定の位置における変位の経時変化である時刻歴変化を測定する測定手段と、前記時刻歴変化をフーリエ変換して応答スペクトルを得る振動解析手段と、前記応答スペクトルの固有周期および/または固有周期での応答値を含む解析値を取得するスペクトル解析手段と、前記解析値を、前記コンクリートポールの基準コンクリートポールの耐用性スペクトル回帰式に当てはめて、前記コンクリートポールの耐用性を算出する算出手段と、を有する、評価システム、を有する。本発明の評価システムによれば、電柱の耐用性を評価することができる。
【0025】
[本発明の第二のプログラム]
本発明の第二のプログラムは、コンクリートポールの耐用性を評価するためのプログラムであり、コンクリートポールの振動に伴う前記コンクリートポールの所定の位置における経時変化である時刻歴変化を測定する測定手段により測定された時刻歴変化をフーリエ変換して応答スペクトルを得る振動解析手段と、前記応答スペクトルの固有周期および/または固有周期での応答値を含む解析値を取得するスペクトル解析手段と、前記解析値を、前記コンクリートポールの基準コンクリートポールの耐用性スペクトル回帰式と照合して、前記コンクリートポールの耐用性を算出する算出手段としてコンピュータを機能させるためのプログラムである。本発明のプログラムを用いて、電柱の耐用性を評価することができる。
【0026】
なお、本願において本発明の第一の評価システムにより本発明の第一の評価方法を行うこともでき、本発明の第一のプログラムは本発明の第一の評価方法や本発明の第一の評価システムに用いることもできる。また、本願において本発明の第二の評価システムにより本発明の第二の評価方法を行うこともでき、本発明の第二のプログラムは本発明の第二の評価方法や本発明の第二の評価システムに用いることもできる。また、これらは、電柱の振動に伴う情報を用いて電柱の耐用性を評価する点で互いに関連する部分を有し、本願においてそれぞれに対応する構成は相互に利用することができる。
【0027】
本発明者らは、取替える電柱などのコンクリートポールの定量的な判断基準を設定することを目的として、電柱の劣化指標の評価手法を検討した。その結果、立設している電柱の振動試験より得られた時刻歴加速度などを解析することで、電柱の劣化の時系列変化を捉えることに成功し、これを高経年の電柱の劣化判断の手法として、利用できることを見出した。
【0028】
本発明者らは、電柱のひび割れ試験荷重の2倍等を連続して繰り返し載荷する曲げ試験ができる専用の設備を準備し、電柱の繰り返し載荷試験を行った。電柱は、電柱ごとにひび割れ試験荷重の2倍以上で折損を想定した設計がなされている。そのひび割れ試験荷重の2倍をかけても直ちに折損されるものではなく、複数回、ある荷重を負荷することで、疲労破壊する。電柱の評価にあたって、電柱にひび割れ試験荷重の2倍をかける曲げ試験を行った。そして、その曲げ試験を行って、損傷が蓄積した電柱で、振動試験を行った。
【0029】
なお、電柱などのコンクリートポールの評価に関する荷重の名称は、次のようなものがある。
「ひび割れ試験荷重」は、一般的には「設計荷重」とも呼ばれて、「P」の記号で表される。
「弾性荷重」は、ひびが入り始める荷重であり、「約2/4P」の記号で表される。
「破壊荷重」は、ひび割れ試験荷重Pの2倍以上である。
また、実際に折損するときの荷重は、約2.3P程度である。コンクリートや鉄筋には、個体に応じてバラつきがあり、材料に安全率をみているためである。
【0030】
[第一の知見]
振動試験により得られる時刻歴加速度を再現する4個のパラメータ(A:振幅、h:減衰定数、ω0:固有振動数、φ:位相角)より得られる粘性c、剛性kを特定する解析を行った結果、粘性cと剛性kに、詳しくは図4等に基づいて後述するように、製造後間もない電柱に曲げ試験による荷重付加した時の変化と、製造後に経年変化した電柱に曲げ試験による荷重付加した時の変化とに、一定の傾向がみられることがわかった。
【0031】
製造後間もない電柱が破壊されたときの粘性c・剛性kには、繰り返し載荷直線ともいえる精度の高い回帰直線がみられ、経年変化後の電柱が破壊されたときの粘性c・剛性kには、繰り返し載荷直線の途中から緩い勾配になる回帰線がみられることが分かった。
【0032】
繰り返し載荷直線と緩い勾配の回帰線で囲まれた三角形は、耐用性判断領域と定義し、耐用性判断領域における残りの直線は、繰り返し載荷曲線に直行した線で、破壊線とも呼べるようなものとなることが分かった。
【0033】
このことから、基準柱の製造から破壊時点までを繰り返し載荷させた場合の粘性c・剛性kの解析値に基づいて作成された耐用性判断領域として利用できることを見出した。
【0034】
すなわち、試験電柱の振動に伴う時刻歴加速度などを取得し、この時刻歴加速度を再現する4個のパラメータ(A:振幅、h:減衰定数、ω0:固有振動数、φ:位相角)より得られる粘性c、剛性kを特定して、その粘性c、剛性kを、基準コンクリートポールの既知試験データの耐用性判断領域と比較し照合することで、試験電柱の耐用性の状態を把握することができる。
【0035】
[第二の知見]
振動試験に伴う時刻歴加速度をスペクトル解析したとき、その応答スペクトルは、疲労に伴い、ピーク値が小さくなり、周期が大きくなり、これは電柱が折損するまで連続的なものであることが確認された。
【0036】
すなわち、評価したい電柱の振動に伴う時刻歴変化をスペクトル解析して、その解析結果を、その電柱の基準となる電柱のデータと比較すれば、折損するまでのどのような状態に相当するかを把握できることがわかった。このため、単に、正常品と同等か、異常かのみの判断でなく、正常品と相違があるとしても、その状態が、残りの耐用性としてどの程度の負荷や期間に耐えられるかの耐用性を把握することができる。
【0037】
耐用性の評価を行えば、例えば、期間を目安とする設置してから65年程度経過している電柱であっても、損傷の原因となる負荷がほとんどかかっておらず継続して利用できるものか、あるいは、損傷の原因となる負荷により早期取り換えが必要なものかなども判断することができる。本発明は、このような知見に基づく。
【0038】
[第一の実施形態]
図1は、本発明の評価システムの第一の実施形態を示す概要図である。評価システム101は、電柱1の耐用性を評価するシステムである。評価システム101は、電柱に取り付けた測定手段2と、測定手段2の測定結果を処理する処理部301とを有する。
【0039】
[評価方法のフロー]
図2は、本発明の評価方法の一例を示すフロー図である。本発明の評価方法は、電柱の耐用性の評価方法であり、例えば、図2に示すフロー図のように次のように行うことができる。
ステップS11は、電柱の振動に伴う電柱の所定の位置における変位や速度、加速度などの経時変化である時刻歴変化を測定する工程である。
ステップS21は、時刻歴変化に基づいて、測定した電柱の粘性cと剛性kを解析する工程である。
ステップS31は、測定した粘性cと剛性kから、耐用性判断領域に当てはめて、耐用性を算出する工程である。
ステップS41は、このようにして算出された電柱の耐用性を表示するものである。
【0040】
[コンクリートポール1]
本発明は、電柱などのコンクリートポールの耐用性を評価するためのものである。コンクリートポールは、配電柱や、電話通信柱、携帯・無線基地局、鉄道用柱、照明柱、防球ネット、防砂ネット、防災無線、デザイン柱などに用いられている。コンクリートポールは、より具体的には、送電・配電のための電柱・電力柱や、通信のための電柱・電話柱・電信柱、電気鉄道の架線ための架線柱を含む。本発明は、特に、プレストレストコンクリートの電柱を対象とすることができる。
【0041】
電柱は、設置場所や目的などに応じて、様々な種類があるが、電柱の製造会社内などで複数種の規格化された電柱などを製造・販売している。本発明は、評価対象の電柱と、同種の電柱を基準コンクリートポールとして、その耐用性判断領域等を用いることで、各種の電柱を対象とすることができる。
【0042】
[測定手段2]
測定手段は、電柱の振動に伴う電柱の所定の位置における経時変化である時刻歴変化を測定するための手段である。
【0043】
[振動]
電柱の振動は、任意の振動によるもので良い。電柱は、地上に立設しているため、さまざまな影響で振動する。この振動としては、電柱をたたいたり押したりすることで意図的に振動させてもよいし、車両の通過等による地面からの振動や、突風などによる振動などの周辺環境によって生じる振動でもよい。
【0044】
[変化]
測定対象の変化は、振動に伴うセンサの設置位置における変化であればよく、変位や、速度の変化、加速度の変化などを対象とすることができる。測定対象の変化(変位や、速度、加速度)に合わせて任意のセンサを採用することができる。振動に伴って生じる変位の程度と、その検出しやすさから、加速度センサで検出できる加速度を測定することが好ましい。また、連続するデジタル画像の変化から得られる変位でも良い。
【0045】
[所定の位置]
変位や速度、加速度といった時刻歴変化は、電柱の所定の高さの位置で検出する。この所定の位置は、電柱が長い柱であり、地面に立設していることから、その電柱の高さ方向のいずれの位置かによって、変化量が変動する。スペクトル解析では、この位置の違いが応答値の大きさに現れる。しかしながら、粘性c・剛性kのグラフでは、電柱の所定の計測位置および電柱に作用させる荷重には影響しない。具体的には、例えば、電柱の高さ方向のいずれの位置(図1における高さh1)で測定したかに関らず、その測定結果に対応することができる耐用性判断領域を有する範囲で設定する。なお、本発明の第一の評価方法等で用いる、粘性c・剛性kのグラフを利用する耐用性判断領域で判断する場合は、電柱に与える荷重や計測位置は、任意の状態で検出しても、同じグラフで評価できる。
【0046】
具体的な検出を行う位置は、利便性を考慮して、地面からの高さ1~1.5m程度の胸高を目安として設定することが好ましい。検出する位置が地面に近すぎる場合、振幅が小さく変化を取得しにくい恐れがある。検出する位置が高すぎる場合、振幅が大きい点などでは有利であるが、取り付けるために専用の治具の利用や電柱に登って作業する必要がある。このため、人が容易に取り付けることができ、本発明の評価等を行うために十分な振幅が生じる高さで検出することが好ましい。
【0047】
[時刻歴変化]
時刻歴変化は、電柱の振動に伴う経時変化である。時刻歴変化は、変位や、速度、加速度などの振動に伴い変換するものを検出でき、いずれかのみでもよいし、複数を用いてもよい。
時刻歴変化のサンプリングタイムや、検出感度は、測定する変化に応じて粘性c・剛性kの解析や、スペクトル解析できるものであればよい。これらの解析ができるとは、応答値のピーク(応答スペクトルの固有周期および/または固有周期での応答値)が明確に表れることをいう。
【0048】
例えば、サンプリングタイムは、0.02秒以内程度(好ましくは0.01秒以内)で、20秒以上(通常検出可能な程度の減衰が停止する目安)の経時変化分を収集することが好ましい。
検出感度は、例えば、時刻歴変化として時刻歴加速度を検出する場合、素柱電柱先端の加速度を計測する低感度の場合は0.05~50m/S2程度、素柱電柱地際や供用柱の加速度を計測する高感度の場合は0.01~10m/S2程度とすることが好ましい。
【0049】
図3は、電柱の振動試験と、曲げ試験、またそれに伴う時刻歴変化として時刻歴加速度の採取例を示す図である。ここでは、電柱に加速度センサを取り付けて、振動に伴う時刻歴加速度を測定した例である。時刻歴加速度は、例えば、時間(X軸)における、加速度(Y軸)の変動として測定される。この測定された時刻歴加速度は、適宜、記憶手段に保存される。
【0050】
[粘性c・剛性k解析手段321]
粘性c・剛性k解析手段321は、時刻歴変位、時刻歴速度、および時刻歴加速度のいずれかである時刻歴変化に対応する、式(1)、式(2-1)~式(2-3)を満足する減衰自由振動の解を求めて「粘性c」と「剛性k」を解析するための部分である。なお、式(2-1)~(2-3)は、時刻歴変化として、変位、速度、加速度のいずれを測定したかによって、その測定データに対応する式を利用する。なお、速度は変位の微分であり、加速度は速度の微分であることから、これらは互いに関連性がある。よって、式(2-1)が成立する場合、式(2-2)、式(2-3)もそれぞれ成立する関係となる。また、それぞれの式を計算することで、式(1)との関係を処理しやすい場合や、信頼性を向上できる場合がある。よって、これらの式(2-1)~式(2-3)は組み合わせて、複数を用いたり、すべてを用いて解析を行ってもよい。
【0051】
[式(1)]
m・d2X/dt2+c・dX/dt+kX=0 ・・・式(1)
式(1)において、m:質量、c:粘性、k:剛性、X:変位、dX/dT:速度、d2X/dt2:加速度、である。
【0052】
[式(2-1)~式(2-3)]
X =A1・EXP(-h・ω0・t)・sin(ωd・t+φ1)
・・・式(2-1)
【0053】
dX/dt =A1・A2・EXP(-h・ω0・t)・sin(ωd・t+φ1+φ2)
・・・式(2-2)
【0054】
2X/dt2=A1・A2・A3・EXP(-h・ω0・t)・sin(ωd・t+φ1+2・φ2)
・・・式(2-3)
【0055】
前記式(2-1)~(2-3)の一般解において、X:変位、dX/dt:速度、d2X/dt2:加速度、A1~A3:振幅、h:減衰定数、ω0:固有振動数、ωd:減衰振動時の固有振動数、φ1、φ2:位相角である。
【0056】
なお、この式(1)、式(2-1)~(2-3)を満足する減衰自由振動の解は、例えば、図5に示すフローで求めることができる。これは、例えばマイクロソフト社のExcel(登録商標)などの表計算ソフトのプログラムとして行うことなどができる。この解析は、各係数を代入法で算出するものであり、適宜、マクロ機能も利用する。
【0057】
このフローは、まず、実験で得た試験電柱などの時刻歴加速度d2X/dt2を、予め作成したこのフローを行うためのプログラムに入力する。
なお、ここでは、実験で得た時刻歴加速度を「XX(t)」と表記し、微分方程式の解である時刻歴の加速度を「d2X/dt2」として説明する。
【0058】
次に、初期値の設定を行う。例えば、振幅A=4、位相角φ=0を設定する。
【0059】
そして、各変数を探索するための代入のループを開始する。例えば、固有振動数ω0=10~20で設定する。
【0060】
次に、設定した変数で計算した時刻歴加速度d2X/dt2を式(2)に入力する。
2X/dt2=A・EXP(-h・ω0・t)・sin(ωd・t+φ) ・・・式(2)
【0061】
ここで、絶対値の総和NNを次のように定義する。NNの定義:「NN=ΣABS(XX(t)-d2X/dt2)」。そして、この絶対値(実験値-計算値)に相当する、総和NNを計算する。Σは、t=0から2047、ステップ0.01までの足し算で、Σの中は絶対値である。
【0062】
表計算ソフトのソルバー機能を用いて、総和NNが最も小さくなる変数(A:振幅、h:減衰定数、ω0:固有振動数、φ:位相角)を探索する。
【0063】
代入法による探索を行い、「0.1>NN(今回のステップ)-NN(前回のステップ)」となるまで、変数の探索を行う。「0.1>NN(今回のステップ)-NN(前回のステップ)となったとき、変数の探索を終了する。
【0064】
次に、粘性c、剛性kを式(1)、式(2-1)~式(2-3)から算出する。
m・d2X/dt2+c・dX/dt+kX=0 ・・・式(1)
mは、電柱の質量であり電柱の種類ごとの所定値か実測値を用いることができる定数化できる値である。
減衰定数h=粘性c/2/(剛性k/m)0.5である。
固有振動数ω0=(剛性k/質量m)0.5である。
これらの関係式に、h、ω0を当てはめて、粘性c、剛性kを算出する。
【0065】
これにより、時刻歴加速度の実測値「XX(t)」と微分方程式の解である時刻歴加速度の計算値「d2X/dt2」を整合させることから得られる前述したようにその電柱の粘性c、剛性kを解析することができる。
【0066】
なお、この粘性c、剛性kの解析を、基準用電柱に関する情報等として取得するために、載荷前の電柱に行い、その後、所定の荷重(ひび割れ試験荷重の2倍)となるまで1/8ずつ段階的に荷重を上げていき、その後、所定の荷重による曲げ試験を行って、負荷後の電柱の粘性c、剛性kの解析を、電柱が折損するまで連続して繰り返した。これにより、電柱の曲げ試験に伴う、載荷前から破壊までの粘性c、剛性kを得ることができる。
【0067】
[基準コンクリートポール]
電柱などのコンクリートポールは、一般的には、各企業内などで規格化された複数種の電柱が製造・販売・利用されている。このため、本発明の評価方法等を行うにあたって、その評価したいコンクリートポールと同種のコンクリートポールで、予め、繰り返し載荷試験とその繰り返し載荷試験に伴う振動試験による時刻歴変化を取得した。そして、粘性c・剛性kの解析による基礎試験データや、スペクトル解析を行った基礎試験データを取得する。この基礎試験データを取得するために用いたコンクリートポールを基準コンクリートポールと呼ぶ。
【0068】
図4は、電柱に曲げ試験を行って、振動試験を行って得られた時刻歴変化に基づき、粘性c・剛性kを解析したときの概要図である。また、図6は、その実測例である。このように、基礎試験データを得るために曲げ試験を複数回行う繰り返し載荷試験を、電柱が折損するまで試験を行った。
【0069】
[第一の耐用性算出手段322]
第一の耐用性算出手段322は、基準コンクリートポールの劣化に影響を与える物理的変化および化学的変化に伴い変動する粘性c・剛性kの耐用性判断領域と照合して、コンクリートポールの耐用性を算出する部分である。
【0070】
図4図6に示すように、電柱などのコンクリートポールに負荷を加えたときの粘性c・剛性kの変化には一定の傾向がみられた。
【0071】
まず、新品(経年変化なし、0年)の電柱は、剛性kが高く(図4図6の左側)、粘性cが低い(図4図6の上側)。しかし、負荷がかかるにつれて、剛性kが低く(図4図6の右側)、粘性cが高く(図4図6の下側)にシフトする。そして、負荷がかかりきった(疲労がピークに達した時)ときに折損され、粘性c・剛性kの破壊点に相当する値を把握できる。この剛性k粘性cの変化は、精度の良い回帰式化することもできる。このことから、新品など比較可能な期間の電柱の粘性c、剛性kを求めれば、電柱の耐負荷荷重に対する回帰式となる繰り返し載荷曲線に当てはめることで、破壊点までの残存している耐用性を把握できる。
【0072】
次に、経年変化による影響を評価した。例えば、製造から10年経過品や、20年経過品のように、所定の期間経過した電柱を用いて評価を行うと、経年変化に伴い、剛性kは低く(図4図6の右側)、粘性は低下しない様に(図4図6の上側)直線が少しなだらかになる傾向がみられた。また、破壊するまで曲げ試験と振動試験を行って、粘性c・剛性kをプロットすると、製造からの経過期間に相関して破壊点は一定の曲線上に並ぶことがわかった。
【0073】
図4、6の点は、繰り返し載荷試験を行うことで、物理的に疲労させた場合の粘性値と剛性値を示している。また、図4の丸の点とそれらを結ぶ実線は、損傷を受けていない新品の新柱を用いて試験した結果を示すもので、物理的変化によるものである。左上の点から、繰り返し載荷試験を行うに伴って、右下に点が移動し、この点を結ぶ実線が繰り返し載荷曲線で、基準線となる。
【0074】
供用柱のように自然にさらされる暴露環境の場合は、繰り返し載荷試験を行ったときの点を結んだ線が少しなだらかになる傾向が見られる。図4では、三角の点とその点を結ぶ破線が10年経過品のような例であり、四角の点とその点を結ぶ破線が20年経過品のような例である。これは、凍害、塩害、中性化、表面の荒れ、乾燥収縮ひび割れ、緊張力の抜け等の化学的変化の度合いによるものと推定できる。
【0075】
コンクリートポールが破壊したときの点が、図4において丸の塗りつぶし(0年(新品))、三角の塗りつぶし(10年経過品)、四角の塗りつぶし(20年経過品)の点であり、これらを結ぶ線が破壊線である。破壊線は、新柱の繰り返し載荷曲線に、鈍角に交差するように右上に伸びた線である。この試験結果からも、図4図6に示す粘性cと剛性kのグラフにおいて、各コンクリートポールの繰り返し載荷試験を行った点をプロットしたとき、最も右の点が破壊100%(折損)であり、グラフで左に向かうほど、損傷度合いが低減されたものである。この新品(新柱)の「繰り返し載荷曲線」と経年劣化品も評価して得た「破壊線」で囲まれた三角形の領域が「耐用性判断領域」であり、破壊線の高さが化学的劣化を表す指標となっている。
【0076】
これらのことから、予め作成しておいた基準コンクリートポールの劣化に影響を与える物理的変化および化学的変化に伴い変動する粘性cおよび剛性kの耐用性判断領域に照合して、「評価したいコンクリートポール」の粘性c・剛性kの1点を求めて(なお、この時は繰り返し載荷を行わないでよい)、プロットすると、図4、6に示すようなグラフとしたときの最も右側の破壊線からの距離で、現在のそのコンクリートポールの損傷の程度がわかり、なおかつ、残りの耐用性の程度がわかる。
【0077】
このように、物理的変化つまり疲労による粘性c・剛性kの変化の傾向と、経年の暴露状態による化学的変化による粘性c・剛性kの変化の傾向とを示す耐用性判断領域を用いて、破壊線までの距離を求めることで、耐用性を算出することができることがわかった。例えば、図4の測定例A(五芒星型の点)は、10年程度経過した電柱の振動試験の実測値に基づく粘性c・剛性kであれば、10年経過品の回帰式に当てはめることで、破曲線までの残存耐用負荷を得ることができる。同様に、図4の測定例B(四芒星型の点)は20年程度経過した電柱の振動試験の実測値に基づく粘性c・剛性kからの耐用性の評価ができる。
【0078】
さらに、この評価は、例えば、図4の新品(0年)の電柱の測定例Cのように、粘性c・剛性kが、耐用性判断領域の繰り返し載荷曲線から大きく外れる場合は、そもそも初期不良や、特殊な劣化が生じている可能性があると評価して、このような異常な状態の電柱の排除にも利用できる。
【0079】
この耐用性判断領域は、基準柱の製造から経過した期間が異なる複数の試験電柱の製作時点から破壊時点までを疲労促進させた場合の粘性c・剛性kの測定値に基づいて作成された繰り返し載荷曲線と破壊線で囲まれた領域である。すなわち、新品などの化学的変化の影響がほとんど生じていない状態の電柱で振動試験の実測値を取得し、さらに、例えば10年経過品や20年経過品など、製造から一定の期間経過して化学的変化が生じた電柱の振動試験の実測値を取得して、物理的劣化と化学的劣化の影響を評価するための繰り返し載荷曲線と破壊線を用いることで、供用柱となっているコンクリートポールのより優れた評価ができる。
【0080】
評価システム101は、このような評価を行うための処理などを行う処理部301を有している。処理部301は、測定手段2で測定した時刻歴加速度などの時刻歴変化を、無線や有線などで通信して、入力手段31から制御手段32入力する。制御手段32は、前述したような粘性c・剛性k解析手段321で粘性c・剛性kを解析し、第一の耐用性算出手段322はその粘性c・剛性kを耐用性判断領域と照合して、耐用性を算出する。これらの情報は、適宜、記憶手段33に記憶させておくことができる。解析結果は、出力手段34から出力されて、無線や有線で処理部301と通信可能な表示部5に表示される。
【0081】
処理部301は、これらの処理を行うプログラムを含むアプリケーションソフト等として、パーソナルコンピュータや、タブレット端末、スマートフォンなどのメモリを有する各種電子計算機などで実行することができる。また、表示部5を処理部301に用いる電子計算機などがモニターを有する一体化されたものの場合、その表示部に表示してもよい。さらに、その電子計算機等が加速度センサなどの振動に伴う変化を検出ができるセンサを有する場合、測定手段2も一体化したものとしてもよい。
【0082】
[耐用性]
このように、本発明の第一の評価システム等によれば、電柱の耐用性を評価することができる。この耐用性は、例えば、残存できる繰り返し試験荷重に相当するものを評価することもできる。電柱は、設計荷重を超えた荷重に相当するような負荷がかかるたびに損傷が蓄積して、許容範囲を超えたときに壊れる。一方で、大きな負荷がかからない場合、長期にわたって安定して立設したまま利用できる。ひび割れ試験荷重に相当するようなものとしては、台風や地震、凍害、積雪などの自然災害や、自動車等の衝突などの事故などが考えられる。これらの大きな負荷として、その電柱の残存している許容できる想定回数を、耐用性として評価する。なお、これらの大きな負荷は、ある程度、一定の周期で生じる可能性が十分にあるものも想定されるため、それらを想定するといわゆる寿命にも相当し得る指標ともなる。また、電柱は所定の規格を満足するものであっても、性能の実力値にはバラつきが生じる場合があり、出荷前に耐用性を評価することで、その高低を把握することもできる。
【0083】
この耐用性の評価結果は、例えば「所定の震度Naの地震をn回、または、所定の風速Nb(m/s)の台風をn時間受ければ破壊する可能性が高い」や、「品質異常がある」、「品質異常がない」のようにアウトプットすることなどができる。
【0084】
なお、本発明に関連して、次のようなプログラムを作成して利用することができる。一つは、
生から死までの連続する時刻歴変化の実験値、又は、時刻歴変化の計算値を自動にてスペクトル解析するプログラムである。このプログラムで得られるスペクトル解析の利用方法として、実験値と計算値の各々の時刻歴加速度から得られたスペクトル同士を比較すると、計算値が実験値をうまく再現できているかの再現性を確認して担保することができる。
【0085】
これを耐用性判断領域への適用に利用することができる。まず、測定する工程で測定した時刻歴変化をフーリエ変換してスペクトル解析した測定結果を得る。次に、解析する工程で、式(1)や式(2-1)~式(2-3)と整合させるように、解析した粘性cと剛性kを用いてシミュレーションにより再現した時刻歴変化をフーリエ変換してスペクトル解析したシミュレーション結果を得る。そして、「スペクトル解析した測定結果」と「スペクトル解析したシミュレーション結果」の、スペクトル解析の結果を比較して照合する。この比較した照合の結果、ピークの応答値や周期が許容範囲内に収まるかによって、粘性cおよび剛性kを適用して評価する信頼性を確認するものとしてもよい。
【0086】
なお、複数の製造後の期間が異なる基準コンクリートポールなどで曲げ試験と振動試験を行って、その破壊点までの剛性k粘性cを得ることができれば、不足点は、それを補うための回帰式を作成して計算等を行ったり、シミュレーションで振動による時刻歴変化に基づく粘性c・剛性kを再現して基準用データを作成して、耐用性判断領域のデータを補足することができる。
【0087】
[第二の実施形態]
図7は、本発明の評価システムの第二の実施形態を示す概要図である。評価システム102は、電柱1の耐用性を評価するシステムである。評価システム102は、電柱に取り付けた測定手段2と、測定手段2の測定結果を処理する処理部302とを有する。
【0088】
評価システム102は、前述の評価システム101に準じる構成を有し、処理部301に替えて処理部302を有する構成である。処理部302は、制御手段35を有し、制御手段35は、振動解析手段351と、スペクトル解析手段352と、第二の耐用性算出手段353を有する。
【0089】
[評価方法のフロー]
図8は、本発明の評価方法の一例を示すフロー図である。本発明の評価方法は、電柱の耐用性の評価方法であり、例えば、図8に示すフロー図のように次のように行うことができる。
ステップS12は、電柱の振動に伴う電柱の所定の位置における変位の経時変化である時刻歴変化を測定する工程である。
ステップS22は、時刻歴変化をフーリエ変換して応答スペクトルを得る工程である。
ステップS32は、応答スペクトルの固有周期および/または固有周期での応答値を含む解析値を取得する工程である。
ステップS42は、解析値を、電柱の基準コンクリートポールの耐用性スペクトル回帰式と照合して、電柱の耐用性を算出する工程である。
ステップS52は、このようにして算出された電柱の耐用性を表示するものである。
【0090】
なお、スペクトル解析についてそれぞれのグラフは、以下のように表現され、この一連のグラフをつくる流れをスペクトル解析という。
時刻歴変位をフーリエ変換して得られるグラフが、変位応答スペクトルである。
時刻歴速度をフーリエ変換して得られるグラフが、速度応答スペクトルである。
時刻歴加速度をフーリエ変換して得られるグラフが、加速度応答スペクトルである。
加速度の場合、縦軸は応答加速度、横軸は周期または周波数である。
【0091】
[振動解析手段351]
振動解析手段351は、時刻歴変化をフーリエ変換して応答スペクトルを得る手段である。測定手段2で取得した時刻歴変化を、フーリエ変換することで、周期と応答値に関する応答スペクトルを得ることができる。
【0092】
図9は、時刻歴加速度をフーリエ変換したものである。ここでは、周期(X軸)と、応答値(Y軸)として、解析したものである。
【0093】
[スペクトル解析手段352]
スペクトル解析手段352は、応答スペクトルの固有周期および/または固有周期での応答値を含む解析値を取得する手段である。
【0094】
図9に示すように、スペクトル解析した結果、周期-応答値のグラフにおいて、ピークが観測される。このピークの応答加速度と、その周期を特定する。
【0095】
電柱の疲労に伴い、応答加速度が小さくなる方向で収束する。また、電柱の疲労に伴い、周期が大きくなる方向で収束する。これは、電柱が破壊されるまで一定の傾向がみられる。
【0096】
このように、電柱の時刻歴加速度をスペクトル解析したものが、「応答加速度が小さくなる」、「周期が大きくなる」といった傾向から、診断用の回帰式を作成することができる。測定対象の電柱の時刻歴加速度から、スペクトル解析し、その応答加速度のピーク値/周期を特定して、回帰式に当てはめることで、その電柱の想定される蓄積損傷を把握することができる。そして、この値は、破壊されるまでの許容損傷の把握にも利用できる。
【0097】
[第二の耐用性算出手段353]
第二の耐用性算出手段353は、解析値を、電柱の基準コンクリートポールの耐用性スペクトル回帰式と照合して、電柱の耐用性を算出する手段である。
【0098】
[耐用性スペクトル回帰式]
耐用性スペクトル回帰式は、基準コンクリートポールの振動に伴う変位から得られる応答スペクトルの固有周期および/または固有周期での応答値を含む解析値に基づいて、電柱の耐用性を算出するために設定したものである。
【0099】
耐用性スペクトル回帰式が、予め基準コンクリートポールのひび割れ試験荷重の2倍による曲げ試験と、曲げ試験後の振動試験とを複数回行って得られたものとすることができる。
【0100】
また、算出手段は、耐用性を算出するとき、耐用性スペクトル回帰式に基づく回帰式に、電柱の解析値を当てはめて、耐用性を算出するものとすることができる。
【0101】
本発明の知見に関連して、参考情報等を以下に述べる。コンクリートや金属の材料にはそれぞれ特徴があり、その特徴を定義する一つに「ヤング率(E)」がある。ヤング率は「弾性係数」とも呼ばれ、「弾性」とは材料に外力を加えた際、その外力を取り去ると元の形状に戻る性質のことである。ヤング率が大きいほど剛性の高い材料ということになり、変形のし難い材料の目安となる。
【0102】
一方で、材料は外力を加えると、内部で「応力」と「ひずみ」が発生する。応力は外力に抵抗する部材内に発生する力であり、外力を取り去れば応力とひずみも自然と消滅するが、材料の耐え得る応力を超えると「ひずみ」による変形が残り、これを「残留ひずみ」という。
【0103】
「残留ひずみ」が始まると、一般に「弾性係数」も小さくなり、材料の破壊(疲労)が進展することとなる。しかしながら、電柱のようなプレストレスコンクリートでは、疲労の進展に伴う「弾性係数」の変化傾向は明らかとなっていない。また、電柱のおかれた環境(塩害・凍害・泉害)が「弾性係数」の変化に与える影響も定かでない。
【0104】
プレストレストコンクリートは、鉄筋とコンクリートの複合部材である。この複合部材では、構造物の利用目的や荷重の違いにより、鉄筋とコンクリートの材料・材質・規模が異なり、更にこれらの使用比率も異なることから、一概に「応力」「ひずみ」「残留ひずみ」のある値にて、複合部材の破壊(劣化)を表現できない。
【0105】
複合部材は、元々規模が大きく、曲げ試験が難しい。また、折角構築した部材を破壊してまで、「応力」「ひずみ」「残留ひずみ」の関係を確認しないことが多い。このため、電柱のようなプレストレスコンクリートでは、鉄筋コンクリートより複雑な構造をしており、「応力」「ひずみ」「残留ひずみ」の関係や部材の破壊(劣化)進展を評価することが難しい。また、電柱の「応力」「ひずみ」「残留ひずみ」の関係を知るには、曲げ試験を実施する必要があるが、専用の設備が必要である。これまで、破壊(劣化)進展を評価し、取り替える発想がなく、評価をする機会がなかった。
【0106】
電柱は、地域によっては設計強度が高い・靭性が高いものを設置している場合がある。このため、一律に設置期間などの基準を適用することが適当とは言えない場合もある。よって、適切な定量的に説明できる取替判断基準も重要である。本発明は、設置されている電柱自体に対しては軽度の振動試験を行うだけで評価でき、いわゆる非繰り返し載荷試験で、定量的な評価に寄与できる。
【0107】
一般送配電事業者は、適切且つ合理的な設備保全計画も求められる。設備保全計画では、配電柱の取り替えを「故障確率」と「故障影響度」の積である「リスク量」で算定することとしている。「故障確率」は、配電柱の標準期待年数を65年とし、これに様々な係数を乗じて算定することなどが検討されている、適切な指標が無い場合、係数はほぼ1とせざるを得ない可能性がある。しかし、本発明の評価を行えば、電柱ごとにその損傷状況を把握できるため、このような係数の設定にも寄与できる。
【0108】
日本の電柱本数は、通信用が約1200万本、電力用が約2400万本程度利用されている。単に設置からの期間で算出するとその多くが同時期に取り替えることが求められるものとなり、現実的ではない可能性があるが、本発明の評価を行えば、適切な管理ができる。
【実施例0109】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0110】
[電柱]
九州高圧コンクリート製「13-19-7」 電柱規格:長さ13m、先端直径19cmφ、設計荷重7kNのプレストレストコンクリートを用いて試験を行った。
【0111】
[基準コンクリートポール]
・新柱:製造後1月以内程度の新品の電柱を、新柱として使用した。
・撤去柱:製造後任意の期間利用して撤去された電柱を、経年変化している撤去柱として使用した。
【0112】
[測定手段]
測定手段として、加速度センサ(東京測器社製ARSーA(高感度)、またはARF-A)を用いて加速度を測定した。
測定手段は、地面から1.35mの高さに取付けて検出した。
【0113】
[繰り返し載荷試験(曲げ試験)]
図3に示すような専用の曲げ試験機で、1kNまたは2kNの負荷の曲げ試験を行った。
曲げ試験を行った後に振動試験を行い、時刻歴加速度を取得して、さらに曲げ試験を行って振動試験を行う一連の曲げ試験と振動試験を、電柱が折損するまで行った。
【0114】
図6は、繰り返し載荷試験に伴う振動試験による時刻歴加速度から、コンクリートポールの粘性c、剛性kを解析して、プロットしたグラフである。
基準コンクリートポールとして利用した新柱(1本目、2本目)、撤去柱(25年)(4本目)、撤去柱(35年)(3本目)は、それぞれの粘性c・剛性kの相関性が高い傾向が確認された。新柱の試験結果から、繰り返し載荷曲線が確認された。また、撤去柱の試験結果とあわせることで破壊線が確認された。
この粘性c・剛性kの評価結果を用いて、試験電柱の製造後の経過年数を踏まえて粘性c・剛性kの解析結果を、繰り返し載荷曲線と破壊線に囲まれた領域である耐用性判断領域に照合することで、試験電柱の耐用性を把握することができる。
【0115】
図9は、繰り返し載荷試験に伴う振動試験による時刻歴加速度をスペクトル解析したグラフである。一定の負荷で曲げ試験を行ったものは、周期・応答値のピークが曲線状になることが確認された。このスペクトル解析したグラフを用いて、試験電柱の周期・応答値のピークの解析結果を照合することで、試験電柱の耐用性を把握することができる。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明は、電柱の耐用性の評価に利用することができ、産業上有用である。
【符号の説明】
【0117】
1 電柱
101、102 評価システム
2 測定手段
31 入力手段
301、302 処理部
321 粘性c・剛性k解析手段
322 第一の耐用性算出手段
32、35 制御手段
33 記憶手段
34 出力手段
351 振動解析手段
352 スペクトル解析手段
353 第二の耐用性算出手段
5 表示部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9