(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121568
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】粘着シートおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C09J 7/38 20180101AFI20240830BHJP
C09J 201/00 20060101ALI20240830BHJP
C09J 11/04 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
C09J7/38
C09J201/00
C09J11/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028729
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(74)【代理人】
【識別番号】100176407
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 理啓
(72)【発明者】
【氏名】三浦 迪
(72)【発明者】
【氏名】宮田 壮
【テーマコード(参考)】
4J004
4J040
【Fターム(参考)】
4J004AA05
4J004AA10
4J004AB01
4J004DB02
4J004FA05
4J040CA001
4J040DF001
4J040DF041
4J040DF051
4J040GA05
4J040GA07
4J040GA14
4J040HA026
4J040JA09
4J040JB09
4J040KA16
4J040LA01
4J040LA02
4J040LA08
4J040MA02
4J040MB05
4J040NA19
(57)【要約】
【課題】熱伝導性および柔軟性に優れた粘着シートおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】少なくとも粘着剤層を備えた粘着シート1であって、粘着剤層11が、粘着性樹脂と、二次元構造を有するグラフェンとを含有する熱伝導性粘着剤組成物から構成され、粘着剤層11の片面の算術平均高さSaを加圧前Saとし、粘着シート1を80℃、0.1MPaおよび60秒の条件で加圧した後における粘着剤層11の片面の算術平均高さSaを加圧後Saとした場合に、次式(1)
表面粗さ変化率(%)=(1-加圧後Sa/加圧前Sa)×100 …(1)
から算出される表面粗さ変化率が、20%以上、90%以下である粘着シート1。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも粘着剤層を備えた粘着シートであって、
前記粘着剤層が、粘着性樹脂と、二次元構造を有するグラフェンとを含有する熱伝導性粘着剤組成物から構成され、
前記粘着剤層の片面の算術平均高さSaを加圧前Saとし、前記粘着シートを80℃、0.1MPaおよび60秒の条件で加圧した後における前記粘着剤層の片面の算術平均高さSaを加圧後Saとした場合に、次式(1)
表面粗さ変化率(%)=(1-加圧後Sa/加圧前Sa)×100 …(1)
から算出される表面粗さ変化率が、20%以上、90%以下である
ことを特徴とする粘着シート。
【請求項2】
前記熱伝導性粘着剤組成物中における前記二次元構造を有するグラフェンの含有量が、前記粘着性樹脂100質量部に対して、15質量部以上、80質量部以下であることを特徴とする請求項1に記載の粘着シート。
【請求項3】
前記粘着性樹脂のガラス転移温度(Tg)が、-70℃以上、50℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の粘着シート。
【請求項4】
600番研磨したステンレススチールに対する粘着力が、1.0N/25mm以上であることを特徴とする請求項1に記載の粘着シート。
【請求項5】
前記粘着剤層の熱伝導率が、2.0W/m・K以上であることを特徴とする請求項1に記載の粘着シート。
【請求項6】
請求項1に記載の粘着シートの製造方法であって、
前記熱伝導性粘着剤組成物の塗工液を調製する工程と、
前記熱伝導性粘着剤組成物の塗工液を塗工し、乾燥することにより、前記粘着剤層を形成する工程と
を備えており、
前記塗工液を調製する工程が、
配合する前記粘着性樹脂の全量の一部と、前記二次元構造を有するグラフェンと、溶媒とを含有する混合物に対して、分散処理を施し、予備混合物を得る第1工程と、
前記予備混合物に、少なくとも前記粘着性樹脂の残部を添加し、分散処理を施す第2工程と
を含んでおり、
前記第1工程おける前記粘着性樹脂の混合量が、前記二次元構造を有するグラフェン100質量部に対して、0.5質量部以上、50質量部以下である
ことを特徴とする粘着シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性を有する熱伝導性粘着剤組成物を用いて製造された粘着シートおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、熱電変換デバイス、光電変換デバイス、大規模集積回路等の半導体デバイスなどの電子デバイス等において、発熱した熱を逃がすために、熱伝導性を有する放熱材料が用いられている。例えば、電子デバイスから発生する熱を効率良く外部に放熱するための方法として、電子デバイスとヒートシンクとの間に、熱伝導性に優れる放熱シートを設けたり、放熱グリスを介在させることが行われている。
【0003】
上記のような放熱シートは、一例として、特許文献1に開示されている。特許文献1には、高分子マトリックス中に熱伝導性繊維及び非繊維状熱伝導性充填剤を配合した高熱伝導性成形体が開示されており(特許文献1の請求項1)、特に、炭素繊維および球状アルミナを含有する組成物をシート状に形成したことが開示されている(特許文献1の段落0039等)。
【0004】
また別の例として、特許文献2には、少なくとも高分子マトリックス成分と繊維状の熱伝導性充填剤とを含むバインダ樹脂が硬化されてなるシート本体を有する熱伝導性シートが開示されており(特許文献2の請求項1)、特に、炭素繊維およびアルミナを含有するシリコーン組成物をシート状に形成したことが開示されている(特許文献1の段落0086等)。
【0005】
さらに別の例として、特許文献3には、粘着性樹脂と、二次元構造を有するグラフェンとを含有する熱伝導性粘着剤組成物を用いて構成された粘着剤層を備える粘着シートが開示されている(特許文献3の請求項1および4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-146057号公報
【特許文献2】特開2020-013870号公報
【特許文献3】国際公開第2022/163027号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来の放熱シートでは、熱伝導性と柔軟性とを高いレベルで両立することは困難であった。例えば、高い熱伝導性を得るために、従来の放熱シートに無機フィラーを高充填すると、表面粗度が大きくなることでタックが発現し難くなり、被着体へ貼付する時の粘着性が得られなくなる等の不具合が発生してしまう。また、無機フィラーを高充填すると、放熱シートの柔軟性が低下し、電子デバイスやヒートシンクに十分に追従、密着することができず、部材間での熱伝導性が低下する場合がある。
【0008】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、熱伝導性および柔軟性に優れた粘着シートおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、第1に本発明は、少なくとも粘着剤層を備えた粘着シートであって、前記粘着剤層が、粘着性樹脂と、二次元構造を有するグラフェンとを含有する熱伝導性粘着剤組成物から構成され、前記粘着剤層の片面の算術平均高さSaを加圧前Saとし、前記粘着シートを80℃、0.1MPaおよび60秒の条件で加圧した後における前記粘着剤層の片面の算術平均高さSaを加圧後Saとした場合に、次式(1)
表面粗さ変化率(%)=(1-加圧後Sa/加圧前Sa)×100 …(1)
から算出される表面粗さ変化率が、20%以上、90%以下であることを特徴とする粘着シートを提供する(発明1)。
【0010】
二次元構造を有するグラフェンは、その構造上、グラフェン同士の接触が起こり易く、熱伝導性粘着剤組成物中にて熱を伝える熱伝導パスが形成され易い。また、二次元構造を有するグラフェンは、平面方向の熱伝導率が非常に高い特徴を有する。そのため、上記発明(発明1)に係る粘着シートは、二次元構造を有するグラフェンの含有量が少量であっても、熱伝導性に優れる。また、上記発明(発明1)に係る粘着シートは、上述の通り規定される表面粗さ変化率が上記範囲であることにより、粘着剤層中において上記グラフェンが、良好な熱伝導パスを形成しつつも、過度に密集していない状態となっているため、優れた柔軟性を有するものとなる。その結果、粘着シートが被着体に対して良好に追従可能となる。また、上記発明(発明1)に係る熱伝導性粘着剤組成物は、粘着性樹脂を含有し、しかもその配合比を大きくすることができることからも、良好な粘着性能、そして柔軟性・追従性を発現することができる。
【0011】
上記発明(発明1)において、前記熱伝導性粘着剤組成物中における前記二次元構造を有するグラフェンの含有量が、前記粘着性樹脂100質量部に対して、15質量部以上、80質量部以下であることが好ましい(発明2)。
【0012】
上記発明(発明1,2)において、前記粘着性樹脂のガラス転移温度(Tg)が、-70℃以上、50℃以下であることが好ましい(発明3)。
【0013】
上記発明(発明1~3)において、600番研磨したステンレススチールに対する粘着力が、1.0N/25mm以上であることが好ましい(発明4)。
【0014】
上記発明(発明1~4)において、前記粘着剤層の熱伝導率が、2.0W/m・K以上であることが好ましい(発明5)。
【0015】
第2本発明は、前記粘着シート(発明1~5)の製造方法であって、前記熱伝導性粘着剤組成物の塗工液を調製する工程と、前記熱伝導性粘着剤組成物の塗工液を塗工し、乾燥することにより、前記粘着剤層を形成する工程とを備えており、前記塗工液を調製する工程が、配合する前記粘着性樹脂の全量の一部と、前記二次元構造を有するグラフェンと、溶媒とを含有する混合物に対して、分散処理を施し、予備混合物を得る第1工程と、前記予備混合物に、少なくとも前記粘着性樹脂の残部を添加し、分散処理を施す第2工程とを含んでおり、前記第1工程おける前記粘着性樹脂の混合量が、前記二次元構造を有するグラフェン100質量部に対して、0.5質量部以上、50質量部以下であることを特徴とする粘着シートの製造方法を提供する(発明6)。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る粘着シートは、熱伝導性および柔軟性に優れる。また、本発明に係る粘着シートの製造方法によれば、熱伝導性および柔軟性に優れた粘着シートを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係る粘着シートの断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る放熱性装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について説明する。
〔粘着シート〕
本実施形態の粘着シートは、少なくとも粘着剤層を備えており、当該粘着剤層は、粘着性樹脂と、二次元構造を有するグラフェンとを含有する熱伝導性粘着剤組成物から構成される。
【0019】
そして、本実施形態の粘着シートでは、上記粘着剤層の片面の算術平均高さSaを加圧前Saとし、上記粘着シートを80℃、0.1MPaおよび60秒の条件で加圧した後における上記粘着剤層の片面の算術平均高さSaを加圧後Saとした場合に、次式(1)
表面粗さ変化率(%)=(1-加圧後Sa/加圧前Sa)×100 …(1)
から算出される表面粗さ変化率が、20%以上、90%以下である。
【0020】
本実施形態の二次元構造を有するグラフェンは、二次元に広がりをもつ平面状構造を有するため、グラフェン同士の接触が起こり易く、熱伝導性粘着剤組成物中にて熱を伝える熱伝導パスが形成され易い。また、二次元構造を有するグラフェンは、平面方向の熱伝導率が3000W/m・K程度と非常に高いものである。さらに、グラフェンは、従来の金属、金属酸化物、窒化化合物等の無機フィラーと比べて比重が2.25程度と低く、沈降し難い特徴を有する。そのため、上記二次元構造を有するグラフェンの含有量が少量であっても(例えば10体積%程度であっても)、本実施形態に係る粘着シートは熱伝導性に優れたものとなる。具体的には、2.0W/m・K以上という非常に優れた熱伝導性を発揮することができる。
【0021】
そして、本実施形態に係る粘着シートは、上述した表面粗さ変化率(%)が上述の通り20%以上であることにより、優れた柔軟性を示すものとなる。一般的に、粘着剤層中に過度にグラフェンが存在していると、粘着剤層を加圧しても算術平均高さSaは大きく変化しないものとなる。これに対し、本実施形態に係る粘着シートでは、粘着剤層中にグラフェンが適度な量で存在していることにより、表面粗さ変化率(%)が20%以上という値を示すものとなっている。そして、粘着剤層中のグラフェンの量が適度であることにより、本実施形態に係る粘着シートは優れた柔軟性を示す。このような優れた柔軟性を示す粘着シートは、被着体表面の微小な凹凸にも良好に追従することができ、その結果、良好な粘着力を示すものとなる。
【0022】
また、本実施形態に係る熱伝導性粘着剤組成物は、粘着性樹脂を含有するため、グリスのようにポンプアウト現象で漏出するおそれはなく、良好な粘着性能を維持することができる。さらに、上述した通りグラフェンを多量に配合する必要がないため、相対的に粘着性樹脂の配合比を大きくすることができる。これにより、本実施形態に係る熱伝導性粘着剤組成物は、粘着性樹脂が有する粘着性や柔軟性・追従性といった性能を十分に発現することができる。これらのことからも、本実施形態に係る粘着シートは、優れた粘着性を示すものとなる。具体的には、1.0N/25mm以上という優れた粘着力を発揮することができる。したがって、電子デバイス等の熱源やヒートシンク等の放熱部材に十分に追従、密着することができ、使用時にも優れた熱伝導性を発揮することができる。
【0023】
ここで、熱伝導率が20~36W/m・Kのアルミナや、平面方向の熱伝導率が200W/m・K程度の窒化ホウ素等の無機フィラーを使用した従来の放熱シートにおいて、2.0W/m・K以上の熱伝導率を発現させるためには、Bruggemanの式に基づくと、少なくとも50体積%以上の無機フィラーの添加が必要である。しかしながら、その場合、無機フィラーの充填率が最密充填(約70体積%)に近づくため、上記のように高い熱伝導率の発現には限界があった。また、50体積%以上の無機フィラーを添加した放熱シートでは、柔軟性や粘着性が著しく低くなり、熱源や放熱部材に追従、密着することができず、熱伝導性が損なわれてしまう。また、熱伝導率が高い材料として炭素繊維(カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー)が知られているが、炭素繊維はアスペクト比の高い円筒状の構造を有するため、炭素繊維同士の絡み合いにより、配合物の増粘が顕著であることから、熱伝導率を十分に高められる配合量を添加することが難しい。
【0024】
本実施形態に係る粘着シートの一例としての具体的構成を
図1に示す。
図1に示すように、一実施形態に係る粘着シート1は、2枚の剥離シート12a,12bと、それら2枚の剥離シート12a,12bの剥離面と接するように当該2枚の剥離シート12a,12bに挟持された粘着剤層11とから構成される。なお、本明細書における剥離シートの剥離面とは、剥離シートにおいて剥離性を有する面をいい、剥離処理を施した面および剥離処理を施さなくても剥離性を示す面のいずれをも含むものである。
【0025】
1.粘着剤層
本実施形態における粘着剤層11は、前述した通り、粘着性樹脂と、二次元構造を有するグラフェンとを含有する熱伝導性粘着剤組成物から構成される。
【0026】
1-1.各成分
(1)粘着性樹脂
本実施形態に係る熱伝導性粘着剤組成物における粘着性樹脂の種類は特に限定されず、例えば、アクリル系、ポリエステル系、ポリウレタン系、ゴム系、シリコーン系等のいずれであってもよい。また、当該粘着剤は、エマルション型、溶剤型または無溶剤型のいずれでもよく、架橋タイプまたは非架橋タイプのいずれであってもよい。さらに、活性エネルギー線非硬化性のものであってもよいし、活性エネルギー線硬化性のものであってもよい。
【0027】
本実施形態における粘着性樹脂のガラス転移温度(Tg)は、-70℃以上であることが好ましく、-60℃以上であることがより好ましく、特に-50℃以上であることが好ましく、さらには-40℃以上であることが好ましい。また、上記ガラス転移温度(Tg)は、50℃以下であることが好ましく、40℃以下であることがより好ましく、特に5℃以下であることが好ましく、さらには0℃以下であることが好ましい。ガラス転移温度(Tg)が上記の範囲にあることにより、熱伝導性粘着剤組成物中における二次元構造を有するグラフェンの分散性が良好になるとともに、柔軟性および粘着性がより良好なものになる。なお、本明細書における粘着性樹脂のガラス転移温度(Tg)は、FOXの式に基づいて算出される値である。
【0028】
アクリル系の粘着性樹脂としては、(メタ)アクリル酸エステルモノマー等を重合してなる(メタ)アクリル酸エステル重合体が好ましく挙げられる。なお、本明細書において、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸及びメタクリル酸の両方を意味する。他の類似用語も同様である。また、「重合体」には「共重合体」の概念も含まれるものとする。
【0029】
粘着性樹脂としての(メタ)アクリル酸エステル重合体は、当該重合体を構成するモノマー単位として、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含有することが好ましい。これにより、得られる熱伝導性粘着剤組成物は、良好な粘着性を発現することができる。アルキル基は、直鎖状、分岐鎖状または環状であってもよい。
【0030】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、粘着性の観点から、アルキル基の炭素数が1~20の(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。アルキル基の炭素数が1~20の(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ペンチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸n-デシル、(メタ)アクリル酸n-ドデシル、(メタ)アクリル酸ミリスチル、(メタ)アクリル酸パルミチル、(メタ)アクリル酸ステアリル等が挙げられる。
【0031】
上記の中でも、良好な粘着性を付与する観点および二次元構造を有するグラフェンの分散性の観点から、アルキル基の炭素数が1~9の(メタ)アクリル酸アルキルエステルがより好ましく、アルキル基の炭素数が1~6の(メタ)アクリル酸アルキルエステルが特に好ましく、アルキル基の炭素数が1~4の(メタ)アクリル酸アルキルエステルがさらに好ましい。具体的には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸n-ブチルおよび(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシルの少なくとも1種を使用することが好ましく、特にアクリル酸メチル、アクリル酸n-ブチルおよびアクリル酸2-エチルヘキシルの少なくとも1種を使用することが好ましい。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
(メタ)アクリル酸エステル重合体は、良好な粘着性を付与する観点および二次元構造を有するグラフェンの分散性の観点から、当該重合体を構成するモノマー単位として、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを20質量%以上含有することが好ましく、30質量%以上含有することがより好ましく、特に35質量%以上含有することが好ましく、さらには40質量%以上含有することが好ましい。また、他のモノマー(例えば、後述する反応性官能基含有モノマー)の含有量を確保する観点から、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを99.9質量%以下含有することが好ましく、95質量%以下含有することがより好ましく、特に90質量%以下含有することが好ましく、さらに85質量%以下含有することが好ましい。
【0033】
粘着性樹脂としての(メタ)アクリル酸エステル重合体は、当該重合体を構成するモノマーとして、分子内に反応性官能基を有する反応性官能基含有モノマーを含有することが好ましい。反応性官能基含有モノマーを含有することで、その極性等によって、二次元構造を有するグラフェンの分散性をより向上させることができる。また、本実施形態に係る熱伝導性粘着剤組成物が架橋剤を含有する場合には、当該反応性官能基含有モノマー由来の反応性官能基が架橋点となって、架橋構造を形成することができる。
【0034】
上記反応性官能基含有モノマーとしては、分子内にヒドロキシ基を有するモノマー(ヒドロキシ基含有モノマー)、分子内にカルボキシ基を有するモノマー(カルボキシ基含有モノマー)、分子内にアミノ基を有するモノマー(アミノ基含有モノマー)などが好ましく挙げられる。これらの中でも、二次元構造を有するグラフェンの分散性の観点から、ヒドロキシ基含有モノマーが好ましい。これらの反応性官能基含有モノマーは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0035】
ヒドロキシ基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチルなどの(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル等が挙げられる。中でも、二次元構造を有するグラフェンの分散性の観点から、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチルが好ましく、特にアクリル酸2-ヒドロキシエチルが好ましい。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
カルボキシ基含有モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸等のエチレン性不飽和カルボン酸が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
アミノ基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸n-ブチルアミノエチル等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
(メタ)アクリル酸エステル重合体は、当該重合体を構成するモノマーとして、反応性官能基含有モノマーを、下限値として0.1質量%以上含有することが好ましく、0.5質量%以上含有することがより好ましく、特に1質量%以上含有することが好ましく、さらには5質量%以上含有することが好ましい。また、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、反応性官能基含有モノマーを、上限値として60質量%以下含有することが好ましく、55質量%以下含有することがより好ましく、特に50質量%以下含有することが好ましく、さらには45質量%以下含有することが好ましい。(メタ)アクリル酸エステル重合体が、当該重合体を構成するモノマー単位として上記の範囲で反応性官能基含有モノマーを含有すると、二次元構造を有するグラフェンの分散性がより良好なものとなる。
【0039】
粘着性樹脂としての(メタ)アクリル酸エステル重合体は、当該重合体を構成するモノマーとして、他のモノマーをさらに含有してもよい。当該他のモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル等の(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル;アクリルアミド、メタクリルアミド等の非架橋性のアクリルアミド;(メタ)アクリル酸N,N-ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸N,N-ジメチルアミノプロピル等の非架橋性の3級アミノ基を有する(メタ)アクリル酸エステル;酢酸ビニル;スチレンなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
(メタ)アクリル酸エステル重合体の重合態様は、ランダム重合体であってもよいし、ブロック重合体であってもよい。
【0041】
(メタ)アクリル酸エステル重合体の重量平均分子量は、1万以上であることが好ましく、2万以上であることがより好ましく、特に5万以上であることが好ましく、さらには10万以上であることが好ましい。また、上記重量平均分子量は、200万以下であることが好ましく、150万以下であることがより好ましく、特に120万以下であることが好ましく、さらには100万以下であることが好ましい。重量平均分子量が上記の範囲にあることにより、熱伝導性粘着剤組成物中における二次元構造を有するグラフェンの分散性がより良好になるとともに、柔軟性および粘着性がより良好なものになる。なお、本明細書における重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定した標準ポリスチレン換算の値である。
【0042】
なお、本実施形態に係る熱伝導性粘着剤組成物は、上述した(メタ)アクリル酸エステル重合体を1種含有するものであってもよく、または2種以上含有するものであってもよい。また、本実施形態に係る熱伝導性粘着剤組成物は、上述した(メタ)アクリル酸エステル重合体とともに、別の(メタ)アクリル酸エステル重合体を含有するものであってもよい。
【0043】
本実施形態に係る熱伝導性粘着剤組成物における粘着性樹脂としては、ゴム系の粘着性樹脂を使用することもできる。ゴム系の粘着性樹脂としては、例えば、ポリイソブチレン系樹脂、ポリブテン系樹脂、イソプレン-イソブチレン共重合体、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-ブタジエンゴム共重合体、天然ゴム、変性天然ゴム等が好ましく挙げられる。
【0044】
熱伝導性粘着剤組成物中における粘着性樹脂の含有量は、固形分の全量基準(すなわち、溶媒を除く全固形分を100質量%としたとき)で、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、特に30質量%以上であることが好ましく、さらには50質量%以上であることが好ましい。また、上記含有量は、90質量%以下であることが好ましく、85質量%以下であることがより好ましい。粘着性樹脂の含有量が上記の範囲であることにより、熱伝導性粘着剤組成物中における二次元構造を有するグラフェンの分散性がより良好になるとともに、柔軟性および粘着性がより良好なものになる。
【0045】
(2)二次元構造を有するグラフェン
本実施形態に係る熱伝導性粘着剤組成物は、二次元構造を有するグラフェンを含有する。グラフェンは、炭素原子が六角形に規則正しく並んだ二次元構造を有する、本来原子一層からなる二次元化合物である。本明細書における「二次元構造を有するグラフェン」は、複層のものでもよく、厚みが平面視形状における最短長の1/10以下であるものが好ましい。なお、本明細書におけるグラフェンはグラファイトを薄く剥離(劈開)して生成したものも含むものとする。
【0046】
上記の通り、二次元構造を有するグラフェンは、単層であってもよいし、複層のものであってもよい。複層の場合には、通常、2層~1,000層程度である。二次元構造を有するグラフェンの平面視形状は、特に限定されない。
【0047】
本実施形態の二次元構造を有するグラフェンは、熱伝導性により優れる点から二次元結晶構造を有するグラフェンであることが好ましい。ここで、「二次元結晶構造を有するグラフェン」とは、二次元方向に構造周期性を有し、かつ、単原子の厚みからなる層を有し、当該層のみからなるか、当該層がファンデワールス力により2層から数100層程度まで積層したものをいう。かかる「二次元結晶構造を有するグラフェン」においては、実験的には、広角X線回折測定(WAXD)において、その周期構造から明確な結晶ピークが得られる。また、複数積層したものの場合、積層厚み方向の周期構造に帰属される結晶ピークも得られる。
【0048】
二次元結晶構造を有するグラフェンを含有する熱伝導性粘着剤組成物(から構成される粘着剤層)を、X線回折法によってCuKα線源(波長0.15418nm)を用いて測定した際、2θが26.6°および42.4°の位置にピークが検出されることが好ましい。上記2θが26.6°および42.4°の位置の回折ピークは、グラフェンの層間および面内の結晶ピークであり、このような位置にピークが検出されることで、当該グラフェンが結晶構造を有するものであるということができる。
【0049】
二次元構造を有するグラフェンを作製する方法としては、特に限定されないが、例えばグラファイトを物理的に劈開する方法または一度酸化したグラファイトを劈開して単層化し(酸化グラフェン)、これを還元して作製する方法(還元型酸化グラフェン(RGO))等が挙げられる。中でも、良好な二次元結晶構造を有することで熱伝導性により優れる点から、グラファイトを物理的に劈開する方法により得られたグラフェンが好ましい。
【0050】
二次元構造を有するグラフェンの平均粒径は、0.5μm以上であることが好ましく、1.0μm以上であることがより好ましく、特に3.0μm以上であることが好ましく、さらには5.0μm以上であることが好ましい。これにより、各グラフェン同士が接触し易くなり、熱伝導パスが形成され易くなるため、二次元構造の特徴が機能し、熱伝導性粘着剤組成物が熱伝導性により優れたものとなる。また、二次元構造を有するグラフェンの平均粒径は、30μm以下であることが好ましく、特に20μm以下であることが好ましく、さらには15μm以下であることが好ましい。これにより、溶媒や粘着性樹脂等、他の材料中で分散状態が維持され、偏析により熱伝導パスが形成されなくなることが抑制され、熱伝導性により優れたものとなる。
【0051】
また、二次元構造を有するグラフェンの厚みは、500nm以下であることが好ましく、300nm以下であることがより好ましく、特に200nm以下であることが好ましく、さらには100nm以下であることが好ましい。これにより、熱伝導性粘着剤組成物(から構成される粘着剤層)の柔軟性が良好に維持される。一方、二次元構造を有するグラフェンの厚みの下限値は、特に限定されないが、通常は0.7nm以上であり、熱伝導性の観点から、5.0nm以上であることが好ましく、特に10nm以上であることが好ましく、さらには15nm以上であることが好ましい。
【0052】
二次元構造を有するグラフェンの含有量は、粘着性樹脂100質量部に対して、5質量部以上であることが好ましく、10質量部以上であることがより好ましく、特に15質量部以上であることが好ましい。上記グラフェンの含有量の下限値が上記であることにより、各グラフェン同士が接触し易くなり、熱伝導パスが形成され易くなるため、熱伝導性により優れたものとなる。
【0053】
また、二次元構造を有するグラフェンの含有量は、粘着性樹脂100質量部に対して、80質量部以下であることが好ましく、50質量部以下であることがより好ましく、特に40質量部以下であることが好ましく、さらには30質量部以下であることが好ましい。本実施形態では、二次元構造を有するグラフェンを使用することにより、上記のように比較的少ない含有量でも所望の熱伝導性を得ることができる。さらに、相対的に粘着性樹脂の含有量が増えることで、柔軟性および粘着性がより優れたものとなる。
【0054】
熱伝導性粘着剤組成物中における二次元構造を有するグラフェンの含有量は、1体積%以上であることが好ましく、3体積%以上であることがより好ましく、特に5体積%以上であることが好ましく、さらには8体積%以上であることが好ましい。また、上記グラフェンの含有量は、50体積%以下であることが好ましく、40体積%以下であることがより好ましく、特に35体積%以下であることが好ましく、さらには20体積%以下であることが好ましい。上記グラフェンの含有量が上記範囲であることにより、熱伝導性により優れたものとなる。また、相対的に粘着性樹脂の含有量が増えることで、柔軟性および粘着性がより優れたものとなる。
【0055】
(3)各種添加剤
本実施形態に係る熱伝導性粘着剤組成物には、所望により、架橋剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、粘着付与剤、酸化防止剤、光安定剤、軟化剤、充填剤、屈折率調整剤、防錆剤、難燃剤などを添加することができる。本実施形態に係る熱伝導性粘着剤組成物には、二次元構造を有するグラフェン以外に、アルミニウム、窒化ホウ素、グラファイト、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、アルミナおよび窒化アルミニウム等の従来の熱伝導フィラーを含有してもよい。本実施形態に係る熱伝導性粘着剤組成物は、二次元構造を有するグラフェン以外の従来の熱伝導フィラーを含有しないことが好ましい。なお、後述の溶媒は、熱伝導性粘着剤組成物を構成する添加剤に含まれないものとする。
【0056】
上述した添加剤のなかでも、架橋剤を含有することが好ましい。熱伝導性粘着剤組成物が架橋剤を含有することにより、表面粗さ変化率を前述した範囲に調整し易いものとなる。架橋剤の例としては、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、アミン系架橋剤、メラミン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、ヒドラジン系架橋剤、アルデヒド系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、金属アルコキシド系架橋剤、金属キレート系架橋剤、金属塩系架橋剤、アンモニウム塩系架橋剤等が挙げられる。なお、これらの架橋剤は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0057】
上記架橋剤のなかでもイソシアネート系架橋剤を使用することが好ましい。イソシアネート系架橋剤は、少なくともポリイソシアネート化合物を含むものである。ポリイソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート等の脂環式ポリイソシアネートなど、及びそれらのビウレット体、イソシアヌレート体、さらにはエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ヒマシ油等の低分子活性水素含有化合物との反応物であるアダクト体などが挙げられる。これらの中でも、トリメチロールプロパン変性の芳香族ポリイソシアネート、特にトリメチロールプロパン変性トリレンジイソシアネートが好ましい。
【0058】
本実施形態における熱伝導性粘着剤組成物が架橋剤を含有する場合、熱伝導性粘着剤組成物中における架橋剤の含有量は、粘着性樹脂100質量部に対して、0.001質量部以上であることが好ましく、特に0.01質量部以上であることが好ましく、さらには0.05質量部以上であることが好ましい。また、当該含有量は、粘着性樹脂100質量部に対して、1.3質量部以下であることが好ましく、特に1.0質量部以下であることが好ましく、さらには0.8質量部以下であることが好ましい。架橋剤の含有量が上記範囲であることで、表面粗さ変化率を前述した範囲に調整し易いものとなる。
【0059】
本実施形態に係る熱伝導性粘着剤組成物は、所望により、エポキシ樹脂等の熱硬化性成分を含有してもよいが、その場合の熱伝導性粘着剤組成物中における熱硬化性成分の含有量は、5質量%未満であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、特に1質量%以下であることが好ましい。なお、本実施形態に係る熱伝導性粘着剤組成物は、熱硬化性成分を含有しないことが好ましい。
【0060】
1-2.熱伝導性粘着剤組成物の塗工液の調製
従来使用されていた金属、金属酸化物、窒化化合物等の無機フィラーは、粘着性樹脂や溶剤成分に比べて比重が高く、組成物中で沈降しやすいことが問題となっていた。そこで、無機フィラーの分布と沈降を制御する目的で、材料面では塗工液成分の粘度調整、無機フィラーの改質処理、分散剤の添加などを行う必要があり、プロセス面では分散方法や塗工設備を見直す必要があった。これに対し、本実施形態で使用する二次元構造を有するグラフェンは、比重が2.25と比較的低く、均一に分散させることで、沈降しにくい特徴を有するため、改質処理や分散剤等の使用が不要であり、広い粘度範囲での取り扱いが可能である。
【0061】
本実施形態の熱伝導性粘着剤組成物の塗工液は常法によって調製することができるが、本実施形態の熱伝導性粘着剤組成物の塗工液の調製方法は、配合する粘着性樹脂の全量の一部と、二次元構造を有するグラフェンと、溶媒とを含有する混合物に対して、分散処理を施し、予備混合物を得る第1工程と、上記予備混合物に、上記粘着性樹脂の残部と、溶媒とを添加し、分散処理を施す第2工程とを備えることが好ましい。これにより、二次元構造を有するグラフェンが均一に分散した熱伝導性粘着剤組成物の塗工液を得ることができる。
【0062】
(1)第1工程
本実施形態における第1工程では、配合する粘着性樹脂の全量の一部と、二次元構造を有するグラフェンと、溶媒と、所望により架橋剤や添加剤を含有する混合物を調製し、当該混合物に対して、分散処理を施す。これにより、粘度の比較的高い状態で分散処理を施すこととなり、上記グラフェンが凝集することを抑制することができる。その結果、混合物中に上記グラフェンを均一に分散させることができる。
【0063】
第1工程における粘着性樹脂の混合量の上限値は、二次元構造を有するグラフェン100質量部に対して、50質量部以下であることが好ましく、30質量部以下であることがより好ましく、特に25質量部以下であることが好ましい。これにより、粘度の比較的高い状態で分散処理を施すことができ、二次元構造を有するグラフェンをより均一に分散させ易くなる。また、第1工程における粘着性樹脂の混合量の下限値は、二次元構造を有するグラフェン100質量部に対して、0.5質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましく、特に2質量部以上であることが好ましく、さらには3質量部以上であることが好ましい。
【0064】
上記混合物の分散処理は、従来公知の手法を用いればよく、例えば、ホモジナイザー、ビーズミル、ボールミル、ジェットミル、ディスパー、ミキサー、ニーダー、超音波分散機等の公知の混練機、分散機を用いることができる。分散処理は、単独の装置または2種以上の装置を組み合わせて使用できる。
【0065】
上記の中でも、グラフェンを粉砕しすぎることで熱伝導率を著しく低下させることを抑制し、グラフェンの凝集を抑制しつつ、混合物中に上記グラフェンを均一に分散させることができるという点から、ディスパー、ミキサー、ジェットミルまたは超音波分散機を用いて分散処理を行うことが好ましい。ディスパーを用いて上記混合物の分散処理を行う場合は、ディスパーの回転数500~5000rpmで、10分以上撹拌して行うことが好ましく、同回転数1000~4000rpmで、20分以上撹拌して行うことがより好ましい。
【0066】
熱伝導性粘着剤組成物の塗工液の調製にて使用する溶媒としては、特に限定されず、例えば、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、塩化メチレン、塩化エチレン等のハロゲン化炭化水素、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、1-メトキシ-2-プロパノール等のアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、2-ペンタノン、イソホロン、シクロヘキサノン等のケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル、エチルセロソルブ等のセロソルブ系溶剤、N,N-ジメチルホルムアミド、トリメチル-2-ピロリドン、ブチルカルビトールなどが用いられるが、好ましくは、メチルエチルケトンである。
【0067】
第1工程における溶媒の混合量の上限値は、二次元構造を有するグラフェン100質量部に対して、10000質量部以下であることが好ましく、特に5000質量部以下であることが好ましく、さらには2000質量部以下であることが好ましい。これにより、粘度の比較的高い状態で分散処理を施すことができ、二次元構造を有するグラフェンをより均一に分散させ易くなる。また、第1工程における粘着性樹脂の混合量の下限値は、二次元構造を有するグラフェン100質量部に対して、200質量部以上であることが好ましく、500質量部以上であることがより好ましく、特に800質量部以上であることが好ましく、さらには1000質量部以上であることが好ましい。これにより、分散処理を良好に行うことができる。
【0068】
(2)第2工程
本実施形態における第2工程では、上記第1工程で得られた予備混合物に、少なくとも上記粘着性樹脂の残部を添加し、分散処理を施す。この第2工程では、溶媒を添加することも好ましい。溶媒の種類および分散処理の条件は、第1工程と同様である。
【0069】
第2工程で添加する溶媒の量は、得られる熱伝導性粘着剤組成物の塗工液の粘度が、コーティング可能な範囲であればよく、特に制限されず、状況に応じて適宜選定することができる。通常は、熱伝導性粘着剤組成物の固形分濃度が2~50質量%となる量であることが好ましく、特に5~40質量%となる量であることが好ましく、さらには10~35質量%となる量であることが好ましい。
【0070】
以上の工程により、二次元構造を有するグラフェンが均一に分散した熱伝導性粘着剤組成物の塗工液を得ることができる。当該熱伝導性粘着剤組成物の塗工液を塗工することにより、二次元構造を有するグラフェンが均一に分散した粘着剤層を形成することができる。
【0071】
2.剥離シート
剥離シート12a,12bは、粘着シート1の使用時まで粘着剤層11を保護するものであり、粘着シート1(粘着剤層11)を使用するときに剥離される。本実施形態に係る粘着シート1において、剥離シート12a,12bの一方または両方は必ずしも必要なものではない。
【0072】
剥離シート12a,12bとしては、例えば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリウレタンフィルム、エチレン酢酸ビニルフィルム、アイオノマー樹脂フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリイミドフィルム、フッ素樹脂フィルム等が用いられる。また、これらの架橋フィルムも用いられる。さらに、これらの積層フィルムであってもよい。
【0073】
上記剥離シート12a,12bの剥離面(特に粘着剤層11と接する面)には、剥離処理が施されていることが好ましい。剥離処理に使用される剥離剤としては、例えば、アルキッド系、シリコーン系、フッ素系、不飽和ポリエステル系、ポリオレフィン系、ワックス系の剥離剤が挙げられる。なお、剥離シート12a,12bのうち、一方の剥離シートを剥離力の大きい重剥離型剥離シートとし、他方の剥離シートを剥離力の小さい軽剥離型剥離シートとしてもよい。
【0074】
剥離シート12a,12bの厚さについては特に制限はないが、通常20~150μm程度である。
【0075】
3.粘着シートの製造
粘着シート1の一製造例としては、一方の剥離シート12a(または12b)の剥離面に、熱伝導性粘着剤組成物の塗工液を塗工する。次いで、塗膜を乾燥(加熱)させ、その塗膜に他方の剥離シート12b(または12a)の剥離面を重ね合わせる。養生期間が必要な場合は養生期間をおくことにより、養生期間が不要な場合はそのまま、上記塗膜が粘着剤層11となる。これにより、上記粘着シート1が得られる。
【0076】
熱伝導性粘着剤組成物の塗工液を塗工する方法としては、例えばバーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法等を利用することができる。
【0077】
熱伝導性粘着剤組成物の塗工液の乾燥(加熱)により、溶媒が揮発し、粘着剤層が形成される。乾燥条件は、90~150℃で0.5~30分であることが好ましく、特に100~120℃で1~10分であることが好ましい。
【0078】
なお、熱伝導性粘着剤組成物が架橋剤を含有する場合、通常は加熱処理(上記のような乾燥処理でもよい)により架橋を行うことができる。加熱処理後、必要に応じて、常温(例えば、23℃、50%RH)で1~2週間程度の養生期間を設けてもよい。
【0079】
ここで、従来の代表的な放熱材料であるカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー等の炭素繊維は、繊維の長軸方向(一次元)に異方性を有するため、熱伝導性を発現させるためには、他の粒子状フィラーと併用して配向を制御したり、強力な磁場発生装置を用いて炭素繊維の配向を揃える必要があった。これに対し、本実施形態で使用するグラフェンは、異方性材料ではあるが、二次元に広がりをもつ平面状構造のため、グラフェン同士の接触が起こりやすく、特殊な配向処理を行わなくても、得られる粘着剤層11は優れた熱伝導性を発揮することができる。
【0080】
4.粘着シートの物性等
(1)表面粗さ変化率
本実施形態に係る粘着シート1において、粘着剤層11の片面の算術平均高さSaを加圧前Saとし、粘着シート1を80℃、0.1MPaおよび60秒の条件で加圧した後における粘着剤層11の片面の算術平均高さSaを加圧後Saとした場合に、次式(1)
表面粗さ変化率(%)=(1-加圧後Sa/加圧前Sa)×100 …(1)
から算出される表面粗さ変化率は、前述した通り、20%以上である。
【0081】
表面粗さ変化率が20%以上であることにより、前述した通り、粘着剤層11が優れた柔軟性を示すものとなり、粘着シート1が被着体に良好に追従可能となり、結果として優れた粘着力を発揮するものとなる。より優れた柔軟性を示すという観点から、表面粗さ変化率は、30%以上であることが好ましく、特に40%以上であることが好ましく、さらには50%以上であることが好ましい。
【0082】
また、上記表面粗さ変化率の上限値は、前述した通り、90%以下である。表面粗さ変化率が90%以下である場合、粘着剤層11は十分なグラフェンを含有するものとなり、それにより優れた熱伝導性を示すものとなる。この観点から、表面粗さ変化率は、85%以下であることが好ましく、80%以下であることがより好ましく、特に75%以下であることが好ましく、さらには70%以下であることが好ましい。
【0083】
(2)算術平均高さSa
上述した加圧前の算術平均高さSaは、特に限定されないが、通常は、0.01μm以上、7μm以下の範囲である。また、加圧前の算術平均高さSaは、6μm以下であることが好ましく、特に5μm以下であることが好ましく、さらには4μm以下であることが好ましい。
【0084】
上述した加圧前の算術平均高さSaは、特に限定されないが、通常は、0.01μm以上、5μm以下の範囲である。また、加圧後の算術平均高さSaは、4μm以下であることが好ましく、特に3μm以下であることが好ましく、さらには2.5μm以下であることが好ましい。
【0085】
加圧前および加圧後の算術平均高さSaが上述した範囲であることで、被着体との密着性が高くなり、さらに、表面粗さ変化率を前述した範囲に調整し易いものとなる。なお、算術平均高さSaの測定方法および加圧の条件の詳細は後述する試験例に記載の通りである。
【0086】
(3)粘着剤層の厚さ
粘着剤層11の厚さ(JIS K7130に準じて測定した値)は、粘着性の観点から、下限値として2μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましく、特に10μm以上であることが好ましく、さらには20μm以上であることが好ましい。
【0087】
また、粘着剤層11の厚さは、熱伝導性の観点から、上限値として500μm以下であることが好ましく、300μm以下であることがより好ましく、特に100μm以下であることが好ましく、さらには50μm以下であることが好ましい。
【0088】
ここで、従来のカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー等の炭素繊維について、前述した配向処理を行う際には、炭素繊維が自由に運動できる空間が必要である。そのためには、放熱シートの膜厚方向に炭素繊維を配向させる場合には、フィラー長と同等以上の膜厚を確保する必要があり、一般的には膜厚0.5~2.0mmで設計されていた。また、配向処理を行った後に放熱シートを製造する方法では、カッター、レーザー等のスライサーで切削を行うため、スライサーの機構上、安定的に製造するにはシート膜厚を1mm以上にせざるを得なかった。
【0089】
これに対し、二次元構造を有するグラフェンの場合は、前述した通り特殊な配向処理を必要としないため、本実施形態における粘着剤層11は、上記のように薄い厚さでも製膜が可能であり、積層することで厚膜化も容易である。すなわち、本実施形態では、粘着剤層11の厚さの制御を容易に行うことができる。
【0090】
(4)熱伝導率
粘着剤層11の熱伝導率は、2.0W/m・K以上であることが好ましく、5.0W/m・K以上であることがより好ましく、特に8.0W/m・K以上であることが好ましい。これにより、粘着シート1は熱伝導性に優れるということができる。特に、カーボンブラック、アルミナ、窒化ホウ素等の従来の無機フィラーでは、添加量を多くしても、2.0W/m・K以上という高い熱伝導率を達成することは困難であった。しかし、本実施形態に係る粘着シート1は、二次元構造を有するグラフェンを使用することにより、このように高い熱伝導率を達成することができる。なお、本明細書における熱伝導率の測定方法は、後述する試験例に示す通りである。
【0091】
(5)粘着力
本実施形態の粘着シート1の600番研磨したステンレススチールに対する粘着力は、1.0N/25mm以上であることが好ましく、2.0N/25mm以上であることがより好ましく、特に3.0N/25mm以上であることが好ましく、さらには10N/25mm以上であることが好ましい。本実施形態に係る粘着シート1は、二次元構造を有するグラフェンの含有量が少量であっても優れた熱伝導性を発揮するため、粘着剤層11における粘着性樹脂の含有量を相対的に多くすることができ、優れた粘着力を発揮することができる。
【0092】
一方、上記粘着力の上限値は、特に限定されないが、通常、50N/25mm以下であることが好ましく、特に40N/25mm以下であることが好ましく、さらには30N/25mm以下であることが好ましい。なお、本明細書における粘着力の測定方法は、後述する試験例に示す通りである。
【0093】
〔放熱性装置〕
図2に示すように、本発明の一実施形態に係る放熱性装置3は、発熱部材31と、伝熱部材32と、発熱部材31および伝熱部材32の間に設けられた粘着剤層11とを備えている。
【0094】
本実施形態における粘着剤層11は、前述した実施形態に係る粘着シート1の粘着剤層11であることが好ましい。発熱部材31と伝熱部材32とは、当該粘着剤層11を介して貼合されている。この粘着剤層11は、二次元構造を有するグラフェンを含有するため熱伝導性に優れ、かつ、発熱部材31および伝熱部材32に柔軟に追従し、密着する。したがって、発熱部材31で発熱した熱は、粘着剤層11を通って伝熱部材32に良好に熱伝導し、伝熱部材32から効率良く外部に放熱される。
【0095】
本実施形態における発熱部材31は、所定の機能の発揮に伴い発熱するものの、温度上昇の抑制が要求される部材、あるいは当該部材が発熱した熱の流れを特定の方向に制御することが要求される部材などである。かかる発熱部材31としては、例えば、熱電変換デバイス、光電変換デバイス、大規模集積回路等の半導体デバイス、LED発光素子、光ピックアップ、パワートランジスタなどの電子デバイスや、モバイル端末、ウェアラブル端末等の各種電子機器、バッテリー、電池、モーター、エンジンなどが挙げられる。
【0096】
本実施形態における伝熱部材32は、受熱した熱を放熱する部材、あるいは受熱した熱を別の部材に伝熱する部材などである。かかる伝熱部材32は、熱伝導性の高い材料、例えば、アルミニウム、ステンレススチール、銅等の金属や、グラファイト、カーボンナノファイバーなどからなることが好ましい。伝熱部材32の形態としては、基板、筐体、ヒートシンク、ヒートスプレッダー等のいずれであってもよく、特に限定されない。
【0097】
放熱性装置3を製造するには、例えば、粘着シート1から一方の剥離シート12a(または12b)を剥離し、露出した粘着剤層11の一方の面を発熱部材31に貼付する。次いで、発熱部材31に設けられた粘着剤層11から他方の剥離シート12b(または12a)を剥離し、露出した粘着剤層11の他方の面を、伝熱部材32に貼付する。また、粘着剤層11の一方の面を伝熱部材32に貼付した後、粘着剤層11の他方の面に発熱部材31を貼合してもよい。
【0098】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0099】
例えば、
図1において粘着シート1に積層された剥離シート12aまたは剥離シート12bは省略されてもよい。
【0100】
また、本発明に係る粘着シートは、所望の基材と粘着剤層11と剥離シート12a(または12b)とをその順に積層したものであってもよい。基材を構成する材料としては、特に限定されず、例えば、樹脂フィルム、不織布、紙、グラファイトシート、グラフェンシート、金属基材等が挙げられ、樹脂フィルムが一般的に用いられる。樹脂フィルムを構成する樹脂材料としては、例えば、ポリエステル、ポリオレフィン、ナイロン6、ナイロン66、部分芳香族ポリアミド等のポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリカーボネート、ポリウレタン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂、アクリル樹脂、ポリアクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなどの樹脂を用いることができる。上記樹脂フィルムは、このような樹脂の一種を単独で含む樹脂材料を用いて形成されたものであってもよく、二種以上がブレンドされた樹脂材料を用いて形成されたものであってもよい。上記樹脂フィルムは、無延伸であってもよく、延伸(例えば一軸延伸または二軸延伸)されたものであってもよい。
【0101】
さらに、熱性装置3における発熱部材31および伝熱部材32の形状は、
図2に示されるものに限定されず、種々の形状であってもよい。
【実施例0102】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0103】
〔実施例1〕
粘着性樹脂としてのアクリル酸エステル重合体5質量部(全量100質量部中の5質量部;固形分濃度)と、二次元構造を有するグラフェン(ADEKA社製,製品名「CNS-1A1」)29質量部(固形分濃度)と、溶媒としてのエチルメチルケトン300質量部とを混合し、ディスパー(プライミクス社製,製品名「ロボミックス」)を使用し、3000rpm、30分撹拌することで分散処理を施し、予備混合物を調製した(第1工程)。なお、上記アクリル酸エステル重合体および二次元構造を有するグラフェンの詳細は、以下の通りである。
・アクリル酸エステル重合体:アクリル酸2-エチルヘキシル80質量部およびアクリル酸2-ヒドロキシエチル20質量部を共重合して得た共重合体,重量平均分子量:35万,ガラス転移温度(Tg):-61℃
・二次元構造を有するグラフェン:ADEKA社製,製品名「CNS-1A1」,二次元結晶構造,平均粒径12μm,厚み50nm以下,ラマンピーク強度比D/G=0.1,X線回折法によってCuKα線源(波長0.15418nm)を用いて測定した際、2θが26.6°および42.4°の位置にピーク検出
【0104】
上記の予備混合物に、上記と同じアクリル酸エステル重合体95質量部(全量100質量部中の95質量部;固形分濃度)と、架橋剤としてのトリレンジイソシアネート系架橋剤(東洋インキ社製,製品名「BHS-8515」,固形分37.5質量%)0.05質量部(固形分換算値)と、溶媒としてのエチルメチルケトン429質量部とを添加し、ディスパー(プライミクス社製,製品名「ロボミックス」)を使用して、3000rpmで30分撹拌することにより分散処理を施し(第2工程)、熱伝導性粘着剤組成物の塗工液を得た。この熱伝導性粘着剤組成物の塗工液の固形分濃度は、25質量%であった。
【0105】
得られた熱伝導性粘着剤組成物の塗工液を、ポリエチレンテレフタレートフィルムの片面をシリコーン系剥離剤で剥離処理した剥離フィルム(リンテック社製,製品名「SP-PET381031」)の剥離処理面に、アプリケーターで塗工したのち、100℃で1分間加熱処理して乾燥させて、粘着剤層を形成した。その後、当該粘着剤層に、ポリエチレンテレフタレートフィルムの片面をシリコーン系剥離剤で剥離処理した剥離フィルム(リンテック社製,製品名「SP-PET381130」)の剥離処理面を貼り合わせ、粘着剤層の厚さが30μmの粘着シート(剥離フィルム/粘着剤層/剥離フィルム)を作製した。
【0106】
〔実施例2~5および比較例1~3〕
アクリル酸エステル重合体の組成、グラフェンの配合量、架橋剤の種類および配合量、並びに、溶媒の配合量を表1に記載の通り変更した以外、実施例1と同様にして粘着シートを作製した。
【0107】
〔試験例1〕<熱伝導率の測定>
実施例および比較例で作製した粘着シートの粘着剤層から、各辺が5mmの正方形の試料を得た。熱拡散率・熱伝導率測定装置(アイフェイズ社製,製品名「ai-phase mobile」)を使用し、23℃、50%RHの環境下にて、ISO 22007-3に準拠して、上記試料(粘着剤層)の熱伝導率(W/m・K)を測定した。結果を表1に示す。
【0108】
〔試験例2〕<粘着力の測定>
実施例および比較例で作製した粘着シートから一方の剥離フィルム(リンテック社製,製品名「SP-PET381130」)を剥離し、露出した粘着剤層の露出面に、基材としてのポリエステルフィルム(三菱樹脂社製,製品名「ダイアホイルT100」,厚さ:25μm)を貼付し、80℃で0.1MPaの条件で加圧し、これにより、基材/粘着剤層/剥離シートの層構成を有する積層体を得た。
【0109】
続いて、上記積層体を幅25mm幅、長さ300mmの短冊状に切断した後、他方の剥離フィルム(リンテック社製,製品名「SP-PET381031」)を剥離して露出した粘着剤層の露出面を、23℃、50%RHの環境下で、600番研磨したステンレススチール(SUS304)板の研磨面に貼付した。同環境下で24時間静置した後、引張試験機(オリエンテック社製,製品名「テンシロン」)を用い、剥離速度300mm/min、剥離角度180度の条件でSUS板から粘着シートを剥離し、粘着力を測定した。ここに記載した以外の条件はJIS Z0237:2009に準拠して、測定を行った。結果を表1に示す。
【0110】
〔試験例3〕<算術平均高さの測定>
実施例および比較例で作製した粘着シートから一方の剥離フィルム(リンテック社製,製品名「SP-PET381130」)を剥離し、露出した粘着剤層の露出面について、走査型白色干渉顕微鏡(株式会社日立ハイテクサイエンス製,製品名「VS-1550」)を用いて倍率20倍で観察し、算術平均高さSa(μm)を測定した。これを加圧前のSaとして表1に示す。
【0111】
また、実施例および比較例で作製した粘着シートを、真空ラミネーター(ニッコー・マテリアルズ社製,製品名「V130」)を用いて80℃、0.1MPaおよび60秒の条件で加圧した。その後、剥離フィルム(リンテック社製,製品名「SP-PET381130」)を剥離し、露出した粘着剤層の露出面について、上記と同様に算術平均高さSa(μm)を測定した。これを加圧後のSaとして表1に示す。
【0112】
さらに、上記の通り測定された加圧前Saおよび加圧後Saに基づいて、以下の式(1)
表面粗さ変化率(%)=(1-加圧後Sa/加圧前Sa)×100 …(1)
から表面粗さ変化率(%)を算出した。その結果を表1に示す。
【0113】
なお、表1に記載の略号等の詳細は以下の通りである。
2EHA:アクリル酸2-エチルヘキシル
HEA:アクリル酸2-ヒドロキシエチル
BA:アクリル酸n-ブチル
MA:アクリル酸メチル
BHS-8515:トリレンジイソシアネート系架橋剤(東洋インキ社製,製品名「BHS-8515」,固形分37.5質量%)
コロネートHX:ヘキサメチレンジイソシアネート系イソシアヌレート(日本ポリウレタン社製,製品名「コロネート HX」)
【0114】
【0115】
表1から分かるように、実施例で作製した粘着シートは、優れた熱伝導性を有していた。また、実施例で作製した粘着シートは、優れた粘着力を示し、これは、当該粘着シートが優れた柔軟性を有し、それにより被着体に対して良好に追従したことに起因すると考えられる。
本発明に係る熱伝導性粘着剤組成物および粘着シートは、例えば、発熱する電子デバイスと放熱性の基板またはヒートシンクとの間に介在させて、当該電子デバイスを冷却するのに好適に使用することができる。